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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
管理番号 1345902
異議申立番号 異議2018-700338  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-23 
確定日 2018-11-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6217762号発明「化学強化用ガラスおよび化学強化ガラス並びに化学強化ガラスの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6217762号の請求項1?11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6217762号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?11に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)12月12日(優先権主張 平成25年12月13日 日本国(JP) 平成26年2月7日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、平成29年10月6日に特許権の設定登録がなされ、平成29年10月25日に特許掲載公報が発行され、その後、平成30年4月23日付けで全請求項(請求項1?11)に係る特許に対し、特許異議申立人 松村朋子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立がされ、同年7月6日付けで当審より取消理由が通知され、同年8月8日に特許権者代理人 弁理士 濱田百合子らとの面接が行われ、前記取消理由の通知の指定期間内である同年9月5日付けで特許権者より意見書が提出されたものである。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?11に係る発明は、それぞれ、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明11」ということがあり、また、これらを、まとめて、「本件特許発明」ということがある。)。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量百分率表示で、SiO_(2)を60?75%、Al_(2)O_(3)を3?12%、MgOを2?10%、CaOを0?10%、SrOを0?3%、BaOを0?3%、Na_(2)Oを10?18%、K_(2)Oを0?8%、ZrO_(2)を0?3%、TiO_(2)を0?0.3%、Fe_(2)O_(3)を0.005?0.2%、及びSO_(3)を0.02?0.4%含有し、板厚が0.2mm以上1.2mm以下であるガラス板であって、前記ガラス板の表裏両面ともに研磨せずに測定したβ-OHの値が、前記ガラス板の表裏両面の表層をそれぞれ50μm以上研磨して測定した時のβ-OHの値よりも0.003mm^(-1)以上低くなる化学強化用ガラス。
【請求項2】
前記ガラス板は、フロート法により成形される請求項1に記載の化学強化用ガラス。
【請求項3】
フロート法によって成形した後、前記ガラス板の表裏両面ともに表層を研磨除去していない請求項2に記載の化学強化用ガラス。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか1項に記載の化学強化用ガラスが化学強化処理された化学強化ガラス。
【請求項5】
表面圧縮応力が600MPa以上、圧縮応力深さが6μm以上30μm以下である請求項4に記載の化学強化ガラス。
【請求項6】
表面圧縮応力が700MPa以上、圧縮応力深さが8μm以上20μm以下である請求項4に記載の化学強化ガラス。
【請求項7】
請求項1?3のいずれか1項に記載の化学強化用ガラスをイオン交換処理する化学強化工程を含む化学強化ガラスの製造方法。
【請求項8】
酸化物基準の質量百分率表示で、SiO_(2)を60?75%、Al_(2)O_(3)を3?12%、MgOを2?10%、CaOを0?10%、SrOを0?3%、BaOを0?3%、Na_(2)Oを10?18%、K_(2)Oを0?8%、ZrO_(2)を0?3%、TiO_(2)を0?0.3%、Fe_(2)O_(3)を0.005?0.2%、及びSO_(3)を0.02?0.4%含有し、板厚が0.2mm以上1.2mm以下であるガラス板であって、前記ガラス板の表裏両面ともに研磨せずに測定したβ-OHの値が、前記ガラス板の表裏両面の表層をそれぞれ50μm以上研磨して測定した時のβ-OHの値よりも0.003mm^(-1)以上低くなるガラス。
【請求項9】
前記ガラス板は、フロート法によって成形された後、前記ガラス板の表裏両面ともに表層を研磨除去されていない請求項8に記載のガラス。
【請求項10】
前記ガラス板は、化学強化処理に対応可能である請求項8または9に記載のガラス。
【請求項11】
請求項10に記載のガラスが化学強化処理された化学強化ガラス。」


第3 特許異議の申立てについて
1. 申立理由の概要
異議申立人は特許異議申立書において、甲第1?10号証を提示して、以下の特許異議申立理由を主張している。

A. 本件特許の請求項1?11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、技術常識及び周知技術(甲第2?8号証の記載事項)とから、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1?11に係る発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである(以下、「申立理由A」という。)。
B. 本件特許の請求項1?11に係る発明は、甲第9号証に記載された発明と、技術常識及び周知技術(甲第2?8号証の記載事項)とから、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1?11に係る発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである(以下、「申立理由B」という。)。
C. 本件特許の請求項1?11に係る発明は、甲第10号証に記載された発明と、技術常識及び周知技術(甲第2?8号証の記載事項)とから、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1?11に係る発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである(以下、「申立理由C」という。)。

[異議申立人が提出した証拠方法]
甲第1号証:国際公開第2012/026290号
甲第2号証:特開2012-180262号公報
甲第3号証:特開2010-30876号公報
甲第4号証:国際公開第2013/005588号
甲第5号証:作花済夫編「ガラスの事典」初版第1刷 1985年9月20
日 株式会社 朝倉書店発行,p.20?21、
p.306?309
甲第6号証:山根正之ら編「ガラス工学ハンドブック」初版第1刷
1999年7月5日 株式会社朝倉書店発行,p.10?12、
p.286?295、p.358?362
甲第7号証:Editor Charles H.Drummond,III "A Collection of Papers
Presented at the 71st Conference on Glass Problems"
Ceramic Engineering and Science Proceedings Volume32,
Issue1,2011, A John Wiley & Sons,Inc.,p.61?66
甲第8号証:Amazonによる甲第7号証の通信販売サイト、2018年3月
23日検索、URL:https://www.amazon.co.jp/71st-Conference-
Glass-Problems-Enginnering/dp/1118059964
甲第9号証:国際公開第2012/057232号
甲第10号証:国際公開第2013/161967号


