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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A47K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A47K
管理番号 1345905
異議申立番号 異議2018-700164  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-23 
確定日 2018-11-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6186482号発明「トイレットロール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6186482号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6186482号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成28年9月23日に特許出願され、平成29年8月4日にその特許権の設定登録がされ、平成29年8月23日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年2月23日に特許異議申立人村上清子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、さらに平成30年4月6日に上申書が提出されたところ、当審は、平成30年5月29日付け(平成30年6月5日発送)で取消理由を通知した。それに対し、特許権者は、平成30年8月6日に意見書を提出し、その後、申立人は平成30年9月14日に上申書を提出したものである。

2 本件発明
「【請求項1】
2プライ積層したトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイレットロールであって、
前記トイレットペーパーにエンボスパターンを設け、
前記トイレットロールの巻長が63m以上105m以下、巻直径が105mm以上140mm以下、巻密度が1.1m/cm^(2)以上2.0m/cm^(2)以下、ロール密度が0.17g/cm^(3)以上0.32g/cm^(3)以下であり、
前記トイレットロールのロール柔らかさが0.4mm以上1.9mm以下であり、
前記エンボスパターンの深さが、0.01mm以上0.40mm以下である、
るトイレットロール。
【請求項2】
前記トイレットロールの巻密度が1.7m/cm^(2)以上2.0m/cm^(2)以下である請求項1に記載のトイレットロール。
【請求項3】
前記エンボスパターンがシングルエンボスパターンである請求項1又は2に記載のトイレットロール。
【請求項4】
前記トイレットペーパーは、クラフトパルプを40質量%以上100質量%以下含有する請求項1から3のいずれかに記載のトイレットロール。
【請求項5】
前記トイレットペーパーは、ミルクカートン由来の古紙パルプを0質量%より多く60質量%以下含有する請求項1から4のいずれかに記載のトイレットロール。
【請求項6】
CIE(国際照明委員会)が規定するC光源を前記トイレットペーパーの表面側に照射したときのISO 2470に準拠した白色度UV-inと、波長420nm以下の紫外光をカットするフィルタを介して、前記C光源を前記トイレットペーパーの表面側に照射したときのISO 2470に準拠した白色度UV-cutとの差Δが0.0ポイント以上2.5ポイント以下である請求項1から5のいずれかに記載のトイレットロール。」
(以下、請求項1ないし請求項6に係る発明を、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」といい、全体を「本件発明」という。)

3 取消理由の概要
当審において、請求項1ないし6に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2)本件特許は、本件発明1ないし6が、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は取り消すべきものである。

甲第1号証:特開2014-188342号公報
甲第2号証:特開2003-275128号公報
甲第3号証:特開2006-43458号公報
甲第4号証:特開2010-259706号公報
甲第5号証:再公表特許第2012/043378号
甲第6号証:特許第4914156号公報
甲第7号証:特開2002-69896号公報
甲第8号証:特開2003-199687号公報
甲第9号証:特開2013-13500号公報
(甲第8号証、甲第9号証は、平成30年9月14日付け上申書に添付されたものである。)

4 甲各号証の記載
(1)甲第1号証
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体をロール状に巻き取った衛生薄葉紙ロールであって、前記衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13g/m^(2)を超え17g/m^(2)以下、かつ紙厚が0.6mm/10枚を超え1.1mm/10枚以下であり、
当該衛生薄葉紙ロールの巻長が74?93m、巻直径が100?130mmである衛生薄葉紙ロール。」

