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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1347565
審判番号 不服2017-3343  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-06 
確定日 2019-01-04 
事件の表示 特願2012-177717「アディポネクチン産生促進剤及びアディポネクチン産生促進用飲食品」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月24日出願公開、特開2014- 34562〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成24年8月10日の出願であって、平成28年5月17日付けで拒絶理由が通知され、同年11月30日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成29年3月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ、平成30年2月9日付けで、当審が拒絶理由を通知したところ、同年5月7日に手続補正がなされ、さらに、同年7月19日に上申書が提出されたものである。


第2 本願発明

本願の請求項1?2に係る発明は、平成30年5月7日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。


「【請求項1】
桑葉抽出物、及び、マンゴスチン果皮抽出物を組み合わせて添加した混合物からなるアディポネクチン産生促進剤。」


第3 当審における拒絶の理由

平成30年2月9日付けで当審が通知した拒絶理由は、要するに、本願発明1は、下記引用文献1、8及び13?15に記載された発明に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第2009/101698号
引用文献8:特表2012-516842号公報(公表日:平成24年7月26日)
引用文献13:国際公開第2010/109628号
引用文献14:特表2009-518529号公報
引用文献15:特開2007-63207号公報


第4 引用文献の記載事項及び引用発明

1.引用文献1
(1)引用文献1に記載された事項
ア.記載事項1-1(請求の範囲[1])
「1-デオキシノジリマイシンを含む、脂肪蓄積を抑制するための組成物。 」

イ.記載事項1-2([0021])
「本発明の組成物は、有効成分として、上記1-デオキシノジリマイシンを含むことを特徴とする。本発明の組成物は、脂肪蓄積を抑制する活性を有する。本発明の組成物は、アディポネクチンの分泌を促し、脂質代謝を促進することにより、脂肪蓄積を抑制する活性を有する。従って、本発明の組成物は、過剰な脂肪蓄積に関連する疾患及び/又は症状を予防及び/又は改善するために使用できる。」

ウ.記載事項1-3([0027]?[0032])
「1-デオキシノジリマイシンを含む組成物は、桑科植物から常法に従って製造できるが、以下に一実施形態について説明する。
まず、原料桑葉を洗浄後、乾燥する。桑葉を乾燥することにより、1-デオキシノジリマイシンを濃縮することができる。・・・
桑葉を乾燥する工程は、当技術分野で通常用いられる方法によって実施することができる。・・・
好ましくは、桑葉を乾燥した後、さらに、水、親水性有機溶媒、例えばエタノール、又はそれらの混合液で抽出を行う。・・・
上記で得られた抽出物をさらに乾燥することにより、1-デオキシノジリマイシン含有率がさらに高い組成物を得ることができる。乾燥方法としては、特に制限されないが、・・・乾燥して粉末状とすることにより、保存性が高まるとともに、取扱が容易になる。
本発明の組成物は、1-デオキシノジリマイシンを含有する限りその形態は特に制限されず、上記のような桑葉破砕物、桑葉乾燥物及び桑葉抽出物等の桑科植物処理物の形態、並びに精製1-デオキシノジリマイシンの形態をとりうる。・・・」

エ.記載事項1-4([0033])
「本発明の組成物を医薬組成物として調製する場合は、・・・本発明の効果を阻害しない限り、添加剤や、他の公知の脂肪蓄積抑制剤などを配合してもよい。」

