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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G09F
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G09F
管理番号 1346234
審判番号 無効2017-800011  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-01-30 
確定日 2018-11-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第6035579号「登記識別情報保護シール」の特許無効審判事件についてされた平成29年 8月21日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成29年(行ケ)第10176号、平成30年 3月28日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第6035579号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6035579号は、特許法第46条の2第1項の規定により、平成27年3月20日(以下「原出願日」という。)に出願された実用新案登録第3198127号(実願2015-1677号)に基づいて、平成28年1月21日に出願され、同年11月11日に設定登録がなされたものである。
そして、本件無効審判請求に係る手続の経緯は、以下のとおりである。
平成29年1月30日 無効審判請求書提出
平成29年4月4日 審判事件答弁書提出
平成29年5月29日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成29年5月31日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成29年6月14日 口頭審理
平成29年6月26日 上申書提出(被請求人)
平成29年6月28日 上申書提出(請求人)
平成29年8月21日 請求は成り立たない旨の審決(第1次審決)
平成30年3月28日 審決取消判決言渡
平成30年6月11日 審決の予告
なお、審決の予告に対し、両当事者からは指定した期間内に何らの応答もなかった。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明4」という。また、これらを総称して「本件特許発明」という。)。
「【請求項1】
登記識別情報通知書の登記識別情報が記載されている部分に貼り付けて登記識別情報を隠蔽・保護するための、一度剥がすと再度貼り直しできない登記識別情報保護シールであって、前記登記識別情報保護シールを構成する粘着剤層の少なくとも前記登記識別情報に接触する部分には前記登記識別情報通知書に粘着しない非粘着領域を有することを特徴とする登記識別情報保護シール。
【請求項2】
前記非粘着領域は、前記登記識別情報が記載されている部分を囲む矩形領域であることを特徴とする請求項1記載の登記識別情報保護シール。
【請求項3】
前記非粘着領域は、前記登記識別情報が記載されている部分を囲む任意の多角形領域であることを特徴とする請求項1記載の登記識別情報保護シール。
【請求項4】
前記非粘着領域は、コーナー部にR面取りなどの面取りがされていることを特徴とする請求項2乃至3いずれか1項記載の登記識別情報保護シール。」


第3 請求人の主張及び証拠方法
請求人は、「特許第6035579号発明の特許請求の範囲の請求項1?4に係る各発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めている。
また、無効理由の概要は以下のとおりであって、本件特許は無効とすべきである旨主張している。
1.本件請求項1において、「一度剥がすと再度貼り直しできない」と機能的に記載された発明特定事項を含んで特定される発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしておらず、その特許は同法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきものである(以下「無効理由1」という。)。
2.本件特許発明1ないし4は、甲第1号証、及び甲第2号証に記載された発明、または甲第1号証、及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、出願前に、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである(以下「無効理由2」という。)。

また、上記無効理由を立証するための証拠方法は、以下のとおりである。
(証拠方法)
[書証]
甲第1号証:特開2007-52379号公報
甲第2号証:特開2010-260184号公報
甲第3号証:実願昭61-189006号(実開昭63-92774号)のマイクロフィルム
(以上、無効審判請求書に添付して提出された。)
甲第4号証:特開2005-250328号公報
甲第5号証:特開2002-351329号公報
(以上、平成29年5月31日付け口頭審理陳述要領書に添付して提出された。)
甲第6号証:法務省、登記識別情報通知書のシールのはがれ方が不完全である場合の取扱いについて(重要なお知らせ)、2017年6月25日検索、<URL:http://www.moj.go.jp/MINJI/minji195.html>
甲第7号証:会報ながの第178号、長野県土地家屋調査士会、平成22年4月20日、表紙、1頁、26頁、33頁
甲第8号証:登記識別情報通知書の目隠しシールについて、日本司法書士連合会専務理事里村美喜夫、平成21年9月10日
甲第9号証:?今日はこんなことがありました?(livedoor本店)
(以上、平成29年6月26日付け上申書に添付して提出された。)
なお、被請求人は、甲第1ないし5号証の成立を認めている。


