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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04D
管理番号 1347409
審判番号 不服2018-242  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-10 
確定日 2018-12-28 
事件の表示 特願2015-184734「板状防水材を用いた防水施工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月23日出願公開、特開2017- 57668〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成27年9月18日に出願した特願2015-184734号であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 2月22日付け:拒絶理由通知書
平成29年 4月24日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 9月25日付け:拒絶査定
平成30年 1月10日 :審判請求書、手続補正書の提出


第2 平成30年1月10日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年1月10日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正は、特許請求の範囲の補正を含むものであり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「塗膜防水材を用いた防水施工方法であって、
施工面に対してプライマーを塗布し、これを硬化させてプライマー層を形成する第一工程と、
前記プライマー層の上に塗膜防水材を塗布する第二工程と、
前記塗膜防水材が乾燥する前に、その上に、前記第二工程で用いる塗膜防水材と同一の組成物を用いて予め所定の厚み及び大きさに成形し、かつ、複数の小孔を備える板状防水材を被着する第三工程と、
前記板状防水材を上から押圧するようにしごき、その押圧によって前記小孔より前記塗膜防水材を表面に露呈させる第四工程と、
を少なくとも備え、
前記第二工程から第四工程によって、防水材の裏側に空気が密封されて残存するおそれの無い、塗膜防水材と板状防水材が一体化した同一の組成物により成形された防水層を形成することを特徴とする板状防水材を用いた防水施工方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年 4月24日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「施工面に対してプライマーを塗布してプライマー層を形成する第一工程と、
前記プライマー層の上に塗膜防水材を塗布する第二工程と、
前記塗膜防水材が乾燥する前に、その上に、前記第二工程で用いる塗膜防水材と同一の組成物を用いて予め所定の厚み及び大きさに成形し、かつ、複数の小孔を備える板状防水材を被着する第三工程と、
前記板状防水材を上から押圧するようにしごき、その押圧によって前記小孔より前記塗膜防水材を表面に露呈させる第四工程と、
を少なくとも備え、
前記第二工程から第四工程によって、防水材の裏側に空気が密封されて残存するおそれの無い防水層を形成することを特徴とする板状防水材を用いた防水施工方法。」


2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された「防水施工方法」について、「塗膜防水材を用いた」との限定を付加し、また本件補正前の請求項1に記載された「プライマー層」について、「プライマー」を「硬化させ」て形成するという限定を付加し、さらに本件補正前の請求項1に記載された「防水層」について、「塗膜防水材と板状防水材が一体化した同一の組成物により成形された」との限定を付加するものであって、補正前後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではないから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の理由で引用され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特公昭32-2825号公報(昭和32年5月14日出願公告。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審決で付した。以下、同様。)。

a 記載事項a
「従来建造物の防水施工は主としてアスフアルトによつて行われていたがアスフアルトは加熱鎔融に施工するため諸種の危険がともない、操作が容易でなく、又アスフアルト自体の性質も風化、老化の現象を来し完全とは云えなかつた。
本発明では材料としてアスフアルトを用ひる事なく、各種繊維類より成る織布又はフエルト等に合成樹脂加工をしたシートを用い且これ等の接着方法に改良を加えたるもので屋根、壁、床等の建造物の防水施工に適するものである。」(第1頁左欄7行-16行)

b 記載事項b
「図面は屋根に施工する場合の実施例を示したもので図中1はコンクリート、木材等の屋根基台でこの基台1の表面に接着剤として例えばペースト状又は液状のビニール系等の樹脂を塗布し、この上面に多数の孔(例えば径1mm)を開穿した繊維入りビニールシート2を軽く圧しつゝ貼着する。するとこの液状樹脂はシート2の多数の孔より滲出して上面に浮出し外気に接してシート自体で密閉される事がないから樹脂を速かに乾燥させることが出来ると共に基台1とシート2の間に存在する空気を完全に排除して両者を完全に密着させる事が出来而かもこの接着剤によつてシートの孔は完全にふさがれシート全体として防水力を生ずるに至るものである。」(第1頁左欄17行-30行)

