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審決分類 審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F03B
管理番号 1346628
審判番号 不服2017-8891  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-01 
確定日 2018-11-28 
事件の表示 特願2015-246719「浮力と重力のバランスを利用した動力発生装置。」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 6月 8日出願公開、特開2017-101650〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年12月1日に出願された特願2015-246719号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成28年10月11日:拒絶理由通知 (平成28年9月28日起案。)
平成28年11月17日:意見書(書面上の日付は平成28年11月19日。)
平成29年4月4日:拒絶査定(平成29年3月24日起案。)
平成29年6月2日:審判請求(書面上の日付は平成29年6月1日。)
平成29年6月2日:手続補正(書面上の日付は平成29年6月1日。)
平成30年4月17日:拒絶理由通知 (平成30年4月12日起案。)
平成30年5月17日:意見書(書面上の日付は平成30年5月16日。)
平成30年5月17日:手続補正(書面上の日付は平成30年5月16日。以下、この手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願の請求項に記載されたもの
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたものは、以下のとおりである。

「液体(水等)(2)を充填し密閉した本体水槽(1)の左A側中央部に本体水槽主軸A(10)と右側中央部に本体水槽主軸B(11)を設け、本体水槽(1)を挟んで、左右A側B側に、本体水槽主軸受け台(57)を設置する、本体水槽主軸受け台(57)の上部に、本体水槽主軸受け(42)を設け、本体水槽主軸A(10)と本体水槽主軸B(11)を乗せて本体水槽(1)の回転を容易にして設置する、液体(水等)(2)を充填し密閉した本体水槽(1)の中に、水槽内移動枠組(8)を設置する、水槽内移動枠組(8)の上下両端に、均等な重さの重りC(5)と重りD(6)を設け、水槽内移動枠組(8)の中、上下両側に浮き止めC(13)と浮き止めD(14)を設ける、水槽内移動枠組(8)の浮き止めC(13)側に浮きC(3)を設け、浮き止めD(14)側に浮きD(4)を設ける、均等な浮力の、浮きC(3)と浮きD(4)に、主軸回転歯車回し板移動レール(58)を設ける、主軸回転歯車回し板(7)の両端に、移動車(19)を設ける、移動車(19)を主軸回転歯車回し板移動レール(58)に乗せて、浮きC(3)と浮きD(4)を主軸回転歯車回し板(7)で接続して、水槽内移動枠組(8)の中に設置する、本体水槽主軸A(10)に大歯車A(44)を取り付けて設置する、本体水槽(1)の垂直状態を一定時間保持する為、間欠歯車(46)と大歯車B(45)を結合して設け、間欠歯車(46)と大歯車A(44)を噛み合わせて設置する、本体水槽主軸受け台(57)に隣接して、歯車受け台(87)を設置する、歯車受け台(87)に案内歯車(47)と、遊び歯車A(52)、遊び歯車B(53)をそれぞれ噛み合わせて設置する、案内歯車(47)の片側の歯車と、大歯車B(45)を噛み合わせて設置する、歯車受け台(87)に隣接して、はずみ車(48)を挟んで、左右にはずみ車受け台(43)を設ける、上部にはずみ車主軸受け(86)を設置する、はずみ車主軸受け(86)に、はずみ車主軸(56)を乗せて設置する、はずみ車主軸(56)にベルト車B(50)、動力取出し車(55)とはずみ車(48)を設置し、主軸(9)の回転力をはずみ車(48)で保存しながら動力取出し車