第4 被請求人の主張及び証拠方法
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求めている。
また、上記請求人の主張に対し、概略、以下のとおり主張して、本件特許を無効とすべき理由はない旨の主張をしている。
1.無効理由1について
本件請求項1における「一度剥がすと再度貼り直しできない」との発明特定事項は、本件特許の出願前に公知の事項であって、発明の詳細な説明に記載されている事項である。
2.無効理由2について
甲第1?3号証のいずれにも、本件特許発明1の「前記登記識別情報保護シールを構成する粘着剤層の少なくとも前記登記識別情報に接触する部分には前記登記識別情報通知書に粘着しない非粘着領域を有すること」との発明特定事項は記載されておらず、当業者は容易に想到し得ない。

また、上記無効理由に反論するための証拠方法は、以下のとおりである。
(証拠方法)
[書証]
乙第1号証:特開2008-40797号公報
乙第2号証:特開2009-244476号公報
乙第3号証:特開2002-55618号公報
乙第4号証:実願平1-72721号(実開平3-12279号)のマイクロフィルム
乙第5号証:特開2009-69393号公報
乙第6号証:実願昭57-17613号(実開昭58-120077号)のマイクロフィルム
乙第7号証:登録識別情報保護シールの使用状況を撮影した写真
(以上、審判事件答弁書に添付して提出された。)
なお、請求人は、乙第1ないし7号証の成立を認めている。


第5 主な各甲号証に記載されている事項
1.甲第1号証
甲第1号証には、以下のとおり開示されている(なお、下線は審決で付した。以下同じ。)。
(1)「【請求項1】
登記識別情報通知書が法務局から下付された際に登記識別情報を秘匿していた目隠しシールを前記登記識別情報通知書から剥がした後に前記登記識別情報を秘匿するための一度剥がすと貼りなおしが出来ない登記識別情報保護シールであって、
前記登記識別情報保護シールを前記登記識別情報通知書に貼付する者が押印及び又は署名をするための第一の領域と、
前記登記識別情報保護シールを前記登記識別情報通知書から剥がす者が押印及び又は署名をするための第二の領域と
を表面に備えることを特徴とする登記識別情報保護シール。」

上記(1)の開示事項を総合すると、甲第1号証には、以下のとおりの発明が示されていると認められる(以下「甲第1号証発明」という。)。
「登記識別情報通知書が法務局から下付された際に登記識別情報を秘匿していた目隠しシールを前記登記識別情報通知書から剥がした後に前記登記識別情報を秘匿するための一度剥がすと貼りなおしが出来ない登記識別情報保護シール。」

2.甲第2号証
甲第2号証には、以下のとおり開示されている。
(1)「【請求項1】
上面に情報が複写記録される複写記録領域を有する第1のシートと、
上記複写記録領域の周辺部において第1のシートに対して貼着されて上記複写記録領域を覆い、上記複写記録領域に対応する上面が非複写記録面に形成されることにより、上記第1のシートの複写記録領域に記録された情報を隠蔽するとともに、複写記録領域に対応する部分が除去可能な除去領域に形成された第2のシートと、
上記第1のシートおよび第2のシートの上に離脱可能に積層され、上記第1のシートの複写記録領域に対応する部分に、上記複写記録領域に複写記録する情報を記録する情報記録領域が設けられた第3のシートとを備えたことを特徴とする情報隠蔽記録シート。」
(2)「【0022】
すなわち、上記第2のシート2は、少なくとも上記複写記録領域21およびその周囲の貼着領域22を覆う大きさ形状に形成され、裏面の周辺部に接着剤層24が形成されて貼着領域22において第1のシート1に貼着されている。上記接着剤層24に用いられる接着剤は、容易に剥離できるものではなく、剥離と再貼着が不可能で、無理に剥離しようとするとシートが破損する程度の接着力を有した接着剤が用いられる。
【0023】
上記第2のシート2には、貼着領域22に対応して接着剤層24が設けられた帯状領域の内側に、容易に切り離すことができる切断線としてのミシン目25が環状に設けられ、このミシン目25の内側が、容易に除去可能な除去領域26に形成されている。また、上記第2のシート2は、その上面である表面が、非複写記録面に形成されるとともに、下側に積層された第1のシート1の複写記録領域21に複写記録された情報が透けて見えないように不透明となっており、必要に応じて表面および/または裏面に、複写記録された情報を判読しにくくするための地文様等を印刷することができる。」
(3)「【0038】
すなわち、上記第1のシート1に隠蔽された情報を閲覧する場合には、第2のシート2の除去領域26をミシン目25を切断することにより剥離除去すると、複写記録領域21が露呈して複写記録された情報を閲覧することができる。このとき、第2のシート2はミシン目25から切断してしまうので、再び第1のシート1に貼着することはできない。このようにすることにより、情報の漏洩を防止する。」

