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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 E04F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04F
管理番号 1346500
審判番号 不服2017-18539  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-13 
確定日 2018-11-22 
事件の表示 特願2015-228769「目地状模様を有したセメント組成体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月31日出願公開、特開2016- 41904〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年2月16日に出願した特願2010-31546号(以下、「原原出願」という。)の一部を、平成25年12月25日に新たな特許出願とした特願2013-266892号の一部を、さらに平成27年11月24日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年11月 9日付け:拒絶理由通知書
平成28年12月 2日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 5月 8日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書
平成29年 6月26日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 9月20日付け:平成29年6月26日の手続補正について
の補正の却下の決定、拒絶査定
平成29年12月13日 :審判請求書、手続補正書の提出


第2 平成29年12月13日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年12月13日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正は、特許請求の範囲の補正を含むものであり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「表面の所定範囲に目地状模様の溝部を有し、当該表面が略平坦なセメント組成体を成形する成形工程と、
前記所定範囲の少なくとも前記溝部以外の領域を塗装する塗装工程と、を有する目地状模様を有したセメント組成体の製造方法であって、
前記目地状模様は、格子状模様であり、
前記セメント組成体は、プレキャスト部材であり、
前記溝部は、前記プレキャスト部材の表面を目地切りカッターで削ることにより形成され、
前記塗装工程では、前記溝部のマスキングを行なわずに、前記所定範囲のうちの、前記溝部及び前記溝部以外の残部を、単一の塗料で塗装し、
前記単一の塗料は、前記表面の最も外側に塗装され、
前記単一の塗料は、前記溝部の縁部にも塗装され、
前記溝部に充填される目地材は、セメントを主材とすることを特徴とする目地状模様を有したセメント組成体の製造方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年6月26日にされた手続補正は、原審において却下されており、当該却下された補正の前の、平成28年12月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「表面の所定範囲に目地状模様の溝部を有し、当該表面が略平坦なセメント組成体を成形する成形工程と、
前記所定範囲の少なくとも前記溝部以外の領域を塗装する塗装工程と、を有する目地状模様を有したセメント組成体の製造方法であって、
前記セメント組成体は、プレキャスト部材であり、
前記溝部は、前記プレキャスト部材の表面を目地切りカッターで削ることにより形成され、
前記塗装工程では、前記溝部のマスキングを行なわずに、前記所定範囲のうちの、前記溝部及び前記溝部以外の残部を、単一の塗料で塗装し、
前記単一の塗料は、前記表面の最も外側に塗装され、
前記単一の塗料は、前記溝部の縁部にも塗装されることを特徴とする目地状模様を有したセメント組成体の製造方法。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された「目地状模様」について、「格子状模様」あるとの限定を付加し、また本件補正前の請求項1に記載された「溝部」に、「セメントを主材」とする「目地材」が「充填される」という限定を付加するものであって、補正前後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではないから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
なお、「表面の所定範囲」については、明細書の段落【0009】に「・・・図示例では、上記所定範囲は表面1aの全面であり、つまり目地状模様が表面1aの全面に亘って形成されている。但し、上記所定範囲は全面でなくても良く、表面1aの一部でも良い。」との記載も参酌し、表面の全面あるいは一部のいずれも含む趣旨と解することとする。
また、「前記単一の塗料は、前記表面の最も外側に塗装され、」なる記載については、一見すると「塗料」が「前記溝部に充填される目地材」に対しても「外側」となるようにも読めるが、上記1(1)の記載の全体からは、「溝部」が「単一の塗料で塗装」されたうえで、該「溝部」に「目地材」が充填されるとも解釈し得る。そのうえで、本件明細書の段落【0018】-【0019】及び図1,図3でも、塗料7が最も外側に塗装された後に、溝部3の塗料の上に目地材9が充填されていることを考慮し、この点については、「単一の塗料」は目地材の充填前の時点で「表面の最も外側に」塗装される趣旨と解して、以降の検討を行うこととする。


(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原審の補正却下の決定で引用され、本願の原原出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平8-35312号公報(平成8年2月6日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審決で付した。以下、同様。)。

a 記載事項a
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、建物の壁仕上げ等に使用される化粧壁パネル及びその化粧壁パネルの製造方法に係り、特に表面に溝、凹凸模様等のデザインパターン加工を施した内外装用の化粧壁パネルに関するものである。」

