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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J |
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管理番号 | 1346992 |
審判番号 | 不服2017-16689 |
総通号数 | 230 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-02-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-11-09 |
確定日 | 2018-12-10 |
事件の表示 | 特願2013-246501「透明導電性フィルム用粘着剤層、粘着剤層付き透明導電性フィルム、及びタッチパネル」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月 8日出願公開、特開2015-105286〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成25年11月28日の出願であって、平成29年6月1日付けで拒絶理由が通知され、同年7月31日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月7日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月9日に拒絶査定不服審判の請求がされ、平成30年4月17日付けで、当審により拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年6月13日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1?請求項8に係る発明(以下、項番号に対応して、「本願発明1」などといい、これらをまとめて「本願発明」という。)は、平成30年6月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項8に記載された事項により特定されるところ、その請求項1には、次のように記載されている。 「透明プラスチックフィルム基材の一方の面に、金属酸化物により形成された透明導電性薄膜を有し、他方の面に機能層を有する透明導電性フィルムの一方の面に、透明導電性フィルム用粘着剤層を有する粘着剤層付き透明導電性フィルムであって、 前記透明導電性フィルム用粘着剤層は、 ベースポリマーとしてイソプレン系ポリマーを50重量%以上含むイソプレンゴム系粘着剤から形成された粘着剤層であって、 23℃、55%R.H.環境下の周波数100kHzの比誘電率が4以下であり、60℃、95%R.H.の環境下に120時間保存した後の水分率が1重量%以下であり、かつ、ヘイズ2%未満であることを特徴とする、粘着剤層付き透明導電性フィルム。」 3.当審拒絶理由 当審拒絶理由の要旨は、概ね、次の(1)及び(2)を含む。 (1)(サポート要件)本願発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいうことはできず、この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (2)(実施可能要件)発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものではなく、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 4.当審の判断 (1)サポート要件(特許法第36条第6項第1号に規定する要件)について ア 本願発明1が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たすかどうかを、いわゆる大合議判決(平成17年(行ケ)10042号、知財高裁平成17年11月11日判決)の観点、すなわち、「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲の記載に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か」に照らして、検討する。 イ 本願発明1の課題について (ア)発明の詳細な説明の記載 本願明細書の発明の詳細な説明には、解決課題に関し、次の記載がある(下線は当審が付与した。)。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、耐皮脂性、耐加湿白濁性が高く、かつ加湿条件下における誘電率変化が小さい透明導電性フィルム用粘着剤層に関する。」 