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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1347158
審判番号 不服2016-1831  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-05 
確定日 2018-12-17 
事件の表示 特願2013-192263「細胞の酸化的損傷に関連した病変を治療するためのDHA、EPAまたはDHA由来のEPAの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月13日出願公開、特開2014- 28830〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成18年12月20日(パリ条約による優先権主張 2005年12月21日(ES)スペイン、2006年9月25日(ES)スペイン(2件)、2006年12月20日(ES)スペイン)を国際出願日とする出願である特願2008-546448号の一部を平成25年9月17日に新たな特許出願としたものであって、平成27年9月30日付けで拒絶査定がされ、平成28年2月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、平成28年6月20日付け前置報告書に対応して平成28年11月28日に上申書が提出された後、平成29年2月21日付け拒絶理由通知に対して平成29年8月23日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年10月31日付け拒絶理由通知に対して平成30年5月7日に意見書が提出されたものである。


2 平成29年8月23日に提出された手続補正書による手続補正
平成29年8月23日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を、
「 【請求項1】
グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置することに用いるための医薬組成物であって、グリセリドの少なくともsn-2位置に酵素的に組み込まれたドコサヘキサエン酸(DHA)を含んでなり、前記グリセリドに酵素的に組み込まれたDHAの総量が総脂肪酸に対して40?100重量%であり、
前記疾患が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、神経変性的病変、眼の病変、虚血性病変、炎症性過程またはアテローム性動脈硬化症であって、
前記神経変性的病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症および筋ジストロフィーから選択することができ、
前記眼の病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、色素性網膜炎、黄斑変性および白内障から選択することができ、
前記虚血性病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、心筋梗塞および脳梗塞から選択することができ、
前記炎症性過程が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、関節炎、脈管炎、糸球体腎炎およびエリテマトーデスから選択することができる、医薬組成物。
【請求項2】
グリセリドに酵素的に組み込まれたDHAの総量が、総脂肪酸に対して66?100重量%である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
DHAが、モノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセリドに酵素的に組み込まれたものである、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
グリセリドが、少なくとも一種類の脂肪酸をさらに含んでなる、請求項1?3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
グリセリドが、短鎖および/または中鎖脂肪酸から選択される少なくとも一種類の酸をさらに含んでなる、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
短鎖脂肪酸がC1-C8の脂肪酸である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
中鎖脂肪酸がC9-C14の脂肪酸である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
医薬組成物が、もう一つの活性成分をさらに含む、請求項1?7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置することに用いるための化粧用組成物であって、グリセリドの少なくともsn-2位置に酵素的に組み込まれたドコサヘキサエン酸(DHA)を含んでなり、前記グリセリドに酵素的に組み込まれたDHAの総量が総脂肪酸に対して40?100重量%であり、
前記疾患が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、神経変性的病変、眼の病変、虚血性病変、炎症性過程またはアテローム性動脈硬化症であって、
前記神経変性的病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症および筋ジストロフィーから選択することができ、
前記眼の病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、色素性網膜炎、黄斑変性および白内障から選択することができ、
前記虚血性病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、心筋梗塞および脳梗塞から選択することができ、
前記炎症性過程が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、関節炎、脈管炎、糸球体腎炎およびエリテマトーデスから選択することができる、化粧用組成物。
【請求項10】
グリセリドに酵素的に組み込まれたDHAの総量が、総脂肪酸に対して66?100重量%である、請求項9に記載の化粧用組成物。
【請求項11】
DHAが、モノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセリドに酵素的に組み込まれたものである、請求項9または10に記載の化粧用組成物。
【請求項12】
グリセリドが、少なくとも一種類の脂肪酸をさらに含んでなる、請求項9?11のいずれか一項に記載の化粧用組成物。
【請求項13】
グリセリドが、短鎖および/または中鎖脂肪酸から選択される少なくとも一種類の酸をさらに含んでなる、請求項12に記載の化粧用組成物。
【請求項14】
短鎖脂肪酸がC1-C8の脂肪酸である、請求項13に記載の化粧用組成物。
【請求項15】
中鎖脂肪酸がC9-C14の脂肪酸である、請求項13に記載の化粧用組成物。
【請求項16】
化粧用組成物が、もう一つの活性成分をさらに含む、請求項9?15のいずれか一項に記載の化粧用組成物。
【請求項17】
グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置することに用いるための栄養補給組成物であって、グリセリドの少なくともsn-2位置に酵素的に組み込まれたドコサヘキサエン酸(DHA)を含んでなり、前記グリセリドに酵素的に組み込まれたDHAの総量が総脂肪酸の40?100重量%であり、
前記疾患が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、神経変性的病変、眼の病変、虚血性病変、炎症性過程またはアテローム性動脈硬化症であって、
前記神経変性的病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症および筋ジストロフィーから選択することができ、
前記眼の病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、色素性網膜炎、黄斑変性および白内障から選択することができ、
前記虚血性病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、心筋梗塞および脳梗塞から選択することができ、
前記炎症性過程が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、関節炎、脈管炎、糸球体腎炎およびエリテマトーデスから選択することができる、栄養補給組成物。
【請求項18】
グリセリドに酵素的に組み込まれたDHAの総量が、総脂肪酸に対して66?100重量%である、請求項17に記載の栄養補給組成物。
【請求項19】
DHAが、モノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセリドに酵素的に組み込まれたものである、請求項17または18に記載の栄養補給組成物。
【請求項20】
グリセリドが、少なくとも一種類の脂肪酸をさらに含んでなる、請求項17?19のいずれか一項に記載の栄養補給組成物。
【請求項21】
グリセリドが、短鎖および/または中鎖脂肪酸から選択される少なくとも一種類の酸をさらに含んでなる、請求項20に記載の栄養補給組成物。
【請求項22】
短鎖脂肪酸がC1-C8の脂肪酸である、請求項21に記載の栄養補給組成物。
【請求項23】
中鎖脂肪酸がC9-C14の脂肪酸である、請求項21に記載の栄養補給組成物。
【請求項24】
栄養補給組成物が、もう一つの活性成分をさらに含む、請求項17?23のいずれか一項に記載の栄養補給組成物。」
に補正するものである。


3 平成29年10月31日付けで通知した拒絶理由
(1)平成29年10月31日付けで通知した拒絶理由の内容
平成29年10月31日付けで通知した拒絶理由は、平成29年 8月23日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないというものであり、その具体的な内容は、以下のとおりである。

