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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1346752
異議申立番号 異議2018-700373  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-02 
確定日 2018-10-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6228658号発明「熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料及び熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6228658号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6228658号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6228658号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成28年12月28日に特許出願され、平成29年10月20日にその特許権の設定登録がされ、同年11月8日に特許公報が発行され、その後特許に対し、平成30年5月2日に異議申立人 森川 真帆(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。

平成30年 6月27日付け 取消理由通知
同年 8月27日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 8月30日付け 通知書
同年 9月25日 意見書(申立人)

第2 訂正の適否

1 訂正の内容
平成30年8月27日付けの訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである。下線は、訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、
「塩化ビニル系樹脂に、該樹脂用の可塑剤と、膨張開始温度が180?240℃である熱膨張性黒鉛と、前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸触媒と、脱塩酸抑制化合物とを含む熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料であって、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に、前記熱膨張性黒鉛を50?150質量部の範囲で含み、
前記脱塩酸触媒は、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質であり、且つ、
前記脱塩酸触媒の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量が、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内であり、
前記脱塩酸抑制化合物が、加熱された初期の160?240℃の温度で、前記脱塩酸触媒の触媒機能を抑制する機能をもつ、メラミンシアヌレートであり、
前記樹脂材料によって形成した厚みが1.5?1.6mmで面積20×20mmの層に、密度が450g/m^(2)のポリエステル不織布が積層した試験片を、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上であることを特徴とする熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に、
「樹脂材料によって形成した厚みが1.5?1.6mmで面積20×20mmの層に、密度が300g/m^(2)のポリエステル不織布に貼り合わせて積層した試験片を、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が1.0kgf以上である請求項1?3の何れか1項に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。」
とあるのを、
「樹脂材料によって形成した厚みが1.5?1.6mmで面積20×20mmの層に、密度が450g/m^(2)のポリエステル不織布を貼り合わせて積層した試験片を、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が1.0kgf以上である請求項1?3の何れか1項に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。」
に訂正する。

2 補正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1の、「800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上である」との記載について、「粘結力」がどのように測定されたものか不明瞭であったところ、当該粘結力を測定する試験片がどのようなものであるかを明らかにすることで「粘結力」がどのように測定されたものであるか明瞭にすることにより、明瞭でない記載を釈明しようとするものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正事項1は、明細書の段落【0075】?【0077】の記載に基づくものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正のうち、「密度が300g/m^(2)」を「密度が450g/m^(2)」とする訂正は、訂正前の請求項4の、「密度が300g/m^(2)のポリエステル不織布に貼り合わせて積層した試験片」が、どのような事項を意味するのか明瞭であるとはいえないものであったところ、当該試験片が、明細書の段落【0075】?【0077】に記載された試験片であることを明らかにすることにより、明瞭でない記載を釈明しようとするものである。
また、「ポリエステル不織布に」を「ポリエステル不織布を」とする訂正は、訂正前の、「層に」、「ポリエステル不織布に」貼り合わせた「試験片」なる記載が明瞭であるとはいえないものであったところ、「ポリエステル不織布に」の助詞「に」を「を」に訂正することにより、明瞭にしようとするものであり、明瞭でない記載を釈明しようとするものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、当該訂正事項2は、明細書の段落【0075】?【0077】の記載に基づくものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項2ないし8は訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用しているから、訂正前の請求項1ないし8は、訂正前において一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正を認める。