上記(1)?(3)の開示事項を総合すると、甲第2号証には、以下のとおりの発明が示されていると認められる。
「上面に情報が複写記録される複写記録領域を有する第1のシートと、
上記複写記録領域の周辺部において第1のシートに対して貼着されて上記複写記録領域を覆い、上記複写記録領域に対応する上面が非複写記録面に形成されることにより、上記第1のシートの複写記録領域に記録された情報を隠蔽するとともに、複写記録領域に対応する部分が除去可能な除去領域に形成された第2のシートと、
上記第1のシートおよび第2のシートの上に離脱可能に積層され、上記第1のシートの複写記録領域に対応する部分に、上記複写記録領域に複写記録する情報を記録する情報記録領域が設けられた第3のシートとを備え、
上記第2のシートは、少なくとも上記複写記録領域およびその周囲の貼着領域を覆う大きさ形状に形成され、裏面の周辺部に接着剤層が形成されて貼着領域において第1のシートに貼着されており、
上記第2のシートには、貼着領域に対応して接着剤層が設けられた帯状領域の内側に、容易に切り離すことができる切断線としてのミシン目が環状に設けられ、このミシン目の内側が、容易に除去可能な除去領域に形成されており、
上記第1のシートに隠蔽された情報を閲覧する場合には、第2のシートの除去領域をミシン目を切断することにより剥離除去すると、複写記録領域が露呈して複写記録された情報を閲覧することができ、このとき、第2のシートはミシン目から切断してしまうので、再び第1のシートに貼着することはできず、情報の漏洩を防止する情報隠蔽記録シート。」

3.甲第3号証
甲第3号証には、以下のとおり開示されている。
(1)「被着体の情報表示部を視認不能に覆う不透明部を備えたシート体から成り:前記情報表示部の周部に位置して前記シート体に剥離可能な印刷層を形成すると共に、該印刷層上に該シート体を被着体に接着するための感圧性接着剤層を積層して成ることを特徴とする秘密保持シート。」(第1頁第5?11行)
(2)「シート体4を被着体1より剥離すると、第3図C及び第2図に示すように、印刷層7はシート体4に対して剥離可能である一方、感圧性接着剤層8に接着されているから、引き剥がされるシート体4に追従することなく、該印刷層7の少なくとも一部は接着剤層8上に転移する。従って、シート体4を被着体1に再度接着させようとしても、シート体4は前記剥離された印刷層7上には接着せず分離状態にあり、元の状態には復帰しない。」(第6頁第10?19行)

また、甲第3号証の図1及び図2を参照すると、印刷層及び感圧性接着剤層が積層したものは、情報表示部の周部に位置することで、その内側に矩形領域を形成している点が示されている。