オ.記載事項1-5([0040]?[0042])
「以下、本発明を実施例により説明するが、本発明の範囲は実施例の範囲に限定されない。
実施例
方法 若い桑から収穫した葉を水で洗浄し、熱風乾燥(80度、12時間)した後、粉末化した。乾燥粉末100kgにエタノール/水=20/80の溶液1000Lを加え、抽出を行い、濾過した濾過液を凍結乾燥し、桑葉抽出物(5kg)として用いた。
SD系ラット(4週齢、雄性)を一週間予備飼育し、4週間1日1回17時に桑葉抽出物(約0.5%1-デオキシノジリマイシン(DNJ)含有)を強制経口投与した。24匹のラットは3群に分けた。桑葉抽出物は生理食塩水に分散させ、投与量を0,100,200mg/kg体重とした。試験期間終了後、ラットの組織(脳、心臓、肝臓、腎臓、副睾丸周囲白色脂肪組織)重量を測定し、血漿と肝臓の脂質組成、血糖値、アディポネクチンを測定した。また、桑葉の活性本体だと考えられるDNJについて、桑葉抽出物と同様の試験方法で生理機能を検討した。ラットは2群に分け、DNJ投与量を0,1mg/kg体重とした。」

カ.記載事項1-6([0050])
「脂質代謝を促進し抗肥満作用のあるアディポネクチンの血中濃度が増加した(図3)。」

キ.記載事項1-7([図3])




ク.記載事項1-8([0018])
「・・・
[図3]桑葉抽出物を投与したラットの血漿のアディポネクチン濃度を測定した結果を示す。値は、平均値±標準偏差(n=6)で示した。異なるアルファベット(a,b)で示された値は、統計学的に有意な差(P<0.05)がある。
・・・」

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1記載の1-デオキシノジリマイシンを含む、脂肪蓄積を抑制するための組成物(記載事項1-1)は、アディポネクチンの分泌を促し、脂質代謝を促進することにより、脂肪蓄積を抑制するものであるから(記載事項1-2)、当該脂肪蓄積を抑制するための組成物は、「アディポネクチンの分泌を促すための組成物」であるといえる。そして、上記組成物は、1-デオキシノジリマイシンを含有する限りその形態は特に制限されず、桑葉抽出物等の桑科植物処理物の形態をとりうるのであるから(記載事項1-3)、上記組成物には、「1-デオキシノジリマイシンを含む桑葉抽出物」形態のものが包含されることは明らかである。さらに、実施例においては、桑葉の乾燥粉末をエタノール/水=20/80に加えて抽出を行い、濾過液を凍結乾燥して桑葉抽出物を製造し、これをSD系ラットに4週間1日1回経口投与させたところ、血中アディポネクチン濃度が増加したことが具体的に示されている(記載事項1-5?1-8)。
以上のことからみて、引用文献1には、「1-デオキシノジリマイシンを含む、桑葉の乾燥粉末をエタノール/水=20/80に加えて抽出を行い、濾過液を凍結乾燥して得られた桑葉抽出物を含む、アディポネクチンの分泌を促すための組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

2.引用文献8
(1)引用文献8に記載された事項
ア.記載事項8-1(実施例5(【0169】))
「ガルシニア・マンゴスターナメタノール抽出物(AR933):ガルシニア・マンゴスターナの陰干しした果実外皮(1Kg)を粉砕して、粗粉末にし、メタノール(5L)で2時間、60?65℃にて抽出した。溶媒を原料から濾過により分離した。メタノールを用いて抽出プロセスを3回繰り返した(2×3Lおよび1×2L)。合した抽出物を精密濾過にかけ、減圧下で濃縮し、常温で沈殿させた。分離した固体を濾過して、乾燥粉末(165g、α-マンゴスチン:32%およびγ-マンゴスチン:3%)を得た。」

イ.記載事項8-2(実施例23(【0195】?【0197】))
「組成物1Bによる3T3-L1脂肪細胞におけるPPARγ、ADRP、CD36、aP2、B3ARおよびペリリピンの阻害:

