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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1347031
審判番号 不服2017-16116  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-31 
確定日 2018-12-05 
事件の表示 特願2014-545446「心エコー検査のための自動的な画像化平面選択」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月20日国際公開、WO2013/088326、平成27年 1月 5日国内公表、特表2015-500083〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)12月10日(パリ条約による優先権主張 2011年12月12日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年11月24日付けで拒絶理由が通知され、平成29年2月23日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年3月21日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年6月23日付けで意見書が提出され、同年6月29日付けで拒絶査定されたところ、同年10月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成29年10月31日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年10月31日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)

「 【請求項1】
第1のビーム密度で解剖学的構造要素の3次元ライブボリューム画像化によるボリュームデータを受け取り、
解剖学的構造認識を行い、3次元解剖学的構造モデルに予め符号化されている解剖学的目印情報が前記3次元ライブボリューム画像化によるボリュームデータ中のそれぞれの位置に関連付けられるように、前記ボリュームデータに3次元解剖学的構造モデルを適合させ、
自動的に、かつユーザ介入の必要なく、適合された3次元モデルを用いて、第2のビーム密度でライブ部分画像化をする、前記解剖学的構造要素の1又は複数の部分を選択し、前記第2のビーム密度は前記第1のビーム密度より高く、
自動的に、かつユーザ介入の必要なく、前記第2のビーム密度で前記選択された部分のライブ部分画像化を開始し、
自動的に、かつユーザ介入の必要なく、前記選択された部分のライブ部分画像化を選択的に中断して、前記第1のビーム密度で前記解剖学的構造要素の前記ライブボリューム画像化を再実行し、
前記再実行されたライブボリューム画像化により更新されたボリュームデータを受け取り、
解剖学的構造認識を行って前記更新されたボリュームデータに前記3次元解剖学的構造モデルを適合させ、
自動的に、かつユーザ介入の必要なく、前記第2のビーム密度で前記選択された部分のライブ部分画像化を再度開始するように構成された画像処理装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年2月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「 【請求項1】
第1のビーム密度で解剖学的構造要素の3次元ライブボリューム画像化によるボリュームデータを受け取り、
解剖学的構造認識を行い、前記ボリュームデータに3次元解剖学的構造モデルを適合させ、
自動的に、かつユーザ介入の必要なく、適合された3次元モデルを用いて、第2のビーム密度でライブ部分画像化をする、前記解剖学的構造要素の1又は複数の部分を選択し、前記第2のビーム密度は前記第1のビーム密度より高く、
自動的に、かつユーザ介入の必要なく、前記第2のビーム密度で前記選択された部分のライブ部分画像化を開始し、
自動的に、かつユーザ介入の必要なく、前記選択された部分のライブ部分画像化を選択的に中断して、前記第1のビーム密度で前記解剖学的構造要素の前記ライブボリューム画像化を再実行し、
前記再実行されたライブボリューム画像化により更新されたボリュームデータを受け取り、
解剖学的構造認識を行って前記更新されたボリュームデータに前記3次元解剖学的構造モデルを適合させ、
自動的に、かつユーザ介入の必要なく、前記第2のビーム密度で前記選択された部分のライブ部分画像化を再度開始するように構成された画像処理装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記ボリュームデータに3次元解剖学的構造モデルを適合させ」ることについて、「3次元解剖学的構造モデルに予め符号化されている解剖学的目印情報が前記3次元ライブボリューム画像化によるボリュームデータ中のそれぞれの位置に関連付けられるように」するとの限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特表2006-507883号公報(公表日:平成18年3月9日。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付した。以下、同様。)