上記(1)、(2)、図1及び図2の開示事項を総合すると、甲第3号証には、以下のとおりの発明が示されていると認められる(以下「甲第3号証発明」という。)。
「被着体の情報表示部を視認不能に覆う不透明部を備えたシート体から成り、前記情報表示部の周部に位置して前記シート体に剥離可能な印刷層を形成すると共に、該印刷層上に該シート体を被着体に接着するための感圧性接着剤層を積層して成り、
印刷層及び感圧性接着剤層が積層したものは、情報表示部の周部に位置することで、その内側に矩形領域を形成しており、
シート体を被着体より剥離すると、印刷層はシート体に対して剥離可能である一方、感圧性接着剤層に接着されているから、引き剥がされるシート体に追従することなく、該印刷層の少なくとも一部は接着剤層上に転移して、シート体を被着体に再度接着させようとしても、シート体は前記剥離された印刷層上には接着せず分離状態にあり、元の状態には復帰しない秘密保持シート。」


第6 当審の判断
1.無効理由1について
(1)本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されている事項について
ア.「【技術分野】
【0001】
本発明は、登記識別情報を保護する登記識別情報保護シールに関する。
【背景技術】
【0002】
不動産の登記識別情報は、登記済証に代えて発行される、アラビア数字その他の符号の組み合わせからなる12桁の符号である。登記識別情報は、不動産及び登記名義人となった申請者ごとに定められ、登記名義人となった申請者のみに通知されるものである。登記識別情報は、その提供者が登記名義人本人であることを登記所に確認させるための暗証番号のようなものとされている。従って、登記識別情報の12桁の符号を示せば、不動産の所有者として登録申請を行うことができ、登記識別情報を第三者に盗み見られないよう厳重に保管・管理する必要がある。
【0003】
現在、登記識別情報通知書により登記識別情報が通知される。
図7は登記識別情報通知書700の見本である。登記識別情報710は登記識別情報通知書700の下部に12桁の符号720とQRコード730とで構成されている。登記識別情報通知書700は、登記識別情報710の上に目隠しシール740を貼って申請者に交付される(以下シール方式という)。この目隠しシール740は一度剥がすと再度貼り付けることができないため、登記識別情報710の隠蔽・保護が図られる。今後、登記識別情報通知書は、シール方式を改め、図8に示す折り込み方式(登記識別情報810を記載した部分が隠れるよう、A4サイズの用紙(登記識別情報通知書800)の下部の折り込み部840を折り込んで当該登記識別情報810を被覆し、その縁をのり付けする方法)に変更される。
【0004】
登記識別情報を確認する場合、シール方式では、目隠しシール740を剥がし、登記識別情報110を読み取る。折り込み方式では、折り込んだ部分に設けたミシン目から折り込み部分840を切り剥がし、登記識別情報810を確認する。いずれの方式においても、一度でも登記識別情報を確認してしまうと登記識別情報を再度隠蔽・保護することができず、第三者に容易に盗み見られる状態になってしまう。上記状態になった登記識別情報通知書の登記識別情報記載部分に貼り付けて登記識別情報を隠蔽・保護するための登記識別情報保護シールが提案されている。当該登記識別情報保護シールも、一度剥がしてしてしまうと貼り直しができないシールである。
【0005】
図9は従来の登記識別情報保護シール900を示したものである。この登記識別情報保護シール900を、例えば、図7に示す登記識別情報通知書700の目隠しシール740を剥した後の登記識別情報710記載部分に粘着剤層920を介して張り付ければ、登記識別情報710を隠蔽・保護することができる。登記識別情報保護シール900は保護シール層910と粘着剤層920とで構成される。粘着剤層920は保護シール層910に対する部分と、登記識別情報通知書700に貼り付けられる部分とでは性質が異なり、保護シール層910に対する部の粘着力は非常に弱く、登記識別情報保護シール900を剥がすと保護シール層910のみが剥離し、粘着剤層920は登記識別情報通知書700に残留する。粘着剤層920と保護シール層910との粘着力が弱いので、保護シール層910を再度貼り直すことができないようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
司法書士、銀行などでは登記識別情報を何度も使用する場合がある。その都度、前記登記識別情報保護シール900を剥がして登記識別情報710を確認し、その後新しい登記識別情報保護シール900を登記識別情報通知書700の登記識別情報710記載部分に貼り付けて登記識別情報710を隠蔽・保護する作業を行う。図10は登記識別情報保護シール900を何度も貼り付け、剥離を繰り返した後の登記識別情報通知書700の登記識別情報710記載部分の断面を模式的に現したものである。図10に示すように、粘着剤層910が何層にもわたって堆積していることが分かる。粘着剤層910が着色されていたり透明度が低い場合、粘着剤層910が多数積層すると登記識別情報710が読み取れなくなる場合がある。
【0007】
本発明は、上記従来の不都合を改善するために案出されたものであり、登記識別情報通知書記載の登記識別情報を有効に隠蔽・保護するとともに、登記識別情報が読み取り不能になることのない登記識別情報保護シールを提供することを目的とするものである。」
イ.「【0011】
以下、この発明に係わる登記識別情報保護シールの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。説明は折り曲げ方式による登記識別情報通知書を例にとって行う。図1は登記識別情報保護シールの1実施例を示す正面図および下面図、図2は登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書の登記識別情報記載部分に貼り付ける様子を示したもの、図3は登記識別情報保護シールを剥がした時の登記識別情報通知書の状態を示したもの、図4は何度も新しい登記識別情報保護シールを貼り付け、剥離した後の登記識別情報通知書の登記識別情報が記載されている部分の断面図である。図1に示すように、登記識別情報保護シール100は、保護シール層110と粘着剤層120で構成する。図1下方の下面図に示すように、粘着剤層120の内部には、矩形の非粘着領域130が設けられている。本実施例では、非粘着領域130は粘着剤が存在しない領域としている。
【0013】
司法書士、銀行などでは登記識別情報210を何度も使用する場合がある。その都度、登記識別情報保護シール100を剥がして登記識別情報210を確認し、その後新しい登記識別情報保護シール100を登記識別情報通知書200の登記識別情報210記載部分に貼り付けて登記識別情報210を隠蔽・保護する作業を行う。図3は、登記識別情報通知書200から登記識別情報保護シール100を剥がした状態を示したものである。登記識別情報保護シール100の粘着剤層120は、保護シール層110側の粘着力は弱く、貼り付ける登記識別情報通知書200側の粘着力は強くされているので、登記識別情報保護シール100を剥がすと、粘着剤層120は登記識別情報通知書200に転写され、保護シール層110だけが剥ぎ取られる。転写された粘着剤層120は登記識別情報210の上に重なることはない。また、一度剥がした登記識別情報保護シール100の保護シール層110は、再度貼り直すことができないので、登記識別情報210を第三者に容易に盗み見られることを防止できる。
【0014】
登記識別情報210を何度も使用すると上記作業を繰り返すことになり、結果、図4に示すように粘着剤層120積み上がるが、登記識別情報210の上には粘着剤層120が堆積しないので、たとえ粘着剤層120が着色されていたり、透明度が低い物質で構成されていたとしても、登記識別情報210が判読不能になることがない。」

