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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1347049
審判番号 不服2017-12623  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-25 
確定日 2018-12-06 
事件の表示 特願2016-116168「ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 1日出願公開、特開2016-156031〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23年8月24日(優先権主張 平成22年8月25日)に出願された特許出願である特願2011-182761号の一部を新たな特許出願として平成28年6月10日に出願され、同年10月24日付けで拒絶理由が通知され、同年12月22日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成29年4月26日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年8月25日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年9月19日付けで前置報告がなされ、当審において平成30年5月30日付けで拒絶理由及び審尋が通知され、同年8月3日に意見書及び回答書とともに手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成30年8月3日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、充填剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、
該ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、充填剤を1重量部以上100重量部以下含有し、
前記ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム及びセシウムの合計の含有量が、金属量として1重量ppm以下であり、
前記ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物が、1重量ppm以上、700重量ppm以下であり、
前記ポリカーボネート樹脂中の下記式(3)で表される末端基の濃度が、20μeq/g以上100μeq/g以下の範囲であり、
該ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の波長350nmにおける光線透過率が60%以上あり、
該ポリカーボネート樹脂から成形された成形体(厚さ3mm)の波長320nmにおける光線透過率が30%以上であり、
該ポリカーボネート樹脂組成物が、長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含有し、その金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化4】


【化3】




第3 当審における拒絶理由の概要

当審において、平成30年5月30日付けで通知した拒絶理由は、
1 (明確性要件違反)この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2 (実施可能要件違反)この出願は、明細書の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
3 (サポート要件違反)この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
というものである。

第4 当審の判断

事案に鑑み、まず理由3(サポート要件違反)について検討する。

1 理由3(サポート要件違反)について

(1)特許法第36条第6項第1号について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(平成17年(行ケ)第10042号、「偏光フィルムの製造法」事件)。そこで、この点について、以下に検討する。

(2)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、以下のとおりの記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、耐光性、色相、耐熱性、熱安定性、機械的強度などに優れたポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、一般的にビスフェノール類をモノマー成分とし、透明性、耐熱性、機械的強度等の優位性を生かし、電気・電子部品、自動車用部品、医療用部品、建材、フィルム、シート、ボトル、光学記録媒体、レンズ等の分野でいわゆるエンジニアリングプラスチックスとして広く利用されている。
しかしながら、従来のポリカーボネート樹脂は、長時間紫外線や可視光に曝露される場所で使用すると、色相や透明性、機械的強度が悪化するため、屋外や照明装置の近傍での使用に制限があった。
【0003】
このような問題を解決するために、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤やベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾオキサジン系紫外線吸収剤をポリカーボネート樹脂に添加する方法が広く知られている(例えば非特許文献1)。
ところが、このような紫外線吸収剤を添加した場合、紫外線照射後の色相などの改良は認められるものの、そもそもの樹脂の色相や耐熱性、透明性の悪化を招いたり、また成型時に揮発して金型を汚染する等の問題があった。
【0004】
従来のポリカーボネート樹脂に使用されるビスフェノール化合物は、ベンゼン環構造を有するために紫外線吸収が大きく、このことがポリカーボネート樹脂の耐光性悪化を招くため、分子骨格中にベンゼン環構造を持たない脂肪族ジヒドロキシ化合物や脂環式ジヒドロキシ化合物、イソソルビドのように分子内にエーテル結合を持つ環状ジヒドロキシ化合物モノマーユニットを使用すれば、原理的には耐光性が改良されることが期待される。中でも、バイオマス資源から得られるイソソルビドをモノマーとしたポリカーボネート樹脂は、耐熱性や機械的強度が優れていることから、近年数多くの検討がなされるようになってきた(例えば、特許文献1?6)。
【0005】
しかしながら、上記脂肪族ジヒドロキシ化合物や脂環式ジヒドロキシ化合物、イソソルビドのように分子内にエーテル結合を持つ環状ジヒドロキシ化合物はフェノール性水酸基を有しないため、ビスフェノールAを原料とするポリカーボネート樹脂の製法として広く知られている界面法で重合させることは困難であり、通常、エステル交換法または溶融法と呼ばれる方法で製造される。この方法では、上記ジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸ジエステルとを塩基性触媒の存在下、200℃以上の高温でエステル交換させ、副生するフェノール等を系外に取り除くことにより重合を進行させ、ポリカーボネート樹脂を得る。ところが、上記のようなフェノール性水酸基を有しないモノマーを用いて得られるポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA等のフェノール性水酸基を有するモノマーを用いて得られたポリカーボネート樹脂に比べ熱安定性に劣っているために、高温にさらされる重合中や成形中に着色が起こり、結果的には紫外線や可視光を吸収して耐光性の悪化を招くという問題があった。中でも、イソソルビドのように分子内にエーテル結合を有するモノマーを用いた場合は色相悪化が著しく、明度の改良についてはより解決するのが困難であった。更に、種々成形品として使用する場合には高温で溶融成形されるが、その時にも熱安定性がよく、成形性、離型性に優れた材料が求められていた。また、ポリカーボネート樹脂の剛性、寸法安定性、熱変形温度などの向上のために充填剤を用いる方法が知られている。しかしながら、一般的に充填剤を混合する前のポリカーボネート樹脂の色相が悪い場合は、充填剤を混合した後の色相が更に悪化してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第04/111106号パンフレット
【特許文献2】特開2006-232897号公報
【特許文献3】特開2006-28441号公報
【特許文献4】特開2008-24919号公報
【特許文献5】特開2009-91404号公報
【特許文献6】特開2009-91417号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ポリカーボネート樹脂ハンドブック(1992年8月28日 日刊工業新聞社発行 本間精一編)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
更に、本発明者らは、充填剤を配合したポリカーボネート樹脂組成物は、その耐光性を高める必要があるとの課題があることを見出した。
本発明の目的は、上記従来の問題点を解消し、色相、耐熱性、熱安定性、機械的強度などに優れ、しかも耐光性に優れたポリカーボネート樹脂組成物及びその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するべく、鋭意検討を重ねた結果、分子内に下記式(1)で表される構造を含むポリカーボネート樹脂と特定量の充填剤とを含んでなるポリカーボネート樹脂組成物であり、かつ前記ポリカーボネート樹脂の触媒として特定の金属を特定量で含むポリカーボネート樹脂組成物が、優れた耐光性を有するだけでなく、優れた色相、耐熱性、熱安定性、機械的強度などを有することを見出し、本発明に到達した。」

