• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01S
管理番号 1346606
審判番号 不服2018-4090  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-26 
確定日 2018-12-18 
事件の表示 特願2014-533559「音波ベースの位置特定」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月 4日国際公開、WO2013/048708、平成26年11月27日国内公表、特表2014-531597、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
この審判事件に関する出願(本願)は、平成23年9月30日にアメリカ合衆国でされた特許出願に基づくパリ条約の優先権を主張して平成24年9月10日にされた国際特許出願である。
本願について、平成29年3月17日付けで拒絶理由が通知され、同年6月26日に意見書が提出されたが、同年11月21日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、査定の謄本が同年同月28日に送達された。これに対し、平成30年3月26日に拒絶査定不服審判が請求された。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし請求項9に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明9」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし請求項9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
第1の位置にある受信装置により、音波信号源のセットの各音波信号源から音波信号を受信するステップであり、各音波信号源から発信される前記音波信号は、別の音波信号源から発信される前記音波信号とは異なり、各音波信号源は、前記音波信号内で提供される情報に基づいて、前記セット内で一意に識別可能であり、各音波信号源を識別することは、前記受信された音波信号と既知の発信される音波信号との相互相間をとることに基づく、ステップと、
前記音波信号源のサブセットから受信された音波信号を選択するステップであり、選択される音波信号は、反射した音波信号を除外する信頼性条件を満足し、選択された音波信号を提供した各音波信号源の位置は前記受信装置に既知である、ステップと、
差分到着時間測定値を用いて、前記音波信号源の前記サブセットの前記既知の位置に対する前記受信装置の前記第1の位置を決定するステップと、
前記第1の位置と前記サブセット内の前記音波信号源の各々の位置との間で計算された距離に基づいて、捕捉された各音波信号のタイミング基準を決定するステップと、
前記第1の位置に続く前記受信装置の第2の位置を、前記第1の位置で受信された前記音波信号源の前記サブセットより少数の音波信号源から当該第2の位置で受信された音波信号の非差分の到着時間測定値と前記タイミング基準とに基づいて決定するステップと、
を有する方法。
【請求項2】
前記第2の位置を決定する処理は、
前記受信装置の進行方向を決定することと、
前記進行方向を、前記第2の位置に関する制約として使用することと
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記進行方向を決定する処理は、前記受信装置の、複数の以前に決定された位置を評価することを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記以前に決定された位置は、音波ベースの位置特定に基づいて決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の位置を決定する処理は、
前記受信装置の進行速度を決定することと、
前記進行速度を、前記第2の位置に関する制約として使用することと
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記進行速度を決定する処理は、
前記第1の位置で受信された音波信号の周波数におけるドップラーシフトを決定して、前記受信装置の前記進行速度を決定すること
を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記受信装置はモバイル装置であり、前記音波信号源は静止している、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
第1の位置で、音波信号源のセットから発信される音波信号を捕捉する、ように構成された受信装置の記録部であり、個々の音波信号源から発信される個々の音波信号は、別の個々の音波信号源から発信される別の個々の音波信号とは異なり、各音波信号源は、発信されるそれぞれの個々の音波信号内で提供される情報に基づいて、前記セット内で一意に識別可能であり、各音波信号源を識別することは、前記捕捉された音波信号と既知の発信される音波信号との相互相間をとることに基づく、記録部と、
前記音波信号源のサブセットから受信された前記音波信号のサブセットを選択する、ように構成された前記受信装置の信号源プロセッサであり、選択される音波信号は、反射した音波信号を除外する信頼性条件を満足し、選択された個々の音波信号を提供した各音波信号源の位置は前記受信装置に既知である、信号源プロセッサと、
差分到着時間測定値を用いて、前記音波信号源の前記サブセットの前記既知の位置に対する前記受信装置の前記第1の位置を決定する、ように構成された前記受信装置の音波ロケータであり、前記第1の位置と前記サブセット内の前記音波信号源の各々の位置との間で計算された距離に基づいて、捕捉された各音波信号のタイミング基準を決定し、且つ前記第1の位置に続く前記受信装置の第2の位置を、前記第1の位置で受信された前記音波信号源の前記サブセットより少数の音波信号源から当該第2の位置で受信された更なる音波信号の非差分の到着時間測定値と前記タイミング基準とに基づいて決定する、ように更に構成された音波ロケータと、
を有するシステム。
【請求項9】
電子装置上でプロセッサ実行可能プロセスを実行するためのプロセッサ実行可能命令を有するコンピュータプログラムであり、前記プロセスは、
第1の位置にある受信装置により、音波信号源のセットの各音波信号源から音波信号を受信するステップであり、個々の音波信号源から発信される個々の音波信号は、別の個々の音波信号源から発信される別の個々の音波信号とは異なり、各音波信号源は、それぞれ発信される個々の音波信号内で提供される情報に基づいて、前記セット内で一意に識別可能であり、各音波信号源を識別することは、前記受信された音波信号と既知の発信される音波信号との相互相間をとることに基づく、ステップと、
前記音波信号源のサブセットから受信された前記音波信号のサブセットを選択するステップであり、選択される前記音波信号の前記サブセットは、反射した音波信号を除外する信頼性条件を満足し、前記音波信号の前記サブセットの個々の選択された音波信号を提供した各音波信号源の位置は前記受信装置に既知である、ステップと、
差分到着時間測定値を用いて、前記音波信号源の前記サブセットの前記既知の位置に対する前記受信装置の前記第1の位置を決定するステップと、
前記第1の位置と前記サブセット内の前記音波信号源の各々の位置との間で計算された距離に基づいて、捕捉された各音波信号のタイミング基準を決定するステップと、
前記第1の位置に続く前記受信装置の第2の位置を、前記音波信号源の前記サブセットのうちの少なくとも一部から当該第2の位置で受信された更なる音波信号に基づく非差分の到着時間測定値と前記タイミング基準とに基づいて決定する、ステップと
を有する、コンピュータプログラム。」

なお、請求項1、8、9における「相互相間」との記載は、「相互相関」の誤記と解す。

第3 原査定における拒絶理由の概要
この出願の請求項1ないし請求項9に係る発明は、以下の引用文献1ないし引用文献3及び引用文献6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2001-337157号公報
引用文献2.特開2009-139264号公報
引用文献3.特開2009-210582号公報
引用文献6.米国特許第4713768号明細書

第4 引用文献に記載された発明等
1 引用文献1
引用文献1には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

(1) 段落0014
「【0014】すなわち、本発明は局地測位システムに関するものであり、図1に示されるように、…(略)…3箇所以上の既知点に設置され、各々送信元情報と送信時刻情報とを含む信号を生成し、該信号をスペクトラム変調して超音波信号として送信する送信手段10と、前記各送信手段の送信時刻を同期させる送信時刻同期手段12と、少なくとも3箇所の送信手段から同期送信された各々の超音波信号を受信する受信手段14と、前記各超音波信号の受信時刻を各々測定し、前記受信した各超音波信号を復調して該信号の送信元と送信時刻とを各々特定し、前記受信時刻と前記送信時刻から前記送信手段と前記受信手段の距離を各々算出し、前記各送信手段の位置と該各送信手段と前記受信手段の距離との関係から前記受信手段の位置を決定する測位手段16と、を有することを特徴とし、または、4箇所以上の既知点に設置され、各々送信元情報と送信時刻情報とを含む信号を生成し、該信号をスペクトラム変調して超音波信号として送信する送信手段10と、前記各送信手段の送信時刻を同期させる送信時刻同期手段12と、少なくとも4箇所の送信手段から同期送信された各々の超音波信号を受信する受信手段14と、前記各超音波信号の受信時刻を各々測定し、前記受信した各超音波信号を復調し、該信号の送信元と送信時刻とを特定し、前記受信時刻と前記送信時刻から前記信号の伝搬時間を各々算出し、前記各伝搬時間の差分により同期誤差を消去して前記送信手段と前記受信手段の距離を各々算出し、前記各送信手段の位置と該各送信手段と前記受信手段の距離との関係から前記受信手段の位置を決定する測位手段16と、を有することを特徴とする。」

