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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23P
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B23P
管理番号 1347593
審判番号 不服2017-14396  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-28 
確定日 2019-01-04 
事件の表示 特願2015-31652「旋削工具ホルダ装着ユニットを備えた工作機械」拒絶査定不服審判事件〔平成28年8月25日出願公開、特開2016-153149〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成27年2月20日の出願であって、平成29年4月10日付けで拒絶の理由が通知され、同年6月12日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月19日付けで拒絶の査定(以下「原査定」という)がなされた。
これに対し、原査定を不服として平成29年9月28日に審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、さらに、平成30年1月16日に上申書が提出された。

第2 平成29年9月28日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年9月28日にされた手続補正(以下「本件補正」という)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線は補正箇所を示す)。
「 【請求項1】
主軸を回転自在に支持し上下動する主軸頭と、周上に複数のグリップが配設され各グリップにより、前記主軸に装着される工具を複数保持可能であると共に所定の回転軸の回りに回転自在に軸支されたターレット式工具交換装置と、を備えた工作機械において、
旋削用工具を保持した旋削工具ホルダと、
前記旋削工具ホルダのクランプおよびアンクランプを行うためのそれぞれの油圧挿入口と、
前記油圧挿入口から油圧を供給することで、バネの付勢力によらずに前記油圧により昇降するピストンと、
前記ピストンの昇降動作により前記旋削工具ホルダを脱着可能に装着する旋削工具ホルダ装着ユニットと、を備え、
前記旋削工具ホルダ装着ユニットを前記主軸頭に対して位置および姿勢を変えないように固定したことを特徴とする工作機械。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成29年6月12にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 【請求項1】
主軸を回転自在に支持し上下動する主軸頭と、周上に複数のグリップが配設され各グリップにより、前記主軸に装着される工具を複数保持可能であると共に所定の回転軸の回りに回転自在に軸支されたターレット式工具交換装置と、を備えた工作機械において、
旋削用工具を保持した旋削工具ホルダと、
前記旋削工具ホルダのクランプおよびアンクランプを行うためのそれぞれの油圧挿入口と、
前記油圧挿入口から油圧を供給することにより昇降するピストンと、
前記ピストンの昇降動作により前記旋削工具ホルダを脱着可能に装着する旋削工具ホルダ装着ユニットと、を備え、
前記旋削工具ホルダ装着ユニットを前記主軸頭に対して位置および姿勢を変えないように固定したことを特徴とする工作機械。」

2 補正の適否
(1)新規事項・目的要件
本件補正の、特許請求の範囲の請求項1に「バネの付勢力によらずに前記油圧により」という記載を付加した点は、請求項1に係る発明の「油圧を供給することにより昇降するピストン」について、バネの付勢力によらないとの限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件明細書の段落【0019】には「旋削工具ホルダ装着ユニット16によるクランプおよびアンクランプの動作は、油圧制御によって行うことができる。」と記載され、段落【0020】には「図4は旋削工具ホルダ装着ユニットと外部機器とを接続する配管を示す図である。旋削工具ホルダ装着ユニット16に設けられたアンクランプ用油圧挿入口18とクランプ用油圧挿入口19より油圧装置(図示せず)からの油圧を供給する事で、旋削工具ホルダ17のクランプおよびアンクランプをすることができる。」と記載され、段落【0023】には「図5は旋削工具装着ユニットのクランプ動作(左半図)とアンクランプ動作(右半図)を説明する図である。図5に示すように旋削工具ホルダ装着ユニット16は、アンクランプ用油圧挿入口18より油圧を掛け、ピストン22を降下させる事により、ドローバー23を開かせ(アンクランプ動作24)、旋削工具ホルダ17を取り外す事が可能となり、旋削工具ホルダ17を交換後はクランプ用油圧挿入口19より油圧をかける事によりピストン22が上昇し、クランプ動作25が開始される。」と記載されており、図5を見ても圧力媒体によりピストン22を駆動する機構しか読み取れない。そうすると、上記明細書及び図面の記載からみて、油圧挿入口から油圧を供給することで、前記油圧のみで昇降するピストンが開示されていると認められ、このようにピストンの駆動源が「油圧のみ」である場合、「バネの付勢力によらずに前記油圧により昇降する」ことは、当業者であれば当然認識できるものである。よって、本件補正は、本願明細書の記載からみて新規事項を追加するものではない。

