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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D03D
審判 全部申し立て 2項進歩性  D03D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D03D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D03D
管理番号 1347647
異議申立番号 異議2017-701003  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-19 
確定日 2018-11-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6184483号発明「耐摩耗織物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6184483号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-22〕について訂正することを認める。 特許第6184483号の請求項1、3ないし22に係る特許を維持する。 特許第6184483号の請求項2についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6184483号(以下「本件特許」という。)の請求項1?22に係る特許についての出願は、平成26年5月14日(優先権主張 平成25年5月14日 日本国)を国際出願日とする特許出願であって、平成29年8月4日にその特許権の設定登録がされ(平成29年8月23日特許掲載公報発行)、その後、平成29年10月19日に特許異議申立人岩崎勇(以下「異議申立人」という。)より請求項1?22に対して特許異議の申立てがされ、平成29年11月7日に異議申立人から手続補正書が提出され、平成30年5月30日付けで取消理由が通知され、平成30年7月23日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)がされたものである。なお、特許権者による訂正の請求について、異議申立人に意見書を提出する機会を与えたが、異議申立人から意見書の提出はなかった。

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
本件訂正は、以下の訂正事項1?7からなるものである。それぞれの訂正事項について、訂正箇所に下線を付して示すと次のとおりである。

ア.訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、「経糸と緯糸の両者が、ポリアミド系繊維の撚糸を含み、かつ、面ファスナーによる表面摩耗法による、織物の摩耗耐久性試験結果が、3級以上であることを特徴とする耐摩耗性織物。」とあるのを、「経糸と緯糸の両者が、ポリアミド系繊維の撚糸を含み、該撚糸が加工糸であり、かつ、面ファスナーによる表面摩耗法による、織物の摩耗耐久性試験結果が、3級以上であることを特徴とする耐摩耗性織物。」に訂正する。また、請求項1の記載を引用する請求項3?22についても同様に訂正する。

イ.訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ウ.訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に、「前記撚糸の撚糸係数が200?10000である、請求項1又は2に記載の織物。」とあるのを、「前記撚糸の撚糸係数が200?10000である、請求項1に記載の織物。」に訂正する。

エ.訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に、「撥水加工が施されている、請求項1?5のいずれか一項に記載の織物。」とあるのを、「撥水加工が施されている、請求項1、及び3?5のいずれか一項に記載の織物。」に訂正する。

オ.訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に、「カレンダー加工が少なくとも片面に施されている、請求項1?6のいずれか一項に記載の織物。」とあるのを、「カレンダー加工が少なくとも片面に施されている、請求項1、及び3?6のいずれか一項に記載の織物。」に訂正する。

カ.訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8に、「請求項1?7のいずれか一項に記載の織物に積層化加工が施された複合織物。」とあるのを、「請求項1、及び3?7のいずれか一項に記載の織物に積層化加工が施された複合織物。」に訂正する。

キ.訂正事項7
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項17に、「請求項1?7のいずれか一項に記載の織物または請求項8?16のいずれか一項に記載の複合織物を用いた織物製品。」とあるのを、「請求項1、及び3?7のいずれか一項に記載の織物または請求項8?16のいずれか一項に記載の複合織物を用いた織物製品。」に訂正する。

(2)一群の請求項
本件訂正前の請求項1及び同請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?22は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、訂正事項1?7による訂正は当該一群の請求項1?22に対してなされたものである。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(3)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1における「撚糸」について「加工糸」であると限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0011】の「また、本発明の織物を構成する糸としては、生糸、複合糸、並びに仮撚加工糸およびタスラン加工糸などの加工糸が挙げられるが、生糸や加工糸が好ましく、加工糸がより好ましく、加工糸の中でも仮撚加工糸が最も好ましい。これは織物製品を仕上げたとき、生糸よりも仮撚加工糸を使用する方が、織物の風合いをさらに柔らかく仕上げやすいためである。」との記載や、同段落【0017】の「本発明の織物を構成する撚糸は、・・・(中略)・・・撚糸加工を行なう前に、あらかじめ仮撚加工を行なっておくことが、柔らかな風合いが向上するので好ましい。・・・」との記載からみて、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
請求項1を引用する請求項3?22についての訂正も同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