イ 「【技術分野】
【0001】
この発明は、トイレットティシュー等のロール状をなす衛生薄葉紙ロールに関するものである。」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ロール製品を構成する紙の坪量を下げると、強度が低下すると共に使用感や嵩高さが低下する。一方、これらの不具合を補うために紙の嵩を高くするため、カレンダー処理を弱めると、柔らかさや滑らかさが劣ったり、ロール径が大きくなってトイレットペーパーホルダーに収まり難くなる問題がある。また、エンボス処理を強めると、紙厚が高くなりすぎたり、紙の表裏の使用感の差が大きくなるなどの問題がある。また、坪量を下げずに、カレンダー処理を強くして紙厚を薄くすると、ロール径を小さくすることはできるが、柔らかさがなく、品質が劣る問題がある。
従って本発明は、坪量を下げずに風合いや使用感に優れると共に1ロール当りの巻長を長くし、持ち運びや保管時の省スペース性に優れた衛生薄葉紙ロールの提供を目的とする。」

エ 「【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、坪量を下げずに風合いや使用感に優れると共に1ロール当りの巻長を長くし、持ち運びや保管時の省スペース性に優れた衛生薄葉紙ロールを得ることができる。」

オ 「【0031】
(3)エンボス処理及びロール巻取り加工
図6はロール巻取り加工機150の一例を示す。原反4は、ロール巻取り加工機150にセットされ、エンボスユニット(エンボスロール)151によってエンボス処理された後、巻取り機構153によって巻直径が100?130mmの幅広衛生薄葉紙原ロール10Wに巻き取られる。その後、原ロール10Wを所定幅(114mm等)に切り、衛生薄葉紙ロール10となる。
ロール巻取り加工機150は、大別するとサーフェイス方式とセンター方式の2種類がある。サーフェイス方式は巻取るロールを外側から別の複数の駆動ロールで支持しながら巻取る方法であり、巻取られた衛生薄葉紙ロール10は、巻き径のコントロールがし易く、生産速度がより高速となる。センター方式は巻取りロールの中心に通したシャフトの駆動により巻取る方法で、巻取られた衛生薄葉紙ロール10は、比較的柔らかな製品となり、デリケートなエンボスを施した製品に適している。本発明においては、いずれの方法でも巻き取ることができるが、好ましくはサーフェイス方式である。
なお、ロール巻取り加工機150にマシンワインダー100を組み込み、ロール巻取り加工機にてプライアップ、カレンダー処理、エンボス処理をこの順で行ってもよい。又、1枚ずつの衛生薄葉紙をそれぞれカレンダー処理後にプライアップし、エンボス処理して
もよい。
【0032】
ロール巻取り加工機150においてエンボスを施すことで、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13g/m^(2)を超え17g/m^(2)以下の範囲であっても、嵩を高くして柔らかさと、ほぐれ易さを向上させることができる。
エンボス処理前後の衛生薄葉紙の紙厚の差ΔE(エンボス処理前の紙厚-エンボス処理後の紙厚)を好ましくは-0.20?0.18mm/10枚、より好ましくは-0.10?0.10mm/10枚とする。ΔEが上記範囲を超えると、エンボス処理が十分でなくプライが剥がれたり、柔らかさが劣る場合がある。ΔEが上記範囲未満であると、エンボス処理が強すぎて、滑らかさの表裏差が大きくなる場合がある。ここで、エンボス処理前とは、カレンダー処理後と同じ意味である。
なお、エンボス処理を行うと、エンボス処理後の紙厚は、エンボス処理前より高くなり、ΔEはマイナスになる。しかし、ロール加工機では、紙を引っ張りながら巻き取るため、紙が伸びて紙厚が低くなる。従って、ロール加工機では、エンボスと紙の伸びの影響を考慮しながら、ΔEが-0.20?0.18mm/10枚となるよう、巻き取ることが好ましい。
エンボスの強さは、エンボスロールとゴムロールのニップ幅を適宜調整して制御することができる。ニップ幅は、ロールの特性によっても異なるが、好ましくは20?40mm、より好ましくは20?30mmである。ニップ幅が40mmを超えると、エンボスが強くなりすぎて表裏差が大きくなったり、紙厚が高くなってロールの巻直径DRが大きくなってしまう。一方、ニップ幅が20mm以下であると、エンボスが弱くなり、ふっくら感がなくなったり、プライが剥がれやすくなる。ニップ幅は、カーボン紙を用いて測定することができる。測定方法としては、まず、エンボスロールのニップを逃がし、カーボン紙と一般的なコピー用紙を重ねてセットする。次に、エンボスロールにニップをかける。その後、ニップを逃がし、カーボン紙とコピー用紙を取り外す。エンボスロールでニップがかかっていた部分のカーボン紙の色がコピー用紙に転写されるので、ニップ幅を測定することができる。」

