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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1347094
審判番号 不服2017-11223  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-28 
確定日 2019-01-15 
事件の表示 特願2015-189870「冷却される電子システム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月28日出願公開、特開2016- 15167、請求項の数(28)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)5月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年5月12日、英国、2009年5月12日、米国)を国際出願日とする特願2012-510362号の一部を平成27年9月28日に新たな特許出願(特願2015-189870号)としたものであって、平成28年9月6日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年2月27日付けで手続補正がされたが、平成29年3月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成29年7月28日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成30年3月19日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、平成30年9月25日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年3月23日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-5、7-14、16-34に係る発明は、以下の引用文献A-Dに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2009-27040号公報
B.実願昭52-123006号(実開昭54-49574号)のマイクロフィルム
C.特開2006-173481号公報
D.特開平5-29513号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

本願請求項1-30に係る発明は、以下の引用文献1-5に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特表2008-523599号公報(当審において新たに引用した文献)
2.特開2009-27040号公報(拒絶査定時の引用文献A)
3.実願昭52-123006号(実開昭54-49574号)のマイクロフィルム(拒絶査定時の引用文献B)
4.特開平11-163569号公報(当審において新たに引用した文献)
5.特開平5-29513号公報(拒絶査定時の引用文献D)

第4 本願発明
本願請求項1-28に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明28」という。)は、平成30年9月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-28に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
電子機器を冷却する方法であって、
第一の冷却液を含み、前記電子機器により発せられる熱を前記第一の冷却液に伝える構成であり、また、前記第一の冷却液の漏出を防止するように密封されている構成である容器内で前記電子機器を動作させるステップと、
前記第一の冷却液と第一の熱伝達装置の中の第二の冷却液との間で熱を伝えるステップと、
前記第二の冷却液を前記第一の熱伝達装置から第二の熱伝達装置に管により送るステップと、
前記第二の冷却液と前記第二の熱伝達装置の中の第三の冷却液との間で熱を伝えるステップと、
前記第三の冷却液をヒートシンクに管により送るステップと、
を含み、
前記第一の冷却液は絶縁性の液体であり、前記第二、第三の冷却液は導電性の液体であり、
さらに、前記第二の冷却液の圧力を前記第三の冷却液の圧力と独立して所定の圧力に調整するステップと、
前記第二の冷却液の流量を調整して、前記電子機器の温度が所定の最高動作温度を超えないように制御し、それにより前記電子機器の動作中に前記第一の冷却液および前記第二の冷却液が液体の状態に保たれるようにするステップと、
熱が前記電子機器から前記第一の冷却液に、当初は局所的な伝導によって、その後、加熱された前記第一の冷却液が膨張し、浮揚性を有するようになると、対流によって伝達され、それにより熱が対流によって前記第一の熱伝達装置へ流れるようにするステップと、
を含む方法。」

なお、本願発明2-28の概要は以下のとおりである。
本願発明2-10は、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明11は、本願発明1に対応する、カテゴリ表現が異なる「電子システム」の発明であり、本願発明12-28は、本願発明11を減縮した発明である。

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1及び引用発明
当審拒絶理由に引用した引用文献1には、図面とともに(特に図3を参照。)、以下の記載がある(下線は、特に着目した箇所を示す。以下同様。)。

(1) 段落【0001】
「【0001】
本発明は、電子機器デバイス、モジュール及びシステムから熱を除去するために用いられる冷却アセンブリ及び他の装置に関する。より具体的には、本発明は、1つ又は複数の電子機器ラックの1つ又は複数の電子機器サブシステムの熱発生コンポーネントから熱を抽出するための強化された冷却システム及び方法に関する。」