イ.訂正事項2
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ウ.訂正事項3
訂正事項3は、本件訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2のいずれかを引用するものであったところ、本件訂正により削除された請求項2を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、また、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

エ.訂正事項4
訂正事項4は、本件訂正前の請求項6が訂正前の請求項1?5のいずれかを引用するものであったところ、本件訂正により削除された請求項2を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、また、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

オ.訂正事項5
訂正事項5は、本件訂正前の請求項7が訂正前の請求項1?6のいずれかを引用するものであったところ、本件訂正により削除された請求項2を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、また、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

カ.訂正事項6
訂正事項6は、本件訂正前の請求項8が訂正前の請求項1?7のいずれかを引用するものであったところ、本件訂正により削除された請求項2を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、また、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

キ.訂正事項7
訂正事項7は、本件訂正前の請求項17が訂正前の請求項1?7または請求項8?16のいずれかを引用するものであったところ、本件訂正により削除された請求項2を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とし、また、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-22〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正が認められたことにより、本件特許の請求項1?22に係る発明(以下「本件発明1?22」という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
【請求項1】
経糸と緯糸の両者が、ポリアミド系繊維の撚糸を含み、該撚糸が加工糸であり、かつ、面ファスナーによる表面摩耗法による、織物の摩耗耐久性試験結果が、3級以上であることを特徴とする耐摩耗性織物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記撚糸の撚糸係数が200?10000である、請求項1に記載の織物。
【請求項4】
前記撚糸係数が500?5000である、請求項3に記載の織物。
【請求項5】
前記撚糸係数が1000?3000である、請求項4に記載の織物。
【請求項6】
撥水加工が施されている、請求項1、及び3?5のいずれか一項に記載の織物。
【請求項7】
カレンダー加工が少なくとも片面に施されている、請求項1、及び3?6のいずれか一項に記載の織物。
【請求項8】
請求項1、及び3?7のいずれか一項に記載の織物に積層化加工が施された複合織物。
【請求項9】
前記積層化加工が可撓性フィルムの積層である、請求項8に記載の複合織物。
【請求項10】
前記可撓性フィルムが防水性フィルムである、請求項9に記載の複合織物。
【請求項11】
前記可撓性フィルムが防水透湿性フィルムである、請求項10に記載の複合織物。
【請求項12】
前記防水透湿性フィルムが疎水性樹脂からなる多孔質フィルムである、請求項11に記載の複合織物。
【請求項13】
前記疎水性樹脂がポリテトラフルオロエチレンである、請求項12に記載の複合織物。
【請求項14】
前記多孔質フィルムが延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムである、請求項12に記載の複合織物。
【請求項15】
前記多孔質フィルムが、前記織物が積層されている側の反対側に親水性樹脂層を有する、請求項12?14のいずれか一項に記載の複合織物。
【請求項16】
前記可撓性フィルムの、前記織物が積層されている側の反対側に、さらに第2の織物が積層されている、請求項12?15のいずれか一項に記載の複合織物。
【請求項17】
請求項1、及び3?7のいずれか一項に記載の織物または請求項8?16のいずれか一項に記載の複合織物を用いた織物製品。
【請求項18】
前記織物製品が衣料製品である、請求項17に記載の織物製品。
【請求項19】
前記織物または複合織物が、前記衣料製品の肩、肘、膝、袖、または、裾の部分の少なくとも一部に用いられている、請求項18に記載の織物製品。
【請求項20】
前記衣料製品がダウンプルーフ用生地である、請求項18または19に記載の織物製品。
【請求項21】
前記衣料製品がアウトドアウェア用生地である、請求項18または19に記載の織物製品。
【請求項22】
前記衣料製品がウィンドブレーカー用生地である、請求項18または19に記載の織物製品。

(2)取消理由の概要
当審において、訂正前の請求項1?22に係る発明の特許に対して、平成30年5月30日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである

理由1.本件特許の請求項1及び3?5に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2.本件特許の請求項1及び3?5に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



