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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C07K
管理番号 1347459
審判番号 不服2017-18111  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-06 
確定日 2019-01-22 
事件の表示 特願2014-556732「単鎖抗体及び他のヘテロ多量体」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月15日国際公開、WO2013/119966、平成27年 3月16日国内公表、特表2015-508077、請求項の数(27)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年2月8日(パリ条約による優先権主張 2012年2月10日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成28年10月25日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年2月1日付けで手続補正書および意見書が提出されたが、平成29年7月31日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成29年12月6日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は、次のとおりである。
本願請求項1-27に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1および2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献一覧
1.国際公開第2011/034605号
2.国際公開第2012/006633号

第3 本願発明
本願請求項1-27に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明27」という。)は、平成29年2月1日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-27に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
N末端からC末端の方向に互いに相対的に配置された以下のドメイン、すなわち、VL_(1)-CL_(1)-CLHテザー_(1)-VH_(1)-CH1_(1)-ヒンジ_(1)-CH2_(1)-CH3_(1)-HDテザー-VL_(2)-CL_(2)-CLHテザー_(2)-VH_(2)-CH1_(2)-ヒンジ_(2)-CH2_(2)-CH3_(2)を含む単一ポリペプチドを含む単鎖抗体。
【請求項2】
前記HDテザーが15?100アミノ酸長である、請求項1に記載の単鎖抗体。
【請求項3】
前記HDテザー及び/又はCLHテザーが、グリシン(G)及びセリン(S)残基を含む、請求項1又は2に記載の単鎖抗体。
【請求項4】
前記HDテザー及び/又はCLHテザーが8から9個のGGSリピート(配列番号19)を含む、請求項1から3の何れか一項に記載の単鎖抗体。
【請求項5】
前記HDテザー及び/又はCLHテザーが、エンドペプチダーゼにより切断可能なアミノ酸配列を含み、エンドペプチダーゼが、フューリン、ウロキナーゼ、トロンビン、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPa)、ゲネナーゼ、Lys-C、Arg-C、Asp-N、Glu-C、第Xa因子、タバコエッチウイルスプロテアーゼ(TEV)、エンテロキナーゼ、ヒトライノウイルスC3プロテアーゼ(HRV C3)、及びキニノゲナーゼからなる群から選択される、請求項1から3の何れか一項に記載の単鎖抗体。
【請求項6】
精製後、前記アミノ酸配列は前記エンドペプチダーゼの添加により切断される、請求項5に記載の単鎖抗体。
【請求項7】
前記HDテザー及び/又はCLHテザーが、前記HD又はCLHテザーのN末端及びC末端に位置する2つのエンドペプチダーゼ切断部位を含み、前記エンドペプチダーゼ切断部位の1つがフューリン切断部位である、請求項1から6の何れか一項に記載の単鎖抗体。
【請求項8】
フューリンにより切断可能なアミノ酸配列が、アミノ酸配列RKRKRR(配列番号9)又はRHRQPR(配列番号10)を含む、請求項7に記載の単鎖抗体。
【請求項9】
前記CLHテザー_(1)及び前記CLHテザー_(2)がそれぞれ10?80アミノ酸長である、請求項1から8の何れか一項に記載の単鎖抗体。
【請求項10】