(2) 段落0016から段落0019まで
「【0016】
【作用】本発明では、従来のGPS等のような電波を使用して測位する代わりに超音波を使用して測位を行う。 これにより、測定に用いる波動の伝搬範囲が限定されている局地においても、高精度で測位を行うことが可能となる。
【0017】また、3点以上の既知点に超音波送信手段もしくは超音波受信手段(超音波送信局もしくは超音波受信局)を設置することにより、3点測量の技術を用いての測位が可能となる。 この場合、4点以上の既知点を用いて送信側と受信側の時計同期誤差を解消すれば、更に高精度な測位が可能となる。
【0018】さらに、送受信する超音波信号にスペクトラム拡散変調を施すことにより、送信超音波周波数の帯域当たりのユーザ数(測位対象数)を増加することや、妨害波や干渉波の排除能力を向上することや、信号の秘話性を向上することや、測距能力を向上させることが可能となる。
【0019】そして、本発明は多様な形態での測位に対応することも可能である。すなわち、移動する測位対象を受信手段として、受信側が自己位置の測位をすることや、また、移動する測位対象を送信手段として受信側の第三者が複数の移動測位対象の測位を統括的に行うこと等も可能である。」

(3) 段落0022から段落0028まで
「【0022】本構成例においては、送信元情報(送信元識別情報)と、送信時刻情報と、を含む2進符号の信号が2進符号発生器302より生成される。
【0023】なお、本構成例においては、PN信号:Pseudo Noise信号、疑似雑音信号等とも称される2進符号信号を使用しているが、発明の概念としては送信元と送信時刻の情報が包含されていることが特徴である。
【0024】…(略)…
【0025】…(略)…
【0026】…(略)…
【0027】さらに、2進符号発生器302で生成された信号に対し、搬送波発生器304を用いて狭帯域変調と同時に2次変調として拡散変調がPSK変調器306により施される。
【0028】なお、PSKはPhase Shift Keyingの略語であり、PSK変調は位相変調、移送偏移等と称される場合もある。)そして、PSK変調器306により変調された信号は、超音波送信機308により超音波として空間中に送信される。」

(4) 段落0030から段落0038まで
「【0030】本構成例においては、送信部の超音波送信機(図3の308参照)より空間中に送信された超音波が、超音波受信機402により受信される。
【0031】また、搬送波発生器404においては受信信号(PSK変調されて送信された信号)を復調するための搬送波が生成される。
【0032】そして、受信された超音波は、搬送波発生器404により生成された搬送波を用いてミキサ処理部406によりミキサ処理される。
【0033】さらに、ミキサ処理された信号は、2進符号発生器408により生成された2進符号信号により相関処理部410において相関処理が行われる。
【0034】かかる一連の処理により、受信された信号には逆拡散による復調が施される。
【0035】そして、超音波受信時に記録された受信時刻情報と、送信信号に含まれる送信時刻情報と、から送信にかかった時間、すなわち超音波の伝搬時間が算出される。
【0036】また、2進符号発生器408においては、複数の送信機の送信部で生成される2進符号信号を含む信号が生成されており、各々の送信機において生成された2進符号信号と同一の信号を同調により検出することで、送信元の送信機が各々特定され、これらの各送信機が送信を行った送信時刻情報が検出される。
【0037】相関処理部410により相関処理された信号、すなわち送信先情報や送信時間(超音波伝搬時間)情報が含まれた信号は、測位処理部412に送られる。
【0038】そして、測位処理部412においては、各送信部または受信部が設置された既知点の位置情報と、相関処理部410より送られる送信先情報や送信時間情報すなわち既知点からの距離情報と、により測位対象たる受信点(超音波受信機が置かれた地点)または送信点(超音波送信機が置かれた地点)の位置が算出される。」

(5) 段落0067から段落0073まで
「【0067】また、超音波の送信信号にスペクトラム拡散変調を施す場合には、妨害波や干渉波を排除することが可能となる。
【0068】すなわち、各超音波信号にスペクトラム拡散変調を施して送信することにより、その超音波信号が広い拡散帯域の一部において自己の信号電力密度よりはるかに大きな電力密度を持つ妨害波を受けた場合であっても、受信された超音波信号を逆拡散する段階でほとんど妨害波の影響を排除することが可能となる。
【0069】このために、各送信局(送信機)から送信される情報が、他の送信局(送信機)からの干渉波等による影響を受けることがほとんどなくなり、干渉波等に対するシステム全体の耐久性が極めて高いものとなる。
【0070】同様に、超音波の送信信号にスペクトラム拡散変調を施すことにより多元接続性を向上させることが可能となる。
【0071】すなわち、前述のように超音波の送信信号にスペクトラム拡散変調を施すことにより高い干渉波の排除能力を実現することが可能となるが、これは送信側(複数の送信局・送信機)から送られてくる各送信信号が固有の疑似雑音符号で変調されているからである。
【0072】したがって、受信側で受信超音波を逆拡散する際には前記疑似雑音符号と同じ疑似雑音符号を使用して復調することが必要となり、実質的に各々の信号にはそれぞれ異なった暗号の鍵が割り当てらていることとなる。
【0073】この場合、受信側において目的の信号以外は干渉波とみなされるので、複数の信号が周波数軸上のみならず時間軸上でも重なり合っている状態であっても、混信のない通信が可能となる。」

(6) 段落0091から段落0099まで
「【0091】さらに、送信側の時計(各送信局の同期時計)と、受信側の時計(受信機が受信時刻を計測するため内部時計)とは、同一の時刻を示すように調整されている。
【0092】具体的には、単独に、もしくは何れかの送信局に同期制御用の時計を1個設置し、この時計に基づき、一定の時間間隔で定期的に時間情報(時計のカウンタ数)を前記のLANで各送信局に送る。 各送信局は独自(自局)の時計を持っており、その時計により送信時刻を制御するが、前記の時間情報がLANを介して配信されたときは自局の時計のカウンタ数と配信された時間情報(制御用の時計のカウンタ数)を比較し、両時間の差違を検出する。 そして、各送信局はこの差違に基づいて自局の時計をリセットし、自局の時計を制御用の時計に同期させる。 これによりLANを使って全ての送信局の時計が同期することとなる。
【0093】そして、送信局600-1、600-2、600-3、600-4からの送信信号に含まれる送信時刻情報と受信機610-1、610-2側において計測される受信時刻情報との時間差から超音波の伝搬時間が求められ、この伝搬時間に定数たる音速(340m/s)を乗ずることで、各送信局600-1、600-2、600-3、600-4と、各受信機610-1、610-2との距離がそれぞれ求められる。
【0094】よって、複数の既知点たる各送信局600-1、600-2、600-3、600-4と、測位対象たる受信機610-1、610-2との距離関係が、各伝搬時間から各々導出され、3点測量の原理により受信機610-1、610-2の位置を特定することが可能となる。
【0095】なお、本実施例においては、送信側と受信側の時計誤差を消去するため、4箇所の既知点に送信局600-1、600-2、600-3、600-4が設けられている。
【0096】これは、一般的に送信側の時計と受信側の時計に同期誤差があり、3次元の位置情報に時計誤差を加えると未知の変数が4個となるので、これを解くためには4個の独立式が必要となり、このため少なくとも4点の観測が必要となるからである。(すなわち、3点の測定値のみでは送信側と受信側の時計の同期誤差が残ってしまい、高精度な測位が実現できないからである。)
つまり、本実施例における測位システムでは、各既知点(各送信局600-1、600-2、600-3、600-4)相互間では同期がとられており、各受信機610-1、610-2が受信した信号から算出される伝搬時間測定値には全て同一の時計誤差、すなわち受信側の時計と送信側の時計の誤差が含まれている。
【0097】したがって、既知点に設置する送信局を3局から1局増やして4局とし、伝搬時間測定値について相互の差分をとれば、送信側と受信側の時計誤差(同期誤差)を取り除くことが可能となる。(すなわち、各測位対象につき同期信号の測定値が4個の場合、時計誤差のとれた3個の独立した測定値の差分値が得られ、この3個の差分値に基づいて測位対象の3次元の位置を算出することが可能となる。)なお、以上は送信局を4個とした場合について説明したが、本発明にかかる測位システムはこれに限定されるものではなく、送信局が4個以上、すなわち伝搬時間の測定値が4個以上の場合であっても、最小二乗法により最確値を求めること等により、高精度の測位が実現される。
【0098】…(略)…
【0099】なお、各送信局600-1、600-2、600-3、600-4が設置される各既知点について、各既知点の位置情報と設置される局の局情報(送信元情報)は、予め測位処理を行う受信側において2進符号データ等として保持されており、測位処理はこのデータを利用することで行われる。」