(2) 段落【0012】-【0019】
「【0012】
簡単に上述されたとおり、コンピュータ機器(主としてプロセッサ)の電力レベルもまた、もはや簡単に空気冷却することができないレベルに達している。コンポーネントは水冷却されることになるであろう。プロセッサにより放散された熱は、水冷却された冷却板を介して水に伝達させることができる。カスタマー場所(即ちデータ・センター)において一般的に利用できる設備水は、こうした冷却板での使用には適さない。第一に、7℃から15℃までの範囲のデータ・センターの水温は、(典型的には18℃乃至23℃である)部屋の露点よりはるかに低いため、結露が懸念される。第二に、(化学的に、清浄度等に関して)相対的に質の悪い設備水は、システムの信頼性に影響を及ぼす。従って、より質の高い水を電子機器サブシステムとの間で循環させ、データ・センターの水への熱を排除する水冷却/調整ユニットを使用することが望ましい。ここで用いられる「設備水」又は「設備冷却液」は、1つの例では、このデータ・センターの水又は冷却液のことであり、「システム冷却液」は、冷却液分配ユニットと冷却される電子機器サブシステムとの間を循環する冷却された/調整された冷却液のことであり、「調整冷却液」は、所与の電子機器サブシステム内で循環する冷却液のことである。
【0013】
ここで、異なる図の全体を通して同じ参照番号が、同じ又は同様な構成要素を指す図を参照する。図1は、コンピュータ室のための冷却液分配ユニット100の1つの実施形態を示す。冷却液分配ユニットは、従来は、ここでは2つの電子機器フレーム全体とみなされるものより多くの場所を占める、相対的に大きいユニットである。冷却ユニット100内には、電源/制御要素112と、リザーバ/拡張タンク113と、熱交換器114と、ポンプ115(重複する第2ポンプを伴うことが多い)と、設備水(或いは、サイト又はカスタマー用水又は冷却液)注入口116及び排出口117の供給パイプと、結合部120及び配管122により電子機器ラック130に水を向かわせる供給マニホルド118と、配管123及び結合部121により電子機器ラック130から水を向かわせる戻りマニホルド119と、がある。各々の電子機器ラックは、多数の電子機器ドロワ(電子機器サブシステム)135を含む。
【0014】
図2は、図1の冷却システムの動作を概略的に示しており、液体冷却された冷却板155が、電子機器ラック130内の電子機器ドロワー135の電子機器モジュール150に結合された状態で示される。熱は、冷却液分配ユニット100の熱交換器114、配管122、123及び冷却板155で定められるシステム冷却液ループ内で、冷却板155を通してポンプ115により送出されるシステム冷却液により電子機器モジュール150から除去される。システム冷却液ループ及び冷却液分配ユニットは、制御された温度及び圧力、並びに、制御された化学的性質及び清浄度の冷却液を電子機器に供給するように設計される。さらに、システム冷却液は、熱が最終的に伝達される配管116、117内のあまり制御されていない設備冷却液とは物理的に分離されている。図2で示されるシステムにおいては、システム冷却液ループは、残留粒子状物質がループを通って自由に流れるのに十分な大きさの流量のための代表長さを有するため、フィルタ処理は必要とされてこなかった。例えば、直径1.65mmのチャネルをもつ冷却板が、ニューヨーク州アーモンク所在のインターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーションにより販売されるES/9000システムに用いられた。
【0015】
上述のとおり、設計者がコンピュータの性能を向上させ続けようとするにつれて、プロセッサの電力レベルは上昇し続ける。電子機器モジュールの電力レベルは、従来の空気冷却技術、さらに従来の液体冷却の冷却板の概念もはるかに越えると予測される。こうした将来の冷却の必要性に対処するために、微小冷却構造体が開発されている。こうした構造体の2つの例は、ニューハンプシャー州クレアモント所在のMikros Manufacturing社、及び独国ベルリン所在のATOTECH社により市販されている。微小冷却構造体の他の例もまた、当技術分野で入手可能である。こうした微小冷却構造体は、これまで用いられた冷却板より小さいオーダーの大きさを上回る代表長さを有する。さらに、微小規模の構造体は、図1及び図2に示されたような冷却システムのシステム冷却液を通って規則的に循環する粒子のオーダーか又はそれより小さい最小寸法を有する。入手可能な微小規模の構造体において、特有の寸法は、現在では50マイクロメートル(ミクロン)から100マイクロメートルまでの範囲であり、技術が成熟するに伴いさらに減少させることができる。こうした小さな幅のスケールにおいては、液体が清浄であることが必須である。こうした寸法において、微小冷却構造体は、放熱板ではなくフィルタに近い働きをし、それにより冷却を阻害する場合がある。
【0016】
この問題に対する1つの解決法は、図1及び図2の冷却アセンブリのシステム冷却液側にフィルタを導入することであろう。これは、残念ながら、付加的な圧力降下を増し、継続的な保守管理を要するため、望ましくない。従って、1つの態様においては、本発明の目的は、システム冷却液ループと熱的に接触し、上述の微小冷却構造体の微小規模の態様に対応するように設計され製造される、電子機器サブシステムと関連付けられた、分離したサブアセンブリを作成することである。
【0017】
図3は、この目的を達成する冷却システムの1つの実施形態を示す。この冷却システム又は装置は、冷却液分配ユニット100と、1つ又は複数の放熱ユニット195と、を含む。各々の放熱ユニット195は、コンピューティング環境の電子機器ラック130のそれぞれの電子機器サブシステム又はドロワー135と関連付けられる。冷却液分配ユニット100は、ここでも、第1熱交換器114と、第1冷却ループ116、117と、1つ又は複数の第2冷却ループ122、123と、を含む。第1冷却ループ116、117は、設備冷却液を受け取り、少なくともその一部を第1熱交換器114を通して通過させるる。各々の第2冷却ループは、システム冷却液を少なくとも1つの電子機器ドロワー(電子機器サブシステム)135に供給し、かつ、第1熱交換器114において電子機器サブシステム135からの熱を第1冷却ループ116、117の設備冷却液に放出する。システム冷却液は、ポンプ115により、第2冷却ループ122、123内で循環する。
【0018】
各々の放熱ユニット195は、それぞれの電子機器サブシステム135と関連付けられており、第2熱交換器160と、1つ又は複数の第2冷却ループのうちの第2冷却ループ122、123と、第3冷却ループ170と、微小冷却構造体180と、を含む。第2冷却ループ122、123は、システム冷却液を第2熱交換器160に供給し、第3冷却ループ170は、少なくとも1つの電子機器サブシステム135内で、微小冷却構造体180を通して調整冷却液を循環させ、かつ、第2熱交換器160において電子機器サブシステム135の熱発生コンポーネント190(例えば電子機器モジュール)からの熱を放出する。熱は、熱交換器160において第2冷却ループ122、123のシステム冷却液に放出される。調整冷却液は、ポンプ175により、放熱ユニット195の第3冷却ループ170を通って循環する。好適なポンプ175の1つの例は、最初に組み込まれおり、本発明の譲受人に譲渡された、同時出願の「Cooling Apparatus For An Electronics Subsystem Employing A Coolant Flow Drive Apparatus Between Coolant Flow Paths」という発明の名称の特許文献1において提供される。1つの例においては、第3冷却ループ170は閉ループ流路であり、それにより、調整冷却液が以下に説明されるようにフィルタ処理されたときに、粒子が冷却ループに入る機会を最小限にする。
【0019】
第3冷却ループ170は、冷却アセンブリのシステム冷却液から物理的に分離されていることが有利である。第3冷却ループ170は、電子機器サブシステム135、より具体的には、冷却される電子機器モジュール等の1つ又は複数の熱発生コンポーネントに配置される、別個の専用ループ又はサブアセンブリである。第3冷却ループ170及びそれに関連付けられたコンポーネントは、粒子と材料の両方の適合性(即ち腐食)の観点から清浄な環境を生成するように製造されたサブアセンブリを含む。冷却サブアセンブリ195は、一旦作動すると閉システム(即ち、現場では開かれないシステム)になるように設計される。現場においては閉サブシステムであるので、粒子汚染は、組み立ての際に管理することができる。」