(55)に回転力を伝える、はずみ車主軸(56)の端に、はずみ車主軸回転歯車(54)を取り付け、はずみ車主軸回転歯車(54)と遊び歯車B(53)を噛み合わせて設置し、回転方向、回転速度を調整して、本体水槽(1)を回転させる、本体水槽主軸A(10)と本体水槽主軸B(11)の中心を通して、主軸(9)を設置する、本体水槽主軸A(10)側の主軸(9)の端に、ベルト車A(49)を設け、ベルト車B(50)とベルト(51)で接続して、はずみ車主軸(56)に主軸(9)の回転力を伝える、本体水槽主軸A(10)と主軸(9)の間に、誘導盤固定軸A(89)を設け、片端をA側、本体水槽主軸受け台(57)に固定して設置する、B側、本体水槽主軸受け台(57)に、固定軸固定台(91)を設ける、本体水槽主軸B(11)と主軸(9)の間に、誘導盤固定軸B(90)を設け、片端を固定軸固定台(91)に固定して設置する、主軸(9)と誘導盤固定軸A(89)と、本体水槽主軸A(10)の間と、主軸(9)と誘導盤固定軸B(90)と、本体水槽主軸B(11)の各間に、ベアリング(88)と防水ベアリング(41)を設けて設置する、本体水槽(1)内、中央部の主軸(9)に主軸回転歯車(12)を取り付けて設置する、本体水槽(1)内壁C側、D側に、クッション(85)を設置する、水槽内移動枠組(8)と本体水槽(1)内壁の間に、水槽内移動枠組誘導車(17)を設置する、本体水槽(1)内A側に設置した、誘導盤固定軸A(89)に、移動台車誘導棒誘導盤A(22)と、外周部に突起部を設けた浮きストッパー誘導棒誘導盤A(59)を固定して設置する、本体水槽(1)内B側に設置した、誘導盤固定軸B(90)に、移動台車誘導棒誘導盤B(23)と、外周部に突起部を設けた浮きストッパー誘導棒誘導盤B(60)を固定して設置し、本体水槽(1)のみを回転させる、移動台車誘導棒誘導盤A(22)の外周部の一部分に、歯車部(33)を設け、盤中に移動台車誘導棒誘導溝(32)を設ける、移動台車誘導棒誘導盤B(23)の外周部の一部分に、歯車部(33)を設け、盤中に移動台車誘導棒誘導溝(32)を設ける、本体水槽(1)A側内壁に、ロープ巻き取り巻き戻し装置A(29)と、本体水槽(1)B側内壁に、ロープ巻き取り巻き戻し装置B(30)を設置する、ロープ巻き取り巻き戻し装置A(29)とロープ巻き取り巻き戻し装置B(30)は、ロープ巻き取り巻き戻し装置歯車(34)を設けた軸(37)を本体水槽(1)の内壁に設け、軸(37)にゼンマイ(36)を内蔵したゼンマイ格納容器(38)と、外周部にロープ巻き取り収納器(35)を設けた構成から成る、ロープ巻き取り巻き戻し装置歯車(34)を、移動台車誘導棒誘導盤A(22)と、移動台車誘導棒誘導盤B(23)の歯車部(33)に接するようにして設置する、本体水槽(1)内中央部に、移動台車固定台(16)を設置する、本体水槽(1)内に設置した、移動台車固定台(16)に、台車車用レール(28)を設置する、移動台車固定台(16)に、移動台車(24)を設置する、移動台車(24)の両側に、台車車(27)を設け、台車車用レール(28)に乗せて設置する、移動台車(24)の両側、主軸回転歯車回し板(7)に接して、主軸回転歯車回し板押さえ棒(25)を設置する、移動台車(24)の片側に、移動台車誘導棒軸受(21)を設置する、移動台車誘導棒軸受(21)を設置した移動台車(24)の反対片側に、バランスを取るための調整重り(26)を設置する、移動台車誘導棒軸受(21)に、移動台車誘導棒(20)を通し、片端を移動台車誘導棒誘導盤A(22)の、移動台車誘導棒誘導溝(32)に挿入し、反対側の片端を移動台車誘導棒誘導盤B(23)の移動台車誘導棒誘導溝(32)に挿入して設置し、主軸回転歯車(12)と主軸回転歯車回し板(7)を、浮きの浮上時接触させ、浮上後切り離す、接触と切り離しをするため設置する、本体水槽(1)A側とC側の内壁に、ロープ案内車(40)を設置する、ロープ案内車(40)に添って、ロープ(39)を設ける、ロープ(39)の片端をロープ巻き取り巻き戻し装置A(29)のロープ巻き取り収納器(35)に固定し、もう一方の片端を、水槽内移動枠組(8)のC側端に結んで設置する、本体水槽(1)のB側とD側の内壁に、ロープ案内