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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23C
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23C
管理番号 1347656
異議申立番号 異議2017-700845  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-07 
確定日 2018-11-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6092953号発明「プロセスチーズ類」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6092953号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6092953号の請求項1、5?7に係る特許を維持する。 特許第6092953号の請求項2?4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯の概略
特許第6092953号の請求項1?7に係る特許(以下「本件特許」という。)についての手続の経緯は、概ね、次のとおりである。
特願2010-124320号(平成22年5月31日出願)の一部を平成27年7月2日に新たな特許出願とし、平成29年2月17日に特許権の設定登録がされ、平成29年3月8日に特許掲載公報が発行された。これに対し、平成29年9月7日に特許異議申立人笠井素子より特許異議の申立てがなされ,平成29年12月19日付けで取消理由が通知され、特許権者より平成30年2月19日付け意見書が提出され、平成30年6月18日付けで取消理由(決定の予告)が送付され、特許権者より平成30年8月16日付け意見書及び訂正請求書が提出され、平成30年8月24日付けで特許法120条の5第5項の規定に基づく書面を特許異議申立人に送付し、期間を指定して意見書を提出する機会を設けたが、特許異議申立人から何ら応答がなかったものである。
以下、平成30年8月16日付けの訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、これに係る訂正を「本件訂正」という。

第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の請求は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?7について訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。

(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「溶融塩を使用して」と記載されているのを、「溶融塩およびホエイタンパク質を使用して」に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、「耐熱保形性が50?90%である、」と記載されているのを、「耐熱保形性が50?90%であり、10℃以下で保存した時に、冷蔵保存後も耐熱保形性が50?90%である、」に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1?4のいずれか一項に記載のプロセスチーズ類。」と記載されているのを、「請求項1に記載のプロセスチーズ類。」に訂正する。
(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか一項に記載の」と記載されているのを、「請求項1または5に記載の」に訂正する。
(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項7の「請求項1?5のいずれか一項に記載の」と記載されているのを「請求項1または5に記載の」に訂正する。
2 本件訂正の適否について
(1) 訂正事項1
前記訂正事項1は、原料について、ホエイタンパク質を更に使用することを特定するものであるから、前記訂正事項1に係る本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、前記訂正事項1は、本件訂正前の請求項3に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2
前記訂正事項2は、耐熱保形性について、10℃以下で保存した時に、冷蔵保存後も耐熱保形性が50?90%であることを更に特定するものであるから、前記訂正事項2に係る本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、前記訂正事項2は、本件訂正前の請求項4に基づくものであるから新規事項を追加するものではなく、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3) 訂正事項3?5
前記訂正事項3?5は、請求項2?4を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4) 訂正事項6