イ 「【0022】
1.ポリカーボネート樹脂組成物
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と、充填剤とを含むポリカーボネート樹脂組成物であって、該ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、充填剤を1重量部以上100重量部以下含有し、かつ、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を前記ポリカーボネート樹脂の触媒として含有するものであり、しかもその触媒として含有する金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下であることを特徴とする。
【0023】
【化5】


【0024】
(但し、上記式(1)で表される部位が-CH_(2)-O-Hを構成する部位である場合を除く。)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物におけるポリカーボネート樹脂、充填剤及びその配合量の詳細については後述するが、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を上記式(1)で表されるポリカーボネート樹脂の触媒として含有するものであり、しかもその触媒として含有する金属、即ち、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属を合計で20重量ppm以下含むものである。ポリカーボネート樹脂組成物中に含まれるリチウム及び長周期型周期表第2族の金属の合計の含有量は、ポリカーボネート樹脂組成物の耐光性を優れたものとするために少ないことが好ましく、より好ましくは10重量ppm以下、更に好ましくは5重量ppm以下である。
【0025】
但し、本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属は、ポリカーボネート樹脂製造に好ましく用いられる触媒に由来してポリカーボネート樹脂中に含まれるものであり、触媒として含まれる金属を工業的に系外に完全に除去することは困難であるため、その含有量の合計は、ポリカーボネート樹脂組成物に対する金属量として、通常、0.01重量ppm以上、好ましくは0.05重量ppm以上、より好ましくは0.1重量ppm以上である。
【0026】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれうる長周期型周期表第2族の金属とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムを指し、これらの長周期型周期表第2族の金属の中でも、ポリカーボネート樹脂組成物にマグネシウムまたはカルシウムが含まれていることが好ましく、カルシウムが含まれていることがより好ましい。
【0027】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、ナトリウム、カリウム及びセシウムから選ばれる金属も含まれうるが、ポリカーボネート樹脂組成物中のナトリウム、カリウム及びセシウムの合計の含有量が、ポリカーボネート樹脂組成物全体に対する金属量として1重量ppm以下であることが好ましい。ナトリウム、カリウム及びセシウムは原料のポリカーボネート樹脂の製造時に用いる触媒からのみではなく、ジヒドロキシ化合物等の原料や反応装置から混入する場合があるため、ポリカーボネート樹脂組成物を製造したときにおいてもこれらの化合物の合計量は、金属量として0.8重量ppm以下であることがより好ましく、0.7重量ppm以下であることが更に好ましい。ナトリウム、カリウム及びセシウムから選ばれる金属の合計の含有量が上記範囲であることで、ポリカーボネート樹脂組成物の耐光性を優れたものとする効果がある。
【0028】
ポリカーボネート樹脂組成物中の金属量は、従来公知の種々の方法により測定可能であるが、湿式灰化などの方法でポリカーボネート樹脂中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。」

ウ 「【0056】
<エステル交換反応触媒>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、上述のように本発明に用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換反応させてポリカーボネート樹脂を製造する。より詳細には、エステル交換させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。この場合、通常、エステル交換反応触媒存在下でエステル交換反応により重縮合を行う。
【0057】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂の製造時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、単に触媒、重合触媒と言うことがある)は、特に波長350nmにおける光線透過率や、イエローインデックス値に影響を与え得る。従って本発明において使用可能な触媒としては、耐光性を満足させ得る、即ち上記した波長350nmにおける光線透過率や、イエローインデックスを所定の値にし得るものであることが好ましく、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物が、本発明に用いるポリカーボネート樹脂の製造において必須に用いられる。
【0058】
触媒として使用されるリチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物と共に、補助的に、リチウム以外の長周期型周期表第1族の金属を含む化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物のみを使用することが特に好ましい。
【0059】
また、リチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物の形態としては通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩、フェノール塩といった塩の形態で用いられるが、入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩が好ましく、色相と重合活性の観点からは酢酸塩が好ましい。