b 記載事項b
「【0002】
【従来の技術】従来のこの種の化粧壁パネルは、図4(A),(B)に示す如き工程で製造されていた。即ち図4(A)に示す様な押出し成形によって製造される壁パネル基材には、予め押出し方向の溝加工が表面に施された基材1と、この種の溝加工が全く施されない基材2とがあった。前者の基材1は予め施された溝加工と直行する方向に新しく溝加工を2次加工で施すことによって、表面にデザインパターン加工が施こされたデザイン基材3を形成し、更にその基材3の表面全面にコーティング剤をコーティングして塗装することによって、化粧壁パネル4を製造していた。
【0003】また、後者の押出し成形時に溝加工が施されない基材2は、その表面に縦横の溝加工を同時に或いは2回に亘って施すことによって、表面にデザインパターン加工が施されたデザイン基材3を形成し、更にそのデザイン基材3の表面全面にコーティング剤をコーティングして塗装することによって、化粧壁パネル4を構成していた。
【0004】更に、図4(B)に示すような、基材の原料を型に流し込んで成型して製造される抄造方式による壁パネル基材5は、前述の押出し成形時に溝加工が施されない基材2と同様に、縦横の溝加工をその表面に施すことによってデザインパターン加工の施されたデザイン基材3を形成し、かつその基板3の表面全面にコーティング剤をコーティングして塗装することによって、化粧壁パネル4を製造していた。
【0005】前述の基材1,2,5の表面にデザインパターン加工を施すに当たっては、これ等の基材1,2,5の表面が硬化する前に、一般的にローラー加工或いはプレス加工を施すことによって、または、硬化後にルーター等で表面を切削加工することによってデザインパターンを形成してデザイン基材3を形成していた。前述の如く製造された従来の化粧壁パネル4は、特に図5に示す縦断面図で明らかな如く、デザインパターン加工でデザイン基材3の表面に溝が凹形状に形成されると共に、デザイン基板3の該溝の凹部の底面及び両内側面にも、このようなデザインパターン加工による溝が施されていない一般の表面部と同様に、所定の厚さを持った塗装6が被覆されていた。」

c 記載事項c
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】然るに、前述の構造を有する化粧壁パネル4は、デザインパターン加工の凹凸形状或いは塗料をコーティングする方法等によっては、コーティングされた塗装6の厚さ、色彩等が不均一になる問題があった。また、前述の如く、デザインパターン加工によって形成される溝の凹部の両側上縁等が全面的に塗装6で被覆されているので、この部分とデザインパターン加工を施していない部分とのコントラストがつきにくく、意匠的効果が上がらないと言う問題もあった。
【0007】更に、レンガ積み状や、タイル貼り状のデザインパターンを形成する場合に、目地をデザインパターン加工で形成し、その後塗装工程で目地部分とそれ以外の一般部分のカラーやテクスチャーを変えることがあるが、その際に、マスキング等の養生が必要になり、手間やコストが著しくかかる問題もあった。
【0008】本発明に係る化粧壁パネル及びその化粧壁パネルの製造方法は、前述の従来の問題点に鑑み開発された全く新規な技術であって、特に壁パネル基材の表面に予め防水性、耐候性或いは意匠性等の性能を持った塗装を施し、その後に塗装が施された壁パネル基材の表面に溝、凹凸模様等のデザインパターン加工を施して、優れた意匠性を有する化粧パネルを製造する方法及びその化粧パネルの技術を提供するものである。」

d 記載事項d
「【0016】上記実施例における壁パネル基材12としては、セメント系やセラミックス系等の押出し成形物、抄造成形物、プレス成形物等の他、ALC板等が使用できる。また、塗膜13を施すためのコーティング剤としては、アクリル系、ウレタン系、フッ素系、セラミック系等の種々のコーティング剤が適宜選択して有効的に使用される。例えば、セラミック系無機塗料をコーティング剤として使用すれば、耐汚染性、耐候性、耐水性、耐薬品性、耐熱性等に優れ、硬度の高い塗膜を形成することができる。セラミック系無機塗料として、SiO_(2) 、Al_(2 )O_(3) 、TiO_(2) 、ZrO_(2) 、LiO_(2) 、MgOなどを主成分にし、100℃?200℃程度の低温にて硬化するタイプのものを用いれば、耐熱温度の低いノンアスベストのセメント系壁パネル基材にも塗装を施すことができる。また、塗膜厚さは10μ?50μ程度となる。」

e 記載事項e
図4及び図5には、次の図示がある。



(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 技術的事項a
上記(ア)記載事項aより、引用文献1には、「建物の壁仕上げ等に使用される」化粧壁パネルに関する技術的事項が記載されている。

b 技術的事項b
上記(ア)記載事項bの段落【0002】で言及されるとおり、引用文献1には、従来の技術としての「化粧壁パネル4」の「製造方法」が記載されている。また当該製造の「工程」として、段落【0003】に、「押出し成形時に溝加工が施されない基材2」に、「その表面に縦横の溝加工を同時に或いは2回に亘って施すことによって、表面にデザインパターン加工が施されたデザイン基材3を形成」する、という技術的事項が記載されている。

c 技術的事項c
上記(ア)記載事項bの段落【0003】より、引用文献1には、化粧壁パネル4の製造方法の工程として、「更にデザイン基材3の表面全面にコーティング剤をコーティングして塗装する」という技術的事項が記載されている。

d 技術的事項d
上記(ア)記載事項bの段落【0005】より、引用文献1には、「デザインパターン加工でデザイン基材3の表面」に「凹形状に形成される」溝が、「ルーター等で表面を切削加工することによって形成」されるという技術的事項が記載されている。また、上記(ア)記載事項eの図4には、互いに直交する縦横の溝が、複数の略同形の四角形のパターンを構成する様子が示されている。なお、上記(ア)記載事項b【0002】に、縦横の溝の関係について「直行」と記載がある点は、「直交」の誤記と認める。