2. 取消理由の概要
本件特許の請求項1?11に係る特許に対して、平成30年7月6日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

本件特許の請求項1?11に係る発明は、下記の引用例1?3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先権主張の基礎とされた先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものであり、本件特許は取り消すべきものである。


引用例1:国際公開第2012/026290号(甲第1号証)
引用例2:作花済夫編「ガラスの事典」初版第1刷 1985年9月20日
株式会社 朝倉書店発行,p.21(甲第5号証)
引用例3:国際公開第2013/005588号(甲第4号証)


3. 取消理由についての検討
(1) 各引用例の記載事項
(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下、同じ。)
(1-1) 引用例1の記載事項
引用例1には、以下の1ア.?1カ.の事項が記載されている。
1ア. 「技術分野
[0001] 本発明は、フラットパネルディスプレイ用カバーガラス…に関する。
背景技術
[0002] 近年、フラットパネルディスプレイ(以下、FPDともいう)において、画像表示部分よりも広い領域となるように薄い板状のガラスをディスプレイ前面に設置することによって、枠の凸部を無くし美観を高めるという構成が採用されている。前面に設置するためには、カバーガラスとFPDパネルを離す方法がとられていたが、この方法では、ガラスと空気層との間での反射によって、美観が損なわれるため、ガラスとFPDパネルとを樹脂または粘着シートで接合し、界面での反射を低下させる構成が良い。
[0003] 近年では家庭用テレビとしては大型のものが好まれているが、FPDパネルとカバーガラスを直接接合する方法を32インチ型以上の大型のFPDに用いる場合、カバーガラスの面積が大きくなるため、2.5mmなどのソーダライムガラスを用いると、本体そのものの重量が大きくなり、輸送または設置時の負荷が大きくなってしまう。
[0004] そこで、薄型化し、軽量化したガラス、例えば1.5mm、1.1mmおよび0.7mmのもの等が用いられる。ガラスを薄型化すると、強度が低下してしまうが、これを解決するためには、現在、化学強化法によって強化したガラスを用いるのが必須となっている…。」

1イ. 「発明が解決しようとする課題
[0006] しかしながら、上記のような大面積のガラス板を化学強化しようとする場合、ソーダライムガラスでは、必要な時間に十分な応力層深さを得ることができず、また、イオン交換の速度を高めるために高温にすると、応力緩和により、所望の表面圧縮応力が得られないという欠点があった。
[0007] 特に大面積のガラス板を化学強化しようとする場合にはガラス面内での温度分布が大きくなり、化学強化されたガラス面に応力むらが発生しやすくなる。その結果、化学強化されたガラス板に反りまたはうねりが発生しやすくなり、問題であった。
[0008] 本発明は上記課題を解決するものであり、高温で化学強化を行った場合でも低温で化学強化を行った場合と同程度の表面圧縮応力を有し、従って温度変動が生じた場合でも圧縮応力の変化が小さいため、生産性に優れた大型ディスプレイ装置用カバーガラス用のガラスを提供することを目的とする。」

1ウ. 「[0013] 本発明のフラットパネルディスプレイ用カバーガラスの製造方法では、化学強化処理を施すガラスの組成および化学強化処理工程以外は特に限定されず適切に選択すればよく、典型的には従来公知の工程を適用できる。
[0014] 例えば、各成分の原料を後述する組成となるように調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融する。バブリング、撹拌、清澄剤の添加等によりガラスを均質化し、従来公知の成形法により所定の厚さのガラス板に成形し、徐冷する。
[0015] ガラスの成形法としては、例えば、フロート法、プレス法、フュージョン法およびダウンドロー法が挙げられる。特に、大量生産に適したフロート法が好適である。…
[0016] 成形したガラスを必要に応じて研削および研磨処理し、化学強化処理をした後、洗浄および乾燥する。」

1エ. 「[0058](化学強化ガラスの製造)
表1および2にモル百分率で示す組成のガラス原料を白金坩堝で1400?1650℃に加熱、溶融して、清澄を行った後、鋳型に流し込んでガラスを作製した。ガラスが固化した後、ガラスをガラスの徐冷点付近に加熱された電気炉に移し、室温まで徐冷してガラスブロックを得た。このガラスブロックから、厚さ1.0mm、5.0cm×5.0cmの両面が研磨されたガラスを製造した。
[0059] 前記ガラスを400℃または450℃に保持したKNO_(3)中に6時間浸漬して化学強化処理を行い、強化ガラスを得た。化学強化処理を施す前のガラスおよび化学強化処理後のガラスを下記評価方法により評価した結果を表1および2に示す。なお、表1および2において、( )内は計算値を示す。表1および2において、例1?11は実施例、例12?15は比較例である。
[0060](評価方法)
表1および2に示す組成のガラスについて、歪点T_(Str)(単位:℃)、ガラス転移点Tg(単位:℃)、比重d、熱膨張率α(単位:10^(-7)/℃)、ヤング率E(単位:GPa)、ポアソン比σを以下に示す方法により測定または評価した。
[0061]・歪点

[0062]・ガラス転移点

[0063]・比重

[0064]・熱膨張率

[0065]・ヤング率およびポアソン比

[0066] また、これらガラスを400℃および450℃で化学強化した場合の表面圧縮応力S_(400)(単位:MPa)、S_(450)(単位:MPa)を次のようにして測定し、S_(450)とS_(400)の比率S_(450)/S_(400)を算出した。
・表面圧縮応力
ガラスの表面圧縮応力は、折原製作所製表面応力計FSM-6000を用いて測定した。」