カ 「【0039】
【表1】


【0040】
【表2】




キ 上記カの表1及び表2における実施例1?8、比較例1,4,6,8の巻密度を、本件特許明細書の「【0016】<巻密度>・・・トイレットロール1における巻密度は、(巻長×プライ数)÷(ロールの断面積)で表される。」に則して計算すると、それぞれ、1.6,1.6,1.5,1.5,1.7,1.3,1.6,1.5,1.7,1.9,1.2,1.1(単位:m/cm^(2))となる。

ク 上記アないしキからみて、特に、上記カの表1及び表2における実施例1?8、比較例1,4,6,8の巻長、巻直径、巻取り密度(本件発明の「ロール密度」に相当。)の各数値、及び上記キの巻密度各数値を参照すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。
「2枚の薄葉紙を重ねた積層体をロール状に巻き取った衛生薄葉紙ロールであって、
エンボス処理されており、
巻長が74m以上91m以下、
巻直径が108mm以上136mm以下、
巻密度が1.1m/cm^(2)以上1.9m/cm^(2)以下、
ロール密度が0.21g/cm^(3)以上0.26g/cm^(3)以下である、
衛生薄葉紙ロール。」

(2)甲第2号証
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンボス入りのトイレットペーパー、ペーパータオル、ティシュペーパー等の紙製品において、下記のエンボス
1)エンボス個数が50?200個/cm^(2)
2)エンボス深さが0.05?1.0mm
3)エンボス掛け後のウェブの厚さが0.5?2.5mm/10ply
4)縦と横方向の引張り強さ(gf/15mm)の相乗平均(GMT)がトイレットペーパーおよびティシュペーパーでは200gf以下、ペーパータオルでは300gf以下
5)嵩がトイレットペーパーおよびティシュペーパーでは5.0?6.5cm^(3)/g、ペーパータオルでは6.0?9.0cm^(3)/gを施したことを特徴とするエンボス入り紙製品。
【請求項2】 請求項1記載のエンボス入り紙製品を製造するためのエンボスロール。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はエンボス入りのトイレットペーパー、ペーパータオル、ティシュペーパー等の紙製品全般に関するものである。
【0002】
【従来の技術】トイレットペーパーやキッチンタオル等の衛生紙製品には、風合い、吸液性、美粧性、拭き取りやすさ等の要求される特性に応じたエンボス加工が広く施されている。多くの場合にエンボスによりシートは嵩高となるが、この結果、巻取りにおいて大径となり、積層体の場合においては積層体高さが増し、物流コストを引き上げることとなっていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】この対策として、加工時にシートのテンションを高めとしたり、積層後に圧縮処理等を行うなどすると、エンボスの潰れや消えが起き、美粧性が損なわれてしまう。さらに、嵩を出さない様に浅くエンボスを入れる場合には、エンボスの効果が十分発揮されない。加工時にテンションを高めて固巻きとしたり、圧縮処理を行っても、エンボスが潰れにくく、風合いに優れ、かつコンパクトなエンボス入り紙製品の開発がのぞまれている。近年、微少なエンボスを施したトイレットペーパー等も存在するが、上記課題を満足するには到っていない。
【0004】
【課題を解決するための手段】1プライまたは複数プライの原紙に下記のエンボスを施す。潰れにくく、巻取りあるいは積層後に風合いに優れ且つコンパクトな製品が可能となる。
1)エンボス個数が50?200個/cm^(2)
2)エンボス深さが0.05?1.0mm
3)エンボス掛け後のウェブ厚さが0.5?2.5mm/10plyである
4)GMT(注-1)がトイレットティシュでは200gf以下、ペーパータオルでは300gf以下
5)嵩がトイレットティシュでは5.0?6.5cm^(3)/g、ペーパータオルでは6.0?9.0cm^(3)/gであるようなエンボスが施されたウェブ及びそれを製造するためのエンボスロール。
※注-1 GMT=縦と横方向の引張り強度(gf/15mm)の相乗平均
【0005】
【作用】エンボス個数が、50個/cm^(2)より少ないと凹凸の触感を強く感じる。また200個/cm^(2)より多くても風合いの改善効果が劣り、またエンボスロールの詰まりが発生するなど操業性も悪化する。また、エンボス深さが0.05mmより小さいと美粧効果が得られず、1.0mm以上では、その後の加工によりエンボス潰れが生じてエンボスの効果が失われる。さらに、強度をGMTとしてトイレットペーパーで200gf、ペーパータオルで300gf以下とすることで風合いの良好で且つコンパクトな製品が得られる。
【0006】
【発明の効果】本発明の効果を要約して列記すると次の通りである。
1)肌触りの向上
シートの表面性及び柔軟性が改善される。
2)コンパクト化
ロール製品においては、同径で長尺化が可能となる。また積層体でもコンパクト化が可能で物流コスト等の削減が可能である。
3)美粧性
エンボス処理後の巻き取りや圧縮加工によってもエンボスパターンが失われにくい。
【0007】
【実施例】以下に本発明の実施例を示すが、これは例示の目的で掲げたもので、これにより本発明を限定するものではない。
【0008】[実施例1]トイレットティシュ(トイレットペーパーおよびティシュペーパー)
10プライのトイレットティシュ用原紙が図1に示すように本発明の範囲の数密度50?200個/cm^(2)および深さ0.05?1.0mmのエンボスを施し、その結果を表1に実施例1?3として示した。また比較のためエンボスの数密度および深さが本発明の範囲外のものを比較例1、2として示した。尚参考のため数密度100個/cm^(2)および300個/cm^(2)のエンボスを図2および図3として示した。
【0009】
【表1】




