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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1347496
審判番号 不服2017-19469  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-28 
確定日 2019-01-22 
事件の表示 特願2015-172794「高周波パワーダイオードおよび高周波パワーダイオードを製造するための製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月25日出願公開,特開2016- 63220,請求項の数(14)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成27年(2015年)9月2日(パリ条約に基づく優先権主張 2014年9月15日(以下,「優先権主張日」という。),欧州特許庁)の出願であって,平成29年4月28日付け拒絶理由通知に対し,同年8月7日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,同年8月23日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,同年12月28日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の理由の概要は以下のとおりである。
(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その優先権主張日前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1?15
・引用文献 1?3
<引用文献等一覧>
1.特開平10-270720号公報
2.特開昭53-21572号公報
3.特開平7-226405号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって請求項1に「ドーピング濃度プロファイルは,第1の主側(101)の中への第1の導電型のドーパントおよび前記第2の主側(102)の中への第2の導電型のドーパントの同時拡散によって生成され,前記同時拡散は,気体源,固体源または液体源の任意の組合せを用いて行われる」という事項を追加する補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,また,当該事項は,出願当初明細書の【請求項7】,【0036】及び【0044】に記載されているから,当該補正は新規事項を追加するものではない。
そして,「第4 本願発明」から「第6 対比及び判断」までに示すように,補正後の請求項1ないし14に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1ないし14に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明14」という。)は,審判請求時の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1ないし14は,以下のとおりである。

「【請求項1】
高周波パワーダイオードであって,
第1の主側(101)および前記第1の主側(101)とは反対の第2の主側(102)を有する半導体ウェハと,
前記第1の主側(101)に隣接して前記半導体ウェハ中に形成される第1の層(103)とを備え,前記第1の層(103)は,nまたはp導電型である第1の導電型を有し,さらに
前記第2の主側(102)に隣接して前記半導体ウェハ中に形成される第2の層(105)を備え,前記第2の層(105)は,nまたはp導電型であるが前記第1の導電型とは異なる第2の導電型を有し,さらに
前記第1の層(103)と前記第2の層(105)との間に前記半導体ウェハ中に形成される第3の層(104)を備え,前記第3の層(104)は前記第2の導電型を有し,
前記第1の層(103)の第1の導電型のドーパントの濃度は,前記ウェハの前記第1の主側(101)に隣接しての10^(19)cm^(-3)以上から第3の層(104)との前記第1の層(103)の界面での1.5・10^(15)cm^(-3)以下へと減少し,
前記第2の層(105)の第2の導電型のドーパントの濃度は,前記ウェハの前記第2の主側(102)に隣接しての10^(19)cm^(-3)以上から前記第3の層(104)との前記第2の層(105)の界面での1.5・10^(15)cm^(-3)へと減少し,
前記第3の層(104)の第2の導電型のドーパントの濃度は1.5・10^(15)cm^(-3)以下であり,
前記第1の主側(101)から50μmの距離での前記第1の層(103)中の前記第1の導電型のドーパントの濃度および前記第2の主側(102)から50μmの距離での前記第2の層(105)中の前記第2の導電型のドーパントの濃度はそれぞれ10^(17)cm^(-3)以上であり,
前記第3の層(104)の厚みは,60μm未満であり,かつ前記第1の層(103)および前記第2の層(105)の厚みより短く,
ドーピング濃度プロファイルは,第1の主側(101)の中への第1の導電型のドーパントおよび前記第2の主側(102)の中への第2の導電型のドーパントの同時拡散によって生成され,前記同時拡散は,気体源,固体源または液体源の任意の組合せを用いて行われることを特徴とする,高周波パワーダイオード。
【請求項2】
前記第1の層(103)および前記第2の層(105)は各々,少なくとも7・10^(19)cm^(-3)の表面ドーピング濃度を有する,請求項1に記載の高周波パワーダイオード。
【請求項3】
リンは,前記第2の層(105)中の第2の導電型のドーパントである,請求項1および2のいずれか1項に記載の高周波パワーダイオード。
【請求項4】
ホウ素は,前記第1の層(103)中の第1の導電型のドーパントである,請求項1から3のいずれか1項に記載の高周波パワーダイオード。
【請求項5】
前記半導体ウェハはシリコンウェハである,請求項1から4のいずれか1項に記載の高周波パワーダイオード。
【請求項6】
前記半導体ウェハの厚みは150μm以上である,請求項1から5のいずれか1項に記載の高周波パワーダイオード。
【請求項7】
キャリア寿命を短縮する再結合中心を備える,請求項1から6のいずれか1項に記載の高周波パワーダイオード。
【請求項8】
電子照射誘導トラップを備える,請求項1から7のいずれか1項に記載の高周波パワーダイオード。
【請求項9】
前記第3の層(104)の厚みは2つの同時二極性拡散長さ未満である,請求項1から8のいずれかに記載の高周波パワーダイオード。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の前記高周波パワーダイオードを製造するための製造方法であって,
(a) 前記半導体ウェハ(114)を設けるステップと,
(b) 第1の主側(101)から前記半導体ウェハ(114)の中への第1の導電型のドーパントおよび第2の主側(102)から前記半導体ウェハの中への第2の導電型のドーパントの同時拡散のステップとを備える,製造方法。
【請求項11】
前記第1の主側(101)での前記第1の導電型のドーパントの前記表面濃度および前記第2の主側(102)での前記第2の導電型のドーパントの前記表面濃度は,前記拡散のステップ(b)の間,一定に保たれる,請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記拡散のステップ(b)の前に,前記半導体ウェハ(110)を150?250μmの間の厚みに薄肉化するステップをさらに備える,請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記半導体ウェハ中に再結合中心を形成するステップをさらに備える,請求項10から12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記再結合中心は前記半導体ウェハの電子照射によって誘導される,請求項13に記載の製造方法。」

