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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F01N
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F01N
管理番号 1346453
審判番号 不服2017-9636  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-30 
確定日 2018-12-11 
事件の表示 特願2013-545500「酸化触媒を含む希薄燃焼内燃機関の排気ガス処理装置及び酸化触媒の酸化活性の回復方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年6月28日国際公開、WO2012/085572、平成26年4月24日国内公表、特表2014-510220、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)12月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年12月21日、アメリカ合衆国、2010年12月23日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成27年9月18日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の平成28年4月4日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月6日付けで拒絶理由(最後)が通知され、その指定期間内の同年12月12日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成29年2月20日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。発送日:同年2月28日)がされ、これに対し、同年6月30日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、同年11月27日に上申書が提出され、その後、当審において平成30年2月26日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、その指定期間内の同年8月20日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明9」という。)は、平成30年8月20日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
希薄燃焼ディーゼルエンジンと、エンジン管理手段と、エンジンの排気ガスを処理するための排気系とを備えており、前記排気系が、第1のハニカムモノリス基材に配置された第1の酸化触媒を備え、前記第1の酸化触媒は、前記第1の酸化触媒とは異なる第2の酸化触媒と組み合わせられ、
前記第1の酸化触媒は、第1の金属酸化物支持体上に担持された白金および前記白金と組み合わせて前記第1の金属酸化物支持体上に担持されたパラジウムから成り、前記第1の金属酸化物支持体が、(i)CeO_(2)、(ii)CeO_(2)およびジルコニア、(iii)CeO_(2)および少なくとも1つの非セリウム希土類酸化物、または(iv)CeO_(2)およびジルコニアと少なくとも1つの非セリウム希土類酸化物の両方を含み、前記第1の酸化触媒が、アルカリ金属およびアルカリ土類金属を含まず、
前記第2の酸化触媒は、第2の金属酸化物支持体上に担持された少なくとも1つの貴金属を含み、
(a)前記第1および第2の酸化触媒が、それぞれ別の層に配置され、(i)前記第2の酸化触媒が下層の前記第1のハニカムモノリス基材上に配置され、前記第1の酸化触媒が前記第2の酸化触媒の上方に位置する層に配置される、(ii)前記第1の酸化触媒が下層の前記第1のハニカムモノリス基材上に配置され、前記第2の酸化触媒が前記第1の酸化触媒の上方に位置する層に配置される、のいずれかであり、または、(b)前記第1の酸化触媒の前記第1の金属酸化物支持体と、前記第2の酸化触媒の前記第2の金属酸化物支持体とが、前記第1のハニカムモノリス基材上に配置される単一の層に組み合わせられる、のいずれかであり、
前記エンジン管理手段が、使用時に、1つ以上のエンジンシリンダ内の燃料噴射タイミングを調節することによって、前記第1の酸化触媒に接触する排気ガスの組成を間欠的に調節して組成を濃くするように構成されており、
前記エンジン管理手段が、前記第1の酸化触媒に接触する前記排気ガスの前記組成を0.80より大きく1より小さい濃い組成へと調節するように設定される、装置。
【請求項2】
前記エンジン管理手段が、前記第1の酸化触媒に接触する前記排気ガスの前記組成を濃い組成へと調節するようにプログラムされた電子プロセッサを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1の金属酸化物支持体が、バルクの(i)CeO_(2)、(ii)CeO_(2)およびジルコニア、(iii)CeO_(2)および少なくとも1つの非セリウム希土類酸化物、または(iv)CeO_(2)およびジルコニアと少なくとも1つの非セリウム希土類酸化物の両方で基本的に構成される、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記(i)CeO_(2)、(ii)CeO_(2)およびジルコニア、(iii)CeO_(2)および少なくとも1つの非セリウム希土類酸化物、または(iv)CeO_(2)およびジルコニアと少なくとも1つの非セリウム希土類酸化物の両方が、前記白金とともに前記第1の金属酸化物支持体上に担持される、請求項1または2に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の酸化触媒における白金族の金属成分が、10g/ft^(3)超の量で前記第1のハニカムモノリス基材上に配置されている、請求項1?4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記第1のハニカムモノリス基材が、複数のチャネルが開いた入口端から開いた出口端へと平行に延びている貫流構成を有する、請求項1?5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記第1のハニカムモノリス基材と、存在するのであれば第2のハニカムモノリス基材とが、排気ガスから粒子状物質をろ過するための触媒化されたフィルタの上流に配置される、請求項1?6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記第1のハニカムモノリス基材が、チッ素還元剤を用いてチッ素の酸化物を選択的に還元するための触媒を含むモノリス基材の上流に配置される、請求項1?7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記第1のハニカムモノリス基材が、貫流モノリス基材である、請求項8に記載の装置。」

