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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1347296
審判番号 不服2017-15081  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-10 
確定日 2018-12-20 
事件の表示 特願2013-232782「画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年5月18日出願公開,特開2015-94796〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2013-232782号(以下「本件出願」という。)は,平成25年11月11日を出願日とする特許出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成29年 4月21日付け:拒絶理由通知書
平成29年 7月11日 :意見書
平成29年 7月11日 :手続補正書
平成29年 8月 1日付け:拒絶査定
平成29年10月10日 :審判請求書
平成29年10月10日 :手続補正書
平成29年12月20日 :上申書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年10月10日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の請求項1の記載は,次のとおりである。
「 一次粒子径が40?190nmの無機酸化物である外添剤を含むトナーと,
フッ素系樹脂粒子のみで構成された粒子を表面層に含む感光体と,
上記感光体の表面を清掃するクリーニングブレードと
を備えた画像形成装置であって,
前記フッ素系樹脂粒子の一次粒子径は,前記外添剤の一次粒子径の3.64?7.5倍であることを特徴とする画像形成装置。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線は当合議体が付したものであり,補正箇所を示す。
「 平均一次粒子径が40?190nmの無機酸化物である外添剤を含むトナーと,
フッ素系樹脂粒子のみで構成された粒子を表面層に含む感光体と,
上記感光体の表面を清掃するクリーニングブレードと
を備えた画像形成装置であって,
前記フッ素系樹脂粒子の平均一次粒子径は,前記外添剤の平均一次粒子径の3.64?4.55倍であることを特徴とする画像形成装置。」

2 補正の適否
本件補正は,本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0080】の表1に記載された実施例1?実施例8の記載に基づいて,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である,フッ素系樹脂粒子の平均一次粒子径の範囲の上限を,実施例7の4.55倍に狭める(限定する)補正を含むものである。また,本件出願の明細書の【0001】及び【0005】?【0007】の記載からみて,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された,発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は,同一である。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が,同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。
(1) 本件補正後発明
本件補正後発明は,上記1(2)に記載したとおりのものである。

(2) 引用文献1の記載
平成29年8月1日付け拒絶査定(以下「原査定」という。)の拒絶の理由で引用され,本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2007-86160号公報(以下「引用文献1」という。)には,以下の記載がある(要部のみ示す。)。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,電子写真感光体を有しトナーを用いて現像を行なう画像形成装置に関する。本発明の画像形成装置は,複写機やレーザープリンターおよび普通紙ファクシミリ等に応用される。
【背景技術】
【0002】
近年,情報産業の急速な発展に伴い,産業上又はオフィス用途として,高画質,低ランニングコストな画像記録が望まれてきている。
…(省略)…
【0003】
…(省略)…現像器内のトナーの外添剤,転写紙の紙粉等が感光体上に堆積しても,電子写真感光体表面が削られることがないため,これら異物を起点に融着が発生したり,さらには融着部分におけるクリーニング部材の圧接により電子写真感光体表面に傷が発生する確率が増加したりするなどの問題が潜在している。
【0004】
…(省略)…特に近年においては,現像性や転写性などの観点からさまざまな外添剤を付与する場合も多く,より詳しくは従来と比較して粒径の比較的大きな外添剤を使用する場合がある。これら現像剤と前記感光体との関与は非常に大きく,また一義的に決まるものではないため,最適な電子写真システムを構築することは難しい。
…(省略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,上述事情に鑑みてなされたものであって,高画質な画像を形成し,かつ耐久性能に優れ長期使用時にも品質が低下することのない画像安定性に優れた画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は少なくとも電子写真感光体と,感光体の外表面に電荷を付与する帯電手段と,帯電された感光体に光照射して静電潜像を形成させる露光手段と,感光体の表面に形成された静電潜像にトナーを転移させてトナー像を形成させる現像手段と,トナー像を転写材に転写する転写手段とを有し,該トナーが少なくとも結着樹脂および着色剤を含有するトナー粒子と無機微粒子を含有する,画像形成装置において,25℃,湿度50%の環境下,最終荷重6mNとする,ビッカース四角錐ダイヤモンド圧子を用いた硬度試験で測定した電子写真感光体の弾性変形率が45?65%であり,該無機微粒子の個数平均粒径が60?300nmであることを特徴とする画像形成装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,高画質かつ長期使用時にも品質が低下することのない画像安定性に優れた画像形成装置を提供することができる。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
…(省略)…
【0020】
本発明に用いられるトナーには,少なくとも個数平均粒径が60?300nmである無機微粒子が外添される。該無機微粒子の好ましい個数平均粒径は85?300nmである。粒径が60nmより小さいと,転写性が劣る傾向にあり,300nmより大きいと,トナー母体から遊離しやすい弊害がある。
【0021】
前記無機粒子の例には,シリカ,アルミナ,チタニア,炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,リン酸カルシウム,酸化セリウム等の,通常トナー表面の外添剤として使用される総ての粒子が含まれる。
前記無機微粒子の個数平均粒径は,5万倍に拡大したトナー粒子表面の写真から,中心付近に存在する無機微粒子の長径を10視野にわたり測定し,その平均値を数平均粒子径とすることにより求める。前記拡大写真は,例えばFE-SEM(日立制作所製S-4700)により得られる。
【0022】
さらに本発明において用いられるトナーには,従来から一般的に使用されている個数平均粒径が10?60nmである無機微粒子を外添あるいは内添するのが好ましい。
…(省略)…
【0025】
次に本発明の画像形成装置における電子写真感光体について説明する。
【0026】
前記電子写真感光体は,導電層支持体,および該導電層支持体上に形成された感光層を含む。
…(省略)…
【0054】
本発明においては,導電性支持体(又は導電層)と感光層の間にバリアー機能と接着機能を備えた中間層を設けることができる。
…(省略)…
【0056】
本発明において,中間層,感光層等には各種添加剤を添加することが出来る。添加剤の例には,酸化防止剤や紫外線吸収剤等の劣化防止剤;フッ素系樹脂微粒子等の滑材;等が含まれる。
…(省略)…
【0143】
本発明の画像形成装置は,前述のトナーを用い,かつ,前述の電子写真感光体を有するという点以外は通常の画像形成装置とすることができる。図18に本発明における電子写真感光体を有する画像形成装置の例の概略構成を示す。
(当合議体注:図18は以下の図である。