(引1a)「【0019】
本発明は、ターゲット体積32をまず流れ領域及び非流れ領域へセグメント化することにより、スペクトル・ドップラ及びカラーフロー・ドップラを含む超音波モダリティの使用を容易とする。これを達成するために、超音波システム10は、調査システム12、セグメンテーション・システム18、及び1つ又はそれ以上のアプリケーション20を具備する。超音波システム10は、撮像獲得システム11を用いて画像32から超音波データを獲得する。撮像獲得システム11は、1つ又はそれ以上のトランスデューサ、関連するハードウエア、ソフトウエア、入力装置、モニタ等の超音波データを収集及び処理するための従来技術で公知の任意の機構を含みうる。更に、超音波システムは出力34を形成しうる。出力34は、例えば、リアルタイムで見られ得る画像のストリーム、走査された画像を医師が遡及的に調べることを可能とする等の、画像データを格納する電子/ディジタルファイルを含みうる。画像は、2次元スライス(即ちフレーム)又は3次元体積として収集及び/又は処理されえ、本願に記載の概念は両方に適用可能である。
【0020】
上述のように、しばしば、走査されているターゲット体積32は1つ又はそれ以上の特定の関心領域33、例えば、心臓内の僧帽弁、大動脈の壁、幾つかの他の重要な血管分布像、点等を有することとなる。しかしながら、上述の制限が与えられていると、カラーフロー・ドップラ又はスペクトル・ドップラといった撮像技術を用いて体積全体32を走査するのは実際的ではない。関心領域33は、一般的には幾らかの動き又は流れを含むため、本発明は、自動的に流れ領域を非流れ領域からセグメンテーションする。領域は、3次元パイ・スライス、立方体、任意の形状、及び形状の集合等を含むが、これらに限られるものではない。流れ領域がいったん識別されると、流れ撮像技術は、関心領域に制限的に適用されうる。
【0021】
上述のことを実現するために、本発明の超音波システム10は、動きデータを収集するために体積を「調べる(survey)」調査システム12を含む。調査システム12は、関心領域33、即ち動き又は流れを示すのを支援しうる任意の種類の「調査」データを収集するよう実施されうる。識別されると、セグメンテーション・システム18は、流れ領域22を非流れ領域24から線引きする動きマップ20中に情報を格納するよう実施されうる。この情報は、以下更に詳述するように、1つ又はそれ以上のアプリケーション25によって使用されうる。本発明は、一般的には、動き又は流れを識別することに関して説明されるが、本発明は更に、動き又は流れがないことを検出するために実施されてもよく、かかる実施例は本発明の範囲内にあると考えられる。」

(引1b)「【0023】
これを克服するために、本発明はまず、画像を流れ領域及び非流れ領域へセグメンテーションし、次に、流れ撮像の使用を流れ領域、即ち関心領域へ制限する。図1に示す超音波システム10を用いて、調査システム12はまず、動き又は流れを示すのを支援するよう「動き」データを収集するために適用される。動きを示す任意の種類のデータが収集されうることが認識されるべきである。1つの典型的な実施例では、幾らかの所定の時間間隔、例えばn番目のフレーム毎に、体積全体32からカラーフローデータを収集するカラーフロー・ドップラ・サンプル化システム14が与えられる。他の典型的な実施例では、その回りで又はそれを通って流れ又は動きが典型的である特徴(例えば僧帽弁)を識別するために輪郭分析システム16が実施されうる。個々に参照として組み入れる米国特許第6,447,453号明細書は、かかるシステムを開示する。この場合、動きデータは、画像内の1つ又はそれ以上の識別された輪郭又はパターンを有しうる。
【0024】
いったん収集されると、動きデータは、体積32内のどの領域が流れを含むかを特に識別するようセグメンテーション・システム18によって分析される。流れの存在は、任意の公知の方法で識別されうる。例えば、従来のカラーフロー技術は、画像内の速度を決定するのに使用されえ、流れ領域を非流れ領域から分離する速度閾値が定められ得る。或いは、流れを識別するために画像信号のパワーが解析されえ、流れ領域を非流れ領域から分離するパワー閾値が定められ得る。更に、輪郭分析システム16の場合、セグメンテーション・システム18はパターン認識システムを含みうる。従って、ある識別された輪郭は、流れに関連するものとして認識されえ、他の輪郭は非流れに関連するものに関連するものとして認識されうる。
【0025】
セグメンテーション・システム18は、流れ領域22及び非流れ領域24を示す2次元フレーム又は3次元体積の形の動きマップ20を生成しうる。この動きマップ20は、様々なアプリケーション25によって使用されうる。この典型的なアプリケーションでは、動きマップは、流れの撮像を体積32内の識別された関心領域33に制限するよう、流れ撮像獲得システム26によって使用されうる。画像の非流れ部分は、標準グレースケール撮像で走査されうる。
【0026】
1つの典型的な実施例では、流れ獲得システム26は、画像獲得システム11に、画像32内の関心領域33に対してのみカラーフロー・ドップラ走査を用い、非流れ領域に対してグレースケールを使用するよう画像獲得システム11に伝える。制御システム27は、例えば、カラーフローデータに基づいて焦点ゾーン位置を自動的に設定するシステム、並びに、高い密度のデータの集合を関心領域33に制限するようカラーデータ内のピーク動き信号の位置に基づいて画像の奥行きを自動的に設定するシステムを有する。この実施例では、カラーフロードップラ走査を参照して説明したが、例えばカラー、B-FLOW、パワー動き撮像、組織ドップラ撮像、パルス波、連続波等の任意の撮像技術が使用されうる。流れデータ収集は、比較的小さい関心領域33に限られているため、当該の測定の領域に対するリアルタイム2次元又は3次元カラー撮像は有効に達成されうる(即ち、適切な獲得レートが維持されうる)。」

