• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1346302
審判番号 不服2017-19420  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-27 
確定日 2018-12-04 
事件の表示 特願2013-205733「画像表示装置、偏光板複合体の製造方法、偏光板セットの製造方法、画像表示装置の製造方法及び画像表示装置の視認性改善方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月13日出願公開、特開2015- 69171、請求項の数(17)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年9月30日の出願であって、平成29年1月24日付けで拒絶理由が通知され、同年4月10日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年9月22日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年12月27日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。
また、平成29年1月23日と同年5月23日に、刊行物等提出書が提出されている。


第2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、本件補正前の請求項1?17に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

そして、原査定の拒絶の理由において引用された文献は、以下のとおりである。
引用文献1:特開2007-94396号公報
引用文献2:特開2005-300978号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2009-163216号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:国際公開第2011/162198号
引用文献5:特開2008-18543号公報(周知技術を示す文献)


第3 本件発明
本願の請求項1?17に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明17」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるとおりの発明であり、その本件発明1、8、14?17は、以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
面内に複屈折率を有する光透過性基材(1)の一方の面上に光学機能層を有し、画像表示装置の表面に配置して用いられる光学積層体と、
バックライト光源側から、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材(2)と偏光子(2)とがこの順に積層され、前記画像表示装置の前記バックライト光源側に配置して用いられる偏光板とを有する偏光板複合体を備えた画像表示装置であって、
前記光透過性基材(1)は、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上であり、リタデーションが3000nm以上であり、膜厚が70?150μmであり、
前記光透過性基材(1)の屈折率が大きい方向である遅相軸が、前記画像表示装置の表示画面の上下方向と平行に配置され、
前記光透過性基材(2)に、偏光された光が入射されるものであり、
前記光透過性基材(2)と前記偏光子(2)とは、前記光透過性基材(2)の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子(2)の透過軸とのなす角度が、0°±30°又は90°±30°となるように積層されている
ことを特徴とする画像表示装置。」

「 【請求項8】
面内に複屈折率を有する光透過性基材(1)の一方の面上に光学機能層を有する光学積層体が、偏光子(1)上に設けられ、画像表示装置の表面に配置して用いられる偏光板(1)と、
バックライト光源側から、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材(2)と偏光子(2)とがこの順に積層され、前記画像表示装置の前記バックライト光源側に配置して用いられる偏光板(2)とを有する偏光板セットを備えた画像表示装置であって、
前記光透過性基材(1)は、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上であり、リタデーションが3000nm以上であり、膜厚が70?150μmであり、
前記光学積層体と前記偏光子(1)とは、前記光透過性基材(1)の屈折率が大きい方向である遅相軸と、前記偏光子(1)の吸収軸とが垂直となるように配置され、
前記光透過性基材(1)の屈折率が大きい方向である遅相軸が、前記画像表示装置の表示画面の上下方向と平行に配置され、
前記光透過性基材(2)に、偏光された光が入射されるものであり、
前記光透過性基材(2)と前記偏光子(2)とは、前記光透過性基材(2)の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子(2)の透過軸とのなす角度が、0°±30°又は90°±30°となるように積層されている
ことを特徴とする画像表示装置。」

「 【請求項14】
面内に複屈折率を有する光透過性基材(1)の一方の面上に光学機能層を有し、画像表示装置の表面に配置して用いられる光学積層体と、
バックライト光源側から、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材(2)と偏光子とがこの順に積層され、前記画像表示装置の前記バックライト光源側に配置して用いられる偏光板とを有する偏光板複合体の製造方法であって、
前記光透過性基材(1)は、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上であり、リタデーションが3000nm以上、膜厚が70?150μmであるものを用い、
前記光透過性基材(1)の屈折率が大きい方向である遅相軸と、前記画像表示装置の表示画面の上下方向とが平行となるように、前記光学積層体を配置する工程と、
前記光透過性基材(2)と前記偏光子とを、前記光透過性基材(2)の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子の透過軸とのなす角度が、0°±30°又は90°±30°となるように積層する工程を有する
ことを特徴とする偏光板複合体の製造方法。」

「 【請求項15】
面内に複屈折率を有する光透過性基材(1)の一方の面上に光学機能層を有する光学積層体が、偏光子(1)上に設けられ、画像表示装置の表面に配置して用いられる偏光板(1)と、
バックライト光源側から、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材(2)と偏光子(2)とがこの順に積層され、前記画像表示装置の前記バックライト光源側に配置して用いられる偏光板(2)とを有する偏光板セットの製造方法であって、
前記光透過性基材(1)は、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上であり、リタデーションが3000nm以上、膜厚が70?150μmであるものを用い、
前記光学積層体と前記偏光子(1)とは、前記光透過性基材(1)の屈折率が大きい方向である遅相軸と、前記偏光子(1)の吸収軸とが垂直となるように配置され、
前記光透過性基材(1)の屈折率が大きい方向である遅相軸が、前記画像表示装置の表示画面の上下方向と平行に配置する工程と、
前記光透過性基材(2)と前記偏光子(2)とは、前記光透過性基材(2)の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子(2)の透過軸とのなす角度が、0°±30°又は90°±30°となるように積層する工程を有する
ことを特徴とする偏光板セットの製造方法。」

「 【請求項16】
面内に複屈折率を有する光透過性基材(1)の一方の面上に光学機能層を有し、画像表示装置の表面に配置して用いられる光学積層体と、
少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材(2)と偏光子(2)とがこの順に積層され、画像表示装置のバックライト光源側に配置して用いられる偏光板を備えた画像表示装置の製造方法であって、
前記光透過性基材(1)は、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上であり、リタデーションが3000nm以上、膜厚が70?150μmであるものを用い、
前記光透過性基材(1)の屈折率が大きい方向である遅相軸と、前記画像表示装置の表示画面の上下方向とが平行となるように、前記光学積層体を配置する工程と、
前記光透過性基材(2)と前記偏光子(2)とを、前記光透過性基材(2)の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子(2)の透過軸とのなす角度が、0°±30°又は90°±30°となるように積層する工程を有する
ことを特徴とする画像表示装置の製造方法。」

「 【請求項17】
面内に複屈折率を有する光透過性基材(1)の一方の面上に光学機能層を有し、画像表示装置の表面に配置して用いられる光学積層体と、
少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材(2)と偏光子(2)とがこの順に積層され、画像表示装置のバックライト光源側に配置して用いられる偏光板を備えた画像表示装置の視認性改善方法であって、
前記光透過性基材(1)は、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上であり、リタデーションが3000nm以上、膜厚が70?150μmであるものを用い、
前記光透過性基材(1)の屈折率が大きい方向である遅相軸と、前記画像表示装置の表示画面の上下方向とが平行となるように、前記光学積層体を配置するとともに、
前記光透過性基材(2)と前記偏光子(2)とを、前記光透過性基材(2)の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子(2)の透過軸とのなす角度が、0°±30°又は90°±30°となるように積層する
ことを特徴とする画像表示装置の視認性改善方法。」

また、本件発明2?7は、いずれも本件発明1を減縮した発明であり、本件発明9?11は、いずれも本件発明8を減縮したものであり、また、本件発明12及び13は、ともに本件発明1又は本件発明8を減縮した発明である。


第4 引用文献の記載事項及び引用文献に記載された発明
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1(特開2007-94396号公報)には、図面とともに、以下の記載事項がある。なお、下線は合議体が引用文献に記載された発明の認定等に用いた箇所を示す(以下、他の引用文献についても同様である。)。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、高い光学補償機能を有しつつ、温湿度変化や液晶表示装置の連続点灯による画面周辺部における光漏れがなく、かつリワーク性に優れた偏光板、および該偏光板を使用した液晶表示装置に関する。

(中略)

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、高い光学補償機能を有しつつ、温湿度変化や液晶表示装置の連続点灯による画面周辺部における光漏れがなく、かつリワーク性に優れた偏光板、および該偏光板を使用した液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、偏光板を液晶セルのガラス板に貼り付ける粘着層および偏光板の保護膜の弾性率を特定の物性にすることで上記課題が達成出来ることを見出した。

(中略)

【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い光学補償機能を有しつつ、温湿度変化や液晶表示装置の連続点灯による画面周辺部における光漏れがなく、かつリワーク性に優れた偏光板、および該偏光板を使用した液晶表示装置が提供される。」

イ 「【0046】
<保護膜>
次に本発明の保護膜について説明する。
本発明の偏光板は、偏光子の両側に保護膜を有する。本発明においては、セルロースアシレートフィルムまたは環状ポリオレフィンフィルムを用いることが好ましい。偏光子の両側の保護膜は同じであっても異なっていてもよい。例えば、偏光子の両側の保護膜のうち、片側を前述のセルロースアシレートフィルム、もう片側を環状ポリオレフィンフィルムを用いることもできる。また、お互いに異なる組成や異なる光学特性のフィルムを用いることも出来る。さらに、セルロースアシレートフィルムや環状ポリオレフィンフィルムなどの上にポリマー層を設けて保護膜としてもよい。例えば、セルロースアシレートフィルムの上にポリイミド層を設けて保護膜とすることができる。
【0047】
{セルロースアシレートフィルム}
次に、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムについて説明する。
本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムは、特定のセルロースアシレートを原料として用いて形成されている。光学異方性の発現性を大きくする場合と、小さくする場合で使用するセルロースアシレートを使い分ける。

(中略)

【0172】
[波長分散調整剤]
次ぎに、セルロースアシレートフィルムの波長分散を低下させる化合物について説明する。200?400nmの紫外領域に吸収を持ち、フィルムの|Re_(400)-Re_(700)|及び|Rth_(400)-Rth_(700)|を低下させる化合物を少なくとも1種、セルロースアシレート固形分に対して0.01?30質量%含むことが好ましい。波長分散調整剤の含有により、セルロースアシレートフィルムのRe、Rthの波長分散を調整することができる。ここで、Re_(400)、Rth_(400)は、波長λ=400nmにおける値、Re_(700)、Rth_(700)は、波長λ=700nmにおける値(いずれも単位:nm)を表す。このような化合物の添加量としては、0.1?30質量%含むことによってセルロースアシレートフィルムのRe、Rthの波長分散を調整できる。

(中略)

【0175】
また、近年テレビやノートパソコン、モバイル型携帯端末などの液晶表示装置では、より少ない電力で輝度を高めるために、液晶表示装置に用いられる光学部材の透過率が優れたものが要求されている。その点においては、200?400nmの紫外領域に吸収を持ち、フィルムの|Re_(400)-Re_(700)|及び|Rth_(400)-Rth_(700)|を低下させる化合物を、セルロースアシレートフィルムに添加する場合、分光透過率が優れていることが要求される。本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムにおいては、波長380nmにおける分光透過率が45%以上95%以下であり、且つ波長350nmにおける分光透過率が10%以下であることがのぞましい。

(中略)

【0226】
[延伸処理]
本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムは、延伸処理によりレターデーションを調整することが好ましい。特に、セルロースアシレートフィルムの正面レターデーション値を高い値とする場合には、積極的に幅方向に延伸する方法、例えば、特開昭62-115035号、特開平4-152125号、特開平4-284211号、特開平4-298310号、及び特開平11-48271号の各公報などに記載されている、製造したフィルムを延伸する方法を用いることができる。

(中略)