【0062】
触媒として使用可能な長周期型周期表第2族の金属を含む化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム等のカルシウム化合物、水酸化バリウム、炭酸水素バリウム、炭酸バリウム、酢酸バリウム、ステアリン酸バリウム等のバリウム化合物、水酸化マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム等のマグネシウム化合物、水酸化ストロンチウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸ストロンチウム等のストロンチウム化合物等が挙げられ、中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色相の観点から、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物が更に好ましく、最も好ましくはカルシウム化合物である。

【0067】
上記の中でも、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の透明性、色相、耐光性を特に優れたものとするために、触媒が、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物であるのが好ましい。
【0068】
上記重合触媒の使用量は、通常、用いた全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1μmol?300μmol、好ましくは0.5μmol?100μmolであり、中でもリチウム及び長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を用いる場合、特にはマグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を用いる場合、用いた全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、金属量として、通常、0.1μmol以上、好ましくは0.5μmol以上、特に好ましくは0.7μmol以上とする。また上限としては、通常20μmol、好ましくは10μmol、さらに好ましくは3μmol、特に好ましくは1.5μmol、中でも1.0μmolが好適である。
【0069】
触媒量が少なすぎると、重合速度が遅くなるため結果的に所望の分子量のポリカーボネート樹脂を得ようとすると、重合温度を高くせざるを得なくなり、得られたポリカーボネート樹脂の色相や耐光性が悪化したり、未反応の原料が重合途中で揮発して本発明に用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が崩れ、所望の分子量に到達しない可能性がある。一方、重合触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネート樹脂の色相の悪化を招き、ポリカーボネート樹脂の耐光性が悪化する可能性がある。
【0070】
また、本発明に用いるポリカーボネート樹脂には、1族金属、中でもナトリウム、カリウム及びセシウムが、使用する触媒からのみではなく、ジヒドロキシ化合物等の原料や反応装置から混入する場合があるが、これらの金属がポリカーボネート樹脂中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性がありうるため、該金属は使用する触媒からのみではなく、原料や反応装置から混入する場合があるため、ポリカーボネート樹脂中のこれらの化合物の合計量は、少ないほうが好ましく、金属量として、通常1重量ppm以下、好ましくは0.8重量ppm以下、より好ましくは0.7重量ppm以下である。
【0071】
ポリカーボネート樹脂中の金属量は、従来公知の種々の方法により測定可能であるが、湿式灰化などの方法でポリカーボネート樹脂中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。尚、本発明においては、ポリカーボネート樹脂中の金属はすべてポリカーボネート樹脂組成物中に残っているものとみなすことができる。」

エ 「【0099】
3.充填剤
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、本発明のポリカーボネート樹脂100重量部に対して、充填剤を1重量部以上100重量部以下含有する。本明細書において、『充填剤』とは通常、充填剤と呼ばれるものであればいずれも含まれるが、前述した本発明のポリカーボネート樹脂の通常の溶融混練温度の範囲である、150℃?300℃の範囲において溶融しないものが好ましい。本発明のポリカーボネート樹脂組成物に配合できる充填剤としては、無機系充填剤及び有機系充填剤が挙げられるが、ポリカーボネート樹脂の剛性を高める観点から無機充填剤が好ましい。充填剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、1重量部以上100重量部以下である。充填剤の配合量は、好ましくは3重量部以上、より好ましくは5重量部以上、更に好ましくは7重量部以上であり、また、好ましくは50重量部以下、より好ましくは40重量部以下、更に好ましくは35重量部以下である。充填剤の配合量が過度に少ないと補強効果が低く、また、過度に多いと外観が悪くなる傾向がある。
【0100】
無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、シリカ、アルミナ、酸化チタン、硫酸カルシウム粉体、石膏、石膏ウィスカー、硫酸バリウム、タルク、マイカ、ワラストナイト等の珪酸カルシウム;カーボンブラック、グラファイト、鉄粉、銅粉、二硫化モリブデン、炭化ケイ素、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素、窒化ケイ素繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、チタン酸カリウム繊維、ウィスカー等が挙げられる。これらの中でも、ガラスの繊維状充填剤、ガラスの粉状充填剤、ガラスのフレーク状充填剤;各種ウィスカー、マイカ、タルクが好ましい。より好ましくは、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスミルドファイバー、ワラストナイト、マイカ、タルクが挙げられる。特に好ましくはガラス繊維及びタルクから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。以上に挙げた無機充填剤は1種のみで用いることもできるが、2種以上を組み合わせて用いることもできる。

