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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1345904
異議申立番号 異議2018-700401  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-15 
確定日 2018-11-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6229709号発明「正極活物質、正極材料、正極および非水電解質二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6229709号の請求項1?14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6229709号(以下「本件特許」という。)の請求項1?14に係る特許についての出願(特願2015-503008)は、2014年(平成26年) 2月27日(優先権主張 平成25年 2月28日)を国際出願日とする出願であって、平成29年10月27日にその特許権の設定登録がされ、同年11月15日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、平成30年 5月15日に、本件特許について、特許異議申立人安東和恭(以下「申立人」という。) により特許異議の申立てがされ、同年 8月16日付けで当審より取消理由が通知され、同年10月23日に、特許権者より意見書が提出された。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?14に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明14」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?14に記載された次の事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質であって、
一次粒子が凝集してなる二次粒子の構成を有し、
前記一次粒子の算術平均粒子径(D1)が0.9μm以下であり、前記一次粒子の算術平均粒子径(D1)に対する前記二次粒子の算術平均粒子径(D2)の比の値(D2/D1)が16.2?33.5であり、
結晶子径が0.35μm以下であり、
前記一次粒子の算術平均粒子径(D1)が0.25?0.48μmである、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記複合酸化物は、
一般式:Li_(a)Ni_(b)Mn_(c)Co_(d)M_(x)O_(2)(但し、式中、a、b、c、d、xは、0.9≦a≦1.2、0<b<1、0<c≦0.5、0<d≦0.5、0≦x≦0.3、b+c+d=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、SrおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種である)で表される組成を有する、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記b、cおよびdが、0.44≦b≦0.51、0.27≦c≦0.31、0.19≦d≦0.26である、請求項2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記一次粒子の算術平均粒子径(D1)に対する前記二次粒子の算術平均粒子径(D2)の比の値(D2/D1)が25?33.5である、請求項1?3のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項5】
タップ密度が2.0g/cm^(3)以上である、請求項1?4のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項6】
BET比表面積が0.1?1.0m^(2)/gである、請求項1?5のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項7】
粉末X線回折測定による(104)面の回折ピークと(003)面の回折ピークとが、回折ピーク強度比((003)/(104))として1.28以上であり、回折ピーク積分強度比((003)/(104))として1.05以上である、請求項1?6のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項8】
請求項1?7のいずれか1項に記載の正極活物質を含むコア部と、
前記正極活物質と異なるリチウム含有複合酸化物を含むシェル部と、
を有する非水電解質二次電池用正極材料。
【請求項9】
請求項1?7のいずれか1項に記載の正極活物質と、スピネル系マンガン正極活物質とが混合状態で含有されてなる、非水電解質二次電池用正極材料。
【請求項10】
請求項1?7のいずれか1項に記載の正極活物質と、前記スピネル系マンガン正極活物質との混合重量比率が、50:50?90:10である、請求項9に記載の正極材料。
【請求項11】
正極集電体の表面に、請求項1?7のいずれか1項に記載の正極活物質、および請求項8?10のいずれか1項に記載の正極材料からなる群から選択される少なくとも1種を含む正極活物質層が形成されてなる非水電解質二次電池用正極。
【請求項12】
請求項11に記載の正極と、
負極集電体の表面に負極活物質層が形成されてなる負極と、
セパレータと、
を含む発電要素を有する非水電解質二次電池。
【請求項13】
定格容量に対する電池面積(電池外装体まで含めた電池の投影面積)の比の値が5cm^(2)/Ah以上であり、かつ、定格容量が3Ah以上である、請求項12に記載の非水電解質二次電池。
【請求項14】
矩形状の正極活物質層の縦横比として定義される電極のアスペクト比が1?3である、請求項12または13に記載の非水電解質二次電池。」

第3 申立理由、取消理由
1 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証?甲第4号証を提出し、以下の申立理由1?3によって、本件の請求項1?14に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2009-59710号公報
甲第2号証:特開2007-213866号公報
甲第3号証:国際公開第2013/009078号
甲第4号証:(Li0.99Ni0.01)(Ni0.798Co0.202)O2 粉末X線回折パターンについてのデータ ICDD PDF#87-1562 写し
以下、それぞれ、「甲1」?「甲4」という。

申立理由1、申立理由2-1:
本件発明1?7、9、11?14は、甲1に記載された発明であるか、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号(申立理由1)又は特許法第29条第2項(申立理由2-1)に該当し、特許を受けることができないものであり、本件請求項1?7、9、11?14に係る特許は取り消されるべきものである。

申立理由2-2:
本件発明8、10は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができないものであり、本件請求項8、10に係る特許は取り消されるべきものである。

申立理由2-3:
本件発明8は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができないものであり、本件請求項8に係る特許は取り消されるべきものである。

申立理由2-4:
本件発明9、10は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができないものであり、本件請求項9、10に係る特許は取り消されるべきものである。

申立理由3:
本件発明1?14は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであり、本件請求項1?14に係る特許は取り消されるべきものである。

2 取消理由の概要
取消理由1:
発明の詳細な説明には、「LiNi_(0.50)Mn_(0.30)Co_(0.20)O_(2)」以外の組成の正極活物質についてまで、課題を解決し得ると認識できるまでの開示がないので、「LiNi_(0.50)Mn_(0.30)Co_(0.20)O_(2)」以外の組成の正極活物質を包含する本件発明1?14は、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

なお、取消理由1は、上記申立理由3を採用したものである。

第4 甲号証の記載事項
1 甲1について
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている(当審注:下線は、当審が付与した。以下、同様。)。
「【請求項1】
Li-Mn-Ni系複合酸化物を主成分とする正極活物質であって、前記Li-Mn-Ni系複合酸化物のBET法による比表面積が0.3m^(2)/g以上1.5m^(2)/g以下であることを特徴とする正極活物質。」

「【請求項3】
前記Li-Mn-Ni系複合酸化物が、LiMn_(0.5)Ni_(0.5)O_(2)で表される複合酸化物を構成するMn及びNiの一部が異種元素で置換され、次の一般式;
Li_(1-z)[Mn_(0.5-x-y)Ni_(0.5-x′-y′)M_(x+x′)Li_(y+y′)O_(2)](但し、Mは前記異種元素 ;
x=0.001?0.1 ; x′=0.001?0.1 ;
y=0?0.1 ; y′=0?0.1 ;
x+x′+y+y′≦0.4 ; 0≦z≦1)
で示される組成の複合酸化物であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の正極活物質。」

「【請求項5】
前記異種元素MがB,Mg,Al,Ti,V,Cr,Fe,Co,Cu及びZnから構成される群から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求の範囲第3項または第4項に記載の正極活物質。」