(2)独立特許要件
次に、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、つまり、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、について検討する。

ア 引用文献及びその記載事項
(ア)引用文献1
本件出願日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で引用された特開平5-92301号公報(以下「引用文献1」という)には、次の事項が記載されている(下線は理解の便のため当審で付したが、以下同様である)。

a 「【0011】
【実施例】図1?3に示す工作機械1はベース2、ツール設定部10、ワーク設定部20、自動工具交換装置(ATC)30、CNC装置(図示せず)、切削くず処理装置50等を備えている。
【0012】ベース2上にコラム3が形成してあり、コラム3にツール設定部10が設けてある。ツール設定部10は後述するように第1、2スピンドル15、16を備え、これを移動させるための水平及び上下スライド5、7、X及びZ方向移動機構、スピンドルヘッド11、旋回機構12等を有している。」

b 「【0015】上下スライド7にはスピンドルヘッド11と、スピンドルヘッド11を旋回軸の回りに旋回させるための旋回機構12が設けてある。旋回機構12は歯車列13と薄型サーボモータ14で構成してある。内歯車13aはスピンドルヘッド11に固定してあり、薄型サーボモータ14は上下スライド7に固定関係に設けてある。スピンドルヘッド11は薄型サーボモータ14を駆動することによって、図1,5の状態から時計回り方向及び反時計回り方向に90度ずつ旋回可能である。旋回軸は内歯車13aの中心軸に一致している。
【0016】スピンドルヘッド11には、回転工具用の第1ツールスピンドル15と旋削工具用の第2ツールスピンドル16が隣接して設置されている。
【0017】図4を参照すると、スピンドルヘッド11にはベアリング79を介して第1ツールスピンドル15が回転可能に設けてある。第1ツールスピンドル15の下端にはツールホルダ70が着脱可能に取付けてある。このツールホルダ70は、穴あけ工具71を有している。ツールホルダ70のテーパ部72はプルスタッド73を有している。このプルスタッド73はドローバ17により上方に引張られている。またテーパ部72は主軸15のテーパ面18に密着している。ツールホルダ70と主軸15はストッパ部材19により固定されている。第1ツールスピンドル15はスピンドルヘッド11の上方に配置された主モータ8によって回転する。主モータによって第1ツールスピンドルを60?6000RPMで回転させることができる。
【0018】第1ツールスピンドル15の隣りには旋削工具用の第2ツールスピンドル16が設けてある。第2ツールスピンドル16は、ベアリングを介さずにスピンドルヘッド11に固定関係に設けてある。他の構成はツールスピンドル15の構成と同様である。図4では第2ツールスピンドル16にもツールホルダ80が取付けてあるが、加工時には第1又は第2ツールスピンドル15、16のいずれか一方にのみツールを設ける。」

c 「【0021】図1,3の自動工具交換装置30は、通常使われているものであり、工具マガジン31と工具交換用のアーム32を備えている。例えば、アーム32を下方に移動し工具マガジン31に収容された新ツールホルダと、ツールスピンドル15に取付けられた旧ツールホルダを下方に引抜く。そして、アーム32を軸回りに180°回転したあと上方に移動し、新ツールホルダ4をツールスピンドル15に取付け、旧ツールホルダを工具マガジン31の所定位置にもどせるようになっている。なお、アーム32はY方向に移動可能であって、工具ユニット30の妨げにならないように非使用時には後方の撤退位置に退くようになっている。」

d 図1及び図3に記載された、通常使われている自動工具交換装置30の工具マガジン31は、図3の上面図から見て、周上にツールホルダを複数保持可能であることが認識されるとともに、上記摘記事項cのアーム32によるツールホルダの着脱方法を勘案すると、所定の回転軸の回りに回転自在に軸支されているものと認められる。

