• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する G01D
管理番号 1346938
審判番号 訂正2018-390151  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-10-01 
確定日 2018-11-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4997736号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4997736号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯

特許第4997736号に係る出願は、平成17年10月11日に特願2005-296343号として出願されたものであって、平成24年5月25日に特許権の設定登録がなされ、平成30年10月1日に本件訂正審判の請求がなされたものである。

第2 請求の趣旨と訂正の内容

本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第4997736号の明細書を、本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものであり、その訂正の内容は、次のとおりである(なお、下線は請求人が付したものである。)。

1 訂正事項1
明細書の段落【0041】の【表1】中の「実施例1」との記載を「参考例1」に訂正し、同段落の【表1】中の「実施例2」との記載を「参考例2」に訂正し、明細書の段落【0040】及び【0042】の「実施例1、2」との記載を「参考例1、2」に訂正し、同段落【0040】の「本発明に係る形状の磁気エンコーダ」との記載を「磁気エンコーダ」に訂正し、明細書の段落【0042】の「実施例」との記載を「参考例」に訂正する。

2 訂正事項2
明細書の段落【0043】の【図4】の「(a)は本実施形態」との記載を「(a)は参考形態」に訂正し、同【図5】の「本実施形態の磁気エンコーダの変形例」との記載を「(a)及び(c)は参考形態、(b)は本実施形態の磁気エンコーダの変形例」に訂正する。

第3 当審の判断

1 訂正事項1
(1)訂正の目的
請求項1は「前記スリンガの表面のうち、前記スリンガの軸方向外端面、及び該軸方向外端面から連続する外径端面のみが、ブラスト処理により形成される凹凸部を有し」との発明特定事項を含むが、明細書の段落【0041】の【表1】の「実施例1」及び「実施例2」には、外径端面に凹凸が形成されておらず、段落【0041】の記載が、請求項1に記載された事項により特定される発明に対応していないところを、訂正事項1は、訂正前の明細書の段落【0041】の【表1】の「実施例1」及び「実施例2」を、「参考例1」及び「参考例2」に訂正し、あわせて、同段落【0040】及び段落【0042】の「実施例」を「参考例」に訂正し、同段落【0040】の「本発明に係る形状の」との記載を削除することにより、段落【0040】ないし段落【0042】の記載を、請求項1に記載された事項により特定される発明に整合させるものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(2)新規事項の有無
訂正事項1は、上記(1)のとおり、請求項1に記載された事項により特定される発明に対応しない「実施例」を「参考例」とするものに過ぎないから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第126条第5項の規定を満たすものである。
(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
訂正事項1は、上記(1)のとおり、請求項1に記載された事項により特定される発明に対応しない「実施例」を「参考例」とするものに過ぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定を満たすものである。

2 訂正事項2
(1)訂正の目的
請求項1は「前記スリンガの表面のうち、前記スリンガの軸方向外端面、及び該軸方向外端面から連続する外径端面のみが、ブラスト処理により形成される凹凸部を有し」との発明特定事項を含むが、明細書の段落【0043】に「本実施形態」と記載された、【図4】の(a)及び(b)並びに【図5】の(a)に示されたものには、外径端面に凹凸が形成されておらず、また、【図5】の(c)に示されたものは、軸方向外端面及び該軸方向外端面から連続する外径端面のみが凹凸部を有するものでないため、段落【0043】の記載が、請求項1に記載された事項により特定される発明に対応していないところを、訂正事項2は、訂正前の明細書の段落【0043】の【図4】の「(a)は本実施形態」との記載を「(a)は参考形態」に訂正し、同【図5】の「本実施形態の磁気エンコーダの変形例」との記載を「(a)及び(c)は参考形態、(b)は本実施形態の磁気エンコーダの変形例」に訂正することにより、段落【0043】の記載を、請求項1に記載された事項により特定される発明に整合させるものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(2)新規事項の有無
訂正事項2は、上記(1)のとおり、請求項1に記載された事項により特定される発明に対応しない「本実施形態」を「参考形態」とするものに過ぎないから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、特許法第126条第5項の規定を満たすものである。
(3)特許請求の範囲の拡張又は変更の有無
訂正事項2は、上記(1)のとおり、請求項1に記載された事項により特定される発明に対応しない「本実施形態」を「参考形態」とするものに過ぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定を満たすものである。