「【請求項12】
前記Li-Mn-Ni系複合酸化物は、CuKα線を使用した粉末エックス線回折図の、2θ=18.6±1°における回折ピークに対する2θ=44.1±1°における回折ピークの相対強度比が0.6以上1.1以下であることを特徴とする請求の範囲第1項?第11項のいずれかに記載の正極活物質。
【請求項13】
前記Li-Mn-Ni系複合酸化物は、CuKα線を使用した粉末エックス線回折図の、2θ=18.6±1°における回折ピークの半値幅が0.13°以上0.20°以下であり、かつ、2θ=44.1±1°における回折ピークの半値幅が0.10°以上0.17°以下であることを特徴とする請求の範囲第1項?第12項のいずれかに記載の正極活物質。
【請求項14】
前記Li-Mn-Ni系複合酸化物の粒径が3μm以上20μm以下である請求の範囲第1項?第13項のいずれかに記載の正極活物質。
【請求項15】
請求の範囲第1項?第14項のいずれかに記載の正極活物質を用いた非水電解質二次電池。」

「【0013】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、高率充放電性能及び充放電サイクル性能に優れ、高い安全性を有する高エネルギー密度の非水電解質二次電池を得ることのできる正極活物質、および、高率充放電性能及び充放電サイクル性能に優れる高エネルギー密度の非水電解質二次電池を提供することを目的とする。」

「【0037】
また、本発明者らは、LiMn_(0.5)Ni_(0.5)O_(2)を合成する際の焼成条件やさらに添加するLi,Mn,Ni以外の異種金属元素の種類と組成比率について鋭意検討を重ねたところ、同一組成の複合酸化物ながらも、焼成条件によって、得られる結晶の構造が大きく異なり、結晶の形態によっては充放電サイクル性能が大きく改善できることがわかった。具体的には、Li-Mn-Ni系複合酸化物がCuKα線を使用した粉末エックス線回折の2θ=18.6±1°、36.6±1°、37.8±1°、38.2±1°、44.3±1°、48.4±1°、58.4±1°、64.2±1°、64.8±1°、68.8±1°にピークを有する層状結晶構造である場合、優れたサイクル性能が得られることを確認した。
【0038】
この作用効果については必ずしも明らかではないが、前記粉末エックス線回折パターンを示す結晶は、歪みが少なく、結晶の構造自体が安定であるものと考えられる。また、特にCoを添加した場合、更に構造を安定化させる効果があり、このため、前記結晶構造物からのリチウムの引き抜き反応が、より卑な電位で進行しやすくなった結果、充放電容量が向上したものと考えられる。
【0039】
また、本発明者らは、焼成温度が850℃の場合と1000℃の場合とでは、同じ成分であっても結晶構造が大きく変わり、これに伴って充放電時の電位変化曲線の形状も大きく異なっていることがわかった。特に高率放電性能に対しては、前記焼成時の温度や焼成時間がわずかに変わるだけで、影響を与える。」

「【0080】
また、Li-Mn-Ni系複合酸化物の粒子径は小さいほど比表面積が増えるため出力特性は出やすくなるが、その他の性能、特に保存性能の低下を防ぐため、また電極作製時の塗工性を考慮して、平均粒径(D_(50))=3μm?30μmが好ましく、特に5μm?20μmが好ましい。この範囲内であれば、電池の保存性能や充放電サイクル性能には大きく影響を与えるものではなく、特に制限されるものではない。これは、前記粒径は結晶の1次粒子の粒径を示すものでなく、2次粒子の粒径を示すものであるためである。参考までに、以下の実施例に用いた正極活物質の平均粒径は全て9?20μmである。」

「【0082】
Li-Mn-Ni系複合酸化物は、900℃以上の温度で焼成する熱履歴を有することが好ましい。より具体的には、「少なくともLi成分とMn成分とNi成分とを含有するLi-Mn-Ni系複合酸化物前駆体」を900℃以上の温度で焼成してLi-Mn-Ni系複合酸化物を製造することが好ましい。ここで、焼成温度は、900℃?1100℃が好ましく、950℃?1025℃が特に好ましい。
【0083】
焼成温度が900℃を下回ると、Li-Mn-Ni系複合酸化物の比表面積を1.5m^(2)/g以下としにくく、サイクル性能が劣った電池が得られやすい。
【0084】
一方、焼成温度が1100℃を上回ると、Liの揮発によって目標とする組成の複合酸化物が得られにくいなどの作製上の問題や、粒子の高密度化によって電池性能が低下するという問題が生じやすい。これは、1100℃を上回ると、1次粒子成長速度が増加し、複合酸化物の結晶粒子が大きくなりすぎることに起因しているが、それに加えて、局所的にLi欠損量が増大して、構造的に不安定となっていることも原因ではないかと考えられる。
【0085】
焼成時間は、3時間?50時間が好ましい。焼成時間が50時間を超えると、Li-Mn-Ni系複合酸化物の比表面積を0.3m^(2)/g以上としにくく、高率充放電性能が劣った電池が得られやすい。焼成時間が3時間より少ないと、Li-Mn-Ni系複合酸化物の比表面積を1.5m^(2)/g以下としにくく、サイクル性能が劣った電池が得られやすい。
【0086】
以上に、焼成温度と焼成時間について好ましい範囲を記載したが、得られる複合酸化物の比表面積が、本発明で規定する範囲となるように適宜選択される。
【0087】
Li-Mn-Ni複合酸化物前駆体は、「マンガン(Mn)化合物とニッケル(Ni)化合物とが水に溶解された水溶液、または、Mn化合物とNi化合物と“異種元素を有する化合物”(前記した異種元素M,M’,M”を含有する化合物であり、以下、[M]化合物とも表記する)とが水に溶解された水溶液に、アルカリ化合物を添加して、Mn-Ni複合共沈物、または、Mn-Ni-[M]複合共沈物を沈殿させる共沈工程」を経由して好適に製造される。
【0088】
ここで、Ni化合物としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル等を、Mn化合物としては、酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン等を好適に挙げることができる。
【0089】
[M]化合物としては、異種元素がBである場合、ホウ酸等を、異種元素がVである場合、酸化バナジウム等を、異種元素がAlである場合、硝酸アルミニウム等を、異種元素がMgである場合、硝酸マグネシウム等を、異種元素がCoである場合、水酸化コバルト、炭酸コバルト、酸化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト等を、異種元素がCrである場合、硝酸クロム等を、異種元素がTiである場合、酸化チタン等を、異種元素がFeである場合、硫酸鉄、硝酸鉄等を、異種元素がCuである場合、硫酸銅、硝酸銅等を、異種元素がZnである場合、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛等を、それぞれ挙げることができる。
【0090】
アルカリ化合物としては、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム等を挙げることができる。また、アルカリ化合物は、水溶液の形態として添加されるのが好ましい。
【0091】
以上に説明した共沈工程を経由して得られたMn-Ni複合共沈物またはMn-Ni-[M]複合共沈物(以下、これらをまとめて、単に“複合共沈物”ともいう)とリチウム化合物との混合物をLi-Mn-Ni系複合酸化物前駆体とし、このLi-Mn-Ni系複合酸化物前駆体を前記した焼成条件に基づいて焼成することによって、Li-Mn-Ni系複合酸化物を好適に製造できる。
【0092】
ここで、Li-Mn-Ni系複合酸化物前駆体は、複合共沈物とリチウム化合物の水溶液から水を蒸発させて乾燥させて得られた混合物を好適に例示できる。
【0093】
Li化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム等を挙げることができる。
【0094】
本発明の正極活物質は、主成分である前記したLi-Mn-Ni系複合酸化物に加え、他の化合物を混合して用いてもよく、例えば、他のリチウム含有遷移金属酸化物などの1種以上を混合して用いると、高いサイクル性能が得られることがある。」

