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審決分類 |
審判 査定不服 特29条の2 取り消して特許、登録 G03G 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G03G 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G |
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管理番号 | 1346545 |
審判番号 | 不服2017-14259 |
総通号数 | 229 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-01-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-09-27 |
確定日 | 2018-12-18 |
事件の表示 | 特願2013-138939「電子写真用トナー」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月19日出願公開、特開2015- 11316、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年7月2日の出願であって、その手続等の経緯は、概略、以下のとおりである。 平成28年12月 2日付け:拒絶理由通知書 平成29年 1月19日付け:意見書、手続補正書 平成29年 6月29日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 平成29年 9月27日付け:審判請求書、手続補正書 平成30年 7月18日付け:拒絶理由通知書 平成30年 9月10日付け:意見書、手続補正書 第2 原査定の概要 原査定の拒絶の理由は、概略、次のとおりである。 1.本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。 2.本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献A:特開2011-150320号公報 第3 平成30年7月18日付けの拒絶理由通知書における拒絶の理由の概要 平成30年7月18日付けの拒絶理由通知書における拒絶の理由は、概略、次のとおりである。 1.本願の請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。 2.本願の請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:特開2012-98719号公報 3.本願の請求項1、2に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法29条の2の規定により、特許を受けることができない。 先願2:特願2013-68047号(特開2013-228724号) 第4 本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成30年9月10日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの、以下の発明である。 「 ポリエステル樹脂である結着樹脂と、ワックスと、着色剤と、トナー用相溶化剤との混合物を含有する電子写真用粉砕トナーであって、 前記トナー用相溶化剤は、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を50質量%以上含み、かつ1/2法による溶融温度が55℃以上である重合体であり、 CH_(2)=CR_(1)-COOR_(2) ・・・(1) (式(1)中、R_(1)は水素原子またはメチル基であり、R_(2)は炭素数18以上のアルキル基である。) 前記結着樹脂100質量部に対して、前記トナー用相溶化剤を0.3質量部以上10質量部以下含有する、電子写真用トナー。」 第5 引用文献、引用発明、先願発明等 1 引用文献1の記載事項 平成30年7月18日付けの拒絶理由書で通知した拒絶の理由において引用文献1として引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2012-98719号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当合議体が付したものであり、引用発明の認定に活用した箇所を示す。 (1)「【技術分野】 【0001】 本発明は電子写真法、静電記録法や静電印刷法等において、静電荷像または磁気潜像の現像に用いられる乾式トナー用として有用な、ポリエステル樹脂を含有するトナーバインダー、およびトナー組成物に関する。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 本発明は、低温定着性と耐ホットオフセット性の両立(定着温度幅)に優れ、且つ保存安定性にも優れたトナーバインダーを提供することを目的とする。」 (2)「【発明を実施するための形態】 【0007】 以下、本発明を詳述する。 本発明のトナーバインダーは、ポリエステル樹脂(A)と結晶性樹脂(B)とを含有する。 ・・・(中略)・・・ 【0052】 結晶性樹脂(B)は、結晶性部(b)のみで構成されても、結晶性部(b)と非結晶性部(c)とをもつブロック樹脂で構成されても、結晶性を有していれば構わないが、定着性(特に耐ホットオフセット性)の観点から、(b)と(c)とで構成されるブロック樹脂であることが好ましい。 ・・・(中略)・・・ 【0087】 結晶性樹脂(B)としては、上記のブロックポリマーが好ましいが、非結晶性部(c)を有さず、結晶性部(b)のみからなる樹脂を用いることもできる。 結晶性部のみからなる(B)の組成としては、前記の結晶性部(b)と同様のもの、および結晶性ビニル樹脂が挙げられる。 結晶性ビニル樹脂としては、結晶性基を有するビニルモノマー(m)と、必要により結晶性基を有しないビニルモノマー(n)を構成単位として有するものが好ましい。 【0088】 ビニルモノマー(m)としては、アルキル基の炭素数が12?50の直鎖アルキル(メタ)アクリレート(m1)(炭素数12?50の直鎖アルキル基が結晶性基である)、および前記結晶性部(b)の単位を有するビニルモノマー(m2)等が挙げられる。 結晶性ビニル樹脂としては、ビニルモノマー(m)として、アルキル基の炭素数が12?50(好ましくは16?30)の直鎖アルキル(メタ)アクリレート(m1)を含有するものがさらに好ましい。 (m1)としては、各アルキル基がいずれも直鎖状の、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、およびベヘニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。 なお、本発明において、アルキル(メタ)アクリレートとは、アルキルアクリレートおよび/またはアルキルメタアクリレートを意味し、以下同様の記載法を用いる。 ・・・(中略)・・・ 【0126】 本発明のトナー組成物は、本発明のトナーバインダーと、着色剤、および必要により、離型剤、荷電制御剤、流動化剤等から選ばれる1種以上の添加剤を含有する。 ・・・(中略)・・・ 【0133】 本発明のトナー組成物は、混練粉砕法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたものであってもよい。」 (3)「【実施例】 【0136】 以下実施例、比較例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、%は重量%を示す。 【0137】 製造例1 〔ポリエステル樹脂(A-1)の合成〕 ・・・(中略)・・・ 【0152】 製造例16〔結晶性樹脂Bの製造〕 撹拌装置、加熱冷却装置、温度計、滴下ロート、および窒素吹き込み管を備えた反応容器に、トルエン500部を仕込み、別のガラス製ビーカーに、トルエン350部、ベヘニルアクリレート(炭素数22個の直鎖アルキル基を有するアルコールのアクリレート:ブレンマーVA(日本油脂製))120部、2-エチルヘキシルアクリレート20部、メタクリル酸10部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)7.5部を仕込み、20℃で撹拌、混合して単量体溶液を調製し、滴下ロートに仕込んだ。反応容器の気相部の窒素置換を行った後に密閉下80℃で2時間かけて単量体溶液を滴下し、滴下終了から2時間、85℃で熟成した後、トルエンを130℃で3時間減圧除去して、結晶性ビニル樹脂である[結晶性樹脂B-4]を得た。