e 引用文献1に記載された発明
上記摘記事項a?c及び認定事項dを、技術常識を踏まえて整理すると、引用文献1には以下の発明が記載されていると認められる。
「第1ツールスピンドル15を回転可能に設けたスピンドルヘッド11を上下スライド7に設け、周上にツールホルダを複数保持可能であると共に所定の回転軸の回りに回転自在に軸支された自動工具交換装置30の工具マガジン31を備えた工作機械において、
旋削工具を有しているツールホルダ80と、
前記ツールホルダ80を着脱可能に取り付ける第2ツールスピンドル16と、を備え、
第2ツールスピンドル16をスピンドルヘッド11に固定関係に設けてある工作機械。」(以下「引用発明」という)

(イ)引用文献2
本件出願日前に頒布され、原査定の拒絶の理由で引用された特開2012-210681号公報(以下「引用文献2」という)には、次の事項が記載されている。

「【0030】
工具交換装置62は、回転加工用工具12を把持する複数(例えば14個)のグリップアーム64(図6参照)と、複数のグリップアーム64を外周に保持する円盤状のマガジン本体65と、マガジン本体65に支持され各グリップアーム64の夫々を覆う複数のマガジンカバー66とを有している。マガジン本体65は、外周の等間隔の位置において、複数のグリップアーム64を放射状に保持する。マガジンカバー66は、外周に切欠部68を有する。切欠部68は、グリップアーム64が把持する回転加工用工具12がマガジンカバー66と干渉するのを避ける。
【0031】
マガジン本体65は、マガジンモータ(図示省略)の駆動によって、前方に向かって斜め下方に延びる回転軸70(図3及び図5参照)を中心に回転する。故に、工具交換装置62は、マガジン本体65に保持された複数のグリップアーム64のうちの任意のものを、工具交換可能な位置、具体的には、主軸46の下方に移動させることができる。」

(ウ)引用文献3
本件出願日前に頒布され、原査定で周知技術として示された特開2011-131310号公報(以下「引用文献3」という)には、次の事項が記載されている。

a 「【0023】
油圧回路網は、元圧源Pをクランプ切替弁41を介してクランプ側ポート25およびアンクランプ側ポート26にそれぞれ接続しているクランプ回路42およびアンクランプ回路43と、元圧源Pをロック切替弁44を介してロック側ポート37およびアンクロック側ポート38にそれぞれ接続しているロック回路45およびアンロック回路46と、アンクランプ回路43およびロック回路45を短絡させているカウンターバランス回路47とよりなる。 クランプ切替弁41は、クランプ位置、アンクランプ位置および中立位置の3つの開口位置を有するものである(アンクランプ位置でのONを図示)。ロック切替弁44は、ロック位置およびアンロック位置の2つの開口位置を有するものである(ロック位置でのONを図示)。」

b 「【0026】
上記旋削加工を停止し、工具Tを交換する場合、クランプ切替弁41は、アンクランプ位置に切替られる。ロック切替弁44は、ロック位置のままである。元圧源Pの元圧Cは、クランプ切替弁41およびアンクランプ回路43を通じて、アンクランプ側ポート26に作用させられ、同時に、アンクランプ回路43から分岐させられたカウンターバランス回路47およびカウンターバランス弁51を通じて、ロック側ポート37に作用させられる。これにより、クランプピストン24およびロックピストン32に元圧Cが、同時に、かつ、前後逆向きに作用させられる(図1中、矢印D、E)。このときにクランプピストン24に作用させられる油圧力は、バネ14の力よりも大である。クランプピストン24は、バネ14を圧縮して、前進させられ、ドローバー13を前向きに押動する。ドローバー13の前進によって、コレット12が開かれて、工具Tの交換可能となる。」

c 「【0028】
上記のアンクランプ状態から、再びクランプ状態に切替るには、クランプ切替弁41を、アンクランプ位置からクランプ位置に切替る。そうすると、元圧Cは、クランプ切替弁41およびクランプ回路42を通じて、クランプ側ポート25に作用させられ、クランプピストン24は、後退させられる。同時に、元圧Cは、減圧弁52を通過し、設定圧Bに減圧されるた後に、ロック回路45を通じて、ロック側ポート37に作用させられる。ロック回路45内の油圧は、カウンターバランス弁51によって、その設定Bに保持される。主軸11は、設定Bによって旋削加工時のロック状態に保持される。」