「【0098】
次に、本発明の非水電解質二次電池について説明する。本発明の非水電解質二次電池(以下、単に電池ともいう)は、本発明の正極活物質を用いた電池であり、一般的に、少なくとも、本発明の正極活物質を主要構成成分とする正極と、負極材料を主要構成成分とする負極と、電解質塩が非水溶媒に含有された非水電解質とから構成され、通常、正極と負極との間に、セパレータが設けられる。」

「【0114】
正極および負極は、前記正極活物質あるいは負極材料に、必要に応じて導電剤や結着剤を加え、N-メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒に混合させた後、得られた混合液を下記に詳述する集電体の上に塗布し、乾燥することによって、好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さおよび任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。」

「【0135】
[第一実施形態]
(実施例1-1)
硝酸マンガン及び硝酸ニッケルを、Mn:Niの原子比が1:1の割合で含む水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて共沈させ、150℃で加熱、乾燥し、マンガン-ニッケル共沈化合物を得た。水酸化リチウム水溶液に前記マンガン-ニッケル共沈化合物を添加し、攪拌後溶媒を蒸発させて乾燥した後、1000℃で12時間、酸素雰囲気下で焼成した後、粒子を分級してD50=9μmの粉末とした。BET法により測定した比表面積は1.0m2/gであった。
【0136】
該粉末のCuKα線によるエックス線回折測定の結果、2θ=18.58度、36.38度、37.68度、38.02度、44.10度、48.24度、58.22度、63.92度、64.10度、64.4度及び67.68度付近にそれぞれ回折ピークが認められ、完全に一致しているわけではないが空間群R3/mに属する層状構造と思われる結晶性の高い単相が合成できていることがわかった。該粉末のエックス線回折図を図3に示す。元素分析の結果、該粉末の組成はLiMn_(0.5)Ni_(0.5)O_(2)であることがわかった。該粉末を粉末Aとする。
【0137】
該粉末Aを正極活物質として用い、次のようにして図2に示す容量約15Ahの角形非水電解質電池を作製した。
【0138】
正極活物質である粉末A、導電剤であるアセチレンブラック及び結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を重量比85:10:5で混合し、溶剤としてN-メチルピロリドンを加え、混練分散し正極塗布液を調製した。なお、前記ポリフッ化ビニリデンは固形分が溶解分散された溶解液を用い、固形分として重量換算した。前記正極塗布液を厚さ20μmのアルミ箔集電体の両面に塗布し、全体の厚さを230μmに調整し、6.3mAh/cm^(2)の容量を持つ正極シートを作製した。前記正極シートを幅61mm、高さ107mmの形状に裁断して、シートの末端に厚さ20μm、幅10mmのアルミニウムリード板を取り付け、正極板7とした。
【0139】
人造黒鉛(粒径6μm)を負極材料として用い、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を前記負極材料に対して10重量%加え、溶剤としてN-メチルピロリドンを加え、混練分散し、負極塗布液を調製した。なお、前記ポリフッ化ビニリデンは固形分が溶解分散された溶解液を用い、固形分として重量換算した。前記負極塗布液を厚さ10μmの銅箔集電体の両面に塗布し、全体の厚さを180μmに調整し、7mAh/cm^(2)の容量を持つ負極シートを作製した。前記負極シートを幅65mm、高さ111mmの形状に裁断して、シートの末端に厚さ10μm、幅10mmの銅リード板を取り付け、負極板9とした。
【0140】
前記正極板7及び負極板9を150℃で12時間減圧乾燥した。次に、セパレータ8として、幅65mm、高さ111mmの袋形状に裁断したポリエチレン製微多孔膜の袋に前記正極板を挿入し、セパレータ8付き正極板7、負極板9の順でこれらを交互に積層し、40枚のセパレータ8付き正極板7及び41枚の負極板9からなる極群を得た。
【0141】
前記極群をポリエチレン樹脂からなる絶縁フィルムに包み込み、アルミニウム製の角形電槽10に収納し、安全弁1を有するアルミニウム製の蓋2に取り付けられた正極端子5及び負極端子4に、正極板7及び負極板9のリード板をそれぞれボルトによって接続した。なお、端子5,4はポリプロピレン樹脂からなるガスケット6を用いて前記蓋2との間を絶縁してある。
【0142】
前記蓋2と電槽10とをレーザー溶接部3においてレーザー溶接し、前記電槽10の中に、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの体積比1:1の混合溶剤にLiPF_(6)を1mol/l溶解した電解液を65g注入し、封口した後、25℃において、1.5A、4.2V、15時間の定電流定電圧充電を行い、1.5A、終止電圧3Vの定電流放電を行った。このようにして、横70mm、高さ130mm(端子込み高さ136mm)、幅22mmの角形リチウム電池を得た。この電池を実施例1-1の電池とする。」

「【0176】
(実施例2-5)
硝酸マンガン、硝酸ニッケル及び硝酸コバルトを、Mn:Ni:Coの原子比が0.95:0.95:0.1の割合で含む水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて共沈させ、150℃で加熱、乾燥して、マンガン-ニッケル-コバルト共沈化合物を得た。水酸化リチウム水溶液に前記マンガン-ニッケル-コバルト共沈化合物を添加し、攪拌後溶媒を蒸発させて乾燥した後、1000℃で12時間、酸素雰囲気下で本焼成した後、粒子を分級してD_(50)=9μmの粉末とした。BET法により測定した比表面積は0.9m^(2)/gであった。該粉末のCuKα線によるエックス線回折測定の結果、粉末Aと同様な層状構造とみられる結晶性の高い単相が合成できていることがわかった。元素分析の結果、該粉末の組成はLiMn_(0.475)Ni_(0.475)Co_(0.05)O_(2)であることがわかった。この粉末を粉末を正極活物質として用いたこと以外は(実施例1-1)と同様にして図2に示す容量約15Ahの角形リチウム電池を作製した。この電池を実施例2-5の電池とする。」

「【0211】
(実施例4-2)
硝酸マンガン、硝酸ニッケル及び硝酸コバルトを、Mn:Ni:Coの原子比が2:2:1の割合で含む水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて共沈させ、150℃で加熱、乾燥し、マンガン-ニッケル-コバルト共沈化合物を得た。水酸化リチウム水溶液に該共沈化合物を添加し、攪拌後溶媒を蒸発させて乾燥した後、1000℃で12時間、酸素雰囲気下で焼成した後、分級してD_(50)=20μmの粉末とした。BET法により測定した比表面積は0.9m^(2)/gであった。
【0212】
該粉末のCuKα線によるエックス線回折測定の結果、粉末Dと同様な層状構造とみられる結晶性の高い単相が合成できていることがわかった。元素分析の結果、該粉末の組成はLiMn_(0.4)Ni_(0.4)Co_(0.2)O_(2)であることがわかった。該粉末を正極活物質として用いたこと以外は(実施例1-1)と同様にして図2に示す容量約15Ahの角形リチウム電池を作製した。この電池を実施例4-2の電池とする。」