【0228】
液晶セルの光学異方性の補償及び偏光板を斜めから見た場合の光漏れの抑制のためには、正面レターデーション値が30nm以上の保護膜を用いることが好ましく、そのためには延伸処理を行ったセルロースアシレートフィルムが用いられる。光学特性を得るためには、具体的には、延伸倍率10%以上のものが好ましく、さらに好ましくは15%以上のものである。

(中略)

【0230】
上記の偏光板を斜めから見たときの光漏れの抑制のためには、偏光子の透過軸とセルロースアシレートフィルムの面内の遅相軸を平行に配置する必要がある。連続的に製造されるロールフィルム状の偏光子の透過軸は、一般的に、ロールフィルムの幅方向に平行であるので、前記ロールフィルム状の偏光子とロールフィルム状のセルロースアシレートフィルムからなる保護膜を連続的に貼り合せるためには、ロールフィルム状の保護膜の面内遅相軸は、フィルムの幅方向に平行であることが必要となる。従って幅方向により多く延伸することが好ましい。また延伸処理は、製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理してもよい。前者の場合には残留溶媒を含んだ状態で延伸を行ってもよく、残留溶媒量が2?30質量%で好ましく延伸することができる。
残留溶媒量(%)は、(A-B)/B×100で定義する。ここで、Aはウェブの質量、Bはウェブを140℃で60分間乾燥させた後の質量である。
【0231】
乾燥後得られる、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムの膜厚は、使用目的によって異なり、通常、5?500μmの範囲であることが好ましく、更に20?300μmの範囲が好ましく、特に30?150μmの範囲が好ましい。また、光学用、特にVA液晶表示装置用としては、35?140μmであることが好ましい。フィルム厚さの調整は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節すればよい。
また、本発明のようにVAモードのような液晶セル表裏の偏光板の吸収軸が互いに直交しており、かつ吸収軸が液晶セルの長辺または短辺と平行な液晶表示装置偏光板では、20?200μmであることが好ましく、25?180μmであることがさらに好ましく、30?150μmであることが特に好ましい。
またこれらのうちでも保護膜の膜厚が薄い方がリワーク適性に優れ好ましい。

(中略)

【0234】
〔セルロースアシレートフィルムの光学特性〕
本明細書において、Re_(λ)、Rth_(λ)は、それぞれ波長λにおける正面レターデーション及び厚さ方向のレターデーションを表す。Re_(λ)は“KOBRA 21ADH”{王子計測機器(株)製}において、波長λnmの光をフィルムの法線方向に入射させて測定される。Rth_(λ)は、前記Re_(λ)、面内の遅相軸(“KOBRA 21ADH”により判断される)を傾斜軸(回転軸)として、フィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、及び面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)として、フィルム法線方向に対して-40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値の、合計3つの方向で測定したレターデーション値を基に“KOBRA 21ADH”が算出する。
【0235】
ここで平均屈折率の仮定値は、ポリマーハンドブック(John Wiley & Sons,Inc.)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについては、アッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:
セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)。
また、これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHによりn_(x)(遅相軸方向の屈折率)、n_(y)(進相軸方向の屈折率)、n_(z)(厚み方向の屈折率)を算出する。また“KOBRA 21ADH”は、面内の遅相軸を傾斜軸とした場合の、フィルム内部を伝播する光に対してレターデーション値が最小となるフィルム法線方向に対する角度βも算出する。
【0236】
Re_(λ)レターデーション値、Rth_(λ)レターデーション値が、それぞれ、以下の数式(2)、(3)を満たすことが、液晶表示装置、特にVAモード液晶表示装置の視野角を広くするために好ましい。また特にセルロースアシレートフィルムが、偏光板の液晶セル側の保護膜に用いられる場合に好ましい。
数式(2):0≦Re_(590)≦200
数式(3):0≦Rth_(590)≦400
[式中、Re_(λ)、Rth_(λ)は、波長λnmにおける値(単位:nm)である。]
【0237】
また、セルロースアシレートフィルムの光学異方性の影響を小さくしたい場合は、液晶セル側に配置される保護膜(セルロースアシレートフィルム)のRe_(λ)及びRth_(λ)が、数式(8)?(11)を満たすことが好ましい。
数式(8):0≦Re_(590)≦10
数式(9):|Rth_(590)|≦25
数式(10):|Re_(400)-Re_(700)|≦10
数式(11):|Rth_(400)-Rth_(700)|≦35
[式中、Re_(λ)、Rth_(λ)は、波長λnmにおける値(単位:nm)である。]
【0238】
本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムをVAモードに使用する場合、セルの両側に1枚ずつ合計2枚使用する形態(2枚型)と、セルの上下のいずれか一方の側にのみ使用する形態(1枚型)の2通りがある。
2枚型の場合、Re_(590)は20?100nmが好ましく、30?70nmがさらに好ましい。Rth_(590)については70?300nmが好ましく、100?200nmがさらに好ましい。
1枚型の場合、Re_(590)は30?150nmが好ましく、40?100nmがさらに好ましい。Rth_(590)については100?300nmが好ましく、150?250nmがさらに好ましい。
【0239】
本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムの、フィルム面内の遅相軸角度のバラつきは、ロールフィルムの基準方向に対して-2゜?+2゜の範囲にあることが好ましく、-1゜?+1゜の範囲にあることがさらに好ましく、-0.5゜?+0.5゜の範囲にあることが最も好ましい。ここで、基準方向とは、セルロースアシレートフィルムを縦延伸する場合にはロールフィルムの長手方向であり、横延伸する場合にはロールフィルムの幅方向である。

(中略)

【0248】
また、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムは、そのヘイズが0.01?2%の範囲であるのが好ましい。ここでヘイズは、以下のようにして測定できる。
ヘイズの測定は、セルロースアシレートフィルム試料40mm×80mmを、25℃、60%RHでヘイズメーター“HGM-2DP”{スガ試験機(株)製}でJIS K-6714に従って測定する。」

ウ 「【0261】
<偏光板>
次に、本発明に関する偏光板について説明する。
本発明に関する偏光板は、液晶セル側に配置される保護膜の厚みd_(1)と、液晶セルと反対側に配置される保護膜の厚みd_(2)が、下記数式(15)を満たすことが好ましい。
数式(15):0.3×d_(1)≦d_(2)≦1.3×d_(1)
上記数式(15)を満たすことにより、弾性率、吸湿膨張係数がほぼ同じ保護膜を組み合わせる場合に、偏光板のカールが-30mm?+15mmの範囲となり、好ましい結果が得られる。

(中略)

【0265】
偏光板の偏光子には、ヨウ素系偏光子、二色性染料を用いる染料系偏光子やポリエン系偏光子がある。ヨウ素系偏光子及び染料系偏光子は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。
【0266】
本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムを偏光板保護膜として用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。例えば、得られたセルロースアシレートフィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に、完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6-94915号公報、特開平6-118232号公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。保護膜処理面と偏光子を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。
環状ポリオレフィンフィルムを偏光板保護膜として用いる場合には、接着剤としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックスに加えて、アクリル系ポリマー、エポキシ系ポリマー、変成オレフィン系ポリマー、スチレンブタジエン系ポリマー、特殊合成ゴム等の接着剤を用いることができる。
接着性を高めるために表面処理を行っても良い。具体的方法としては、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理または紫外線照射処理が挙げられる。また、特開平7-333433号明細書に記載のように、下塗り層を設けることも好ましい。フィルムの平面性を保持する観点から、これら処理においてポリマーフィルムの温度をTg(ガラス転移温度)以下とすることが好ましい。
【0267】
偏光板は、偏光子及びその両面を保護する保護膜、および少なくとも片面に粘着層を有して構成されており、さらにまた、粘着層面にセパレートフィルムを、該偏光板のセパレートフィルムとは反対面にプロテクトフィルムを貼合して構成してもよい。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶セルへ貼合する面の反対面側に用いられる。またセパレートフィルムは偏光板を液晶セルへ貼合するための粘着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶セルへ貼合する面側に用いられる。
粘着層は(メタ)アクリル系共重合体(A){又は高分子量(メタ)アクリル系共重合体(A_(1))と低分子量(メタ)アクリル系(共)重合体(A_(2))}及び多官能性化合物(B)からなる(メタ)アクリル系共重合体を含む組成物の溶液をダイコーター等のコーターでセパレートフィルム上に塗布し、乾燥させた後、偏光板保護膜にセパレートフィルムごと転写することにより形成される。上記組成物の溶液を偏光板保護膜上に塗布し、乾燥させた後、セパレートフィルムで粘着層を覆っても良い。
【0268】
前記した延伸したセルロースアシレートフィルムを用いる場合の偏光子への貼り合せ方は、図1に示すように、偏光子1の透過軸2とセルロースアシレートフィルム3の遅相軸4を一致させるように貼り合せることが好ましい。
【0269】
なお、偏光板クロスニコル下で作製した偏光板は、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸(透過軸と直交する軸)との直交精度が1゜以内であれば、偏光板クロスニコル下での偏光度性能が低下して、光抜けが生じたり、液晶セルと組み合わせた場合に、十分な黒レベルやコントラストが得られなかったりするなどの不具合が生じにくいので、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムの遅相軸の方向と偏光板の透過軸の方向とは、そのずれが1゜以内であることが好ましく、0.5゜以内であることがさらに好ましい。

(中略)

【0273】
〔セルロースアシレートフィルムの表面処理〕
本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層及びバック層)との接着の向上を達成することができる。表面処理としては、例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸又はアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10^(-3)?20Torrの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、更にまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類及びそれらの混合物などがあげられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報公技番号2001-1745号(2001年3月15日発行、発明協会)p.30-32に詳細に記載されている。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10?1000Kev下で20?500Kgyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30?500Kev下で20?300Kgyの照射エネルギーが用いられる。これらの中でも特に好ましくは、アルカリ鹸化処理でありセルロースアシレートフィルムの表面処理としては極めて有効である。

(中略)

【0276】
さらに本発明に関する偏光板は、偏光板の少なくとも一方の側の保護膜の表面に、ハードコート層、防眩層又は反射防止層の少なくとも一層を設けられたものであるのが好ましい。すなわち、図2に示すように、偏光板は、偏光子11の両側に保護膜12,13が設けられ、偏光板の液晶表示装置への使用時において、液晶セル側に配置される保護膜12は、前記弾性率Eを満たし、液晶セルと反対側に配置される保護膜13は反射防止層などの機能性膜14を設けることが好ましく、かかる機能性膜としては、ハードコート層、防眩層又は反射防止層の少なくとも一層を設けるのが好ましい。なお、各層はそれぞれ別個の層として設ける必要はなく、例えば、反射防止層やハードコート層に防眩性の機能を持たせることにより、反射防止層及び防眩層の二層を設ける代わりに、防眩性反射防止層として機能させてもよい。

(中略)

【0328】
(ハードコート層)
ハードコート層は、反射防止層を設けた保護膜に物理強度を付与するために、保護膜の表面に設ける。特に、保護膜と前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。ハードコート層は、光及び/又は熱の硬化性化合物の架橋反応、又は、重合反応により形成されることが好ましい。硬化性化合物における硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましい。また加水分解性官能基含有の有機金属化合物や有機アルコキシシリル化合物も好ましい。」
なお、図1及び図2は、以下のとおりのものである。