「平成29年 8月23日付けでした手続補正後の特許請求の範囲には、
「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患」(請求項1、請求項9、請求項17)とある。
この補正について、請求人は同日付け意見書において、
「請求項1、10および18のそれぞれにおいて、「細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患」なる記載を、「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患」と補正いたしました(下線は補正箇所を示します)。本補正は、本件当初明細書の段落0130の「DHAの組込みによって示される細胞の酸化防止活性は、・・・、グルタチオン細胞内濃度(GSH)の増加にも関係している。ARPE-19細胞では(図16)、BSO(GSH合成の特異的阻害剤)の添加により、GSH細胞内濃度の減少(図15)と直接関係しているDHAの保護作用が減少するので(図17)、DHAはGSHデ・ノボ合成に直接関係したGSH細胞内濃度の増加を誘導する。同様な作用は、包皮細胞について示される(図18)」なる記載および図16?18に基づくものです。」(当該意見書2.の項)と主張するとともに、
「ご指摘に鑑み、本件発明の対象となる「細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患」を、「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患」に限定する補正をしました。」(当該意見書3.(2)(ii)の項)、「すなわち、補正後の本件発明は、「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患」であって、補正後の請求項1、9および17において列挙された具体的な疾患を対象とする、特定の用途のための医薬組成物、化粧用組成物および栄養補給組成物に関するものです。」(当該意見書3.(4)(ii)の項)、及び「上記(4)(ii)で述べた通り、補正後の本件発明は、「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患」であって、補正後の請求項1、9および17において列挙された具体的な疾患を対象とする、特定の用途のための医薬組成物、化粧用組成物および栄養補給組成物に関するものです。」(当該意見書3.(5)(ii)の項)などとも主張する。

しかし、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」ともいう。)の発明の詳細な説明においては、
「【0113】
細胞内内因性酸化防止剤濃度の測定
還元型グルタチオンの細胞内濃度(GSH)の測定
細胞溶解物の還元型グルタチオン(GSH)の直接速度論的測定法。グルタチオンは、細胞内に主として還元型形態(総グルタチオンの90-95%)で見出すことができ、組織の主要な酸化防止剤である。その役割は、生体異物の解毒およびヒドロペルオキシドを除去して細胞の酸化還元状態を保持することである。」との記載があって、グルタチオンが組織の主要な酸化防止剤であり、生体異物の解毒およびヒドロペルオキシドを除去して細胞の酸化還元状態を保持する役割を担うことが示されるとともに、
「【0130】
DHAの組込みによって示される細胞の酸化防止活性は、SODおよびGPX酵素活性の保持のような上記で考察した総ての態様に関係しているが、グルタチオン細胞内濃度(GSH)の増加にも関係している。ARPE-19細胞では(図16)、BSO(GSH合成の特異的阻害剤)の添加により、GSH細胞内濃度の減少(図15)と直接関係しているDHAの保護作用が減少するので(図17)、DHAはGSHデ・ノボ合成に直接関係したGSH細胞内濃度の増加を誘導する。同様な作用は、包皮細胞について示される(図18)。」との記載があって、DHAがグルタチオン細胞内濃度の増加を誘導することが示されている。

一方、請求人の主張にもかかわらず、グルタチオン細胞内濃度の増加により細胞の酸化的損傷が起こることの根拠となる記載は、当初明細書等に見出すことはできない。
また、グルタチオン細胞内濃度の増加により細胞の酸化的損傷が起こることは、当初明細書等のすべての記載を総合することによっても、導き出すことはできず、本願出願時の技術常識であるともいえない。

したがって、平成29年 8月23日付けでした手続補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
よって、平成29年 8月23日付けでした手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。

(この拒絶理由通知に対して、「グルタチオン細胞内濃度の増加による」(請求項1、請求項9、請求項17)を削除する補正は、特許請求の範囲を拡張するものとなるので、「最後の拒絶理由通知」に対する補正の目的についての制限(特許法第17条の2第5項)に違反する点に留意されたい。)



なお、当該補正がなされた請求項1?24に記載した事項は、当初明細書等に記載した事項の範囲内にないことが明らかであるから、当該請求項に係る発明については新規性進歩性等の特許要件についての審理を行っていない。」


(2)平成29年10月31日付けで通知した拒絶理由に対する請求人の主張
請求人は、平成30年5月7日に提出した意見書において、以下のとおり主張している。

「(b)本件発明の医薬組成物は、細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患、例えば、神経変性的病変、眼の病変、虚血性病変、炎症性過程またはアテローム性動脈硬化症を、少なくともsn-2位置に酵素的に組込まれたDHAを有するDHAグリセリドの作用によってグルタチオンの細胞内濃度を増加させることにより治療するという効果を奏するものです。
そして、このようなDHAグリセリドの作用は、本件当初明細書の実施例(特に段落0122?0132)において客観的に示されております。
かかる本件当初明細書の記載を勘案すれば、ご指摘のあった請求項1、9および17の「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置することに用いるための医薬組成物」なる記載において、「グルタチオン細胞内濃度の増加による」なる文言は、その後の「処置」にかかるものであり、「細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患」にかかるものでないことは明確であると思料いたします。
また、かかる本件当初明細書の記載を勘案すれば、「グルタチオン細胞内濃度の増加による」なる文言が、その後の「処置」にかかるものであることは、当業者であれば十分に理解し得ると思料いたします。」


(3)願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」ともいう。)の記載
願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」ともいう。)には、還元型グルタチオンの細胞内濃度及びDHAの酸化防止活性に関連して、以下のア.?コ.の記載がある。

ア.「【0001】
本発明は、酸化的損傷に関連した過程の治療を目的とする薬剤を製造するための、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)またはDHA由来のEPAの濃縮された酸の使用に関する。」(段落0001)

イ.「【0007】
反応性酸素種(ROS)は、通常の細胞機能中に産生される。ROSとしては、スーパーオキシドアニオン、過酸化水素およびオキシドリルラジカルが挙げられる。それらの化学的反応性が高いことによって、タンパク質、DNAまたは脂質が酸化される。スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)およびグルタチオン(glutation)ペルオキシダーゼ(GPx)は、ROSの存在によって引き起こされる分子および細胞損傷から保護する主要な酸化防止酵素である。酸化的ストレスによって多数の代謝チャンネルが活性化され、幾つかは細胞を保護するものであるが、他のものは細胞死を生じる。最近の研究では、ROS生成と崩壊の不均衡は多くの病気の病因における重要な危険因子であり、幾つかの場合には、酸化防止系の劣化に関係していることが示されている。」(段落0007)