甲第1号証:特開昭62-273876号公報
甲第2号証:特公昭50-18803号公報
(各々、特許異議申立書に添付された甲第1号証及び甲第2号証である。)

ア.理由1について
本件特許の請求項1及び3?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。
また、本件特許の請求項1及び3?5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明である。

イ.理由2について
本件特許の請求項1及び3?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件特許の請求項1及び3?5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)上記取消理由についての判断
ア.刊行物に記載された発明
(ア)甲第1号証について
甲第1号証(以下「甲1」という。)には、以下の記載がある。
「実施例1・・・第1表の6種の製造方法により得た40デニール/34フイラメントのナイロン66繊維を用いて、経糸撚数280回/m、緯糸撚数280回/m、経糸密度170本/インチ、緯糸密度114本/インチの平織布(精練・セット上り)を作成した。これを381mm幅に溶断しインクリボン基布を得た。」(第2ページ右下欄第14行?第3ページ右下欄第14行)
よって、甲1には、「経糸と緯糸の両者が、40デニール/34フイラメントのナイロン66繊維を用いた、経糸撚数280回/m、緯糸撚数280回/mの撚糸を含む、平織布。」(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

(イ)甲第2号証について
甲第2号証(以下「甲2」という。)には、以下の記載がある。
「本発明のリボン基布は上記した構成濡れ特性を有するので、インクの吸収、保持性がきわめて良好でしかも強力、耐久性にもすぐれている。
実施例1
ナイロン40デニール、34フイラメント糸に250T/Mの追撚をした糸をタテ糸に使用し、ヨコ糸に同じく40デニール、34フィラメント糸に140T/Mの追撚した糸を用いタテ糸密度165本/in、ヨコ糸密度110本/inに製織する。この生機に対し、20%のオーバーフィードをかけた状態で180℃で30秒間生機セットを行なつた後振効式精練機を用い非イオン活性剤2g/l、ソーダ灰2g/lの浴で60秒間精練し、濁水洗を充分に行なつてから、張力をかけないためにショートループドライヤーを利用し、115℃において乾燥した。
その後さらに20%のオーバーフィードをかけて、185℃で20秒間仕上セツトを行ない仕上げた。この方法で得られた織物のタテ糸密度は170本/in、ヨコ糸密度は118本/inであり、その比容積は1.95、糊抜率は90%であつた。尚このときの臨界表面張力は40ダイン/cmであつた。
この基布を幅1/2インチにカツト、オレイン酸を主体とする着色インクを用いて2時間後のインク吸収性を調べたとして60mmの値が得られた。

実施例2
タテ糸には実施例1と同じ糸を用い、ヨコ糸にナイロン70デニール、34フイラメントに120T/Mの追撚を行なつた糸を用い、タテ糸密度158本/in、ヨコ糸密度110本/in製織し、実施例1と同じ条件で加工を行ない、タテ糸密度165本/inヨコ糸密度110本/inに仕上げた。この織物の比容積は1.82、糊抜率は85%で臨界表面張力は38ダイン/cmであり、150mmのインクの吸収性が得られた。」(第4ページ第7欄第5行?第8欄第12行)

よって、甲2には、「経糸にナイロン40デニール/34フイラメント糸に250T/Mの追撚をした糸を、緯糸にナイロン70デニール/34フイラメントに120T/Mの追撚をした糸を用いた、織布。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。

イ.本件発明1について
(ア)甲1発明との対比
a.本件発明1は、上記3.(1)において示したとおりのものである。

b.本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
ナイロン66繊維はポリアミド系繊維の一種であるから、甲1発明の「40デニール/34フイラメントのナイロン66繊維を用いた、経糸撚数280回/m、緯糸撚数280回/mの撚糸」は、本件発明1の「ポリアミド系繊維の撚糸」に相当する。
また、甲1発明の「平織布」は、平織りで織られた布であるから、本件発明1の「織物」に相当する。

