• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1346238
審判番号 不服2017-7674  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-29 
確定日 2018-11-16 
事件の表示 特願2012-146703「円偏光板および表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年1月20日出願公開,特開2014-10291〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2012-146703号(以下「本件出願」という。)は,平成24年6月29日を出願日とする特許出願であって,その手続等の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成27年12月24日付け:拒絶理由通知書
平成28年 3月 3日付け:意見書
平成28年 3月 3日付け:手続補正書
平成28年 8月 8日付け:拒絶理由通知書
平成28年10月 7日付け:意見書
平成28年10月 7日付け:手続補正書
平成29年 3月 1日付け:補正の却下の決定
(平成28年10月7日付け手続補正書による補正の却下)
平成29年 3月 1日付け:拒絶査定
平成29年 5月29日付け:審判請求書
平成29年 5月29日付け:手続補正書
平成30年 3月13日付け:拒絶理由通知書
平成30年 5月11日付け:意見書
平成30年 6月 5日付け:拒絶理由通知書
平成30年 7月31日付け:意見書
(以下,「本件意見書」という。)

2 本願発明
本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成29年5月29日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの,次のものである。
「 長尺状の偏光子と長尺状の光拡散層と長尺状の位相差フィルムとをこの順に備え,
該位相差フィルムの面内位相差が,Re(450)<Re(550)の関係を満たし,
該位相差フィルムの長尺方向と遅相軸とのなす角度θが35°≦θ≦55°の関係を満たし,
該光拡散層の光拡散半値角が30°以上であり,
該光拡散層が光拡散粘着剤または光拡散接着剤で構成され,
表示装置に用いられる,
長尺状の円偏光板:
ここで,Re(450)およびRe(550)は,それぞれ,23℃における波長450nmおよび550nmで測定した面内位相差を表す。」

3 拒絶の理由の概要
本願発明に関して,平成30年6月5日付け拒絶理由通知書により通知された拒絶の理由は,概略,本願発明は,本件出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである(以下,「当合議体の拒絶の理由」という。)。
引用文献1:特開2004-177781号公報
引用文献2:特開2012-69257号公報
引用文献3:特開2010-164955号公報
引用文献4:特開平10-282315号公報

第2 当合議体の判断
1 引用文献1?引用文献4の記載及び引用発明
(1) 引用文献1の記載
当合議体の拒絶の理由で引用され,本件出願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1には,以下の記載がある。なお,下線部は,当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,楕円偏光板に関する。また本発明は当該楕円偏光板を用いた液晶表示装置,有機EL表示装置,PDP等の画像表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
…(省略)…
【0003】
…(省略)…
1層で形成された広帯域位相差板を,偏光板と組み合わせた楕円偏光板として,例えば,反射半透過型ディスプレイに用いた場合には,斜めから見たときの表示が十分でなく,着色化が生じたり,コントラストが低下する等の視認性に問題があった。
【0004】
【特許文献1】
特開2002-48919号公報
【0005】
【特許文献2】
特開2001-249222号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は,視認性等の光学特性に優れる楕円偏光板を提供することを目的とする。
…(省略)…
【0007】
【課題を解決するための手段】
…(省略)…
【0008】
すなわち本発明は,偏光板および位相差板が粘着層を介して積層している楕円偏光板であって,
前記位相差板は,R(450)<R(550)<R(650)<R(750),(ただし,R(450),R(550),R(650),R(750)はそれぞれ波長450nm,550nm,650nm,750nmにおける位相差板の面内位相差である。)を満足する1層の高分子配向フィルムからなる広帯域λ/4板であり,
前記粘着層は,透明無着色粒子を分散含有しており,ヘイズが20?88%である光透過性の散乱粘着層(a)を有することを特徴とする楕円偏光板,に関する。
【0009】
上記本発明の楕円偏光板では,偏光板と,上記各波長において上記関係を満足する1層の高分子配向フィルムからなる広帯域λ/4板とを組み合わせた楕円偏光板の接着に散乱粘着層(a)が用いられている。散乱粘着層(a)は,光散乱性を示す光透過性のものとすることを目的に透明無着色粒子を分散含有させたものである。上記へイズの散乱層を用いることにより,視認側の偏光板1枚を介し良好に偏光制御でき,正面や斜視での着色を抑制しつつ,表示のにじみ抑制による解像度や白さ,コントラスト等の視認特性に優れる画像表示装置を得ることができる。
…(省略)…
【0011】
前記散乱粘着層(a)のヘイズは,20?88%に制御されている。散乱粘着層(a)のへイズが20%未満では,正面や斜めから見たときのコントラストの向上が見られない。かかる観点から散乱粘着層(a)のヘイズは,25%以上,さらには30%以上であるのが好適である。
…(省略)…
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の楕円偏光板を図面を参照しながら説明する。図1乃至図4に示しているように,本発明の楕円偏光板は,偏光板(1)および位相差板(2)が粘着層を介して積層している。位相差板(2)は1層の高分子配向フィルムからなる広帯域λ/4板である。前記粘着層は,ヘイズが20?88%である光透過性の散乱粘着層(a)を有する。」
(当合議体注:図1は以下の図である。)


