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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1345857
異議申立番号 異議2017-700922  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-28 
確定日 2018-10-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6104270号発明「安定化したミクロポーラス結晶性材料、その製造方法およびNOxの選択触媒還元のための使用方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6104270号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?15〕について訂正することを認める。 特許第6104270号の請求項1、2、5、7?9、11?15に係る特許を維持する。 特許第6104270号の請求項3、4、6、10に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6104270号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?15に係る特許についての出願は、2012年(平成24年)11月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年12月2日、(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年3月10日にその特許権の設定登録がされ、平成29年3月29日に登録公報の発行がされたものであり、その後、その特許について、平成29年9月28日付けで、特許異議申立人廣川博美(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成29年12月11日付けで取消理由が通知され、平成30年3月13日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「先の訂正請求」という。)がされ、先の訂正請求に対して特許異議申立人に意見を求めたが、特許異議申立人からの意見書の提出はなく、平成30年5月24日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、平成30年8月13日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、平成30年9月18日に特許異議申立人より上申書の提出がされたものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、本件訂正請求により、先の訂正請求は取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に記載された
「3?10の範囲のアルミナに対するシリカのモル比(SAR)を有し、アルカリ土類、希土類、アルカリ類またはそれらの混合物から選択される第1金属と、銅、鉄またはそれらの混合物から選択される第2金属とを含み、アルミニウムに対する第1金属の原子比が0.05?0.80である、有機構造指向剤(OSDA)からの有機材料を用いないミクロポーラス結晶性材料。」を
「CHA結晶構造を含み、3?10の範囲のアルミナに対するシリカのモル比(SAR)を有し、アルカリ土類、希土類、アルカリ類またはそれらの混合物から選択される第1金属元素と、銅、鉄またはそれらの混合物から選択される第2金属元素とを含み、アルミニウムに対する第1金属元素の原子比が0.05?0.80である、有機材料を含有しないミクロポーラス結晶性材料であって、
前記ミクロポーラス結晶性材料が0.3?5ミクロンの平均結晶寸法を含む、ミクロポーラス結晶性材料。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に記載された「前記第1金属が」を「前記第1金属元素が」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に記載された「ネオジム、混合された希土類酸化物、カリウム」を「ネオジム、カリウム」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項12に記載された「請求項1?11のいずれか1項」を「請求項1、2、5、7?9および11のいずれか1項」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項14に記載された「第1金属および第2金属を」を「第1金属元素および第2金属元素を」に訂正する。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項14に記載された「請求項1?11のいずれか1項」を「請求項1、2、5、7?9および11のいずれか1項」に訂正する。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1における「CHA結晶構造を含み」との訂正は、訂正前の請求項1に記載された「ミクロポーラス結晶性材料」について、その結晶構造を「CHA型結晶構造」を含むものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、願書に添付された特許請求の範囲の請求項3に、「前記材料がCHA構造を含む、請求項1に記載のミクロポーラス結晶性材料。」と記載されているから、当該訂正は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。また、当該訂正は、下位請求項に係る発明に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項1における「第1金属元素」及び「第2金属元素」とする訂正は、訂正前の請求項1に記載された「アルカリ土類、希土類、アルカリ類またはそれらの混合物」及び「銅、鉄またはそれらの混合物」が、金属としての例示なのか、元素としての例示なのか明瞭でなかったところ、元素であることを明瞭にするためのものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、願書に添付された明細書の発明の詳細な説明には、「アルカリ土類金属は、周期表の第2属元素に位置する6つの元素である。」(段落【0022】)と記載されているから、当該訂正は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項1における「有機材料を含有しない」との訂正は、ミクロポーラス結晶性材料中の有機材料の有無について、「有機構造指向剤(OSDA)からの有機材料を用いない」との製造方法で特定された不明瞭な記載を明瞭にして、さらに、特定の有機材料(有機構造指向剤(OSDA))を含有しないことから、すべての有機材料を含有しないことに限定するものであるから、明瞭でない記載の釈明、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、願書に添付された明細書の発明の詳細な説明には、「大型結晶で有機を含まないチャバザイトの合成」(段落【0053】、【0059】)及び「焼成して有機を除去した。」(段落【0086】、【0093】)と記載されているから、当該訂正は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。また、当該訂正は、明瞭でない記載を釈明し、すべての有機材料を含有しないことに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 訂正事項1における「前記ミクロポーラス結晶性材料が0.3?5ミクロンの平均結晶寸法を含む」との訂正は、訂正前の請求項1に記載された「ミクロポーラス結晶性材料」を「0.3?5ミクロンの平均結晶寸法を含む」ものに減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、願書に添付された特許請求の範囲の請求項10に、「前記材料が0.3?5ミクロンの平均結晶寸法を含む、請求項1に記載のミクロポーラス結晶性材料。」と記載されているから、当該訂正は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。また、当該訂正は、下位請求項に係る発明に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2、3、6、7について
訂正事項2、3、6及び7は、訂正前の請求項3、4、6及び10を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項4、9について
訂正事項4及び9は、訂正事項1に係る「(1)イ」の訂正に伴い、特許請求の範囲の請求項1の記載と整合させるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項5に記載された「マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、混合された希土類酸化物、カリウム、ルビジウム、セシウムまたはそれらの混合物を含む」との択一的な記載から、混合された希土類酸化物を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項8、10について
訂正事項8及び10は、訂正事項2、3、6及び7に係る訂正に伴い、請求項12及び14における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)一群の請求項について
訂正前の請求項2?15が、訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正事項1?10の特許請求の範囲の訂正は、一群の請求項1?15について請求されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?15〕について訂正を認める。

第3 特許異議申立について

1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、2、5、7?9、11?15に係る発明(以下、「本件発明1、2、5、7?9、11?15」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2、5、7?9、11?15に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める。