上記(1)ないし(6)の記載によれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「3点以上の既知点に超音波送信手段(超音波送信局)を設置し、移動する測位対象を受信手段として、受信側が自己位置を測位する方法であって(段落0017、0019)、
送信部の超音波送信機より空間中に送信された超音波が、超音波受信機402により受信され(段落0030)、
超音波信号は、送信元情報(送信元識別情報)と、送信時刻情報と、を含む2進符号の信号に対しスペクトラム拡散変調が施されたものであり(段落0018、0022、0027)、
受信された超音波を、搬送波発生器404により生成された搬送波を用いてミキサ処理部406によりミキサ処理し、さらに、複数の送信機の送信部で生成される2進符号信号を含む信号により相関処理部410において相関処理を行うことで、逆拡散による復調が施されて、送信元の送信機が各々特定され、これらの各送信機が送信を行った送信時刻情報が検出され(段落0032、0033、0034、0036)、
送信側(複数の送信局・送信機)から送られてくる各送信信号が固有の疑似雑音符号で変調されており、したがって、受信側で受信超音波を逆拡散する際には前記疑似雑音符号と同じ疑似雑音符号を使用して復調することが必要となり、実質的に各々の信号にはそれぞれ異なった暗号の鍵が割り当てらていることとなっており、この場合、受信側において目的の信号以外は干渉波とみなされ、排除することが可能であり(段落0067、0071、0072、0073)、
送信局600-1、600-2、600-3、600-4が設置される各既知点について、各既知点の位置情報と設置される局の局情報(送信元情報)は、予め測位処理を行う受信側において2進符号データ等として保持されており、測位処理はこのデータを利用することで行われ(段落0099)、
少なくとも3箇所の送信手段から同期送信された各々の超音波信号を受信して、受信時刻と送信時刻から送信手段と受信手段の距離を各々算出し、各送信手段の位置と該各送信手段と受信手段の距離との関係から受信手段の位置を決定し、又は、少なくとも4箇所の送信手段から同期送信された各々の超音波信号を受信して、受信時刻と送信時刻から信号の伝搬時間を各々算出し、各伝搬時間の差分により同期誤差を消去して送信手段と前記受信手段の距離を各々算出し、各送信手段の位置と該各送信手段と受信手段の距離との関係から受信手段の位置を決定し(段落0014)、
送信側の時計(各送信局の同期時計)と、受信側の時計(受信機が受信時刻を計測するため内部時計)とは、同一の時刻を示すように調整されており、具体的には、単独に、もしくは何れかの送信局に同期制御用の時計を1個設置し、この時計に基づき、一定の時間間隔で定期的に時間情報(時計のカウンタ数)をLANで各送信局に送ることで、各送信局は自局の時計を制御用の時計に同期させ、これにより全ての送信局の時計が同期することとなっており(段落0091、0092)、
複数の既知点たる各送信局600-1、600-2、600-3、600-4と、測位対象たる受信機610-1、610-2との距離関係が、各伝搬時間から各々導出され、3点測量の原理により受信機610-1、610-2の位置を特定することが可能となるが、3点の測定値のみでは送信側と受信側の時計の同期誤差が残ってしまい、高精度な測位が実現できないため、既知点に設置する送信局を3局から1局増やして4局とし、伝搬時間測定値について相互の差分をとれば、送信側と受信側の時計誤差(同期誤差)を取り除くことが可能となる(すなわち、各測位対象につき同期信号の測定値が4個の場合、時計誤差のとれた3個の独立した測定値の差分値が得られ、この3個の差分値に基づいて測位対象の3次元の位置を算出することが可能となる)(段落0094、0096、0097)方法。」

2 引用文献2
引用文献2には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

(1) 段落0007
「【0007】
この発明は、互いに間隔を隔てて配置され、順次音波を発信する4つの音波発信器と、4つの音波発信器から発信された音波を検出するための音波センサと、音波センサで検出した音波の時間間隔から算出することにより音波センサの3次元位置を確定するための位置確定手段を含む、3次元位置確定システムである。
…(略)…」

(2) 段落0016
「【0016】
なお、音波を使用した場合、気圧や温度などの条件にもよるが、進行速度は約340m/secである。したがって、時間分解能が1μsの場合、位置検出精度は0.34mmとなる。また、室内においては、図7に示すように、音波発信器12?18から発信された超音波が壁などで反射し、その反射波も音波センサ20で検出される。しかしながら、反射波のピーク値は直接波のピーク値より小さくなるため、図8に示すように、一定時間内のA/Dコンバータ26の出力信号の最大値の4点をとれば、時間間隔t1,t2,t3を検出することができる。このように、この3次元位置確定システム10では、バンドパスフィルタ22で不要な周波数の信号が除去され、音波発信器12?18から発信された音波に対応する周波数の信号のピーク値を検出することにより、反射波の影響も除去することができる。したがって、雑音の影響を受けることなく、必要とする時間間隔t1,t2,t3を得ることができる。」

上記(1)ないし(2)の記載によれば、引用文献2には、以下の技術事項が記載されている。

「互いに間隔を隔てて配置され、順次音波を発信する4つの音波発信器と、4つの音波発信器から発信された音波を検出するための音波センサと、音波センサで検出した音波の時間間隔から算出することにより音波センサの3次元位置を確定するための位置確定手段を含む、3次元位置確定システムにおいて(段落0007)、
音波発信器12?18から発信された超音波が壁などで反射し、その反射波も音波センサ20で検出されるが、反射波のピーク値は直接波のピーク値より小さくなるため、一定時間内のA/Dコンバータ26の出力信号の最大値の4点をとれば、雑音の影響を受けることなく、必要とする時間間隔t1,t2,t3を得ることができる(段落0016)。」

3 引用文献3
引用文献3には、以下の記載がある。なお、下線は合議体が付したものである。

(1) 段落0017から段落0019まで
「【0017】
本発明は、RSS測位方式およびTOA測位方式の利点(RSSの長距離伝播特性、TOAの高精度測位特性など)を統合し、かつ、各方式固有の欠点を克服するための、適応型測位法に基づく安定的に高精度な方法、装置、およびシステムを提供する。特に、本発明の適応型測位システムは、RF信号と超音波信号の両方を使用することにより、超音波のTOA情報を検知するだけでなく、RF信号のRSS情報も測定することができる。…(略)…
【0018】 …(略)…
【0019】
特に、本発明の第1の態様によれば、適応型移動体測位方法であって、移動体から発信された信号の到達時刻(TOA)結果と受信信号強度(RSS)結果とを収集し、収集したTOA結果数を判定し、入力されたTOA結果数に基づいて移動体の位置を計算するための測位法を選択し、選択した測位法を使用して移動体の位置を計算するための適応型移動体測位方法が提供される。」

(2) 段落0034
「【0034】
観察結果収集器301により収集されたTOA結果は、まずTOA結果フィルタ304(オプションの前処理部品)に送られ、そこで、すべてのTOA収集データから信頼性の低いTOA測定値が除去される。超音波が障害物により反射された場合には、測定された距離は、超音波が直接到達した場合の距離よりもはるかに長くなる。このような反射信号は、予期しない局所化エラーにつながるため「異常値」として取り扱い、局所化アルゴリズムから除去する必要がある。」

