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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01D
審判 全部申し立て 出願日、優先日、請求日  B01D
管理番号 1345887
異議申立番号 異議2018-700548  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-09 
確定日 2018-11-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6259921号発明「複合中空糸膜モジュールおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6259921号の請求項1?13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6259921号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?13に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)8月20日(優先権主張 平成26年8月21日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、平成29年12月15日に特許権の設定登録がなされ、平成30年1月10日に特許掲載公報が発行され、その後、平成30年7月9日付けで全請求項(請求項1?13)に係る特許に対し、特許異議申立人 谷川康治(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立がされたものである。


第2 本件特許発明
1. 本件特許発明について
本件特許の請求項1?13に係る発明は、それぞれ、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明13」といい、また、これらを、まとめて、「本件特許発明」という。)。

「【請求項1】
複数の中空糸で構成される中空糸糸束を有する正浸透複合中空糸膜モジュールであって、
前記中空糸が、微細孔性中空糸支持膜の内表面に高分子重合体薄膜の分離活性層を設けた中空糸であり、
前記中空糸糸束の膜面積が1m^(2)以上であり、そして
前記分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像における分離活性層部分の質量を測定する方法により算出された、前記中空糸糸束の半径方向および長さ方向における分離活性層の平均厚みの変動係数が0?60%であり、かつ、
前記分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像において、該分離活性層と中空糸支持膜との界面の長さL1、および該分離活性層表面の長さL2の比L2/L1が、1.1以上5.0以下であることを特徴とする、前記モジュール。
【請求項2】
前記比L2/L1が1.15以上4.0以下である、請求項1に記載のモジュール。
【請求項3】
前記比L2/L1が1.2以上3.0以下である、請求項1に記載のモジュール。
【請求項4】
前記変動係数が0?50%である、請求項1?3のいずれか一項に記載のモジュール。
【請求項5】
前記変動係数が0?40%である、請求項1?3のいずれか一項に記載のモジュール。
【請求項6】
前記変動係数が0?30%である、請求項1?3のいずれか一項に記載のモジュール。
【請求項7】
前記高分子重合体が、
多官能アミンから選択される少なくとも1種以上の第1モノマーと、
多官能酸ハライドおよび多官能イソシアネートから成る群より選択される少なくとも1種以上の第2モノマーと、
の重縮合生成物である、請求項1?6のいずれか一項に記載のモジュール。
【請求項8】
前記高分子重合体が、
ポリアミドおよびポリウレアより選択される少なくとも1種である、請求項7に記載のモジュール。
【請求項9】
請求項7に記載のモジュールの製造方法であって、
微細孔性中空糸支持膜の内表面に、前記第1モノマーおよび第2モノマーのうちの一方を含有する第1溶液の液膜を形成し、
次いで、微細孔性中空糸支持膜の内側と外側とが、(内側圧力)>(外側圧力)となるように圧力差を設けた後、
前記第1モノマーおよび第2モノマーのうちの他方を含有する第2溶液を、前記第1溶液の液膜と接触させる工程を経ることを特徴とする、前記モジュールの製造方法。
【請求項10】
前記圧力差を、前記該中空糸支持膜の外側を減圧することにより生じさせる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記圧力差を、前記中空糸支持膜の内側に加圧することにより生じさせる、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記圧力差を、前記中空糸支持膜の外側および内側の双方を異なる圧力で加圧することにより生じさせる、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記圧力差が1?100kPaである、請求項9?12のいずれか一項に記載の方法。」


2. 優先権主張の効果について
異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許発明1?13に関し、優先権主張の効果が認められない旨主張している(特許異議申立書第10頁第5?13行)ので、まず、本件特許発明1?13の優先権主張の効果について検討を行う。
本件特許発明1は、上記1.に示したとおり、「分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像において、該分離活性層と中空糸支持膜との界面の長さL1、および該分離活性層表面の長さL2の比L2/L1が、1.1以上5.0以下である」との発明特定事項を備えるものであるが、当該発明特定事項については、本件特許に係る出願の優先権主張の基礎となる出願である特願2014-168776号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されていない。
よって、本件特許発明1について優先権主張の効果は認められない。
また、本件特許発明2?13についても、本件特許発明1についての検討と同様にして、優先権主張の効果は認められない。
したがって、異議申立人の上記主張は妥当であって、本件特許発明1?13については、国際出願日である2015年(平成27年)8月20日が、特許法第29条の規定の適用についての基準日となる。


第3 申立理由の概要
異議申立人は、以下の甲第1号証?甲第7号証を提出して、以下の申立理由1?8によって、請求項1?13に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1. 申立理由1
本件特許発明1?8は、甲第1号証に記載された発明と差異がないので、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、請求項1?8に係る特許は取り消すべきものである(特許異議申立書第25頁第22行?第27頁第27行、および、同書第31頁第19行?第32頁第3行)。

2. 申立理由2
本件特許発明1?8は、甲第2または3号証に記載された発明と差異がないので、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、請求項1?8に係る特許は取り消すべきものである。(特許異議申立書第28頁第11行?第30頁第6行、同書第30頁第20行?第31頁第23行、および、同書第32頁第5?22行)。

3. 申立理由3
本件特許発明1?8は、甲第1号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、請求項1?8に係る特許は取り消すべきものである(特許異議申立書第25頁第22行?第28頁第10行、および、同書第31頁第19行?第32頁第4行)。

4. 申立理由4
本件特許発明1?8は、甲第2号証に記載された発明と甲第3?5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、請求項1?8に係る特許は取り消すべきものである(特許異議申立書第28頁第11行?第30頁第19行、同書第31頁第19?24行、および、同書第32頁第5?13行)。

5. 申立理由5
本件特許発明1?8は、甲第3号証に記載された発明と甲第4?5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、請求項1?8に係る特許は取り消すべきものである(特許異議申立書第30頁第20行?第31頁第24行、および、同書第32頁第14?22行)。

6. 申立理由6
本件特許発明9および本件特許発明11?13は、甲第2または3号証に記載された発明と差異がないので、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、請求項9および11?13に係る特許は取り消すべきものである(特許異議申立書第32頁第23行?第34頁第10行、および、同書第36頁第24行?第38頁第13行)。

7. 申立理由7
本件特許発明9および本件特許発明11?13は、甲第2号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、請求項9および11?13に係る特許は取り消すべきものである(特許異議申立書第32頁第23行?第33頁第19行、および、同書第36頁第24行?第38頁第19行)。

8. 申立理由8
本件特許発明9?10は、甲第6号証に記載された発明に基づいて、または、甲第6号証に記載された発明と甲第2?3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、請求項9?13に係る特許は取り消すべきものである(特許異議申立書第35頁第5行?第36頁第23行、および、同書第36頁第24行?第38頁第19行)。

9. 申立理由9
本件特許発明10は、甲第2号証に記載された発明と甲第3、7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、請求項10に係る特許は取り消すべきものである(特許異議申立書第34頁第11行?第35頁第4行)。

10. 申立理由10
本件特許発明12は、甲第3号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものであるので、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、請求項12に係る特許は取り消すべきものである(特許異議申立書第37頁第21行?第38頁第19行)。

11. 申立理由11
請求項1?13には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、請求項1?13は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許されたものであり、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものであるので、請求項1?13に係る特許は取り消すべきものである(特許異議申立書第38頁第21行?第40頁第17行)。

12. 申立理由12
請求項9?13の記載自体が不明確であるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許されたものであるので、請求項9?13に係る特許は取り消すべきものである(特許異議申立書第40頁第18行?第41頁末行)。

[異議申立人が提出した証拠方法]
甲第1号証:Journal of Membrane Science 355(2010)p.158-167
甲第2号証:米国特許出願公開第2008/0197070号明細書
甲第3号証:国際公開第2014/108827号
甲第4号証:Chemical Engineering Science 80(2012)p.219-231
甲第5号証:国際公開第2012/112123号
甲第6号証:特表平8-511991号公報
甲第7号証:国際公開第2014/092107号


第4 甲号証の記載事項(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下、
同じ。)、及び、甲各号証に記載された発明
1. 甲第1号証(Journal of Membrane Science 355(2010)p.158-167)の
記載事項、及び甲第1号証に記載された発明

甲第1号証の記載事項は、以下の1ア.?1サ.のとおりである。
1ア. 「ABSTRACT
Forward osmosis(FO) has received intensive studies recently for a range of potential applications such as wastewater treatment, water purification and seawater desalination. One of the major challenges to be overcome is the lack of an optimized FO membrane that can produce a high water flux comparable to commercial RO membranes. Two types of thin-film composite FO hollow fibers with an ultra-thin polyamide-based RO-like skin layer(300-600nm) on either the outer surface(#A-FO) or inner surface (#B-FO) of a porous hollow fiber substrate have been successfully fabricated. These novel composite FO hollow fibers have been characterized by a series of standard protocols and benchmarked against commercially available FO flat sheet membranes and reported NF hollow fibers used for the FO process.
The characterization reveals that the FO hollow fiber membranes possess a large lumen. The substrates are highly porous with a narrow pore size distribution. The active layers present excellent intrinsic separation properties with a hydrophilic rejection layer and good mechanical strength. The #B-FO hollow fiber membrane can achieve a high FO water flux of 32.2 L/m^(2)h using a 0.5M NaCl draw solution in the active rejection layer facing draw solution (AL-facing-DS) configuration at 23℃. The corresponding salt flux is only 3.7 g/m^(2)h. To the best of our knowledge, the performance of the #B-FO hollow fiber is superior to all FO membranes reported in the open literature. The current study suggests that the optimal FO membrane structure would possess a very small portion of sponge-like layer in a thin and highly porous substrate, which suggests a way for futher improvement. …」(p.158 中段)
(当審訳:要約 正浸透(FO)は、近年、排水処理、水の浄化、海水の脱塩などへの潜在的な適用範囲において集中的に研究されている。克服すべき大きな課題の1つは、市販の逆浸透(RO)膜に匹敵する高い透水性を有するように、最適化されたFO膜が欠如していることである。多孔性中空糸基材の外表面(#A-FO)または内表面(#B-FO)のどちらかに極薄のポリアミドベースのROのような表面層(300?600nm)を備える2種類の薄型複合FO中空糸の作製に成功した。これらの新規な複合FO中空糸は、一連の標準的な仕方で特徴付けられ、市販のFO平膜やFOプロセスに利用されたとの報告のあるナノろ過(NF)中空糸と同水準にあった。
その特徴付けにより、FO中空糸膜が大きな内腔を有することが明らかとなった。基材は、高度に多孔質で、狭い孔サイズ分布を有していた。活性層は、親水性の排除層との優れた固有分離特性と良好な機械的強度とを示した。その#B-FO中空糸膜は、23℃の温度で活性な排除層が駆動溶液に面するという(AL-facing-DS)構成において、0.5MのNaCl駆動溶液を用いたときに、32.2L/m^(2)hという高いFO透水性を達成することができる。対応する塩の透過性は、3.7g/m^(2)にすぎない。我々の知る限り、そのような#B-FO中空糸の性能は、公開されている文献中で報告されている全てのFO膜よりも優れている。この研究は、FO膜の構造が、薄くて高度に多孔性の基材中のスポンジ状の層の微小部分化によって最適化されるということを示唆しており、更なる改善の方向を暗示している。…)

1イ. 「2.5. Membrane morphology observation, dynamic contact angle and mechanical property measurements
To observe the morphologies of PES hollow fiber substrates and the thin film layer of final FO composite hollow fibers, the dried membrane samples were broken in liquid nitrogen and then sputtered with a thin layer of gold using EMITECH SC7620 sputter coater. The cross-section and inner surface of the hollow fiber membranes were examined using a Zeiss EVO 50 Scanning Electron Microscope(SEM).」(p.160 左欄下から5行?右欄4行)
(当審訳:2.5.膜の形態観察、動的接触角、および機械的性質の測定
PES中空糸基材および最終的なFO複合中空糸の薄層の形態観察のため、乾燥済みの膜試料が液体窒素中で破壊され、スパッター被覆装置EMITECH SC7620を用い、金の薄層がスパッタされた。中空糸膜の断面と内表面とが、走査型電子顕微鏡Zeiss EVO50を用いて観察された。)

1ウ. 「2.6. Measurements of water permeability and salt permeability of FO hollow fibers
Ten pieces of FO composite hollow fibers were potted into a Teflon tube to form a lab-scale FO module. The effective length of the fibers in the Teflon module was 25 cm. The permeability and salt rejection of the FO hollow fiber membrane was determined by testing the hollow fibers in the RO mode in a pressurized crossflow filtration cell.…」(p.160 右欄26?33行)
(当審訳:2.6.FO中空糸の水透過性と塩透過性の測定
実験室スケールのFOモジュール形成のために、10本のFO複合中空糸がテフロン管中に挿入された。テフロンモジュール中の中空糸の有効長は25cmであった。FO中空糸膜の透過性と塩排除性とが、加圧状態のクロスフローろ過セル中でのROモードで中空糸を試験することによって測定された。…)

1エ. 「

」(p.160 上段)
(当審訳:図1 ベンチスケールの正浸透(FO))システムの概略図)

1オ. 「2.7. FO cross-flow setup and FO filtration experiments
The FO module was also used for FO filtration experiments. A schematic diagram of the bench-scale FO setup is shown on Fig.1. Two variable-speed peristaltic pumps were used to supply the feed(de-ionized water)and draw solutions(NaCl with varied concentrations),respectively. The draw solution either flowed in the shell side of the module or in the lumen of the FO fibers. In other words, both membrane orientations(active rejection layer facing draw solution(AL-facing-DC)and that facing feed water(AL-facing-FW)were tested. The Reynolds numbers of the fluid flowing in the fiber lumen and module shell were around 1500 and 450, respectively. Permeate flux(i.e.,volumetric flux of water)was determined at predetermined time intervals by measuring the weight changes of the feed tank with a digital mass balance connected to a computer data logging system. The opration was performed at room temperature of ?23℃.」(p.161 左欄下から16行?末行)
(当審訳:2.7.FOクロスフローの設定とFOろ過実験
FOモジュールは、FOろ過実験でも使用された。設定されたベンチスケールのFOの概略図が図1に示されている。二つの可変速度のぜん動ポンプが、脱イオン水と駆動溶液(種々の濃度のNaCl)とを供給するのに用いられた。駆動溶液は、モジュールのシェル側かFO糸の内腔のどちらかを流れた。言い換えると、両方の膜適応性(活性な排除層が駆動溶液に面する(AL-facing-DS)の場合と活性な排除層が給水に面する(AL-facing-FW)の場合)が調査された。糸内腔とモジュールシェルを流れる流体のレイノルズ数は、それぞれ、およそ1500と450であった。透過流速(すなわち、透過した水の体積)は、コンピュータデータ切り出しシステムに接続されたデジタル質量測定器で給水タンクの質量変化を所定の時間間隔で測定することによって決定された。作業は?23℃の室温で行われた。)

1カ. 「

」(p.161 上段)
(当審訳:図2 FOの中空糸基材であるPESの形態(a)45倍にした#Aについての断面図、(b)200倍にした#Aについての断面拡大図、(c)45倍にした#Bについての断面図、及び、(d)200倍にした#Bについての断面拡大図)

1キ. 「3.1.1. PES hollow fiber substrates
It can be seen from Fig.2 that the #A-PES and #B-PES porous hollow fiber substrates exhibited similar cross-section morphologies-long needle-like pores were developed densely from outer and inner surfaces simultaneously without forming large macro-voids on the cross-section. The excellence of the pore structure is indicated by the low MWCO(24kDa), high pure water flux(270L/m^(2)h atm)and high porosity(84%)for the #A-PES hollow fibers, and the #B-PES hollow fibers possess <90kDa MWCO, 290L/m^(2)h atm pure water flux and 75% porosity. In addition, the #B-PES hollow fibers have a thinner wall(0.170mm vs.0.215mm)comparing with the #A-PES hollow fibers.
The pore size distributions of the substrate membranes are shown in Fig.3. It was observed that the two hollow fiber substrates possessed a narrow pore size distribution as suggested by small geometrics standard deviations(σ)of 1.17 and 1.08 nm respectively for the #A-PES and #B-PES hollow fiber substrates, which is believed to be beneficial to the subsequent interfacial polymerization on the surface to produce a homogenous skin layer. The detailed characteristic parameters of the hollow fiber substrates are summarized in Table1.」(p.162 左欄6行?右欄4行)
(当審訳:3.1.1.PES中空糸基材
図2から、多孔質中空糸基材である#A-PESおよび#B-PESは、断面において、大きなマクロボイドを形成することなく、長針状の孔が外表面および内表面から同時に密に成長されたという、同様の断面形態を示すことが分かる。孔構造の卓越性は、#A-PES中空糸については、低い分画分子量(24kDa)、高い純水流(270L/m^(2)h atm)および高い多孔度(84%)によって、また、#B-PES中空糸については、90kDa未満の分画分子量、290L/m^(2)h atmの純水流、75%の多孔度によって、示されている。また、#B-PES中空糸は、#A-PES中空糸と比較して、仕切り壁が薄い(0.170mm対0.215mm)。
基材膜の孔径分布は、図3に示されている。#A-PESおよび#B-PESの中空糸基材という、二つの中空糸基材は、それぞれが、1.17nmおよび1.08nmという小さな幾何学的標準偏差(σ)によって表される、狭い孔径分布を有する。これらの中空糸基材は、その表面上に界面重合によって均一なスキン層を生成するのに有利であると考えられる。中空糸基材の特徴の詳細は、表1にまとめられている。)