第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で加筆した。以下,同様。)。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,陰極管ディスプレー等の高圧電源での整流用等に用いられる,例えば,nまたはpベース層をはさんで表面に向けて濃度が高くなる高不純物濃度のp^(+) 層およびn^(+) 層を有するダイオードチップを複数個積層した高圧シリコンダイオードに関する。」

イ 「【0002】
【従来の技術】テレビジョンを始めとする陰極管ディスプレーや電子レンジ,レントゲン装置などの数kV?20kVの高圧電源整流用等には,ダイオードチップを積層した高圧シリコンダイオードが用いられている。ダイオードチップを積層するのは,数kV?20kVの耐圧のダイオードを1チップで作ることが素材のシリコン,表面処理等の点で殆ど不可能に近く困難なためである。
【0003】図3は,高圧シリコンダイオードの一例の断面図である。メサ型のダイオードチップ1が鉛-錫系の半田2を介して積層され,両端にリード4が半田3でろう付けされている。5はダイオードチップの表面保護用のパッシベーション層,6はエポキシ系の絶縁樹脂である。図では,12枚のダイオードチップが積層されているが,1個のダイオードチップ1の耐圧を例えば800Vとすれば,高圧シリコンダイオードとしては9.6kVの耐圧をもつことになり,高圧電源整流用のダイオードが容易に実現できる。
【0004】図2は,ダイオードチップ1の不純物濃度プロフィルの例である。横軸はダイオードチップの厚さ,縦軸は不純物濃度で,対数目盛りとしてある。比抵抗15?40Ωcm,厚さ285μmのn型シリコンの両側から,それぞれほう素と燐とが約60μm拡散されて,p^(+) アノード層とn^(+) カソード層とが形成されている。両拡散層の表面不純物濃度は10^(19)?10^(20)cm^(-3)である。中間の拡散されないnベース層は165μmであり,800V印加したとき,空乏層はnベース層内に止まりn^(+) カソード層にはかからないように設計がなされている。もちろんp型のシリコン基板を用いることもでき,その場合はpベース層となる。
【0005】一定の定格電圧に対し,ダイオードチップの耐圧を高くすれば,積層するチップ数は減らせるが,耐圧の高いダイオードチップを作るのに困難性があり,また,ダイオードチップの耐圧を低くすれば,ダイオードチップは作りやすいが,積層する枚数を増やさねばならない。このため,一般には800V程度の耐圧のダイオードチップとされることが多い。」