(3) 段落【0023】
「【0023】
当業者であれば、ここでは、3つの別個の冷却ループを用いる冷却アセンブリが提供されることに気付くであろう。第1冷却ループ及び第2冷却ループは、第2冷却ループ内のシステム冷却液から第1冷却ループ内の設備冷却液に熱を伝達することを可能にする流体間熱交換器を含む冷却液分配ユニットと関連付けられる。1つ又は複数の放熱ユニット又は冷却サブアセンブリが、例えば電子機器ラックの1つ又は複数の電子機器サブシステムと関連付けられる。各々の放熱ユニットは、それぞれの第2冷却ループと、1つの例では、分離した閉ループ流路から成る第3冷却ループと、を含む。放熱ユニットは、さらに、冷却液分配ユニットへの伝達のために、第3冷却ループ内の調整冷却液から第2冷却ループ内のシステム冷却液に熱を放出することを可能にする第2の流体間熱交換器を含む。調整冷却液、システム冷却液及び設備冷却液を分けることにより、各々の冷却ループは、異なる特性又は特徴の冷却液を有することができるという利点がある。これらの異なる特徴は、以下のような異なる冷却液の清浄度、冷却液の圧力、冷却液の相変化、冷却液の流量、冷却液の化学的性質を含むことができる。
・冷却液の清浄度-第3冷却ループ内ではより清浄度の高い冷却液(浄化水など)、システム冷却液ループ内では清浄度の低い冷却液、及び、設備冷却液ループ内ではさらに清浄度の低い冷却液の使用を可能にする。清浄度の高い冷却液(浄化水など)は、放熱ユニットの第3冷却ループにおいて、特に、例えば、汚染物質が微小冷却構造体の動作を妨げるのを防ぐために、小規模の冷却構造体(即ち、チャネル、ノズル、オリフィス、フィン等)と併せて用いられるときに望ましい。
・冷却液の圧力-例えば、第3冷却ループ内の調整冷却液が大気圧より低い圧力であり、第2冷却ループ及び第1冷却ループのシステム冷却液及び設備冷却液が大気圧のままであるか又はそれより高いことを可能にする。これは、例えば、調整冷却液がシステム冷却液とは異なる沸点を有することを可能にする。
・冷却液の相変化-第3冷却ループは、調整冷却液を二相の冷却手法で用いる一方で、システム冷却液及び設備冷却液を一相の冷却液として維持することを可能にする。
・冷却液の流量-冷却システムにおける種々の冷却液の異なる圧力及び相変化温度に関連させることができる。さらに、例えば、システム冷却液を含む第2冷却ループを通る流量より低い、微小冷却構造体を通る流量を用いることが望ましい場合がある。
・冷却液の化学的性質-異なる化学的性質の冷却液流体を、冷却システムの種々の冷却ループに用いることを可能にする。例えば、清浄度のみが異なる設備冷却液及びシステム冷却液の両方として、第1及び第2冷却ループに水を用いることができ、第3冷却ループは、調整冷却液として誘電体を用いることができる。このことは、例えば、冷却されている電子機器サブシステムの1つ又は複数の集積回路チップに調整冷却液が直接接触する実施形態において有利とすることができる。」