エ 「【0338】
<液晶表示装置>
本発明の液晶表示装置は、本発明の偏光板を少なくとも有するものである。好ましくは、一対の偏光板を液晶セルの上下に1枚ずつ用いた液晶表示装置であり、特に好ましくは本発明の一対の偏光板をVAモード液晶セルの上下に1枚ずつ用いた液晶表示装置である。また、該偏光板の少なくとも一方の保護膜が前記の保護膜、すなわち、前記のセルロースアシレートフィルムまたは環状ポリオレフィンフィルムであることが好ましい。さらにまた、液晶表示装置の偏光板の液晶セル側に配置される保護膜が、前記数式(6)および(7)を満たす保護膜であることが好ましい。また、保護膜の上に光学異方性層を設けた態様、及び/または保護膜の上に反射防止層を設けた態様も好ましい。このような構成とすることで、軽くて薄い液晶表示装置を得ることができる。
【0339】
以下に、本発明の偏光板を用いて液晶表示装置とすることの出来る液晶セルの例を挙げる。
【0340】
本発明の偏光板は、様々な表示モードの液晶セルに用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti-Ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Super Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)及びHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードを挙げることができる。このうち、VAモード又はOCBモードに好ましく用いることができ、特にVAモードに用いることが好ましい。
【0341】
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向している。
VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2-176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードを突起によりマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル{“SID97、Digest of tech. Papers”(予稿集)28集(1997)p.845記載}、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n-ASMモード、CPAモード)の液晶セル{日本液晶討論会の予稿集p.58?59(1998)、シャープ技報第80号11頁記載}及び、(4)斜め電界によりマルチドメイン配向させるSURVAIVALモードの液晶セル{月刊ディスプレイ5月号14頁(1999年)}、PVAモードの液晶セル{“18th,IDRC Proceedings”, p.383(1998年)}が含まれる。
【0342】
VAモードの液晶表示装置としては、図3に示すように、液晶セル(VAモードセル)40及び、その両側に2枚の偏光板{セルロースアシレートフィルム(TAC1)(22)、セルロースアシレートフィルム(TAC2)(23、33)、セルロースアシレートフィルム(TAC3)(32)、偏光子(21、31)および粘着層(不図示)を有する偏光板}を有するものが挙げられる。液晶セルは、特に図示しないが2枚の電極基板の間に液晶を担持している。
【0343】
図3に示す本発明の透過型液晶表示装置の態様では、保護膜として用いられるセルロースアシレートフィルムのうち、液晶セル側に用いられる保護膜TAC1とTAC3は同じフィルムであっても良いし、異なったフィルムであっても良い。またTAC1およびTAC3は保護膜兼光学補償シートとして用いられてもよい。
【0344】
図3の保護膜(TAC2)は、通常のセルレートアシレートフィルムでもよく、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムより薄いことが好ましい。例えば、40?80μmが好ましく、市販の“KC4UX2M”{コニカオプト(株)製40μm}、“KC5UX”{コニカオプト(株)製60μm}、“TD80UL”{富士写真フィルム(株)製80μm}等が挙げられるが、これらに限定されない。」
なお、図3は以下のとおりのものである。


オ 「【実施例】
【0345】
以下、本発明を実施例、製造例及び合成例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例等に限定されない。
【0346】
製造例1:バンド流延機によるセルロースアシレートフィルムの製膜(フィルム1?18)
(1)セルロースアシレート
表1に記載のように、アシル基の種類、置換度の異なるセルロースアシレートを調製した。これは、触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、アシル置換基の原料となるカルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。この時、硫酸触媒量、水分量及び熟成時間を調整することでアシル基の種類、全置換度と6位置換度を調整した。熟成温度は40℃で行った。またアシル化後40℃で熟成を行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
【0347】
なお、表中CABとは、セルロースアセテートブチレート(アシル基がアセチル基とブタノイル基(Bu)からなるセルロースエステル誘導体)の略称であり、CAPとは、セルロースアセテートプロピオネート(アシル基がアセチル基とプロピオニル基(Pr)からなるセルロースエステル誘導体)の略称であり、CTAとは、セルローストリアセテート(アシル基がアセチル基のみからなるセルロースエステル誘導体)を意味する。
【0348】
【表1】

【0349】
(2)ドープの調製
[1-1.セルロースアシレート溶液]
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、更に90℃に約10分間加熱した後、平均孔径34μmの濾紙及び平均孔径10μmの焼結金属フィルターで濾過した。
なお、トリフェニルホスフェート及び、ビフェニルジフェニルホスフェートの添加量は表2に記載したように、各フィルムによって異なる。
【0350】
(セルロースアシレート溶液の組成)
表1記載のセルロースアシレート 100.0質量部
トリフェニルホスフェート (表2記載)
ビフェニルジフェニルホスフェート (表2記載)
メチレンクロリド 403.0質量部
メタノール 60.2質量部
【0351】
[1-2.マット剤分散液]
次に、上記方法で作製したセルロースアシレート溶液を含む下記組成物を分散機に投入し、マット剤分散液を調製した。
【0352】
(マット剤分散液の組成)
シリカ粒子(平均粒径16nm) 2.0質量部
“aerosil R972”{日本アエロジル(株)製}
メチレンクロリド 72.4質量部
メタノール 10.8質量部
上記セルロースアシレート溶液 10.3質量部

(中略)

【0363】
[1-6.紫外線吸収剤溶液]
更に上記方法で作製したセルロースアシレート溶液を含む下記組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して溶解し、紫外線吸収剤溶液を調製した。
(紫外線吸収剤溶液の組成)
紫外線吸収剤UV1またはUV2 20.0質量部
メチレンクロリド 58.3質量部
メタノール 8.7質量部
上記セルロースアシレート溶液 12.8質量部
【0364】
上記セルロースアシレート溶液を100質量部、マット剤分散液を1.35質量部、更に紫外線吸収剤溶液を表2に示す割合になるように混合し、製膜用ドープを調製した。本ドープをフィルム1,3,4,8の作製に供した。
紫外線吸収剤溶液は、セルロースアシレート量を100質量部とした時の紫外線吸収剤の質量部で表2に示した。
表2において、紫外線吸収剤UV1は2-[2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-t-ブチルフェニル]ベンゾトリアゾール]、UV2は2-[2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-アミルフェニル]-5-クロルベンゾトリアゾール]を意味する。

(中略)

【0367】
(3)流延
上記のドープを、バンド流延機を用いて流延した。金属支持体上にあるウェブの表面から熱風を当てた。熱風の温度、風量は表2に記載の通りである。残留溶媒量が25?35質量%でバンドから剥ぎ取ったフィルムを、延伸温度がセルロースアシレートフィルムのガラス転移温度に対し約5℃低い温度から約5℃高い温度までの範囲(以下、約Tg-5?Tg+5℃の範囲と表記することがある)の条件で、テンターを用いて表2に記載の延伸倍率で、幅方向に延伸して、セルロースアシレートフィルムを製膜した。巻取り部前で両端部を切り落とし幅2000mmとし、長さ4000mのロールフィルムとして巻き取った。表2に、テンターの延伸倍率を示してある。作製したセルロースアシレートフィルムについて、複屈折測定装置“KOBRA 21ADH”{王子計測器(株)製}を用い、25℃、60%RHで波長590nmにおけるRe_(590)値及びRth_(590)値を測定した。Rth_(590)値の計算には平均屈折率として1.48を入力した。また前記に従って、弾性率を求めた。結果を表2に示した。さらにフィルム17については波長400nmおよび700nmにおいて、Re_(400)値、Re_(700)値、Rth_(400)値およびRth_(700)値を測定した。Rth_(400)値およびRth_(700)値の計算には平均屈折率として1.48を入力した。その結果はそれぞれ、Re_(400)は-1nm、Re_(700)値は3nm、Rth_(400)値は-3nmおよびRth_(700)値は6nmであった。
【0368】
本製造例で得られたフィルムのヘイズは、全て0.1?0.9、マット剤の2次平均粒子径が1.0μm以下であり、80℃90%RHの条件下に48時間静置した場合の質量変化は0?3質量%であった。また60℃、95%RH及び90℃、5%RHの条件下に24時間静置した場合の寸度変化は、0?4.5%であった。さらに、どのサンプルも光弾性係数は50×10^(-13)cm^(2)/dyne(5×10^(-13)N/m^(2))以下であった。
なお、参考として、市販のセルロースアシレートフィルムとして、「フジタックTD80UL」、「フジタックTF80UL」、「フジタックTDY80UL」{以上、富士写真フィルム(株)製}、及び“KC80UVSFD”{コニカオプト(株)製}を用いた結果についても、併せて表2に示す。
【0369】
【表2】


(中略)

【0391】
製造例6:反射防止層を有する保護膜(フィルム28、29、33)の作製
[光散乱層用塗布液の調製]
ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物“PETA”{日本化薬(株)製}50gをトルエン38.5gで希釈した。更に、重合開始剤「イルガキュア184」{チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製}を2g添加し、混合攪拌した。この溶液を塗布、紫外線硬化して得られた塗膜の屈折率は1.51であった。
【0392】
さらにこの溶液にポリトロン分散機にて10000rpmで20分分散した平均粒径3.5μmの架橋ポリスチレン粒子“SX-350”{屈折率1.60、綜研化学(株)製}の30質量%トルエン分散液を1.7g及び平均粒径3.5μmの架橋アクリル-スチレン粒子{屈折率1.55、綜研化学(株)製}の30質量%トルエン分散液を13.3g加え、最後に、フッ素系表面改質剤(FP-132)0.75g、シランカップリング剤“KBM-5103”{信越化学工業(株)製}を10g加えて、得られた混合液を孔径30μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して光散乱層の塗布液を調製した。
【0393】
【化24】

【0394】
[低屈折率層用塗布液の調製]
まず始めに、次のようにしてゾル液aを調製した。
攪拌機、還流冷却器を備えた反応器、メチルエチルケトン120質量部、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン“KBM5103”{信越化学工業(株)製}100質量部、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート3質量部を加え混合したのち、イオン交換水30質量部を加え、60℃で4時間反応させたのち、室温まで冷却し、ゾル液aを得た。質量平均分子量は1600であり、オリゴマー成分以上の成分のうち、分子量が1000?20000の成分は100質量%であった。また、ガスクロマトグラフィー分析から、原料のアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランは全く残存していなかった。
【0395】
屈折率1.42の熱架橋性含フッ素ポリマー“JN-7228”{固形分濃度6質量%、JSR(株)製}13g、シリカゾル{シリカ、MEK-STの粒子サイズ違い、平均粒径45nm、固形分濃度30質量%、日産化学(株)製}1.3g、上記のように調製したゾル液a0.6g及びメチルエチルケトン5g、シクロヘキサノン0.6gを添加、攪拌の後、孔径1μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して、低屈折率層用塗布液を調製した。
【0396】
[反射防止層を有する保護膜の作製]
基体フィルムである80μmの厚さのトリアセチルセルロースフィルム「フジタックTD80UL」{富士写真フィルム(株)製}をロール形態で巻き出して、上記の機能層(光散乱層)用塗布液を、線数180本/インチ、深度40μmのグラビアパターンを有する、直径50mmのマイクログラビアロールとドクターブレードを用いて、グラビアロール回転数30rpm、搬送速度30m/分の条件で塗布し、60℃で150秒乾燥の後、さらに窒素パージ下で160W/cmの空冷メタルハライドランプ{アイグラフィックス(株)製}を用いて、照度400mW/cm^(2)、照射量250mJ/cm^(2)の紫外線を照射して塗布層を硬化させ、厚さ6μmの機能層を形成し、巻き取った。
【0397】
上記の機能層(光散乱層)を塗設したトリアセチルセルロースフィルムを再び巻き出して、その光散乱層側に、前記で調製した低屈折率層用塗布液を、線数180本/インチ、深度40μmのグラビアパターンを有する、直径50mmのマイクログラビアロールとドクターブレードを用いて、グラビアロール回転数30rpm、搬送速度15m/分の条件で塗布し、120℃で150秒乾燥の後、更に140℃で8分乾燥させてから窒素パージ下で240W/cmの空冷メタルハライドランプ{アイグラフィックス(株)製}を用いて、照度400mW/cm^(2)、照射量900mJ/cm^(2)の紫外線を照射し、厚さ100nmの低屈折率層を形成し、巻き取り、反射防止層を有する保護膜(フィルム28)を作製した。
作製したフィルム28について、複屈折測定装置“KOBRA 21ADH”{王子計測器(株)製}を用いて、25℃、60%RHで波長590nmにおけるRe_(590)値及びRth_(590)値を測定した。Rth_(590)値の計算には平均屈折率として1.48を入力した。また前記に従って、弾性率及び吸湿膨張係数を求めた。この結果、Re_(590)=5nm、Rth_(590)=46nm、弾性率3900MPa、であった。

