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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02H
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H02H
管理番号 1347584
審判番号 不服2017-11152  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-27 
確定日 2019-01-04 
事件の表示 特願2015-229075「障害電流の送電を制限する技術」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月28日出願公開、特開2016- 67201〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2010年6月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年6月26日:米国、2010年6月18日:米国)を国際出願日とする特願2012-517683号の一部を平成27年11月24日に新たな出願としたものであって、平成28年11月14日付けで拒絶理由が通知され、平成29年1月30日付けで手続補正がなされたが、同年3月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月27日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 平成29年7月27日付けの手続補正についての却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成29年7月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正

平成29年7月27日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、本件補正前(平成29年1月30日付け手続補正書参照。)に、

「【請求項1】
障害電流の送電を制限する装置であって、前記装置は、
接地電位から電気的に絶縁されるように接地から電気的に減結合された最外部の金属筐体と、
少なくとも一つが一つ以上の電流搬送線に電気的に接続された第1及び第2の端子と、
前記金属筐体内に収容され且つ前記第1及び第2の端子に電気的に接続された第1の超伝導回路と、
前記金属筐体と前記接地との間に配置され、前記金属筐体を支持する支持体とを備え、
通常状態中及び障害状態中、前記金属筐体を前記第1及び第2の端子の一つと同じ電位に維持するように、前記金属筐体は前記第1及び第2の端子の一つに電気的に接続され、
前記支持体が前記金属筐体を接地から電気的に絶縁している、装置。
【請求項2】
前記超伝導回路を所定の温度より低く維持するために前記金属筐体内に冷却剤を更に備える、請求項1記載の装置。
【請求項3】
その上に前記金属筐体が支持されたプラットフォームを備え、前記プラットフォームは接地から電気的に絶縁されている、請求項1記載の装置。
【請求項4】
少なくとも一つが一つ以上の電流搬送線に電気的に接続された第3及び第4の端子、及び
前記金属筐体内に収容され且つ前記第3及び第4の端子に電気的に接続された第2の超伝導回路、
を更に備える、請求項1記載の装置。
【請求項5】
少なくとも一つが一つ以上の電流搬送線に電気的に接続された第5及び第6の端子、及び
前記金属筐体内に収容され且つ前記第5及び第6の端子に電気的に接続された第3の超伝導回路、
を更に備える、請求項4記載の装置。
【請求項6】
前記第1の超伝導回路と前記金属筐体との間の隙間長が250cm未満である、請求項1記載の装置。
【請求項7】
前記第1の超伝導回路と前記金属筐体との間の隙間長が約8?25cmである、請求項5記載の装置。
【請求項8】
障害電流の送電を制限する方法であって、該方法は、
第1及び第2の端子を一つ以上の電流搬送線に電気的に接続するステップと、
障害電流を通す通路を与えるために最外部の金属筐体内に収容された超伝導回路を前記第1及び第2の端子に電気的に接続するステップと、
通常状態中及び障害状態中、前記金属筐体を前記第1及び第2の端子の一つと同じ電位に維持するように、前記金属筐体を前記第1及び第2の端子の一つに電気的に接続するステップと、
前記金属筐体と接地との間に配置され、前記金属筐体を支持する支持体を使用して、前記金属筐体を接地から電気的に絶縁するステップとを備える、方法。」

とあったところを、

「【請求項1】
障害電流の送電を制限する装置であって、前記装置は、
空気と接触して接地電位から電気的に絶縁されるように接地から電気的に減結合された最外部の金属筐体と、
少なくとも一つが一つ以上の電流搬送線に電気的に接続された第1及び第2の端子と、
前記金属筐体内に収容され且つ前記第1及び第2の端子に電気的に接続された第1の超伝導回路と、
通常状態中及び障害状態中、前記金属筐体を前記第1及び第2の端子の一つと同じ電位に維持するように、前記金属筐体は前記第1及び第2の端子の一つに電気的に接続されている、装置。
【請求項2】
前記第1及び第2の端子の各々が一つ以上の電流搬送線に電気的に接続され、前記電流搬送線は送電網の一部である、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記金属筐体と前記接地との間に配置され、前記金属筐体を支持する支持体を更に備え