【0124】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には本発明の目的を損なわない範囲で難燃剤を配合することができる。難燃剤の配合量は、難燃剤の種類や難燃性の程度に応じて適宜選択することが可能であるが、本発明においてはポリカーボネート100重量部に対し、難燃剤0重量部?30重量部である。
【0125】
難燃剤としては、例えば、燐含有化合物系難燃剤、ハロゲン含有化合物系難燃剤、スルホン酸金属塩系難燃剤、珪素含有化合物系難燃剤等が挙げられる。本実施の形態では、これらの群より選ばれた少なくとも1種を使用することができる。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0126】
燐含有化合物系難燃剤としては、例えば、燐酸エステル系化合物、ホスファゼン系化合物、赤燐、被覆された赤燐、ポリ燐酸塩系化合物等が挙げられる。燐含有化合物系難燃剤の配合量は、ポリカーボネート100重量部に対し、0重量部?20重量部である。配合量が過度に多いと耐熱性が低下しやすい。

【0129】
スルホン酸金属塩系難燃剤としては、例えば、脂肪族スルホン酸金属塩、芳香族スルホン酸金属塩、パーフルオロアルカン-スルホン酸金属塩等が挙げられる。これら金属塩の金属としては、好ましくは、周期表1族の金属、周期表2族の金属等が挙げられる。具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属;カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;ベリリウム、マグネシウムである。
【0130】
スルホン酸金属塩系難燃剤の中でも、難燃性と熱安定性の観点から、芳香族スルホンスルホン酸金属塩、パーフルオロアルカン-スルホン酸金属塩等が好ましい。芳香族スルホンスルホン酸金属塩としては、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ金属塩、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ土類金属塩が好ましい。これらは重合体であってもよい。芳香族スルホンスルホン酸金属塩の具体例としては、例えば、…4-クロロー4’-ニトロジフェニルスルホン-3-スルホン酸のカルシウム塩…等が挙げられる。
【0131】
パーフルオロアルカン-スルホン酸金属塩としては、パーフルオロアルカン-スルホン酸のアルカリ金属塩、パーフルオロアルカン-スルホン酸のアルカリ土類金属塩等が好ましい。さらに、炭素数4?8のパーフルオロアルカン基を有するスルホン酸アルカリ金属塩、炭素数4?8のパーフルオロアルカン基を有するスルホン酸アルカリ土類金属塩等がより好ましい。

【0133】
スルホン酸金属塩系難燃剤の配合量は、ポリカーボネート100重量部に対し、0?5重量部である。スルホン酸金属塩系難燃剤の配合量が過度に多いと熱安定性が低下しやすい。」

オ 「【実施例】

【0159】
4)ポリカーボネート樹脂中の金属濃度の測定及びポリカーボネート樹脂組成物中の金属含有量
パーキンエルマー社製マイクロウェーブ分解容器にポリカーボネート樹脂ペレット約0.5gを精秤し、97%硫酸2mLを加え、密閉状態にして230℃で10分間マイクロウェーブ加熱した。室温まで冷却後、68%硝酸1.5mLを加えて、密閉状態にして150℃で10分間マイクロウェーブ加熱した後、再度室温まで冷却を行い、68%硝酸2.5mLを加え、再び密閉状態にして230℃で10分間マイクロウェーブ加熱し、内容物を完全に分解させた。室温まで冷却後、上記で得られた液を純水で希釈し、サーモクエスト社製ICP-MSで定量した。
上記の測定により定量したポリ-ボネート樹脂中の金属濃度に基づき、ポリカーボネート樹脂組成物全体における金属含有量を算出した。算出方法は、まず各原料の分子量、触媒の式量、及び各原料と触媒のモル比率からポリカーボネート樹脂に対するカルシウムの重量部を求め、次にポリカーボネート樹脂組成物に対する重量部(重量ppm)を求めた。