(2)判断
本件特許明細書の発明の詳細な説明の上記「ア.」の記載からみれば、本件特許発明の課題は、「登記識別情報通知書記載の登記識別情報を有効に隠蔽・保護するとともに、何度も登記識別情報保護シールの剥離作業を行っても登記識別情報が読み取り不能になることのない登記識別情報保護シールを提供すること」にある。
そして、上記課題を解決する手段として、本件特許明細書の発明の詳細な説明の上記「イ.」の記載からみれば、「登記識別情報保護シールを構成する粘着剤層が、登記識別情報の上に堆積しないように、粘着剤層の内部に登記識別情報通知書に粘着しない非粘着領域を設けること」を採用したものである。
一方、本件特許発明は、上記課題を解決する手段として、「登記識別情報保護シールを構成する粘着剤層の少なくとも登記識別情報に接触する部分には登記識別情報通知書に粘着しない非粘着領域を有すること」と特定するものである。
してみると、本件特許発明の上記課題を解決する手段と本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された上記課題を解決する手段とは、実質的に対応しているといえる。
なお、本件特許発明の「一度剥がすと再度貼り直しできない」との発明特定事項は、例えば、上記「ア.」の記載からもわかるように、本件特許発明の原出願日前に、当業者においてよく知られた事項である。
したがって、本件の請求項1の記載は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものである。