車(40)を設置する、ロープ案内車(40)に添って、ロープ(39)を設ける、ロープ(39)の片端をロープ巻き取り巻き戻し装置B(30)の、ロープ巻き取り収納器(35)に固定し、もう一方の片端を、水槽内移動枠組(8)のD側端に結んで設置する、浮きC(3)浮きD(4)の左右、A側、B側に、突起付浮き止め金具(82)を設置する、浮きC(3)と浮きD(4)の左右に設けた、突起付浮き止め金具(82)に添って、水槽内移動枠組(8)のA側、B側に、突起付浮き止め金具誘導棒(31)を設置する、本体水槽(1)内壁のA側に、浮きストッパーA(74)、浮きストッパーC(76)浮きストッパーE(78)、浮きストッパーG(80)、B側に、浮きストッパーB(75)、浮きストッパーD(77)、浮きストッパーF(79)、浮きストッパーH(81)を設置する、各浮きストッパーは、片端を、本体水槽(1)内壁に固定し、反対側の片端と、本体水槽(1)内壁の間に、バネ(83)を入れて設置する、浮きストッパーA(74)、浮きストッパーC(76)、浮きストッパーB(75)、浮きストッパーD(77)は、先端部を本体水槽(1)のD側向きに、浮きストッパーE(78)、浮きストッパーG(80)、浮きストッパーF(79)、浮きストッパーH(81)は、先端部を本体水槽(1)の、C側に向けて設置する、本体水槽(1)A側内壁に、誘導棒固定軸(84)を設け、誘導棒固定軸(84)に浮きストッパー誘導棒A(61)を取り付け、片端を浮きストッパー誘導棒誘導盤A(59)のC側外周部に接して設置する、浮きストッパー誘導棒A(61)の反対側の端に、引張りワイヤー(92)を結び、引張りワイヤー(92)の端に、ワイヤーA(66)とワイヤーC(68)を結んで設置する、本体水槽(1)A側内壁に、誘導棒固定軸(84)を設け、誘導棒固定軸(84)に、浮きストッパー誘導棒B(62)を取り付けて、片端を浮きストッパー誘導棒誘導盤A(59)のD側外周部に接して設置する、浮きストッパー誘導棒B(62)の反対側の端に、引張りワイヤー(92)を結び、引張りワイヤー(92)の端に、ワイヤーE(70)とワイヤーG(72)を結んで設置する、本体水槽(1)B側内壁に、誘導棒固定軸(84)を設け、誘導棒固定軸(84)に浮きストッパー誘導棒C(63)を取り付けて、片端を浮きストッパー誘導棒誘導盤B(60)の外周部に接して設置する、浮きストッパー誘導棒C(63)の反対側の端に、引張りワイヤー(92)を結び、引張りワイヤー(92)の端に、ワイヤーB(67)とワイヤーD(69)を結んで設置する、本体水槽(1)B側内壁に、誘導棒固定軸(84)を設け、誘導棒固定軸(84)に浮きストッパー誘導棒D(64)を取り付けて、片端を浮きストッパー誘導棒誘導盤B(60)のD側外周部に接して設置する、浮きストッパー誘導棒D(64)の反対側の端に、引張りワイヤー(92)を結び、引張りワイヤー(92)の端に、ワイヤーF(71)、ワイヤーH(73)を結んで設置する、各引張りワイヤー(92)とワイヤーA(66)、ワイヤーB(67)、ワイヤーC(68)、ワイヤーD(69)、ワイヤーE(70)、ワイヤーF(71)、ワイヤーG(72)、ワイヤーH(73)に添って、本体水槽(1)の内壁に、ワイヤー案内車(65)を設置する、本体水槽(1)の回転で浮きストッパー誘導棒の片端が浮きストッパー誘導棒誘導盤の外周突起部に乗り上げワイヤーを引き、浮きの浮上を止めている突起付浮き止め金具と浮きストッパー誘導棒の接触部を離して、浮きの浮上を可能にする、本体水槽(1)が半回転して垂直状態になると、本体水槽内上部に位置する水槽内移動枠組(8)の中の浮きが浮上して、主軸(9)を回転させる、浮きが浮上した後、総体が無重力状態で平衡を保った水槽内移動枠組(8)を、本体水槽(1)の下部に移動させ、本体水槽(1)の回転の進行に伴いモーメントの発生時、本体水槽(1)の総体重量が、本体水槽主軸A(10)と本体水槽主軸(11)Bを中心に上部が重く、下部が軽く又は 上部=下部 の状態にして、本体水槽(1)の回転を容易にして本体水槽(1)が半回転すると、本体水槽(1)の下方に有った、水槽内移動枠組(8)が本体水槽(1)の回転に伴い再度、本体水槽(1)内の上部の位置にきて、再び浮きが浮上出来る状態となり水槽内移動枠組(8)の中の浮きが浮上して、主軸(9)を回転させる、連続して本体水槽(1)が回転し、水槽内移動枠組(8)内の浮きが浮上して、主軸(9)を回転させる、浮きC(3)と浮きD(4)は、水槽内移動枠組(8)の中で浮上するスペースを持たせて設置し、本体水槽(1)が垂直状態になり、水槽内移動枠組(8)の中で浮きが浮上した時、水槽内移動枠組(8)の総体が無重力状態で平衡を保つように設けたことを特徴とする、浮力と重力のバランスを利用した動力発生装置。」