1オ. 「



1カ. 「[0071] 表1および2に示すように、化学強化前のガラスの組成がNa_(2)O、Al_(2)O_(3)、MgOおよびZrO_(2)のモル比が上記式(1)を満たし、xが0.85以下である例1?11のガラスは、KNO_(3)により450℃にて6時間化学強化したガラスの表面圧縮応力が、KNO_(3)により400℃にて6時間化学強化したガラスの表面圧縮応力の0.75以上であった。
[0072] 一方、化学強化前のガラスの組成がNa_(2)O、Al_(2)O_(3)、MgOおよびZrO_(2)のモル比が上記式(1)を満たさず、xが0.85を超える例12?15のガラスは、KNO_(3)により450℃にて6時間化学強化したガラスの表面圧縮応力が、KNO_(3)により400℃にて6時間化学強化したガラスの表面圧縮応力の0.75未満であった。
[0073] この結果から、化学強化前のガラスの組成がNa_(2)O、Al_(2)O_(3)、MgOおよびZrO_(2)のモル比が上記式(1)を満たすようにすることによって、400℃以上の高温で化学強化を行った場合でも、表面圧縮応力の温度・時間変化が小さく、安定な強化特性を有するガラスが得られることが分かった。」


(1-2) 引用例2の記載事項
引用例2には、以下の2ア.?2ウ.の事項が記載されている。
2ア. 「

」(p.21 上段)

2イ. 「 図5にイオン交換強化と風冷強化による代表的なガラス断面の応力分布比較を示す.…イオン交換強化の応力分布は,圧縮応力層は10?300μmと浅いが,圧縮応力値は30?80kg/mm^(2)と高く風冷強化の2倍以上ある.」(p.308 10?17行)

2ウ. 「

」(p.308 中段)


(1-3) 引用例3の記載事項
引用例3には、以下の3ア.?3キ.の事項が記載されている。
3ア. 「技術分野
[0001] 本発明は、化学強化用フロートガラスに関する。
背景技術
[0002] 近年、携帯電話または携帯情報端末(PDA)等のフラットパネルディスプレイ装置において、ディスプレイの保護および美観を高めるために、画像表示部分よりも広い領域となるように薄い板状のカバーガラスをディスプレイの前面に配置することが行われている。
[0003] このようなフラットパネルディスプレイ装置に対しては、軽量および薄型化が要求されており、そのため、ディスプレイ保護用に使用されるカバーガラスも薄くすることが要求されている。
[0004] しかし、カバーガラスの厚さを薄くしていくと、強度が低下し、使用中または携帯中の落下などによりカバーガラス自身が割れてしまうことがあり、ディスプレイ装置を保護するという本来の役割を果たすことができなくなるという問題がある。
[0005] このため従来のカバーガラスは、耐傷性を向上させるため、フロート法により製造されたフロートガラスを、化学強化することで表面に圧縮応力層を形成しカバーガラスの耐傷性を高めている。
[0006] 近年、カバーガラス等では、要求される耐傷性がより高くなっている。従来のソーダライムガラスを化学強化した化学強化フロートガラスの表面圧縮応力は500MPa程度で、圧縮応力層の深さは、おおよそ10μm程度であったが、高い耐傷性への要求に応えるために、表面圧縮応力が600MPa以上であり、圧縮応力層の深さが15μm以上である化学強化フロートガラスが開発されている。」

3イ. 「[0014]…化学強化前にフロートガラスのトップ面およびボトム面を研削処理または研磨処理等する方法は、生産性を向上させる観点から問題があり、これらの研削処理または研磨処理等を省略することが好ましい。」

3ウ. 「図面の簡単な説明
[0019][図1]…
[図2]…
[図3] 図3は、比較例1(硝材B)のフロートガラスの二次イオン質量分析による[ ^(1)H ^(-) /^(30)Si^(-)]プロファイルを示す図である。なお、図中のT面はトップ面、B面はボトム面である。

[図6]図6は、研磨IR法の概要を示す図である。
[図7]図7は、深さ0?40μmの領域についてβ-OHを算出し、SIMS法から算出した同領域の1H/30Si平均カウントと比較を実施したものである。図7において、β-OHは質量換算法により算出した。図7において、読み取り誤差は±2.5?3.5%である。なお、図7のグラフは、y=2.0977x+0.0566であり、R^(2)=0.985である。
…」

3エ. 「[0020]1.SIMS分析による水素濃度の評価
1A.規格化水素濃度による水素濃度の評価
本発明の化学強化用フロートガラスは、フロート法により成形され、成形時に溶融金属と接するボトム面と、該ボトム面に対向するトップ面とを有する。本発明者らは、フロートガラスを化学強化することにより生じる反りの主原因は、以下に説明するように、トップ面とボトム面との水素濃度差であることを見出した。
[0021] フロート法によるガラスの製造においては、フロートバスに貯留された溶融金属の表面に上流側から溶融ガラスを連続的に供給してガラスリボンを成形しつつ該フロートバスの下流側端部から成形後のガラスリボンを引き出し、レアーで徐冷することにより板ガラスを製造する。
[0022] フロート法によるガラスの製造において通常は、ガラス槽窯とフロートバスとの間が、キャナルおよびスパウトでつながっている、流路が絞られるタイプの装置が用いられる。
この場合、フロートバス内でガラスを広げる必要があるため、後述する別のタイプの装置に比べてより高温の溶融ガラスを溶融金属表面に流し出して成形する。
[0023] しかしながら、前記フロートバス内の露点が低いため、ガラス表面からH_(2)Oが拡散し、トップ面からは雰囲気中にH_(2)Oが拡散し、ボトム面からは溶融金属中にH_(2)Oが拡散する。そのため、このようなタイプの装置で製造されたフロートガラスは、内部(典型的には深さ約50μm以上)の水素濃度に比べ、表面(5?10μm)の水素濃度が小さくなる。H_(2)Oの拡散係数は温度が高い方が高いため、より低温の溶融金属と接するフロートガラスのボトム面よりも露点の低いまたは温度の高い雰囲気と接するトップ面からのH_(2)Oの拡散量の方が多くなり、フロートガラスのボトム面よりもトップ面の水素濃度が低くなる。