1ク. 「

」(p.162 左欄上段)
(当審訳:図3 中空糸基材膜であるPESの孔径分布(■は#A、●は#B))

1ケ. 「

」(p.162 左欄下段)
(当審訳:表1 中空糸基材であるPESの特徴)

1コ. 「3.1.2. RO-like skin layer
The interfacial polymerization can take place between various amine solutions(in an aquous phase) and acid chloride solutions(in an organic phase such as hexane), and the resulting cross-linked aromatic polyamide tends to have high water permeability and salt rejection. In this study, trimesoyl chloride(TMC) hexane solutions were selected as the organic phase, while m-phenylenediamine (MPD)was used as an amine aqueous solurtion. The monomer concentration and reaction time were examined to see their effects on the performance of resultant thin film composite hollow fibers.
Fig.4 shows the cross-section morphologies of FO hollow fiber membranes made using two PES substrates along with the commercial FO membranes. The #A-FO hollow fiber composite membrane was made via interfacial polymerization on the outer surface of the #A-PES porous hollow fiber substrate, while the interfacial polymerization was conducted on the inner surface of the #B-PES porous hollw fiber substrate to obtain the #B-FO membrane. It was observed from Fig.4(a) and (b) that the thickness of the RO-like skin layer of the #A-FO and #B-FO hollow fiber membranes is around 300nm and 600nm, respectively,which has been firmly attached to the PES substrate(the SEM pictures were taken after performance tests).」(p.162 右欄26行?p.163 左欄4行)
(当審訳:3.1.2.逆浸透(RO)様スキン層
界面重合は、種々のアミン溶液(水相中の)と酸塩化物溶液(ヘキサンのような有機相中)との間で行うことができ、その結果得られる架橋された芳香族ポリアミドは、高い透水性と塩分離性とを有する傾向にある。本研究では、有機相として、トリメシン酸クロリド(TMC)のヘキサン溶液が選択され、アミン水溶液として、メタ-フェニレンジアミド(MPD)が用いられた。モノマー濃度と反応時間とについて、結果物としての薄膜複合中空糸の性能への影響が調べられた。
図4は、市販のFO膜とともに、二つのPES基材を用いて作製されたFO中空糸膜の断面形態を示す。#A-FO中空糸複合膜は、多孔質性中空基材である#A-PESの外表面に界面重合を行うことによって作製され、また、#B-FO膜を得るために、多孔質性中空基材である#B-PESの内表面に界面重合が行われた。図4(a)および(b)から、#A-FOおよび#B-FO中空糸膜のRO様の表面層の厚さは、それぞれ、約300nmおよび600nmであり、PES基材にしっかりと固定されている(SEM画像は性能試験の後に撮影された)ことが観察された。)

1サ. 「

」(p.163 上段)
(当審訳:図4 FO膜の断面形態 (a)5000倍の#A-FO中空糸;(b)5000倍の#B-FO中空糸;(c)カートリッジ型HITの300倍の平板シート;(d)袋型HITの300倍の平板シート)

1シ. 上記1ア.によれば、甲第1号証には、近年、排水処理、水の浄化、海水の脱塩などへの潜在的な適用範囲において集中的に研究されている正浸透(FO)に関し、作製に成功した、多孔性中空糸基材の外表面(#A-FO)または内表面(#B-FO)のどちらかに極薄のポリアミドベースのROのような表面層(300?600nm)を備える2種類の薄型複合正浸透中空糸は、市販のFO平膜やFOプロセスに利用されたとの報告のあるナノろ過(NF)中空糸と同水準にあったことが記載されていると認められる。

1ス. 上記1ウ.?1オ.によれば、有効長が25cmである、10本の薄型複合正浸透中空糸がテフロン管中に挿入されて、実験室スケールの正浸透モジュールが形成されたと認められる。

1セ. また、上記1カ.?1ケ.によれば、内表面に極薄のポリアミドベースのROのような表面層を備える薄型複合正浸透中空糸(#B-FO)の作製に用いられた多孔性中空糸基材である#B-PESに関し、大きなマクロボイドを形成することなく、長針状の孔が外表面および内表面から同時に密に成長されたという、断面形態を示し、外径1320μm、内径960μm、厚さ180μm(#B-PES1)、または、外径1340μm、内径1000μm、厚さ170μm(#B-PES2)であったということが記載されていると認められる。

1ソ. また、上記1コ.?1サ.によれば、多孔性中空糸基材である#B-PESを用いて作製されたFO中空糸膜に関し、その基材の内表面で界面重合が行われ、架橋された芳香族ポリアミドでなる、約600nmの厚さの表面層が形成されたことが記載されていると認められる。

1タ. 上記1シ.?1ソ.の検討を踏まえ、多孔性中空糸基材である#B-PESの内表面に架橋された芳香族ポリアミドでなる表面層を備える薄型複合正浸透中空糸(#B-FO)によって形成された正浸透モジュールに注目すると、甲第1号証には、次のような発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「外径1320μm、内径960μm、厚さ180μmの多孔性中空糸基材の内表面、または、外径1340μm、内径1000μm、厚さ170μmの多孔性中空糸基材の内表面に架橋された芳香族ポリアミドでなる約600nmの厚さの表面層を備える、薄型複合正浸透中空糸10本が有効長25cmでテフロン管中に挿入された実験室スケールの正浸透モジュール。」


2. 甲第2号証(米国特許出願公開第2008/197070号明細書)
の記載事項、及び、甲第2号証に記載された発明

甲第2号証の記載事項は、以下の2ア.?2キ.のとおりである。
2ア. 「[0003] The present disclosure relates to the field of membranes and membrane systems. More particularly, the present disclosure relates to the production and utilization of membranes and membrane systems using polyolefin (e.g., polypropylene, polyethylene, etc.) as a support material. Membranes and membrane systems described herein may be used in a variety of applications, including, but not limited to, microfiltration (herein also referred to as “MF”), ultrafiltration (herein also referred to as “UF”), nanofiltration (herein also referred to as “NF”), low pressure reverse osmosis (herein also referred to as “LPRO”), protein separation, water treatment, organic solvent-based UF or NF, and waste water treatment.」
(当審訳:[0003] 本開示は、膜および膜システムの分野に関する。より詳細には、本開示は、基材物質としてポリオレフィン(例えばポリプロピレン、ポリエチレンなど)を使用する膜および膜システムの製造および利用に関する。ここでいう、膜および膜システムは、ミクロ分離(以下、「MF」という。)、限外濾過(以下、「UF」という。)、ナノ濾過(以下、「NF」という。)、低圧逆浸透(以下、「LPRO」という。)、タンパク質分離、水処理、有機溶媒でのUFまたはNF、および廃水処理を含む、種々の応用において使用されてよいが、これらの応用での使用に限定されない。)

2イ. 「[0007] Interfacial polymerization (herein also referred to as IP) is a powerful technique for producing composite membranes and membrane systems. Membranes produced using interfacial polymerization generally include a support structure and a selective layer interfacially polymerized over the support structure.…」
(当審訳:[0007] 界面重合(以下、IPということもある。)は、複合膜製造およびその膜システムに関し、効果的な技術である。界面重合を使用して製造された膜は、一般に、基材構造とその基材構造上で界面重合された選択層とを含んでいる。…)

2ウ. 「[0046] Leak-proof modules may be utilized to facilitate treatment of structures of differing geometries. For example, a leak-proof module may be fabricated using microporous polyolefin/polypropylene hollow fibers potted in a module. Exemplary hydrophilization and interfacial polymerization processes in hollow fiber modules may include the use of a pump connected to the hollow fiber module. Solutions may pass through the lumen side of the fibers. In exemplary embodiments, a valve may be positioned downstream of the hollow fiber module to control the pressure. Multiple flow lines may be used to pass different solutions, thereby reducing the need to wash, flush or otherwise clean the lines during the treatment processes.」
(当審訳:[0046] 漏れ防止モジュールは、様々な幾何学形状の構造の処理の容易化に利用できる。漏れ防止モジュールは、モジュール化された微多孔ポリオレフィン/ポリプロピレン中空糸の使用で容易化されてもよい。中空糸モジュールにおける典型的な親水化および界面重合プロセスは、その中空糸モジュールに接続されたポンプの使用を含む。溶液は、中空糸の内腔側を通過する。典型的な実施形態においては、圧力制御のために、中空糸モジュールの下流にバルブが位置する。複数の流路が異なる溶液の通過に使用され、それによって処理プロセスの間の流路の洗浄、フラッシュ、あるいは清浄化の必要性が低減する。)

2エ. 「[0059] Coating by interfacial polymerization may also occur on the inside surface of the disclosed hollow fibers. For coating on the inner surface, the monomer-containing solution may be passed through the lumen side of the fibers. Various parameters, e.g., the flow behavior of the monomers during the coating process in hollow fibers, can influence the characteristics of the polymerized coating. For example, the removal of excess monomers from the lumen side of the fibers may affect monomer polymerization on the surface of the support. Thus, in exemplary embodiments, coating characteristics may be affected by the flow behavior and monomer removal. Heat treatment of the coating may also be used to: (i) complete the polymerization process, (ii) remove the organic solvent, and/or (iii) render unreacted monomers insoluble.」
(当審訳:[0059] 界面重合による被覆は、開示された中空糸の内表面でも生ずる。内表面の被覆のために、モノマーを含む溶液が中空糸の内腔側を通過する。中空糸における被覆プロセスの間のモノマーの流動挙動等に関する種々のパラメータが、重合された被覆の特性に影響し得る。例えば、中空糸の内腔側からの過剰モノマーの除去は、基材表面上のモノマー重合に影響を及ぼし得る。したがって、典型的な実施形態では、被覆特性は、流動挙動とモノマー除去とによる影響を受けることとなる。被覆の熱処理が、(1)重合プロセスの完了のため、(2)有機溶媒の除去のため、(3)未反応モノマーの不溶化のため、使用されてもよい。)

2オ. 「[0063] Exemplary membranes and membrane systems of the present disclosure may involve production of leak-proof hollow fiber membrane modules fabricated using microporous polyolefin/polypropylene hollow fibers potted with a general purpose epoxy. Coating by interfacial polymerization on the inner surface of the hollow fibers may utilize monomers 1,6-hexanediamine and sebacoyl chloride. In exemplary embodiments, poly(ethyleneimine) and iso-phthaloyl dichloride may be used in combination with 1,6-hexanediamine and sebacoyl chloride on fibers having an inner diameter larger than about 25 μm.
[0064] Modification of the hydrophilized inner surface of the disclosed polypropylene fibers may occur in a hollow fiber module by passing an aqueous solution including 1,6-hexanediamine through the lumen side thereof. For example, an aqueous solution of 1,6-hexanediamine at a concentration in the range of about 1 to about 2 weight % may be passed through the lumen side at a pressure of about 5 psig (34.5 kPa) for 15 min. Exemplary embodiments may include purging the hollow fiber module to remove the excess aqueous solution from the lumen side. For example, a flow of air at a flow rate of about 3 cm^(3)/s may be maintained for a predetermined period of time. A pressurized aqueous diamine solution may also be introduced on the lumen side of the fibers. In this manner, the diamine solution may replace the water present in the pores of the polypropylene support.
[0065] In further exemplary embodiments of the present disclosure, sebacoyl chloride in a xylene solution at a concentration in the range of about 1 to about 2 weight % may be introduced from the tube side at a very low flow rate for a time period equal to the reaction time (e.g., about 1.5 minutes to about 2.5 minutes).…」
(当審訳:[0063] 本開示の典型的な膜および膜システムには、微多孔ポリオレフィン/ポリプロピレン中空糸が使用され、汎用のエポキシ樹脂で封止されて製作された、漏れ防止中空糸膜の生産物が含まれる。中空糸の内表面上の界面重合による被覆には、モノマーとして1,6-ヘキサンジアミンとセバシン酸クロリドとが使用され得る。典型的な実施形態では、約25μmよりも大きな内径を有する中空糸について、ポリ(エチレンイミン)およびイソフタロイルジクロリドが、1,6-ヘキサンジアミンおよびセバシン酸クロリドとの組み合わせて使用される。
[0064] 本開示のポリプロピレン中空糸の内表面の親水化は、内腔側に1,6-ヘキンサンジアミンの水溶液を通過させた中空糸モジュールにおいて生じる。例えば、約1?2重量%の濃度範囲の1,6-ヘキサンジアミンの水溶液を、15分間、約5重量ポンド毎平方インチ(34.5kPa)の圧力で内腔側を通過させる。典型的な実施形態には、内腔側から過剰な水溶液を除去するために、中空糸モジュールをパージすることが含まれる。例えば、約3cm^(3)/sの流速の空気流が所定の時間維持される。加圧された水溶性ジアミン溶液が中空糸の内腔側に導入されてもよい。この方法では、ジアミン溶液が、ポリプロピレン基材の孔中に存在する水と置換され得る。
[0065] 本開示のさらなる典型的な実施形態においては、約1?2重量%の濃度範囲のセバシン酸クロリドのキシレン溶液が反応時間に等しい時間の間(例えば、約1.5?2.5分間)、非常に低い流速でチューブ側から導入され得る。…)

2カ. 「[0072] Another example of an interfacial polymerization technique for application to a polyolefin/polypropylene membrane according to the present disclosure is described below. In particular, flat polypropylene membranes may be subjected to a “modified interfacial polymerization”procedure wherein different solutions may pass through the pores of the flat membranes during the modification process. An apparatus that includes a glass porous support and a reservoir may be used to support the membrane. The membrane may be clamped between the porous support and the reservoir. Vacuum may be pulled through the porous support to pull the solutions (e.g., monomer solutions/water/chromic acid solutions) through the membrane.」
(当審訳:[0072] 本開示に従った、ポリオレフィン/ポリプロピレン膜に適用した界面重合技術の別の例を以下に述べる。特に、平板状のポリプロピレン膜が、改変プロセスにおいて平板状膜の孔を異なる溶液が通過するという、「改変された界面重合」手順の対象となり得る。ガラス製多孔質基材とリザーバーとを含む装置が膜の支持に使用される。膜は、多孔質基材とリザーバーの間で固定される。溶液(例えばモノマー溶液/水/クロム酸溶液)を膜を介して吸引するために、多孔質基材が真空引きされ得る。)

2キ. 「[0098] Leak-proof hollow fiber membrane modules were fabricated according to the present disclosure using Celgard X-10 and X-20 microporous polypropylene hollow fibers potted with general purpose epoxy C-4. Module specifications are given in Table 1.

[0099] Coating by interfacial polymerization was carried out on the inner surface of polypropylene X-10 hollow fibers with monomers 1,6-hexanediamine and sebacoyl chloride. Next, interfacial polymerization was carried out with (poly(ethyleneimine) and iso-phthaloyl dichloride monomers on X-20 fibers having an inner diameter larger than that of the X-10 fibers. Modification of the hydrophilized inner surface of the polypropylene fibers was carried out in a hollow fiber module by passing an aqueous solution containing 1,6-hexanediamine at a concentration in the range of 1-2 weight % through the lumen side at a pressure of 5 psig (34.5 kPa) for 15 min; then, the excess aqueous solution was removed from the lumen side by purging it gently with air at a flow rate of 3 cm^(3)/s for 1 minute. By pressurizing the aqueous diamine solution in the lumen side of the fibers, water present in the pores of the polypropylene support was replaced with diamine solution. Next, sebacoyl chloride in xylene solution having a concentration in the range of 12 weight % was introduced from the tube side at a very low flow rate for the time period equal to the reaction time (1.5 to 2.5 min) of interfacial polymerization, while the membrane module was held vertical. After the excess organic solution was removed in the same way as the aqueous solution, the coating was heat treated.…」
(当審訳:[0098] 漏れ防止中空糸膜モジュールが、本開示に従って、セルガードX-10およびX-20の微多孔ポリプロピレン中空糸が使用され、汎用のエポキシ樹脂C-4で封止されて作製された。モジュールの詳細が表1に示される。

[0099] モノマーとして1,6-ヘキサンジアミンとセバシン酸クロリドとが使用されて、ポリプロピレンX-10中空糸の内表面上への界面重合による被覆が行われた。次に、X-10中空糸よりも内径の大きなX-20中空糸上での、ポリ(エチレンイミン)とイソフタロイルジクロリドモノマーとの界面重合が行われた。中空糸モジュールにおいて、1?2重量%の濃度範囲の1,6-ヘキサンジアミンの水溶液を15分間、5重量ポンド毎平方インチ(34.5kPa)の圧力で、内腔側を通過させることにより、ポリプロピレン中空糸の内表面の親水化が行われ、次いで、1分間、流速3cm^(3)/sの空気で穏やかにパージすることによって、過剰の水溶液が内腔側から除去された。中空糸の内腔側の水溶性アミン溶液の加圧によって、ポリプロピレン基材の孔中に存在する水がジアミン溶液で置換された。次に、12重量%(当審注:「1?2重量%」の誤記と認める。)の濃度範囲のセバシン酸クロリドのキシレン溶液がチューブ側から、界面重合の反応時間に等しい時間の間(1.5?2.5分間)、非常に低い流速で導入されたところ、その際の膜モジュールは垂直に保持された。過剰の有機溶媒が、水溶液と同じ方法で除去され、被覆が熱処理された。…)

2ク. 上記2ア.によれば、甲第2号証には、基材物質としてポリオレフィン(例えばポリプロピレン、ポリエチレンなど)を使用し、ミクロ分離、限外濾過(以下、「UF」という。)、ナノ濾過(以下、「NF」という。)、低圧逆浸透、タンパク質分離、水処理、有機溶媒でのUFまたはNF、および廃水処理を含む、種々の応用において使用されてよい、膜および膜システムの製造および利用に関する開示がされている。