(3)甲第3号証
ア 「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項3】
1プライ乃至3プライのいずれかのトイレットペーパーロールを、中心軸を水平にしつつ水平面上に横置きし、その胴部外周の上面中心に人の指を想定して配した面積2cm^(2)の円形板圧子を、消費者が前記トイレットペーパーロールを手で把持した際の指の押し込み動作を想定した0.5gf/cm^(2)と、前記手にしたトイレットペーパーロールの硬さを調べるために消費者が把持した指をトイレットペーパーロールに押し込む動作を想定した50gf/cm^(2)との二段階の押し込み圧力で鉛直に押し込み、これらの押し込み深さの差を9回連続測定し、全ての測定値の最高値と最低値との差が0.5?1.0mmの範囲であることを特徴とするトイレットペーパーロール。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明はトイレットペーパーロールに関する。
【背景技術】
【0002】
トイレットペーパーロールは、一般に、1枚(1プライと言う)、2枚重ね(2プライと言う)、または3枚重ね(3プライと言う)のシートを所定巻長さで巻き取って形成され、通常は、複数個のトイレットペーパーロールが袋詰めされ店頭にて陳列販売される。そして、消費者は、このトイレットペーパーロールを手にとってみて、その掴んだ感触によって無意識の内にトイレットペーパーを使用する際の感触を連想して、購入するか否か決めていると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このことから、本願出願人は、トイレットペーパーロールを手で掴んだ時の感触、すなわちそのロールを掴んだ時に感じる硬さは、それを購入するか否かを決定する潜在的な購入指標となっていると知見した。例えば、トイレットペーパーロールを掴んだ時にそのロールが硬いと、これを巻きほぐした実際の使用状態たるシート状態でも硬くて使い心地が悪いのではないかと思ったり、あるいはロールが柔らすぎれば、前記シート状態でも柔らか過ぎて使用時に破れ易いのではないかと思ったりして、購入を決めている。
しかしながら、現在市場に流通しているトイレットペーパーロールのロール硬さは、適度な柔らかさを有しておらず、この結果、喪失している売り上げは大きいと推察される。
【0004】
本発明はかかる従来の課題に鑑みて成されたもので、消費者が手にした時に適度な柔らかさを確実に感じさせることができるトイレットペーパーロールを提供することを目的とする。」