「【0246】
【表2】



「【0248】
【表4】



(2)甲1に記載された発明
上記(1)より、上記実施例2-5と、実施例4-2にそれぞれ着目すると、甲1には、以下の発明が記載されている。
また、上記【0080】の「平均粒径(D_(50))」、「前記粒径は」「2次粒子の粒径を示す」との記載より、上記実施例2-5と、実施例4-2の「D_(50)」は二次粒子の平均粒径である。

(甲1-1発明)実施例2-5に着目したもの
「LiMn_(0.475)Ni_(0.475)Co_(0.05)O_(2)からなる非水電解質二次電池用正極活物質であって、
二次粒子の平均粒径(D_(50))が9μmである、非水電解質二次電池用正極活物質。」

(甲1-2発明)実施例4-2に着目したもの
「LiMn_(0.4)Ni_(0.4)Co_(0.2)O_(2)からなる非水電解質二次電池用正極活物質であって、
二次粒子の平均粒径(D_(50))が20μmである、非水電解質二次電池用正極活物質。」

2 甲2について
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
電池活物質であって、少なくとも2種以上の活物質材料から構成され、粒子内の材料がコア-シェル型構造となっており、コア部の活物質材料に対してシェル部の活物質材料が高出力であることを特徴とする電池活物質。
【請求項2】
請求項1に記載の電池活物質であって、コア部の活物質材料が、リチウム金属複合酸化物、リチウム金属複合リン酸化合物、リチウム金属複合硫酸化合物、金属酸化物、金属硫化物、導電性高分子の少なくともいずれか、あるいはこれらの混合であることを特徴とする電池活物質。
・・・
【請求項4】
請求項3に記載の電池活物質であって、シェル部の活物質材料が、スピネルマンガン系のリチウム金属複合酸化物(以下、LiMn_(2)O_(4)と略記する。)であることを特徴とする電池活物質。」

3 甲3について
甲3には、以下の旨の記載がある。




当審訳:
「[請求項1]
正極活物質として、下記化学式1で表される層状構造の第1正極活物質と、化学式2で表されるスピネル構造の第2正極活物質とを含んでおり、前記第1正極活物質の含量が正極活物質全体の重量を基準として40?100重量%である正極と、容量が300mAh/g以上である非晶質カーボンを含む負極と、分離膜と、を含むことを特徴とする、高エネルギーのリチウム二次電池。
Li_(x)(Ni_(v)Mn_(w)Co_(y)M_(z))O_(2-t)A_(t) (1)
上記式において、
0.8<x≦1.3、0≦v≦0.9、0≦w≦0.9、0≦y≦0.9、0≦z≦0.9、x+v+w+y+z=2、0≦t≦0.2、
Mは、+2価?+4価の酸化数を有する一つ以上の金属または遷移金属カチオンであり、
Aは、-1または-2価のアニオンである。
Li_(a)Mn_(2-b)M’_(b)O_(4-c)A’_(c) (2)
上記式において、
0.8<a≦1.3、0≦b≦0.5、0≦c≦0.3、
M’は、+2価?+4価の酸化数を有する一つ以上の金属または遷移金属カチオンであり、
A’は、-1または-2価のアニオンである。」





当審訳:
「[56]容量対平均粒径が0.05μm/mAhであるLiNi_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)と、容量対平均粒径が0.14μm/mAhであるLiMn_(2)O_(4)とを70:30の混合比で混合した正極活物質:導電材:バインダーの量が、89:6.0:5.0となるように計量した後、NMPに入れてミキシング(mixing)して、正極合剤を製造し、20μmの厚さのアルミホイルに上記正極合剤をコーティングした後、圧延及び乾燥して、正極を製造した。」

4 甲4について
甲4には、「Lithium Nickel Cobalt Oxide (Li0.99Ni0.01)(Ni0.798Co0.202)O2」のX線回折パターンについて以下の旨の記載がある。
2θ=18.773°、36.709°、38.075°、38.377°、44.519°、48.714°、58.586°、58.805°、64.577°、64.991°、68.311°にピークを有しており、2θ=18.773°のピークが(003)面、2θ=44.519°のピークが(104)面となることがみてとれる。

第5 当審の判断
1 取消理由1について(特許法第36条第6項第1号)
ア 発明が解決しようとする課題
発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付与した。以下同様。
「【0004】
電動車両への適用を指向した非水電解質二次電池は、高出力および高容量であることが求められる。電動車両用の非水電解質二次電池の正極に使用する正極活物質としては、層状複合酸化物であるリチウムコバルト複合酸化物が、4V級の高電圧を得ることができ、かつ高いエネルギー密度を有することから、既に広く実用化されている。しかし、その原料であるコバルトは、資源的にも乏しく高価であるため、今後も大幅に需要が拡大してゆく可能性を考えると、原料供給の面で不安がある。また、コバルトの原料価格が高騰する可能性もある。そこで、コバルトの含有比率の少ない複合酸化物が望まれている。
【0005】
リチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物と同様に層状構造を有し、リチウムコバルト複合酸化物と比較して安価であり、また、理論放電容量においてもリチウムコバルト複合酸化物に匹敵する。このような観点から、リチウムニッケル複合酸化物は、実用的な大容量の電池を構成できるものとして期待されている。
【0006】
リチウムニッケル複合酸化物のようなリチウムとニッケルとを含有する複合酸化物(以下、単に「リチウムニッケル系複合酸化物」とも称する)を正極活物質に用いたリチウムイオン二次電池においては、当該複合酸化物にリチウムイオンが脱離・挿入されることにより充電・放電が行われる。このとき、リチウムイオンの脱離・挿入に伴ってこの複合酸化物が収縮-膨張するため、結晶構造の崩壊等の要因から、充放電サイクルを重ねるにつれて大きな容量低下を生じ、電池を長期間使用した場合の容量低下が著しくなるといった問題があった。
【0007】
かような課題に鑑み、例えば、特開2001-85006号公報では、放電容量およびサイクル特性の向上を目的として、リチウムニッケル複合酸化物において、二次粒子を構成する一次粒子を比較的大きなもので構成する技術が提案されている。
【発明の概要】
【0008】
しかしながら、特開2001-85006号公報に記載の技術においてもサイクル特性の向上は十分なものではなかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、非水電解質二次電池において、長期間使用した場合の容量低下を抑制し、サイクル特性を向上させうる手段を提供することである。」