よって、上記各記載事項を関連図面に照らし、下線部に着目すれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「1つ又は複数の電子機器ラックの1つ又は複数の電子機器サブシステムの熱発生コンポーネントから熱を抽出するための強化された冷却方法であって、
ここで用いられる「設備冷却液」は、データ・センターの水又は冷却液のことであり、「システム冷却液」は、冷却液分配ユニットと冷却される電子機器サブシステムとの間を循環する冷却された/調整された冷却液のことであり、「調整冷却液」は、所与の電子機器サブシステム内で循環する冷却液のことであり、
各々の電子機器ラックは、多数の電子機器サブシステム135を含み、
システム冷却液ループは、冷却液分配ユニット100の熱交換器114、配管122、123などで定められ、
システム冷却液は、熱が最終的に伝達される配管116、117内のあまり制御されていない設備冷却液とは物理的に分離され、
電子機器モジュールの電力レベルは、従来の空気冷却技術、さらに従来の液体冷却の冷却板の概念もはるかに越えると予測され、こうした将来の冷却の必要性に対処するために、微小冷却構造体が開発されており、微小規模の構造体は、システム冷却液を通って規則的に循環する粒子のオーダーか又はそれより小さい最小寸法を有し、特有の寸法は、現在では50マイクロメートル(ミクロン)から100マイクロメートルまでの範囲であり、技術が成熟するに伴いさらに減少させることができ、こうした小さな幅のスケールにおいては、液体が清浄であることが必須であり、こうした寸法において、微小冷却構造体は、放熱板ではなくフィルタに近い働きをし、それにより冷却を阻害する場合があり、
第1冷却ループ116、117は、設備冷却液を受け取り、少なくともその一部を第1熱交換器114を通して通過させ、
第2冷却ループは、システム冷却液を少なくとも1つの電子機器サブシステム135に供給し、かつ、第1熱交換器114において電子機器サブシステム135からの熱を第1冷却ループ116、117の設備冷却液に放出し、システム冷却液は、ポンプ115により、第2冷却ループ122、123内で循環し、
各々の放熱ユニット195は、それぞれの電子機器サブシステム135と関連付けられており、第2熱交換器160と、第2冷却ループ122、123と、第3冷却ループ170と、微小冷却構造体180と、を含み、
第3冷却ループ170は、少なくとも1つの電子機器サブシステム135内で、微小冷却構造体180を通して調整冷却液を循環させ、かつ、第2熱交換器160において電子機器サブシステム135の熱発生コンポーネント190(例えば電子機器モジュール)からの熱を放出し、熱は、熱交換器160において第2冷却ループ122、123のシステム冷却液に放出され、調整冷却液は、ポンプ175により、放熱ユニット195の第3冷却ループ170を通って循環し、
第3冷却ループ170は閉ループ流路であり、
第3冷却ループ170は、冷却アセンブリのシステム冷却液から物理的に分離されており、
冷却サブアセンブリ195は、一旦作動すると閉システム(即ち、現場では開かれないシステム)になるように設計され、
調整冷却液、システム冷却液及び設備冷却液を分けることにより、各々の冷却ループは、異なる特性又は特徴の冷却液を有することができるという利点があり、これらの異なる特徴は:
「冷却液の圧力」について、第3冷却ループ内の調整冷却液が大気圧より低い圧力であり、第2冷却ループ及び第1冷却ループのシステム冷却液及び設備冷却液が大気圧のままであるか又はそれより高いことを可能にするものであり、
「冷却液の相変化」について、第3冷却ループは、調整冷却液を二相の冷却手法で用いる一方で、システム冷却液及び設備冷却液を一相の冷却液として維持することを可能にするものであり、
「冷却液の化学的性質」について、清浄度のみが異なる設備冷却液及びシステム冷却液の両方として、第1及び第2冷却ループに水を用いることができ、第3冷却ループは、調整冷却液として誘電体を用いることができるものである、
冷却方法。」