ウ 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】近年,前記のような高電圧整流回路に使用される高耐圧シリコンダイオードについて,電源周波数の高周波化,およびコンデンサ放電等による装置内部あるいは外部放電発生時に対応するため,破壊耐量の向上の要求が強まってきている。すなわち,非常に速い立ち上がりの逆電圧に対する破壊耐量の向上が要求されている。
・・・
【0009】このように高周波性能と逆電圧に対する耐量とは,一方の例えば高周波性能を向上させようとすると,他方の逆電圧に対する耐量が低下してしまうというトレードオフ関係にある。本発明の課題は,かかるトレードオフ関係を克服し,高周波性能を向上させ,かつ急峻な逆電圧に対する耐量を低下させない高圧シリコンダイオードを提供することにある。」

エ 「【0010】
【課題を解決するための手段】上記の課題解決のため,本発明はn型シリコン基板に拡散によりp^(+) アノード層およびn^(+) カソード層を形成したp^(+) nn^(+) 型ダイオードチップを積層した高圧シリコンダイオードにおいて,nベース層の比抵抗を15?40Ωcmとし,nベース層の厚さを30?100μmとし,p^(+) アノード層の厚さを60μm以上としてダイオードチップ1枚当たりの降伏電圧を800V以上とする。
・・・
【0012】・・・nベース層(pベース層)の厚さを薄くすれば,急峻な電圧が加わった時も空乏層の広がりに要する時間は短くなるため,高周波性能が向上する。しかしnベース層(pベース層)の厚さを極端に薄く例えば30μmより薄くすると,nベース層(pベース層)側の空乏層の広がりが少なく,電界強度が低くならない。」

オ 「【0015】
【発明の実施の形態】比抵抗15?40Ωcm,厚さ240μmのn型シリコンウェハに,一面からほう素を拡散してp^(+) アノード層を,他面から燐を拡散してn^(+) カソード層を形成する。この時,予め一面にアクセプタ不純物を含んだソースを塗布し,他面にドナー不純物を含んだソースを塗布し,その後熱拡散を行うことにより,ほぼ等しい厚さのp^(+) アノード層およびn^(+) カソード層が得られ,工程時間が短縮できる。その後,ライフタイムキラーとして白金を拡散したシリコンウェハを作製する。そのシリコンウェハにニツケルメツキをし,熱処理後,鉛を主成分とした半田層により複数枚(例えば12枚)積層し,次いで両端にろう材を接着し,ワイヤーソー等により切断して柱状体を形成する。この柱状体を化学薬品処理を行い,切断歪みを除去し,柱状体の両端にリードを接続し,さらに柱状体の側面をポリイミド等のパッシベーション層により被覆した後,エポキシ樹脂のような絶縁性樹脂にて封止する。
【0016】図1は,本発明によるダイオードチップの不純物濃度プロフィルである。横軸はダイオードチップの厚さ,縦軸は不純物濃度で,対数目盛りとしてある。p^(+) アノード層の拡散深さは,70?75μm,n^(+) カソード層の拡散深さは,70?90μmである。両拡散層の表面不純物濃度は10^(19)?10^(20)cm^(-3)である。両拡散層の間に,75?100μmのnベース層が残る。
【0017】従来140μm以上あったnベース層が100μm以下となったので,全体の空乏層幅は薄くなり,広がりは速く,高周波性能は大幅に向上する。一方,800V印加したとき,空乏層はnベース層内に止まらず,n^(+) カソード層にも広がる。同時にp^(+) アノード層側にも広がる。しかも従来よりp^(+) アノード層の拡散深さが深いので,pn接合での濃度勾配が小さく,空乏層の広がり方が大きく,最大電界強度は低くなって,電界の集中が抑えられる。
【0018】本発明の高圧シリコンダイオードは,図2に示した不純物濃度プロフィルをもつ従来の高圧シリコンダイオードに比べて,高周波駆動性能が向上した上更に,逆サージ耐量が20%以上増大した。上の実施例では,p^(+) アノード層とn^(+) カソード層とが同時に形成されてほぼ厚さが等しい例を示したが,n^(+) カソード層を例えば20μm以下に薄くすることもできる。また,p型とn型とを交換した高圧シリコンダイオードについても全く同様の作用が成立することは勿論である。」