(エ)引用文献4
本件出願日前に頒布され、原査定で周知技術として示された特開2004-25389号公報(以下「引用文献4」という)には、次の事項が記載されている。

「【0017】
前記工具ホルダー6のクランプを解除(アンクランプ)するには、主軸5の後方に設けられた油圧シリンダ14が使用される。この油圧シリンダ14は、ハウジング2の後部に軸受ハウジング15及びエンドキャップ16を介して一体的に組み付けられたヘッド部17内をピストン18が摺動自在に収装されてなる。
【0018】
そして、前記ピストン18がポートP2より油室C2(図2参照)に供給される油圧により伸び側(主軸5の先端側)にストロークすると、やがて初期間隙Lが埋められてピストン18の前端部がドローバー10のロッドエンド12に当接して当該ドローバー10をばね装置13の付勢力に抗して前進動(押出し)させ、これにより主軸5先端に組み付けられたコレットチャック7が解放動作して工具ホルダー6をアンクランプする。
【0019】
一方、工具ホルダー6が主軸5先端に挿入された状態で、ピストン18がポートP1より油室C1に供給される油圧により縮み側(主軸5の後端側)にストロークすると、ばね装置13の付勢力によるドローバー10の後退動(引込み)よりコレットチャック7が係合動作して工具ホルダー6をクランプするようになっている。」

(オ)引用文献5
本件出願日前に頒布された特開昭58-160037号公報(以下「引用文献5」という)には、次の事項が記載されている。

a 「第1図及び第2図中、1はケーシング、2はケーシング1に固設されたヘッド部材、3はベアリング4,5によりケーシング1に軸支された工具取付軸、6は工具取付軸3に固着されたVプーリ、7は工具取付軸3の軸心に摺動自在に装着されたプルロッド、8はプルロッド7によって作動するコレット、9は工具取付軸3に形成されたシリンダ、10はシリンダ9内に嵌装されたピストンで、このピストン10はプルロッド7に固着されている。
プルロッド7とコレット8とによって工具を着脱する機構は、従来装置のものと特に異なる所がないので、簡単に説明する。ピストン10によってプルロッド7が図上下動するとこのプルロッド7がコレット8を押し開いてコレット8と工具との係合を解き、更にプルロッド7の先端が工具を押圧して装着されている工具を押し出す。プルロッド7を下降させた状態で工具を工具取付軸3に挿入してピストン10によってプルロッド7を引き上げると、コレット8は自身の弾力によって工具に係合し、プルロッド7が更に上動するとプルロッド7の先端部がコレット8に係合してコレット8を引き上げ、これに係合している工具のシャンクを工具取付軸3に嵌合させて固定するのである。
回転工具は、上述した従来と同様な機構によって工具取付軸3に装着されるのであるが、固定工具11には、第3図及び第4図に示す様に、回転工具に設けられるものと同じシャンク12とこれに植立されたプルスタッド13が設けられ、更にシャンク12の周囲に嵌合部材14が設けられている。」(2ページ右上欄9行-左下欄最終行)

b 「尚、第1図及び第2図の22は、プルロッド7の内部に設けた通孔内に油圧を供給する為の接続継手で、工具取付軸3に設けたシリンダ9にはこの接続継手22を経てプルロッド7側から圧油が供給されている。」(3ページ右上欄下から2行-左下欄3行)