第3 引用文献、引用発明
1 引用文献1
原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された国際公開第2010/118125号(以下「引用文献1」という。)には、「ZONED CATALYSTS FOR DIESEL APPLICATIONS」(ディーゼル用途のための区分化された触媒)に関して、図面(特に、Fig.1、Fig.3A、Fig.3D参照)とともに、次の事項が記載されている。仮訳は、引用文献1に関連する特表2012-523313号公報を参照し、当審が作成した。

(1)「[0002] Embodiments of the present invention are directed to oxidation catalysts that have zoned designs. More specifically, embodiments are directed to zoned catalyst formulations comprising Pt and Pd on refractory metal oxide supports for example Ce-containing supports, and their use for reducing carbon monoxide and hydrocarbons in diesel engine and advanced combustion diesel engine systems.」
(仮訳)
本発明の実施形態は、区分化された(zoned)設計を有する酸化触媒を対象とする。より具体的に、実施形態は、耐火金属酸化物支持体、例えば、Ceを含有する支持体上に、PtおよびPdを含む区分化された触媒調合、ならびにディーゼルエンジンおよび改良型燃焼ディーゼルエンジンシステム中の一酸化炭素および炭化水素を還元するためのそれらの使用を対象とする。

(2)「[0044] Reference to "advanced combustion diesel engine" is distinguished from a traditional diesel engine, and includes Homogeneous Charge Compression Ignition (HCCI), Pre-mixed Charge Compression Ignition (PCCI), and Low Temperature Combustion (LTC) engines, which operate by reducing the combustion flame temperature within the engine cylinder and by increasing the uniformity and mixing of the fuel charge prior to ignition. Numerous variants of advanced combustion technologies are known in the art, and the above list is not meant to be inclusive of all variants. ・・・(省略)・・・ Although the emissions from a lean burn advanced combustion diesel engine may become more like the emissions from a spark-ignited stoichiometric gasoline engine, the mode of engine operation is completely different and therefore the exhaust treatment strategy is also completely different.(以下略)」
(仮訳)
”改良型燃焼ディーゼルエンジン”という記述は、従来のディーゼルエンジンと区別され、かつ均質予混合圧縮着火(HCCI)、予混合圧縮着火(PCCI)、および低温燃焼(LTC)エンジンを含み、これらは、エンジンシリンダ内の燃焼火炎温度を下げることによって、および点火前の装荷燃料の均一性および混合を高めることによって作動する。改良型燃焼技術の多数の変形例は、当技術分野で周知であり、上記リストは、全ての変形例を含むことを意味していない。・・・(省略)・・・希薄燃焼改良型燃焼ディーゼルエンジンからの排出は、むしろ火花点火式化学量論ガソリンエンジンからの排出に近いが、エンジンの作動モードが完全に異なり、したがって、排気処理戦略も完全に異なる。(以下略)