e 技術的事項e
上記(ア)記載事項bの段落【0005】より、引用文献1には、塗装は「デザイン基板3の該溝の凹部の底面及び両内側面にも、このようなデザインパターン加工による溝が施されていない一般の表面部と同様に、所定の厚さを持った塗装6が被覆される」という技術的事項が記載されている。また、上記(ア)記載事項eの図5には、塗装6が化粧壁パネル4の表面の最外層となる様子が図示されている。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「建物の壁仕上げ等に使用される化粧壁パネル4の製造方法であって、
押出し成形時に溝加工が施されない基材2に、その表面に縦横の溝加工を施すことによって、表面にデザインパターン加工が施された化粧壁パネル4のデザイン基材3を形成する工程と、
更にデザイン基材3の表面全面にコーティング剤をコーティングして塗装する工程とを有する、化粧壁パネル4の製造方法であり、
デザインパターン加工でデザイン基材3の表面に凹形状に形成される溝は、ルーター等で表面を切削加工することによって形成され、互いに直交する縦横の溝は複数の略同形の四角形のパターンを構成し、
塗装は、デザイン基板3の該溝の凹部の底面及び両内側面にも、このようなデザインパターン加工による溝が施されていない一般の表面部と同様に、所定の厚さを持った塗装6が被覆され、塗装6が化粧壁パネル4の表面の最外層となる、
化粧壁パネル4の製造方法。」

イ 引用文献2
(ア)同じく原審の補正却下の決定で引用され、本願の原原出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、実願平1-110185号(実開平3-50144号)のマイクロフィルム(平成3年5月16日公開。以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

a 記載事項a
「本考案は、建築物の壁面構造に関するものである。
近年、新感覚のデザインの壁として、表面加工された方形状の無機質系建築用板材を壁材として使用するタイル調またはレンガ調の壁面構造が注目されている。
従来、この種の壁面構造として、方形状の建築用板材を一枚づつ胴縁に取付けて板材間に目地材を充填する構造、および複数個の方形状の凸面部を有する建築用板材を胴縁に取付けて必要により板材の接続部のみに目地材を充填する構造などが知られている。
従来のこのような壁面構造のうち、前者においては、施工に手間がかかり過ぎて効率的でなく、後者においては、目地凹溝に目地材を充填したかのごとく見せかけるために目地凹溝を浅くしたり、目地凹溝の部分を凸面部と異なる色に塗装したりする工夫が見られるものの、外観上安直の感は免れず意匠性に劣る。また、目地凹溝に打込まれた固定具の頭は目地材で覆われることがないので見苦しい。
本考案は、従来の前記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、施工が効率的であり、外観的に優美で意匠性に優れた建築物の壁面構造を提供せんとするものである。」(明細書第1頁12行?第2頁18行)

b 記載事項b
「これらの目的を達成するために、本考案における壁面構造は、第1図から第4図に示すとおり、複数個の方形状の凸面部2を有する無機質系建築用板材1を、板材周縁の接続用目地凹溝3または凸面部間の目地凹溝4に固定具5を打込んで胴縁6に取付けたのち、接続用目地凹溝3および目地凹溝4に目地材7を同様に充填してなるものである。
本考案において、無機質系建築用板材としては、セメント、スラグ、石膏などの水硬性材料を主成分とするいわゆる窯業系無機質板材が使用される。方形状の凸面部としては、正方形または長方形であり、鏡面仕上、艶消、色柄つけなど従来公知の表面加工を施したものである。また、接続用目地凹溝の幅は、通常、凸面部間の目地凹溝の幅の半分にしておけば、隣接する板材との接続部の目地凹溝幅が凸面部間の目地凹溝幅と同一となり、全体に目地幅が統一され美麗に仕上がる。さらに、目地凹溝は目地材の充填に必要十分な深さとしておけば、目地材が同じ高さに充填されやすく、外観上好ましい。なお、溝の側面は、凸面に対して直角であっても傾斜をつけても良い。板材を胴縁に取付ける固定具としては、釘またはビスなどが使用され、固定具は目地凹溝に打込まれるので凸面部を傷つけることなく、固定具の頭は目地材で覆われる。目地材としては、通常のセメント系目地材または樹脂系コーキング材などが使用され、接続用目地凹溝および凸面部間の目地凹溝の全てに、目地材が同様の高さに同様の仕上げかたで充填されることにより、別々の方形状板材を取付けた場合と比較して遜色のない本格的な外観が得られる。なお、板材の周縁は、通常の突き付けタイプのほか合じゃくりタイプなどでも良いが、何れの場合にも、取付けの位置、接合の方法に応じて全体に目地幅が統一されるように接続用目地凹溝の幅を考慮する必要がある。
本考案は、前述のとおり構成されているため、複数個の方形状の建築用板材が同時に取付けられるのと同様の効率的施工性が得られるとともに、個別の方形状の建築用板材を取付けた場合と同様の本格的な目地が得られ、意匠性に優れた壁面構造を得ることができる。」(明細書第2頁19行?第5頁1行)

(イ)上記記載から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 技術的事項a
上記(ア)記載事項aより、引用文献2には、「新感覚のデザインの壁として、表面加工された方形状の無機質系建築用板材を壁材として使用するタイル調またはレンガ調の壁面構造」に関する技術的事項が記載されている。

b 技術的事項b
上記(ア)記載事項aより、引用文献2には、「複数個の方形状の凸面部を有する建築用板材」を「胴縁に取付け」るという技術的事項が記載されている。また、「複数個の方形状の凸面部」の間の「目地凹溝」に「目地材を充填したかのごとく見せかけるため」に、「目地凹溝の部分を凸面部と異なる色に塗装」しても、「外観上安直の感は免れず意匠性に劣る」という課題が記載されている。そして、「施工が効率的であり、外観的に優美で意匠性に優れた建築物の壁面構造を提供」するという目的も記載されている。