第4 むすび

以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項及び第6項の規定を満たすものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
磁気エンコーダ付軸受装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の回転速度を検出するために用いられる磁気エンコーダを備えた磁気エンコーダ付軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のスキッド(車輪が略停止状態で滑る現象)を防止するためのアンチスキッド、又は有効に駆動力を路面に伝えるためのトラクションコントロール(発進や加速時に生じやすい駆動輪の不要な空転の制御)などに用いられる回転数検出装置としては、N極とS極とを円周方向に交互に着磁された円環状のエンコーダと、エンコーダの近傍における磁場の変化を検出するセンサとを有し、車輪を支持する軸受を密封するための密封装置にエンコーダを併設して配置することにより車輪の回転と共にエンコーダを回転せしめ、車輪の回転に同期した磁場変化をセンサにより検出するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載のシール付回転数検出装置は、図6に示すように、外輪100に取り付けられたシール部材102と、内輪101に嵌合されたスリンガ103と、スリンガ103の外側面に取り付けられて磁気パルスを発生する多極磁石104と、多極磁石104に近接して配置されて磁気パルスを検出するセンサ105とから構成されている。このシール付回転数検出装置が取付けられた軸受ユニットでは、シール部材102とスリンガ103とにより、埃、水等の異物が軸受内部に侵入することを防止し、軸受内部に充填された潤滑剤が軸受外部に漏洩することを防止している。また、多極磁石104は、内輪101が1回転する間に、極数に対応した数の磁気パルスを発生させ、この磁気パルスをセンサ105により検出することで内輪101の回転数を検出している。
【0004】
従来、車輪用軸受に使用する多極磁石104としては、ゴムあるいは樹脂等の弾性素材に磁性粉を混入させた磁性ゴムやプラスチック磁石が使用されている。
【特許文献1】特開2001-255337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、磁気エンコーダには更なる検出精度の向上が要求されているが、磁性ゴムを用いた多極磁石エンコーダにおいて、更なる感知性能を向上するためには磁性ゴム中の磁性粉の配合量を高めるしかなく、磁気エンコーダのパフォーマンスを今後劇的に向上させることは難しい。
【0006】
一方、プラスチック磁石を用いたエンコーダでは、磁界をかけた状態での射出成形(磁場成形)が可能であるため、優れた磁気特性発現に不可欠な異方性磁石を得ることができるという特長がある。つまり、磁性粉の配向制御によって、その磁気性能を最大限に引き出すことができるプラスチック磁石を用いれば、磁性ゴムのものに対してより感知性能に優れた磁気エンコーダが作製できると考えられる。
【0007】
しかしながら、プラスチック磁石のスリンガへの固定方法として、接着剤を使用する場合、接着接合物である磁気エンコーダが過酷な塩水環境下に長期間曝されると、接着剤が吸湿劣化し、その塩水遮断効果が低下する。その結果として、多極磁石とスリンガ間ですき間腐食が発生し、最悪の場合、多極磁石がスリンガから脱離してしまうことが想定される。
【0008】
本発明は上記課題を解決するものであり、その目的は、回転体の回転速度を検出する磁気エンコーダとして所望の機能を確保しつつ、プラスチック磁石とスリンガ間への塩水の浸入を遮断し、悪環境下における、すき間腐食発生に対する抵抗性を向上させた磁気エンコーダ付軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成される。
(1) 静止輪と、 該静止輪に対して相対回転する回転輪と、
前記静止輪と前記回転輪との間に回転自在に配置される複数の転動体と、
前記回転輪と取り付けられるスリンガと、該スリンガに接合されて60?80体積%の磁性体粉を含有するプラスチック磁石とを有し、前記回転輪の回転速度を検出するための磁気エンコーダと、
を備える磁気エンコーダ付軸受装置であって、
前記スリンガの表面のうち、前記スリンガの軸方向外端面、及び該軸方向外端面から連続する外径端面のみが、ブラスト処理により形成される凹凸部を有し、
前記プラスチック磁石は前記軸方向外端面及び前記外径端面の前記凹凸部のみに接着接合されることを特徴とする磁気エンコーダ付軸受装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スリンガは、ブラスト処理により形成される凹凸部を有し、プラスチック磁石は凹凸部のみで接着接合されるので、プラスチック磁石との接着接合面の全域に接着耐久性向上に不可欠な凹凸加工が確実に施されており、塩水噴霧下での接着耐久性が極めて優れた磁気エンコーダ付軸受装置となり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の一実施形態として、独立懸架式のサスペンションに支持する、非駆動輪を支持するための車輪支持用転がり軸受ユニット2aに、本発明の磁気エンコーダ付軸受装置を適用した場合について示している。尚、本発明の特徴以外の構成及び作用については、従来から広く知られている構造と同等であるから、説明は簡略にし、以下、本発明の特徴部分を中心に説明する。