「【0007】 上記のように、タッチパネルを構成する部材、フィルムの誘電率は、タッチパネルの応答性に関わっており重要な数値である。一方、近年、タッチパネルの普及に伴い、タッチパネルにはより高性能化が求められており、その構成部材である透明導電性フィルムや粘着剤層にも高性能が求められ、薄型化もそのひとつである。しかしながら、粘着剤層を単純に薄型化してしまうと設計した静電容量値が変わってしまうという問題がある。前記静電容量値の数値を変えないで、粘着剤層を薄型化するためには、粘着剤層の低誘電率化が求められる。また、視認性向上のために、印刷付ガラスやフィルムと光学フィルムとの空気層や液晶ディスプレイ(LCD)上部の空気層を粘着剤層にて層間充填する場合があるが、その一方で、前記粘着剤層の誘電率が高いと誤作動が起きる可能性がある。かかる誤作動防止の観点からも、粘着剤層の低誘電率化が求められる。さらに、粘着剤層の低誘電率化によって、タッチパネルの応答速度や感度の向上が期待される。また、透明導電性フィルムやガラスを、粘着剤層を介して積層した積層物を、加湿条件下に曝露した際には粘着剤層が白濁してしまうという問題があり、耐加湿白濁性が求められている。 【0008】 加湿白濁を抑制できる粘着剤層として種々のものが提案されており、例えば、60℃、95%R.H.の環境下に120時間保存した後の水分率が0.65重量%以上である粘着剤層が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。また、低誘電率の粘着剤層を実現できる粘着剤として、炭素数10?24の分岐したアルキル基をエステル基の末端に有するアルキル(メタ)アクリレートを特定量含むモノマー成分を重合することにより得られた(メタ)アクリル系ポリマーを含む粘着剤等が知られている(例えば、特許文献3参照)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0009】 【特許文献1】特開2011-99078号公報 【特許文献2】特開2012-173354号公報 【特許文献3】特開2012-246477号公報」 「【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 前記特許文献1、2においては、60℃、95%R.H.の環境下に120時間保存した後の水分率が0.65重量%以上である、高い水分率を有する粘着剤層を用いることで加湿白濁を抑制しようとするものである。水分率を高い粘着剤層を用いることで、粘着剤層の加湿条件下における白濁は解消されるものの、加湿条件下での誘電率が高くなってしまうことが分かった。このように、加湿条件下において粘着剤層の誘電率が変化すると、当該粘着剤層を用いたタッチパネルを加湿条件下に使用した場合に誤動作が発生したり、感度が低下することがあった。 【0011】 また、特許文献3に記載されているように、炭素数10?24の分岐したアルキル基をエステル基の末端に有するアルキル(メタ)アクリレートを特定量用いることで粘着剤層の低誘電率化を実現できるものではあるが、当該粘着剤層を有する透明導電性フィルムでは、加湿条件下で粘着剤層が白濁してしまう、という問題があった。 【0012】 また、タッチパネルは、素手が常時接触する状態で使用されるため、手の皮脂がタッチパネルに移行することは避けられない。当該タッチパネル表面に移行した皮脂は、徐々にタッチパネル内部の粘着剤層に移行し、当該粘着剤層が皮脂により膨潤してしまうという問題があり、耐皮脂性が求められている。しかしながら、従来、このような皮脂による粘着剤層の膨潤については十分に検討がなされておらず、特許文献1?3においても、皮脂による粘着剤層の膨潤については何ら検討がなされていないものであった。 【0013】 そこで、本発明は、耐皮脂性、耐加湿白濁性が高く、かつ加湿条件下における誘電率変化を抑制することができる、透明導電性フィルム用粘着剤層を提供することを目的とする。」 (イ)本願発明1の課題 上記(ア)によれば、本願発明1は、耐皮脂性、耐白濁性が高く、かつ加湿条件下における誘電率変化が小さい透明導電性フィルム用粘着剤層に関するものであり(【0001】)、該粘着剤層は、低誘電率化、耐加湿白濁性(【0007】)、並びに、加湿条件下において誘電率変化がないこと(【0010】)、及び、耐皮脂性(【0012】)が求められているところ、本願発明1の課題は、透明導電性フィルム用粘着剤層において、耐皮脂性、耐加湿白濁性が高く、かつ加湿条件下における誘電率変化を抑制することができる、透明導電性フィルム用粘着剤層を提供すること(【0013】)であるといえる。 