ウ.「【0028】
従って、本発明の目的は、細胞の酸化的損傷の治療を目的とする医薬組成物を製造するためのドコサヘキサエン酸の使用である。
【0029】
本発明のもう一つの目的は、グリセロール主鎖の特定の位置におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の使用であって、グリセリドの残りの2つの位置も細胞の酸化的損傷を治療するためにその組成物で特定されている。
【0030】
本発明の更にもう一つの目的は、DNAレベルでの細胞の酸化的損傷の治療を目的とする組成物を製造するためのドコサヘキサエン酸(DHA)の使用である。詳細には、ドコサヘキサエン酸の使用は、テロメア短縮の自然過程における保護剤および細胞の酸化的損傷の治療における早期老化の抑制剤としての実用性を有する。
【0031】
本発明のもう一つの目的は、細胞の老化およびミトコンドリア呼吸鎖の疾患と関連した遺伝病の治療用の組成物、並びにダウン症候群の治療用の組成物を製造するためのドコサヘキサエン酸の使用である。
【0032】
本発明のもう一つの目的は、運動に関連した細胞の酸化的損傷を治療するための組成物を製造するためのドコサヘキサエン酸(DHA)の使用である。詳細には、ドコサヘキサエン酸の使用は、スポーツ能力の向上剤およびスポーツ活動中の血中グルコース濃度の調節剤としての実用性を有する。
【0033】
本発明のもう一つの目的は、運動能力を高める組成物,並びに主として食物、乳製品または運動するときに人々によって典型的に用いられる任意の適当な投与形態の投与によって運動後の血中グルコースレベルを維持する組成物を製造するためのドコサヘキサエン酸の使用である。
【0034】
本発明において、「細胞の酸化的損傷」という表現は、内因性または外因性起源の細胞の酸化剤種の生成および分解の不均衡を含む任意の過程を意味する。」(段落0028?0034)

エ.「【0110】
酸化防止酵素活性の測定
グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)活性の測定
GPxはヒドロペルオキシドの還元型グルタチオンへの還元を触媒し、その機能は細胞を酸化的損傷から保護することである。これは、グルタチオンを最終的電子供与体として用い、還元型のセレノシステインを再生する。GPxは、グルタチオンレダクターゼとの共役反応(coupled reaction)によって間接測定される。GPxの作用によるヒドロペルオキシドとの反応によって生成した酸化型グルタチオン(GSSG)は、NADPHを補酵素として用いるグルタチオンレダクターゼによってその還元状態へリサイクルされる。」(段落0110)

オ.「【0113】
細胞内内因性酸化防止剤濃度の測定
還元型グルタチオンの細胞内濃度(GSH)の測定
細胞溶解物の還元型グルタチオン(GSH)の直接速度論的測定法。グルタチオンは、細胞内に主として還元型形態(総グルタチオンの90-95%)で見出すことができ、組織の主要な酸化防止剤である。その役割は、生体異物の解毒およびヒドロペルオキシドを除去して細胞の酸化還元状態を保持することである。」(段落0113)