【0012】
転がり軸受ユニット2aは、静止輪である外輪5aと、車輪(図示せず)を固定するための取付フランジ12と一体回転する回転輪であるハブ7a及び内輪16aと、外輪5aとハブ7a及び内輪16aとの間で形成される環状隙間で周方向に転動自在に配置され、保持器18によって案内される複数の転動体である玉17a,17aとを備え、内輪16aには磁気エンコーダ26が固定されている。
【0013】
ハブ7aの内端部に形成した小径段部15に外嵌した内輪16aは、このハブ7aの内端部を径方向外方にかしめ広げる事により形成したかしめ部23によりその内端部を抑え付ける事で、上記ハブ7aに結合固定している。また、車輪は、このハブ7aの外端部で、外輪5aの外端部から突出した部分に形成した取り付けフランジ12に、複数のスタッド8によって結合固定自在としている。これに対して外輪5aは、その外周面に形成した結合フランジ11により、懸架装置を構成する、図示しないナックル等に結合固定自在としている。
【0014】
更に、外輪5aの両端部内周面と、ハブ7aの中間部外周面及び内輪16aの内端部外周面との間には、それぞれシールリング21a、21bを設けている。これら各シールリング21a、21bは、外輪5aの内周面とハブ7a及び内輪16aの外周面との間で、各玉17a、17aを設けた環状空間と外部空間とを遮断している。
【0015】
各シールリング21a、21bは、それぞれ軟鋼板を曲げ形成して、断面L字形で全体を円環状とした芯金24a、24bにより、弾性材22a、22bを補強してなる。この様な各シールリング21a、21bは、それぞれの芯金24a、24bを外輪5aの両端部に締り嵌めで内嵌し、それぞれの弾性材22a、22bが構成するシールリップの先端部を、ハブ7aの中間部外周面、或は内輪16aの内端部外周面に外嵌固定したスリンガ25に、それぞれの全周に亙り摺設させている。
【0016】
磁気エンコーダ26は、内輪16aに取り付けられるスリンガ25と、スリンガ25の側面に固着された磁極形成リング27と、で構成される。図3に示すように、磁極形成リング27は多極磁石であり、その周方向には、交互にN、Sが形成されている。そして、この磁極形成リング27に磁気センサ(図示せず)が対面配置される。
【0017】
本発明では、磁気エンコーダ26の磁極形成リング27は、磁性体粉とそのバインダーとなる樹脂組成物とからなる多極プラスチック磁石により構成される。そして、本発明に係る磁気エンコーダの基本仕様は以下の通りである。本発明の磁気エンコーダは、基本的には、接着剤を予め半硬化状態で焼き付けたスリンガをコアにして、プラスチック磁石材料のインサート成形を行って、その後、接着剤を完全に硬化させてプラスチック磁石とスリンガを成型と同時に一体的に接着接合した後、得られた接着接合体を円周方向に多極磁化することで製造される。
【0018】
本発明の磁気エンコーダにおける、プラスチック磁石のバインダーとしては、ポリアミド系樹脂、具体的には、融雪材として使用される塩化カルシウムが水と一緒にかかる可能性があるという点を考慮して、吸水率の小さい所謂、高級ナイロンであるポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド612樹脂、あるいはアジピン酸ユニットにテレフタル酸を一部共重合させた半芳香族ポリアミド樹脂であるポリアミド6T/6-6、ポリアミド6T/6I、ポリアミド6T/6I/6-6、ポリアミド6T/M-5T、ポリアミド9Tなどを用いる。
【0019】
また、本発明に係る磁気エンコーダは、例えば、-40℃?120℃の繰り返し冷熱衝撃が印加されるような状況下での信頼性をより確実なものとするために、プラスチック磁石のバインダーである樹脂組成物を、低吸水性を示すポリアミド樹脂と、衝撃強さ改良剤として配合される軟質成分とのポリマーアロイとしている。
【0020】
ここで、樹脂組成物の総重量に対して、5?50重量%、好ましくは10?35重量%配合される軟質成分としては、その分子構造中にガラス転移温度が少なくとも-40℃以下である軟質セグメントを含むブロック共重合体である。本発明において利用可能なブロック共重合体としては、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、塩化ビニル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリジオレフィン系及びシリコン系があるが、エンコーダの要求性能や使用環境を考慮すると、より好適なのは、ポリエステル系及びポリアミド系といったものであり、そして、これらブロック共重合体における軟質セグメントのガラス転移温度が-40℃以下のものであれば良い。
【0021】