よって、本件発明1と甲1発明は、以下の構成において一致する。
「経糸と緯糸の両者が、ポリアミド系繊維の撚糸を含むことを特徴とする織物。」

そして、本件発明1と甲1発明は、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、面ファスナーによる表面摩耗法による織物の摩耗耐久性試験結果が3級以上であることを特徴とする耐摩耗性織物であるのに対し、甲1には面ファスナーによる表面摩耗法で試験を行うことに関して記載がないため、甲1発明の面ファスナーによる表面摩耗法による織物の摩耗耐久性試験結果が不明である点。

<相違点2>
本件発明1は、撚糸が加工糸であるのに対し、甲1発明の撚糸は加工糸でない点。

c.相違点1について検討する。
甲1発明の、経糸と緯糸の繊度である40デニールは、44dtexに相当する。
甲1発明は、フィラメント数が34本である。
甲1発明は、撚数が経緯共に280T/mである。
甲1発明は、撚糸係数(計算式については、本件特許の明細書の段落0014を参照)が経緯共に1857(=280×441/2)である。
甲1発明は、撚糸混率が経緯共に100%である。
甲1発明は、組織が平織である。

そのため、甲1発明は、本件特許の明細書の段落0033,0040に記載された「実施例1」と同等のものといえるから、甲1発明に対して面ファスナーによる表面摩耗法で試験を行うと、本件特許の明細書の段落0033,0040に記載された「実施例1」と同じく、総合判定が「3」になる蓋然性が高い。
よって、上記相違点1は実質的な相違点ではない。

d.相違点2について検討する。
甲1には、撚糸を加工糸とすることについて、記載も示唆もない。
また、甲1発明の平織物は、溶断してインクリボン基布とされるものであるが、このような用途で用いられる平織物において撚糸を加工糸とすることは、異議申立人から提出された証拠には示されていない。
一方で、本件発明1は撚糸が加工糸であることによって、織物製品を仕上げたとき、織物の風合いをさらに柔らかく仕上げやすい(本件特許明細書の段落【0011】を参照。)という顕著な効果を発揮するものである。

e.以上より、本件発明1と甲1発明は、少なくとも相違点2において実質的に相違するから、本件発明1は甲1発明ではない。
また、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(イ)甲2発明との対比
a.本件発明1は、上記3.(1)において示したとおりのものである。

b.本件発明1と甲2発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
ナイロンはポリアミド系の物質の一種であるから、甲2発明の「ナイロン40デニール/34フイラメント糸に250T/Mの追撚をした糸」及び「ナイロン70デニール/34フイラメントに120T/Mの追撚をした糸」は、本件発明1の「ポリアミド系繊維の撚糸」に相当する。
また、甲2発明の「織布」は、織られた布であるから、本件発明1の「織物」に相当する。

よって、本件発明1と甲2発明は、以下の構成において一致する。
「経糸と緯糸の両者が、ポリアミド系繊維の撚糸を含むことを特徴とする織物。」

そして、本件発明1と甲2発明は、以下の点で相違する。
<相違点3>
本件発明1は、面ファスナーによる表面摩耗法による織物の摩耗耐久性試験結果が3級以上であることを特徴とする耐摩耗性織物であるのに対し、甲2には面ファスナーによる表面摩耗法で試験を行うことに関して記載がないため、甲2発明の面ファスナーによる表面摩耗法による織物の摩耗耐久性試験結果が不明である点。

<相違点4>
本件発明1は、撚糸が加工糸であるのに対し、甲2発明の撚糸は加工糸でない点。

c.相違点3について検討する。
甲2発明の、経糸の繊度である40デニールは44dtexに、経糸の繊度である70デニールは、77dtexに相当する。
甲2発明は、フィラメント数が経緯共に34本である。
甲2発明は、撚数が、経250T/m、緯120T/mである。
甲2発明は、撚糸係数(計算式については、本件特許の明細書の段落0014を参照)が、経1658(=250×441/2)、緯1053(=120×771/2)である。
甲2発明は、撚糸混率が経緯共に、100%である。

