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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F24D
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F24D
管理番号 1347513
審判番号 不服2017-7947  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-02 
確定日 2019-01-24 
事件の表示 特願2012-241145号「床暖房用温水マット」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月19日出願公開、特開2014- 92289号、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年10月31日の出願であって、平成28年8月22日付けで拒絶理由が通知され、これに対して請求人からは何らの応答はなく、平成29年2月27日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、平成29年6月2日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、その後当審で平成30年7月26日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成30年10月1日に意見書の提出及び手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
(進歩性)この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献Aに記載された発明及び周知の技術(引用文献B、C)に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
A.特開平4-80531号公報
B.実願平4-75854号(実開平6-32914号)のCD-ROM(周知技術を示す文献)
C.特開2000-65365号公報 (周知技術を示す文献)

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
1 (進歩性)この出願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び周知の技術(引用文献2、3、4)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2 (明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記(1)?(3)の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(請求項1、2について)
(1) 「前記基板ピースにおいて、上下端に位置する基板端ピースとの間には複数枚の基板中間ピースが連続して配置されていて」と記載されているが、「上下」とは、何を基準に「上」又は「下」と区別しているかが明確とはいえない。
(2) 「前記マット基板に形成されたループ状の配管溝内に温水パイプを配管し」と記載されているが、「ループ状」との用語は、明細書に記載はなく、どのような形状をループ状として特定しているのかが明確とはいえない。
(3) 「ロール状に縦巻きが可能な構成であること」と記載されているが、「縦」とは、どの方向を特定しているのかが判然としない。

<引用文献等一覧>
1.特開2008-157562号公報
2.特開平4-80531号公報(周知技術を示す文献。拒絶査定時の引用文献A)
3.実願平4-75854号(実開平6-32914号)のCD-ROM(周知技術を示す文献。拒絶査定時の引用文献B)
4.特開2005-249302号公報(周知技術を示す文献)

第4 本願発明
本願請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成30年10月1日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、本願発明は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
a.一枚の四角形からなる温水マットを形成するためのマット基板は、対向する辺に向って平行なスリットにより分割して形成された基板中間ピースの複合体からなり、さらに前記基板中間ピースを間にしてその外側に連続して配置された基板端ピースからなること、
b.前記基板中間ピースには一定の間隔で基板中間ピースを横断する方向に直線配管溝が形成され、前記基板端ピースには、前記基板中間ピースの直線配管溝を繋ぐためのUターン配管溝が形成されていること、
c.前記基板中間ピースの上面には、その直線配管溝に夫々かかる部分にU字状の凹曲部を形成した伝熱テープが夫々取り付けられていること、
d.前記マット基板に形成された配管溝内に温水パイプを配管し、この上面全体には放熱シートが張り付けられていること、
e.前記温水マット基板は、前記放熱シートを内側として基板端ピースの一方からスリットと放熱シートによる丁番作用を利用して前記温水パイプの直線配管方向と同一の方向からロール状に縦巻きが可能な構成であること、
f.を特徴とする床暖房用温水マット。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
当審拒絶理由通知に引用された本願出願前に頒布された刊行物である引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【請求項1】
折り線部を有し、該折り線部に沿って屈曲可能なベースと、
該ベースの上面に、該折り線部を横切って連続して設けられた配管収容用の溝と、
該溝に収容されており、且つ該折り線部を横切って連続して引き回されている温調用配管と、
該温調用配管と接するように溝内面からベース上面にかけて配材された均熱板と、
該折り線部を跨いで該ベースの上面に連続して配置され、該ベースの上面に付着された均熱シート材と
を有し、
該均熱板は、該溝内に配置された略U字形断面形状のU字部と、該U字部に連なり、前記ベースの上面に重なるフランジ部とを有している温調マットにおいて、
該折り線部近傍の溝にも該均熱板が配置されており、
該折り線部近傍の溝の該均熱板は、長手方向の一端が該折り線部又はその直近に位置していることを特徴とする温調マット。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の部屋の床、壁、天井等の暖房や冷房を行うための温調マットと、温調マットに用いられる均熱板に関する。
【背景技術】
【0002】
床暖房構造として、板状の基板の上面の溝に温水配管を引き回した温水床暖房が周知である。
【0003】
第13図は特開平11-257674号の床暖房構造を示す平面図であり、長方形の板状の基板1が長側辺を平行にして、かつ相互間に小根太2を介して配列されている。この基板1の上面の溝に温水配管3が収容されている。温水配管3は、隣接する基板1に跨がって連続して引き回され、両端がそれぞれヘッダー4に接続されている。
【0004】
この溝内面から基板上面にかけて均熱板5が配置されている。この均熱板5は、周知(例えば実開昭60-170627号、特開2002-295853号)の通り、第14図に示す略Ω字形断面形状のものである。即ち、この均熱板5は、U字部5aと、該U字部5aの両端からそれぞれ反対方向に張り出すフランジ部5bとからなり、U字部5aが溝内に配置され、フランジ部5bが基板1の上面に配置される。この均熱板は熱伝導率が高いアルミ製、銅製とされることが多い。
【0005】
従来は、第13図に示すように、均熱板5は基板1の長手方向の溝にのみ配置されている。
【0006】
第13図では、基板1を現場で1枚ずつ敷設施工した後、温水配管3を溝内に配材し、
その上にアルミ箔などを均熱シート材を展開配置し、その上に表層材6を施工している。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特開平11-257674号のように、従来は基板上面の溝の長手方向部分にのみ均熱板5を配材しており、短手方向部分には均熱板5は配材されていない。そのため、その分だけ床暖房マットの上面放熱量が少なくなっていた。
【0009】
本発明は、上面放熱量が多い温調マットと、温調マットに用いられる均熱板とを提供することを目的とする。」