前記支持体が前記金属筐体を接地から電気的に絶縁している、請求項1または請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記超伝導回路を所定の温度より低く維持するために前記金属筐体内に冷却剤を更に備える、請求項1または請求項2記載の装置。
【請求項5】
その上に前記金属筐体が支持されたプラットフォームを備え、前記プラットフォームは接地から電気的に絶縁されている、請求項1または請求項2記載の装置。
【請求項6】
少なくとも一つが一つ以上の電流搬送線に電気的に接続された第3及び第4の端子、及び
前記金属筐体内に収容され且つ前記第3及び第4の端子に電気的に接続された第2の超伝導回路、
を更に備える、請求項1または請求項2記載の装置。
【請求項7】
少なくとも一つが一つ以上の電流搬送線に電気的に接続された第5及び第6の端子、及び
前記金属筐体内に収容され且つ前記第5及び第6の端子に電気的に接続された第3の超伝導回路、
を更に備える、請求項6記載の装置。
【請求項8】
前記第1の超伝導回路と前記金属筐体との間の隙間長が250cm未満である、請求項1または請求項2記載の装置。
【請求項9】
前記第1の超伝導回路と前記金属筐体との間の隙間長が約8?25cmである、請求項7記載の装置。
【請求項10】
障害電流の送電を制限する方法であって、該方法は、
第1及び第2の端子を一つ以上の電流搬送線に電気的に接続するステップと、
障害電流を通す通路を与えるために最外部の金属筐体内に収容された超伝導回路を前記第1及び第2の端子に電気的に接続するステップと、
通常状態中及び障害状態中、前記金属筐体を前記第1及び第2の端子の一つと同じ電位に維持するように、前記金属筐体を前記第1及び第2の端子の一つに電気的に接続するステップと、
空気と接触して、前記金属筐体を接地から電気的に絶縁するステップとを備える、方法

【請求項11】
前記第1及び第2の端子の各々が一つ以上の電流搬送線に電気的に接続され、前記電流搬送線は送電網の一部である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記金属筐体と接地との間に配置され、前記金属筐体を支持する支持体を使用して、前記金属筐体を接地から電気的に絶縁するステップを更に備える、請求項10または請求項11記載の方法。」

とするものである。


2.補正の適否

a.本件補正により、全体の請求項の数が8から12に増加しており、補正後の請求項2、3、11、12は、新たに追加されたものである。
したがって、本件補正は、請求項数を増加する補正を含むものであり、当該請求項数を増加する補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、及び、明りょうでない記載の釈明の何れを目的とするものでもないことは明らかである。

b.本件補正のうち請求項1に係る補正により、本件補正前の請求項1の「前記金属筐体と前記接地との間に配置され、前記金属筐体を支持する支持体とを備え」という発明特定事項、及び、「前記支持体が前記金属筐体を接地から電気的に絶縁している」という発明特定事項が削除されている。また、本件補正のうち請求項10に係る補正により、当該請求項10に対応する本件補正前の請求項8の「前記金属筐体と接地との間に配置され、前記金属筐体を支持する支持体を使用して」という発明特定事項が削除されている。
したがって、本件補正のうち請求項1、10に係る補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく、また、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明の何れを目的とするものでもないことも明らかである。


3.むすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定されたいずれの事項を目的とするものとも認められないから、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 本願発明について

1.本願発明

上記のとおり、平成29年7月27日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年1月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。
「 障害電流の送電を制限する装置であって、前記装置は、
接地電位から電気的に絶縁されるように接地から電気的に減結合された最外部の金属筐体と、
少なくとも一つが一つ以上の電流搬送線に電気的に接続された第1及び第2の端子と、
前記金属筐体内に収容され且つ前記第1及び第2の端子に電気的に接続された第1の超伝導回路と、
前記金属筐体と前記接地との間に配置され、前記金属筐体を支持する支持体とを備え、
通常状態中及び障害状態中、前記金属筐体を前記第1及び第2の端子の一つと同じ電位に維持するように、前記金属筐体は前記第1及び第2の端子の一つに電気的に接続され、
前記支持体が前記金属筐体を接地から電気的に絶縁している、装置。」


2.引用例

(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-204324号公報(平成11年7月30日公開。以下「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。)

