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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1346768
異議申立番号 異議2017-700795  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-08-15 
確定日 2018-11-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6081989号発明「トレッドが高トランス含量を有するSBRエマルジョンを含むタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6081989号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?9]について訂正することを認める。 特許第6081989号の請求項1?7、9に係る特許を維持する。 特許第6081989号の請求項8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 主な手続の経緯等

特許第6081989号(設定登録時の請求項の数は9。以下、「本件特許」という。)は、平成24年5月4日(パリ条約による優先権主張 2011年5月6日 フランス共和国(FR))を国際出願日とする特願2014-509692号に係るものであって、平成29年1月27日に設定登録され、特許掲載公報が、同年2月15日に発行された。
特許異議申立人 中村光代(以下、単に「異議申立人」という。)は、平成29年8月15日、本件特許の請求項1ないし9に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てをした。
当審において、平成29年10月12日付けで取消理由を通知したところ、特許権者は、平成30年1月15日付けで、訂正請求書及び意見書を提出したので、同年1月18日付けで異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、異議申立人は、同年2月22日付けで意見書を提出した。
当審において、同年4月5日付けで取消理由<決定の予告>を通知したところ、特許権者は、同年7月9日付けで、訂正請求書(以下、当該訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)及び意見書を提出したので、同年7月18日付けで異議申立人に対して特許法第120条の5第5項に基づく通知をしたところ、異議申立人は、同年8月21日付けで意見書を提出した。
なお、平成30年1月15日付けの訂正請求書は、取り下げられたものとみなされる。(特許法第120条の5第7項)

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1ないし3のとおりである。なお、下線については訂正箇所に当審が付したものである。

訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「トレッドが少なくとも:
- 第1のジエンエラストマーとして、35から65phrまでの、トランス-1,4-ブタジエニル単位の含量がブタジエニル単位の全体の50質量%よりも多いエマルジョンスチレン/ブタジエンコポリマー「E-SBR」;
- 第2のジエンエラストマーとして、35から65phrまでのポリブタジエン(BR);
- 必要により、第3のジエンエラストマーとして、0から30phrまでの他のジエンエラストマー;
- 90から150phrまでのシリカ;
- 必要により、10phr未満のカーボンブラック
- 可塑化系
を含み、可塑化系が:
- 10と60phrの間の含量Aの、Tgが20℃よりも高い炭化水素樹脂;
- 10と60phrの間の含量Bの、20℃で液体であり且つTgが-20℃よりも低い可塑剤を含み;
- A+Bが50と100phrの間にある、
ゴム組成物を含んでいるタイヤ。」
とあるのを、
「トレッドが少なくとも:
- 第1のジエンエラストマーとして、35から65phrまでの、トランス-1,4-ブタジエニル単位の含量がブタジエニル単位の全体の50質量%よりも多いエマルジョンスチレン/ブタジエンコポリマー「E-SBR」;
- 第2のジエンエラストマーとして、35から65phrまでのポリブタジエン(BR);
- 必要により、第3のジエンエラストマーとして、0から30phrまでの他のジエンエラストマー;
- 90から150phrまでのシリカ;
- 必要により、10phr未満のカーボンブラック
- 可塑化系
を含み、可塑化系が:
- 10と60phrの間の含量Aの、Tgが20℃よりも高い炭化水素樹脂;
- 10と60phrの間の含量Bの、20℃で液体であり且つTgが-20℃よりも低い可塑剤を含み;
- A+Bが50と100phrの間にある、
ゴム組成物を含んでいるタイヤであって、
液体可塑剤が、液体ジエンポリマー、ナフテンオイル、パラフィンオイル、DAEオイル、MESオイル、TDAEオイル、RAEオイル、TRAEオイル、SRAEオイル、鉱油、植物油、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、スルホン酸エステル系可塑剤及びこれらの化合物の混合物からなる群より選ばれ、
ゴム組成物が、1以上の下記式(I)のチアゾール化合物を含む場合を除く、前記タイヤ
<イメージ チアゾール>
(式中、R_(1)およびR_(2)は、個々に、H、或いは線状、枝分れまたは環状のアルキル基およびアリール基から選ばれ、必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断されたC_(1)?C_(25)炭化水素基を示し、R_(1)およびR_(2)は、一緒になって非芳香族環を形成し得;
R_(3)は、
必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断され、且つ必要に応じて1個以上の環状C_(3)?C_(10)アルキルまたはC_(6)?C_(12)アリール基によって置換されている線状または枝分れのC_(1)?C_(25)アルキル基;または、
必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断され、且つ必要に応じて1個以上の線状、枝分れまたは環状のC_(1)?C_(25)アルキルまたはC_(6)?C_(12)アリール基(これらの基は必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断されている)によって置換されている環状のC_(3)?C_(10)アルキル基;
を示す)。」
と訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし7及び9も同様に訂正する。

訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項8を削除する。

訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項9に
「液体可塑剤が、MESオイル、TDAEオイル、ナフテンオイル、植物油及びこれらのオイルの混合物からなる群より選ばれる、請求項8に記載のタイヤ。」
とあるのを、
「液体可塑剤が、MESオイル、TDAEオイル、ナフテンオイル、植物油及びこれらのオイルの混合物からなる群より選ばれる、請求項1?7に記載のタイヤ。」
と訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1) 訂正事項1について

ア この訂正は、訂正前の請求項1は、「Tgが20℃よりも高い液体可塑剤」の種類については特定していないものを、「液体可塑剤が、液体ジエンポリマー、ナフテンオイル、パラフィンオイル、DAEオイル、MESオイル、TDAEオイル、RAEオイル、TRAEオイル、SRAEオイル、鉱油、植物油、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、スルホン酸エステル系可塑剤及びこれらの化合物の混合物からなる群より選ばれ、」と特定する訂正(以後、「訂正事項イ」という。)と、訂正前の請求項1は、組成物が「1以上の下記式(I)のチアゾール化合物

(式中、R_(1)およびR_(2)は、個々に、H、或いは線状、枝分れまたは環状のアルキル基およびアリール基から選ばれ、必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断されたC_(1)?C_(25)炭化水素基を示し、R_(1)およびR_(2)は、一緒になって非芳香族環を形成し得;
R_(3)は、
必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断され、且つ必要に応じて1個以上の環状C_(3)?C_(10)アルキルまたはC_(6)?C_(12)アリール基によって置換されている線状または枝分れのC_(1)?C_(25)アルキル基;または、
必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断され、且つ必要に応じて1個以上の線状、枝分れまたは環状のC_(1)?C_(25)アルキルまたはC_(6)?C_(12)アリール基(これらの基は必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断されている)によって置換されている環状のC_(3)?C_(10)アルキル基;
を示す)。」を含む場合を除外していなかったものを、訂正により当該チアゾール化合物を含むものを除外する訂正(以後、「訂正事項ロ」という。)である。

イ 訂正事項イは、Tgが20℃よりも高い液体可塑剤の種類について具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮するものであり、訂正事項ロは、組成物が上記所定のチアゾール化合物を含む場合を除外することにより、訂正後の請求項1において組成物の態様の範囲を減縮するものである。
よって、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

ウ 訂正事項イは、Tgが20℃よりも高い液体可塑剤の種類を減縮するものであり、願書に添付した明細書の段落【0017】の記載から、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲の変更又は拡張するものでもない。

エ 訂正事項ロは、特定のチアゾール化合物を含むものを除外するものであるが、訂正事項ロは、単に所定のチアゾール化合物を含む場合を削除するにすぎないものであって、当該訂正により新たな技術的事項を導入しないものであることが明らかであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲の変更又は拡張するものでもない。

オ よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(2) 訂正事項2について

訂正事項2は、訂正前の請求項8を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
そして、当該訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(3) 訂正事項3について