ウ 「【0038】
(4)シートにはエンボス加工が施される。このエンボス加工によって、シートの剛性を向上できるので、巻密度の低い条件にあっても適度なロール硬さに仕上げることができる。よって、前記押し込み深さの差に仕上げるための巻密度の範囲を広げることができる。
【0039】
(5)ロールの巻密度が0.68?0.74m/cm^(2)である。ここで、巻密度とは、ロールの巻長さをロール側端面の面積(ロールの中心軸と直交する面の面積)で除した値である。この巻密度の調整は、ロール状に巻き取る際にシートに付与する巻き取り張力を調整することによって行うことができる。」

(4)甲第4号証
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、嵩高で肌触りに優れたエンボス加工のクレープ紙製品に関し、衛生用途、家庭用途に好適なクレープ紙製品に関するものである。」

イ 「【0009】
クレープ紙製品の形態は、ロール状であることが好ましい。
この場合のロール密度は、好ましくは0.05?0.16〔g/cm^(3)〕であり、更に好ましくは0.06?0.15〔g/cm^(3)〕、特に好ましくは0.07?0.13〔g/cm^(3)〕である。
ロール密度は、ロール重さとロール体積とによって決定され、ロール体積はエンボスの高さによって調整することができる。ロール密度が0.16〔g/cm^(3)〕以上になると、ロールが締まって硬く感じられ、0.05〔g/cm^(3)〕以下であると柔らか過ぎてロールの形状を保つのが困難になる。よって、ロール密度を少なくとも0.05?0.16〔g/cm^(3)〕の範囲にすると、クレープ紙の層間に空気を多く含んでふんわりとしたロール製品を得ることができる。また、層間に存在する空気層の断熱効果により、冷たい感触を一層抑えることができ、吸水性も高まって拭き取り性に優れた紙製品となる。
【0010】
ロールの圧縮たわみ深さは2.0?10.0〔mm〕が好ましく、更に好ましくは、2.5?9.0〔mm〕、特に好ましくは3.0?8.0〔mm〕である。
ロールの圧縮たわみ深さは、ロールを指先で押し込んだときのロールの凹みを示すもので、この押し込み量が多いほど、ふんわりとした柔らかさを感じる。たわみ深さが2.0〔mm〕以上であれば、数個のロールがフィルム包装された製品であっても、フィルムの上から押して十分な柔らかさを感じることができる。圧縮たわみ深さが10.0〔mm〕以上になると、数個のロールを集積してフィルム包装するときに変形し易くなり、運搬や陳列時に積み重ねにくくなったり、製品の外観が悪くなる等の問題がある。
従って、ロールの圧縮たわみ深さは、少なくとも2.0?10.0〔mm〕の範囲にあることが望ましい。」

