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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F01L
管理番号 1346303
審判番号 不服2017-15165  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-11 
確定日 2018-12-04 
事件の表示 特願2015-509385「可変バルブタイミング装置用のロータおよびそのロータを備えたVVT装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月7日国際公開、WO2013/164272、平成27年6月4日国内公表、特表2015-516039、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)4月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年5月1日(US)アメリカ合衆国、2012年6月13日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成29年2月15日付け(発送日:同年2月21日)で拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同年5月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月6日付け(発送日:同年6月13日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月11日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、平成30年5月25日付け(発送日:平成30年5月29日)で当審より拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、その指定期間内の同年8月27日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年6月6日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1ないし11に係る発明は、以下の引用文献AないしEに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2000-161028号公報
B.特開2000-265813号公報
C.特表2008-525688号公報
D.特開2010-174700号公報
E.米国特許第6186103号明細書

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

1(明確性)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2(進歩性)本願の下記の請求項1ないし11に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その優先日出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1ないし11
・引用文献1ないし5


引用文献一覧
1.特開2000-161028号公報(原査定の引用文献A)
2.特開2000-265813号公報(原査定の引用文献B)
3.特表2008-525688号公報(原査定の引用文献C)
4.特開2010-174700号公報(原査定の引用文献D)
5.特開2012-67644号公報(当審において新たに引用した文献)

第4 本願発明
本願の請求項1ないし11に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明11」という。)は、平成30年8月27日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された以下の通りのものと認める。

「【請求項1】
エンジンの可変バルブタイミング装置用のロータ本体において、
- 主本体であって、
・前面側カバーと係合する前面および背面側カバーと係合する背面と、
・ステータハウジング内部にオイルまたは空気の可変圧力チャンバを画定するためのベーンであって、前記ステータハウジングと係合するベーン先端を有するベーンと、
・1つのオイルまたは空気の可変圧力チャンバにオイルまたは空気を輸送するための流路と、を含む主本体と、
- 前記前面から前記背面に延びる(軸方向の)穿孔であって、カムシャフトまたはカムシャフトへの固定用のボルトを受け入れるための穿孔を含む中心部分と、
を含み、
- 前記主本体は繊維強化型ポリマー材料から構成され、
- 前記軸方向の穿孔を含む中心部分は金属製であり、
- 前記ロータ本体は、
・前記ステータハウジングと係合するベーン先端における動的シール要素(i)と、
・前記前面側カバーおよび背面側カバーと係合する前記前面および背面における動的シール要素(ii)と、を含み、
前記動的シール要素(i)および(ii)は非繊維強化型ポリマー材料から作製され、
前記金属製の中心部分は、前記繊維強化型ポリマー材料の中に突き出る複数の突起部分および/または前記繊維強化型ポリマー材料がオーバーモールドされる際にその材料で充填される位置に設けられた複数の孔を含み、
前記複数の突起部分は、前記ベーンまでは伸びていない、ロータ本体。
【請求項2】
前記中心部分が、金属を機械加工することによって、または、鋳造金属若しくは焼結金属から、作製される、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項3】
前記中心の金属部分が、円筒状の外表面と、前記繊維強化型ポリマー材料製の主本体の中に突き出る外表面上の複数の突起部分とを有する円筒形状の本体を含む、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項4】
前記中心部分が、前記ロータ本体の中に、圧力嵌めによって、あるいは、前記中心部分の回りにポリマー材料を圧縮成形または射出成形することによって装着される、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項5】
前記主本体が、射出成形可能な繊維強化型熱可塑性または熱硬化性ポリマー材料から構成される、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項6】
前記シール要素(i)および(ii)が、エンジニアリングポリマー、PTFE、またはPTFE修飾ポリマーから作製される、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項7】
前記シール要素(i)が、前記ベーン先端におけるポケットによって包み込まれる、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項8】
前記シール要素(ii)が、溝によって、それぞれ前記前面および背面の中に包み込まれる、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項9】
前記オイルまたは空気輸送用の流路が、前記主本体の前面側および背面側の表面に配置される前記主本体における流路によって構成され、前記流路が動的シール要素(iii)によってカバーされる、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項10】
a.前記中心の金属部分が、円筒状の外表面と、前記繊維強化型ポリマー材料製の主本体の中に突き出る外表面上の複数の突起部分とを有する円筒形状の本体を含み、かつ、
b.前記オイルまたは空気輸送用の流路が、前記主本体の前面側および背面側の表面に配置される前記主本体における流路によって構成され、前記流路が動的シール要素(iii)によってカバーされる、請求項1に記載のロータ本体。
【請求項11】
ロータと、カムシャフト上の前記ロータを受け入れるステータとのアセンブリを含む可変バルブタイミング装置であって、前記ロータは、請求項1に記載のロータ本体であると共に、前面と背面とベーンの先端とを含む繊維強化型ポリマー材料製の主本体と、(軸方向の)穿孔を含む金属製の中心部分と、ベーンの先端および前面側並びに背面側における非繊維強化型ポリマー材料製のシール要素とを備え、前記穿孔内には、前記カムシャフトの端部部分および/または固定要素が受け入れられ、前記ロータは、前記固定要素によって前記カムシャフトの端部部分に固定される、可変バルブタイミング装置。」

