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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
管理番号 1346776
異議申立番号 異議2017-701116  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-28 
確定日 2018-11-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6138902号発明「難燃組成物及びその適用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6138902号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?10〕について訂正することを認める。 特許第6138902号の請求項1?10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6138902号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成27年12月28日(パリ条約による優先権主張 平成27年10月26日 台湾(TW))を出願日とする出願であって、平成29年5月12日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年11月28日に特許異議申立人大京化学株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後の手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成30年2月1日付け 取消理由通知
同年5月7日 訂正請求書・意見書
同年5月11日付け 通知書
同年6月7日 意見書(申立人)
同年6月25日付け 訂正拒絶理由通知
同年8月21日 手続補正書・意見書


第2 訂正の適否についての判断
平成30年8月21日提出の手続補正書により補正された平成30年5月7日提出の訂正請求書(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正が認められるかについて検討する。

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1?4のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「前記難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、前記低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?25重量部であり、前記高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は1.3重量部?15重量部であり、前記分散安定剤(C)の使用量は0.1重量部?2.5重量部であり、前記不凍剤(D)の使用量は2.5重量部?20重量部であり、前記消泡剤(E)の使用量は0.3重量部?7.5重量部であり、前記溶剤(F)の使用量は80重量部?143.5重量部であり、固形分は1μm?5μmの平均粒子径を有する難燃組成物。」を、
「前記難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、前記低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?25重量部であり、前記高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は2.5重量部?10重量部であり、前記分散安定剤(C)の使用量は0.3重量部?1.3重量部であり、前記不凍剤(D)の使用量は2.5重量部?20重量部であり、前記消泡剤(E)の使用量は0.3重量部?7.5重量部であり、前記溶剤(F)の使用量は80重量部?143.5重量部であり、固形分は1μm?5μmの平均粒子径を有する難燃組成物。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3の「前記難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、前記低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?12.5重量部であり、前記高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は2.5重量部?10重量部であり、前記分散安定剤(C)の使用量は0.3重量部?1.3重量部であり、前記不凍剤(D)の使用量は7.5重量部?15重量部であり、前記消泡剤(E)の使用量は1.3重量部?2.5重量部であり、前記溶剤(F)の使用量は100重量部?125重量部である請求項1に記載の難燃組成物。」を、独立形式に改め、
「式(I)で示される構造を有する難燃剤(A)と、
【化1】

(前記式(I)において、前記Arが同一又は異なるアリール基を示し、Rが同一又は異なり、水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又は各Rが互に結合し、リン原子上の窒素原子と共に環を形成する)
分子量又は第1の重量平均分子量が1500未満である低分子量界面活性剤(B-1)と、第2の重量平均分子量が5000?20000である高分子量界面活性剤(B-2)と、を含む分散剤混合物(B)と、
分散安定剤(C)と、
不凍剤(D)と、
消泡剤(E)と、
溶剤(F)と、
を備え、
前記難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、前記低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?12.5重量部であり、前記高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は2.5重量部?10重量部であり、前記分散安定剤(C)の使用量は0.3重量部?1.3重量部であり、前記不凍剤(D)の使用量は7.5重量部?15重量部であり、前記消泡剤(E)の使用量は1.3重量部?2.5重量部であり、前記溶剤(F)の使用量は100重量部?125重量部であり、固形分は1μm?5μmの平均粒子径を有する難燃組成物。」に訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の【0012】における「難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?25重量部であり、高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は1.3重量部?15重量部であり、分散安定剤(C)の使用量は0.1重量部?2.5重量部であり、不凍剤(D)の使用量は2.5重量部?20重量部であり、消泡剤(E)の使用量は0.3重量部?7.5重量部であり、溶剤(F)の使用量は80重量部?143.5重量部であり、難燃組成物の固形分は1μm?5μmの平均粒子径を有する。」を、
「難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?25重量部であり、高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は2.5重量部?10重量部であり、分散安定剤(C)の使用量は0.3重量部?1.3重量部であり、不凍剤(D)の使用量は2.5重量部?20重量部であり、消泡剤(E)の使用量は0.3重量部?7.5重量部であり、溶剤(F)の使用量は80重量部?143.5重量部であり、難燃組成物の固形分は1μm?5μmの平均粒子径を有する。」に訂正する。

(4)訂正事項4
明細書の【0014】における「本発明の一実施例によると、難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?12.5重量部であり、高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は2.5重量部?10重量部であり、分散安定剤(C)の使用量は0.3重量部?1.3重量部であり、不凍剤(D)の使用量は7.5重量部?15重量部であり、消泡剤(E)の使用量は1.3重量部?2.5重量部であり、溶剤(F)の使用量は100重量部?125重量部である。」を、
「本発明の一実施例によると、式(I)で示される構造を有する難燃剤(A)と、
【化1】

(前記式(I)において、前記Arが同一又は異なるアリール基を示し、Rが同一又は異なり、水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又は各Rが互に結合し、リン原子上の窒素原子と共に環を形成する)
分子量又は第1の重量平均分子量が1500未満である低分子量界面活性剤(B-1)と、第2の重量平均分子量が5000?20000である高分子量界面活性剤(B-2)と、を含む分散剤混合物(B)と、
分散安定剤(C)と、
不凍剤(D)と、
消泡剤(E)と、
溶剤(F)と、
を備え、
前記難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、前記低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?12.5重量部であり、前記高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は2.5重量部?10重量部であり、前記分散安定剤(C)の使用量は0.3重量部?1.3重量部であり、前記不凍剤(D)の使用量は7.5重量部?15重量部であり、前記消泡剤(E)の使用量は1.3重量部?2.5重量部であり、前記溶剤(F)の使用量は100重量部?125重量部であり、固形分は1μm?5μmの平均粒子径を有する難燃組成物を提供する。」に訂正する。

2 訂正の目的、新規事項、特許請求の範囲の拡張・変更、一群の請求項について
(1)上記訂正事項1は、「高分子量界面活性剤(B-2)の使用量」の数値範囲を「1.3重量部?15重量部」から「2.5重量部?10重量部」に、「分散安定剤(C)の使用量」の数値範囲を「0.1重量部?2.5重量部」から「0.3重量部?1.3重量部」に、それぞれ、限定したものであることから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、これらの数値範囲について、「高分子量界面活性剤(B-2)の使用量」は、本件特許明細書【0044】に、また、「分散安定剤(C)の使用量」は、本件特許明細書【0050】に、それぞれ記載されており、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

(2)上記訂正事項2は、訂正前の請求項3の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項1を引用せず、独立形式へ改めるための訂正であることから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

(3)上記訂正事項3は、訂正事項1に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であることから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、このことは、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

(4)上記訂正事項4は、訂正事項2に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であることから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、このことは、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

(5)これらの訂正事項1?4に係る訂正は、一群の請求項に対して請求されたものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号、同第3号または同第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するから、訂正後の請求項〔1?10〕について訂正を認める。


第3 本件特許に係る発明
前記「第2」のとおり、本件訂正請求は認容し得るものであるから、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明(以下、請求項に係る各発明を項番に従って「本件発明1」などといい、併せて単に「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
式(I)で示される構造を有する難燃剤(A)と、
【化1】

(前記式(I)において、前記Arが同一又は異なるアリール基を示し、Rが同一又は異なり、水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又は各Rが互に結合し、リン原子上の窒素原子と共に環を形成する)
分子量又は第1の重量平均分子量が1500未満である低分子量界面活性剤(B-1)と、第2の重量平均分子量が5000?20000である高分子量界面活性剤(B-2)と、を含む分散剤混合物(B)と、
分散安定剤(C)と、
不凍剤(D)と、
消泡剤(E)と、
溶剤(F)と、
を備え、
前記難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、前記低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?25重量部であり、前記高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は2.5重量部?10重量部であり、前記分散安定剤(C)の使用量は0.3重量部?1.3重量部であり、前記不凍剤(D)の使用量は2.5重量部?20重量部であり、前記消泡剤(E)の使用量は0.3重量部?7.5重量部であり、前記溶剤(F)の使用量は80重量部?143.5重量部であり、固形分は1μm?5μmの平均粒子径を有する難燃組成物。
【請求項2】
前記低分子量界面活性剤(B-1)の前記分子量又は前記第1の重量平均分子量と前記高分子量界面活性剤(B-2)の前記第2の重量平均分子量との比は、0.05?0.21である請求項1に記載の難燃組成物。
【請求項3】
式(I)で示される構造を有する難燃剤(A)と、
【化1】

(前記式(I)において、前記Arが同一又は異なるアリール基を示し、Rが同一又は異なり、水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又は各Rが互に結合し、リン原子上の窒素原子と共に環を形成する)
分子量又は第1の重量平均分子量が1500未満である低分子量界面活性剤(B-1)と、第2の重量平均分子量が5000?20000である高分子量界面活性剤(B-2)と、を含む分散剤混合物(B)と、
分散安定剤(C)と、
不凍剤(D)と、
消泡剤(E)と、
溶剤(F)と、
を備え、
前記難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、前記低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?12.5重量部であり、前記高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は2.5重量部?10重量部であり、前記分散安定剤(C)の使用量は0.3重量部?1.3重量部であり、前記不凍剤(D)の使用量は7.5重量部?15重量部であり、前記消泡剤(E)の使用量は1.3重量部?2.5重量部であり、前記溶剤(F)の使用量は100重量部?125重量部であり、固形分は1μm?5μmの平均粒子径を有する難燃組成物。
【請求項4】
前記第2の重量平均分子量は、6000?20000である請求項1に記載の難燃組成物。
【請求項5】
前記低分子量界面活性剤(B-1)は、陰イオン性低分子量界面活性剤、陽イオン性低分子量界面活性剤、非イオン性低分子量界面活性剤又は両性低分子量界面活性剤を含む請求項1に記載の難燃組成物。
【請求項6】
前記高分子量界面活性剤(B-2)は、陰イオン性高分子量界面活性剤又は陽イオン性高分子量界面活性剤を含む請求項1に記載の難燃組成物。
【請求項7】
前記陰イオン性高分子量界面活性剤は、ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリメチルアクリル酸ナトリウム塩、マレイン酸コポリマーナトリウム塩又はその組み合わせである請求項6に記載の難燃組成物。
【請求項8】
前記陽イオン性高分子量界面活性剤は、ポリアクリルアミド、ポリメチルアクリルアミド又はその組み合わせを含む請求項6に記載の難燃組成物。
【請求項9】
請求項1?8の何れか1項に記載の難燃組成物からなる難燃層。
【請求項10】
請求項9に記載の難燃層と、
基布と、
を備える難燃布材。」


第4 平成30年2月1日付けで通知した取消理由、及び該取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?10に係る発明は、下記引用例1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、訂正前の請求項1?10に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由」という。)。

引用例1:特許第3595810号公報(甲第1号証)
引用例2:特許第4527797号公報(甲第2号証)
引用例3:北原文雄ほか編者、「界面活性剤 -物性・応用・化学生態学-」、1996年8月20日(第10刷)、講談社サイエンティフィック、36?37頁
引用例4:古澤邦夫監修、「新しい分散・乳化の科学と応用技術の新展開 New Technology and Application of Dispersion & Emulsion Systems」、2006年6月20日発行、株式会社テクノシステム、217頁、349?350頁
引用例5:角田光雄監修、「機能性界面活性剤 ?基本特性と効果的な利用技術?」、2000年8月31日発行、株式会社シーエムシー、38?39頁

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の概要
申立人の特許異議申立理由である訂正前の請求項1?10に係る発明は、上記引用例1及び2に記載された発明と下記引用例6?10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、訂正前の請求項1?10に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「申立理由」という。)。

引用例6:特開平11-79915号公報(甲第3号証)
引用例7:特開2011-57614号公報(甲第4号証)
引用例8:特許第4189049号公報(甲第5号証)
引用例9:製品カタログ「界面活性剤」、日本乳化剤株式会社、2011年、21?22頁(甲第6号証)
引用例10:特開2001-5229号公報(甲第7号証)


第5 当審の判断
1 取消理由について
(1)引用例に記載された事項
ア 引用例1
上記引用例1には、次の事項が記載されている。
(ア1)「【請求項1】
(A)一般式(I)(省略)で表される1,4-ピペラジンジイルビス(ジアリールホスフェート)、
(B)一般式(II)
【化2】

(式中、Ar_(1)及びAr_(2)はそれぞれ独立にアリール基を示し、R_(1)及びR_(2)はそれぞれ独立に水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又はR_(1)及びR_(2)は相互に結合して環を形成していてもよい。)で表されるジアリールアミノホスフェート、及び
(C)一般式(III)(省略)で表されるアリールジアミノホスフェート
から選ばれる少なくとも1種のリン酸アミドをノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤の存在下に溶剤に分散させてなることを特徴とするポリエステル系繊維品の難燃加工剤。
・・・・・・
【請求項5】
請求項1に記載の難燃加工剤によって難燃加工してなることを特徴とする難燃加工ポリエステル系繊維品。」(特許請求の範囲)