ウ 「【0038】
<ロール密度>
ロール密度は、ロール重さ〔g〕÷ロール体積〔cm^(3)〕と定義する。
ここで、ロール重さはロール1個当たりの重量であり、紙管を有する場合は紙管を除いた重量である。また、ロール体積は、中心の空間部を除いたロール端面の面積にロール幅を掛けた値である。なお、紙管を有する場合はロール端面の面積から紙管の端面面積を除く。
【0039】
<ロールの圧縮たわみ深さ>
測定方法は、以下の通りである。
ロールの中央部の空間に硬質の心棒を挿入し、この心棒を水平にしてロールを水平に保つ。そのロール外周の上面中心部に、面積6〔cm^(2)〕の円形圧縮受圧板を下降させて押し込み、受圧板がロールに接触した位置Aから、一定の押し込み圧における位置Bまでの変位を測定し、この変位(B-A)〔mm〕を圧縮たわみ深さとする。圧縮たわみ深さは、数値が大きいほど圧縮され易く、ふんわり感が増す。
なお、測定は、ロールを円周方向に60度ずつずらして6回行い、その平均値を求めた。
試験機には、オリエンテック社製のテンシロン万能試験機「RTC1210A」を使用し、円形圧縮受圧板の下降速度を10〔mm/分〕とした。また、上述した位置Aは、受圧板がロール外周面に3.0〔gf〕(29.4〔mN〕)の荷重を掛けた位置とし、位置Bは、受圧板がロール外周面に300〔gf〕(2.94〔N〕)の荷重を掛けた位置とした。」

5 当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
ア 特許法第29条第2項について
(ア)本件発明1について
a 本件発明1と甲1発明を対比すると、
「2プライ積層したトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイレットロールであって、
前記トイレットペーパーにエンボスパターンを設け、
前記トイレットロールの巻長が74m以上91m以下、巻直径が108mm以上136mm以下、巻密度が1.1m/cm^(2)以上1.9m/cm^(2)以下、ロール密度が0.21g/cm^(3)以上0.26g/cm^(3)以下であるトイレットロール。」で一致し、少なくとも、本件発明1は、ロール柔らかさが0.4mm以上1.9mm以下であるのに対し、甲1発明は、そのような特定がされていない点で相違する。

b ここで、申立人が提示したその他の文献の記載について確認する。
甲第2号証には、ロール柔らかさを数値化した記載は無く、甲第3号証には、ロール柔らかさに関し、二段階の押し込み圧力による押し込み深さの差の数値が記載されているものの、上記相違点に係るロール柔らかさの数値とは定義が異なっており、また、甲第4号証には、ロールの圧縮たわみ深さの数値が記載されているものの、上記相違点にかかるロール柔らかさの数値と同じではない。
さらに、甲第5号証にシングルエンボスについて記載され、甲第6号証及び甲第7号証に脱墨パルプ及び蛍光染料について記載され、甲第8号証及び甲第9号証に巻密度がロール柔らかさと相関することについて記載されている程度であるから、甲第3号証ないし甲第9号証には、上記相違点に係るロール柔らかさの数値が、記載も示唆もされていない。

c また、甲第8号証や甲第9号証に記載されているように、巻密度がロール柔らかさと相関するとしても、「ロール柔らかさ」は「巻密度」だけで決まるものではなく、その他の紙の材質等も影響するものであるから、甲第1号証に記載された巻密度の数値が、本件発明1の巻密度の数値範囲に含まれているとしても、甲1発明のロール柔らかさが、本件発明1のロール柔らかさと同じ0.4mm以上1.9mm以下と認識できるものではなく、かつ、甲第1号証に記載された巻密度の数値から、ロール柔らかさが0.4mm以上1.9mm以下とすることが、当業者が容易になし得たことともいえない。

