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審決分類 審判 査定不服 出願日、優先日、請求日 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1346624
審判番号 不服2017-6627  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-09 
確定日 2018-11-28 
事件の表示 特願2013-555596「遺伝子改変動物、およびそれを作製する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年8月30日国際公開、WO2012/116274、平成26年4月17日国内公表、特表2014-509195〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年2月24日を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年 2月19日 手続補正書
平成28年 2月23日付け 拒絶理由通知書
平成28年 7月27日 意見書・手続補正書
平成28年12月12日付け 拒絶査定
平成29年 5月 9日 審判請求書・手続補正書
平成29年 6月21日 手続補正書(方式)
平成29年11月14日 上申書
なお、本願では、米国における2011年(平成23年)2月25日の出願を優先権の主張の基礎として、パリ条約による優先権を主張している。

第2 本願発明
本願に係る発明は、平成29年5月9日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし27に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 胚割球、胎仔線維芽細胞、成体耳部線維芽細胞、顆粒膜細胞、体細胞、生殖細胞、幹細胞、もしくは胚細胞、またはインビトロ受精胚を、TALENをコードする核酸に接触させることを含む、外来性マーカー遺伝子を使用せずに、偶蹄目において標的化ゲノム改変を行う方法。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし3及び8ないし11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1ないし8に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用例1:J Anim Sci, 2011年10月(Epub), Vol.90, No.4, pp.1111-1117.
引用例2:Proc Natl Acad Sci U S A, 2011年7月, Vol.108, No.29, pp.12013-12017.
引用例3:Biochem Biophys Res Commun, 2010年11月, Vol.402, No.1, pp.14-18.
引用例4:Nat Biotechnol, 2011年8月, Vol.29, No.8, pp.695-696.
引用例5:Zebrafish, 2011年9月, Vol.8, No.3, pp.147-149.
引用例6:PLoS One, 2011年12月, Vol.6, No.12, e28897.
引用例7:国際公開第2011/011767号
引用例8:国際公開第2010/143917号

第4 本願の優先権主張について
本願では、米国における2011年(平成23年)2月25日の出願(出願番号61/446651。以下、この出願を「第一国出願」という。)を優先権の主張の基礎として、パリ条約による優先権を主張しているところ、前記第3に示した引用例には、上記第一国出願の日以降に頒布された引用例が含まれることから、優先権主張の効果について検討する。
本願発明は、TALENにより偶蹄目の標的化ゲノム改変を行う方法であり、従来、いずれの者も行ったことがない方法であることから、明細書に当該方法についての具体的な手順や、使用する材料等(改変の対象となる生物種とその細胞の種類並びにその入手方法、対象ゲノムとその配列、改変の態様、相同組換えを行う場合にあってはその鋳型の配列、TALENを細胞に導入する具体的な方法、細胞培養の条件、といった事項)と、その結果(結果を得るための具体的な手段を含む)を実施例として詳細に記述することにより、本願発明が発明の詳細な説明に記載されたものであり、また、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ充分に記載したものであるということができるものである。そして、本願の明細書には、実施例として1ないし8(本願発明に対応する実施例は、実施例1、3、6及び7)が記載されているところ、第一国出願の出願書類には、これらの実施例は記載されていない。また、第一国出願の日当時、偶蹄目動物を含め、哺乳類に属する生物の胚割球、胎仔線維芽細胞、成体耳部線維芽細胞、顆粒膜細胞、体細胞、生殖細胞、幹細胞、若しくは胚細胞、又はインビトロ受精胚について、TALENによる標的化ゲノム改変が実施可能であるという技術常識は存在しなかった。そうしてみると、第一国出願の出願書類には、本願発明が開示されていたということはできず、本願の明細書は、第一国出願の出願書類には記載のなかった実施例を本願の出願時に追加したものであって、本願の出願時に新たな技術的事項を導入したものである。したがって、本願は優先権主張の効果を認めることはできない。
この点について、請求人は、本願発明を特定するために使用されている技術用語が第一国出願の出願書類に記載されており、また、TALENによるゲノム編集のストラテジーが第一国出願の出願書類に記載されている旨を主張する。しかし、本願発明が第一国出願の出願書類に開示されているというためには、単に、本願発明を特定するために使用されている技術用語が第一国出願の出願書類に記載されているのみでは足らず、本願発明についての実施例の記載が必要であることは上述したとおりであるし、請求人が述べる第一国出願の出願書類に記載されているTALENによるゲノム編集のストラテジーとは、ZFNによるゲノム編集のストラテジーにおけるZFNをTALENに単に置き換えたものであり、そのようなストラテジーが第一国出願の出願書類に記載されているとしても、そのことによって、第一国出願の出願書類に本願発明が開示されていたということはできない。したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。
また、請求人は、第一国出願の出願書類には、Nat Biotechnol, 2011年2月, Vol.29, No.2, pp.143-148. が添付されており、斯かる論文にはTALENの作製方法が記載されている旨も主張する。しかし、上記論文においても胚割球、胎仔線維芽細胞、成体耳部線維芽細胞、顆粒膜細胞、体細胞、生殖細胞、幹細胞、若しくは胚細胞、又はインビトロ受精胚のゲノム改変を行ったことは具体的に記載されておらず、上記論文にTALENの作製方法が記載されていても、そのことにより、第一国出願の出願書類に本願発明が開示されていたということはできない。したがって、請求人の上記主張も採用することはできない。