(中略)

【0411】
以上の製造例4?7で作製した保護膜の構成及び形成された機能性層について、表3にまとめる。
【0412】
【表3】

【0413】
合成例1
(1)(メタ)アクリル系共重合体(A)溶液の調製
表4に示す組成比で、ホモポリマーとした時のTgが-30℃未満の(メタ)アクリル酸エステル(a_(1))、ホモポリマーとした時のTgが-30℃以上のビニル基を有する化合物(a_(2))、多官能性化合物に対して反応性を有する官能基含有モノマー(a_(3))及び重合開始剤を反応容器に入れ、この反応容器を窒素ガスで置換した後、攪拌しつつ窒素雰囲気下で、表4に示す反応温度及び時間で反応させた。(メタ)アクリル系共重合体No.1、2、3、5、6については反応後に酢酸エチルで希釈し、固形分濃度20質量%とし(メタ)アクリル系共重合体溶液を得た。(メタ)アクリル系共重合体No.4、7については反応後にトルエンで希釈し、固形分濃度20質量%とし、(メタ)アクリル系共重合体溶液を得た。

(中略)

【0416】
【表4】

【0417】
(2)粘着剤溶液の調製
合成例1で調製した(メタ)アクリル系共重合体(A)溶液を、表5に示す固形分比となるように混合し、表5に示す多官能性化合物(架橋剤)(B)を添加し、十分に攪拌して粘着剤溶液1?12を得た。

(中略)

【0419】
(粘着層の塗設)
偏光板への粘着層の塗設は次のように行った。
粘着剤溶液1?12の溶液を、25μm厚のPETフィルム上にダイコーターを用いて塗布した後、乾燥させた。ここで、乾燥後の粘着層の厚さが25μmとなるように調整した。さらに、PETフィルム上に塗設された粘着層を偏光板に転写し、25℃、60%RHで7日間熟成させた。粘着剤溶液1?12を塗設して粘着剤層1?12を形成した。

(中略)

【0423】
[偏光板の作製]
実施例1及び比較例1
(偏光子の作製)
厚さ80μmのポリビニルアルコール(PVA)フィルムを、ヨウ素濃度0.05質量%のヨウ素水溶液中に30℃で60秒浸漬して染色し、次いでホウ酸濃度4質量%濃度のホウ酸水溶液中に60秒浸漬している間に元の長さの5倍に縦延伸した後、50℃で4分間乾燥させて、厚さ20μmの偏光子を得た。
【0424】
(セルロースアシレートフィルムの表面処理)
製造例1、2、4?7、および、比較製造例1で作製した保護膜及び以下に挙げる市販のセルロースアシレートフィルムを、濃度1.5モル/Lで55℃の水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬した後、水で十分に水酸化ナトリウムを洗い流した。その後、濃度0.005モル/Lで35℃の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流した。最後に試料を120℃で十分に乾燥させた。
【0425】
(偏光板の作製)
上記のように鹸化処理を行った保護膜及び市販のセルロースアシレートフィルムを、表6,7に示す組合せで前記の偏光子を挟むようにポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り合せ偏光板を作製した。
【0426】
ここで市販のセルロースアシレートフィルムとしては、「フジタックT40UZ」、「フジタックTF80UL」、「フジタックTD80UL」、「フジタックTDY80UL」{以上、富士写真フィルム(株)製}、及び“KC80UVSFD”{以上、コニカオプト(株)製}を用いた。
【0427】
このとき、偏光子及び偏光子両側の保護膜はロール形態で作製されているため、各ロールフィルムの長手方向が平行となっており、連続的に貼り合わされる。また図1に示すように、偏光板のセル側に配置される保護膜3においては、偏光子の透過軸と製造例1、2、4?7及び比較製造例1で作製したセルロースアシレートフィルムの遅相軸とは平行になっている。
【0428】
(粘着層の塗設)
偏光板への粘着層の塗設は次のように行った。
粘着剤溶液を、25μm厚のPETフィルム上にダイコーターを用いて塗布した後、乾燥させた。ここで、乾燥後の粘着層の厚さが25μmとなるように調整した。さらに、PETフィルム上に塗設された粘着層を上記で作製した偏光板に表6,7の組合せで転写し、25℃、60%RHで7日間熟成させた。
上記のようにして作製した偏光板の粘着層側にはPETのセパレーターを取り付け、粘着層と逆側にはPET製のプロテクトフィルムを取り付けた。
【0429】
実施例2
実施例1と同様に作製した偏光子の片面に、実施例1と同様に鹸化処理を行ったセルロースアセテートフィルム29を、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り合わせ、他方の面に製造例3で作製したフィルム25をアクリル系接着剤“DD624”{ノガワケミカル(株)製}を用いて貼り合わせ偏光板を作製し、以下実施例1と同様にして粘着層の塗設を行った。
実施例1と同様に作製した偏光子の片面に、セルロースアシレートフィルム6、セルロースアシレートフィルム フジタックTDY80UL(富士写真フィルム(株)製)、セルロースアシレートフィルム13を実施例1と同様に鹸化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り合わせた。
また、環状ポリオレフィンフィルム25、環状ポリオレフィンフィルム33、環状ポリオレフィンフィルム ZEONOR ZF14((株)オプテス製)、環状ポリオレフィンフィルム31、環状ポリオレフィンフィルム32はアクリル系接着剤“DD624”{ノガワケミカル(株)製}を用いて実施例1と同様に作製した偏光子の片面に貼り合わせた。
このようにして表6または7に記載の偏光板を作製し、実施例1と同様にして粘着層の塗設を行った。

(中略)

【0433】
【表6】

【0434】
【表7】


(中略)

【0436】
実施例3-1?3-26
VAパネルへの実装
実施例1、実施例2で作製した偏光板を、視認側偏光板は26"ワイドのサイズで偏光子の吸収軸が長辺となるように、バックライト側偏光板は偏光子の吸収軸が短辺となるように長方形に打抜いた。VAモードの液晶TV“KDL-L26RX2”{ソニー(株)製}の、表裏の偏光板及び位相差板を剥し、表と裏側に実施例1、比較例1及び実施例2で作製した偏光板を表8に示す組合せで貼り付け、液晶表示装置VA-1?VA-26を作製した。偏光板貼り付け後、50℃、5kg/cm^(2)(0.49MPa)で20分間保持し、接着させた。この際、視認側の偏光板の吸収軸をパネル水平方向に、バックライト側の偏光板の吸収軸をパネル鉛直方向となり、粘着材面が液晶セル側となるように配置した。
【0437】
プロテクトフィルムを剥した後、測定機“EZ-Contrast 160D”(ELDIM社製)を用いて、黒表示及び白表示の輝度測定から視野角(コントラスト比が10以上の範囲)を算出した。いずれの偏光板を使用した場合も、全方位で極角80゜以上の良好な視野角特性が得られた。
【0438】
【表8】

【0439】
[耐久試験による偏光板剥がれ]
実施例3で作製した液晶表示装置を下記の2条件で耐久試験を行った。
(1)60℃90%RHの環境に200時間保持し、25℃60%RH環境に取り出し24時間後に偏光板の液晶パネルからの剥がれの有無を評価した。
(2)80℃dryの環境に200時間保持し、25℃60%RH環境に取り出し1時間後に偏光板の液晶パネルからの剥がれの有無を評価した。
上記において本発明の偏光板を用いた液晶表示装置においては偏光板の液晶パネルからの剥がれは見られなかった。
【0440】
[光漏れ]
また偏光板剥がれを評価した2条件で、光漏れの評価も行った。本発明のいずれの偏光板を使用した場合も、光漏れが発生せず、良好な表示性能を保っていた。
【0441】
実施例4
IPSパネルへの実装
実施例1及び実施例2で作製した偏光板を、視認側偏光板は32"ワイドのサイズで偏光子の吸収軸が長辺となるように、バックライト側偏光板は偏光子の吸収軸が短辺となるように長方形に打抜いた。IPSモードの液晶TV“W32-L5000”{日立製作所(株)製}の表裏の偏光板及び位相差板を剥し、表と裏側に実施例1及び実施例2で作製した偏光板を、表9に示す組合せで貼り付け、液晶表示装置IPS-1を作製した。
偏光板貼り付け後、50℃、5kg/cm^(2)(0.49MPa)で20分間保持し、接着させた。この際、視認側の偏光板の吸収軸をパネル水平方向に、バックライト側の偏光板の吸収軸をパネル鉛直方向となり、粘着層表面が液晶セル側となるように配置した。
【0442】
プロテクトフィルムを剥した後、測定機“EZ-Contrast 160D”(ELDIM社製)を用いて、黒表示及び白表示の輝度測定から視野角(コントラスト比が10以上の範囲)を算出した。いずれの偏光板を使用した場合も、全方位で極角80゜以上の良好な視野角特性が得られた。
【0443】
得られたIPSモード液晶表示装置について、実施例3と同様にその特性を評価した。
【0444】
【表9】