【請求項1】
CHA結晶構造を含み、3?10の範囲のアルミナに対するシリカのモル比(SAR)を有し、アルカリ土類、希土類、アルカリ類またはそれらの混合物から選択される第1金属元素と、銅、鉄またはそれらの混合物から選択される第2金属元素とを含み、アルミニウムに対する第1金属元素の原子比が0.05?0.80である、有機材料を含有しないミクロポーラス結晶性材料であって、
前記ミクロポーラス結晶性材料が0.3?5ミクロンの平均結晶寸法を含む、ミクロポーラス結晶性材料。
【請求項2】
前記材料が、二重6員環(d6r)の基礎単位および8員環の開孔を有する結晶構造を含む、請求項1に記載のミクロポーラス結晶性材料。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記第1金属元素が、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、カリウム、ルビジウム、セシウムまたはそれらの混合物を含む、請求項1に記載のミクロポーラス結晶性材料。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記材料が、アルミニウムに対するカルシウムの原子比が0.05?0.50でカルシウムを含む、請求項1に記載のミクロポーラス結晶性材料。
【請求項8】
前記材料が、アルミニウムに対する銅の原子比が0.05?0.20で銅を含む、請求項1に記載のミクロポーラス結晶性材料。
【請求項9】
前記材料が、アルミニウムに対する鉄の原子比が0.05?0.30で鉄を含む、請求項1に記載のミクロポーラス結晶性材料。
【請求項10】(削除)
【請求項11】
前記材料が、10体積パーセント以下の水蒸気の存在下で、700?800°Cの温度にて、1?16時間暴露された後、その表面積およびミクロポア容積の少なくとも70%を保持する、請求項1に記載のミクロポーラス結晶性材料。
【請求項12】
排出ガスを、請求項1、2、5、7?9および11のいずれか1項に記載のミクロポーラス結晶性材料を含む物品に少なくとも部分的に接触させることを含む、排出ガス中の窒素酸化物の選択触媒還元方法。
【請求項13】
前記接触させる工程が、アンモニア、尿素、アンモニア発生化合物または炭化水素化合物の存在下で実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ナトリウム、カリウム、アルミナ、シリカ、水および必要に応じて結晶性のシード材料を混合してゲルを形成し、前記ゲルが、0.5未満のシリカに対するカリウム(K/SiO_(2))のモル比と、0.35未満のシリカに対する水酸化物(OH/SiO_(2))のモル比を有する工程と、
前記ゲルを容器中で、80°C?200°Cの温度で加熱して、結晶性の生成物を形成する工程と;
前記生成物をアンモニアで交換する工程と;
第1金属元素および第2金属元素を、液相もしくは固体イオン交換、含浸により前記結晶性材料に導入するか、または直接合成により前記結晶性材料に組み込む工程と;
を含む、請求項1、2、5、7?9および11のいずれか1項に記載のミクロポーラス結晶性材料を製造する方法。
【請求項15】
前記アルミナおよびシリカの供給源が、カリウム交換したY型ゼオライト、プロトン交換したY型ゼオライト、アンモニア交換したY型ゼオライト、ケイ酸カリウムまたはそれらの混合物を含む、請求項14に記載の方法。

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?15に係る特許に対して、特許異議申立人の申立理由を全て採用し、平成29年12月11日付けの取消理由を通知した。そして、その要旨は、次の取消理由1?5のとおりである。

(1)取消理由1
訂正前の請求項1?3、5?11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、訂正前の請求項10?13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第2号証?甲第4号証に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)取消理由2
訂正前の請求項1、6、9、10、12及び13に係る発明は、甲第8号証の記載を参酌すると、甲第6号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(3)取消理由3
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、有機構造指向剤を用いないで製造した、アルミナに対するシリカのモル比が5.5又は5.6であるチャバサイト型ゼオライトの実施例が記載されているのみであり、訂正前の請求項1に記載された発明のうち、上記チャバサイト型ゼオライト以外のミクロポーラス結晶性材料を当業者が製造できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(4)取消理由4
本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例には、有機構造指向剤を用いないで製造した、アルミナに対するシリカのモル比が5.5又は5.6であるチャバサイト型ゼオライトが記載されているところ、甲第5号証に記載された技術常識を考慮すると、訂正前の請求項1に記載された発明の「3?10の範囲のアルミナに対するシリカのモル比を有し」、「有機構造指向剤(OSDA)からの有機材料を用いないミクロポーラス結晶性材料」に含まれるあらゆるミクロポーラス結晶性材料が、実施例と同様な作用効果を奏するか不明であるから、訂正前の請求項1?15に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を越えるものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(5)取消理由5
訂正前の請求項1に記載された「有機構造指向剤(OSDA)からの有機材料を用いない」との製造方法による特定、訂正前の請求項4に記載された「前記結晶構造が、LEV、AEI、AFT、AFX、EAB、ERI、KFI、SAT、TSCおよびSAVの構造コードを含む」との特定、訂正前の請求項5に記載された「第1金属」の選択肢に金属元素でない「混合された希土類酸化物」を含む特定、及び、訂正前の請求項6に記載された「前記第1金属および前記第2金属が前記材料内に、液相もしくは固体イオン交換、含浸により導入され、または直接合成により組み込まれる」との製造方法による特定は、明確といえず、訂正前の請求項1?15に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(甲号証一覧)
・甲第1号証:J. Dedecek et al., "Siting of the Cu^(+) ions in dehydrated ion exchanged synthetic and natural chabasites: a Cu^(+) photoluminescence study", Microporous and Mesoporous Materials, 1999, vol.32, p.63-74
・甲第2号証:国際公開第2010/043891号(特表2012-505744号公報)
・甲第3号証:国際公開第2008/118434号(特表2010-522688号公報)
・甲第4号証:国際公開第2010/054034号(特表2012-508096号公報)
・甲第5号証:阪本康弘他,"超薄膜ゼオライトMFIの機能と構造",日本結晶学会誌,2011年5月25日,第53巻,第135-140頁
・甲第6号証:M. Teresa Izquierdo et al., "NOx removal in SCR process by Cu and Fe exchanged type Y zeolites synthesized from coal fly ash", [online], 2009, IEC Gasification Conference Publication, インターネット<http://tu-freiberg.de/sites/default/files/media/professur-fuer-energieverfahrenstechnik-und-thermische-rueckstandsbehandlung-16460/publikationen/3318_409.pdf>
・甲第7号証:TU Bergakademie Freiberg ホームページ、[online], [平成29年8月24日検索], インターネット<http://tu-freiberg.de/en/fakult4/iec/evt/nox-removal-in-scr-process-by-cu-and-fe-exchanged-type-y-zeolites-synthesized-from-c>
・甲第8号証:H. Robson et al., "VERIFIED SYNTHESES OF ZEOLITIC MATERIALS", 2001, p.156-158