「【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の温調マットは、折り線部を有し、該折り線部に沿って屈曲可能なベースと、該ベースの上面に、該折り線部を横切って連続して設けられた配管収容用の溝と、該溝に収容されており、且つ該折り線部を横切って連続して引き回されている温調用配管と、該温調用配管と接するように溝内面からベース上面にかけて配材された均熱板と、該折り線部を跨いで該ベースの上面に連続して配置され、該ベースの上面に付着された均熱シート材とを有し、該均熱板は、該溝内に配置された略U字形断面形状のU字部と、該U字部に連なり、前記ベースの上面に重なるフランジ部とを有している温調マットにおいて、該折り線部近傍の溝にも該均熱板が配置されており、該折り線部近傍の溝の該均熱板は、長手方向の一端が該折り線部又はその直近に位置していることを特徴とするものである。」

「【0036】
[第1の実施の形態に係る温調マットとしての床暖房マット10]
第1図は第1の実施の形態に係る温調マットとしての床暖房マット10の平面図、第2図及び第3図は第1図の床暖房マット10の一部の分解斜視図、第4図は四分円弧形の均熱板の斜視図、第5図は床暖房マット10の巻回状況を示す斜視図である。
【0037】
なお、第1図では均熱シート材の図示が省略されている。
【0038】
この床暖房マット10は、複数枚(この実施の形態では12枚)の基板11?22よりなる基板群と、各基板11?22の上面に設けられた溝31,33,34に配材された温水配管40と、該温水配管40が連なるヘッダー41と、溝31,33,34から基板11?22の上面にかけて配材された均熱板51,53,54と、各基板11?22の上面に跨がって付着された均熱シート材60等を備えている。
【0039】
即ち、この実施の形態では、盤体としての略長方形帯板状の基板11?22を、各々の長側辺同士を突き合わせるように配列して床暖房マット10のベース(符号略)を構成している。これらの基板11?22の突き合わせ部が該ベースの折り線部となっており、該ベースは、これらの基板11?22の突き合わせ部に沿って屈曲可能となっている。」

「【0048】
いずれの均熱板51,53,54も、U字部5a及びフランジ部5bを有した略Ω字形断面形状のものであり、第2,3図の通りU字部5aが溝31,33,34内に配置され、フランジ部5bが基板11?22の上面に配置される。すべての溝31,33,34に均熱板51,53,54のいずれかが装着される。
【0049】
即ち、長手方向溝31には長尺の直線状均熱板51が装着され、短手直線溝33には短尺の直線状の均熱板53が装着される。四分円弧形溝34には四分円弧形均熱板54が装着される。均熱板53は、その両端が溝33の両端に配置されており、短手直線溝33の延在方向の全体を覆っている。」