[結晶性樹脂B-4]のTbは56℃、Mnは68000、Mwは89000、SP値は9.6、鉛筆硬度は3Bであった。 ・・・(中略)・・・ 【0164】 <実施例1?15>、<比較例1?4> 上記製造例で得られたポリエステル樹脂(A-1)?(A-7)、結晶性樹脂(B-1)?(B-6)、非結晶性線形ポリエステル樹脂(C-1)?(C-2)、及び比較製造例で得られたポリエステル樹脂(RA-1)?(RA-3)、(RB-1)を、表3の配合比(部)に従い配合し、本発明のトナーバインダー、および比較のトナーバインダーを得て、下記の方法でトナー化した。 まず、カーボンブラックMA-100[三菱化学(株)製]8部、カルナバワックス5部、荷電制御剤T-77[保土谷化学(製)]1部を加え、ヘンシェルミキサー[三井三池化工機(株)製 FM10B]を用いて予備混合した後、二軸混練機[(株)池貝製 PCM-30]で混練した。ついで超音速ジェット粉砕機ラボジェット[日本ニューマチック工業(株)製]を用いて微粉砕した後、気流分級機[日本ニューマチック工業(株)製 MDS-I]で分級し、粒径D50が8μmのトナー粒子を得た。ついで、トナー粒子100部にコロイダルシリカ(アエロジルR972:日本アエロジル製)0.5部をサンプルミルにて混合して、本発明のトナー組成物(T-1)?(T-15)、および比較用のトナー組成物(RT-1)?(RT-4)を得た。 下記評価方法で評価した評価結果を表3に示す。表3中、空欄はその原料の配合がないことを示す。 【0165】 【表3】 」 2 引用発明 引用文献1の【0001】の記載からすると、引用文献1にいう本発明は、電子写真法、静電記録法や静電印刷法等における、静電荷像または磁気潜像の現像に用いられるトナー組成物に関するものであり、引用文献1に記載された実施例は、静電荷現像用トナー組成物に関するものであるといえる。 そうしてみると、引用文献1の【0137】、【0152】、【0164】及び【0165】には、実施例8として、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。なお、ポリエステル樹脂(A-1)及び結晶性樹脂(B-4)の配合部は【0165】の【表3】に記載された数値である。 「 ポリエステル樹脂(A-1)30部、結晶性樹脂(B-4)70部を配合し、トナーバインダーを得、 カーボンブラックMA-100[三菱化学(株)製]8部、カルナバワックス5部、荷電制御剤T-77[保土谷化学(製)]1部を加え、ヘンシェルミキサーを用いて予備混合した後、二軸混練機で混練し、 超音速ジェット粉砕機ラボジェットを用いて微粉砕した後、気流分級機で分級してトナー粒子を得、 トナー粒子100部にコロイダルシリカ(アエロジルR972:日本アエロジル製)0.5部をサンプルミルにて混合して得た、 静電荷現像用のトナー組成物(T-8)であって、 上記結晶性樹脂(B-4)は、撹拌装置、加熱冷却装置、温度計、滴下ロート、および窒素吹き込み管を備えた反応容器に、トルエン500部を仕込み、別のガラス製ビーカーに、トルエン350部、ベヘニルアクリレート(炭素数22個の直鎖アルキル基を有するアルコールのアクリレート:ブレンマーVA(日本油脂製))120部、2-エチルヘキシルアクリレート20部、メタクリル酸10部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)7.5部を仕込み、20℃で撹拌、混合して単量体溶液を調製し、滴下ロートに仕込み、反応容器の気相部の窒素置換を行った後に密閉下80℃で2時間かけて単量体溶液を滴下し、滴下終了から2時間、85℃で熟成した後、トルエンを130℃で3時間減圧除去して得たものである、 静電荷現像用のトナー組成物(T-8)。」 3 先願明細書の記載事項 平成30年7月18日付けの拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由において先願2として引用され、本願の特許出願後に出願公開(特開2013-228724号)がされた、特願2013-68047号の願書の最初に添付された明細書(以下「先願明細書」という。)には以下の事項が記載されている。 (1)「【技術分野】 【0001】 本発明は電子写真法、静電記録法や静電印刷法等において、静電荷像または磁気潜像の現像に用いられる乾式トナー用として有用な、ポリエステル樹脂を含有するトナーバインダー、およびトナー組成物に関する。