そのため、甲2発明は、本件特許の明細書の段落0033,0040に記載された「実施例1」又は「実施例4」の条件と同等のものといえるから、甲2発明に対して面ファスナーによる表面摩耗法で試験を行うと、本件特許の明細書の段落0033,0040に記載された「実施例1」や「実施例4」と同じく、総合判定が「3」になる蓋然性が高い。
よって、上記相違点3は実質的な相違点ではない。

d.相違点4について検討する。
甲2には、撚糸を加工糸とすることについて、記載も示唆もない。
また、甲2発明の織布は、リボン基布とされるものであるが、このような用途で用いられる織布において撚糸を加工糸とすることは、異議申立人から提出された証拠には示されていない。
一方で、本件発明1は撚糸が加工糸であることによって、織物製品を仕上げたとき、織物の風合いをさらに柔らかく仕上げやすい(本件特許明細書の段落【0011】を参照。)という顕著な効果を発揮するものである。

e.以上より、本件発明1と甲2発明は、少なくとも相違点4において実質的に相違するから、本件発明1は甲2発明ではない。
また、本件発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ.本件発明3?22についての判断
請求項3?22は請求項1を直接または間接的に引用しているから、本件発明3?22は本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに技術的な限定を加える事項を発明特定事項として備えるものである。
よって、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明3?22は甲1発明あるいは甲2発明ではない。
また、本件発明3?22は、甲1発明あるいは甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)取消理由に採用しなかった異議申立理由についての判断
ア.異議申立人は異議申立書において、甲第3号証(特開2008-69487号公報、以下「甲3」という。)及び甲第4号証(特開平6-341029号公報、以下「甲4」という。)を引用し、本件発明1?22が、甲3に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたという旨、主張している(異議申立書の第24ページ第19行?第44ページ第28行を参照。)。
具体的には、甲3に記載されている「布帛E」及び「布帛F」(段落【0109】?【0110】)に着目し、本件発明と甲3に記載されている発明とは、本件発明が加工糸を撚糸としている点で相違するものの、当該相違点は甲4に記載された事項により当業者が容易に想到し得るものとしている。
しかしながら、甲3に記載されている「布帛E」及び「布帛F」は、甲3における実施例である「布帛5」及び「布帛6」(段落【0118】?【0119】)に対する比較例として記載されているものにすぎないから、当該「布帛E」や「布帛F」に対して、その織物の経糸及び緯糸に使用されているポリアミド仮撚り加工糸にさらに撚りを加えて撚糸にする設計変更を行おうとする動機付けは、見出せない。
よって、本件発明1?22は、甲3に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではなく、それらの特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は当を得たものではなく、採用できない。

イ.また、異議申立人は異議申立書において、本件請求項1において「経糸と緯糸の両者が、ポリアミド系繊維の撚糸を含」むという構成要件を満たすことにより、「面ファスナーによる表面摩耗法による、織物の摩耗耐久性試験結果が、3級以上である」という構成要件が満たされることになるとは認められないから、本件発明1?22が、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号に違反している旨を主張している(異議申立書の第45ページ第1行?第51ページ第4行を参照。)。
しかし、本件請求項1の「経糸と緯糸の両者が、ポリアミド系繊維の撚糸を含」むという発明特定事項と、「面ファスナーによる表面摩耗法による、織物の摩耗耐久性試験結果が、3級以上である」という発明特定事項は、「かつ」という接続詞で結ばれるとおり、各々が個別に「耐摩耗性織物」を特定する発明特定事項であると解するのが自然であり、前者と後者が原因と結果の関係にあると解すべき理由は見当たらない。
そして、本件請求項1はその記載のとおりに明確に発明を把握し得るものであるし、その発明は発明の詳細な説明に当業者がその実施が可能な程度に明確かつ十分に記載されている。
よって、本件発明1、3?22に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号に違反してされたものとはいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は当を得たものではなく、採用できない。

ウ.さらに、異議申立人は異議申立書において、本件請求項2において「前記撚糸が加工糸である」という記載の意味が明確でないから、本件発明2?22が、特許法第36条第6項第2号に違反している旨を主張している(異議申立書の第51ページ第5行?第52ページ第20行を参照。)。
しかし、「前記撚糸が加工糸である」という記載は、加工糸(仮撚加工された糸を含む)を撚って撚糸としたものであるという意味に解するのが自然であり、その記載の意味は明確である。
よって、本件発明1、3?22に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に違反してされたものとはいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は当を得たものではなく、採用できない。