「【0053】
この床暖房マット10は、第5図の通り、基板11?22の長側辺同士の突き合わせ部で上面側(均熱シート材60側)を谷折りするように屈曲させることができるので、前記第15図のように巻回することができる。」

























これらの記載事項及び図面を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「複数枚の基板よりなる基板群と、各基板の上面に設けられた溝に配材された温水配管と、該温水配管が連なるヘッダーと、溝から基板の上面にかけて配材された均熱板と、各基板の上面に跨がって付着された均熱シート材とを備えた、床暖房マットにおいて、
該基板は略長方形帯板状であり、該基板の各々の長側辺同士を突き合わせるように配列して床暖房マットのベースを構成し、これらの基板の突き合わせ部が該ベースの折り線部となっており、該ベースは、これらの基板の突き合わせ部に沿って上面側(均熱シート材側)を谷折りするように屈曲可能となっていて巻回することができ、
該溝は、該ベースの上面に、該折り線部を横切って連続して設けられた温水配管収容用であり、
該温水配管は、該溝に収容されており、且つ該折り線部を横切って連続して引き回されており、
該均熱板は、該溝内に配置された略U字形断面形状のU字部と、該U字部に連なり、前記ベースの上面に重なるフランジ部とを有していて、
該折り線部近傍の溝にも該均熱板が配置されており、
該折り線部近傍の溝の該均熱板は、長手方向の一端が該折り線部又はその直近に位置している、
床暖房マット。」


2.引用文献2について
また、当審拒絶理由通知に引用された上記引用文献2には、以下の事項が記載されている。

「2.特許請求の範囲
1 熱媒体流路用の樹脂製パイプが埋め込まれている発泡樹脂製シートに、同シートより硬質の細長板材多数が、その長手方向を前記発泡樹脂製シートの折り曲げ方向に直交させるようにし、かつ互いの間に間隔を明けるようにして貼り合わされてなる床暖房用マット。」

「発泡樹脂製シートへの樹脂製パイプの埋め込み形態は様々である。
ひとつは、樹脂製パイプが発泡樹脂製シート中に完全に埋没している形態である。例えば、樹脂製パイプごと発泡樹脂製シートの成形を行うようにすれば、この形態をとることができる。そして、同シートの裏面に細長板材を貼り合わせる。なお、表面に薄手のシートを貼り合せてもよい。
もうひとつは、樹脂製パイプが発泡樹脂製シートに形成された溝に嵌め込まれた形態である。」(公報2ページ右上欄?左下欄)

「〔発明の効果〕
請求項1、2記載の床暖房用マットは、以上に述べたように、熱媒体流路用樹脂製パイプ埋め込みの発泡樹脂製シートに、同シートより硬めの多数の細長板材が貼り合わされており、その分、従来よりも床沈下やパイプ変形が起こり難くなると同時に、これら細長板材の貼り合せが板材の長手方向を発泡樹脂製シートの折り曲げ方向に直交させるようにし、かつ互いの間に間隔を明けるようにしてなされており、マットを折り曲げ丸められるため、取扱(運搬・保管等)易く、極めて実用的である。」(公報4ページ右上欄?左下欄)

3.引用文献3について
また、当審拒絶理由通知に引用された上記引用文献3には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】 断熱板に蛇行状に穿設した放熱体収納溝内からその両側縁に亘り伝熱テープを貼着して放熱体を配設収納し、上記断熱板上に均熱板を積層貼着した床暖房装置において、上記伝熱テープで覆われた放熱体収納溝に嵌合し放熱体を保護する保護金具を設けたことを特徴とする床暖房装置。」

「【0006】
【作用】
放熱体収納溝を穿設した断熱板は、放熱体からの放熱が床下に逃げるのを防止する。上記放熱体収納溝内から両側縁に亘って貼着した伝熱テープは、放熱体からの放熱を均熱板に熱伝導する。保護金具は誤って放熱体収納溝に釘が打ち込まれた際に放熱体が損傷するのを防止すると共に、放熱体からの放熱を均熱板に熱伝導する。均熱板は放熱体からの放熱を室内に温度むらなく放熱する。」