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 本発明は、低温定着性と耐ホットオフセット性の両立(定着温度幅)に優れ、且つ保存安定性にも優れたトナーバインダーを提供することを目的とする。」 (2)「【発明を実施するための形態】 【0007】 以下、本発明を詳述する。 本発明のトナーバインダーは、ポリエステル樹脂(A)と結晶性樹脂(B)とを含有する。 ・・・(中略)・・・ 【0028】 本発明のトナーバインダー中には、ポリエステル樹脂(A)と共に結晶性樹脂(B)を含有する。 ・・・(中略)・・・ 【0038】 結晶性樹脂(B)は、結晶性部(b)のみで構成されても、結晶性部(b)と非結晶性部(c)とをもつブロック樹脂で構成されても、結晶性を有していれば構わないが、定着性(特に耐ホットオフセット性)の観点から、(b)と(c)とで構成されるブロック樹脂であることが好ましい。 ・・・(中略)・・・ 【0073】 結晶性樹脂(B)としては、上記のブロックポリマーが好ましいが、非結晶性部(c)を有さず、結晶性部(b)のみからなる樹脂を用いることもできる。 結晶性部のみからなる(B)の組成としては、前記の結晶性部(b)と同様のもの、および結晶性ビニル樹脂が挙げられる。 結晶性ビニル樹脂としては、結晶性基を有するビニルモノマー(m)と、必要により結晶性基を有しないビニルモノマー(n)を構成単位として有するものが好ましい。 【0074】 ビニルモノマー(m)としては、アルキル基の炭素数が12?50の直鎖アルキル(メタ)アクリレート(m1)(炭素数12?50の直鎖アルキル基が結晶性基である)、および前記結晶性部(b)の単位を有するビニルモノマー(m2)等が挙げられる。 結晶性ビニル樹脂としては、ビニルモノマー(m)として、アルキル基の炭素数が12?50(好ましくは16?30)の直鎖アルキル(メタ)アクリレート(m1)を含有するものがさらに好ましい。 (m1)としては、各アルキル基がいずれも直鎖状の、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、およびベヘニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。 なお、本発明において、アルキル(メタ)アクリレートとは、アルキルアクリレートおよび/またはアルキルメタアクリレートを意味し、以下同様の記載法を用いる。 ・・・(中略)・・・ 【0109】 本発明のトナー組成物は、本発明のトナーバインダーと、着色剤、および必要により、離型剤、荷電制御剤、流動化剤等から選ばれる1種以上の添加剤を含有する。 ・・・(中略)・・・ 【0116】 本発明のトナー組成物は、混練粉砕法、乳化転相法、重合法等の従来より公知のいずれの方法により得られたものであってもよい。」 (3)「【実施例】 【0119】 以下実施例、比較例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、%は重量%を示す。 【0120】 製造例1 〔ポリエステル樹脂(A-1)の合成〕 ・・・(中略)・・・ 【0122】 製造例3 〔ポリエステル樹脂(A-3)の合成〕 ・・・(中略)・・・ 【0135】 製造例16〔結晶性樹脂Bの製造〕 撹拌装置、加熱冷却装置、温度計、滴下ロート、および窒素吹き込み管を備えた反応容器に、トルエン500部を仕込み、別のガラス製ビーカーに、トルエン350部、ベヘニルアクリレート(炭素数22個の直鎖アルキル基を有するアルコールのアクリレート:ブレンマーVA(日本油脂製))120部、2-エチルヘキシルアクリレート20部、メタクリル酸10部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)7.5部を仕込み、20℃で撹拌、混合して単量体溶液を調製し、滴下ロートに仕込んだ。反応容器の気相部の窒素置換を行った後に密閉下80℃で2時間かけて単量体溶液を滴下し、滴下終了から2時間、85℃で熟成した後、トルエンを130℃で3時間減圧除去して、結晶性ビニル樹脂である[結晶性樹脂B-4]を得た。[結晶性樹脂B-4]のTbは53℃、Mnは68000、Mwは89000、SP値は9.6、鉛筆硬度は3Bであった。 ・・・(中略)・・・ 【0148】 <実施例1?19>、<比較例1?4> 上記製造例で得られたポリエステル樹脂(A-1)?