第5 引用例の記載
1 引用例2
原査定で引用された、本願出願日前の2011年7月に頒布されたProc Natl Acad Sci U S A, Vol.108, No.29, pp.12013-12017.には以下の事項が記載されている。(引用例2は英語で記載されているので訳文で示す。また、下線は当審で付与した。)

(1) 表題の項
「ジンクフィンガーヌクレアーゼを用いたブタの両アレルノックアウトの効率的な作製」

(2) 要約の項
「ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、高効率で遺伝子ノックアウト(KO)を作製する強力な手段である。ZFNによる遺伝子破壊は、マウス、ラット及びショウジョウバエのような実験動物では実証されているが、大きな家畜の内因性遺伝子を破壊するためには使用されていない。この研究において、我々は、ブタのα1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ(GGTA1)遺伝子の両アレルノックアウトを誘発するためにZFNを使用した。初代ブタ線維芽細胞を、GGTA1の触媒中心をコードする領域を標的として設計されたZFNで処理したところ、処理した細胞の約1%で、両アレルノックアウトが生じた。これらの細胞をガラクトース(Gal)エピトープカウンターで選択した集団を体細胞核移植(SCNT)に用いた。誕生した6つの胎仔、全てがGalエピトープを完全に欠き、用いたドナー細胞集団とは表現型で区別できなかったことは、ZFNによる遺伝子改変がクローニングプロセスを妨害しないことを示す。オフターゲット切断事象も、ZFNをコードするプラスミドの組込みも検出されなかった。GGTA1-KO表現型は、GGTA1がノックアウトされた線維芽細胞が、野生型の細胞と比較して保護されることを示す補体溶解アッセイによって確認された。GGTA1がノックアウトされた胎仔の細胞、及びプールされトランスフェクトされた細胞が、SCNTによる子孫を作製するために使用された。この研究論文は、内因性遺伝子のZFNが誘導した両アレルノックアウトを有するクローンブタの作製について報告する。これらの発見は、農業及び生物医学の両者に利益をもたらす遺伝子KOブタの作製に向けたユニークな道を開く。」(12013ページ左欄1?24行)

(3) 序論の項
ア 「・・・α1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子は、ブタのすべての組織の細胞表面にあるGalエピトープの生成に関与する酵素をコードする。Galエピトープは、ブタを霊長類に移植する際の重要な抗原で、予め形成された抗体と結合することにより超急性拒絶(HAR)反応を生じる(13)。」(12013ページ右欄9?13行)
イ 「ZFNは、α1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ酵素の触媒ドメインをコードするDNAを標的とするように設計され、・・・」(12013ページ右欄23?24行)

(4) 結果(Results)
「ZFNの設計及びGGTA1-KO細胞の作製
ZFNは、酵素の触媒領域をコードするGGTA1の一部分(エクソン9)を標的とするように設計された。・・・体細胞核移植(SCNT)に適した初代ブタ線維芽細胞にトランスフェクトした場合、イソレクチンB4結合FITCで染色された細胞のFACS分析の結果、ZFN処理細胞の1%が完全にGal^(-)であった(図2)。ZFN処理細胞を上記レクチンで対抗選択し、GGTA1遺伝子の破壊及びGal発現について分析した。GGTA1のPCR産物のSurveyorヌクレアーゼアッセイは、標的領域におけるZFN誘発変異が多く存在することを示した;FACS分析の結果、これらの細胞の99%がGal^(-)であることを示した。」(12013ページ右欄32行?12014ページ左欄3行)