カ.「【0122】
網膜細胞モデルにおけるDHAの酸化防止活性の評価
このイン・ビトロでの研究では、細胞モデルはARPE-19細胞(色素性網膜上皮細胞,ATCC CRL-2302)に基づいており、様々な酸化剤インデューサーに対してイン・ビトロ応答が良好であるため適当な種類の細胞であり、同時に正常な栄養要件と培養条件を有する一次培養物である。これは、網膜色素上皮細胞の生物学的および機能的特性を保持しているので、良好な眼のモデルをも構成する。
【0123】
結果
この細胞系を用いて行ったアッセイは、前節で包皮細胞について記載したアッセイと同じである。基本的要件は、総ての作業条件下での細胞生育力の保持に関するものと同じであった(DHA、酸化的ストレスの効果)。分析を行った用量でのDHAの組込みは、基礎細胞の酸化的状態の有意な変更を伴わなかった。
【0124】
40mM AAPHを用いて中程度の酸化的ストレスを誘導し、DHR123をROS検出器として用いると、DHAは0.5μM(43%保護)および5μM(32%保護)の濃度で反応性酸素種の生成を抑制する効果を示すが、50μMのDHAでは効果は低くなる(4%保護)(図7A)。細胞に60mM AAPHを用いて過酷な誘導を行うと、DHAは0.5μM濃度でROS生成に対して保護効果(13%保護)を示すが、更に高濃度のDHAでは効果は低くなる(図7A)。これらの結果は包皮細胞を用いて得たものと同様であるが、1つの顕著な他と異なる効果は過酷な酸化的誘導に対してみられる保護の低下である。ROS検出するために過酸化物に更に特異的なCDCFDAを用いることによって、DHAがAAPHによって誘導される酸化的ストレスに対して働くことが保護であることも明らかになる(図7B)。
【0125】
DHAの保護反応速度は、常に誘導を行う60-120分後に最大酸化防止剤効果を示し、DHAのヒドロペルオキシドおよびスーパーオキシドアニオン封鎖能の飽和を示す。定量的には、DHA濃度が増加すると、ROS封鎖能が失われ、0.5μM濃度がその酸化防止能で最も効果的であるので、酸化防止能は決定的に用量依存性である(図7Aおよび7B)。これに関して、系の効率の最適化に関してもう一つの重要なパラメーターは、DHA対総脂肪酸の比である。総脂肪酸に対するDHAの割合を70%から50-20%に減少すると、最適濃度(0.5-5μM)におけるその細胞酸化防止能が有意かつ非比例的に減少し、高濃度と等しくなるが(図8Aおよび8B)、包皮細胞とは異なり、どのような比でもDHAは酸化促進性とはならない。これらの結果から、DHAの細胞酸化防止効果はその濃度にのみ依存するものではなく、決定的因子はその分子局在化、この場合には、トリグリセリドの構造におけるその分布であることが確かめられる。
【0126】
ROS生成の特異的抑制について、過酸化脂質(TBARS)(図9)およびスーパーオキシドアニオン(図10)の生成について分析を行った。得られた結果は、包皮細胞で得られたものに極似している。AAPHで処理した細胞は、非誘導細胞と比較して、チオバルビツール酸(TBARS)に反応性の物質とスーパーオキシドアニオンを高濃度で生成する。DHAをARPE-19細胞の膜に組込むと、細胞の基礎脂質過酸化が若干かつ用量依存的に(0.5、5および50μM)増加するが、酸化的誘導を行った細胞では、DHAは細胞の酸化防止活性を示し、それらの濃度と逆比で膜脂質ヒドロペルオキシドの生成を抑制する。DHAによる保護は、0.5μM DHAについては64%、5μMについては58%であり、50μM DHAについては42%であった(図9)。次に、スーパーオキシドアニオンの生成を分析した。酸化的誘導の非存在下では、DHAを組込んだ細胞は、対照と比較して高レベルの細胞内スーパーオキシドアニオンを示さない(図10A)。40mM AAPHによる酸化的ストレスでは、スーパーオキシドアニオンを生成し、これはDHAによって部分的に抑制される(0.5-50μMの濃度で20-16%)。この抑制は、含まれているDHAによるSOD活性と一致する(図10B)。SOD活性は、含まれているDHAを用いる基礎状態では増加は見られないが(-10/15%)、包皮細胞と同様に、酸化的ストレス過程に固有のSOD活性の喪失は含まれているDHAによって抑制され、基礎SOD活性は保持される。
【0127】
最後に、DHAが、最も重要な細胞の酸化防止剤としてのGPx酵素の活性を変化させるかどうかを見出す目的で分析を行った(図11)。GPx活性は、試験したDHAの総ての濃度で基礎状態の細胞で増加し(12-40%)、この作用は酸化的誘導状態では完全に保持され、2.5倍のGPx活性も示す(図11)。包皮細胞の場合と同様に、これらの結果は、DHAが、内因性細胞酵素系の酸化防止防御の活性を調節することによってその酸化防止作用の役割を行うことを示唆している。
【0128】
トリグリセリドに組込まれたDHAの酸化防止活性における合成法の影響
このイン・ビトロ分析では、ARPE-19細胞(網膜色素上皮細胞,ATCC CRL-2302)および包皮細胞(未分化表皮繊維芽細胞,ATCC CRL-2076)を細胞モデルとして用い、様々な酸化剤インデューサーに対するイン・ビトロ応答が良好であることにより適当な細胞系である。化学的方法(CHEM)または酵素法(ENZ)によって得たマグロ油トリグリセリド(DHA 20%-TG,20%モル/DHA)またはDHAを50または70モル%強化した油誘導体(DHA50%-TGおよびDHA70%-TG)を、活性成分として用いた。
【0129】
結果
ARPE-19細胞において40mM AAPHによる中程度の酸化的ストレスを誘導し、DHR123またはH2DCFDAをROS細胞内検出器として用いると、天然DHA(DHA20%-TG)および化学的に得られたトリグリセリドに組込まれたもの(DHA50%-TG-CHEMおよびDHA70%-TG-CHEM)は、0.5μMおよび5μMのいずれの濃度でも反応性酸素種の生成に抑制作用を示すが50μMでは作用は低くなる(図13A)。この作用はDHAの含量によって変化し、DHA70%-TG-CHEM>DHA50%-TG-CHEM>DHA20%-TGである。同一濃度では(0.5、5および50μM)、酵素的に得られた油は、総てのDHA含量で高活性を示す(DHA70%-TG-ENZおよびDHA50%-TG-ENZ)(図13B)。包皮細胞を用いる同様の研究では、結果は一層意外なものであった。高用量のDHA70%-TG-CHEMおよびDHA50%-TG-CHEMで示される酸化促進活性(図13C)は、酵素起源の油では総ての濃度で酸化防止性となる(DHA70%-TG-ENZおよびDHA50%-TG-ENZ)(図13D)。化学的に得た油の固有のポリマーをクロマトグラフィー法によって除去すると(DHA70%-Tg-BPM)、ARPE-19細胞における酸化防止活性が大幅に減少し、高濃度(5および50μM)では酸化促進性となる(図14)。酵素合成によって得られたトリグリセリドに組込まれたDHAの酸化防止活性も、エチルエステル、遊離脂肪酸または血清アルブミンに結合した脂肪酸のような他の化学構造に組込まれたDHAによって示される活性より(少なくとも2倍)高い(図15)。
【0130】
DHAの組込みによって示される細胞の酸化防止活性は、SODおよびGPX酵素活性の保持のような上記で考察した総ての態様に関係しているが、グルタチオン細胞内濃度(GSH)の増加にも関係している。ARPE-19細胞では(図16)、BSO(GSH合成の特異的阻害剤)の添加により、GSH細胞内濃度の減少(図15)と直接関係しているDHAの保護作用が減少するので(図17)、DHAはGSHデ・ノボ合成に直接関係したGSH細胞内濃度の増加を誘導する。同様な作用は、包皮細胞について示される(図18)。
【0131】
酵素合成によるDHAの酸化防止活性で得られる改良点は、エイコサペンタエン酸(EPA)のような別のω-3脂肪酸にも適用できる。ARPE-19細胞を用いる研究では、酵素的に得られるEPA(EPA70%-TG-ENZ)は酸化防止活性を有することが示されており、DHA(DHA70%-TG-ENZ)で見られるような極めて低いものであるが、化学的に得られかつポリマーを含まないEPA(EPA-70%-TG-BPM)は極めて酸化促進性であることが示されている(図19)。更に、酵素的に得られるEPA(EPA70%-Tg-ENZ)は、包皮細胞ではDHAについてのようにGSH細胞内濃度の増加(図21)に関係したDHA(DHA70%-TG-ENZ)より高い顕著な酸化防止活性を示す(図20)。
【0132】
網膜細胞モデルの構造トリグリセリドに組込まれたDHAの酸化防止活性の評価
このイン・ビトロアッセイでは、ARPE-19細胞(網膜色素上皮細胞,ATCC CRL-2302)を細胞モデルとして用い、様々な酸化剤インデューサーに対してイン
・ビトロ応答が良好であるため適当な種類の細胞であり、同時に正常な栄養要件と培養条件を有する一次培養物である。更に、これは網膜色素上皮細胞の生物学的および機能的特性を保持しているので、良好な眼のモデルである。活性成分として、マグロ油(DHA20%-TG,20モル%/DHA)または70% DHA強化油(DHA70%-TG,70モル%/DHA)由来の構造トリグリセリドであって、酵素法によってsn-1およびsn-3位の脂肪酸がオクタン酸で置換されているものが用いられてきた。これらの新規化合物では、DHAのモル含量はDHA20%-TGでは7%であり、DHA70%-TGでは22%である。
【0133】
結果(図22参照)
40mM AAPHにより中程度の酸化的ストレスを誘導し、DHR123をROS検出器として用いると、通常のトリグリセリドに組込まれたDHA(DHA20%-TGおよびDHA70%-TG)は、0.5μMおよび5μMのいずれの濃度でも反応性酸素種の生成に抑制作用を示すが、50μMでは作用は低くなる(図22)。この作用はDHAの含量によって変化し、DHA70%-TG>DHA20%である。同一濃度では、真のDHA濃度が2-3分の1である構造油は、DHA20%-TGの場合に同じか(0.5μM濃度)または一層高い活性(5μMおよび50μM濃度)を示す。DHA70%-TGの場合には、構造トリグリセリドの効率は最適濃度より若干低いが(0.5μMおよび5μM)、高濃度での作用は逆転し(50μM)、総体的に一層安定でかつ余り用量に依存しない作用を示す。」(段落0122?0133)