[0025] したがって、フロート法で製造されたガラスは、製造条件によりボトム面よりもトップ面の水素濃度が低くなるか、またはトップ面よりもボトム面の水素濃度が低くなり、トップ面とボトム面との水素濃度差が生じる。…

[0031] なお、本発明においては水素濃度そのものおよび前記水素濃度差そのものを精度よく測定することは困難であるので、水素濃度に比例する[ ^(1)H ^(-) /^(30)Si^(-)]を水素濃度の直接的な指標として、…用いる。」

3オ. 「[0059] 2.表層β-OHによる水素濃度の評価
上述したようにフロートガラス表面の脱水状態の評価には、上記した規格化水素濃度による評価が有効であるが、表層β-OHによる水素濃度の評価が、より誤差範囲が狭く好ましい。
[0060] ガラス中の水分量の指針としてIR法により測定されるβ-OHがある。β-OH測定は主にバルク板に適用される手法であり、短時間、簡便および高精度に評価ができるものの、ガラス表面数十μmの領域におけるβ-OHは測定されることがなかった。
[0061] IR法により当該領域におけるβ-OHを測定することができれば、多くの試料を汎用装置で精度よく分析することが期待できる。したがって、本発明者らは、研磨IR法という手法を考案し、ガラス表面のβ-OH(表層β-OH)の測定を検討した。
[0062] 研磨IR法の概要について、以下に説明する(図6)。研磨IR法においては、ガラス基板表面のβ-OH評価したい領域を研磨処理で除去し、研磨前後の基板をIR測定し、3500cm ^(-1)近傍に検出されるSi-OHピークの吸光度を読み取る。
[0063] 研磨前後のSi-OHピークの吸光度差と研磨厚さより、目的領域のβ-OHを算出する。研磨前の試料に比べ、研磨後の試料はSi-OHピークの強度減少が確認される。この減少した分が研磨した領域におけるガラスの吸収に相当する。
[0064] 3500cm^(-1) 近傍に存在するSi-OHピークの吸光度は、Si-OHピークトップの吸光度から3955cm^(-1) のベースの吸光度を引いて算出する。図7は、深さ0?40μmの領域についてβ-OHを算出し、SIMS法から算出した同領域の1H/30Si平均カウントとの比較したものである。β-OHと[^(1)H^(-)/^(30)Si^(-) ]平均カウントとの間には正の相関があることから、研磨IR法により算出した表層β-OHは、SIMS法と同様にガラス表面の水素濃度の評価に使用できる。」

3カ. 「[図3]



3キ. 「[図6]



3ク. 「




(2) 引用発明
ア. 上記(1-1)1ア.によれば、引用例1には、1.5mm、1.1mmおよび0.7mm等の薄型化し、軽量化したガラスであって、化学強化法によって強化したガラスを用いるのが必須となっているフラットパネルディスプレイ用カバーガラスに関する発明が記載されているとされている。

イ. 引用例1記載の発明は、上記(1-1)1イ.によれば、ガラス面内での温度変動が生じた場合でも圧縮応力の変化が小さいため、生産性に優れた大型ディスプレイ装置用カバーガラス用のガラスを提供することを発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)としているとされている。

ウ. そして、上記(1-1)1オ.に示されている、引用例1の表1および表2のガラスについて、上記(1-1)1エ.によれば、表1および表2にモル百分率で示す組成のガラス原料を白金坩堝で1400?1650℃に加熱、溶融して、清澄を行った後、鋳型に流し込んでガラスを作製し、ガラスが固化した後、ガラスをガラスの徐冷点付近に加熱された電気炉に移し、室温まで徐冷してガラスブロックを得、このガラスブロックから、厚さ1.0mmの両面が研磨されたガラスを製造したとされており、また、前記ガラスを400℃または450℃に保持したKNO_(3)中に6時間浸漬して化学強化処理を行い、強化ガラスを得たとされており、また、化学強化処理を施す前のガラス(以下、「化学強化用ガラス」という。)および化学強化処理後のガラス(以下、「化学強化ガラス」という。)を評価した結果が表1および表2に示されているとされており、また、表1および表2において、例1?11は実施例であり、例12?15は比較例であるとされている。

エ. さらに、上記(1-1)1カ.によれば、例12?15の比較例の化学強化用ガラスでは化学強化処理しても、上記イ.に示した課題を解決できなかったのに対し、例1?11の実施例の化学強化用ガラスでは化学強化処理することによって、上記イ.に示した課題が解決できたとされている。

