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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B63H
管理番号 1346477
審判番号 不服2017-19548  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-28 
確定日 2018-12-11 
事件の表示 特願2013-256038号「舶用プロペラおよび舶用プロペラの改修方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年6月22日出願公開、特開2015-112993号、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年12月11日の出願であって、平成28年6月24日付けで拒絶理由が通知され、同年8月29日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年1月26日付けで拒絶理由が通知され、同年4月3日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月28日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、同年12月28日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願の請求項1及び7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1及び2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、また、本願の請求項2?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物1?4に記載された発明及び刊行物5に記載された周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
[刊行物]
1.特開2010-264944号公報
2.特開昭60-38287号公報
3.特開昭50-154330号公報
4.特公昭50-385号公報
5.特開2006-199814号公報
以下、それぞれ、「引用文献1ないし5」という。

第3 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1?7」という。)は、平成29年4月3日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりものである。
「 【請求項1】
推進軸に嵌合する翼根部と、該翼根部から半径方向に広がるプロペラ翼とを備えた舶用プロペラであって、
前記プロペラ翼の後縁部の外表面の両面のみに、該プロペラ翼を形成する材料よりも減衰能が高い材質からなる減衰被装材を被装したことを特徴とする舶用プロペラ。
【請求項2】
前記プロペラ翼は金属材料により一体に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の舶用プロペラ。
【請求項3】
前記減衰被装材は、強化繊維を含有させた繊維強化プラスチックであることを特徴とする請求項1または2に記載の舶用プロペラ。
【請求項4】
前記減衰被装材は、動的粘弾性材料であることを特徴とする請求項1または2に記載の舶用プロペラ。
【請求項5】
前記動的粘弾性材料は、フェライトを配合して着磁した磁性ゴムであることを特徴とする請求項4に記載の舶用プロペラ。
【請求項6】
前記プロペラ翼の、前記減衰被装材が被装される範囲は表面仕上げが行われないことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の舶用プロペラ。
【請求項7】
推進軸に嵌合する翼根部と、該翼根部から半径方向に広がるプロペラ翼とを備えた舶用プロペラの改修方法であって、
前記プロペラ翼の後縁部の外表面の両面のみに、該プロペラ翼を形成する材料よりも減衰能が高い材質からなる減衰被装材を被装することを特徴とする舶用プロペラの改修方法。」