(引1c)「【0030】
制御システム27はまた、調査システム18が、撮像されているものの動き、トランスデューサの動き等を考慮に入れるために連続モードで画像を自動的に再調査することを可能とする追跡システムを含みうる。即ち、流れ領域及び非流れ領域の正しい追跡を確実とするよう、例えばn番目のフレーム毎に、リアルタイム調整がなされうる。或いは、いつ動きデータが収集されるべきであるかを技術者が手動で決定することを可能とするよう、1ボタン・プッシュ・システムが使用されうる。」(当審注:「調査システム18」は「調査システム12」の明らかな間違いであると認められる。)

(イ)引用文献1に記載された発明
上記(引1a)?(引1c)より、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「調査システム12、セグメンテーション・システム18、及び1つ又はそれ以上のアプリケーション20を具備し、撮像獲得システム11を用いて画像32から超音波データを獲得する超音波システム10において
超音波システム10は出力34を形成し、出力34は、リアルタイムで見られ得る画像のストリームの、画像データを格納する電子/ディジタルファイルを含み、画像は、3次元体積として収集され
走査されているターゲット体積32が有する、1つ又はそれ以上の特定の関心領域33は、心臓内の僧帽弁、大動脈の壁、幾つかの他の重要な血管分布像であり、
調査システム12は、動きデータを収集するために体積を調べるものであり、関心領域33、即ち動き又は流れを示すのを支援しうる任意の種類の「調査」データを収集するよう実施し、
セグメンテーション・システム18は、流れ領域22を非流れ領域24から線引きする動きマップ20中に情報を格納するよう実施し、
調査システム12は、
n番目のフレーム毎に、体積全体32からカラーフローデータを収集するカラーフロー・ドップラ・サンプル化システム14と、
流れ又は動きが典型的である特徴(例えば僧帽弁)を識別する輪郭分析システム16とを有し、
動きデータは、画像内の1つ又はそれ以上の識別された輪郭又はパターンを有し、体積32内のどの領域が流れを含むかを特に識別するようセグメンテーション・システム18によって分析され、
セグメンテーション・システム18はパターン認識システムを含み、
識別された輪郭は、流れに関連するものとして認識され、
セグメンテーション・システム18は、流れ領域22及び非流れ領域24を示す3次元体積の形の動きマップ20を生成し、
動きマップ20は、流れの撮像を体積32内の識別された関心領域33に制限するよう、流れ撮像獲得システム26によって使用され、
流れ獲得システム26は、画像獲得システム11に、画像32内の関心領域33に対してのみカラーフロー・ドップラ走査を用いるよう伝え、
制御システム27は、高い密度のデータの集合を関心領域33に制限するようカラーデータ内のピーク動き信号の位置に基づいて画像の奥行きを自動的に設定するシステムを有し、
制御システム27は、調査システム12が、撮像されているものの動き、トランスデューサの動き等を考慮に入れるために連続モードで画像を自動的に再調査することを可能とする追跡システムを含み、
流れ領域及び非流れ領域の正しい追跡を確実とするよう、n番目のフレーム毎に、リアルタイム調整がなされる
超音波システム10」