「【0011】
7は前記断熱板2上に貼着積層された鉄板等からなる均熱板である。」

4.引用文献4について
また、当審拒絶理由通知に引用された上記引用文献4には、以下の事項が記載されている。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
放熱体を設け、放熱体を保持して下方への熱の放散を防止する断熱保持層を設け、床面上に配設する床暖房用マットであって、
前記断熱保持層に、前記放熱体を保持する溝部を設け、
前記放熱体の下方で前記放熱体と前記断熱保持層との間に空間を形成する凹部を、前記溝部内に設けた床暖房用マット。
【請求項2】
前記溝部の前記放熱体と前記断熱保持層との間に伝熱シートを介装して設け、
前記伝熱シートが前記断熱保持層上面に延設してある請求項1記載の床暖房用マット。」

「【0020】
〈放熱体〉
前記放熱体には、温水配管1の他、蒸気配管、加熱オイル配管、電気ヒータやヒートパイプ等が利用可能であって、床仕上材5側に熱伝導可能なものであればよい。
【0021】
前記温水配管1は、たとえば、外径7.2mmのPE樹脂管から形成され、前記断熱保持層2に設けられる溝部21に嵌入保持する。この際前記断熱保持層2と温水配管1との間には、アルミニウム箔等からなる伝熱シート11を介装しておく。その伝熱シート11の端部11aは、前記溝部21の外側にまで延設してある。
【0022】
また、これらは、荷重を受けて弾性変形する材質もしくは形状としてあることが好ましく、たとえば、温水配管1としては、架橋ポリエチレン管、ポリブテン管、銅管などが用いられる。
【0023】
前記伝熱シート11としては、アルミニウム箔の他、金属蒸着シート、錫箔、ステンレススチール箔、銅箔などを用いることができ、前記温水配管1等からの熱を良好に伝導させられるものであればよい。中でも、製造の難易、コストなどの観点からアルミニウム箔が好適である。金属箔の厚さは、薄すぎると強度が十分でなく、厚すぎると製品が重くなるばかりでなく、コストがかさむので、10?100μmの範囲で選ぶのが好ましい。」