第3 拒絶の理由
平成30年4月17日の当審が通知した拒絶理由の理由1及び理由2は、次のとおりのものである。
1 理由1
本体水槽(1)と本体水槽内の液体と水槽内移動枠組(8)及び浮き(3)(4)、重り(5)(6)に重力が作用している状態で、浮きに作用する浮力によりエネルギーが得られても、連続して浮力が生じるようにするには、得られたエネルギー以上のエネルギーにより浮きを降下させる必要があるから、その結果、浮き(3)(4)と水槽内移動枠組(8)を降下させ、本体水槽(1)を回転させるには、一連の動作により得られた動力以上の動力が必要であり、連続して動力を取り出すことはできない。
よって、発明の詳細な説明には、発明の課題である自然環境に左右されることなく、また燃料を使用することのなく連日連続して稼働して動力を得られるようにすることを当業者が実施できる程度に記載されておらず、またこのことが当業者にとって自明であるともいえない。
以上のことから、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。

2 理由2
本願の請求項1ないし5に係る発明は、自然環境に左右されることなく、また燃料を使用することのなく連日連続して動力を得られるようにするものであって、そのために、浮きに作用する浮力からエネルギーを取り出し、この取り出したエネルギーよりも小さいエネルギーにより浮上した浮きを再度降下させることで、浮きに作用する浮力から一部のエネルギーを外部に連日連続して取り出すものと解される。しかし、取り出したエネルギーよりも小さいエネルギーで浮きを降下させることは、動力伝達効率を考慮すれば、明らかにエネルギー保存の法則に反している。
したがって、本願の請求項1ないし5に係る発明は、特許法第2条第1項に規定された「発明」に該当しないことがあきらかであることから、特許法第29条第1項柱書に規定されている「発明」に該当しない。

第4 当審の判断
1 発明の詳細な説明の記載内容
(1)課題及び効果について
本願の発明の詳細な説明には、概ね、本願に係る動力発生装置は、本体水槽内に、重りと浮きを設けた水槽内移動枠組を設け、本体水槽を回転させて、浮きの浮力をエネルギー源として連続して利用する、浮力と重力のバランスを利用したものであって(【0001】)、従来、自然エネルギー、再生可能エネルギー源として、主に太陽光発電と風力発電、波力発電等が利用されてきたところ(【0002】)、これらは自然環境に大きく左右されてきたという欠点があったため、このような欠点をなくすことを課題とし(【0004】)、燃料を使用することなく動力を得る事が出来るので大気汚染も無く経済的であり、自然条件に左右されることなく連続して稼働する事ができると共に、立地条件に制限されず平地、山間部を問わず設置する事ができ、自然環境を破壊することなく、幅広く連日連続して稼働して動力を得る事が出来る(【0006】)ことを効果とすることが記載されている。

(2)発明の詳細な説明に記載されたものについて