第5 特許法第29条第2項(進歩性)についての判断
1 引用文献、引用発明等
(1)引用文献1
平成30年5月25日付けの当審拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献1(特開2000-161028号公報)には、「バルブタイミング調整装置」に関して、図面(特に図1ないし図3を参照。)とともに以下の事項が記載されている(なお、下線部は当審が付した。以下同様。)。

ア 「【0005】しかしながら、ハウジングおよびベーンロータを鉄系の材料で構成すると、バルブタイミング調整装置の重量が増大し、さらに加工工数および加工コストが増大するという問題があった。また、ハウジングおよびベーンロータをアルミニウム系の材料で構成すると、ベーンロータの強度が不足するという問題があった。特にベーンロータのセンタ部は、以下の理由により強度が必要である。
【0006】 ベーンロータをカムシャフトに固定するため、センタボルトを締付けることによって発生する軸方向の力によりセンタ部が座屈する恐れがある。さらに、カムシャフトの受け面に面取り加工が施されている場合、カムシャフトとセンタ部との接触面積が比較的小さくなり、センタ部が曲げ変形を起こす恐れがある。
【0007】 バルブタイミング調整装置の軸方向の長さを短縮するため、センタボルトが突出しないようにセンタ部の軸方向の厚みを比較的小さくする必要がある。さらに、油圧ポンプが空気を吸込んだ場合、ベーンロータのストッパ部が収容室の周方向端面をたたくことによる衝撃を受けるため、センタ部とストッパ部とが上記の衝撃に耐え得る強度で繋がっている必要がある。
【0008】本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、ベーンロータの強度ならびにベーン部材収容室の気密性を確保するとともに、重量を低減して軽量化を達成するバルブタイミング調整装置を提供することを目的とする。」

イ 「【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の請求項1記載のバルブタイミング調整装置によると、ハウジング部材内に形成された収容室に所定角度範囲に限ってハウジング部材に対して相対回動可能に収容され、前記収容室内を進角室と遅角室とに区画するベーン部材を有するベーンロータはボス部を埋設している。このため、ハウジング部材およびベーン部材を線膨張係数が同等であり重量が比較的小さい材料で構成し、ボス部を高強度材料で構成することにより、収容室の内壁とベーン部材との最適クリアランスならびに収容室の気密性を確保するとともに、重量を低減して軽量化を達成することができる。さらに、ボス部をベーンロータに埋設することにより、ボス部とベーン部材とは一体的に回転し、ベーンロータの制御性、強度および耐久性を向上させることができる。さらにまた、ボス部の軸方向の厚みを比較的小さくすることにより、体格を小型にし、エンジンに搭載するための搭載スペースを容易に確保することができる。」