(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1の記載事項オの【表8】には、実施例3-1の液晶表示装置VA-1が、液晶セルVAの視認側に視認側偏光板F-1を、バックライト側にバックライト光源側偏光板B-1を、実装したことが読み取れる。また、【表6】から、視認側偏光板F-1が、液晶セル側の保護膜としてフィルム1と、液晶セルと反対側の保護膜としてフィルム28とを、組み合わせて、偏光子を挟むように貼り付けて偏光板を作製したことが読み取れる。さらに、【表7】から、バックライト側偏光板が、液晶セル側の保護膜としてフィルム1と、液晶セルと反対側の保護膜としてKC80UVSFDとを、組み合わせて、偏光子を挟むように貼り付けて偏光板を作製したことが読み取れる。
したがって、引用文献1の記載事項オに基づけば、引用文献1には実施例3-1として、以下の発明が記載されていると認められる。
「視認側偏光板F-1の吸収軸がパネル水平方向となり、バックライト側偏光板B-1の吸収軸がパネル鉛直方向となり、視認側偏光板F-1及びバックライト側偏光板B-1の粘着材面が液晶セル側となるように配置した液晶表示装置VA-1であって、視認側偏光板F-1は26"ワイドのサイズで偏光子の吸収軸が長辺となるように、バックライト側偏光板B-1は偏光子の吸収軸が短辺となるように長方形に打抜き、VAモードの液晶TV“KDL-L26RX2”{ソニー(株)製}の、表裏の偏光板及び位相差板を剥し、表側に視認側偏光板F-1を貼り付け、裏側にバックライト側偏光板B-1を貼り付け、偏光板貼り付け後、50℃、5kg/cm^(2)(0.49MPa)で20分間保持し、接着させることにより作製した液晶表示装置VA-1であり、
視認側偏光板F-1は、液晶セル側の保護膜としてフィルム1と、液晶セルと反対側の保護膜としてフィルム28とを、厚さ20μmの偏光子を挟むようにポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り合せ視認側偏光板F-1としたものであり、
バックライト側偏光板B-1は、液晶セル側の保護膜としてフィルム1と、液晶セルと反対側の保護膜として市販のセルロースアシレートフィルム“KC80UVSFD”{コニカオプト(株)製}とを、厚さ20μmの偏光子を挟むようにポリビニルアルコール系接着剤を用いて貼り合せバックライト側偏光板B-1としたものであり、
偏光子及び偏光子両側の保護膜はロール形態で作製されているため、各ロールフィルムの長手方向が平行となっており、偏光板の液晶セル側に配置される保護膜においては、偏光子の透過軸とフィルム1の遅相軸とは平行になるとともに、偏光板への粘着層が塗設されており、
フィルム1は、セルロースアセテートプロピオネート、トリフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、メチレンクロリド、メタノールからなるセルロースアシレート溶液と、シリカ粒子、メチレンクロリド、メタノール、セルロースアシレート溶液からなるマット剤分散液と、2-[2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-t-ブチルフェニル]ベンゾトリアゾール]、2-[2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-アミルフェニル]-5-クロルベンゾトリアゾール]、メチレンクロリド、メタノール、セルロースアシレート溶液からなる紫外線吸収剤溶液を、混合して製膜用ドープを調整し、ドープをバンド流延機を用いて流延し、金属支持体上にあるウェブの表面から熱風を当て、残留溶媒量が25?35質量%でバンドから剥ぎ取ったフィルムを、延伸倍率15倍で幅方向に延伸して製膜したセルロースアシレートフィルムであって、厚みが80μmであり、25℃、60%RHで波長590nmにおけるRe_(590)値が45nmであり、
フィルム28は、基体フィルムである80μmの厚さのトリアセチルセルロースフィルム「フジタックTD80UL」に機能層(光散乱層)用塗布液を塗布、乾燥し、紫外線を照射して厚さ6μmの機能層(光散乱層)を形成し、その光散乱層側に、低屈折率用塗布液を塗布、乾燥し、紫外線を照射して厚さ100nmの低屈折率層を形成して反射防止層を有する保護膜を作製したものであって、25℃、60%RHで波長590nmにおけるRe_(590)値が5nmであり、
市販のセルロースアシレートフィルム“KC80UVSFD”は、厚みが80μmであり、25℃、60%RHで波長590nmにおけるRe_(590)値が3nmである、
液晶表示装置VA-1。」(以下、「引用発明」という。)

2 引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献4(国際公開第2011/162198号)には、以下の記載事項がある。

(1)「技術分野
[0001] 本発明は、液晶表示装置、偏光板および偏光子保護フィルムに関する。詳しくは、視認性が良好で、薄型化に適した液晶表示装置、偏光板および偏光子保護フィルムに関する。
背景技術
[0002] 液晶表示装置(LCD)に使用される偏光板は、通常ポリビニルアルコール(PVA)などにヨウ素を染着させた偏光子を2枚の偏光子保護フィルムで挟んだ構成となっていて、偏光子保護フィルムとしては通常トリアセチルセルロース(TAC)フィルムが用いられている。近年、LCDの薄型化に伴い、偏光板の薄層化が求められるようになっている。しかし、このために保護フィルムとして用いられているTACフィルムの厚みを薄くすると、充分な機械強度を得ることが出来ず、また透湿性が悪化するという問題が発生する。また、TACフィルムは非常に高価であり、安価な代替素材が強く求められている。
[0003] そこで、偏光板の薄層化のため、偏光子保護フィルムとして厚みが薄くても高い耐久性が保持できるよう、TACフィルムの代わりにポリエステルフィルムを用いることが提案されている(特許文献1?3)。

(中略)

発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0005] ポリエステルフィルムは、TACフィルムに比べ耐久性に優れるが、TACフィルムと異なり複屈折性を有するため、これを偏光子保護フィルムとして用いた場合、光学的歪みにより画質が低下するという問題があった。すなわち、複屈折性を有するポリエステルフィルムは所定の光学異方性(リタデーション)を有することから、偏光子保護フィルムとして用いた場合、斜め方向から観察すると虹状の色斑が生じ、画質が低下する。そのため、特許文献1?3では、ポリエステルとして共重合ポリエステルを用いることで、リタデーションを小さくする対策がなされている。しかし、その場合であっても虹状の色斑を完全になくすことはできなかった。
[0006] 本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、液晶表示装置の薄型化に対応可能(即ち、十分な機械的強度を有する)であり、且つ虹状の色斑による視認性の悪化が発生しない、液晶表示装置および偏光子保護フィルムを提供することである。
課題を解決するための手段
[0007] 本発明者は、偏光子保護フィルムとしてポリエステルフィルムを用いたときに生じる虹状色斑の発生メカニズムについて鋭意検討を行なった。その結果、この虹状の色斑は、ポリエステルフィルムのリタデーションとバックライト光源の発光スペクトルに起因することがわかった。従来、液晶表示装置のバックライト光源としては、冷陰極管や熱陰極管などの蛍光管を用いられる。冷陰極管や熱陰極管などの蛍光灯の分光分布は複数のピークを有する発光スペクトルを示し、これら不連続な発光スペクトルが合わさって白色の光源が得られている。リタデーションが高いフィルムを光が透過する場合、波長によって異なる透過光強度を示す。このため、バックライト光源が不連続な発光スペクトルであると、特定の波長のみ強く透過されることになり虹状の色斑が発生すると考えられた。
[0008] 本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、特定のバックライト光源と特定のリタデーションを有するポリエステルフィルムとを組み合せて用いることにより、上記問題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。

(中略)

発明の効果
[0010] 本発明の液晶表示装置、偏光板および偏光子保護フィルムは、いずれの観察角度においても透過光のスペクトルは光源に近似したスペクトルを得ることが可能となり、虹状の色斑が無い良好な視認性を確保することができる。また、好適な一実施形態において、本発明の偏光子保護フィルムは、薄膜化に適した機械的強度を備えている。」

(2)「[0017] 上記態様により虹状の色斑の発生が抑制される機構としては、次のように考えている。
[0018] 偏光子の片側に複屈折性を有するポリエステルフィルムを配した場合、偏光子から出射した直線偏光はポリエステルフィルムを通過する際に乱れが生じる。透過した光はポリエステルフィルムの複屈折と厚さの積であるリタデーションに特有の干渉色を示す。そのため、光源として冷陰極管や熱陰極管など不連続な発光スペクトルを用いると、波長によって異なる透過光強度を示し、虹状の色斑となる(参照:第15回マイクロオプティカルカンファレンス予稿集、第30?31項)。
[0019] これに対して、白色発光ダイオードでは、可視光領域において連続的で幅広い発光スペクトルを有する。そのため、複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状に着目すると、ポリエステルフィルムのレタデーションを制御することで、光源の発光スペクトルと相似なスペクトルを得ることが可能となる。このように、光源の発光スペクトルと複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状とが相似形となることで、虹状の色斑が発生せずに、視認性が顕著に改善すると考えられる。
[0020] 以上のように、本発明では幅広い発光スペクトルを有する白色発光ダイオードを光源に用いるため、比較的簡便な構成のみで透過光のスペクトルの包絡線形状を光源の発光スペクトルに近似させることが可能となる。
[0021] 上記効果を奏するために、偏光子保護フィルムに用いられるポリエステルフィルムは、3000?30000nmのリタデーションを有することが好ましい。リタデーションが3000nm未満では、偏光子保護フィルムとして用いた場合、斜め方向から観察した時に強い干渉色を呈するため、包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違し、良好な視認性を確保することができない。好ましいリタデーションの下限値は4500nm、次に好ましい下限値は5000nm、より好ましい下限値は6000nm、更に好ましい下限値は8000nm、より更に好ましい下限値は10000nmである。
[0022] 一方、リタデーションの上限は30000nmである。それ以上のリタデーションを有するポリエステルフィルムを用いたとしても更なる視認性の改善効果は実質的に得られないばかりか、フィルムの厚みも相当に厚くなり、工業材料としての取り扱い性が低下するので好ましくない。」

3 引用刊行物1
(1)引用刊行物1の記載事項
平成29年1月23日と同年5月23日に提出された、刊行物等提出書において引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2009-169389号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネル用偏光板のセット、ならびにこれを用いた液晶パネルおよび液晶表示装置に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、大画面液晶テレビ用途においては、たとえば壁掛けテレビ用途等として、液晶表示装置のさらなる薄型化および軽量化のニーズが顕在化している。この場合、液晶パネルおよびその構成部品に関し、以下の点が課題となる。
(1)液晶パネルの薄型大画面化に対応して、パネルの強度を補強する必要がある。
(2)液晶テレビの薄型化に対応して、使用する部材の薄肉化が必要となる。
(3)液晶パネルと背面のバックライトシステムとの隙間が狭くなり、液晶パネルとバックライトシステムとの接触に起因する、円形状のムラや、ニュートンリングを防止する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためには、フィルムの機械的強度およびコスト面で優れる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを偏光板の保護フィルムとして使用することが考えられる。しかし、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、液晶表示装置に配置して映像を見た場合、その位相差の影響により、斜め方向から見たときに色ムラ(干渉ムラ、虹ムラともいう)が目立ち、視認性に劣るという問題を有している。特に、液晶表示装置のバックライトと液晶パネルとの間に輝度向上シートを設置した場合の色ムラが著しい。
【0007】
本発明者らは、かかる課題を解決するため鋭意研究を行なった結果、液晶パネルの構成部品である2つの偏光板として、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの片面に延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを積層した偏光板と、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの片面に延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを積層した偏光板であって、該偏光板のヘイズ値が45%以上80%以下の範囲である偏光板との組み合わせとすることにより、液晶パネルの強度が補強され、液晶パネルの反りを防止でき、また、液晶表示装置を斜めから観察したときの色ムラも抑制され、視認性に優れた液晶表示装置が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明によれば、第1の偏光板および第2の偏光板からなる液晶パネル用偏光板のセットであって、該第1の偏光板は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる第1の偏光フィルムと、該第1の偏光フィルムの片面に積層された第1の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとを有し、該第2の偏光板は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる第2の偏光フィルムと、該第2の偏光フィルムの片面に積層された第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを有し、該第2の偏光板のヘイズ値が45%以上80%以下の範囲である偏光板のセットが提供される。ここで、第2の偏光板の内部ヘイズ値が45%以上80%以下の範囲であってもよい。
【0009】
第1の偏光板は、第1の偏光フィルムにおける第1の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層された面とは反対側の面に積層された光学補償フィルムまたは保護フィルムをさらに有していてもよい。また、第2の偏光板は、第2の偏光フィルムにおける第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層された面とは反対側の面に積層された光学補償フィルムまたは保護フィルムをさらに有していてもよい。また、第2の偏光板は、ヘイズを有する粘着剤層をさらに有していてもよく、該粘着剤層は、たとえば第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上に積層される。
【0010】
また、本発明によれば、上記第1の偏光板、液晶セル、および上記第2の偏光板がこの順で配置されてなる液晶パネルが提供される。本発明の液晶パネルにおいて、第1の偏光板は、第1の偏光フィルムにおける第1の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層された面とは反対側の面が、液晶セルに対向するように配置される。また、第2の偏光板は、第2の偏光フィルムにおける第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層された面とは反対側の面が、液晶セルに対向するように配置される。
【0011】
さらに、本発明によれば、バックライト、光拡散板、輝度向上シートおよび液晶パネルをこの順で備え、該液晶パネルが上記本発明の液晶パネルである液晶表示装置が提供される。本発明の液晶表示装置において、該液晶パネルは、第1の偏光板が輝度向上シートに対向するように配置される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従う、特定の偏光板のセット(組み合わせ)によれば、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの使用による液晶パネルの機械的強度の向上、薄肉化および反り防止が達成されるとともに、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが有する位相差に起因する、斜め方向から観察したときの色ムラが改善される。かかる偏光板のセットおよびこれを用いた液晶パネルは、大画面液晶テレビ用液晶表示装置、特には壁掛け可能な液晶テレビ用液晶表示装置に好適に適用することができる。」