2ケ. 上記2イ.?2エ.によれば、界面重合は、複合膜製造およびその膜システムに関し、効果的な技術であり、界面重合を使用して製造された膜は、一般に、基材構造とその基材構造上で界面重合された選択層とを含むとされ、中空糸モジュールにおける典型的な親水化および界面重合プロセスは、その中空糸モジュールに接続されたポンプの使用し、モノマーを含む溶液が中空糸の内腔側を通過するが、中空糸における被覆プロセスの間のモノマーの流動挙動等に関する種々のパラメータが、重合された被覆の特性に影響し得、例えば、中空糸の内腔側からの過剰モノマーの除去は、基材表面上のモノマー重合に影響を及ぼし得るとされている。

2コ. 上記2オ.によれば、典型的な膜および膜システムには、微多孔ポリオレフィン/ポリプロピレン中空糸が使用され、汎用のエポキシ樹脂で封止されて製作された、漏れ防止中空糸膜の生産物が含まれ、中空糸の内表面上の界面重合による被覆には、モノマーとして1,6-ヘキサンジアミンとセバシン酸クロリドとが使用され得、ポリプロピレン中空糸の内表面の親水化は、内腔側に1,6-ヘキンサンジアミンの水溶液を通過させた中空糸モジュールにおいて生じ、内腔側から過剰な水溶液を除去するために、例えば、約3cm^(3)/sの流速の空気流が所定の時間維持され、約1?2重量%の濃度範囲のセバシン酸クロリドのキシレン溶液が反応時間に等しい時間の間(例えば、約1.5?2.5分間)、非常に低い流速でチューブ側から導入され得るとされている。

2サ. 上記2カ.によれば、本開示に従った界面重合技術の別の例では、平板状のポリプロピレン膜が、改変プロセスにおいて平板状膜の孔を異なる溶液が通過するという、「改変された界面重合」手順の対象となり得、多孔質基材とリザーバーの間で平板状膜が固定されて、例えばモノマー溶液を平板状膜を介して吸引するために、多孔質基材が真空引きされ得るとされている。

2シ. 上記2キ.によれば、本開示に従って、内径240μm、膜厚25μmのセルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸が30本使用され、汎用のエポキシ樹脂C-4で封止されて、有効モジュール長15cmの漏れ防止中空糸膜モジュールが作製されたとされ、その作製にあたっては、中空糸モジュールにおいて、1?2重量%の濃度範囲の1,6-ヘキサンジアミンの水溶液を15分間、5重量ポンド毎平方インチ(34.5kPa)の圧力で、ポリプロピレン中空糸の内腔側を通過させることにより、ポリプロピレン中空糸の内表面の親水化が行われ、次いで、1分間、流速3cm^(3)/sの空気で穏やかにパージすることによって、過剰の水溶液が内腔側から除去され、次に、そのモジュールが垂直に保持されて、1?2重量%の濃度範囲のセバシン酸クロリドのキシレン溶液がチューブ側から、界面重合の反応時間に等しい時間の間(1.5?2.5分間)、非常に低い流速で導入され、過剰の有機溶媒が、水溶液と同じ方法で除去され、被覆が熱処理されたとされている。

2ス. 上記2ク.?2シ.の検討を踏まえ、セルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸が使用された、漏れ防止中空糸膜モジュールに注目すると、甲第2号証には、次のような発明(以下、「甲2発明1」という。)が記載されていると認められる。
「内径240μm、膜厚25μmのセルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸が30本使用され、汎用のエポキシ樹脂C-4で封止された、有効モジュール長15cmの漏れ防止中空糸膜モジュールにおいて、1?2重量%の濃度範囲の1,6-ヘキサンジアミンの水溶液を15分間、5重量ポンド毎平方インチ(34.5kPa)の圧力で、ポリプロピレン中空糸の内腔側を通過させることにより、ポリプロピレン中空糸の内表面の親水化が行われ、次いで、1分間、流速3cm^(3)/sの空気で穏やかにパージすることによって、過剰の水溶液が内腔側から除去され、次に、そのモジュールが垂直に保持されて、1?2重量%の濃度範囲のセバシン酸クロリドのキシレン溶液がチューブ側から、界面重合の反応時間に等しい時間の間(1.5?2.5分間)、非常に低い流速で導入されて1,6-ヘキサンジアミンとセバシン酸クロリドとの界面重合による被覆が行われ、過剰の有機溶媒が、水溶液と同じ方法で除去され、被覆が熱処理されて作製された、漏れ防止中空糸膜モジュール。」

2セ. また、上記2ク.?2シ.の検討を踏まえ、セルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸が使用された、漏れ防止中空糸膜モジュールの作製方法に注目すると、甲第2号証には、次のような発明(以下、「甲2発明2」という。)が記載されていると認められる。
「内径240μm、膜厚25μmのセルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸が30本使用され、汎用のエポキシ樹脂C-4で封止された、有効モジュール長15cmの漏れ防止中空糸膜モジュールにおいて、1?2重量%の濃度範囲の1,6-ヘキサンジアミンの水溶液を15分間、5重量ポンド毎平方インチ(34.5kPa)の圧力で、ポリプロピレン中空糸の内腔側を通過させることにより、ポリプロピレン中空糸の内表面の親水化が行われ、次いで、1分間、流速3cm^(3)/sの空気で穏やかにパージすることによって、過剰の水溶液が内腔側から除去され、次に、そのモジュールが垂直に保持されて、1?2重量%の濃度範囲のセバシン酸クロリドのキシレン溶液がチューブ側から、界面重合の反応時間に等しい時間の間(1.5?2.5分間)、非常に低い流速で導入されて1,6-ヘキサンジアミンとセバシン酸クロリドとの界面重合による被覆が行われ、過剰の有機溶媒が、水溶液と同じ方法で除去され、被覆が熱処理される、漏れ防止中空糸膜モジュールの作製方法。」


3. 甲第3号証(国際公開第2014/108827号)の記載事項、及
び、甲第3号証に記載された発明

甲第3号証の記載事項は、以下の3ア.?3キ.のとおりである。
また、当審訳にあたって、甲第3号証のパテントファミリーである、特表2016-505374号の記載事項を参照した。
3ア. 「More specifically, the present invention relates to a HF module having polyethersulfone (PES) fibers or fibers of other suitable porous support material, such as polysulfone, polyphenylene sulfone, polyether imide, polyvinylpyrrolidone and polyacrylonitrile including blends and mixtures thereof, which has been modified by forming a thin film composite layer, e.g. through interfacial polymerization. In addition, various doping materials may be used when manufacturing the hollow fiber support materials, cf. e.g. Qian Yang et al. (2009). Such HF modules are commonly used in food and beverage applications such as filtering beer and wine, but also in some water and wastewater applications including wastewater reuse and pool water recycling. For instance, the German company Membrana supplies a hollow fiber module containing several thousands of fibers with an overall surface area of 75 square meters per module. Smaller modules with typically 1 -2 square meters and around 8,000 to 20,000 fibers are commonly used in medical dialysis applications (Fresenius Medical Care, Gambro). In principle, all these commercial products can be coated through interfacial polymerization using the method of the invention resulting in a thin film composite layer wherein aquaporin water channels are incorporated, preferably during its formation, such as by adding a suitable protein suspension or solution, preferably in vesicle form, to the aqueous reactive amine solution, e.g. a meta-phenylene diamine solution, and pumping or injecting the combined solution through the support fibers, removing excess solution and subsequently pumping or injecting a reactive acyl chloride in organic solvent, e.g. trimesoyl chloride in hexane, and finally rinsing with deionized water, e.g. MilliQ^(TM) water. The housing material of the HF modules of the invention can be any suitable material commonly used for HF modules, such as polypropylene, polyethylene, PVDF and stainless steel. The fibers may be sealed into the HF module housing using commonly known epoxy adhesive materials and the like. Additional examples of HF modules that may be TFC modified according to the invention are found on websites of membrane producers, such as:
…」(p.6 26行?p.7 18行)
(当審訳:より具体的には、本発明は、ポリエーテルスルホン(PES)繊維、または他の適切な多孔性支持材料、例えばそのブレンドおよび混合物を含む、ポリスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリエーテルイミド、ポリビニルピロリドンおよびポリアクリロニトリルの繊維を有するHFモジュールであって、例えば界面重合を通じて、薄層複合層を形成することによって修飾されている、前記モジュールに関する。さらに、中空繊維支持材料を製造する際に、多様なドーピング材料を用いてもよい。例えばQian Yangら(2009)を参照されたい。こうしたHFモジュールは、一般的に、食品および飲料適用、例えばビールおよびワインの濾過に用いられるが、廃水再使用およびプールの水のリサイクルを含めて、いくつかの水および廃水適用にも用いられる。例えば、ドイツ企業Membranaは、モジュールあたり75平方メートルの全表面積を持つ、数千の繊維を含有する中空繊維モジュールを供給する。典型的には1?2平方メートルおよび約8,000?20,000繊維を有する、より小さいモジュールが、医学的透析適用に一般的に用いられる(Fresenius Medical Care、Gambro)。原理的には、すべてのこれらの商品は、薄層複合層を生じる本発明の方法を用いて、界面重合を通じてコーティング可能であり、ここで、好ましくはその形成中に、例えば好ましくは小胞型の適切なタンパク質懸濁物または溶液を、水性反応性アミン溶液、例えばメタ-フェニレンジアミン溶液に添加し、そして合わせた溶液を、支持繊維を通じてポンピングまたは注入し、過剰な溶液を取り除き、そして続いて、有機溶媒中の反応性塩化アシル、例えばヘキサン中の塩化トリメソイルをポンピングまたは注入し、そして最後に脱イオン水、例えばMilliQ^(TM)水でリンスすることによって、アクアポリン水チャネルが取り込まれる。本発明のHFモジュールの筐体材料は、HFモジュールに一般的に用いられる任意の適切な材料、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、PVDFおよびステンレススチールであってもよい。一般的に既知のエポキシ接着性物質等を用いて、繊維をHFモジュール筐体内に密封することも可能である。本発明にしたがってTFC修飾されてもよいHFモジュールのさらなる例が、膜製造者のウェブサイト上、例えば:…で見られる。)

3イ. 「The HF module of the invention combines the advantages of having a thin film separation layer together with aquaporin water channels thus providing improved separation as well as water flux through Angstrom sized pores making the HF module suitable for both reverse osmosis, forward osmosis, assisted forward osmosis, nano filtration etc. 」(p.11 15?19行)
(当審訳:本発明のHFモジュールは、薄層分離層を有する利点とアクアポリン水チャネルとを一緒に組み合わせて、こうして、分離の改善、ならびに逆浸透、正浸透両方、補助正浸透、ナノ濾過等に適したHFモジュールを作製するオングストロームサイズの孔を通じた水流束を提供する。)

3ウ. 「Example 1. Preparation of a hollow fiber module wherein the inside surface of the fibres has been functionalised with immobilised AqpZ vesicles
Using a hollow fiber module having polyethersulfone membranes, such as a custom-made module, such as having 9 fibers corresponding to about 10 cm^(2) outside area and 5 cm^(2) inside area, or such as having a membrane area of up to 0.5 m^(2) which may correspond to several hundred fibers depending on module length (Membrana GmbH, Wuppertal, Germany), the module being prepared essentially as described by Sukitpaneenit et al. 2011, a thin film composite layer is prepared on the inside fiber surface through interfacial polymerization involving the following steps:
1) Obtaining 4 mL of AqpZ vesicles as prepared in the example above.
2) Dissolve 250 mg of 1,3-diaminobenzene in 6 mL of MilliQ water to obtain a solution of 4.2% (w/w) concentration.
3) 75 mg of benzene-l,3,5-tricarbonyl chloride is dissolved in 50 mL of hexane to obtain a final concentration of 0.15% (w/v)
4) A 1,3-diaminobenzene/ AqpZ vesicle mixture is prepared by dissolving/mixing 4 mL of the vesicles preparation from step 1 with 6 mL of the solution from step 2.
5) The mixture obtained in step 4 is constantly pumped through the module for 2 minutes using end inlet 1 (or inlet 2), cf. Fig. 1.
6) Excess 1,3-diaminobenzene is removed by a constant air purging of the lumen side of the fibers for 2 minutes using, e.g., inlet 1, cf. Fig. 1, preferably holding the module upside down.
7) A constant flow of the benzene- 1,3, 5 -tricarbonyl chloride solution from step 3 is then injected into the module through inlet 1 for approximately 30s using a syringe pump, e.g.from TSE systems…to allow the interfacial polymerization reaction to take place.
8) Finally, the module is preferably rinsed with MilliQ water, approximately 10 mL are used, by injection through side inlet 3 and 4.
After filling it with water the module is sealed with the white sealing caps (5), cf. fig. 1, to prevent it from drying out (the sealing caps are part of the module and it is delivered with them). 」(p.16 14行?p.17 10行)
(当審訳:実施例1. 繊維の内側表面が、固定されたAqpZ小胞で機能化されている、中空繊維モジュールの調製
ポリエーテルスルホン膜を有する中空繊維モジュール、例えばオーダーメードモジュール、例えば約10cm^(2)の外側面積および5cm^(2)の内側面積に対応する9つの繊維を有するもの、またはモジュールの長さに応じて数百の繊維に対応しうる最大0.5m^(2)の膜面積を有するもの(Membrana GmbH、ドイツ・ヴッパータール)を使用し(当該モジュールは、本質的にSukitpaneenitら、2011に記載されるように調製されている)、薄層複合層を、以下の工程を伴う界面重合を通じて内側繊維表面上に調製する:
1)上記の例で調製されるような4mLのAqpZ小胞を得る。
2)250mgの1,3-ジアミノベンゼンを6mLのMilliQ水に溶解して、4.2%(w/w)濃度の溶液を得る。
3)75mgのベンゼン-1,3,5-トリカルボニルクロリドを50mLのヘキサンに溶解して、0.15%(w/v)の最終濃度を得る。
4)工程1)由来の4mLの小胞調製物を工程2)由来の6mLの溶液に溶解する/該溶液と混合することによって、1,3-ジアミノベンゼン/AqpZ小胞混合物を調製する。
5)末端入口1(または入口2)を用いて、モジュールを通じて、工程4)で得た混合物を2分間一定にポンピングする。図1を参照されたい。
6)例えば入口1(図1参照)を用いて、好ましくはモジュールを逆さまに保持しながら、繊維の管腔側に2分間、一定に空気パージすることによって、過剰な1,3-ジアミノベンゼンを取り除く。
7)次いで、工程3)由来のベンゼン-1,3,5-トリカルボニルクロリド溶液を、シリンジポンプ、例えばTSEシステム…を用いて、入口1を通じてモジュール内におよそ30秒間一定流量で注入して、界面重合反応が起こることを可能にする。
8)最後に、好ましくはモジュールを、側面入口3および4を通じた注入によって、MilliQ水、およそ10mLを用いてリンスする。
水を充填した後、モジュールを白色密封キャップ(5)で密封して(図1参照)、乾燥を防止する(密封キャップはモジュールの一部であり、そしてモジュールとともに送達される。)

3エ. 「Example 2. Preparation of a hollow fiber module wherein the inside surface of the fibres has been functionalised with immobilised AqpZ vesicles
Using the same hollow fiber module as in Example 1 a thin film composite layer is prepared on the inside fiber surface through interfacial polymerization involving the following steps:
1 ) Obtaining 4 mL of AqpZ vesicles as prepared in the example above.
2) Dissolve 250 mg of 1,3-diaminobenzene in 6 mL ofMilliQ water to obtain a solution of 4.2% (w/w) concentration.
3) 75 mg of benzene-l ,3,5-tricarbonyl chloride is dissolved in 50 mL of hexane to obtain a final concentration of 0.15% (w/v)
4) A 1,3-diaminobenzene/ AqpZ vesicle mixture is prepared by dissolving/mixing 4 mL of the vesicles preparation from step 1 with 6 mL of the solution from step 2.
5) The mixture obtained in step 4 is constantly pumped through the module for 2 minutes using end inlet 1 (or inlet 2), cf. Fig. 1.
6) Excess 1,3-diaminobenzene is removed from the module by a constant stream of an organic fluid such as hexane for lmin through inlet 1 using a syringe pump.
7) A constant flow of the benzene-l,3,5-tricarbonyl chloride solution from step 3 is then injected into the module through inlet 1 for approximately 30s using a syringe pump, e.g.from TSE systems… to allow the interfacial polymerization reaction to take place.
8) Finally, the module is preferably rinsed with MilliQ water, approximately 10 mL are used, by injection through side inlet 1 and 3.
After filling it with water the module is sealed with the white sealing caps (5), cf. fig. 1 , to prevent it from drying out (the sealing caps are part of the module and it is delivered with them).
Alternatively, steps 2 and 3 are as described below where all other steps are the same as shown above:
2) Dissolve 1,3-diaminobenzene in MilliQ water to obtain a solution of 4.2% (w/w) concentration.
3) benzene-1 ,3,5-tricarbonyl chloride is dissolved in a solvent such as hexane or isoalkane hydrocarbon solvent to obtain a final concentration of 0.15% (w/v). 」(p.17 18行?p.18 16行)
(当審訳:実施例2. 繊維の内側表面が、固定されたAqpZ小胞で機能化されている中空繊維モジュールの調製
実施例1におけるものと同じ中空繊維モジュールを用いて、薄層複合層を以下の工程を伴う界面重合を通じて内側繊維表面上で調製する:
1)上記の例で調製されるような4mLのAqpZ小胞を得る。
2)250mgの1,3-ジアミノベンゼンを6mLのMilliQ水に溶解して、4.2%(w/w)濃度の溶液を得る。
3)75mgのベンゼン-1,3,5-トリカルボニルクロリドを50mLのヘキサンに溶解して、0.15%(w/v)の最終濃度を得る。
4)工程1)由来の4mLの小胞調製物を工程2)由来の6mLの溶液に溶解する/該溶液と混合することによって、1,3-ジアミノベンゼン/AqpZ小胞混合物を調製する。
5)末端入口1(または入口2)を用いて、モジュールを通じて、工程4)で得た混合物を2分間一定にポンピングする。図1を参照されたい。
6)シリンジポンプを用い、入口1を通じて、ヘキサンなどの有機液体の一定流によって、モジュールから過剰な1,3-ジアミノベンゼンを1分間除去する。
7)次いで、工程3由来のベンゼン-1,3,5-トリカルボニルクロリド溶液を、シリンジポンプ、例えばTSEシステム…を用いて、入口1を通じてモジュール内におよそ30秒間一定流量で注入して、界面重合反応が起こることを可能にする。
8)最後に、好ましくはモジュールを、側面入口1および3を通じた注入によって、MilliQ水、およそ10mLを用いてリンスする。
水を充填した後、モジュールを白色密封キャップ(5)で密封して(図1参照)、乾燥を防止する(密封キャップはモジュールの一部であり、そしてモジュールは密封キャップとともに送達される)。
あるいは、工程2)および3)は以下に記載するとおりであり、この場合、すべての他の工程は上に示すものと同じである:
2)1,3-ジアミノベンゼンをMilliQ水に溶解して、4.2%(w/w)濃度の溶液を得る。
3)ベンゼン-1,3,5-トリカルボニルクロリドを、ヘキサンまたはイソアルカン炭化水素溶媒などの溶媒に溶解して、0.15%(w/v)の最終濃度を得る。)