実験プロトコル:マウス前脂肪細胞3T3-L1細胞を、2mMのグルタミン、4.5g/Lのグルコースおよび10%のウシ胎仔血清を追加したダルベッコ変成イーグル培地(DMEM)中で維持する。等数の細胞を24ウェル培養皿の各ウェル中に播種した。細胞を、5μg/mlのLI/DD-II/054A/01またはAR933または組成物1Bのいずれかで2時間前処理し、続いて500nMのインスリン、1.0μMのデキサメタゾン、および0.5mMのイソブチルメチルキサンチン(IBMX)を含む分化培地を48時間添加した。その後、細胞を、分化後培地(100nMのインスリンを含むDMEM)を用いて組成物1Bの存在下または非存在下でさらにインキュベートした。最後に、細胞を回収し、冷リン酸緩衝塩溶液で洗浄し、そして溶解緩衝液で溶解させた。タンパク質抽出物を14,000gで20分間清澄化した。タンパク質含有量をBradford法でクマシーブルー色素を用いることによって測定し、細胞溶解物をさらに使用するまでアリコートに分けて-80℃にて貯蔵した。ペルオキシソーム増殖剤活性化因子受容体-ガンマ(PPAR-γ)、CD36、脂肪細胞脂肪酸結合タンパク質(aP2)などの脂肪細胞分化マーカーの調節;および細胞内脂肪滴表面関連タンパク質、ペリリピン発現をイムノブロットアッセイによって評価した。
組成物1Bの存在下または非存在下でのバイオマーカー分子脂肪細胞のタンパク質発現の阻害を、イムノブロットアッセイで評価した。簡単に述べると、等量の細胞溶解タンパク質を7.5% SDS-PAGEで分割し;その後、タンパク質をニトロセルロース膜に移した。非特異的部位をブロックした後、膜を、抗PPARγ、または抗CD36、または抗aP2、または抗β3AR、または抗ADRP、または抗ペリリピン抗体のいずれかとともにインキュベートした。最後に、特異的免疫反応性バンドを、West-pico化学発光基質(Pierce Biotechnology,IL,USA)で発現させ、イムノブロット画像をKodak Image Station(Kodak,USA)に記録した。バンド強度をデンシトメトリーによって計算し、各試料においてアクチンの発現で正規化した。データを図6にまとめる。」

ウ.記載事項8-3(実施例25(【0200】))
「 LI/DD-II/054A/01、AR933および組成物1Bによるアディポネクチンの調節:LI/DD-II/054A/01またはAR933または組成物-1Bによる3T3-L1脂肪細胞におけるアディポネクチンタンパク質の調節をウェスタンイムノブロットアッセイにおいて評価した。細胞培養、処理プロトコルおよびイムノブロットアッセイ手順は実施例23に記載したものと同じであった。図8は組成物1Bまたはその個々の成分、例えばLI/DD-II/054A/01またはAR933による3T3-L1成熟脂肪細胞におけるアディポネクチンタンパク質発現の増大をまとめる。」

エ.記載事項8-4(【0051】)
「・・・
【図8】5μg/mlの、LI/DD-II/054A/01またはAR933または組成物1Bのいずれかで処理された3T3-L1脂肪細胞におけるアディポネクチンタンパク質の過剰発現を示す代表的なイムノブロットである。タンパク質発現をデンシトメトリーによって解析し、アクチン発現で正規化した。各パネル中の棒グラフは、任意単位の正規化タンパク質発現を示す。棒グラフにおいて、棒は、ビヒクル対照(a)、LI/DD-II/054A/01(b)、AR933(c)および組成物1B(d)で処理された細胞におけるタンパク質発現を表す。
・・・」

オ.記載事項8-5(図8)




3.引用文献13
(1)引用文献13に記載された事項
ア.記載事項13-1(請求項1)
「マンノース単位が数を基準として50%以上を占める重合度2?10の糖およびクロロゲン酸類を含む、アディポネクチン産生を促進するための医薬組成物。」

イ.記載事項13-2(図1)




4.引用文献15
(1)引用文献15に記載された事項
ア.記載事項15-1(【請求項1】)
「シイタケ,タモギタケ,アンズタケ,鹿角霊芝より選ばれる1種又は2種以上の抽出物を含有するアディポネクチン産生促進剤。」