ウ 「【0016】本発明の請求項7記載のバルブタイミング調整装置によると、ボス部は鉄系の材料からなり、ベーン部材は樹脂材料からなるので、樹脂モールド成形によりベーンロータを容易に成形することができる。さらに、ハウジング部材をアルミニウム系の材料で形成し、ベーン部材をアルミニウムに近似した線膨張係数を有する樹脂材料で形成することにより、ハウジング部材およびベーン部材の線膨張係数を同等にすることができる。さらにまた、鉄系の材料からなるボス部をベーンロータに埋設することにより、ベーンロータの強度がさらに向上する。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を示す複数の実施例を図面に基づいて説明する。
(第1実施例)本発明の第1実施例によるエンジン用バルブタイミング調整装置を図1?図3に示す。第1実施例のバルブタイミング調整装置100は、吸気弁のバルブタイミングを制御する油圧制御式のバルブタイミング調整装置である。
【0018】図2に示すハウジング部材の一方の側壁であるチェーンスプロケット10は、図示しないタイミングチェーンにより図示しないエンジンの駆動軸としてのクランクシャフトと結合して駆動力を伝達され、クランクシャフトと同期して回転する。従動軸としてのカムシャフト2は、チェーンスプロケット10から駆動力を伝達され、図示しない吸気弁を開閉駆動する。カムシャフト2は、チェーンスプロケット10に対し所定の位相差をおいて回動可能である。チェーンスプロケット10およびカムシャフト2は図2のX方向からみて時計方向に回転する。以下この回転方向を進角方向とする。チェーンスプロケット10およびシューハウジング11は駆動側回転体としてハウジング部材を構成し、ボルト41により同軸上に固定されている。
【0019】シューハウジング11は周壁12とハウジング部材の他方の側壁であるフロント部13とからなり一体に形成されている。図3に示すように、シューハウジング11は周方向にほぼ等間隔に台形状に形成されたシュー11a、11b、11cを有している。シュー11a、11b、11cの周方向の三箇所の間隙にはそれぞれベーン部材としてのベーン14a、14b、14cを収容する収容室としての扇状空間部55が形成されている。シュー11a、11b、11cの内周面は断面円弧状に形成されている。
【0020】ベーンロータ14は周方向にほぼ等間隔にベーン14a、14b、14cを有し、このベーン14a、14b、14cがシュー11a、11b、11cの周方向の間隙に形成されている扇状空間部55に回動可能に収容されている。図3に示す遅角方向、進角方向を表す矢印は、シューハウジング11に対するベーンロータ14の遅角方向、進角方向を表している。図2に示すように、ベーンロータ14に別体に設けられるボス部15はセンタボルト40によりカムシャフト2に一体に固定されており、ベーンロータ14およびボス部15は従動側回転体を構成している。
【0021】ベーンロータ14およびベーン14a、14b、14cは、回転軸方向の両側でフロント部13およびチェーンスプロケット10と微小のクリアランスを介して摺動している。
【0022】図1に示すように、ボス部15は、ベーンロータ14に埋設されており、径方向に延びる突出部15a、15b、15cを有している。突出部15a、15b、15cはそれぞれベーン14a、14b、14cに埋設されているので、ベーンロータ14は強度が比較的大きい構成となっている。」

エ 「【0026】シール部材22はベーンロータ14の外周壁に嵌合している。ベーンロータ14の外周壁と周壁12との間には微小クリアランスが設けられており、このクリアランスを介して油圧室間に作動油が漏れることをシール部材22により防止している。シール部材22はそれぞれ板ばね23の付勢力により周壁12に向けて押されている。」

オ 「【0031】図1および図3に示すように、シュー11aとベーン14aとの間に遅角油圧室61が形成され、シュー11bとベーン14bとの間に遅角油圧室62が形成され、シュー11cとベーン14cとの間に遅角油圧室63が形成されている。また、シュー11cとベーン14aとの間に進角油圧室64が形成され、シュー11aとベーン14bとの間に進角油圧室65が形成され、シュー11bとベーン14cとの間に進角油圧室66が形成されている。
【0032】図2に示す油路52は切換弁を介して駆動手段としての油圧ポンプまたはドレインと連通している。油圧ポンプはエンジン潤滑油の駆動源を兼ねている。油路52は、図示しない油路を経由して遅角油圧室61、62、63と連通しており、遅角油圧室61を経由して油圧室36に連通している。
【0033】油路53は切換弁を介して油圧ポンプまたはドレインと連通しており、図示しない油路を経由して進角油圧室64、65、66と連通している。さらに油路53は、進角油圧室64を経由して油圧室37と連通している。」

カ 「【0049】以上説明した本発明の複数の実施例では、ベーンロータ14およびベーン14a、14b、14cをアルミニウム系の材料で形成したが、本発明では、ベーンロータおよびベーンをアルミニウムに近似した線熱膨張係数を有する樹脂材料で形成してもよい。樹脂材料からなるベーンロータおよびベーンを採用することにより、ベーンロータおよびベーンを樹脂モールド成形により容易に形成することができる。」

キ 上記ウの段落【0019】ないし【0021】の記載事項及び図2におけるチェーンスプロケット10及びシューハウジング11とベーンロータ14の図示内容からみて、ベーンロータ14は、チェーンスプロケット10に対向する面およびシューハウジング11のフロント部13に対向する面を有していることが分かる。