3オ. 「Example 3. Preparation of a hollow fiber module wherein the inside surface of the fibres has been functionalised with immobilised AqpZ vesicles
Using the same hollow fiber module as in Example 1 a thin film composite layer is prepared on the inside fiber surface through interfacial polymerization involving the following steps and using a syringe pump to push solutions through the module:
1) Obtaining 4 mL of AqpZ vesicles as prepared in the example above.
2) Dissolve 250 mg ofl,3-diaminobenzene in 6 mL ofMilliQ water to obtain a solution of 4.2% (w/w) concentration.
3) 75 mg of benzene-1, 3, 5-tricarbonyl chloride is dissolved in 50 mL of hexane to obtain a final concentration of 0.15% (w/v).
4) A 1,3-diaminobenzene/ AqpZ vesicle mixture is prepared by dissolving/mixing 4 mL of the vesicles preparation from step 1 with 6 mL of the solution from step 2.
5) Add the solution from step 2 through the inside of the fibers while holding the module vertically with inlet down making sure that the air is let out); the solution can preferably be pumped using a flow rate of about 5 mL/min and continue pumping the solution through for 2 min, e. g. such as starting timing immediately after the solution could be seen in upper end of module.
6) Disconnect the module from the syringe pump and turn it around to have excess solution flow out into collection glass.
7) Connect the module upside down to air and slowly start air flow until 10 L/min is reached; let air flow for 2 min.
8) Connect the module to a benzene- 1,3,5-tricarbonyl chloride solution syringe, hold the module in vertical position and start benzene- 1,3,5-tricarbonyl chloride/hexane flow. e.g. while keeping a flow rate of about 15 mL/min.
9) Disconnect module from hexane syringe and turn upside down to get last hexane out; connect to air and purge at about 10 L/min for 5-10 s.
10) Fill module with MilliQ by sucking it in from a glass container.
Alternatively, steps 2 and 3 are as described below where all other steps are the same as shown above:
2) Dissolve 1,3-diaminobenzene in MilliQ water to obtain a solution of 4.2% (w/w) concentration.
3) Benzene- 1 ,3,5-tricarbonyl chloride is dissolved in a solvent such as hexane or isoalkane hydrocarbon solvent to obtain a final concentration of 0.15% (w/v).
Alternatively, in the pHF22 protocol we use a syringe pump to push solutions through the module, such as a MicroPES-TFlO HF module, then after obtaining 4 mL of AqpZ vesicles as prepared in the example above, follow the steps below:
1) Dissolve MPD in MilliQ water and add the AqpZ vesicles to get a 2.5%(W/W) concentration of MPD in water/vesicle solution
2) Dissolve TMC in an organic solvent, such as hexane or an isoalkane hydrocarbon solvent, to a final concentration of 0,15% W/V
3) push MPD solution through the inside of the fibers while holding it vertically with inlet down (while filling the module repeatedly shake it to get the air out); 5 mL/min flow rate
4) continue pushing MPD solution through for 1 min (time starts after MPD solution could be seen in upper end of module) and then let it soak with MPD solution inside for 1 min
5) disconnect module from syringe and turn it around to have excess MPD flow out into collection glass
6) connect the module upside down (meaning end with number on top) to air and slowly start air flow; dry with controlled air stream for 1 to 2 min and turn module in between
7) connect to TMC solution, hold vertical (numbered end on bottom) and start TMC solution flow (flowrate: lO mL/min)
8) let solution run through the fibers for 45 s (after the module is filled, it can be tilted back to horizontal position)
9) disconnect module from syringe and turn upside down to get last TMC solution out; connect to air and purge at 10 L/min for 5-10 s
10) fill module with MiliQ by sucking it in from a glass 」(p.18 18行?p.20 7行)
(当審訳:実施例3. 繊維の内側表面が、固定されたAqpZ小胞で機能化されている中空繊維モジュールの調製
実施例1におけるものと同じ中空繊維モジュールを用いて、以下の工程を伴う界面重合を通じて、そしてモジュールを通じて溶液を押し込むシリンジポンプを用いて、薄層複合層を内側繊維表面上で調製する:
1)上記の例で調製されるような4mLのAqpZ小胞を得る。
2)250mgの1,3-ジアミノベンゼンを6mLのMilliQ水に溶解して、4.2%(w/w)濃度の溶液を得る。
3)75mgのベンゼン-1,3,5-トリカルボニルクロリドを50mLのヘキサンに溶解して、0.15%(w/v)の最終濃度を得る。
4)工程1)由来の4mLの小胞調製物を工程2)由来の6mLの溶液に溶解する/該溶液と混合することによって、1,3-ジアミノベンゼン/AqpZ小胞混合物を調製する。
5)入口を下にして、モジュールを垂直に保持し、空気が出て行くことを確実にしながら、工程2)由来の溶液を、繊維の内側を通じて添加し;溶液は、好ましくは、約5mL/分の流速を用いてポンピングし、そして、例えば溶液がモジュール上端に視認可能となった直後のタイミングで開始して、溶液を2分間ポンピングし続けてもよい。
6)シリンジポンプからモジュールを外し、そして回転させて、過剰な溶液を収集ガラス内に流し出す。
7)モジュールを逆さまにつないで空気を入れ、そして10L/分に到達するまで、ゆっくりと気流を開始し;気流を2分間流す。
8)モジュールを、ベンゼン-1,3,5-トリカルボニルクロリド溶液シリンジにつなぎ、モジュールを垂直に保持して、そして例えば約15mL/分の流速を維持しながら、ベンゼン-1,3,5-トリカルボニルクロリド/ヘキサン流を開始する。
9)ヘキサンシリンジからモジュールを外し、そして逆さまにして残ったヘキサンを外に出す;空気につなぎ、そして約10L/分で5?10秒間パージする。
10)ガラス容器から吸い込むことによって、MilliQをモジュールに充填する。
あるいは、工程2)および3)は以下に記載するとおりであり、この場合、すべての他の工程は上に示すものと同じである:
2)1,3-ジアミノベンゼンをMilliQ水に溶解して、4.2%(w/w)濃度の溶液を得る。
3)ベンゼン-1,3,5-トリカルボニルクロリドを、ヘキサンまたはイソアルカン炭化水素溶媒などの溶媒に溶解して、0.15%(w/v)の最終濃度を得る。
あるいは、pHF22プロトコルにおいて、本発明者らは、モジュール、例えばMicroPES-TF10 HFモジュールを通じて溶液を押し込むシリンジポンプを用い、次いで、上記の例で調製されるような4mLのAqpZ小胞を得た後、以下の工程にしたがう:
1)MPDをMilliQ水に溶解し、そしてAqpZ小胞を添加して、水/小胞溶液中のMPDの2.5%(W/W)濃度を得る。
2)TMCを有機溶媒、例えばヘキサンまたはイソアルカン炭化水素溶媒に、0.15%W/Vの最終濃度に溶解する。
3)入口を下に向けて垂直に保持しながら、繊維の内側を通じて、MPD溶液を押し込む(モジュールを充填しながら、繰り返し振って空気を外に出す);5mL/分の流速
4)MPD溶液を1分間(MPD溶液がモジュール上端に視認可能となってからの時間)押し込み続け、そして次いで、内側をMPD溶液に1分間浸す
5)シリンジからモジュールを外し、そして回転させて、収集ガラス内に過剰なMPD溶液を流し出す。
6)モジュールを逆さまにつないで(数字のある端を上にすることを意味する)空気を通し、そしてゆっくりと気流を開始し;制御された気流で1?2分間乾燥させ、そして合間にモジュールを回転させる。
7)TMC溶液につなぎ、垂直に保持し(数字のある端を底に)、そしてTMC溶液流を開始する(流速:10mL/分)。
8)溶液を繊維に45秒間流す(モジュールを充填した後、水平位置に傾けてもよい)。
9)シリンジからモジュールを外し、そして逆さまに回転させて、残ったTMC溶液を出す;空気につなぎ、そして約10L/分で5?10秒間パージする。
10)ガラスから吸い込むことによって、MilliQをモジュールに充填する。)

3カ. 「Example 4. Preparation of a hollow fiber module wherein the outside surface of the fibres has been functionalised with immobilised AqpZ vesicles
Using a hollow fiber module having polyethersulfone membranes, such as a custom-made module, such as having 9 fibers corresponding to about 10 cm^(2) , or such as having a membrane area of up to 0.5 m^(2) which may correspond to several hundred fibers depending on module length (Membrana GmbH, Wuppertal, Germany), a thin film composite layer being prepared on the outside fiber surface through interfacial polymerization…」 (p.25 13?20行)
(当審訳:実施例4. 繊維の外側表面が、固定されたAqpZ小胞で機能化されている、中空繊維モジュールの調製
ポリエーテルスルホン膜を有する中空繊維モジュール、例えばオーダーメードモジュール、例えば約10cm^(2)に対応する9つの繊維を有するもの、またはモジュールの長さに応じて数百の繊維に対応しうる最大0.5m^(2)の膜面積を有するもの(Membrana GmbH、ドイツ・ヴッパータール)を用いて、薄層複合層を、…界面重合を通じて、外側繊維表面上に調製する。)

3キ. 「 Claims:
1. A hollow fiber (HF) module having fibers modified with a thin film composite (TFC) layer comprising aquaporin water channels.

6. The HF module according to any one of claims 1 to 5, wherein said aquaporin water channels are AqpZ channels ….
7. The HF module according to any one of claims 1 to 6, wherein said TFC layer is formed through interfacial polymerization of an aqueous solution of a di- or triamine with a solution of di- or triacyl halide in an organic solvent, and wherein the aquaporin water channel vesicles are incorporated in said aqueous solution.
8. The HF module according to any one of claims 1 to 7, wherein the hollow fiber support material is a polyethersulfone.
9. The HF module according to any one of claims 1 to 8, wherein the fiber area is from about 0.1 cm^(2) to about 0.5 m^(2).

17. A method of preparing a hollow fiber module comprising HF membranes modified with a thin film composite (TFC) layer comprising aquaporin water channels, said method comprising the steps of:
a) obtaining an aquaporin vesicles suspension (proteoliposomes or proteopolymersomes) having from about 25 to about 500 LPR/POPR of protein,
b) preparing an aqueous solution of a di- or triamine,
c) dissolving a di- or triacyl halide in an apolar organic solvent,
d) preparing a mixture of amine and aquaporin vesicle by dissolving/mixing the vesicles preparation from step a) with the solution from step b),
e) pumping the mixture from step d) through the lumen of the hollow fibers in a hollow fiber module using its end inlet,
f) removing excess aqueous solution by a gas purging of the lumen side of the fibers using a module inlet,
g) injecting the acyl halide solution from step c) into the module through the lumen of the hollow fibers to allow an interfacial polymerization reaction to take place, and
h) rinsing the module with an aqueous solvent by injection through a module inlet.

22. Use of into a hollow fiber (HF) module of any one of claims 1 to 9 for extraction of pure water through forward osmosis.」(p.36 1行?p.39 20行)
(当審訳:【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクアポリン水チャネルを含む薄層複合(TFC)層で修飾された繊維を有する中空繊維(HF)モジュール。

【請求項6】
前記アクアポリン水チャネルがAqpZチャネル…である、請求項1?5のいずれか一項に記載のHFモジュール。
【請求項7】
前記TFC層が、アクアポリン水チャネル小胞が取り込まれた水溶液であって、ジアミンまたはトリアミンの水溶液と有機溶媒中のハロゲン化ジアシルまたはトリアシル溶液との界面重合を通じて形成された、請求項1?6のいずれか一項に記載のHFモジュール。
【請求項8】
中空繊維支持材料がポリエーテルスルホンである、請求項1?7のいずれか一項に記載のHFモジュール。
【請求項9】
繊維面積が約0.1cm^(2)?約0.5m^(2)である、請求項1?8のいずれか一項に記載のHFモジュール。

【請求項17】
アクアポリン水チャネルを含む薄層複合(TFC)層で修飾されたHF膜を含む中空繊維モジュールを調製する方法であって:
a)タンパク質の約25?約500LPR/POPRを有するアクアポリン小胞懸濁物(プロテオリポソームまたはプロテオポリマーソーム)を得て、
b)ジアミンまたはトリアミンの水溶液を調製し、
c)ハロゲン化ジアシルまたはトリアシルを無極性有機溶媒に溶解し、
d)工程a)由来の小胞調製物を工程b)由来の溶液で溶解する/該溶液と混合することによって、アミンおよびアクアポリン小胞の混合物を調製し、
e)工程d)由来の混合物を、末端入口を用いて、中空繊維モジュール中の中空繊維の管腔を通じてポンピングし、
f)モジュール入口を用いて、繊維の管腔側をガスパージすることによって、過剰な水溶液を取り除き、
g)工程c)由来のハロゲン化アシル溶液を、中空繊維の管腔を通じてモジュール内に注入して、界面重合反応が起こることを可能にし、そして
h)モジュール入口を通じた注入によって、水溶液でモジュールをリンスする
工程を含む、前記方法。

【請求項22】
正浸透を通じた純水の抽出のための、請求項1?9のいずれか一項に記載の中空繊維(HF)モジュールの使用。)

3ク. 上記3ア.によれば、甲第3号証には、適切な多孔性支持材料を有するHFモジュールであって、例えば界面重合を通じて、薄層複合層を形成することによって修飾されている、前記モジュールに関するとされ、好ましくは小胞型の適切なタンパク質懸濁物または溶液を、水性反応性アミン溶液に添加し、そして合わせた溶液を、支持繊維を通じてポンピングまたは注入し、過剰な溶液を取り除き、そして続いて、有機溶媒中の反応性塩化アシルをポンピングまたは注入し、そして最後に脱イオン水でリンスすることによって、アクアポリン水チャネルが取り込まれるという発明の開示が行われている。

3ケ. 上記3イ.によれば、甲第3号証には、分離の改善、ならびに逆浸透、正浸透両方、補助正浸透、ナノ濾過等に適したHFモジュールを作製するオングストロームサイズの孔を通じた水流束を提供するという発明の開示が行われている。

3コ. 上記3キ.によれば、甲第3号証には、繊維面積が約0.1cm^(2)?約0.5m^(2)のポリエーテルスルホンである中空繊維支持材料が、AqpZチャネルであるアクアポリン水チャネル小胞が取り込まれた水溶液である、ジアミンまたはトリアミンの水溶液と有機溶媒中のハロゲン化ジアシルまたはトリアシル溶液との界面重合を通じて形成された、薄層複合(TFC)層で修飾された、正浸透を通じた純水の抽出のための中空繊維モジュールが記載されていると認められる。

3サ. また、上記3キ.によれば、甲第3号証には、アクアポリン水チャネルを含む薄層複合(TFC)層で修飾されたHF膜を含む中空繊維モジュールを調製する方法であって、アクアポリン小胞懸濁物とジアミンまたはトリアミンの水溶液との混合物が調整され、中空繊維モジュール中の中空繊維の管腔を通じて、前記混合物がポンピングされ、前記モジュールの入口を用いた前記中空繊維の管腔側のガスパージによって、過剰な水溶液が取り除かれ、有機溶媒中のハロゲン化ジアシルまたはトリアシル溶液を、前記中空繊維の管腔を通じてモジュール内に注入して、界面重合反応が起こることを可能にし、そして、前記モジュール入口を通じた注入によって、前記モジュールをリンスする工程を含む、前記方法も記載されていると認められる。