前記訂正事項6は、本件訂正前の請求項5が本件訂正前の請求項1?4を引用していたところ、前記訂正事項3?5により請求項2?4が削除されたことに伴い、請求項1を引用するものとするもので、引用する請求項を減ずるものであるから、前記訂正事項6に係る本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、前記訂正事項6は、新規事項を追加するものではなく、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5) 訂正事項7
前記訂正事項7は、本件訂正前の請求項6が本件訂正前の請求項1?5を引用していたところ、前記訂正事項3?5により請求項2?4が削除されたことに伴い、請求項1または5を引用するものとするもので、引用する請求項を減ずるものであるから、前記訂正事項7に係る本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、前記訂正事項7は、新規事項を追加するものではなく、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6) 訂正事項8
前記訂正事項8は、本件訂正前の請求項7が本件訂正前の請求項1?5を引用していたところ、前記訂正事項3?5により請求項2?4が削除されたことに伴い、請求項1または5を引用するものとするもので、引用する請求項を減ずるものであるから、前記訂正事項8に係る本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、前記訂正事項6は、新規事項を追加するものではなく、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(7) 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであって、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正は認められるから,本件特許の請求項1?7に係る発明は,訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。以下、本件特許に係る発明を請求項の番号に従って「本件発明1」などといい、総称して「本件発明」という。

【請求項1】
製菓用または製パン用プロセスチーズ類であって、ピロリン酸塩を含む2種以上の溶融塩およびホエイタンパク質を使用して製造され、120℃、10分の加熱での耐熱保形性が50?90%であり、10℃以下で保存した時に、冷蔵保存後も耐熱保形性が50?90%である、加熱後に該チーズを目視できる切れ目を有する生地で内包されるための、前記製菓用または製パン用プロセスチーズ類。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
10℃以下で保存した時に、冷蔵保存後も耐熱保形性が50?90%であり、保存開始時の耐熱保形性と保存後の耐熱保形性の差が35%以内である、請求項1に記載のプロセスチーズ類。
【請求項6】
請求項1または5に記載のプロセスチーズ類を、該チーズを目視できる切れ目を有する生地で内包するパン。
【請求項7】
請求項1または5に記載のプロセスチーズ類を、該チーズを目視できる切れ目を有する生地で内包する菓子。

第4 取消理由についての判断
1 取消理由の概要
本件訂正前の本件特許に対し通知した取消理由は、概ね、次のとおりである。
(理由1)
本件発明1?7は、特許請求の範囲の記載が以下の理由により特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1ないし7についての特許は取り消すべきものである。
<本件発明1ないし7について>
本件発明の解決すべき課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「加熱溶融後に、高温保持もしくはエージングを必要とせず、適度な耐熱保形性を有し、かつ、冷蔵保存中における耐熱保形性の経時変化が少ない、プロセスチーズ類を提供するものである」(【0011】)。
そして、実施例を含めた発明の詳細な説明の記載によれば、本件発明の課題を解決するためには、原料チーズに溶融塩とともに、ホエイタンパク質を0.1%以上で4.0%未満添加する必要があり、溶融塩の合計量に対するピロリン酸塩の割合を20%以上で70%未満とすることが必要である。
<本件発明2について>
特許請求の範囲の請求項2の記載によれば、請求項2では、添加剤として「ピロリン酸塩、ならびにピロリン酸塩以外の溶融塩および/またはホエイタンパク質を使用して製造され」ることが記載されており、これは、次の(ア)ないし(ウ)の3つの場合に分けることができる。
(ア)ピロリン酸塩及びピロリン酸以外の溶融塩
(イ)ピロリン酸塩及びホエイタンパク質
(ウ)ピロリン酸塩、ピロリン酸塩以外の溶融塩及びホエイタンパク質
しかし、発明の詳細な説明を参酌すると、本件特許発明の課題を解決できることを具体的に確認できるのは、特定の添加割合で添加した(ウ)の場合に限られる。
したがって、本件発明2は、上記(ア)及び(イ)の場合を含むことから、本件特許の出願時の技術常識を考慮したとしても、特許請求の範囲の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。
したがって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(理由2)