上記(1)ないし(2)の記載によれば、引用文献3には、以下の技術事項が記載されている。

「移動体から発信された超音波信号の到達時刻(TOA)結果とRF信号の受信信号強度(RSS)結果とを収集し、収集したTOA結果数を判定し、入力されたTOA結果数に基づいて移動体の位置を計算するための測位法を選択し、選択した測位法を使用して移動体の位置を計算するための適応型移動体測位方法において(段落0019)、
超音波が障害物により反射された場合、測定された距離は超音波が直接到達した場合の距離よりもはるかに長くなり、予期しない局所化エラーにつながるため、すべてのTOA収集データからこのような信頼性の低いTOA測定値が除去される(段落0034)。」

4 引用文献6
引用文献6には、以下の記載がある。なお、下線及び訳文は合議体が付したものである。

(1) 第1欄第4行から第3欄第17行まで
「BACKGROUND OF THE INVENTION
This invention relates to a method of localizing precisely a moving body such as a ship, an automobile, an artificial satellite, etc., and more specifically to a method of localizing a moving body as mentioned above with high precision by receiving energy of radiations, such as acoustic waves, electromagnetic waves, etc., emitted the moving body by using a plurality of sensors disposed at different places and on the basis of reception times measured by the plurality of sensors; or, in the alternative, by receiving energy of radiations, such as acoustic wave, electromagnetic wave, etc. emitted at a plurality of different places using a sensor disposed on the moving body and on the basis of reception times measured by the sensor.
Heretofore, in order to estimate the location of a moving body, e.g. as indicated in FIG. 1, radiations, such as acoustic wave, electromagnetic wave, etc. emitted by a moving body 1 are received by a plurality of sensors S_(i) (i=1, 2, . . . , n) disposed at different places, which are respectively at a distance d_(i) from the moving body, at a time t_(i), respectively. A moving body localization calculation device 2, receives the radiations detected by the sensors, and calculates an estimated location of the moving body by the least-squares method. It is well known that the representative methods of realizing this estimation are the spherical surface localization method and the hyperbolic surface localization method. …(略)…
In FIG. 1, the moving body localization calculation device 2 consists of a memory device 3, a processing device 4 and a display device 5. Radiation emitted by the moving body 1 is received by a sensor S_(i), which is at a distance d_(i) therefrom. The sensor S_(i) transmits the time t_(i), at which the radiation is received, to the moving body localization calculation device 2. The reception time t_(i) satisfies the following equation (1).
t_(i)=d_(i)/Ve+T+n_(i) (1)
where Ve designates the propagation velocity of the radiation, T represents the emission time of the radiation by the moving body 1, and n_(i) denotes noises due to various factors, such as measurement errors, propagation delay of the wave, etc.
The signal emitted by the moving body 1 is a pulse signal as indicated in FIG. 2, where it is supposed that the time interval between two successive pulses T_(o) is constant. It is also supposed that the time interval T_(o) is sufficiently long with respect to the propagation time of the radiation.
In the moving body localization calculation device 2, input data are once stored in the memory device 3. Then the processing device 4 calculates the location of the moving body and outputs the obtained results to the display device 5. In the processing device the position (α_(i), β_(i), γ_(i)) of the sensor S_(i), which was measured beforehand, is stored so that it is ready to be utilized.
The hyperbolic surface localization method is a method, by which an intersecting point of a plurality of hyperbolic surfaces in a space, where the difference between two reception times in constant, is assumed to be the position of the moving body and is determined using time differences between two receptions of the radiation by the plurality of sensors. …(略)…
On the other hand, the spherical surface localization method is a method, by which assuming that the emission time of the radiation from the moving body is known, an intercepting point of a plurality of spherical surfaces is assumed to be the position of the moving body, where the propagation time of the radiation from each of the sensors is constant. …(略)…
…(略)…
Furthermore, by the hyperbolic surface localization method, it is difficult to determine the time for the calculated position of the moving body. Another problem is that a localization calculation of the hyperbolic surface localization method requires a long processing time. To the contrary, by the spherical surface localization method, although a processing time for a localization calculation is shorter, it cannot be used, unless the emission time of the radiation is known. Thus, either one of the localization methods described above gives a high precision in the localization of a moving body, depending on the geometrical relation between the moving body and the group of sensors. However, since both the localization methods have various restrictive conditions, in practice, these restrictive conditions must be taken into account. …(略)…
(訳文: 発明の背景
本発明は、船舶、自動車、人工衛星等の移動体の位置を正確に測定する方法に関するものであり、より詳細には、異なる場所に配置された複数のセンサを用いて上述の移動体からの音波、電磁波等の放射エネルギーを受信し、当該複数のセンサで測定される受信時刻を基に、移動体の位置を正確に測定する方法に関するものである。また、代替的には、移動体上に配置された1つのセンサを用いて複数の異なる場所からの音波、電磁波等の放射エネルギーを受信し、当該センサで測定される複数の受信時刻を基に、移動体の位置を正確に測定する方法に関するものである。
従来、移動体の位置を推定するためには、例えば図1に示すように、移動体1からの音波、電磁波等の放射を、異なる場所に配置された複数のセンサS_(i)(i=1,2,…,n)により、移動体からの距離d_(i)、時刻t_(i)でそれぞれ受信する。移動体位置演算手段2は、センサが検出した放射を受信し、最小二乗法により移動体の推定位置を算出する。この推定を実現する代表的な方法としては、球面測位方式と、双曲面測位方式とが知られている。…(略)…
図1において、移動体位置計算手段2は、記憶装置3、処理装置4及び表示装置5から構成されている。移動体1からの放射は、距離d_(i)離れたセンサS_(i)で受信される。該センサS_(i)は放射を受信した時刻t_(i)を移動体位置計算手段2に送信する。受信時刻t_(i)は、
t_(i)=d_(i)/Ve+T+n_(i)
なる方程式(1)を満たし、ここで、Veは放射の伝搬速度、Tは移動体1による放射の発信時刻、n_(i)は測定誤差、波の伝搬遅延等のさまざまな要因による雑音である。
移動体1による発信信号は、図2に示すようにパルス信号であり、2つの連続するパルス間の時間間隔T_(o)は一定であるとする。また、時間間隔T_(o)は放射の伝搬時間に比べて充分長いものとする。
移動体位置演算手段2においては、入力データを、一旦、記憶装置3に貯える。そして、処理装置4で移動体位置を計算し、得られた結果を表示装置5に出力する。処理装置には、予め測定したセンサS_(i)の位置(α_(i),β_(i),γ_(i))が利用可能に格納されている。
双曲面測位方式とは、2つの受信時刻の差が一定となる、空間内の複数の双曲面の交わる点を移動体位置とし、複数のセンサにおける放射の2つの受信の時刻差を用いてそのような点を決定する方式である。…(略)…
一方、球面測位方式とは、移動体からの放射の発信時刻が既知であるという仮定の下で、各センサを中心として放射の伝搬時間が一定となる球面の交わる点を移動体位置とする方式である。…(略)…
…(略)…
さらに、双曲面測位方式においては、計算した移動体位置がいつの時点のものであるかを知ることが困難である。別の問題は、双曲面測位方式の位置計算は長い処理時間を要するということである。一方、球面測位方式においては、位置計算のための処理時間はより短いが、放射の発信時刻が分からないと用いることができない。よって、移動体とセンサ群の間の幾何学的関係に応じて、上で説明した測位方式のいずれか一方が、高精度の移動体の測位を提供することになる。しかし、実際には両方式に種々の制約条件があるため、それらの制約条件を考慮しなければならない。…(略)…)」