)
図18は,電子写真感光体4を負に帯電させた場合の一例を示している。図18において,ドラム状の電子写真感光体4は,軸20を中心に矢印z方向に所定の周速度で回転駆動される。電子写真感光体4は,回転過程において,一次帯電手段21によりその周面に負の所定電位の均一帯電を受け,次いでスリット露光やレーザービーム走査露光等の露光手段(不図示)からの露光光22を受ける。こうして電子写真感光体4の周面に静電潜像が順次形成されて行く。
形成された静電潜像は,次いで現像手段23によりトナー現像される。現像されたトナー像は,不図示の給紙部から,電子写真感光体4の回転と同期に取り出されて,電子写真感光体4と転写手段24との間に給紙された転写材25に,転写手段24により順次転写されていく。像転写を受けた転写材25は,電子写真感光体4の面から分離されて像定着手段26へ導入されて像定着を受けることにより複写物(コピー)として装置外へプリントアウトされる。
像転写後の電子写真感光体4の表面は,クリーニング手段27によって転写残りトナーの除去を受けて清浄面化され,更に前露光光28により除電処理された後,繰り返し画像形成に使用される。なお,一次帯電手段21が帯電ローラ等を用いた接触帯電手段である場合は,前露光は必ずしも必要ではない。
…(省略)…
【0146】
本発明における電子写真感光体は電子写真複写機に利用するのみならず,レーザービームプリンター,CRTプリンター,LEDプリンター,液晶プリンター及びレーザー製版等の電子写真応用分野にも広く用いることができる。」