第4 引用文献に記載された事項及び発明
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、図とともに、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付加した。以下同様である。)。
(1a)
「【請求項1】
船用プロペラの翼において、少なくとも、翼の表面をアラミド繊維のクロス材を積層した表層材で構成したことを特徴とする船用プロペラの翼。」
(1b)
「【0002】
船用プロペラにおいて、一番の問題は翼に発生するキャビテーションに基づくエロージョン(以下、キャビテーションエロージョン)である。キャビテーションエロージョンが進行すると、推進効率の低下にとどまらず、翼が破損することもある。このため、従来から、キャビテーションエロージョンを抑制する研究が種々行われてきた。例えば、翼径に応じてピッチを変更したりする翼の形状の工夫やキャビテーションエロージョンを起こし難い素材の発掘等であった。しかし、翼の形状からキャビテーションエロージョンを抑制するのは既に限界に来ているとさえいわれており、素材の分野からの向上が期待されている。
・・・
【0007】
本発明は、翼の素材として上記した複合材料を再度見直したもので、特に、素材としてアラミド繊維を採択することで、複合材料が有する軽量、弾力性、安価といった長所を享受しつつ耐エロージョン性を向上させて十分実用に耐え得るものであることを見い出したものである。
・・・
【0010】
請求項1の発明は、翼の表面をアラミド繊維のクロス材からなる表層材で構成したものであり、これによると、耐エロージョン性が従来の複合材料に比べて大きく向上することがわかった。また、当然のことであるが、この翼は金属材に比べて軽くて柔軟であるから、軽量化につながって駆動系の容量を小さくできるし、船尾振動を軽減できて快適性を向上させるといった種々の優れた効果がある。さらに、比強度が高いから、翼圧を薄くできてキャビテーションの発生を抑制するといった効果を有する。この他、アラミド繊維のクロス材は請求項2の一方向材によっても代替できるし、請求項3及び4の手段によると、翼全体の強度を高めることができる。」
(1c)
「【0013】
まず、表層材(及び構造材。以下、単に表層材という)について検討することとした。本発明では、翼の表面を表層材で構成したものであるから、プロペラシャフトに嵌合するボス部分は従来どおりの金属として翼の部分のみに表層材を適用することとした。したがって、実際の適用では、ボスの表面に溝等を形成してこれに翼を嵌合したり、ボスの表面に取付片を突設してこれに翼を固着したりすることになる。」
(1d)
「【0014】
○表層材の選定
表層材は強度材でもあるから、強度が高い素材が適し(同時に軽量であるのが好ましい)、この観点の下、本例では、表層材を構成する繊維をカーボン繊維(CFRP)、ガラス繊維(GFRP)及びアラミド繊維(AFRP)の3種を選定した。なお、アラミド繊維とは、ナイロン繊維に似たポリアミド系の有機繊維のことであり、ナイロンが脂肪族ポリアミドであるのに対してアラミドが芳香族ポリアミドである点で相違し、ナイロン繊維に比べて高強度、高磨耗性に優れた繊維であることは一般に知られている。
【0015】
○表層材の繊維の織方及び配向
表層材は最終的にはシート状になっている必要があることから、繊維の織方及び配向を種々選択した。織方及び配向には、クロス材と一方向材とがあり、前者は繊維を縦糸と横糸にして織ったものであり(Fabric)、後者は繊維を一方向に揃えて樹脂を含浸させるとともに、繊維がバラバラにならないように糸でステッチングしたものである。通常、一方向材は、繊維の向きを異なる方向に向けて(例えば±45°)積層している(Multi Axis)。本例では、カーボン繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維についてクロス材を選択した。
【0016】
○樹脂材(接着剤)の選定
各シートは接着して積層するのであるが,このとき、接着剤として熱硬化性樹脂材を使用する。熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂やアミノ樹脂等種々あるが、ここでは、接着力の強い二種のエポキシ樹脂を選定した。なお、エポキシ樹脂とは、エポキシ基を有する化合物の総称であり、通常、硬化剤(フェノールやアミン等の活性水素を有する化合物)と併用することで三次元硬化ポリマーを形成することが知られている。エポキシ樹脂は強力な接着力を有する接着剤の他に電気絶縁材、積層剤、塗料等に幅広く使用されている。表1はエポキシ樹脂の主剤と硬化剤の組合せを樹脂番号で表したものである(左欄のVaRTMは後述する積層の成形方法のこと)。
・・・
【0018】
○成形(積層)方法
強化繊維のシートは所定の厚みになるように積層して一体化するのであるが、この一体化(成形)の方法としては、VaRTM法とプリプレグ・オートクレープ法(以下、プリプレグ法)とがある。前者は積層したシートを真空バッグに封入して真空引きするとともに、樹脂材を吸入して繊維間及びシート間に含浸させるものであり、後者は予め樹脂材を含浸させたシートを使用して接着には含浸させた樹脂材を使用するものをいう。本例では、低コストで簡易なVaRTM法(真空吸引法)で成形を行った。図1はその方法を示す説明図であるが、強化繊維シートからなる表層材を所定枚数重ねてこれを真空バッグの中に封入し、真空バッグの一方の「吸引口」から真空ポンプで空気を吸引するとともに、この吸引力で他方に接続した熱硬化性樹脂材の充填室の「注入口」から樹脂材を吸引させてシート内及びシート間に含浸させ、これを加圧、加熱して樹脂材を硬化させて表層材を一体化する。なお、熱硬化性樹脂材としてエポキシ樹脂を使用する場合は、主剤と硬化剤を混合しながら吸引する。」
(1e)
「【0023】
カーボン繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維の物理的特性を比べてみると、アラミド繊維がもっとも柔軟性がある。このことは、キャビテーションに曝される翼の表面は柔軟な方が適していることを意味している。その理由は、キャビテーション崩壊時の衝撃エネルギーを吸収できるからと推察される。」
(1f)
「【0029】
プロペラの翼は強度材でもあるから、複合材料によって翼を製作するには、翼全体をアラミド繊維強化樹脂で構成してもよいが、芯の部分はより強度の高いカーボン繊維強化樹脂やガラス繊維強化樹脂を用い、キャビテーションに曝される表層材のみをアラミド繊維によってもよい。この場合でも、樹脂材を多く含むマトリックスが好ましい。なお、強度の点では金属が優れるから、芯を金属としてもよい。この場合、エポキシ樹脂は金属との接着相性も良いから、十分に実用できる。」