なお、平成30年5月24日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)では、先の訂正請求に付随して生じた記載不備(表現の不一致及び引用請求項の不一致)に対する取消理由も指摘したが、先の訂正請求の取り下げによって、この取消理由は解消している。

3 甲号証の記載事項等について
(1)甲第1号証の記載事項及び発明
ア 甲第1号証の記載事項
(ア)「1. Introduction
Zeolites containing Cu ions attract attention owing to their high catalytic activity in NO and N_(2)O decomposition and selective catalytic reduction (SCR) of NO with ammonia and hydrocarbons.」(第63頁左欄第1?6行)
(当審仮訳:1 緒言
Cuイオンを含むゼオライトがNO及びN_(2)O分解、及びアンモニアと炭化水素を用いたNOの選択触媒還元(SCR)に高い触媒活性を有することについて注目されている。)
(イ)「2.1. Zeolite preparation
The synthesis of chabasite was performed according to the procedure of Gaffney. Zeolite Y (Si/Al=2.7) in ammonium form was used as a source material and was mixed with a solution of potassium hydroxide. The batch composition was 0.17Na_(2)O:2.0K_(2)O:Al_(2)O_(3):5.4SiO_(2):224H_(2)O. The synthesis took place in a polypropylene bottle with a screw-top lid at a temperature of 368 K for 96 h without agitation. After synthesis, the product was recovered by filtration, washed repeatedly with deionised water and dried at ambient temperature. ・・・
Synthetic chabasite and natural sedimentary chabasite from North Korea - chemical composition (weight percent) 63.89% SiO_(2), 17.48% Al_(2)O_(3), 8.37% Fe_(2)O_(3), 5.15% K_(2)O, 3.10% CaO, 1.21% MgO, 0.40% TiO_(2) and 0.39% Na_(2)O [the XRD pattern is given in Fig. 1(b)] - were equilibrated four times with 0.5 M NaCl (20 ml of solution per 1 g of zeolite) for 12 h. After the ion exchange, the Na-chabasites were washed with distilled water and dried at room temperature. Ca-, Ba- and Cs-chabasites were prepared by the equilibration of Na-chabasite with 0.1 M Ca(NO_(3))_(2), Ba(NO_(3))_(2) and CsCl solutions respectively. These zeolites were washed with distilled water and dried at ambient temperature. ・・・
Cu^(2+)-chabasite samples with Cu concentrations varying from 0.20 to 7.60 wt% were prepared by the ion exchange of Na-, Ca-, Cs- and Ba-chabasites with aqueous solutions of Cu acetate. The pH of Cu-acetate-chabasite solutions varied during the Ion exchange procedure from 5.1 to 5.6. Samples were carefully washed with distilled water, dried at ambient temperature and grained. Detailed conditions of the sample preparations and chemical compositions of Cu-chabasites are given in Tables 2 and 3.」(第64頁右欄第10行?第65頁右欄第2行)
(当審仮訳:2.2 ゼオライト調製
チャバサイトの合成はGaffneyの手順によって行った。アンモニウム交換したY型ゼオライト(Si/Al=2.7)を原料として、水酸化カリウム溶液と混合した。仕込み組成は、0.17Na_(2)O:2.0K_(2)O:Al_(2)O_(3):5.4SiO_(2):224H_(2)Oであった。合成は攪拌せずに96時間で368Kの温度のスクリュー上蓋を備えたポリプロピレン製ボトル内で行った。合成後、生成物を濾過により回収し、脱イオン水で繰り返し洗浄し、周囲温度で乾燥させた。・・・
合成チャバサイトと北朝鮮産の天然堆積チャバサイト-化学組成は63.89重量%SiO_(2)、17.48重量%Al_(2)O_(3)、8.37重量%Fe_(2)O_(3)、5.15重量%K_(2)O、3.10重量%CaO、1.21重量%MgO、0.40重量%TiO_(2)及び0.39重量%Na_(2)O[XRDパターンは図1(b)]-を12時間で0.5M NaCl(ゼオライト1gあたり20mlの溶液)で4回平衡化した。イオン交換後、Na-チャバサイトを蒸留水で洗浄し、室温で乾燥させた。Na-チャバサイトの0.1M Ca(NO_(3))_(2)、Ba(NO_(3))_(2)及びCsCl溶液による平衡により、Ca-、Ba-およびCs-チャバサイトを調製した。これらのゼオライトを蒸留水で洗浄し、周囲温度で乾燥させた。・・・
Cu濃度が0.20?7.60重量%の範囲で変化するCu^(2+)-チャバサイト試料は、Na-、Ca-、Cs-及びBa-チャバサイトと酢酸銅水溶液とのイオン交換によって調製された。酢酸銅-チャバサイト溶液のpHは、イオン交換操作の間に5.1から5.6まで変化した。試料を蒸留水で注意深く洗浄し、周囲温度で乾燥させ、粒状にした。試料調製の詳細な条件とCu-チャバサイトの化学組成を表2および3に示す。)
(ウ)「