イ.記載事項15-2(【0013】)
「上記抽出物は、優れたアディポネクチン産生促進作用を有し、アディポネクチン産生促進剤として利用することができる。アディポネクチン産生促進剤により予防・改善が可能となる疾患としては、糖尿病,高脂血症,動脈硬化,脂肪肝などが挙げられ、本発明に係るアディポネクチン産生促進剤は、肥満の予防・改善だけでなく、このような疾患の予防・改善にも効果を期待することができる。」


第5 本願発明1と引用発明の対比

本願発明1と引用発明を対比する。
まず、本願明細書の【0024】の「本明細書で抽出という場合、抽出方法は特に限定されないが、方法の例としては、原料を溶媒に浸漬し、抽出し、濾過後、濾液として得る方法を挙げられる。濾液を・・・粉末としてもよいし、さらに精製してもよい。・・・抽出に用いられる溶媒は、特に限定されないが、・・・好ましい例としてメタノール、エタノール・・・および水からなる群から選択される極性溶媒あるいはそれらの混合溶媒を上げることができる。・・・抽出溶剤として、エタノール、又は水とエタノールとの組み合わせを用いることが安全性の点において好ましい。」との記載からみて、本願発明1における「桑葉抽出物」がエタノール/水の混合液を抽出溶媒としたものであってもよいことは明らかであるから、引用発明における「1-デオキシノジリマイシンを含む、桑葉の乾燥粉末をエタノール/水=20/80に加えて抽出を行い、濾過液を凍結乾燥して得られた桑葉抽出物」は、本願発明1の「桑葉抽出物」に相当する。また、アディポネクチンの分泌を促すことは、すなわちアディポネクチン産生を促進することに等しい。
したがって、両者は「桑葉抽出物を含むアディポネクチン産生促進剤」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明1は、さらに「マンゴスチン果皮抽出物」を添加したものであるのに対し、引用発明は、「マンゴスチン果皮抽出物」を添加したものではない点。


第6 判断

1.相違点1について
引用文献1には、SD系ラットに桑葉抽出物を0、100、200mg/kgで1日1回、4週間経口投与したところ(記載事項1-5)、桑葉抽出物200mg/kg投与群(記載事項1-7中の「桑葉200mg/kg」)は桑葉抽出物0mg/kg投与群(記載事項1-7中の「桑葉0mg/kg」、すなわち「対照群」に相当するものである。)と比較し、血漿中のアディポネクチン濃度が有意に増加したことが具体的に示されている(記載事項1-7及び1-8)。
また、引用文献8には、マウス前脂肪細胞3T3-L1細胞を、マンゴスチン果皮メタノール抽出物(AR933)で前処置したところ(記載事項8-2及び8-3)、マンゴスチン果皮メタノール抽出物(AR933)で処理した細胞(記載事項8-5中の「c」)は、ビヒクル対照(記載事項8-5中の「a」。アディポネクチン産生促進剤を投与していない「対照群」に相当するものである。)と比較し、3T3-L1成熟脂肪細胞におけるアディポネクチンタンパク質発現が有意に増加したことが具体的に示されている(記載事項8-5)。ここで、引用文献8記載のマンゴスチン果皮メタノール抽出物(AR933)は、ガルシニア・マンゴスターナ(マンゴスチン)の陰干しした果実外皮すなわち果皮の粗粉末をメタノールで抽出したものである(記載事項8-1)から、上記第5で摘記した本願明細書の【0024】の記載からみて、本願発明1における「マンゴスチン果皮抽出物」に相当する。また、引用文献8における「アディポネクチンタンパク質の発現が有意に増加」とは、「アディポネクチン産生促進」を表すものである。
以上のように、引用文献1及び引用文献8には、桑葉抽出物やマンゴスチン果皮メタノール抽出物が、アディポネクチン産生促進剤として、それぞれ単独で、対照(アディポネクチン産生促進剤を投与しないもの)と比較し、有意なアディポネクチン産生促進効果を示したことが具体的に記載されている。
そして、アディポネクチン産生促進剤は医薬として用いられるのが周知であるところ(必要であれば、引用文献1の[0021](記載事項1-2)、引用文献13の請求項1(記載事項13-1)、引用文献15の【0013】(記載事項15-2)を参照。)、本願出願時、医薬の技術分野においては、同種の作用を有する複数の有効成分を併用することは一般的なことであり、アディポネクチン産生促進剤においても、複数のアディポネクチン産生促進剤を併用することが、実際に当業者に周知の技術であったと認められる(必要であれば、上記記載事項13-1、13-2及び15-1を参照。)。加えて、引用文献1には、引用発明において、他の公知の脂肪蓄積抑制剤などを配合してもよいことが記載され(記載事項1-4)、さらに、アディポネクチン分泌が促進されることにより、脂肪蓄積が抑制される旨記載されている(記載事項1-2)ことを踏まえると、引用文献1にも、アディポネクチンの産生を促進させるために、桑葉抽出物と他のアディポネクチン産生促進剤を併用することが示唆されているものと認められる。
そうすると、引用発明において、1-デオキシノジリマイシンを含む桑葉抽出物に、更にアディポネクチン産生促進効果が知られているマンゴスチン果皮メタノール抽出物を組み合わせて添加することは、引用文献1及び8の記載事項並びに引用文献13及び15に示される本願出願時の周知技術から当業者が容易に想到するものである。