上記発明の詳細な説明の記載によれば、本願の解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、「リチウムニッケル系複合酸化物からなる正極活物質を含有する正極を備えた非水電解質二次電池において、長期間使用した場合の容量低下を抑制し、サイクル特性を向上させうる手段を提供すること」である。

イ 本件発明1?14が課題を解決し得るかについて
(ア)発明の詳細な説明には、上記アの摘記に加えて、以下の記載がある。
「【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一形態によれば、リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質であって、一次粒子が凝集してなる二次粒子の構成を有し、前記一次粒子の平均粒子径(D1)が0.9μm以下であり、前記一次粒子の平均粒子径(D1)に対する前記二次粒子の平均粒子径(D2)の比の値(D2/D1)が11以上である、非水電解質二次電池用正極活物質が提供される。本形態に係る非水電解質二次電池用正極活物質によれば、一次粒子の平均粒子径(D1)が小さいことで活物質粒子の収縮-膨張の変位量をそもそも小さくすることができる。また、二次粒子の平均粒子径(D2)がD1に対してある程度大きいことで、二次粒子を構成する一次粒子の緻密性が向上し、粒界が増加する結果、さらなる収縮-膨張の緩和効果が得られる。その結果、長期間使用した場合の容量低下が少なく、サイクル特性に優れる非水電解質二次電池が提供されうる。」

「【0020】
本形態に係る正極活物質は、リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物からなるものである限り、その組成は具体的に限定されない。リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物の典型的な例としては、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO_(2))が挙げられる。ただし、リチウムニッケル複合酸化物のニッケル原子の一部が他の金属原子で置換された複合酸化物がより好ましく、好ましい例として、リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト複合酸化物(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)は、リチウム原子層と遷移金属(Mn、NiおよびCoが秩序正しく配置)原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を持ち、遷移金属Mの1原子あたり1個のLi原子が含まれ、取り出せるLi量が、スピネル系リチウムマンガン酸化物の2倍、つまり供給能力が2倍になり、高い容量を持つことができる。加えて、LiNiO_(2)より高い熱安定性を有しているため、正極活物質として用いられるニッケル系複合酸化物の中でも特に有利である。」

「【0022】
NMC複合酸化物は、理論放電容量が高いことから、好ましくは、一般式(1):Li_(a)Ni_(b)Mn_(c)Co_(d)M_(x)O_(2)(但し、式中、a、b、c、d、xは、0.9≦a≦1.2、0<b<1、0<c≦0.5、0<d≦0.5、0≦x≦0.3、b+c+d=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crから選ばれる元素で少なくとも1種類である)で表される組成を有する。ここで、aは、Liの原子比を表し、bは、Niの原子比を表し、cは、Coの原子比を表し、dは、Mnの原子比を表し、xは、Mの原子比を表す。サイクル特性の観点からは、一般式(1)において、0.4≦b≦0.6であることが好ましい。なお、各元素の組成は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定できる。」

「【0024】
NMC複合酸化物において、本発明者らは、例えば、LiNi_(0.5)Mn_(0.3)Co_(0.2)O_(2)のように、ニッケル、マンガンおよびコバルトの金属組成が不均一であると、上記充放電時の複合酸化物のひずみ/割れの影響が大きくなることを見出した。これは、金属組成が不均一であるために、膨張収縮時に粒子内部にかかる応力にひずみが生じ、複合酸化物に割れがより生じやすくなるためであると考えられる。したがって、例えば、Niの存在比がリッチである複合酸化物(例えば、LiNi_(0.8)Mn_(0.1)Co_(0.1)O_(2))や、Ni、MnおよびCoの存在比率が均一である複合酸化物(例えば、LiNi_(0.3)Mn_(0.3)Co_(0.3)O_(2))と比較して、長期サイクル特性の低下が顕著となる。一方、本形態に係る構成とすることにより、LiNi_(0.5)Mn_(0.3)Co_(0.2)O_(2)のように金属組成が不均一である複合酸化物においても、驚くべきことに、サイクル特性が改善されることを見出した。」

「【0118】
[実施例1]
(1)正極活物質の作製
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、および硫酸マンガンを溶解した水溶液(1mol/L)に、60℃にて水酸化ナトリウムおよびアンモニアを連続的に供給してpHを11.3に調整し、共沈法によりニッケルとマンガンとコバルトとが50:30:20のモル比で固溶してなる金属複合水酸化物を作製した。
【0119】
この金属複合水酸化物と炭酸リチウムを、Li以外の金属(Ni、Co、Mn)の合計のモル数とLiのモル数の比が1:1となるように秤量した後、十分混合し、昇温速度5℃/minで昇温し、空気雰囲気で900℃、2時間仮焼成した後、昇温速度3℃/minで昇温し、920℃で10時間本焼成し、室温まで冷却してNMC複合酸化物(LiNi_(0.50)Mn_(0.30)Co_(0.20)O_(2))を得た。」

「【0124】
[実施例2]
本焼成の条件を930℃、12時間としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法によりNMC複合酸化物(LiNi_(0.50)Mn_(0.30)Co_(0.20)O_(2))を合成し、コインセルを作製して、各物性評価および電池評価を実施した。結果を下記の表1に示す。
【0125】
[実施例3]
本焼成の条件を935℃、12時間としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法によりNMC複合酸化物(LiNi_(0.50)Mn_(0.30)Co_(0.20)O_(2))を合成し、コインセルを作製して、各物性評価および電池評価を実施した。結果を下記の表1に示す。
【0126】
[実施例4]
本焼成の条件を940℃、12時間としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法によりNMC複合酸化物(LiNi_(0.50)Mn_(0.30)Co_(0.20)O_(2))を合成し、コインセルを作製して、各物性評価および電池評価を実施した。結果を下記の表1に示す。
【0127】
[実施例5]
本焼成の条件を940℃、15時間としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法によりNMC複合酸化物(LiNi_(0.50)Mn_(0.30)Co_(0.20)O_(2))を合成し、コインセルを作製して、各物性評価および電池評価を実施した。結果を下記の表1に示す。
【0128】
[実施例6]
本焼成の条件を950℃、12時間としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法によりNMC複合酸化物(LiNi_(0.50)Mn_(0.30)Co_(0.20)O_(2))を合成し、コインセルを作製して、各物性評価および電池評価を実施した。結果を下記の表1に示す。
【0129】
[実施例7]
本焼成の条件を980℃、12時間としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法によりNMC複合酸化物(LiNi_(0.50)Mn_(0.30)Co_(0.20)O_(2))を合成し、コインセルを作製して、各物性評価および電池評価を実施した。結果を下記の表1に示す。
【0130】
[比較例1]
本焼成の条件を1000℃、10時間としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法によりNMC複合酸化物(LiNi_(0.50)Mn_(0.30)Co_(0.20)O_(2))を合成し、コインセルを作製して、各物性評価および電池評価を実施した。結果を下記の表1に示す。
【0131】
[比較例2]
本焼成の条件を1000℃、20時間としたこと以外は、上述した実施例1と同様の手法によりNMC複合酸化物(LiNi_(0.50)Mn_(0.30)Co_(0.20)O_(2))を合成し、コインセルを作製して、各物性評価および電池評価を実施した。結果を下記の表1に示す。」
「【0132】
【表1】