c 記載事項c
「又実際施工上に於ては繊維入り有孔合成樹脂シートの最上面に各種防水版、建築用版等を貼合し或はセメントモルタル、セメントコンクリート、煉瓦、タイル等による保護層を形成若くはアルミニユーム薄版等の各種金属鈑を貼合するとその防水施工が一層効果的になる。
施工に当つては、このシートの大きさに限界があるので在来のルーフイング程度の幅のものを用いる。これを一面全体に敷く時は、その夫々の端縁を重合させて行へば第2図の如く各シートは接着剤中の揮発成分の発散と同時に完全に接着出来るものである。
尚、この際、シートの孔は前記同様接着をより容易に導くのに役立つものである。又更に必要があれば全体の上面より防水塗料を塗着する事により防水の完璧を更に期待出来る。芯体を構成する各種繊維としては毛、木綿、麻等の天然繊維、スフ、ナイロン、ビニロン、サラン等の化学繊維、ガラス、アスベスト等の無機質繊維を単独又は混合して、而かもこれを織布、又はフエルト状の状態で用ひるものとする。又これに被覆する合成樹脂としては、ビニール系、ビニリデン系、ポリエチレン系等の柔軟なる合成樹脂を用ひる。合成樹脂は片面又は両面より滲透的に附着せしめ、この芯体をなす繊維類はこれ等柔軟なる合成樹脂の伸縮を調節し引張、強度を高めるのに役立つ、而してこの繊維入り合成樹脂シートとしては例えば0.1mmから必要に応じて10mm位の厚さのものを用ひるがこの厚さに応じて孔の大きさも決定するものである。」(第1頁右欄4行-33行)

d 記載事項d
「又接着剤としては公知の各種のものを用ひることが出来るが、なるべくシートと同系統のもの例えばビニールシートにはビニール系の接着剤を用ひるとよい。
前記樹脂シートに孔を開けないで接着剤によつて接着するときは接着剤中の揮発成分がシートに被れて逃げ場を失ひ、接着剤がシートと基台との間で一部未乾燥のまゝ接着される事となり、且、両者間の空気を完全に除去する事が困難となるからそれが原因で剥離し易く、又完全に密着しないため表面に凹凸波形等を生じ平坦なものが得られなかつたが、本発明は前述の様に構成したため其の接着方法が改善せられ、樹脂シートによる防水と相俟つて建造物の理想的な防水施工が出来るものである。」(第1頁右欄33行-第2頁左欄12行)

(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 技術的事項a
上記(ア)記載事項aより、引用文献1には、「合成樹脂加工をしたシートを用い、接着方法に改良を加えた、建造物の防水施工」の方法に関する技術的事項が記載されている。またその改良を加えた接着方法は、上記(ア)記載事項bより、「接着剤として例えばペースト状又は液状のビニール系等の樹脂を塗布」し、「接着剤によつてシートの孔は完全にふさがれシート全体として防水力を生ずるに至る」というものである。

b 技術的事項b
上記(ア)記載事項bより、引用文献1には、「コンクリート、木材等の基台1の表面に接着剤としての樹脂を塗布」する、という技術的事項が記載されている。

c 技術的事項c
上記(ア)記載事項bより、引用文献1には、「塗布した接着剤としての樹脂の上面に多数の孔(例えば径1mm)を開穿した繊維入りビニールシート2を軽く圧しつゝ貼着」する、という技術的事項が記載されている。またそのシートは、上記(ア)記載事項cより、「シートは大きさに限界があるので在来のルーフイング程度の幅のもの」を用い、「厚さは例えば0.1mmから必要に応じて10mm位の厚さのもの」を用いるものである。