カ 「【0022】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば,p^(+) nn^(+) 型またはp^(+) pn^(+) 型ダイオードチップを積層した高圧シリコンダイオードにおいて,シリコン基板の比抵抗を選び,ベース層の厚さを30?100μmとし,p^(+) アノード層またはn^(+) カソード層の厚さを60μm以上としてダイオードチップ1枚当たりの降伏電圧を800V以上とし,或いは,ダイオードチップの厚さに対してp^(+) アノード層またはn^(+) カソード層の厚さを25?40%とすることにより急峻な逆電圧に対するサージ耐量が強く,かつ高周波駆動性能が向上した高圧シリコンダイオードを得ることができる。」

また,【図1】は,「本発明の一実施例のダイオードチップの不純物濃度分布図」であって,アクセプタ不純物が拡散されたp^(+) アノード層とドナー不純物が拡散されたn^(+) カソード層とが同時に形成された際に生成される不純物濃度プロフィルであり,【図3】は,「高圧シリコンダイオードの断面図」である。

(2) 引用発明
上記(1)によれば,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「高周波駆動性能が向上した高圧シリコンダイオードを構成するために積層して用いられるダイオードチップであって,
n型シリコン基板に,拡散によってp^(+)アノード層及びn^(+)カソード層が形成されたものであり,
予め前記n型シリコン基板の一面にアクセプタ不純物を含んだソースを塗布し,また,前記n型シリコン基板の他面にドナー不純物を含んだソースを塗布し,その後,熱拡散を行うことにより,拡散深さ70?75μmの前記p^(+) アノード層と,拡散深さ70?90μmの前記n^(+) カソード層が同時に形成されるものであり,
前記p^(+)アノード層及び前記n^(+)カソード層の両拡散層の表面不純物濃度は10^(19)?10^(20)cm^(-3)であり,
前記p^(+)アノード層と前記n^(+)カソード層の間のnベース層の厚さは30?100μmであり,
不純物濃度プロフィルは,アクセプタ不純物が拡散された前記p^(+) アノード層と,ドナー不純物が拡散された前記n^(+) カソード層とが同時に形成された際に生成される,ダイオードチップ。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。

「一方,半導体に電子線,γ線等放射線を照射すると半導体結晶格子に欠陥が生じ,これが再結合中心として作用するためにライフタイムが短縮されることも知られていた。」(第2頁左上欄第8行ないし同欄第11行)