更に、樹脂組成物には、熱安定剤(耐熱加工安定剤、酸化防止剤)、光安定剤、帯電防止材、可塑剤、無機あるいは有機難燃剤、その他、補強剤等が必要に応じて適宜添加されるが、特に、使用環境を考慮すると、熱安定剤の添加は不可欠であり、好適に添加されるものとしては、アミン系酸化防止剤として、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンポリマーに代表されるアミン・ケトン系、p,p’-ジクミルジフェニルアミンに代表されるジアリルアミン系、及びN,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミンに代表されるp-フェニレンジアミン系、といったものがあり、フェノール系酸化防止剤としては、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールに代表されるモノフェノール系、及び2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)に代表されるポリフェノール系のものがある。また一方で、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノンといったハイドロキノン系のものを用いることもできる。更に、酸化防止剤と共に、過酸化物分解型酸化防止剤(二次酸化防止剤)を併用して用いても良い。二次酸化防止剤としては、2-メルカプトベンズイミダゾールのような硫黄系二次酸化防止剤やトリス(ノニル化フェニル)フォスファイトのようなリン系二次酸化防止剤を用いる。尚、熱安定剤の配合量は、樹脂に対して0.1?3wt%程度が好ましいが、種類によっては(ブルームしない、あるいは樹脂の物性に悪影響を及ぼさない範囲で)それ以上の量が添加される場合がある。
【0022】
一方、本発明に係る磁気エンコーダに含まれる磁性体粉としては、ストロンチウムフェライトやバリウムフェライト等のフェライト、ネオジウム-鉄-ボロン、サマリウム-コバルト、サマリウム-鉄等の希土類磁性粉を用いることができ、更にフェライトの磁気特性を向上させるためにランタンとコバルト等を混入させたものであってもよい。尚、本発明では、磁極形成リングの磁気特性を十分に確保するため、その含有量を60?80体積%としているが、これは、磁性粉の含有量が60体積%未満の場合は、磁気特性が劣ると共に、細かいピッチで円周方向に多極磁化させるのが困難になるためであり、一方、80体積%を越える場合は、樹脂バインダー量が少なくなりすぎで、磁石全体の強度が低くなると同時に、成形が困難になり、実用性が低下するためである。
【0023】
即ち、本発明者らは、上記材料を用い、尚且つ、上記のような基本仕様とすれば、性能と耐久性良好な磁気エンコーダ26が得られることを既に見出していたが、過酷な塩水環境下に長期間曝されることにより発生に至る、磁極形成リング27とスリンガ25間のすき間腐食に対する抵抗性を更に向上させるべく検討を重ねた。その結果、スリンガ25の磁極形成リング27との接着接合面の全域に、研削材を用いたブラスト処理により凹凸加工を施し、尚且つ、その凹凸加工処理に関連して、ブラスト処理が困難なスリンガ外径端面がプラスチック磁石との接着接合部となることを回避した形状の磁気エンコーダ仕様とすることで、悪環境下においても磁極形成リング27とスリンガ25間のすき間腐食が生じ難い高信頼性の磁気エンコーダ26が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0024】
即ち、ブラスト処理は、加工が比較的容易なスリンガ25の軸方向外端面に施され、図4(a)に示すような凹凸部28が形成される。そして、この凹凸部28を接着接合面として、射出成形によって磁極形成リング27がスリンガ25に噛み付くような構成としている。
【0025】
また、本発明に係る研削材によるスリンガ25のブラスト処理については、その方法、研削材に特に制限はないが、加工処理において、被加工材であるスリンガ25の変形を最小限に抑えるために、比較的弱い加工強度(低投射エネルギー)をもって加工するのが好ましい。このため、本発明における研削材としては、アルミナ(酸化アルミニウム)系研削材、即ち、褐色、及び白色・緑色炭化ケイ素アルミナが特に好適である。ところで、研削材として主に用いられるアルミナ系研削材の粒度は、0.08?0.18mm程度のものであり、本発明においても、この範囲内のものを好適に使用することができる。尚、粒度0.06?0.3mmのアルミナ系研削材を使用した際に得られる加工面の粗さは、Raで0.8?1.5μmであり、発明者らはこの範囲内のスリンガ接着面粗さにおいて、十分な接着耐久性の確保が可能であることを実験によって確認している。このため、本発明において好適に使用されるアルミナ系研削材の粒度範囲は0.06?0.3mmとすることができるのである。
【0026】
本発明に係る磁気エンコーダ26は、基本的にバインダーとしての樹脂組成物と磁性体粉からなる円環状の磁極形成リング27と、スリンガ25により構成される。以下には、本発明に係る磁気エンコーダ26の製造方法について記述する。
【0027】
本発明に係る磁気エンコーダ26は、接着接合面28をブラスト処理によって凹凸形状に形成し、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂系接着剤を焼き付けたスリンガ25をコアにして、ペレット化されたプラスチック磁石材料のインサート成型によって磁極形成リング27とスリンガ25を一体的に接着接合し、その後円周方向に多極磁化することによって製造される。
【0028】
尚、本発明で用いる熱硬化性樹脂系接着剤は、例えば100℃?120℃、数分?30分程度の硬化条件で、インサート成形時の高温高圧の溶融プラスチック磁石材料によって流失されない程度の半硬化状態でスリンガ25に焼き付けることができ、更に、インサート成形時の溶融プラスチック磁石からの熱、更には、それに引き続く二次加熱によって完全に硬化するものである。