オ. ここで、モル百分率で示されているとされている、上記(1-1)1オ.の表1および表2の例1?11の実施例の化学強化用ガラスのうちの、例えば、例4の化学強化用ガラスについて、質量百分率に換算すると、そのガラス組成は、SiO_(2)を70.6%、Al_(2)O_(3)を11.5%、Na_(2)Oを14.0%、K_(2)Oを0%、MgOを3.9%、CaOを0%、SrOを0%、BaOを0%、ZrO_(2)を0%含有するという組成であると認められ、また、上記(1-1)1オ.の表1および表2からは、当該化学強化用ガラスを450℃に保持したKNO_(3)中に6時間浸漬して化学強化処理を行って得た、表面圧縮応力が728MPaである化学強化ガラスも記載されていると認められる。

カ. 上記ア.?オ.の検討を踏まえ、例4の化学強化用ガラスに注目すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
(カ-1) 「質量百分率でSiO_(2)を70.6%、Al_(2)O_(3)を11.5%、Na_(2)Oを14.0%、K_(2)Oを0%、MgOを3.9%、CaOを0%、SrOを0%、BaOを0%、ZrO_(2)を0%含有し、厚さが1.0mmのフラットパネルディスプレイ用カバーガラスの化学強化用ガラス。」

(カ-2) また、当該化学強化用ガラスを450℃に保持したKNO_(3)中に6時間浸漬して化学強化処理を行って得た、例4の化学強化ガラスに注目すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)も記載されていると認められる。
「引用発明1の化学強化用ガラスが化学強化処理された、表面圧縮応力が728MPaであるフラットパネルディスプレイ用カバーガラスの化学強化ガラス。」

(カ-3) また、例4の化学強化ガラスの製造方法に注目すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)も記載されていると認められる。
「引用発明1の化学強化用ガラスを450℃に保持したKNO_(3)中に6時間浸漬して化学強化処理を行う工程を含む化学強化ガラスの製造方法。」


(3) 本件特許発明と引用発明との対比・判断
(3-1) 本件特許発明8と引用発明1との対比・判断
ア. 本件特許発明8と引用発明1とを対比するに、引用発明1における「質量百分率でSiO_(2)を70.6%、Al_(2)O_(3)を11.5%、Na_(2)Oを14.0%、K_(2)Oを0%、MgOを3.9%、CaOを0%、SrOを0%、BaOを0%、ZrO_(2)を0%含有」することは、本件特許発明8における「酸化物基準の質量百分率表示で、SiO_(2)を60?75%、Al_(2)O_(3)を3?12%、MgOを2?10%、CaOを0%、SrOを0%、BaOを0%、Na_(2)Oを10?18%、K_(2)Oを0%、ZrO_(2)を0%」含有することに相当し、また、引用発明1における「厚さが1.0mmのフラットパネルディスプレイ用カバーガラスの化学強化用ガラス」は、本件特許発明8における「板厚が0.2mm以上1.2mm以下であるガラス板であ」る「ガラス」に相当する。
そうすると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。
<一致点>
酸化物基準の質量百分率表示で、SiO_(2)を60?75%、Al_(2)O_(3)を3?12%、MgOを2?10%、CaOを0%、SrOを0%、BaOを0%、Na_(2)Oを10?18%、K_(2)Oを0%、ZrO_(2)を0%含有し、板厚が0.2mm以上1.2mm以下であるガラス板であるガラスの点。

<相違点>
相違点8-1: 本件特許発明8では「TiO_(2)を0?0.3%、Fe_(2)O_(3)を0.005?0.2%、及びSO_(3)を0.02?0.4%含有」するのに対し、引用発明1では「TiO_(2)を0?0.3%、Fe_(2)O_(3)を0.005?0.2%、及びSO_(3)を0.02?0.4%含有」するのか不明である点。

相違点8-2: ガラス板が、本件特許発明8では「表裏両面ともに研磨せずに測定したβ-OHの値が、前記ガラス板の表裏両面の表層をそれぞれ50μm以上研磨して測定した時のβ-OHの値よりも0.003mm^(-1)以上低くなる」のに対し、引用発明1では「表裏両面ともに研磨せずに測定したβ-OHの値が、前記ガラス板の表裏両面の表層をそれぞれ50μm以上研磨して測定した時のβ-OHの値よりも0.003mm^(-1)以上低くなる」のか不明である点。

イ. 事案に鑑み、上記相違点8-2につき検討するに、引用発明1のフラットパネルディスプレイ用カバーガラスの化学強化用ガラスは、上記(1-1)1イ.?1ウ.によれば、生産性に優れた大型ディスプレイ装置用カバーガラス用のガラスを提供することを目的とするもので、ガラスの成形法としては、大量生産に適したフロート法が好適であるというものであるから、当該化学強化用ガラスをフロート法によって成形することは容易になし得る技術事項であるところ、上記(1-3)3ア.?3イ.、3エ.によれば、フラットパネルディスプレイ装置のカバーガラスをフロート法により成形したフロートガラスの場合、化学強化前にトップ面およびボトム面を研削処理または研磨処理することは、生産性を向上させる観点から問題があり、これらの処理を省略することが好ましいとされ、また、フロートバス内の露点が低いため、ガラス表面からH_(2)Oが拡散し、トップ面からは雰囲気中にH_(2)Oが拡散し、ボトム面からは溶融金属中にH_(2)Oが拡散するため、水素濃度の直接的な指標である[ ^(1)H ^(-) /^(30)Si^(-)]の分布は、ガラスの内部に比べ表面の方が小さい、上記(1-3)3カ.に示されるとおりの分布となるとされている。