第6 当審拒絶理由についての判断
1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、各文言の意味、機能または作用等からみて、引用発明の「基板」、「溝」、「温水配管」、「均熱シート材」、「床暖房マット」及び「ベース」は、それぞれ、本願発明の「基板中間ピース」又は「基板端ピース」、「直線配管溝」又は「配管溝」、「温水パイプ」、「放熱シート」、「床暖房用温水マット」又は「温水マット」及び「マット基板」又は「温水マット基板」に相当する。
引用発明の「該基板は略長方形帯板状であり」、「複数枚の基板よりなる基板群」は、四角形をなして「床暖房マット」を形成するものなので、引用発明の「基板」は、本願発明の「一枚の四角形からなる温水マットを形成するためのマット基板」に相当する。
引用発明の「各基板の上面に設けられた溝」は、「該ベースの上面に、該折り線部を横切って連続して設けられた温水配管収容用であり」、引用文献1の図1の配置を併せてみると、溝が中間に配置された基板を横断しており、また、端部に配置された基板でUターンをしていて、当該Uターンしている溝は、中間に配置された基板を横断する溝を繋ぐUターン配管溝といい得る。そして、中間に配置された基板は、本願発明の「基板中間ピース」に相当し、端部に配置された基板は、同じく「基板端ピース」に相当するので、引用発明の「各基板の上面に設けられた溝」は、本願発明の「前記基板中間ピースには一定の間隔で基板中間ピースを横断する方向に直線配管溝が形成され、前記基板端ピースには、前記基板中間ピースの直線配管溝を繋ぐためのUターン配管溝が形成されている」態様と、「前記基板中間ピースには基板中間ピースを横断する方向に直線配管溝が形成され、前記基板端ピースには、前記基板中間ピースの直線配管溝を繋ぐためのUターン配管溝が形成されている」限りで一致する。
そうすると、引用発明の「該基板の各々の長側辺同士を突き合わせるように配列して床暖房マットのベースを構成し、これらの基板の突き合わせ部が該ベースの折り線部となって(おり)」いることは、基板の各々の長側辺同士を突き合わせられて、折り線部となっている部分は、床暖房マットにおいて、スリットをなしているといえるので、本願発明の「対向する辺に向って平行なスリットにより分割して形成された基板中間ピースの複合体からなり、さらに前記基板中間ピースを間にしてその外側に連続して配置された基板端ピースからなること」に相当する。
引用発明の「該溝内に配置された略U字形断面形状のU字部と、該U字部に連なり、前記ベースの上面に重なるフランジ部とを有してい(て)」る、「溝から基板の上面にかけて配材された均熱板」は、引用文献1の図2、図6、図7の均熱板の形状からみて、基板の上面には、その溝にかかる部分にU字状の凹曲部を形成したものといえるので、本願発明の「c.前記基板中間ピースの上面には、その直線配管溝に夫々かかる部分にU字状の凹曲部を形成した伝熱テープが夫々取り付けられていること」と、「前記基板中間ピースの上面には、その直線配管溝にかかる部分にU字状の凹曲部を形成した伝熱材が夫々取り付けられていること」の限りで一致する。
引用発明の「各基板の上面に設けられた溝に配材された温水配管と、該温水配管が連なるヘッダーと、溝から基板の上面にかけて配材された均熱板と、各基板の上面に跨がって付着された均熱シート材とを備えた」態様は、「均熱シート材」が付着された態様は、「均熱シート材」が張り付けられた態様といえるので、本願発明の「d.前記マット基板に形成された配管溝内に温水パイプを配管し、この上面全体には放熱シートが張り付けられていること」に相当する。
引用発明の「該ベースは、これらの基板の突き合わせ部に沿って上面側(均熱シート材側)を谷折りするように屈曲可能となっていて巻回することができ」ることは、引用文献1の図1、4、5の態様をみると、均熱シート材を内側として基板の一方から、スリットと均熱シートによる丁番作用を利用して温水配管と同一の方向からロール状に巻かれている態様といえ、当該ロール状に巻かれている態様を縦巻きと称すると、本願発明の「e.前記温水マット基板は、前記放熱シートを内側として基板端ピースの一方からスリットと放熱シートによる丁番作用を利用して前記温水パイプの直線配管方向と同一の方向からロール状に縦巻きが可能な構成であること」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「a.一枚の四角形からなる温水マットを形成するためのマット基板は、対向する辺に向って平行なスリットにより分割して形成された基板中間ピースの複合体からなり、さらに前記基板中間ピースを間にしてその外側に連続して配置された基板端ピースからなること、
b.前記基板中間ピースには基板中間ピースを横断する方向に直線配管溝が形成され、前記基板端ピースには、前記基板中間ピースの直線配管溝を繋ぐためのUターン配管溝が形成されていること、
c.基板中間ピースの上面には、その直線配管溝にかかる部分にU字状の凹曲部を形成した伝熱材が夫々取り付けられていること、
d.前記マット基板に形成された配管溝内に温水パイプを配管し、この上面全体には放熱シートが張り付けられていること、
e.前記温水マット基板は、前記放熱シートを内側として基板端ピースの一方からスリットと放熱シートによる丁番作用を利用して前記温水パイプの直線配管方向と同一の方向からロール状に縦巻きが可能な構成であること、
f.を備えた床暖房用温水マット。」

(相違点)
「b.前記基板中間ピースには基板中間ピースを横断する方向に直線配管溝が形成され、前記基板端ピースには、前記基板中間ピースの直線配管溝を繋ぐためのUターン配管溝が形成されていること」について、本願発明は、「b.前記基板中間ピースには一定の間隔で基板中間ピースを横断する方向に直線配管溝が形成され」て、「基板中間ピースの上面には、その直線配管溝に夫々かかる部分にU字状の凹曲部を形成した伝熱テープが夫々取り付けられている」とされているのに対して、引用発明は、中間の部分の基板と端の部分の基板とを区別しておらず、また、中間の部分の基板に、一定の間隔で基板を横断する方向に直線配管溝が形成されておらず、「該折り線部近傍の溝にも該均熱板が配置されており、該折り線部近傍の溝の該均熱板は、長手方向の一端が該折り線部又はその直近に位置している」とされている点。