c 技術的事項c
上記(ア)記載事項bより、引用文献2には、「複数個の方形状の凸面部2を有する無機質系建築用板材1」の、「板材周縁の接続用目地凹溝3」、および「複数個の方形状の凸面部2」間の「目地凹溝4」に、「目地材7を同様に充填」してなる、という技術的事項が記載されている。また、「目地材としては、通常のセメント系目地材」を使用する、という技術的事項も記載されている。

d 技術的事項d
上記(ア)記載事項bより、引用文献2には、「複数個の方形状の建築用板材が同時に取付けられるのと同様の効率的施工性が得られるとともに、個別の方形状の建築用板材を取付けた場合と同様の本格的な目地が得られ、意匠性に優れた壁面構造を得ることができる」という技術的事項も記載されている。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献2には、次の発明(以下、引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「新感覚のデザインの壁として、表面加工された方形状の無機質系建築用板材を壁材として使用するタイル調またはレンガ調の壁面構造であり、
複数個の方形状の凸面部を有する建築用板材を胴縁に取付ける構造であって、
複数個の方形状の凸面部間の目地凹溝に、目地材を充填したかのごとく見せかけるために目地凹溝の部分を凸面部と異なる色に塗装しても外観上安直の感は免れず意匠性に劣ることを課題とし、
施工が効率的であり、外観的に優美で意匠性に優れた建築物の壁面構造を提供するため、
複数個の方形状の凸面部2を有する無機質系建築用板材1の、板材周縁の接続用目地凹溝3および複数個の方形状の凸面部2間の目地凹溝4に、目地材7を同様に充填してなるものであり、
目地材としては、通常のセメント系目地材を使用し、
複数個の方形状の建築用板材が同時に取付けられるのと同様の効率的施工性が得られるとともに、個別の方形状の建築用板材を取付けた場合と同様の本格的な目地が得られ、意匠性に優れた壁面構造を得ることができる、
タイル調またはレンガ調の壁面構造。」


(3)引用発明1との対比
ア 本件補正発明と引用発明1とを対比する。(下線は、当審決で付した。)
(ア)引用発明1の「溝」は、「互いに直交する縦横」の溝で「複数の略同形の四角形のパターンを構成」し、隣接する四角形の間に該溝の幅分の間隔が存在するデザインパターンとなるから、本件補正発明における「目地状模様の溝部」に相当する。また、引用発明1の「化粧壁パネル4」は、基材2が押出し形成可能な組成の材料でできているから、本件補正発明の「セメント組成体」と、少なくとも「組成体」である点で共通する。

(イ)引用発明1の「押出し成形時に溝加工が施されない基材2に、その表面に縦横の溝加工を施す」ことは、溝加工を表面の一部あるいは全部の範囲に施すことが明らかであるから、本件補正発明における「表面の所定範囲に目地状模様の溝部を有する」よう成形を行うことに相当する。そして、引用発明1の「押出し成形時に溝加工が施されない基材2に、その表面に縦横の溝加工を施すことによって、表面にデザインパターン加工が施された化粧壁パネル4のデザイン基材3を形成する工程」は、全体として化粧壁パネル4の表面に溝以外の凹凸を形成するものではないから、本件補正発明の「表面が略平坦なセメント組成体を成形する成形工程」と、「表面が略平坦な組成体を成形する成形工程」である点で一致する。

(ウ)引用発明1の「更にデザイン基材3の表面全面にコーティング剤をコーティングして塗装する工程」は、本件補正発明における「前記所定範囲の少なくとも前記溝部以外の領域を塗装する塗装工程」に相当する。

(エ)引用発明1において、「互いに直交する縦横の溝は複数の略同形の四角形のパターンを構成」する点は、本件補正発明の「前記目地状模様は、格子状模様」である構成に相当する。また、引用発明1の「化粧壁パネル4」が、「押出し成形」により事前に形成されるパネルであることは、本件補正発明における「プレキャスト部材」である点に相当する。

(オ)引用発明1において、「デザインパターン加工でデザイン基材3の表面に凹形状に形成される溝は、ルーター等で表面を切削加工することによって形成され」る点は、本件補正発明において「前記溝部は、前記プレキャスト部材の表面を目地切りカッターで削ることにより形成され」る点に相当する。

(カ)引用発明1において、「更にデザイン基材3の表面全面にコーティング剤をコーティングして塗装する工程」では、「塗装は、デザイン基板3の該溝の凹部の底面及び両内側面にも、このようなデザインパターン加工による溝が施されていない一般の表面部と同様に、所定の厚さを持った塗装6が被覆され」るように行っているから、溝をマスキングすることなく、溝の縁の部分も含めて、「塗装6」となる「コーティング材」を「全面」に行っていることが明らかである。また、引用発明1の「塗装する工程」では、「塗装6が化粧壁パネル4の表面の最外層となる」ように塗装を行っている。引用発明1の「塗装」に関するこれらの点は、本件補正発明における「前記塗装工程では、前記溝部のマスキングを行なわずに、前記所定範囲のうちの、前記溝部及び前記溝部以外の残部を、単一の塗料で塗装し、前記単一の塗料は、前記表面の最も外側に塗装され、前記単一の塗料は、前記溝部の縁部にも塗装され」る点に相当する。