訂正事項3は、訂正事項2において請求項8が削除されたことに伴い、訂正前の請求項9における引用請求項において請求項8を引用しないようにするものであって、引用する請求項の一部を削除することになるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
そして、当該訂正事項3は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。

(4) 一群の請求項について

訂正前の請求項2ないし7及び9は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正事項1ないし3は、訂正前の請求項1?9という一群の請求項ごとに請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項に適合するものである。

3 むすび

以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?9]について、訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明9」という。)は、平成30年7月9日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される以下に記載のとおりのものである。

「【請求項1】
トレッドが少なくとも:
- 第1のジエンエラストマーとして、35から65phrまでの、トランス-1,4-ブタジエニル単位の含量がブタジエニル単位の全体の50質量%よりも多いエマルジョンスチレン/ブタジエンコポリマー「E-SBR」;
- 第2のジエンエラストマーとして、35から65phrまでのポリブタジエン(BR);
- 必要により、第3のジエンエラストマーとして、0から30phrまでの他のジエンエラストマー;
- 90から150phrまでのシリカ;
- 必要により、10phr未満のカーボンブラック
- 可塑化系
を含み、可塑化系が:
- 10と60phrの間の含量Aの、Tgが20℃よりも高い炭化水素樹脂;
- 10と60phrの間の含量Bの、20℃で液体であり且つTgが-20℃よりも低い可塑剤を含み;
- A+Bが50と100phrの間にある、
ゴム組成物を含んでいるタイヤであって、
液体可塑剤が、液体ジエンポリマー、ナフテンオイル、パラフィンオイル、DAEオイル、MESオイル、TDAEオイル、RAEオイル、TRAEオイル、SRAEオイル、鉱油、植物油、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、スルホン酸エステル系可塑剤及びこれらの化合物の混合物からなる群より選ばれ、
ゴム組成物が、1以上の下記式(I)のチアゾール化合物を含む場合を除く、前記タイヤ

(式中、R_(1)およびR_(2)は、個々に、H、或いは線状、枝分れまたは環状のアルキル基およびアリール基から選ばれ、必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断されたC_(1)?C_(25)炭化水素基を示し、R_(1)およびR_(2)は、一緒になって非芳香族環を形成し得;
R_(3)は、
必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断され、且つ必要に応じて1個以上の環状C_(3)?C_(10)アルキルまたはC_(6)?C_(12)アリール基によって置換されている線状または枝分れのC_(1)?C_(25)アルキル基;または、
必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断され、且つ必要に応じて1個以上の線状、枝分れまたは環状のC_(1)?C_(25)アルキルまたはC_(6)?C_(12)アリール基(これらの基は必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断されている)によって置換されている環状のC_(3)?C_(10)アルキル基;
を示す)。
【請求項2】
E-SBRのトランス-1,4-ブタジエニル単位の含量が、ブタジエニル単位の全体の60質量%よりも多い、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
E-SBRのスチレン含量が、コポリマーの多くても50質量%に等しい、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
ゴム組成物が、45から65phrまでのE-SBRを含んでいる、請求項1?3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
ゴム組成物が、35から55phrまでのBRを含んでいる、請求項1?4のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項6】
第3のジエンエラストマーが、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマー及びこれらのエラストマーの混合物からなる群より選ばれる、請求項1?5のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項7】
炭化水素樹脂が、シクロペンタジエンホモポリマー又はコポリマー樹脂、ジシクロペンタジエンホモポリマー又はコポリマー樹脂、テルペンホモポリマー又はコポリマー樹脂、C_(5)留分ホモポリマー又はコポリマー樹脂、C_(9)留分ホモポリマー又はコポリマー樹脂、α-メチルスチレンホモポリマー及びこれらの樹脂の混合物からなる群より選ばれる、請求項1?6のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
液体可塑剤が、MESオイル、TDAEオイル、ナフテンオイル、植物油及びこれらのオイルの混合物からなる群より選ばれる、請求項1?7に記載のタイヤ。」

第4 取消理由の概要

平成30年4月5日付けで通知した取消理由<決定の予告>は、次の2つである。

「【理由1】 本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された下記の刊行物1に記載された発明及び刊行物2ないし4に記載の技術事項並びに周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
【理由2】 本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された下記の刊行物2に記載された発明及び刊行物3又は4に記載の技術事項並びに周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

・・・
刊行物1: 欧州特許出願公開第2204406号(特許異議申立書の証拠方法である甲第1号証。以下、単に「甲1」という。)
刊行物2: 国際公開第2011/042520号(特許異議申立書の証拠方法である甲第2号証。以下、単に「甲2」という。)
刊行物3: 特開平8-225684号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲第3号証。以下、単に「甲3」という。)
刊行物4:特開2002-241542号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲第4号証。以下、単に「甲4」という。)
刊行物5:特開2008-69347号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲第5号証。以下、単に「甲5」という。)
刊行物6:国際公開第2002/00779号(特許異議申立書の証拠方法である甲第6号証。以下、単に「甲6」という。)
刊行物7:特表2003-521575号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲第7号証。以下、単に「甲7」という。)
刊行物8:特表2003-521574号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲第8号証。以下、単に「甲8」という。)
刊行物9:特開2010-144110号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲第9号証。以下、単に「甲9」という。)
刊行物10:特表2010-65103号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲第10号証。以下、単に「甲10」という。)
刊行物11:特表2011-52098号公報(特許異議申立書の証拠方法である甲第11号証。以下、単に「甲11」という。)
参考資料1:「ゴムの事典」、朝倉書店、2004年4月10日、初版第2刷、161頁、162頁、168頁(特許異議申立書の証拠方法である参考資料1。以下、単に「参考資料1」という。)
参考資料2:特開昭58-154712号公報(特許異議申立書の証拠方法である参考資料2。以下、単に「参考資料2」という。)
参考資料3:汎用ゴム-SBR(スチレンブタジエンゴム)、[online]、[平成29年8月10日検索]、インターネット<URL:http://www.zeon.co.jp/business/enterprise/rubber/rubber_sbr.html?prt=true&css=>(特許異議申立書の証拠方法である参考資料3。以下、単に「参考資料3」という。)
・・・ 」

当審注:上記の取消理由<決定の予告>においての本件特許の請求項は、取り下げられた平成30年1月15日付け訂正請求書に添付された特許請求の範囲に記載されていた請求項1ないし11である。

第5 取消理由1についての当審の判断

当審は、以下述べるように、上記取消理由1には理由がないと判断する。

1 甲1の記載
上記取消理由通知において引用された本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな甲1(欧州特許出願公開第2204406号)には、以下の事項が記載されている。和訳については、異議申立人が提出した抄訳及び特許権者が提出した訳を参考に当審において作成した。