(ア2)「【0030】
上記一般式(II)で表わされる第二のリン酸アミド、ジアリールアミノホスフェートにおいて、Ar_(1)及びAr_(2)はそれぞれ独立にアリール基であり、好ましくは、炭素原子数6?18のアリール基である。このようなアリール基として、例えば、フェニル、ナフチル、ビフェニル等を挙げることができ、なかでも、フェニルが好ましい。これらのアリール基は、炭素原子数1から4の低級アルキル基を1個以上、好ましくは、1?3個の範囲で有していてもよい。そのような低級アルキル基を有するアリール基として、例えば、トリル基、キシリル基、メチルナフチル基等を挙げることができる。
【0031】
上記一般式(II)で表わされるジアリールアミノホスフェートにおいて、R_(1)及びR_(2)はそれぞれ独立に水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又はR_(1)及びR_(2)は相互に結合して、リン原子に結合している窒素原子と共に環を形成していてもよい。
【0032】
上記一般式(II)において、上記低級アルキル基は、好ましくは、炭素原子数1から4のアルキル基であり、メチル、エチル、プロピル又はブチルである。炭素原子数3以上のアルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。シクロアルキル基としては、シクロペンチル、シクロヘキシル又はシクロヘプチル等を例示することができるが、好ましくは、シクロヘキシルである。アリール基は、好ましくは、炭素原子数6?18のアリール基であり、このようなアリール基として、例えば、フェニル、ナフチル、ビフェニル等を挙げることができ、なかでも、フェニルが好ましい。これらのアリール基は、炭素原子数1から4の低級アルキル基を1個以上、好ましくは、1?3個の範囲で有していてもよい。そのような低級アルキル基を有するアリール基として、例えば、トリル基、キシリル基、メチルナフチル基等を挙げることができる。また、アラルキル基は、好ましくは、ベンジル又はフェネチルであり、これらはフェニル基上に炭素原子数1から4の低級アルキル基を1個以上、好ましくは、1?3個の範囲で有していてもよい。
・・・・・・
【0034】
従って、第二のリン酸アミドの好ましい具体例として、例えば、・・・アニリノジフェニルホスフェート、・・・等を挙げることができる。
【0035】
このようなジアリ-ルアミノホスフェ-トは、特開2000-154277号公報に記載されているように、有機溶剤中、アミン触媒の存在下にジアリールホスホロクロリデートに有機アミン化合物を反応させることによって得ることができる。
【0036】
特に、本発明によれば、一般式(II)で表されるリン酸アミドにおいて、Ar_(1)及びAr_(2)は好ましくはフェニル又はトリルであり、R_(1)及びR_(2)は一方が水素原子であり、他方がフェニル又はシクロヘキシルであるものである。このようなリン酸アミドとして、例えば、アニリノジフェニルホスフェート、ジ-o-クレジルフェニルアミノホスフェート又はシクロヘキシルアミノジフェニルホスフェートを挙げることができる。」

(ア3)「【0044】
本発明によるポリエステル系繊維品の難燃加工剤は、上述したようなリン酸アミドを難燃剤として界面活性剤の存在下に溶剤に分散させてなるものであり、溶剤としては、通常、水が用いられるが、しかし、必要に応じて、有機溶剤も用いられる。
【0045】
上記界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤やアニオン系界面活性剤が用いられ、また、ノニオン系界面活性剤とアニオン系界面活性剤とが併用されてもよい。
【0046】
本発明による難燃加工剤は、好ましくは、上記リン酸アミドを上記界面活性剤と共に水に混合し、湿式粉砕機を用いて粉砕して、微粒子化させることによって得ることができる。」

(ア4)「【0050】
上記界面活性剤や有機溶剤は、それぞれ単独で用いてもよく、また、必要に応じて、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
一般に、繊維品を後加工によって難燃加工する場合、用いる難燃剤の粒子径は、その加工によって繊維品に付与される難燃性能に重要な影響を及ぼすので、難燃剤は、その粒子径が小さいほど、繊維品に高い難燃性能を付与することができる。
【0052】
そこで、本発明によれば、後加工によって、難燃剤がポリエステル系繊維品の内部に十分に拡散して、難燃剤による難燃性能が耐久性を有するように、難燃剤の粒子径は、通常、0.3?20μmの範囲であり、好ましくは0.3?3μmの範囲である。
【0053】
本発明による難燃加工剤は、ポリエステル系繊維品を難燃加工するに際して、通常、水に希釈して用いられる。このように希釈したとき、難燃加工剤中の固形分(難燃剤リン酸アミド)は、1?50重量%の範囲が好ましい。また、難燃加工剤のポリエステル系繊維品に対する付着量は、繊維品の種類によって異なるが、難燃剤(リン酸アミド)の量にて、通常、0.05?30重量%、好ましくは、0.5?20重量%の範囲である。難燃加工剤中のリン酸アミドのポリエステル系繊維品への付着量が0.05重量%よりも少ないときは、ポリエステル系繊維品に十分な難燃性を付与することができず、他方、30重量%を越えるときは、難燃加工後の繊維品の風合いが粗硬になる等の不具合を生じる。」

(ア5)「【0054】
本発明による難燃加工剤をポリエステル系繊維品に付与して、難燃加工する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、難燃加工剤をポリエステル系繊維品に付着させ、170?220℃の温度で熱処理して、難燃剤リン酸アミドを繊維内部へ吸尽させる方法を挙げることができる。この場合、ポリエステル系繊維品に難燃加工剤を付着させるには、例えば、パディング法、スプレー法、コーティング法等によることができる。また、本発明による難燃加工剤をポリエステル系繊維品に付与して、難燃加工する別の方法として、難燃加工剤中にポリステル系繊維品を浸漬し、110?140℃の温度で浴中処理して、難燃剤を繊維内部へ吸尽させる方法等を挙げることができる。
【0055】
本発明による難燃加工剤は、その性能が阻害されない範囲内において、必要に応じて、前述した以外の界面活性剤を分散剤として含んでいてもよい。更に、本発明によれば、難燃加工剤は、必要に応じて、その貯蔵安定性を高めるために、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン糊等の保護コロイド剤、難燃加工剤の難燃性を高めるための難燃助剤、耐光堅牢度を高めるための紫外線吸収剤、酸化防止剤等を含んでいてもよい。更に、必要に応じて、従来より知られている難燃剤を含んでいてもよい。」

(ア6)「【0058】
実施例1
(難燃加工剤Aの製造)
2L容量のセパラブルフラスコにジクロルエタン600mL、トリエチルアミン212.3g及びアニリン139.7gを仕込み、水冷下、攪拌しつつ、これにジフェニルホスホロクロリド403.0gを20分かけて滴下した。滴下終了後、液温60℃で6時間攪拌を続けて、得られた析出物を濾過及び水洗後、乾燥して、アニリノジフェニルホスフェート383gを得た。
【0059】
このアニリノジフェニルホスフェート40重量部、ジオクチルスルホ琥珀酸ナトリウム3.5重量部及びシリコーン系消泡剤0.1重量部を水25重量部に混合した。この混合物を直径0.8mmのガラスビーズを充鎮したミルに仕込み、上記リン酸アミドの平均粒子径が0.526μmとなるまで、粉砕処理した後、105℃の温度で30分間乾燥したときの不揮発分濃度が40重量%になるように調整して、本発明による難燃加工剤Aを得た。
【0060】
実施例2
(難燃加工剤Bの製造)
実施例1で製造したアニリノジフェニルホスフェート40重量部、ノニルフェノールエチレンオキサイド9モル付加物3.5重量部、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム0.5重量部及びシリコーン系消泡剤0.1重量部を水25重量部に混合した。この混合物を直径0.8mmのガラスビーズを充填したミルに仕込み、上記リン酸アミドの平均粒子径が0.603μmとなるまで粉砕処理した後、105℃の温度で30分間乾燥したときの不揮発分濃度が40重量%になるように調整して、本発明による難燃加工剤Bを得た。」

(ア7)「【0083】
実施例9及び比較例4
被処理布帛を予め、浴比1:15、分散染料3%owf、染料分散剤(アニオン系分散剤)0.5g/L、酢酸でpH4.6?4.8に調整した染浴に投入し、50℃から毎分2℃の昇温速度で130℃まで昇温し、その温度で60分間保持して、染色処理し、水洗、乾燥後、180℃で1分間熱処理して、被処理布帛とした。 本発明による難燃加工剤又は比較例としての難燃加工剤の固形分150g/Lの難燃加工剤を調製し、これを用いて上記被処理布帛をパティング処理し、100℃で3分間乾燥し、180℃で1分間熱処理し、80℃の温水で洗浄、乾燥後、180℃で1分間熱処理して、JIS L 1091 D法に従って、難燃性能を評価した。水洗濯とドライクリーニングは前記と同様にして行い、染色堅牢度、摩擦堅牢度及び耐光堅牢度も、前記と同様にして判定した。結果を表3及び表4に示す。」

イ 引用例2
上記引用例2には、次の事項が記載されている。
(イ1)「【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物を含有する難燃剤成分が下記一般式(II)で表される界面活性剤により水中に分散している水分散体である、ポリエステル繊維用の難燃加工剤。
【化1】

(式中の定義省略)
【化2】

(式中の定義省略)
【請求項2】
さらに水溶性高分子を分散剤として用いてなることを特徴とする、請求項1記載のポリエステル系繊維用の難燃加工剤。」(特許請求の範囲)

(イ2)「【0046】
本発明においては、水溶性高分子(保護コロイド剤)で難燃成分を分散することもできる。水溶性高分子で難燃成分を分散した場合、分散体の粘度を好適に調整でき、スラリーの沈降を抑制し、均一に微分散することが可能となる。また、製品化後も製品分離を生じない。使用可能な水溶性高分子の例としては、カルボキシメチルセルロース塩、キサンタンガム(ザンタンガム)、アラビアガム、ローカストビーンガム、アルギン酸ナトリウム、自己乳化型ポリエステル化合物、水溶性ポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、可溶性でんぷん、カルボキシメチルでんぷん、カチオン化でんぷん等などを挙げることができる。この中でも、カルボキシメチルセルロース塩及びキサンタンガムが、得られる溶液の物性やその安定性などの観点から好ましい。
【0047】
上記自己乳化型ポリエステル化合物は、具体的には、ビスヒドロキシアルキルテレフタレートまたはビスヒドロキシアルキルテレフタレートとビスヒドロキシアルキルイソフタレートとの混合物と、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリブチレングリコールから選ばれるポリアルキレングリコールとの縮重合物であり、分子量300?50000、好ましくは5000?20000のものである。そして、ポリアルキレングリコール部分は、1?150モル、好ましくは50?100モルの酸化アルキレン単位からなる。
【0048】
また、上記水溶性ポリエステルは、具体的には、ポリエチレンテレフタレート-ポリエチレングリコール共重合体の末端スルホン酸Na変成物であり、分子量が3000?60000のものである。
【0049】
本発明の難燃加工剤には、分散状態を安定させるため、水溶性高分子、アルコール類、芳香族系溶剤類、グリコールエーテル類、アルキレングリコール類、テルペン類等の有機溶剤を含有させてもよい。」

(イ3)「【0074】
3.水溶性高分子を用いた難燃加工剤
表3に示した界面活性剤と水溶性高分子とを含む配合を用いた以外は上記実施例及び比較例と同様にして難燃加工剤を調製し、その分散状態を評価した。結果を表3に示す。分散状態の評価は、微分散化後、7日間室温にて放置後の分散体が沈殿や二相分離していないものを「◎」、二相分離しているが再分散可能なものを「○」、二相分離しており再分散不可能であったものを「×」とした。
・・・・・・
【0078】
【表4】



ウ 引用例3
上記引用例3には、次の事項が記載されている。
(ウ1)「1.5 高分子界面活性剤^(83))
従来の活性剤は,親油基としての炭素数が10ないし18くらいで,親水基として-COONa,-NH_(3)Cl,-(CH_(2)CH_(2)O)_(n)Hなどをもち,分子量300前後のものが多く,これらはいわば低分子活性剤といえる.もっともポリオキシエチレンを親水基とする非イオン活性剤のうちで,ブルロニック系のものは,エチレンオキシドの付加量を多くすれば,1,000?2,000の分子量を有するものも得られるが,通常は1,000以下のものが多い.これに対し,高分子活性剤はある程度以上分子量が大きく界面活性を有するものということができる.水溶性,油溶性いずれでもその高分子化合物がある界面に吸着して,その結果として界面または溶液状態の変化が起こり,有用な応用が見いだされると,これは高分子活性剤ということができる.たとえば,ポリビニルアルコールは繊維にもなるし,フィルムとしても使用できるが,これが,乳化作用,凝集作用を示すことがわかれば立派な高分子活性剤である.このように幅広く考えると,古くからあるアルギン酸ナトリウム,デンプン誘導体,トラガントゴムなども乳化,凝集,分散剤としてあるいはその助剤として用いられてきたもので,高分子活性剤の仲間にはいるわけである.
これら高分子活性剤はイオン性からみて,低分子の場合と同様に,陰イオン,陽イオン,非イオン,両性と分けることができる.また構造的にみると,ポリアクリル酸ナトリウム,ポリビニルアルコールなどのように高分子主鎖から官能基が出ているもの,またポリビニルピリジンに臭化アルキル(アルキル基炭素数の大きいもの)を反応させた場合のように,相当長い親油基が高分子主鎖に対し分枝したような状態になっているものなどがある.
これらは普通の活性剤がいくつも連なったようなものであるので,ポリソープ(polysoap)という名前がつけられている(これに対し基本となる低分子量の活性剤をモノソープという).これらの諸性質は,当然前記のポリビニルアルコールなどとは相当異なってくる.
分子量は,従来のものと区別するためには,少なくとも2,000とか3,000以上のものを対象とすべきであろう.高いものでは数百万という高分子量のものもあるので,分子量の問題は応用面においても大きな影響を与える.」(36?37頁)