2 引用文献2
当審拒絶理由に引用した引用文献2には、図面とともに、段落【0010】-【0023】、【0026】に、以下の記載がある。

(1) 段落【0010】-【0023】
「【0010】
図1は、本発明による素子冷却構造1の一実施例の主要断面を示す図である。本実施例の素子冷却構造1は、基板10を含む。基板10は、熱伝導性の良い絶縁基板で構成されてよい。基板10上には、例えば図2に示すような、パワー素子12を含む電子回路が形成されている。尚、図2に示す回路構成は、例えばハイブリッド自動車に搭載されてよいインテリジェントパワーモジュール(IPM)の電力変換器インバーター用回路であり、パワー素子12としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が用いられ、還流用のダイオードを備える。尚、基板10上に形成される回路は、当然ながら他の形態の回路であってもよく、パワー素子12は、例えばパワーMOSFETのような、IGBT以外の任意の半導体パワー素子であってよい。
【0011】
パワー素子12の上面(図の左側の面)は、例えば上部電極で構成される。上部電極は、例えば銅で形成される。パワー素子12の上面上には、図1に示すように、複数の冷却フィン14が設けられる。冷却フィン14は、好ましくは、図1に示すように、上方に向けて斜め方向に延在する。即ち、冷却フィン14は、上方に反った形状(等断面形状)を有する。冷却フィン14の奥行き方向の長さ(図の紙面垂直方向の長さ)は、パワー素子12の上面の同寸法と同様であってもよいし、また、複数の冷却フィン14が奥行き方向に列をなして形成されてもよい。冷却フィン14は、例えば上部電極と同一の材料(例えば銅)で形成されてもよい。冷却フィン14の製造方法としては、マイクロソリッド工法が用いられてもよい。この方法によれば、フィンピッチを最小0.1mmまで小さくすることが可能であり、長い微細フィンの加工が可能である。
【0012】
基板10の背面(図の右側の面)には、放熱板20(以下、「背面放熱板20」という)が設けられる。即ち、背面放熱板20は、基板10を背面から支持する。背面放熱板20は、熱伝導性の良い材料からなり、フィン20aを有してよい。フィン20aは、図1に示すように、背面放熱板20の背面側(図の右側)に形成される。フィン20aは、背面放熱板20に対して垂直に延在してもよいし、背面放熱板20に対して斜め上方に延在してもよい。
【0013】
背面放熱板20の上方の側面(上縁)には、放熱板22(以下、「上方放熱板22」という)が設けられる。上方放熱板22は、図1に示すように、基板10上のパワー素子12を上方から覆うように設けられる。上方放熱板22は、背面放熱板20に対して略直角をなして配置される。上方放熱板22は、熱伝導性の良い材料からなり、フィン22aを有してよい。フィン22aは、図1に示すように、上方放熱板22の背面側(図の上側)に形成される。
【0014】
冷却水50が循環する流路52は、背面放熱板20及び上方放熱板22に隣接して設けられる。流路52は、例えば図1に示すように、L字型の断面を有し、背面放熱板20及び上方放熱板22の背面側を冷却水50が流通するように構成されている。尚、図示の例では、冷却水50は、対流効果を促進し且つ重力を効果的に用いる観点から、上から下に循環されているが、ポンプ等を用いて逆に循環させることも可能である。また、冷却水50に代えて、他の冷媒(流体)が用いられてもよい。
【0015】
カバー部材40は、背面放熱板20と上方放熱板22と協動して、パワー素子12及び基板10を密閉する空間を形成する。従って、図1には示されていないが、カバー部材40は、上方放熱板22に対向する位置、及び、図の手前側及び奥側にも存在し、背面放熱板20と上方放熱板22と協動して、略直方体の密閉空間を形成している。この密閉空間内には、絶縁性流動物質30が充填される。
【0016】
絶縁性流動物質30は、熱伝導性が良好で且つ電気的に絶縁性のある流動性物質であり、流動性のある樹脂や、シリコンゲルやシリコンオイルで構成される。尚、絶縁性を要するのは、パワー素子12上面に絶縁性・耐圧性を確保するためである。絶縁性流動物質30は、例えば100P(ポアズ)以下程度の粘度を有し、環境温度(-40℃?150℃)に依存しない。絶縁性流動物質30は、図1に示すように、パワー素子12が収容される密閉空間内に充填される。絶縁性流動物質30は、冷却フィン14、背面放熱板20及び上方放熱板22と協動して、パワー素子12の発する熱を外部に伝達する役割を果たす。
【0017】
素子冷却構造1は、図1に示すように、縦置きされる。即ち、素子冷却構造1は、基板10及び背面放熱板20の基本面が水平面に対して略直角になるような向きで、例えば車両の適切な位置に搭載される。これにより、後述の対流作用が促進される。尚、素子冷却構造1は、必ずしも鉛直方向に平行に縦置きされる必要はなく、水平面に対して基板10及び背面放熱板20の基本面がゼロ度よりも有意に大きい角度をなしていればよい。
【0018】
次に、図1の参照を続けつつ、上述の素子冷却構造1の冷却原理について説明する。尚、図1において、絶縁性流動物質30に関連して図示される白抜きの矢印(A1,A2及びA3)は、高温の絶縁性流動物質30の移動方向(パワー素子12の発する熱の移動方向)を示し、黒塗りの矢印は、低温の絶縁性流動物質30の移動方向を示す。
【0019】
広く知られているようにパワー素子12は、動作時に熱を発する。パワー素子12の上面側の熱は、次のようにして外部に放出される。即ち、パワー素子12上面付近の絶縁性流動物質30は、パワー素子12の発する熱で熱され、先ず、図の矢印A1に示すように、上方へと移動する。この上方への移動は、上向きに反る冷却フィン14により促進される。この際、上方へ移動する高温の絶縁性流動物質30は、上方放熱板22付近から下方に移動する冷却された絶縁性流動物質30との間での対流作用により、冷却される。尚、上方放熱板22付近から下方に移動する冷却された絶縁性流動物質30の流れは、黒の下向きの矢印で図示されている。また、パワー素子12付近から上方に移動する比較的高温の絶縁性流動物質30は、基板10の上縁を越えると、図の矢印A2に示すように、背面放熱板20と接して冷却され、また、図の矢印A3に示すように、上方放熱板22と接して冷却される。
【0020】
パワー素子12の下面側(図の右側)の熱は、通常通り、基板10及び背面放熱板20を介して外部(冷却水50)に放出される。
【0021】
以上説明した本実施例による素子冷却構造1によれば、とりわけ、以下のような優れた効果が奏される。
【0022】
本実施例によれば、上述の如く、縦置き型の素子冷却構造1で生ずる対流を利用してパワー素子12の熱を効果的に外部に放出することができる。即ち、高温の絶縁性流動物質30が上方に移動し、低温の絶縁性流動物質30が下方に移動する際に生ずる対流を効果的に利用して、パワー素子12の熱を効果的に外部に放出することができる。これにより、パワーモジュールの冷却性能が向上する。
【0023】
特に、本実施例によれば、上向きに反る冷却フィン14により、パワー素子12の上面付近で対流が促進されるので、パワー素子12の熱を効果的に外部に放出することができ、冷却性能が向上する。」

(2) 段落【0026】
「【0026】
また、絶縁性流動物質30は、上述の如く密閉されるので、パワー素子12の腐食の問題が生じない。また、例えば図3に示す比較例のようにパワー素子の上面側と下面側の双方に冷却水を循環させる構成に比べて、絶縁性流動物質30の循環に必要なスペース及び部品を節約することができ、また、大幅な変更無しに既存のパワーモジュール構造に適用することができる。また、図3に示す例のように、絶縁性流動物質30を冷却水50のように循環させる場合には、絶縁性流動物質30の圧がパワー素子12上面におけるワイヤーボンディングの配線に悪影響を及ぼす虞があるが、本実施例によれば、かかる不都合が防止される。」