【0029】
また、本発明のプラスチック磁石材料のペレットは、例えば以下の方法により作製できる。2軸押し出し機、ニーダー又はバンバリーミキサー等により、磁性体粉に、ポリアミド樹脂と衝撃強さ改良剤として配合される軟質成分とのポリマーアロイからなる樹脂組成物を混練した後、得られるプラスチック磁石材料を通例の方法によりペレット化することによって得られる。
【0030】
従って、本実施形態の磁気エンコーダ26によれば、スリンガ25は、ブラスト処理により形成される凹凸部28を有し、磁極形成リング27は凹凸部28のみで接着接合されるので、磁極形成リング27との接着接合面の全域に接着耐久性向上に不可欠な凹凸加工が確実に施されており、塩水噴霧下での接着耐久性が極めて優れた磁気エンコーダとなり得る。
【0031】
また、スリンガ25には、軸方向外端面のみに凹凸部28が形成されるので、比較的容易にブラスト加工処理を施すことができる。
【0032】
また、本発明の製造方法によって得られるプラスチック磁石中の磁性体粉は、円環状の磁石の厚み方向に高度に配向しているため、その着磁により得られるエンコーダの磁気特性は極めて良好なものとなる。このため、磁石中の磁性体粉の含有量によっては、従来では20mT程度であった磁束密度を26mT以上に向上させることが可能である。よって磁気エンコーダとセンサとのギャップを従来と同様に1mmとした場合に、従来では96極に多極磁化されていたものを、一極当りの磁束を維持して120極以上に多極磁化することが可能である。この時、単一ピッチ誤差は±2%以下とできる。即ち、本発明に係る磁気エンコーダによれば、従来と同等のエアギャップとした場合に、極数を増加させて車輪の回転速度の検出精度を向上させることができる。また、本発明に係るプラスチック磁石を従来と同数の極数とした場合に、エアギャップを大きくとることができ、センサを配置する際の自由度を向上させることができる。
【0033】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものでなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0034】
例えば、図5(a)に示すように、スリンガ25Aが軸方向外端面の外径側に傾斜面29を有するような形状であっても、上記実施形態と同様、凹凸部28は軸方向外端面に形成されるので、比較的容易にブラスト加工処理を施すことができる。
【0035】
また、スリンガの外径端面にブラスト処理を施す場合には、軸方向外端面と異なる方向から再度ブラスト処理を施す必要があり、処理時間及び処理コストが増加する。このため、上述したように軸方向外端面のみにブラスト処理を施すことが好ましいが、磁極形成リング27が外径端面30を覆うような形状である場合には、図5(b)に示すスリンガ25Bのように、外径端面30にもブラスト処理による凹凸部28を形成して、接着接合面としてもよい。
【0036】
さらに、本発明に係る研削材によるスリンガのブラスト処理は、実質的にはプラスチック磁石との接着接合面のみで良いが、処理方法の簡便性を優先して、図5(c)に示すスリンガ25Cのように、全面に凹凸部28を加工しても良い。ただし、その際には、ブラスト処理によって形成される(シール摺動面にも形成される)凹凸構造がシールの密封性能に影響を及ぼさない程度において、その処理が施されなければならない。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれによって何ら制限されるものではない。
【0038】
本発明の磁気エンコーダを構成するプラスチック磁石材料は、例えば以下の方法により作製できる。先ず、2軸押し出し機、ニーダー又はバンバリーミキサー等により、ポリアミド樹脂中に、衝撃強さ改良剤として配合される軟質成分、熱安定剤、可塑剤等の添加剤を加えて練り込む。混練は、160℃?280℃の温度で、1分間?20分間行う。その後、該樹脂組成物を通例の方法によりペレット化する。更に、磁性体粉に該樹脂組成物のペレットを投入し、2軸押し出し機を用いて、160℃?280℃の温度で加熱しながら1分間?20分間混練した後、押し出す。次いで、この押し出した磁性体粉含有樹脂組成物をペレット化することで、成形用材料を得ることができる。
【0039】
また、本発明に係る磁気エンコーダの製造方法は、例えば以下に述べる手順に従う。先ず、熱硬化性樹脂系接着剤を、プラスチック磁石との接着接合面の全域に、接着耐久性向上に不可欠な凹凸加工が、研削材を用いたブラスト処理によって施されるスリンガ上に塗付し、これを室温条件下に風乾させた後、該接着剤を半硬化状態で焼き付ける。焼き付け処理したスリンガを金型にセットし、これをコアとしてプラスチック磁石材料のインサート成形を行う。次いで、得られた成形体を例えば、150℃、2時間程度の加熱条件で(接着剤の本硬化)処理して得られるプラスチック磁石とスリンガの接着物をヨークコイルを用いて多極に着磁することで、本発明のプラスチック磁石磁気エンコーダを得る。
【0040】
表1に示す配合量のプラスチック磁石を用いて、上記の製造方法に従って、磁気エンコーダを参考例1、2として作製した。一方、参考例1、2に対して、外径端面に研削材による凹凸処理が施されていないスリンガを用いて作製した磁気エンコーダを比較例とした。
【0041】
【表1】