エ 引用例4
上記引用例4には、次の事項が記載されている。
(エ1)「6.分散剤としての高分子界面活性剤
(1)高分子界面活性剤の分散機構^(17))
高分子界面活性剤は、コロイド粒子表面に吸着し、粒子を包み込んで凝集を防ぐことで分散力を示す、いわゆる保護コロイド効果を持つ。粒子表面へ高分子界面活性剤が吸着するDriving Forceとしては、静電的な引力、水素結合、疎水性相互作用による引力、van der Waals引力等がある。この時の保護効果には、負に解離した極性基をもつ高分子界面活性剤が、正に帯電した粒子表面に吸着することで、高分子界面活性剤のエントロピー効果が粒子間の静電気力を打ち消す効果、高分子界面活性剤が粒子のゼータ電位を上昇させ、粒子間の電気二重層による反発力を増大させる効果、あるいは、高分子界面活性剤が粒子表面に非イオン性の吸着層を形成し、その重なりにより粒子間の反発力を増大させる効果等がある。
(2)代表的な高分子分散剤^(24))
代表的な高分子分散剤としては、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸・メタクリル酸コポリマー、スチレン・マレイン酸コポリマー、ポリスチレンスルホン酸塩、ソルビトールのポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー等が、顔料の分散剤、セメントの減水剤、けん濁重合の分散剤、洗剤のビルダー(汚れの分散および再付着防止剤)等に、広く利用されている。」(217頁)

(エ2)「2.2 高分子界面活性剤
一般的な界面活性剤を分散剤として使用した場合、添加量が比較的多いこと、分散媒の表面張力が低下することや発泡の問題等があるため、現在では分散剤といえば高分子系を示すことが多い。
分散剤として使用される高分子は、分子量が数千から数万のものが用いられる。これは分子量の違いにより、その溶液物性、粒子への吸着性および吸着形態が異なることに起因する。図4にアクリル酸塩の分子量による機能および用途の変化を示す^(4))。
分散剤あるいは安定剤として使用される高分子は天然系、縮合系、および重合系に分類することができる。」と「

」(349頁)

(エ3)「2.2.3 重合系高分子
アクリル酸に代表される不飽和結合を持ったモノマー同士を重合することにより得られ、界面活性剤と同様、モノマーの極性基によって、イオン性高分子、非イオン性高分子に分類される。これらは、同一モノマーを重合させたホモポリマー型や二種以上のモノマーを重合させたコポリマー型、主鎖および側鎖を有するブラシ型など様々な構造を有し、粒子への吸着性や溶媒との親和性、吸着量種々の機能を設計することができる。
ホモポリマーには、ポリアクリル酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩(対イオンはNa,K,NH_(4))やアクリルアミドのような水系用分散剤、ポリビニルピロリドンのような非水系用分散剤があり、これらは構造が比較的簡単なため、溶液物性や吸着挙動基礎的研究も多く行われている^(4)5))。コポリマー系の多くは粒子に吸着する極性基を有するモノマーと溶媒に親和性の高いモノマーから構成され、(メタ)アクリル酸-マレイン酸系、スチレン-マレイン酸系、アクリル酸-アクリル酸メチル(エチルorブチル)、マレイン酸-イソブチレン等があり、その組成費も種々のものが市販されている。これらは、例えばアクリル酸-マレイン酸系高分子を金属酸化物粒子の水系サスペンションに添加すると高分子はマレイン酸部分で吸着し、アクリル酸部分を分散媒である水側に向けた吸着層を形成することでサスペンション粒子の分散に寄与する等の報告がある^(6))。」(349?350頁)

オ 引用例5
上記引用例5には、次の事項が記載されている。
(オ1)「3 高分子界面活性剤
高分子量化した界面活性剤は古くから多くの研究がされてきている。1950年代にはポリソープ,高分子界面活性剤が注目された。ポリソープの定義は,低分子量の界面活性剤が連なった界面活性剤である。多くの界面活性剤が提案されたが,使用されるようになったものは数少ない^(4))。分散剤,凝集剤,表面処理剤としてはポリアクリル酸,およびその誘導体が使用されている。最近化粧品業界にポリアクリル酸誘導体の高分子乳化剤が導入され,大量に使われ始めている。これは農薬,医薬分野への応用も提案されており,徐々に市場も拡大するものと思われる。利用技術の進歩と相俟って,高分子界面活性剤の開発が活発化するものと思われる。

3.1 高分子量化により期待される機能
(1)(実際は○の中にアラビア数字で表示されたもの。起案システム上表示出来ないため。以下,同様。)少量で乳化力,分散力が発現する。
高分子であるため,油に対する溶解性も悪く油水界面に効率的に吸着するため,少量で乳化力が発現する。しかし,特殊な例を除いて乳化力が弱いため,他の界面活性剤と併用することが一般的である。分散剤としては,水系で極性表面をもっている顔料類を分散するにはポリアクリル酸塩,カーボンなどの無極性表面をもつ物質を分散するにはポリプロピレングリコールポリエチレングリコールのブロックポリマーなどがよく知られているところである。
(2)表面張力を下げず,生体への影響が少ない。
高分子量化した界面活性剤は表面張力を下げないため,溶血性,蛋白変性能,魚毒性などが極端に低くなる。
(3)単分子でミセルを作るため,優れた可溶化力が期待できる。
通常界面活性剤はcmc以上でミセルを形成し可溶化力が発現するため,染料を使用しcmcの決定などに使われていた。一般に言う水溶性高分子は一分子でミセルを形成するため,水溶性高分子濃度とともに染料の可溶化量が増大する。一般的に使われる可溶化剤はオリゴマー程度の高分子が適している。
(4)ミセルが壊れ難い。
高分子量化してくると界面活性剤の表面張力は測定中徐々に低下し,平衡になるまでに長時間かかる。乳化時に起こる転相温度も同様で,転相温度幅が大きくなる。
このように分子運動が緩慢となるため,分子の集合,配向が遅れる。ミセルができるとできたミセルも壊れ難くなる。」(38?39頁)

(2)引用発明
ア 引用発明1(難燃組成物について)
引用例1には、上記(1)ア(ア1)、(ア2)及び(ア6)より「(B)一般式(II)
【化2】

(式中、Ar_(1)及びAr_(2)はそれぞれ独立にアリール基を示し、R_(1)及びR_(2)はそれぞれ独立に水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又はR_(1)及びR_(2)は相互に結合して環を形成していてもよい。)で表されるジアリールアミノホスフェートから選ばれる少なくとも1種のリン酸アミドをノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤の存在下に溶剤に分散させてなることを特徴とするポリエステル系繊維品の難燃加工剤」が記載されている。
そして、引用例1の上記(1)ア(ア3)には、「本発明によるポリエステル系繊維品の難燃加工剤は、上述したようなリン酸アミドを難燃剤として界面活性剤の存在下に溶剤に分散させてなるもの」であること、上記(1)ア(ア3)及び(ア4)には、「溶剤としては、通常、水が用いられるが、しかし、必要に応じて、有機溶剤も用いられる」こと、「上記界面活性剤や有機溶剤は、それぞれ単独で用いてもよく、また、必要に応じて、2種以上を組み合わせて用いてもよい」こと、上記(1)ア(ア4)には、「繊維品を後加工によって難燃加工する場合、用いる難燃剤の粒子径は、その加工によって繊維品に付与される難燃性能に重要な影響を及ぼすので、難燃剤は、その粒子径が小さいほど、繊維品に高い難燃性能を付与することができる」こと及び「後加工によって、難燃剤がポリエステル系繊維品の内部に十分に拡散して、難燃剤による難燃性能が耐久性を有するように、難燃剤の粒子径は、通常、0.3?20μmの範囲であり、好ましくは0.3?3μmの範囲である」こと、及び「難燃加工剤中の固形分(難燃剤リン酸アミド)」であることが、それぞれ記載されている。
さらに、引用例1の上記(1)ア(ア5)には、「更に、本発明によれば、難燃加工剤は、必要に応じて、その貯蔵安定性を高めるために、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン糊等の保護コロイド剤、難燃加工剤の難燃性を高めるための難燃助剤、耐光堅牢度を高めるための紫外線吸収剤、酸化防止剤等を含んでいてもよい」こと、上記(1)ア(ア6)より、難燃加工剤中に「シリコーン系消泡剤」を含むことも記載されている。
そうすると、引用例1には、「一般式(II)
【化2】

(式中、Ar_(1)及びAr_(2)はそれぞれ独立にアリール基を示し、R_(1)及びR_(2)はそれぞれ独立に水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又はR_(1)及びR_(2)は相互に結合して環を形成していてもよい。)で表されるジアリールアミノホスフェートから選ばれる少なくとも1種のリン酸アミドである難燃剤をノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン糊等の保護コロイド剤、シリコーン系消泡剤等の存在下に溶剤に分散させてなることを特徴とし、難燃剤(固形分)の粒子径が0.3?3μmの範囲である、ポリエステル系繊維品の難燃加工剤である難燃組成物」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

イ 引用発明2(難燃層等について)
上記(2)アの点に加え、引用例1の上記(1)ア(ア1)には、「【請求項5】 請求項1に記載の難燃加工剤によって難燃加工してなることを特徴とする難燃加工ポリエステル系繊維品」が、上記(1)ア(ア5)には、「難燃加工剤をポリエステル系繊維品に付着させ、170?220℃の温度で熱処理して、難燃剤リン酸アミドを繊維内部へ吸尽させる方法を挙げることができる。この場合、ポリエステル系繊維品に難燃加工剤を付着させるには、例えば、パディング法、スプレー法、コーティング法等によることができる」ことが、上記(1)ア(ア6)及び(ア7)に実施例等が、それぞれ記載されていることから、「引用発明1の難燃組成物で難燃加工してなる難燃加工ポリエステル系繊維品」の発明(以下、「引用発明2」という。)も記載されていると認められる。

(3)本件発明1と引用発明1との対比・判断
引用発明1の「一般式(II)(式及び定義省略)で表されるジアリールアミノホスフェートから選ばれる少なくとも1種のリン酸アミドである難燃剤」は、本件発明1の「式(I)で示される構造を有する難燃剤(A)(式及び定義省略)」に相当し、引用発明1の「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤」は、本件発明1の「分散剤混合物(B)」に相当し、引用発明1の「ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン糊等の保護コロイド剤」は、本件発明1の「分散安定剤(C)」に相当し、引用発明1の「シリコーン系消泡剤」は、本件発明1の「消泡剤(E)」に相当し、引用発明1の「溶剤」は、本件発明1の「溶剤(F)」に相当する。
また、引用発明1の「難燃剤(固形分)の粒子径が0.3?3μmの範囲」は、本件発明1の「固形分は1μm?5μmの平均粒子径を有する」と重複し、引用発明1の「ポリエステル系繊維品の難燃加工剤である難燃組成物」は、本件発明1の「難燃組成物」に相当する。
したがって、本件発明1と引用発明1は、「式(I)で示される構造を有する難燃剤(A)と、
【化1】

(前記式(I)において、前記Arが同一又は異なるアリール基を示し、Rが同一又は異なり、水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又は各Rが互に結合し、リン原子上の窒素原子と共に環を形成する)
分散剤混合物(B)と、
分散安定剤(C)と、
消泡剤(E)と、
溶剤(F)と、
を備え、
固形分は1μm?3μmの平均粒子径を有する難燃組成物。」である点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
分散剤混合物(B)について、本件発明1は、「分子量又は第1の重量平均分子量が1500未満である低分子量界面活性剤(B-1)と、第2の重量平均分子量が5000?20000である高分子量界面活性剤(B-2)と、を含む」ことを特定しているのに対して、引用発明1は、複数の界面活性剤を含むことが記載されるにとどまり、そのような特定がない点。

<相違点2>
難燃組成物について、本件発明1は、「不凍剤(D)」を含むことを特定しているのに対して、引用発明1には、そのような特定がない点。

<相違点3>
各成分の使用量について、本件発明1は、「前記難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、前記低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?25重量部であり、前記高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は2.5重量部?10重量部であり、前記分散安定剤(C)の使用量は0.3重量部?1.3重量部であり、前記不凍剤(D)の使用量は2.5重量部?20重量部であり、前記消泡剤(E)の使用量は0.3重量部?7.5重量部であり、前記溶剤(F)の使用量は80重量部?143.5重量部」であることを特定しているのに対して、引用発明1には、そのような特定がない点。