キ.「【0134】
ヒト皮膚モデルにおける加齢に関連したテロメアの長さの保護剤としてのDHA活性の評価
このイン・ビトロアッセイでは、包皮細胞(未分化表皮繊維芽細胞,ATCC CRL-2076)を細胞モデルとして用い、正常な栄養要件および培養条件を有する一次培養物であることに加えて、様々な酸化剤インデューサーに対するイン・ビトロ応答が良好であり、DHAの潜在的な化粧品への応用を目的としてイン・ビボ応答に外挿できる良好なイン・ビトロモデルを構成している。
【0135】
方法
細胞培養物
用いた細胞モデルは、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)から入手した包皮細胞(未分化表皮繊維芽細胞、CRL-2076)であった。細胞培養物を、この目的のために特別にデザインしたインキュベーターで温度(37℃)、CO_(2)濃度(5%)および湿度(95%)の適当な生長条件に保持した。CRL-2076繊維芽細胞は、10%ウシ胎仔血清、ペニシリン抗生物質(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)およびグルタミン(Biological Industries)を補足したイスコブの改良ダルベッコ培地の培養フラスコで増殖させた。
【0136】
細胞へのDHAの組込み
酵素的に合成したDHA-TG 70%は、油をエタノールに溶解して保存溶液(1:100)とし、血清で調製した培地で使用溶液を調製することによって作製したものを0.5μM濃度で加えた。細胞は、補足DHA-TG培地で37℃にて3日間培養した。
【0137】
酸化的ストレスの誘導
脂質およびタンパク質過酸化を誘導することによってフリーラジカルの親水性開始剤として広汎に用いられる2,2’-アゾビス-(2-アミジノプロパン)二塩酸塩(AAPH)を40mMの濃度で用いて、細胞に酸化的ストレスを加えた。AAPHは、形成したペルオキシルラジカルの作用によってDNA、タンパク質および脂質を酸化する。これは、重要な酵素であるSODを失活させることによってCATおよびGPxの保護能を失う
ので、内因性防御系にも作用する。
【0138】
テロメアの長さの測定
高反復DNAによって構成されるテロメア領域は、イン・シテューハイブリダイゼーション法によって評価することができる。テロメア配列に相補性のプローブを用いる蛍光によるイン・シテューハイブリダイゼーション法(FISH)によって、テロメアの存在または非存在を検出し、同時に細胞当たりのまたは染色体群当たりのテロメアを定量することができる。フローFISHと呼ばれるこの方法は、フローサイトメトリーを汎テロメアPNA(ペプチド核酸)をプローブとして用いるFISH法と組み合わせて用い、個々の細胞の染色体末端の平均テロメア長を蛍光強度を用いて測定することができる。本発明の目的のため、PNAの蛍光強度を中期の染色体で標識した。結果は、テロメア蛍光単位(TFU)として表され、それぞれのTFUは反復テロメア1kbに対応している。
【0139】
結果
DHAを組込んだまたは組込んでいない酸化的ストレス条件下で培養したヒト繊維芽細胞におけるテロメアの平均長の変化を、フロー-FISHによって分析した(図23)。線形回帰を用いて、テロメア長と細胞個体群のパス番号(pass number)との関係を分析した。分析した総ての培養物について、回帰直線の傾きはテロメア短縮インデックスと直接的に理解することができる。ヒト繊維芽細胞では、過剰な細胞内フリーラジカルを誘導するAAPHで処理することによって、テロメア短縮インデックスは顕著に増進される。一方、細胞の酸化防止防御を増加することが明らかにされているDHAを0.5μMの濃度で組込むと、上記インデックスはDHAなしでの値と比較して50%だけ減少する。更に、DHAの組込みにより、正常な対照の繊維芽細胞と比較してもテロメア短縮インデックスを減少させることができる。」(段落0134?0139)