(3)「[0059] In another embodiment, the washcoat layers of the present invention may be zone coated such that first washcoat layer is on the upstream end, and the second washcoat layer on the downstream end of the carrier substrate. For example, an upstream washcoat layer can be coated over a portion of the upstream region of the substrate and a downstream washcoat layer can be coated over a downstream portion of the substrate. In such embodiments, the second or downstream washcoat layer of the present invention can be at least partially coated over the first or upstream washcoat layer.
[0060] The catalyst composite embodiment including upstream and downstream zones may be more easily understood by reference to Figures 3 A through 3D. FIG. 3 A shows an embodiment of a zoned oxidation catalyst composite 20 for abatement of exhaust gas emissions from an engine. A carrier substrate 22, for example, a honeycomb monolith, having an inlet or upstream end 25, and outlet or downstream end 27 and an axial length extending between the inlet end 25 and outlet end, contains two separate zone coated washcoat layers. A first washcoat layer 24 and a second washcoat layer 26 are applied to the substrate 22. The first washcoat layer 24 extends from the inlet or upstream end 25 and contains a first refractory metal oxide support including one or more of a platinum (Pt) and a palladium (Pd) component. A second washcoat layer 26 extends from the outlet or downstream end 27 and comprises a second refractory oxide support, and one or more of a platinum component and a palladium component. In the embodiment shown in Figure 3A, the second washcoat zone 26 at least partially overlaps the first washcoat zone 24. The catalyst composite has at least about 50% of the total palladium components in the first washcoat zone 24 and at least about 50% of the platinum components in the second washcoat zone 26. In a detailed embodiment, the second washcoat layer is substantially free of palladium.
(仮訳)
別の実施形態において、本発明のウォッシュコート層は、第1のウォッシュコート層が上流端上にあり、第2のウォッシュコート層が担体基材の下流端上にあるように区分被膜されてもよい。例えば、上流ウォッシュコート層が、基材の上流領域の一部上を被膜してもよく、下流ウォッシュコート層が、基材の下流部分上を被膜してもよい。かかる実施形態において、本発明の第2または下流ウォッシュコート層は、第1または上流ウォッシュコート層上を少なくとも部分的に被膜してもよい。
上流および下流区分を含む触媒複合材の実施形態は、図3Aから3Dを参照することによってより容易に理解され得る。図3Aは、エンジンからの排気ガス排出の削減のための酸化触媒複合材20の実施形態を示す。担体基材22、例えば、流入または上流端25、および流出または下流端27、ならびに流入端25と流出端との間で延在している軸長を有するハニカムモノリスは、2つの別個の区分被膜ウォッシュコート層を含む。第1のウォッシュコート層24および第2のウォッシュコート層26が、基材22に適用される。第1のウォッシュコート層24は、流入または上流端25から延在し、1つまたは複数の白金(Pt)およびパラジウム(Pd)成分を含む第1の耐火金属酸化物支持体を含む。第2のウォッシュコート層26は、流出または下流端27から延在し、第2の耐火酸化物支持体、ならびに白金成分およびパラジウム成分のうちの1つまたは複数を備える。図3Aに示される実施形態において、第2のウォッシュコート区分26は、少なくとも部分的に第1のウォッシュコート区分24と重複する。触媒複合材は、第1のウォッシュコート区分24中に少なくとも約50%の総パラジウム成分、および第2のウォッシュコート区分26中に少なくとも約50%の白金成分を有する。詳細な実施形態において、第2のウォッシュコート層は実質的にパラジウムを含まない。

(4)「[0065] Figure 3D shows an embodiment in which the first washcoat zone 24 and second washcoat zone 26 are located side-by-side along the length of the carrier substrate 22. The first washcoat zone 24 of specific embodiments extends from the inlet end 25 of the substrate 22 through the range of about 5% and about 95% of the length of the substrate 22. The second washcoat zone 26 extends from the outlet end 27 of the substrate 22 for about 5% to about 95% of the axial length of the substrate. The composition of the first and second washcoat layers can be as described above with respect to Figures 3A to 3C.」
(仮訳)
図3Dは、第1のウォッシュコート区分24および第2のウォッシュコート区分26が、担体基材22の長さに沿って、並んで設置される実施形態を示す。具体的な実施形態の第1のウォッシュコート区分24は、基材22の長さの約5%および約95%の範囲を介して、基材22の流入端25から延在する。第2のウォッシュコート区分26は、基材の軸長の約5%?約95%にわたって、基材22の流出端27から延在する。第1および第2のウォッシュコート層の組成物は、図3A?3Cに関して上述されたとおりであり得る。