イ 「【0023】
偏光板(1)は,偏光子を有する。
…(省略)…
【0025】
前記偏光子は,通常,片側または両側に透明保護フィルムが設けられる。
…(省略)…
【0034】
位相差板(2)としては,一層で可視光領域の広い波長の入射光に対して,λ/4板として機能する広帯域位相差板が用いられる。位相差板(2)は,R(450)<R(550)<R(650)<R(750),を満足するものである。
…(省略)…
【0042】
広帯域位相差板は上記ポリカーボネートなどの未延伸フィルムを延伸等を行い高分子鎖を配向させた高分子配向フィルムからなるものである。
…(省略)…
【0045】
散乱粘着層(a)を形成する粘着剤は特に制限されないが,例えばアクリル系ポリマー,シリコーン系ポリマー,ポリエステル,ポリウレタン,ポリアミド,ポリエーテル,フッ素系やゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。
…(省略)…
【0049】
散乱粘着層(a)は,透明無着色粒子を分散含有させて,前記のへイズ条件(20?88%)を満足するように制御する。ヘイズの制御は,透明無着色粒子の粒子径,屈折率,含有量を適宜に調整して行う。
…(省略)…
【0070】
次いで有機エレクトロルミネセンス装置(有機EL表示装置)について説明する。一般に,有機EL表示装置は,透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成している。
…(省略)…
【0073】
このような構成の有機EL表示装置において,有機発光層は,厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため,有機発光層も透明電極と同様,光をほぼ完全に透過する。その結果,非発光時に透明基板の表面から入射し,透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が,再び透明基板の表面側へと出るため,外部から視認したとき,有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
【0074】
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに,有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において,透明電極の表面側に偏光板を設けるとともに,これら透明電極と偏光板との間に位相差板を設けることができる。
【0075】
位相差板および偏光板は,外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため,その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に,位相差板を1 /4 波長板で構成し,かつ偏光板と位相差板との偏光方向のなす角をπ/4 に調整すれば,金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【0076】
すなわち,この有機EL表示装置に入射する外部光は,偏光板により直線偏光成分のみが透過する。この直線偏光は位相差板により一般に楕円偏光となるが,とくに位相差板が1 /4 波長板でしかも偏光板と位相差板との偏光方向のなす角がπ/4 のときには円偏光となる。
【0077】
この円偏光は,透明基板,透明電極,有機薄膜を透過し,金属電極で反射して,再び有機薄膜,透明電極,透明基板を透過して,位相差板に再び直線偏光となる。そして,この直線偏光は,偏光板の偏光方向と直交しているので,偏光板を透過できない。その結果,金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【0078】
【実施例】
以下に本発明を実施例に基づいて説明するが,本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0079】
広帯域位相差板として,帝人(株)製のWRF(正面位相差138nm,550nmにおける位相差)を用いた。これは,R(450)<R(550)<R(650)<R(750)を満足するものであった。各波長における位相差は,順に,120nm,138nm,145nm,150nmであった。
【0080】
実施例1
広帯域位相差板(帝人(株)製,WRF:正面位相差138nm)の片面に,折率1.48のアクリル系粘着剤100重量部(固形分)に,屈折率1.43,平均粒子径4μmの透明無着色粒子を5重量部混合した組成物により,厚さ25μmの散乱粘着層を形成した。散乱粘着層のヘイズは40%であった。なお,散乱粘着層のヘイズは,村上色彩(株)製のヘイズメーター(商品名「HM-150」)により測定した。
【0081】
前記広帯域位相差板と反射防止層付きの防眩偏光板(日東電工(株)製,NPF-SEG1425DUHCARS)を,前記散乱粘着層を介して圧着積層して楕円偏光板を得た。なお,偏光板の吸収軸と広帯域位相差板(延伸フィルム)の光軸(延伸軸)の交差角は,45度とした。
【0082】
実施例2
実施例1において,透明無着色粒子の使用量を9重量部としたこと以外は実施例1と同様にして散乱粘着層を形成した。散乱粘着層のヘイズは60%であった。以降は実施例1に準じて楕円偏光板を得た。
【0083】
実施例3
実施例1において,反射防止層とは反対面に透明粘着層(25μm)が予め形成された防眩偏光板(日東電工(株)製,NPF-SEG1425DUHCARS)を用いたこと以外は実施例1と同様にして楕円偏光板を得た。」