イ 「【0013】
<偏光板>
本発明の偏光板のセットは、第1の偏光板および第2の偏光板の2つの偏光板からなり、これらは液晶パネルの構成部品として用いられるものである。液晶パネルは、液晶セルの一方の面に第1の偏光板を積層し、他方の面に第2の偏光板を積層することにより作製できる。第1の偏光板は、液晶パネルの背面側偏光板として用いられ、第2の偏光板は、液晶パネルの前面側偏光板として用いられる。ここで、「背面側偏光板」とは、液晶パネルを液晶表示装置に搭載した際の、バックライト側に位置する偏光板を意味し、「前面側偏光板」とは、液晶パネルを液晶表示装置に搭載した際の、視認側に位置する偏光板を意味する。以下、各偏光板について詳細に説明する。
【0014】
(第1の偏光板)
第1の偏光板は、液晶パネルの背面側偏光板として用いられるものであり、ポリビニルアルコール系樹脂からなる第1の偏光フィルムの片面に、第1の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを積層して作製される。第1の偏光フィルムは、具体的には、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたものである。

(中略)

【0029】
上記原料樹脂をフィルム状に成形し、延伸処理を施すことにより、延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムを作製することができる。延伸処理を行なうことにより、機械的強度の高いポリエチレンテレフタレートフィルムを得ることができる。延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムの作製方法は任意であり、特に限定されるものではないが、上記原料樹脂を溶融し、シート状に押出し成形された無配向フィルムを、ガラス転移温度以上の温度において一軸延伸または二軸延伸後、熱固定処理を施す方法を挙げることができる。この場合、延伸温度は80?130℃、好ましくは90?120℃であり、延伸倍率は2.5?6倍、好ましくは3?5.5倍である。延伸倍率が低いと、ポリエチレンテレフタレートフィルムが十分な透明性を示さない傾向にある。

(中略)

【0032】
延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みd_(PET)は、20?60μm程度とすることが好ましく、30?50μmとすることがより好ましい。延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みd_(PET)が20μm未満であると、ハンドリングしにくい傾向にあり、厚みd_(PET)が60μmを超えると、薄肉化のメリットが薄れる傾向にある。また、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの面内位相差値R_(PET)は、1000nm以上であることが好ましく、より好ましくは3000nm以上である。面内位相差値R_(PET)が1000nm未満であると、正面からの色つきが目立つ傾向にある。なお、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの面内位相差値R_(PET)は、下記式(1)で表される。
R_(PET)=(n_(a)-n_(b))×d_(PET) (1)
ここで、n_(a)は延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの面内遅相軸方向の屈折率、n_(b)は面内進相軸方向(面内遅相軸方向と直交する方向)の屈折率である。

(中略)

【0038】
第1の偏光板において、第1の偏光フィルムにおける上記ポリエチレンテレフタレートフィルムが貼合される面とは反対側の面には、液晶セルと偏光板とを貼合するための、接着剤あるいは粘着剤の層が形成されてもよい。また、第1の偏光フィルムにおける上記ポリエチレンテレフタレートフィルムが貼合される面とは反対側の面に、たとえば保護フィルムや光学補償フィルムなどとしての透明フィルムを積層し、該透明フィルム上に接着剤あるいは粘着剤の層を形成してもよい。透明フィルムとしては、トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)などのセルロース系フィルム、オレフィン系フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどが挙げられる。さらに、上記透明フィルム上に、後述する光学機能性フィルムを積層し、該光学機能性フィルム上に接着剤あるいは粘着剤の層を形成することもできる。

(中略)

【0063】
(第2の偏光板)
第2の偏光板は、液晶パネルの前面側(視認側)偏光板として用いられるものであり、ポリビニルアルコール系樹脂からなる第2の偏光フィルムと、その片面に積層された第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとを備える。第2の偏光板のヘイズ(全体ヘイズとも称する。)値は、45%以上80%以下の範囲である。第2の偏光フィルムは、具体的には、延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたものであり、第1の偏光フィルムについて説明したものを同様に用いることができる。第1の偏光フィルムと第2の偏光フィルムとは、外形(厚み等)、材質および製造方法などに関し、同じであっても異なっていてもよい。
【0064】
また、第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、第1の偏光板について記述したものを同様に用いることができる。すなわち、一軸延伸または二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムである。第1の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとは、外形、材質および製造方法などに関し、同じであっても異なっていてもよい。延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムを第2の偏光フィルムの保護フィルムとして用いることにより、液晶パネルの機械的強度をより向上させることができるとともに、液晶パネルのさらなる薄肉化を達成することが可能となる。また、第2の偏光板においても保護フィルムとしてポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることにより、第1の偏光板に用いる保護フィルムと第2の偏光板に用いる保護フィルムとが同じ材質から構成されることとなるため、液晶パネルの反りを防止することができる。これにより、薄型の液晶表示装置に適用した場合においても、液晶パネルとバックライトシステムとの接触に起因する円形状のムラやニュートンリングを防止することが可能となる。
【0065】
第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みは、20?60μm程度とすることが好ましく、30?50μmとすることがより好ましい。第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みが20μm未満であると、ハンドリングしにくい傾向にあり、厚みが60μmを超えると、薄肉化のメリットが薄れる傾向にある。

(中略)

【0069】
第2の偏光板に上記範囲内のヘイズを付与する方法としては、特に限定されないが、たとえば次の方法を挙げることができる。
(i)上記した第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを基材として、その表面に微細な表面凹凸形状を有するハードコート層を積層する方法。
(ii)原料樹脂であるポリエチレンテレフタレートに無機微粒子または有機微粒子を配合し、該組成物をフィルム化し、第2の延伸ポリエチレンテレフタレートとする方法。
(iii)ヘイズを有する粘着剤を用いる方法。
【0070】
上記方法(i)としては、第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、硬化性樹脂組成物からなるバインダー成分と無機微粒子または有機微粒子とを含有する塗布液を塗布し硬化させる方法などを例示することができる。これにより、第2の偏光板に表面ヘイズおよび内部ヘイズを付与することができる。ハードコート層を形成することにより、偏光板の硬度を向上させることができるため、表面の傷付きを防止する効果も得ることができる。無機微粒子としては、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、アルミノシリケート、アルミナ-シリカ複合酸化物、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等を代表的なものとして用いることができる。また、有機微粒子としては、架橋ポリアクリル酸粒子、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体樹脂粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋ポリメチルメタクリレート粒子、シリコーン樹脂粒子、ポリイミド粒子などの樹脂粒子を用いることができる。

(中略)

【0083】
ハードコート層の厚みは、特に限定されないが、2μm以上30μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以上30μm以下である。ハードコート層の厚みが2μm未満であると、十分な硬度が得られず、表面が傷付きやすくなる傾向にあり、また、30μmより厚くなると、割れやすくなったり、ハードコート層の硬化収縮により延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムがカールして生産性が低下したりする傾向がある。

(中略)

【0098】
第2の偏光板において、第2の偏光フィルムにおける第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが貼合される面とは反対側の面には、液晶セルと偏光板とを貼合するための、接着剤あるいは粘着剤の層が形成されてもよい。上記ヘイズを有する粘着剤層の形成は、その一例である。また、第2の偏光フィルムにおける第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが貼合される面とは反対側の面には、たとえば保護フィルムや光学補償フィルムなどとしての透明フィルムを積層し、該透明フィルム上に接着剤あるいは粘着剤の層を形成してもよい。透明フィルムとしては、トリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム)などのセルロース系フィルム、オレフィン系フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどが挙げられる。さらに、上記透明フィルム上に、光学機能性フィルムを積層し、該光学機能性フィルム上に接着剤あるいは粘着剤の層を形成することもできる。光学補償フィルムおよび光学機能性フィルムとしては、第1の偏光板について記述したものを同様に用いることができる。」

ウ 「【0100】
<液晶パネルおよび液晶表示装置>
本発明の液晶パネルは、上記偏光板のセットを用いた液晶パネルであり、具体的には、上記第1の偏光板、液晶セル、および上記第2の偏光板をこの順で配置してなる。ここで、第1の偏光板は、第1の偏光フィルムにおける第1の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層された面とは反対側の面が、液晶セルに対向するように配置され、第2の偏光板は、第2の偏光フィルムにおける第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層された面とは反対側の面が、液晶セルに対向するように配置される。すなわち、第1の偏光板は、第1の偏光フィルムにおける第1の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層された面とは反対側の面を接着面として、接着剤あるいは粘着剤を用いて液晶セルに貼付されるか、または第1の偏光フィルムにおける第1の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層された面とは反対側の面に積層された保護フィルムや光学補償フィルムなどとしての透明フィルム、あるいは、さらにその上に積層された光学機能性フィルムを介して液晶セルに貼付される。同様に、第2の偏光板は、第2の偏光フィルムにおける第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層された面とは反対側の面を接着面として、接着剤あるいは粘着剤を用いて液晶セルに貼付されるか、または第2の偏光フィルムにおける第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが積層された面とは反対側の面に積層された保護フィルムや光学補償フィルムなどとしての透明フィルム、あるいは、さらにその上に積層された光学機能性フィルムを介して液晶セルに貼付される。
【0101】
液晶セルとしては、従来公知の構成を採用することができ、たとえばツイステッドネマティック(TN)モード、垂直配向(VA)モードなど各種方式の液晶セルを用いることができる。
【0102】
かかる本発明の偏光板のセットを用いた液晶パネルは、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを第1の偏光板の保護フィルムおよび第2の偏光板の保護フィルムとして用いていることから、機械的強度の向上および薄肉化、さらに、反り防止が実現されている。また、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの位相差に起因する色ムラ(干渉ムラ)、特に、バックライトと液晶パネルとの間に輝度向上シートを設置した場合の色ムラは、第2の偏光板のヘイズ値を45%以上80%の範囲とすることより低減されている。
【0103】
図1は、本発明の液晶表示装置の層構成の一例を示す概略断面図である。図1に示される液晶表示装置は、バックライト10、光拡散板50、輝度向上シート51、および、液晶セル40と、液晶セル40の一方の面に貼付された背面側偏光板としての第1の偏光板20と、液晶セル40の他方の面に貼付された前面側偏光板としての第2の偏光板30とからなる液晶パネルをこの順で配置してなる。第1の偏光板20は、第1の偏光フィルム21を、光学補償フィルム23と第1の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム25とで挟持した構成を有しており、光学補償フィルム23が液晶セル40に対向するように配置されている。また、第2の偏光板30は、第2の偏光フィルム31を、光学補償フィルム33と第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム35を基材としてその表面に微細な凹凸形状を有するハードコート層36を積層したヘイズを有する延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム34とで挟持した構成を有しており、光学補償フィルム33が液晶セル40に対向するように配置されている。この例において、第2の偏光板30は、上記した方法(i)によってヘイズが付与されている。図1に示される本発明の液晶表示装置において、液晶パネルは、背面側偏光板である第1の偏光板20がバックライト側となるように、すなわち、第1の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム25が輝度向上シート51と対向するように配置される。