」(第66頁)
(エ)「2.2. Cu^(+) emission
Prior to monitoring of the Cu^(+) photoluminescence spectra, the Cu^(2+) zeolites were calcined in an oxygen stream at 350℃ for 3 h to remove all traces of organic compounds from the zeolite, well known as Cu^(+) luminescence quenchers.」(第65頁右欄第3?8行)
(当審仮訳:2.2 Cu^(+)発光
Cu^(+)光ルミネッセンススペクトルをモニターする前に、Cu^(2+)ゼオライトを350℃で3時間酸素流中において焼成して、Cu^(+)発光抑制としてよく知られているゼオライトから有機化合物の痕跡をすべて除去した。)

イ 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、上記ア(イ)によれば、天然堆積チャバサイトを、Naイオン及びCuイオンでイオン交換したCu^(2+)-チャバサイト試料が記載され、さらに、上記ア(ウ)によれば、表3中の4番目に示されたCu^(2+)-チャバサイト試料の化学組成が、Cu/Al比が0.11、Ca/Al比が0.08、Na/Al比が0.25、K/Al比が0.13、Mg/Al比が0.03、Fe/Al比が0.30、Ti/Al比が0.01であることが記載されている。また、甲第1号証には、上記ア(エ)によれば、Cu^(2+)-チャバサイト試料から有機化合物を除去しており、有機化合物を含有しないといえる。
これら記載を本件特許に係る請求項1の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証には、「Ca、Na、K、Mg、Cu、Fe、Tiを含み、Ca/Al比が0.08、Na/Al比が0.25、K/Al比が0.13、Mg/Al比が0.03、Cu/Al比が0.11、Fe/Al比が0.30である、有機化合物を含有しない、Cu^(2+)-天然堆積チャバサイト。」の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されているといえる。
また、甲第1号証には、上記ア(イ)によれば、合成チャバサイトを、Naイオン及びCuイオンでイオン交換したCu^(2+)-チャバサイト試料が記載され、さらに、上記ア(ウ)によれば、表3中の11番目に示されたCu^(2+)-チャバサイト試料の化学組成が、Cu/Al比が0.15、Na/Al比が0.68であることが記載されている。また、甲第1号証には、上記ア(エ)によれば、Cu^(2+)-チャバサイト試料から有機化合物を除去しており、有機化合物を含有しないといえる。
これら記載を本件特許に係る請求項1の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証には、「Na、Cuを含み、Na/Al比が0.68である、有機化合物を含有しない、Cu^(2+)-合成チャバサイト。」の発明(以下、「甲1発明2」という。)も記載されているといえる。

(2)甲第2号証の記載事項
ア 「We have researched into aluminosilicate zeolite materials and have discovered, very surprisingly, that large crystallite aluminosilicate zeolite materials have higher activity for the SCR process using a nitrogenous reductant than the same aluminosilicate zeolite material of smaller crystallite size.
According to one aspect, the invention provides a synthetic aluminosilicate zeolite catalyst containing at least one catalytically active transition metal selected from the group consisting of Cu, Fe, Hf, La, Au, In, V, lanthanides and Group VIII transition metals, which aluminosilicate zeolite is a small pore aluminosilicate zeolite having a maximum ring size of eight tetrahedral atoms, wherein the mean crystallite size of the aluminosilicate zeolite determined by scanning electron microscope is >0.50 micrometer. Preferably, the at least one catalytically active transition metal is one of copper and iron. In embodiments, the zeolite can contain both copper and iron.
The Examples show a trend of increasing NOx reduction activity of fresh and aged copper/CHA catalysts with increasing crystallite size.」(第2頁第18?32行)
(当審仮訳:我々はアルミノシリケートゼオライト物質について研究し、及び大変驚いたことに、大結晶アルミノシリケートゼオライト物質が、より小結晶サイズの同一アルミノシリケートゼオライト物質より、窒素還元剤を使用するSCRプロセスに対してより高い活性を有することを見出した。
一つの実施態様に従って、本発明はCu、Fe、Hf、La、Au、In、V、ランタニド及びVIII族遷移金属からなる群から選択された少なくとも一種の触媒活性の遷移金属を含む合成アルミノシリケートゼオライト触媒を提供する。このアルミノシリケートゼオライトは、8個の四面体原子の最大環サイズを含む小細孔アルミノシリケートゼオライトであり、走査電子顕微鏡により測定(決定)されるこのアルミノシリケートゼオライトの平均結晶サイズは>0.50マイクロメーターである。望ましくは、この少なくとも一種の触媒活性の遷移金属は銅及び鉄の一つである。実施態様において、このゼオライトは銅及び鉄の両方を含むことができる。
この実施例は、結晶サイズが増加するにつれフレッシュ及び加速処理された銅/CHA触媒のNOx還元活性が増加する傾向を示す。)
イ 「

」(第8頁)
ウ 「It can be seen from Table 2 that the activity of the catalysts generally follows a trend of increasing activity with crystallite size. Hence we conclude that larger crystallite size aluminosilicate zeolite materials are surprisingly more active either fresh or hydrothermally aged than catalysts prepared from smaller crystals of the same aluminosilicate zeolite material.」(第8頁第6?9行)
(当審仮訳:触媒の活性は、結晶サイズと共に増加する活性の傾向に一般的に従うことが表2から理解される。従って、より大きな結晶サイズのアルミノシリケートゼオライト物質が、驚いたことに同一のアルミノシリケートゼオライト物質のより小さな結晶から準備された触媒より、フレッシュ又は水熱的に加速処理された両方において、より活発であることを我々は結論付けた。)