【0167】
以下の実施例の記載の中で用いた化合物の略号は次の通りである。
ISB:イソソルビド (ロケット・フルーレ社製、商品名POLYSORB)
CHDM:1,4-シクロヘキサンジメタノール (新日本理化株式会社製、SKY CHDM)
DPC:ジフェニルカーボネート (三菱化学株式会社製)
(充填剤)
ガラス繊維:ECS03T5751(日本電気硝子株式会社製)
タルク:MICRON WHITE #5000S(林化成株式会社製)
(酸化防止剤)
イルガノックス(登録商標)1010:ペンタエリスリチル-テトラキス{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASFジャパン株式会社製)イルガフォス(登録商標)168:トリス(2,4-ジ-tertブチルフェニル)ホスファイト(BASFジャパン株式会社製)
(離型剤)
NAA-180:ステアリン酸(日本油脂株式会社製)
【0168】
[実施例1]
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置に、ISBとCHDM、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPCおよび酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.69/0.31/1.00/1.3×10-6になるように仕込み、十分に窒素置換した(酸素濃度0.0005体積%?0.001体積%)。続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始し、内温が100℃になるように制御しながら内容物を融解させ均一にした。その後、昇温を開始し、40分で内温を210℃にし、内温が210℃に到達した時点でこの温度を保持するように制御すると同時に、減圧を開始し、210℃に到達してから90分で13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を保持するようにしながら、さらに60分間保持した。重合反応とともに副生するフェノール蒸気は、還流冷却器への入口温度として100℃に制御された蒸気を冷媒として用いた還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の温水を冷媒として用いた凝縮器に導いて回収した。
【0169】
このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼および上記同様に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置に移し、昇温および減圧を開始して、60分で内温220℃、圧力200Paにした。その後、20分かけて内温228℃、圧力133Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で復圧し、重合反応装置出口より溶融状態のポリカーボネート樹脂を得た。
【0170】
更に3ベントおよび注水設備を供えた二軸押出機に連続的に前記溶融状態のポリカーボネート樹脂を供給し、該ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、酸化防止剤として「イルガノックス(登録商標)1010」及び「イルガフォス(登録商標)168」、離型剤として「NAA-180」を表?1に記載の所定の割合で連続的に添加するとともに、二軸押出機に具備された各ベント部にてフェノールなどの低分子量物を減圧脱揮したのち、ペレタイザーによりペレット化を行い、ペレット状のポリカーボネート樹脂を得た。
【0171】
ベントおよびサイドフィード設備を備えた二軸押出機に、得られたペレット状ポリカーボネート樹脂とガラス繊維を、ポリカーボネート樹脂100重量部に対してガラス繊維が表-1に記載の所定の割合となるようにフィードしてポリカーボネート樹脂組成物を得た。上記記載の評価方法により、各種物性等を評価した。得られた結果を表-1に示す。
【0172】
[実施例2、3]
実施例1の充填剤の割合と種類を変えた以外は、実施例1と同様に行った。
【0173】
[比較例1、2]
酢酸カルシウム1水和物の代わりに炭酸セシウムを用いた以外は、実施例1と同様に実施した(比較例1)。また、酢酸カルシウム1水和物の代わりに炭酸セシウムを用いた以外は、実施例3と同様に実施した(比較例2)。
実施例1?3、比較例1及び2の成分及び評価結果を表?1に示した。
なお、上記実施例および比較例の芳香族モノヒドロキシ化合物含有量については、そのほとんどが実質的にフェノールであった。
【0174】
【表1】




(3)特許請求の範囲の記載不備(特許法第36条第6項第1号)についての判断
ア 上記摘示(2)アの記載から、本願発明の課題は、「色相、耐熱性、熱安定性、機械的強度などに優れ、しかも耐光性に優れたポリカーボネート樹脂組成物」の提供であると認められる。

イ 本願発明において、「該ポリカーボネート樹脂組成物が、長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含有し、その金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下である」と特定されており、この長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属(以下、「2族金属」という。)量は、ポリカーボネート樹脂組成物「全体」に対しての、充填剤や難燃剤等に含まれる2族金属についても包含する「全」2族金属の含有量であると解される(平成30年8月3日に提出された意見書において、請求人もそのように主張している。)ことから、ポリカーボネート樹脂中に含有(残存)している2族金属量のみならず、充填剤などの配合量によって希釈変動するものであり、特に2族金属を含有する充填剤を配合した場合には、充填剤中に含有する分も付加され変動するものである。
そうすると、同じ2族金属量のポリカーボネート樹脂を使用したとしても、(2族金属含有量と関係のない)配合する充填剤の量の多少によって、ポリカーボネート樹脂組成物における当該特定事項を満足したり、満足しなかったりすることとなる。例えば、ポリカーボネート樹脂中に残存する2族金属含有量が40重量ppmであるポリカーボネート樹脂100重量部に対して充填剤を1重量部含有した樹脂組成物(以下、「樹脂組成物A」という。)と同じポリカーボネート樹脂100重量部に対して充填剤を100重量部含有した樹脂組成物(以下、「樹脂組成物B」という。)とを比較すると、樹脂組成物Aでは当該特定事項を満足しないものであるのに対し、樹脂組成物Bでは当該特定事項を満足するものとなる。
そして、本願原出願時の当業者の技術常識によれば、ポリカーボネート樹脂組成物の耐光性や色相などは、主に使用するポリカーボネート樹脂自体の耐光性や色相などに左右されるのであり、当該ポリカーボネート樹脂の耐光性や色相などは、主にポリカーボネート樹脂中に残存する金属含有量に依存するものであって、配合する(種類は問わずあらゆるものを包含する)充填剤(中に存在する金属)量に依存するものではないといえる(例えば、国際公開2001/092371号(9頁13?17行)、国際公開2001/072901号(8頁22?26行)、国際公開2008/143269号(10頁下から26?下から18行)、国際公開2007/148604号([0064]?[0073])、特開2007-31621号公報(【0018】?【0026】)及び特開2003-147186号公報(【0006】?【0007】)を参照のこと。)。
そうであれば、樹脂中に残存する2族金属含有量が同じであっても、配合する充填剤量の多少によって(例えば、樹脂組成物Aであるか、樹脂組成物Bであるかによって)、あるいは配合する充填剤の種類として2族金属を含有したりしなかったりすることによって、本願発明の課題が解決できたり、できなかったりするのは上記技術常識からみて不合理である。これは、2族金属がポリカーボネート樹脂組成物に含まれる「全」2族金属であり、かつ、当該2族金属含有量がポリカーボネート樹脂組成物「全体」に対しての値として特定されていることに起因するというべきである。
してみると、請求項1の記載は、本願発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているものではない。