イ 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「第1ツールスピンドル15」は、本件補正発明の「主軸」に相当し、同様に、「スピンドルヘッド11」は「主軸頭」に相当するから、引用発明の「第1ツールスピンドル15を回転可能に設けたスピンドルヘッド11を上下スライド7に設け」たものは、本件補正発明の「主軸を回転自在に支持し上下動する主軸頭」に相当する。
引用発明の「周上にツールホルダを複数保持可能であると共に所定の回転軸の回りに回転自在に軸支された自動工具交換装置30の工具マガジン31」と、本件補正発明の「周上に複数のグリップが配設され各グリップにより、前記主軸に装着される工具を複数保持可能であると共に所定の回転軸の回りに回転自在に軸支されたターレット式工具交換装置」とを対比すると、「周上に前記主軸に装着される工具を複数保持可能であると共に所定の回転軸の回りに回転自在に軸支された自動工具交換装置」という事項までは一致する。
引用発明の「旋削工具を有しているツールホルダ80」は、本件補正発明の「旋削用工具を保持した旋削工具ホルダ」に相当する。
引用発明の「前記ツールホルダ80を着脱可能に取り付ける第2ツールスピンドル16」は、本件補正発明の「前記ピストンの昇降動作により前記旋削工具ホルダを脱着可能に装着する旋削工具ホルダ装着ユニット」と対比すると、「前記旋削工具ホルダを脱着可能に装着する旋削工具ホルダ装着ユニット」という事項までは一致する。
引用発明の「第2ツールスピンドル16をスピンドルヘッド11に固定関係に設けてある」という事項は、本件補正発明の「前記旋削工具ホルダ装着ユニットを前記主軸頭に対して位置および姿勢を変えないように固定した」という事項に相当する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「主軸を回転自在に支持し上下動する主軸頭と、周上に前記主軸に装着される工具を複数保持可能であると共に所定の回転軸の回りに回転自在に軸支された自動工具交換装置と、を備えた工作機械において、
旋削用工具を保持した旋削工具ホルダと、
前記旋削工具ホルダを脱着可能に装着する旋削工具ホルダ装着ユニットと、を備え、
前記旋削工具ホルダ装着ユニットを前記主軸頭に対して位置および姿勢を変えないように固定したことを特徴とする工作機械。」
<相違点1>
本件補正発明の自動工具交換装置が、「複数のグリップが配設され各グリップにより」、工具を複数保持可能な「ターレット式工具交換装置」であるのに対し、引用発明の自動工具交換装置30は、工具マガジン31の具体的な工具保持機構が不明で、工具交換用アーム32を用いる点。
<相違点2>
本件補正発明では、「前記旋削工具ホルダのクランプおよびアンクランプを行うためのそれぞれの油圧挿入口と、前記油圧挿入口から油圧を供給することで、前記油圧により昇降するピストンと」を備え、「前記ピストンの昇降動作により」 旋削工具ホルダを脱着可能に装着するのに対し、引用発明では、ツールホルダ80を脱着可能に装着するための第2ツールスピンドル16のドローバの駆動機構が不明である点。
<相違点3>
本件補正発明では、旋削工具ホルダを脱着可能に装着するのに「バネの付勢力によらずに」行っているのに対し、引用発明では、ツールホルダ80を脱着可能に装着するために、バネの付勢力を使用するか否か不明である点。

ウ 判断
(ア)相違点1について
引用文献2には、工具交換装置62の回転する円盤状のマガジン本体65の外周に、回転加工用工具12を把持する複数(例えば14個)のグリップアーム64を保持する構造のターレット式工具交換装置が示されている。
そして、工作機械の工具交換装置にどのような形式の工具交換装置を用いるかは、必要に応じて適宜選択し得る程度の事項であるから、引用発明の自動工具交換装置30において、工具マガジン31に引用文献2に記載された複数のグリップアーム64を保持するマガジン本体65の構造を適用し、全体をターレット式工具交換装置とすることは、当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。

(イ)相違点2について
旋削工具ホルダのクランプおよびアンクランプを行うためのそれぞれの油圧挿入口と、前記油圧挿入口から油圧を供給することで、前記油圧により昇降するピストンと」を備え、「前記ピストンの昇降動作により」 旋削工具ホルダを脱着可能に装着する構成は、引用文献3の、クランプ側ポート25及びアンクランプ側ポート26に油圧を供給し、クランプピストン24を前進後退させることで工具Tを交換可能とする構造や、引用文献4の、工具ホルダー6をクランプするためのポートP1とアンクランプするためのポートP2に油圧を供給し、ピストン18を後退動及び前進動させることで工具ホルダー6をクランプ及びアンクランプさせる構造や、引用文献5の、プルロッド7の内部に設けた通孔内に供給された圧油をプルロッド7側からシリンダ9に供給し、ピストン10を上下動させることで固定工具11を工具取付軸3に着脱する構造として示されているように、従来周知の事項にすぎないものである。
そして、引用発明の第2ツールスピンドル16へのツールホルダ80の取り付け構造として、引用文献3ないし5に記載された従来周知の事項を適用して、相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。