(5) 材料と方法(Materials and Methods)
「細胞培養及び細胞のトランスフェクション
初代ブタ胎仔線維芽細胞を、参考文献2に示されたように25日齢の胎仔から得、・・・を添加したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(・・・)で7代継代培養した(バッチ番号・・・)。3×10^(6)の細胞をトリプシン処理(・・・)し、PBS(・・・)で洗浄し、遠心分離し、各ZFNプラスミドの7.5μgのDNAを含む800μLのエレクトロポレーション緩衝液(・・・)に懸濁した。」(12016ページ右欄21?31行)

2 引用例4
原査定で引用された、本願出願日前の2011年8月に頒布された,Nat Biotechnol, Vol.29, No.8, pp.695-696.には以下の事項が記載されている。(引用例4は英語で記載されているので訳文で示す。また、下線は当審で付与した。)
(1) 表題の項
「胚へのTALENの顕微注入によって作製されたノックアウトラット」

(2) 「非常に活性な転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)の最近の報告^(1)は、我々に、実験ラットを用いたin vivo遺伝子処理の有用性を探求するように促した。ラットは、ヒトの疾患及び毒物学のモデルに適しており、貴重な実験動物である。ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)技術とラットの胚性幹細胞の単離は、ラットゲノムの標的改変を可能にした^(2-5)。近年、キサントモナス由来の転写活性化因子様(TAL)エフェクタータンパク質が、配列特異的DNA認識の明らかに単純な規則のために、多くの関心を引いている。いくつかの研究グループがTALエフェクタータンパク質にFokIヌクレアーゼドメインを融合しTALENを作製している^(1, 8-12)。しかし、TALエフェクタータンパク質の最適な断片のみが、内因性遺伝子座の高頻度遺伝子破壊と標的化DNA組込みを可能にした^(1, 13, 14)。ここでは、我々はTALENを用いてラットのIgM遺伝子座を破壊し、IgM機能のない遺伝的変異を創出する。我々の結果は、哺乳動物におけるin vivo遺伝子ノックアウトのためのTALEN技術の使用を確立する。」(695ページ左欄2行?右欄2行)

(3) 「我々は、ラットIgMのエクソン2に対するTALENを作製し、ラットS16細胞のIgM遺伝子座を改変する能力を試験した(図1a及び補遺 配列)。TALENペアは、DNAとして送達された場合に染色体の約21%を修飾し、mRNAとして送達された場合には最大13%を修飾した(図1b)。我々は、これらの核酸をラットの胚^(2)に注入し、誕生した仔のIgM遺伝子座の変化を分析した(図1c)。すべての用量において、DNAを注入したラットの胚の7/74(9.5%)、及びmRNAを注入したラットの胚の51/88(58%)で、IgMが修飾された(表1)。mRNAを注入したIgM変異ラットでは、13/51(25%)で、両アレルがこの単一ステップで修飾され、いくつかは両方のアレルでIgM機能を排除すると予測されるフレームシフト変異を含んでいた(補遺 表1)。IgM変異の頻度はTALENの量に関係があり、10ng/μl及び4ng/μlのmRNAを注入したラットで、その割合が最も高い(75%)(表1)。」(695ページ右欄3?27行)

(4) 「ZFNは25を超えるラット遺伝子を破壊するために使用されている^(15)一方、この報告はTALENを用いたラット遺伝子ノックアウトの最初のものである。TALEN技術は適応例が少ないので、ラットの遺伝子破壊に関して、ZFNとTALENの最終的な比較はができない。しかし、ラットIgM遺伝子座を破壊するためのZFNの以前の使用^(2)は、IgMを標的とするように設計されたTALEN及びZFNの限定的な比較を可能にする。ヌクレアーゼをDNAとして顕微注入した場合、変異した動物の頻度は同一であった(9%、TALENでは7/74、ZFNでは18/198)が、mRNA注入では、TALENにおいてより高い頻度の改変動物をもたらした(59%対19%)。IgM TALEN注入後に得られた新生動物の全頻度は25%(162/642)で、IgM ZFN注射では13%(273/2079)^(2)であった。IgM ZFNと組み合わせたFokIヘテロ二量体の、IgM TALENと組み合わせたFokIヘテロ二量体(それらは、切断活性を増加させ、残留ホモ二量体化を排除して特異性を増加させる)への変更は、この相違を説明することができる(補遺 方法)。いずれにせよ、IgM TALENは、特にmRNAとして注入された場合、効率的な標的遺伝子破壊をもたらし、そして、以前に記載されたZFNでの研究と同等の挙動を示したことは明らかである。」(695ページ中央欄20行?右欄12行)