(3)甲第3号証の記載事項
ア 「[0044] The microporous crystalline materials of the present invention are useful as exhaust catalysts, such as for reduction of NOx in automotive exhaust, in part because of their good thermal and hydrothermal stability. Under extreme conditions, automotive exhaust catalysts are exposed to heat up to and in excess of 900℃. Therefore, some automotive exhaust catalysts are required to be stable at temperatures up to and in excess of 900℃.」
(当審仮訳:本発明のマイクロポーラス結晶性物質は、ある部分はそれらの良好な熱的・水熱的な安定性のために、排ガス中のNOxの削減のためのような排ガス触媒として有用である。極端な条件下では、自動車排ガス触媒は900℃までの、およびそれを超えた熱に曝される。従って、いくつかの自動車排ガス触媒は900℃までの、およびそれを超えた温度で安定していることが必要とされる。)

(4)甲第4号証の記載事項
ア 「[0053] The exhaust stream with the added ammonia is conveyed to the SCR catalyst substrate 12 (also referred to herein including the claims as "the first article" or "the first substrate") containing CuNatCHA or CuSynCHA in accordance with one or more embodiments. On passing through the first substrate 12, the NOx component of the exhaust stream is converted through the selective catalytic reduction of NOx with NH_(3) to N_(2) and H_(2)O. In addition, excess NH_(3) that emerges from the inlet zone can be converted through oxidation by a downstream ammonia oxidation catalyst (not shown) also containing CuNatCHA or CuSynCHA to convert the ammonia to N_(2) and H_(2)O. The first substrate is typically a flow through monolith substrate.」
(当審仮訳:アンモニアが加えられた排気流は、1つもしくは複数の実施形態に従って、CuNatCHAまたはCuSynCHAを含有するSCR触媒基材12(また、請求項を含む本明細書において「第1の物質」または「第1の基材」と称される)に運ばれる。第1の基材12を通過する際、排気流のNOx成分は、NH_(3)とのNOxの選択的触媒還元により、N_(2)およびH_(2)Oに変換される。加えて、入口領域から出てくる過剰のNH_(3)は、CuNatCHAまたはCuSynCHAも含有する、下流のアンモニア酸化触媒(図示せず)による酸化により変換し、該アンモニアをN_(2)およびH_(2)Oに変換することができる。第1の基材は、一般に、モノリス基材を通る流れである。)

(5)甲第6号証の記載事項及び発明
ア 甲第6号証の記載事項
(ア)「So then, Cu exchanged zeolite Y (labelled LY-Cu) was prepared by exchanging with solution 0.05 M [Cu^(2+)] at room temperature and 30 min for exchange time. For the preparation of Fe exchanged zeolite Y solution 0.005 M [Fe^(2+)] at room temperature and 30 min for exchange time were used. Iron-zeolite was labelled LY-Fe after oxidation (in order to convert Fe^(2+) into Fe^(3+)).
Stoichiometry obtained from ICP-AES and SEM-EDS for LY-H and Zeolite-Me prepared after the above mentioned methodology are shown in Table 1.」(第5頁第8?14行)
(当審仮訳:Cuでイオン交換されたY型ゼオライト(LY-Cu標記)は、室温で30分間、0.05M[Cu^(2+)]とイオン交換することで調製された。Feでイオン交換されたY型ゼオライトの調製に関しては、0.005M[Fe^(2+)]水溶液、室温、30分のイオン交換時間という条件が用いられた。酸化(Fe^(2+)をFe^(3+)に変換するため)後の鉄ゼオライトは、LY-Feとした。
上記にて言及された方法により調整されたLY-H及びLY-MeのIPC-AES及びSEM-EDSから得られた化学量論比を、表1に示す。)
(イ)「

」(第5頁)

イ 甲第6号証に記載された発明
甲第6号証には、上記ア(ア)及び(イ)によれば、化学量論比が(H_(3)O^(+))_(0.2)Na_(0.2)Cu_(0.3)AlSi_(2.3)O_(6.6)・3.8H_(2)OのCuでイオン交換したY型ゼオライトが記載されている。そして、Alに対するNa、Cu、Siのそれぞれの原子比は、Na/Al比が0.2、Cu/Al比が0.3、Si/Al比が2.3であるといえ、Si/Al比をSiO_(2)/Al_(2)O_(3)比に換算すると4.6となる。
これら記載を本件特許に係る請求項1の記載ぶりに則して整理すると、甲第6号証には、「SiO_(2)/Al_(2)O_(3)比が4.6であって、Na、Cuを含み、Na/Al比が0.2、Cu/Al比が0.3である、Cuでイオン交換したY型ゼオライト。」の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されているといえる。

(6)甲第8号証の記載事項
ア 「FAU Linde Type Y Si(71),Al(29)
・・・
Type Material: Na_(56)[Al_(56)Si_(136)O_(386)]:250H_(2)O
・・・
Crystallization
Vessel: 300mL polypropylene bottle (sealed)
Incubation: One day at room temperature
Temperature: 1000℃
Time: After about 5 h, the gel will separate into a solid (containing the NaY Zeolite) that will settle to the bottom, and a hazy supernatant liquid. Continue heating until the supernatant is clear indicating complete crystallization (no more than 2 additional hours)
Product Recovery
(1) Centrifuge; decant supernatant
(2) Filter the wet solid product; wash with distilled water until pH of filtrate is below 9
(3) Dry at 1100℃
(4) Yield: approximately 32 g of anhydrous NaY (about 98% on Al_(2)O_(3))」(第156頁第1行?第157頁第5行)
(当審仮訳:FAU リンデY型 Si(71),Al(29)
・・・
材料タイプ:Na_(56)[Al_(56)Si_(136)O_(386)]:250H_(2)O
・・・
結晶化
容器:300mLポリプロピレン容器(密閉)
定温放置:室温で一日
温度:1000℃
時間:約5時間後、ゲルは、底部に沈殿する固体(NaYゼオライトを含有する)と濁った上澄み液とに分離する。上澄みが透明になる(結晶化が完了したことを示唆)まで、加熱し続ける(2時間を超えない範囲で)。
生成物回収
(1) 遠心分離し、上澄みを移す。
(2) 濡れた固体生成物を濾過し、ろ液のpHが9未満になるまで蒸留水を用いて洗浄する。
(3) 110℃で乾燥する。
(4) 収率:約32gの水を含まないNaY(Al_(2)O_(3)として約98%)。)