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1において、摘記(1a)の「船用プロペラ」は、摘記(1c)の「ボス」と摘記(1a)の「船用プロペラの翼」とを備えていることが明らかであること、及び、摘記(1a)?(1f)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「プロペラシャフトに嵌合するボス部分は金属として、ボスの表面に溝等を形成してこれに翼を嵌合した船用プロペラであって、少なくとも、翼の表面をアラミド繊維のクロス材を積層した表層材で構成した船用プロペラの翼を備えた船用プロペラ。」

2 引用文献2について
引用文献2には、図とともに、以下の事項が記載されている。
(2a)1頁左下欄4行?同頁右下欄13行
「2.特許請求の範囲
半径Rのプロペラ翼の0.4?0.8Rの範囲の一部に翼厚及翼面粗度を変えるための樹脂を接着したことを特徴とする鳴音発生防止プロペラ。
3.発明の詳細な説明
本発明は鳴音発生防止プロペラに関するものである。従来の鳴音発生防止プロペラには数種のものがあつた。第1のプロペラはプロペラ翼の後縁部を肉盛りしたり、あるいは後縁部に突起物を溶接したりしたもの、第2のプロペラはプロペラ翼の後縁部を削り落としたもの、第3のプロペラはプロペラ翼の後縁部に穴をあけたり、あるいは後縁部を波状形にしたものであつた。
ところが、前記第1のプロペラは溶接による加熱のためにプロペラ翼に内部応力が生じ、熱処理を必要とする欠点を有していた。前記第2のプロペラはプロペラ翼を確実な保証なしで削つてしまつたときにプロペラ翼の強度が低下する欠点を有していた。前記第3のプロペラはプロペラ翼の後縁部に穴を穿けたり、あるいは後縁部を波状形にしたりするので、プロペラ翼の強度が低下したり、プロペラの性能が低下したりする欠点を有していた。更に、前記第1 第2及び第3のプロペラはプロペラの取付けを解放してから施工するので、作業時間が長くなる欠点を有していた。
本発明は前記のような従来のもののもつ欠点を排除して、プロペラ翼の強度が低下せず、施行が簡単になり、しかも鳴音発生の防止が可能な鳴音発生防止プロペラを提供することを目的とするものである。」
(2b)1頁右下欄18行?2頁右上欄1行
「以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
第1図及び第2図は本発明の実施例を示しており、(1)はプロペラ翼である。プロペラ翼(1)の半径はRである。プロペラ翼(1)の0.4?0.8Rの範囲にある翼の後縁部に樹脂(2)を接着している。樹脂(2)の周囲のプロペラ翼(1)には樹脂(2)を接着したことによつて生じる段付きをなくするために耐水性接着剤(3)が展着されている。樹脂には溝(2a)が千鳥状に設けられている。
次に、プロペラ翼の周囲の水の流れについて説明する。
プロペラ翼(1)に樹脂(2)を接着する施工前の水の流れは第3図(a)に示されているのに対し、施工後の水の流れは第3図(b)に示されている。施工後はプロペラ翼(1)に樹脂(2)を接着しているから、施工後の水の流れは施工前の水の流れに比べて剥離点が翼の前方に移行すると共に、力ルマン渦列の発生状態が変化する。
プロペラ鳴音の発生は一般にカルマン渦列の発生周波数とプロペラ翼の固有振動数とが一致した時の翼の共振振動によるとされているから、プロペラ翼(1)に樹脂(2)を接着してカルマン渦列の発生状態を変化することにより鳴音が防止される。」
(2c)2頁右上欄下から4行?同頁左下欄2行
「本発明は前記のように半径Rのプロペラ翼の0.4?0.8Rの範囲の一部に翼厚及び翼面粗度を変えるための樹脂を接着しているから、カルマン渦列の発生が変化し、鳴音発生が防止できると共に、プロペラ翼の強度が低下せず、施工が簡単になる効果を有している。」

