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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て成立) A61H |
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管理番号 | 1345908 |
判定請求番号 | 判定2018-600020 |
総通号数 | 228 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2018-12-28 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2018-06-13 |
確定日 | 2018-11-02 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第5356625号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号説明書に示す「美容器」は、特許第5356625号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨 本件判定の請求の趣旨は、イ号説明書に示す美容器(以下「イ号物件」という。)が、特許第5356625号(以下「本件特許」という。)に係る発明(以下「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属しない、との判定を求めたものである。 第2 手続の経緯 本件特許発明に係る出願は、平成23年11月16日を出願日とする特願2011-250916号の一部を平成25年6月20日に新たな特許出願としたものであって、同年9月6日に特許権の設定登録がなされたものである。 その後、本件特許に対し無効審判の請求がなされ、この無効審判事件(無効2016-800086号)において、平成29年6月9日付けでなされた訂正請求に対し「訂正することを認める。本件審判の請求は、成り立たない。」とした審決が平成30年9月19日に確定した。 また、平成30年6月13日に請求人ユニファイドコミュニケーションズ株式会社(以下単に「請求人」という。)により本件判定が請求され、同年7月19日に判定請求書を補正する手続補正書が提出され、これに対し、同年7月3日付けで被請求人株式会社MTG(以下単に「被請求人」という。)に判定請求書副本を送達するとともに、同年7月19日付け手続補正書副本を送付し、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人から答弁書等の提出はなかった。 そして、平成30年9月6日付けで請求人に対し判定請求書の「6 請求の理由」に関する審尋をしたところ、同年9月18日に請求人から回答書(以下「回答書」という。)が提出された。 第3 本件特許発明 本件特許発明は、上記訂正請求によって訂正された特許請求の範囲及び明細書並びに願書に添付した図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。 これを符号を付して構成要件に分説すると、次のとおりである。 「A ハンドルの先端部に一対のボールを、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美容器において、 B 往復動作中にボールの軸線が肌面に対して一定角度を維持できるように、ボールの軸線をハンドルの中心線に対して前傾させて構成し、 C 一対のボール支持軸の開き角度を65?80度、 D 一対のボールの外周面間の間隔を10?13mmとし、 E 前記ボールは、非貫通状態でボール支持軸に軸受部材を介して支持されており、 F ボールの外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられるようにした G ことを特徴とする美容器。」 (以下、分説した構成要件を「構成要件A」などという。) 第4 イ号物件 1 イ号説明書の記載事項 イ号説明書には、以下の記載がある。 (1) 「TB-1682」(甲第1号証の「1.商品名」) (2) 「写真1 イ号物件(TB-1682)の平面写真 写真2 イ号物件を斜め上方向から見た写真 写真3 イ号物件の一対のローラ支持軸の開き角度及び一対のローラの外周面間の間隔を示す写真 写真4 イ号物件の一対のローラの円錐台形状部分の外周面を肌に押し当ててハンドルの先端から基端方向に移動させることにより肌が摘み上げられた様子を示す写真」(甲第1号証の「2.写真の説明」) (3) 「11 ハンドル 17 ローラ 11a ローラ支持軸 β ローラ支持軸の開き角度 D 一対のローラの外周面間の間隔」(甲第1号証の「3 符号の説明」) また、写真1?3から、次の事項が認められる。 (4) 写真1に関して イ号物件は、ハンドル(11)の先端部に一対の卵形のローラ(17)を、相互間隔をおいて支持するものであること。 (5) 写真2に関して (5-1) イ号物件は、ローラ(17)の軸線がハンドル(11)の中心線に対して前傾して構成されていること。 (5-2) ローラ(17)は、ローラ支持軸(11a)に支持されていること。 (6) 写真3に関して 一対のローラ支持軸(11a)の開き角度(β)として「70度」と記入され、また、一対のローラ(17)の外周面間の間隔(D)として「7.7mm」と記入されていること。 (7) 写真4に関して イ号物件は、ローラ(17)の外周面を肌に押し当てるようにしたものであること。 2 甲第4号証の記載事項 甲第4号証には、以下の記載がある(和文は当審による訳文)。 (1) 「MICROCURRENT FACIAL ROLLER TB1682」(微弱電流による顔用ローラ TB1682) (2) 「The device that efficiently lifts and tights skin, fighting anti-aging signs. The innovative 70°V-shape design deeply massages skin for incredible results.」(この装置は肌を効率的に摘み上げて、抗老化作用を獲得する。革新的な70度V字形状が肌をしっかりとマッサージし、素晴らしい結果をもたらす。) (3) 「360°Degree Multi-angle Structure」(360度回転する構造) また、紙面左側には顔用ローラを正面と背面から見た写真が掲げられており、正面から見た写真は、甲第1号証の写真1と同様である。また、背面から見た写真によると、ローラの先端部が滑らかな曲面状であると認められる。 3 イ号物件の構成について (1) イ号物件と甲第4号証の関係について検討する。 上記2(1)の記載からみて、甲第4号証は、製品「TB1682」のカタログであると認められる。そして、当該事項と、イ号説明書の写真1と同様の写真が掲げられていることを併せてみて、甲第4号証は、イ号物件に係る製品カタログであると認められる。 (2) イ号物件の構成について(a) ア 上記2(3)の記載からみて、製品「TB1682」は360度回転する構造を有しているところ、当該構造はイ号物件のローラ(17)が回転することに該当することは明らかである。 したがって、イ号物件のローラ(17)はローラ支持軸(11a)に対して回転可能であると認められる。そして、物体が回転する際には、軸線を中心に回転することとなる。 イ また、上記2(1)及び(2)からみて、製品「TB1682」、すなわちイ号物件は、抗老化作用のための顔用ローラであり、美顔ローラであると認められる。 ウ したがって、イ号物件は「ハンドル(11)の先端部に一対の卵形のローラ(17)を、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美顔ローラ」という構成を有するものである。 (3) イ号物件の構成について(b) ア 上記1(5-1)からみて、イ号物件は、ローラ(17)の軸線がハンドル(11)の中心線に対して前傾しているものと認められる。 イ したがって、イ号物件は「ローラ(17)の軸線をハンドル(11)の中心線に対して前傾させ」という構成を有するものである。 (4) イ号物件の構成について(c、d) ア 上記1(6)より、一対のローラ支持軸(11a)の開き角度(β)は70度、外周面間の間隔(D)は7.7mmである。 イ したがって、イ号物件は「一対のローラ支持軸(11a)の開き角度(β)を70度、一対のローラ(17)の外周面間の間隔(D)を7.7mm」という構成を有するものである。 (5) イ号物件の構成について(e) ア 上記2に示したとおり、製品「TB1682」、すなわちイ号物件を背面からみた写真によると、ローラ(17)の先端部が滑らかな曲面状に構成されていることから、ローラ(17)は非貫通状態でローラ支持軸(11a)に支持されているものと認められる。 イ また、上記(2)に示したとおり、ローラ(17)が「回転可能」であるとの前提に立つと、「回転可能」に支持する軸受手段を当然に有しているといえる。 ウ したがって、イ号物件は「ローラ(17)は、非貫通状態でローラ支持軸(11a)に軸受手段を介して支持されており」という構成を有するものである。 (6) イ号物件の構成について(f) ア 上記1(7)より、ローラ(17)の外周面を肌に押し当てるものと認められる。 イ したがって、イ号物件は「ローラ(17)の外周面を肌に押し当てる」という構成を有するものである。 (7) イ号物件の構成について(g) 上記(2)イに示したとおり、イ号物件は「美顔ローラ」という構成を有するものである。 4 イ号物件 上記3(2)?(7)に示したとおりであるから、イ号物件の構成は次のとおりのものと認められる。 「a ハンドル(11)の先端部に一対の卵形のローラ(17)を、相互間隔をおいてそれぞれ一軸線を中心に回転可能に支持した美顔ローラにおいて、 b ローラ(17)の軸線をハンドル(11)の中心線に対して前傾させて構成し、 c 一対のローラ支持軸(11a)の開き角度(β)を70度、 d 一対のローラ(17)の外周面間の間隔(D)を7.7mmとし、 e 前記ローラ(17)は、非貫通状態でローラ支持軸(11a)に軸受手段を介して支持されており、 f ローラ(17)の外周面を肌に押し当てる g 美顔ローラ。」 (以下、分説した構成を「構成a」などという。) 第5 判断 1 構成要件の充足性について イ号物件が、本件特許発明の構成要件を充足するか否かについて、検討する。 本件特許発明の構成要件と、イ号物件の構成とを対比すると、イ号物件の「ハンドル(11)」は、本件特許発明の「ハンドル」に相当し、以下同様に、「美顔ローラ」は「美容器」に、「ローラ支持軸(11a)」は「ボール支持軸」に、「開き角度(β)」は「開き角度」に、「外周面間の間隔(D)」は「外周面間の間隔」に、「軸受手段」は「軸受部材」に、それぞれ相当する。 以下、まず構成要件Bについて検討し、続いて構成要件C、D・・・の順に検討する。 (1) 構成要件Bについて ア 上記第4 2(2)からみて、製品「TB1682」、すなわちイ号物件は、マッサージに用いられるものと認められる。 イ また、ローラを備えた美容器によりマッサージを行う際、一定の角度で往復動作をさせることは、美容器の技術分野における技術常識である。 