2.本願発明1の奏する効果について
引用文献1及び8の記載から、当業者であれば、単独でも優れたアディポネクチン産生促進効果を有する桑葉抽出物及びマンゴスチン果皮抽出物を併用すると、両抽出物の各々を単独で使用した場合よりもアディポネクチン産生促進効果が向上する(いわゆる「相加効果」をもたらす)と予測する。
そして、その上でなお、両抽出物の併用に係る本願発明1のアディポネクチン産生促進剤(以下、「アディポネクチン産生促進剤」を単に「剤」ということがある。)が、引用文献1及び8に記載の剤に対し進歩性を有するといえるためには、桑葉抽出物、マンゴスチン果皮抽出物のいずれか一方のみを含む剤同士を組み合わせて使用することから予測されるアディポネクチン産生促進効果(上記の「相加効果」)を超えるアディポネクチン産生促進効果(いわゆる「相乗効果」)がもたらされることが、本願明細書の記載から明らかにされる必要がある。
ここで、引用文献1又は8で示された、桑葉抽出物、マンゴスチン果皮抽出物のいずれか一方のみを含む剤のアディポネクチン産生促進効果と、本願明細書で示された両抽出物を含む剤のアディポネクチン産生促進効果は、その測定方法や測定条件等が異なるため、引用文献1及び8で示されたアディポネクチン産生促進効果と本願明細書で示された両抽出物を含む剤のアディポネクチン産生促進効果を直接的に比較することはできないが、本願明細書には、両抽出物の併用によるアディポネクチン産生促進効果についての試験結果に加え、桑葉抽出物又はマンゴスチン果皮抽出物のいずれか一方のみを含む剤のアディポネクチン産生促進効果についての試験結果も記載されており、当該試験結果は、桑葉抽出物又はマンゴスチン果皮抽出物のみを含む剤に係るものであるという点で、引用文献1又は8に記載の剤についての試験結果に相当するものとみることができる。

この点を踏まえ、本願明細書の記載を検討するに、
(1-1)本願明細書中には、本願発明1の剤によるアディポネクチン産生促進効果を示す試験結果のデータとして、
・本願発明1の桑葉抽出物及びマンゴスチン果皮抽出物の両者の培地への添加による脂肪細胞培養物の上清アディポネクチン濃度(ng/ml)の増減(「細胞を用いたアディポネクチン産生試験」、【0036】?【0041】、【表15】?【表17】)、
及び
・被験者への桑葉抽出物及びマンゴスチン果皮抽出物の経口投与による血清中アディポネクチン濃度(μg/ml)の増減(「in vivo試験」、【表20】)
について、以下のア?エのようなデータが記載されている。
(下記において、「caseN」(Nは番号)は個々の被験者を示し、同じN番号のデータは同一被験者由来のデータと解される。また、[ ]内の数値は、対照群(「細胞を用いたアディポネクチン産生試験」においては、アディポネクチン産生促進剤を含まない溶媒(水又はDMSO)のみを培地に添加した群。「in vivo試験」においては、アディポネクチン産生促進剤の経口投与開始時。)のアディポネクチン濃度に対する、桑葉抽出物及びマンゴスチン果皮抽出物の添加又は経口投与後のアディポネクチン濃度の増減量を表す。)