(5)「[0068] The refractory oxide support, for example, alumina may be present in the range of about 0.1 to about 3 g/in^( 3) , with a more specific range of about 0.5 g/in^( 3) to about 2 g/in^( 3) . A molecular sieve, for example H-beta zeolite may be present in the range of about 0.1 to about 1 g/in^( 3) , with a more specific range of about 0.2 to about 0.5 g/in^( 3) . The support for both the first washcoat layer and/or the second washcoat layer, of various embodiments, further comprises one or more of zeolites, alkaline earth oxides, rare earth oxides and base metal oxides. In other detailed embodiments, the support further comprises ceria and a molecular sieve comprising a zeolite selected from beta-zeolite, ZSM-5 or zeolite-Y.」
(仮訳)
耐火酸化物支持体、例えば、アルミナは約0.1?約3g/in^(3)の範囲で存在し得、約0.5g/in^(3)?約2g/in^(3)のより具体的な範囲を伴う。モレキュラーシーブ、例えば、H-ベータゼオライトは約0.1?約1g/in^(3)で存在し得、約0.2?約0.5g/in^(3)のより具体的な範囲を伴う。第1のウォッシュコート層および/または第2のウォッシュコート層の双方の支持体の様々な実施形態は、1つまたは複数のゼオライト、アルカリ土類酸化物、希土類酸化物、および卑金属酸化物をさらに含む。他の詳細な実施形態において、支持体は、ベータゼオライト、ZSM-5、またはゼオライトYから選択されるゼオライトからなるモレキュラーシーブおよびセリアをさらに含む。

上記記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「希薄燃焼改良型燃焼ディーゼルエンジンと、エンジンからの排気ガス排出の削減のための酸化触媒複合材とを備えており、前記酸化触媒複合材が、担体基材22に配置された第1のウォッシュコート層24を備え、前記第1のウォッシュコート層24は、前記第1のウォッシュコート層24とは異なる第2のウォッシュコート層26と組み合わせられ、
前記第1のウォッシュコート層24は、第1の耐火金属酸化物支持体に含まれた白金(Pt)及び前記白金(Pt)と組み合わせて前記第1の耐火金属酸化物支持体に含まれたパラジウム(Pd)を含み、前記第1の耐火金属酸化物支持体が、セリアを含み、
前記第2のウォッシュコート層26は、第2の耐火酸化物支持体並びに白金成分及びパラジウム成分を備え、
第1のウォッシュコート層24及び第2のウォッシュコート層26が担体基材22の長さに沿って並んで設置される、
改良型燃焼ディーゼルエンジンシステム。」

2 引用文献2
原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された特開2008-279343号公報(以下「引用文献2」という。)には、「排ガス浄化用触媒の再生装置及び再生方法」に関して、図面(特に、図2参照)とともに、次の事項が記載されている。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のエンジンへの燃料供給の停止時に貴金属を含む排ガス浄化用触媒を加熱する加熱手段と、
該加熱手段によって加熱された該排ガス浄化用触媒に酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給手段と、
該加熱手段によって加熱された該排ガス浄化用触媒に還元性ガスを供給する還元性ガス供給手段と、
該酸化性ガス供給手段と該還元性ガス供給手段との駆動を択一的に切り替える切り替え手段と、からなることを特徴とする排ガス浄化用触媒の再生装置。」

(2)「【発明の効果】
【0014】
本発明の排ガス浄化用触媒の再生装置及び再生方法によれば、車両のエンジンへの燃料供給の停止時に排ガス浄化用触媒の再生が行われる。例えば高速走行中にアクセルペダルから足を離すと、フューエルカット制御によってエンジンへの燃料供給が停止され、エンジンブレーキによって制動が行われる。この時に排ガス浄化用触媒の再生を行えば、ドライバビリティに影響を与えることなく、再生を行うことができる。」