(キ)上記(ア)?(カ)より、本件補正発明と引用発明1とは、
「表面の所定範囲に目地状模様の溝部を有し、当該表面が略平坦な組成体を成形する成形工程と、
前記所定範囲の少なくとも前記溝部以外の領域を塗装する塗装工程と、を有する目地状模様を有した組成体の製造方法であって、
前記目地状模様は、格子状模様であり、
前記組成体は、プレキャスト部材であり、
前記溝部は、前記プレキャスト部材の表面を目地切りカッターで削ることにより形成され、
前記塗装工程では、前記溝部のマスキングを行なわずに、前記所定範囲のうちの、前記溝部及び前記溝部以外の残部を、単一の塗料で塗装し、
前記単一の塗料は、前記表面の最も外側に塗装され、
前記単一の塗料は、前記溝部の縁部にも塗装される、
目地状模様を有した組成体の製造方法。」
である点で一致するといえる。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明1とは、上記ア(キ)に示した点で一致し、以下の点で相違する。

【相違点1】
本件補正発明では、組成体が「セメント組成体」であるのに対し、引用発明1の「化粧壁パネル4」は、「セメント組成体」であるか否か特定されていない点。

【相違点2】
本件補正発明は、「前記溝部に充填される目地材は、セメントを主材とする」のに対し、引用発明1は、溝に目地材の充填を行っていない点。


(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用文献1には、従来の技術として記載される「化粧壁パネル4」の素材について、直接明記はされていないが、上記(2)ア(ア)dに摘記したとおり「上記実施例における壁パネル基材12としては、セメント系やセラミックス系等の押出し成形物、抄造成形物、プレス成形物等の他、ALC板等が使用できる。」と記載されており、化粧壁パネルとしてセメント系のものを用いることが示されている。当該「セメント系」の記載は、直接には引用文献1の実施例に関するものであるが、引用文献1中に従来の技術と実施例とで化粧壁パネルの素材を変更したとする記載はなく、従来の技術として言及される「化粧壁パネル4」の素材として、実施例と同じものを用いている蓋然性が高い。仮にそうでないとしても、引用文献1に接した当業者が、素材について特段の記載がされていない従来の技術の「化粧壁パネル4」について、実施例の箇所で例示される「セメント」系のものを用いることは、適宜になし得た設計事項程度である。
したがって、相違点1は、ひとまず相違点としたうえで検討を行ったが、実質的な相違点ではないか、仮に実質的な相違点としても設計事項程度である。

イ 相違点2について
引用発明1の「化粧壁パネル4」と引用発明2の「新感覚のデザインの壁」とは、デザイン加工された壁に関する点で、技術分野が共通する。
引用発明1の「化粧壁パネル4」について、引用文献1には、上記(2)ア(ア)cに摘記したとおり、「レンガ積み状やタイル貼り状」のデザインパターンとすることも記載されている。またその際に、「塗装工程で目地部分とそれ以外の一般部分のカラーやテクスチャーを変える」という手法については、「マスキング等の養生が必要になり、手間やコストが著しくかかる」という課題があることが指摘されている。
引用発明2の「新感覚のデザインの壁」は、「タイル調またはレンガ状の壁面構造」とする際に、「複数個の方形状の凸面部間の目地凹溝に、目地材を充填したかのごとく見せかけるために目地凹溝の部分を凸面部と異なる色に塗装しても外観上安直の感は免れず意匠性に劣る」という課題を有する。
そのため、引用発明1と引用発明2とは、「レンガ」状または「タイル」状のデザインの壁とする場合に、「塗装」の際に「目地」状の「溝」の部分だけ色を変える手法とは異なる手法で、「目地」状の「溝」の部分の意匠性を上げるという点で、共通の課題を有している。また、引用発明2では、実際に「凸面部間の目地凹溝4」に「セメント系」の「目地材7」を充填することで、「個別の方形状の建築用板材を取付けた場合と同様の本格的な目地」を得ており、これは単に異なる色の塗装を用いた場合よりも「意匠性に優れた」ものであることが明らかである。
ここで、引用発明1にも、意匠的効果を上げるという目的はもともと存在するから、「塗装工程で目地部分とそれ以外」の部分の「カラー」を変えるのとは異なる手法で意匠的効果を上げるために、引用発明2を適用し、溝の凹部にセメント系の目地材を実際に充填して、個別の方形状の建築用板材を取付けた場合と同様の本格的な目地とすることは、当業者にとって想到容易である。
すなわち、引用発明1において、引用発明2を適用し、相違点2に係る本件補正発明の構成を得ることは、当業者であれば容易になし得た事項である。

ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明1及び引用発明2の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ 請求人の主張について
請求人は審判請求書において、引用発明1は引用文献1の従来技術として記載されたものであるから、当該従来技術自体を改変することの動機付けは存在しないと主張している。
しかしながら、上記(2)アに指摘したとおり、引用文献1には、従来技術とされる「化粧壁パネル4」自体について、その具体的な構成及び製造方法、並びに当該「化粧壁パネル4」自体の利用分野が、いずれも具体的に理解できるだけの必要十分な記載がされているから、まず当該「化粧壁パネル4」の製造方法は、適切に引用発明1として認定することができる。そして、引用文献1には「化粧壁パネル4」の具体的構成及び製造方法のみならず、当該「化粧壁パネル4」の有する技術的課題についても、適切に理解できるだけの記載がされているから、従来技術である当該引用発明1に改良を加える動機付けも、存在すると言うことができる。そのため、この点についての請求人の主張は、採用することができない。
また、請求人は審判請求書において、セメントと塗装とは付着性が悪いから、引用発明1の溝の塗装の上に引用発明2のセメント系目地材を充填することはない旨も主張している。
しかしながら、引用発明1において引用発明2を採用する動機があることは、上記イに説示したとおりである。そして、引用発明1の溝は凹部であるから、その形状自体としてセメント等の充填剤の充填に適している。加えて、塗装とセメント系目地材との付着性の良否は、両者の具体的組成にも依存するものであるから、引用発明1と引用発明2とを知る当業者にとって、当該付着性の問題は、請求人が主張するような阻害要因となるものでもない。
さらに、請求人は審判請求書において、引用文献1の段落【0007】に「マスキング等の養生が必要になり、手間やコストが著しくかかる問題もあった。」との記載があり、溝への目地材の充填時にもマスキング等の養生が必要となる場合があるから、引用発明1に引用発明2を適用することはない旨も主張している。
しかしながら、上記(2)ア(ア)cに摘記したとおり、引用文献1において「マスキング等の養生が必要」と言っているのは、「塗装工程」で「目地部分とそれ以外の一般部分のカラーやテクスチャーを変える」手法をとった場合に関してである。その一方、引用文献1及び引用文献2のいずれにも、塗装でなく目地材を充填する場合に、マスキングが必要であることを示す記載はない。
なおこの点に関しては、たとえば本願原原出願前に頒布された特開2001-123630号公報(平成13年6月8日出願公開)にも、「【従来の技術】タイルを壁面や床面に張り付け施工する場合、タイル同士の間に所定の目地間隔をあけてタイルをモルタルや接着剤で張り付けた後、塗り目地法によって目地詰めすることが多い。」(段落【0002】参照)、「なお、塗り目地法とはスラリー状の目地材料をタイル張り付け面の全面に塗布して塗り伸ばし、目地に充填した後、タイル表面の目地材料を拭き取るようにした目地充填方法である。」(段落【0004】参照)と記載されているように、凹部に目地材を充填する場合には、必ずしもマスキングが必要ではないことが技術常識である。そのため、「塗装工程」での「マスキング」に関する引用文献1中の記載は、引用発明1の溝に引用発明2の目地材を充填することに関して、請求人が主張するような阻害要因となるものではない。
以上より、請求人の審判請求書における主張は、いずれも上記イ、ウの判断を覆すものではない。

オ したがって、本件補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年12月13日にされた手続補正は、上記のとおり却下され、また平成29年6月26日にされた手続補正は原審において却下されているので、本願の請求項に係る発明は、平成28年12月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の原原出願の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献3:特開平8-270170号公報
(平成8年10月15日出願公開)

3 引用文献の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3には、図面とともに、次の記載がある。

ア 記載事項ア
「【0014】
【実施例】図により本発明に係る壁パネルの一実施例を具体的に説明すると、図1は本発明に係る壁パネルの構成を示す説明図、図2は図1の壁パネルを製造する工程を示す説明図、図3は他例の壁パネルの構成を示す説明図、図4は壁パネル及び該壁パネルの縁部に形成される目地形成溝の断面説明図、図5は接続目地部と化粧目地部用の深溝と浅溝との関係を示す断面説明図、図6は本発明の壁パネルで建物の壁面を構成した状態の正面説明図、図7(A),(B)は夫々本発明の壁パネルのストライプ模様を示す断面拡大説明図、図8(A),(B)は夫々本発明の壁パネルで形成された建物の壁面の要部の立体的拡大説明図である。
【0015】図1に於いて、11は本発明に係る長方形の壁パネルであって、その表面には、深さが深い深溝12と、深さが浅い巾広の浅溝13とよりなる凹凸模様が長手方向に平行にかつランダムに形成されている。また、深溝12は巾広の浅溝13の中に形成されており、その断面形状は、図3及び図4に示すように階段状に溝12,13が形成されている。更に、壁パネル11の両側縁部には、夫々前記深溝12及び浅溝13と平行な直線状の目地形成溝14が形成されている。」

イ 記載事項イ
「【0018】本発明の壁パネル11を製造するに当たっては、例えば、図2に示す如く、コンベアローラ15の上方に所定間隔を保ってドラム型の刃を有する切削ローラ16を配設し、このコンベアローラ15によって切削ローラ16の下方に例えばALCパネル17を通過させることによって、ALCパネル17の表面に切削ローラ16で凹凸模様を切削してストライプ模様を有する前記の壁パネル1を効率良く容易に成形することが出来る。従って、前記切削ローラ16の形状を変えることによって、種々の変化に富んだ深溝12と浅溝13とよりなる平行な凹凸模様よりなるストライプ模様を壁パネル1の表面に形成することが出来る。」