(1)「1.A pneumatic tire comprising:
(A)
from 30 to 70 parts by weight, per 100 parts by weight of elastomer (phr), of a first elastomer wherein the first elastomer is styrene-butadiene rubber having a bound styrene of at least 36 percent by weight;
from 70 to 30 phr of a second elastomer wherein the second elastomer is a rubber selected from polybutadiene rubber and polyisoprene rubber;
from 1 to 40 phr of a polyalphaolefin having a glass transition temperature Tg below -60℃;
from 1 to 20 phr of a resin derived from styrene and alphamethylstyrene having a glass transition temperature Tg ranging from 20℃ to 100℃; and
from 30 to 150 phr of silica; or
(B)
from 30 to 70 parts by weight, per 100 parts by weight of a first elastomer (phr) having a glass transition temperature Tg ranging from -40℃ to -10℃ and a solubility parameter ranging from 4.1 MPa ^(1/2) to 4.5 MPa^(1/2); from 70 to 30 phr of a second elastomer having a Tg ranging from -105℃ to -30℃ and a solubility parameter ranging from 3.7 MPa^(1/2) to 4.1 MPa^(1/2);
from 1 to 40 phr of a first plasticizer having a solubility parameter ranging from 3.4 MPa^(1/2) to 3.8 MPa^(1/2) ;
from 1 to 20 phr of a second plasticizer having a solubility parameter ranging from 4.3 MPa^(1/2) to 4.7 MPa^(1/2) ; and
from 30 to 150 phr of silica;

wherein the first elastomer is relatively viscoelastically incompatible with the second elastomer.
12.A pneumatic tire comprising a ground contacting tread, the tread comprising a rubber composition according to one of the previous claims.」
(1.(A)
エラストマー100重量部(phr)に対して、少なくとも36重量%の結合スチレンを有するスチレン-ブタジエンゴムである第1エラストマー30-70重量部;
ポリブタジエンゴムおよびポリイソプレンゴムから選択されるゴムである第2エラストマー70-30phrを含み、
ガラス転移温度Tg-60℃未満のポリアルファオレフィン1-40phr;
ガラス転移温度Tg 20℃-100℃のスチレンおよびアルファメチルスチレン由来の樹脂 1-20phr
及び
シリカ 30-150phr ; 又は
(B)
30?70phrの第1エラストマーは、-40℃?-10℃の範囲のガラス転移温度Tgを有し、4.1MPa^(1/2)?4.5MPa^(1/2)の範囲の溶解度パラメータを有するものであり、70?30phrの第2エラストマーは、-105℃?-30℃の範囲のガラス転移温度Tgを有し、3.7MPa^(1/2)?4.1MPa^(1/2)の範囲の溶解度パラメータを有するものであり、
1?40phrの第1の可塑剤は、3.4MPa^(1/2)?4.7MPa^(1/2)の範囲の溶解度パラメータを有し、1?20phrの第2の可塑剤は、4.3MPa^(1/2)?4.7MPa^(1/2)の範囲の溶解度パラメータ、
30?150phrのシリカ;

ここで、第1のエラストマーは第2のエラストマーと比較的、粘弾性的に非相溶である、
を含むタイヤ。
12.地面に接触するトレッドを含む空気入りタイヤであって、前記トレッドが、前記請求項の1つに記載のゴム組成物を含む、空気入りタイヤ。)(特許請求の範囲、請求項1、12)

(2)「[0001] It is highly desirable for tires to have good wet braking performance and good braking performance on snow and ice. It has traditionally been very difficult to improve simultaneously a tire's braking characteristics on wet surfaces and snow and ice surfaces. This is because a good wet braking tread formulation needs to provide a high energy dissipation at low temperatures between -20℃ and 0℃ at a frequency of 10 Hz. Such a high energy dissipation is related to a stiffening of the rubber tread at temperatures between -10℃ and -40℃ at 10 Hz, which negatively impacts braking on snow and ice.
[0002] It would therefore be desirable to have a rubber composition for tires wherein the wet braking performance and braking on ice and snow are simultaneously improved.」
([0001] タイヤの湿潤地面上のブレーキ特性と、氷雪上のブレーキ性能を同時に改良することは伝統的に難しいとされてきた。なぜなら、良好な湿潤地面上のブレーキ性能を有するトレッド配合は10Hzにおいて-20℃?0℃の低温で高エネルギー散逸を起こし、そのような高エネルギー散逸は、10Hzにおいて-10℃?-40℃の温度でゴムトレッドを硬化するからである。
[0002] したがって、湿潤制動性能、氷上および雪上での制動性能が同時に改良されたタイヤ用のゴム組成物を有することが望ましい。)

(3)「[0019] In one embodiment, the first elastomer is an emulsion polymerization derived styrene/butadiene (E-SBR) having a relatively conventional styrene content of greater than 36 percent bound styrene. By emulsion polymerization prepared E-SBR, it is meant that styrene and 1,3-butadiene are copolymerized as an aqueous emulsion.
[0020] In one embodiment, the first elastomer is a solution polymerized styrene butadiene rubber. ・・・」
([0019] -実施形態では、第1のエラストマーは、36%を超える結合スチレンを有する乳化重合由来のスチレン-ブタジエン(E-SBR)である。乳化重合によって調整されたE-SBRは、スチレンおよび1,3-ブタジエンが水性エマルジョンとして共重合されることを意味する。
[0020] -実施形態では、第1のエラストマーは、溶液重合スチレンブタジエンゴムである。・・・)

(4)「[0027] In one embodiment, the first plasticizer is a polyalphaolefin. Suitable polyalphaolefins include polymers of butane, pentene, hexane, heptene, octane, nonene, decene, undodecene, and dodecene. In one embodiment, the polyalphaolefin has a Tg below -60℃. In one embodiment, the polyalphaolefin is poly(1-decene). Suitable polyalphaolefin is available commercially from Lehmann&Voss&Co. as Luvomaxx○R(審決注:丸囲みのRを意味する) PAO 60 with a Tg of -86℃ and a solubility parameter δ of 3.66 MPa^(1/2 ).」
([0027] -実施形態では、第1の可塑剤はポリアルファオレフィンである。適切なポリアルファオレフィンには、ブタン、ペンテン、ヘキサン、ヘプテン、オクタン、ノネン、デセン、ウンデセン及びドデセンのポリマーが含まれる。-実施形態では、ポリアルファオレフィンはポリ(1-デセン)である。好適なポリアルファオレフィンは、Lehmann&Voss&Coから市販されている、-86℃のTgおよび3.66MPa^(1/2) の溶解度パラメータδを有するLuvomaxx(登録商標)PAO60として入手できる。)

(5)「[0049] The rubber composition may also include up to 70 phr of processing oil. Processing oil may be included in the rubber composition as extending oil typically used to extend elastomers. Processing oil may also be included in the rubber composition by addition of the oil directly during rubber compounding. The processing oil used may include both extending oil present in the elastomers, and process oil added during compounding. Suitable process oils include various oils as are known in the art, including aromatic, paraffinic, naphthenic, vegetable oils, and low PCA oils, such as MES, TDAE, SRAE and heavy naphthenic oils. Suitable low PCA oils include those having a polycyclic aromatic content of less than 3 percent by weight as determined by the IP346 method. Procedures for the IP346 method may be found in Standard Methods for Analysis & Testing of Petroleum and Related Products and British Standard 2000 Parts, 2003, 62nd edition, published by the Institute of Petroleum, United Kingdom .」
([0049] ゴム組成物はまた、70phrまでのプロセスオイルを含むことができる。プロセスオイルは、エラストマーの伸展に典型的に用いられるエキステンダオイルとしてゴム組成物中に含まれていてもよい。ゴム配合中にオイルを直接添加することにより、プロセスオイルをゴム組成物に含めることができる。使用されるプロセスオイルは、エラストマー中に存在するエキステンダオイルと、混練中に添加されるプロセスオイルの両方を含むことができる。適切なプロセスオイルには、芳香族、パラフィン、ナフテン、植物油や、MES、TDAE、SRAEおよび重ナフテンオイルなどの低PCAオイルを含む、当技術分野で知られている様々なオイルが含まれる。好適な低PCAオイルには、IP346法で測定した3重量%未満の多環式芳香族含有量を有するものが含まれる。IP346方法の手順は、石油および関連製品の分析および試験のための標準的方法、英国石油協会発行の英国基準2000、2003年、第62版に見出すことができる。)