3 引用文献3
当審拒絶理由に引用した引用文献3には、図面(特に、第2図。)とともに、3ページ12行-4ページ2行に、以下の記載がある。

「第2図は本案の他の実施例を示すもので、第1図の筐体に冷却液管13を設け冷却液は熱交換器14内を通って約10?20℃に冷却され冷却液ポンプ15により再び筐体内に送り込まれる。又二次側は二次側冷却液管16を設け二次側冷却液はコンデンサ17、ラジエーター18を通り、ファン18により、放熱凝縮された後二次側ポンプ20で熱交換器に送られる。この実施例では、さらに約3?10×10^(-2)w/cm^(2)℃程度の放熱能力が得られ、密閉型自然空冷方式と比較し約数十?百倍放熱効率がよくなる。」

4 引用文献4
当審拒絶理由に引用した引用文献4には、図面とともに、段落【0037】に、以下の記載がある。

「【0037】
【発明の効果】請求項1記載の発明によれば、一次冷却水の温度とは無関係に二次冷却水の流量を制御するフィードフォワード制御が行われるので、熱負荷の負荷変動及び/又は二次冷却水の温度変動があっても、これらの変動に対応して熱交換器の交換熱量が変化することはなく、この熱交換器における温度均衡が維持されるので、温度ドリフト、温度リップルは抑制される。」

5 引用文献5
当審拒絶理由に引用した引用文献5には、図面とともに、段落【0002】に、以下の記載がある。

「【0002】
【従来の技術】図4は従来の冷媒循環システムを示す構成図であり、液冷式の電子部品である被冷却体に、液体冷媒を循環供給するシステムである。同図において、1は冷媒2を入れたバッファタンク、3はこのバッファタンク1内の冷媒2を配管4を介して電子部品などの被冷却体5に送るための送出ポンプ、6は電子部品などの被冷却体5を冷却することによって温度上昇した冷却2を所定の温度に冷却し、再びバッファタンク1に戻す熱交換器である。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明の「熱発生コンポーネント190(例えば電子機器モジュール)」を冷却する「冷却方法」は、本願発明1の「電子機器を冷却する方法」に相当する。

イ 引用発明の「第3冷却ループ」内を流れる「調整冷却液」、「第2冷却ループ」内を流れる「システム冷却液」、「第1冷却ループ」内を流れる「設備冷却液」は、それぞれ、本願発明1の「第一の冷却液」、「第二の冷却液」、「第三の冷却液」に相当する。
引用発明の「放熱ユニット195」(「冷却サブアセンブリ195」)は、本願発明1の「容器」に相当する。
よって、引用発明において「各々の放熱ユニット195は、それぞれの電子機器サブシステム135と関連付けられており、第2熱交換器160と、第2冷却ループ122、123と、第3冷却ループ170と、微小冷却構造体180と、を含み、
第3冷却ループ170は、少なくとも1つの電子機器サブシステム135内で、微小冷却構造体180を通して調整冷却液を循環させ、かつ、第2熱交換器160において電子機器サブシステム135の熱発生コンポーネント190(例えば電子機器モジュール)からの熱を放出し、熱は、熱交換器160において第2冷却ループ122、123のシステム冷却液に放出され、調整冷却液は、ポンプ175により、放熱ユニット195の第3冷却ループ170を通って循環し、
第3冷却ループ170は閉ループ流路であり、
第3冷却ループ170は、冷却アセンブリのシステム冷却液から物理的に分離されており、
冷却サブアセンブリ195は、一旦作動すると閉システム(即ち、現場では開かれないシステム)になるように設計され」ていることは、本願発明1の「第一の冷却液を含み、前記電子機器により発せられる熱を前記第一の冷却液に伝える構成であり、また、前記第一の冷却液の漏出を防止するように密封されている構成である容器内で前記電子機器を動作させるステップ」に相当する。

ウ 引用発明の「第2熱交換器160」、「第1熱交換器114」は、それぞれ、本願発明1の「第一の熱伝達装置」、「第二の熱伝達装置」に相当する。
よって、引用発明の「第3冷却ループ170は、少なくとも1つの電子機器サブシステム135内で、微小冷却構造体180を通して調整冷却液を循環させ、かつ、第2熱交換器160において電子機器サブシステム135の熱発生コンポーネント190(例えば電子機器モジュール)からの熱を放出し、熱は、熱交換器160において第2冷却ループ122、123のシステム冷却液に放出され」ることは、本願発明1の「前記第一の冷却液と第一の熱伝達装置の中の第二の冷却液との間で熱を伝えるステップ」に相当する。

エ 引用発明の「配管122、123」(「第2冷却ループ122、123」)、及び、「配管116、117」(「第1冷却ループ116、117」)は、いずれも、本願発明1の「管」に相当する。
よって、引用発明の「第2冷却ループは、システム冷却液を少なくとも1つの電子機器サブシステム135に供給し、かつ、第1熱交換器114において電子機器サブシステム135からの熱を第1冷却ループ116、117の設備冷却液に放出し、システム冷却液は、ポンプ115により、第2冷却ループ122、123内で循環し、
各々の放熱ユニット195は、それぞれの電子機器サブシステム135と関連付けられており、第2熱交換器160と、第2冷却ループ122、123と、第3冷却ループ170と、微小冷却構造体180と、を含」むことは、本願発明1の「前記第二の冷却液を前記第一の熱伝達装置から第二の熱伝達装置に管により送るステップ」に相当する。