事案に鑑み、相違点1、3について検討する。
ア はじめに、本件発明1の優先日当時における界面活性剤の技術常識について見てみると、例えば、引用例3の上記(1)ウ(ウ1)には、従来の活性剤(界面活性剤)は、分子量300前後のものが多く、ポリオキシエチレンを親水基とする非イオン活性剤などは、エチレンオキシドの付加量を多くすれば1,000?2,000の分子量を有するものが得られるが、通常は1,000以下のものが多いこと、これに対し、高分子活性剤(高分子界面活性剤)は、ある程度以上分子量が大きく界面活性を有するものということができること、分子量については、従来のものと区別するためには,少なくとも2,000とか3,000以上のものを対象とすべきであること、高いものでは数百万という高分子量のものもあるので,分子量の問題は応用面においても大きな影響を与えること、これら高分子界面活性剤には、イオン性からみて、低分子の場合と同様に、陰イオン、陽イオン、非イオン、両性と分けることができ、構造的にみると、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコールなどのように高分子主鎖から官能基が出ているもの、またポリビニルピリジンに臭化アルキル(アルキル基炭素数の大きいもの)を反応させた場合のように、相当長い親油基が高分子主鎖に対し分枝したような状態になっているものなどがあることが記載されている。
また、引用例4の上記(1)エ(エ2)には、高分子界面活性剤が「分散剤として使用される高分子は、分子量が数千から数万のものが用いられる。」こと、引用例5の上記(1)オ(オ1)には、「3.1高分子量化により記載される機能 (1)少量で乳化力,分散力が発現する。 高分子であるため,油に対する溶解性も悪く油水界面に効率的に吸着するため,少量で乳化力が発現する。しかし,特殊な例を除いて乳化力が弱いため,他の界面活性剤と併用することが一般的である。」ことも記載されている。
これら引用例3?5の記載から、従来の界面活性剤は、分子量が多くても2000より小さいものであること、高分子界面活性剤といった場合、数千?数万程度の分子量のものが主に使用されること、また、高分子界面活性剤は、他の界面活性剤と併用することが一般的であることなどが技術常識であったと認められる。

イ 次に、引用発明1の界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤と記載されるにとどまり、引用発明1が記載された引用例1を参照したとしても、本件発明1における異なる分子量の界面活性剤を用いることや、界面活性剤の分子量に注目する等の記載ないし示唆は存在しない。

ウ 一方、引用例2には、上記(1)イ(イ1)の一般式(I)で表される化合物である難燃剤成分が、界面活性剤により分散している水分散体であるポリエステル繊維用の難燃加工剤に、「水溶性高分子」を分散剤として用いることが記載されている(上記(1)イ(イ1))。そして、引用例2には、「水溶性高分子」として、自己乳化型ポリエステル化合物は、分子量が5000?20000のものであり、水溶性ポリエステルは、分子量3000?60000のものであることが記載され(いずれも、上記(1)イ(イ2))、その実施例である【0078】の【表4】に実施品Zとして、難燃剤(トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート)40重量%、水溶性高分子(5)(自己乳化型ポリエステル化合物(ビスヒドロキシエチルテレフタレートとポリエチレングリコールの縮重合物)(平均分子量約9000))1重量%、界面活性剤(2)(スチレン化フェノール(重量比 モノ:ジ:トリ=5:35:60)20EO付加物)2重量%、蒸留水57重量%のもの(なお、この界面活性剤(2)の分子量を試算すると、スチレン化フェノール20EO付加物は、それぞれ、スチレン化フェノールのモノ体、ジ体及びトリ体が重量比で5:35:60の割合で存在しており、20EO付加物は、エチレンオキシドの20モル付加物であることから、スチレン化フェノールのモノ体、ジ体及びトリ体の20EO付加物の分子量は、それぞれ1078、1182、1286となり、その平均分子量は、1078×0.05+1182×0.35+1286×0.6=1239.2となる)が具体的に記載され、当該実施品Zが7日間室温で放置しても分散体が沈殿や二相分離が起こらす安定であることが記載されている(上記(1)イ(イ1)?(イ3))。

エ 上記アにおける技術常識は、従来の界面活性剤は、分子量が多くても2000より小さいものであること、高分子界面活性剤といった場合、数千?数万程度の分子量のものが主に使用されること、従来の界面活性剤や高分子界面活性剤は、それぞれの特性に応じ使い分けられるということが技術常識とはいえるが、低分子量界面活性剤(従来の界面活性剤)と高分子界面活性剤とを組み合わせて使用することまでが技術常識であるということを示しているわけではない。
そうすると、引用例2には、確かに、上記ウのとおり、難燃剤を平均分子量1239.2の界面活性剤と平均分子量約9000の水溶性高分子で分散させる難燃加工剤が記載されている。しかしながら、当該難燃剤は、上記(1)イ(イ1)の一般式(I)で表される化合物であり、引用発明1の一般式(II)(化学構造及び定義省略)で表されるジアリールアミノホスフェートから選ばれる少なくとも1種のリン酸アミドである難燃剤とは、化学構造が異なる難燃剤である。
なお、引用例2には、前記一般式(I)で表される化合物と併用できる難燃剤成分としてリン系難燃化合物も例示されているが、その中には、引用発明1の難燃剤は例示されていない。
また、引用発明1には、界面活性剤の分子量に関する記載も示唆もないことは、上記イのとおりである。
そうすると、本件特許の優先日当時に低分子量界面活性剤(従来の界面活性剤)と高分子界面活性剤を組み合わせて使用することが技術常識といえない状況において、引用発明1に、引用発明1とは異なる化学構造の難燃剤を分散させる技術である引用例2を組み合わせる動機付けがあるとは認められず、相違点1は実質的な相違点であるといえ、当業者が容易に発明できたものではない。
加えて、相違点3の各成分の使用量において、本件発明1は、特に「高分子量界面活性剤(B-2)」の使用量を、本件特許明細書【0070】?【0078】の実施例1?5で具体的に使用された「2.5重量部?10重量部」の範囲に特定することにより、本件特許明細書【0078】の【表1】に記載された分散性や経時安定性が良好である本件発明1の難燃組成物を確認することができる。
そうすると、相違点3は実質的な相違点であるといえ、各成分の使用量、特に「高分子量界面活性剤(B-2)」の使用量を、「2.5重量部?10重量部」の範囲に特定することは当業者が容易に発明できたものとはいえない。
よって、本件発明1は、相違点1及び3の発明特定事項を有することにより、本件特許明細書【0022】に記載された「良好な分散性と経時安定性を有し、従来の難燃組成物の長時間放置による沈殿現象を改善する」という本件発明1の効果を奏するものと認められる。

オ したがって、本件発明1は、他の相違点2を検討するまでもなく、引用発明1(引用例1)並びに、引用例2に記載された発明及び技術常識(引用例3?5)に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(4)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、低分子量界面活性剤(B-1)の分子量又は重量平均分子量と高分子量界面活性剤の重量平均分子量との比が「0.05?0.21」と特定するものである。
しかしながら、この特定によっても、相違点1の判断は、何ら影響されるものではないから、本件発明2は、本件発明1と同様に、引用発明1(引用例1)並びに、引用例2に記載された発明及び技術常識(引用例3?5)に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(5)本件発明3と引用発明1との対比・判断
引用発明1の「一般式(II)(式及び定義省略)で表されるジアリールアミノホスフェートから選ばれる少なくとも1種のリン酸アミドである難燃剤」は、本件発明3の「式(I)で示される構造を有する難燃剤(A)(式及び定義省略)」に相当し、引用発明1の「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤」は、本件発明3の「分散剤混合物(B)」に相当し、引用発明1の「ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン糊等の保護コロイド剤」は、本件発明3の「分散安定剤(C)」に相当し、引用発明1の「シリコーン系消泡剤」は、本件発明3の「消泡剤(E)」に相当し、引用発明1の「溶剤」は、本件発明3の「溶剤(F)」に相当する。
また、引用発明1の「難燃剤(固形分)の粒子径が0.3?3μmの範囲」は、本件発明3の「固形分は1μm?5μmの平均粒子径を有する」と重複し、引用発明1の「ポリエステル系繊維品の難燃加工剤である難燃組成物」は、本件発明3の「難燃組成物」に相当する。
したがって、本件発明3と引用発明1は、「式(I)で示される構造を有する難燃剤(A)と、
【化1】

(前記式(I)において、前記Arが同一又は異なるアリール基を示し、Rが同一又は異なり、水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又は各Rが互に結合し、リン原子上の窒素原子と共に環を形成する)
分散剤混合物(B)と、
分散安定剤(C)と、
消泡剤(E)と、
溶剤(F)と、
を備え、
固形分は1μm?3μmの平均粒子径を有する難燃組成物。」である点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点4>
分散剤混合物(B)について、本件発明3は、「分子量又は第1の重量平均分子量が1500未満である低分子量界面活性剤(B-1)と、第2の重量平均分子量が5000?20000である高分子量界面活性剤(B-2)と、を含む」ことを特定しているのに対して、引用発明1は、複数の界面活性剤を含むことが記載されるにとどまり、そのような特定がない点。

<相違点5>
難燃組成物について、本件発明3は、「不凍剤(D)」を含むことを特定しているのに対して、引用発明1には、そのような特定がない点。

<相違点6>
各成分の使用量について、本件発明3は、「前記難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、前記低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?12.5重量部であり、前記高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は2.5重量部?10重量部であり、前記分散安定剤(C)の使用量は0.3重量部?1.3重量部であり、前記不凍剤(D)の使用量は7.5重量部?15重量部であり、前記消泡剤(E)の使用量は1.3重量部?2.5重量部であり、前記溶剤(F)の使用量は100重量部?125重量部」であることを特定しているのに対して、引用発明1には、そのような特定がない点。

上記相違点4?5は、上記(3)の本件発明1の相違点1?2と同じであり、上記相違点6は、上記(3)の本件発明1の相違点3に含まれるものである。
そうすると、相違点4及び6は、上記(3)ア?オで、すでに検討したとおりであり、本件発明3は、他の相違点5を検討するまでもなく、本件発明1と同様に、引用発明1(引用例1)並びに、引用例2に記載された発明及び技術常識(引用例3?5)に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(6)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1を引用し、第2の重量平均分子量を「6000?20000」と特定するものである。
しかしながら、この特定によっても、相違点1の判断は、何ら影響されるものではないから、本件発明4は、本件発明1と同様に、引用発明1(引用例1)並びに、引用例2に記載された発明及び技術常識(引用例3?5)に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(7)本件発明5?8について
本件発明5は、本件発明1を引用し、低分子量界面活性剤(B-1)を、「陰イオン性低分子量界面活性剤、陽イオン性低分子量界面活性剤、非イオン性低分子量界面活性剤又は両性低分子量界面活性剤」と特定するものである。
また、本件発明6は、本件発明1を引用し、高分子量界面活性剤(B-2)を、「陰イオン性高分子量界面活性剤又は陽イオン性高分子量界面活性剤と特定するものであり、本件発明7は、本件発明6を引用し、「陰イオン性高分子量界面活性剤」を「ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリメチルアクリル酸ナトリウム塩、マレイン酸コポリマーナトリウム塩又はその組み合わせ」と、本件発明8は、本件発明6を引用し、「陽イオン性高分子量界面活性剤」を「ポリアクリルアミド、ポリメチルアクリルアミド又はその組み合わせ」と、それぞれ特定するものである。
しかしながら、これらの特定は、相違点1における低分子量界面活性剤(B-1)と高分子量界面活性剤(B-2)の各成分をさらに特定するものに過ぎず、これらの特定によっても、相違点1の判断は、何ら影響されるものではないから、本件発明5?8は、本件発明1と同様に、引用発明1(引用例1)並びに、引用例2に記載された発明及び技術常識(引用例3?5)に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(8)本件発明9と引用発明2との対比・判断
本件発明9は、本件発明1?8を引用していることから、本件発明1及び本件発明1を直接あるいは間接的に引用している本件発明2、4?8を引用している部分と、本件発明3を引用している部分について、以下、それぞれ検討する。
ア 本件発明1及び本件発明1を直接あるいは間接的に引用している本件発明2、4?8を引用している部分について
引用発明2は、「引用発明1の難燃組成物で難燃加工してなる難燃加工ポリエステル系繊維品」であるから、その難燃加工ポリエステル系繊維品の表面には、「引用発明1の難燃組成物」から形成された難燃層が存在していると認められる。
そうすると、本件発明9と引用発明2を対比すると、上記(3)で摘示した相違点1?相違点3の点で相違し、その他の点では一致している。
しかしながら、上記相違点1?相違点3については、上記(3)ア?オですでに検討したとおりである。