ウ 発明の詳細な説明の記載 本願発明1は、粘着剤層付き透明導電性フィルムに係る発明であり、特に、当該フィルムにおいて使用する透明導電性フィルム用粘着剤層に関するもの(【0001】)であるところ、当該透明導電性フィルム用粘着剤層の組成及び特性について、本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。 なお、「透明導電性フィルム用粘着剤層」について、具体的に示されたものは、「実施例1」以外には見当たらない。 (ア)「【課題を解決するための手段】 【0015】 本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、下記透明導電性フィルム用粘着剤層を見出し、本発明を完成するに至った。 【0016】 すなわち、本発明は、23℃、55%R.H.環境下の周波数100kHzの比誘電率が4以下であり、かつ、60℃、95%R.H.の環境下に120時間保存した後の水分率が1重量%以下であることを特徴とする、透明導電性フィルム用粘着剤層に関する。 【0017】 60℃、95%R.H.の環境下における周波数100kHzの比誘電率が、23℃、55%R.H.環境下の周波数100kHzの比誘電率の1.2倍以下であることが好ましい。 【0018】 前記水分率が0.6重量%以下であることが好ましい。 【0019】 前記粘着剤層が、ゴム系ポリマーを含むゴム系粘着剤組成物から形成されたものであることが好ましい。 【0020】 前記ゴム系ポリマーが、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合することによって得られる共役ジエン系共重合体を含むことが好ましい。」 (イ)「【発明の効果】 【0024】 本発明の透明導電性フィルム用粘着剤層は、23℃、55%R.H.環境下の周波数100kHzの比誘電率が4以下であり、かつ、60℃、95%R.H.の環境下に120時間保存した後の水分率が1重量%以下と小さいため、低誘電率で、耐加湿白濁性に優れた粘着剤層を実現することができ、かつ、加湿条件下における誘電率変化も小さく、当該粘着剤層を用いたタッチパネル等の誤作動を防止することができる。」 (ウ)「【0037】 本発明の透明導電性フィルム用粘着剤層は、23℃、55%R.H.環境下の周波数100kHzにおける比誘電率が4以下であり、3.5以下であることが好ましく、3.4以下であることがより好ましく、3.2以下であることがさらに好ましい。比誘電率が前記範囲になることで、当該粘着剤層を用いたタッチパネルが良好な応答速度や感度を得ることができる。また、本発明の透明導電性フィルム用粘着剤層の60℃、95%R.H.の環境下における周波数100kHzの比誘電率についても前記範囲となることが好ましい。 【0038】 本発明の透明導電性フィルム用粘着剤層は、60℃、95%R.H.の環境下における周波数100kHzの比誘電率が、23℃、55%R.H.環境下の周波数100kHzの比誘電率の1.2倍以下であることが好ましく、1.1倍以下であることがより好ましい。本発明の透明導電性フィルム用粘着剤層は、60℃、95%R.H.の環境下と、23℃、55%R.H.環境下における周波数100kHzの比誘電率がほぼ同じであり、加湿条件下における誘電率変化も小さいものである。これにより、当該粘着剤層を用いたタッチパネル等の誤作動を防止することができる。 【0039】 また本発明の透明導電性フィルム用粘着剤層の60℃、95%R.H.の環境下に120時間保存した後の水分率は、1.0重量%以下であり、0.8重量%以下であることが好ましく、0.6重量%以下であることがより好ましく、0.2重量%以下であることがさらに好ましい。水分率を前記範囲にすることで、加湿条件下における比誘電率変化を抑制することができるものである。 【0040】 また本発明の透明導電性フィルム用粘着剤層は、粘着剤層の厚さが100μmの場合の、23℃、50%R.H.の環境下におけるヘイズ値が2%以下であることが好ましく、0?1.5%であることがより好ましく、0?1%であることがさらに好ましい。ヘイズが前記範囲であれば、前記粘着剤層が光学部材に用いられる場合に要求される透明性を満足することができる。また、ヘイズ値は2%以下であれば、光学用途として満足することができる。前記ヘイズ値が2%を超えると白濁が生じて光学フィルム用途として好ましくない。 【0041】 また本発明の透明導電性フィルム用粘着剤層は、粘着剤層(厚さ:100μm)を、60℃、95%R.H.の環境下に500時間保存して、23℃、50%R.H.の環境下に取り出した直後のヘイズ値が、5%未満であることが好ましく、0%以上2%未満であることがより好ましい。