(A-7)、結晶性樹脂(B-1)?(B-6)、非結晶性線形ポリエステル樹脂(C-1)?(C-2)、及び比較製造例で得られたポリエステル樹脂(RA-1)?(RA-3)、(RB-1)を、表4の配合比(部)に従い配合し、本発明のトナーバインダー、および比較のトナーバインダーを得て、下記の方法でトナー化した。 まず、カーボンブラックMA-100[三菱化学(株)製]8部、カルナバワックス5部、荷電制御剤T-77[保土谷化学(製)]1部を加え、ヘンシェルミキサー[日本コークス工業(株)製 FM10B]を用いて予備混合した後、二軸混練機[(株)池貝製 PCM-30]で混練した。ついで超音速ジェット粉砕機ラボジェット[日本ニューマチック工業(株)製]を用いて微粉砕した後、気流分級機[日本ニューマチック工業(株)製 MDS-I]で分級し、粒径D50が8μmのトナー粒子を得た。ついで、トナー粒子100部にコロイダルシリカ(アエロジルR972:日本アエロジル製)0.5部をサンプルミルにて混合して、本発明のトナー組成物(T-1)?(T-19)、および比較用のトナー組成物(RT-1)?(RT-4)を得た。 下記評価方法で評価した評価結果を表4に示す。表4中、空欄はその原料の配合がないことを示す。 【0149】 【表4】 」 4 先願発明 先願明細書の【0001】の記載からすると、先願明細書にいう本発明は、電子写真法、静電記録法や静電印刷法等における、静電荷像または磁気潜像の現像に用いられるトナー組成物に関するものであり、先願明細書に記載された実施例は、静電荷現像用トナー組成物に関するものであるといえる。 そうしてみると、先願明細書には、次の2つの発明が記載されている(以下それぞれを「先願発明2-1」及び「先願発明2-2」といい、両者を総称して「先願発明2」という。) なお、ポリエステル樹脂(A-1)、ポリエステル樹脂(A-3)及び結晶性樹脂(B-4)の配合部は【0149】の【表4】に記載された数値である。 (先願発明2-1) 「 ポリエステル樹脂(A-1)30部、結晶性樹脂(B-4)70部を配合し、 カーボンブラックMA-100[三菱化学(株)製]8部、カルナバワックス5部、荷電制御剤T-77[保土谷化学(製)]1部を加え、ヘンシェルミキサーを用いて予備混合した後、二軸混練機で混練し、ついで超音速ジェット粉砕機ラボジェットを用いて微粉砕した後、気流分級機で分級し、粒径D50が8μmのトナー粒子を得、トナー粒子100部にコロイダルシリカ(アエロジルR972:日本アエロジル製)0.5部をサンプルミルにて混合して得た、 静電荷現像用のトナー組成物(T-9)であって、 上記結晶性樹脂(B-4)は、撹拌装置、加熱冷却装置、温度計、滴下ロート、および窒素吹き込み管を備えた反応容器に、トルエン500部を仕込み、別のガラス製ビーカーに、トルエン350部、ベヘニルアクリレート(炭素数22個の直鎖アルキル基を有するアルコールのアクリレート:ブレンマーVA(日本油脂製))120部、2-エチルヘキシルアクリレート20部、メタクリル酸10部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)7.5部を仕込み、20℃で撹拌、混合して単量体溶液を調製し、滴下ロートに仕込み、反応容器の気相部の窒素置換を行った後に密閉下80℃で2時間かけて単量体溶液を滴下し、滴下終了から2時間、85℃で熟成した後、トルエンを130℃で3時間減圧除去して得たものである、 静電荷現像用のトナー組成物(T-9)。」 (先願発明2-2) 「 ポリエステル樹脂(A-3)60部、結晶性樹脂(B-4)40部を配合し、 カーボンブラックMA-100[三菱化学(株)製]8部、カルナバワックス5部、荷電制御剤T-77[保土谷化学(製)]1部を加え、ヘンシェルミキサーを用いて予備混合した後、二軸混練機で混練し、ついで超音速ジェット粉砕機ラボジェットを用いて微粉砕した後、気流分級機で分級し、粒径D50が8μmのトナー粒子を得、トナー粒子100部にコロイダルシリカ(アエロジルR972:日本アエロジル製)0.5部をサンプルミルにて混合して得た、 静電荷現像用のトナー組成物(T-12)であって、 上記結晶性樹脂(B-4)は、撹拌装置、加熱冷却装置、温度計、滴下ロート、および窒素吹き込み管を備えた反応容器に、トルエン500部を仕込み、別のガラス製ビーカーに、トルエン350部、ベヘニルアクリレート(炭素数22個の直鎖アルキル基を有するアルコールのアクリレート:ブレンマーVA(日本油脂製))120部、2-エチルヘキシルアクリレート20部、メタクリル酸10部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)7.5部を仕込み、20℃で撹拌、混合して単量体溶液を調製し、滴下ロートに仕込み、反応容器の気相部の窒素置換を行った後に密閉下80℃で2時間かけて単量体溶液を滴下し、滴下終了から2時間、85℃で熟成した後、トルエンを130℃で3時間減圧除去して得たものである、 静電荷現像用のトナー組成物(T-12)。」 