ク.「【図面の簡単な説明】
【0140】
……
【図7A】ROSの細胞内生成に対するARPE-19細胞の培地におけるDHA濃度の効果。細胞は、総脂肪酸に対して70重量%のDHAを用いてトリグリセリドの存在下にて3日間培養した後、実験に供した。(A)ROSは、40または60mMのAAPHで180分間処理した細胞でDHR123(A)またはCDCFDA(B)を用いて検出した。データは、3つの独立した実験の平均値を示す。
【図7B】ROSの細胞内生成に対するARPE-19細胞の培地におけるDHA濃度の効果。細胞は、総脂肪酸に対して70重量%のDHAを用いてトリグリセリドの存在下にて3日間培養した後、実験に供した。(A)ROSは、40または60mMのAAPHで180分間処理した細胞でDHR123(A)またはCDCFDA(B)を用いて検出した。データは、3つの独立した実験の平均値を示す。
【図8A】ROSの細胞内生成に対するARPE-19細胞の培地におけるトリグリセリドのDHA濃度の比較効果。細胞は、それぞれのトリグリセリドの存在下にて3日間培養した後、実験に供した。x軸上の濃度は、DHAの割合が70重量%であるトリグリセリドを用いて得られるものと同等である。ROSは、40mMのAAPHで180分間処理した細胞についてDHR 123を用いて検出した。データは、3つの独立した実験の平均値を示す。(B)油中の20、50および70%のDHA濃度に対する酸化防止保護を表したもの。
【図8B】ROSの細胞内生成に対するARPE-19細胞の培地におけるトリグリセリドのDHA濃度の比較効果。細胞は、それぞれのトリグリセリドの存在下にて3日間培養した後、実験に供した。x軸上の濃度は、DHAの割合が70重量%であるトリグリセリドを用いて得られるものと同等である。ROSは、40mMのAAPHで180分間処理した細胞についてDHR 123を用いて検出した。データは、3つの独立した実験の平均値を示す。(B)油中の20、50および70%のDHA濃度に対する酸化防止保護を
表したもの。
【図9】ARPE-19細胞におけるTBARSの生成に対するDHA濃度の効果。細胞は、総脂肪酸に対して70重量%のDHAを用いてトリグリセリドの存在下にて3日間培養した後、指示した濃度で実験に供した。酸化的ストレスは、40mM AAPHを用いて6時間および24時間の潜伏期間で誘導した。データは、3つの独立した実験の平均値を示す。
【図10】スーパーオキシドアニオンの生成に対するARPE-19細胞培地におけるDHA濃度の効果。細胞は、総脂肪酸に対して70重量%のDHAを用いてトリグリセリドの存在下にて3日間培養した後、実験に供した。スーパーオキシドアニオンは、40mM AAPHによる細胞の酸化的誘導の直後に化学発光によって検出した。データは、3つの独立した実験の典型的なものである。
【図11】GPx活性に対するARPE-19細胞培地でのDHA濃度の効果。細胞は、総脂肪酸に対して70重量%のDHAを用いてトリグリセリドの存在下にて3日間培養した後、実験に供した。GPx活性は、誘導されない細胞系または40mM AAPHで誘導した細胞系について評価した。データは、3つの独立した実験の典型的なものである。
……
【図13】ARPE-19細胞(AおよびB)または包皮細胞(CおよびD)における細胞保護対酸化的ストレスの比に対する化学合成(AおよびC)または酵素合成(BおよびD)によって得たDHA濃度の効果。
【図14】ARPE-19細胞における細胞保護対DHAによって誘導される酸化的ストレスの比に対する化学合成によって得た油状生成物の精製度の影響。
【図15】細胞保護対ARPE-19細胞でDHAによって誘導される酸化的ストレスの比に対する化学構造の影響。
【図16】ARPE-19細胞におけるグルタチオンの細胞内濃度に対するDHA濃度の効果。BSOの存在の影響。
【図17】ARPE-19細胞における細胞保護対DHAによって誘導される酸化的ストレスの比に対するグルタチオンデ・ノボ合成の影響。
【図18】包皮細胞におけるグルタチオンの細胞内濃度に対するDHA濃度の効果。BSOの存在の影響。
【図19】ARPE-19細胞における細胞保護対EPAによって誘導される酸化的ストレスの比に対する化学合成によって得た油状生成物の精製度の影響。DHAを用いる比較研究。
【図20】包皮細胞における細胞保護対酸化的ストレスの比に対するEPA濃度の効果。DHAを用いる比較研究。
【図21】包皮細胞におけるグルタチオンの細胞内濃度に対するEPA濃度の効果。BSOの存在の影響。
【図22】細胞保護の比に対して様々な投薬量の構造および非構造トリグリセリドにおけるDHAの割合の効果を示す比較用棒グラフ。 上図22は、非構造グリセリド化学構造(トリグリセリド)を同一構造であって、sn-1およびsn-3位がカプリル酸(構造体)で置換されており、いずれもDHA含量が20および70%の2つの出発レベルを有する酵素供給源由来のものと比較するときには、本発明の目的の意外な結果を示している。 図から、同一濃度でグリセリド(構造)、特にトリグリセリドのsn-2位に組込まれたドコサヘキサエン酸の保護の比率は、非構造DHAを含むグリセリドより約3倍大きい効率を示すことが観察される。 このような図22では、保護比は、対照細胞および対照細胞に関してDHAで処理した細胞の反応性酸素種の細胞内濃度における差の関係を示しており、いずれも百分率で表された同一酸化的ストレスを受けている。換言すれば、保護比の存在は、処理した細胞において、対照に関して反応性酸素種の統計学的に有意な細胞内生成が少ない。
【図23】DHAを組込んでまたは組込まずに酸化的ストレス下で培養したヒト繊維芽細胞におけるテロメアの平均長と細胞個体のパス番号(pass number)を示す比較用グラフ。 上図23は、酸化的ストレス条件下におけるDHAの存在下では、テロメア短縮インデックスは対照またはDHAなしと比較して低いことを観察する本発明の目的の意外な結果を示している。
……」(段落0140)

ケ.「【図7A】


【図7B】


【図8A】


【図8B】


【図9】


【図10】


【図11】


【図12】


【図13】


【図14】


【図15】


【図16】


【図17】


【図18】


【図19】


【図20】


【図21】


【図22】



コ.「【図23】




4 検討及び判断
(1)請求人の平成30年5月7日に提出した意見書にける主張、すなわち、平成29年8月23日付けでした手続補正により補正された特許請求の範囲の「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置することに用いるための医薬組成物」(請求項1、請求項9、請求項17)との記載における「グルタチオン細胞内濃度の増加による」との文言は「処置」にかかるものであるとの主張が受け入れられるかを検討する。