前記CLHテザー_(1)及び/又は前記CLHテザー_(2)が、前記CLHテザー_(1)又は前記CLHテザー_(2)のN末端及びC末端に位置する2つのエンドペプチダーゼ切断部位を含み、前記エンドペプチダーゼ切断部位が両方ともフューリン切断部位である、請求項1から9の何れか一項に記載の単鎖抗体。
【請求項11】
前記第1のヒンジドメイン又は前記第2のヒンジドメインが、ヒトIgG1のGlu216からPro230を含む、請求項1から10の何れか一項に記載の単鎖抗体。
【請求項12】
前記第1のヒンジドメイン又は前記第2のヒンジドメインが、Lys-Cエンドペプチダーゼ切断部位を含む、請求項11に記載の単鎖抗体。
【請求項13】
前記Lys-Cエンドペプチダーゼ切断部位が不活性化変異を含み、前記不活性化変異がK222A置換(EUナンバリングシステム)である、請求項12に記載の単鎖抗体。
【請求項14】
前記単鎖抗体が、少なくとも一つのFc成分における機能性部分にコンジュゲートされた定常領域を含む、請求項1から13の何れか一項に記載の単鎖抗体。
【請求項15】
前記単鎖抗体が、一又は複数の前記HD又はCLHテザーの切断後にエキソペプチダーゼに対する一又は複数の切断部位を含み、エキソペプチダーゼが、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB、血漿カルボキシペプチダーゼB、カルボキシペプチダーゼD、カルボキシペプチダーゼE、カルボキシペプチダーゼM、カルボキシペプチダーゼN、及びカルボキシペプチダーゼZからなる群から選択される、請求項1から14の何れか一項に記載の単鎖抗体。
【請求項16】
前記ポリペプチドが、
(a)前記CH1_(1)ドメイン又は前記CH1_(2)ドメイン又は両方に突起又はキャビティと、
(b)前記CL_(1)ドメイン又は前記CL_(2)ドメイン又は両方に突起又はキャビティとを更に含み、
(c)前記CH1_(1)ドメイン中の前記突起もしくはキャビティが、それぞれ前記CL1ドメイン中の前記キャビティもしくは突起に配置可能であるか、
(d)前記CH1_(2)ドメイン中の前記突起もしくはキャビティが、それぞれ前記CL_(2)ドメイン中の前記キャビティもしくは突起に配置可能であるか、又は
(e)(c)及び(d)の両方であり、
前記CH1_(1)及びCL_(1)ドメイン、前記CH1_(2)及びCL_(2)ドメイン、又は全ての4つの前記ドメインが、前記突起とキャビティの間の界面で会合する、請求項1から15の何れか一項に記載の単鎖抗体。
【請求項17】
前記CH2_(1)又はCH2_(2)ドメインの一又は複数が、抗体エフェクター機能に影響を与えるCH2ドメイン変異を含む、請求項1から16の何れか一項に記載の単鎖抗体。
【請求項18】
抗体エフェクター機能に影響を与える前記CH2ドメイン変異がN297変異である、請求項17に記載の単鎖抗体。
【請求項19】
前記CLHテザー_(1)及び/又は前記CLHテザー_(2)が、前記CLHテザー_(1)又は前記CLHテザー_(2)のN末端及びC末端に位置する2つのエンドペプチダーゼ切断部位を含み、前記エンドペプチダーゼ切断部位の1つがフューリン切断部位であり、前記エンドペプチダーゼ切断部位の1つがLys-C切断部位である、請求項1から9及び11-18の何れか一項に記載の単鎖抗体。
【請求項20】
フューリンにより切断可能なアミノ酸配列が、アミノ酸配列RXRXRR(ここでXは任意のアミノ酸残基である)(配列番号8)を含む、請求項7又は10に記載の単鎖抗体。
【請求項21】
フューリンにより切断可能なアミノ酸配列が、アミノ酸配列RXRXYR(ここでYはK又はRであり、Xは任意のアミノ酸残基である)(配列番号7)を含む、請求項7又は10に記載の単鎖抗体。
【請求項22】
請求項1から21の何れか一項に記載の単鎖抗体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項23】
請求項22に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項24】
請求項23に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項25】
前記宿主細胞が哺乳動物細胞又は原核生物細胞である、請求項24に記載の宿主細胞。
【請求項26】
哺乳動物細胞がCHO細胞であるか、又は原核生物細胞が大腸菌細胞である、請求項25に記載の宿主細胞。
【請求項27】
請求項1から21の何れか一項に記載の単鎖抗体を作製する方法であって、請求項1から21の何れか一項に記載の単鎖抗体を発現することが可能なポリヌクレオチドを含むベクターを含む宿主細胞を、培養培地で単鎖抗体の発現に適した条件下で培養することを含む、方法。」

第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1(国際公開第2011/034065号)