(3)「【0048】
<第1ハニカム触媒の調製>
コージェライト製のハニカム基材(セル密度 600cpsi、壁厚75μm、直径 103mm、長さ 105mm、0.875L)を用意し、ペレット触媒の調製時に得られたと同様のPt/CeO_(2)-ZrO_(2)触媒粉末 120質量部とセリアゾルバインダー10質量部とを含むスラリーをウォッシュコートして、ハニカム触媒を調製した。コート層にはハニカム触媒1Lあたり 120gのPt/CeO_(2)-ZrO_(2)触媒粉末が含まれ、Ptはハニカム触媒1Lあたり 0.6g担持されている。
【0049】
(実施例4)
上記第1ハニカム触媒を 4.3Lのガソリンエンジンの排気系に装着し、触媒床温度 750℃、フューエルカット制御3秒と、空燃比をA/F=14.6のストイキ雰囲気に制御するフィードバック制御7秒とが交互に繰り返される条件下にて50時間保持する実耐久試験を行った。
【0050】
なおフューエルカット制御とは、車輪が回転している状態でエンジンへの燃料供給をカットする制御であり、その間はエンジンからは排ガスではなく空気が排出されている。またフィードバック制御とは、排ガス中の酸素濃度を検出してエンジンへの燃料供給量を制御することで、空燃比を所定範囲に制御するものである。この場合の排ガス雰囲気は、ストイキを中心にしてリッチ又はリーンに僅かに変動する。
【0051】
上記した実耐久試験後の触媒について、空気中にて 800℃で2時間保持する酸化工程を行い、次いで酸化工程後の触媒についてCOを3体積%含む窒素ガス中にて 700℃で1時間保持する還元工程を行った。
【0052】
(比較例4)
上記第1ハニカム触媒を実施例4と同様のエンジンの排気系に装着し、実施例4と同様の実耐久試験を行った。酸化工程及び還元工程は行わなかった。」

(4)「【0059】
表3及び図2より、実施例4に係る触媒は比較例4に係る触媒に比べて浄化活性に優れ、実施例5に係る触媒は比較例5に係る触媒に比べて浄化活性に優れている。すなわち酸化工程と還元工程とを行うことで、耐久試験時に劣化した触媒が再生されたことが明らかである。」

上記(1)ないし上記(4)及び図面の図示内容を整理すると、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2に記載された事項」という。)が記載されている。

「ハニカム基材を用意し、Pt/CeO_(2)-ZrO_(2)触媒粉末とセリアゾルバインダーとを含むスラリーをウォッシュコートしてハニカム触媒を調製し、ハニカム触媒をガソリンエンジンの排気系に装着し、触媒床温度 750℃、フューエルカット制御3秒と、空燃比をA/F=14.6のストイキ雰囲気に制御するフィードバック制御7秒とが交互に繰り返される条件下にて実耐久試験を行い、実耐久試験後の触媒について空気中にて 酸化工程を行い、次いで酸化工程後の触媒について還元工程を行うこと。
なお、フューエルカット制御とは、車輪が回転している状態でエンジンへの燃料供給をカットする制御であり、その間はエンジンからは排ガスではなく空気が排出され、フィードバック制御とは、排ガス中の酸素濃度を検出してエンジンへの燃料供給量を制御することで、空燃比を所定範囲に制御するものであり、この場合の排ガス雰囲気は、ストイキを中心にしてリッチ又はリーンに僅かに変動する。」

第4 対比・判断
1 本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「希薄燃焼改良型燃焼ディーゼルエンジン」は前者の「希薄燃焼ディーゼルエンジン」に相当し、以下同様に、「エンジンからの排気ガス排出の削減のための酸化触媒複合材」は「エンジンの排気ガスを処理するための排気系」に、「担体基材22」は「第1のハニカムモノリス基材」に、「第1のウォッシュコート層24」は「第1の酸化触媒」に、「第2のウォッシュコート層26」は「第2の酸化触媒」に、「第1の耐火金属酸化物支持体」は「第1の金属酸化物支持体」に、「第2の耐火酸化物支持体」は「第2の金属酸化物支持体」に、「第1の耐火金属酸化物支持体に含まれた白金(Pt)」は「第1の金属酸化物支持体上に担持された白金」に、「前記白金(Pt)と組み合わせて前記第1の耐火金属酸化物支持体に含まれたパラジウム(Pd)」は「前記白金と組み合わせて前記第1の金属酸化物支持体上に担持されたパラジウム」に、「セリア」は「CeO_(2)」に、「改良型燃焼ディーゼルエンジンシステム」は「装置」にそれぞれ相当する。