第3 本件発明
上記のとおり、本件訂正請求は認められたので、特許第6228658号の請求項1ないし9に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
塩化ビニル系樹脂に、該樹脂用の可塑剤と、膨張開始温度が180?240℃である熱膨張性黒鉛と、前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸触媒と、脱塩酸抑制化合物とを含む熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料であって、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に、前記熱膨張性黒鉛を50?150質量部の範囲で含み、
前記脱塩酸触媒は、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質であり、且つ、
前記脱塩酸触媒の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量が、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内であり、
前記脱塩酸抑制化合物が、加熱された初期の160?240℃の温度で、前記脱塩酸触媒の触媒機能を抑制する機能をもつ、メラミンシアヌレートであり、
前記樹脂材料によって形成した厚みが1.5?1.6mmで面積20×20mmの層に、密度が450g/m^(2)のポリエステル不織布が積層した試験片を、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上であることを特徴とする熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項2】
前記脱塩酸抑制化合物の使用量が、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、50?150質量部の範囲内である請求項1に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項3】
95℃の熱水中に24時間浸漬した際の溶出量が、質量基準で2.5%以下である請求項1又は2に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項4】
樹脂材料によって形成した厚みが1.5?1.6mmで面積20×20mmの層に、密度が450g/m^(2)のポリエステル不織布を貼り合わせて積層した試験片を、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が1.0kgf以上である請求項1?3の何れか1項に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項5】
前記脱塩酸触媒が、金属亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、銅、酸化銅及び塩化鉄からなる群から選ばれる少なくとも何れかである請求項1?4の何れか1項に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項6】
その形状が、シート状であり、且つ、厚みが0.5mm?2.0mmである請求項1?5のいずれか1項に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項7】
その形状が、ペースト状又は塗料状である請求項1?5のいずれか1項に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項8】
窓枠又はドア枠に設置するためのものである請求項6又は7に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項9】
熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法であって、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、膨張開始温度が180?240℃である熱膨張性黒鉛を50?150質量部の範囲で用い、更に、前記膨張開始温度における、前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸を促進するための脱塩酸触媒と、脱塩酸を抑制するための脱塩酸抑制化合物と、前記塩化ビニル系樹脂の可塑剤とを用いて、これらを含有してなる熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を製造する際に、
前記脱塩酸触媒を、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質から選択し、且つ、
前記脱塩酸触媒の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量を、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内になるように決定し、
更に、前記脱塩酸抑制化合物として、加熱された初期の160?240℃の温度で、前記脱塩酸触媒の触媒機能を抑制する機能をもつメラミンシアヌレートを用いることを特徴とする熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について

1 取消理由の概要
当審が、平成30年6月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)取消理由1
本件請求項1ないし8についての特許は、特許請求の範囲が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしてない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(2)取消理由2
本件請求項1ないし8についての特許は、特許請求の範囲が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしてない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

上記取消理由1について、詳述すると、以下のとおりである。

ア 請求項1には、「800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上である」との記載があるが、当該「粘結力」の測定方法が記載されていないので、請求項1における上記「粘結力」がどのようにして測定されたものか不明であり、請求項1に係る発明は明確でない。

イ 請求項4には、「樹脂材料によって形成した厚みが1.5?1.6mmで面積20×20mmの層に、密度が300g/m^(2)のポリエステル不織布に貼り合わせて積層した試験片を、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が1.0kgf以上である」と記載されているが、発明の詳細な説明には、「密度が300g/m^(2)のポリエステル不織布に貼り合わせて積層した試験片」については何ら記載がなく、「密度が300g/m^(2)のポリエステル不織布に貼り合わせて積層した試験片」を800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力とはどのような事項を意味するのか明瞭であるとはいえないから、請求項4に係る発明は明確でない。

ウ 上記アについて、請求項1を引用する請求項2ないし8に係る発明も同様であり、上記イについて、請求項4を引用する請求項5ないし8に係る発明も同様である。

上記取消理由2について詳述すると、以下のとおりである。

ア 請求項1の「800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上である」「熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料」について、「粘結力」が、発明の詳細な説明の【0063】に記載の方法で測定されたものである場合、発明の詳細な説明には、「800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上である」「熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料」が記載されているとはいえないから、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

イ 請求項4の、「樹脂材料によって形成した厚みが1.5?1.6mmで面積20×20mmの層に、密度が300g/m^(2)のポリエステル不織布に貼り合わせて積層した試験片を、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が1.0kgf以上である」「熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料」について、発明の詳細な説明には、上記特定を有する塩化ビニル系樹脂材料について記載されているとはいえないから、請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

ウ 上記アについて、請求項1を引用する請求項2ないし8に係る発明も同様であり、上記イについて、請求項4を引用する請求項5ないし8に係る発明も同様である。

2 当審の判断

(1)取消理由1について

ア 上記1(1)取消理由1のうち、アについて
訂正事項1(上記第2 1(1))によって、特許請求の範囲の請求項1において、「粘結力」が、「樹脂材料によって形成した厚みが1.5?1.6mmで面積20×20mmの層に、密度が450g/m^(2)のポリエステル不織布が積層した試験片を、800℃で加熱して得られる膨張体」で測定される粘結力であることが特定された。ここで、当該「粘結力」は、明細書の【0077】の記載から、膨張体の最上部に平滑な板を圧縮試験機等で押し上げ、底部から8mmの高さまでの間に測定された最大抗力として測定されるものであることは明らかである。
よって、請求項1に係る発明は、明確である。