(中略)

【0105】
光拡散板50と液晶パネルとの間には、輝度向上シート51を設けることが好ましい。輝度向上シートとは、第1の偏光板の説明において述べたように、反射型偏光フィルムとも呼ばれ、ある方向の偏光光を透過し、それと直交方向の偏光光を反射する機能を有する。光拡散板50と液晶パネルとの間に輝度向上シート51を設けることにより、ある方向の偏光光が増え、光の利用効率が上げるため、結果的に輝度を向上させることができる。輝度向上シート(反射型偏光フィルム)に相当する市販品としては、3M Company(3M社)(日本では住友スリーエム(株))から販売されている「DBEF」(商品名)などがある。また、輝度向上シートは、たとえば、特開2004-4699などに例示されている。本発明の偏光板のセットは、特に、輝度向上シートを備える液晶表示装置に適用する際に有用である。」
なお、図1は以下のとおりのものである。


エ 「【実施例】
【0108】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%および部は、特記ないかぎり重量基準である。
【0109】
[製造例1]偏光フィルムの作製
平均重合度約2,400、ケン化度99.9モル%以上で厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルムを、30℃の純水に浸漬した後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.02/2/100の水溶液に30℃で浸漬した。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が12/5/100の水溶液に56.5℃で浸漬した。引き続き、8℃の純水で洗浄した後、65℃で乾燥して、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムを得た。延伸は、主に、ヨウ素染色およびホウ酸処理の工程で行ない、トータル延伸倍率は5.3倍であった。
【0110】
[製造例2]ヘイズを有するポリエチレンテレフタレートフィルムの作製
次の各成分が酢酸エチルに固形分濃度60%で溶解されており、硬化後に1.53の屈折率を示す紫外線硬化性樹脂組成物を用意した。
【0111】
ペンタエリスリトールトリアクリレート 60部
多官能ウレタン化アクリレート(ヘキサメチレンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートの反応生成物) 40部
次に、この紫外線硬化性樹脂組成物の固形分100重量部に対して、多孔質シリカ粒子「サイリシア」(商品名、富士シリシア化学(株)製)と、光重合開始剤である「ルシリン TPO」(BASF社製、化学名:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)を5重量部添加して塗布液を調製した。
【0112】
この塗布液を、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ40μm)上に塗布し、80℃に設定した乾燥機中で3分間乾燥させた。乾燥後のフィルムの紫外線硬化性樹脂組成物層側より、強度20mW/cm^(2)の高圧水銀灯からの光をh線換算光量で300mJ/cm^(2)となるように照射し、紫外線硬化性樹脂組成物層を硬化させて、表面に凹凸を有するハードコート層(硬化樹脂)と延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとの積層体からなる、以下のヘイズ値を有するポリエチレンテレフタレートフィルム(A)?(D)を得た。ヘイズ値の調整は、多孔質シリカ粒子の添加量を変えることにより行なった。ヘイズは、JIS K 7136に準拠した(株)村上色彩技術研究所製のヘイズメーター「HM-150」型を用いて測定した。また、ヘイズの測定に際しては、フィルムの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて、ハードコート層の凹凸面が表面となるように、ポリエチレンテレフタレートフィルム面をガラス基板に貼合してから測定に供した。
【0113】
ヘイズを有するポリエチレンテレフタレートフィルム(A): ヘイズ45%

(中略)

【0116】
<実施例1>
(a)背面側偏光板の作製
製造例1で得られた偏光フィルムの片面に、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ40μm)を、その貼合面にコロナ処理を施した後、接着剤を介して貼合した。偏光フィルムの反対面には、二軸延伸ノルボルネン系樹脂からなる光学補償フィルム(厚さ73μm、面内位相差値63nm、厚み方向位相差値225nm)を、その貼合面にコロナ処理を施した後、接着剤を介して貼合し、背面側偏光板を得た。なお、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムおよび二軸延伸ノルボルネン系樹脂からなる光学補償フィルムは、それらの遅相軸が偏光フィルムの延伸軸とそれぞれ直交するように貼合した。次に、該背面側偏光板の二軸延伸ノルボルネン系光学補償フィルム面に粘着剤(厚さ25μm)の層を設けた。
【0117】
(b)前面側偏光板の作製
製造例1で得られた偏光フィルムの片面に、製造例2で得られたヘイズを有するポリエチレンテレフタレートフィルム(A)を、接着剤を介して貼合し、偏光フィルムの反対面にはケン化処理されたトリアセチルセルロースフィルム(厚さ80μm)を、接着剤を介して貼合して、前面側偏光板を得た。なお、ヘイズを有するポリエチレンテレフタレートフィルム(A)は、その延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸が該偏光フィルムの延伸軸と直交するように貼合した。該前面側偏光板のトリアセチルセルロースフィルム面に粘着剤(厚さ25μm)の層を設けた。なお、該前面側偏光板のヘイズ値は、ヘイズを有するポリエチレンテレフタレートフィルム(A)のヘイズ値と略同一である。
【0118】
(c)液晶パネルおよび液晶表示装置の作製
垂直配向モードの液晶表示素子が搭載された市販の液晶テレビ(シャープ(株)製の「LC-42GX1」)の液晶セルから両面の偏光板を剥離し、液晶セルの背面(バックライト側)には、上記背面側偏光板を、液晶セルの前面(視認側)には、上記前面側偏光板を、いずれも偏光板の吸収軸が、元々液晶テレビに貼付されていた偏光板の吸収軸方向と一致するように、粘着剤層を介して貼り合わせて、液晶パネルを作製した。次に、この液晶パネルを、バックライト/光拡散板/拡散シート/拡散シート/輝度向上シート/液晶パネルの構成で組み立てて、液晶表示装置を作製した。当該液晶表示装置について、斜め方向から見たときの色ムラ(干渉ムラ)は小さかった。また、液晶パネルの反りも小さかった。」

(2)引用刊行物1に記載された発明
引用刊行物1の記載事項エに基づけば、引用刊行物1には実施例1として、以下の発明が記載されていると認められる。
「ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムの片面に、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ40μm)を、その貼合面にコロナ処理を施した後、接着剤を介して貼合し、偏光フィルムの反対面には、二軸延伸ノルボルネン系樹脂からなる光学補償フィルム(厚さ73μm、面内位相差値63nm、厚み方向位相差値225nm)を、その貼合面にコロナ処理を施した後、接着剤を介して貼合し、ここで、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムおよび二軸延伸ノルボルネン系樹脂からなる光学補償フィルムは、それらの遅相軸が偏光フィルムの延伸軸とそれぞれ直交するように貼合され、二軸延伸ノルボルネン系光学補償フィルム面に粘着剤(厚さ25μm)の層を設けることにより背面側偏光板を作製し、
ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムの片面に、表面に凹凸を有するハードコート層(硬化樹脂)と延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ40μm)との積層体からなる、ヘイズ値45%を有するポリエチレンテレフタレートフィルム(A)を、接着剤を介して貼合し、偏光フィルムの反対面にはケン化処理されたトリアセチルセルロースフィルム(厚さ80μm)を、接着剤を介して貼合し、ここで、ヘイズを有するポリエチレンテレフタレートフィルム(A)は、その延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの遅相軸が偏光フィルムの延伸軸と直交するように貼合され、トリアセチルセルロースフィルム面に粘着剤(厚さ25μm)の層を設けることにより前面側偏光板を作製し、
垂直配向モードの液晶表示素子が搭載された市販の液晶テレビ(シャープ(株)製の「LC-42GX1」)の液晶セルから両面の偏光板を剥離し、液晶セルの背面(バックライト側)には、背面側偏光板を、液晶セルの前面(視認側)には、前面側偏光板を、いずれも偏光板の吸収軸が、元々液晶テレビに貼付されていた偏光板の吸収軸方向と一致するように、粘着剤層を介して貼り合わせて、液晶パネルを作製し、この液晶パネルを、バックライト/光拡散板/拡散シート/拡散シート/輝度向上シート/液晶パネルの構成で組み立てて作製した液晶表示装置。」(以下、「引用刊行物発明」という。)


第5 対比・判断
1 引用発明との対比・判断
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

(ア)光学積層体
引用発明の「視認側偏光板F-1」は、「液晶セルと反対側の保護膜としてフィルム28」を有し、「フィルム28」は、「基体フィルムである80μmの厚さのトリアセチルセルロースフィルム「フジタックTD80UL」」に「厚さ6μmの機能層(光散乱層)を形成し、その光散乱層側」に、「厚さ100nmの低屈折率層を形成して反射防止層を有する保護膜を作製したもの」である。引用発明の「基体フィルムである80μmの厚さのトリアセチルセルロースフィルム「フジタックTD80UL」」が、技術的にみて、光透過性を有することは明らかであり、引用発明における「反射防止層」は、光学機能を具備するものである。また、引用発明の「フィルム28」は、「基体フィルム」の「光散乱層側に、低屈折率用塗布液を塗布、乾燥し、紫外線を照射して厚さ100nmの低屈折率層を形成して反射防止層を有する保護膜を作製したもの」であるから、上記「基体フィルム」の一方の面上に「反射防止層」を有してなるといえる。
そうすると、引用発明のフィルム28を構成する「基体フィルム」と、本件発明1の「面内に複屈折率を有する光透過性基材(1)」とは、「光透過性基材(1)」である点で共通し、引用発明のフィルム28を構成する「機能層(光散乱層)」及び「低屈折率層」からなる「反射防止層」は、本件発明1の「光学機能層」に相当する。そして、引用発明の「フィルム28」は、上記「基体フィルム」の一方の面上に「反射防止層」を有してなるものであるから、本件発明1の「面内に複屈折率を有する光透過性基材(1)の一方の面上に光学機能層を有し、画像表示装置の表面に配置して用いられる光学積層体」と、「光透過性基材(1)の一方の面上に光学機能層を有し、画像表示装置の表面に配置して用いられる光学積層体」である点で共通する。