(3)小括
よって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、本件特許発明についての特許は、無効理由1により無効とすることはできない。

2.無効理由2について
(1)本件特許発明1について
ア.対比
本件特許発明1と甲第1号証発明とを対比すると、
後者における「登記識別情報通知書」は、その構造、機能、作用等からみて、前者における「登記識別情報通知書」に相当し、以下同様に、「登記識別情報」は「登記識別情報」に、「『目隠しシール』、及び『登記識別情報保護シール』」は「登記識別情報保護シール」に、それぞれ相当する。
また、後者における登記識別情報保護シールは、登記識別情報通知書から剥がした後に登記識別情報を秘匿するための一度剥がすと貼りなおしが出来ないものであるから、登記識別情報通知書の登記識別情報が記載されている部分に貼り付けて登記識別情報を隠蔽・保護するための、一度剥がすと再度貼り直しできないものであって、粘着剤層を有するものといえる。
したがって、両者は、
「登記識別情報通知書の登記識別情報が記載されている部分に貼り付けて登記識別情報を隠蔽・保護するための、一度剥がすと再度貼り直しできない登記識別情報保護シールであって、前記登記識別情報保護シールを構成する粘着剤層を有する登記識別情報保護シール。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本件特許発明1は、「粘着剤層の少なくとも登記識別情報に接触する部分には登記識別情報通知書に粘着しない非粘着領域を有する」のに対し、甲第1号証発明は、粘着剤層の形成が、シートの全面についてなのか、その一部なのかが明らかではない点。

イ.判断
上記相違点1について以下検討する。
まず、甲第3号証発明について検討する。
甲第3号証発明は、上記「第5 3.」のとおりであって、甲第3号証発明における「被着体」は、視認不能にされる情報表示部を有するものであるから、甲第3号証発明における「被着体」と本件特許発明1における「登記識別情報通知書」とは、「(秘密)情報通知書」との概念で共通する。
また、甲第3号証発明における「情報表示部」は、シート体によって視認不能にされるものであるから、「情報表示部」は、「秘密情報が記載されている」といえる。
また、甲第3号証発明における「シート体」は、被着体の情報表示部を視認不能に覆う不透明部を備え、前記情報表示部の周部に位置して前記シート体に剥離可能な印刷層を形成すると共に、該印刷層上に該シート体を被着体に接着するための感圧性接着剤層を積層して成り、シート体を被着体より剥離すると、印刷層はシート体に対して剥離可能である一方、感圧性接着剤層に接着されているから、引き剥がされるシート体に追従することなく、該印刷層の少なくとも一部は接着剤層上に転移して、シート体を被着体に再度接着させようとしても、シート体は前記剥離された印刷層上には接着せず分離状態にあり、元の状態には復帰しないから、甲第3号証発明における「シート体」と本件特許発明1における「登記識別情報保護シール」とは、「秘密情報保護シール」との概念で共通し、また、甲第3号証発明における「シート体(秘密情報保護シール)」は、「被着体((秘密)情報通知書)に貼り付けるために情報表示部の周部に対応した部位に印刷層、及び感圧性接着剤層を設け、シート体の情報表示部に記載された秘密情報に対応する部分(領域)には、感圧性接着剤層を設けていない」といえる。
してみると、甲第3号証発明には、「(秘密)情報通知書に貼り付けるために外周部に印刷層、及び感圧性接着剤層を設け、(秘密)情報通知書の情報表示部に記載された秘密情報に対応する部分(領域)には、感圧性接着剤層を設けていない秘密情報保護シール」が示されているといえる。
次に、甲第1号証発明に甲第3号証発明を適用する動機付けについて検討すると、判決においては,
「登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に何度も貼り付け,剥離することを繰り返すと,粘着剤層が多数積層して,登記識別情報を読み取りにくくなるという登記識別情報保護シールにおける本件課題は,登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に何度も貼り付け,剥離することを繰り返すと必然的に生じるものであって,登記識別情報保護シールの需要者には当然に認識されていたと考えられる。現に,本件原出願日の5年以上前である平成21年9月30日には,登記識別情報保護シールの需要者である司法書士に認識されていたものと認められる(甲9)。そして,登記識別情報保護シールの製造・販売業者は,需要者の要求に応じた製品を開発しようとするから,本件課題は,本件原出願日前に,当業者において周知の課題であったといえる。
そうすると,本件課題に直面した登記識別情報保護シールの技術分野における当業者は,フィルム層(粘着剤層)の下の文字(登記識別情報)が見えにくくならないようにするために,粘着剤層が登記識別情報の上に付着することがないように工夫するものと認められる。甲3発明と甲1発明とは,秘密情報保護シールであるという技術分野が共通し,一度剥がすと再度貼ることはできないようにして,秘密情報の漏洩があったことを感知するという点でも共通する。したがって,甲1発明に甲3発明を適用する動機付けがあるといえる。
甲1発明に甲3発明を適用すると,粘着剤層が登記識別情報の上に付着することがなくなり,本件課題が解決される。したがって,甲1発明において,甲3発明を適用し,相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到するものと認められる。」(判決書30頁「イ 甲1発明に甲3発明を適用する動機付け」)
と判断されている(上記判決中、「甲1発明」及び「甲3発明」は、それぞれ、審決の「甲第1号証発明」及び「甲第3号証発明」を指す。)。
上記判断は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、当合議体を拘束する。
よって、甲第1号証発明に対して甲第3号証発明を適用することで、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