(2) 第9欄第29行から第11欄第59行まで
「 It is empirically known that the difference between the localization results obtained by the spherical surface localization method and by the hyperbolic surface localization method is greater when the moving body 1 is out of the region delimited by the lines connecting adjacent sensors S_(1)-S_(n) (1b in FIG. 5) than when it is in the region (1a in FIG. 5). Consequently, in general, it is more effective to effect the calibration mode in the former situation. For this quantitative judgement the geometric dilution of precision (hereinbelow abbreviated to GDOP) for determining which should be used, the hyperbolic surface localization method or the spherical surface localization method, will be explained below. …(略)…
…(略)…
Denoting G_(S) for GDOP of the spherical surface localization method and G_(H) for that of the hyperbolic surface localization method, it is desirable to use the hyperbolic surface localization method, when G_(S) >G_(H), and the spherical surface localization method, when G_(H) >G_(S). The operations described above are carried out in the processing device 4 within the moving body localization calculation device 2. The flow chart for these operations is shown in FIG. 6.
The operations shown in FIG. 6 are repeated with a certain time interval. At first GDOP for the hyperbolic surface localization method and that for the spherical surface localization method are calculated. When G_(S) >G_(H), the location (x^, y^, z^) of the moving body is obtained by the hyperbolic surface localization method. Further the emission time T^(*) of the radiation from the moving body is estimated by a method described later.
To the contrary, when G_(H) >G_(S), it is checked whether the spherical surface localization method can be adopted or not. That is, it is checked whether the estimated value T^(*) obtained by the process described above can be used or not and when it can be used, the spherical surface localization method is carried out. To the contrary, when the estimated value T^(*) cannot be used, the hyperbolic surface localization method is carried out.
Further, in the estimation process of the emission time T^(*) of the radiation stated above, it is preferable to indicate that the estimated value T^(*) can be used, when the estimation process for T^(*) has been carried out a predetermined number of times.
Next the method of estimating the emission time of the radiation from the moving body 1 starting from the hyperbolic surface localization method will be explained below.
Denoting T^(*) as the time when a pulse is emitted, the location (x^, y^, z^) of the moving body can be calculated according to the hyperbolic surface localization method by using reception times t_(1)^(*) to t_(n)^(*) of the pulse. Consequently the emission time T^(*) is estimated by using information of the n sensors as follows.

However, a value T^(*) estimated by using a single pulse can be considerably different from the veritable value T^(*) due to various error factors. …(略)…The relation between emission time estimation errors of T^(*) thus obtained and the number of times of the estimation of T^(*) by using pulses is shown qualitatively in FIG. 7.
That is, a number of times M, for which the emission time estimation errors are sufficiently small, is set and the estimated values of T^(*) after the M-th estimation are used. In this case, the emission time of the k-th pulse after T^(*) is estimated to be

By this it becomes possible to utilize the spherical surface localization method.
(訳文: 球面測位方式により得られた測位結果と双曲面測位方式により得られた測位結果とは、移動体1が、隣接するセンサS_(1)?S_(n)を結んだ線で囲まれた領域外にある時(図5の1b)の方が当該領域内にある時(図5の1a)よりも、差異が大きくなることが経験的に知られている。したがって、一般には、前者の状況で較正モードを実行するのがより効果的である。このような判断を定量的に行うために、双曲面測位方式と球面測位方式のいずれを用いるべきかを決定するための幾何学的精度低下率(以下、GDOPと略す)について以下で説明する。…(略)…
…(略)…
球面測位方式のGDOPをG_(S)、双曲面測位方式のGDOPをG_(H)とすると、G_(S)>G_(H)のときには双曲面測位方式を用いるのが望ましく、G_(H)>G_(S)のときには球面測位方式を用いるのが望ましい。上述の処理は移動体位置計算システム2内の処理装置4で実行される。この処理のフローチャートを図6に示す。
図6に示す処理はある時間間隔で反復される。まず、双曲面測位方式のGDOPと球面測位方式のGDOPとが計算される。G_(S)>G_(H)のときには、双曲面測位方式で移動体位置(x^,y^,z^)を得る。更に、後述する方法により移動体からの放射の発信時刻T^(*)が推定される。
一方、G_(H)>G_(S)のときには、球面測位方式が採用できるか否かをチェックする。すなわち、上記処理で求めたT^(*)の推定値が使用可能か否かをチェックし、使用可能の場合には球面測位方式が実行される。他方、T^(*)の推定値が使用不可能の場合には双曲面測位方式が実行されることになる。
さらに、上記放射の発信時刻T^(*)の推定処理においては、T^(*)の推定処理を所定回数だけ実行すると、T^(*)の推定値が使用可能であることを示すようにするとよい。
次に、移動体1からの放射の発信時刻を双曲面測位方式から推定する方法について以下で説明する。
あるパルスが発信された時刻をT^(*)とすると、このパルスの受信時刻t_(1)^(*)?t_(n)^(*)を用いて、双曲面測位方式により移動体の位置(x^,y^,z^)が計算できる。従って、発信時刻T^(*)は、n個のセンサの情報を用いて、次のように推定できる。
(式25)

しかし、単一のパルスを用いたT^(*)の推定値は、さまざまな誤差要因により、真値T^(*)と大きく異なる可能性がある。…(略)…これにより求めたT^(*)の発信時刻推定誤差と、パルスを用いたT^(*)推定回数の関係が図7で定性的に示される。
すなわち、発信時刻推定誤差が充分小さくなる回数Mを設定し、M回以降のT^(*)の推定値を用いる。この場合、T^(*)以後k回目のパルス発信時刻は、
(式28)

と推定できる。これにより、球面測位方式が利用可能になる。)」

(3) 第12欄第4行から第9行まで
「 The above explanation can be applied as well to the case where radiations emitted at a plurality of different places are received by a sensor disposed on the moving body, and the location of the moving body, at the time when the radiations are received is obtained on the basis of reception times by the sensors. …(略)…
(訳文: 以上の説明は、複数の異なる場所からの放射を移動体上のセンサで受信し、放射を受信した時刻における移動体の位置をセンサによる受信時刻を基に求める場合に対しても、全く同様にあてはまるものである。…(略)…)」

上記(1)ないし(3)の記載によれば、引用文献6には、以下の技術事項が記載されている。

「異なる場所に配置された複数のセンサを用いて船舶、自動車、人工衛星等の移動体からの音波、電磁波等の放射エネルギーを受信し、当該複数のセンサで測定される受信時刻を基に、移動体の位置を正確に測定する方法、又は、船舶、自動車、人工衛星等の移動体上に配置された1つのセンサを用いて複数の異なる場所からの音波、電磁波等の放射エネルギーを受信し、当該センサで測定される複数の受信時刻を基に、移動体の位置を正確に測定する方法に関し(第1欄第5行から第18行)、
特に、異なる場所に配置された複数のセンサS_(i)(i=1,2,…,n)を用いて移動体の推定位置を算出する場合においては(第1欄第19行から第25行)、
最小二乗法による移動体の位置推定を実現する代表的な方法として、双曲面測位方式(2つの受信時刻の差が一定となる、空間内の複数の双曲面の交わる点を移動体位置とし、複数のセンサにおける放射の2つの受信の時刻差を用いてそのような点を決定する方式)と、球面測位方式(移動体からの放射の発信時刻が既知であるという仮定の下で、各センサを中心として放射の伝搬時間が一定となる球面の交わる点を移動体位置とする方式)とが知られているが、双曲面測位方式は、計算した移動体位置がいつの時点のものであるかを知ることが困難であり、また、位置計算に長い処理時間を要するのに対し、球面測位方式は、位置計算のための処理時間はより短いが、放射の発信時刻が分からないと用いることができないものであるため、移動体とセンサ群の間の幾何学的関係と種々の制約条件を考慮していずれか一方の測位方式を用いることとし(第1欄第25行から第31行、同欄第64行から第2欄第2行、同欄第23行から第29行、同欄第63行から第3欄第10行)、
幾何学的精度低下率(GDOP)によれば球面測位方式を用いるのが望ましいとされるとき(G_(H)>G_(S)のとき)に、パルスが発信された時刻T^(*)の推定値が使用可能か否かをチェックし、使用可能の場合には球面測位方式を実行するが、使用不可能の場合には双曲面測位方式を実行することとし(第9欄第37行から第42行、第10欄第45行から第50行、同欄第62行から第11欄第2行)、
発信時刻T^(*)の推定値は、双曲面測位方式により計算される移動体の位置(x^,y^,z^)、予め測定したn個のセンサS_(i)の位置(α_(i),β_(i),γ_(i))及びn個のセンサS_(i)が放射を受信した時刻t_(i)の情報を用いた式