4 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由1について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明1を対比する。
甲1発明1の「Ca、Na、K、Mg」は、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素であるから、本件発明1の「アルカリ土類、希土類、アルカリ類またはそれらの混合物から選択される第1金属元素」に相当し、甲1発明1の「Ca/Al比が0.08、Na/Al比が0.25、K/Al比が0.13、Mg/Al比が0.03」であることは、その合計が0.49になることから、本件発明1の「アルミニウムに対する第1金属元素の原子比が0.05?0.80である」ことに相当する。
また、甲1発明1の「Cu、Fe」は、本件発明1の「銅、鉄またはそれらの混合物から選択される第2金属元素」に相当する。
さらに、甲1発明1の「Cu^(2+)-天然堆積チャバサイト」は、CHA結晶構造を有するゼオライトであるから、本件発明1の「CHA結晶構造を含」む「ミクロポーラス結晶性材料」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明1は、「CHA結晶構造を含み、アルカリ土類、希土類、アルカリ類またはそれらの混合物から選択される第1金属元素と、銅、鉄またはそれらの混合物から選択される第2金属元素とを含み、アルミニウムに対する第1金属元素の原子比が0.05?0.80である、有機材料を含有しないミクロポーラス結晶性材料」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1は、「3?10の範囲のアルミナに対するシリカのモル比(SAR)を有」しているのに対して、甲1発明1は、その点が明らかでない点。
(相違点2)
本件発明1は、「前記ミクロポーラス結晶性材料が0.3?5ミクロンの平均結晶寸法を含む」ことを特定しているのに対して、甲1発明1は、その点が明らかでない点。

事案に鑑み、まず、上記相違点2について検討する。
甲第2号証には、上記3(2)ア及びウによれば、SCRプロセスで使用するアルミナシリケートゼオライト物質の結晶サイズを大きくすることで、フレッシュ又は水熱的に加速処理された後の両方において触媒活性が向上することが記載されており、さらに、上記3(2)イに摘示した表2の500℃か焼処理された触媒と750℃加速処理された触媒について、200℃でのNOx転化率の変化率を比較すると、平均SEM結晶サイズが1.4μmの触媒Cは97%から83%に変化して、その変化率は約-14%(=(97%-83%)/97%×100)であるのに対して、0.15μmの触媒Aは86%から58%に変化して、その変化率は約-32%(=(86%-58%)/86%×100)であるから、アルミナシリケートゼオライト物質の平均結晶寸法を大きくすることで、水熱安定性が向上することが示唆されているといえる。
また、甲第3号証には、上記3(3)アによれば、SCR触媒に水熱安定性が必要であることが記載され、さらに、甲第4号証には、上記3(4)アによれば、アンモニアが加えられた排気流を、銅を含むチャバサイトに通して排気流中のNOxとアンモニアの選択的触媒還元によりN_(2)およびH_(2)Oに変換する方法が記載されているといえる。
しかしながら、甲第2号証?甲第4号証の記載を参酌しても、甲1発明1のCu^(2+)-天然堆積チャバサイトの平均結晶寸法が0.3?5ミクロンであるとはいえない。
そして、天然のゼオライト物質の結晶寸法を変更する技術常識はあるとはいえないから、結晶寸法を大きくすることで水熱安定性が向上することが知られていたとしても、甲1発明1の天然堆積チャバサイトの平均結晶寸法を0.3?5ミクロンとすることは、当業者が容易になし得るものでない。
したがって、相違点1を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるといえず、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものといえない。

(イ)本件発明1と甲1発明2を対比する。
甲1発明2の「Na」は、アルカリ金属元素であるから、本件発明1の「アルカリ土類、希土類、アルカリ類またはそれらの混合物から選択される第1金属元素」に相当し、甲1発明2の「Na/Al比が0.68」であることは、本件発明1の「アルミニウムに対する第1金属元素の原子比が0.05?0.80である」ことに相当する。
また、甲1発明2の「Cu」は、本件発明1の「銅、鉄またはそれらの混合物から選択される第2金属元素」に相当する。
さらに、甲1発明2の「Cu^(2+)-合成チャバサイト」は、CHA結晶構造を有するゼオライトであるから、本件発明1の「CHA結晶構造を含」む「ミクロポーラス結晶性材料」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明2は、「CHA結晶構造を含み、アルカリ土類、希土類、アルカリ類またはそれらの混合物から選択される第1金属元素と、銅、鉄またはそれらの混合物から選択される第2金属元素とを含み、アルミニウムに対する第1金属元素の原子比が0.05?0.80である、有機材料を含有しないミクロポーラス結晶性材料」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1′)
本件発明1は、「3?10の範囲のアルミナに対するシリカのモル比(SAR)を有」しているのに対して、甲1発明2は、その点が明らかでない点。
(相違点2′)
本件発明1は、「前記ミクロポーラス結晶性材料が0.3?5ミクロンの平均結晶寸法を含む」ことを特定しているのに対して、甲1発明2は、その点が明らかでない点。

事案に鑑み、まず、上記相違点2′について検討する。
上記(ア)の相違点2の検討と同様に、甲第2号証?甲第4号証の記載を参酌しても、甲1発明2のCu^(2+)-合成チャバサイトの平均結晶寸法が0.3?5ミクロンであるとはいえない。
また、甲第1号証に記載された合成方法において、その結晶寸法を変更する方法が、甲第2号証?甲第4号証に記載されているとは認められないし、そのような技術常識があるともいえないから、結晶寸法を変更することで水熱安定性が向上することが知られていたとしても、甲1発明2の合成チャバサイトの平均結晶寸法を0.3?5ミクロンとすることは、当業者が容易になし得るものでない。
したがって、相違点1′を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるといえず、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものといえない。