ア.「また、何らかの原因で超電導体が常電導転移(クエンチ)した場合、超電導体は抵抗体へと瞬時に転移する。・・・中略・・・クエンチ時における絶縁破壊を防止しようとすると、装置全体が著しく大型化し、応用性に欠ける問題があった。そこで本発明は、上述した不具合を解消でき、高電圧電路においても十分に使用可能な超電導装置を提供することを目的としている。」(段落【0005】-【0006】)

イ.「【発明の実施の形態】以下、図面を参照しながら発明の実施形態を説明する。図1には本発明の一実施形態に係る超電導装置、ここには本発明を超電導リアクトル装置に適用した例が示されている。
同図において、1は金属材で形成された外容器を示している。この外容器1内には絶縁物としての絶縁油2が収容されており、この絶縁油2中にはモジュール化された2個の超電導リアクトル要素3a,3bが直列に接続された状態で収容されている。」(段落【0013】-【0014】)

ウ.「各超電導リアクトル要素3a,3bは、それぞれステンレス鋼などで形成されて断熱槽を構成する真空容器11と、たとえばステンレス鋼などで形成されて真空容器11内に収容された冷媒槽12と、この冷媒槽12内に収容された液体ヘリウムで代表される冷媒13と、超電導線を含む部材で形成されて冷媒13中に没するように冷媒槽12内に収容された電気部品としてのリアクトル14と、リアクトル14と外部とを電気的に接続するために冷媒槽12及び真空容器11の壁を貫通して設けられた一対の電流導入機構としてのブッシング15,16と、真空容器11の壁を気密に貫通して設けられて冷媒槽12の冷却に供される電気絶縁性冷却路17とで構成されている。」(段落【0015】)

エ.「ブッシング15は、中心導体18の一端側がリアクトル14の一端に接続されており」(段落【0016】)

オ.「一方、ブッシング16は、中心導体21の一端側がリアクトル14の他端に接続されており」(段落【0017】)

カ.「すなわち、ブッシング16については、中心導体21が真空容器11の上壁を直接的に、かつ気密に貫通しており、これによって中心導体21と真空容器11とが同電位に保たれている。」(段落【0017】)

キ.「一方、超電導リアクトル要素3bにおけるブッシング16の中心導体21で、真空容器11の上壁と外容器1の上壁との間に位置している部分は、外容器1の上壁を絶縁状態で貫通して設けられたブッシング26の中心導体27に接続されている。」(段落【0019】)

ク.「このように構成された超電導リアクトル装置は、2つのリアクトル14がたとえば電路に直列に介挿されるようにブッシング23,26の中心導体24,27が電路に接続され、また外容器1が接地された状態で使用される。」(段落【0023】)


上記アないしク、及び図1の記載によれば、引用例1には以下の事項が記載されている。

・上記ア、イによれば、引用例1に記載の発明は、何らかの原因で常電導転移(クエンチ)する性質の超電導体(超電導線)を有する超電導装置に関するものである。
・上記ウによれば、超電導リアクトル要素3bは、ステンレス鋼などで形成された真空容器11と、真空容器11内に収容された冷媒槽12と、冷媒層12に収容される超電導線を含む部材で形成されたリアクトル14と、一対の電流導入機構としてのブッシング15,16とを含むものである。なお、真空容器11内に冷媒槽12が収容され、冷媒槽12にリアクトル14が収容されているから、リアクトル14は真空容器11内に収容されているとも言える。
・引用例1の図1によれば、真空容器11は、超電導リアクトル要素3bの最外部に位置するものである。(引用例1の図1における右側の超電導リアクトル要素の符号「3a」は、「3b」の誤記であると認められる。)
・上記イ、クによれば、外容器1に超電導リアクトル要素3bが収容され、外容器1は接地された状態で使用されるものである。
上記エ、オによれば、ブッシング15の中心導体18の一端側がリアクトル14の一端に接続され、ブッシング16の中心導体21の一端側がリアクトル14の他端に接続されているものである。
・上記キ、クによれば、ブッシング16の中心導体21がブッシング26の中心導体27に接続され、中心導体27が電路に接続されているものである。よって、ブッシング16の中心導体21は電路に接続されているとも言える。
・上記カによれば、ブッシング16の中心導体21が真空容器11の上壁を直接的に貫通しており、これによって中心導体21と真空容器11とが同電位に保たれているものである。