(イ)上記表1の記載によれば、実施例1?実施例4については、200サイクル後容量維持率が92.1%(実施例3)以上となっており、実施例5?7、比較例1?2に比して高い値となっており、上記アの課題を解決しているといえる。
ここで、実施例1?実施例4は、全て「LiNi_(0.50)Mn_(0.30)Co_(0.20)O_(2)」との組成の正極活物質を用いている。

(ウ)上記【0004】?【0009】の記載によれば、リチウムコバルト複合酸化物が、4V級の高電圧を得ることができ、かつ高いエネルギー密度を有するが、コバルトは、資源的に乏しく高価であり、コバルトの含有比率の少ない複合酸化物が望まれているところ、リチウムニッケル複合酸化物が、大容量の電池を構成できるものとして期待されているが、リチウムニッケル複合酸化物は、リチウムイオンの脱離・挿入に伴って収縮-膨張するため、サイクル特性に問題があり、本件発明は、リチウムニッケル複合酸化物において、サイクル特性を向上させることを課題としている。

(エ)また、上記【0020】には、「本形態に係る正極活物質は、リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物からなるものである限り、その組成は具体的に限定されない。」と記載されているように、本件発明1の「リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質」であれば、「LiNi_(0.50)Mn_(0.30)Co_(0.20)O_(2)」の組成以外であっても課題を解決し得るとされており、その説明として、【0013】に「一次粒子の平均粒子径(D1)が小さいことで活物質粒子の収縮-膨張の変位量をそもそも小さくすることができる。また、二次粒子の平均粒子径(D2)がD1に対してある程度大きいことで、二次粒子を構成する一次粒子の緻密性が向上し、粒界が増加する結果、さらなる収縮-膨張の緩和効果が得られる。その結果、長期間使用した場合の容量低下が少なく、サイクル特性に優れる非水電解質二次電池が提供されうる。」と記載されている。

(オ)平成30年10月23日付けの特許権者の意見書によれば、上記【0013】の「一次粒子の緻密性」とは、「活物質(の二次粒子)の単位体積当たりに含まれる一次粒子の個数」を意味し、「一次粒子の緻密性が向上する」とは、「活物質(の二次粒子)の単位体積当たりに含まれる一次粒子の個数が増加する」ことを意味し、「粒界が増加する」とは、「一次粒子の表面積の合計が増加する」ことを意味し、個々の一次粒子が収縮-膨張して発生する応力は、一次粒子同士の界面(粒界)において吸収され、緩和される。
そうすると、上記【0013】の「二次粒子の平均粒子径(D2)がD1に対してある程度大きいことで、二次粒子を構成する一次粒子の緻密性が向上し、粒界が増加する結果、さらなる収縮-膨張の緩和効果が得られる。」とは、D2/D1がある程度大きいことで、二次粒子の単位体積当たりに含まれる一次粒子の個数が増加し、その結果、一次粒子の表面積の合計が増加し、個々の一次粒子が収縮-膨張して発生する応力は、一次粒子同士の界面(粒界)において吸収され、緩和されるから、一次粒子の表面積の合計が増加するほど、応力の緩和効果は大きくなるとの意味であると理解できる。

(カ)また、【0020】、【0022】には、「リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物」の典型例として、LiNiO_(2)が挙げられており、より好ましい例として、NMC複合酸化物が記載されており、NMC複合酸化物の好ましい組成として、一般式(1):Li_(a)Ni_(b)Mn_(c)Co_(d)M_(x)O_(2)(但し、式中、a、b、c、d、xは、0.9≦a≦1.2、0<b<1、0<c≦0.5、0<d≦0.5、0≦x≦0.3、b+c+d=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crから選ばれる元素で少なくとも1種類である)が記載されている。

(キ)上記【0024】には、NMC複合酸化物において、例えば、LiNi_(0.5)Mn_(0.3)Co_(0.2)O_(2)のように、ニッケル、マンガンおよびコバルトの金属組成が不均一であると、上記充放電時の複合酸化物のひずみ/割れの影響が大きくなることが記載されており、当該LiNi_(0.5)Mn_(0.3)Co_(0.2)O_(2)のように、ニッケル、マンガンおよびコバルトの金属組成が不均一なNMC複合酸化物は、例えば、Niの存在比がリッチである複合酸化物(例えば、LiNi_(0.8)Mn_(0.1)Co_(0.1)O_(2))や、Ni、MnおよびCoの存在比率が均一である複合酸化物(例えば、LiNi_(0.3)Mn_(0.3)Co_(0.3)O_(2))と比較して、長期サイクル特性の低下が顕著であることが記載されている。

(ク)(イ)?(キ)を総合すると、以下の事項が理解できる。
・リチウム金属複合酸化物において、Niを含む複合酸化物は、リチウムイオンの脱離・挿入に伴って収縮-膨張する。
・D2/D1がある程度大きいことで、二次粒子の単位体積当たりに含まれる一次粒子の個数が増加し、その結果、一次粒子の表面積の合計が増加し、個々の一次粒子が収縮-膨張して発生する応力は、一次粒子同士の界面(粒界)において吸収され、緩和されるから、一次粒子の表面積の合計が増加するほど、応力の緩和効果は大きくなり、サイクル特性が向上する。
・「リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物」の典型例は、LiNiO_(2)であり、また、一般式Li_(a)Ni_(b)Mn_(c)Co_(d)M_(x)O_(2)(但し、式中、a、b、c、d、xは、0.9≦a≦1.2、0<b<1、0<c≦0.5、0<d≦0.5、0≦x≦0.3、b+c+d=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crから選ばれる元素で少なくとも1種類である)には、例えばc=0.5又はd=0.5であるような、Niより、MnやCoをより多く含むものも含まれる。
・Niを含む複合酸化物の中でも、LiNi_(0.5)Mn_(0.3)Co_(0.2)O_(2)のように、ニッケル、マンガンおよびコバルトの金属組成が不均一なNMC複合酸化物は、Niの存在比がリッチである複合酸化物(例えば、LiNi_(0.8)Mn_(0.1)Co_(0.1)O_(2))や、Ni、MnおよびCoの存在比率が均一である複合酸化物(例えば、LiNi_(0.3)Mn_(0.3)Co_(0.3)O_(2))と比較して、長期サイクル特性の低下が顕著である。
・実施例1?4によれば、ニッケル、マンガンおよびコバルトの金属組成が不均一なNMC複合酸化物である、LiNi_(0.5)Mn_(0.3)Co_(0.2)O_(2)であっても、一次粒子の算術平均粒子径(D1)に対する前記二次粒子の算術平均粒子径(D2)の比の値(D2/D1)が16.2?33.5であり、結晶子径が0.35μm以下であり、前記一次粒子の算術平均粒子径(D1)が0.25?0.48μmであるものは、課題を解決する。