イ 上記1(1)取消理由1のうち、イについて
訂正事項2(上記第2 1(2))によって、特許請求の範囲の請求項4において、「試験片」が、「樹脂材料によって形成した厚みが1.5?1.6mmで面積20×20mmの層に、密度が450g/m^(2)のポリエステル不織布を貼り合わせて積層した試験片」であることが特定された。当該試験片は、発明の詳細な説明の【0075】ないし【0077】に記載されるものであり、当該試験片の意味するところは明瞭である。
よって、請求項4に係る発明は、明確である。

ウ 上記1(1)取消理由1のうち、ウについて
上記ア及びイより、請求項1及び4に係る発明は明確であり、これらを直接的又は間接的に引用する請求項2ないし8に係る発明も明確である。

(2)取消理由2について

ア 上記1(2)取消理由2のうち、アについて
訂正事項1(上記第2 1(1))によって、請求項1において、「0.8kgf以上」との粘結力が、「樹脂材料によって形成した厚みが1.5?1.6mmで面積20×20mmの層に、密度が450g/m^(2)のポリエステル不織布が積層した試験片を、800℃で加熱して得られる膨張体」で測定される粘結力であることが特定された。そして、このような特定の粘結力を示す膨張体となる試験片を形成する樹脂材料は、発明の詳細な説明(特に【【0071】?【0082】の検討例2)に記載されている。
してみると、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

イ 上記1(2)取消理由2のうち、イについて
訂正事項2(上記第2 1(2))によって、請求項4において、「試験片」が、「樹脂材料によって形成した厚みが1.5?1.6mmで面積20×20mmの層に、密度が450g/m^(2)のポリエステル不織布を貼り合わせて積層した試験片を、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が1.0kgf以上である」あることが特定された。そして、このような特定の粘結力を示す膨張体となる試験片を形成する樹脂材料は、発明の詳細な説明(特に【【0071】?【0082】の検討例2)に記載されている。
してみると、請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

ウ 上記1(2)取消理由2のうち、ウについて
上記ア及びイより、請求項1及び4に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものであり、これらを直接的又は間接的に引用する請求項2ないし8に係る発明も、発明の詳細な説明に記載されたものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし8についての特許は、特許請求の範囲が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしてない特許出願に対してされたものでなく、同法第113条第4号に該当しない。
また、本件請求項1ないし8についての特許は、特許請求の範囲が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしてない特許出願に対してされたものでなく、同法第113条第4号に該当しない。

第5 取消理由通知において採用しなかった申立て理由について

1 申立て理由の概要

(1)取消理由3
申立人は、本件発明1ないし9は、特許請求の範囲が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである旨主張する。

(2)取消理由4
申立人は、甲1号証ないし甲8号証(以下、「甲1」ないし「甲8」という。)を提示し、本件発明1ないし9は、甲1ないし甲8に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2項に該当し、取り消すべきものである旨主張する。

申立人提示の甲号証

甲1:特許第5992589号公報
甲2:特開平9-309990号公報
甲3:特開平9-302237号公報
甲4:特開平11-172254号公報
甲5:特開2000-63562号公報
甲6:特開2013-231134号公報
甲7:特開2016-186534号公報
甲8:国際公開第2016/152484号

2 当審の判断

(1)取消理由3について
ア 請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明は、明細書全体、特に【0006】?【0008】の記載からみて、800℃に加熱した膨張後における膨張体が、高い粘結力を示し、形状保持性及び機械的強度に優れ、耐水性にも優れる熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を提供するという課題を有するものと認められる。
これに対して、発明の詳細な説明の【0019】?【0022】の記載から、熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料に脱塩酸触媒を用いることで最終的な加熱膨張体が高い粘結力を示し、形状保持性及び機械的強度に優れるものになるが、難燃剤として使用されているアミノ基含有化合物及び/又はアンモニウム基含有化合物を、耐水性を考慮して化合物を選択すれば、耐水性に優れた製品の提供が可能になることが理解される。
また、表4から、脱塩酸抑制化合物としてメラミンシアヌレートを使用したものは、耐水性に優れることがみてとれる。
これらのことに鑑みれば、請求項1に係る発明の、塩化ビニル系樹脂と、可塑剤と、特定の熱膨張性黒鉛と、特定の脱塩酸触媒と、メラミンシアヌレートである脱塩酸抑制化合物を含む塩化ビニル系樹脂材料であれば、上記課題を解決できることものとみることができる。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

イ 請求項2ないし8に係る発明について
請求項2ないし8に係る発明も、上記アに述べたものと同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものである。