第6 引用発明及び先願発明との対比・判断 1 引用発明1 本願発明と引用発明1を対比すると、以下のとおりとなる。 (1)結着樹脂、ワックス、着色剤 引用発明1の「ポリエステル樹脂(A-1)」、「カルナバワックス」及び「カーボンブラックMA-100[三菱化学(株)製]」はそれぞれ、技術的にみて、本願発明1の「ポリエステル樹脂である結着樹脂」、「ワックス」及び「着色剤」に相当する。 (2)電子写真用粉砕トナー 引用発明1の「トナー組成物(T-8)」は、「静電荷現像用」のものであるから、電子写真用であることは明らかである。 また、引用発明1は、「ポリエステル樹脂(A-1)30部、結晶性樹脂(B-4)70部配合し、トナーバインダーを得、カーボンブラックMA-100[三菱化学(株)製]8部、カルナバワックス5部、荷電制御剤T-77[保土谷化学(製)]1部を加え、ヘンシェルミキサー[三井三池化工機(株)製 FM10B]を用いて予備混合した後、二軸混練機で混練し、超音速ジェット粉砕機ラボジェット[日本ニューマチック工業(株)製]を用いて微粉砕した後、気流分級機で分級してトナー粒子を得」たものである。そうしてみると、引用発明1の「トナー組成物(T-8)」は、ポリエステル樹脂である結着樹脂、ワックス及び着色剤を含有する、粉砕トナーであるといえる。 したがって、引用発明1の「トナー組成物(T-8)」と、本願発明の「電子写真用トナー」は、「ポリエステル樹脂である結着樹脂と、ワックスと、着色剤と」「を含有する」点で共通する。また、引用発明1の「トナー組成物(T-8)」は、本願発明の「電子写真用粉砕トナー」に相当するといえる。 2 一致点及び相違点 (1)本願発明と引用発明1は、次の構成で一致する。 (一致点) 「 ポリエステル樹脂である結着樹脂と、ワックスと、着色剤を含有する電子写真用粉砕トナーである、 電子写真用トナー。」 (2)本願発明と引用発明1は、次の点で相違する。 (相違点1) 本願発明の「電子写真用トナー」は、「トナー用相溶化剤」を含有し、「トナー用相溶化剤は、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を50質量%以上含み、かつ1/2法による溶融温度が55℃以上である重合体である」のに対して、引用発明1は、このように特定されたものではない点。 CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2) ・・・(1) (式(1)中、R^(1)は水素原子またはメチル基であり、R^(2)は炭素数18以上のアルキル基である。) 3 相違点1についての判断 (1)特許法29条1項3号(新規性)についての判断 本願発明1と引用発明1は、上記2(2)に記載した相違点1で相違することから、両者が同一の発明であるとはいえない。 (2)特許法29条2項(進歩性)についての判断 引用発明1の「結晶性樹脂(B-4)」は、「ベヘニルアクリレート(炭素数22個の直鎖アルキル基を有するアルコールのアクリレート:ブレンマーVA(日本油脂製))120部、2-エチルヘキシルアクリレート20部、メタクリル酸10部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)7.5部を仕込み、20℃で撹拌、混合」した「単量体溶液」を用いて調整したものである。 また、「ベヘニルアクリレート(炭素数22個の直鎖アルキル基を有するアルコールのアクリレート:ブレンマーVA(日本油脂製))」は、本願発明の「一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」に相当する。 しかしながら、引用文献1の【0007】には、「本発明のトナーバインダーは、ポリエステル樹脂(A)と結晶性樹脂(B)とを含有する。」