イ 本件発明3を引用している部分について
引用発明2は、「引用発明1の難燃組成物で難燃加工してなる難燃加工ポリエステル系繊維品」であるから、その難燃加工ポリエステル系繊維品の表面には、「引用発明1の難燃組成物」から形成された難燃層が存在していると認められる。
そうすると、本件発明9と引用発明2を対比すると、上記(5)で摘示した相違点4?相違点6の点で相違し、その他の点では一致している。
しかしながら、上記相違点4?相違点6については、上記(5)で、すでに検討したとおりである。

ウ 小括
したがって、本件発明9は、引用発明2(引用例1)並びに引用例2に記載された発明及び技術常識(引用例3?5)に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(9)本件発明10について
本件発明10は、本件発明9を引用した難燃布剤に関するものである。
本件発明9については、上記(8)で、すでに検討したとおりであるから、本件発明10についても、本件発明9と同様に、引用発明2(引用例1)並びに引用例2に記載された発明及び技術常識(引用例3?5)に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(10)まとめ
したがって、本件発明1?10は、引用例1並びに引用例2に記載された発明及び技術常識(引用例3?5)に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

2 申立理由について
(1)引用例に記載された事項
ア 引用例1
引用例1は、上記1(1)ア(ア1)?(ア7)に記載されたとおりのものである。

イ 引用例2
引用例2は、上記1(1)イ(イ1)?(イ3)に記載されたとおりのものである。

ウ 引用例6
上記引用例6には、次の事項が記載されている。
(ウ1)「【0106】乳化、分散、湿潤、拡展、結合、崩壊性の調整、有効成分の安定化、流動性の改良、防錆等の目的で使用される界面活性剤は、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性及び両性イオン性のいずれのものをも使用しうるが、通常は非イオン性及び(又は)陰イオン性のものが使用される。・・・・・」

(ウ2)「【0114】水性懸濁剤や油懸濁剤は、水又は高沸点の有機溶剤中に、有効成分を適当な界面活性剤を用いて懸濁又は乳化分散させたもので、必要に応じて増粘剤等を添加して経時安定性を保つようにする。」

(ウ3)「【0122】製剤例5(フロアブル剤)
化合物(I-3)10.0部、化合物(B)1.0部、ニューコール291PG(日本乳化剤(株)製、ジエチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウムを主成分とする界面活性剤)0.5部、ビーガムR(三洋化成工業(株)製、ケイ酸アルミニウム・マグネシウム)0.4部及び水38.1部からなるスラリー粉砕部を混合し、各原体を懸濁させた。次いでこの2kgをアトライター1NS型(三井鉱山(株)製、湿式粉砕機、スチールボール量13.6kg)に仕込み、回転数200rpmで1時間粉砕した。得られたスラリー50部をスリーワンモーター1200G型(新東科学(株)製、撹拌混合機)で撹拌しながら、クニピアF(5%)(クニミネ工業(株)製、ソジウムモンモリロナイト、5%水懸濁液)13.0部、ロードポール23(1%)(ローヌプーラン(株)製、キサンタンガム、1%水溶液)17.0部、エチレングリコール5.0部、プロクセルGXL(アイシーアイジャパン(株)製、防かび剤)0.2部、トキサノンGR31A(三洋化成工業(株)製、ポリアクリル酸系ポリソープ、40%水溶液)1.0部及び水13.8部を順次加えて混合し、フロアブルを得た。」

エ 引用例7
上記引用例7には、次の事項が記載されている。
(エ1)「【請求項1】
クロチアニジン、ポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテル構造を有する界面活性物質、ポリアクリル酸塩、リグニンスルホン酸塩、及び、多糖類高分子物質を含有する水性懸濁状農薬組成物。
・・・・・・
【請求項6】
ポリアクリル酸塩が、分子量3000?60000のポリアクリル酸ナトリウムである請求項1?5いずれか一項記載の水性懸濁状農薬組成物。」(特許請求の範囲)

(エ2)「【0005】
本発明者らは、優れた性能を有する水性懸濁状農薬組成物を見出すべく検討の結果、クロチアニジン、ポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテル構造を有する界面活性物質、ポリアクリル酸塩、リグニンスルホン酸塩、及び、多糖類高分子物質を含有する水性懸濁状農薬組成物が、優れた性能を有することを見出し、本発明に至った。・・・・・
【0006】
本発明の水性懸濁状農薬組成物は、懸濁状態を安定に維持しケーキングの発生が抑制できるため、水性懸濁状農薬組成物を農薬容器内で長期間保存後に畦畔から水田への直接散布などに用いた場合においても、農薬容器などへの残存が低減できることから散布によるロスを抑制でき、農薬活性化合物として含有されるクロチアニジンの効力を十分に発現させることができる。」

(エ3)「【0012】
本発明の水性懸濁状農薬組成物には、ポリアクリル酸塩が含有される。かかるポリアクリル酸塩における塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩が挙げられ、ポリアクリル酸塩としては、その分子量が通常1000?150000程度、好ましくは3000?60000程度のものが用いられる。かかるポリアクリル酸塩として具体的には、例えばトキサノン GR-31A(分子量約10000のポリアクリル酸ナトリウム塩、三洋化成工業製)、トキサノン GR-30(分子量約10000のポリアクリル酸ナトリウム塩、三洋化成工業製)、サンスパール PS-30(分子量約20000のポリアクリル酸アンモニウム塩、三洋化成工業製)及びSNディスパーサント 5468(分子量約10000のポリアクリル酸アンモニウム塩、三洋化成工業製)が挙げられる。
本発明の水性懸濁状農薬組成物には、かかるポリアクリル酸塩が通常0.01?15重量%程度、好ましくは0.1?10重量%程度含有される。」

(エ4)「【0022】
製造例1
クロチアニジン 20.6部、イソチアゾリン-3-オン誘導体(バイオホープL、ケイ・アイ化成製) 0.08部、シリコン系消泡剤(アンチホームE-20、花王製) 0.3部、プロピレングリコール 6.0部、ポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテルサルフェートアンモニウム(ニューカルゲンFS-7PG、竹本油脂製)2.0部、リグニンスルホン酸塩(ニューカルゲンWG-4、竹本油脂製)1.0部、ポリアクリル酸ナトリウムの水溶液(トキサノンGR-31A、三洋化成工業製) 2.5部、ナトリウムモンモリロナイト(クニピアF、クニミネ工業製)0.6部及び35%硫酸水溶液0.9部を、イオン交換水 46.02部に加えて撹拌した後、ダイノミルKDL(シンマルエンタープライゼス製)を用いて湿式粉砕して、クロチアニジンを含有する粉砕懸濁液(以下、粉砕懸濁液(a)と記す)を得た。
一方、キサンタンガム(ロードポール23、ローディア日華製) 0.14部及びイソチアゾリン-3-オン誘導体(バイオホープL、ケイ・アイ化成製) 0.02部をイオン交換水 19.84部に溶解させて、キサンタンガムの水溶液(以下、キサンタンガム水溶液(A)と記す)を得た。
粉砕懸濁液(a)80部に、キサンタンガム水溶液(A)20部を加えて撹拌し、水性懸濁状農薬組成物(以下、本発明組成物(1)と記す)を得た。」

オ 引用例8
上記引用例8には、次の事項が記載されている。
(オ1)「【請求項1】
(i)式:
【化1】

で表される化合物(I)またはその塩、(ii)芳香族スルホン酸もしくはその塩のホルムアルデヒド縮合物、またはポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェートおよび(iii)ポリビニルピロリドン、アルキル化ビニルピロリドン共重合体、ビニルピロリドン-スチレンブロックコポリマーおよびメチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合物から選ばれる1種以上のポリマーを含有してなる水性懸濁剤。
・・・・・・
【請求項3】
さらにポリオール系高分子、ポリサッカライドおよびポリエチレングリコールから選ばれる1種以上のポリマーを含有する請求項1記載の水性懸濁剤。
【請求項4】
さらにキサンタンガム、デンプンおよびポリエチレングリコールから選ばれる1種以上のポリマーを含有する請求項1記載の水性懸濁剤。
【請求項5】
さらに懸濁助剤を含有する請求項1記載の水性懸濁剤。
【請求項6】
懸濁助剤がモンモリロナイト、コロイド性酸化珪素、コロイド性酸化珪素-酸化アルミニウム混合物およびセピオライトから選ばれる1種以上の物質である請求項5記載の水性懸濁剤。
【請求項7】
(i)式:
【化2】

で表される化合物(I)またはその塩、(ii)芳香族スルホン酸もしくはその塩のホルムアルデヒド縮合物、またはポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェートおよび(iii)ポリビニルピロリドン、アルキル化ビニルピロリドン共重合体、ビニルピロリドン-スチレンブロックコポリマーおよびメチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合物から選ばれる1種以上のポリマーを水に懸濁することを特徴とする請求項1記載の水性懸濁剤の製造法。
【請求項8】
請求項1記載の水性懸濁剤を農地に散布することを特徴とする害虫防除方法。」(特許請求の範囲)

(オ2)「【0008】
ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェートとしては分子量500?5000のものが挙げられる。ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルサルフェートにおけるポリオキシアルキレンとしてはポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレンなどが挙げられる。特に、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテルサルフェートを主成分とするニューカルゲンFS-7(竹本油脂(株)製)などが好ましい。・・・・・」

(オ3)「【0015】
本発明の水性懸濁剤には、その他に通常の水性懸濁剤に用いられる添加剤を用いることができる。例えば、pH調整剤、凍結防止剤、消泡剤、防腐剤等を自由に使用することができ、これらは使用される農薬活性成分の含有量に応じて選択すればよい。・・・・・」

カ 引用例9
上記引用例9には、次の事項が記載されている。
(カ1)「IV.その他の陰イオン
商品名・・・・ディスロール H14-N Disrol・・・・
組 成・・・・ポリアクリル酸Na塩・・・・
外観(20℃)・・・・液状・・・・
有効成分(%)・・・・40・・・・
pH(1%)・・・・5-8・・・・
水溶性・・・・溶解・・・・」(21頁)

キ 引用例10
上記引用例10には、次の事項が記載されている。
(キ1)「【0028】上記合成水溶性高分子化合物の例としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸塩、スチレン-無水マレイン酸共重合体、オレフィン-無水マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。」

(2)引用発明
ア 引用発明1(難燃組成物について)
上記1(2)アに記載のとおり、引用例1には、「一般式(II)
【化2】

(式中、Ar_(1)及びAr_(2)はそれぞれ独立にアリール基を示し、R_(1)及びR_(2)はそれぞれ独立に水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又はR_(1)及びR_(2)は相互に結合して環を形成していてもよい。)で表されるジアリールアミノホスフェートから選ばれる少なくとも1種のリン酸アミドである難燃剤をノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン糊等の保護コロイド剤、シリコーン系消泡剤等の存在下に溶剤に分散させてなることを特徴とし、難燃剤(固形分)の粒子径が0.3?3μmの範囲である、ポリエステル系繊維品の難燃加工剤である難燃組成物」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

イ 引用発明2(難燃層等について)
上記1(2)イに記載のとおり、引用例1には、「引用発明1の難燃組成物で難燃加工してなる難燃加工ポリエステル系繊維品」の発明(以下、「引用発明2」という。)も記載されていると認められる。

(3)本件発明1と引用発明1との対比・判断
本件発明1と引用発明1を対比すると、上記1(3)に記載のとおり、本件発明1と引用発明1は、「式(I)で示される構造を有する難燃剤(A)と、
【化1】

(前記式(I)において、前記Arが同一又は異なるアリール基を示し、Rが同一又は異なり、水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又は各Rが互に結合し、リン原子上の窒素原子と共に環を形成する)
分散剤混合物(B)と、
分散安定剤(C)と、
消泡剤(E)と、
溶剤(F)と、
を備え、
固形分は1μm?3μmの平均粒子径を有する難燃組成物。」である点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
分散剤混合物(B)について、本件発明1は、「分子量又は第1の重量平均分子量が1500未満である低分子量界面活性剤(B-1)と、第2の重量平均分子量が5000?20000である高分子量界面活性剤(B-2)と、を含む」ことを特定しているのに対して、引用発明1は、複数の界面活性剤を含むことが記載されるにとどまり、そのような特定がない点。

<相違点2>
難燃組成物について、本件発明1は、「不凍剤(D)」を含むことを特定しているのに対して、引用発明1には、そのような特定がない点。

<相違点3>
各成分の使用量について、本件発明1は、「前記難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、前記低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?25重量部であり、前記高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は2.5重量部?10重量部であり、前記分散安定剤(C)の使用量は0.3重量部?1.3重量部であり、前記不凍剤(D)の使用量は2.5重量部?20重量部であり、前記消泡剤(E)の使用量は0.3重量部?7.5重量部であり、前記溶剤(F)の使用量は80重量部?143.5重量部」であることを特定しているのに対して、引用発明1には、そのような特定がない点。

事案に鑑み、相違点1、3について検討する。
ア 引用発明1の界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤と記載されるにとどまり、引用発明1が記載された引用例1を参照したとしても、本件発明1における異なる分子量の界面活性剤を用いることや、界面活性剤の分子量に注目する等の記載ないし示唆は存在しない。