本件発明1?7は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証?甲第8号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
甲第1号証:特公平2-9782号公報
甲第2号証:川崎功博、プロセスチーズの製造技術、New Food Industry、2008年、VOL.50、No.6、p.25-48
甲第3号証:巽清 他4名、プロセスチーズの機能性と物性に及ぼす溶融塩と加熱条件の影響、日本食品工業学会誌、1989年12月、第36巻、第12号、p.36-42
甲第4号証:特開2001-69911号公報
甲第5号証:特開2001-149008号公報
甲第6号証:特開昭52-7465号公報
甲第7号証:特開平3-58771号公報
甲第8号証:中道順子、はじめてのパン作り、株式会社グラフ社、1996年、p.22-23
2 判断
2-1 理由1(特許法36条6項1号)について
(1) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、本件特許発明の解決すべき課題は、「加熱溶融後に、高温保持もしくはエージングを必要とせず、適度な耐熱保形性を有し、かつ、冷蔵保存中における耐熱保形性の経時変化が少ない、プロセスチーズ類を提供するものである」(【0011】)というものである。
(2) 本件訂正により、本件発明1、5?7について、「ピロリン酸塩を含む2種以上の溶融塩およびホエイタンパク質を使用して製造され」、「120℃、10分の加熱での耐熱保形性が50?90%であり、10℃以下で保存した時に、冷蔵保存後も耐熱保形性が50?90%である」ことが特定された。
そうすると、本件発明1、5?7は、上記課題に対応する耐熱保形性の程度が具体的に特定されるとともに、当該耐熱保形性を付与するための手段も特定されたものといえる。
(3) 以上のとおりであるから、本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に課題を解決できるものとして記載されている範囲内のものと認められる。
(4) 特許異議申立人は、溶融塩の合計に対するピロリン酸塩の添加比率、原料チーズの合計量に対するホエイタンパク質の添加量の数値範囲を特定しないと発明の課題が解決できない旨主張する。
しかしながら、上記(2)のとおり、本件発明は、具体的な耐熱保形性の程度が特定されたものであり、当該耐熱保形性を付与できる程度に「ピロリン酸塩を含む2種以上の溶融塩およびホエイタンパク質」を必要量チーズに添加することは明らかであるから、上記特許異議申立人の主張は採用できない。
(5)よって、本件発明1、5?7についての特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

2-2 理由2(特許法29条2項)について
2-2-1 刊行物の記載事項
取消理由通知で通知した各甲号証には、以下の各事項が記載されている(下線は、当審で付与。)。
(1) 甲第1号証
「産業上の利用分野
本発明は、製菓・製パン用のフイリング材もしくはトツピング材として利用するのに適したチーズを主材とした加工食品の製造方法に関する。」(公報1ページ1欄14行ないし17行)
「発明が解決しようとする課題
本発明は、チーズを製菓・製パン用フイリング材として有効に利用するためになされたものであつて、加熱処理時に保形性が失われることがなく、かつ表面に被膜を形成せず、したがつて、膨張による飛散を伴なわない保水性の良好な、チーズを主材とする上記フイリング材を製造するための方法を提供することを課題とする。」(公報2ページ3欄6行ないし13行)
「ここでいう“製菓・製パン用フイリング材”とは、いわゆる中種を主な対象とするものであるが、この他の製菓用のトツピングとしての適用も包含するものである。」(公報2ページ3欄20行ないし23行)
「本発明ではナチユラルチーズに、上述のごとくしてα澱粉とアルブミンを添加、混合し、これに溶融塩を添加して加熱溶融するものであつて、ここで用いる溶融塩はプロセスチーズの製造に通常用いられるものであつて、ピロリン酸ナトリウムとメタリン酸ナトリウムの混合塩等を例示し得る。溶融塩の添加量は原料チーズ100重量部に対して2?3重量部が適当である。」(公報2ページ4欄4行ないし11行)
「叙上のとおり、本発明に従つて得られるチーズを主材とするフイリング材は、製菓・製パンに際し中種として充填し、加熱焼成した場合、保形性が良く、従来のように膨張破裂して飛散することも実質上極めて少なく、一方残量チーズの高さ(焼き上げ後のフイリング残量の高さ)も十分となる等の優れたフイリング材としての機能を示す。
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。
実施例
下記配合によりチーズを主材とする混合物を調製した。
ナチユラルチーズ 100(Kg)
α澱粉 20
卵白アルブミン 0.8
ソルビツト 15
カラギナン 0.5
ローガストビンガム 0.5
ビロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム?溶融塩 2.5
水 80
上記混合物をステアラン乳化釜に仕込んで温度が85?90℃に達するまで加熱溶融した後、冷却してチーズ様のフイリング材219.3gを得た。」(公報3ページ6欄29行ないし4ページ8欄1行)