(6)「



2 甲1に記載された発明
甲1には、上記1(1)、(2)、(4)、(5)から、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
<甲1発明>
「エラストマー100重量部に対して、少なくとも36重量%の結合スチレンを有するスチレン-ブタジエンゴムである第1エラストマー30-70重量部;
ポリブタジエンゴムおよびポリイソプレンゴムから選択されるゴムである第2エラストマー70-30重量部を含み、
ガラス転移温度Tgが-60℃未満のポリアルファオレフィン1-40重量部;
ガラス転移温度Tgが20℃-100℃のスチレンおよびアルファメチルスチレン由来の樹脂1-20重量部;
及び
シリカ 30-150重量部;
を含んでいるゴム組成物を含むトレッドを含む空気入りタイヤ。」

3 甲2ないし11並びに参考資料1及び2に記載された事項

(1) 甲2に記載された事項
上記取消理由通知において引用された本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな甲2(国際公開第2011/042520号)には、下記第6 1に記載されたとおりの事項が記載されている。

(2) 甲3に記載された事項
上記取消理由通知において引用された本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな甲3(特開平8-225684号公報)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ゴム成分が、5?80重量%の溶液重合-共役ジエン・芳香族ビニル化合物コポリマー、10?85重量%の乳化重合-共役ジエン・芳香族ビニル化合物コポリマー、0?40重量%のポリイソプレン、及び10?50重量%のポリブタジエンからなるゴム組成物であって、
前記ゴム成分100重量部に対して、シリカが25?90重量部、及びカーボンブラックが5?90重量部配合されていることを特徴とするゴム組成物。」

イ 「【0002】
【従来の技術及び解決しようとする課題】タイヤに望ましい諸性質(例えば、僅かなころがり抵抗、湿潤路面における良好なグリツプ性、大きい耐摩耗性)を同時に達成することは困難である。なぜならば、上記性質は、部分的に、相互に背反するからである。即ち、ころがり抵抗を低減する方策は、耐摩耗性の低減を招く。例えば、カーボンブラツクを完全にまたは部分的に充填剤としてのシリカで置換すれば、タイヤのころがり抵抗は低減するが、タイヤの耐摩耗性が低下する。」

ウ 「【0006】本発明の課題は、タイヤトレツドにおいて、特殊なシリカを使用することなく、相互に背反する性質の間で良好な妥協性を有するゴム組成物を提供することにある。特に、上記ゴム組成物によつて、シリカによつて達成される公知のすべての有利な性質を有し、しかも、カーボンブラツクに起因する良好な性質が損なわれることのないタイヤトレツドを提供することを目的とする。」

エ 「【表1】



オ 「【0029】乳化重合SBRとあるのは、乳化重合によつて合成された油展のスチレン・ブタジエン・コポリマーで、アロマチックオイル含有量がスチレン・ブタジエン・コポリマー100重量部当り37.5重量部である。スチレン含有量はスチレン・ブタジエン・コポリマー100重量部当り22.5?24.5重量部、ブタジエン成分中の1,4-シス結合含有率は8%、ブタジエン成分中の1,4-トランス結合含有率は53%,ブタジエン成分中の1,2-ビニル結合含有率は15%であり、ガラス転移点(Tg)は-50℃である。」

カ 「【表2】



キ 「【0047】
【発明の効果】本発明のゴム組成物は、特殊なシリカを使用することなく、相互に相反する性質である良好なウェットグリップ性と低ころがり抵抗を満足できる。従って、本発明のゴム組成物は、乗用車等の車両用タイヤのトレッドに好適である。」

(3) 甲4に記載された事項
上記取消理由通知において引用された本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな甲4(特開2002-241542号公報)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 重合モノマー成分100重量部に対して0.05?0.25重量部の連鎖移動剤を添加して、0℃以下の重合温度で重合された、スチレン含有率が20?45重量%であり、重量平均分子量が100万?200万である乳化重合スチレンブタジエンゴムを30重量部以上含むゴム成分100重量部に対して、
窒素吸着比表面積(N_(2)SA)が50?135m^(2)/gであるカーボンブラックを0?140重量部及びシリカ10?150重量部とを配合してなり、前記カーボンブラックと前記シリカの合計量が40?150重量部であることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、空気入りタイヤの転がり抵抗の低減と湿潤路面でのウェットスキッド性能を改良し、かつ耐摩耗性をバランスよく向上することができるシリカ配合系のタイヤトレッド用ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。」

ウ 「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者は前記目的を達成するため検討の結果、特定重合処方の乳化重合により得られた高分子量スチレンブタジエンゴムをゴム成分として含み、特定のカーボンブラック及びシリカを特定量含むゴム組成物が、転がり抵抗とウェットスキッド性能を高次に改良し、耐摩耗性を大幅に向上することができることを見出し、本発明を完成するに至った。」

エ 「【0024】他のゴムとしては、例えば各種ブタジエンゴム、天然ゴム、各種の溶液重合および乳化重合スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴムなどのジエン系ゴムが好ましく、その1種または2種以上とブレンド配合することができるが、その中でも高シスブタジエンゴム、天然ゴム、各種スチレンブタジエンゴムとのブレンド配合が耐摩耗性、ゴム強度、加工性等の向上の観点からトレッド用ゴム組成物には好ましい形態である。」

オ 「【0042】実施例および比較例に使用した、スチレンブタジエンゴム(SBR-A?SBR-G)の重合処方及び各特性値を表1に示す。
【0043】
【表1】



カ 「【表2】



(4) 甲5に記載された事項
上記取消理由通知において引用された本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな甲5(特開2008-69347号公報)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0004】
例えばスチレン-ブタジエンゴムは、タイヤトレッド化合物に利用される場合、高レベルのビニル含有率(1,2-微細構造)を有するのが望ましいと従来一般に考えられてきた。この目的を達成するために、スチレン-ブタジエンゴムは、一つ又は複数の改質剤を含む触媒系の存在下で実施される溶液重合によって合成されることが多い。高ビニル含有率のゴム状ポリマーを提供するのに対して、高トランス微細構造含有率を有するゴム状ポリマーがタイヤトレッドの性質のより望ましいバランスを提供しうると考えられている。」

(5) 甲6に記載された事項
上記取消理由通知において引用された本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな甲6(国際公開第02/00779号)には、以下の事項が記載されている。

ア 「第1及び第2の観点の発明に係わる上記共役ジエン/芳香族ビニル共重合ゴムとしては、 例えば、スチレン・ブタジエン共重合ゴム等が挙げられる。この共役ジエン/芳香族ビニル共重合ゴムの共役ジエン単量体単位のビニル結合量は好ましくは10?30質量%、更に好ましくは12?25質量%であり、 1,4-トランス結合量は好ましくは55質量%を超え、更に好ましくは60質量%を超える。尚、上限は通常、約85質量%である。ビニル結合量が増すと、加硫ゴムの反発弾性及び耐摩耗性等が低下する傾向にある。また、1,4-トランス結合量が少ないと引張強度が低下する傾向にある。ミク口構造を上記の範囲に設定することにより、これらの物性に優れた加硫ゴムを得ることができる。」(13頁15行?24行)

(6) 甲7に記載された事項
上記取消理由通知において引用された本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな甲7(特表2003-521575号公報)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】架橋性ゴム組成物を含むタイヤトレッドであって、スチレンとブタジエンの少なくとも一種のエラストマー性エマルジョンコポリマー及び大部分の強化白色充填剤を含む強化充填剤を含み、前記強化白色充填剤が前記組成物において40phr以上の量で存在し、前記それぞれのコポリマーが、1?3.5phrの実質的に変動する量の乳化剤を含むことを特徴とするタイヤトレッド(phr:前記それぞれのコポリマーの100部当りの質量部)。
・・・
【請求項4】前記それぞれのコポリマーが、70%以上のトランス結合含有量を有する、請求項1?3の何れか一項に記載のタイヤトレッド。」