(2) 引用発明
引用文献1の【0008】?【0012】及び【0070】?【0077】の記載からみて,引用文献1には,有機EL装置用の楕円偏光板として,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 偏光板および位相差板が粘着層を介して積層している楕円偏光板であって,
前記位相差板は,R(450)<R(550)<R(650)<R(750),(ただし,R(450),R(550),R(650),R(750)はそれぞれ波長450nm,550nm,650nm,750nmにおける位相差板の面内位相差である。)を満足する1層の高分子配向フィルムからなる広帯域λ/4板であり,
前記粘着層は,透明無着色粒子を分散含有しており,ヘイズが20?88%である光透過性の散乱粘着層(a)を有し,
視認側の偏光板1枚を介し良好に偏光制御でき,正面や斜視での着色を抑制しつつ,表示のにじみ抑制による解像度や白さ,コントラスト等の視認特性に優れる画像表示装置を得ることができる,
有機EL表示装置用の楕円偏光板。」

(3) 引用文献2の記載
当合議体の拒絶の理由で引用され,本件出願の出願前に頒布された刊行物である引用文献2には,以下の記載がある。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は,光取り出し効率が向上し,輝度および色変化の視野角依存性が改善された有機ELデバイスおよび該有機ELデバイスを用いた照明器具を提供することである。」

イ 「【発明の効果】
【0008】
本発明の有機ELデバイスは,内部に屈折率変調領域を有する光拡散素子を含む。…(省略)…光拡散素子の内部の屈折率変調領域により,輝度が向上し,様々な方向の光を混色させることができる。これにより,有機ELデバイスの視野角ごとの輝度および色変化を抑制することができる。」

ウ 「【0020】
本発明で用いられる光拡散素子の拡散特性は,光拡散半値角で示すならば,好ましくは10°?150°(片側5°?75°)であり,より好ましくは10°?100°(片側5°?50°)であり,さらに好ましくは30°?80°(片側15°?40°)である。」

(4) 引用文献3の記載
当合議体の拒絶の理由で引用され,本件出願の出願前に頒布された刊行物である引用文献3には,以下の記載がある。
ア 「【0012】
[液晶表示装置]
図1に示すように,本発明の液晶表示装置10は,光拡散層11と,主面の法線方向に指向性を有する光を出射するバックライト12と,光拡散層11とバックライト12との間に配置された液晶パネル13とを備える。」
(当合議体注:図1は以下の図である。)


イ 「【0014】
光拡散層11の全光線透過率は,好ましくは,80%以上であり,さらに好ましくは,85%?95%である。光拡散層11の光の直進透過率は,好ましくは,0.1%以下であり,さらに好ましくは,0.01%以下である。上記の光拡散層の拡散半値全幅は,上下方向において,好ましくは,30°?80°である。左右方向の拡散半値全幅も上記の範囲を満足することが好ましい。本明細書において,拡散半値全幅とは,拡散光の最大輝度の半分の値をとる角度幅をいう。」

(5) 引用文献4の記載
当合議体の拒絶の理由で引用され,本件出願の出願前に頒布された刊行物である引用文献4には,以下の記載がある。
ア 「【0002】
【従来の技術】近年,指向性鋭く入射する光を,より広い角度範囲に分配,配光する光拡散板は,背面投射型テレビジョンのスクリーンや液晶表示装置の前面板として装置の視認性向上のために用いられている。」

イ 「【0012】…(省略)…透過型スクリーンとして用いる場合,拡散半値角(輝度が正面方向の半分になる角度)で30゜以上の拡散性は必要であり,全反射光線の発生は必然となる。」

2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりである。
ア 円偏光板
引用発明の「楕円偏光板」は,「偏光板および位相差板が粘着層を介して積層している」。ここで,引用発明の「偏光板」が偏光子を有することは,技術常識である(引用文献1の【0023】の記載からも確認できる事項である。)。また,引用発明の「粘着層」は,「透明無着色粒子を分散含有しており,ヘイズが20?88%である光透過性の散乱粘着層(a)を有し」たものであるから,光拡散層ということができる。そして,引用発明の「位相差板」がフィルムと称し得る程度の厚さであることは,技術的にみて明らかである(引用文献1の【0042】の記載からも確認できる事項である。)。
そうしてみると,引用発明の「楕円偏光板」は,偏光子と,光拡散層と位相差フィルムとをこの順に備えるものということができる。