d 技術的事項d
上記(ア)記載事項dより、「接着剤」と「シート」とは「同系統のもの」、例えば「ビニールシート」と「ビニール系の接着剤」とを用いる、という技術的事項が記載されている。

e 技術的事項e
上記(ア)記載事項bより、引用文献1には、「ビニールシート2」を「圧しつつ」の「貼着」は、「液状樹脂」が「シート2の多数の孔より滲出して上面に浮出」すると共に、「基台1とシート2の間に存在する空気を完全に排除する」よう行うこと、もってシートと同系統の接着剤(上記d参照)によって、「シートの孔は完全にふさがれシート全体として防水力を生ずるに至る」、という技術的事項が記載されている。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「合成樹脂加工をしたシートを用い、接着方法に改良を加えた、建造物の防水施工の方法であり、
接着剤として例えばペースト状又は液状のビニール系等の樹脂を塗布し、接着剤によってシートの孔は完全にふさがれシート全体として防水力を生ずるに至る、防水施工の方法であって、
コンクリート、木材等の基台1の表面に接着剤としての樹脂を塗布し、
塗布した接着剤としての樹脂の上面に多数の孔(例えば径1mm)を開穿した繊維入りビニールシート2を軽く圧しつゝ貼着し、
シートは大きさに限界があるので在来のルーフイング程度の幅のものを用い、厚さは例えば0.1mmから必要に応じて10mm位の厚さのものを用い、
接着剤とシートとは同系統のもの、例えばビニールシートとビニール系の接着剤とを用い、
ビニールシート2を圧しつゝの貼着は、液状樹脂がシート2の多数の孔より滲出して上面に浮出すると共に基台1とシート2の間に存在する空気を完全に排除するよう行い、
もってシートと同系統の接着剤によってシートの孔は完全にふさがれシート全体として防水力を生ずるに至る、
防水施工の方法。」

イ 引用文献2
(ア)同じく原査定の理由で引用され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開昭58-4060号公報(昭和58年1月11日公開。以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

「本発明はシート防水工法の持っている原因aに対する適性と、塗膜防水工法の持っている原因bに対する適性とを組合せた優れた防水性能、即ち、防水下地や押えモルタル層の挙動に対する優れた追随性を持ち、それでいて立上り部や水切り部、出隅・入隅部等での納まりも優れている新規な防水施工法を提供せんとするもので、その実施の一例を図面について説明すると、本発明による防水施工法の場合、コンクリートスラブ、又はALC板の如き単板敷設躯体等の下地面に目止め等の下地処理を施した後、プライマーを塗布し、液状合成樹脂溶液(3)を厚塗りする。
ここにおいて用いられる液状合成樹脂溶液とはJIS A 6021 「屋根用塗膜材」で規定されているウレタンゴム系(2成分系で、1類と2類とに分けられる)、アクリルゴム系(エマルジョン型)、クロロプレンゴム系(溶液型)、アクリル樹脂系(エマルジョン型)、ゴムアスファルト系(エマルジョン型)の5種類であり、またこれらの他にネオプレン系、エポキシ系、エポキシウレタン系、EVA系、その他の高分子系塗膜防水材も使用される。
これらの塗膜防水材は通常、プライマー、下塗り、中塗り、上塗り、の4工程で屋根に施工され、必要に応じて上塗り表面に仕上げ塗料が塗布される。これらの構成は防水層が露出防水層か非露出防水層(防水層上に押えモルタル層を施す工法)かで異なってくるが、下塗りが厚塗り出来、ピンホール勢の発生がない場合は中塗りを省略することが出来る。下塗りの厚さは露出防水工法の場合、通常1.0?1.5mmであって、その上に中塗りを1.0?2.0mm重ね、上塗りを0.5?1.0mmかけ、防滑材を散布して仕上げる。
しかし乍ら本発明の施工法の場合は下塗り(3)の厚さとして1.2?1.5mmをまず塗布し、その上面に孔明き防水シート(1)を貼りつける。」(第2頁左上欄12行?左下欄7行)