前記範囲は耐加湿白濁性の観点から好ましい。 【0042】 本発明の透明導電性フィルム用粘着剤層の形成に用いる粘着剤は、特に限定されるものではなく、23℃、55%R.H.環境下の周波数100kHzの比誘電率が4以下であり、かつ、60℃、95%R.H.の環境下に120時間保存した後の水分率が1重量%以下となる粘着剤層を形成できるものであればよいが、例えば、ゴム系ポリマーをベースポリマーとするゴム系粘着剤組成物が好ましく使用できる。 【0043】 前記ゴム系ポリマーとしては、1種の共役ジエン化合物を重合することによって得られる共役ジエン系重合体、2種以上の共役ジエン化合物を重合することによって得られる共役ジエン系共重合体、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合することによって得られる共役ジエン系共重合体を含むことができる。また、これらの水添物も好適に用いることができる。 【0044】 前記共役ジエン化合物としては、重合可能な共役ジエンを有する単量体であれば特に限定されず、例えば1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘプタジエン、1,3-ヘキサジエンが挙げられる。これらの中でも、工業的入手の容易さの観点から、1,3-ブタジエン、イソプレン等が好ましい。また、これらは1種単独又は2種以上を併用してもよい。 【0045】 ジエン系共重合体を構成するために用いられる芳香族ビニル化合物としては、共役ジエン化合物と共重合可能な芳香族ビニル構造を有する単量体であれば特に限定されず、例えば、スチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルエチルベンゼン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、ジフェニルエチレン等が挙げられる。これらの中でも、工業的入手の容易さの観点から、スチレンが好ましい。これらは1種単独又は2種以上を併用してもよい。 【0046】 ジエン系共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよく、また、共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物以外の化合物を共重合してもよい。 【0047】 また、前記共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合することによって得られる共役ジエン系共重合体は、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物のモル比が、共役ジエン化合物/芳香族ビニル化合=10?90モル%/90?10モル%であることが好ましい。 【0048】 このような共役ジエン系(共)重合体としては、具体的には、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、ブタジエン-イソプレン-スチレンランダム共重合体、イソプレン-スチレンランダム共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体(SIS)、ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-ブタジエンブロック共重合体(SEBS)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)等を挙げることができ、これらを1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、イソプレン-スチレン共重合体が好ましい。また、これらの水添物も好適に用いることができる。 【0049】 また、前記共役ジエン系(共)重合体の他にも、イソブチレン(IB)等も用いることができる。前記ゴム系ポリマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。 【0050】 本発明で用いるゴム系ポリマーは、前記共役ジエン系(共)重合体をベースポリマーとして含むものであることが好ましく、ゴム系ポリマー全体中に、前記共役ジエン系(共)重合体を50重量%以上含むことが好ましく、70重量%以上含むことが好ましく、80重量%以上含むことがより好ましく、90重量%以上含むことがより好ましい。また、上限値は特に限定されるものではなく、100重量%(すなわち、共役ジエン系(共)重合体のみからなるゴム系ポリマー)であってもよい。 