(i)前記3(3)に示した記載ア.及び記載ウ.には、細胞の酸化的損傷の治療を目的とする医薬組成物を製造するためにドコサヘキサエン酸(DHA)を使用することが記載されており、同記載カ.、同記載ク.及び同記載ケ.には、網膜細胞モデルにおけるDHAの酸化防止活性の評価をおこなった結果、DHAは、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)やグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)などの内因性細胞酵素系の酸化防止防御の活性を調節することによって、酸化防止作用を奏することが示唆されることが記載され(特に、段落0122?0127)、トリグリセリドに組み込まれたDHAの酸化防止活性における合成法の影響を調べた結果、組込まれたDHAによる細胞の酸化防止活性は、SODおよびGPx酵素活性の保持並びにグルタチオン細胞内濃度(GSH)濃度の増加に関係しており、組込まれたDHAはグルタチオン細胞内濃度の増加を誘導することが記載されている(特に、段落0128?0131)。
また、同記載イ.には、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)が、細胞を酸化的損傷から保護する酸化防止酵素であることが記載され、同記載エ.には、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)がヒドロペルオキシドの還元型グルタチオンへの還元を触媒することが記載されている。
また、同記載オ.には、グルタチオンは、組織の主要な酸化防止剤であり、生体異物の解毒およびヒドロペルオキシドを除去して細胞の酸化還元状態を保持する役割を有することが記載されている。
さらに、同記載キ.、同記載ク.及び同記載コ.には、組込まれたDHAがテロメア短縮抑制活性を有することが記載されている。

しかし、同記載ア.?コ.を含め、当初明細書等の記載のどこにも、細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を、グルタチオン細胞内濃度の増加により処置することは記載されていない。
また、同記載オ.にグルタチオンは組織の主要な酸化防止剤であることは記載されているものの、グルタチオン細胞内濃度の増加により、細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置できること、すなわち、当該疾患の治療ないし症状軽減が可能であることは、当初明細書等のすべての記載を総合することによっても、導き出すことはできず、技術常識から明らかであるとも認められない。

したがって、「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置することに用いるための医薬組成物」(請求項1、請求項9、請求項17)との記載における「グルタチオン細胞内濃度の増加による」との文言を「処置」にかかるものであるとすることは、妥当ではない。

(ii)平成29年8月23日付けでした手続補正により補正された特許請求の範囲には、
「前記疾患が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、神経変性的病変、眼の病変、虚血性病変、炎症性過程またはアテローム性動脈硬化症であって、
前記神経変性的病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症および筋ジストロフィーから選択することができ、
前記眼の病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、色素性網膜炎、黄斑変性および白内障から選択することができ、
前記虚血性病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、心筋梗塞および脳梗塞から選択することができ、
前記炎症性過程が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、関節炎、脈管炎、糸球体腎炎およびエリテマトーデスから選択することができる」(請求項1、請求項9、請求項17)との記載がある。
この記載は、「前記疾患」が「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる」ものであることを規定するものである。
ここで、「前記疾患」は、「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置することに用いるための医薬組成物」(請求項1、請求項9、請求項17)との記載における「疾患」を示すことが明らかであり、その「疾患」が「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる」ものであると規定される以上、「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置することに用いるための医薬組成物」(請求項1、請求項9、請求項17)との記載における「グルタチオン細胞内濃度の増加による」との文言は、「処置」にかかるものではなく、「細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患」にかかるものであることが、明らかである。

(iii)請求人は平成29年8月23日に提出した意見書の3.(2)(ii)の項において、
「ご指摘に鑑み、本件発明の対象となる「細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患」を、「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患」に限定する補正をしました。」と述べており、これは、「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置することに用いるための医薬組成物」(請求項1、請求項9、請求項17)との記載における「グルタチオン細胞内濃度の増加による」との文言が「細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患」にかかるものであることを前提としたものと認められる。

(iv)小括
以上(i)?(iii)により、請求人の平成30年5月7日に提出した意見書における主張は受け入れられず、「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置することに用いるための医薬組成物」(請求項1、請求項9、請求項17)との記載における「グルタチオン細胞内濃度の増加による」との文言は、「処置」にかかるものではなく、「細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患」にかかるものであると認められる。

(2)平成29年10月31日付けで通知した拒絶理由について検討する。
当該拒絶理由に記したとおり、グルタチオン細胞内濃度の増加により細胞の酸化的損傷が起こることの根拠となる記載は、前記3(3)に示した記載ア.?コ.を含め、当初明細書等に見出すことはできない。
また、グルタチオン細胞内濃度の増加により細胞の酸化的損傷が起こることは、当初明細書等のすべての記載を総合することによっても、導き出すことはできず、本願出願時の技術常識であるともいえない。

したがって、平成29年8月23日付けでした手続補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
よって、平成29年8月23日付けでした手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないとした当該拒絶理由は、妥当なものである。

(3)仮に、請求人が平成30年5月7日に提出した意見書において主張するように、「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置することに用いるための医薬組成物」(請求項1、請求項9、請求項17)との記載における「グルタチオン細胞内濃度の増加による」との文言は「処置」にかかるものであるとした場合に、平成29年8月23日付けでした手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものか否かを検討する。

前記3(3)に示した記載ア.及び記載ウ.には、細胞の酸化的損傷の治療を目的とする医薬組成物を製造するためにドコサヘキサエン酸(DHA)を使用することが記載されており、同記載カ.、同記載ク.及び同記載ケ.には、網膜細胞モデルにおけるDHAの酸化防止活性の評価をおこなった結果、DHAは、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)やグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)などの内因性細胞酵素系の酸化防止防御の活性を調節することによって、酸化防止作用を奏することが示唆されることが記載され(特に、段落0122?0127)、トリグリセリドに組み込まれたDHAの酸化防止活性における合成法の影響を調べた結果、組込まれたDHAによる細胞の酸化防止活性は、SODおよびGPx酵素活性の保持並びにグルタチオン細胞内濃度(GSH)濃度の増加に関係しており、組込まれたDHAはグルタチオン細胞内濃度の増加を誘導することが記載されている(特に、段落0128?0131)。
また、同記載イ.には、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)が、細胞を酸化的損傷から保護する酸化防止酵素であることが記載され、同記載エ.には、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)がヒドロペルオキシドの還元型グルタチオンへの還元を触媒することが記載されている。
また、同記載オ.には、グルタチオンは、組織の主要な酸化防止剤であり、生体異物の解毒およびヒドロペルオキシドを除去して細胞の酸化還元状態を保持する役割を有することが記載されている。
さらに、同記載キ.、同記載ク.及び同記載コ.には、組込まれたDHAがテロメア短縮抑制活性を有することが記載されている。

しかし、同記載ア.?コ.を含め、当初明細書等の記載のどこにも、細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を、グルタチオン細胞内濃度の増加により処置することは記載されていない。
また、同記載オ.にグルタチオンは組織の主要な酸化防止剤であることは記載されているものの、グルタチオン細胞内濃度の増加により、細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置できること、すなわち、当該疾患の治療ないし症状軽減が可能であることは、当初明細書等のすべての記載を総合することによっても、導き出すことはできず、技術常識から明らかであるとも認められない。