(イ)上記記載から、引用文献2には、防水施工方法において、コンクリートスラブ等にプライマーを塗布し、その上に液状合成樹脂の下塗り、中塗り、上塗りを塗布するか、またはその上に液状合成樹脂の下塗りを塗布し、その上面に孔明き防水シートを貼りつける、という技術的事項が記載されている。

ウ 引用文献3
(ア)原審の拒絶理由に対する平成29年4月24日付け意見書で請求人が引用し、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特許第2778010号公報(平成10年7月23日発行。以下「引用文献3」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

「 前記複合防水層は、防水を必要とするコンクリート等の下地25上に、必要に応じてプライマーを塗布し、ついで接着剤24を塗布後、脱気機能を有する防水シート23を互いに突き合せて接着し、該防水シート23の突き合せ部分に本発明の接合テープ22の剥離紙15を除去し接合テープの中心が突き合せ部分に対応するように接着し、ついで塗膜防水材21を塗布することにより得ることができる。」(第3頁第6欄12行?19行)

(イ)上記記載から、引用文献3には、防水を必要とするコンクリート等の下地上に、必要に応じてプライマーを塗布し、ついで接着剤を塗布後、防水シートを接着する、という技術的事項が記載されている。

エ 引用文献4
(ア)同じく原査定の理由で引用され、本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2007-16462号公報(平成19年1月25日公開。以下「引用文献4」という。)には、図面とともに、次の記載がある。

「【0029】
図2は、本発明の防水用シート体を用いたベランダ防水施工例を示す部分断面斜視図である。コンクリート躯体3の上にプライマーである接着剤4を塗布してその上に図1に示す所定厚(例えば2mm厚)のウレタン系シート体1(縦・横100mm幅)を順次並べて行き、並べ終えたらウレタン系塗布防水材液5を用いてゴムヘラで一定厚に被覆する。
【0030】
このウレタン系塗布防水材液5を塗布する場合には、若干ヘラ先に力を入れながら掃くとウレタン系シート体1の裏側に残存する空気がシート体1に設けた小孔2から抜け出してシート体1の裏側も十二分に接着剤4とシート体1とが接合し、またシート体1と塗布防水材液5とが同一組成物であることから強力な接合力で接合される。
【0031】
次いでシート体1上へのウレタン系塗布防水材液5の塗布作業が終了して乾燥させた後、トップコート液6を均一な厚みに塗布して再度乾燥させて作業を終了する。
【0032】
なお前記のようにゴムヘラでウレタン系塗布防水材液5をシート体1の小部孔2へ塗布する際に、小孔部2への塗布量を調整して若干窪み状にした後にトップコート液6を小孔部2を厚めに塗布すると窪み模様が生じて視認性の良い防水施工ができるようになっている。」(段落【0029】-【0032】)

(イ)上記記載から、引用文献4には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されているものと認められる。
「防水用シート体を用いたベランダ防水施工において、ウレタン系シート体1の小孔部2を含めてウレタン系塗布防水材液5を塗布する際、シート体1と塗布防水材液5とを同一組成物とすることで、両者を強力な接合力で接合する、施工方法。」

(3)引用発明1との対比
ア 本件補正発明と引用発明1とを対比する。(下線は、当審決で付した。)
(ア)引用発明1の「防水施工の方法」は、本件補正発明における「防水施工方法」に相当する。また、引用発明1の「接着剤」としての「樹脂」は、「ペースト状又は液状」であり「塗布」されるものであるから、本件補正発明における「塗膜」を形成するものであり、また「シートの孔」を「完全に」ふさぎ「シート全体として防水力を生ずる」ものであるから、本件補正発明における「防水材」に相当する。
すなわち、引用発明1における「接着剤としての樹脂」は、本件補正発明における「塗膜防水材」に相当し、引用発明1が「防水施工の方法」中で該接着剤を用いた点は、本件補正発明の「防水施工方法」が「塗膜防水材を用いた」点に相当する。