ウ 請求項9に係る発明について
請求項9に係る発明は、明細書全体、特に【0006】?【0008】の記載からみて、800℃に加熱した膨張後における膨張体が、高い粘結力を示し、形状保持性及び機械的強度に優れ、耐水性にも優れる熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を提供するという課題を有するものと認められる。
これに対して、上記アに述べたものと同様の理由により、塩化ビニル系樹脂と、特定の熱膨張性黒鉛と、特定の脱塩酸触媒と、メラミンシアヌレートである脱塩酸抑制化合物と可塑剤を用いて熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を製造すれば、上記課題を解決できるとみることができる。
よって、請求項9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

ここで、申立書17頁20行?20頁3行において、申立人は、検討例1?6において具体的に確認できる粘結力及び耐水性に優れた塩化ビニル系樹脂組成物に比べ、請求項1に係る発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料は広範であって、請求項1に係る発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料は、膨張体の粘結力を高くすると共に、耐水性を優れたものにできる熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を提供するという課題を解決できるとはいえない旨主張する。
しかしながら、請求項1に係る発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料が膨張体の粘結力を高くするという課題や、耐水性を優れたものにするという課題を解決できるといえることは上記したとおりであって、上記申立人の主張は採用できない。
以上のとおりであるから、本件発明1ないし9は、特許請求の範囲が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものではなく、これらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当しない。

(2)取消理由4について

ア 甲1ないし甲8の記載及び甲1に記載された発明

甲1には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】塩化ビニル系樹脂に、該樹脂用の可塑剤と、膨張開始温度が180?240℃である膨張性黒鉛と難燃材と、更に前記膨張開始温度における前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸を促進するための脱塩酸触媒とを含有してなる、火焔初期の延焼防止のための熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料であり、
前記脱塩酸触媒は、前記塩化ビニル系樹脂として、平均重合度が400?3,000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、前記可塑剤として、フタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質であり、且つ、
該物質の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量が、前記平均重合度が400?3,000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、前記フタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記平均重合度が400?3,000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内であり、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に、前記熱膨張性黒鉛を50?150質量部の範囲で含み、
前記難燃材が、ポリリン酸アンモニウム系化合物であり、
更に、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上であることを特徴とする熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料。」

(イ)「【請求項10】火焔初期の延焼防止のための熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法であって、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、膨張開始温度が180?240℃である熱膨張性黒鉛を50?150質量部の範囲で、難燃材であるポリリン酸アンモニウム系化合物を50?150質量部の範囲でそれぞれ用い、更に前記膨張開始温度における、前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸を促進するための脱塩酸触媒と、前記塩化ビニル系樹脂の可塑剤とを用いて、これらを含有してなる熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料を製造する際に、
前記で使用する脱塩酸触媒を、前記塩化ビニル系樹脂として、平均重合度が400?3,000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、前記可塑剤として、フタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質から選択し、且つ、
前記選択した物質の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量を、前記平均重合度が400?3,000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、前記フタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内となるように決定することを特徴とする熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料の製造方法。」

(ウ)「<難燃剤>
本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂組成物は、難燃剤を含有してなる。難燃剤としては、例えば、リン化合物やアンチモン化合物が用いられているが、本発明では、リン化合物の中でも特にポリリン酸アンモニウムを用いることが好ましい。本発明者らの検討によれば、難燃材として、特にポリリン酸アンモニウムを用いると、例えば、コンマコート成形法を利用してある程度の厚みのある熱膨張性シートを得る場合において、その成形性に優れたものになる。また、熱膨張性シートが熱で発泡(膨張)して形成される膨張体は、より崩れのない、炎の圧力で容易には吹き飛ばない、形状保持性に優れたものとなる。本発明者らの検討によれば、これらの効果は、他のリン酸塩を用いた場合と比較して明らかに異なり、効果の点で優位性があった。本発明者らの検討によれば、上記のポリリン酸アンモニウムを用いたことによる効果の優位性は、本発明で規定した脱塩酸触媒との併用によって得られており、理由は定かではないが、これらの成分を併用したことによって有用な相乗効果が得られることを確認している。」(【0045】)

甲2には、【請求項2】、【0001】、【0003】、【0007】から、難燃性、耐火性、耐水性及び燃焼時に発生する塩化水素ガスの発生を抑制する効果に優れた塩化ビニル系樹脂組成物として、塩化ビニル系樹脂、水不溶性ポリリン酸アンモニウム、酸素含有無機化合物、膨張性黒鉛、必要に応じて可塑剤を配合してなる塩化ビニル系樹脂組成物が記載されており、水不溶性ポリリン酸アンモニウムは、ポリリン酸アンモニウムを熱硬化性樹脂で被覆もしくはマイクロカプセル化したものであること、及び、発泡型耐火被覆用熱可塑性樹脂組成物において、耐火材としての有効成分であるポリリン酸塩が加水分解性を有していることから水に対する長期的な安定性が不十分であることも記載されている。