本願の発明の詳細な説明には、本願の請求項1に記載されたものに対応し、上記(1)に示す課題を解決し、効果が得られるとするものとして、概ね、回転可能に設けられた本体水槽(1)内に、上下端に重り(5)(6)を設けた水槽内移動枠組(8)を設置し、この水槽内移動枠組(8)の中に主軸回転歯車回し板(7)で接続された浮きCと浮きDを設け、さらにこれらの部材を回転あるいは可動できるように適宜支持し、またこれらの部材に接続されるロープ及び歯車等を用いることにより、本体水槽(1)が半回転して垂直状態になると(【図5】)、本体水槽(1)内上部に有る、水槽内移動枠組(8)の中の浮きが浮上して、主軸(9)を回転させ、浮きが浮上し(【図6】)、水槽内移動枠組(8)総体が、本体水槽(1)の下部に移動して、本体水槽(1)の総体重量が、本体水槽主軸A(10)と本体水槽主軸B(11)を中心に上部が重く、下部が軽く又は上部=下部の状態となり本体水槽(1)の回転が容易になり(【図7】)、本体水槽が半回転すると、本体水槽(1)の下方に有った、水槽内移動枠組(8)が本体水槽(1)の回転に伴い、本体水槽(1)内の上部に位置して(【図8】)、再び水槽内移動枠組(8)の中の浮きが浮上して、主軸(9)を回転させるものが記載され、さらに連続して本体水槽(1)が回転し、水槽内移動枠組(8)内の浮きを浮上させ、主軸(9)に連続して回転力を伝え、この回転力(エネルギー)を利用するものが記載されている。

2 理由1(特許法36条4項1号違反)について
発明の詳細な説明には、浮きの浮力をエネルギー源として連続して利用する旨記載されている(段落【0001】)ので、まず、浮きの浮力によるエネルギーについて検討すると、本願の請求項に記載されたものは、浮き(3)(4)に作用する浮力をエネルギーとして連続して取り出すことができるように、本体水槽(1)内の上部にある水槽内移動枠組(8)内で浮き(3)(4)が上昇した状態(【図6】)から、まず、水槽内移動枠組(8)を下部に移動させた後(【図7】)、本体水槽を半回転させて、浮き(3)(4)が本体水槽(1)の上部にある水槽内移動枠組(8)内で浮上する前の状態(【図8】)にし、この状態から浮き(3)(4)を水槽内移動枠組(8)内で浮上させることを繰り返すと解される。
そして、浮上した浮き(3)(4)を浮上前の状態、すなわち降下させるためには、摩擦や動力伝達効率を考慮すれば、浮上することにより得られた以上のエネルギーが必要であって、このことは、浮上した浮き(3)(4)が水槽内移動枠体(8)内にあり、水槽内移動枠体(8)ごと降下させていても、さらには、本体水槽(1)の回転を組み合わせていても、水槽内移動枠体(8)や本体水槽(1)を動かす力は、これらを満たしている液体を介して浮き(3)(4)に作用することから変わりがない。
さらに、本件の発明の詳細な説明に記載された装置は、浮き(3)(4)の浮力により得られた動力の一部を外部に取り出すものであるが、得られた動力の一部が外部に取り出されるとその分、浮き(3)(4)を降下させるために用いることができるエネルギーは減ることとなり、浮き(3)(4)を十分に(図8に示される位置まで)降下させることができず、その浮き(3)(4)を浮上させることにより得られるエネルギーは前回より小さくなる。すなわち、浮き(3)(4)が浮上と降下するプロセスを繰り返すごとに、浮き(3)(4)が浮上することにより得られるエネルギーは小さくなるから、連日連続して装置を駆動することはできなくなる。
また、重力の作用について検討すると、浮き(3)(4)と重り(5)(6)には、重力が作用し、これらが降下するときには、重力からのエネルギーが得られ、上昇(浮上)するときには、上昇するためのエネルギーが必要になる。そして、浮き(3)(4)と重り(5)(6)が降下と上昇(浮上)を繰り返すためには、摩擦や動力伝達効率を考慮すれば、外部からエネルギーを供給することが必要であり、エネルギーを供給することなく、浮き(3)(4)と重り(5)(6)が動作を継続することはできない。これは降下した浮き(3)(4)と重り(5)(6)を回転により上昇させていても、上昇に要するエネルギーが回転動作を伴うことにより、減少するわけではないから、浮き(3)(4)と重り(5)(6)の動作の継続にエネルギーを供給することが必要である点に変わりはない。さらに、上記のように本件の発明の詳細な説明に記載された装置は、動力の一部を外部に取り出すものであるが、エネルギーの一部を外部に取り出せば、重力の影響を受ける浮き(3)(4)と重り(5)(6)を上昇させるためのエネルギーが取り出された分、減少するから、動作を継続することはできない。