(イ)引用発明1における「コンクリート、木材等の基台1」は、本件補正発明における「施工面」に相当し、引用発明1と本件補正発明とは「施工面を防水施工の対象とする」点で一致する。
引用発明1において、「コンクリート、木材等の基台1の表面に接着剤としての樹脂を塗布」することは、「防水施工の方法」中の一つの工程と言い得る。また、引用発明1における「接着剤」としての「樹脂」は、上記(ア)で指摘したとおり、本件補正発明における「塗膜防水材」に相当する。そしてこの相当関係は、後記(エ)で指摘するように、引用発明1の「接着剤」としての「樹脂」と「シート2」との技術的協働関係を考慮した場合にも、変わらない。すなわち、引用発明1における「接着剤」としての「樹脂」が、「シート2」の「孔」より滲出して上面に浮出する」と共に、「シート2」の下に存在する「空気を完全に排除」した状態で、「シートの孔は完全にふさがれシート全体として防水力を生ずるに至る」、という技術的関係を考慮した場合にも、当該技術的関係は本件補正発明における「塗膜防水材」と「板状防水材」との技術的協働関係と対応している。
そのため、引用発明1において「コンクリート、木材等の基台1の表面に接着剤としての樹脂を塗布」する点と、本件補正発明における「前記プライマー層の上に塗膜防水材を塗布する第二工程」とは、「塗膜防水材を塗布する工程」である点で一致する。

(ウ)引用発明1において、「繊維入りビニールシート2」「シート2」「シート」は、「在来のルーフイング程度の幅」及び「例えば0.1mmから必要に応じて10mm位の厚さ」のものとして用いられているから、その点で本件補正発明における「予め所定の厚み及び大きさに成形」された「板状」のものに相当する。また、引用発明1における当該「シート」は、「接着剤」と協働して「孔」がふさがれることで「シート全体として防水力を生ずる」ものであるから、本件補正発明における「防水材」にも相当する。そして、引用発明1において当該「シート」に「多数」の「孔」が「開穿」されていることは、本件補正発明における「板状防水材」が「複数」の「小孔」を「備える」ことに相当する。
引用発明1において、当該「シート」として「接着剤」と「同系統のもの」を用いている点は、シートを構成する組成物として接着剤と「同系統」であることが明らかであるから、本願補正発明における「板状防水材」が「塗膜防水材と同一の組成物」を用いている点と、「塗膜防水材と同系統の組成物を用いて」いる点で一致する。
そして、引用発明1において「塗布した接着剤としての樹脂の上面」に「ビニールシート2を軽く圧しつゝ」行う「貼着」において、「液状樹脂がシート2の多数の孔より滲出して上面に浮出すると共に基台1とシート2の間に存在する空気を完全に排除する」だけ十分に圧を加える前には、流動性が残り且つ接着性を有する樹脂の上に、ビニールシート2を載置する過程を経ていることが明らかである。そのため、引用発明1において当該シートを載置する過程は、本件補正発明における「塗膜防水材が乾燥する前に、その上に」、「板状防水材を被着する」工程に相当する。
すなわち、引用発明1において「接着剤としての樹脂の上面」に「ビニールシート2」を「貼着」する過程のうち、シートの載置までの過程と、本件補正発明における「前記塗膜防水材が乾燥する前に、その上に、前記第二工程で用いる塗膜防水材と同一の組成物を用いて予め所定の厚み及び大きさに成形し、かつ、複数の小孔を備える板状防水材を被着する第三工程」とは、「前記塗膜防水材が乾燥する前に、その上に、塗膜防水材と同系統の組成物を用いて予め所定の厚み及び大きさに成形し、かつ、複数の小孔を備える板状防水材を被着する工程」である点で一致する。