3シ. 上記3ウ.?3オ.によれば、上記3コ.の中空繊維モジュールにおける繊維面積が約0.1cm^(2)?約0.5m^(2)のポリエーテルスルホンである中空繊維支持材料として、約10cm^(2)の外側面積および5cm^(2)の内側面積に対応する9つの繊維を有するもの、またはモジュールの長さに応じて数百の繊維で対応する最大0.5m^(2)の膜面積を有するものを使用した、上記3コ.の中空繊維モジュールのうち、繊維の内側表面が固定されたAqpZ小胞で機能化されている中空繊維モジュール、および、上記3コ.の中空繊維モジュールを調製する方法が実施例1?3として記載されていると認められる。

3ス. 上記3ク.?3シ.の検討を踏まえ、上記3コ.の中空繊維モジュールのうち、繊維の内側表面が固定されたAqpZ小胞で機能化されている中空繊維モジュールに注目すると、甲第3号証には、次のような発明(以下、「甲3発明1」という。)が記載されていると認められる。
「繊維面積が約0.1cm^(2)?約0.5m^(2)のポリエーテルスルホンである中空繊維支持材料として、約10cm^(2)の外側面積および5cm^(2)の内側面積に対応する9つの繊維を有するもの、またはモジュールの長さに応じて数百の繊維で対応する最大0.5m^(2)の膜面積を有するものを使用し、その中空繊維支持材料の内側表面が、AqpZ小胞であるアクアポリン水チャネル小胞が取り込まれた水溶液である、ジアミンまたはトリアミンの水溶液と有機溶媒中のハロゲン化ジアシルまたはトリアシル溶液との界面重合を通じて形成された、薄層複合層で修飾された、正浸透を通じた純水の抽出のための中空繊維モジュール。」

3セ. また、上記3ク.?3ス.の検討を踏まえ、上記3サ.の中空繊維モジュールを調製する方法のうち、繊維の内側表面が固定されたAqpZ小胞で機能化されている、甲3発明1の中空繊維モジュールを調製する方法に注目すると、甲第3号証には、次のような発明(以下、「甲3発明2」という。)が記載されていると認められる。
「AqpZ小胞であるアクアポリン水チャネル小胞が混合されたジアミンまたはトリアミンの水溶液との混合物が調整され、中空繊維モジュール中の繊維面積が約0.1cm^(2)?約0.5m^(2)のポリエーテルスルホンである中空繊維支持材料として、約10cm^(2)の外側面積および5cm^(2)の内側面積に対応する9つの繊維を有するもの、またはモジュールの長さに応じて数百の繊維で対応する最大0.5m^(2)の膜面積を有するものを使用し、そのの中空繊維の管腔を通じて、前記混合物がポンピングされ、前記モジュールの入口を用いた前記中空繊維の管腔側のガスパージによって、過剰な水溶液が取り除かれ、有機溶媒中のハロゲン化ジアシルまたはトリアシル溶液を、前記中空繊維の管腔を通じてモジュール内に注入して、界面重合反応が起こることを可能にし、そして、前記モジュール入口を通じた注入によって、前記モジュールをリンスする工程を含む、正浸透を通じた純水の抽出のための中空繊維モジュールを調製する方法。」


4. 甲第4号証(Chemical Engineering Science80(2012)p.219-231)の記載事項

甲第4号証の記載事項は、以下の4ア.?4オ.のとおりである。
4ア. 「In this study, PA flat sheet TFC-FO membranes were prepared by interfacial polymerization reaction using trimesoyl chloride(TMC) and m-phenylenediamine(MPD) as the monomers. Prior to the reaction, polysulfone(PSf) membrane substrates were surface functionalized by polydopamine(PDA) for different periods of time. The 3-layer structure of TFC-FO membranes comprising the PDA modified PSf substrate is illustrated in Fig.1.」(p.221左欄 6?12行)
(当審訳:本研究では、PA平板TFC-FO膜が、モノマーとして塩化トリメソイル(TMC)とm-フェニレンジアミン(MPD)とを用いた界面重合反応によって準備された。その反応の前に、ポリスルフォン(PSf)膜基材に対し、ポリドーパミン(PDA)による異なる期間の表面修飾が施された。PDA修飾されたPSf基材を含むTFC-FO膜の3層構造が図1に説明されている。)

4イ. 「

」(p.221上段)
(当審訳:図1 PDA修飾されたPSf基材上での界面重合反応によるポリアミド(PA)平板TFC-FO膜の準備手順)

4ウ. 「2.5.6. FO performance of TFC-FO membrances
FO performance of the fabricated TFC membranes was evaluated via a lab-scale cross-flow filtration unit, and the details can be found elsewhere(Zhang et al.,2010).」(p.222右欄 24?27行)
(当審訳:2.5.6 TFC-FO膜のFO性能
作製されたTFC膜のFO性能が、実験室スケールのクロスフロー濾過ユニットで評価された。そのユニットの詳細は、他の文献(Zhang et al.,2010)で確認できる。)

4エ. 「3.3. Characteristics of the TFC-FO membranes
Fig.8 displays the evolution of top surface and cross-section morphology with PDA coating duration under the same interfacial polymerization conditions. A thin active PA layer characterized by a typical “ridge-and-valley” morphology is observed for all TFC-FO membranes. This thin PA layer is the functional selective layer whose neture primarily determines the water permeability and salt rejection of the resulting TFC-FO membrane. As shown in Fig.8, the thickness of the PA layer varies with different membrane substrates. The PA selective layers formed on all PDA@PSf substrates are thinner than that formed on the pristine PSf substrate.…」(p.226右欄 5?16行)
(当審訳:3.3 TFC-FO膜の特徴
図8には、同じ界面重合状態での、PDA被覆期間の違いに伴う、最表面と断面とでの形態の相違が表示されている。典型的な「尾根と谷間」の形態によって特徴付けられる薄い活性PA層が、全てのTFC-FO膜で観察される。この薄いPA層は、結果物であるTFC-FO膜の主な性質である、透水性と塩の不透過性とを決定づける、機能的な選択膜である。PDA修飾されたPSf基材上に形成された全てのPA選択膜は、単なるPSf基材上に形成されたPA選択膜よりも薄い。…

4オ. 「

」(p.227上段)
(図8 PSf基材膜上およびPDA修飾されたPSf基材膜上に形成されたTFC-FO膜のFESEM画像)

5. 甲第5号証(国際公開第2012/112123号)の記載事項

甲第5号証の記載事項は、以下の5ア.?5エ.のとおりである。
5ア. 「Example 2: Fabricating a thin-film composite forward osmosis membrane on the hydrophilic PES/SPSf substrate
A polyamide thin-film composite forward osmosis membrane was fabricated by firstly immersing the fabricated PES/SPSf membrane substrate in an aqueous 2.0 % w/v p-phenylenediamine (PPDA) solution for 120 s. Only one side of the membrane substrate was in contact with the PPDA solution. After removal from the solution, excess PPDA drops were removed from the support surface with tissue paper followed by blowing with air. Thereafter, 0.15 % w/v 1 ,3,5-benzenetricarbonyl trichloride or trimesoylchloride (TMC) dissolved in heptane was poured on the surface of the PPDA soaked membrane substrate for 30 s, leading to the formation of an ultra-thin, salt selective, crosslinked polyamide film over the substrate. The resultant membrane was washed with ethanol to remove organic solvent residue and then dried in air at 25 ℃ for 30 min. Subsequent to that, the resultant membrane was thoroughly washed with deionised water to remove residual PPDA and then stored in deionised water for further characterization. There was no thermal curing of the resultant composite membrane in order to prevent the membrane from dehydration which can result in air bubbles being trapped inside the membrane support layer.
Images of the thin-film composite forward osmosis membrane taken with a scanning electron microscope are shown in FIGS. 4A, 4B, 4C and 4D. The morphology of the thin-film composite forward osmosis membrane can be seen from FIGS. 4A, 4B, 4C and 4D.
Referring now to FIGS. 4A and 4B, a scanning electron microscope image of a cross-section of the thin-film composite forward osmosis membrane is shown in FIG. 4A and a further enlarged, cross-section near a top layer of the thin-film composite forward osmosis membrane is shown in FIG. 4B. As can be seen from FIG. 4B, after the interfacial polymerization reaction on the top surface of the membrane substrate, a thin active polyamide layer having an average thickness of 150 nm is formed with a ridge-and-valley morphology.」(p.12 19行?p.13 19行)
(当審訳:実施例2 親水性PES/SPSf基材上への薄層複合正浸透膜の作製
ポリアミドの薄層複合正浸透膜が、作製済みのPES/SPSf膜基材をp-フェニレンジアミン(PPDA)の2.0%w/v水溶液中に120分間浸漬することによって作製された。その膜基材の片側だけがPPDA溶液に接触させられた。その溶液の除去後に、その基材表面から過剰のPPDAがテッシュペーパーで拭き取られ、次いで、空気が吹き付けられた。その後、1,3,5-ベンゼントリカルボニルクロリドまたはトリメシン酸クロリドの0.15%w/vヘプタン溶液が、PPDAに浸された膜基材表面に30秒間注がれて、極薄で、塩選択性の、架橋ポリアミド層がその基材上に形成された。得られた膜は、残留する有機溶媒除去のために、エタノールで洗浄されてから、25℃の空気中で30分間乾燥された。続いて、その得られた膜は、残留するPPDA除去のために、脱イオン水で十分に洗浄され、さらなる特徴付けのために、脱イオン水中に格納された。その得られた複合膜について、その膜基材層の内部に気泡が閉じ込められる結果を生じ得る、膜の脱水を防止するため、熱硬化処理は行われなかった。
走査型電子顕微鏡で得られた、薄層複合正浸透膜の画像が、図4A,4B,4Cおよび4Dに示されている。薄層複合正浸透膜の形態を、図4A,4B,4Cおよび4Dから見ることができる。
図4および4Bを参照すると、薄層複合正浸透膜断面の走査型電子顕微鏡画像が図4Aに示されており、さらに拡大された、薄層複合正浸透膜の最上層近くの断面が図4Bに示されている。図4Bから見られるように、膜基材の最表面上には界面重合反応後に、平均厚さ150nmの薄い活性ポリアミド層が、尾根と谷間の形態で形成されている。)

5イ. 「Example 3: Water and salt transport through the thin film composite membrane
Referring now to FIG. 5, a schematic block diagram of a forward osmosis setup 100 employing the thin-film composite membrane 102 of FIG. 4A is shown. The forward osmosis setup 100 includes a crossflow cell 104 of a plate and frame design with a rectangular cell channel 106 and 108 on each side of the membrane 102. A feed solution 110 is circulated via a first pump 112 through a first cell channel 106 and a draw solution 114 is circulated via a second pump 116 through a second cell channel 108. Flow meters 118, temperature indicators 120 and pressure indicators 122 are provided to measure the flows and temperatures of the feed and draw solutions 110 and 114 and the pressures at the two channel inlets. A computing device 124 is provided for data acquisition. 」(p.13 27行?p.14 10行)
(当審訳:実施例3 薄層複合膜を介した水と塩の輸送
図5には、図4Aの薄層複合膜102を使用した正浸透装置100の概略ブロック図が示されている。正浸透装置100は、膜102の各々の側に板と枠とで設計された矩形セル流路106と108でなるクロスフローセル104を含んでいる。供給溶液110は第1ポンプ112を介して第1セル流路106を循環し、駆動溶液114は第2ポンプ116を介して第2セル流路108を循環する。流量計118、温度計120および圧力計122が、供給溶液110と駆動溶液114の流路入口での流量と温度と圧力とを測定するために設けられている。コンピュータ装置124がデータ収集のために設けられている。)

5ウ. 「



5エ. 「




6. 甲第6号証(特表平8-511991号公報)の記載事項、及び、
甲第6号証に記載された発明

甲第6号証の記載事項は、以下の6ア.?6オ.のとおりである。
6ア. 「 膜は、例えば分離工程で選択バリヤーとして使用され、特定の化学種すなわち透過体を通過させ、一方、他の化学種すなわち保持体を保持する。膜は多くの用途に使用され,例えば無機半導体類、バイオセンサ類、ヘパリン処理表面類、クラウンエーテルなどの担体を利用する輸送力促進膜類(facilitated transport membrane)、膜結合抗原を含む標的薬物送達システム類、触媒含有膜類、処理表面類、高分割能クロマトグラフィー用充填材料類、狭帯域オプティカルアブソーバー類などとして、および例えば透析、電気分解、精密濾過、限界濾過、逆浸透などの、溶質もしくは汚染物の除去を行う各種の水処理に利用される。」(p.7 6?13行)

6イ. 「 界面重合を利用して薄いフィルム複合体の膜が製造されている。界面重合は、二種の混和しない相の間の界面で二種以上のモノマーを反応させて非常に薄いフィルムを製造できる方法である。界面重合を例を用いて最も適切に説明する。“ナイロン類”は、ポリアミドと呼ばれるポリマーのクラスに属している。このポリアミドは例えば、アジポイルクロリドのうよな二酸クロリドを、ヘキサメチレンジアミンのようなジアミンと反応させて製造される。その反応は溶液中で行いポリマーを樹脂の形態で製造することができる。あるいはその反応は、ジアミンを水に溶解し、その水相の上面に、二酸クロリドのヘキサン溶液を浮かせることによって、界面で実施することができる。ジアミンはこれら二種の混和しない溶剤の間の界面で二酸クロリドと反応して、両反応物に対してむしろ不透過性のポリアミドフィルムを界面で生成する。したがって、ポリアミドフィルムが一旦生成すると、その反応は著しく遅くなり、そのためフィルムは非常に薄いまゝである。実際には、このフィルムを機械的手段で界面から取り出すと、これらの反応物は互いに反応性が非常に高いので、新しいフィルムがほとんど直ちに界面に生成する。」(p.8 14行?末行)

6ウ. 「 支持台上に極めて薄いフィルムを製造するのに界面重合を利用することは公知である。その重合は、一方のモノマーを溶剤に溶解し、次にその溶液を使って基材を飽和することによって行うことができる。次に、上記第一溶液で飽和された基材の外表面を、第二のモノマーを含有する、第一溶液とは混和しない第二溶液に暴露する。ポリマーの極めて薄いフィルムが、基材の外表面上でこれら2種の溶液の界面に生成する。」(p.9 18?23行)

6エ. 「 基材は多種類の形態であってもよい。例としては、繊維、中空繊維、フィルム、ビーズ、織布、不織布、紡績糸およびマイクロカプセルがある。」(p.10 末行?p.11 1行)

6オ. 「 基材は、第一反応物の溶液と接触させる前に、第一反応物に用いられる溶剤と混和する溶剤で濡らして基材が第一反応物を取り込むのを助けると便利である。例えば、第一反応物としてジアミンの水溶液を疎水性多孔質基材に対して用いる方法では、基材は、ジアミン溶液と接触させる前にメタノールで濡らしてもよい。基材の反応物取り込みを助ける他の方法は減圧を用いる方法である。例えば、基材が平坦な場合、反応物の溶液をその平坦基材の一方の面に塗布し次に他方の面で圧力を下げて反応物溶液を基材中に引き込む。
ジアミンは連鎖が短い場合、高い表面エネルギーをもっているので、基材上に析出するとき平坦に広がらずに、内部細孔の表面上に球体またはビーズを形成する。スルホニルクロリドと反応させると未反応のアミンを包むポリマー被膜を形成し、このアミンはその後に洗い流される。この場合、生成するポリマー被膜は極めて粗い凹凸のあるコーティングである。」(p.24 12?24行)

6カ. 上記6ア.によれば、甲第6号証には、例えば分離工程で選択バリヤーとして使用され、特定の化学種を通過させ、一方、他の化学種を保持する膜に関する記載がされていると認められる。

6キ. 上記6イ.によれば、二種の混和しない相の間の界面で二種以上のモノマーを反応させて非常に薄いフィルムを製造できる方法である、界面重合を利用して薄いフィルム複合体の膜が製造されており、例えば、ジアミンを水に溶解し、その水相の上面に、二酸クロリドのヘキサン溶液を浮かせることによって、界面で実施でき、両反応物に対して不透過性のポリアミドフィルムが界面で生成され、そのポリアミドフィルムが一旦生成すると、その反応は著しく遅くなるため、そのフィルムは非常に薄いまゝであるとされている。

6ク. 上記6ウ.によれば、支持台上に極めて薄いフィルムを製造するのに界面重合を利用することは公知であり、その重合は、一方のモノマーを溶剤に溶解した第一溶液を使って基材を飽和し、次に、上記第一溶液で飽和された基材の外表面を、第二のモノマーを含有する、第一溶液とは混和しない第二溶液に暴露すると、ポリマーの極めて薄いフィルムが、基材の外表面上でこれら2種の溶液の界面に生成するとされている。

6ケ. 上記6エ.?6オ.によれば、基材は多種類の形態であってもよく、例としては、繊維、中空繊維、フィルム、ビーズ、織布、不織布、紡績糸およびマイクロカプセルがあり、減圧を用いて、その基材が第一反応物を取り込むのを助けると便利であり、例えば、基材が平坦な場合、反応物の溶液をその平坦基材の一方の面に塗布し次に他方の面で圧力を下げて反応物溶液を基材中に引き込んで、その基材が第一反応物を取り込むのを助けると便利であり、また、ジアミンは連鎖が短い場合、高い表面エネルギーをもっているので、基材上に析出するとき平坦に広がらずに、内部細孔の表面上に球体またはビーズを形成するので、この場合、生成するポリマー被膜は極めて粗い凹凸のあるコーティングであるとされている。