(3)引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「超音波システム10」は、「撮像獲得システム11を用いて画像32から超音波データを獲得する」ものであるから、本件補正発明の「画像処理装置」に相当する。

イ 引用発明の「超音波システム10」の「走査されているターゲット体積32の、1つ又はそれ以上の特定の関心領域33は、心臓内の僧帽弁、大動脈の壁、幾つかの他の重要な血管分布像であ」る。
「ターゲット体積32」の「走査」は、あるビーム密度で行われていることは明らかである。また、引用発明の「走査されているターゲット体積32」は「心臓」を含み、「心臓」は、「解剖学的構造要素」である。そして、引用発明の「超音波システム10」の、「出力34」は、「リアルタイムで見られ得る画像のストリーム」であることから、「撮像獲得システム11を用いて」取得される「画像32」もリアルタイムのデータであることは明らかであり、「画像は、3次元体積として収集され」、「3次元体積として収集される」「画像」のデータは、「ボリュームデータ」であるといえる。
そうすると、引用発明の「画像32」は、本件補正発明の「解剖学的構造要素の3次元ライブボリューム画像化によるボリュームデータ」に相当し、引用発明の「超音波システム10」と、本件補正発明の「画像処理装置」とは、「第1のビーム密度で解剖学的構造要素の3次元ライブボリューム画像化によるボリュームデータを受け取」る点で共通する。

ウ 引用発明の「調査システム12は、動きデータを収集するために体積を調べるものであ」ることから、「動きデータ」は、「体積」を調べることにより収集されるものであり、「体積」は、上記「3次元体積」であるから、「動きデータ」は「3次元体積として収集される」「画像」のデータから得られるものである。そして、この「動きデータは、画像内の1つ又はそれ以上の識別された輪郭又はパターンを有し、体積32内のどの領域が流れを含むかを特に識別するようセグメンテーション・システム18によって分析され、セグメンテーション・システム18はパターン認識システムを含み、識別された輪郭は、流れに関連するものとして認識され」るから、「3次元体積として収集される」「画像」のデータから得られる「動きデータ」は、「画像内の1つ又はそれ以上の識別された輪郭又はパターンを有し」、「パターン認識システム」が、「動きデータ」の「輪郭又はパターン」から「流れに関連する」「輪郭」を識別しているといえる。そして、引用発明の「パターン認識システム」は、「3次元体積として収集される」「画像」のデータから得られた「動きデータ」に、何らかのモデルとなる輪郭又はパターンを適合することにより「流れに関連する」「輪郭」を認識するものであり、また、「3次元体積として収集される」「画像」のデータから得られた「動きデータ」は3次元であって、それに適合する何らかのモデルとなる輪郭又はパターンも3次元であることは明らかである。そうすると、この何らかのモデルとなる3次元の輪郭又はパターンと、本件補正発明の「3次元解剖学的構造モデル」とは、「何らかの3次元モデル」である点で共通している。
そうすると、引用発明の「超音波システム10」と、本件補正発明の「画像処理装置」とは、「前記ボリュームデータに何らかの3次元モデルを適合させ」る点で共通する。
また、引用発明の「調査システム12」は、「体積全体32からカラーフローデータを収集するカラーフロー・ドップラ・サンプル化システム14と、流れ又は動きが典型的である特徴(例えば僧帽弁)を識別する輪郭分析システム16とを有し」ており、上記イで検討したとおり「走査されているターゲット体積32」である「体積全体32」は、「解剖学的構造要素」であるから、「体積全体32から」「特徴(例えば僧帽弁)を識別する」ことは、本件補正発明の「解剖学的構造認識を行」うことに相当する。
そして、上記のとおり、「流れに関連する」「輪郭」が認識された後のデータは、「パターン認識システム」が、「動きデータ」に何らかのモデルとなる輪郭又はパターンを適合させたデータである。そして、例えば「体積全体32」が心臓である場合の「流れに関連する」「輪郭」が、僧帽弁であることから、「流れに関連する」「輪郭」が認識された後のデータは、「3次元モデル」であるといえる。
そうすると、引用発明の「流れに関連する」「輪郭」が認識された後のデータは、本件補正発明の「適合された3次元モデル」に相当する。