オ 引用発明の「第2冷却ループは、システム冷却液を少なくとも1つの電子機器サブシステム135に供給し、かつ、第1熱交換器114において電子機器サブシステム135からの熱を第1冷却ループ116、117の設備冷却液に放出し」ていることは、本願発明1の「前記第二の冷却液と前記第二の熱伝達装置の中の第三の冷却液との間で熱を伝えるステップ」に相当する。

カ 引用発明の「調整冷却液、システム冷却液及び設備冷却液を分けることにより、各々の冷却ループは、異なる特性又は特徴の冷却液を有することができるという利点があり、これらの異なる特徴は: ・・・(中略)・・・ 「冷却液の化学的性質」について、清浄度のみが異なる設備冷却液及びシステム冷却液の両方として、第1及び第2冷却ループに水を用いることができ、第3冷却ループは、調整冷却液として誘電体を用いることができる」ことは、ここで誘電体は絶縁体にほかならないから、本願発明1の「前記第一の冷却液は絶縁性の液体であり、前記第二、第三の冷却液は導電性の液体であ」ることに相当する。

キ 引用発明の「調整冷却液、システム冷却液及び設備冷却液を分けることにより、各々の冷却ループは、異なる特性又は特徴の冷却液を有することができるという利点があり、これらの異なる特徴は: ・・・(中略)・・・ 「冷却液の圧力」について、第3冷却ループ内の調整冷却液が大気圧より低い圧力であり、第2冷却ループ及び第1冷却ループのシステム冷却液及び設備冷却液が大気圧のままであるか又はそれより高いことを可能にする」ことは、本願発明1の「前記第二の冷却液の圧力を前記第三の冷却液の圧力と独立して所定の圧力に調整するステップ」に相当する。

よって、本願発明1と引用発明との一致点・相違点は次のとおりであるといえる。

<一致点>
「電子機器を冷却する方法であって、
第一の冷却液を含み、前記電子機器により発せられる熱を前記第一の冷却液に伝える構成であり、また、前記第一の冷却液の漏出を防止するように密封されている構成である容器内で前記電子機器を動作させるステップと、
前記第一の冷却液と第一の熱伝達装置の中の第二の冷却液との間で熱を伝えるステップと、
前記第二の冷却液を前記第一の熱伝達装置から第二の熱伝達装置に管により送るステップと、
前記第二の冷却液と前記第二の熱伝達装置の中の第三の冷却液との間で熱を伝えるステップと、
を含み、
前記第一の冷却液は絶縁性の液体であり、前記第二、第三の冷却液は導電性の液体であり、
さらに、前記第二の冷却液の圧力を前記第三の冷却液の圧力と独立して所定の圧力に調整するステップと、
を含む方法。」

[相違点1]
本願発明1では、「前記第三の冷却液をヒートシンクに管により送るステップ」を含むのに対して、引用発明では、「設備冷却液」を「配管116、117」(「第1冷却ループ116、117」)により「ヒートシンクに」送ることが特定されていない点。

[相違点2]
本願発明1では、「前記第二の冷却液の流量を調整して、前記電子機器の温度が所定の最高動作温度を超えないように制御し、それにより前記電子機器の動作中に前記第一の冷却液および前記第二の冷却液が液体の状態に保たれるようにするステップ」を含むのに対して、引用発明では、「最高動作温度」を制御していることが特定されておらず、また、「第3冷却ループは、調整冷却液を二相の冷却手法で用いる一方で、システム冷却液及び設備冷却液を一相の冷却液として維持することを可能にする」ことは特定されているが、「前記第一の冷却液および前記第二の冷却液が液体の状態に保たれるようにする」ことは特定されていない点。

[相違点3]
本願発明1では、第一の冷却液、第二の冷却液、第三の冷却液を用いる冷却方法において、「熱が前記電子機器から前記第一の冷却液に、当初は局所的な伝導によって、その後、加熱された前記第一の冷却液が膨張し、浮揚性を有するようになると、対流によって伝達され、それにより熱が対流によって前記第一の熱伝達装置へ流れるようにするステップ」を含むのに対して、引用発明では、「調整冷却液」(「第一の冷却液」)、「システム冷却液」(「第二の冷却液」)、「設備冷却液」(「第三の冷却液」)を用いる冷却方法であるが、「第3冷却ループ170は、少なくとも1つの電子機器サブシステム135内で、微小冷却構造体180を通して調整冷却液を循環させ、かつ、第2熱交換器160において電子機器サブシステム135の熱発生コンポーネント190(例えば電子機器モジュール)からの熱を放出し、熱は、熱交換器160において第2冷却ループ122、123のシステム冷却液に放出され、調整冷却液は、ポンプ175により、放熱ユニット195の第3冷却ループ170を通って循環」するものであって、「調整冷却液」(「第一の冷却液」)の加熱で生じた対流によって熱を伝えるものではない点。