ア 【表15】(case32)対照群 →
桑葉抽出物10μg/ml及び
マンゴスチン果皮抽出物1μg/ml添加群
1 「Day10」 18.08 → 18.93 [+0.85]
2 「Day12」 8.1 → 9.81 [+1.71]

イ 【表16】(case37)対照群 →
桑葉抽出物10μg/ml及び
マンゴスチン果皮抽出物1μg/ml添加群1 「Day10」 14.09 → 14.82 [+0.73]
2 「Day12」 11.87 → 13.1 [+1.23]

ウ 【表17】(case48)対照群 →
桑葉抽出物10μg/ml及び
マンゴスチン果皮抽出物1μg/ml添加群1 「Day10」 2.69 → 2.47 [-0.22]
2 「Day12」 0.57 → 0.90 [+0.33]

エ 【表20】(桑葉抽出物600mg及びマンゴスチン果皮抽出物400mg/日経口投与)
(case37):
2011/8/24(摂取開始時) → 2011/10/12
→ 2011/11/30
(case39):
2011/10/5(摂取開始時) → 2011/10/18
→ 2011/11/24
1 (case37) 9.55 → 10.18 [+0.63]
→ 9.77 [+0.22]
2 (case39) 3.21 → 3.93 [+0.72]
→ 5.52 [+2.31]

(1-2)また、本願明細書中の【表2】?【表6】、【0074】第2文「 ・・・表に示さない、Case37は・・・Case39は・・・高かった。」及び【表21】には、
・本願発明の桑葉抽出物又はマンゴスチン果皮抽出物のいずれか一方のみの培地への添加による脂肪細胞培養物の上清アディポネクチン濃度(ng/ml)の増減(「細胞を用いたアディポネクチン産生試験」、【表2】?【表6】)、
及び
・被験者へのマンゴスチン果皮抽出物のみの経口投与による血清中アディポネクチン濃度(μg/ml)の増減(「in vivo試験」、【0072】、【0074】第2文、【表21】)、
について、以下のオ?サのデータが記載されている。
(「caseN」については、上記と同様である。また、[ ]内の数値は、対照群(「細胞を用いたアディポネクチン産生試験」においては、アディポネクチン産生促進剤を含まない溶媒(水又はDMSO)のみを培地に添加した群。「in vivo試験」においては、アディポネクチン産生促進剤の経口投与開始時。)のアディポネクチン濃度に対する、桑葉抽出物単独又はマンゴスチン果皮抽出物単独での添加又は経口投与後のアディポネクチン濃度の増減量を表す。)

そして、これらオ?サのいずれか一方の抽出物のみの添加又は経口投与の態様は、引用文献1又は引用文献8に記載された桑葉抽出物(引用文献1)又はマンゴスチン果皮抽出物(引用文献8)を含むアディポネクチン産生促進剤の使用に相当するものである。

オ 【表2】(case37)対照群 → 桑葉抽出物
10μg/ml添加群
1 「Day10」 10.78 → 12.16 [+1.38]
2 「Day12」 5.27 → 5.68 [+0.41]

カ 【表3】(case45)対照群 → 桑葉抽出物
10μg/ml添加群
1 「Day10」 8.51 → 9.09 [+0.58]
2 「Day12」 2.37 → 2.95 [+0.58]