(ウ)特許異議申立人は、上申書の「ウ.取消理由2(進歩性)」において、甲第2号証には、より大きな結晶サイズのアルミノシリケートゼオライト物質を含む触媒のほうが、より小さい結晶サイズのアルミノシリケートゼオライト物質を含む触媒と比較して、水熱的に加速された後でも触媒活性に優れることが記載されているから、甲1発明において、水熱安定性を向上させるために、甲第2号証の実施例に記載された平均SEM結晶サイズを含む範囲に設定することは、当業者が容易に想到し得たものである旨を主張している。
しかしながら、上記(ア)及び(イ)で検討したとおり、天然堆積チャバサイトや合成チャバサイトの結晶寸法を自由に変更することは、当業者が容易になし得るものでないから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

イ 本件発明2、5、7?9、11?13について
本件発明2、5、7?9、11?13は、本件発明1を更に限定するものであるから、上記アでの検討と同様に、甲第1号証に記載された発明であるといえず、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第4号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものといえない。

ウ 以上のとおりであるから、取消理由1は解消した。

(2)取消理由2について
本件発明1と甲6発明を対比すると、甲6発明の「SiO_(2)/Al_(2)O_(3)が4.6」であることは、本件発明1の「3?10の範囲のアルミナに対するシリカのモル比(SAR)を有」することに相当する。
また、甲6発明の「Na」は、アルカリ金属元素であるから、本件発明1の「アルカリ土類、希土類、アルカリ類またはそれらの混合物から選択される第1金属元素」に相当し、甲6発明の「Na/Alが0.2」であることは、本件発明1の「アルミニウムに対する第1金属元素の原子比が0.05?0.80である」ことに相当する。
さらに、甲6発明の「Cu」は、本件発明1の「銅、鉄またはそれらの混合物から選択される第2金属元素」に相当する。
そして、甲6発明の「Cuでイオン交換したY型ゼオライト」は、本件発明1の「ミクロポーラス結晶性材料」に相当する。
したがって、本件発明1と甲6発明は、「3?10の範囲のアルミナに対するシリカのモル比(SAR)を有し、アルカリ土類、希土類、アルカリ類またはそれらの混合物から選択される第1金属元素と、銅、鉄またはそれらの混合物から選択される第2金属元素とを含み、アルミニウムに対する第1金属元素の原子比が0.05?0.80である、ミクロポーラス結晶性材料」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点3)
ミクロポーラス結晶性材料の結晶構造について、本件発明1は「CHA結晶構造」であるのに対して、甲6発明は「Y型ゼオライト」である点。
(相違点4)
本件発明1は、「有機材料を含有しない」ことが特定されているのに対して、甲6発明は、その点が明らかでない点。
(相違点5)
本件発明1は、「前記ミクロポーラス結晶性材料が0.3?5ミクロンの平均結晶寸法を含む」ことを特定しているのに対して、甲6発明は、平均結晶寸法が明らかでない点。
まず、上記相違点3について検討すると、甲6発明の「Y型ゼオライト」は、甲第8号証(上記3(6)アの摘示参照)に記載されているように、FAU結晶構造であって、CHA結晶構造と異なるものであるから、相違点3は実質的な相違点である。
したがって、相違点4及び5を検討するまでもなく、本件発明1は、甲第6号証に記載された発明といえない。
また、本件発明9、12及び13は、本件発明1を更に限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲第6号証に記載された発明といえない。
よって、取消理由2は解消した。

(3)取消理由3について
発明の詳細な説明には、有機構造指向剤を用いないで製造した、アルミナに対するシリカのモル比が5.5又は5.6であるチャバサイトの実施例が記載されているところ、本件発明1は、「CHA結晶構造を含み、3?10の範囲のアルミナに対するシリカのモル比(SAR)を有し」、「有機材料を含有しないミクロポーラス結晶性材料」であって、実施例と同様の結晶構造であって、アルミナに対するシリカのモル比の範囲は技術常識からみても大きく異なるものでないから、発明の詳細な説明には、本件発明1を当業者が製造できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
よって、取消理由3は解消した。

(4)取消理由4について
本件発明1が解決しようとする課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0004】の記載からみて、「向上した性能および水熱安定特性を有する、改良されたミクロポーラス結晶性材料」を提供することといえる。
そして、本件発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明であるというためには、本件発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであること、すなわち、本件発明1によって、向上した性能および水熱安定特性を有するミクロポーラス結晶性材料を提供できることを、発明の詳細な説明の記載により当業者が認識できる範囲のものであることを要する。
そこで検討するに、発明の詳細な説明(特に実施例1?24及び段落【0048】)には、平均結晶寸法が0.3?5ミクロンの大型結晶で、有機を含まないチャバサイトであって、Fe及びCaを含み、Ca/Al原子比が0.10であるチャバサイト(実施例3)、Cu及びCaを含み、Ca/Al原子比が0.11?0.17であるチャバサイト(実施例5、9?11)、Cu及びSr含み、Sr/Al原子比が0.17であるチャバサイト(実施例13)、並びに、Cu及びLaを含み、La/Al原子比が0.15であるチャバサイト(実施例15)が記載され、また、これら実施例のチャバサイトは、Fe又はCuを含み、Ca、Sr及びLaを含まないチャバサイト(比較例4、6)よりも、水熱安定特性に優れ、NOx変換率が向上することが記載され、さらに、Cu及びKを含み、K/Al原子比が0.08であるSAPO-34(実施例21)も、同様の水熱安定特性が得られることも記載されている。
そして、本件発明1は、実施例と同様の結晶構造であり、第1金属元素及び第2金属元素は、実施例と同族または同じ元素であるし、アルミナに対するシリカのモル比の範囲や、アルミニウムに対する第1金属元素の原子比の範囲は、技術常識からみても大きく異なるものでないから、本件発明1も実施例と同様な効果を奏すると認識できる範囲のものといえる。
そうしてみると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明といえるし、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
よって、取消理由4は解消した。