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、以下の日本語訳による摘記は、引用文献1に対応する日本語出願の公表公報である特表2013-505238号公報の記載に基づくものであり、その段落番号も便宜上そのまま記載した。
(1-1) 特許請求の範囲
「【請求項1】
(a)式Iの7アミノ酸繰り返しを含む第一コイルドコイルドメイン(CC)とVHドメインとを含む第一ポリペプチドであって、
(X1X2X3X4X5X6X7)n (式I)
X1は疎水性アミノ酸残基又はアスパラギンであり、
X2、X3およびX6は各々任意のアミノ酸残基であり、
X4は疎水性アミノ酸残基であり、
X5およびX7は各々荷電アミノ酸残基である、第一ポリペプチドと、
(b)式IIの7アミノ酸繰り返しを含む第二コイルドコイルドメイン(CC)とVHドメインとを含む第二ポリペプチドであって、
(X'1X'2X'3X'4X'5X'6X'7)n (式II)
X'1は疎水性アミノ酸残基又はアスパラギンであり、
X'2、X'3およびX'6は各々任意のアミノ酸残基であり、
X'4は疎水性アミノ酸残基であり、
X'5およびX'7は各々荷電アミノ酸残基である、第二ポリペプチドと、
を含む抗体であって、
このとき式IおよびIIのnが2以上であり、そして、
各々の7アミノ酸繰り返しにおいて、第一CCは第二CC内のX'7残基に対して電荷が逆であるX5残基を含み、第一CCは第二CC内のX'5残基に対して電荷が逆であるX7残基を含む、抗体。
・・・
【請求項5】
第一および第二のポリペプチドがそれぞれ、VH、CH1、ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを、N末端からC末端の方向で互いに関連してVH-CH1-ヒンジ-CH2-CH3に配して含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
抗体がさらに第三および第四のポリペプチドを含み、このとき該第三ポリペプチドが第一VLドメインを含み、該第四ポリペプチドが第二VLドメインを含む、請求項1から5のいずれか一に記載の抗体。
・・・
【請求項8】
第三ポリペプチドがさらに第一CLドメインを含み、このとき該第一のVLおよびCLドメインがN末端からC末端方向にVL-CLで第三ポリペプチド内に互いに関連して配置されており、第四ポリペプチドがさらに第二CLドメインを含み、このとき該第二のVLおよびCLドメインがN末端からC末端方向にVL-CLで第四ポリペプチド内に互いに関連して配置されている、請求項6に記載の抗体。
・・・
【請求項10】
前記第一または前記第二のポリペプチドのうちの少なくとも1のVHのN末端が、テザーによりCLのC末端に連結している、請求項1から9のいずれか一に記載の抗体。」(特許請求の範囲)
(1-2) 背景技術
「商業的及び治療的目的のために有用で計測可能である多特異性抗体を構築する技術を発見することは困難であった。多くの方法が試されたが、ほとんど全ては、いつかの問題の中でも特に、可溶性が低い、哺乳動物細胞内で発現しない、ヘテロ二量体形成の収率低下を示す、製造に対する高度な技術、免疫原性、生体内での短い半減期、安定性低下などの顕著な欠点がある・・・ゆえに、多特異性抗体を製造するための技術および方法の改善が必要とされている。」(段落【0002】)
(1-3) 発明の概要
「本発明は、新規なタンパク質複合体およびタンパク質複合体の作製及び製造のための方法を提供する。一態様では、本発明は、Fc CH成分に連結されるコイルドコイルドメインを包含し、このコイルドコイルドメインは必要に応じてFc含有タンパク質から切断可能であっても切断可能でなくてもよい。」(段落【0003】)
「ある好適な実施態様では、本発明は、2以上のポリペプチドを含んでなるタンパク質複合体であって、このとき、第一ポリペプチドが第一コイルドコイルドメイン(CC)と第一Fc CH成分(FcCH)とを含み、そして、第二ポリペプチドが、(1)第二コイルドコイルドメイン(CC)と第二FcCHを含み、このとき、第一CCと第二CCが互いに複合体化し、そして、第一FcCHと第二FcCHが互いに複合体化している、タンパク質複合体を提供する。」(段落【0006】)
(1-4) 発明を実施するための形態
「理論に拘束されるものではないが、出願人は、本明細書中に記述されるコイルドコイル二量体化ドメインが、驚くべきことにイムノグロブリンのFc領域の存在下であっても、高い正確性と効率を持って2以上の分子の結合を共に作動する最初のトリガーとなると考える。またこのFc領域は細胞培養条件下で自然に互いに作用しあう。