ウ 「【実施例】
【0147】
以下に,具体的な実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。なお,実施例中の「部」は質量部を表す。
【0148】
(トナー(A)の製造)
…(省略)…体積平均粒径7.5μmのトナー粒子を得た。
得られたトナー粒子の100部に対して,疎水性シリカ1(個数平均粒径:10nm)を1.0部,疎水性シリカ2(個数平均粒径:110nm)を1.0部,酸化チタン(個数平均粒径:50nm)を0.8部とを,ヘンシェルミキサーで外添してトナー(A)を得た。
…(省略)…
【0150】
(トナー(C)の製造)
トナー(A)の製造において,疎水性シリカ2を疎水性シリカ4(個数平均粒径:85nm)とした以外はトナー(A)の製造と同様にしてトナー(C)を得た。
…(省略)…
【0152】
(感光体A-1の製造)
…(省略)…導電層用塗料をアルミニウムシリンダ(外径30mm)上に浸漬法によって塗布し,150℃で50分間加熱して硬化させることにより,膜厚が15μmの導電層を形成した。
【0153】
次に…(省略)…膜厚が0.45μmの中間層を形成した
【0154】
次に…(省略)…膜厚が0.2μmの電荷発生層を形成した。
…(省略)…
【0156】
次いで…(省略)…膜厚が21μmの電荷輸送層を形成した。
…(省略)…
【0158】
次いで,下記構造式(3)の正孔輸送性化合物450部,及びポリテトラフルオロエチレン粒子(ダイキン工業製:ルブロンL2)50部をn-プロピルアルコール800部に混合した後分散処理を行い,保護層用塗料を調整した。この保護層用塗料を前記電荷輸送層上に塗布した後,大気中50℃で10分間乾燥した。
【0159】
【化3】

【0160】
その後窒素中において加速電圧150kV,線量15KGyの条件で前記アルミニウムシリンダを回転させながら2秒間電子線照射を行い,引き続いて窒素中において25℃から120℃までおよそ100秒かけて昇温させ硬化反応を行った。なお電子線照射及び加熱硬化反応中の酸素濃度は10ppmであった。その後大気中において,100℃で30分の後加熱処理を行って,膜厚5μmの保護層を形成し,電子写真感光体A-1を得た。
…(省略)…
【0177】
(実施例A-1)
複写機(商品名:GP55,キヤノン(株)製)を2成分現像システムに改造し,上記電子写真感光体A-1,および,上記トナー(A)を用いて22℃/55%RHの環境下で,50000枚の通紙耐久実験を行い,画像傷発生の有無(◎:なし,○:ハーフトーンにてごく軽微な数本の傷あり,△:ハーフトーンにて数本の傷あり,×:ハーフトーン全面に傷あり),画像におけるクリーニング(CLN)性評価(○:CLN不良なし,×:CLN不良発生)を確認した。また,耐久後のドラム表面を観察し,現像剤の融着の有無(◎:なし,○:数箇所の融着あり,△:長手方向全面に軽微な融着あり,×:画像に出る融着あり)を確認した。さらに,電子写真感光体の削れ高さを実機削れ高さとして測定した。なお削れ高さは,渦電流式膜厚計(カールフィッシャー社製)を使用し,初期の膜厚と通紙後の膜厚の差分として得た。また,通紙耐久はプリント1枚ごとに1回停止する間欠モードとした。結果を表2に示す。
…(省略)…
【0180】
【表2】

…(省略)…
【0199】
(感光体C-1の製造)
アルミニウムシリンダを外径84mmのものに変更した以外は,感光体A-1と同様に電子写真感光体を作製した後,図24に示す乾式ブラスト装置(不二精機製造所製)を用いて,下記条件にてブラスト処理を行った。
…(省略)…
更に,圧縮エアを吹き付けることによって,感光体表面に残存付着した研磨材を除去し,電子写真感光体C-1を作製した。
(当合議体注:図24は以下の図である。

)
…(省略)…
【0203】
(実施例C-1)
複写機(商品名:iRC6800,キヤノン(株)製)を負帯電の有機電子写真感光体が装着できるように改造し,上記電子写真感光体C-1および上記トナー(A)を2成分現像器に投入した装置を用いて,22.5℃/5%RHの環境下で,A4単色5枚間欠で100000枚の通紙耐久実験を行い,耐久後のドラム上融着の観察(◎:なし,○:数箇所の融着あり,△:長手方向全面に軽微な融着あり,×:画像に出る融着あり),クリーニングブレードのエアー面へのトナー裏周り観察(◎:裏周りなし,○:ブレードスラスト方向に部分的に少量のトナー裏周りあり,△:ブレードスラスト方向全体にトナー裏周りあり,×:大量にトナー裏周りあり)によってクリーニング性を評価した。結果を表6に示す。
…(省略)…
【0206】
(実施例C-8)
上記トナー(C)と電子写真感光体C-1を用いて,実施例C-1と同様に評価した。結果を表6に示す。
…(省略)…
【0209】
【表6】