以上から、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「バルブタイミング調整装置用のベーンロータ14およびボス部15で構成される従動側回転体において、
- ベーンロータ14であって、
・チェーンスプロケット10に対向する面およびシューハウジング11のフロント部13に対向する面と、
・シューハウジング11の扇状空間部55に遅角油圧室61、62、63及び進角油圧室64、65、66を画定するためのベーン14a、14b、14cであって、前記シューハウジング11に対向するベーン先端を有するベーン14a、14b、14cと、
・遅角油圧室61、62、63及び進角油圧室64、65、66にオイルを輸送するための油路と、を含むベーンロータ14と、
- チェーンスプロケット10に対向する面からシューハウジング11のフロント部13に対向する面に延びる(軸方向の)孔であって、カムシャフト2への固定用のセンタボルト40を受け入れるための孔を含むボス部15と、
を含み、
- 前記ベーンロータ14は樹脂材料から構成され、
- 前記孔を含むボス部15は鉄系の材料からなり、
- 前記ベーンロータ14は、
・前記シューハウジング11に対向するベーン先端におけるシール部材22と、を含み、
前記鉄系の材料からなるボス部15は、前記樹脂材料の中に突き出る突出部15a、15b、15cを含み、
突出部15a、15b、15cはそれぞれベーン14a、14b、14cに埋設されている従動側回転体。」

(2)引用文献2
当審拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献2(特開2000-265813号公報)の段落【0003】、【0004】、【0016】、【0017】、【0021】ないし【0023】並びに図1ないし図3の記載からみて、当該引用文献2には、「ベーン部材1を、6-ナイロンに炭素繊維を15パーセント程度配合したポリアミド樹脂に、ガラス繊維、炭素繊維を配合した耐熱性合成樹脂製からなるものとすること。」が記載されていると認められる。

(3)引用文献3
当審拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献3(特表2008-525688号公報)の段落【0004】及び【0022】ないし【0024】並びに図1の記載からみて、当該引用文献3には、「内側ロータ6を、任意の組成の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を使用する繊維複合材料から製造すること。」が記載されていると認められる。

(4)引用文献4
当審拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献4(特開2010-174700号公報)の段落【0016】ないし【0019】及び図1ないし図3の記載からみて、当該引用文献4には、「内部ロータ2の軸方向両端面およびベーン部2bのハウジング6との摺動面に溝8を形成し、溝8に樹脂あるいはゴムなどの可撓性を有する材質からなるシール部材3a、3bが装着されること。」が記載されていると認められる。

(5)引用文献5
当審拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献5(特開2012-67644号公報)の段落【0020】及び図1ないし図4の記載からみて、当該引用文献5には、「ベーンロータ20のハブ部22に、進角室30aに連通する進角通路24及び遅角室30bに連通する遅角通路25を備えること。」が記載されていると認められる。

2 対比・判断
(1)本願発明1
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「バルブタイミング調整装置」は、その機能、構成および技術的意義からみて前者の「エンジンの可変バルブタイミング装置」に相当し、以下同様に、「ベーンロータ14およびボス部15で構成される従動側回転体」は「ロータ本体」に、「ベーンロータ14」は「主本体」に、「シューハウジング11」は「ステータハウジング」に、「シューハウジング11の扇状空間部55」は「ステータハウジング内部」に、「ベーン14a、14b、14c」は「ベーン」に、「ボス部15」は「中心部分」に、「鉄系の材料」は「金属製」に、「シール部材22」は「動的シール要素(i)」にそれぞれ相当する。
そして、後者の「チェーンスプロケット10」が前者の「前面側カバー」及び「後面側カバー」の一方に相当し、「シューハウジング11のフロント部13」が他方に相当することから、後者の「チェーンスプロケット10に対向する面」は、前者の「前面側カバーと係合する前面」及び「背面側カバーと係合する背面」の一方に相当し、「シューハウジング11のフロント部13に対向する面」は他方に相当する。
また、後者の「遅角油圧室61、62、63及び進角油圧室64、65、66」と前者の「オイルまたは空気の可変圧力チャンバ」とは、「オイルの可変圧力チャンバ」という限りで一致し、さらに後者の「遅角油圧室61、62、63及び進角油圧室64、65、66にオイルを輸送するための油路」と前者の「1つのオイルまたは空気の可変圧力チャンバにオイルまたは空気を輸送するための流路」とは、「1つのオイルの可変圧力チャンバにオイルを輸送するための流路」という限りで一致する。
さらに、後者の「チェーンスプロケット10に対向する面からシューハウジング11のフロント部13に対向する面に延びる(軸方向の)孔であって、カムシャフト2への固定用のセンタボルト40を受け入れるための孔」と前者の「前面から前記背面に延びる(軸方向の)穿孔であって、カムシャフトまたはカムシャフトへの固定用のボルトを受け入れるための穿孔」とは、「前面から前記背面に延びる(軸方向の)穿孔であって、カムシャフトへの固定用のボルトを受け入れるための穿孔」という限りで一致する。
加えて、後者の「樹脂材料」と前者の「繊維強化型ポリマー材料」とは、「ポリマー材料」という限りで一致する。
そして、後者の「ボス部15は、前記樹脂材料の中に突き出る突出部15a、15b、15cを含む」と前者の「中心部分は、前記繊維強化型ポリマー材料の中に突き出る複数の突起部分および/または前記繊維強化型ポリマー材料がオーバーモールドされる際にその材料で充填される位置に設けられた複数の孔を含」みとは、「中心部分は、ポリマー材料の中に突き出る複数の突起部分を含」みという限りで一致する。