(2)相違点についての判断
引用発明は、「従来は基板上面の溝の長手方向部分にのみ均熱板5を配材しており、短手方向部分には均熱板5は配材されていない。そのため、その分だけ床暖房マットの上面放熱量が少なくなっていた。」(【0008】)との点に着目し、「上面放熱量が多い温調マットと、温調マットに用いられる均熱板とを提供することを目的とする。」というものである。
そのために、引用発明は、「該折り線部近傍の溝にも該均熱板が配置されており、該折り線部近傍の溝の該均熱板は、長手方向の一端が該折り線部又はその直近に位置してい」る態様を採用している。
また、引用文献1の図1の平面図から、温水配管及び均熱板の配置について、基板の短手方向に配置された温水配管及び均熱板に加え、基板の長手方向に配置された温水配管及び均熱板の配置が看て取れる。
そうすると、引用発明は「ベースは、これらの基板の突き合わせ部に沿って上面側(均熱シート材側)を谷折りするように屈曲可能となっていて巻回することができ」るものであって、基板の長手方向に温水配管及び均熱板が配置されていることが不都合となるものではなく、引用文献1にもこのような配置が不利となる旨の記載も示唆もない。そうすると、引用発明のベースの基板において、「一定の間隔で基板を横断する方向に直線配管溝が形成」されるものとし、その結果、温水配管を長手方向に配置されない態様とする動機付けを見い出せない。さらに、「一定の間隔で基板を横断する方向に直線配管溝が形成」されるようにして温水配管を配置すると、「床暖房マット」が、「屈曲可能となっていて巻回すること」について、抵抗が増大し得ることが普通に予測されるから、引用発明において、上記相違点に係る本願発明の特定事項を採用することには、むしろ阻害要因があるといえる。
また、引用文献2には、「熱媒体流路用の樹脂製パイプが埋め込まれている発泡樹脂製シートに、同シートより硬質の細長板材多数が、その長手方向を前記発泡樹脂製シートの折り曲げ方向に直交させるようにし、かつ互いの間に間隔を明けるようにして貼り合わされてなる床暖房用マット」ではあるものの、屈曲可能となっていて巻回することができるマットにおいて「一定の間隔で基板を横断する方向に直線配管溝が形成」されるものではなく、引用文献3及び4にもこの点について記載も示唆もない。
また、引用発明において、「一定の間隔で基板を横断する方向に直線配管溝が形成」されたものとしない以上、伝熱材について、「基板中間ピースの上面には、その直線配管溝に夫々かかる部分にU字状の凹曲部を形成した伝熱テープが夫々取り付けられている」ものとすることも当業者が容易に想到し得たこととすることはできない。
以上のとおりであるから、引用発明において、相違点に係る本願発明の特定事項を採用することが、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たということはできない。
そして、本願発明は、「温水マットを温水パイプの直線配管方向の端からロール状に縦巻きにして折り畳むことができると共に基板中間ピースにはそれぞれ伝熱テープが取り付けられているため、基板中間ピースの配管溝内に位置する温水パイプの裏側の熱を放熱シート側に効率良く伝熱することができる。このため、縦巻き折り畳み式の温水マットにおいて、熱効率を高めることができる。」(本願明細書【0012】)との効果を奏するものである。

したがって、本願発明は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 特許法第36条第6項第2号(明確性)について
上記「第3 当審拒絶理由の概要 2」の理由については、平成30年10月1日の手続補正により解消した。

第7 原査定についての判断
平成30年10月1日の手続補正により、補正後の請求項1は、「マット基板は、対向する辺に向って平行なスリットにより分割して形成された基板中間ピースの複合体からなり、さらに前記基板中間ピースを間にしてその外側に連続して配置された基板端ピースからなること」という技術的事項を有するものとなった。そして、「b.前記基板中間ピースには一定の間隔で基板中間ピースを横断する方向に直線配管溝が形成され、前記基板端ピースには、前記基板中間ピースの直線配管溝を繋ぐためのUターン配管溝が形成されていること、
c.前記基板中間ピースの上面には、その直線配管溝に夫々かかる部分にU字状の凹曲部を形成した伝熱テープが夫々取り付けられていること」という技術的事項を有することは、原査定における引用文献A、B(当審拒絶理由通知における引用文献2、3)、Cには記載されておらず、本願出願前における周知技術でもないので、本願発明は、当業者であっても、原査定における引用文献A-Cに基いて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審で通知した拒絶理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-01-07 
出願番号 特願2012-241145(P2012-241145)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (F24D)
P 1 8・ 121- WY (F24D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡邉 聡  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 山崎 勝司
莊司 英史
発明の名称 床暖房用温水マット  
代理人 大橋 弘  

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