甲3には、【請求項1】、【0009】、【0017】から、熱可塑性重合体、膨張性黒鉛、水不溶性改質ポリリン酸アンモニウムを少なくとも含有する難燃性熱可塑性重合体組成物が記載されており、水不溶性ポリリン酸アンモニウムは、ポリリン酸アンモニウムを熱硬化性樹脂で被覆又はマイクロカプセル化したものであること、及び、膨張性黒鉛を配合したリン化合物との組み合わせによる難燃性熱可塑性樹脂組成物は耐水性及び耐熱性においてまだ十分とはいえないことも記載されている。

甲4には、請求項2、8、10、【0005】、【0034】、【0039】から、エチレンジアミンリン酸亜鉛、金属化合物、並びに1,3,5-トリアジン誘導体及び又はリン系難燃剤を含有する難燃剤が記載されており、1,3,5-トリアジン誘導体がメラミンシアヌレートであること、上記難燃剤を塩化ビニル等の樹脂に配合すること、エチレンジアミンリン酸亜鉛と金属化合物とさらに1,3,5ートリアジン誘導体からなる難燃剤は難燃効果に優れ、これを配合してなる難燃性樹脂組成物は、難燃性、低発煙性に優れ、有害ガスが発生しない高性能なものであること、及び、ポリリン酸アンモニウム等のリン系難燃剤は熱分解性で煙の発生は少ない材料であるが、難燃効果、耐水性等の点で必ずしも満足できるものではないことが記載されている。

甲5には、【請求項1】、【請求項4】、【請求項5】、【0004】、【0025】から、カップリング剤を用いて表面処理されたポリリン酸アンモニウムと、メラミンシアヌレート等のその他の難燃剤を、ポリ塩化ビニル等の樹脂に配合してなる難燃性樹脂組成物、及び、ポリリン酸アンモニウムは、化学構造非常に加水分解を受け易く、ポリリン酸アンモニウムを難燃剤の一成分として樹脂に添加した場合、ポリリン酸アンモニウムの吸湿性、水溶性、加水分解性に起因して、梅雨時等の高温高湿度条件下では該樹脂組成物を用いて得られる成形品の表面に該ポリリン酸アンモニウムがブリードするといった減少が発生することが記載されている。

甲6には、請求項1、【0029】から、塩化ビニル樹脂組成物の難燃剤としてメラミンシアヌレート等のメラミン系化合物が記載されている。

甲7には、【0021】、【0022】から、塩化ビニル等の熱可塑性樹脂を用いた熱可塑性樹脂層に、メラミンシアヌレート等の難燃剤粒子を用いることが記載されている。

甲8には、特許請求の範囲、【0081】、【0095】、【0096】から、塩化ビニル系樹脂組成物に、難燃剤を配合すること、難燃剤として、メラミンシアヌレート等のトリアジン環含有化合物が挙げられることが記載されている。

記載事項(ア)から、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。
「塩化ビニル系樹脂に、該樹脂用の可塑剤と、膨張開始温度が180?240℃である膨張性黒鉛と難燃材と、更に前記膨張開始温度における前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸を促進するための脱塩酸触媒とを含有してなる、火焔初期の延焼防止のための熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料であり、
前記脱塩酸触媒は、前記塩化ビニル系樹脂として、平均重合度が400?3,000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、前記可塑剤として、フタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質であり、且つ、
該物質の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量が、前記平均重合度が400?3,000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、前記フタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記平均重合度が400?3,000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内であり、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に、前記熱膨張性黒鉛を50?150質量部の範囲で含み、
前記難燃材が、ポリリン酸アンモニウム系化合物であり、
更に、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上である熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料。」(以下、「甲1-1発明」という。)

また、記載事項(イ)から、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。
「火焔初期の延焼防止のための熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法であって、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、膨張開始温度が180?240℃である熱膨張性黒鉛を50?150質量部の範囲で、難燃材であるポリリン酸アンモニウム系化合物を50?150質量部の範囲でそれぞれ用い、更に前記膨張開始温度における、前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸を促進するための脱塩酸触媒と、前記塩化ビニル系樹脂の可塑剤とを用いて、これらを含有してなる熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料を製造する際に、
前記で使用する脱塩酸触媒を、前記塩化ビニル系樹脂として、平均重合度が400?3,000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、前記可塑剤として、フタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質から選択し、且つ、
前記選択した物質の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量を、前記平均重合度が400?3,000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、前記フタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内となるように決定する、熱膨張性塩化ビニル系樹脂製材料の製造方法。」(以下、「甲1-2発明」という。)