重鎖のホモ二量体化を低減することによって、本明細書中に記述されるコイルドコイルヘテロ二量体化ドメインの使用は、Fc CH成分を含むタンパク質複合体(例えば多特異性または一アーム形抗体など)の均質な集団を生産する能力における突破口となる。例えば、多特異性複合体が標的(例えば腫瘍細胞)と標的に対する薬剤(例えばT細胞)の共局在性を導きうるか、または併用治療の必要性および被検体に対する2以上の治療法を提供する際のリスクを取り除きうるので、多特異性複合体は治療上の適用に有利である。さらに、多特異性抗体を含む抗体の構築を容易にするために、本発明によるテザーは、抗体の軽鎖と重鎖を連結し、それによってその同族重鎖への各軽鎖の適切な連結を促すために用いられ得る。」(段落【0022】)
(1-5) 図面の簡単な説明
「【図5】例示的なテザー二重特異性抗体の構造を示す略図である。抗体は、2つの重鎖(HC1およびHC2)と2つの軽鎖(LC1およびLC2)を含有する。テザーは、HC1の可変重鎖のN末端をLC1の定常軽鎖のC末端に連結し、第二テザーは、HC2の可変重鎖のN末端をLC2の定常軽鎖のC末端に連結する。この例において、テザーは、グリシン グリシン セリン(GGS)リピートを含む。この図において、軽鎖(LC1およびLC2)は異なるが、テザー抗体はまた共通の軽鎖も含有しうる。例示的なテザー抗体はさらに、ヘテロ二量体コイルドコイルと、Lys-Cエンドペプチダーゼ切断部位を取り除くHC1およびHC2のヒンジ領域内の突然変異(K222A)とを含有する。」
(1-6) 図面
「図5



2 引用文献2(国際公開第2012/006633号)
原査定の理由に引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。なお、以下の日本語訳による摘記は、引用文献2に対応する日本語出願の公表公報である特表2013-534427号公報の記載に基づくものであり、その段落番号も便宜上そのまま記載した。
(2-1) 特許請求の範囲
「【請求項1】
キメラの凝固因子であって、i)FVII、FIXおよびFXからなる群より選択される凝固因子と、ii)血小板に結合する標的部分と、iii)前記凝固因子と前記標的部分との間のスペーサー部分と、を含む、キメラの凝固因子。
【請求項2】
請求項1に記載のキメラの凝固因子であって、式A B Cによって示される構造を含み、ここでAは凝固因子であり;ここでBはスペーサー部分であり;かつここでCは、血小板に結合する、少なくとも1つの標的部分である、キメラの凝固因子。
【請求項3】
請求項2に記載のキメラの凝固因子であって:A B C;C B Aからなる群より選択される式によって提示されるアミノ末端からカルボキシ末端の構造を含む、キメラの凝固因子。
【請求項4】
前記キメラの凝固因子が、少なくとも1つの標的部分を欠いている適切なコントロールと比較した場合、血小板の存在下でトロンビンの生成の増大を示す、請求項1に記載のキメラの凝固因子。
【請求項5】
さらに、足場部分および必要に応じて第二のスペーサー部分を含む、請求項1に記載のキメラの凝固因子。
【請求項6】
請求項5に記載のキメラの凝固因子であって、さらにDおよびEを含み、ここでDがスペーサー部分であり;かつEが足場部分であり、かつここで前記キメラの凝固因子が:A B C D E;A D E B C;E D A B C;C B A D E;E D C B A;およびC B E D A、からなる群より選択される式によって提示されるアミノ末端からカルボキシ末端の構造を含む、キメラの凝固因子。
【請求項7】
Eが、第一のFc部分F1および第二のFc部分F2を含んでいる二量体Fc領域である、請求項6に記載のキメラの凝固因子。
【請求項8】
請求項7に記載のキメラの凝固因子であって、前記凝固因子が、2つのFc部分の間に差し込まれた切断性scFc(cscFc)リンカーを含むポリペプチドとして発現され、ここでcscFcリンカーが、cscFcポリペプチドリンカーの切断を生じる少なくとも1つの酵素的切断部位に隣接する、キメラの凝固因子。」(特許請求の範囲)
(2-1) 発明を実施するための形態
「本発明は、キメラの凝固因子に関する。本発明は、凝固因子の有効性、薬物動態特性、および/または製造可能性を増強する新規な方法の開発に少なくとも一部は基づく。一実施形態では、本発明の改善された凝固因子は、活性が増大しており、ここでは、例えば、血小板に対して凝固因子を標的すること、または血栓形成の部位で活性化される、活性化可能な形態(天然には存在しない活性化可能な形態)で被験体に存在することを必要とする。これは、例えば、凝固因子を標的することによって、またはそれらを活性化可能な形態で作製することによって達成され得る。」(段落【0063】)
「一実施形態では、本発明のキメラの凝固因子は、例えば、分子の流体力学半径を増大するための足場を備える。例えば、本発明のキメラの凝固因子は、融合タンパク質であってもよい。例示的な足場としては、例えば、FcRn結合部分(例えば、完全Fc領域またはFcRnに結合するその部分)、単鎖のFc領域(ScFc領域,例えば、米国特許出願公開第2008/0260738号、WO2008/012543、またはWO2008/1439545に記載される)、切断可能scFc領域(本明細書に記載されるようなcscFc領域を含む)、複雑性の少ないタンパク質またはその一部、例えば、XTenポリペプチド(登録商標)、またはアルブミンが挙げられる。」(段落【0068】)