第6 引用発明
前記第5の1における引用例の摘記(特に下線部)より、引用例2には、「初代ブタ胎仔線維芽細胞を、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)をコードする核酸に接触させることを含み、当該細胞における1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ(GGTA1)遺伝子のノックアウトを行う方法。」についての発明が記載されているものと認められる。(以下、この発明を「引用発明」という。)

第7 本願発明と引用発明の対比・判断
(1) 対比
本願発明と引用発明を対比する。
本願明細書の段落【0004】には、「TALエフェクターとヌクレアーゼとの融合タンパク質(TALEN)は、細胞DNAの標的二重鎖切断を行うことが可能であり、これを用いて細胞に特異的遺伝子改変を行うことができる。」と記載されており、また、引用例2には、「ZFNは、・・・をコードするDNAを標的とするように設計され」と記載されている(前記第5の1(3)イ)ように、本願発明におけるTALEN及び引用発明におけるZFNは、いずれも標的とするDNA配列を特異的に認識するヌクレアーゼである点で共通する。また、本願明細書の段落【0091】に「・・・遺伝子改変偶蹄目動物家畜類(ブタ(swine))」と記載されているように、ブタは偶蹄目に属する動物である。そして、引用例2の要約(前記第5の1(2))では、ZFNによるGGTA1遺伝子のノックアウトのことを、「ZFNによる遺伝子改変」と表現していることからも明らかなように、遺伝子のノックアウトは遺伝子の改変の一種と認められる。さらに、引用発明の遺伝子をノックアウトする方法では、外来性マーカー遺伝子は使用されていない。
そうしてみると、本願発明と引用発明は、「胎仔線維芽細胞を、標的とするDNA配列を特異的に認識するヌクレアーゼをコードする核酸に接触させることを含む、外来性マーカー遺伝子を使用せずに、偶蹄目において標的化ゲノム改変を行う方法。」で一致し、標的とするDNA配列を特異的に認識するヌクレアーゼが、本願発明ではTALENであるのに対して、引用発明ではZFNである点において相違する。

(2) 判断
引用例4には、ラットの胚をTALENをコードする核酸に接触させ、IgM遺伝子のノックアウトを行う方法が記載されている(前記第5の2における摘記の下線部)。一方、引用例4には、ZFN技術とラットの胚性幹細胞の単離がラットのゲノムの標的改変を可能にしたところに、配列特異的DNA認識において明らかに単純な規則を有する新たに報告されたTALENは研究者に多くの関心を引き、引用例4を発表した研究グループに対し、TALEN技術をラットに適用しin vivo遺伝子処理の有用性を探求するように促した旨が記載されており((前記第5の2(2))、その結果、TALENをmRNAとして注入した場合には、ZFNの場合と比較して効率的な標的遺伝子破壊をもたらしたことが記載されている(前記第5の2(4))。また、引用例4には、「我々の結果は、哺乳動物におけるin vivo遺伝子ノックアウトのためのTALEN技術の使用を確立する。」とも記載されている(前記第5の2(3))。
このように、引用例4には、標的とするDNA配列を特異的に認識するヌクレアーゼを使用する遺伝子改変について、従前のZFNに代えて、DNA認識における単純な規則を有するTALENを用いたことが記載されており、また、ZFNと比較してTALENを用いた方が効率的に標的遺伝子を改変することができたことも記載されている。そうしてみると、このような引用例4に接した当業者であれば、引用発明において、標的とするDNA配列を特異的に認識するヌクレアーゼについて、ZFNをTALENに代えて遺伝子の改変を行うことを想到することは、格別の創意を要する事項とは認められない。
そして、本願発明において、偶蹄目であるブタ胎仔線維芽細胞の標的化遺伝子改変を行うことができたことは、これらの引用例の記載から当業者が予測可能な事項であって、本願発明が、引用発明との上記相違点に基づいて有利な効果を有しているものとも認められない。