(5)取消理由5について
訂正前の請求項1に記載された「有機構造指向剤(OSDA)からの有機材料を用いない」との特定事項は、「有機材料を含有しない」との特定事項に訂正され、また、訂正前の請求項5に記載された「第1金属」の選択肢に金属でない「混合された希土類酸化物」を含む特定事項は、「前記第1金属元素が、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、カリウム、ルビジウム、セシウムまたはそれらの混合物を含む」との特定事項に訂正されたため、取消理由5は解消した。

5 上申書の「イ.取消理由1(サポート要件)」についての検討
特許異議申立人は、「前記ミクロポーラス結晶性材料が0.3?5ミクロンの平均結晶寸法を含む」という発明特定事項を含む本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されておらず、この発明特定事項により限定された範囲内であれば課題を解決できると当業者は認識できないから、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)を満たしていないとの新たな取消理由を主張している。
しかしながら、本件特許明細書の実施例には、上記4(4)に記載されたように、実施例3、5、9?11、13、15の第1金属及び第2金属を含む大型結晶チャバサイトが、比較例4及び6のチャバサイトよりも、水熱安定特性に優れ、NOx変換率が向上することが記載されている。
そして、本件特許明細書の段落【0048】の「一実施形態において、開示された方法において使用される材料は、0.3?5ミクロンの寸法の結晶を含む。」との記載や、段落【0033】の「材料は一般的には、0.3ミクロン以上10ミクロン未満(例えば、0.3?5.0ミクロン)の平均寸法を有する結晶を含む。」との記載を参酌すれば、段落【0053】及び【0059】に記載された実施例の「大型結晶」は、0.3?5ミクロンの平均寸法の結晶を意味すると、当業者が認識できるものである。
そうしてみると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明といえるし、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえるから、特許異議申立人の主張は採用できない

第4 むすび

以上のとおりであるから、通知した取消理由、すなわち申立理由によっては、本件請求項1、2、5、7?9、11?15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、5、7?9、11?15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項3、4、6及び10は、訂正により削除されたため、本件請求項3、4、6及び10に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CHA結晶構造を含み、3?10の範囲のアルミナに対するシリカのモル比(SAR)を有し、アルカリ土類、希土類、アルカリ類またはそれらの混合物から選択される第1金属元素と、銅、鉄またはそれらの混合物から選択される第2金属元素とを含み、アルミニウムに対する第1金属元素の原子比が0.05?0.80である、有機材料を含有しないミクロポーラス結晶性材料であって、
前記ミクロポーラス結晶性材料が0.3?5ミクロンの平均結晶寸法を含む、ミクロポーラス結晶性材料。
【請求項2】
前記材料が、二重6員環(d6r)の基礎単位および8員環の開孔を有する結晶構造を含む、請求項1に記載のミクロポーラス結晶性材料。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記第1金属元素が、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、カリウム、ルビジウム、セシウムまたはそれらの混合物を含む、請求項1に記載のミクロポーラス結晶性材料。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記材料が、アルミニウムに対するカルシウムの原子比が0.05?0.50でカルシウムを含む、請求項1に記載のミクロポーラス結晶性材料。
【請求項8】
前記材料が、アルミニウムに対する銅の原子比が0.05?0.20で銅を含む、請求項1に記載のミクロポーラス結晶性材料。
【請求項9】
前記材料が、アルミニウムに対する鉄の原子比が0.05?0.30で鉄を含む、請求項1に記載のミクロポーラス結晶性材料。
【請求項10】(削除)
【請求項11】
前記材料が、10体積パーセント以下の水蒸気の存在下で、700?800°Cの温度にて、1?16時間暴露された後、その表面積およびミクロポア容積の少なくとも70%を保持する、請求項1に記載のミクロポーラス結晶性材料。
【請求項12】
排出ガスを、請求項1、2、5、7?9および11のいずれか1項に記載のミクロポーラス結晶性材料を含む物品に少なくとも部分的に接触させることを含む、排出ガス中の窒素酸化物の選択触媒還元方法。
【請求項13】
前記接触させる工程が、アンモニア、尿素、アンモニア発生化合物または炭化水素化合物の存在下で実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ナトリウム、カリウム、アルミナ、シリカ、水および必要に応じて結晶性のシード材料を混合してゲルを形成し、前記ゲルが、0.5未満のシリカに対するカリウム(K/SiO_(2))のモル比と、0.35未満のシリカに対する水酸化物(OH/SiO_(2))のモル比を有する工程と、
前記ゲルを容器中で、80°C?200°Cの温度で加熱して、結晶性の生成物を形成する工程と;
前記生成物をアンモニアで交換する工程と;
第1金属元素および第2金属元素を、液相もしくは固体イオン交換、含浸により前記結晶性材料に導入するか、または直接合成により前記結晶性材料に組み込む工程と;
を含む、請求項1、2、5、7?9および11のいずれか1項に記載のミクロポーラス結晶性材料を製造する方法。
【請求項15】
前記アルミナおよびシリカの供給源が、カリウム交換したY型ゼオライト、プロトン交換したY型ゼオライト、アンモニア交換したY型ゼオライト、ケイ酸カリウムまたはそれらの混合物を含む、請求項14に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-09-25 
出願番号 特願2014-544966(P2014-544966)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C01B)
P 1 651・ 121- YAA (C01B)
P 1 651・ 536- YAA (C01B)
P 1 651・ 537- YAA (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村岡 一磨森坂 英昭増山 淳子  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 宮澤 尚之
山崎 直也
登録日 2017-03-10 
登録番号 特許第6104270号(P6104270)
権利者 ピーキュー コーポレイション
発明の名称 安定化したミクロポーラス結晶性材料、その製造方法およびNOxの選択触媒還元のための使用方法  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 赤堀 龍吾  
代理人 江口 昭彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 赤堀 龍吾  
代理人 大貫 敏史  
代理人 江口 昭彦  
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