3 引用文献3について
引用文献3には、図とともに、以下の事項が記載されている。
(3a)1頁左下欄4?10行
「2.特許請求の範囲
1.液体エポキシ樹脂100重量部につき無機補強材70?150重量部およびポリアミド系またはアミン系硬化剤1?50重量部を有機溶剤に分散させて成る組成物を使用して金属製プロペラを被覆することを特徴とする金属製プロペラの被覆方法。」
(3b)1頁左下欄18行?2頁左上欄3行
「3.発明の詳細な説明
本発明は金属製プロペラの被覆方法、特に船舶用プロペラの如く苛酷な腐食条件下で使用される金属製プロペラの耐食性を向上させるためにこれを被覆する方法に関する。・・・ここを航行する船舶のプロペラは耐食性の良好な銅合金材料を使用しているにも拘らず腐食が著しく、その耐久性が急激に低下している。従つて、これを耐食性の良好なプラスチツク系材料で被覆することが提案され、現に溶剤型塗料や粉末塗装を用いて種々の施工試験や被覆試料の実用耐久試験が行われているが、・・・未だ充分に満足できる有効な技術は確立されるに至つていない。・・・船舶用プロペラは海水中の苛酷な条件の下で使用されるため、単に耐食性の優れたプラスチツク系材料というだけでは実用的価値がなく、これに加えて施工性、密着性、耐衝撃性、耐摩耗性などの諸性質が優れていることが要求されることなどにも原因がある。」

4 引用文献4について
引用文献4には、図とともに、以下の事項が記載されている。
(4a)1頁左欄17?21行
「発明の詳細な説明
この発明は舶用推進器として、ゴム質材料の被覆によつて耐キヤビテーシヨン・エロージヨン性を向上させ、併せて推進性、経済性においても優れた性能を有するものの提供に関する。」
(4b)1頁右欄32行?2頁左欄13行
「従つてその特徴とする処は、推進器翼の翼後進面の翼先端部から翼半径比0.6?0.8Rの範囲に硬度80以下のゴム質材料を被覆した点にあり、更には推進器翼の翼後進面の翼先端部から翼半径比0.6?0.8Rの範囲、翼後進面および翼前進面のボス部から翼半径比0.3?0.5Rの範囲に、硬度80以下のゴム質材料を被覆し、同翼の残りの表面に硬度60以上でかつ上記の部分より硬質のゴム質材料を被覆した点にあり、更にまた推進器翼の翼後進面の翼先端部から翼半径比0.6?0.8Rの範囲、翼後進面および翼前進面のボス部から翼半径比0.3?0.5Rの範囲に、硬度80以下のゴム質材料を被覆し、同翼の残りの表面および翼の両面の翼周縁から300mm以下の範囲に、硬度60以上でかつ上記の部分より硬質のゴム質材料を被覆した点にある。但しここに翼半径比とは、翼の外接円半径Rに対する比であり、同じくゴム質材料の硬度はJISK6301-1962のスプリング式硬さ試験値を示している。」