【0051】 また、粘着剤性組成物は、前記ゴム系ポリマーをベースポリマーとして含むものであり、ゴム系ポリマーの添加量は、粘着剤組成物中、40重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましく、60重量%以上であることがさらに好ましい。また、上限値としては特に限定されないが、粘着剤組成物中、90重量%以下であることが好ましい。 【0052】 また、粘着剤組成物は、前記ゴム系ポリマーのほかに、架橋剤(例えば、ポリイソシアネート、アルキルエーテル化メラミン化合物など)、粘着付与剤(例えば、ロジン誘導体樹脂、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、油溶性フェノール樹脂、ビニルトルエン樹脂など)、可塑剤、充填剤、老化防止剤などの適宜な添加剤を含んでいてもよい。これらの添加量は、粘着剤組成物中、60重量%以下であることが好ましく、50重量%以下であることがより好ましく、40重量%以下であることがさらに好ましい。」 (エ)「【0070】 上記静電容量方式タッチパネル6は、本発明の透明導電性フィルム用粘着剤層1が用いられているので、耐皮脂性、耐加湿白濁性が高く、厚さを薄くすることができ、動作の安定性に優れる。また、外観や視認性が良好である。」 (オ)「【実施例】 【0072】 以下に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各例中の部、及び%はいずれも重量基準である。実施例等における評価項目は下記のようにして測定を行った。 【0073】 実施例1 イソプレンゴム系粘着剤(SKダイン2563、綜研化学(株)製)を、片面をシリコーンで剥離処理した厚み38μmのポリエステルフィルム(商品名:ダイアホイルMRF、三菱樹脂(株)製)の剥離処理面に、最終的な厚みが100μmになるように塗布して塗布層を形成した。次いで、塗布層を85℃で5分乾燥させて、ゴム系粘着剤層を形成し、粘着シートを作製した。また、粘着シートの粘着面には、前記片面をシリコーンで剥離処理した厚み38μmのポリエステルフィルム(商品名:ダイアホイルMRF、三菱樹脂(株)製)を、剥離処理面前記と粘着剤層が接するように貼り合せた。粘着剤層の両面に被覆されたポリエステルフィルムは、剥離ライナーとして機能する。」 (カ)「【0082】 上記実施例、及び比較例で得られた、粘着シート(サンプル)について以下の評価を行った。 【0083】 <水分率> 実施例、及び比較例で得られた、粘着シートから10cm^(2)(5cm×2cm)切り出し、両側セパレーターを付けたまま加温加湿室(60℃、95%R.H.)に120時間投入した。加温加湿室から取り出してセパレーターを剥がしてアルミ箔にはりつけて秤量(W1(μg))し、これを試験片とした。アルミ箔の重量は、粘着シートに貼付する前に予め測定しておいた(W2(μg))。 次いで、上記試験片を、下記の加熱気化装置に入れ、150℃で加熱した時に発生したガスを、下記の電量滴定式水分測定装置の滴定セル内に導入し、上記ガス中の水分量(μg)を測定して、60℃、95%R.H.の環境下に120時間保存後の粘着剤層中の水分量(W3(μg))を測定した。そして、下記式により60℃、95%R.H.の環境下で120時間保存した後の粘着剤層の水分率(重量%)を算出した。なお、測定回数(n数)は2回とし、平均値を算出した。 【0084】 【数1】 【0085】 (分析装置) 電量滴定式水分測定装置:(株)三菱化学アナリテック製、CA-200型 加熱気化装置:(株)三菱化学アナリテック製、VA-200型 (測定条件) 方法:加熱気化法/150℃加熱 陽極液:アクアミクロンAKK 陰極液:アクアミクロンCXU 【0086】 <耐皮脂性> (皮脂液の調整) トリグリセリド(商品名:Lexol GT-865、INOLEX製)41重量部、イソステアリン酸(和光純薬工業(株)製)16.4重量部、スクアラン(和光純薬工業(株)製)12重量部を均一に混合し、皮脂液を作製した。 【0087】 (皮脂膨潤度の測定) 実施例、及び比較例で得られた粘着シートを3cm×3cmに切りだし、片方のシリコーン処理を施したPETフィルムを剥離して、粘着面を100μmのPETフィルムの片面にハンドローラーで貼り付けた後、他方のシリコーン処理を施したPETフィルムを剥離して、粘着剤面をアルカリガラスの片面に貼り付けて試験片を得た(100μmのPETフィルム/粘着剤層/アルカリガラス)。得られた試験片を、調製された皮脂液に、50℃、95%R.H.の条件下120時間浸漬させ、膨潤後の面積(cm2)を測定した。 【0088】 【数2】 【0089】 皮脂膨潤度は、以下の基準により評価した。 ◎:皮脂膨潤度が1.1未満(耐皮脂性が極めて良好) ○:皮脂膨潤度が1.1以上1.2未満(耐皮脂性が良好) ×:皮脂膨潤度が1.2以上(耐皮脂性が不良) 【0090】 <耐加湿白濁性> 透明導電性フィルム(HC(クリアハードコート)層/PET層(PET基材層)/ITO層の層構成を有するフィルム)を140℃の温度環境下に90分放置してITO層を結晶化させた。 【0091】 粘着シートの一方のシリコーン処理を施したPETフィルムを剥離し、粘着面に、前記透明導電性フィルムのHC層面が接するように貼り合わせた。そして、得られた積層構造体(シリコーン処理を施したPETフィルム/粘着剤層/透明導電性フィルム)から、シリコーン処理を施したPETフィルムを剥離し、粘着面とガラス(商品名:MICRO SLIDE GLASS、品番:S-1111、松浪硝子(株)製)とを貼り合わせて、試験片とした。該試験片の概略断面図は、図3に示すように、ITO層11/PET基材層12/HC層13/粘着剤層1/ガラス14からなる。 【0092】 上記試験片のヘイズを、23℃、50%R.H.の環境下において、ヘイズメーター(商品名:HM-150、(株)村上色彩技術研究所製)を用いて測定した。そして、ヘイズ(初期ヘイズ)が2.0%以下であることを確認した。 【0093】 次いで、上記試験片を60℃、95%R.H.の環境下(湿熱環境下)に500時間保存した後、23℃、50%R.H.の環境下に取り出し、取り出し直後の試験片のヘイズを、上記と同様に測定し、下記基準で評価した。 ◎:取り出し直後の試験片のヘイズが2.0%未満(極めて良好) ○:取り出し直後の試験片のヘイズが2.0%以上5.0%未満(良好) ×:取り出し直後の試験片のヘイズが5.0%以上(不良) 【0094】 <誘電率> 粘着剤層(粘着シートからシリコーン処理を施したPETフィルムを剥離したもの)を、銅箔と電極の間に挟み以下の装置により周波数100kHzにおける比誘電率を測定した。測定は3サンプルを作製し、それらの3サンプルの測定値の平均を誘電率とした。なお、粘着剤層の周波数100kHzでの比誘電率は、JIS K 6911に準じて、下記条件で測定した。 測定方法:容量法(装置:Agilent Technologies E4980A Precision LCR Meter使用) 電極構成:12.1mmΦ、0.5mm厚みのアルミ板 対向電極:3oz 銅板 測定環境:23℃、55%R.H. 測定環境(加湿条件):60℃、95%R.H.に、測定治具に粘着剤を固定した状態で30分放置し、30分後の誘電率を測定 【表1】 」 エ 判断 (ア)「透明導電性フィルム用粘着剤層」について、本願明細書の【0039】(ウ(ウ))によれば、「60℃、95%R.H.の環境下に120時間保存した後の水分率は、1.0重量%以下であ」れば、加湿条件下による比誘電率変化を抑制することができることが理解できる。 (イ)同【0041】(ウ(ウ))によれば、「粘着剤層(厚さ:100μm)を、60℃、95%R.H.の環境下に500時間保存して、23℃、50%R.H.の環境下に取り出した直後のヘイズ値が、5%未満であ」れば、耐加湿白濁性が向上することが理解できる。 なお、本願発明1は「ヘイズ値」についても規定するものであるが、その測定条件については何ら特定されていない。 (ウ)しかしながら、耐皮脂性については、同【0070】(ウ(エ))に「上記静電容量方式タッチパネル6は、本発明の透明導電性フィルム用粘着剤層1が用いられているので、耐皮脂性、耐加湿白濁性が高く、厚さを薄くすることができ、動作の安定性に優れる。」と記載されるにとどまり、本願発明1のどのような発明特定事項によって、耐皮脂性が向上したものとなるかについての記載(透明導電性フィルム用粘着剤層の組成・特性と耐皮脂性向上との因果関係を理解するに足りる記載)は、発明の詳細な説明には見出せない。 (エ)また、本願発明1に係る「透明導電性フィルム用粘着剤層」において、「耐皮脂性、耐加湿白濁性が高く、かつ加湿条件下における誘電率変化を抑制することができる、透明導電性フィルム用粘着剤層」であることが、具体的に確認されたものは、同【0094】(ウ(カ))の【表1】の「実施例1」に示された粘着シートのみであるところ、該「実施例1」において、耐皮脂性が極めて良好となっている要因については、当該「実施例1」の接着剤層の組成・特性などから看取できないし、比較例1-3の接着剤層の組成・特性などと比較しても、当該要因は伺い知ることはできない。 