さらに、発明の詳細な説明には、前記装置は、浮力と重力のバランスを利用したことも記載(段落【0001】)されているので、浮力と重力のバランスについても検討すると、発明の詳細な説明には、浮き(3)(4)の浮力と重り(5)(6)の重力を調整し、水槽内移動枠組(8)の総体が、本体水槽(1)の中で無重力状態に平衡を保たせて設置し、さらに水槽内移動枠組(8)が本体水槽(1)を降下した時、本体水槽主軸を中心にした上部=下部になるか、上部の重量が大きく、下部の重量が小さくなるように、浮き(3)(4)と重り(5)(6)を調整していると記載(段落【0008】)されているが、ある状態から本体水槽(1)が一回転して元の状態に戻るまでの間に、この本体水槽(1)と本体水槽内の液体と水槽内移動枠組(8)及び浮き(3)(4)、重り(5)(6)には、常に浮力と重力が作用しており、その結果、浮き(3)(4)と重り(5)(6)がある状態から一回転して元の状態に戻るまでの間のエネルギーの増減は、先に説明した浮力によるエネルギーの増減と重力によるエネルギーの増減を合わせたものにほかならないから、これらの影響により変化した状態から元の状態に戻すためには、動作による損失を考慮すれば、浮力と重力により変化したことにより得られたエネルギー以上のエネルギーを要し、このことは、浮き(3)(4)及び重り(5)(6)をどのように調整したとしても変わりはない。
審判請求人は、平成30年5月17日受付の意見書(書面上の日付は、平成30年5月16日)において、「浮き(3)と浮きD(4)が浮上した水槽内移動枠組(8)は上下に重り(5)重り(6)で調整して本体水槽(1)が垂直状態の時、無重力状態に平衡を保つ様に設定してあるので、本体水槽(1)が垂直状態の時、浮き(3)と浮きD(4)が浮上して無重力状態で平衡を保っている水槽内移動枠組(8)を小さいエネルギーで下方へ移動させる事が可能であ」り、「本体水槽(1)も上下均等な重さで支えているので、本体水槽(1)の回転に要するエネルギーは少なくて済む」旨を主張する。
しかしながら、浮き(3)(4)と重り(5)(6)が水槽(1)が垂直状態のとき、無重力状態(上記審判請求人のいう「平衡を保つ」とは水槽内の液体の中で重力と浮力が平衡した状態を保つことをいうから、無重力状態とは、浮力と重力とか釣り合った状態と解される。以下、このような状態を「無重力状態」という。)となるには、浮き(3)(4)による浮力と重り(5)(6)による重力が釣り合う必要があり(浮き(3)(4)による重力と重り(5)(6)による浮力が十分に小さいとする。)、このような浮力と重力が釣り合う浮き(3)(4)と重り(5)(6)と共に水槽内移動枠組(8)が降下した状態(【図7】)から、水槽内移動枠組(8)が本体水槽(1)内の上部に位置する(【図8】)ように、水槽(1)を半回転させるには、水槽全体(浮き(3)(4)と重り(5)(6)、水槽内移動枠組(8)、水槽内の液体、水槽(1)等の水槽(1)を回転することにより、共に回転することとなる部材全体)の重心は、回転軸と重り(6)との間に位置することとなり、このような重心位置を有する水槽全体を回転させるには、重心位置を水槽の下側から上側に上昇させることとなるため、回転に要するエネルギーが必要となるから、請求人の主張は失当である。そして、浮き(3)(4)と重り(5)(6)をどのように設定しても、上記のように、浮き(3)(4)と重り(5)(6)の動作を継続するために必要とするエネルギーは、浮き(3)(4)と重り(5)(6)等の運動によって得られるエネルギーより大きくなるから、この点の審判請求人の主張は失当である。
これらのことから、本体水槽(1)と水槽内移動枠組(8)及び浮き(3)(4)、重り(5)(6)に作用する浮力及び重力により、発明の詳細な説明に記載された装置を連日連続して駆動することはできない。
そして 、本件の発明の詳細な説明には、本体水槽(1)を半回転させることにより前記装置が起動することが記載されており、前記装置には、起動時にこの半回転させるためのエネルギーが外部から入力されるといえる。しかしながら、既に検討したとおり、本体水槽(1)を一回転するごとにエネルギー損失が発生するから、本件の発明の詳細な説明に記載された装置は、この入力されたエネルギーがこれらの損失によって失われ、また外部に取り出されるまでは駆動するといえるが、エネルギー保存の法則により、半回転させるために入力されたエネルギー以上のエネルギーが取り出せることはない。