ウ.小括
よって、本件特許発明1は、甲第1号証発明、及び甲第3号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明1についての特許は、無効とするべきものである。

(2)本件特許発明2について
ア.対比
本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項である「非粘着領域」に「前記登記識別情報が記載されている部分を囲む矩形領域である」との限定を加えたものである。
本件特許発明2と甲第1号証発明とを対比すると、上記「2.(1)ア.」での検討を踏まえるに、両者は上記相違点1に加え、以下の点で相違し、他に相違する点はない。
[相違点2]
本件特許発明2の非粘着領域は、「登記識別情報が記載されている部分を囲む矩形領域である」のに対し、甲第1号証発明は、そのようなものではない点。

イ.判断
上記相違点1については上記「2.(1)イ.」で検討したとおりである。
次に、上記相違点2について検討する。
甲第3号証発明は、上記「第5 3.」のとおりであって、甲第3号証発明における「印刷層及び感圧性接着剤層が積層したもの」は、情報表示部の周部に位置することで、その内側に矩形領域を形成しているから、「感圧性接着剤層を設けていない部分(領域)は、秘密情報が記載されている部分を囲む矩形領域である」といえる。
してみると、甲第3号証発明には「感圧性接着剤層を設けていない部分(領域)は、秘密情報が記載されている部分を囲む矩形領域である」点が示されている。
そして、甲第1号証発明に対して甲第3号証発明を適用することが、当業者にとって容易に想到し得るものであることは、上記「2.(1)イ.」で検討したとおりであるから、甲第1号証発明に対して甲第3号証発明を適用することで、上記相違点2に係る本件特許発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本件特許発明2の発明特定事項全体によって奏される効果も、甲第1号証発明、及び甲第3号証発明から当業者が予測し得る範囲内のものである。

ウ.小括
よって、本件特許発明2は、甲第1号証発明、及び甲第3号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明2についての特許は、無効とするべきものである。