(7) 甲8に記載された事項
上記取消理由通知において引用された本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな甲8(特表2003-521574号公報)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】架橋性ゴム組成物を含むタイヤトレッドであって、スチレンとブタジエンの少なくとも一種のエラストマー性エマルジョンコポリマー及び大部分の強化白色充填剤を含む強化充填剤を含み、前記強化白色充填剤が前記組成物において40phr以上の量で存在し、前記それぞれのコポリマーが、1?3.5phrの実質的に変動する量の乳化剤を含むことを特徴とするタイヤトレッド(phr:前記それぞれのコポリマーの100部当りの質量部)。
・・・
【請求項4】前記それぞれのコポリマーが、70%以上のトランス結合含有量を有する、請求項1?3の何れか一項に記載のタイヤトレッド。」(請求項1、4)

(8) 甲9に記載された事項
上記取消理由通知において引用された本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな甲9(特開2010-144110号公報)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0025】
標準例1(従来例)
油展SBR(日本ゼオン製品Nipol 1723;シス10%、トランス75%、137.5重量部
ビニル基15%、スチレン含量24%、油展量37.5phr)
カーボンブラック(東海カーボン製品シーストKH) 75.0〃
亜鉛華(正同化学工業製品酸化亜鉛3種) 3.0〃
ステアリン酸(日本油脂製品ビーズステアリン酸) 1.0〃
N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-キノンジイミン〔QDI〕1.0 〃
(フレキシス社製品6QDI)
硫黄(細井化学工業製品油処理硫黄) 1.75〃
加硫促進剤(大内新興化学工業製品ノクセラーCZ-Q) 2.0〃
以上の各成分の内、硫黄および加硫促進剤を除く各配合成分を秤量し、1.5Lのバンバリーミキサで4.5分間混練し、放出温度130℃でマスターバッチを放出し、室温に冷却した。このマスターバッチに硫黄および加硫促進剤を加えてバンバリーミキサで混合し、最終ステップ放出温度115℃で放出して、ゴム組成物を調製した。」

(9) 甲10に記載された事項
上記取消理由通知において引用された本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな甲10(特開2010-65103号公報)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0032】
なお、表1,2において使用した原材料の種類を下記に示す。
SBR:乳化重合スチレンブタジエンゴム(日本ゼオン社製NIPOL 1723、SBR100重量部に対しオイル37.5重量部添加の油展品)
再生ゴム:村岡ゴム社製タイヤリク紫線、再生ゴム中のゴム分は50重量%。
カーボンブラック:キャボットジャパン社製ショウブラックN220(窒素吸着比表面積111m^(2)/g)
アロマオイル:富士興産社製アロマオイル
茶抽出物:太陽化学社製サンカトールNo1(カテキン含有量7重量%)
酸化防止剤:N-フェニル-N′-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、フレキシス社社製6PPD
酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
加硫促進剤:大内新興化学工業社製ノクセラーCZ-G
硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄」

(10) 甲11に記載された事項
上記取消理由通知において引用された本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな甲11(特開2011-52098号公報)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
*1:SBR(日本ゼオン(株)製、Nipol 1723、油展量37.5質量%。表では油を含まないSBR量として記載した。)
*2:NR(RSS#3)
*3:カーボンブラック(東海カーボン(株)製、シーストKH)
*4:シリカ(日本シリカ工業(株)製、ニップシールVN3)
*5:シリカカップリング剤(デグッサ社製、Si69)
*6:ZnO(正同化学工業(株)製、酸化亜鉛3種)
*7:ステアリン酸(日油(株)製、ビーズステアリン酸NY)
*8:アロマオイル(昭和シェル(株)製、デソレックス3号)
*9:6C(フレキシス社製SANTOFLEX 6PPD。老化防止剤)
*10:RD(大内新興化学工業(株)製ノクラック224。老化防止剤)
*11:硫黄(細井化学工業(株)製、油処理硫黄)
*12:環状ポリスルフィド(上記のようにして合成した環状ポリスルフィド)
*13:KA9188(バイエル社製商品名、化合物名=1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)
*14:CZ(大内新興化学工業(株)製加硫促進剤。商品名ノクセラーCZ-G)
*15:DPG(住友化学(株)製加硫促進剤。商品名ソクシノールD-G)」

(11) 参考資料1に記載された事項
特許異議申立書に添付された本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな参考資料1(ゴムの事典)には、以下の事項が記載されている。

ア 「



(12) 参考資料2に記載された事項
特許異議申立書に添付された本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな参考資料2(特開昭58-154712号公報)には、以下の事項が記載されている。

ア 「すなわち、SBRの場合、ガラス転移点には、反応したスチレン量及びブタジエンユニットのミクロ構造が影響することが知られている。一方、ブタジエンユニットのミクロ構造は、ラジカル開始剤を使用した乳化重合法においては、重合温度等の重合条件が同一であれば、一定の反応形態をとることが知られており、例えば、重合温度5℃で重合した乳化重合SBRは、トランス-1,4ブタジエンが76%、シス-1,4ブタジエンが7%、1,2ブタジエンが16%の割合で存在する。」(4頁右上欄16行?左下欄6行)

4 本件特許発明1について

(1) 本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「トレッドを含む空気入りタイヤ」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「トレッドが少なくとも:」「ゴム組成物を含んでいるタイヤ」に相当する。
甲1発明における「エラストマー100重量部に対して、少なくとも36重量%の結合スチレンを有するスチレン-ブタジエンゴムである第1エラストマー30-70重量部」は、スチレンーブタジエンコポリマーである限りにおいて、本件特許発明1における「第1ジエンエラストマーとして、35?65phrまでの、」「スチレン/ブタジエンコポリマー」に相当する。
以下、同様に、甲1発明における「ポリブタジエンゴムおよびポリイソプレンゴムから選択されるゴムである第2エラストマー70-30重量部」、「シリカ30-150重量部」、「ガラス転移温度Tg20℃-100℃のスチレンおよびアルファメチルスチレン由来の樹脂1-20重量部」は、それぞれ、本件特許発明1における「第2のジエンエラストマーとして、35から65phrまでのポリブタジエン(BR)」、「90から150phrまでのシリカ」、「可塑化系」の「10と60phrの間の含量Aの、Tgが20℃よりも高い炭化水素樹脂」に相当する。
また、甲1の上記1(4)の摘示のとおり、甲1発明における「ポリアルファオレフィン」は可塑剤として使用されるものであって、本件特許発明1の液体可塑剤として例示されている「ポリオレフィン」の一形態であるから、甲1発明における「ガラス転移温度Tgが-60℃未満のポリアルファオレフィン1-40重量部」は、本件特許発明1における「10と60phrの間の含量Bの、20℃で液体であり且つTgが-20℃よりも低い可塑剤」に相当する。
そして、本件特許発明1における「必要により、第3のジエンエラストマーとして、0から30phrまでの他のジエンエラストマー」、「必要により、10phr未満のカーボンブラック」は、「必要により」という表現で、かつ、「0phr」でもよいとされているため、甲1発明との対比において実質的な相違点とはならない。
甲1発明は、1以上の下記式(I)のチアゾール化合物を含むものではないから、この点は相違点とはならない。

(式中、R_(1)およびR_(2)は、個々に、H、或いは線状、枝分れまたは環状のアルキル基およびアリール基から選ばれ、必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断されたC_(1)?C_(25)炭化水素基を示し、R_(1)およびR_(2)は、一緒になって非芳香族環を形成し得;
R_(3)は、
必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断され、且つ必要に応じて1個以上の環状C_(3)?C_(10)アルキルまたはC_(6)?C_(12)アリール基によって置換されている線状または枝分れのC_(1)?C_(25)アルキル基;または、
必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断され、且つ必要に応じて1個以上の線状、枝分れまたは環状のC_(1)?C_(25)アルキルまたはC_(6)?C_(12)アリール基(これらの基は必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断されている)によって置換されている環状のC_(3)?C_(10)アルキル基;
を示す)。

そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「トレッドが少なくとも:
- 第1のジエンエラストマーとして、35?65phrまでのスチレン/ブタジエンコポリマー;
- 第2のジエンエラストマーとして、35から65phrまでのポリブタジエン(BR);
- 必要により、第3のジエンエラストマーとして、0から30phrまでの他のジエンエラストマー;
- 90から150phrまでのシリカ;
- 必要により、10phr未満のカーボンブラック
- 可塑化系
を含み、可塑化系が:
- 10と60phrの間の含量Aの、Tgが20℃よりも高い炭化水素樹脂;
- 10と60phrの間の含量Bの、20℃で液体であり且つTgが-20℃よりも低い可塑剤を含む;
ゴム組成物を含んでいるタイヤであって、
ゴム組成物が、1以上の下記式(I)のチアゾール化合物を含む場合を除く、前記タイヤ

(式中、R_(1)およびR_(2)は、個々に、H、或いは線状、枝分れまたは環状のアルキル基およびアリール基から選ばれ、必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断されたC_(1)?C_(25)炭化水素基を示し、R_(1)およびR_(2)は、一緒になって非芳香族環を形成し得;
R_(3)は、
必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断され、且つ必要に応じて1個以上の環状C_(3)?C_(10)アルキルまたはC_(6)?C_(12)アリール基によって置換されている線状または枝分れのC_(1)?C_(25)アルキル基;または、
必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断され、且つ必要に応じて1個以上の線状、枝分れまたは環状のC_(1)?C_(25)アルキルまたはC_(6)?C_(12)アリール基(これらの基は必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断されている)によって置換されている環状のC_(3)?C_(10)アルキル基;
を示す)。」
の点で一致し、下記の相違点1ないし3で相違する。

<相違点1>
第1のジエンエラストマーであるスチレン/ブタジエンコポリマーに関し、本件特許発明1は、「トランス-1,4-ブタジエニル単位の含量がブタジエニル単位の全体の50質量%よりも多いエマルジョンスチレン/ブタジエンコポリマー「E-SBR」;」と特定するのに対し、甲1発明は、「少なくとも36重量%の結合スチレンを有するスチレン-ブタジエンゴム」が使用されている点。
<相違点2>
可塑化系における20℃で液体であり且つTgが-20℃よりも低い可塑剤に関し、本件特許発明1は、「液体可塑剤が、液体ジエンポリマー、ナフテンオイル、パラフィンオイル、DAEオイル、MESオイル、TDAEオイル、RAEオイル、TRAEオイル、SRAEオイル、鉱油、植物油、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、スルホン酸エステル系可塑剤及びこれらの化合物の混合物からなる群より選ばれ」と特定されているのに対し、甲1発明は、「ポリアルファオレフィン」である点。
<相違点3>
可塑化系に関し、本件特許発明1は、可塑化系の「A+Bが50と100phrの間にある」と特定するのに対し、甲1発明においては、可塑化系全体の配合量に関して記載がない点。

(2) 以下、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点2から検討する。
甲1発明は、「湿潤制動性能、氷上および雪上での制動性能が同時に改良されたタイヤ用のゴム組成物」(段落【0002】)であって、当該ゴム組成物における可塑化系を、特定の可塑化系である「ポリアルファオレフィン」と「スチレンおよびアルファメチルスチレン由来の樹脂」に特定しているものである。
そうすると、タイヤ用のゴム組成物においての液体可塑剤として、液体ジエンポリマー、ナフテンオイル、パラフィンオイル、DAEオイル、MESオイル、TDAEオイル、RAEオイル、TRAEオイル、SRAEオイル、鉱油、植物油、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、スルホン酸エステル系可塑剤及びこれらの化合物の混合物からなる群を利用することが周知であったとしても、これらの液体可塑剤が湿潤制動性能や氷上および雪上での制動性能の点でポリアルファオレフィンと同等以上の効果を発揮することが知られていたとはいえないから、甲1発明において、特定の液体可塑剤であるポリアルファオレフィンから別の液体可塑剤に代えることには阻害要因がある。
そうすると、相違点2は、当業者において想到容易とはいえない。
よって、相違点1及び3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 本件特許発明2ないし7及び9について
本件特許発明2ないし7及び9は、いずれも本件特許発明1を直接又は間接的に引用する発明であるから、少なくとも上記相違点2の点で、甲1に記載された発明と相違しており、上記相違点2は、上記のとおり当業者においても想到容易といえないから、本件発明2ないし7及び9も、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 まとめ

以上のとおりであるから、取消理由1には理由がない。

第6 取消理由2についての当審の判断

当審は、以下述べるように、上記取消理由2には理由がないと判断する。

1 甲2の記載
上記取消理由通知において引用された本件特許の優先日前に頒布されたことが明らかな甲2(国際公開第2011/042520号)には、以下の事項が記載されている。和訳については、異議申立人が提出した抄訳及び当該国際出願の日本国への移行出願の公表公報である特表2013-507469号を参考に当審において作成した。

(1)「


(【請求項1】
1種以上のジエンエラストマー、1種以上の補強用充填剤および加硫系をベースとする、タイヤの製造用のゴム組成物であって、前記加硫系が、下記の式を有する1種以上のチアゾール化合物を含むことを特徴とする前記ゴム組成物:
【化1】

(式中、R_(1)およびR_(2)は、個々に、H、或いは線状、枝分れまたは環状のアルキル基およびアリール基から選ばれるC_(1)?C_(25)炭化水素基(個以上のヘテロ原子によって遮断されていてもよい)を示し、R_(1)およびR_(2)は、一緒になって非芳香族環を形成してもよく;
R_(3)は、
・1個以上のヘテロ原子によって遮断されていてもよく、且つ1個以上の環状C_(3)?C_(10)アルキルまたはC_(6)?C_(12)アリール基によって置換されていてもよい、線状または枝分れのC_(1)?C_(25)アルキル基;または、
・1個以上のヘテロ原子によって遮断されていてもよく、且つ1個以上の線状、枝分れまたは環状のC_(1)?C_(25)アルキルまたはC_(6)?C_(12)アリール基(これらの基は1個以上のヘテロ原子によって遮断されていてもよい)によって置換されていてもよい環状のC_(3)?C_(10)アルキル基;
を示す)。
【請求項8】
前記1種以上のジエンエラストマーが、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらエラストマーの混合物からなる群から選ばれる、請求項1?7のいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
前記ジエンエラストマーが、天然ゴム、または天然ゴムとポリブタジエンもしくはポリブタジエン/スチレンコポリマーとのブレンドである、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
前記1種以上の補強用充填剤が、シリカ、カーボンブラックまたはこれらの混合物から選ばれる、請求項1?9のいずれか1項記載の組成物。
【請求項15】
請求項1?11のいずれか1項記載のゴム組成物を含む、タイヤ。)(特許請求の範囲、請求項1、8、9、10、15)

(2)「


(【0004】
本出願法人は、1種以上のジエンエラストマー、1種以上の補強用充填剤および1種以上の特定のチアゾール化合物を含む加硫系をベースとするゴム組成物が、他の特性に不利益を及ぼすことなく、この組成物のヒステリシスを有意に低下させること、ひいては転がり抵抗性を改良することを可能にすることを発見した。この改良は、上記特定のチアゾール化合物が、カーボンブラックを主要充填剤として含む混合物およびシリカを主要充填剤として含む混合物の双方に対して存在するときに、さらに一層顕著である;一方では、これら2種類の充填剤は、ヒステリシスと加硫に対して異なる効果を有する。)