5 引用文献5について
引用文献5には、図とともに、以下の事項が記載されている。
(5a)
「【0004】
上述したゴムシートは、防振装置や免震装置に必要な荷重支持能力、復元力(ばね)、減衰力の3要素を備えているが、近年になって、さらに高い減衰力を有する高粘弾性のゴムシートを開発する要望が高くなってきた。
【0005】
そこで、本発明者は、高粘弾性のゴムシートを得るためにゴムマトリックスと充填材料とについて種々研究を重ねたところ、ゴムマトリックスに、ある磁性粉を分散して充填することにより、ゴムシートの粘弾性が著しく高まることを見い出した。
【0006】
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、その目的は、高い粘弾性を発現し、従来のゴムシートに比べてより高い減衰効果が得られるゴム磁石シートを提供することにある。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

引用発明の「プロペラシャフト」は、本願発明1の「推進軸」に相当する。
引用発明では、「ボスの表面に溝等を形成してこれに翼を嵌合し」ているから、引用発明の「ボス」及び「ボス部分」は、いずれも、本願発明1の「翼根部」に相当する。
したがって、引用発明の「プロペラシャフトに嵌合するボス部分」は、本願発明1の「推進軸に嵌合する翼根部」に相当する。

引用発明において、「船用プロペラ翼」が、「プロペラシャフト」の軸線ないしその延長線を中心として、半径方向に延びていることは、技術常識であること、及び、上記アを踏まえると、引用発明の「ボスの表面に溝等を形成してこれに翼を嵌合した船用プロペラ」の「翼」は、本願発明1の「翼根部から半径方向に広がるプロペラ翼」に相当する。

上記ア及びイを踏まえると、引用発明の「プロペラシャフトに嵌合するボス部分は金属として、ボスの表面に溝等を形成してこれに翼を嵌合した船用プロペラ」は、本願発明1の「推進軸に嵌合する翼根部と、該翼根部から半径方向に広がるプロペラ翼とを備えた舶用プロペラ」に相当する。

以上を総合すると、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「推進軸に嵌合する翼根部と、該翼根部から半径方向に広がるプロペラ翼とを備えた舶用プロペラ。」
<相違点>
本願発明1では、「前記プロペラ翼の後縁部の外表面の両面のみに、該プロペラ翼を形成する材料よりも減衰能が高い材質からなる減衰被装材を被装した」のに対して、引用発明では、「少なくとも、翼の表面をアラミド繊維のクロス材を積層した表層材で構成した船用プロペラの翼を備えた」点。

(2)判断
以下、相違点について検討する。

本願発明1、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項について、課題及び作用効果等の概要は、以下のとおりである。
(ア)
本願発明1の課題は、「プロペラ翼の表面を流れる水流にカルマン渦が発生することによるプロペラ翼の共振および共鳴音の発生を防止することができ、且つ、強度設計が容易な舶用プロペラおよび舶用プロペラの改修方法を提供することを目的とする」(本願の明細書の段落【0010】)ものであり、「プロペラ翼の少なくとも後縁部の外表面に、プロペラ翼を形成する材料よりも減衰能が高い材質からなる減衰被装材が被装されることにより、プロペラ翼の後縁部の振動減衰性が高められ」(同段落【0012)】)、「プロペラが水中で回転して水流がプロペラ翼の後縁部から剥離する際にカルマン渦が発生し、仮にプロペラ翼の固有振動数とカルマン渦の励振力(周波数)とが一致したとしても、プロペラ翼の後縁部がカルマン渦の励振力に共振しにくくなり、これによって共鳴音の発生を防止することができる」(同段落【0013)】)という作用効果が得られるものである。
(イ)
一方、引用発明の課題は、「キャビテーションエロージョン」を「抑制する」ことに関し、「翼の素材として・・・複合材料を再度見直したもので、特に、素材としてアラミド繊維を採択することで、複合材料が有する軽量、弾力性、安価といった長所を享受しつつ耐エロージョン性を向上させて十分実用に耐え得るもの」(摘記(1b)の【0002】及び【0007】)とすることであり、その解決手段ないし作用効果は、「翼の表面をアラミド繊維のクロス材からなる表層材で構成したものであり、これによると、耐エロージョン性が従来の複合材料に比べて大きく向上することがわかった。また、当然のことであるが、この翼は金属材に比べて軽くて柔軟であるから、軽量化につながって駆動系の容量を小さくできるし、船尾振動を軽減できて快適性を向上させるといった種々の優れた効果がある。」(摘記(1b)の【0010】)というものである。
(ウ)
また、引用文献2には、課題として、「プロペラ」に関して「鳴音発生防止」する旨が記載されているところ、「プロペラ翼(1)の0.4?0.8Rの範囲にある翼の後縁部に樹脂(2)を接着し」、「樹脂には溝(2a)が千鳥状に設けられている」構成等も採用することにより、「翼厚及び翼面粗度を変える」ことができるので、「カルマン渦列の発生状態を変化」させ、「共振振動」を避けて、「鳴音が防止される」という作用効果が得られるものである。