ウ. そして、上記(1-3)3ウ.、3オ.によれば、水素濃度の直接的な指標である[ ^(1)H ^(-) /^(30)Si^(-)]の値とβ-OHの値との間には、上記(1-3)3ク.に示されるとおり、[ ^(1)H ^(-) /^(30)Si^(-)]の値をx、β-OHの値をyとしたときに、y=2.0977x+0.0566で表される関係にあるとされており、上記(1-3)3カ.に示される分布から、例えば、化学強化前に研削処理や研磨処理を行わないフロートガラスのトップ面およびボトム面についての表面とその表面から50μmの深さの地点の間での[ ^(1)H ^(-) /^(30)Si^(-)]の値の違いをみてみると、トップ面、ボトム面において、それぞれ、0.015、0.01の値だけ表面の方が低いことが把握できることから、前記の関係から、β-OHの値としては、トップ面、ボトム面において、それぞれ、0.088cm^(-1)、0.078cm^(-1)の値だけ表面の方が低いことが把握できる。

エ. 上記イ.?ウ.の検討によれば、引用発明1の厚さ1.0mmのフラットパネルディスプレイ用カバーガラスの化学強化用ガラスをフロート法によって成形するフロートガラスとすることは容易になし得る技術事項であるところ、その際には、フロートバス内の露点が低いため、ガラス表面からH_(2)Oが拡散し、トップ面からは雰囲気中にH_(2)Oが拡散し、ボトム面からは溶融金属中にH_(2)Oが拡散するため、化学強化前に研削処理や研磨処理を行わない当該フロートガラスのトップ面およびボトム面についての表面とその表面から50μmの深さの地点の間でのβ-OHの値は、自然に、トップ面、ボトム面において、それぞれ、0.088cm^(-1)、0.078cm^(-1)の値だけ表面の方が低いこととなる。

オ. しかしながら、本件特許発明8で規定される「β-OH」は、本件特許の明細書の記載(【0049】?【0051】)によれば、次の式により算出され、ガラスの板厚方向の平均値として得られるものである。
β-OH=1/t×log_(10)(T_(0)/T)
(tはガラスの板厚(mm)、T_(0)は波長3846cm^(-1)における透過率、Tは波長3400?3700cm^(-1)における最小透過率である。)

カ. これに対して、上記(1-3)3ク.に示される、引用例3の「β-OH」は、引用例3の記載(上記3オ.、3キ.)によれば、ガラス表面のβ-OH評価したい領域を研磨処理で除去し、研磨前後のガラスのIR測定で3500cm ^(-1)近傍に検出されるSi-OHピークの吸光度を読み取り、研磨前後のガラスのSi-OHピークの吸光度差と研磨厚さより算出される、表面のβ-OH(表層β-OH)であって、ガラス中の水分量の指針としてIR法により測定され、バルク板に適用されるβ-OHとは異なるとされている。

キ. 上記カ.に示される、ガラス中の水分量の指針としてIR法により測定され、バルク板に適用されるβ-OHは、まさに、上記オ.に示した、本件特許発明8で規定される「β-OH」を意味していることを考慮すると、上記(1-3)3ク.に示される、引用例3の「β-OH」が、本件特許発明8で規定される「β-OH」とは異なる、表面のβ-OH(表層β-OH、以下、単に、「表層β-OH」という。)を意味していることは明らかである。

ク. 次に、引用発明1の厚さ1.0mmのフラットパネルディスプレイ用カバーガラスの化学強化用ガラスについての、上記(1-3)3カ.に示される分布と、上記イ.?キ.の検討とから把握される、化学強化前に研削処理や研磨処理を行わないフロートガラスのトップ面およびボトム面についての表面とその表面から50μmの深さの地点の間での「表層β-OH」の値は、自然に、トップ面、ボトム面において、それぞれ、0.088cm^(-1)、0.078cm^(-1)の値だけ表面の方が低いことを意味しているという技術事項とに基づき、上記相違点8-2に係る本件特許発明8の発明特定事項を満たしているかにつき、すなわち、表裏両面ともに研磨せずに測定した「β-OH」の値が、前記ガラス板の表裏両面の表層をそれぞれ50μm以上研磨して測定した時の「β-OH」の値よりも0.003mm^(-1)以上低くなるとの発明特定事項を満たしているかにつき検討してみる。

(ク-1) 前記した、トップ面、ボトム面、それぞれの、0.088cm^(-1)、0.078cm^(-1)という差は、化学強化前に研削処理や研磨処理を行わないフロートガラスのトップ面およびボトム面についての表面とその表面から50μmの深さの地点の間での「表層β-OH」の差であるが、正確な検討を期するために、再度、上記(1-3)3カ.に示される分布をみてみると、トップ面側では、表面とその表面から30μmの深さの地点までにおいて[ ^(1)H ^(-) /^(30)Si^(-)]の値が0.015だけ低くなるものの、それよりも深くなると[ ^(1)H ^(-) /^(30)Si^(-)]の値の変動は緩やかとなり、また、ボトム面側では、表面とその表面から20μmの深さの地点までにおいて[ ^(1)H ^(-) /^(30)Si^(-)]の値が0.01だけ低くなるものの、それよりも深くなると[ ^(1)H ^(-) /^(30)Si^(-)]の値の変動は緩やかとなることが把握できる。
そうすると、上記(1-3)3ク.に示されるとおりの、[ ^(1)H ^(-) /^(30)Si^(-)]の値をx、「表層β-OH」の値をyとしたときに、y=2.0977x+0.0566で表される関係にあることを考慮して、「表層β-OH」の値を求めると、トップ面側では、表面とその表面から30μmの深さの地点までにおいて0.088cm^(-1)の差が生じ、また、ボトム面側では、表面とその表面から20μmの深さの地点までにおいて0.078cm^(-1)という差が生じるものの、いずれの面においても、それらよりも深くなると「表層β-OH」の値の変動は緩やかとなると認められる。