キ 【表4】(case45)対照群 → マンゴスチン果皮抽出物
1μg/ml添加群
1 「Day10」 7.97 → 8.92 [+0.95]
2 「Day12」 1.79 → 3.06 [+1.27]

ク 【表5】(case49)対照群 → マンゴスチン果皮抽出物
1μg/ml添加群
1 「Day10」 18.61 → 14.21 [-4.40]
2 「Day12」 4.37 → 9.71 [+5.34]

ケ 【表6】(case51)対照群 → マンゴスチン果皮抽出物
1μg/ml添加群
1 「Day10」 14.32 → 15.03 [+0.71]
2 「Day12」 3.22 → 6.06 [+2.84]

コ 【0074】第二文
(マンゴスチン果皮抽出物400mg/日経口投与)摂取開始時 →
3カ月後
1 (case37) 9.08 → 8.43 [-0.65]
2 (case39) 6.63 → 7.17 [+0.54]

サ 【表21】「ヒト血清中アディポネクチン量の測定結果(4名の平均値)」
(マンゴスチン果皮抽出物400mg/日経口投与)摂取開始時 →
3カ月後
1 6.9±1.4 → 7.8±1.0 [+0.9±SE]

(2)ア.しかしながら、本願発明1に係る桑葉抽出物及びマンゴスチン果皮抽出物の併用試験((1-1))において採用された各被験者(細胞を用いたアディポネクチン産生試験(ア?ウ)におけるcase32、case37、case48); in vivo試験(エ)におけるcase37、case39)のそれぞれについて、桑葉抽出物のみを添加した場合、及びマンゴスチン果皮抽出物のみを添加した場合の双方の適切な比較対照のデータは上記(1-2)中にみられない。
(なお、case37については、細胞を用いたアディポネクチン産生試験において、両抽出物の併用群((1-1)イ)に対応する桑葉抽出物の単独添加((1-2)オ)のデータはみられるが、マンゴスチン果皮抽出物の単独添加のデータはないし、in vivo試験において、両抽出物の併用((1-1)エ1)に対応するマンゴスチン果皮抽出物の単独経口投与のデータはあるが((1-2)コ1)、桑葉抽出物の単独経口投与のデータはみられない。
また、(1-1)エ2のcase39についても、対応するin vivo試験におけるマンゴスチン果皮抽出物の単独経口投与のデータはみられるが((1-2)コ2)、桑葉抽出物の単独経口投与のデータはない。)
このような、桑葉抽出物のみの添加又は経口投与に係る比較対照結果及びマンゴスチン果皮抽出物のみの添加又は経口投与に係る比較対照試験結果の双方が揃わない状況下では、(1-1)ア?エの試験の各被験者それぞれについて示されているアディポネクチン濃度増大をみても、それが、どちらか一方のみを使用した場合の試験結果から予測されるアディポネクチン濃度増大の程度をどの程度超えているのかについて、何ら把握することはできない。
イ.また、桑葉抽出物の単独添加、マンゴスチン果皮抽出物の単独添加、及び両抽出物の添加という3種の試験データがすべて示されている細胞を用いたアディポネクチン産生試験について、被験者の点を措いて、(1-1)ア?ウのデータ、(1-2)オ?ケのデータの全体を総合してみたとしても、両抽出物を併用することにより奏されるアディポネクチン産生促進の程度は、当業者が予測できない程の優れたものとは認められない。具体的には、脂肪細胞による試験における両抽出物の併用群((1-1)ア?ウ)のデータ中のアディポネクチン濃度増加の各最大値(ア2、イ2、ウ2)からみると、両抽出物の併用によるアディポネクチン濃度の最大増加量は、*1:+0.33(ウ2)?+1.71(ng/ml)(ア2)の範囲、すなわち、高々?+1.71である一方、桑葉抽出物単独添加群((1-2)オ?カ)のデータ中のアディポネクチン濃度増加の各最大値(オ1、カ1・カ2)からみた桑葉抽出物単独添加によるアディポネクチン濃度の最大増加量は、*2:+0.58(カ1・カ2)?+1.38(オ1)の範囲であり、また、マンゴスチン果皮抽出物単独添加群((1-2)キ?ケ)のデータ中のアディポネクチン濃度増加の各最大値(キ2、ク2、ケ2)からみたマンゴスチン果皮抽出物単独添加によるアディポネクチン濃度の最大増加量は、*3:+1.27(キ2)?+5.34(ク2)の範囲であると一応把握され、それらの数値からみて、上記*1の桑葉抽出物及びマンゴスチン果皮抽出物の併用によりもたらされるアディポネクチン産生増大の程度は、上記*2及び*3の桑葉抽出物又はマンゴスチン果皮抽出物のいずれか一方のみによりもたらされる各アディポネクチン産生増大の程度に比して、格別に優れているものではない。