d 上記相違点について、申立人は、特許異議申立書において、下記(a)及び(b)のとおり、平成30年9月14日付け上申書において、下記(c)及び(d)のとおり主張している。
(a)本件発明1のロール柔らかさの「0.4mm以上1.9mm以下」という範囲に臨界的な意義は見いだせない。一方、「ロール柔らかさ」が「巻密度」によって調整されることは、技術常識である。そして、本件発明の実施例及び比較例から、「巻密度」及び「ロール密度」と「ロール柔らかさの評価」に相関が見られるから、本件発明1のロール柔らかさは、「ロール密度」及び「巻密度」に応じて調整されただけのものに過ぎない。
(b)仮に、本件発明の実施例の「ロール柔らかさ」が「0.4mm以上1.9mm以下」の範囲内にあるとすれば、甲第1号証の表1及び表2には、本件発明1の「巻き密度」及び「ロール密度」を満たすものが開示されているので、甲第1号証における実施例1?8、比較例1,4,6,8の「ロール柔らかさ」は、0.4mm以上1.9mm以下の範囲である蓋然性が極めて高い。よって、相違点1のロール柔らかさは、甲1発明と同一である。
(c)本件発明の実施例8、13と甲第1号証の実施例6、同じく実施例3と実施例7とは、「巻長」、「巻直径」、「コア外径」、「巻密度」及び「巻取り密度」が同一又はほぼ同一であるから、本件発明の実施例8及び13並びに3の「ロール柔らかさ」が「0.4mm以上1.9mm以下」の範囲内にあるとすれば、甲第1号証の実施例6、7の「ロール柔らかさ」もこれらと同程度の値になることは明らかです。結局、相違点1は、実質的な相違点ではない。
(d)当業者が、トイレットロールの柔らかさを良好にするという自明な課題に基づき、甲1発明において、「トイレットロールの柔らかさ」を「0.4mm以上1.9mm以下」の範囲とすることは、当業者が容易に想到し得た事項です。

e 上記dの主張について検討すると、上記b及びcのとおり、「ロール柔らかさが0.4mm以上1.9mm以下」とすることは、甲第1号証に記載されておらず、かつ、甲第1号証等の記載に基いて「ロール柔らかさが0.4mm以上1.9mm以下」とすることは、当業者が容易になし得たことではないから、上記主張は採用できない。

f 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第9号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


(イ)本件発明2ないし6について
本件発明2ないし6は、本件発明1を直接または間接的に引用するものであって、本件発明1にさらに構成を加えた発明である。
そうすると、上記(ア)と同様の理由により、本件発明2ないし6は、甲1発明及び甲第2号証ないし甲第9号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 特許法第36条第6項第1号について
(ア)本件発明1の「前記トイレットロールのロール柔らかさが0.4mm以上1.9mm以下」について、本件特許明細書には、「【0029】本発明のトイレットロール1のロール柔らかさは、0.4mm以上1.9mm以下であることが好ましく、0.5mm以上1.6mm以下であることがより好ましく、0.6mm以上1.2mm以下であることがさらに好ましい。」と明確に記載されている。
よって、本件特許明細書において、ロール柔らかさが0.4mm以上1.9mm以下の範囲の場合に、トイレットロールがどの程度柔らかいと感じられ評価されるのかが明記されていないとしても、そのことをもって、本件特許発明1の「前記トイレットロールのロール柔らかさが0.4mm以上1.9mm以下」であることが発明の詳細な説明に記載されていない理由とはならない。

(イ)次に、本件発明1には「坪量」の特定はないが、本件特許明細書には、本件発明の課題として、「【0008】・・・本発明は、坪量を下げずにシート及びロールの柔らかさを良好にし、・・・」と記載され、本件発明の効果として、「【0010】・・・トイレットペーパーにエンボスを設けることで、トイレットペーパーの坪量を下げずにトイレットペーパの柔らかさを良好にする。・・・」と記載されているように、本件発明は、エンボスパターン等を特定するによって、その課題を解決し、作用効果を奏するものであるから、本件発明1を、本件特許明細書に記載された「坪量」の数値で特定しなけらばならないものではない。

(ウ)以上のとおりであるから、本件発明1ないし6は、発明の詳細な説明に記載されたものであって、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものである。

6 むすび
以上のとおり、請求項1ないし6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっ
ては、取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-11-12 
出願番号 特願2016-185799(P2016-185799)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A47K)
P 1 651・ 537- Y (A47K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渋谷 知子  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 西田 秀彦
住田 秀弘
登録日 2017-08-04 
登録番号 特許第6186482号(P6186482)
権利者 日本製紙クレシア株式会社
発明の名称 トイレットロール  
代理人 渡辺 浩司  
代理人 宮本 陽子  
代理人 大石 敏弘  
代理人 矢田 歩  
代理人 坂本 智弘  
代理人 坂本 加代子  

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