(エ)引用発明1において、「ビニールシート2を圧しつゝの貼着」を、「液状樹脂がシート2の多数の孔より滲出して上面に浮出する」よう行うことは、上記(ウ)で指摘した載置の後に、圧する力を必要なだけ上から押して加えていることが明らかであるから、本件補正発明における「前記板状防水材を上から押圧するようにしごき、その押圧によって前記小孔より前記塗膜防水材を表面に露呈させる第四工程」と比較すると、両者は「前記板状防水材を上から押圧し、その押圧によって前記小孔より前記塗膜防水材を表面に露呈させる工程」である点で一致する。

(オ)引用発明1において、「基台1とシート2の間に存在する空気」が「完全に排除」されることは、本件補正発明において「防水材の裏側に空気が密封されて残るおそれの無い」状態まで至ることに相当する。また、引用発明1において「シートと同系統の接着剤によってシートの孔は完全にふさがれシート全体として防水力を生ずるに至る」ことと、本件補正発明における「塗膜防水材と板状防水材が一体化した同一の組成物により成形された防水層を形成すること」とは、「塗膜防水材と板状防水材が一体化した同系統の組成物により成形された防水層を形成すること」という点で一致する。さらに、引用発明1において、前述した「空気」の「排除」を含み、「シート全体として防水力を生ずるに至る」までの過程は、「接着剤としての樹脂の塗布」から「ビニールシート2」を「圧しつゝ」の「貼着」の完了までを通じて、達成される。このことと、本件補正発明における「防水層の形成」が「第二工程から第四工程によって」行われることとは、防水層の形成が「塗膜防水材の塗布工程から板状防水材を押圧する工程によって」行われる、という点で一致する。

(カ)引用発明1が、「ビニールシート2」を用いた「防水施工」の「方法」であることは、本件補正発明が「板状防水材を用いた防水施工方法」であることに相当する。

(キ)上記(ア)?(カ)より、本件補正発明と引用発明1とは、
「塗膜防水材を用いた防水施工方法であって、
施工面を防水施工の対象とし、
塗膜防水材を塗布する工程と、
前記塗膜防水材が乾燥する前に、その上に、塗膜防水材と同系統の組成物を用いて予め所定の厚み及び大きさに成形し、かつ、複数の小孔を備える板状防水材を被着する工程と、
前記板状防水材を上から押圧し、その押圧によって前記小孔より前記塗膜防水材を表面に露呈させる工程と、
を少なくとも備え、
前記塗膜防水材を塗布する工程から板状防水材を押圧する工程によって、防水材の裏側に空気が密封されて残存するおそれの無い、塗膜防水材と板状防水材が一体化した同系統の組成物により成形された防水層を形成する、
板状防水材を用いた防水施工方法。」
である点で一致するといえる。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明1とは、上記ア(キ)に示した点で一致し、以下の点で相違する。

【相違点1】
本件補正発明では、「施工面」に対して「プライマーを塗布し、これを硬化させてプライマー層を形成する第一工程」を有しており、そのため「塗膜防水材」の塗布は「プライマー層の上」に行う「第二」の工程となり、以降の工程の番号も「第三」及び「第四」と付されているのに対し、
引用発明1では、「基台1」に「接着剤としての樹脂」を塗布するのに先立ち、「プライマーを塗布」して「硬化」した「プライマー層」を形成していない点。

【相違点2】
本件補正発明は、「塗膜防水材」と「板状防水材」とを「同一の組成物」としているのに対し、
引用発明1では、「接着剤としての樹脂」と「シート」とを「同系統」のものとはしていても、「同一の組成物」とまでは限定していない点。