したがって、両者は、
「エンジンの可変バルブタイミング装置用のロータ本体において、
- 主本体であって、
・前面側カバーと係合する前面および背面側カバーと係合する背面と、
・ステータハウジング内部にオイルの可変圧力チャンバを画定するためのベーンであって、前記ステータハウジングと係合するベーン先端を有するベーンと、
・1つのオイルの可変圧力チャンバにオイルを輸送するための流路と、を含む主本体と、
- 前記前面から前記背面に延びる(軸方向の)穿孔であって、カムシャフトまたはカムシャフトへの固定用のボルトを受け入れるための穿孔を含む中心部分と、
を含み、
- 前記主本体はポリマー材料から構成され、
- 前記軸方向の穿孔を含む中心部分は金属製であり、
- 前記ロータ本体は、
・前記ステータハウジングと係合するベーン先端における動的シール要素(i)と、を含み、
前記金属製の中心部分は、前記ポリマー材料の中に突き出る複数の突起部分を含む、ロータ本体。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
「ポリマー材料」に関し、本願発明1においては「繊維強化型ポリマー材料」であるのに対し、引用発明においては「ポリマー材料」であるが、繊維強化型であるかは不明である点。

[相違点2]
「動的シール要素」に関し、本願発明1においては「前面側カバーおよび背面側カバーと係合する前記前面および背面における動的シール要素(ii)」を含み、さらに「動的シール要素(i)および(ii)は非繊維強化型ポリマー材料から作製され」るものであるのに対し、引用発明においては「前面側カバーおよび背面側カバーと係合する前記前面および背面における動的シール要素(ii)」に係る構成を備えておらず、さらに、「動的シール要素」の材料が不明である点。

[相違点3]
「金属製の中心部分」に関し、前者は「繊維強化型ポリマー材料の中に突き出る複数の突起部分および/または前記繊維強化型ポリマー材料がオーバーモールドされる際にその材料で充填される位置に設けられた複数の孔を含」み、「前記複数の突起部分は、前記ベーンまでは伸びていない」ものであるのに対し、後者は「ポリマー材料の中に突き出る複数の突起部分を含」み、「突起部」である突出部15a、15b、15cは、「ベーン」であるベーン14a、14b、14cに埋設されている点。

相違点について検討する。
事案に鑑み、まず相違点3について検討する。
引用文献2の記載事項は、
「ベーン部材1を、6-ナイロンに炭素繊維を15パーセント程度配合したポリアミド樹脂に、ガラス繊維、炭素繊維を配合した耐熱性合成樹脂製からなるものとすること。」
である。
引用文献3の記載事項は、
「内側ロータ6を、任意の組成の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を使用する繊維複合材料から製造すること。」
である。
引用文献4の記載事項は、
「内部ロータ2の軸方向両端面およびベーン部2bのハウジング6との摺動面に溝8を形成し、溝8に樹脂あるいはゴムなどの可撓性を有する材質からなるシール部材3a、3bが装着されること。」
である。
引用文献5の記載事項は、
「ベーンロータ20のハブ部22に、進角室30aに連通する進角通路24及び遅角室30bに連通する遅角通路25を備えること。」
である。