以上の記載によれば、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「製菓・製パン用のチーズ様のフイリング材であり、ナチユラルチーズ、α澱粉、卵白アルブミン、ソルビツト、カラギナン、ローガストビンガム及びビロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウムを配合した混合物を調整し、混合物をステアラン乳化釜に仕込んで温度が85?90℃に達するまで加熱溶融した後、冷却して得られ、製菓・製パンに際し中種として充填し、加熱焼成した場合、保形性が良い製菓・製パン用のチーズ様のフイリング材。」
(2)甲第2号証
ピロリン酸、ポリリン酸等の各種溶融塩の中には、プロセスチーズの耐熱保形性や耐水性を付与できるものが市販されていること。(33ページ参照)
(3)甲第3号証
ピロリン酸ナトリウム等の溶融塩をチーズに添加すると、加熱溶融性が悪くなること。(38ページ参照)
(4)甲第4号証
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 αsカゼイン比率が5?50重量%であるタンパク質、溶融塩、乳化剤及び増粘性多糖類を含有し、加熱調理適性の良好なことを特徴とするプロセスチーズ。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、加熱調理適性の良好なチーズに関する。本発明のチーズは、加熱調理時に耐熱保形性を有し、加熱調理後も剥離性が良好であるという特徴を有する。」
「【0005】このような現状において、加熱調理時又は加熱調理後における剥離性の良好なチーズが求められているが、そのようなチーズは未だ提供されていない。そこで、本発明は、耐熱保形性を有し、加熱調理後も剥離性の良好な加熱調理適性を有するチーズを提供することを課題とする。
【0006】なお、本発明において、加熱調理適性とは、加熱調理時に耐熱保形性を有し、加熱調理後の剥離性が良好であり、加熱調理に適している性状をいう。本発明において、耐熱保形性とは、チーズを、オーブン、電子レンジ、ホットプレート等の加熱調理器具で調理した際に、溶解による形状の崩れがなく、加熱調理前の形状を実質的に維持している状態をいう。・・・」
「【0012】本発明において用いられる溶融塩、乳化剤及び増粘性多糖類の添加量は、所望とする加熱調理適性(耐熱保形性、剥離性)が得られるように設定される。
【0013】本発明において、加熱乳化を良好にする目的で添加する溶融塩としては、プロセスチーズやチーズフードの製造に通常使用されているものであればいずれのものも使用することができる。この溶融塩としては、例えば、モノリン酸ナトリウム、ジリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等を挙げることができ、これらの2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶融塩の添加率は、原料チーズに対して0.5?5重量%添加することが好ましく、0.5?3重量%添加することが特に好ましい。添加率が0.5重量%未満では、十分に乳化を行えないことがあり、また得られるプロセスチーズの組織が不均一で脆くなることがある。添加率が5重量%を超えると、得られるプロセスチーズの組織が脆くなり、風味も悪くなることがある。」
「【0018】
【実施例】実施例1
・・・加熱調理適性は、以下のとおり加熱調理時の耐熱保形性及び加熱調理後の剥離性を評価することにより行った。
加熱調理時の耐熱保形性の評価
加熱調理時の耐熱保形性の評価は、チーズを15×15×15mmの立方体に切り出し、アルミホイル上にのせ、オーブントースター(620W、東芝社製;熱源ヒーター上下とも使用)を用いて4分間加熱し、加熱直後のチーズの高さを測定し、これを耐熱保形性の指標とした。なお、加熱調理後のチーズの高さが10.5mm以上であるとき、耐熱保形性が良好であるとした。・・・」
以上の記載によれば、甲第4号証には、以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。
「ジリン酸ナトリウム等の溶融塩を2種類以上組み合わせた溶融塩を使用して製造された加熱調理時に耐熱保形性を有するプロセスチーズ。」
(5)甲第5号証
ナチュラルチーズにポリリン酸塩等の溶融塩を複数組み合わせたものを添加・混合して得られた、耐熱性を有する製菓・製パン用プロセスチーズ。(【0006】参照)
(6)甲第6号証
甲第6号証には、以下の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されている。
「ナチュラルチーズにピロリン酸塩を含む2種以上の溶融剤を添加・混合して製造されたプロセスチーズであって、180℃?200℃の油中で2分間、及び90?100℃の熱湯中で30分間の温度条件で溶けないプロセスチーズ。」(3ページ参照)
(7)甲第7号証
ホエー蛋白、溶融塩としてピロリン酸ソーダとクエン酸を使用して製造された耐熱性を有するプロセスチーズ。(2ページ参照)
(8)甲第8号証
プロセスチーズを外から目視できるよう切れ目をいれた生地中に充填した後に加熱焼成したパン。(22ページ参照)