(3) 引用発明
引用文献1には,トナー(C)(【0148】及び【0150】)と電子写真感光体C-1(【0152】?【0160】及び【0199】)を用いた実施例C-8(【0203】及び【0206】)として,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 体積平均粒径7.5μmのトナー粒子に対して,疎水性シリカ1(個数平均粒径:10nm),疎水性シリカ4(個数平均粒径:85nm),酸化チタン(個数平均粒径:50nm)を外添して得たトナー(C)と,
アルミニウムシリンダ上に導電層を形成し,次に中間層を形成し,次に電荷発生層を形成し,次いで電荷輸送層を形成し,次いで正孔輸送性化合物及びポリテトラフルオロエチレン粒子(ダイキン工業製:ルブロンL2)をn-プロピルアルコールに混合した保護層用塗料を電荷輸送層上に塗布した後,乾燥し硬化反応を行い,その後,後加熱処理を行って保護層を形成して電子写真感光体を作製した後,ブラスト処理を行い作製した電子写真感光体C-1を,2成分現像器に投入した複写機であって,
通紙耐久実験後のクリーニング性が,ドラム上融着なし,クリーニングブレードのエアー面へのトナー裏周りなしと評価される,
複写機。」

(4) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりである。
ア トナー
引用発明の「トナー(C)」は,「体積平均粒径7.5μmのトナー粒子に対して,疎水性シリカ1(個数平均粒径:10nm),疎水性シリカ4(個数平均粒径:85nm),酸化チタン(個数平均粒径:50nm)を外添して得た」ものである。ここで,引用発明の「疎水性シリカ4」は,「個数平均粒径:85nm」であるから,平均一次粒子径が40?190nmの範囲にあり,また,「シリカ」であるから,無機酸化物といえる。
(当合議体注:引用文献1の【0021】に記載の測定方法からみて,引用発明の「個数平均粒径」は,平均一次粒子径と理解される。)
したがって,引用発明の「トナー(C)」は,本件補正後発明の「トナー」に相当するとともに,「平均一次粒子径が40?190nmの無機酸化物である外添剤を含む」という要件を満たす。

イ 感光体
引用発明の「電子写真感光体C-1」は,「アルミニウムシリンダ上に導電層を形成し,次に中間層を形成し,次に電荷発生層を形成し,次いで電荷輸送層を形成し,次いで,正孔輸送性化合物及びポリテトラフルオロエチレン粒子(ダイキン工業製:ルブロンL2)をn-プロピルアルコールに混合した保護層用塗料を電荷輸送層上に塗布した後,乾燥し硬化反応を行い,その後,後加熱処理を行って保護層を形成して電子写真感光体を作製した後,ブラスト処理を行い作製した」ものである。
そうしてみると,引用発明の「保護層」は,「電子写真感光体C-1」の表面層ということができる。また,引用発明の「電子写真感光体C-1」は,フッ素系樹脂粒子である「ポリテトラフルオロエチレン粒子(ダイキン工業製:ルブロンL2)」のみで構成された粒子を表面層に含むものといえる。
したがって,引用発明の「電子写真感光体C-1」は,本件補正後発明の「感光体」に相当するとともに,「フッ素系樹脂粒子のみで構成された粒子を表面層に含む」という要件を満たす。

ウ 複写機
引用発明の「複写機」は,「通紙耐久実験後のクリーニング性」が「クリーニングブレードのエアー面へのトナー裏周りなしと評価される」ものである。そうしてみると,引用発明の「複写機」は,「電子写真感光体C-1」の表面を清掃するクリーニングブレードを備えるといえる。
また,引用発明の「複写機」は,「トナー(C)」と,「電子写真感光体C-1を,2成分現像器に投入した複写機」である。そして,引用発明の「複写機」は,画像形成装置の下位概念といえる。
したがって,引用発明の「複写機」は,本件補正後発明の「画像形成装置」に相当する。また,引用発明の「複写機」は,本件補正後発明の画像形成装置」における,「トナー」と,「感光体」と,「上記感光体の表面を清掃するクリーニングブレードと」「を備えた画像形成装置」という要件を満たす。

(5) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 平均一次粒子径が40?190nmの無機酸化物である外添剤を含むトナーと,
フッ素系樹脂粒子のみで構成された粒子を表面層に含む感光体と,
上記感光体の表面を清掃するクリーニングブレードと
を備えた画像形成装置。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,次の点で相違する。
(相違点)
本件補正後発明において,「前記フッ素系樹脂粒子の平均一次粒子径は,前記外添剤の平均一次粒子径の3.64?4.55倍である」のに対して,引用発明においては,一応,これが明らかではない点。