したがって、仮に、請求人が平成30年5月7日に提出した意見書において主張するように、「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置することに用いるための医薬組成物」(請求項1、請求項9、請求項17)との記載における「グルタチオン細胞内濃度の増加による」との文言は「処置」にかかるものであるとした場合にも、平成29年8月23日付けでした手続補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
よって、平成29年8月23日付けでした手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないとした当該拒絶理由は、妥当なものである。

(4)請求人の示した補正案
(i)請求人は、平成30年5月7日に提出した意見書において、
「3.結語
以上の通り、審判請求人は、ご指摘の拒絶理由は解消され得るものと考えます。
また、審判請求人は、ご指摘のあった記載について、「グルタチオン細胞内濃度の増加による」なる文言が「処置」にかかるものであり、「細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患」にかかるものでないことを明確にするために、必要であれば、請求項1、9および17をそれぞれ以下のように補正することを考えております。
また、上記でご説明申し上げた内容をご審理いただいた上で、必要とのご判断がある場合には、審判請求人は、さらなる補正をする準備もございます。
つきましては、さらなる反論および補正の機会を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。」
と述べるとともに、以下の補正案を示している。

「[請求項1]
グルタチオン細胞内濃度を増加させることにより、細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置することに用いるための医薬組成物であって、グリセリドの少なくともsn-2位置に酵素的に組み込まれたドコサヘキサエン酸(DHA)を含んでなり、前記グリセリドに酵素的に組み込まれたDHAの総量が総脂肪酸に対して40?100重量%であり、
前記疾患が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、神経変性的病変、眼の病変、虚血性病変、炎症性過程またはアテローム性動脈硬化症であって、
前記神経変性的病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症および筋ジストロフィーから選択することができ、
前記眼の病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、色素性網膜炎、黄斑変性および白内障から選択することができ、
前記虚血性病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、心筋梗塞および脳梗塞から選択することができ、
前記炎症性過程が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、関節炎、脈管炎、糸球体腎炎およびエリテマトーデスから選択することができる、医薬組成物。」

「[請求項9]
グルタチオン細胞内濃度を増加させることにより、細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置することに用いるための化粧用組成物であって、グリセリドの少なくともsn-2位置に酵素的に組み込まれたドコサヘキサエン酸(DHA)を含んでなり、前記グリセリドに酵素的に組み込まれたDHAの総量が総脂肪酸に対して40?100重量%であり、
前記疾患が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、神経変性的病変、眼の病変、虚血性病変、炎症性過程またはアテローム性動脈硬化症であって、
前記神経変性的病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症および筋ジストロフィーから選択することができ、
前記眼の病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、色素性網膜炎、黄斑変性および白内障から選択することができ、
前記虚血性病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、心筋梗塞および脳梗塞から選択することができ、
前記炎症性過程が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、関節炎、脈管炎、糸球体腎炎およびエリテマトーデスから選択することができる、化粧用組成物。」

「[請求項17]
グルタチオン細胞内濃度を増加させることにより、細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置することに用いるための栄養補給組成物であって、グリセリドの少なくともsn-2位置に酵素的に組み込まれたドコサヘキサエン酸(DHA)を含んでなり、前記グリセリドに酵素的に組み込まれたDHAの総量が総脂肪酸の40?100重量%であり、
前記疾患が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、神経変性的病変、眼の病変、虚血性病変、炎症性過程またはアテローム性動脈硬化症であって、
前記神経変性的病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症および筋ジストロフィーから選択することができ、
前記眼の病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、色素性網膜炎、黄斑変性および白内障から選択することができ、
前記虚血性病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、心筋梗塞および脳梗塞から選択することができ、
前記炎症性過程が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、関節炎、脈管炎、糸球体腎炎およびエリテマトーデスから選択することができる、栄養補給組成物。」

(ii)請求人の示した補正案についての判断
前記「5.判断」において示したとおり、平成29年 8月23日付けでした手続補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないので、本願は、特許法第49条第1号に該当し、拒絶すべきものであるが、念のために、請求人の示した補正案についても検討する。

平成30年5月7日に提出された意見書に示された補正案の請求項1、請求項9及び請求項17には、
「前記疾患が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、神経変性的病変、眼の病変、虚血性病変、炎症性過程またはアテローム性動脈硬化症であって、
前記神経変性的病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、多発性硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症および筋ジストロフィーから選択することができ、
前記眼の病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、色素性網膜炎、黄斑変性および白内障から選択することができ、
前記虚血性病変が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、心筋梗塞および脳梗塞から選択することができ、
前記炎症性過程が、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる、関節炎、脈管炎、糸球体腎炎およびエリテマトーデスから選択することができる」との記載があって、「前記疾患」が「グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる」ものであることが規定されているところ、同記載ア.?コ.を含め、当初明細書等の記載のどこにも、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を、グルタチオン細胞内濃度の増加により処置することは記載されていない。
また、同記載オ.にグルタチオンは組織の主要な酸化防止剤であることは記載されているものの、グルタチオン細胞内濃度の増加により、グルタチオン細胞内濃度の増加による細胞の酸化的損傷により引き起こされる疾患を処置できること、すなわち、当該疾患の治療ないし症状軽減が可能であることは、当初明細書等のすべての記載を総合することによっても、導き出すことはできず、技術常識から明らかであるとも認められない。

したがって、仮に、平成30年5月7日に提出された意見書に示された補正案のとおりの手続補正がされたとしても、その手続補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
よって、仮に、平成30年5月7日に提出された意見書に示された補正案のとおりの手続補正がされたとしても、その手続補正もまた特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさないものであるから、請求人にさらなる手続補正の機会を与えることは妥当ではない。


5 まとめ
以上のとおり、平成29年 8月23日付けでした手続補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないので、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-07-25 
結審通知日 2018-07-27 
審決日 2018-08-07 
出願番号 特願2013-192263(P2013-192263)
審決分類 P 1 8・ 561- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田村 直寛  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 榎本 佳予子
村上 騎見高
発明の名称 細胞の酸化的損傷に関連した病変を治療するためのDHA、EPAまたはDHA由来のEPAの使用  
代理人 中村 行孝  
代理人 浅野 真理  
代理人 反町 洋  
代理人 勝沼 宏仁  

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