イ 対比・判断

(ア)請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)について
本件発明1と、甲1-1発明とを対比すると、両者は、
「塩化ビニル系樹脂に、該樹脂用の可塑剤と、膨張開始温度が180?240℃である熱膨張性黒鉛と、前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸触媒を含む熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料であって、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に、前記熱膨張性黒鉛を50?150質量部の範囲で含み、
前記脱塩酸触媒は、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質であり、且つ、
前記脱塩酸触媒の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量が、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内である熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料について、本件発明1は、脱塩酸抑制化合物を含み、脱塩酸抑制化合物が、加熱された初期の160?240℃の温度で、脱塩酸触媒の触媒機能を抑制する機能をもつ、メラミンシアヌレートであるのに対して、甲1-1発明は、難燃材であるポリリン酸アンモニウム系化合物を含む点。

(相違点2)熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料について、本件発明1は、樹脂材料によって形成した厚みが1.5?1.6mmで面積20×20mmの層に、密度が450g/m^(2)のポリエステル不織布が積層した試験片を、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上であるのに対して、甲1-1発明においては、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上であるものの、膨張体が、樹脂材料によって形成した厚みが1.5?1.6mmで面積20×20mmの層に、密度が450g/m^(2)のポリエステル不織布が積層した試験片を、800℃で加熱して得られる膨張体であることについては特定がない点。

上記相違点について検討する。
(相違点1)について
甲2ないし甲5には、ポリリン酸アンモニウムが耐水性の点で問題があることが記載され、甲4ないし甲8には、塩化ビニル系樹脂の難燃剤としてはメラミンシアヌレートがあることが記載されているものの、甲2ないし甲8のいずれにも、耐水性の点で問題があるポリリン酸アンモニウムに代えてメラミンシアヌレートを使用することの記載はない。
また、甲1ないし甲8のいずれにも、塩化ビニル系樹脂の脱塩酸触媒を含む塩化ビニル系樹脂材料に、脱塩酸抑制化合物を配合すること、脱塩酸抑制化合物がメラミンシアヌレートであることについての記載がない。
また、甲1には、ポリリン酸アンモニウムが耐水性の点で問題があることについての記載はなく、むしろ、ポリリン酸アンモニウムを用いたことにより効果の点で優位性があることが記載されている(上記アの記載事項(ウ))。
これらのことに鑑みれば、甲1-1発明において、ポリリン酸アンモニウム系化合物に代えてメラミンシアヌレートを使用することの動機付けはなんら見出せない。
そして、発明の詳細な説明の【0013】及び検討例2(【0072】?【0082】)の記載からみて、本件発明1は、相違点1に係る事項を具備することにより、粘結力と耐水性に優れた熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料が提供されるという効果を奏すると認められるところ、このような効果は、甲1ないし甲8のいずれをみても、当業者といえども予測できるものではない。
以上のとおりであるから、相違点1に係る事項は、甲1-1発明及び甲2ないし甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到しうるものではない。

してみると、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲8に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)請求項2ないし8に係る発明(以下、「本件発明2」ないし「本件発明8」という。)について
本件発明2ないし8は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであるところ、本件発明1は、上記(ア)に述べたとおり、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲8に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2ないし8も、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲8に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)請求項9に係る発明(以下、「本件発明9」という。)について
本件発明9と甲1-2発明とを対比すると、両者は、
「熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法であって、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、膨張開始温度が180?240℃である熱膨張性黒鉛を50?150質量部の範囲で用い、更に、前記膨張開始温度における、前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸を促進するための脱塩酸触媒と、前記塩化ビニル系樹脂の可塑剤とを用いて、これらを含有してなる熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を製造する際に、
前記脱塩酸触媒を、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質から選択し、且つ、
前記脱塩酸触媒の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量を、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内になるように決定する、塩化ビニル系樹脂材料の製造方法」
で一致し、以下の点で相違する。

(相違点3)
熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料について、本件発明9は、脱塩酸抑制化合物を含み、脱塩酸抑制化合物が、加熱された初期の160?240℃の温度で、脱塩酸触媒の触媒機能を抑制する機能をもつ、メラミンシアヌレートであるのに対して、甲1-2発明は、難燃材であるポリリン酸アンモニウム系化合物を含む点。

上記相違点3について検討すると、上記(ア)の(相違点1)についての検討で述べたものと同様の理由により、上記相違点3に係る事項は、甲1-2発明及び甲2ないし甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到しうるものではない。
してみると、本件発明9は、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲8に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1ないし9は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2項に該当しない。