による推定を所定回数だけ実行すると使用可能となり(第11欄第3行から第7行、同欄第12行から第24行)、
以上の説明は、複数の異なる場所からの放射を移動体上のセンサで受信し、放射を受信した時刻における移動体の位置をセンサによる受信時刻を基に求める場合に対しても、全く同様にあてはまるものである(第12欄第4行から第9行まで)。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。

ア 引用発明の「移動する測位対象」である「受信手段」のある時点における位置が、本願発明1の「第1の位置」に相当し、当該位置にある「移動する測位対象」である「受信手段」が、本願発明の「第1の位置にある受信装置」に相当する。
また、引用発明の「3点以上の既知点に」「設置」される「超音波送信手段(超音波送信局)」の各々は、本願発明1の「音波信号源のセットの各音波信号源」に相当する。
よって、引用発明の「3点以上の既知点に超音波送信手段(超音波送信局)を設置し、移動する測位対象を受信手段として、受信側の自己位置を測位する方法」における「送信部の超音波送信機より空間中に送信された超音波が、超音波受信機402により受信され」るという事項が、本願発明1の「第1の位置にある受信装置により、音波信号源のセットの各音波信号源から音波信号を受信するステップ」に相当する。

イ 引用発明において、「送信側(複数の送信局・送信機)から送られてくる各送信信号が固有の疑似雑音符号で変調されており、したがって、受信側で受信超音波を逆拡散する際には前記疑似雑音符号と同じ疑似雑音符号を使用して復調することが必要となり、実質的に各々の信号にはそれぞれ異なった暗号の鍵が割り当てらていることとなって」いることから、「各送信信号」は送信手段(送信局)ごとに異なっているといえる。
また、引用発明においては、「逆拡散による復調が施されて、送信元の送信機が各々特定され」る際に、「送信側(複数の送信局・送信機)」の「固有の疑似雑音符号」「と同じ疑似雑音符号を使用して復調」することから、この際には「送信元」を一意に識別可能であるといえる。
さらに、引用発明においては、「逆拡散による復調が施されて、送信元の送信機が各々特定され」る際の「逆拡散による復調」を、「複数の送信機の送信部で生成される2進符号信号を含む信号により相関処理部410において相関処理を行うこと」で施しており、つまり、「複数の送信機の送信部で生成される」信号との相互相関をとることに基づいて行っている。
よって、引用発明は、本願発明1の「各音波信号源から発信される前記音波信号は、別の音波信号源から発信される前記音波信号とは異なり、各音波信号源は、前記音波信号内で提供される情報に基づいて、前記セット内で一意に識別可能であり、各音波信号源を識別することは、前記受信された音波信号と既知の発信される音波信号との相互相間をとることに基づく」(ただし、「相互相間」は「相互相関」の誤記)に相当する特徴を備えていると認められる。

ウ 引用発明においては、「受信側で受信超音波を逆拡散する際には前記疑似雑音符号と同じ疑似雑音符号を使用して復調することが必要となり、実質的に各々の信号にはそれぞれ異なった暗号の鍵が割り当てらていることとなっており、この場合、受信側において目的の信号以外は干渉波とみなされ、排除」されることから、受信側において「目的の信号」すなわち「送信側(複数の送信局・送信機)から送られてくる各送信信号」を選択しており、このことは、本願発明の「前記音波信号源のサブセットから受信された音波信号を選択するステップ」に相当するといえる。
また、引用発明においては、「送信局600-1、600-2、600-3、600-4が設置される各既知点について、各既知点の位置情報と設置される局の局情報(送信元情報)は、予め測位処理を行う受信側において2進符号データ等として保持されて」おり、このことは、本願発明の「選択された音波信号を提供した各音波信号源の位置は前記受信装置に既知である」という事項に相当するといえる。

エ 引用発明は、「少なくとも3箇所の送信手段から同期送信された各々の超音波信号を受信して、受信時刻と送信時刻から送信手段と受信手段の距離を各々算出し、各送信手段の位置と該各送信手段と受信手段の距離との関係から受信手段の位置を決定」するという方法と「少なくとも4箇所の送信手段から同期送信された各々の超音波信号を受信して、受信時刻と送信時刻から信号の伝搬時間を各々算出し、各伝搬時間の差分により同期誤差を消去して送信手段と前記受信手段の距離を各々算出し、各送信手段の位置と該各送信手段と受信手段の距離との関係から受信手段の位置を決定」するという方法のいずれかによって「受信手段の位置を決定」するものである。
これらの2つの方法のうちの後者の方法における「各伝搬時間の差分」は、本願発明1の「差分到着時間測定値」に相当する。
よって、引用発明の上述の2つの方法のうちの後者の方法の「各伝搬時間の差分により同期誤差を消去して送信手段と前記受信手段の距離を各々算出し、各送信手段の位置と該各送信手段と受信手段の距離との関係から受信手段の位置を決定」するという事項は、本願発明の「差分到着時間測定値を用いて、前記音波信号源の前記サブセットの前記既知の位置に対する前記受信装置の前記第1の位置を決定するステップ」に相当する。

オ 引用発明は、「少なくとも3箇所の送信手段から同期送信された各々の超音波信号を受信して、受信時刻と送信時刻から送信手段と受信手段の距離を各々算出し、各送信手段の位置と該各送信手段と受信手段の距離との関係から受信手段の位置を決定」するという方法と「少なくとも4箇所の送信手段から同期送信された各々の超音波信号を受信して、受信時刻と送信時刻から信号の伝搬時間を各々算出し、各伝搬時間の差分により同期誤差を消去して送信手段と前記受信手段の距離を各々算出し、各送信手段の位置と該各送信手段と受信手段の距離との関係から受信手段の位置を決定」するという方法のいずれかによって「受信手段の位置を決定」するものであり、さらに、「複数の既知点たる各送信局600-1、600-2、600-3、600-4と、測位対象たる受信機610-1、610-2との距離関係が、各伝搬時間から各々導出され、3点測量の原理により受信機610-1、610-2の位置を特定することが可能となるが、3点の測定値のみでは送信側と受信側の時計の同期誤差が残ってしまい、高精度な測位が実現できないため、既知点に設置する送信局を3局から1局増やして4局とし、伝搬時間測定値について相互の差分をとれば、送信側と受信側の時計誤差(同期誤差)を取り除くことが可能となる(すなわち、各測位対象につき同期信号の測定値が4個の場合、時計誤差のとれた3個の独立した測定値の差分値が得られ、この3個の差分値に基づいて測位対象の3次元の位置を算出することが可能となる)」ものとされている。
ここで、「既知点に設置する送信局を3局から1局増やして4局とし」とは、上述の2つの方法のうちの前者の方法で送信局を「3局」とした場合に対して後者の方法で送信局を「1局増やして4局」とするということを意図したものであって、また、「各測位対象につき同期信号の測定値が4個の場合、時計誤差のとれた3個の独立した測定値の差分値が得られ、この3個の差分値に基づいて測位対象の3次元の位置を算出することが可能となる」とは、上述の2つの方法のうちの前者の方法では3次元の位置(例えば、座標x、y、z)という3つの未知パラメータの値を求めるため、「3局」から同期送信された各々の超音波信号に関する3個の独立した測定値を用いるのに対し、後者の方法では3次元の位置(例えば、座標x、y、z)の他に時計誤差(同期誤差)という全部で4つの未知パラメータがあり、「1局増やして4局」から同期送信された各々の超音波信号に関する4個の独立した測定値において、まずは伝搬時間測定値の差分をとることにより、「時計誤差のとれた」(つまり未知パラメータが1つ減った)「3個の独立した測定値の差分値が得られ」、これを用いて残りの3つの未知パラメータである3次元位置を求めるということを意図したものであることが明らかである。そして、この場合に、前者の方法では3次元の位置(例えば、座標x、y、z)という3つの未知パラメータの値を求めるために、伝搬時間測定値の差分をとらないということも(もし差分をとれば、3つの未知パラメータの値を求めるために必要な3つの測定値が確保できないため)明らかなことである。
よって、引用発明の上述の2つの方法のうちの前者の方法で送信局を「3局」とした場合と、本願発明1の「前記第1の位置に続く前記受信装置の第2の位置を、前記第1の位置で受信された前記音波信号源の前記サブセットより少数の音波信号源から当該第2の位置で受信された音波信号の非差分の到着時間測定値と前記タイミング基準とに基づいて決定するステップ」とは、「受信装置の位置を、差分到着時間測定値を用いた位置決定を行う場合の音波信号源のサブセットより少数の音波信号源から受信された音波信号の非差分の到着時間測定値に基づいて決定するステップ」であるという点で共通する。