(5)小括
以上のとおり、本件発明1、3?22は特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、それらの特許は同法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものではない。
また、本件発明1、3?22に係る特許は、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、及び特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第4号に該当せず、取り消されるべきものではない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては、本件発明1、3ないし22に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、3ないし22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

そして、本件特許の請求項2は、本件訂正が認められることにより削除されたため、本件特許の請求項2についての特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなった。
よって、本件特許の請求項2についての特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法135条の規定により、却下すべきものである。

したがって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸と緯糸の両者が、ポリアミド系繊維の撚糸を含み、該撚糸が加工糸であり、かつ、面ファスナーによる表面摩耗法による、織物の摩耗耐久性試験結果が、3級以上であることを特徴とする耐摩耗性織物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記撚糸の撚糸係数が200?10000である、請求項1に記載の織物。
【請求項4】
前記撚糸係数が500?5000である、請求項3に記載の織物。
【請求項5】
前記撚糸係数が1000?3000である、請求項4に記載の織物。
【請求項6】
撥水加工が施されている、請求項1、及び3?5のいずれか一項に記載の織物。
【請求項7】
カレンダー加工が少なくとも片面に施されている、請求項1、及び3?6のいずれか一項に記載の織物。
【請求項8】
請求項1、及び3?7のいずれか一項に記載の織物に積層化加工が施された複合織物。
【請求項9】
前記積層化加工が可撓性フィルムの積層である、請求項8に記載の複合織物。
【請求項10】
前記可撓性フィルムが防水性フィルムである、請求項9に記載の複合織物。
【請求項11】
前記可撓性フィルムが防水透湿性フィルムである、請求項10に記載の複合織物。
【請求項12】
前記防水透湿性フィルムが疎水性樹脂からなる多孔質フィルムである、請求項11に記載の複合織物。
【請求項13】
前記疎水性樹脂がポリテトラフルオロエチレンである、請求項12に記載の複合織物。
【請求項14】
前記多孔質フィルムが延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムである、請求項12に記載の複合織物。
【請求項15】
前記多孔質フィルムが、前記織物が積層されている側の反対側に親水性樹脂層を有する、請求項12?14のいずれか一項に記載の複合織物。
【請求項16】
前記可撓性フィルムの、前記織物が積層されている側の反対側に、さらに第2の織物が積層されている、請求項12?15のいずれか一項に記載の複合織物。
【請求項17】
請求項1、及び3?7のいずれか一項に記載の織物または請求項8?16のいずれか一項に記載の複合織物を用いた織物製品。
【請求項18】
前記織物製品が衣料製品である、請求項17に記載の織物製品。
【請求項19】
前記織物または複合織物が、前記衣料製品の肩、肘、膝、袖、または、裾の部分の少なくとも一部に用いられている、請求項18に記載の織物製品。
【請求項20】
前記衣料製品がダウンプルーフ用生地である、請求項18または19に記載の織物製品。
【請求項21】
前記衣料製品がアウトドアウェア用生地である、請求項18または19に記載の織物製品。
【請求項22】
前記衣料製品がウィンドブレーカー用生地である、請求項18または19に記載の織物製品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-05 
出願番号 特願2015-517109(P2015-517109)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D03D)
P 1 651・ 113- YAA (D03D)
P 1 651・ 536- YAA (D03D)
P 1 651・ 537- YAA (D03D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 竹下 晋司
蓮井 雅之
登録日 2017-08-04 
登録番号 特許第6184483号(P6184483)
権利者 日本ゴア株式会社 旭化成株式会社
発明の名称 耐摩耗織物  
代理人 青木 篤  
代理人 齋藤 都子  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  
代理人 中村 和広  
代理人 齋藤 都子  
代理人 齋藤 都子  
代理人 中村 和広  
代理人 三橋 真二  
代理人 三間 俊介  
代理人 中村 和広  
代理人 三間 俊介  
代理人 青木 篤  
代理人 三間 俊介  

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