(ウ)相違点3について
旋削工具ホルダをバネの付勢力によらずに脱着可能に装着する構成は、引用文献5にも、固定工具11を工具取付軸3に着脱させるためのピストン10の上下動を油圧のみで行い、バネの付勢力を用いない構造として示されているように、従来周知の事項であるから、引用発明の第2ツールスピンドル16へのツールホルダ80の取り付け構造として、引用文献5に記載された従来周知の事項を適用して、相違点3に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者にとって格別困難な事項とは認められない。

(エ)効果について
上記の相違点1ないし3を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する効果は、引用発明及び引用文献2ないし5に記載された従来周知の事項が奏する効果から、予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ 小結
したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2ないし5に記載された従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

オ 上申書における請求人の主張について
なお、請求人は、平成30年1月16日提出の上申書において、「本審判請求人は、本願発明が前記引用文献1-9に基づいて当業者が容易に想到し得ないものであることとするため、引用文献1-9に開示されたものとの構成上の差異をより明確にする補正を行う機会をいただきたくお願い申し上げます。
<請求項1>
旋削工具ホルダをボルトにより主軸頭に固定することを限定いたします。これにより、着脱が容易な構成がより明確になり、引用文献1(特開平5-92301号公報の図4)との構成上の差違があります。
本願発明は、バネによる付勢力を用いないため、本願発明の『旋削工具ホルダ装着ユニット』を小型化が可能となり、図1、図2などに示されるように、主軸頭の下部にボルトによる固定が可能となります。」と、請求項1を補正する案を提示している。
しかし、たとえ、上記請求項1への補正を行ったとしても、「旋削工具ホルダをボルトにより主軸頭に固定すること」は、従来周知の事項(例えば、実願平3-101711号(実開平5-41603号)のCD-ROMの図2に示されたねじ18についての、段落【0007】の「この工具固定専用ユニット10は、その下端をねじ18により、また上方は図示しないねじにより主軸頭4に対し取り付け取り外し可能とされている。」との記載を参照)にすぎないので、補正案に基づく請求項1に係る発明も、依然として進歩性があるものとは認められない。
よって、請求人の上記補正案を受け入れることはできない。

(3)補正の適否についてのむすび
上記のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし5に係る発明は、平成29年6月12日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、上記第2の1(2)に記載されたとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし5に係る発明は、出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献1ないし8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
1.特開平5-92301号公報
2.特開2012-210681号公報
3.特開平6-126571号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2001-277062号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2005-40870号公報(周知技術を示す文献)
6.実願昭58-144758号(実開昭60-53442号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)
7.特開2011-131310号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
8.特開2004-25389号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された文献1、2、7、8は、それぞれ上記第2の2(2)アに記載した引用文献1ないし4であるから、その記載事項は上記第2の2(2)ア(ア)ないし(エ)に記載したとおりである。

4 当審の判断
本願発明は、上記第2の2で検討した本件補正発明から、「バネの付勢力によらずに」という限定事項を削除したものである。
そして、本願発明と引用発明とを対比すると、上記第2の2(2)イに記載された<一致点>で一致し、<相違点1>及び<相違点2>のみで相違する。
そうすると、上記第2の2(2)ウ(ア)及び(イ)に記載したのと同様の理由で、本願発明は、引用発明及び引用文献2ないし4に記載された従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-10-30 
結審通知日 2018-11-06 
審決日 2018-11-20 
出願番号 特願2015-31652(P2015-31652)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B23P)
P 1 8・ 121- Z (B23P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 信也  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 栗田 雅弘
篠原 将之
発明の名称 旋削工具ホルダ装着ユニットを備えた工作機械  
代理人 あいわ特許業務法人  

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