引用文献2ないし5の記載事項は、相違点3に係る本願発明1の「前記複数の突起部分は、前記ベーンまでは伸びていない」という事項を開示するものではない。
また、引用文献2ないし5に、相違点3に係る本願発明1の「前記複数の突起部分は、前記ベーンまでは伸びていない」という事項は明記されておらず示唆もない。
さらに、仮に、突起部分の大きさ或いは形状については、当業者の通常の創作能力の範囲で決定し得るものとしても、突出部15a、15b、15cをベーン14a、14b、14cに埋設されていることでベーンロータ14は強度が比較的大きい構成となっている引用発明において、相違点3に係る本願発明1の「前記複数の突起部分は、前記ベーンまでは伸びていない」という事項を備えるとすると、ベーンロータ14の強度が小さくなる、すなわち引用発明の作用効果と相反することが明らかであるから、当業者がこれを採用する合理的な事情を見出すことはできない。

そして、相違点3に係る本願発明1の「前記複数の突起部分は、前記ベーンまでは伸びていない」という事項により、本願発明1は、本願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】及び【0011】に記載された、引用発明及び引用文献2ないし5の記載事項からは予測できない効果を奏する。

そうすると、引用発明及び引用文献2ないし引用文献5の記載事項を総合しても、上記相違点3に係る本願発明1の「前記複数の突起部分は、前記ベーンまでは伸びていない」という事項を容易に想到することはできない。

したがって、相違点1及び相違点2の検討をするまでもなく、本願発明1は、当業者が引用発明及び引用文献2ないし引用文献5の記載事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)本願発明2ないし本願発明11について
本願の特許請求の範囲における請求項2ないし11は、請求項1の記載を直接又は間接的に、かつ、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本願発明2ないし本願発明11は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。

したがって、本願発明2ないし本願発明11は、本願発明1と同様の理由により、当業者が引用発明及び引用文献2ないし引用文献5の記載事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 特許法第36条第6項第2号(明確性)の判断
平成30年8月27日の手続補正により、請求項1の「1つの圧力チャンバから他の圧力チャンバにオイルまたは空気を輸送するための流路」について、「1つのオイルまたは空気の可変圧力チャンバにオイルまたは空気を輸送するための流路」と補正された結果、本願発明1の発明特定事項は「1つのオイルまたは空気の可変圧力チャンバにオイルまたは空気を輸送するための流路」であることが明確になった。
同様に、請求項1の「繊維強化型ポリマー材料が充填される複数の孔」について、「繊維強化型ポリマー材料がオーバーモールドされる際にその材料で充填される位置に設けられた複数の孔」と補正された結果、本願発明1の発明特定事項である「前記前面から前記背面に延びる(軸方向の)穿孔であって、カムシャフトまたはカムシャフトへの固定用のボルトを受け入れるための穿孔」と該「繊維強化型ポリマー材料がオーバーモールドされる際にその材料で充填される位置に設けられた複数の孔」との関係が明確になった。
そして、請求項1の「繊維強化型のポリマー材料」及び「非強化型のプラスチック材料」について、それぞれ「繊維強化型ポリマー材料」及び「非繊維強化型ポリマー材料」と補正された結果、本願発明1の発明特定事項である「主本体」及び「動的シール要素(i)および(ii)」の材料の関係が明確になった。
また、平成30年8月27日の手続補正により、請求項2の「機械加工された金属または鋳造金属または焼結金属から作製される」について、「金属を機械加工することによって、または、鋳造金属若しくは焼結金属から、作製される」と補正された結果、本願発明2の発明特定事項である「中心部分」は「金属を機械加工すること」又は「鋳造金属若しくは焼結金属」により作製されることが明確になった。
したがって、この拒絶の理由は解消した。

第7 原査定についての判断
平成30年8月27日の補正により、補正後の請求項1ないし11は、第5 2(1)で上述した本願発明1の相違点3に係る技術的事項を有するものとなった。当該第5 2(1)で上述した本願発明1の相違点3に係る技術的事項は、原査定における引用文献A(当審拒絶理由における引用文献1)、引用文献B(当審拒絶理由における引用文献2)、引用文献C(当審拒絶理由における引用文献3)、引用文献D(当審拒絶理由における引用文献4)及び引用文献Eには記載されておらず、本願の優先日前における周知技術でもないので、本願発明1ないし11は、当業者が原査定における引用文献AないしEに基いて容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、当審が通知した理由及び原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-11-19 
出願番号 特願2015-509385(P2015-509385)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F01L)
P 1 8・ 537- WY (F01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山本 健晴菅家 裕輔  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 水野 治彦
粟倉 裕二
発明の名称 可変バルブタイミング装置用のロータおよびそのロータを備えたVVT装置  
代理人 池田 成人  
代理人 清水 義憲  
代理人 阿部 寛  
代理人 酒巻 順一郎  
代理人 戸津 洋介  

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