イ 引用例2には、上記1(1)イ(イ1)の一般式(I)で表される化合物である難燃剤成分が、界面活性剤により分散している水分散体であるポリエステル繊維用の難燃加工剤に、「水溶性高分子」を分散剤として用いることが記載されている(上記1(1)イ(イ1))。そして、引用例2には、「水溶性高分子」として、自己乳化型ポリエステル化合物は、分子量が5000?20000のものであり、水溶性ポリエステルは、分子量3000?60000のものであることが記載され(いずれも、上記1(1)イ(イ2))、その実施例である【0078】の【表4】に実施品Zとして、難燃剤(トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート)40重量%、水溶性高分子(5)(自己乳化型ポリエステル化合物(ビスヒドロキシエチルテレフタレートとポリエチレングリコールの縮重合物)(平均分子量約9000))1重量%、界面活性剤(2)(スチレン化フェノール(重量比 モノ:ジ:トリ=5:35:60)20EO付加物)2重量%、蒸留水57重量%のもの(なお、この界面活性剤(2)の分子量を試算すると、スチレン化フェノール20EO付加物は、それぞれ、スチレン化フェノールのモノ体、ジ体及びトリ体が重量比で5:35:60の割合で存在しており、20EO付加物は、エチレンオキシドの20モル付加物であることから、スチレン化フェノールのモノ体、ジ体及びトリ体の20EO付加物の分子量は、それぞれ1078、1182、1286となり、その平均分子量は、1078×0.05+1182×0.35+1286×0.6=1239.2となる)が具体的に記載され、当該実施品Zが7日間室温で放置しても分散体が沈殿や二相分離が起こらす安定であることが記載されている(上記1(1)イ(イ1)?(イ3))。

ウ 引用例2には、確かに、上記イのとおり、難燃剤を平均分子量1239.2の界面活性剤と平均分子量約9000の水溶性高分子で分散させる難燃加工剤が記載されている。しかしながら、当該難燃剤は、上記1(1)イ(イ1)の一般式(I)で表される化合物であり、引用発明1の一般式(II)(化学構造及び定義省略)で表されるジアリールアミノホスフェートから選ばれる少なくとも1種のリン酸アミドである難燃剤とは、化学構造が異なる難燃剤である。
なお、引用例2には、前記一般式(I)で表される化合物と併用できる難燃剤成分としてリン系難燃化合物も例示されているが、その中には、引用発明1の難燃剤は例示されていない。

エ さらに、引用例6には、除草性化合物2種に対してジエチルヘキシルスルホコハク酸(分子量445)を主成分とする界面活性剤0.5重量とポリアクリル酸ナトリウム(製品名:トキサノンGR31A(引用例7より分子量約10000)0.4重量部を用いる除草組成物が、引用例7には、水性懸濁状農薬組成物において、農薬の有効成分を分散させるに際してポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテル構造を有する界面活性物質であるニューカルゲンFS-7PG(引用例8より分子量500?5000)とポリアクリル酸ナトリウム水溶液であるトキサノンGR31A(分子量約10000)を用いることが、それぞれ記載されている。
また、引用例8には、農業用水性懸濁剤において、ポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテルサルフェートの分子量が500?5000(ニューカルゲンFS-7PGなど)であること、凍結防止剤、消泡剤等を含有すること、引用例9には、本件特許明細書で用いられている「H14N」が商品名:ディスロールであるポリアクリル酸ナトリウム含有量40%の水溶液であること、引用例10には、合成水溶性高分子化合物の例として、「ポリアクリル酸塩、スチレン-無水マレイン酸共重合体、オレフィン-無水マレイン酸共重合体」などがあること、がそれぞれ記載されている。

オ しかしながら、引用例2には、引用発明1とは異なる化学構造の難燃剤を分散させる技術が記載されているに過ぎず、引用例6?8は、本件発明とは技術分野が異なる農薬の技術分野に関するものであり、また、引用例9及び10は、単に化学物質の内容を示すものであることから、これらは、技術関連性が乏しく、引用発明1に、引用例2に記載された発明や引用例6?10に記載された事項を組み合わせる動機付けがあるとは認められず、相違点1は実質的な相違点であるといえ、当業者が容易に発明できたものとは認められない。
加えて、相違点3の各成分の使用量において、本件発明1は、特に「高分子量界面活性剤(B-2)」の使用量を、本件特許明細書【0070】?【0078】の実施例1?5で具体的に使用された「2.5重量部?10重量部」の範囲に特定することにより、本件特許明細書【0078】の【表1】に記載された分散性や経時安定性が良好である本件発明1の難燃組成物を確認することができる。
そうすると、相違点3は実質的な相違点であるといえ、各成分の使用量、特に「高分子量界面活性剤(B-2)」の使用量を、「2.5重量部?10重量部」の範囲に特定することは当業者が容易に発明できたものとはいえない。
よって、本件発明1は、相違点1及び3の発明特定事項を有することにより、本件特許明細書【0022】に記載された「良好な分散性と経時安定性を有し、従来の難燃組成物の長時間放置による沈殿現象を改善する」という本件発明1の効果を奏するものと認められる。

カ したがって、本件発明1は、他の相違点2を検討するまでもなく、引用発明1(引用例1)並びに、引用例2に記載された発明及び引用例6?10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(4)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、低分子量界面活性剤(B-1)の分子量又は重量平均分子量と高分子量界面活性剤の重量平均分子量との比が「0.05?0.21」と特定するものである。
しかしながら、この特定によっても、相違点1の判断は、何ら影響されるものではないから、本件発明2は、本件発明1と同様に、引用発明1(引用例1)並びに、引用例2に記載された発明及び引用例6?10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(5)本件発明3と引用発明1との対比・判断
引用発明1の「一般式(II)(式及び定義省略)で表されるジアリールアミノホスフェートから選ばれる少なくとも1種のリン酸アミドである難燃剤」は、本件発明3の「式(I)で示される構造を有する難燃剤(A)(式及び定義省略)」に相当し、引用発明1の「ノニオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤」は、本件発明3の「分散剤混合物(B)」に相当し、引用発明1の「ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプン糊等の保護コロイド剤」は、本件発明3の「分散安定剤(C)」に相当し、引用発明1の「シリコーン系消泡剤」は、本件発明3の「消泡剤(E)」に相当し、引用発明1の「溶剤」は、本件発明3の「溶剤(F)」に相当する。
また、引用発明1の「難燃剤(固形分)の粒子径が0.3?3μmの範囲」は、本件発明3の「固形分は1μm?5μmの平均粒子径を有する」と重複し、引用発明1の「ポリエステル系繊維品の難燃加工剤である難燃組成物」は、本件発明3の「難燃組成物」に相当する。
したがって、本件発明3と引用発明1は、「式(I)で示される構造を有する難燃剤(A)と、
【化1】

(前記式(I)において、前記Arが同一又は異なるアリール基を示し、Rが同一又は異なり、水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又は各Rが互に結合し、リン原子上の窒素原子と共に環を形成する)
分散剤混合物(B)と、
分散安定剤(C)と、
消泡剤(E)と、
溶剤(F)と、
を備え、
固形分は1μm?3μmの平均粒子径を有する難燃組成物。」である点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点4>
分散剤混合物(B)について、本件発明3は、「分子量又は第1の重量平均分子量が1500未満である低分子量界面活性剤(B-1)と、第2の重量平均分子量が5000?20000である高分子量界面活性剤(B-2)と、を含む」ことを特定しているのに対して、引用発明1は、複数の界面活性剤を含むことが記載されるにとどまり、そのような特定がない点。

<相違点5>
難燃組成物について、本件発明3は、「不凍剤(D)」を含むことを特定しているのに対して、引用発明1には、そのような特定がない点。

<相違点6>
各成分の使用量について、本件発明3は、「前記難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、前記低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?12.5重量部であり、前記高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は2.5重量部?10重量部であり、前記分散安定剤(C)の使用量は0.3重量部?1.3重量部であり、前記不凍剤(D)の使用量は7.5重量部?15重量部であり、前記消泡剤(E)の使用量は1.3重量部?2.5重量部であり、前記溶剤(F)の使用量は100重量部?125重量部」であることを特定しているのに対して、引用発明1には、そのような特定がない点。

上記相違点4?5は、上記(3)の本件発明1の相違点1?2と同じであり、上記相違点6は、上記(3)の本件発明1の相違点3に含まれるものである。
そうすると、相違点4及び6は、上記(3)ア?カで、すでに検討したとおりであり、本件発明3は、他の相違点5を検討するまでもなく、本件発明1と同様に、引用発明1(引用例1)並びに、引用例2に記載された発明及び引用例6?10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(6)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1を引用し、第2の重量平均分子量を「6000?20000」と特定するものである。
しかしながら、この特定によっても、相違点1の判断は、何ら影響されるものではないから、本件発明4は、本件発明1と同様に、引用発明1(引用例1)並びに、引用例2に記載された発明及び引用例6?10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(7)本件発明5?8について
本件発明5は、本件発明1を引用し、低分子量界面活性剤(B-1)を、「陰イオン性低分子量界面活性剤、陽イオン性低分子量界面活性剤、非イオン性低分子量界面活性剤又は両性低分子量界面活性剤」と特定するものである。
また、本件発明6は、本件発明1を引用し、高分子量界面活性剤(B-2)を、「陰イオン性高分子量界面活性剤又は陽イオン性高分子量界面活性剤と特定するものであり、本件発明7は、本件発明6を引用し、「陰イオン性高分子量界面活性剤」を「ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリメチルアクリル酸ナトリウム塩、マレイン酸コポリマーナトリウム塩又はその組み合わせ」と、本件発明8は、本件発明6を引用し、「陽イオン性高分子量界面活性剤」を「ポリアクリルアミド、ポリメチルアクリルアミド又はその組み合わせ」と、それぞれ特定するものである。
しかしながら、これらの特定は、相違点1における低分子量界面活性剤(B-1)と高分子量界面活性剤(B-2)の各成分をさらに特定するものに過ぎず、これらの特定によっても、相違点1の判断は、何ら影響されるものではないから、本件発明5?8は、本件発明1と同様に、引用発明1(引用例1)並びに、引用例2に記載された発明及び引用例6?10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(8)本件発明9と引用発明2との対比・判断
本件発明9は、本件発明1?8を引用していることから、本件発明1及び本件発明1を直接あるいは間接的に引用している本件発明2、4?8を引用している部分と、本件発明3を引用している部分について、以下、それぞれ検討する。
ア 本件発明1及び本件発明1を直接あるいは間接的に引用している本件発明2、4?8を引用している部分について
引用発明2は、「引用発明1の難燃組成物で難燃加工してなる難燃加工ポリエステル系繊維品」であるから、その難燃加工ポリエステル系繊維品の表面には、「引用発明1の難燃組成物」から形成された難燃層が存在していると認められる。
そうすると、本件発明9と引用発明2を対比すると、上記(3)で摘示した相違点1?相違点3の点で相違し、その他の点では一致している。
しかしながら、上記相違点1?相違点3については、上記(3)ア?カですでに検討したとおりである。

イ 本件発明3を引用している部分について
引用発明2は、「引用発明1の難燃組成物で難燃加工してなる難燃加工ポリエステル系繊維品」であるから、その難燃加工ポリエステル系繊維品の表面には、「引用発明1の難燃組成物」から形成された難燃層が存在していると認められる。
そうすると、本件発明9と引用発明2を対比すると、上記(5)で摘示した相違点4?相違点6の点で相違し、その他の点では一致している。
しかしながら、上記相違点4?相違点6については、上記(5)で、すでに検討したとおりである。

ウ 小括
したがって、本件発明9は、引用発明2(引用例1)並びに引用例2に記載された発明及び引用例6?10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(9)本件発明10について
本件発明10は、本件発明9を引用した難燃布剤に関するものである。
本件発明9については、上記(8)で、すでに検討したとおりであるから、本件発明10についても、本件発明9と同様に、引用発明2(引用例1)並びに引用例2に記載された発明及び引用例6?10に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(10)まとめ
したがって、本件発明1?10は、引用例1、引用例2、6?10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。