6コ. 上記6カ.?6ケ.の検討を踏まえると、甲第6号証には、次のような発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
「平坦基材の一方の面に連鎖が短いジアミンの水溶液を塗布し次に他方の面で圧力を下げてその水溶液をその基材中に引き込み、次に、その平坦基材の一方の面を、二酸クロリドのヘキサン溶液に暴露して、極めて粗い凹凸のあるフィルムを生成する、フィルム複合体膜の製造方法。」


7. 甲第7号証(国際公開第2014/092107号)の記載事項

甲第7号証の記載事項は、以下の7ア.のとおりである。
7ア. 「[0076] 多孔性支持膜の表面に、前記のコーティング溶液を塗布する方法は、特に限定されず公知の手段が用いられる。例えば、平膜の場合には、簡便には手作業で多孔性支持膜の表面に、はけ塗りにより、コーティング液が塗布される方法が好ましい。より工業的な方法としては、連続搬送された多孔製支持膜の表面にスライドビードコーターにより、コーティング溶液が塗布される方法が好ましく用いられる。また、中空糸膜の場合には、連続搬送された中空糸膜を、コーティング溶液が満たされた浴に浸漬した後、引き上げられて、中空糸膜の外表面に塗布が行われるディップコート法が好ましく用いられる。あるいは、中空糸膜を束にしたモジュールの断面から、中空糸膜内へ、コーティング溶液を挿入した後、気体でコーティング溶液を押出すか、あるいはモジュールの片面側から、真空で引き抜くことにより、中空糸膜の内表面に塗布を行う方法も好ましく用いられる。」


第5 当審の判断
1. 申立理由1について
上記第3の1.に示した、本件特許発明1?8は甲第1号証に記載された発明と差異がない旨の申立理由1につき、以下に検討する。
(1) 本件特許発明1と甲1発明との対比
まず、本件特許発明1と上記第4の1タ.に示した甲1発明とを対比するに、甲1発明における「多孔性中空糸基材の内表面」、「架橋された芳香族ポリアミドでなる約600nmの厚さの表面層」、「薄型複合正浸透中空糸」、「薄型複合正浸透中空糸10本」、「実験室スケールの正浸透モジュール」は、それぞれ、本件特許発明1における「微細孔性中空糸支持膜の内表面」、「高分子重合体薄膜の分離活性層」、「中空糸」、「複数の中空糸で構成される中空糸糸束」、「正浸透複合中空糸膜モジュール」に相当する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。

<一致点>
「複数の中空糸で構成される中空糸糸束を有する正浸透複合中空糸膜モジュールであって、前記中空糸が、微細孔性中空糸支持膜の内表面に高分子重合体薄膜の分離活性層を設けた中空糸であ」る「前記モジュール」の点。

<相違点>
相違点1-1: 中空糸糸束の膜面積が、本件特許発明1は「1m^(2)以上であ」るのに対し、甲1発明は、1m^(2)以上であるのか明らかではない点。

相違点1-2: 本件特許発明1は、「前記分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像における分離活性層部分の質量を測定する方法により算出された、前記中空糸糸束の半径方向および長さ方向における分離活性層の平均厚みの変動係数が0?60%であり、かつ、前記分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像において、該分離活性層と中空糸支持膜との界面の長さL1、および該分離活性層表面の長さL2の比L2/L1が、1.1以上5.0以下である」との発明特定事項を備えているのに対し、
甲1発明は、そのような発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

(2) 上記相違点1-1と上記相違点1-2についての検討
ア. そこで、上記相違点1-1と上記相違点1-2につき検討するに、本件特許の特許請求の範囲の記載からでは、「中空糸糸束の膜面積」の定義、「前記分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像における分離活性層部分の質量を測定する方法」による「前記中空糸糸束の半径方向および長さ方向における分離活性層の平均厚みの変動係数」の算出の仕方、及び、「前記分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像において、該分離活性層と中空糸支持膜との界面の長さL1、および該分離活性層表面の長さL2の比L2/L1」の算出の仕方といった技術事項が、いずれも、明らかではないことから、特許法第70条第2項の規定に基づき、本件特許の明細書の記載を参照することとする。
本件特許の明細書には、それらの技術事項に関し、次の記載がある。
(ア-1) 「…膜面積とは、モジュール内の接着部を除く中空糸の長さ、内径、および本数から、下記数式(3)によって定義される値である。ここでaは膜面積(m^(2))、bは接着部を除いた中空糸の長さ(m)、cは中空糸の内径(m)、nは中空糸の本数である。
a=c×π×b×n ・・・(3)
モジュールの膜面積は、実用に供する観点から、1m^(2)以上である…」(【0026】)
(ア-2) 「本発明では複合中空糸膜モジュール内の中空糸のモジュール内各箇所における分離活性層の平均厚みのばらつきを変動係数で表す。変動係数とは各測定箇所の値の標準偏差を平均値で除した値であり、百分率(%)で示される。各測定箇所はモジュールの半径方向の外周部、中間部および中心部の3か所についてそれぞれモジュールの各両端と中央部を取った計9か所それぞれにつき、n数1以上(各箇所のn数は同一にする)である。
各測定箇所における厚みは、長さ5?100μm程度の測定範囲における平均厚みとして表される。」(【0047】)
(ア-3) 「…
本発明において、分離活性層の厚みは、分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像における分離活性層部分の質量を測定する方法によって算出される。具体的には、中空糸断面の走査型電子顕微鏡の画像を印刷し、分離活性層に相当する部分を切り出してその質量を測定し、予め作成しておいた検量線を用いて面積を算出する手法により、平均厚みを算出する。」(【0048】)
(ア-4) 「本実施形態の複合中空糸膜モジュールにおける分離活性層は、その表面に多数の微細な凹凸を有する。この分離活性層表面の凹凸の程度は、該分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像において、分離活性層と中空糸支持膜との界面の長さL1、および該分離活性層表面の長さL2の比L2/L1によって見積もることができる。」(【0049】)
(ア-5) 「 以下、図6(a)を参照しつつ、比L2/L1の評価方法について説明する。図6は、後述の実施例1で得られた複合中空糸膜モジュールにおける中空糸の断面を、走査型電子顕微鏡によって撮影した画像である。図6(a)は、該モジュールの外周上部からサンプリングした中空糸の断面像において、分離活性層に相当する部分を強調して描画した図である。
…この画像において、分離活性層と中空糸支持膜との界面の画像左端から右端までの長さをL1とし、分離活性層表面の画像左端から右端までの長さをL2として、それぞれ測定し、両者の比L2/L1を算出してこれを分離活性層表面凹凸の指標とする。
比L2/L1の算出には、5,000倍以上30,000倍以下の範囲で、分離活性層の厚さ方向の全部が一枚の画像に収まる倍率とし、そして、界面の長さL1の値と、分離活性層の平均厚みとの比が1.5以上100以下となるように設定された走査型電子顕微鏡画像を使用する。そして評価は、モジュールの半径方向の外周部、中間部、および中心部の3か所について、それぞれモジュールの各両端部および中央部から採取した計9個のサンプルについて撮影した走査型電子顕微鏡画像を用いてそれぞれ算出した値の平均値として、比L2/L1を求める。L2の長さは、L1に対応する範囲の支持膜上に形成された分離活性層について測定される。」(【0050】?【0051】)

イ. 上記(ア-1)に示した本件特許の明細書の記載によれば、「中空糸糸束の膜面積」は、「中空糸の内径(m)」×π×「接着部を除いた中空糸の長さ(m)」×「中空糸の本数」によって算出されることが定義されているところ、甲1発明における「薄型複合正浸透中空糸の内径(m)」、「薄型複合正浸透中空糸の有効長(m)」、「薄型複合正浸透中空糸の本数」が、それぞれ、「中空糸の内径(m)」、「接着部を除いた中空糸の長さ(m)」、「中空糸の本数」に相当することから、甲1発明における「中空糸糸束の膜面積」は、「薄型複合正浸透中空糸の内径(m)」×π×「薄型複合正浸透中空糸の有効長(m)」×「薄型複合正浸透中空糸の本数」によって算出されることが明らかとなる。
ここで、甲1発明においては、「薄型複合正浸透中空糸の有効長」は25cm、「薄型複合正浸透中空糸の本数」は10本と、それぞれ特定されている。
また、甲1発明において、薄型複合正浸透中空糸は、多孔性中空糸基材の内表面に架橋された芳香族ポリアミドでなる表面層を備えていることから、「薄型複合正浸透中空糸の内径」は、多孔性中空糸基材の内径とその基材の内表面の表面層の厚さとから求まるが、その表面層についての約600nmという厚さが、10本の薄型複合正浸透中空糸の全長にわたる厚さの平均値でなければ、甲1発明における「薄型複合正浸透中空糸の内径」を正確に算出することができず、ひいては、甲1発明における「膜面積」を正確に算出ができないところ、甲第1号証全体の記載を参照しても、その表面層についての約600nmという厚さが、10本の薄型複合正浸透中空糸の全長にわたる厚さの平均値であると認定できるまでの記載は見当たらない。
そこで、仮に、「薄型複合正浸透中空糸の内径」は、960μmまたは1000μmという多孔性中空糸基材の内径で近似できるとして、甲1発明における「中空糸糸束の膜面積」を試算してみるに、960×10^(-6)×π×0.25×10=7.54×10^(-3)m^(2)または1000×10^(-6)×π×0.25×10=7.85×10^(-3)m^(2)と求まり、また、多孔性中空糸基材の内表面に表面層を備えている甲1発明についての正確な「薄型複合正浸透中空糸の内径」は、その表面層の厚さがある分だけ、小さくなるため、甲1発明における正確な「中空糸糸束の膜面積」は、当然に、7.54×10^(-3)m^(2)または7.85×10^(-3)m^(2)よりも狭く、したがって、1m^(2)以上ではないことが明らかである。
してみると、上記相違点1-1は、本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明との、実質的な相違点である。

ウ. 次に、上記(ア-2)?(ア-3)に示した本件特許の明細書の記載によれば、上記相違点1-2に関する、「前記分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像における分離活性層部分の質量を測定する方法」による「前記中空糸糸束の半径方向および長さ方向における分離活性層の平均厚みの変動係数」の算出は、複合中空糸膜モジュール内の中空糸のモジュール内各箇所における分離活性層の平均厚みのばらつきを表す変動係数を得るために、モジュールの半径方向の外周部、中間部、および中心部の3か所について、それぞれモジュールの各両端部および中央部から採取した計9個のサンプルにつき、分離活性層の厚み方向の断面を長さ5?100μm程度の測定範囲で撮影した走査型電子顕微鏡画像を用いて、それらの走査型電子顕微鏡画像における分離活性層部分の質量を測定する方法によって行われることが定義されている。
また、上記(ア-4)?(ア-5)に示した本件特許の明細書の記載によれば、上記相違点1-2に関する、「前記分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像において、該分離活性層と中空糸支持膜との界面の長さL1、および該分離活性層表面の長さL2の比L2/L1」の算出は、分離活性層表面凹凸の指標を得るため、5,000倍以上30,000倍以下の範囲で、分離活性層の厚さ方向の全部が一枚の画像に収まる倍率とし、そして、界面の長さL1の値と、分離活性層の平均厚みとの比が1.5以上100以下となるように設定された走査型電子顕微鏡画像であって、モジュールの半径方向の外周部、中間部、および中心部の3か所について、それぞれモジュールの各両端部および中央部から採取した計9個のサンプルについて撮影した走査型電子顕微鏡画像を用いて行われることが定義されている。
そして、これらの定義にしたがって、実施例1?5および比較例1で得られたいずれのモジュールについても、本件特許の明細書【0057】?【0070】に記載されているとおり、各々のモジュールの半径方向の外周部、中間部、および中心部の3か所について、それぞれモジュールの各両端部および中央部から採取した計9個のサンプルにつき、分離活性層の厚み方向の断面を所定の測定範囲で撮影した計9枚の走査型電子顕微鏡画像に基づいて、上記相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えているか否かを判断しており、実施例1?5で得られたモジュールは上記相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えているのに対し、比較例1で得られたモジュールは上記相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えていないとされている。

エ. 上記ウ.に示した、各々のモジュールの半径方向の外周部、中間部、および中心部の3か所について、それぞれモジュールの各両端部および中央部から採取した計9個のサンプルにつき、分離活性層の厚み方向の断面を所定の測定範囲で撮影した計9枚の走査型電子顕微鏡画像は、上記(ア-2)?(ア-5)に示した本件特許の明細書の記載によれば、複合中空糸膜モジュール内の中空糸のモジュール内各箇所における分離活性層の平均厚みのばらつきを表す変動係数と分離活性層表面凹凸の指標とを得るために揃えられるべき画像であるから、各々のモジュールについて、前記した計9枚の走査型電子顕微鏡画像が揃えられていない場合には、上記相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えているか否かについての判断ができるだけの技術事項が客観的かつ具体的に示されていないと認めることとなる。
すなわち、例えば、あるモジュールについて、前記した計9枚の走査型電子顕微鏡画像のうちの何枚かが示されていたとしても、上記第2の2.で検討した、特願2014-168776号の願書に最初に添付した明細書等に記載された発明のように、前記した計9枚の走査型電子顕微鏡画像を用いた、分離活性層と中空糸支持膜との界面の長さL1、および該分離活性層表面の長さL2の比L2/L1の評価を行えない場合には、上記相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えているか否かについての判断を客観的かつ具体的に行えるとはいえないことから、このような認定を行うこととなる。
そうすると、例えば、あるモジュールについて、1箇所の分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像があるだけの場合にも、そのモジュール内の中空糸のモジュール内各箇所における分離活性層の平均厚みのばらつきを表す変動係数と分離活性層表面凹凸の指標とを、いずれも、客観的かつ具体的に評価することができないことからして、このような認定を行うこととなる。

オ. ここで、甲1発明のモジュールに関し、甲第1号証にどのような走査型電子顕微鏡画像が示されているのかを参照してみると、上記第4の1カ.の(c)と(d)に甲1発明における中空糸基材の断面図が示されており、上記第4の1サ.の(b)に甲1発明における正浸透中空糸の断面形態が示されているところ、上記第4の1イ.によれば、これらの図は、中空糸基材および最終的な正浸透複合中空糸の薄層の形態観察のための、走査型電子顕微鏡画像であるとされている。
すなわち、甲1発明のモジュールに関し、甲第1号証には、多孔性中空糸基材断面の走査型電子顕微鏡画像と1箇所の薄型複合正浸透中空糸断面の走査型電子顕微鏡画像とが示されているにすぎない。

カ. 上記ウ.?オ.の検討を踏まえると、甲第1号証には、甲1発明のモジュールの半径方向の外周部、中間部、および中心部の3か所について、それぞれモジュールの各両端部および中央部から採取した計9個のサンプルにつき、分離活性層の厚み方向の断面を所定の測定範囲で撮影した計9枚の走査型電子顕微鏡画像が揃えられていないことから、上記相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えているか否かについての判断ができるだけの技術事項が客観的かつ具体的に示されていないと認める。換言すると、甲第1号証には、上記相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項についての技術事項は示されていないと認める。

(3) 小括
上記(1)?(2)の検討によれば、上記相違点1-1は、本件特許発明1と甲第1号証に記載された発明との、実質的な相違点であるし、また、甲第1号証には、上記相違点1-2に係る本件特許発明1の発明特定事項についての技術事項は示されていないから、本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明と差異がないとする、申立理由1は妥当性を欠いており、理由がない。
また、本件特許発明2?8についても、上記(1)?(2)の検討と同様にして、本件特許発明2?8は甲第1号証に記載された発明と差異がないとする、申立理由1は妥当性を欠いており、理由がない。


2. 申立理由2について
上記第3の2.に示した、本件特許発明1?8は甲第2または3号証に記載された発明と差異がない旨の申立理由2につき、以下に検討する。
(1) 本件特許発明1と甲2発明1との対比・検討
(1-1) 本件特許発明1と甲2発明1との対比
申立理由2のうちの、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明と差異がない旨の申立理由の妥当性につき検討すべく、本件特許発明1と上記第4の2ス.に示した甲2発明1とを対比するに、甲2発明1における「セルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸の内表面」、「1,6-ヘキサンジアミンとセバシン酸クロリドとの界面重合による被覆」、「1,6-ヘキサンジアミンとセバシン酸クロリドとの界面重合による被覆が行われ」た「セルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸」、「1,6-ヘキサンジアミンとセバシン酸クロリドとの界面重合による被覆が行われ」た「セルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸が30本」、「漏れ防止中空糸膜モジュール」は、それぞれ、本件特許発明1における「微細孔性中空糸支持膜の内表面」、「高分子重合体薄膜の分離活性層」、「中空糸」、「複数の中空糸で構成される中空糸糸束」、「正浸透複合中空糸膜モジュール」に相当する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。

<一致点>
「複数の中空糸で構成される中空糸糸束を有する正浸透複合中空糸膜モジュールであって、前記中空糸が、微細孔性中空糸支持膜の内表面に高分子重合体薄膜の分離活性層を設けた中空糸であ」る「前記モジュール」の点。

<相違点>
相違点2-1: 中空糸糸束の膜面積が、本件特許発明1は「1m^(2)以上であ」るのに対し、甲2発明1は、1m^(2)以上であるのか明らかではない点。

相違点2-2: 本件特許発明1は、「前記分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像における分離活性層部分の質量を測定する方法により算出された、前記中空糸糸束の半径方向および長さ方向における分離活性層の平均厚みの変動係数が0?60%であり、かつ、前記分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像において、該分離活性層と中空糸支持膜との界面の長さL1、および該分離活性層表面の長さL2の比L2/L1が、1.1以上5.0以下である」との発明特定事項を備えているのに対し、
甲2発明1は、そのような発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