(2) 一致点及び相違点
上記(1)の対比の結果をまとめると、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

ア 一致点

「第1の位置にある受信装置により、音波信号源のセットの各音波信号源から音波信号を受信するステップであり、各音波信号源から発信される前記音波信号は、別の音波信号源から発信される前記音波信号とは異なり、各音波信号源は、前記音波信号内で提供される情報に基づいて、前記セット内で一意に識別可能であり、各音波信号源を識別することは、前記受信された音波信号と既知の発信される音波信号との相互相関をとることに基づく、ステップと、
前記音波信号源のサブセットから受信された音波信号を選択するステップであり、選択された音波信号を提供した各音波信号源の位置は前記受信装置に既知である、ステップと、
を有し、さらに、
差分到着時間測定値を用いて、前記音波信号源の前記サブセットの前記既知の位置に対する前記受信装置の前記第1の位置を決定するステップと、
前記受信装置の位置を、差分到着時間測定値を用いた位置決定を行う場合の前記音波信号源の前記サブセットより少数の音波信号源から受信された音波信号の非差分の到着時間測定値に基づいて決定するステップ、
のうちの少なくとも一方のステップを有する方法。」

イ 相違点

(ア) 相違点1
「前記音波信号源のサブセットから受信された音波信号を選択するステップ」において、本願発明1では、「選択される音波信号は、反射した音波信号を除外する信頼性条件を満足」するのに対して、引用発明では、そのようになっているかどうかが不明である点。

(イ) 相違点2
「差分到着時間測定値を用いて、前記音波信号源の前記サブセットの前記既知の位置に対する前記受信装置の前記第1の位置を決定するステップ」及び「前記受信装置の位置を、差分到着時間測定値を用いた位置決定を行う場合の前記音波信号源の前記サブセットより少数の音波信号源から受信された音波信号の非差分の到着時間測定値に基づいて決定するステップ」について、本願発明1は、両ステップを含むものであり、前者の「差分到着時間測定値を用いて」「位置を決定するステップ」に続く「前記第1の位置と前記サブセット内の前記音波信号源の各々の位置との間で計算された距離に基づいて、捕捉された各音波信号のタイミング基準を決定するステップ」をさらに含み、後者の「非差分の到着時間測定値に基づいて決定するステップ」は、「前記第1の位置に続く前記受信装置の第2の位置」を、「当該第2の位置で受信された音波信号の非差分の到着時間測定値と前記タイミング基準とに基づいて決定する」ものであるのに対して、引用発明は、両ステップのうちのいずれかを含むものであり、前者のステップに続く「前記第1の位置と前記サブセット内の前記音波信号源の各々の位置との間で計算された距離に基づいて、捕捉された各音波信号のタイミング基準を決定する」ステップを含んでいない点。

(3) 相違点についての判断
事案に鑑みて、相違点2について先に検討する。
まず、相違点2に係る本願発明1の構成のうち、「前記第1の位置と前記サブセット内の前記音波信号源の各々の位置との間で計算された距離に基づいて、捕捉された各音波信号のタイミング基準を決定するステップ」を含むという点について、本願明細書の段落0015の「DTOA測定及びマルチラテレーションを用いて買い物客102の当初位置が決定されると、音波ベース位置特定アプリケーションは、各音波信号のタイミング基準を計算することができる(例えば、音波信号源と受信装置との間の知られた距離に基づいて、対応する音波信号源が送信及び/又は送信停止した時間を計算することができる)。これらの基準を所与として、音波ベース位置特定アプリケーションは、非差分TOA測定に切り換わり、マルチラテレーション段階で使用される音波信号源より少ない音波信号源を用いて正確な位置特定を可能にすることができる。」(下線は合議体が付したものである。)との記載を参酌すれば、「捕捉された各音波信号のタイミング基準を決定する」とは、「前記第1の位置と前記サブセット内の前記音波信号源の各々の位置との間で計算された」複数の距離の各々に基づいて、対応する複数の「タイミング基準」をそれぞれ「決定する」ということであると解釈される。かかる解釈は、請求人が請求の理由において、「引用文献6(又は引用文献7)は、「前記第1の位置と前記サブセット内の前記音波信号源の各々の位置との間で計算された距離に基づいて、捕捉された各音波信号のタイミング基準を決定する」(下線は強調付加)に相当する構成を開示も教示もしておりません。」、「仮に、引用文献6(又は引用文献7)に記載された発信時刻の推定を、「…(略)…」(引用文献6の請求項12からの抜粋)にまで拡張することができたとしまして、それは、複数の異なる場所にある複数のエミッタに共通の1つの発信時刻の推定を可能にするのみとなります。このことは、引用文献6の第11欄の式(25)(又は引用文献7の第3頁左上欄の最終行の式)から明らかであります。この式は、「前記第1の位置と前記サブセット内の前記音波信号源の各々の位置との間で計算された距離に基づいて、捕捉された各音波信号のタイミング基準を決定する」(下線は強調付加)を可能にすることはできません。」と主張していることとも整合する。
そうすると、引用発明が相違点2に係る本願発明1の構成を備えるようにするには、引用発明において、「少なくとも3箇所の送信手段から同期送信された各々の超音波信号を受信して、受信時刻と送信時刻から送信手段と受信手段の距離を各々算出し、各送信手段の位置と該各送信手段と受信手段の距離との関係から受信手段の位置を決定」するという方法と「少なくとも4箇所の送信手段から同期送信された各々の超音波信号を受信して、受信時刻と送信時刻から信号の伝搬時間を各々算出し、各伝搬時間の差分により同期誤差を消去して送信手段と前記受信手段の距離を各々算出し、各送信手段の位置と該各送信手段と受信手段の距離との関係から受信手段の位置を決定」するという方法の両方の方法を行うようにし、特に後者の「各伝搬時間の差分」による方法を「4局」の送信局を用いて行った後で、決定した受信手段の位置と「4局」の送信手段の各々の位置との間の(4つの)距離を計算し、それらの各々に基づいて各超音波信号に対応する(4つの)タイミング基準をそれぞれ決定し、決定したタイミング基準に基づいて前者の「各伝搬時間の差分」によらない方法を「3局」の送信局を用いて行う必要がある。
ところが、引用発明は、「単独に、もしくは何れかの送信局に同期制御用の時計を1個設置し、この時計に基づき、一定の時間間隔で定期的に時間情報(時計のカウンタ数)をLANで各送信局に送ることで、各送信局は自局の時計を制御用の時計に同期させ、これにより全ての送信局の時計が同期することとなって」いるものであり、つまり、1つのタイミング基準に複数の送信局の時計を同期させるものとなっており、各送信局に対応するタイミング基準をそれぞれ決定するといったことは、記載も示唆もされていない。
そして、引用文献2、引用文献3及び引用文献6のいずれも、引用発明において、「4局」の送信局を用いて「各伝搬時間の差分」により決定した受信手段の位置と「4局」の送信手段の各々の位置との間の(4つの)距離を計算し、それらの各々に基づいて各超音波信号に対応する(4つの)タイミング基準をそれぞれ決定し、決定したタイミング基準に基づいて「各伝搬時間の差分」によらずに「3局」の送信局を用いた位置決定を行うといったことを示唆するものではない。
特に、引用文献6には、「異なる場所に配置された複数のセンサS_(i)(i=1,2,…,n)を用いて移動体の推定位置を算出する場合において」、「移動体とセンサ群の間の幾何学的関係と種々の制約条件を考慮し」、「双曲面測位方式(2つの受信時刻の差が一定となる、空間内の複数の双曲面の交わる点を移動体位置とし、複数のセンサにおける放射の2つの受信の時刻差を用いてそのような点を決定する方式)と、球面測位方式(移動体からの放射の発信時刻が既知であるという仮定の下で、各センサを中心として放射の伝搬時間が一定となる球面の交わる点を移動体位置とする方式)」の「いずれか一方の測位方式を用いること」が記載されており、これが「複数の異なる場所からの放射を移動体上のセンサで受信し、放射を受信した時刻における移動体の位置をセンサによる受信時刻を基に求める場合に対しても、全く同様にあてはまるものである」とされていることから、引用文献6には、「複数の異なる場所からの放射を移動体上のセンサで受信し、放射を受信した時刻における移動体の位置をセンサによる受信時刻を基に求める場合」において、「移動体と」「複数の異なる場所」「の間の幾何学的関係と種々の制約条件を考慮し」、「双曲面測位方式」(この場合には、「複数の異なる場所」からの放射のセンサにおける「2つの受信の時刻差を用いて」「移動体位置」「を決定する方式」)と、「球面測位方式」(この場合には、「複数の異なる場所」「からの放射の発信時刻が既知であるという仮定の下で」、各場所を「中心として放射の伝搬時間が一定となる球面の交わる点を移動体位置とする方式」)の「いずれか一方の測位方式を用いること」も記載されているといえる。そして、この場合の「双曲面測位方式」は、「各伝搬時間の差分」により位置決定を行う方式であって、「球面測位方式」は、「各伝搬時間の差分」によらずに位置決定を行う方式である。
しかしながら、引用文献6では、「各伝搬時間の差分」により決定した移動体の位置と複数の異なる場所との間の(複数の)距離を計算し、それらの各々に基づいて複数の異なる場所からの各放射に対応する(複数の)タイミング基準をそれぞれ決定し、決定したタイミング基準に基づいて「各伝搬時間の差分」によらない位置決定を行うといったことまでは記載も示唆もされていない。すなわち、引用文献6には、「異なる場所に配置された複数のセンサS_(i)(i=1,2,…,n)を用いて移動体の推定位置を算出する場合において」、「双曲面測位方式により計算される移動体の位置(x^,y^,z^)、予め測定したn個のセンサS_(i)の位置(α_(i),β_(i),γ_(i))及びn個のセンサS_(i)が放射を受信した時刻t_(i)の情報を用いた式