「次いで,装置10に対して電子線16を照射する。ペレット1の内部に均一な照射効果を得るためには電子線のエネルギーは約2MeVが必要であった。なお電子線を照射する前の状態では装置10の漏洩電流は約7×10^(-9)A(逆バイアス400V),オン電圧は約1.0V(順電流4A),逆方向回復時間は約7μs,キャリアのライフタイムは約8μs,耐圧は約900Vであった。この装置10に対してエネルギー2MeVで照射量4×10^(13)?5×10^(14)electrons/cm^(2)の電子線照射を実行したところ,キャリアのライフタイム,及び逆方向回復時間は期待通り短縮されたが,漏洩電流が最大100倍を著しく増大した。第2図,第3図はこれら試料の0.5hrの等時間アニールの結果である。両図から明らかな如く,逆方向回復時間は電子線照射後,照射量に応じて照射前の値の1/3?1/15に短縮され,且つこの照射効果を完全に消失するには450℃,0.5hr以上熱処理しなければならない。特に350℃,0.5hr以下で逆回復時間は熱処理前,即ち電子線照射直後とほぼ同一である。図示していないが,キャリアのライフタイムもこの逆方向回復時間と全く同一の傾向を示すことが確認されている。一方漏洩電流は例えば照射量4×10^(13)electrons/cm^(2)の場合には200℃,0.5hr以上の熱処理で回復し始め,250℃,0.5hrの熱処理で照射前のレベルにもどる。照射量が多い場合には漏洩電流が回復し始める熱処理条件はほぼ同じであるが,完全に回復する熱処理条件は高くなる。但し照射量5×10^(14)electrons/cm^(2)の場合でもライフタイム等が回復し始める350℃,0.5hrの熱処理で既に漏洩電流は完全に回復する。従って電子線照射と350℃,0.5hr相当以下,250℃,0.5hr相当以上の熱処理とを組合わせると,電子線照射条件のみによって定まる安定で短いキャリアのライフタイム及びそれによって決まる短い逆方向回復時間特性を有するとともに,電子線照射前と同一レベルまで低減された小さい漏洩電流を有するダイオード装置10が得られる。」(第3頁左下欄第5行ないし第4頁左上欄第3行)

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0020】注入された電子や正孔の密度が熱平衡状態の密度になるまでの時間,すなわち逆バイアスをかけた後に導通状態が継続する時間を蓄積時間(strage time)という。さらに,逆電圧をかけた後の過渡的な逆方向電流がほとんど定常的逆電流に等しくなるまでの時間を逆回復時間(tr:reverse recovery time)という。したがって,蓄積時間や逆回復時間が短いことが望ましい。」

「【0025】少数キャリヤーのライフタイム制御の方法として,金やプラチナ等の重(貴)金属を素子に拡散し,深い準位を形成したり,電子線やプロトン等の荷電子を照射して欠陥を形成することがなされている。」

「【0054】図1に示した装置を用いて,縦型バイポーラ半導体に,電子線照射を行う。電子線を,通常500μm前後の厚さのシリコンウェハーに照射すると,ウェハーの縦方向全体にほぼ均一に欠陥が生じることになり,図6(a)のような欠陥密度になる。さらに,電子線照射後の縦型バイポーラ半導体を,図2に示したような装置でランプアニールあるいはレーザーアニールする。」