(1-2) 上記相違点2-1と上記相違点2-2についての検討
サ. そこで、まず、上記相違点2-1につき検討するに、この相違点は、上記1.(1)に示した、上記相違点1-1と同じ相違点であるから、上記1.(2)ア.?イ.での検討と同様にして、甲2発明1における「中空糸糸束の膜面積」は、「1,6-ヘキサンジアミンとセバシン酸クロリドとの界面重合による被覆が行われ」た「セルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸」(以下、「界面重合による被覆が行われたセルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸」という。)の内径×π×「有効モジュール長」×「界面重合による被覆が行われたセルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸の本数」によって算出されることが明らかとなる。
ここで、甲2発明1においては、「有効モジュール長」は15cm、「界面重合による被覆が行われたセルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸の本数」は30本と、それぞれ特定されている。
また、甲2発明1において、「界面重合による被覆が行われたセルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸」は、セルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸の内表面に界面重合による被覆を備えていることから、「界面重合による被覆が行われたセルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸」の内径は、セルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸の内径とその中空糸の内表面の被覆の厚さとから求まるが、その被覆の厚さが特定できなければ、甲2発明1における「界面重合による被覆が行われたセルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸」の内径を正確に算出することができず、ひいては、甲2発明1における「中空糸糸束の膜面積」を正確に算出ができないところ、甲第2号証全体の記載を参照しても、その中空糸の内表面の被覆の厚さを特定の数値に認定できるまでの記載は見当たらない。
そこで、仮に、「界面重合による被覆が行われたセルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸」の内径は、240μmという「セルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸」の内径で近似できるとして、甲2発明1における「中空糸糸束の膜面積」を試算してみるに、240×10^(-6)×π×0.15×30=3.39×10^(-3)m^(2)と求まり、また、甲2発明1についての正確な「界面重合による被覆が行われたセルガードX-10の微多孔ポリプロピレン中空糸」の内径は、その界面重合による被覆の厚さがあるだけ、小さくなるため、甲2発明1における正確な「中空糸糸束の膜面積」は、当然に、3.39×10^(-3)m^(2)よりも狭く、したがって、1m^(2)以上ではないことも明らかである。
してみると、上記相違点2-1は、本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明との、実質的な相違点である。

シ. 次に、上記相違点2-2につき検討するに、この相違点は、上記1.(1)に示した、上記相違点1-2と同じ相違点であるから、上記1.(2)ウ.?エ.での検討と同様にして、モジュールの半径方向の外周部、中間部、および中心部の3か所について、それぞれモジュールの各両端部および中央部から採取した計9個のサンプルにつき、分離活性層の厚み方向の断面を所定の測定範囲で撮影した計9枚の走査型電子顕微鏡画像が揃えられていない場合には、上記相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えているか否かについての判断ができるだけの技術事項が客観的かつ具体的に示されていないと認めることとなる。

ス. ここで、甲2発明1のモジュールに関し、甲第2号証にどのような走査型電子顕微鏡画像が示されているのかを参照してみると、甲第2号証には、甲2発明1のモジュールの半径方向の外周部、中間部、および中心部の3か所について、それぞれモジュールの各両端部および中央部から採取した計9個のサンプルにつき、分離活性層の厚み方向の断面を所定の測定範囲で撮影した計9枚の走査型電子顕微鏡画像が揃えられていない。
してみると、甲第2号証には、上記相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えているか否かについての判断ができるだけの技術事項が客観的かつ具体的に示されていないと認める。換言すると、甲第2号証には、上記相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項についての技術事項は示されていないと認める。

セ. 補足
(セ-1) なお、異議申立人は、特許異議申立書において、「(I)微細孔正中空糸支持膜の内表面に、第1溶液の液膜を形成し、(II)支持膜の内側と外側とに(内側圧力)>(外側圧力)となるような圧力差を設けた後に、(III)第2溶液を第1溶液の液膜と接触させる工程を経由する場合、本件特許発明1に該当する中空糸膜モジュールが得られる蓋然性が高いところ、甲2発明1は、それらの工程を経由しているため、本件特許発明1の実施の形態として本件特許の明細書に記載された製造工程と類似の製造工程及び同一の出発物質を有しており、甲2発明1に基づいて本件特許発明1の新規性は否定される」旨主張している(特許異議申立書第28頁12行?第30頁6行)。

(セ-2) 上記(セ-1)の「(I)微細孔正中空糸支持膜の内表面に、第1溶液の液膜を形成し、(II)支持膜の内側と外側とに(内側圧力)>(外側圧力)となるような圧力差を設けた後に、(III)第2溶液を第1溶液の液膜と接触させる工程を経由する場合」に関して、本件特許の明細書には、「…本実施形態における正浸透複合中空糸膜モジュールの製造方法では、コア側とシェル側とに設ける圧力差は、モジュール内の中空糸の最外周部から中心部にわたって均一であり、且つモジュール内の中空糸の片末端からもう一方の片末端にわたって均一である。このことによって、各々の箇所で形成される第1溶液の液膜の厚みは均一になり、これを基にして形成される高分子重合体活性層の厚みも均一になる。…高圧空気を通して中空糸内側に第1溶液の液膜を形成する従来技術の方法によると、モジュールの長さが長ければ長いほど、またモジュールの径が大きければ大きいほど、前記の各々の箇所における分離活性層の平均厚みのばらつきは大きくなる。しかし、本実施形態の複合中空糸膜モジュールの製造方法では、各々の箇所において実質的に均一となる。」(【0045】?【0046】)との記載がある。
すなわち、上記(セ-1)のうちの「(II)支持膜の内側と外側とに(内側圧力)>(外側圧力)となるような圧力差を設け」るということにおける、「圧力差」は、本件特許発明1の厚みの均一な分離活性層を得るための「圧力差」であり、モジュール内の中空糸の最外周部から中心部にわたって均一であり、且つモジュール内の中空糸の片末端からもう一方の片末端にわたって均一であることを意味しており、また、前記の「(II)支持膜の内側と外側とに(内側圧力)>(外側圧力)となるような圧力差を設け」るということには、高圧空気を通して中空糸内側に第1溶液の液膜を形成する従来技術の方法を包含していないことは明らかであると認められる。

(セ-3) ここで、甲2発明1のモジュールが、上記(セ-1)の「(I)微細孔正中空糸支持膜の内表面に、第1溶液の液膜を形成し、(II)支持膜の内側と外側とに(内側圧力)>(外側圧力)となるような圧力差を設けた後に、(III)第2溶液を第1溶液の液膜と接触させる工程を経由する場合」に該当するかにつき検討してみるに、上記第4の2ス.に示した甲2発明1では、「漏れ防止中空糸膜モジュールにおいて、1?2重量%の濃度範囲の1,6-ヘキサンジアミンの水溶液を15分間、5重量ポンド毎平方インチ(34.5kPa)の圧力で、ポリプロピレン中空糸の内腔側を通過させることにより、ポリプロピレン中空糸の内表面の親水化が行われ、次いで、1分間、流速3cm^(3)/sの空気で穏やかにパージすることによって、過剰の水溶液が内腔側から除去され、次に、そのモジュールが垂直に保持されて、1?2重量%の濃度範囲のセバシン酸クロリドのキシレン溶液がチューブ側から、界面重合の反応時間に等しい時間の間(1.5?2.5分間)、非常に低い流速で導入されて1,6-ヘキサンジアミンとセバシン酸クロリドとの界面重合による被覆が行われ」ていることからして、前記した(I)と(III)の間の工程としては、「1分間、流速3cm^(3)/sの空気で穏やかにパージすることによって、過剰の水溶液が内腔側から除去され」るとの工程が行われているところ、この工程について、甲第2号証全体の記載を参照しても、過剰な水溶液を除去する工程としてしか把握することができず、厚みの均一な分離活性層を得るための「圧力差」を設けるまでの技術事項は把握できない。さらに、上記ス.の検討によれば、甲第2号証には、上記相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項についての技術事項は示されていない。

(セ-4) してみると、甲第2号証には、異議申立人の上記(セ-1)の主張を裏付け得る客観的かつ具体的な記載は見当たらず、その主張は妥当性を欠くこととなる。

(1-3) 小括
上記(1-1)?(1-2)の検討によれば、上記相違点2-1は、本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明との、実質的な相違点であるし、また、甲第2号証には、上記相違点2-2に係る本件特許発明1の発明特定事項についての技術事項は示されていないから、申立理由2のうちの、本件特許発明1は甲第2号証に記載された発明と差異がない旨の申立理由は妥当性を欠いている。
また、本件特許発明2?8についても、上記(1-1)?(1-2)の検討と同様にして、申立理由2のうちの、本件特許発明2?8は甲第2号証に記載された発明と差異がない旨の申立理由も妥当性を欠いている。

(2) 本件特許発明1と甲3発明1との対比・検討
(2-1) 本件特許発明1と甲3発明1との対比
次に、申立理由2のうちの、本件特許発明1は、甲第3号証に記載された発明と差異がない旨の申立理由の妥当性につき検討すべく、本件特許発明1と上記第4の3ス.に示した甲3発明1とを対比するに、甲3発明1における「ポリエーテルスルホンである中空繊維支持材料の内側表面」、「ジアミンまたはトリアミンの水溶液と有機溶媒中のハロゲン化ジアシルまたはトリアシル溶液との界面重合を通じて形成された、薄層複合層」、「薄層複合層で修飾された」「約10cm^(2)の外側面積および5cm^(2)の内側面積に対応する」繊維または「薄層複合層で修飾された」「モジュールの長さに応」ずる繊維、「約10cm^(2)の外側面積および5cm^(2)の内側面積に対応する9つの繊維を有するもの、またはモジュールの長さに応じて数百の繊維で対応する最大0.5m^(2)の膜面積を有するもの」、「正浸透を通じた純水の抽出のための中空繊維モジュール」は、それぞれ、本件特許発明1における「微細孔性中空糸支持膜の内表面」、「高分子重合体薄膜の分離活性層」、「中空糸」、「複数の中空糸で構成される中空糸糸束」、「正浸透複合中空糸膜モジュール」に相当する。
してみると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。

<一致点>
「複数の中空糸で構成される中空糸糸束を有する正浸透複合中空糸膜モジュールであって、前記中空糸が、微細孔性中空糸支持膜の内表面に高分子重合体薄膜の分離活性層を設けた中空糸であ」る「前記モジュール」の点。

<相違点>
相違点3-1: 中空糸糸束の膜面積が、本件特許発明1は「1m^(2)以上であ」るのに対し、甲3発明1は、1m^(2)以上であるのか明らかではない点。

相違点3-2: 本件特許発明1は、「前記分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像における分離活性層部分の質量を測定する方法により算出された、前記中空糸糸束の半径方向および長さ方向における分離活性層の平均厚みの変動係数が0?60%であり、かつ、前記分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像において、該分離活性層と中空糸支持膜との界面の長さL1、および該分離活性層表面の長さL2の比L2/L1が、1.1以上5.0以下である」との発明特定事項を備えているのに対し、
甲3発明1は、そのような発明特定事項を備えているのか明らかではない点。

(2-2) 上記相違点3-1と上記相違点3-2についての検討
タ. そこで、まず、上記相違点3-1につき検討するに、この相違点は、上記1.(1)に示した、上記相違点1-1と同じ相違点であるから、上記1.(2)ア.?イ.での検討と同様にして、甲3発明1における「中空糸糸束の膜面積」は、「ポリエーテルスルホンである中空繊維支持材料」の「繊維面積」と「薄層複合層」の厚さによって算出されることが明らかとなる。
ここで、甲3発明1においては、「ポリエーテルスルホンである中空繊維支持材料」の「繊維面積」は約0.1cm^(2)?約0.5m^(2)と特定されているが、「薄層複合層」の厚さについては、甲第3号証全体の記載を参照しても、特定の数値に認定できるまでの記載は見当たらないから、甲3発明1における正確な「中空糸糸束の膜面積」を算出することはできない。
そこで、仮に、甲3発明1における「中空糸糸束の膜面積」は、「ポリエーテルスルホンである中空繊維支持材料」の「繊維面積」で近似できるとしてみても、その数値範囲は、約0.1cm^(2)?約0.5m^(2)であるから、1m^(2)以上ではないし、また、甲3発明1において、「薄層複合層」は、「ポリエーテルスルホンである中空繊維支持材料」の内側表面に修飾されるから、甲3発明1における正確な「中空糸糸束の膜面積」は、約0.1cm^(2)?約0.5m^(2)である「ポリエーテルスルホンである中空繊維支持材料」の「繊維面積」よりも、「薄層複合層」の厚さがある分だけ、必然的に、狭くなるから、1m^(2)以上ではないことが明らかである。
してみると、上記相違点3-1は、本件特許発明1と甲第3号証に記載された発明との、実質的な相違点である。

チ. 次に、上記相違点3-2につき検討するに、この相違点は、上記1.(1)に示した、上記相違点1-2と同じ相違点であるから、上記1.(2)ウ.?エ.での検討と同様にして、モジュールの半径方向の外周部、中間部、および中心部の3か所について、それぞれモジュールの各両端部および中央部から採取した計9個のサンプルにつき、分離活性層の厚み方向の断面を所定の測定範囲で撮影した計9枚の走査型電子顕微鏡画像が揃えられていない場合には、上記相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えているか否かについての判断ができるだけの技術事項が客観的かつ具体的に示されていないと認めることとなる。

ツ. ここで、甲3発明1のモジュールに関し、甲第3号証にどのような走査型電子顕微鏡画像が示されているのかを参照してみると、甲第3号証には、甲3発明1のモジュールの半径方向の外周部、中間部、および中心部の3か所について、それぞれモジュールの各両端部および中央部から採取した計9個のサンプルにつき、分離活性層の厚み方向の断面を所定の測定範囲で撮影した計9枚の走査型電子顕微鏡画像が揃えられていない。
してみると、甲第3号証には、上記相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項を備えているか否かについての判断ができるだけの技術事項が客観的かつ具体的に示されていないと認める。換言すると、甲第3号証には、上記相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項についての技術事項は示されていないと認める。

テ. 補足
(テ-1) なお、異議申立人は、特許異議申立書において、「甲第3号証には、モジュール中の中空糸糸束の膜面積としては、75m^(2)が例示されている」旨主張している(特許異議申立書第30頁23?25行)が、甲第3号証全体の記載を参照すると、中空糸糸束の膜面積が1m^(2)以上であるモジュールとして具体的に記載されているのは、例えば上記第3の3カ.に示されているとおり、繊維の外側表面が、固定されたAqpZ小胞で機能化されている、中空繊維モジュールの場合にとどまり、甲3発明1である、繊維の内側表面が、固定されたAqpZ小胞で機能化されている、中空繊維モジュールにおいては、上記タ.の検討のとおり、中空糸糸束の膜面積を1m^(2)以上にすることに関する記載はない。
よって、異議申立人の前記主張は、甲3発明1である、繊維の内側表面が、固定されたAqpZ小胞で機能化されている、中空繊維モジュールについての主張としては妥当性を欠いている。

(テ-2) また、異議申立人は、特許異議申立書において、「甲3発明1でも、一定の気流(または液流)を1分以上流しているため、甲2発明1と同様の圧力損失が発生する蓋然性が高く、中空糸の内側は、外側よりも高い圧力差を有しており、本件特許発明1の実施の形態として本件特許の明細書に記載された製造工程と類似の製造工程及び同一の出発物質を有しており、甲3発明1に基づいて本件特許発明1の新規性は否定される」旨主張している(特許異議申立書第30頁21行?第31頁18行)。

(テ-3) 異議申立人の上記(テ-2)の主張は、上記(セ-1)の主張と同じであり、上記(セ-2)?(セ-3)での検討と同様にして、すなわち、本件特許発明1のモジュールが得られる、「(I)微細孔正中空糸支持膜の内表面に、第1溶液の液膜を形成し、(II)支持膜の内側と外側とに(内側圧力)>(外側圧力)となるような圧力差を設けた後に、(III)第2溶液を第1溶液の液膜と接触させる工程を経由する場合」のうち、前記した(I)と(III)の間の工程として、甲第3号証には、「中空繊維の管腔側のガスパージによって、過剰な水溶液が取り除かれ」るとの工程が記載されているところ、この工程について、甲第3号証全体の記載を参照しても、過剰な水溶液を除去する工程としてしか把握することができず、厚みの均一な分離活性層を得るための「圧力差」を設けるまでの技術事項を把握できない。さらに、上記ツ.の検討によれば、甲第3号証には、上記相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項についての技術事項は示されていない。

(テ-4) してみると、甲第3号証には、異議申立人の上記(テ-1)?(テ-2)の主張を裏付け得る客観的かつ具体的な記載は見当たらず、その主張は妥当性を欠くこととなる。

(2-3) 小括
上記(2-1)?(2-2)の検討によれば、上記相違点3-1は、本件特許発明1と甲第3号証に記載された発明との、実質的な相違点であるし、また、甲第3号証には、上記相違点3-2に係る本件特許発明1の発明特定事項についての技術事項は示されていないから、申立理由2のうちの、本件特許発明1は甲第3号証に記載された発明と差異がない旨の申立理由も妥当性を欠いている。
また、本件特許発明2?8についても、上記(2-1)?(2-2)の検討と同様にして、申立理由2のうちの、本件特許発明2?8は甲第3号証に記載された発明と差異がないとする、申立理由も妥当性を欠いている。