【0042】
(塩水噴霧試験)
参考例1、2と比較例について、塩水噴霧試験を実施した結果を表1に示した。試験としては、5重量%、35±2℃の塩水雰囲気中に1500時間放置した後の接着はく離進行度を評価した。尚、結果の判定基準は、エンコーダ端部からの接着はく離距離が1mm未満であった場合を合格(○)とし、一方、接着はく離距離が1mm以上であった場合を不合格(×)と判定した。表記の結果から明らかなように、本発明の参考例においては、ブラスト処理が困難な外径端面がプラスチック磁石との接着接合部となることを回避したスリンガ形状とすることにより、スリンガ-プラスチック磁石間でのすき間腐食の発生が抑制される結果として、その耐塩水はく離性が向上しているのである。一方、比較例の場合には、塩水噴霧のような厳しい環境下に長時間曝された場合、その外径端部の接着界面が比較的短時間で吸水劣化し、スリンガ-プラスチック磁石間でのすき間腐食の発生を誘起し、はく離が進行したことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態の転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【図2】本実施形態の磁気エンコーダを備えたシール装置を示す断面図である。
【図3】エンコーダ磁石の円周方向に多極磁化された例を示す斜視図である。
【図4】(a)は参考形態のブラスト処理を施したスリンガを示す断面図であり、(b)は、インサート成形後の磁気エンコーダを示す断面図である。
【図5】(a)及び(c)は参考形態、(b)は本実施形態の磁気エンコーダの変形例を示す断面図である。
【図6】従来の転がり軸受ユニットを示す断面図である。
【符号の説明】
【0044】
2a 車輪支持用転がり軸受ユニット
5a 外輪
7a ハブ
8 スタッド
11 結合フランジ
12 取付フランジ
15 小径段部
16a 内輪
17a 玉
18 保持器
21a,21b シールリング
22a,22b 弾性材
23 かしめ部
24a,24b 芯金
25,25’ スリンガ
26,26’ 磁気エンコーダ
27 磁極形成リング(プラスチック磁石)
28 凹凸部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-11-01 
結審通知日 2018-11-05 
審決日 2018-11-16 
出願番号 特願2005-296343(P2005-296343)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (G01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 眞岩 久恵  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 櫻井 健太
須原 宏光
登録日 2012-05-25 
登録番号 特許第4997736号(P4997736)
発明の名称 磁気エンコーダ付軸受装置  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