(6) 判断
引用発明の「ポリテトラフルオロエチレン粒子」は,「ルブロンL2」であり,これは,本件補正後発明でいう「平均一次粒子径」が,「0.3μm」である「フッ素系樹脂粒子」に該当する(当合議体注:特開2001-249481号公報の【0077】等の記載からも確認できる事項である。)。
また,引用発明の「疎水性シリカ4」は,「個数平均粒径:85nm」である。
そうしてみると,引用発明において,「ポリテトラフルオロエチレン粒子」の平均一次粒子径は,「疎水性シリカ4」の平均一次粒子径の約3.53倍(0.3μm÷85nm≒3.53)と計算される。そして,この「3.53倍」は,「3.64?4.55倍」の範囲にないから,この観点からしてみると,本件補正後発明と引用発明は,上記の相違点において相違するようにみえる。

しかしながら,「3.64」という値の技術的意義について検討すると,上記の相違点は,実質的には,相違点であるとはいえない。
すなわち,本件補正後発明の「3.64」という値は,本件出願の明細書の【0080】の表1の実施例5において,「ルブロンL5F」の「0.4μm」を,「KE-P10」の「0.11μm」で除して得られたものにすぎない。したがって,有効数字を考慮すると,「3.64」という値は,±0.6程度の幅を持つ値として理解されるべきである。
(当合議体注:有効数字を考慮すると,「0.4÷0.11」は,「0.35÷0.115≒3.04」から「0.45÷0.105≒4.29」までの幅を持った数値として理解されるべきである。)
したがって,本件補正後発明の「3.64」という値と引用発明の「3.53」という値とは,その技術的意義において相違するものとはいえず,この点において,本件補正後発明と引用発明は,同一である。

有効数字の点は措いて,さらにすすんで検討する。
引用文献1の【0020】には,「本発明に用いられるトナーには,少なくとも個数平均粒径が60?300nmである無機微粒子が外添される…粒径が60nmより小さいと,転写性が劣る傾向にあり,300nmより大きいと,トナー母体から遊離しやすい弊害がある。」と記載されている。
そうしてみると,例えば,「転写性が劣る傾向」よりも「トナー母体から遊離しやすい弊害」を重視する当業者が,引用発明の「疎水性シリカ4(個数平均粒径:85nm)」の個数平均粒径を,若干小さい方に変更すること(66?82nmの範囲に変更すること)は,引用文献1の記載が明示的に示唆する範囲内の設計変更にすぎない。そして,引用発明の「疎水性シリカ4(個数平均粒径:85nm)」の個数平均粒径を66?82nmに変更した場合には,前記相違点に係る本件補正後発明の要件を満たすことになる。
したがって,引用発明を,前記相違点に係る本件補正後発明の要件を満たすものに変更することは,引用文献1の記載の示唆にしたがう当業者における,通常の創意工夫の範囲内の事項である。

(7) 発明の効果について
本件補正後発明の効果に関して,本件出願の明細書の【0013】には,「本発明によれば,フッ素系樹脂粒子が離脱して形成された感光体の凹部に,トナーから離脱した外添剤が埋没固定化されることがないため,クリーニングブレードの欠損を防止し,感光体のフィルミングや画像欠陥を防止することができる。」と記載されている。
しかしながら,この効果は,引用発明も奏する効果にすぎない。
すなわち,本件出願の明細書の【0080】の表1には,粒子径比(PTFE/シリカ)が2.61?7.50の範囲で,クリーニング性が○(【0107】:クリーニング不良に起因する画像欠陥,および,感光体表面のフィルミングの両方が,目視で確認できない。)であることが記載されている。また,引用発明の「ポリテトラフルオロエチレン粒子」の平均一次粒子径は,「疎水性シリカ4」の平均一次粒子径の約3.53倍である。そして,引用発明は,本件補正後発明のその余の構成もすべて具備するものである。
したがって,本件補正後発明の効果は,引用発明も具備する効果である。

(8) 上申書について
請求人は,平成29年12月20日に上申書を提出し,以下の補正案を示している(下線部が,本願発明と異なる箇所となる。)。
「 外添剤として,平均一次粒子径が40?190nmのシリカ微粒子と,前記シリカ微粒子の平均一次粒子径より小さい平均一次粒子径を有する疎水性シリカ微粒子とのみを含むトナーと,
フッ素系樹脂粒子のみで構成された粒子を表面層に含む感光体と,
上記感光体の表面を清掃するクリーニングブレードと
を備えた画像形成装置であって,
前記フッ素系樹脂粒子の平均一次粒子径は,前記シリカ微粒子の平均一次粒子径の3.64?4.55倍であることを特徴とする画像形成装置。」