ウ そもそも、発明の詳細な説明の記載について検討すると、以下のことがいえる。
(ア)上記摘示(2)イ及びウに鑑みれば、ポリカーボネート樹脂の製造時に使用するエステル交換反応触媒は、特に波長350nmにおける光線透過率や、イエローインデックス値に影響を与え得るものであって、当該触媒として、ナトリウム、カリウム及びセシウムから選ばれる金属の化合物に代えて、2族金属を含む化合物を必須に用いることにより、波長350nmにおける光線透過率や、イエローインデックス値という耐光性に優れたポリカーボネート樹脂となることが理解される。
このことは、上記摘示(2)オの実施例においては「酢酸カルシウム1水和物」をポリカーボネート樹脂の製造時に使用するエステル交換反応触媒として仕込んでいるのに対し、比較例においては当該触媒である「酢酸カルシウム1水和物」の代わりに「炭酸セシウム」を用いており、その結果イエローインデックス値などが劣ったポリカーボネート樹脂が得られていることからも裏付けられるものである。
(イ)そして、上記摘示(2)エのとおり、充填剤については、硫酸カルシウム粉体、石膏、石膏ウィスカー、硫酸バリウム、タルク、マイカ、ワラストナイト等の珪酸カルシウムなど2族金属を含有するものが列挙されているものの、充填剤の役割はあくまでも補強効果に止まると記載されるものであって、充填剤中の2族金属の含有量により、ポリカーボネート樹脂組成物の耐光性が影響を受けるとの記載は一切ないし、自明のことでもない。
同様に、上記摘示(2)エのとおり、難燃剤についても、スルホン酸金属塩系難燃剤として2族金属を含有するものが挙げられているものの、スルホン酸金属塩系難燃剤の役割はあくまでも難燃効果に止まると記載されるものであって、スルホン酸金属塩系難燃剤中の2族金属の含有量により、ポリカーボネート樹脂組成物の耐光性が影響を受けるとの記載は一切ないし、自明のことでもない。
(ウ)実際のところ、上記摘示(2)オのとおり、実施例3(平成30年8月3日付けの手続補正により参考例となった。)においては、ポリカーボネート樹脂100重量部に対してタルクを10重量部配合したポリカーボネート樹脂組成物は、タルクの化学式がMg_(3)Si_(4)O_(10)(OH)_(2)であることから、2族金属に相当するマグネシウムを含有することとなる結果、組成物中の全2族金属の含有量は20重量ppmを超えるものと認められるにも拘わらず、その耐光性が良好であることが記載されている。
(エ)また、上記摘示(2)オのとおり、各原料と触媒のモル比率からポリカーボネート樹脂に対するカルシウムの重量部を求め、次にポリカーボネート樹脂組成物に対する重量部(重量ppm)を求めたと記載されており、表1-1では、Ca含有量が実施例1と3で同じ0.27重量ppm(換算値)、実施例2で0.23重量ppm(換算値)と記載されている。これは、2族金属として、触媒に用いた「酢酸カルシウム1水和物」中のカルシウムのみを念頭に置き、充填剤のタルク中のマグネシウムについては全く考慮することなく、ポリカーボネート樹脂中のカルシウム濃度を測定した値をそのまま充填剤の配合量で希釈した値を記載したものであると理解される。
(オ)そうすると、上記(ア)?(エ)での検討により、発明の詳細な説明の記載に鑑みれば、2族金属とは、あくまでもポリカーボネート樹脂の製造時に使用するエステル交換反応触媒に由来するもののみを意味するものであって、他の充填剤や難燃剤等に含まれる2族金属については包含しないものであると明確に解されるものである。
そしてこのことは、上記(ア)?(エ)で述べたとおり、実施例など他の記載部分を併せ見ても、発明の詳細な説明の記載全般に亘って矛盾なく整合するものである。
(カ)すなわち、例えば、充填剤の量の多小によって、あるいは充填剤の種類(2族金属を含有するかどうか)によって、ポリカーボネート樹脂組成物中の2族金属の含有量が20ppm以下を満足したりしなかったりする結果、本願発明の課題が解決できたりできなかったりするなどとは発明の詳細な説明のどこにも記載されていないし、当業者が本願原出願時の技術常識に照らしたとしても本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。
これに対して、本願発明は、2族金属は、組成物中に存在する全ての2族金属を意味するものとして特定されているものである。すなわち、例えば、充填剤の量の多小によって、あるいは充填剤の種類(2族金属を含有するかどうか)によって、ポリカーボネート樹脂組成物中の2族金属の含有量が20ppm以下を満足したりしなかったりする結果、本願発明の課題が解決できたりできなかったりするものであるところ、上記のとおり、このような発明は、発明の詳細な説明には一切記載されていないし、当業者が本願原出願時の技術常識に照らしたとしても本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないから、本願発明は発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえないから、本願は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものである。