(イ)偏光板
引用発明の「バックライト側偏光板B-1」は、その文言が意味するとおり、バックライト側に設けられるものであって、「液晶セルと反対側の保護膜として市販のセルロースアシレートフィルム“KC80UVSFD”{コニカオプト(株)製}」と「偏光子」とが、この順に積層されているといえる。したがって、引用発明の「セルロースアシレートフィルム“KC80UVSFD”」と本件発明1の「面内に複屈折率を有する光透過性基材(2)」とは、「光透過性基材(2)」である点で共通し、引用発明の「偏光子」は、本件発明1の「偏光子(2)」に相当する。そして、引用発明の「バックライト側偏光板B-1」と本件発明1の「面内に複屈折率を有する光透過性基材(2)と偏光子(2)とがこの順に積層され、前記画像表示装置の前記バックライト光源側に配置して用いられる偏光板」とは、「光透過性基材(2)と偏光子(2)とがこの順に積層され、前記画像表示装置の前記バックライト光源側に配置して用いられる偏光板」である点で共通するといえる。

(ウ)偏光板複合体及び画像表示装置
引用発明の「液晶表示装置VA-1」は、その文言の意味からみて、本件発明1の「画像表示装置」に相当する。
そして、引用発明の「液晶表示装置VA-1」は、液晶セルの表側に上記「フィルム28」を有する視認側偏光板F-1を、液晶セルの裏側に上記「バックライト側偏光板B-1」を貼り付けて構成されることから、「フィルム28」と「バックライト側偏光板B-1」とが、本件発明1でいうところの「偏光板複合体」を構成するといえる。したがって、引用発明の「液晶表示装置VA-1」は、本件発明1の「面内に複屈折率を有する光透過性基材(1)の一方の面上に光学機能層を有し、画像表示装置の表面に配置して用いられる光学積層体と、バックライト光源側から、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材(2)と偏光子(2)とがこの順に積層され、前記画像表示装置の前記バックライト光源側に配置して用いられる偏光板とを有する偏光板複合体を備えた」とする要件を満たしている。

(エ)光透過性基材(1)
引用発明のフィルム28の「基体フィルム」は、「80μmの厚さ」を有するものであるから、本件発明1の「膜厚が70?150μm」とする要件を満たしている。

(オ)以上より、本件発明1と引用発明とは、
「光透過性基材(1)の一方の面上に光学機能層を有し、画像表示装置の表面に配置して用いられる光学積層体と、バックライト光源側から、少なくとも、光透過性基材(2)と偏光子(2)とがこの順に積層され、前記画像表示装置の前記バックライト光源側に配置して用いられる偏光板とを有する偏光板複合体を備えた画像表示装置であって、前記光透過性基材(1)は、膜厚が70?150μmである画像表示装置。」である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
[相違点1]光透過性基材(1)が、本件発明1では、「面内に複屈折率を有する」ものであって、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が「0.05以上」であり、リタデーションが「3000nm以上」であり、画像表示装置の表示画面の上下方向に対する屈折率が大きい方向である遅相軸の方向が「平行」に配置されるのに対し、引用発明では、面内に複屈折率を有するとされておらず、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が明らかにされておらず、フィルム28の25℃、60%RHで波長590nmにおけるRe_(590)値が「5nm」であり、画像表示装置の表示画面の上下方向に対する屈折率が大きい方向である遅相軸の方向がどのように配置されるのかが明らかではない点。
[相違点2]本件発明1は、「光透過性基材(2)に、偏光された光が入射される」ものであるのに対し、引用発明は、そのような限定がなされていない点。
[相違点3]本件発明1は、「前記光透過性基材(2)と前記偏光子(2)とは、前記光透過性基材(2)の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子(2)の透過軸とのなす角度が、0°±30°又は90°±30°となるように積層されている」のに対し、引用発明は、そのような限定がなされていない点。

イ 判断
上記[相違点1]について検討すると、引用文献1の記載事項イの段落【0046】には、「本発明の偏光板は、偏光子の両側に保護膜を有する。本発明においては、セルロースアシレートフィルムまたは環状ポリオレフィンフィルムを用いることが好ましい。偏光子の両側の保護膜は同じであっても異なっていてもよい。」と記載されており、段落【0236】には、特に偏光板の液晶セル側の保護膜のレターデーション値が、0≦Re_(590)≦200の範囲であることが好ましいと記載されているものの、液晶セルと反対側の保護膜について、リタデーションを3000nm以上とすることについて、記載も示唆もされていない。また、保護膜に用いることが好ましいフィルムとして例示されている、セルロースアシレートフィルムや環状ポリオレフィンフィルムは、いずれも、一般に複屈折率が比較的小さいとされるものであるから、リタデーションが3000nmを超えるとは考えがたい。
そうすると、当業者であっても、引用発明において、視認側偏光板F-1の、液晶セルと反対側の保護フィルムとして用いられるフィルム28のリタデーションを、3000nmに変更することが容易になし得たということができない。

なお、引用発明は、引用文献1の上記記載に基づけば、保護フィルムとして、セルロースアシレートフィルムまたは環状ポリオレフィンフィルムを用いることを前提とするものであるが、引用文献4の記載事項(1)の段落[0002]、[0003]には、液晶表示装置に使用される偏光板の偏光子保護フィルムをTACフィルムの代わりにポリエステルフィルムを用いることが記載されており、段落[0005]には、このポリエステルフィルムにおいて光学的歪みにより虹状の色斑が生じ画質が低下すること、段落[0019]?[0021]には、白色発光ダイオードを光源に用い、偏光子保護フィルムに用いられるポリエステルフィルムは、3000?30000nmのリタデーションを有するものとすることにより、虹状の色斑が発生せずに、視認性が顕著に改善することが記載されている。引用文献4に示唆されるように、引用発明における視認側偏光板F-1の、液晶セルと反対側の保護フィルムとして用いられるフィルム28を、3000?30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルムに置き換えることを考えたとしても、本願明細書の段落【0005】、【0009】等に記載された、面内に複屈折率を有する光透過性基材を用いた光学積層体を画像表示装置の表面に設置した場合に生じる、光学積層体の表面での反射防止性能や明所コントラストの低下等の課題やその解決手段を、引用文献1や引用文献4は何も開示していない。そうすると、本願明細書に記載された課題を有しない引用発明の、視認側偏光板F-1の液晶セルと反対側の保護フィルムに、引用文献4に記載された3000?30000nmのリタデーションを有するポリエステルフィルムからなる保護フィルムを採用したとしても、さらに、その遅相軸の方向を表示画面の上下方向とする動機付けを見いだせない。また、その効果が当業者にとって自明であったということもできない。
したがって、引用発明について、本件発明1における[相違点1]に係る構成を具備するものとすることが、当業者にとって容易になし得たことということはできない。

ウ むすび
以上のとおり、引用発明について、本件発明1における[相違点1]に係る構成を具備するものとすることは、当業者であっても容易になし得たということはできないから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件発明2?13
本件発明8は、本件発明1と同じ、「前記光透過性基材(1)は、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上であり、リタデーションが3000nm以上であり」、「前記光透過性基材(1)の屈折率が大きい方向である遅相軸が、前記画像表示装置の表示画面の上下方向と平行に配置され」るとする構成を備えるものである。また、本件発明2?7、8?13は、本件発明1又は本件発明8を引用するものであって、上記構成を備えるものである。
したがって、本件発明2?13も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。

(3)本件発明14?17
本件発明14?17は、本件発明1?13とカテゴリが異なるものの、いずれも、本件発明1と同じ「屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上であり、リタデーションが3000nm以上」いう要件を有する光透過性基材(1)を用いることを必須の要件としている。
したがって、本件発明14?17も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。

2 引用刊行物発明との対比・判断
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と引用刊行物発明とを対比すると、両者は、
「面内に複屈折率を有する光透過性基材(1)の一方の面上に光学機能層を有し、画像表示装置の表面に配置して用いられる光学積層体と、バックライト光源側から、少なくとも、面内に複屈折率を有する光透過性基材(2)と偏光子(2)とがこの順に積層され、前記画像表示装置の前記バックライト光源側に配置して用いられる偏光板とを有する偏光板複合体を備えた画像表示装置であって、前記光透過性基材(2)と前記偏光子(2)とは、前記光透過性基材(2)の屈折率が小さい方向である進相軸と、前記偏光子(2)の透過軸とのなす角度が、0°±30°又は90°±30°となるように積層されている画像表示装置。」である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
[相違点4]光透過性基材(1)が、本件発明1では、光学的特性が屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、「0.05以上」であり、リタデーションが「3000nm以上」であり、膜厚が「70?150μm」であり、光透過性基材(1)の遅相軸の方向と画像表示装置の表示画面の上下方向とが「平行」に配置されるのに対し、引用刊行物発明では、光学的特性がそのようなものであるか、明らかではなく、膜厚が「40μm」であり、光透過性基材(1)の遅相軸の方向と画像表示装置の表示画面の上下方向とがどのように配置されるかが明らかにされていない点。

イ 判断
上記[相違点4]について検討する。引用刊行物1の記載事項イの段落【0065】には、「第2の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚みは、20?60μm程度とすることが好ましく、30?50μmとすることがより好ましい。・・・厚みが60μmを超えると、薄肉化のメリットが薄れる傾向にある。」との記載がある。当該記載に基づけば、本件発明1における「光透過性基材(1)」にあたる、引用刊行物発明の「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」の膜厚は、調整しても、20?60μmの範囲であって、当業者であっても、70μm以上とすることが容易になし得たということはできない。

ウ むすび
以上のとおり、引用刊行物発明の膜厚を、本件発明1における70?150μmとすることは、当業者であっても容易になし得たということはできないから、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用刊行物発明に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。

(2)本件発明2?17
本件発明8は、本件発明1と同じ、光透過性基材(1)の「膜厚が70?150μmであり」とする構成を有している。また、本件発明2?7、8?13も、本件発明1又は本件発明8を引用するものであって、上記構成を備えるものである。さらに、本件発明14?17は、本件発明1?13とカテゴリが異なるものの、いずれも、本件発明1と同じ、「膜厚が70?150μmであり」とする構成を有する光透過性基材(1)を用いることを必須の要件としている。
したがって、本件発明2?17も、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたということはできない。


第6 原査定について
本件発明1?17は、何れも、「前記光透過性基材(1)は、屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と、前記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が、0.05以上であり、リタデーションが3000nm以上であり」、「前記光透過性基材(1)の屈折率が大きい方向である遅相軸が、前記画像表示装置の表示画面の上下方向と平行に配置され」るとする構成を有するものである。そうすると、前記第5の1(1)イに記載したとおり、当業者であっても、引用発明のフィルム28の「基体フィルム」のリタデーションの値を3000nm以上とすることが容易に想到し得たということはできない。
したがって、原査定の拒絶の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、本件発明1?17は、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-11-19 
出願番号 特願2013-205733(P2013-205733)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 宮澤 浩
関根 洋之
発明の名称 画像表示装置、偏光板複合体の製造方法、偏光板セットの製造方法、画像表示装置の製造方法及び画像表示装置の視認性改善方法  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