(ア)
上記ア(ア)及び(イ)のとおりであるから、引用発明と本願発明は、課題ないし作用効果が異なるものであり、引用発明において、本願発明の課題を解決するために改良を行うことは想定し得ないといえる。
そして、上記ア(イ)及び(ウ)のとおり、引用発明と引用文献2とは、課題ないし作用効果が異なるものであるから、当業者であれば、引用文献2に記載された技術事項を引用発明に適用することはしないといえる。
(イ)
上記(ア)のとおりであるが、仮に、引用発明が、記載はされていないものの、引用文献2の課題と同様の課題を内在しているものであり、引用発明に引用文献2に記載された技術事項を適用する動機付けが存在しているといえた場合についても、以下、念のために検討することにする。
a
この適用の態様としては、引用発明のアラミド繊維のクロス材に代えて、引用文献2に記載されているように特定の範囲などに樹脂を接着すること(以下、「適用1」という。)が想定されるが、そうすると、アラミド繊維のクロス材によりキャビテーションエロージョンを抑制すること等の作用効果が得られなくなってしまい、引用発明の上記課題は解決できなくなってしまうから、適用1には阻害要因があるといえる。
b
また、別の適用の態様として、引用発明のアラミド繊維のクロス材の表面の特定の範囲などに樹脂を接着し積層すること(以下、「適用2」という。)も想定し得るが、樹脂を接着した範囲においては、上記適用1を採用した場合と同様となるといえることから、引用発明の作用効果が充分に得られなくなってしまうことが予測される。
そうすると、適用2も、当業者であれば採用することはないといえる。

(ア)
そして、そもそも、上記相違点に係る本願発明1の構成(特に、「前記プロペラ翼の後縁部の外表面の両面のみに」「減衰被装材を被装した」構成)は、上記の文献1?5のいずれにも記載も示唆もされていない。
さらに、補足すると、引用文献2に記載された技術事項に関しては、上記ア(ウ)のとおり、翼面粗度を変えることで、カルマン渦列の発生状態を変化させることから、翼の後縁部の片面に樹脂を接着させることが有効であると考えられ(各図面もこのことを示唆しており)、わざわざ両面に樹脂を接着する必要性はないといえる。
(イ)
そうすると、引用文献2に記載された技術事項や上記の他の文献に記載された技術事項を引用発明に適用しても、上記相違点に係る本願発明1の構成に至ることはないといえる。

したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2?6について
本願発明2?6は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものであるから、本願発明1と同様に、引用発明及び引用文献2ないし5に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明7について
本願発明7は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明1の発明特定事項を実質的に全て含むものであるから、本願発明1と同様に、引用発明及び引用文献2に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 小括
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-11-27 
出願番号 特願2013-256038(P2013-256038)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B63H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 常盤 務  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 島田 信一
出口 昌哉
発明の名称 舶用プロペラおよび舶用プロペラの改修方法  
代理人 藤田 考晴  
代理人 三苫 貴織  
代理人 長田 大輔  
代理人 川上 美紀  
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