エ 引用発明の「流れ獲得システム26は」、「画像32内の関心領域33に対してのみカラーフロー・ドップラ走査を」行っており、この場合の「カラーフロー・ドップラ走査」は、あるビーム密度でライブ画像を取得していることは明らかである。そして、「関心領域33」は、「前記ボリュームデータに何らかの基準を適合させ」たものであるから、「流れ獲得システム26」は、「適合された基準を用いて」いるといえる。そうすると、引用発明の「流れ獲得システム26」が、「画像32内の関心領域33に対してのみカラーフロー・ドップラ走査を」行うことは、本件補正発明の「適合された3次元モデルを用いて、第2のビーム密度でライブ部分画像化をする」ことに相当する。

オ 引用発明は、「体積32内のどの領域が流れを含むか」を、「セグメンテーション・システム18」が「動きデータ」を用いて分析している。そして、「制御システム27は」、「カラーデータ内のピーク動き信号の位置に基づいて画像の奥行きを自動的に設定」していることから、「動きデータ」を用いた分析も自動で行われていることは明らかである。そうすると、「体積32内のどの領域が流れを含むか」の分析は、自動的に、かつユーザ介入の必要なく「動きデータ」を用いて行っているといえる。

引用発明の「関心領域33」は、「心臓内の僧帽弁、大動脈の壁、幾つかの他の重要な血管分布像であ」り、「セグメンテーション・システム18は、流れ領域22及び非流れ領域24を示す2次元フレーム又は3次元体積の形の動きマップ20を生成し、動きマップ20は、流れの撮像を体積32内の識別された関心領域33に制限するよう、流れ撮像獲得システム26によって使用され」ていることから、「動きマップ20」は、「体積32内」の「関心領域33」を識別している。そして、「関心領域33」は、「カラーフロー・ドップラ走査」されるものである。

引用発明の「制御システム27は、高い密度のデータの集合を関心領域33に制限するようカラーデータ内のピーク動き信号の位置に基づいて画像の奥行きを自動的に設定」していることから、「関心領域33に対してのみカラーフロー・ドップラ走査を」行う際のビーム密度は、「画像32」を取得する際のビーム密度より高いといえる。

上記エも考慮すると、引用発明の「超音波システム10」と、本件補正発明の「画像処理装置」とは、「自動的に、かつユーザ介入の必要なく、適合された3次元モデルを用いて、第2のビーム密度でライブ部分画像化をする、前記解剖学的構造要素の1又は複数の部分を選択し、前記第2のビーム密度は前記第1のビーム密度より高く、自動的に、かつユーザ介入の必要なく、前記第2のビーム密度で前記選択された部分のライブ部分画像化を開始」する点で共通する。