また、後者の「前記第1のウォッシュコート層24は、第1の耐火金属酸化物支持体に含まれた白金(Pt)及び前記白金(Pt)と組み合わせて前記第1の耐火金属酸化物支持体に含まれたパラジウム(Pd)を含み」と前者の「前記第1の酸化触媒は、第1の金属酸化物支持体上に担持された白金および前記白金と組み合わせて前記第1の金属酸化物支持体上に担持されたパラジウムから成り」とは、「前記第1の酸化触媒は、第1の金属酸化物支持体上に担持された白金および前記白金と組み合わせて前記第1の金属酸化物支持体上に担持されたパラジウムとを含み」という限りで共通する。

後者の「前記第1の耐火金属酸化物支持体が、セリアを含み」は前者の「前記第1の金属酸化物支持体が、(i)CeO_(2)」「を含み」に相当する。

後者の「前記第2のウォッシュコート層26は、第2の耐火酸化物支持体並びに白金成分及びパラジウム成分を備え」は前者の「前記第2の酸化触媒は、第2の金属酸化物支持体上に担持された少なくとも1つの貴金属を含み」に相当する。

後者の「第1のウォッシュコート層24及び第2のウォッシュコート層26が担体基材22の長さに沿って並んで設置され」は前者の「(b)前記第1の酸化触媒の前記第1の金属酸化物支持体と、前記第2の酸化触媒の前記第2の金属酸化物支持体とが、前記第1のハニカムモノリス基材上に配置される単一の層に組み合わせられ」に相当する。

したがって、両者は、
「希薄燃焼ディーゼルエンジンと、エンジンの排気ガスを処理するための排気系とを備えており、前記排気系が、第1のハニカムモノリス基材に配置された第1の酸化触媒を備え、前記第1の酸化触媒は、前記第1の酸化触媒とは異なる第2の酸化触媒と組み合わせられ、
前記第1の酸化触媒は、第1の金属酸化物支持体上に担持された白金および前記白金と組み合わせて前記第1の金属酸化物支持体上に担持されたパラジウムを含み、前記第1の金属酸化物支持体が、(i)CeO_(2)、(ii)CeO_(2)およびジルコニア、(iii)CeO_(2)および少なくとも1つの非セリウム希土類酸化物、または(iv)CeO_(2)およびジルコニアと少なくとも1つの非セリウム希土類酸化物の両方を含み、
前記第2の酸化触媒は、第2の金属酸化物支持体上に担持された少なくとも1つの貴金属を含み、
(a)前記第1および第2の酸化触媒が、それぞれ別の層に配置され、(i)前記第2の酸化触媒が下層の前記第1のハニカムモノリス基材上に配置され、前記第1の酸化触媒が前記第2の酸化触媒の上方に位置する層に配置される、(ii)前記第1の酸化触媒が下層の前記第1のハニカムモノリス基材上に配置され、前記第2の酸化触媒が前記第1の酸化触媒の上方に位置する層に配置される、のいずれかであり、または、(b)前記第1の酸化触媒の前記第1の金属酸化物支持体と、前記第2の酸化触媒の前記第2の金属酸化物支持体とが、前記第1のハニカムモノリス基材上に配置される単一の層に組み合わせられる、のいずれかである、
装置。」
で一致し、次の点で相違する。

〔相違点1〕
本願発明1は、「エンジン管理手段」を備えており、「前記エンジン管理手段が、使用時に、1つ以上のエンジンシリンダ内の燃料噴射タイミングを調節することによって、前記第1の酸化触媒に接触する排気ガスの組成を間欠的に調節して組成を濃くするように構成されており、前記エンジン管理手段が、前記第1の酸化触媒に接触する前記排気ガスの前記組成を0.80より大きく1より小さい濃い組成へと調節するように設定される」のに対し、
引用発明は、かかる発明特定事項を備えていない点。

〔相違点2〕
第1の酸化触媒について、本願発明1においては、前記第1の酸化触媒は、第1の金属酸化物支持体上に担持された白金および前記白金と組み合わせて前記第1の金属酸化物支持体上に担持されたパラジウム「から成」るのに対し、
引用発明においては、前記第1のウォッシュコート層24は、第1の耐火金属酸化物支持体に含まれた白金(Pt)及び前記白金(Pt)と組み合わせて前記第1の耐火金属酸化物支持体に含まれたパラジウム(Pd)を含む点。