第5 判断
1 引用発明
上記第4の1、特に図5によれば、引用文献1には次のとおりの発明が記載されていると認められる。ただし、片方の鎖(図5の左側のLC1およびHC1を含む鎖)を第一ポリペプチドと称して、それに含まれる抗体ドメインについては_(1)を付記し、もう片方の鎖(図5の右側のLC2およびHC2を含む鎖)を第二ポリペプチドと称して、それに含まれる抗体ドメインについては_(2)を付記した。
「N末端からC末端の方向に互いに相対的に配置された以下のドメイン、すなわち、VL_(1)-CL_(1)-第一テザー-VH_(1)-CH1_(1)-ヒンジ_(1)-CH2_(1)-CH3_(1)-第一コイルドコイルドメインからなる第一ポリペプチド、および
N末端からC末端の方向に互いに相対的に配置された以下のドメイン、すなわち、VL_(2)-CL_(2)-第二テザー-VH_(2)-CH1_(2)-ヒンジ_(2)-CH2_(2)-CH3_(2)-第二コイルドコイルドメインからなる第二ポリペプチド
とからなり、第一コイルドコイルドメインおよび第二コイルドコイルドメインの二量体化に伴って複合体化してなる抗体。」(以下、「引用発明」という。)

2 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「第一テザー」および「第二テザー」がそれぞれ本願発明1の「CLHテザー_(1)」および「CLHテザー_(2)」に相当するから、両者は、「N末端からC末端の方向に互いに相対的に配置された以下のドメイン、すなわち、VL-CL-CLHテザー-VH-CH1-ヒンジ-CH2-CH3」を2セット含む抗体である点で一致し、次の点で相違する。
相違点: 本願発明1は、2セットの「N末端からC末端の方向に互いに相対的に配置された以下のドメイン、すなわち、VL-CL-CLHテザー-VH-CH1-ヒンジ-CH2-CH3」が「HDテザー」を介して連結された「単鎖抗体」であるのに対して、引用発明は、「N末端からC末端の方向に互いに相対的に配置された以下のドメイン、すなわち、VL-CL-CLHテザー-VH-CH1-ヒンジ-CH2-CH3」を1セットずつ含む第一ポリペプチドおよび第二ポリペプチドが、「第一コイルドコイルドメインおよび第二コイルドコイルドメインの二量体化に伴って複合体化してなる抗体」である点。

3 判断
上記第4の1、特に(1-4)に照らすと、引用発明は、多特異性抗体を構築する上での困難、特にヘテロ二量体形成の収率が低いという課題を、コイルドコイル二量体化ドメインを使用することにより、解決したものである。したがって、引用発明においてコイルドコイル二量体化ドメインは必須の構成であって、これを他の手段に置換する動機付けを見出すことはできない。
念のため、引用文献2について検討すると、上記第4の2によれば、引用文献2には、凝固因子の有効性や薬物動態特性を増強するために、スペーサー部分を介して血小板に結合する標的部分に連結してキメラ凝固因子とすることに関する発明が記載され、当該キメラ凝固因子は流体力学半径を増大するためにさらにスペーサー部分を介して抗体のFc領域と結合してもよいことが記載されている。このとおり、引用文献2にはペプチドに機能を付与するために機能性ドメインをスペーサー部分(本願発明のテザーに相当する。)を介して連結することは記載されているとしても、多特異性抗体のようなヘテロ複合体の収率を向上することを目的としてヘテロ複合体の構成要素を連結するというものではないのだから、引用発明のコイルドコイルドメインに替えて引用文献2のスペーサー部分を採用する動機付けを見いだすことはできない。
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいうことができない。
本願発明2-27も本願発明1と同一の構成を含むものであるから、同様に、引用発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-01-07 
出願番号 特願2014-556732(P2014-556732)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C07K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小倉 梢  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 長井 啓子
松浦 安紀子
発明の名称 単鎖抗体及び他のヘテロ多量体  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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