【相違点3】
本件補正発明では、「塗膜防水材」を「板状防水材」の「小孔」から「表面に露出」させる際に、板状防水材を「上から押圧するようにしご」くのに対し、
引用発明1では、「軽く圧しつゝ」貼着を行うとされている点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用発明1では、「コンクリート、木材等」の種々の「基台1」に対する防水施工が予定されており、想定される「基台1」の表面状態も様々である。
ここで、上記引用文献2及び3にも示されるとおり、コンクリート等の防水施工において、下地上に必要に応じてプライマーを塗布したうえで、液状合成樹脂及び/又は接着剤を塗布することは、周知技術である。またプライマーとは、たとえば建築大辞典第2版<普及版>第3刷 第1465頁にも「塗料,接着剤,シーリング材,溶融アスファルトの下地への付着性を高めるか,より確実にするか,調整するために用いる下塗り用液状物の呼称.アスファルトプライマー,塗料用プライマーなど,用途に応じて各種ある.「下地調整液」,「下塗り液」,「下塗り剤」ともいう.」(株式会社彰国社、1997年4月10日発行)と記載されているとおり、「下地への付着性を高めるか、より確実にするか、調整するため」のものである。そのため、前記周知技術の如く、プライマーの上に直接固形物を載置するのでなく、プライマーの上に「液状合成樹脂」や「接着剤」を塗布する場合には、プライマーの主たる機能は、プライマー自体が接着剤として固形物を接着することではなく、防水処理の対象となる下地を、接着剤等の付着性が良い状態に調整することと解される。
引用発明1でも、「基台1」の現実の表面状態が種々多様であり得ることを考慮する当業者が、上記周知技術を参照し、「接着剤としての樹脂」を塗布するに先立ち、「基台1」の表面にプライマーを塗布して硬化させ、防水処理の対象となる表面状態を、所望の好適状態へと調整する工程を加えることは、想到容易である。
そしてその場合には、「基台1」にプライマーを塗布して硬化させる工程が「第一」の工程となり、「接着剤としての樹脂」を塗布する以降の各工程が、それぞれ「第二」「第三」及び「第四」の各工程となることとなる。
すなわち、引用発明1において相違点1に係る構成を得ることは、上記周知技術に基いて、当業者であれば想到容易である。

イ 相違点2について
引用発明1では、シートを接着するとともに「シートの孔」をふさぎ、もって「シート全体として防水力」を得るための「樹脂」として、「シートと同系統」のものを用いている。
引用発明1において、シートの孔をふさぎシート全体としての防水力を得る「樹脂」と、孔を有する「シート」との結合が、強力であることが好ましいのは明らかである。
ここで、引用発明4は、防水用シート体を用いる防水施工において、小孔を有するシート体と、その小孔部を含めて塗布される防水剤液とに関するという点で、引用発明1と技術分野及び前提状況が一致する。また引用発明4は、小孔を有するシート体と、その小孔部を含めて塗布される防水剤液とを同一組成物とすることで、両者を強力な接合力で接合するところ、当該技術的着眼点及び目的は、引用発明1において「シートの孔」をふさぐ「樹脂」と「シート」とに「同系統のもの」を用いる技術的着眼点及び目的と、共通している。
そうであれば、もともと「樹脂」と「シート」とに「同系統のもの」を用いる引用発明1において、シートの孔をふさぐ樹脂とシートとが一体となり形成される「シート全体」の接合が、強力であることが好ましいことを考慮し、同様の目的で両者に「同一組成物」を用いる引用発明4を適用することは、当業者であれば想到容易である。
すなわち、引用発明1において、引用発明4に基いて相違点2に係る構成を得ることは、当業者であれば想到容易である。