第6 その他の申立人の主張について

1 申立人の主張
(1)申立人は、申立書20頁4?18行において、a)「800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力」について、本件発明1では「0.8kgf以上」と規定されているにもかかわらず表4における「総合判定」においては、「1.0kgf未満」のものは「×」と評価されていること、b)塩化ビニル系樹脂組成物の基本配合Cにおいて、メラミンシアヌレートを用いた塩化ビニル系樹脂組成物の「粘結力」は表4では「1.9kgf」とされているのに対し、表6及び表7では「2.6kgf」とされており、同じ組成の塩化ビニル系樹脂組成物の粘結力の値が異なっている、という不備な点が存在しているから、検討例1?6の結果が信頼できるものであるかについて疑問の余地がある旨主張する。

(2)申立人は、平成30年9月25日付け意見書2頁6行?4頁9行において、請求項1における「前記樹脂材料によって形成した厚みが1.5?1.6mmで面積20×20mmの層に、密度が450g/m^(2)のポリエステル不織布が積層した試験片を」なる事項を追加する訂正について、訂正前の請求項1における膨張体の粘結力の測定方法は、ポリエステル不織布を用いることが規定されていないことから、【0063】に記載された、ポリエステル不織布を用いない粘結力の測定方法に基づくものであるとするのが妥当であり、請求項1の粘結力の測定方法を、密度450g/m^(2)のポリエステル不織布を用いる方法に基づいて規定すること、及び、密度450g/m^(2)のポリエステル不織布を用いる方法により測定された粘結力の下限値を「0.8kgf」とすることは、当初明細書に記載された事項ではない旨、また、膨張体を得るための加熱方法が、訂正事項1による訂正は、「試験片を800℃で加熱」とされているが、【0075】、【0076】では、「積層体試料(試験片)を800℃まで」加熱とされており、両者には齟齬がある旨主張する。

(3)申立人は、平成30年9月25日付け意見書4頁10行?5頁14行において、訂正前の請求項4の「300g/m^(2)」を「450g/m^(2)」とする訂正について、当初明細書等には、ポリエステル不織布として「300g/m^(2)」のものを用いることも「450g/m^(2)」のものを用いることも記載されており、これら2種の記載は相矛盾するものでなく、これら2種のいずれが正しく、いずれが間違いであるかは当業者にとって明らかでないので、これを「450g/m^(2)」のものに統合させる訂正は、誤記の訂正には該当せず、新たな技術的事項を導入するものであり、ポリエステル密度を変更すると粘結力も当然に変化するから、上記訂正は、特許請求の範囲を実質上拡張し又は変更するものである旨主張する。

(4)申立人は、平成30年9月25日付け意見書の第6頁6行?7頁1行において、粘結力測定方法は、明細書において明確に定義される必要があるところ、本件明細書の【0075】?【0076】には、試験片の作成方法及びこの試験片を800℃で加熱することは規定されているものの、粘結力の測定方法については規定されていないので、ポリエステル不織布を用いた粘結力測定方法が明確に定義されているとはいえない旨主張する。

2 申立人の主張に対する反論
(1)上記主張(1)について
総合判定の○×について、粘結力がどの程度のものを○と評価し、どの程度のものを×と評価するかは、塩化ビニル系材料の所望の用途等に応じて当業者が適宜決定しうる程度の事項であり、「総合判定」において、粘結力「1.0kg未満」のものが×と評価されていることにより、当該実験データが不備であるとはいえない。
また、確かに、表4と表6の粘結力の値は異なっているものの、このことのみをもって、検討例1?6の結果の信頼性が損なわれるとまではいえない。
よって、上記主張(1)は採用できない。

(2)上記主張(2)について
請求項1における訂正(第2 1(1)の、「訂正事項1」)が、不明瞭な記載の釈明を目的とするものであることは、上記第2 2(1)に記載したとおりである。
そして、明細書の実施例には、粘結力の具体的な測定方法として、【0075】?【0077】に密度450g/m^(2)のポリエステルを用いたものが記載されているのだから、訂正前の請求項1の粘結力は、当該方法により測定したものとみるのが自然であって、密度450g/m^(2)のポリエステル不織布を用いる方法により測定された粘結力の下限値を「0.8kgf」とすることも当初明細書に記載された事項の範囲内のものである。
また、膨張体を得るための加熱方法が、「試験片を800℃で加熱」するものにせよ、「積層体試料(試験片)を800℃まで加熱」するものにせよ、試験片を800℃に曝す、すなわち、800℃まで加熱することに相違はなく、これらに齟齬があるとはいえない。
よって、上記主張(2)は採用できない。