第6 対比及び判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

ア 引用発明の「高周波駆動性能が向上した高圧シリコンダイオード」は,「高圧電源整流用」である(前記第5の1(1)イ【0002】)から,「高周波パワーダイオード」ということができる。また,引用発明の「ダイオードチップ」は,「高周波パワーダイオード(高周波駆動性能が向上した高圧シリコンダイオード)を構成するために積層して用いられる」ものであるから,本願発明1の「高周波パワーダイオード」とは,「高周波パワーダイオード構成体」である点で共通する。
イ 引用発明の「n型シリコン基板」は,「半導体ウェハ」ということができ,その「一面」及び「他面」は,それぞれ「第1の主側(101)」及び「第2の主側(102)」ということができる。
ウ 引用発明の「p^(+)アノード層」及び「n^(+)カソード層」は,それぞれ,本願発明1の「第1の導電型」を有する「第1の層(103)」及び「第2の導電型」を有する「第2の層(105)」に相当する。
エ 引用発明の「nベース層」は,本願発明1の「第2の導電型」を有する「第3の層(104)」に相当する。
オ 引用発明における「前記p^(+)アノード層及び前記n^(+)カソード層の両拡散層の表面不純物濃度は10^(19)?10^(20)cm^(-3)」であることと,本願発明1における「前記第1の層(103)の第1の導電型のドーパントの濃度は,前記ウェハの前記第1の主側(101)に隣接しての10^(19)cm^(-3)以上から第3の層(104)との前記第1の層(103)の界面での1.5・10^(15)cm^(-3)以下へと減少」すること,及び,「前記第2の層(105)の第2の導電型のドーパントの濃度は,前記ウェハの前記第2の主側(102)に隣接しての10^(19)cm^(-3)以上から前記第3の層(104)との前記第2の層(105)の界面での1.5・10^(15)cm^(-3)へと減少」することととは,「前記第1の層(103)の第1の導電型のドーパントの濃度は,前記ウェハの前記第1の主側(101)に隣接する部分が10^(19)cm^(-3)」である点,及び,「前記第2の層(105)の第2の導電型のドーパントの濃度は,前記ウェハの前記第2の主側(102)に隣接する部分が10^(19)cm^(-3)」である点で共通する。
カ 引用発明における「不純物濃度プロフィルは,アクセプタ不純物が拡散された前記p^(+) アノード層と,ドナー不純物が拡散された前記n^(+) カソード層とが同時に形成された際に生成される」ことは,本願発明1の「ドーピング濃度プロファイルは,第1の主側(101)の中への第1の導電型のドーパントおよび前記第2の主側(102)の中への第2の導電型のドーパントの同時拡散によって生成され」ることに相当する。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「高周波パワーダイオード構成体であって,
第1の主側(101)および前記第1の主側(101)とは反対の第2の主側(102)を有する半導体ウェハと,
前記第1の主側(101)に隣接して前記半導体ウェハ中に形成される第1の層(103)とを備え,前記第1の層(103)は,nまたはp導電型である第1の導電型を有し,さらに
前記第2の主側(102)に隣接して前記半導体ウェハ中に形成される第2の層(105)を備え,前記第2の層(105)は,nまたはp導電型であるが前記第1の導電型とは異なる第2の導電型を有し,さらに
前記第1の層(103)と前記第2の層(105)との間に前記半導体ウェハ中に形成される第3の層(104)を備え,前記第3の層(104)は前記第2の導電型を有し,
前記第1の層(103)の第1の導電型のドーパントの濃度は,前記ウェハの前記第1の主側(101)に隣接する部分が10^(19)cm^(-3)であり,
前記第2の層(105)の第2の導電型のドーパントの濃度は,前記ウェハの前記第2の主側(102)に隣接する部分が10^(19)cm^(-3)であり,
ドーピング濃度プロファイルは,第1の主側(101)の中への第1の導電型のドーパントおよび前記第2の主側(102)の中への第2の導電型のドーパントの同時拡散によって生成される,高周波パワーダイオード構成体。」

(相違点)
(相違点1)
「高周波パワーダイオード構成体」について,本願発明1は,「高周波パワーダイオード」であるのに対し,引用発明は,「高周波パワーダイオード(高周波駆動性能が向上した高圧シリコンダイオード)を構成するために積層して用いられるダイオードチップ」である点。
(相違点2)
「第1の層(103)の第1の導電型のドーパントの濃度」について,本願発明1は,「前記ウェハの前記第1の主側(101)に隣接しての10^(19)cm^(-3)以上から第3の層(104)との前記第1の層(103)の界面での1.5・10^(15)cm^(-3)以下へと減少」するのに対し,引用発明は,「前記ウェハの前記第1の主側(101)に隣接する部分が10^(19)cm^(-3)」であるものの,「第3の層(104)との前記第1の層(103)の界面での1.5・10^(15)cm^(-3)以下へと減少」することは明示されていない点。
(相違点3)
「第2の層(105)の第2の導電型のドーパントの濃度」について,本願発明1は,「前記ウェハの前記第2の主側(102)に隣接しての10^(19)cm^(-3)以上から前記第3の層(104)との前記第2の層(105)の界面での1.5・10^(15)cm^(-3)へと減少」するのに対し,引用発明は,「前記ウェハの前記第2の主側(102)に隣接する部分がの10^(19)cm^(-3)」であるものの,「前記第3の層(104)との前記第2の層(105)の界面での1.5・10^(15)cm^(-3)へと減少」することは明示されていない点。
(相違点4)
「第3の層(104)の第2の導電型のドーパントの濃度」について,本願発明1は,「1.5・10^(15)cm^(-3)以下」であるのに対し,引用発明は,明示されていない点。
(相違点5)
本願発明1では,「前記第1の主側(101)から50μmの距離での前記第1の層(103)中の前記第1の導電型のドーパントの濃度および前記第2の主側(102)から50μmの距離での前記第2の層(105)中の前記第2の導電型のドーパントの濃度はそれぞれ10^(17)cm^(-3)以上」であるのに対し,引用発明では,明示されていない点。
(相違点6)
「第3の層(104)の厚み」について,本願発明1は,「60μm未満であり,かつ前記第1の層(103)および前記第2の層(105)の厚みより短」いのに対し,引用発明は,明示されていない点。
(相違点7)
「同時拡散」について,本願発明1は,「気体源,固体源または液体源の任意の組合せを用いて行われる」のに対し,引用発明は,明示されていない点。