(3) 請求人の主張について
ア 請求人は、ZFNとTALENは異なるヌクレアーゼである旨を主張する。しかし、前記(2)で述べたように、引用例4を発表した研究グループは、ゲノムの標的改変をZFNに代えてTALENで実施したうえで、両者の比較を行い、TALENを用いた方が効率的な場合があることを示している。そうしてみると、たとえ、ZFNとTALENが異なるものであったとしても、そのことにより、本願発明が進歩性を有するということはできず、請求人の主張には理由がない。
イ 請求人は、平成29年11月14日提出の上申書において補正案を提示し、当該補正案に係る発明は進歩性を有するので、補正の機会を希望する旨を主張しているので、念のため、以下に検討する。
補正案の請求項1に記載された発明は、次のとおりのものである。
「[請求項1] 初代細胞を、TALENをコードする核酸に接触させることを含む、外来性マーカー遺伝子を使用せずに、偶蹄目において内在性遺伝子の標的化ゲノム改変を行う方法。」(以下、この発明を「補正案発明」という。)
この補正案発明は、改変されるゲノムが含まれる細胞について、本願発明では、「胚割球、胎仔線維芽細胞、成体耳部線維芽細胞、顆粒膜細胞、体細胞、生殖細胞、幹細胞、もしくは胚細胞、またはインビトロ受精胚」と特定されていたものを「初代細胞」と特定し、また、ゲノムについて、「内在性遺伝子の」(標的化)ゲノムとの限定を行うものである。
しかし、まず、第一国出願の出願書類には、初代細胞についてTALENによる標的化ゲノム改変を行った実施例は記載されていないことから、前記第4で述べた理由と同様の理由により、補正案発明に優先権主張の効果を認めることはできない。また、引用発明におけるGGTA1遺伝子はブタの内在性遺伝子であることから、上記限定によっても、補正案発明と引用発明に相違点が生じるものではない。一方、改変されるゲノムが含まれる細胞を「初代細胞」と特定する点について、本願の発明の詳細な説明には、「初代細胞」について、「初代細胞という用語は、生きている動物から単離された細胞であって、組織から単離されて以来0?2回の複製が行われた細胞を意味する。」と定義して記載されているところ(段落【0018】。下線は当審で付与。)、引用発明における初代ブタ胎仔線維芽細胞は、25日齢の胎仔から得たものを7代継代培養したものである(前記第5の1(5))ことから、引用発明における初代細胞は、本願で定義された初代細胞には該当しない。しかしながら、引用例2や本願(実施例8)においても行われている体細胞核移植によるクローン化ブタの作製では、核移植する体細胞について、「体細胞の体外での長時間の培養は染色体異常などの核の変異をもたらす可能性がある。そのため、できるだけ新鮮な細胞の核を利用することがクローン作製に有利と思われる」ことが、「ブタ体細胞クローン作製技術」という表題の総説(日豚会誌, 2004, Vol.41, No.2, pp.49-58.)の51ページ左欄21行?右欄2行、「4. ドナー細胞」の項に記載されている。そうしてみると、最終的な遺伝子が改変されたブタの作製を考慮した場合に、引用発明における初代ブタ胎仔線維芽細胞についても、胎仔から単離されものを7代継代培養したものから、単離後0?2回の複製が行われた細胞というように、できるだけ新鮮な細胞を使用することは、当業者であれば容易に想到可能な事項である。
したがって、請求人が上申書において提示した補正案に係る発明も当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求人の主張には理由がなく、補正を行う機会を与える合理的な理由はない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-06-26 
結審通知日 2018-07-03 
審決日 2018-07-17 
出願番号 特願2013-555596(P2013-555596)
審決分類 P 1 8・ 03- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川口 裕美子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 大宅 郁治
長井 啓子
発明の名称 遺伝子改変動物、およびそれを作製する方法  
代理人 稲井 史生  
代理人 田中 光雄  
代理人 稲井 史生  
代理人 冨田 憲史  
代理人 山崎 宏  
代理人 田中 光雄  
代理人 山崎 宏  
代理人 冨田 憲史  

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