第6 むすび
上記第5で検討したとおり、本件発明1?10の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当するものではないから、上記取消理由及び上記申立理由によっては、本件発明1?10の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?10の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
難燃組成物及びその適用
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃組成物に関し、特に、良好な分散性と経時安定性を有する難燃組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
布材自身が燃えやすい材質に属するので、難燃効果を有する布材を製造する場合、難燃剤を添加することで布材の耐火性を向上させることができる。難燃剤は、一般に、粉末状であり、適用の時、難燃剤の分散性を向上させ容易に使用するために、溶剤を含む液体難燃組成物に加えられてもよい。
【0003】
しかしながら、溶剤(例えば、水)のみで製造された組成物は、粉末状難燃剤の分散に不利である。その分散効果を向上させるために、現在既知の技術手段では、粉末状難燃剤含有の組成物に対して湿式ラッピングを行って、難燃組成物の固形分の平均粒子径がミクロンオーダにも達する難燃組成物を製造する。
【0004】
別の従来の方法としては、難燃組成物に界面活性剤を加えてから、難燃組成物の固形分を研磨することで、難燃組成物の分散性を向上させる。用いられる界面活性剤は、殆ど低分子量の界面活性剤であり、且つ一般的に、陰イオン性界面活性剤、又は陰イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤との組み合わせである。
【0005】
しかしながら、用いられる界面活性剤の分子量が低く、分散性が不良であるため、従来の技術により製造された難燃組成物にも沈殿及び分層の現象があり、特に低温で貯蔵し又は長時間静置した後で、異なる有効成分の上下分層を形成しやすく、プロセス条件が不安定になり(例えば、難燃剤の含有量は一定ではなく)、更に製品の品質に影響を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため、現在、上記様々な問題を解決し、難燃組成物に良好な分散性及び経時安定性を持たせる難燃組成物が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのため、本発明の一態様では、異なる分子量の界面活性剤を含み、特定な平均粒子径の固形分を有し、良好な分散性及び経時安定性を有する難燃組成物を提供する。
【0008】
本発明の別の態様では、前記難燃組成物から形成する難燃層を提供する。
【0009】
本発明のまた別の態様では、前記難燃層を含む難燃布材を提供する。
【0010】
本発明の一態様によると、式(I)で示される構造を有する難燃剤(A)と、分散剤混合物(B)と、分散安定剤(C)と、不凍剤(D)と、消泡剤(E)と、溶剤(F)と、

(式(I)において、Arが同一又は異なるアリール基を示し、Rが同一又は異なり、水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又は各Rが互に結合し環を形成する)を備える難燃組成物を提供する。
【0011】
分散剤混合物(B)は、分子量又は第1の重量平均分子量が1500未満である低分子量界面活性剤(B-1)と、第2の重量平均分子量が5000?20000である高分子量界面活性剤(B-2)と、を含む。
【0012】
難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?25重量部であり、高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は2.5重量部?10重量部であり、分散安定剤(C)の使用量は0.3重量部?1.3重量部であり、不凍剤(D)の使用量は2.5重量部?20重量部であり、消泡剤(E)の使用量は0.3重量部?7.5重量部であり、溶剤(F)の使用量は80重量部?143.5重量部であり、難燃組成物の固形分は1μm?5μmの平均粒子径を有する。
【0013】
本発明の一実施例によると、低分子量界面活性剤(B-1)の前記分子量又は第1の重量平均分子量と高分子量界面活性剤(B-2)の第2の重量平均分子量との比は、0.05?0.21である。
【0014】
本発明の一実施例によると、式(I)で示される構造を有する難燃剤(A)と、
【化1】

(前記式(I)において、前記Arが同一又は異なるアリール基を示し、Rが同一又は異なり、水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又は各Rが互に結合し、リン原子上の窒素原子と共に環を形成する)
分子量又は第1の重量平均分子量が1500未満である低分子量界面活性剤(B-1)と、第2の重量平均分子量が5000?20000である高分子量界面活性剤(B-2)と、を含む分散剤混合物(B)と、
分散安定剤(C)と、
不凍剤(D)と、
消泡剤(E)と、
溶剤(F)と、
を備え、
前記難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、前記低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?12.5重量部であり、前記高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は2.5重量部?10重量部であり、前記分散安定剤(C)の使用量は0.3重量部?1.3重量部であり、前記不凍剤(D)の使用量は7.5重量部?15重量部であり、前記消泡剤(E)の使用量は1.3重量部?2.5重量部であり、前記溶剤(F)の使用量は100重量部?125重量部であり、固形分は1μm?5μmの平均粒子径を有する難燃組成物を提供する。
【0015】
本発明の一実施例によると、第2の重量平均分子量は、6000?20000である。
【0016】
本発明の一実施例によると、低分子量界面活性剤(B-1)は、陰イオン性低分子量界面活性剤、陽イオン性低分子量界面活性剤、非イオン性低分子量界面活性剤又は両性低分子量界面活性剤を含む。
【0017】
本発明の一実施例によると、高分子量界面活性剤(B-2)は、陰イオン性高分子量界面活性剤又は陽イオン性高分子量界面活性剤を含む。
【0018】
本発明の一実施例によると、陰イオン性高分子量界面活性剤は、ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリメチルアクリル酸ナトリウム塩、マレイン酸コポリマーナトリウム塩又はその組み合わせを含む。
【0019】
本発明の一実施例によると、陽イオン性高分子量界面活性剤は、ポリアクリルアミド、ポリメチルアクリルアミド又はその組み合わせを含む。
【0020】
本発明の別の態様によると、基材塗布、浸漬又は噴射された前記難燃組成物からなる難燃層を提供する。
【0021】
本発明のまた別の態様によると、前記難燃層及び基布を含む難燃布材を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の難燃組成物は、高低分子量の界面活性剤及びその使用量、及び1μm?5μmである固形分の平均粒子径を組み合わせることで、良好な分散性と経時安定性を有し、従来の難燃組成物の長時間放置による沈殿現象を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[難燃組成物]
本発明の難燃組成物は、難燃剤(A)と、分散剤混合物(B)と、分散安定剤(C)と、不凍剤(D)と、消泡剤(E)と、溶剤(F)と、を備え、難燃組成物における固形分は、1μm?5μmの平均粒子径を有する。以下、詳しく説明する。
【0024】
[難燃剤(A)]
難燃剤(A)は、式(I)で示される構造を有する【化1】