(3)上記主張(3)について
請求項4における、「300g/m^(2)」を「450g/m^(2)」とする訂正が、「密度が300g/m^(2)のポリエステル不織布に貼り合わせて積層した試験片」なる不明瞭な記載を明瞭にしたものであって不明瞭な記載の釈明を目的とするものであることは、上記第2 2(2)に記載したとおりである。
そして、明細書の実施例には、粘結力の具体的な測定方法として、【0075】?【0077】に密度450g/m^(2)のポリエステルを用いたものが記載されているのだから、訂正前の請求項4の粘結力は、当該方法により測定したものとみるのが自然であり、上記訂正は、新たな技術的事項を導入するものでないし、特許請求の範囲を実質上拡張し又は変更するものでもない。
よって、上記主張(3)は採用できない。

(4)上記主張(4)について
【0077】には、「加熱膨張体の粘結力は、上記で得た各積層体試料を800℃まで加熱して膨張させて得られた加熱膨張体の最上部に平滑な板をあてて、圧縮試験機で板を押し下げて、板の位置が底部から8mmの高さまでの間に測定された最大抗力をkgfで示した。」と記載されており、当該記載は、明細書において粘結力の測定方法を規定するものといえる。
よって、上記主張(4)は採用できない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂に、該樹脂用の可塑剤と、膨張開始温度が180?240℃である熱膨張性黒鉛と、前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸触媒と、脱塩酸抑制化合物とを含む熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料であって、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に、前記熱膨張性黒鉛を50?150質量部の範囲で含み、
前記脱塩酸触媒は、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質であり、且つ、
前記脱塩酸触媒の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量が、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内であり、
前記脱塩酸抑制化合物が、加熱された初期の160?240℃の温度で、前記脱塩酸触媒の触媒機能を抑制する機能をもつ、メラミンシアヌレートであり、
前記樹脂材料によって形成した厚みが1.5?1.6mmで面積20×20mmの層に、密度が450g/m^(2)のポリエステル不織布が積層した試験片を、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上であることを特徴とする熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項2】
前記脱塩酸抑制化合物の使用量が、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、50?150質量部の範囲内である請求項1に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項3】
95℃の熱水中に24時間浸漬した際の溶出量が、質量基準で2.5%以下である請求項1又は2に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項4】
樹脂材料によって形成した厚みが1.5?1.6mmで面積20×20mmの層に、密度が450g/m^(2)のポリエステル不織布を貼り合わせて積層した試験片を、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が1.0kgf以上である請求項1?3の何れか1項に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項5】
前記脱塩酸触媒が、金属亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、銅、酸化銅及び塩化鉄からなる群から選ばれる少なくとも何れかである請求項1?4の何れか1項に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項6】
その形状が、シート状であり、且つ、厚みが0.5mm?2.0mmである請求項1?5のいずれか1項に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項7】
その形状が、ペースト状又は塗料状である請求項1?5のいずれか1項に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項8】
窓枠又はドア枠に設置するためのものである請求項6又は7に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項9】
熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法であって、
前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、膨張開始温度が180?240℃である熱膨張性黒鉛を50?150質量部の範囲で用い、更に、前記膨張開始温度における、前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸を促進するための脱塩酸触媒と、脱塩酸を抑制するための脱塩酸抑制化合物と、前記塩化ビニル系樹脂の可塑剤とを用いて、これらを含有してなる熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を製造する際に、
前記脱塩酸触媒を、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質から選択し、且つ、
前記脱塩酸触媒の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量を、平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記平均重合度が400?3000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内になるように決定し、
更に、前記脱塩酸抑制化合物として、加熱された初期の160?240℃の温度で、前記脱塩酸触媒の触媒機能を抑制する機能をもつメラミンシアヌレートを用いることを特徴とする熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-10-11 
出願番号 特願2016-256315(P2016-256315)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安田 周史  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 井上 猛
海老原 えい子
登録日 2017-10-20 
登録番号 特許第6228658号(P6228658)
権利者 株式会社レグルス 都化工株式会社
発明の名称 熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料及び熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法  
代理人 岡田 薫  
代理人 菅野 重慶  
代理人 岡田 薫  
代理人 菅野 重慶  
代理人 竹山 圭太  
代理人 竹山 圭太  
代理人 菅野 重慶  
代理人 近藤 利英子  
代理人 竹山 圭太  
代理人 近藤 利英子  
代理人 岡田 薫  
代理人 近藤 利英子  

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