(2) 相違点についての判断
上記相違点1について検討すると,引用発明の「ダイオードチップ」は,高周波パワーダイオード(高周波駆動性能が向上した高圧シリコンダイオード)を構成するために積層して用いられるものであって,当該「ダイオードチップ」単体で,高周波パワーダイオードを構成するものではない。
そして,引用文献1の【発明の詳細な説明】の【発明の属する技術分野】には,「・・・nまたはpベース層をはさんで表面に向けて濃度が高くなる高不純物濃度のp^(+) 層およびn^(+) 層を有するダイオードチップを複数個積層した高圧シリコンダイオードに関する」(前記第5の1(1)ア)と記載されており,【従来の技術】(同イ)をみても,「ダイオードチップの耐圧を高くすれば,積層するチップ数は減らせるが,耐圧の高いダイオードチップを作るのに困難性があり,また,ダイオードチップの耐圧を低くすれば,ダイオードチップは作りやすいが,積層する枚数を増やさねばならない」という問題が記載されているから,引用文献1に開示された「高圧シリコンダイオード」は,「ダイオードチップ」を複数個積層して構成することを前提としたものであるといえる。
また,引用文献1の【発明が解決しようとする課題】(同ウ),【課題を解決するための手段】(同エ)及び【発明の実施形態】(同オ)をみても,「ダイオードチップ」を複数個積層して構成した「高圧シリコンダイオード」についての記載しかなく,「ダイオードチップ」単体で,「高圧シリコンダイオード」を構成することは記載も示唆もされていない(例えば,「高圧シリコンダイオード」の断面図である【図3】には,12枚のダイオードチップ1が半田2を介して積層されるとともに,パッシベーション層5でダイオードチップ1が保護され,両端にリード4が半田3でろう付けされて構成されていることが記載されている。)。
そうすると,引用文献1に接した当業者が,引用文献1に開示された「ダイオードチップ」を積層することなく,「ダイオードチップ」単体で,「高圧シリコンダイオード」を構成しようと想起し得るとはいえない。
そして,本願発明1は,「低いオン状態電圧および高い電流能力を有する,10kHz以上の高い周波数で用いることができる抵抗溶接のための高周波パワーダイオード(すなわち溶接ダイオード)を提供する」(本願明細書【0015】)という格別の有利な効果を奏するものである。
したがって,上記相違点2ないし7について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明,引用文献2及び3に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし14について
本願発明2ないし14も,本願発明1の「高周波パワーダイオード」と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,引用文献2及び3に記載された事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 原査定について
審判請求時の手続補正で補正された本願発明1ないし14は,前記第4のとおり,上述の「高周波パワーダイオード」と同一の構成を有するものであって,前記第6のとおり,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1ないし3に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-01-08 
出願番号 特願2015-172794(P2015-172794)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 綿引 隆  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 恩田 春香
梶尾 誠哉
発明の名称 高周波パワーダイオードおよび高周波パワーダイオードを製造するための製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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