カ 引用発明の「制御システム27は、調査システム12が、撮像されているものの動き、トランスデューサの動き等を考慮に入れるために連続モードで画像を自動的に再調査することを可能とする追跡システムを含み」、そのために「流れ領域及び非流れ領域の正しい追跡を確実とするよう、n番目のフレーム毎に、リアルタイム調整がなされ」る、そして、「調査システム12は、n番目のフレーム毎に、体積全体32からカラーフローデータを収集」しているから、あるフレームで「体積全体32からカラーフローデータを収集」した後の「関心領域33に対してのみカラーフロー・ドップラ走査を」n-1フレーム分行い、その次のフレームで、「関心領域33に対してのみカラーフロー・ドップラ走査を」中断して、再度「体積全体32からカラーフローデータを収集」し、その後に、上記「調査システム12」が実施する「関心領域33」に関する調査を再度実行するものである。
また、「n番目のフレーム毎」に実行するということは、「自動的に、かつユーザ介入の必要なく」実行することである。
そうすると、引用発明の「超音波システム10」と、本件補正発明の「画像処理装置」とは、「自動的に、かつユーザ介入の必要なく、前記選択された部分のライブ部分画像化を選択的に中断して、前記第1のビーム密度で前記解剖学的構造要素の前記ライブボリューム画像化を再実行し、前記再実行されたライブボリューム画像化により更新されたボリュームデータを受け取り、解剖学的構造認識を行って前記更新されたボリュームデータに前記何らかの3次元モデルを適合させ、自動的に、かつユーザ介入の必要なく、前記第2のビーム密度で前記選択された部分のライブ部分画像化を再度開始する」点で共通する。

キ 以上ア?カより、本件補正発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、相違点1で相違する。

(一致点)
「 第1のビーム密度で解剖学的構造要素の3次元ライブボリューム画像化によるボリュームデータを受け取り、
解剖学的構造認識を行い、前記ボリュームデータに何らかの3次元モデルを適合させ、
自動的に、かつユーザ介入の必要なく、適合された3次元モデルを用いて、第2のビーム密度でライブ部分画像化をする、前記解剖学的構造要素の1又は複数の部分を選択し、前記第2のビーム密度は前記第1のビーム密度より高く、
自動的に、かつユーザ介入の必要なく、前記第2のビーム密度で前記選択された部分のライブ部分画像化を開始し、
自動的に、かつユーザ介入の必要なく、前記選択された部分のライブ部分画像化を選択的に中断して、前記第1のビーム密度で前記解剖学的構造要素の前記ライブボリューム画像化を再実行し、
前記再実行されたライブボリューム画像化により更新されたボリュームデータを受け取り、
解剖学的構造認識を行って前記更新されたボリュームデータに前記何らかの3次元モデルを適合させ、
自動的に、かつユーザ介入の必要なく、前記第2のビーム密度で前記選択された部分のライブ部分画像化を再度開始するように構成された画像処理装置。」

(相違点1)「前記ボリュームデータに」「適合させ」る「3次元モデル」が、本件補正発明は、「解剖学的構造モデル」であるのに対し、引用発明は「輪郭又はパターン」であり、「前記ボリュームデータに何らかの3次元モデルを適合させ」ることが、本件補正発明は、「3次元解剖学的構造モデルに予め符号化されている解剖学的目印情報が前記3次元ライブボリューム画像化によるボリュームデータ中のそれぞれの位置に関連付けられるように」適合させているのに対し、引用発明はそのような特定がない点

(4)判断
以下、相違点1について検討する。
例えば、本願明細書でも「第744号出願」(【0039】)として引用され、それに対応する特許出願として本願優先日前に既に公開されている特表2009-519740号公報(以下「公知文献」という。)に記載されているように、「3次元の解剖学的構造に符号化された特定のラベルの解剖学的情報が3次元ライブボリューム画像化によるボリュームデータの中のそれぞれの器官又は解剖学的構造の典型的な位置に関連づけられるように、3次元ライブボリューム画像化によるボリュームデータに3次元の解剖学的モデルを適合させる構成。」は本願前に公知のことである。
そして、引用発明においても、「特定の関心領域」である「心臓内の僧帽弁、大動脈の壁、いくつかの他の重要な血管」が、「3次元として収集される」「画像」においてどこの部分にあたるかを正確に把握しなければならないことから、「特徴(例えば僧帽弁)を識別する」「輪郭又はパターン」として、「解剖学的構造モデル」を使用することは当該技術分野において常套手段であり、その際、上記公知の技術に鑑みて、「3次元解剖学的構造モデルに予め符号化されている解剖学的目印情報が前記3次元ライブボリューム画像化によるボリュームデータ中のそれぞれの位置に関連付けられるように」することは、当業者が容易になしえたことである。

そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用文献1に記載された技術及び公知文献に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び公知文献に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年10月31日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年2月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由
1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(特許法29条1項3号)について
請求項1-8,13,15 / 引用文献等1
●理由2(特許法29条2項)について
請求項1-4,8-13,15 / 引用文献等1,3
請求項5-7,14 / 引用文献等1-3

引用文献1:特表2006-507883号公報
引用文献3:米国特許第6447453号明細書

3 引用文献
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

(2)引用文献3
ア 引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用された上記引用文献3(米国特許第6447453号明細書)には、以下の事項が記載されている。

(引3a)「A filter template defining the anticipated shape of the MMA is then cross correlated to the pixels in the MMA search area. While this template may be created from expert knowledge of the appearance of the MMA in other four-chamber images as used by Wilson et al. in their paper “Automated analysis of echocardiographic apical 4-chamber images,” Proc. of SPIE , August, 2000, the present inventors prefer to use a geometric corner template. While a right-angle corner template may be employed, in a constructed embodiment the present inventors use an octagon corner template 28 (the lower left corner of an octagon) as their search template for the MMA, as shown at the right side of FIG. 6 a . In practice, the octagon template is represented by the binary matrix shown at the left side of FIG. 6 a . The ABD processor performs template matching by cross correlating different sizes of this template with the pixel data in different translations and rotations until a maximum correlation coefficient above a predetermined threshold is found. To speed up the correlation process, the template matching may initially be performed on a reduced resolution form of the image, which highlights major structures and may be produced by decimating the original image resolution. When an initial match of the template is found, the resolution may be progressively restored to its original quality and the location of the MMA progressively refined by template matching at each resolution level.」(3欄62行?4欄20行、当審訳:「次に、MMAの予想される形状を定義したフィルタテンプレートがMMA検索領域内のピクセルに、相互に関連づけられる。このテンプレートは、Proc. of SPIE(2000年8月)の「心エコー心筋4室画像の自動解析」という論文においてWilsonらによって使用される他の4室画像におけるMMAの外観に関する専門的な知識から作成されても良いが、本発明者は幾何学的なコーナーテンプレートの方が良いと考えている。直角のコーナーテンプレートを使用することができるが、構築された実施例では、本発明者は図6aの右側に見られるようなMMAのためのそれらのサーチテンプレートとして八角形のコーナーテンプレート28(八角形の左下の角)を使用する。実際には八角形のテンプレートは、図6aの左側に見られるような二進数の行列によって表される。ABDプロセッサは、所定の閾値を上回る最大の相関係数が見つかるまで、このテンプレートの異なるサイズを、異なる平行移動及び回転のピクセルデータと相互相関させることによって、テンプレートマッチングを行う。相関プロセスの高速化のために、主要な構造を強調し、オリジナルの画像を崩すことによって作成される画像の縮小された解像度の形態でテンプレートマッチングを最初に実行することができる。テンプレートの最初の一致が見つかると、解像度は元の品質に徐々に復元され、MMAの位置は各解像度レベルでのテンプレートマッチングにより徐々に改善される。」)