(ク-2) 上記(ク-1)のような「表層β-OH」の値の分布においては、「表層β-OH」の値の変動が緩やかとなる箇所の、板厚方向の平均値としての「β-OH」の差への寄与は、無視できるほどに小さいと考えられることから、引用発明1の厚さ1.0mmの板厚方向の平均値としての「β-OH」の差は、トップ面側では、0.088cm^(-1)×30/1000×1/2≒0.0013cm^(-1)、ボトム面側では、0.078cm^(-1)×20/1000×1/2=0.00078cm^(-1)と換算でき、これらを合計すると、0.0013cm^(-1)+0.00078cm^(-1)=0.00208cm^(-1)であるから、0.003mm^(-1)以上低くなるとの相違点8-2に係る本件特許発明8の発明特定事項は満たさないことが明らかとなる。

ケ. 上記ク.の検討からすると、上記相違点8-2に係る本件特許発明8の発明特定事項は、引用発明1及び引用例3の記載事項に基いて、当業者が容易になし得たものといえない。

コ. また、引用例1?3全体の記載をみても、上記イ.?ケ.で検討した、引用例3の記載事項である上記(1-3)3ア.?3ク.以外には、上記相違点8-2に係る本件特許発明8の発明特定事項と関連した客観的かつ具体的な記載事項は見当たらない。

サ. 上記ア.?コ.での検討を踏まえると、上記相違点8-2に係る発明特定事項を備える本件特許発明8は、引用発明1及び引用例1?引用例3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(3-2) 本件特許発明9?10と引用発明1との対比・判断
本件特許発明9?10と引用発明1とを対比するに、本件特許発明9?10は、本件特許発明8の発明特定事項を全て備えたものであるから、引用発明1とは、少なくとも、上記相違点8-1、上記相違点8-2で相違しているところ、上記(3-1)イ.?コ.での検討と同様にして、上記相違点8-2に係る発明特定事項を備える本件特許発明9?10は、引用発明1及び引用例1?3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(3-3) 本件特許発明11と引用発明2との対比・判断
本件特許発明11と引用発明2とを対比すると、引用発明2は、上記(2)(カ-2)に示したとおりの、引用発明1の化学強化用ガラスが化学強化処理された、化学強化ガラスであるから、本件特許発明11が備える「ガラスが化学強化処理された化学強化ガラス」という発明特定事項を備えているものの、本件特許発明11は、本件特許発明8の発明特定事項を全て備えたものであるから、引用発明2とは、少なくとも、上記相違点8-1、上記相違点8-2で相違しているところ、上記(3-1)イ.?コ.での検討と同様にして、上記相違点8-2に係る発明特定事項を備える本件特許発明11は、引用発明2及び引用例1?3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(3-4) 本件特許発明1と引用発明1との対比・判断
サ. 本件特許発明1と引用発明1とを対比するに、引用発明1における「質量百分率でSiO_(2)を70.6%、Al_(2)O_(3)を11.5%、Na_(2)Oを14.0%、K_(2)Oを0%、MgOを3.9%、CaOを0%、SrOを0%、BaOを0%、ZrO_(2)を0%含有する」ことは、本件特許発明1における「酸化物基準の質量百分率表示で、SiO_(2)を60?75%、Al_(2)O_(3)を3?12%、MgOを2?10%、CaOを0%、SrOを0%、BaOを0%、Na_(2)Oを10?18%、K_(2)Oを0%、ZrO_(2)を0%」含有することに相当し、また、引用発明1における「厚さ1.0mmのフラットパネルディスプレイ用カバーガラスの化学強化用ガラス」は、本件特許発明1における「板厚が0.2mm以上1.2mm以下であるガラス板であ」る「化学強化用ガラス」に相当する。
そうすると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違していると認められる。
<一致点>
酸化物基準の質量百分率表示で、SiO_(2)を60?75%、Al_(2)O_(3)を3?12%、MgOを2?10%、CaOを0%、SrOを0%、BaOを0%、Na_(2)Oを10?18%、K_(2)Oを0%、ZrO_(2)を0%含有し、板厚が0.2mm以上1.2mm以下であるガラス板である化学強化用ガラスの点。

<相違点>
相違点1-1: 本件特許発明1では「TiO_(2)を0?0.3%、Fe_(2)O_(3)を0.005?0.2%、及びSO_(3)を0.02?0.4%含有」するのに対し、引用発明1では「TiO_(2)を0?0.3%、Fe_(2)O_(3)を0.005?0.2%、及びSO_(3)を0.02?0.4%含有」するのか不明である点。

相違点1-2: ガラス板が、本件特許発明1では「表裏両面ともに研磨せずに測定したβ-OHの値が、前記ガラス板の表裏両面の表層をそれぞれ50μm以上研磨して測定した時のβ-OHの値よりも0.003mm^(-1)以上低くなる」のに対し、引用発明1では「表裏両面ともに研磨せずに測定したβ-OHの値が、前記ガラス板の表裏両面の表層をそれぞれ50μm以上研磨して測定した時のβ-OHの値よりも0.003mm^(-1)以上低くなる」のか不明である点。