しかしながら,引用文献1の【0020】及び【0022】には,それぞれ,「本発明に用いられるトナーには,少なくとも個数平均粒径が60?300nmである無機微粒子が外添される。」及び「さらに本発明において用いられるトナーには,従来から一般的に使用されている個数平均粒径が10?60nmである無機微粒子を外添あるいは内添するのが好ましい。」と記載されている。
そうしてみると,引用発明のトナー粒子には,「個数平均粒径が60?300nmである無機微粒子」と「個数平均粒径が10?60nmである無機微粒子」が外添されていれば良いといえる。
そうしてみると,引用発明において,例えば,コストを考慮した当業者が,「酸化チタン(個数平均粒径:50nm)」を使用しないこと,あるいは,引用文献1の【0022】の記載に従い,外添に替えて内添とすることは,引用文献1の上記の記載が示唆する範囲内の事項にすぎないといえる。
したがって,補正案を採用することはできない。

請求人は,上申書において,本件補正後発明の「平均一次粒子径」は,体積平均のものであると主張する。
しかしながら,本件出願の明細書の【0016】には,「本発明の画像形成装置に用いるトナー2は,トナー母粒子20表面にシリカ粒子からなる外添剤21が固着された静電荷像現像用トナーであって,該トナー母粒子20が5?7μmの体積平均粒子径を有し,該外添剤21が40?190nmの平均一次粒子径を有する小粒径外添剤21aと大粒径外添剤21bからなる。」と記載されている。すなわち,本件補正後発明のトナーの平均粒子径は「体積平均粒子径」であると明示されている一方,外添剤の平均一次粒子径は「平均一次粒子径」と書き分けられているから,本件補正後発明の外添剤の平均一次粒子径は,個数平均であっても,体積平均であっても構わないものといえる。
(当合議体注:仮に,本件補正後発明の外添剤の平均一次粒子径を,体積平均のものと解釈したとしても,結論に変わりはない。すなわち,引用発明の【0020】の記載からみて,引用発明の「疎水性シリカ4(個数平均粒径:85nm)」の粒径分布は,シャープであることが望ましいといえる。そうしてみると,引用発明の「疎水性シリカ4(個数平均粒径:85nm)」の個数平均粒径を,若干小さい方に変更した場合の体積平均による平均一次粒子径を66?82nmの範囲に変更することは,やはり,引用文献1の記載が明示的に示唆する範囲内の設計変更にすぎない。)

(9) 小括
本件補正後発明は,引用文献1に記載された発明であるか,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって,本件補正後発明は,特許法29条1項3号に該当することにより,又は29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,[補正の却下の決定の結論]のとおり,決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり本件補正は却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明は,平成29年7月11日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(前記「第2」[理由]1(1)参照,以下「本願発明」という。)。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定における拒絶の理由は,概略,[A]本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,[B]本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものであり,また,上記刊行物の1つとして,前記引用文献1(特開2007-86160号公報:拒絶査定では「引用文献2」)が挙げられている。

3 引用文献及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載及び引用発明は,前記「第2」[理由]2(2)及び(3)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,本件補正後発明のフッ素系樹脂粒子の平均一次粒子径の範囲の上限を,4.55倍から7.7倍に拡張し,また,平均一次粒子径を「平均」とは限らない「一次粒子径」に拡張するものである。
そうしてみると,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに他の事項を付加した(限定した)ものに相当する本件補正後発明が,前記「第2」[理由]2(4)?(7)に記載したとおり,引用文献1に記載された発明であるか,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用文献1に記載された発明であるか,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
あるいは,引用発明の「疎水性シリカ4」は「個数平均粒径:85nm」であるから,一次粒子径が若干小さいもの(66?82nmのもの)も必ず含まれると考えられ,この点においても,本願発明は,引用文献1に記載された発明といえる。

第4 むすび
本願発明は,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。又は,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-10-18 
結審通知日 2018-10-23 
審決日 2018-11-05 
出願番号 特願2013-232782(P2013-232782)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03G)
P 1 8・ 113- Z (G03G)
P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 河原 正
樋口 信宏
発明の名称 画像形成装置  
代理人 永井 道雄  

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