(3)「


(【実施例2】
【0071】
本実施例の目的は、主要補強用充填剤としてシリカを含み、タイヤトレッドの製造において使用することができ、N‐シクロヘキシル‐4,5‐ジメチル‐2‐チアゾールスルフェンアミド (“化合物A”)を一次加硫促進剤として含むゴム組成物(組成物4)の諸性質を、N‐シクロヘキシル‐2‐ベンゾチアゾールスルフェンアミド(“CBS”)を含むゴム組成物 (組成物3)の諸性質と比較することである。
【0072】
それぞれCBSおよび化合物Aを含む各ゴム組成物を、下記の表3に示している。量は、エラストマー100質量部当りの質量部(phr)で表している。

表3

(1) 天然ゴム;
(2) スチレン/ブタジエンゴム:25%のスチレン、59%の1,2‐ポリブタジエン単位および20%のトランス‐1,4‐ポリブタジエン単位を含むSSBR (溶液中で調製したSBR) (Tg = -24℃) (モル%);乾燥SBRとして表した量 (9質量%のMESオイルで増量したSBR、即ち、76phrに等しいSSBR+オイルの総量);
(3) カーボンブラックN234;
(4) Rhodia社からのシリカ“Zeosil 1165MP”、“HDS”タイプ (BETおよびCTAB:約160m^(2)/g);
(5) カップリング剤 TESPT (Degussa社からの“Si69”);
(6) 6‐p‐フェニレンジアミン (酸化防止剤);
(7) ジフェニルグアニジン (加硫促進剤);
(8) 可塑化用オイル“軽度抽出溶媒和物(Medium Extracted Solvates)”(Shell社からのCatenex SNR);
(9) Kolon社から販売されている脂肪族樹脂(ピュアC5)“Hikorez A-1100”)

(4)「


(化合物CBSを含む組成物4において得られた硬化後の動的特性は、CBSを含む組成物3において得られる硬化後の動的特性に対して改良されている。ΔG^(*)戻りにおける値とtanδ_(max)戻りにおける値の低下は、ヒステリシスの低下、ひいては、化合物Aを含むそのような組成物を使用するタイヤの転がり抵抗性の低下を反映している。)

2 甲2に記載された発明

甲2には、上記1(1)ないし(4)から、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
<甲2発明>
「天然ゴム80質量部、スチレン/ブタジエンゴム(25%のスチレン、59%の1,2-ポリブタジエン単位及び20%のトランス-1,4-ポリブタジエン単位を含むSSBR(溶液中で調製したSBR)27.5質量部(但し、MESオイル7.5質量部含む)、カーボンブラック6質量部、シリカ110質量部、可塑化用オイル”中度抽出溶媒和物(Medium Extracted Solvates)”(Shell社からのCatenex SNR)13質量部、可塑化用樹脂Kolon社から販売されている脂肪族樹脂(ピュアC5)”Hikorez A-1100”44質量部、N‐シクロヘキシル‐4,5‐ジメチル‐2‐チアゾールスルフェンアミド(** 化合物A)を1.72質量部、
を含んでいるゴム組成物を含むトレッドを含むタイヤ。」

3 甲1及び甲4に記載の技術事項

(1) 甲1には、上記第5 1(1)ないし(5)の事項が記載されているから、以下の事項が実質的に記載されているといえる。
トレッドに利用するゴム組成物のゴム成分として、エラストマー100重量部(phr)に対して、少なくとも36重量%の結合スチレンを有する溶液重合又は乳化重合で製造されたスチレン-ブタジエンゴムである第1エラストマー30-70重量部、ポリブタジエンゴムおよびポリイソプレンゴムから選択されるゴムである第2エラストマー70-30phrを含むゴム成分を用いること。

(2) 甲4には、上記第5 3(3)の事項が記載されているから、以下の事項が実質的に記載されているといえる。
トレッドに利用するゴム組成物のゴム成分として、スチレン含有率が20?45重量%であり、重量平均分子量が100万?200万である乳化重合スチレンブタジエンゴムを30重量部以上含み、各種ブタジエンゴム、天然ゴム、各種の溶液重合および乳化重合スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴムなどのジエン系ゴムの1種または2種以上とブレンド配合したものを利用すること。

4 本件特許発明1について

本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「トレッドを含むタイヤ」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本件特許発明1における「トレッドが少なくとも:」「ゴム組成物を含んでいるタイヤ」に相当する。
甲2発明における「カーボンブラック6質量部」、「シリカ110質量部」は、それぞれ、本件特許発明1における「10phr未満のカーボンブラック」、「90から150phrまでのシリカ」に相当する。
甲2発明における「可塑化用樹脂Kolon社から販売されている脂肪族樹脂(ピュアC5)”Hikorez A-1100”44質量部」、「可塑化用オイル”中度抽出溶媒和物(Medium Extracted Solvates)”(Shell社からのCatenex SNR)13質量部」、は、それぞれ、本件特許発明1における「10と60phrの間の含量Aの、Tgが20℃よりも高い炭化水素樹脂」、「10と60phrの間の含量Bの、20℃で液体であり且つTgが-20℃よりも低い可塑剤」に相当し、これらの総量は、13+44=57であるから、本件特許発明1における「A+Bが50と100phrの間にある」ことを充足している。
また、甲2発明における「可塑化用オイル”中度抽出溶媒和物(Medium Extracted Solvates)”(Shell社からのCatenex SNR)」は、本件特許発明1において、液体可塑剤として例示されている「MESオイル」に相当している。

そうすると、本件特許発明1と甲2発明とは、
「トレッドが少なくとも:
ジエン系エラストマー
- 90から150phrまでのシリカ;
- 必要により、10phr未満のカーボンブラック
- 可塑化系
を含み、可塑化系が:
- 10と60phrの間の含量Aの、Tgが20℃よりも高い炭化水素樹脂;
- 10と60phrの間の含量Bの、20℃で液体であり且つTgが-20℃よりも低い可塑剤を含み;
- A+Bが50と100phrの間にあり、
液体可塑剤が、液体ジエンポリマー、ナフテンオイル、パラフィンオイル、DAEオイル、MESオイル、TDAEオイル、RAEオイル、TRAEオイル、SRAEオイル、鉱油、植物油、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、スルホン酸エステル系可塑剤及びこれらの化合物の混合物からなる群より選ばれ、
ゴム組成物を含んでいるタイヤ。」
で一致し、以下の点で相違している。

<相違点4>
トレッドが含有するゴム組成物のジエン系ゴムに関し、本件特許発明1は、「第1のジエンエラストマーとして、35から65phrまでの、トランス-1,4-ブタジエニル単位の含量がブタジエニル単位の全体の50質量%よりも多いエマルジョンスチレン/ブタジエンコポリマー「E-SBR」;第2のジエンエラストマーとして、35から65phrまでのポリブタジエン(BR);必要により、第3のジエンエラストマーとして、0から30phrまでの他のジエンエラストマー;」と特定するのに対して、甲2発明は、「天然ゴム80質量部、スチレン/ブタジエンゴム(25%のスチレン、59%の1,2-ポリブタジエン単位及び20%のトランス-1,4-ポリブタジエン単位を含むSSBR(溶液中で調製したSBR)20質量部」である点。
<相違点5>
本件特許発明1は、「ゴム組成物が、1以上の下記式(I)のチアゾール化合物を含む場合を除く、前記タイヤ