シ. そこで、上記相違点1-1、上記相違点1-2につき検討するに、それらの相違点は、それぞれ、上記相違点8-1、上記相違点8-2と同じ相違点であるから、上記(3-1)イ.?コ.での検討と同様にして、上記相違点1-2に係る発明特定事項を備える本件特許発明1は、引用発明1及び引用例1?3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(3-5) 本件特許発明2?3と引用発明1との対比・判断
本件特許発明2?3と引用発明1とを対比するに、本件特許発明2?3は、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、引用発明1とは、少なくとも、上記相違点1-1、上記相違点1-2で相違しているところ、それらの相違点は、それぞれ、上記相違点8-1、上記相違点8-2と同じ相違点であるから、上記(3-1)イ.?コ.での検討と同様にして、上記相違点1-2に係る発明特定事項を備える本件特許発明2?3も、引用発明1及び引用例1?3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(3-6) 本件特許発明4?6と引用発明2との対比・判断
本件特許発明4?6と引用発明2とを対比するに、引用発明2は、上記(2)(カ-2)に示したとおりの、引用発明1の化学強化用ガラスが化学強化処理された、化学強化ガラスであるから、本件特許発明4が備える「化学強化用ガラスが化学強化処理された化学強化ガラス」という発明特定事項を備えているものの、本件特許発明4?6は、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、引用発明2とは、少なくとも、上記相違点1-1、上記相違点1-2で相違しており、上記(3-1)イ.?コ.での検討と同様にして、上記相違点1-2に係る発明特定事項を備える本件特許発明4?6も、引用発明2及び引用例1?3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(3-7) 本件特許発明7と引用発明3との対比・判断
本件特許発明7と引用発明3とを対比するに、引用発明3は、上記(2)(カ-3)に示したとおり、引用発明1の化学強化用ガラスを450℃に保持したKNO_(3)中に6時間浸漬して化学強化処理を行う工程を含む化学強化ガラスの製造方法であるから、本件特許発明7が備える「化学強化用ガラスをイオン交換処理する化学強化工程を含む化学強化ガラスの製造方法」という発明特定事項を備えているものの、本件特許発明7は、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えたものであるから、引用発明3とは、少なくとも、上記相違点1-1、上記相違点1-2で相違しており、上記(3-1)イ.?コ.での検討と同様にして、上記相違点1-2に係る発明特定事項を備える本件特許発明7は、引用発明3及び引用例1?3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(4) なお、以上の検討は、引用例1記載の例4の化学強化用ガラスに注目して引用発明を認定して検討を行ったが、本件特許発明1?11が備えている、「ガラス板の表裏両面ともに研磨せずに測定したβ-OHの値が、前記ガラス板の表裏両面の表層をそれぞれ50μm以上研磨して測定した時のβ-OHの値よりも0.003mm^(-1)以上低くなる」との発明特定事項と関連した客観的かつ具体的な記載事項は、引用例3の記載事項である上記(1-3)3ア.?3ク.以外には見当たらないため、引用例1記載のいずれの化学強化用ガラスに注目して引用発明を認定した場合にも、以上の検討と同様にして、本件特許発明1?11は、引用発明及び引用例1?3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5) 小括
上記(2)?(4)の検討によれば、本件特許発明1?11は、引用例1?3記載の発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


4. 申立理由についての検討
(4-1) 申立理由Aについて
上記1.に示した、本件特許発明1?11は、甲第1号証に記載された発明と、技術常識及び周知技術(甲第2?8号証の記載事項)とから、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の申立理由Aにつき検討するに、上記2.に示したとおり、甲第1号証、甲第4号証、甲第5号証は、それぞれ、引用例1、引用例3、引用例2と同じであるが、甲第1号証?甲第8号証の全体の記載事項を精査してみても、本件特許発明1?11が備えている、「ガラス板の表裏両面ともに研磨せずに測定したβ-OHの値が、前記ガラス板の表裏両面の表層をそれぞれ50μm以上研磨して測定した時のβ-OHの値よりも0.003mm^(-1)以上低くなる」との発明特定事項と関連した客観的かつ具体的な記載事項は、甲第4号証の記載事項である上記3.(1-3)3ア.?3ク.以外には見当たらないため、上記3.での検討と同様にして、当該発明特定事項を備える本件特許発明1?11は、甲第1号証?甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(4-2) 申立理由Bおよび申立理由Cについて
上記1.に示した、本件特許発明1?11は、甲第9号証に記載された発明または甲第10号証に記載された発明と、技術常識及び周知技術(甲第2?8号証の記載事項)とから、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の申立理由Bと申立理由Cとにつき検討するに、甲第2号証?甲第10号証の全体の記載事項を精査してみても、本件特許発明1?11が備えている、「ガラス板の表裏両面ともに研磨せずに測定したβ-OHの値が、前記ガラス板の表裏両面の表層をそれぞれ50μm以上研磨して測定した時のβ-OHの値よりも0.003mm^(-1)以上低くなる」との発明特定事項に関連した記載事項は、甲第4号証の記載事項である上記(1-3)3ア.?3ク.以外には見当たらないため、上記3.での検討と同様にして、当該発明特定事項を備える本件特許発明1?11は、甲第9号証に記載された発明または甲第10号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第8号証に記載された発明とに基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。


第4 むすび
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?11に係る特許については、取消理由通知書に記載した取消理由、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の特許請求の範囲の請求項1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-11-13 
出願番号 特願2015-552540(P2015-552540)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 飯濱 翔太郎  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 宮澤 尚之
小川 進
登録日 2017-10-06 
登録番号 特許第6217762号(P6217762)
権利者 AGC株式会社
発明の名称 化学強化用ガラスおよび化学強化ガラス並びに化学強化ガラスの製造方法  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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