(ケ)そうすると、実施例において、課題を解決することが示されている「LiNi_(0.5)Mn_(0.3)Co_(0.2)O_(2)」は、本件発明1の「リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物」のうち、「ニッケル、マンガンおよびコバルトの金属組成が不均一なNMC複合酸化物」であって、特に、リチウムイオンの脱離・挿入に伴う収縮-膨張に起因する長期サイクル特性の低下が顕著なものであるにもかかわらず、上記課題を解決している以上、長期サイクル特定の低下が顕著ではない、Niの存在比がリッチである複合酸化物やNi、MnおよびCoの存在比率が均一である複合酸化物を含む、「ニッケル、マンガンおよびコバルトの金属組成が不均一なNMC複合酸化物」以外の組成の「リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物」においても、「一次粒子の算術平均粒子径(D1)に対する前記二次粒子の算術平均粒子径(D2)の比の値(D2/D1)が16.2?33.5であり、結晶子径が0.35μm以下であり、前記一次粒子の算術平均粒子径(D1)が0.25?0.48μm」であれば、当然に課題を解決し得ると理解することができる。
なお、「リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物」のうち、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO_(2))のニッケル原子の一部を置換する金属原子の含有割合より、Niの含有割合が少ないものについては、リチウムイオンの脱離・装入に伴う収縮-膨張は、複合酸化物がNiを含有することによるものであって、Niの含有割合が少なければ、そもそも収縮-膨張の度合いも少ないから、当然に、課題を解決し得るといえる。

(コ)よって、正極活物質が「リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物」からなる本件発明1は、課題を解決し得るといえ、発明の詳細な説明に記載したものである。
また、本件発明1を引用する本件発明2?14も同様に、発明の詳細な説明に記載したものである。

2 取消理由に採用しなかった申立理由について
(1)申立理由1(特許法第29条第1項第3号)と、申立理由2-1?2-4(特許法第29条第2項)について

ア 本件発明1と甲1-1発明、甲1-2とを対比すると、甲1-1発明の「LiMn_(0.475)Ni_(0.475)Co_(0.05)O_(2)」及び甲1-2発明の「LiMn_(0.4)Ni_(0.4)Co_(0.2)O_(2)」は、いずれも、本件発明1の「リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物」に相当する。
また、甲1-1発明及び甲1-2発明は、いずれも二次粒子の平均粒径が特定されており、二次粒子が一次粒子からなることは技術常識であるから、甲1-1発明及び甲1-2発明は、いずれも、本件発明1の「一次粒子が凝集してなる二次粒子の構成を有し」との構成を有しているといえる。
よって、本件発明1と、甲1-1発明及び甲1-2発明とは、少なくとも以下の点で相違する。

相違点1:本件発明1は、「一次粒子の算術平均粒子径(D1)が0.9μm以下であり」「一次粒子の算術平均粒子径(D1)が0.25?0.48μmである」のに対し、甲1-1発明及び甲1-2発明は、いずれも、「一次粒子の算術平均粒子径(D1)」が不明である点。

相違点2:本件発明1は、「一次粒子の算術平均粒子径(D1)に対する二次粒子の算術平均粒子径(D2)の比の値(D2/D1)が16.2?33.5」であるのに対し、甲1-1発明及び甲1-2発明は、二次粒子の平均粒径(D50)はそれぞれ9μm、20μmであるものの、「D2/D1」が不明である点。

相違点3:本件発明1は、「結晶子径が0.35μm以下」であるのに対し、甲1-1発明、甲1-2発明は、結晶子径が不明である点。

イ 相違点1、相違点2について検討する。
甲1には、「リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質」の一次粒子の算術平均粒子径(D1)について記載も示唆もない。
ましてや、「一次粒子の算術平均粒子径(D1)に対する二次粒子の算術平均粒子径(D2)の比の値(D2/D1)が16.2?33.5」とすることについて、記載も示唆もない。
また、当該相違点1、相違点2に係る事項について、甲2?甲4のいずれにも記載も示唆もないから、甲1-1発明及び甲1-2発明において、これら事項を特定する動機付けは存在しない。
したがって、甲1-1発明及び甲1-2発明において、相違点1、相違点2に係る事項を備えるとすることは、当業者にとって容易とはいえない。
よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明と、甲2?甲4に記載された事項と基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ この点について、申立人は、特許異議申立書第12頁第1行?第13行において、本件発明1を以下のように分説し、構成要件(C)、(D)について、以下のように主張している。(特許異議申立書第27頁第16行?第29頁第13行、第29頁第17行?第30頁第22行)

「(iii) 本件特許発明
本件特許発明は、特許請求の範囲に記載されたとおりのもので、以下に、構成要件毎に分説して記載する。
特許発明1(【請求項1】)
(A)リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質であって、
(B)一次粒子が凝集してなる二次粒子の構成を有し、
(C)前記一次粒子の算術平均粒子径(D1)が0.9μm以下であり、
(D)前記一次粒子の算術平均粒子径(D1)に対する前記二次粒子の算術平均粒子径(D2)の比の値(D2/D1)が16.2?33.5であり、
(E)結晶子径が0.35μm以下であり、
(F)前記一次粒子の算術平均粒子径(D1)が0.25?0.48μmである、
(G)非水電解質二次電池用正極活物質。」

「・構成要件(C)、(D)について
本件特許発明1の構成要件(C)、(D)は、甲第1号証に直接的な記載がない点で、両者は文言上相違する。
しかしながら、本件特許明細書の[0032]?[0038]には、『本形態に係るNMC複合酸化物などのリチウムニッケル系複合酸化物は、共沈法、スプレードライ法など、種々公知の方法を選択して調整することができる。・・・ニッケル-コバルト-マンガン複合水酸化物をリチウム化合物と混合して焼成することによりリチウム-ニッケル-マンガン-コバルト複合酸化物を得ることができる。Li化合物としては、例えば、水酸化リチウムまたはその水和物、過酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム等がある。』と記載されている。
さらに、本件特許明細書の[0039]には、ニッケル-コバルト-マンガン複合酸化物をリチウム化合物と混合して焼成する際の条件について、『焼成処理は、1段階であってもよいが、2段階(仮焼成および本焼成)で行うことが好ましい。2段階の焼成により、効率よく複合酸化物を得ることができる。・・・ここで、特にD1(ひいてはD2/D1)および結晶子径を制御するための因子としては、焼成(2段階の場合には仮焼成および本焼成)時の焼成温度および焼成時間が特に重要であり、これらを以下のような傾向に基づき調節することで、D1(ひいてはD2/D1)および結晶子径を制御することが可能である。・・・本焼成の条件についても特に限定されるものではないが、昇温速度は室温から1?20℃/分であることが好ましい。また、雰囲気は、空気中ないし酸素雰囲気下であることが好ましい。また、Li原料に炭酸リチウムを用いて、NMC複合酸化物を合成する場合において、焼成温度は、好ましくは800?1200℃であり、より好ましくは850?1100℃であり、さらに好ましくは900?1050℃である。さらに、焼成時間は、好ましくは1?20時間であり、より好ましくは8?12時間である。』と記載されている。
そして、本件特許明細書に開示された実施例1?7([0118]?[0129]、表1)においては、本焼成の焼成温度、及び焼成時間を変化させることで、一次粒子平均粒子径、二次粒子平均粒子径、結晶子径を調整した例が開示されている。