ウ 記載事項ウ
「【0021】本発明に係る壁パネルには、図7(A),(B)に示す如く、壁パネル11の表面に設けられる深溝12は浅溝12の隣りに接して階段的に構成することが出来る。このような構造にした場合には、壁パネル1の表面に塗装等の被膜を形成する場合に、深溝12と浅溝13とよりなる凹凸模様がランダムで複雑なストライプ模様であっても、例えば矢印の方向に塗料等を吹き付けることによって塗装等の被膜をムラなく、かつ均一に塗布することが出来る。更に、この塗装等の被膜の乾燥ムラを生ずることがない。
【0022】上記実施例では、深溝12を浅溝13に隣接することによって、塗料等の吹き付けを容易に出来るようにしたが、この深溝12を巾広とすることによっても、塗料等の吹き付けや、プライマー塗布を容易にすることが出来る。更に深溝12を浅溝13に隣接させたり、或いは巾広にすることによって、前述の吹き付けやプライマー塗布の問題を解決出来るので、その深溝12及び浅溝13の形状を急勾配にさせて、シャープで変化に富ませ、意匠性を著しく向上させることが出来る。これによって、溝を不必要以上に深くする必要を無くし、壁パネルの強度や防耐火性能が損なわれることを防止することが出来る。
【0023】前述の本発明に係る壁パネル11,21は、図8(A)に例示するように、その表面に深さの差が大きい深溝12との浅溝13とよりなる直線状でランダムなストライプ模様が形成した場合には、気候や天候の差による光の当たり方、或いは時刻や季節の差による光の当たる方向、見る方向等によって陰影を大きく変化させることが出来る。また、図8(B)に示すような深さの差が小さくかつ鋸歯状の凹凸のある壁パネル22では、光線の当たる方向や角度により形成される陰影及びコントラストの変化が小さい。従って、前述の壁パネル11,21,22であっても、時と場合とにより意匠性の異なる壁パネルに変化させることが出来る。」

(2)上記記載から、引用文献3には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

ア 上記(1)記載事項アの段落【0014】より、引用文献3には、「化粧目地部用の深溝と浅溝」とを備えた「壁パネル」に関する技術的事項が記載されている。また、上記(1)記載事項イ段落【0018】の「壁パネル11を製造するに当たっては、・・・形成することが出来る。」という記載、及び上記(1)記載事項ウ段落【0021】の「・・・かつ均一に塗布することが出来る。」との記載より、引用文献3には、「壁パネル11」の製造方法が記載されている。なお、上記(1)記載事項イの段落【0018】及び上記(1)記載事項ウの段落【0021】における「壁パネル1」の記載は、その前後で「壁パネル11」に言及していることから、「壁パネル11」の誤記と認める。

イ 上記(1)記載事項アの段落【0015】より、引用文献3には、「壁パネル11」の「表面には、深さが深い深溝12と、深さが浅い巾広の浅溝13とよりなる凹凸模様」が形成されている、という技術的事項が記載されている。

ウ 上記(1)記載事項イの段落【0018】より、引用文献3には、壁パネル11の製造に当たって、「コンベアローラ15によって、切削ローラ16の下方」に「ALCパネル17を通過させることによって、ALCパネル17の表面に切削ローラ16で凹凸模様を切削してストライプ模様を有する前記の壁パネル11を効率良く容易に成形」する、という技術的事項が記載されている。なお、同段落【0018】中の「壁パネル1」の記載は、上記アで述べたとおり、「壁パネル11」の誤記と認める。

エ 上記(1)記載事項ウの段落【0021】より、引用文献3には、「壁パネル11の表面に設けられる深溝12は浅溝12の隣りに接して階段的に構成」し、「表面に塗装等の被膜を形成する場合に、深溝12と浅溝13とよりなる凹凸模様がランダムで複雑なストライプ模様」であっても、「塗料等を吹き付けることによって塗装等の被膜をムラなく、かつ均一に塗布」する、という技術的事項が記載されている。

(3)上記(1)、(2)から、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「化粧目地部用の深溝と浅溝とを有する壁パネル11の製造方法であって、
表面には、深さが深い深溝12と、深さが浅い巾広の浅溝13とよりなる凹凸模様が形成されており、
コンベアローラ15によって、切削ローラ16の下方にALCパネル17を通過させることによって、ALCパネル17の表面に切削ローラ16で凹凸模様を切削してストライプ模様を有する前記の壁パネル11を効率良く容易に成形し、
壁パネル11の表面に設けられる深溝12は浅溝12の隣りに接して階段的に構成し、表面に塗装等の被膜を形成する場合に、深溝12と浅溝13とよりなる凹凸模様がランダムで複雑なストライプ模様であっても、塗料等を吹き付けることによって塗装等の被膜をムラなく、かつ均一に塗布する、
壁パネル11の製造方法。」

4 対比・判断
(1)引用発明3との対比
ア 本願発明と引用発明3とを対比する。(下線は、当審決で付した。)
(ア)引用発明3の「壁パネル11」は「ALCパネル17」から構成されている。ここでALCパネルとは、たとえば特開平9-221850号公報(平成9年8月26日出願公開)にも「ALCパネルとは、セメント、石灰、珪砂などを主原料とし、高温高圧蒸気養生された後述する多孔質のコンクリートパネルをいう。」(段落【0011】参照)と記載されるとおり、セメントを主原料として含むことが技術常識である。そのため、「ALCパネル17」から構成される引用発明3の「壁パネル11」は、本願発明における「セメント組成体」に相当する。

(イ)引用発明3の「深溝12」及び「浅溝13」は、「化粧目地部用」の溝であり、「凸凹模様」を形成するものであるから、本願発明における「目地状模様の溝部」に相当する。