による推定を所定回数だけ実行する」ことにより「発信時刻T^(*)の推定値」が「使用可能となり」、「使用可能の場合には球面測位方式を実行する」ことが記載されており、これが「複数の異なる場所からの放射を移動体上のセンサで受信し、放射を受信した時刻における移動体の位置をセンサによる受信時刻を基に求める場合に対しても、全く同様にあてはまるものである」とされていることから、引用文献6には、「複数の異なる場所からの放射を移動体上のセンサで受信し、放射を受信した時刻における移動体の位置をセンサによる受信時刻を基に求める場合」において、「双曲面測位方式により計算される移動体の位置(x^,y^,z^)」、「予め測定したn個の」「複数の異なる場所」の「位置(α_(i),β_(i),γ_(i))及びn個の」「複数の異なる場所」からの「放射を受信した時刻t_(i)の情報を用いた式

による推定を所定回数だけ実行する」ことにより「発信時刻T^(*)の推定値」が「使用可能となり」、「使用可能の場合には球面測位方式を実行する」ことも記載されているといえる。しかし、請求人も主張するように、これによって得られる「発信時刻T^(*)の推定値」は、「複数の異なる場所」に共通の1つの値であって、複数の距離の各々に基づいてそれぞれ決定される複数の「タイミング基準」ではない。よって、引用文献6には、本願発明1のように「前記第1の位置と前記サブセット内の前記音波信号源の各々の位置との間で計算された距離に基づいて、捕捉された各音波信号のタイミング基準を決定するステップ」を含むということが記載されておらず、また、そのようにすることが引用文献6の記載から自明ということもできない。
また、引用文献2及び引用文献3は、本願発明1のような、「差分到着時間測定値」を用いて位置を決定する方法と 「非差分の到着時間測定値」に基づいて位置を決定する方法の両方を用いて位置を決定することに言及するものではないため、相違点2に係る本願発明1の構成を開示するものではない。
したがって、相違点2に係る本願発明1の構成は、引用発明と、引用文献2、引用文献3及び引用文献6に記載された技術事項とに基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。

(4) 本願発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、相違点1を検討するまでもなく、引用文献1ないし引用文献3及び引用文献6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2 本願発明2ないし本願発明7について
本願発明2ないし本願発明7は、本願発明1の構成を全て含むから、少なくとも本願発明1と引用発明との相違点(上記1(2)イ)で引用発明と相違する。
そして、上記1(3)のとおり、相違点2に係る本願発明1の構成は、引用発明と引用文献2、引用文献3及び引用文献6に記載された技術事項とに基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるということはできないから、相違点2に係る本願発明2ないし本願発明7の構成も同様である。
したがって、本願発明2ないし本願発明7は、引用文献1ないし引用文献3及び引用文献6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

3 本願発明8について
本願発明8は、本願発明1に係る方法を実行するシステムの発明であって、相違点2に係る本願発明1の構成に対応する構成、すなわち、「差分到着時間測定値を用いて、前記音波信号源の前記サブセットの前記既知の位置に対する前記受信装置の前記第1の位置を決定する、ように構成された前記受信装置の音波ロケータであり、前記第1の位置と前記サブセット内の前記音波信号源の各々の位置との間で計算された距離に基づいて、捕捉された各音波信号のタイミング基準を決定し、且つ前記第1の位置に続く前記受信装置の第2の位置を、前記第1の位置で受信された前記音波信号源の前記サブセットより少数の音波信号源から当該第2の位置で受信された更なる音波信号の非差分の到着時間測定値と前記タイミング基準とに基づいて決定する、ように更に構成された音波ロケータ」を備えるものである。
そして、上記1(3)で述べたのと同様に、特に「前記第1の位置と前記サブセット内の前記音波信号源の各々の位置との間で計算された距離に基づいて、捕捉された各音波信号のタイミング基準を決定」するということが引用文献6において記載も示唆もされておらず、また、引用文献2及び引用文献3もその点を開示するものではないため、この構成は、引用発明と引用文献2、引用文献3及び引用文献6に記載された技術事項とに基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。
したがって、本願発明8は、引用文献1ないし引用文献3及び引用文献6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

4 本願発明9について
本願発明9は、本願発明1に係る方法の一部を含むプロセスを電子装置上で実行するためのコンピュータプログラムの発明であって、相違点2に係る本願発明1の構成に対応する構成、すなわち、「差分到着時間測定値を用いて、前記音波信号源の前記サブセットの前記既知の位置に対する前記受信装置の前記第1の位置を決定するステップと、 前記第1の位置と前記サブセット内の前記音波信号源の各々の位置との間で計算された距離に基づいて、捕捉された各音波信号のタイミング基準を決定するステップと、 前記第1の位置に続く前記受信装置の第2の位置を、前記音波信号源の前記サブセットのうちの少なくとも一部から当該第2の位置で受信された更なる音波信号に基づく非差分の到着時間測定値と前記タイミング基準とに基づいて決定する、ステップ」を備えるものである。
そして、上記1(3)で述べたのと同様に、特に「前記第1の位置と前記サブセット内の前記音波信号源の各々の位置との間で計算された距離に基づいて、捕捉された各音波信号のタイミング基準を決定する」ということが引用文献6において記載も示唆もされておらず、また、引用文献2及び引用文献3もその点を開示するものではないため、この構成は、引用発明と引用文献2、引用文献3及び引用文献6に記載された技術事項とに基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるということはできない。
したがって、本願発明9は、引用文献1ないし引用文献3及び引用文献6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

第6 原査定について
上記第5のとおり、本願発明1ないし本願発明9は、引用文献1ないし引用文献3及び引用文献6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
したがって、原査定の理由は、維持することができない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願は拒絶をするべきものであるということはできない。
また、他に、本願は拒絶をするべきものであるとする理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-12-05 
出願番号 特願2014-533559(P2014-533559)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中村 説志  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 清水 稔
櫻井 健太
発明の名称 音波ベースの位置特定  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