そうすると、「超電導リアクトル要素3b」に着目し、上記摘示事項、図1を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「接地された状態で使用される外容器1に収容され、ステンレス鋼などで形成された最外部の真空容器11と、
中心導体18、及び、電路に接続されている中心導体21と、
真空容器11内に収容され、且つ、中心導体18、及び、中心導体21に接続され、何らかの原因で常電導転移(クエンチ)する性質の超電導線を含む材料で形成されたリアクトル14とを備え、
中心導体21が真空容器11の上壁を直接的に貫通しており、これによって中心導体21と真空容器11とが同電位に保たれている、
超電導リアクトル要素3b。」


(2)原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-210730号公報(平成4年7月31日公開。以下「引用例2」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。)

ケ.「本発明は、電力送電及び配電系統において、地絡事故時等に発生する短絡電流を抑制する定格電流可変型超電導限流器に関する。」(段落【0001】)
コ.「上記超電導素子は、電力系統の定格電流が超電導限流素子12の臨界電流以下となり、事故時の短絡電流が臨界電流以下となるように設計されている。従って、正常時、定格電流以下の電流が超電導限流器に流れている時には、超電導限流素子12は超電導状態にあり、電気抵抗がゼロであるが、事故時には、短絡電流が流れると、超電導状態から常電導状態に転移し、電気抵抗が発生して電力系統のインピーダンスが増加し、短絡電流が低い値に抑制される。これによって、電力系統が非常に大きな短絡電流から保護される。」(段落【0003】)
サ.「超電導限流器本体30は、密閉容器31とその内部に充填された液体窒素等の冷媒32及び超電導素子20とを備えている。」(段落【0009】)

上記ケ、コ、サの記載によれば、「正常時は超電導状態にあり、事故時には超電導状態から常電導状態に転移する超電導限流素子を用いて、電力送電及び配電系統において、地絡事故時等に発生する短絡電流を抑制する超電導限流器を構成する」技術的事項が記載されている。


(3)原査定の拒絶の理由に引用された特開平1-206836号公報(平成1年8月21日公開。以下「引用例3」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付与した。)

シ.「これら限流装置全体は絶縁架台11の上に設置する」(第3ページ左上欄12-13行目)
ス.「対地絶縁は、装置全体を支える絶縁架台11で保たれる」(第3ページ左上欄18-19行目)

上記シ、スの記載によれば、引用例3には、「限流装置全体を絶縁架台の上に設置し、対地絶縁を絶縁架台で保つ」技術的事項が記載されている。


3.対比

本願発明と引用発明とを対比する。

・引用発明の「真空容器11」は、「接地された状態で使用される外容器1」に収容されているものである。また、「真空容器11」は、電路に接続された中心導体21と同電位に保たれているものである。よって、接地された「外容器1」と、電路と同電位に保たれている「真空容器11」とが電気的に絶縁されていることは、当業者にとって自明であるから、引用発明の「接地された状態で使用される外容器1に収容され、ステンレス鋼などで形成された最外部の真空容器11」は本願発明の「接地電位から電気的に絶縁されるように接地から電気的に減結合された最外部の金属筐体」に相当する。
・一般に「電路」とは、電流が流れる通路するものであるから、引用発明の「電路」は本願発明の「電流搬送線」に相当する。したがって、引用発明の「中心導体18、及び、電路に接続されている中心導体21」は、本願発明の「少なくとも一つが一つ以上の電流搬送線に電気的に接続された第1及び第2の端子」に相当する。
・引用発明の「真空容器11内に収容され、且つ、中心導体18、及び、中心導体21に接続され、何らかの原因で常電導転移(クエンチ)する性質の超電導線を含む材料で形成されたリアクトル14」は、本願発明の「前記金属筐体内に収容され且つ前記第1及び第2の端子に電気的に接続された第1の超伝導回路」に相当する。
・引用発明の「中心導体21は、真空容器11の上壁を直接的に貫通しており、これによって中心導体21と真空容器11とが同電位に保たれている」ことは、本願発明の「前記金属筐体を前記第1及び第2の端子の一つと同じ電位に維持するように、前記金属筐体は前記第1及び第2の端子の一つに電気的に接続され」ていることに相当する。
・「最外部の真空容器11」、「中心導体18、及び、中心導体21」、「リアクトル14」を備える引用発明の「超電導リアクトル要素3b」は、「最外部の金属筐体」、「第1及び第2の端子」、「第1の超伝導回路」を備える本願発明の「装置」に相当する。

