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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1347591
審判番号 不服2017-13678  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-13 
確定日 2019-01-04 
事件の表示 特願2015- 40352「太陽電池モジュールの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 9日出願公開、特開2015-128179〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、特願2006-232381号(優先権主張 平成18年1月16日)の一部を平成24年3月13日に新たな特許出願(特願2012-56061号)とし、その一部を平成25年6月18日に新たな特許出願(特願2013-127682号)とし、さらに、その一部を平成27年3月2日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成28年 4月25日付け:拒絶理由通知(同年5月10日発送)
同年 7月11日 :意見書・手続補正書の提出
平成28年11月24日付け:拒絶理由通知(同年同月29日発送)
平成29年 3月14日 :意見書・手続補正書の提出
同年 6月 9日 :補正の却下の決定、拒絶査定(同年同月13日送達)
同年 9月13日 :審判請求書・手続補正書の提出
平成30年 7月 6日付け:拒絶理由通知(同年同月10日発送。以下、「当審拒絶理由」という。)
同年 9月10日 :意見書・手続補正書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成30年9月10日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「表面電極を有する複数の太陽電池セルが、前記表面電極に電気的に接続された配線部材を介して接続された構造を有する太陽電池モジュールの製造方法であって、
前記表面電極がバス電極であり、
前記バス電極の十点平均表面粗さRzが8?18μmであり、
前記バス電極が銀を含有したガラスペーストにより形成された電極であり、
前記バス電極上に前記バス電極に沿って導電性接着フィルムを配置し、
前記バス電極と前記配線部材とを、絶縁性接着剤と導電性粒子とを含有し、前記導電性粒子の平均粒子径をr(μm)、導電性接着フィルムの厚さをt(μm)として、(t/r)の値が2.0?9.0の範囲内であり、前記導電性接着フィルムの厚さtが10?35μmであって且つ前記バス電極の十点平均表面粗さRz以上であり、前記導電性粒子の平均粒子径rが2?12μmであり、前記導電性粒子の含有量が、導電性接着フィルムの全体積を基準として1.7?15.6体積%である、一層の前記導電性接着フィルムにより接続する、太陽電池モジュールの製造方法。」


第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由は、次のとおりである。

「(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」

「[0061]-[0073]には、請求項1に係る発明について実験結果が記載されているが、電極配線(表面電極)の十点平均表面粗さRzが10μmの場合における実験結果しか示されておらず、表面電極の十点平均表面粗さRzが10μmを除く8?18μmであるものが所望の効果を有しているのかどうかは記載されていないし、当業者にとって自明でもない。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。」


第4 平成30年9月10日付けの意見書における請求人の主張(下線は当審が付した。以下同じ。)

「平成29年9月13日付けで提出しました審判請求書においても申し上げましたとおり、補正後の請求項1に係る発明(以下、本願発明1といいます)は、電極が表面に凹凸を有する場合に、この凹凸に起因して接続信頼性が劣化することを見出し、これを解決したものです。本願発明1では、バス電極の十点平均表面粗さRzに対し、導電性粒子の平均粒子径rと、導電性接着フィルムの厚さtと、導電性粒子の含有量とを種々特定することにより、上記課題を解決しております(本願明細書の段落[0026]?[0027]、[0032]?[0036])。
電極が表面にこのような凹凸形状を有する場合、導電性接着フィルムを用いて形成される塗膜の厚さを電極表面の凹凸高低差以上とすることにより、被着体との十分な接着を得ることができ、接続信頼性を向上することができます(本願明細書の段落[0026]?[0027])。今回の補正では、導電性接着フィルムの厚さtがバス電極の十点平均表面粗さRz以上であることを特定しております。この補正により、Rzが8?18μmの範囲内のいずれの値をとっても、tは10?35μmの範囲からRz以上となる値をとることになります。よって、電極表面のRzが8?18μmのいずれの値をとっても、本願発明1で上記効果が得られることが、当業者により明確に理解され得るものとなったと思料します。
よって、補正後の請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものと思料します。」


第5 当審の判断
1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について

本願明細書には、次の記載がある。
(1)「【0009】
・・・本発明は、単結晶、多結晶又は非結晶シリコンウエハや化合物半導体ウエハなどの太陽電池セル同士を配線部材を介して接続する際に、太陽電池セルに悪影響を及ぼすことなく太陽電池セルの表面電極と配線部材とを接続することができ、且つ、十分な接続信頼性を得ることが可能な太陽電池モジュールの製造方法を提供することを目的とする。」

(2)「【0026】
このとき、電極表面は一般的に表面粗さ(十点平均表面粗さRz)3?30μmの凹凸を有していることがある。特に太陽電池セルに形成される電極は、表面粗さRzが8?18μmと粗いことが多い。本発明者らは鋭意検討の結果、これらの凹凸に起因して従来の導電性接着剤組成物や導電性フィルムでは接続信頼性が劣化することを見出した。
【0027】
すなわち、このような凹凸形状を有する電極表面の場合、導電性粒子の粒子径が小さく、配合量が適正でないと、電極表面の凹部に粒子が埋もれてしまい十分な導通性が得られない。また、導電性接着剤組成物や導電性フィルムを用いて形成される塗膜の厚さが、電極表面の凹凸高低差よりも小さい場合、被着体との十分な接着が得られず接続信頼性が低下する。
【0028】
また、導電性粒子の粒子径に対して形成される塗膜の厚さが大きすぎると、熱圧着時に導電性粒子表面の樹脂が十分に排除されず、導電性が低下する。さらには、導電性粒子の平均粒子径r(μm)と形成される塗膜の厚さt(μm)との比(塗膜厚t/導電性粒子の平均粒子径r)が0.75未満であると、接着剤成分の充填が十分でなく、同じく接続不良を引き起こす可能性が高い。
【0029】
ここで本発明者らは、被着体同士間の十分な接続信頼性を得るには、導電性接着フィルムと電極表面の凹凸のあいだで、絶縁性接着剤成分に分散されている導電性粒子の粒子径(平均粒子径)と、形成される塗膜厚(導電性接着フィルムの厚さ)との比が大きく関係することを見出した。」