加えて,引用発明の「楕円偏光板」は,「有機EL表示装置用の楕円偏光板」であるから,実質的に円偏光板として機能するよう(偏光子の偏光方向に対し位相差フィルムの遅相軸が斜め45°程度になるよう)設計されたものといえる(引用文献1の【0075】?【0077】の記載からも確認できる事項である。)。

以上勘案すると,引用発明の「楕円偏光板」,「偏光板」(の偏光子),「粘着層」及び「位相差板」は,それぞれ,本願発明の「円偏光板」,「偏光子」,「光拡散層」及び「位相差フィルム」に相当する。
また,引用発明の「楕円偏光板」と本願発明の「円偏光板」は,「偏光子と」「光拡散層と」「位相差フィルムとをこの順に備え」る点で,共通する。

イ 光拡散層
引用発明の「粘着層」は,「透明無着色粒子を分散含有しており,ヘイズが20?88%である光透過性の散乱粘着層(a)」を有する。
したがって,引用発明の「粘着層」は,本願発明の「該光拡散層が光拡散粘着剤または光拡散接着剤で構成され」という要件を満たす。

ウ 表示装置
引用発明の「楕円偏光板」は,「有機EL表示装置用」であるから,表示装置に用いられるものである。
そうしてみると,引用発明の「楕円偏光板」は,本願発明の「表示装置に用いられる」という要件を満たす。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本願発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 偏光子と光拡散層と位相差フィルムとをこの順に備え,
該光拡散層が光拡散粘着剤または光拡散接着剤で構成され,
表示装置に用いられる,
円偏光板。」

イ 相違点
本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
偏光子,光拡散層及び位相差フィルム,並びに,円偏光板について,本願発明は「長尺状」であるのに対して,引用発明は,これが明らかではない点。
また,これに起因して,引用発明の「位相差板」は,本願発明の「該位相差フィルムの長尺方向と遅相軸とのなす角度θが35°≦θ≦55°の関係を満たし」という要件を満たすかも,明らかではない点。

(相違点2)
位相差フィルムについて,本願発明は,「該位相差フィルムの面内位相差が,Re(450)<Re(550)の関係を満たし」,「ここで,Re(450)およびRe(550)は,それぞれ,23℃における波長450nmおよび550nmで測定した面内位相差を表す」のに対して,引用発明の「位相差板」は,一応,これが明らかではない点。

(相違点3)
光拡散角について,本願発明は,「該光拡散層の光拡散半値角が30°以上であり」という構成を具備するのに対して,引用発明は,これが明らかではない点。

(3) 判断
相違点についての判断は,以下のとおりである。
ア 相違点1について
引用発明の「楕円偏光板」の製品化を検討する当業者ならば,量産性を考慮するといえるから,長尺状の偏光板及び長尺状の斜め延伸位相差板を貼り合わせることを,着想するといえる(念のため,周知技術を参照すると,特開2011-154176号公報の【0030】,特開2011-39343号公報の【0008】,特開2008-238514号公報の【0067】及び【0068】,特開2007-94007号公報の【0007】,特開2005-49619号公報の【0015】,特開2003-248117号公報の【0130】及び【0140】等に開示がある。)。
そして,引用発明において,長尺状の偏光板及び長尺状の斜め延伸位相差板を貼り合わせてなる円偏光板の粘着層,並びに,円偏光板は,必然的に長尺状のものとなり,また,位相差板も,長尺方向と遅相軸とのなす角度θが35°≦θ≦55°の関係を満たすこととなる。
したがって,引用発明を製品化するに際して,量産性を考慮した当業者が,相違点1に係る本願発明の構成を採用することは,容易に発明をすることができた事項である。

ところで,請求人は,本件意見書において,引用文献1の【0042】に,広帯域位相差板を得るための未延伸フィルムの延伸方法は,好ましくは縦一軸延伸である旨が記載されていることを根拠に,引用文献1に開示された広帯域位相差板の遅相軸は,長尺方向と平行であると主張する。
確かに,引用発明の広帯域位相差板を斜め延伸により製作し,ロールツーロールで円偏光板を製造することは,縦一軸延伸及び枚葉体の貼り合わせにより製作する場合よりも難易度が高いと考えられる(引用文献1と出願人が同一である本件出願においても,ロールツーロールの実施例は記載されていない。)。このような事情により,引用文献1の【0042】には,「好ましくは縦一軸延伸である」と記載されていると考えられる。
しかしながら,引用文献1の【0042】の記載は,「延伸方法も公知の延伸方法を使用し得るが,好ましくは縦一軸延伸である。」というものであるから,引用文献1には,公知の延伸方法を使用し得ることも記載されているといえる(引用文献1の【0004】及び【0005】に記載の特許文献1の【0069】及び特許文献2の【0085】においても,「延伸方法も公知の延伸方法を使用し得るが,好ましくは縦一軸延伸である。」と記載され,公知の延伸方法を使用し得ることが記載されている。)。また,引用発明の「位相差板」は,「R(450)<R(550)<R(650)<R(750)…を満足する1層の高分子配向フィルムからなる」であれば足りるから,斜め延伸では製造不可能ともいえない。
したがって,請求人の主張は採用できない。