したがって、本体水槽(1)と本体水槽内の液体と水槽内移動枠組(8)及び浮き(3)(4)、重り(5)(6)に重力が作用している状態で、浮きに作用する浮力によりエネルギーが得られても、連続して浮力が生じるようにするには、得られたエネルギー以上のエネルギーにより浮きを降下させる必要があるから、その結果、浮き(3)(4)と水槽内移動枠組(8)を降下させ、本体水槽(1)を回転させるには、一連の動作により得られた動力以上の動力が必要であり、連続して動力を取り出すことはできない。
よって、発明の詳細な説明には、発明の課題である自然環境に左右されることなく、また燃料を使用することのなく連日連続して稼働して動力を得られるようにすることを当業者が実施できる程度に記載されておらず、またこのことが当業者にとって自明であるともいえない。
以上のことから、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。


3 理由2(特許法第29条第1項柱書違反)について
(1)本願の請求項に記載されたもの
本願の請求項1ないし6に記載されたものは、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものである。

(2)判断
本願の請求項1ないし6に記載されたものは、自然環境に左右されることなく、また燃料を使用することのなく連日連続して動力を得られるようにするものであって、そのために、浮きに作用する浮力からエネルギーを取り出し、この取り出したエネルギーよりも小さいエネルギーにより浮上した浮きを再度降下させることで、浮きに作用する浮力から一部のエネルギーを外部に連日連続して取り出すものと解される。しかし、取り出したエネルギーよりも小さいエネルギーで浮きを降下させることは、動力伝達効率を考慮すれば、明らかにエネルギー保存の法則に反している。
すなわち、上記理由1で示したように、本願の請求項に記載されたものは、浮き(3)(4)、重り(5)(6)を調整することにより、水槽(1)と共にこれら浮き(3)(4)、重り(5)(6)とを回転させてエネルギーを取り出すとしたものであるが、浮き(3)(4)、重り(5)(6)と水槽内移動枠組とを降下させるとき、または水槽全体を回転させるときにエネルギーを必要とするものであって、この装置を駆動するために必要なエネルギーが装置を駆動した結果得られるエネルギーよりも小さくなるとする本願の請求項に記載されたものは、明らかにエネルギー保存の法則に反しているものである。
したがって、本願の請求項1ないし6に記載されたものは、自然法則に反しているものであり、特許法第2条第1項に規定された「発明」に該当しないことがあきらかであることから、特許法第29条第1項柱書に規定されている「発明」に該当しない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしておらず、また、請求項1ないし6に係る発明は、特許法第2条第1項に規定された「発明」に該当しないことがあきらかであることから、特許法第29条第1項柱書に規定されている「発明」に該当しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-09-07 
結審通知日 2018-09-18 
審決日 2018-10-04 
出願番号 特願2015-246719(P2015-246719)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (F03B)
P 1 8・ 1- WZ (F03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 愛子松浦 久夫冨永 達朗  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 山村 和人
長馬 望
発明の名称 浮力と重力のバランスを利用した動力発生装置。  

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