(2) 当審の判断
事案に鑑みて、上記[相違点3]について先に検討する。
引用文献2(上記「第5」、「2 引用文献2」の記載を参照。)には、例えばハイブリッド自動車に搭載可能なインテリジェントパワーモジュール(IPM)の電力変換器インバーター用回路の素子冷却構造として、カバー部材40は、背面放熱板20と上方放熱板22と協動して、フィンピッチを最小0.1mmまで小さくすることが可能な冷却フィン14が上面に設けられたパワー素子12及び基板を密閉する空間を形成し、この密閉空間内には、絶縁性流動物質30が充填され、対流を利用してパワー素子12の熱を効果的に外部に放出することができることが記載されていると認定できる。
引用発明は、「システム冷却液」(「第二の冷却液」)と「設備冷却液」(「第三の冷却液」)とを用いる冷却方法では、「従来の空気冷却技術、さらに従来の液体冷却の冷却板の概念もはるかに越えると予測される」ような電力レベルでの将来の冷却の必要性に対処するために、「システム冷却液」を、50-100μmまたはそれ以下のスケールの「微小冷却構造体」にポンプにより循環させる場合、粒子汚染により冷却が阻害される場合があるために(引用文献1の段落【0015】)、「システム冷却液」とは別に新たに「第3冷却ループ」を設けて、「調整冷却液」(「第一の冷却液」)を「微小冷却構造体」にポンプにより循環させる冷却構造を採用した構成である。
すなわち、引用発明は、「従来の液体冷却の冷却板の概念もはるかに越えると予測される」ような電力レベルに対処するための、「微小冷却構造体」に「調整冷却液」をポンプにより循環させるという構成を前提とした発明であるから、ここで、引用文献2の上記記載から、たとえ、密閉空間内での絶縁性流動物質の「対流」による素子冷却構造という技術的事項が周知技術であるとしても、引用発明において、「微小冷却構造体」に「調整冷却液」をポンプにより循環させる構成を、それよりも冷却効率が相対的に劣ることが明らかな、密閉空間内での絶縁性流動物質の「対流」による素子冷却構造に置き換えるべき動機付けや起因は見いだし難い。
また、引用文献3(上記「第5」、「3 引用文献3」の記載を参照。)には、熱交換器の最終段の配管をヒートシンクに接続して循環させる周知技術が記載され、引用文献4(上記「第5」、「4 引用文献4」の記載を参照。)には、冷却水の流量を制御することで温度変化を制御する周知技術が記載され、引用文献5(上記「第5」、「5 引用文献5」の記載を参照。)には、冷却液の流路にバッファタンクを設ける周知技術が記載されるが、これらの周知技術を参照しても、引用発明において「従来の液体冷却の冷却板の概念もはるかに越えると予測される」ような電力レベルに対処する冷却構造としての「微小冷却構造体」に冷却液をポンプにより強制的に循環させる構成に替えて、密閉空間内での絶縁性流動物質の「対流」による素子冷却構造という技術的事項を用いることは、当業者であっても、容易に想到し得るとはいえない。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2-5に記載された周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2-10について
本願発明2-10は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明1の上記[相違点3]に係る、第一の冷却液、第二の冷却液、第三の冷却液を用いる冷却方法において、「熱が前記電子機器から前記第一の冷却液に、当初は局所的な伝導によって、その後、加熱された前記第一の冷却液が膨張し、浮揚性を有するようになると、対流によって伝達され、それにより熱が対流によって前記第一の熱伝達装置へ流れるようにするステップ」を含む構成と、同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-5に記載された周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明11について
本願発明11は、本願発明1に対応する、カテゴリ表現が異なる「電子システム」の発明であり、本願発明1の上記[相違点3]に係る、第一の冷却液、第二の冷却液、第三の冷却液を用いる冷却方法において、「熱が前記電子機器から前記第一の冷却液に、当初は局所的な伝導によって、その後、加熱された前記第一の冷却液が膨張し、浮揚性を有するようになると、対流によって伝達され、それにより熱が対流によって前記第一の熱伝達装置へ流れるようにするステップ」に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-5に記載された周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 本願発明12-28について
本願発明12-28は、本願発明11を減縮した発明であり、本願発明1の上記[相違点3]に係る、第一の冷却液、第二の冷却液、第三の冷却液を用いる冷却方法において、「熱が前記電子機器から前記第一の冷却液に、当初は局所的な伝導によって、その後、加熱された前記第一の冷却液が膨張し、浮揚性を有するようになると、対流によって伝達され、それにより熱が対流によって前記第一の熱伝達装置へ流れるようにするステップ」に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2-5に記載された周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定についての判断
平成30年9月25日付けの補正により補正された、請求項1-28は、第一の冷却液、第二の冷却液、第三の冷却液を用いる冷却方法において、「熱が前記電子機器から前記第一の冷却液に、当初は局所的な伝導によって、その後、加熱された前記第一の冷却液が膨張し、浮揚性を有するようになると、対流によって伝達され、それにより熱が対流によって前記第一の熱伝達装置へ流れるようにするステップ」を含むという技術事項を有するものであり、当該技術的事項は、原査定における引用文献A(引用文献2)-引用文献Dには記載されておらず、本願優先日前における周知技術でもないので、本願発明1-28は、原査定における引用文献A及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-12-25 
出願番号 特願2015-189870(P2015-189870)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 征矢 崇  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 稲葉 和生
山田 正文
発明の名称 冷却される電子システム  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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