(3)「【0042】
導電性粒子1の平均粒子径rは、(t/r)の値が0.75?17.5の範囲内となる平均粒子径であれば特に制限されないが、2?30μmであることが好ましく、10?20μmであることがより好ましい。特に、被着体の表面粗さRzが3?30μm(更には8?18μm)の範囲内である場合、導電性粒子1の平均粒子径が上記範囲内であることにより、被着体同士間の接着性及び導通性をより良好なものとすることができる。また、導電性粒子1の平均粒子径rは、被着体の表面粗さ(十点平均表面粗さRz、最大高さRy)に対して、1/2Rz以上であることが好ましく、Rz以上であることがより好ましく、Ry以上であることが更に好ましい。
【0043】
また、導電性接着フィルム10中の導電性粒子1の含有量は、導電性接着フィルム10の全体積を基準として1.7?15.6体積%であることが必要であるが、被着体同士間の接着性及び導通性をより良好なものとする観点から、2?12体積%であることが好ましく、3?8体積%であることがより好ましい。なお、導電性粒子1の含有量が1.7?15.6体積%であることにより、導電性接着フィルム10は異方導電性を示すことができる。」

(4)【0061】乃至【0070】の記載を踏まえると、【0072】及び【0073】の表2、表3の実施例1-1、実施例2-1、2-2、2-3、実施例3-2、3-3、実施例5-2、5-3、実施例6-2、6-3の条件は、いずれも、電極の表面粗さRzが10μm、導電性粒子の含有量が5体積%であることがわかる。

これらの本願明細書の記載より、本願発明は、太陽電池セルの表面電極と配線部材とを導電性接着フィルムで接続するにあたり、表面電極の表面が凹凸を有していても十分な接続信頼性を得ることが可能な太陽電池モジュールの製造方法を提供することを課題とし、この課題を解決するために、電極の表面粗さRzが8?18μm、(t/r)が2.0?9.0、tが10?35μm、tがバス電極の十点平均表面粗さRz以上、rが2?12μm、導電性粒子の含有量が1.7?15.6体積%という数値限定をしたものであるといえる。
本願発明に含まれるもののすべてが十分な接続信頼性を有しているといえるかどうかは、表2・表3の実験データに基づいて判断せざるを得ないが、前記(4)のとおり、本願発明のいずれの実施例も、電極の表面粗さRzが10μmで導電性粒子の含有量が5体積%であり、これらの値以外の実施例が存在しないこと、【0027】の「このような凹凸形状を有する電極表面の場合、導電性粒子の粒子径が小さく、配合量が適正でないと、電極表面の凹部に粒子が埋もれてしまい十分な導通性が得られない。」及び【0042】の「導電性粒子1の平均粒子径rは、被着体の表面粗さ(十点平均表面粗さRz、最大高さRy)に対して、1/2Rz以上であることが好ましく、Rz以上であることがより好ましく、Ry以上であることが更に好ましい。」との記載によれば、電極の表面粗さRzが大きくなるほど電極表面の凹部に粒子が埋もれやすくなるため導通性が得られにくくなると予測されること、また、導電性粒子の含有量が少ないほど導通性が得られにくくなると予想されることから、本願発明のうち、表面粗さRzが10μmより大きく導電性粒子の含有量が5体積%より少ないものは十分な導通性が得られるかどうかが不明であるため、導通性の点で十分な接続信頼性を有しているとはいえない。
よって、請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものでない。

なお、当審において、請求人に対し、本願発明がサポート要件を満足することを証明するための追加の実験データの提出を依頼したが、請求人から実験データは提出されなかった。

2 請求人の主張について
意見書において、請求人は「電極が表面にこのような凹凸形状を有する場合、導電性接着フィルムを用いて形成される塗膜の厚さを電極表面の凹凸高低差以上とすることにより、被着体との十分な接着を得ることができ、接続信頼性を向上することができます」と述べて、Rzが8?18μmのいずれの値であっても接続信頼性を向上することができる旨を主張している。
しかしながら、【0027】の「導電性接着剤組成物や導電性フィルムを用いて形成される塗膜の厚さが、電極表面の凹凸高低差よりも小さい場合、被着体との十分な接着が得られず接続信頼性が低下する。」との記載によれば、導電性接着フィルムを用いて形成される塗膜の厚さを電極表面の凹凸高低差以上とすることによる効果は、接着性を良好にするという点で接続信頼性が得られることであり、導通性を良好にするという点で接続信頼性が得られることではない。
よって、導電性接着フィルムを用いて形成される塗膜の厚さを電極表面の凹凸高低差以上としても、導通性を良好にするという点で接続信頼性が得られるとはいえないから、「表面電極の十点平均表面粗さRzが10μmを除く8?18μmであるものが所望の効果を有しているのかどうかは記載されていない」という当審拒絶理由は依然として解消していない。


第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-11-05 
結審通知日 2018-11-06 
審決日 2018-11-19 
出願番号 特願2015-40352(P2015-40352)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉野 三寛  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 村井 友和
星野 浩一
発明の名称 太陽電池モジュールの製造方法  
代理人 吉住 和之  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 平野 裕之  

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