2 理由1(明確性要件違反)について
(1)本願発明の特定事項
ア 本願発明において、「該ポリカーボネート樹脂組成物が、長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含有し、その金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下である」と特定されているところ、当該請求項1の記載からすると、ポリカーボネート樹脂組成物が含有する2族金属としては、ポリカーボネート樹脂を製造するに際して添加した2族金属化合物重合触媒に由来する触媒残渣としてポリカーボネート樹脂中に含有(残存)している2族金属のみならず、例えば充填剤自体に含まれる2族金属や、充填剤に含まれる不純物に由来する2族金属をも包含するものと解され、当該2族金属は、重合触媒由来であろうと他の由来のものであろうと同じ2族金属である以上これらを区別することができず、その結果当該2族金属の含有量とは、ポリカーボネート樹脂組成物全体に存在する2族金属の全ての含有量を意味していると当然に解されるものである。

イ そしてこのことは、平成30年8月3日に提出された意見書において、請求人が、「ポリカーボネート樹脂組成物中に含まれる長周期型周期表第2族の金属(以下、単に『金属』といいます。)の含有量は、金属がポリカーボネート樹脂の重合触媒由来、重合触媒以外の由来に関わらず、20重量ppm以下であるとすべきでした。
よって、『該ポリカーボネート樹脂組成物が、長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を前記ポリカーボネート樹脂の触媒として含有し、その触媒として含有する金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下である』との記載は不適切でしたので、『該ポリカーボネート樹脂組成物が、長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含有し、その金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下である』と訂正しました。」と主張していることとも符合するものである。

(2)発明の詳細な説明の記載
一方、発明の詳細な説明には、上記1(2)のとおり記載されている。

(3)発明の詳細な説明の記載についての検討
上記1(3)ウで述べたとおり、発明の詳細な説明の記載を鑑みれば、2族金属とは、あくまでもポリカーボネート樹脂の製造時に使用するエステル交換反応触媒に由来するもののみを意味するものであって、他の充填剤や難燃剤等に含まれる2族金属については包含しないものであると明確に解されるものであって、実施例など他の記載部分を併せ見ても、発明の詳細な説明の記載全般に亘って矛盾なく整合するものである。

(4)特許請求の範囲の記載不備(特許法第36条第6項第2号)についての判断
ア 2族金属の量が「ポリカーボネート樹脂組成物全体」に対するものであることについて
上記(1)アのとおり、本願発明において、2族金属の量は、「ポリカーボネート樹脂組成物全体」に対するものとして特定されている。
しかしながら、上記1(3)イでも述べたとおり、ポリカーボネート樹脂組成物の耐光性や色相などは、主に使用するポリカーボネート樹脂自体の耐光性や色相などに左右されるのであり、当該ポリカーボネート樹脂の耐光性や色相などは、主にポリカーボネート樹脂中に残存する金属含有量に依存するものであって、配合する(種類は問わずあらゆるものを包含する)充填剤(中に存在する金属)量に依存するものではないことは、本願原出願時の当業者の技術常識であるといえるにもかかわらず、本願発明において、残存2族金属の量を、「ポリカーボネート樹脂」に対してではなく、「ポリカーボネート樹脂組成物全体」に対して特定していることの技術的な意味が不明である。
仮に、上記摘示1(2)オの【0159】の記載から、ポリカーボネート樹脂組成物中の2族金属含有量とは、まずポリカーボネート樹脂中の2族金属濃度を測定したのち、その値を充填剤の量で希釈・算出することでポリカーボネート樹脂組成物に対する量を得たもの(すなわち、充填剤中の2族金属量は考慮・含有せず、ポリカーボネート樹脂中の2族金属の量)であると解したとしても、ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム及びセシウムの合計量(この値は樹脂中の金属濃度として測定される値をそのまま用いている。)とは異なり、ポリカーボネート樹脂中の2族金属濃度を、充填剤の量で希釈・算出した上で、なぜわざわざポリカーボネート樹脂組成物中の含有量として特定しているのか、そのことの技術的な意味が不明である。
したがって、本願発明は、2族金属の量が「ポリカーボネート樹脂組成物全体」に対するものであると特定されていることの意味において不明瞭なものであるといわざるを得ない。