(式中、R_(1)およびR_(2)は、個々に、H、或いは線状、枝分れまたは環状のアルキル基およびアリール基から選ばれ、必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断されたC_(1)?C_(25)炭化水素基を示し、R_(1)およびR_(2)は、一緒になって非芳香族環を形成し得;
R_(3)は、
必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断され、且つ必要に応じて1個以上の環状C_(3)?C_(10)アルキルまたはC_(6)?C_(12)アリール基によって置換されている線状または枝分れのC_(1)?C_(25)アルキル基;または、
必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断され、且つ必要に応じて1個以上の線状、枝分れまたは環状のC_(1)?C_(25)アルキルまたはC_(6)?C_(12)アリール基(これらの基は必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断されている)によって置換されている環状のC_(3)?C_(10)アルキル基;
を示す)。」と特定するのに対して、甲2発明は、上記式(I)のチアゾール化合物であるN‐シクロヘキシル‐4,5‐ジメチル‐2‐チアゾールスルフェンアミド(** 化合物A)を含有している点。

以下、相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点5から検討する。
甲2発明は、「特定のチアゾール化合物を含む加硫系をベースとするゴム組成物が、他の特性に不利益を及ぼすことなく、この組成物のヒステリシスを有意に低下させること、ひいては転がり抵抗性を改良することを可能にすることを発見」(段落【0004】)したことによってなされたものであって、甲2の請求項1に化1として示される特定のチアゾール化合物を含む加硫系を用いることで、甲2における課題を解決しているものである。
してみれば、甲2発明において、課題解決に不可欠な特定のチアゾール化合物であるN‐シクロヘキシル‐4,5‐ジメチル‐2‐チアゾールスルフェンアミド(** 化合物A)を配合しないようすることには阻害要因があるから、相違点5は、当業者において想到容易とはいえない。
よって、相違点4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 本件特許発明2ないし7及び9について
本件発明2ないし7及び9は、いずれも本件特許発明1を直接又は間接的に引用する発明であるから、少なくとも上記相違点5の点で、甲1に記載された発明と相違しており、上記相違点5は、上記のとおり当業者においても想到容易といえないから、本件発明2ないし7及び9も、甲2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 まとめ

以上のとおりであるから、本件特許の請求項1及び同項を引用する請求項2ないし7及び9に係る特許についての取消理由2には理由がない。

第7 異議申立人が平成30年8月21日提出の意見書において主張する取消理由について

異議申立人は、平成30年8月21日提出の意見書において、甲2に記載された発明として、表3における組成物3を引用発明とすれば、阻害要因はないから、本件発明は、甲2に記載された発明から想到容易である旨の取消理由を主張している。
当該主張について検討すると、甲2の表3における組成物3は、確かに特定のチアゾール化合物を配合していないゴム組成物であるが、甲2における比較例として記載されているものであるから、甲2に記載されている当該組成物3として記載されている発明においても、加硫促進剤は、甲2における課題を解決するために、甲2に記載の特定のチアゾール化合物を配合することを前提とした発明といえる。
そうであれば、当該組成物3の発明自体が、本件特許発明1と同一である場合はさておき、なんらかの相違点が存在する場合には、甲2における課題解決手段である特定のチアゾール化合物をまず配合するとともに、さらにより改善を図ることは行い得ても、当該特定の加硫促進剤を含むことなく、さらなる構成の変更を行うことには同様に阻害要因があるといえる。
してみれば、表3における組成物3を甲2発明としても、本件発明は甲2発明から想到容易でないから、異議申立人の主張は失当であり、採用できない。
なお、特許異議申立書に記載された取消理由は、当審からの取消理由としてすべて通知されている。

第8 むすび

以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし7及び9に係る特許は、いずれも取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、特許を取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項1ないし7及び9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項8に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項8に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドが少なくとも:
- 第1のジエンエラストマーとして、35から65phrまでの、トランス-1,4-ブタジエニル単位の含量がブタジエニル単位の全体の50質量%よりも多いエマルジョンスチレン/ブタジエンコポリマー「E-SBR」;
- 第2のジエンエラストマーとして、35から65phrまでのポリブタジエン(BR);
- 必要により、第3のジエンエラストマーとして、0から30phrまでの他のジエンエラストマー;
- 90から150phrまでのシリカ;
- 必要により、10phr未満のカーボンブラック
- 可塑化系
を含み、可塑化系が:
- 10と60phrの間の含量Aの、Tgが20℃よりも高い炭化水素樹脂;
- 10と60phrの間の含量Bの、20℃で液体であり且つTgが-20℃よりも低い可塑剤を含み;
- A+Bが50と100phrの間にある、
ゴム組成物を含んでいるタイヤであって、
液体可塑剤が、液体ジエンポリマー、ナフテンオイル、パラフィンオイル、DAEオイル、MESオイル、TDAEオイル、RAEオイル、TRAEオイル、SRAEオイル、鉱油、植物油、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、スルホン酸エステル系可塑剤及びこれらの化合物の混合物からなる群より選ばれ、
ゴム組成物が、1以上の下記式(I)のチアゾール化合物を含む場合を除く、前記タイヤ

(式中、R_(1)およびR_(2)は、個々に、H、或いは線状、枝分れまたは環状のアルキル基およびアリール基から選ばれ、必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断されたC_(1)?C_(25)炭化水素基を示し、R_(1)およびR_(2)は、一緒になって非芳香族環を形成し得;
R_(3)は、
必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断され、且つ必要に応じて1個以上の環状C_(3)?C_(10)アルキルまたはC_(6)?C_(12)アリール基によって置換されている線状または枝分れのC_(1)?C_(25)アルキル基;または、
必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断され、且つ必要に応じて1個以上の線状、枝分れまたは環状のC_(1)?C_(25)アルキルまたはC_(6)?C_(12)アリール基(これらの基は必要に応じて1個以上のヘテロ原子によって遮断されている)によって置換されている環状のC_(3)?C_(10)アルキル基;
を示す)。
【請求項2】
E-SBRのトランス-1,4-ブタジエニル単位の含量が、ブタジエニル単位の全体の60質量%よりも多い、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
E-SBRのスチレン含量が、コポリマーの多くても50質量%に等しい、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
ゴム組成物が、45から65phrまでのE-SBRを含んでいる、請求項1?3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
ゴム組成物が、35から55phrまでのBRを含んでいる、請求項1?4のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項6】
第3のジエンエラストマーが、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマー及びこれらのエラストマーの混合物からなる群より選ばれる、請求項1?5のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項7】
炭化水素樹脂が、シクロペンタジエンホモポリマー又はコポリマー樹脂、ジシクロペンタジエンホモポリマー又はコポリマー樹脂、テルペンホモポリマー又はコポリマー樹脂、C_(5)留分ホモポリマー又はコポリマー樹脂、C_(9)留分ホモポリマー又はコポリマー樹脂、α-メチルスチレンホモポリマー又はコポリマー樹脂及びこれらの樹脂の混合物からなる群より選ばれる、請求項1?6のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
液体可塑剤が、MESオイル、TDAEオイル、ナフテンオイル、植物油及びこれらのオイルの混合物からなる群より選ばれる、請求項1?7のいずれか1項に記載のタイヤ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-10-25 
出願番号 特願2014-509692(P2014-509692)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 前田 孝泰今井 督藤本 保  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 大島 祥吾
井上 猛
登録日 2017-01-27 
登録番号 特許第6081989号(P6081989)
権利者 ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
発明の名称 トレッドが高トランス含量を有するSBRエマルジョンを含むタイヤ  
代理人 弟子丸 健  
代理人 箱田 篤  
代理人 箱田 篤  
代理人 秋澤 慈  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 市川 さつき  
代理人 山崎 一夫  
代理人 西島 孝喜  
代理人 秋澤 慈  
代理人 浅井 賢治  
代理人 市川 さつき  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 西島 孝喜  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 服部 博信  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 山崎 一夫  
代理人 山崎 一夫  
代理人 服部 博信  
代理人 箱田 篤  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 弟子丸 健  
代理人 浅井 賢治  
代理人 服部 博信  
代理人 浅井 賢治  
代理人 秋澤 慈  
代理人 弟子丸 健  
代理人 市川 さつき  
代理人 西島 孝喜  
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