ウ そうすると、イ号物件を用いてマッサージを行う際、マッサージ中にハンドル(11)の姿勢が一定に保たれることとなるから、結果的に、ローラ(17)の軸線も肌面に対して一定角度を維持できるようになるものである。 エ したがって、イ号物件の構成bは、本件特許発明の構成要件Bを充足する。 (2) 構成要件Cについて ア 支持軸の開き角度について、イ号物件の構成cでは「70度」であるのに対し、本件特許発明の構成要件Cでは「65?80度」であり、構成cの数値は構成要件Cの数値範囲内である。 イ したがって、イ号物件の構成cは、本件特許発明の構成要件Cを充足する。 (3) 構成要件Dについて ア ボールの外周面間の間隔について、イ号物件の構成dでは「7.7mm」であるのに対し、本件特許発明の構成要件Dでは「10?13mm」であり、構成dの数値は構成要件Dの数値範囲外である。 イ したがって、イ号物件の構成dは、本件特許発明の構成要件Dを充足しない。 (4) 構成要件Eについて 上記第4 3(5)に示したとおりであるから、イ号物件の構成eは、本件特許発明の構成要件Eを充足する。 (5) 構成要件Fについて ア 上記第4 3(6)に示したとおり、イ号物件はローラ(17)の外周面を肌に押し当てる構成を有している。 イ また、上記第4 3(2)に示したとおり、イ号物件は、ハンドル(11)の先端部に一対の回転可能なローラ(17)を有していることから、これらローラ(17)を肌に押し当てながらハンドル(11)の先端から基端方向に移動させると、当然に肌を摘み上げる作用を発生させるものである。 ウ したがって、イ号物件の構成fは、本件特許発明の構成要件Fを充足する。 (6) 構成要件Gについて 上記第4 3(7)に示したとおりであるから、イ号物件の構成gは、本件特許発明の構成要件Gを充足する。 (7) 小括 以上に示したとおりであるから、イ号物件は、少なくとも本件特許発明の構成要件B、C、E?Gを充足する一方、構成要件Dを充足しない。 2 均等論適用の可否について (1) 請求人は、イ号物件は、本件特許発明との均等の範囲に含まれない旨の主張をしている(回答書の第8ページ「(6)イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属しないとの説明」)。 (2) 最高裁判決(平成6年(オ)第1083号(平成10年2月24日判決言渡))により示された均等成立の要件は、以下のとおりである。 「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても、 (第一要件)その部分が特許発明の本質的部分ではなく、 (第二要件)その部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、 (第三要件)このように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、 (第四要件)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれからその出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、 (第五要件)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、 その対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」 (3) 最初に、構成要件Dについて検討する。 まず、「第五要件」を満たすか否かについて検討する。 上記異なる部分とは、上記1(3)に示したとおり、「一対のボールの外周面間の間隔を10?13mm」(構成要件D)である。 一方、本件特許発明の明細書等を参照すると、「一対のボールの外周面間の間隔を8?25mm」とあったのを、その後の訂正により、「一対のボールの外周面間の間隔を10?13mm」へと限定するものであり、その結果、当該間隔が7.7mmであるイ号物件の構成からみて、より離れた数値範囲へとされたものである。 つまり、上記異なる部分は、後の訂正により限定された発明特定事項であり、被請求人が、上記構成要件Dを具備しないものを意識的に除外したと解されるような行動をとったものと理解することができる。 してみると、構成要件Dを具備しておらず、構成dを具備するイ号物件は、特許発明の特許出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるといえる。 以上に示したとおり、イ号物件は、少なくとも構成要件Dを充足せず、また、均等の第五要件も満たさないから、他の構成要件を検討するまでもなく、イ号物件と本件特許発明とは均等なものとはいえない。 3 まとめ イ号物件の構成dは、本件特許発明の構成要件Dを充足しない。 そして、イ号物件は、均等の第五要件も満たさない。 第6 むすび 以上によれば、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
別掲 |
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判定日 | 2018-10-23 |
出願番号 | 特願2013-129765(P2013-129765) |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZA
(A61H)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 土田 嘉一 |
特許庁審判長 |
高木 彰 |
特許庁審判官 |
長屋 陽二郎 二階堂 恭弘 |
登録日 | 2013-09-06 |
登録番号 | 特許第5356625号(P5356625) |
発明の名称 | 美容器 |
代理人 | 桐生 美津恵 |