〔相違点3〕
本願発明1は、「前記第1の酸化触媒が、アルカリ金属およびアルカリ土類金属を含ま」ないのに対し、
引用発明は、かかる発明特定事項を備えるか不明である点。

そこで、相違点1について検討する。
本願発明1は、希薄燃焼ディーゼルエンジンにおいてエンジン管理手段が「使用時に、1つ以上のエンジンシリンダ内の燃料噴射タイミングを調節することによって、前記第1の酸化触媒に接触する排気ガスの組成を間欠的に調節して組成を濃くするように構成」する、すなわち、希薄燃焼ディーゼルエンジンにおいて排気ガスの組成を間欠的に濃くすることによって「白金および還元可能な酸化物を含む酸化触媒を濃い排気ガスに間欠的および瞬間的に接触させることによって、酸化触媒が高温において酸化される白金によって引き起こされる酸化活性を回復できる」(本願の明細書段落【0018】)ものである。

他方、引用文献2に記載された事項は、「ハニカム触媒をガソリンエンジンの排気系に装着し、触媒床温度 750℃、フューエルカット制御3秒と、空燃比をA/F=14.6のストイキ雰囲気に制御するフィードバック制御7秒とが交互に繰り返される条件下にて実耐久試験を行い、実耐久試験後の触媒について空気中にて 酸化工程を行い、次いで酸化工程後の触媒について還元工程を行う」ものであり、フューエルカット制御時にはエンジンから排ガスではなく空気が排出され、フィードバック制御時には排ガス雰囲気がストイキを中心にしてリッチ又はリーンに僅かに変動するものである。

そうすると、引用文献2に記載された事項の実耐久試験における排ガスの組成の変動は本願発明1の排ガスの組成の変動とは異なるものであり、また、引用文献2に記載された事項が「実耐久試験後の触媒について空気中にて 酸化工程を行い、次いで酸化工程後の触媒について還元工程を行う」ことからみて、引用文献2に記載された事項は、触媒の再生方法においても本願発明1と異なるものである。

また、原査定に引用された、特開2009-209766号公報(以下「引用文献3」という。)、特開2004-360575号公報(以下「引用文献4」という。)、特表平8-508442号公報(以下「引用文献5」という。)、特表2007-501353号公報(以下「引用文献6」という。)には、希薄燃焼ディーゼルエンジンにおいて排気ガスの組成を間欠的に濃くすることによって白金および還元可能な酸化物を含む酸化触媒の酸化活性を回復させることに関する記載はない。

したがって、引用文献2ないし6には、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項が記載されていないから、引用発明において当業者が引用文献2ないし6に記載された事項を適用して、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を容易に想到し得たとはいえない。

よって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2ないし6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2ないし9について
本願発明2ないし9は、本願発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、それぞれ本願発明1と同様の理由により、引用発明及び引用文献2ないし6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、平成28年12月12日の手続補正により補正された請求項1ないし13に係る発明について、上記引用文献1ないし6に基いて当業者が容易に発明をすることができたから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら、平成30年8月20日の手続補正により補正された請求項1は、前記相違点1に係る発明特定事項を備えるものとなっており、前記のとおり、本願発明1ないし9は、引用発明及び引用文献2ないし6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由の概要及び判断
当審では、特許請求の範囲の請求項1及び3の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていないとの拒絶の理由を通知した。
しかしながら、平成30年8月20日の手続補正により請求項1ないし9の記載は、前記「第2」のとおり補正されたので、これらの拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし9は、いずれも、引用発明及び引用文献2ないし6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-11-27 
出願番号 特願2013-545500(P2013-545500)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (F01N)
P 1 8・ 121- WY (F01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 菅家 裕輔小笠原 恵理寺川 ゆりか  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 冨岡 和人
鈴木 充
発明の名称 酸化触媒を含む希薄燃焼内燃機関の排気ガス処理装置及び酸化触媒の酸化活性の回復方法  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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