よって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「接地電位から電気的に絶縁されるように接地から電気的に減結合された最外部の金属筐体と、
少なくとも一つが一つ以上の電流搬送線に電気的に接続された第1及び第2の端子と、
前記金属筐体内に収容され且つ前記第1及び第2の端子に電気的に接続された第1の超伝導回路と、を備え、
前記金属筐体を前記第1及び第2の端子の一つと同じ電位に維持するように、前記金属筐体は前記第1及び第2の端子の一つに電気的に接続され、前記金属筐体を接地から電気的に絶縁している、装置。」

<相違点1>
本願発明の「装置」は、「障害電流の送電を制限する」装置であるのに対して、引用発明は、その旨の特定がされていない点。

<相違点2>
本願発明の「装置」は、「通常状態中及び障害状態中」、前記金属筐体を前記第1及び第2の端子の一つと同じ電位に維持するように、前記金属筐体は前記第1及び第2の端子の一つに電気的に接続されるが、引用発明では、「中心導体21は、真空容器11の上壁を直接的に貫通しており、これによって中心導体21と真空容器11とが同電位に保たれて」はいるものの、中心導体21と真空容器11とが同電位に保たれているのが「通常状態中及び障害状態中」であるのか特定がされていない点。

<相違点3>
本願発明が、「前記金属筐体と前記接地との間に配置され、前記金属筐体を支持する支持体」とを備え、「前記支持体」が前記金属筐体を接地から電気的に絶縁しているのに対して、引用発明では、接地された外容器1に真空容器11を収容するにあたって、どのように収容しているのか、その具体的な手段が特定されていない点。


4.判断
上記各相違点について検討する。

<相違点1>及び<相違点2>について
引用発明の「超電導リアクトル要素3b」は、「何らかの原因で常電導転移(クエンチ)する」超電導体(超電導線)を有するものである。
一方、引用例2に記載されているように、「正常時は超電導状態にあり、事故時には超電導状態から常電導状態に転移する超電導限流素子を用いて、電力送電及び配電系統において、地絡事故時等に発生する短絡電流を抑制する超電導限流器を構成する」ことは、当該技術分野において周知技術であり、同じく「何らかの原因で常電導転移(クエンチ)する」超電導体(超電導線)を有する引用発明の「超電導リアクトル要素3b」を、地絡事故時等に発生する短絡電流を抑制する用途に用いるようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
また、引用発明の「超電導リアクトル要素3b」は、「中心導体21が真空容器11の上壁を直接的に貫通しており、これによって中心導体21と真空容器11とが同電位に保たれて」いるから、中心導体21と真空容器11とは、超電導体が常電導転移するか否かにかかわらず、同電位に保たれているものと認められる。
したがって、引用発明の「超電導リアクトル要素3b」を、地絡事故時等に発生する短絡電流を抑制する用途に用い、「通常状態中及び障害状態中」であっても「中心導体21と真空容器11とが同電位に保たれ」るものとすること、すなわち、相違点1及び2に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

<相違点3>について
引用発明においては、接地された外容器1内に、電路と接続された真空容器11が収容されており、外容器1と真空容器11の電位が異なっているのであるから、外容器1内に真空容器11を収容するにあたっては、両者が接触しないように、外容器1と真空容器11との間で真空容器11を支持するとともに、真空容器11を接地された外容器1から電気的に絶縁する何らかの手段が必要となることは自明である。
そして、そのような手段として、引用例3に記載されている「絶縁架台」を採用することによって相違点3に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

したがって、本願発明は、引用発明、引用例3に記載された技術事項、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本願発明の作用効果も、引用例1ないし3から当業者が予測できる範囲のものである。


5.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-08-02 
結審通知日 2018-08-07 
審決日 2018-08-20 
出願番号 特願2015-229075(P2015-229075)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H02H)
P 1 8・ 121- Z (H02H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 緑川 隆  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 田中 慎太郎
酒井 朋広
発明の名称 障害電流の送電を制限する技術  
代理人 石川 雅章  
代理人 杉村 憲司  

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