イ 相違点2について
引用発明の「位相差板」は,「R(450)<R(550)<R(650)<R(750)」の関係を満たす。また,引用発明は「有機EL表示装置用の楕円偏光板」であるから,この関係は,有機EL表示装置が正常に動作すべき,23℃を含む室温において確保されているものと考えられる。
したがって,相違点2は,実質的な相違点ではない。
あるいは,引用発明の「位相差板」を,23℃において「R(450)<R(550)<R(650)<R(750)」の関係を満たすものとすることは,引用発明を「有機EL表示装置用」として具体化する当業者における創意工夫の範囲内の事項である。
したがって,引用発明を「有機EL表示装置用」として具体化するに際して,当業者が,相違点2に係る本願発明の構成を採用することは,容易に発明をすることができた事項である。

ウ 相違点3について
引用文献1の【0009】の記載からみて,引用発明は,「粘着層」により「斜視での着色を抑制」したものであるから,引用発明の「粘着層」は,正面方向への光を斜め方向に散乱させるものと理解される。
また,引用発明でいう「斜視」とは,有機EL表示装置を斜めから視た状態を意味するものであるから,その角度は,少なくとも15°と考えられる。
そうしてみると,引用発明の「粘着層」の光拡散半値角についても,30°以上は確保されていると考えるのが自然である。
したがって,相違点3も,実質的な相違点ではない。

あるいは,当業者ならば,引用文献2,引用文献3又は引用文献4に記載された技術事項を心得ている。そして,このような当業者が,引用発明において「斜視での着色を抑制」するという効果を得るための光拡散半値角を30°以上とすることは,通常の創意工夫の範囲内の事項である。
したがって,引用発明の「粘着層」による「斜視での着色を抑制」する効果を十分得ようと考えた当業者が,相違点3に係る本願発明の構成を採用することは,容易に発明をすることができた事項である。

ところで,請求人は,本件意見書において,引用文献2?引用文献4には,円偏光板に設けられる光拡散層について記載がないと主張する。
しかしながら,引用文献2には,輝度及び色変化の視野角依存性を解消するために,光拡散半値角を30°?80°とすることがさらに好ましいことが開示されている(前記1(3))。また,引用文献3には,法線方向に指向性を有するバックライトからの光を拡散させる光拡散層の拡散半値全幅を30?80°とすることが好ましいことが記載されており,この技術は,斜め方向からの視認性を確保するためのものと理解される(前記1(4))。そして,引用文献4には,指向性鋭く入射する光を拡散させて装置の視認性を向上させるために必要な拡散半値角として,30°以上が挙げられている(前記1(5))。
これら技術事項を心得た当業者ならば,引用発明において「斜視での着色を抑制」するという効果を得るための光拡散半値角の大きさとして,30°以上の値を選択することは,容易に発明をすることができた事項である。
したがって,請求人の主張は採用できない。

(4) 本願発明の効果について
本願発明の効果に関して,本件出願の明細書の【0007】には,「表示装置の正面反射率を低減させると同時に正面方向の色相(反射色相)と斜め方向の色相(反射色相)との差を大きく低減することができる。」と記載されている。
しかしながら,引用発明は,「有機EL表示装置用の楕円偏光板」であるから,表示装置の正面反射率を低減させることができるものである。また,引用発明は,「正面や斜視での着色を抑制」するものであるから,正面方向の色相(反射色相)と斜め方向の色相(反射色相)との差を大きく低減することができるものといえる。
したがって,本願発明の効果は,引用発明が奏する効果であるか,少なくとも,「斜視での着色を抑制」する効果を十分得ようと考えた当業者において予測可能な効果といえる。

3 むすび
以上のとおり,本願発明は,周知技術を心得た当業者が,引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-09-13 
結審通知日 2018-09-19 
審決日 2018-10-03 
出願番号 特願2012-146703(P2012-146703)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小西 隆  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 樋口 信宏
河原 正
発明の名称 円偏光板および表示装置  
代理人 籾井 孝文  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