(3) まとめ
上記(1)?(2)の検討によれば、本件特許発明1?8は甲第2または3号証に記載された発明と差異がないとする、申立理由2は妥当性を欠いており、理由がない。


3. 申立理由3について
上記第3の3.に示した、本件特許発明1?8は、甲第1号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである旨の、申立理由3の妥当性につき検討するに、上記1.(1)および上記2.(2-1)の検討のとおり、本件特許発明1は甲1発明とは、上記相違点1-1と上記相違点1-2の点で相違しており、また、本件特許発明1は甲3発明1とは、上記相違点3-1と上記相違点3-2の点で相違しているところ、上記相違点1-1、上記相違点1-2は、それぞれ、上記相違点3-1と上記相違点3-2と同じ相違点であり、そして、上記1.(2)?(3)および上記2.(2-2)?(2-3)の検討のとおり、上記相違点1-1(上記相違点3-1)は、本件特許発明1と甲第1、3号証に記載された発明との、実質的な相違点であるし、また、甲第1、3号証には、上記相違点1-2(上記相違点3-2)に係る本件特許発明1の発明特定事項についての技術事項は示されていない。
そうすると、甲第1号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明とを組み合わせたとしても、上記相違点1-1(上記相違点3-1)は、本件特許発明1と甲第1、3号証に記載された発明との、実質的な相違点のままであるし、また、甲第1、3号証には、上記相違点1-2(上記相違点3-2)に係る本件特許発明1の発明特定事項についての技術事項は示されていないままであるから、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである旨の、申立理由3が妥当性を欠くことは明らかである。
また、本件特許発明2?8についても、本件特許発明1についての検討と同様にして、申立理由3が妥当性を欠くことは明らかである。


4. 申立理由4について
上記第3の4.に示した、本件特許発明1?8は、甲第2号証に記載された発明と甲第3?5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである旨の、申立理由4の妥当性につき検討するに、上記2.(1-1)および上記2.(2-1)の検討のとおり、本件特許発明1は甲2発明1とは、上記相違点2-1と上記相違点2-2の点で相違しており、また、本件特許発明1は甲3発明1とは、上記相違点3-1と上記相違点3-2の点で相違しているところ、上記相違点2-1、上記相違点2-2は、それぞれ、上記相違点3-1と上記相違点3-2と同じ相違点であり、そして、上記2.(1-2)?(1-3)および上記2.(2-2)?(2-3)の検討のとおり、上記相違点2-1(上記相違点3-1)は、本件特許発明1と甲第2、3号証に記載された発明との、実質的な相違点であるし、また、甲第2、3号証には、上記相違点2-2(上記相違点3-2)に係る本件特許発明1の発明特定事項についての技術事項は示されていない。
また、上記第4の4.?5.に示されている甲第4?5号証の記載を参照してみても、甲第4?5号証には、界面重合によって形成された活性ポリアミド層は「尾根および谷」構造を有するということが記載されているだけであるから、上記相違点2-1(上記相違点3-1)は、甲第4?5号証に記載された発明とも、本件特許発明1との実質的な相違点であるし、また、甲第4?5号証にも、上記相違点2-2(上記相違点3-2)に係る本件特許発明1の発明特定事項についての技術事項は示されていないと認める。
そうすると、甲第2号証に記載された発明と甲第3?5号証に記載された発明とを組み合わせたとしても、上記相違点2-1(上記相違点3-1)は、本件特許発明1と甲第2?5号証に記載された発明との、実質的な相違点であるし、また、甲第2?5号証には、上記相違点2-2(上記相違点3-2)に係る本件特許発明1の発明特定事項についての技術事項は示されていないのであるから、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明と甲第3?5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである旨の、申立理由4が妥当性を欠くことは明らかである。
また、本件特許発明2?8についても、本件特許発明1についての検討と同様にして、申立理由4が妥当性を欠くことは明らかである。


5. 申立理由5について
上記第3の5.に示した、本件特許発明1?8は、甲第3号証に記載された発明と甲第4?5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである旨の、申立理由5の妥当性につき検討するに、上記4.の検討と同様にして、本件特許発明1?8は、甲第3号証に記載された発明と甲第4?5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである旨の、申立理由5が妥当性を欠くことも明らかである。


6. 申立理由6について
上記第3の6.に示した、本件特許発明9および本件特許発明11?13は、甲第2または3号証に記載された発明と差異がない旨の申立理由6につき、以下に検討する。
(1) 本件特許発明9と甲2発明2との対比・検討
申立理由6のうちの、本件特許発明9は、甲第2号証に記載された発明と差異がない旨の申立理由の妥当性につき検討すべく、本件特許発明9と上記第4の2セ.に示した甲2発明2とを対比するに、本件特許発明9は、請求項7を介して最終的に請求項1を引用するものであるから、本件特許発明9と甲2発明2とは、少なくとも、上記相違点2-1と上記相違点2-2の点で相違していると認められる。
そして、上記相違点2-1と上記相違点2-2については、上記2.(1-2)?(1-3)の検討と同様にして、上記相違点2-1は、本件特許発明9と甲第2号証に記載された発明との、実質的な相違点であるし、また、甲第2号証には、上記相違点2-2に係る本件特許発明9の発明特定事項についての技術事項は示されていないから、申立理由6のうちの、本件特許発明9は甲第2号証に記載された発明と差異がない旨の申立理由は妥当性を欠いている。
また、本件特許発明11?13についても、前記の検討と同様にして、申立理由6のうちの、本件特許発明11?13は甲第2号証に記載された発明と差異がない旨の申立理由も妥当性を欠いている。

(2) 本件特許発明9と甲3発明2との対比・検討
次いで、申立理由6のうちの、本件特許発明9は、甲第3号証に記載された発明と差異がない旨の申立理由の妥当性につき検討すべく、本件特許発明9と上記第4の3セ.に示した甲3発明2とを対比するに、本件特許発明9は、請求項7を介して最終的に請求項1を引用するものであるから、本件特許発明9と甲3発明2とは、少なくとも、上記相違点3-1と上記相違点3-2の点で相違していると認められる。
そして、上記相違点3-1と上記相違点3-2については、上記2.(1-2)?(1-3)の検討と同様にして、上記相違点3-1は、本件特許発明9と甲第3号証に記載された発明との、実質的な相違点であるし、また、甲第3号証には、上記相違点3-2に係る本件特許発明9に係る発明特定事項についての技術事項は示されていないから、申立理由6のうちの、本件特許発明9は甲第3号証に記載された発明と差異がない旨の申立理由も妥当性を欠いている。
また、本件特許発明11?13についても、前記の検討と同様にして、申立理由6のうちの、本件特許発明11?13は甲第3号証に記載された発明と差異がない旨の申立理由6も妥当性を欠いている。


7. 申立理由7について
上記第3の7.に示した、本件特許発明9および本件特許発明11?13は、甲第2号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである旨の申立理由7につき検討するに、上記6.(1)および上記6.(2)の検討のとおり、本件特許発明9は甲2発明2とは、少なくとも上記相違点2-1と上記相違点2-2の点で相違しており、また、本件特許発明9は甲3発明2とは、少なくとも上記相違点3-1と上記相違点3-2の点で相違しているところ、上記相違点2-1、上記相違点2-2は、それぞれ、上記相違点3-1と上記相違点3-2と同じ相違点であり、そして、上記相違点2-1(上記相違点3-1)は、本件特許発明9と甲第2、3号証に記載された発明との、実質的な相違点であるし、また、甲第2、3号証には、上記相違点2-2(上記相違点3-2)に係る本件特許発明9の発明特定事項についての技術事項は示されていない。
してみると、甲第2号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明とを組み合わせたとしても、上記相違点2-1(上記相違点3-1)は、本件特許発明9と甲第2、3号証に記載された発明との、実質的な相違点のままであるし、また、甲第2、3号証には、上記相違点2-2(上記相違点3-2)に係る本件特許発明9の発明特定事項についての技術事項は示されていないままであるから、本件特許発明9は、甲第2号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである旨の、申立理由7が妥当性を欠くことは明らかである。
また、本件特許発明11?13についても、前記の本件特許発明9についての検討と同様にして、申立理由7が妥当性を欠くことは明らかである。


8. 申立理由8について
上記第3の8.に示した、本件特許発明9?10は、甲第6号証に記載された発明に基づいて、または、甲第6号証に記載された発明と甲第2?3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである旨の申立理由8につき、以下に検討する。
(1) 本件特許発明9と甲6発明との対比
本件特許発明9と、上記第4の4コ.に示される甲6発明とを対比するに、本件特許発明9は、請求項7を介して、最終的に請求項1を引用するものあるから、少なくとも、以下の点で相違していると認められる。

相違点4: 本件特許発明9は、「複数の中空糸で構成される中空糸糸束を有する正浸透複合中空糸膜モジュールであって、前記中空糸が、微細孔性中空糸支持膜の内表面に高分子重合体薄膜の分離活性層を設けた中空糸であり、前記中空糸糸束の膜面積が1m^(2)以上であり、そして前記分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像における分離活性層部分の質量を測定する方法により算出された、前記中空糸糸束の半径方向および長さ方向における分離活性層の平均厚みの変動係数が0?60%であり、かつ、前記分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像において、該分離活性層と中空糸支持膜との界面の長さL1、および該分離活性層表面の長さL2の比L2/L1が、1.1以上5.0以下である、」との発明特定事項を備えたモジュールの製造方法であるのに対し、
甲6発明はそのような発明特定事項を備えたモジュールの製造方法であるのか明らかではない点。

(2) 上記相違点4についての検討
甲第6号証全体の記載を検討しても、上記相違点4に係る本件特許発明9の発明特定事項に関する記載は見当たらない。
してみると、申立理由8のうちの、本件特許発明9は、甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである旨の申立理由が妥当性を欠くことは明らかである。
また、本件特許発明9と甲第2?3号証に記載された発明とは、上記7.で検討したとおり、甲第2号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明とを組み合わせたとしても、上記相違点2-1(上記相違点3-1)は、本件特許発明9と甲第2、3号証に記載された発明との、実質的な相違点であるし、また、甲第2、3号証には、上記相違点2-2(上記相違点3-2)に係る本件特許発明9の発明特定事項についての技術事項は示されていないところ、上記相違点2-1(上記相違点3-1)と上記相違点2-2(上記相違点3-2)とはいずれも、上記相違点4に包含されている相違点である。
してみると、甲第6号証に記載された発明と甲第2?3号証に記載された発明とを組み合わせても、上記相違点2-1(上記相違点3-1)は、本件特許発明9と甲第2?3、6号証に記載された発明との、実質的な相違点であるし、また、甲第2?3、6号証には、上記相違点2-2(上記相違点3-2)に係る本件特許発明9の発明特定事項についての技術事項は示されていないから、申立理由8のうちの、本件特許発明9は、甲第6号証に記載された発明と甲第2?3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである旨の申立理由も妥当性を欠くことは明らかである。

(3) 小括
上記(1)?(2)の検討によれば、本件特許発明9は、甲第6号証に記載された発明に基づいて、または、甲第6号証に記載された発明と甲第2?3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである旨の申立理由8は妥当性を欠くことは明らかである。
また、本件特許発明10は、請求項9を引用するものであるから、上記(1)?(2)の検討と同様にして、本件特許発明10は、甲第6号証に記載された発明に基づいて、または、甲第6号証に記載された発明と甲第2?3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである旨の申立理由8も妥当性を欠くことは明らかである。


9. 申立理由9について
上記第3の9.に示した、本件特許発明10は、甲第2号証に記載された発明と甲第3、7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである旨の申立理由9につき検討するに、本件特許発明10は、請求項9を引用するものであるところ、本件特許発明9については、上記7.で検討したとおり、甲第2号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明とを組み合わせたとしても、上記相違点2-1(上記相違点3-1)は、本件特許発明9と甲第2、3号証に記載された発明との、実質的な相違点であるし、また、甲第2、3号証には、上記相違点2-2(上記相違点3-2)に係る本件特許発明9の発明特定事項についての技術事項は示されていないから、本件特許発明10も、本件特許発明9と同様、甲第2号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
また、上記第4の7.に示されている甲第7号証の記載を参照してみても、コーティング溶液の中空糸膜の内表面への塗布を行う方法が記載されているだけであるから、上記相違点2-1(上記相違点3-1)は、本件特許発明10と甲第7号証に記載された発明との、実質的な相違点でもあるし、また、甲第7号証にも、上記相違点2-2(上記相違点3-2)に係る本件特許発明10の発明特定事項についての技術事項は示されていない。
そうすると、甲第2号証に記載された発明と甲第3、7号証に記載された発明とを組み合わせたとしても、上記相違点2-1(上記相違点3-1)は、本件特許発明10と甲第2、3、7号証に記載された発明との、実質的な相違点であるし、また、甲第2、3、7号証には、上記相違点2-2(上記相違点3-2)に係る本件特許発明10の発明特定事項についての技術事項は示されていないから、本件特許発明10は、甲第2号証に記載された発明と甲第3、7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものある旨の、申立理由9が妥当性を欠くことは明らかである。


10. 申立理由10について
上記第3の10.に示した、本件特許発明12は、甲第3号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである旨の申立理由10につき検討するに、本件特許発明12は、請求項9を引用するものであるところ、本件特許発明9については、上記7.で検討したとおり、甲第2号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明とを組み合わせたとしても、上記相違点2-1(上記相違点3-1)は、本件特許発明9と甲第2、3号証に記載された発明との、実質的な相違点であるし、また、甲第2、3号証には、上記相違点2-2(上記相違点3-2)に係る本件特許発明9の発明特定事項についての技術事項は示されていないから、本件特許発明12も、本件特許発明9と同様、甲第3号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
してみると、申立理由10も妥当性を欠くことは明らかである。


11. 申立理由11について
上記第3の11.に示した、請求項1?13には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、請求項1?13は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許されたものであり、発明の詳細な説明に記載したものではない旨の申立理由11につき、以下に検討する。
申立人は、特許異議申立書において、「本件特許の明細書における比較例1は、分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像において、該分離活性層と中空糸支持膜との界面の長さL1、および該分離活性層表面の長さL2の比L2/L1が、1.1以上5.0以下であることを満たすものであるが、その比較例1は、本件特許の明細書における表1に示すように、透水量が高く、塩の逆拡散が小さく、安定した性能を有する複合中空糸膜モジュールであるとは解せないところ、その比L2/L1が規定されている本件特許発明1?13は、その比較例1を含むものであるため、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、本件特許発明1?13の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない」旨主張している(特許異議申立書第38頁21行?第40頁17行)。
しかしながら、本件特許の明細書における比較例1は、本件特許の明細書における表1に示すように、請求項1における、「分離活性層の厚み方向の断面を撮影した走査型電子顕微鏡画像における分離活性層部分の質量を測定する方法により算出された、前記中空糸糸束の半径方向および長さ方向における分離活性層の平均厚みの変動係数が0?60%であ」るとの発明特定事項を備えてはいないことから、請求項1に係る発明は、本件特許の明細書における比較例1を包含するものではない。
また、請求項1を引用する、請求項2?13に係る発明も、請求項1に係る発明と同様、本件特許の明細書における比較例1を包含するものではない。
したがって、請求項1?13が本件特許の明細書における比較例1を包含することを前提とする、申立理由11は、その前提において誤りがあり、妥当性を欠くことは明らかである。


12. 申立理由12について
上記第3の12.に示した、請求項9?13の記載自体が不明確である旨の申立理由12につき、以下に検討する。
申立人は、特許異議申立書において、「本件特許発明9には、微細孔性中空糸支持膜の内側と外側とが、(内側圧力)>(外側圧力)となるように圧力差を設けたことが記載されているが、中空糸支持膜のどの部分で測定しているのか、どの程度の時間圧力差が設けられているのか不明であり、本件特許発明9およびそれに従属する本件特許発明10?13は明確ではない」旨主張している(特許異議申立書第40頁18行?第41頁24行)。
しかしながら、請求項9は、本件特許の特許請求の範囲に記載されるとおり、請求項7を介して最終的に請求項1を引用するものであるから、上記2.(1-2)の(セ-2)の検討と同様にして、請求項9における「微細孔性中空糸支持膜の内側と外側とが、(内側圧力)>(外側圧力)となるように圧力差を設け」るということにおける、「圧力差」は、請求項1で規定される「中空糸糸束の半径方向および長さ方向における分離活性層の平均厚みの変動係数が0?60%」が得られるような「圧力差」であり、本件特許の明細書【0045】?【0046】の記載を参照すると、モジュール内の中空糸の最外周部から中心部にわたって均一であり、且つモジュール内の中空糸の片末端からもう一方の片末端にわたって均一であることを意味しており、また、そのような「圧力差」となっていたか否かは、製造されたモジュールが請求項1の発明特定事項を満たすモジュールに該当するか否かで判断できるというものであると認められる。
してみると、請求項9?13の記載自体が不明確であるとはいえず、申立理由12も妥当性を欠いていることとなる。


第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-10-31 
出願番号 特願2016-544254(P2016-544254)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B01D)
P 1 651・ 03- Y (B01D)
P 1 651・ 113- Y (B01D)
P 1 651・ 121- Y (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 富永 正史  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 宮澤 尚之
小川 進
登録日 2017-12-15 
登録番号 特許第6259921号(P6259921)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 複合中空糸膜モジュールおよびその製造方法  
代理人 齋藤 都子  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 三間 俊介  
代理人 勝又 秀夫  
代理人 古賀 哲次  
代理人 中村 和広  

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