(3) 以上、(1-1)、(1-2)及び(2)の検討のとおりであるから、上記(1-1)?(1-2)の試験結果を含む本願明細書の記載からでは、本願発明1に係る桑葉抽出物及びマンゴスチン果皮抽出物の併用により、任意の被験者において、各抽出物のいずれか一方のみを含む剤(引用文献1,8の剤に相当)から予測し得る範囲を超えて優れたアディポネクチン産生促進効果がもたらされることが明らかにされているとはいえない。

(4)請求人の主張について
請求人は、平成30年7月19日付け上申書において、
「請求項1記載の発明について、桑葉抽出物、及び、マンゴスチン果皮抽出物を組み合わせて添加することで、明細書段落番号0063以降に記載されている通り、アディポネクチン産生試験においてすぐれた結果が確認されています。」(2.第1段落)
と主張し、具体的には、本願明細書【0064】以降の【表15】?【表17】(「(1)細胞を用いたアディポネクチン産生試験(請求項1記載の組み合わせ)」、【表20】?【表21】及び【0074】(「(2)マンゴスチン果皮抽出物のアディポネクチン産生in vivo試験」)中のデータの一部を挙げた上で、
「上記の通り、桑葉抽出物とマンゴスチン果皮抽出物の併用による優れたアディポネクチン産生効果(相乗効果)・・・が明細書に開示されています。これらは従来の公知文献からは想起できない優れた作用に基づく相乗効果となっています。これらの実験データの比較、解釈は、補正後の請求項1,2に記載の発明が進歩性を有することを示しています。・・・ 」(最終段落。下線は合議体による)
と主張している。

しかしながら、請求人は上記上申書において、【表15】?【表17】、【表20】の一部のデータの各々を本願発明1の上記「相乗効果」の根拠として引用しているのみで、請求人がいうところの「これらの実験データの比較、解釈」を何ら具体的に行っていない。すなわち、それら引用されたデータを以て、本願発明1の桑葉抽出物とマンゴスチン果皮抽出物の併用が、桑葉抽出物、マンゴスチン果皮抽出物のいずれか一方のみを使用した場合の試験結果から予測されるアディポネクチン産生増大の程度と比較して、どのような点において予想外のアディポネクチン産生促進がもたらされると理解できるのかについて、適切な比較対照データとの比較を伴った具体的かつ合理的な説明が、同上申書中で何らなされていない。
よって、請求人の上申書における主張では、上記(1-1)?(3)に示した当審の判断を覆すことはできない。

3 小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献1及び8に記載された発明並びに引用文献13及び15に示される本願出願時の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。



第7 むすび

本願発明1は、引用文献1及び8に記載された発明並びに引用文献13及び15に示される本願出願時の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-09-11 
結審通知日 2018-10-09 
審決日 2018-10-23 
出願番号 特願2012-177717(P2012-177717)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 春田 由香  
特許庁審判長 關 政立
特許庁審判官 井上 明子
大久保 元浩
発明の名称 アディポネクチン産生促進剤及びアディポネクチン産生促進用飲食品  
代理人 森田 拓生  

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