以上の本件特許明細書の開示内容に照らせば、本件特許発明1で規定する正極活物質は、共沈法によりニッケル-コバルト-マンガン複合水酸化物を製造し、該ニッケル-コバルト-マンガン複合水酸化物とリチウム化合物との混合物を焼成することで調整することができる。
そして、本件特許明細書[0039]の記載から明らかなように、混合物を焼成する際の焼成条件によって、得られる正極活物質の一次粒子平均粒子径(D1)、一次粒子の算術平均粒子径(D1)に対する二次粒子の算術平均粒子径(D2)の比の値(D2/D1)、及び結晶子径が制御されている。この際、上記パラメータは独立に制御できるものではなく、いずれかのパラメータが本件特許発明1の規定を充足する場合には、他のパラメータも充足するものと解することができる。このことは、本件特許明細書に開示された、混合物の本焼成の焼成条件のみが異なる、実施例1?7、比較例1、2のうち、実施例1?4は、一次粒子平均粒子径、D2/D1、結晶子径の全てについて本件特許発明1の規定を充足するのに対して、実施例5?7、比較例1、2は、上記パラメータ全てについて本件特許発明1の規定を充足しないことからも明らかである。

ここで、甲第1号証に開示された発明においては、甲1-11、甲1-17、甲1-18に開示されているように、本件特許発明と同様に、共沈法で合成されたMn-Ni複合共沈物と、リチウム化合物との混合物を焼成することで、Li-Mn-Ni系複合酸化物を生成している。そして、焼成条件として、本件特許発明と同様に900℃?1100℃の温度で、3時間から50時間焼成することが好ましいとされている(甲1-11)。
以上のように、甲第1号証においては、本件特許発明と同じ条件で正極活物質であるLi-Mn-Ni系複合酸化物を調整しており、それにより得られた物は、当然に本件特許発明1の構成要件(C)、(D)を充足するものといえる。
・・・
さらに、構成要件(E)についてで後述するように、甲第1号証に開示された正極活物質は、構成要件(E)を充足する。そして、上述の本件特許明細書[0039]の記載から明らかなように、混合物を焼成する際の焼成条件によって、得られる正極活物質の一次粒子平均粒子径(D1)、D2/D1、及び結晶子径が制御され、パラメータは独立に制御できるものではなく、いずれかのパラメータが本件特許発明1の規定を充足する場合には、他のパラメータも充足する。このため、甲第1号証に開示された正極活物質が、構成要件(E)で規定する結晶子径を充足する以上、係る甲第1号証に開示された正極活物質は、構成要件(C)、(D)で規定する一次粒子の算術平均粒子径(D1)、及び一次粒子の算術平均粒子径に対する二次粒子の算術平均粒子径の比の値(D2/D1)も充足するものといえる。
従って、係る観点からも甲第1号証に開示された正極活物質は、構成要件(C)、(D)を充足するものといえる。

また、本件特許発明は非水電解質二次電池において、サイクル特性を向上させうる手段を提供することを課題としており([0009])、一次粒子の平均粒子径、一次粒子と二次粒子との平均粒子径の比を本件特許発明1で規定する所定の範囲することで係る課題を解決できる旨記載されている([0010])。そして、係るパラメータはニッケル-コバルト-マンガン-複合水酸化物とリチウム化合物との混合物を焼成する際の条件を選択することで制御できるとされている([0039])。
一方、甲第1号証についても、充放電サイクル性能に優れた非水電解質二次電池を得ることのできる正極活物質を提供することを目的としており(甲1-8)、共沈法で合成されたMn-Ni複合共沈物と、リチウム化合物との混合物を焼成する際の焼成条件によりサイクル特性を制御できることも開示されている(甲1-9、甲1-11)。
そうすると、甲第1号証に開示された発明において、サイクル特性を高めるために共沈法で合成されたMn-Ni複合共沈物と、リチウム化合物との混合物を焼成する際の焼成条件を調整、選択することは当業者であれば容易に想到し得ることである。そして、甲第1号証に開示された発明は、本件特許発明と同じ目的で焼成条件を調整、選択する以上、それにより得られる物についても、本件特許発明の規定を充足するものといえる。
このため、構成要件(C)、(D)は、甲第1号証に基づいて、当業者であれば容易に想到し得るものである。」(引用ここまで)

エ しかしながら、甲1の実施例2-5及び実施例4-2の製造方法は、本件の実施例1?4の製造方法と、その材料、焼成温度、焼成時間、昇温速度等が、全く同じというわけではない。
また、甲1の上記【0039】の「焼成温度が850℃の場合と1000℃の場合とでは、同じ成分であっても結晶構造が大きく変わり、これに伴って充放電時の電位変化曲線の形状も大きく異なっている・・・特に高率放電性能に対しては、前記焼成時の温度や焼成時間がわずかに変わるだけで、影響を与える。」との記載によれば、焼成時の焼成時間、焼成時間等の条件は、わずかに異なるだけでも、結晶構造に影響を与えるところ、甲1の実施例2-5及び実施例4-2の製造方法は、本件の実施例1?4の製造方法と、その材料、焼成温度、焼成時間、昇温速度等が、全く同じというわけではないから、甲1-1発明及び甲1-2発明において、相違点1、相違点2に係る事項を備えるものとなっているとまではいえない。
さらに、結晶子径と、一次粒子径、二次粒子径、D2/D1は、それぞれ別の物理的パラメータであって、本件特許明細書の実施例及び比較例に、本件発明1に特定される、D1、D2/D1、結晶子径の条件の全てを満たす実施例1?4と、全てを満たさない実施例5?7、比較例1?2の記載しかないからといって、「これらパラメータは独立に制御できるものではなく、いずれかのパラメータが本件特許発明1の規定を充足する場合には、他のパラメータも充足するものと解することができる」とまではいうことができない。

オ また、上記イのとおり、甲1-1発明及び甲1-2発明において、相違点1、相違点2に係る事項を備えるとすることは、当業者にとって容易とはいえない。

カ したがって、上記エ、オのとおり、上記ウの申立人の主張は採用できない。

キ 以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明と、甲2?甲4に記載された事項と基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ケ また、本件発明2?14は、請求項1を引用するものであるから、同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-11-08 
出願番号 特願2015-503008(P2015-503008)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 冨士 美香  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 結城 佐織
長谷山 健
登録日 2017-10-27 
登録番号 特許第6229709号(P6229709)
権利者 日産自動車株式会社
発明の名称 正極活物質、正極材料、正極および非水電解質二次電池  
代理人 八田国際特許業務法人  
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