(引3b)「FIGS. 15 a and 15 b illustrate the use of automated border detection in three dimensional imaging. The previous examples have shown how borders can be automatically drawn on two dimensional cardiac images. The technique described above is effective for defining the borders of three dimensional cardiac images also. If a three dimensional cardiac image is produced by acquiring a series of spatially adjacent 2D image planes of the heart, the ABD process described above can be performed on each component frame to define a series of boundaries which together define a surface of the heart such as the endocardial surface.」(13欄8-18行、当審訳:「図15a及び15bは、3次元画像の自動境界検出の使用を示している。前の例は、2次元の心臓画像にどのように境界を自動的に引くかを示している。上記技術は、3次元の心臓画像に境界を定義づけるのにも有効である。3次元の心臓画像が、心臓の一連の空間的に隣接した2D画像平面を取得することによって作成される場合、上記の ABD プロセスは、心内膜表面のような心臓の表面を共に明確にする一連の境界を定義にするために、それぞれの構成するフレーム上で行なわれることができる。」)

イ 引用文献3に記載された技術事項
(ア)上記(引3a)には、「MMAの予想される形状を定義したフィルタテンプレート」により、「MMA」(内僧帽弁)を認識する点が記載されている。
また、(引3b)には、「心内膜表面のような心臓の表面を共に明確にする一連の境界」を検出する「3次元の心臓画像」の「自動境界検出」に、「2次元の心臓画像にどのように境界を自動的に引くか」に関する「上記技術」である「MMAの予想される形状を定義したフィルタテンプレート」により、「MMA」(内僧帽弁)を認識する技術が有効である点が記載されている。
上記記載より、引用文献3には、「心内膜表面のような心臓の表面を共に明確にする一連の境界」の「予想される形状を定義したフィルタ」を「3次元の心臓画像」に適用することにより、「心内膜表面のような心臓の表面を共に明確にする一連の境界」を検出する技術が記載されているといえる。
そして、「MMAの予想される形状を定義したフィルタテンプレート」が、「4室画像におけるMMAの外観に関する専門的な知識から作成されても良い」ことから(引3a)、「心内膜表面のような心臓の表面を共に明確にする一連の境界」の「予想される形状を定義したフィルタ」は「3次元の心臓画像」における「心内膜表面のような心臓の表面」の「外観に関する専門的な知識から作成」することとなり、「3次元の心臓画像」における「心内膜表面のような心臓の表面」の「外観に関する専門的な知識」は、「3次元解剖学的モデル」であるといえる。
そうすると、引用文献3には、「心内膜表面のような心臓の表面を共に明確にする一連の境界を定義するために、3次元の心臓画像に3次元解剖学的モデルを適合させる点」が、記載されているといえる。

4 対比・判断
ア 本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「3次元解剖学的構造モデルに予め符号化されている解剖学的目印情報が前記3次元ライブボリューム画像化によるボリュームデータ中のそれぞれの位置に関連付けられるように」適合するという限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを比較すると、前記第2の[理由]2(3)で検討した一致点で一致し、以下の相違点2で相違する。

(相違点2)「前記ボリュームデータ」に適合させる「3次元モデル」が、本願発明は「解剖学的モデル」であるのに対し、引用発明は「輪郭又はパターン」である点。

イ 上記相違点2について検討する。
上記3(2)で述べたとおり、引用文献3には、「心内膜表面のような心臓の表面を共に明確にする一連の境界を定義するために、3次元の心臓画像に3次元解剖学的モデルを適合させる点」が記載されていることから、引用文献3には、解剖学的モデルを使用して解剖学的構造を探索する点が記載されているといえる。そして、引用発明の「輪郭又はパターン」として引用文献3に記載された「解剖学的モデル」を適用し本願発明とすることは、当業者が容易に想到できたことであるから、本願発明は、引用発明及び引用文献3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本願発明の奏する作用効果は、引用文献1及び3に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-07-09 
結審通知日 2018-07-10 
審決日 2018-07-23 
出願番号 特願2014-545446(P2014-545446)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右▲高▼ 孝幸  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 渡戸 正義
福島 浩司
発明の名称 心エコー検査のための自動的な画像化平面選択  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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