ウ 相違点3について
引用発明1において、貼着を行う際にシートを「軽く圧し」との表現は、本件補正発明における「押圧するようにしごき」という表現とは、一見相違する。
しかしながら、引用発明1においても、シートを「圧し」という過程は、「液状樹脂がシートの多数の孔より滲出して上面に浮出」し、かつ基台1と「シート2の間に存在する空気を完全に排除」するよう行うのであるから、「圧し」に求められる力の程度は、本件補正発明における「押圧」の力の程度と、技術的な意味において何ら相違はない。また引用発明1においても、多数の「孔」はシートに離散的に存在しているから、シートの下の「空気を完全に排除」するようにシートを「圧」するには、孔の直下にない「空気」も孔から逃げるよう、力を加えつつシート表面を水平方向にもなぞることは、特に明記がなくとも当然である。仮にそうでないとしても、そうすることは単なる設計事項程度である。
そして、引用発明1において、「樹脂」が「シートの多数の孔より滲出して上面に浮出」するとともに、基台1と「シート2の間に存在する空気を完全に排除」するよう、力を加えつつシート表面を水平方向にもなぞることは、本件補正発明における「押圧するようにしごき」に相当する。
すなわち、相違点3は、ひとまず相違点と扱い検討を行ったが、実際には相違点で無いか、仮に相違点としても単なる設計事項程度である。

エ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明1及び引用発明4並びに上記周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

オ 請求人の主張について
請求人は審判請求書において、引用発明1ではプライマーを用いていないから、基台1に塗布する「接着剤としての樹脂」は本件補正発明における「プライマー」に相当し、「塗膜防水材」には相当しない旨を主張している。そして、引用発明1には「塗膜防止剤」に相当するものが存在しないから、本件補正発明に至ることは容易ではない旨を主張している。
しかしながら、引用発明1における「接着剤としての樹脂」は、「シート」に対する接着剤として機能する点、「シート」の「孔より滲出」させられる点、「シートの孔」をふさぎ「シート全体として防水力を生ずる」点、及び「シート」と同系統のものが用いられる点のいずれの面を考慮しても、本件補正発明における「塗膜防水材」に相当することは、上記アに指摘したとおりである。これに反して、「プライマー」が一般的には接着剤の機能を有する場合もあり得る、という一般論に依拠して、引用発明1における「接着剤としての樹脂」が、最初の段階で硬化してしまい他の部材に対する接着機能も「板状防水材」の「孔」を埋める機能も何ら奏することのない本件補正発明の「プライマー」に相当する旨をいう請求人の主張は、失当である。請求人は、「プライマー」及び「塗膜防水材」に関して、その他縷々主張しているが、いずれの主張も妥当ではなく、採用することができない。
また請求人は審判請求書において、引用発明1と引用発明4とは目的及び構成が明らかに相違し、引用発明4を引用発明1に適用する動機付けもない旨を主張している。
しかしこの点についても、上記イに検討したとおりであるから、請求人の主張は妥当でない。
以上より、請求人の審判請求書における主張は、いずれも上記イ、ウ及びエの判断を覆すものではない。

カ したがって、本件補正発明は、引用発明1及び上述した周知技術並びに引用発明4に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成30年1月10日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成29年4月24日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1及び引用文献4(当審注;原査定時の引用文献3、以下同じ。)に記載された発明並びに周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び引用文献4の記載事項は、上記第2[理由]2(2)ア及びエに示したとおりである。また本願出願の日前に公知であり、原査定前の意見書及び補正書提出時に請求人も了知していた周知技術の内容は、上記第2[理由]2(2)イ及びウに示したとおりである。

4 対比・判断
本願発明をさらに限定した本件補正発明と、引用発明1との対比、及び相違点についての判断は、上記第2[理由]2(3)及び(4)に示したとおりである。
本願発明をさらに限定した本件補正発明が、引用発明1及び引用発明4、並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も原査定の理由のとおり、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用発明4、並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-10-18 
結審通知日 2018-10-23 
審決日 2018-11-05 
出願番号 特願2015-184734(P2015-184734)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E04D)
P 1 8・ 121- Z (E04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 油原 博前田 敏行  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 富士 春奈
有家 秀郎
発明の名称 板状防水材を用いた防水施工方法  
代理人 梅村 莞爾  

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