イ 2族金属の対象範囲について
(ア)そもそも、2族金属の対象範囲について検討すると、本願発明における特定では、上記(1)のとおり、ポリカーボネート樹脂組成物全体に存在する全ての2族金属を意味していると当然に解されるところ、発明の詳細な説明の記載によっては、上記1(3)ウのとおり、あくまでもポリカーボネート樹脂の製造時に使用するエステル交換反応触媒に由来するもののみを意味するものであって、他の充填剤や難燃剤等に含まれる2族金属については包含しないものであると明確に解され、結局のところ両解釈は明らかに矛盾するものである。
したがって、本願発明において、2族金属との対象範囲は、単に請求項の記載のみによる文言形式的な意味においては明確であるといえるものの、発明の詳細な説明の記載をも踏まえた技術的な内容という意味においては不明瞭なものであるといわざるを得ない。
(イ)平成30年5月30日付けの拒絶理由について(下線は当審による。)
a そもそも、平成30年5月30日付けの拒絶理由は、請求項1において、「該ポリカーボネート樹脂組成物が、長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を前記ポリカーボネート樹脂の触媒として含有し、その触媒として含有する金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下である」と特定されていることについて、「長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を前記ポリカーボネート樹脂の触媒として含有」することの意味が不明である、具体的には、
(a)ポリカーボネート樹脂を製造するに際して添加した金属化合物重合触媒に由来する触媒残渣としてポリカーボネート樹脂中に含有(残存)している2族金属のことを意味しているとも解されるが、当該金属は、その由来が重合触媒以外、例えば、各原料自体に元々含まれていたものや重合装置などから混入したもの等にもあるから、ポリカーボネート樹脂中におけるこれら種々雑多な由来に基づく残存金属について、重合触媒由来であろうと他の由来のものであろうと同じ金属である以上これらを区別することができない。
(b)「触媒として含有する金属」とは、触媒由来のみの残存金属のことを意味しているのか、触媒として含有する金属と同じ種類の金属の全てのことを意味しているのか判然としないし、「ポリカーボネート樹脂組成物全体」に対する「触媒として含有する金属の量」も充填剤の量によって変化し得るから、「20重量ppm以下」の意味も明らかではない。
(c)組成物全体に存在する2族金属としては、ポリカーボネート樹脂中に混入・残存するもののみならず、充填剤自体や充填剤に含まれる不純物に由来するものやその他の成分に含まれるものも存在するところ、斯かる特定では、ポリカーボネート樹脂中に存在しないそれらの金属をも包含しているのか、包含していないのか判然としない。(ちなみに、本願明細書の段落【0100】には、「硫酸カルシウム粉体、石膏、石膏ウィスカー、硫酸バリウム、珪酸カルシウム」などの2族金属含有化合物が例示されている。)このため、当該2族金属の量が、ポリカーボネート樹脂中のみならず、組成物全体に対しての含有量で特定されている点においても不明瞭である。
という点を指摘して、「その触媒として含有する金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下である」との意味が、組成物におけるどういう金属の量を特定しようとするものかが明らかではないとして通知したものである。
b それに対し、平成30年8月3日に提出された手続補正書により、請求項1において「ポリカーボネート樹脂組成物が、長周期型周期表第2族の金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含有し、その金属の量がポリカーボネート樹脂組成物全体に対して合計で20重量ppm以下である」と補正し、平成30年8月3日に提出された意見書においてポリカーボネート樹脂組成物全体に含まれる全ての2族金属を対象範囲とするものであると主張したところで、上記(3)?(4)で述べたとおり、発明の詳細な説明の記載と全く整合性がないものとなった以上、上記拒絶理由が解消するものではない。

(6)まとめ
以上のとおり、本願発明は、2族金属の量が「ポリカーボネート樹脂組成物全体」に対するものであると特定されていることにおいて不明瞭であり、また2族金属の対象範囲という意味において不明瞭である。
したがって、本願発明は、特許請求の範囲の記載が不備であるから、本願は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものである。

3 理由2(実施可能要件違反)について

(1)特許法第36条第4項第1号について
特許法第36条第4項第1号は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。
これは、当業者が、明細書に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならないことを意味するものである。そこで、この点について以下に検討する。

(2)本願発明は、「ポリカーボネート樹脂組成物」という物に係るものであるところ、上記2で述べたとおり、2族金属の量が「ポリカーボネート樹脂組成物全体」に対するものであると特定されていることにおいて不明瞭であり、また2族金属の対象範囲という意味において不明瞭である結果、本願発明が不明確であることから、発明の詳細な説明の記載に基づき、かつ本願原出願時の当業者の技術常識を参酌したとしても、本願発明を当業者が容易に実施することができるとはいえないことは明らかである。

(3)まとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明の記載は、本願発明を当業者が容易に実施することができる程度に記載されたものであるとはいえないから、本願は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反するものである。

第5 むすび

以上のとおり、当審において通知した拒絶理由は妥当なものであるから、本願は、この理由によって拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-10-05 
結審通知日 2018-10-09 
審決日 2018-10-22 
出願番号 特願2016-116168(P2016-116168)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C08L)
P 1 8・ 536- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三原 健治岡谷 祐哉  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 井上 猛
小柳 健悟
発明の名称 ポリカーボネート樹脂組成物及び成形品  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 伏見 俊介  
代理人 大浪 一徳  

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