(式(I)において、Arが同一又は異なるアリール基を示し、Rが同一又は異なり、水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又は各Rが互に結合し、リン原子上の窒素原子と共に環を形成する)。
【0025】
具体的には、上記Arは、例えば、フェニル基、ナフチル基又はビフェニル基等の、炭素数6?18のアリール基であってもよいが、フェニル基が好ましい。上記アリール基は、1つ以上の炭素数1?4の低級アルキル基を有し、好ましくは1つ?3つの炭素数1?4の低級アルキル基を有してもよい。低級アルキル基を有するアリール基の具体例としては、トリル基、キシリル基又はメチルナフチル基等であってもよい。
【0026】
上記Rとして示す官能基において、低級アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基のような、炭素原子数1?4のアルキル基であってもよい。炭素原子数3つ以上のアルキル基は、直鎖状であっても、分岐状であってもよい。シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基又はシクロヘプチル基等であってもよいが、シクロヘキシル基が好ましい。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等の、炭素原子数6?18のアリール基であってもよいが、フェニル基が好ましい。上記アリール基は、例えば、トリル基、キシリル基、メチルナフチル基等の、炭素原子数1?4の低級アルキル基を1つ以上、好ましくは1つ?3つ有する。また、アラルキル基としては、ベンジル基又はフェネチル基が好ましく、そのベンゼン環に炭素原子数1?4の低級アルキル基を1つ以上、好ましくは1つ?3つ有する。
【0027】
難燃剤(A)の具体例としては、アニリンジフェニルホスフォネート(製品名:DPPP、和夏化学(株)公司製)であってもよい。
【0028】
注意すべきなのは、難燃組成物における難燃剤(A)の含有量は、75重量部?125重量部であってもよい。難燃剤(A)の含有量が低すぎると、その難燃効果が不良になる。難燃剤(A)の含有量が高すぎると、分散性が不良になる。
【0029】
[分散剤混合物(B)]
本発明において、分散剤混合物(B)とは、低分子量界面活性剤(B-1)及び高分子量界面活性剤(B-2)を含むものである。以下、詳しく説明する。
【0030】
[低分子量界面活性剤(B-1)]
低分子量界面活性剤(B-1)の分子量又は第1の重量平均分子量は、1500未満であってもよい。好ましくは、低分子量界面活性剤(B-1)の分子量又は第1の重量平均分子量は、1300より小さくてもよい。
【0031】
低分子量界面活性剤(B-1)は、陰イオン性低分子量界面活性剤、陽イオン性低分子量界面活性剤、非イオン性低分子量界面活性剤又は両性低分子量界面活性剤を含む。
【0032】
上記の陰イオン性低分子量界面活性剤としては、ポリオキシエチレンスチレンアリールエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンポリアルキルアリールエーテルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩又はそれらの組み合わせを含んでもよいが、それらに限定されない。具体例としては、例えば、中日合成化学(株)公司製の型番SINONATE 707SFの商品、又は商品名SINONATE 1105SF又はSINOGEN DBS-Naの製品がある。
【0033】
前記の高級アルコール硫酸エステル塩としては、例えば、炭素数8?18の脂肪アルコール硫酸エステル塩がある。前記の高級アルキルエーテル硫酸エステル塩は、例えば、炭素数8?18の脂肪アルコールのエチレンオキサイド(1?10mol)付加物の硫酸エステル塩であってもよい。
【0034】
上記の陽イオン性低分子量界面活性剤は、脂肪族アミン塩、エタノールアミン塩、ポリエチレンポリアミン塩、第4アンモニウム塩又はそれらの組み合わせを含んでもよいが、それらに限定されない。上記第4アンモニウム塩の具体例としては、例えば、アルキルジメチルフェニル第4アンモニウム塩(alkyl dimethyl benzyl quaternary ammonium salt)、アルキルトリメチル第4アンモニウム塩(alkyl trimethyl quaternary ammonium salt)、ジアルキルジメチル第4アンモニウム塩(dialkyldimethyl quaternary ammonium salt)又はピコリン第4アンモニウム塩(picoline quaternaryammonium salt)がある。
【0035】
上記の非イオン性低分子量界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(polyoxyethylene alkyl ether)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(polyoxyethylenealkylphenyl ether)、ポリオキシエチレンスチレンアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(polyoxyethylene fatty acid ester)、ソルビタン脂肪酸エステル(sorbitan fatty acid ester)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(polyoxyethylene sorbitan fatty acid ester)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(polyoxyethylene polyoxypropylene ether)、ポリオキシエチレンの脂肪酸アミド、アミド又は酸との縮合物、高級アルコールアルキレンオキシド付加物、脂肪酸アルキレンオキシド付加物、アルキルフェノールアルキレンオキシド付加物又はそれらの組み合わせを含んでもよいが、それらに限定されない。例えば、商品名SINOPOL 1110の製品が挙げられる。
【0036】
上記の両性低分子量界面活性剤は、ベタイン型、アミノ酸型又はそれらの組み合わせを含んでもよいが、それらに限定されない。
【0037】
難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?25重量部であってもよく、好ましくは2.5重量部?12.5重量部である。
【0038】
本発明の難燃組成物に低分子量界面活性剤(B-1)を含まないと、難燃組成物の分散性が不良であり、分層しやすくなる。低分子量界面活性剤(B-1)の使用量が25重量部を超えると、分散効果も不良である。
【0039】
[高分子量界面活性剤(B-2)]
高分子量界面活性剤(B-2)は、陰イオン性高分子量界面活性剤又は陽イオン性高分子量界面活性剤を含んでもよい。
【0040】
上記の陰イオン性高分子量界面活性剤(B-2)は、ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリメチルアクリル酸ナトリウム塩、マレイン酸コポリマーナトリウム塩又はそれらの組み合わせを含む。具体例としては、型番H14Nの商品(日本乳化剤株式会社製)がある。
【0041】
上記の陽イオン性高分子量界面活性剤は、ポリアクリルアミド、ポリメチルアクリルアミド又はそれらの組み合わせを含む。
【0042】
高分子量界面活性剤(B-2)の第2の重量平均分子量は、5000?20000であり、好ましくは6000?20000である。注意すべきなのは、本発明では、難燃組成物の分散性を向上させるために、上記分子量範囲の高分子量界面活性剤(B-2)と難燃組成物における他の成分からインターカレーションを形成して、立体障害効果を発生させる。
【0043】
高分子量界面活性剤(B-2)の第2の平均分子量が5000より小さいと、十分な立体障害を提供できないため、難燃組成物の分散性が不良である。高分子量界面活性剤(B-2)の第2の平均分子量が20000を超えると、立体障害効果が大きすぎ、難燃組成物の他の成分とのインターカレーションを形成できず、良好な分散性を提供し難い。
【0044】
難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は1.3重量部?15重量部であってもよく、好ましくは2.5重量部?10重量部である。
【0045】
難燃組成物には高分子量界面活性剤(B-2)を含まず又は1.3重量部未満の高分子量界面活性剤(B-2)を含むと、難燃組成物の分散性が不良であり、分層しやすくなり(つまり、沈殿を形成しやすい)、且つ経時安定性が悪い。高分子量界面活性剤(B-2)の使用量が15重量部より大きいと、高分子量界面活性剤(B-2)自体が凝集するため、難燃組成物の分散性も不良である。
【0046】
また、低分子量界面活性剤(B-1)の分子量又は第1の重量平均分子量と高分子量界面活性剤(B-2)の第2の重量分子量との比が0.05?0.21にあると、難燃組成物の分散性と経時安定性がより良好になる。
【0047】
ここで補足説明すると、上記低分子量界面活性剤(B-1)及び高分子量界面活性剤(B-2)の使用種類は特に限定されないが、陰・陽イオン結合による沈殿を避けるために、電荷が同じ且つ反対の極性を有する陰イオン性の界面活性剤と陽イオン性の界面活性剤とを互に合わせて使用してはいけない。
【0048】
[分散安定剤(C)]
本発明の分散安定剤(C)は、難燃組成物の粘度を向上させるためのものである。例えば、分散安定剤(C)が添加されていない難燃組成物の粘度は50cps?100cpsであり、分散安定剤(C)が加えられると、その粘度が約200cps?約400cpsまで向上する。これにより、難燃組成物の経時安定性、及び常温又は高温での分散性が向上する。ここで、高温とは、例えば、45℃?55℃である。そのため、本発明の分散安定剤(C)は、増粘剤であってもよい。
【0049】
分散安定剤(C)は、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム、澱粉糊又はそれらの組み合わせを含んでもよいが、それらに限定されない。
【0050】
難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、分散安定剤(C)の使用量は0.1重量部?2.5重量部であり、好ましくは0.3重量部?1.3重量部である。
【0051】
難燃組成物が分散安定剤(C)を含まないと、難燃組成物の経時安定性が不良であり、長時間置かれた後で沈殿及び分層の現象が生じやすい。
【0052】
[不凍剤(D)]
本発明の不凍剤(D)は、難燃組成物の低温で保存する場合の分散性を向上させるためのものである。
【0053】
不凍剤(D)は、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン又はそれらの組み合わせを含んでもよいが、それらに限定されない。
【0054】
難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、不凍剤(D)の使用量は2.5重量部?20重量部であり、好ましくは7.5重量部?15重量部である。
【0055】
難燃組成物が不凍剤(D)を含まないと、低温で保存される(例えば、10℃未満)場合、難燃組成物は、分層し沈殿を形成しやすくなる。
【0056】
[消泡剤(E)]
消泡剤(E)は、高級アルコール消泡剤、シリコーン消泡剤、ポリシロキサン消泡剤、ポリエーテル変性シリコーン消泡剤、ポリエーテル消泡剤又はそれらの組み合わせを含む。
【0057】
消泡剤(E)の具体例としては、Y-14865の消泡剤(頂韻実業有限公司製)がある。
【0058】
難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、消泡剤(E)の使用量は0.3重量部?7.5重量部であり、好ましくは1.3重量部?2.5重量部である。
【0059】
難燃組成物が消泡剤(E)を含まないと、難燃組成物の気泡が多すぎ、外観均一性及び分散性も不良である。
【0060】
[溶剤(F)]
溶剤(F)は、水又は有機溶剤を含んでもよいが、好ましくは水である。
【0061】
上記の有機溶剤は、トルエン、キシレン、アルキルナフタレン等の芳香族炭化水素類、アセトン、ブタノン等のケトン類、ジオキサン、エチルセロソルブ等のエーテル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、ジクロロメタン、クロロフォルム等のハロゲン化炭化水素類を含んでもよいが、それらに限定されない。
【0062】
難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、溶剤(F)の使用量は80重量部?143.5重量部であり、好ましくは100重量部?125重量部である。
【0063】
特に説明すべきなのは、本発明に用いられる分散安定剤(C)、不凍剤(D)及び消泡剤(E)の使用量については、当業者であれば、本発明の精神と範囲から逸脱せずに、慣例、実験設計、様々な要求に応じて調整できるものである。
【0064】
[難燃組成物の調製]
上記難燃剤(A)、分散剤混合物(B)、不凍剤(D)、消泡剤(E)及び溶剤(F)を均一に混合した後で、研磨設備によって200rpm?300rpmの回転速度で、1.5時間?2.5時間研磨する。その後、分散安定剤(C)を加えて攪拌設備で均一に混合すると、固形分の平均粒子径1μm?5μmの難燃組成物が製造される。特に説明すべきなのは、上記難燃組成物の固形分は主に難燃剤(A)に由来するものである。
【0065】
上記の難燃組成物の固形分の平均粒子径が5μmを超えると、難燃組成物の分散性及び難燃効果も不良である。上記の難燃組成物の固形分の平均粒子径が1μm未満であると、プロセスでは達成できず、生産コストが向上する。
【0066】
ここで補足説明すると、上記平均粒子径の測定方法としては、動的光散乱(Dynamic light scattering;DSL)によって行われ、当業者であれば、その実行形態や操作方法を理解できるため、ここで特に説明しない。
【0067】
[難燃層及び難燃布材の製造]
上記の難燃組成物を、塗布法、浸漬法、噴射法又は他の適当な方法によって基材に形成することで、難燃層を製造することができる。基材が基布である場合、難燃組成物と染料とを混合し、上記方法によって難燃組成物と染料との混合物を基布に形成することで、難燃布材を製造することができる。
【0068】
上記基布は、織物、不織布、フィルム又は薄片であってもよい。その材質としては、例えば、綿、亜麻、ナイロン、皮革、純毛、レーヨン、蚕糸、アクリル、竹炭素繊維、弾性繊維、化学紡績繊維、ポリエステル系繊維又はそれらの組み合わせ等であってもよい。
【0069】
上記基布の1つの表面又は上下の両面には、実際の要求に応じて、1層以上の難燃層が設けられてもよい。また、前記同一又は異なる難燃層を有する難燃布材は、各種から組み合わせて多層構造に重ね合わせてもよい。
【実施例】
【0070】
[実施例1]
100重量部のアニリンジフェニルホスフォネート(A-1)、12.5重量部の分子量1035の低分子量界面活性剤(型番:SINONATE 707SF;B-1-1)、4.5重量部の重量平均分子量6000の高分子量界面活性剤(型番:H14N;B-2-1)、12.5重量部のプロピレングリコール(D-1)及び2.5重量部の消泡剤(型番:Y-14865;E-1)を117.5重量部の水に加えた後で、得られた混合物を研磨溝に置いて、粒子径3.0mmの微小ジルコニアビーズを加え、250rpmの回転速度で2.0時間研磨した後で、0.5重量部のキサンタンガム(C-1)を加え、攪拌設備で均一に混合した後で、難燃組成物の固形分の平均粒子径が2.5μmである実施例1の難燃組成物を製造した。
【0071】
[実施例2?5及び比較例1?6]
実施例2?5及び比較例1?6の難燃組成物では、使用成分又は含有量を変えた以外、実施例1と同様な方法で行った。使用成分及び含有量の詳細については、表1に示されるので、ここで特に説明しない。
【0072】
また注意すべきなのは、本発明の実施例の分散安定剤(C)、不凍剤(D)及び消泡剤(E)の使用量は例示だけであるが、当業者であれば、本発明で主張する範囲における如何なる使用量も好適に用いられる。これは、この分野の慣用技術である。
【0073】
[評価方法]
1.分散性
ここで、分散性に対しては、実施例1?5及び比較例1?6の難燃組成物を5℃で特定時間(例えば、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月又は12ヶ月)静置し、分層するかを観察した。分層の場合、分散性が不良であることを示し、評価基準が下記の通りである。
◎:未分層
△:軽微な分層
×:分層
【0074】
2.経時安定性
上記評価方法では、経過時間が長いほど分層の程度が僅かになる場合又は未分層(つまり、時間の経つにつれて、良好な分散性を保つ)の場合、製造された難燃組成物の経時安定性が良好であることを示す。
【0075】
表1の実施例1?5から、難燃組成物に低分子量界面活性剤(B-1)及び高分子量界面活性剤(B-2)を同時に有する場合、難燃組成物の分散性及び経時安定性が良好であることが判明される。また、用いられる低分子量界面活性剤(B-1)の分子量/重量平均分子量と高分子量界面活性剤(B-2)の重量平均分子量のと比の範囲が0.05?0.21である場合、難燃組成物の分散性及び経時安定性が良好である。また、多すぎる高分子量界面活性剤(B-2)を添加する場合、経時安定性が僅かに低下することがある(実施例4?5に示すように)。
【0076】
一方、表1の比較例1?6から、難燃組成物に低分子量界面活性剤(B-1)又は高分子量界面活性剤(B-2)の一方のみを含む場合には、難燃組成物の分散性が不良であることが判明される。また、高分子量界面活性剤(B-2)が5000より小さく又は20000より大きい場合、難燃組成物の分散性も不良である。
【0077】
以上をまとめると、本発明の難燃組成物は、異なる分子量の界面活性剤を含み、特定な平均粒子径の固形分を有し、良好な分散性及び経時安定性を有し、従来の難燃組成物の分層しやすく、製造された製品の品質安定性が低い等の欠点を効果的に改善することができる。また、本発明の難燃組成物は、従来のプロセス形成難燃層を利用して、更に難燃布材を量産することができる。
【0078】
本発明を実施形態を用いて前述の通りに開示したが、これは、本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の思想と範囲から逸脱しない限り、若干の変更や修正を加えることができ、したがって、本発明の保護範囲は、下記添付の特許請求の範囲で指定した内容を基準とするものである。
【表1】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で示される構造を有する難燃剤(A)と、
【化1】

(前記式(I)において、前記Arが同一又は異なるアリール基を示し、Rが同一又は異なり、水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又は各Rが互に結合し、リン原子上の窒素原子と共に環を形成する)
分子量又は第1の重量平均分子量が1500未満である低分子量界面活性剤(B-1)と、第2の重量平均分子量が5000?20000である高分子量界面活性剤(B-2)と、を含む分散剤混合物(B)と、
分散安定剤(C)と、
不凍剤(D)と、
消泡剤(E)と、
溶剤(F)と、
を備え、
前記難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、前記低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?25重量部であり、前記高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は2.5重量部?10重量部であり、前記分散安定剤(C)の使用量は0.3重量部?1.3重量部であり、前記不凍剤(D)の使用量は2.5重量部?20重量部であり、前記消泡剤(E)の使用量は0.3重量部?7.5重量部であり、前記溶剤(F)の使用量は80重量部?143.5重量部であり、固形分は1μm?5μmの平均粒子径を有する難燃組成物。
【請求項2】
前記低分子量界面活性剤(B-1)の前記分子量又は前記第1の重量平均分子量と前記高分子量界面活性剤(B-2)の前記第2の重量平均分子量との比は、0.05?0.21である請求項1に記載の難燃組成物。
【請求項3】
式(I)で示される構造を有する難燃剤(A)と、
【化1】

(前記式(I)において、前記Arが同一又は異なるアリール基を示し、Rが同一又は異なり、水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基又はアラルキル基を示し、又は各Rが互に結合し、リン原子上の窒素原子と共に環を形成する)
分子量又は第1の重量平均分子量が1500未満である低分子量界面活性剤(B-1)と、第2の重量平均分子量が5000?20000である高分子量界面活性剤(B-2)と、を含む分散剤混合物(B)と、
分散安定剤(C)と、
不凍剤(D)と、
消泡剤(E)と、
溶剤(F)と、
を備え、
前記難燃剤(A)の使用量100重量部に対して、前記低分子量界面活性剤(B-1)の使用量は2.5重量部?12.5重量部であり、前記高分子量界面活性剤(B-2)の使用量は2.5重量部?10重量部であり、前記分散安定剤(C)の使用量は0.3重量部?1.3重量部であり、前記不凍剤(D)の使用量は7.5重量部?15重量部であり、前記消泡剤(E)の使用量は1.3重量部?2.5重量部であり、前記溶剤(F)の使用量は100重量部?125重量部であり、固形分は1μm?5μmの平均粒子径を有する難燃組成物。
【請求項4】
前記第2の重量平均分子量は、6000?20000である請求項1に記載の難燃組成物。
【請求項5】
前記低分子量界面活性剤(B-1)は、陰イオン性低分子量界面活性剤、陽イオン性低分子量界面活性剤、非イオン性低分子量界面活性剤又は両性低分子量界面活性剤を含む請求項1に記載の難燃組成物。
【請求項6】
前記高分子量界面活性剤(B-2)は、陰イオン性高分子量界面活性剤又は陽イオン性高分子量界面活性剤を含む請求項1に記載の難燃組成物。
【請求項7】
前記陰イオン性高分子量界面活性剤は、ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリメチルアクリル酸ナトリウム塩、マレイン酸コポリマーナトリウム塩又はその組み合わせである請求項6に記載の難燃組成物。
【請求項8】
前記陽イオン性高分子量界面活性剤は、ポリアクリルアミド、ポリメチルアクリルアミド又はその組み合わせを含む請求項6に記載の難燃組成物。
【請求項9】
請求項1?8の何れか1項に記載の難燃組成物からなる難燃層。
【請求項10】
請求項9に記載の難燃層と、
基布と、
を備える難燃布材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-10-29 
出願番号 特願2015-255904(P2015-255904)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 貴浩  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 阪▲崎▼ 裕美
佐々木 秀次
登録日 2017-05-12 
登録番号 特許第6138902号(P6138902)
権利者 中日合成化學股▲分▼有限公司
発明の名称 難燃組成物及びその適用  
代理人 特許業務法人平田国際特許事務所  
代理人 特許業務法人平田国際特許事務所  
代理人 牧野 逸郎  

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