(3)本件特許発明3について
ア.対比
本件特許発明3は、本件特許発明1の発明特定事項である「非粘着領域」に「前記登記識別情報が記載されている部分を囲む任意の多角形領域である」との限定を加えたものである。
本件特許発明3と甲第1号証発明とを対比すると、上記「2.(1)ア.」での検討を踏まえるに、両者は上記相違点1に加え、以下の点で相違し、他に相違する点はない。
[相違点3]
本件特許発明3の非粘着領域は、「登記識別情報が記載されている部分を囲む任意の多角形領域である」のに対し、甲第1号証発明は、そのようなものではない点。

イ.判断
上記相違点1については上記「2.(1)イ.」で検討したとおりである。
次に、上記相違点3について検討する。
甲第3号証発明は、上記「第5 3.」のとおりであって、甲第3号証発明における「印刷層及び感圧性接着剤層が積層したもの」は、情報表示部の周部に位置することで、その内側に矩形領域を形成しており、矩形領域は多角形領域であるといえるから、「感圧性接着剤層を設けていない部分(領域)は、秘密情報が記載されている部分を囲む多角形領域である」といえる。
してみると、甲第3号証発明には「感圧性接着剤層を設けていない部分(領域)は、秘密情報が記載されている部分を囲む任意の多角形領域である」点が示されている。
そして、甲第1号証発明に対して甲第3号証発明を適用することが、当業者にとって容易に想到し得るものであることは、上記「2.(1)イ.」で検討したとおりであるから、甲第1号証発明に対して甲第3号証発明を適用することで、上記相違点3に係る本件特許発明3の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本件特許発明3の発明特定事項全体によって奏される効果も、甲第1号証発明、及び甲第3号証発明から当業者が予測し得る範囲内のものである。

ウ.小括
よって、本件特許発明3は、甲第1号証発明、及び甲第3号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明3についての特許は、無効とするべきものである。

(4)本件特許発明4について
ア.対比
本件特許発明4は、本件特許発明2または3の発明特定事項である「非粘着領域」に「コーナー部にR面取りなどの面取りがされている」との限定を加えたものである。
本件特許発明4と甲第1号証発明とを対比すると、上記「2.(1)ア.」、「2.(2)ア.」及び「2.(3)ア.」での検討を踏まえるに、両者は、上記相違点1、及び、上記相違点2または上記相違点3のいずれか、に加え、以下の点で相違し、他に相違する点はない。
[相違点4]
本件特許発明4の非粘着領域は、「コーナー部にR面取りなどの面取りがされている」のに対し、甲第1号証発明は、そのようなものではない点。

イ.判断
上記相違点1?3については、それぞれ、上記「2.(1)イ.」、「2.(2)イ.」及び「2.(3)イ.」で検討したとおりである。
次に、上記相違点4について検討する。
甲第1号証発明に対して甲第3号証発明を適用することが、当業者にとって容易に想到し得るものであることは、上記「2.(1)イ.」で検討したとおりであり、その際、本件特許発明4の相違点4に係る発明特定事項について格別の技術的意義を有するものとは認められないことから、非粘着領域のコーナー部にR面取りなどの面取りがされているようにすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。
そして、本件特許発明4の発明特定事項全体によって奏される効果も、甲第1号証発明、及び甲第3号証発明から当業者が予測し得る範囲内のものである。

ウ.小括
よって、本件特許発明4は、甲第1号証発明、及び甲第3号証発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明4についての特許は、無効とするべきものである。


第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし4についての特許は、無効とするべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-09-07 
結審通知日 2018-09-11 
審決日 2018-09-25 
出願番号 特願2016-21270(P2016-21270)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (G09F)
P 1 113・ 537- Z (G09F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 英一  
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 荒井 隆一
畑井 順一
登録日 2016-11-11 
登録番号 特許第6035579号(P6035579)
発明の名称 登記識別情報保護シール  
代理人 特許業務法人暁合同特許事務所  
代理人 特許業務法人 日峯国際特許事務所  
代理人 林 實  
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