と記載されているから、引用発明1の「結晶性樹脂(B-4)」は、「トナーバインダー」である。 そうしてみると、引用発明1の「結晶性樹脂(B-4)」を本願発明でいう「相溶化剤」として理解することはできない。 念のため、引用発明1の「ポリエステル樹脂(A-1)」及び「結晶性樹脂(B-4)」を、それぞれ、本願発明の「結着樹脂」及び「相溶化剤」に相当すると仮定する。 しかしながら、引用発明1の「結晶性樹脂(B-4)」の分量は、「ポリエステル樹脂(A-1)」30部に対して、70部である。 そうしてみると、引用発明の「トナー組成物(T-8)」は、相違点1に係る本願発明の「前記結着樹脂100質量部に対して、前記トナー用相溶化剤を0.3質量部以上10質量部以下含有する」という要件を満たさない。 また、引用発明1の「結晶性樹脂(B-4)」の分量を前提として、これを相違点1に係る本願発明の「前記結着樹脂100質量部に対して、前記トナー用相溶化剤を0.3質量部以上10質量部以下含有する」という要件を満たすように変更すること(70部を0.9部以上3部以下の範囲にまで減らすこと)が、当業者が容易に発明できたことであるということもできない。 2 先願発明2 本願発明と先願発明2を対比すると、以下のとおりとなる。 (1)結着樹脂、ワックス、着色剤 先願発明2-1の「ポリエステル樹脂(A-1)」と先願発明2-2の「ポリエステル樹脂(A-3)」、「カルナバワックス」及び「カーボンブラックMA-100[三菱化学(株)製]」はそれぞれ、技術的にみて、本願発明1の「ポリエステル樹脂である結着樹脂」、「ワックス」及び「着色剤」に相当する。 (2)電子写真用粉砕トナー 先願発明2-1の「トナー組成物(T-9)」及び先願発明2-2の「トナー組成物(T-12)」は、「静電荷現像用」のものであるから、電子写真用であることは明らかである。 また、先願発明2-1は、「ポリエステル樹脂(A-1)30部、結晶性樹脂(B-4)70部配合し、トナーバインダーを得、カーボンブラックMA-100[三菱化学(株)製]8部、カルナバワックス5部、荷電制御剤T-77[保土谷化学(製)]1部を加え、ヘンシェルミキサーを用いて予備混合した後、二軸混練機で混練し、超音速ジェット粉砕機ラボジェットを用いて微粉砕した後、気流分級機で分級してトナー粒子を得」たものである。さらに、先願発明2-2においては、先願発明2-1における「ポリエステル樹脂(A-1)30部、結晶性樹脂(B-4)70部に替えて、「ポリエステル樹脂(A-3)60部、結晶性樹脂(B-4)40部を配合したことを除き、先願発明2-1と同様にトナー粒子を得たものである。 そうしてみると、先願発明2-1の「トナー組成物(T-9)」及び先願発明2-2の「トナー組成物(T-12)」は、ポリエステル樹脂である結着樹脂、ワックス及び着色剤を含有する、粉砕トナーであるといえる。 したがって、先願発明2-1の「トナー組成物(T-9)」及び先願発明2-2の「トナー組成物(T-12)」と、本願発明の「電子写真用トナー」は、「ポリエステル樹脂である結着樹脂と、ワックスと、着色剤と」「を含有する」点で共通する。また、先願発明2-1の「トナー組成物(T-9)」及び先願発明2-2の「トナー組成物(T-12)」は、本願発明の「電子写真用粉砕トナー」に相当するといえる。 2 一致点及び相違点 (1)本願発明と先願発明2は、次の構成で一致する。 (一致点) 「 ポリエステル樹脂である結着樹脂と、ワックスと、着色剤を含有する電子写真用粉砕トナーである、 電子写真用トナー。」 (2)本願発明と先願発明2は、次の点で相違する。 (相違点2) 本願発明の「電子写真用トナー」は、「トナー用相溶化剤」を含有し、「トナー用相溶化剤は、下記一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を50質量%以上含み、かつ1/2法による溶融温度が55℃以上である重合体である」のに対して、先願発明2は、このように特定されたものではない点。 CH_(2)=CR^(1)-COOR^(2) ・・・(1) (式(1)中、R^(1)は水素原子またはメチル基であり、R^(2)は炭素数18以上のアルキル基である。) 3 相違点2についての判断 (1)同一か否かについての判断 本願発明1と先願発明2は、上記2(2)に記載した相違点2で相違することから、両者が同一の発明であるとはいえない。 (2)実質同一か否かについての判断 先願発明2の「結晶性樹脂(B-4)」は、「ベヘニルアクリレート(炭素数22個の直鎖アルキル基を有するアルコールのアクリレート:ブレンマーVA(日本油脂製))120部、2-エチルヘキシルアクリレート20部、メタクリル酸10部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)7.5部を仕込み、20℃で撹拌、混合」した「単量体溶液」を用いて調整したものである。 また、「ベヘニルアクリレート(炭素数22個の直鎖アルキル基を有するアルコールのアクリレート:ブレンマーVA(日本油脂製))」は、本願発明の「一般式(1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」に相当する。 しかしながら、先願明細書の【0007】には、「本発明のトナーバインダーは、ポリエステル樹脂(A)と結晶性樹脂(B)とを含有する。」と記載されているから、先願発明2の「結晶性樹脂(B-4)」は、「トナーバインダー」である。 そうしてみると、先願発明2の「結晶性樹脂(B-4)」を本願発明でいう「相溶化剤」として理解することはできない。 念のため、先願発明2-1の「ポリエステル樹脂(A-1)」と先願発明2-2の「ポリエステル樹脂(A-3)」及び「結晶性樹脂(B-4)」を、それぞれ、本願発明の「結着樹脂」及び「相溶化剤」に相当すると仮定する。 しかしながら、先願発明2-1の「結晶性樹脂(B-4)」の分量は、「ポリエステル樹脂(A-1)」30部に対して、70部であって、先願発明2-2の「結晶性樹脂(B-4)」の分量は、「ポリエステル樹脂(A-3)」60部に対して、40部である。 そうしてみると、先願発明2-1の「トナー組成物(T-9)」及び先願発明2-2の「トナー組成物(T-12)」は、相違点1に係る本願発明の「前記結着樹脂100質量部に対して、前記トナー用相溶化剤を0.3質量部以上10質量部以下含有する」という要件を満たさない。 また、先願発明2の「結晶性樹脂(B-4)」の分量を前提として、これを相違点2に係る本願発明の「前記結着樹脂100質量部に対して、前記トナー用相溶化剤を0.3質量部以上10質量部以下含有する」という要件を満たすように変更すること(先願発明2-1において70部を0.9部以上3部以下の範囲にまで減らすこと、及び先願発明2-2において60部を1.2部以上4部以下の範囲にまで減らすこと)が、課題解決のための具体化手段における微差であるということもできない。 第7 原査定について 平成30年9月10日付けの手続補正により、本願発明は、粉砕トナーであって、結着樹脂100質量部に対して、トナー用相溶化剤を0.3質量部以上10質量部以下含有するという構成を備えるものとなっている。 他方、原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された特開2011-150320号公報には、湿式法によって製造されるトナーが記載されており、粉砕トナーとすることは記載されていない。また、当該文献には、ベヘニルアクリレートを相溶化剤として用いること、その分量を本願発明の数値範囲内のものとすること及びそのようにすることによる効果について記載も示唆もされていない。 そうしてみると、原査定において引用された引用文献1に記載された発明であるとはいえない。 また、当業者であっても、原査定において引用された引用文献1に基づいて、容易に発明できたとはいえない。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由もない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-11-30 |
出願番号 | 特願2013-138939(P2013-138939) |
審決分類 |
P
1
8・
16-
WY
(G03G)
P 1 8・ 113- WY (G03G) P 1 8・ 121- WY (G03G) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 本田 博幸 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
川村 大輔 清水 康司 |
発明の名称 | 電子写真用トナー |
代理人 | 小室 敏雄 |
代理人 | 棚井 澄雄 |
代理人 | 清水 雄一郎 |
代理人 | 五十嵐 光永 |