加えて、該「実施例1」に示された該粘着シートにおいて使用されている接着剤層は、同【0073】(ウ(オ))によれば、「イソプレンゴム系粘着剤(SKダイン2563、綜研化学(株)製)」から形成されたものであるところ、「イソプレンゴム系粘着剤(SKダイン2563、綜研化学(株)製)」の成分や各成分の量は当業者にとって明らかではないことから、これらを併せ考えると、該「実施例1」に関する記載を参照しても、本願発明1のどのような発明特定事項によって、耐皮脂性が向上するかどうか(透明導電性フィルム用粘着剤層の組成・特性と耐皮脂性向上との因果関係)は、不明といわざる得ない。 (オ)以上のことから、発明の詳細な説明の記載は、これに接した当業者において、本願発明1のどのような発明特定事項によって、耐皮脂性が向上したものとなるか(透明導電性フィルム用粘着剤層の組成・特性と耐皮脂性向上との因果関係)について理解することができず、本願発明1の発明特定事項を具備しさえすれば、「耐皮脂性、耐加湿白濁性が高く、かつ加湿条件下における誘電率変化を抑制することができる、透明導電性フィルム用粘着剤層を提供すること」という本願発明1の課題、なかでも耐皮脂性に関する課題が解決できることを認識できるように記載されているとはいえない。 また、上記因果関係が出願時の技術常識であると認めるに足りる事実も見当たらない。 (カ)よって、本願発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいうことはできず、本願の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (2)実施可能要件(特許法第36条第4項第1号に規定する要件)について ア 上述したように、本願の明細書に記載された「実施例1」の「ゴム系粘着剤層」は、「イソプレンゴム系粘着剤(SKダイン2563、綜研化学(株)製)」から形成されたものであるところ、「イソプレンゴム系粘着剤(SKダイン2563、綜研化学(株)製)」に「イソプレン系ポリマー」が50重量%以上含まれるかどうかは明らかではないばかりではなく、その他の成分やその量も当業者にとって明らかではない。 イ そうすると、「イソプレンゴム系粘着剤(SKダイン2563、綜研化学(株)製)」に、「イソプレン系ポリマー」が50重量%以上含まれない場合、発明の詳細な説明には、本願発明1に関する具体的な実施例が記載されていないことになり、また、「イソプレンゴム系粘着剤(SKダイン2563、綜研化学(株)製)」に、「イソプレン系ポリマー」が50重量%以上含まれる場合であっても、「イソプレンゴム系粘着剤」に含まれる他の成分の種類や量が異なれば、「23℃、55%R.H.環境下の周波数100kHzの比誘電率」、「60℃、95%R.H.の環境下に120時間保存した後の水分率」、「ヘイズ」といった特性が異なるものとなると考えるのが合理的であるから、いずれにしても、発明の詳細な説明の実施例は、本願発明1が規定する特性をどのような成分をどの程度含ませることによって調整するのかについての指針とはなり得ない。また、発明の詳細な説明の実施例以外の記載をみても、当該指針となり得るような記載は見当たらない。そのため、発明の詳細な説明の記載に基づき、本願発明1が規定する特性を満足する粘着剤層を製造することは、当業者に過度の試行錯誤を要求するものといえる。 ウ したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものであるとは認められず、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 5.むすび 以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の請求項1の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願発明1について、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-10-10 |
結審通知日 | 2018-10-11 |
審決日 | 2018-10-23 |
出願番号 | 特願2013-246501(P2013-246501) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(C09J)
P 1 8・ 537- WZ (C09J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松原 宜史 |
特許庁審判長 |
日比野 隆治 |
特許庁審判官 |
川端 修 天野 宏樹 |
発明の名称 | 透明導電性フィルム用粘着剤層、粘着剤層付き透明導電性フィルム、及びタッチパネル |
代理人 | 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所 |