(ウ)引用発明3において「コンベアローラ15によって、切削ローラ16の下方にALCパネル17を通過させることによって、ALCパネル17の表面に切削ローラ16で凹凸模様を切削してストライプ模様を有する前記の壁パネル11を効率良く容易に成形」することは、ALCパネルの表面の全体または一部に、上記(イ)の化粧目地部用の溝による凸凹模様を形成することが明らかであり、この点は本願発明における「表面の所定範囲に目地状模様の溝部」を有するよう「成形」を行う工程に相当する。また、引用発明3の前述の「成形」は、溝を形成する以外にはALCパネルの形状を変更する加工を行っていないから、この点で本願発明における「当該表面が略平坦なセメント組成体を成形する成形工程」にも相当する。

(エ)引用発明3において、「深溝12と浅溝13とよりなる凹凸模様がランダムで複雑なストライプ模様であっても、塗料等を吹き付けることによって塗装等の被膜をムラなく、かつ均一に塗布する」ことは、本願発明における「前記所定範囲の少なくとも前記溝部以外の領域を塗装する塗装工程」に相当する。また引用文献3において、前述の「塗布」及び上記(ウ)の「成形」を含む「壁パネルの製造方法」は、本願発明における「目地状模様を有したセメント組成体の製造方法」に相当する。

(オ)引用発明3において、「壁パネル11」は、「コンベアローラ15」によって運ばれる「ALCパネル17」として事前に形成されているから、この点は本願発明にいう「プレキャスト部材」に相当する。

(カ)引用発明3において、「凸凹模様」をなす深溝12と浅溝13とが、「ALCパネル17の表面」に「切削ローラ16」で「切削」して形成される点は、本願発明における「前記溝部は、前記プレキャスト部材の表面を目地切りカッターで削ることにより形成」される点に相当する。

(キ)引用発明3において、「表面に塗装等の被膜を形成する場合に、深溝12と浅溝13とよりなる凹凸模様がランダムで複雑なストライプ模様であっても、塗料等を吹き付けることによって塗装等の被膜をムラなく、かつ均一に塗布する」点は、塗料の吹き付けにより深溝12と浅溝13の凸凹模様全体に均一な塗布を行っているから、深溝12や浅溝13のマスキングを行なわずに塗布を行うことが明らかである。引用発明3における当該塗布は、本願発明における「前記塗装工程では、前記溝部のマスキングを行なわずに、前記所定範囲のうちの、前記溝部及び前記溝部以外の残部を」で塗装することに相当する。また、引用発明3の当該塗布は、塗料の吹き付けにより行われるから、表面の最も外側に行われることは明らかであり、この点は本願発明において「塗料」が塗装される点及び「前記表面の最も外側に塗装」される点に相当する。加えて、引用発明3では「凸凹模様全体に均一な塗布」を行っているから、この点は本願発明における「塗料」が「前記溝部の縁部にも塗装される」点に相当する。

(ク)上記(ア)?(キ)より、本願発明と引用発明3とは、
「表面の所定範囲に目地状模様の溝部を有し、当該表面が略平坦なセメント組成体を成形する成形工程と、
前記所定範囲の少なくとも前記溝部以外の領域を塗装する塗装工程と、を有する目地状模様を有したセメント組成体の製造方法であって、
前記セメント組成体は、プレキャスト部材であり、
前記溝部は、前記プレキャスト部材の表面を目地切りカッターで削ることにより形成され、
前記塗装工程では、前記溝部のマスキングを行なわずに、前記所定範囲のうちの、前記溝部及び前記溝部以外の残部を、塗料で塗装し、
前記塗料は、前記表面の最も外側に塗装され、
前記塗料は、前記溝部の縁部にも塗装されることを特徴とする目地状模様を有したセメント組成体の製造方法。」
である点で一致するといえる。

イ 以上のことから、本願発明と引用発明3とは、上記ア(ク)に示した点で一致し、以下の点で相違する。

【相違点3】
本願発明では、塗装工程で塗装を行う際「単一の塗料」を用いるのに対し、引用発明3では塗装に用いる塗料が「単一の塗料」であるか否か特定されていない点。


(2)判断
以下、相違点3について検討する。
引用発明3は、「塗装等の被膜をムラなく、かつ均一に塗布する」ものである。また引用文献3には、上記3(1)ウの摘記にも「その深溝12及び浅溝13の形状を急勾配にさせて、シャープで変化に富ませ、意匠性を著しく向上させることが出来る」、「気候や天候の差による光の当たり方、或いは時刻や季節の差による光の当たる方向、見る方向等によって陰影を大きく変化させることが出来る」と記載があるように、専ら深溝と浅溝の形状及び光の当たり方によって、変化に富んだ意匠を得ることが示唆されている。その一方で、吹き付けで塗布する塗料を場所ごとに異ならせて、固定化された多色の色模様を形成することは、引用文献3中に特段示唆されていない。
このことからすると、引用発明3において、吹き付けで塗布する塗料を1枚の壁パネルの所定範囲内で「単一の塗料」とし、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜選択できた設計事項程度である。
そして、本願発明の奏する作用効果は、引用発明3の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、引用発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-09-20 
結審通知日 2018-09-25 
審決日 2018-10-09 
出願番号 特願2015-228769(P2015-228769)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (E04F)
P 1 8・ 121- Z (E04F)
P 1 8・ 575- Z (E04F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金高 敏康津熊 哲朗  
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 有家 秀郎
小野 忠悦
発明の名称 目地状模様を有したセメント組成体の製造方法  
代理人 一色国際特許業務法人  

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