2-2-2 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 甲1発明との対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、「製菓用または製パン用プロセスチーズ類であって、ピロリン酸塩を含む2種以上の溶融塩を使用して製造され、加熱後,保形性を有する、前記製菓用または製パン用プロセスチーズ類。」で一致し、少なくとも次の点で相違する。
本件発明1は、「製菓用または製パン用プロセスチーズ類」を「ピロリン酸塩を含む2種以上の溶融塩およびホエイタンパク質を使用して製造」するのに対して、甲1発明は、「製菓用または製パン用プロセスチーズ類」を「ピロリン酸塩を含む2種以上の溶融塩を使用して製造」するものの、さらに、ホエイタンパク質を使用するか不明な点(以下「相違点1」という。)。
本件発明1は、「120℃、10分の加熱での耐熱保形性が50?90%であり、10℃以下で保存した時に、冷蔵保存後も耐熱保形性が50?90%」の耐熱保形性であるのに対して、甲1発明は、加熱焼成した場合、保形性が良いとしているが、具体的な耐熱保形性が不明な点(以下「相違点2」という。)。
前記相違点1及び2について検討する。
本件発明1は、相違点1及び2に係る本件発明1の構成を採用することにより「本発明により、加熱溶融後の高温保持もしくはエージングを行わずに適度な耐熱保形性を有し、かつ、冷蔵保存中における耐熱保形性の経時変化が少ない、プロセスチーズ類を提供することができる。」(【0014】)という効果を奏するものである。
そして、甲第1号証?甲第8号証のいずれの文献にも、冷蔵保存中における耐熱保形性の経時変化が少ないことについて開示がないから、相違点1及び2の構成を採用することにより、上記効果を得ることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲第1号証?甲第8号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
イ 甲4発明との対比・判断
本件発明1と甲4発明とを対比すると、「プロセスチーズ類であって、ピロリン酸塩を含む2種以上の溶融塩を使用して製造され、加熱後、保形性を有する、プロセスチーズ類。」で一致し、少なくとも、次の点で相違する。
本件発明1は、「製菓用または製パン用プロセスチーズ類」を「ピロリン酸塩を含む2種以上の溶融塩およびホエイタンパク質を使用して製造」するのに対して、引用発明2は、「加熱調理時に耐熱保形性を有するプロセスチーズ」を「ジリン酸ナトリウム等の溶融塩を2種類以上組み合わせた溶融塩を使用して製造」するものの、さらに、ホエイタンパク質を使用するか不明な点(以下「相違点3」という。)。
本件発明1は、「120℃、10分の加熱での耐熱保形性が50?90%であり、10℃以下で保存した時に、冷蔵保存後も耐熱保形性が50?90%」の耐熱保形性であるのに対して、甲4発明は、そのような耐熱保形性であるか不明な点(以下「相違点4」という。)
前記相違点3及び4について検討する。
本件発明1は、相違点3及び4に係る本件発明1の構成を採用することにより「本発明により、加熱溶融後の高温保持もしくはエージングを行わずに適度な耐熱保形性を有し、かつ、冷蔵保存中における耐熱保形性の経時変化が少ない、プロセスチーズ類を提供することができる。」(【0014】)という効果を奏するものである。
そして、甲第1号証?甲第8号証のいずれの文献にも、冷蔵保存中における耐熱保形性の経時変化が少ないことについて開示がないから、相違点3及び4の構成を採用することにより、上記効果を得ることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲4発明及び甲第1号証?甲第8号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(2)本件発明5?7について
本件発明5?7は、本件発明1を特定するための事項を全て含むものであるところ、既に述べたとおり、本件発明1は、甲1発明または甲4発明及び甲第1号証?甲第8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明5?7は、同様の理由により、甲1発明または甲4発明及び甲第1号証?甲第8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5 本件特許の請求項2?4についての特許異議の申立てについて
前記第2のとおり、本件訂正が認められるので、本件特許の請求項2?4についての特許異議の申立ては、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
よって、本件特許の請求項2?4についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により、却下すべきものである。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(甲6発明に基づく進歩性)について
1 本件発明1について
本件発明1と甲6発明とを対比すると、両者は、「チーズ類であって、ピロリン酸塩を含む2種以上の溶融塩を使用して製造され、加熱後、保形性を有する、チーズ類。」で一致し、次の点で少なくとも相違する。
本件発明1は、「製菓用または製パン用プロセスチーズ類」を「ピロリン酸塩を含む2種以上の溶融塩およびホエイタンパク質を使用して製造」するのに対して、甲6発明は、「チーズ類」を「ピロリン酸塩を含む2種以上の溶融塩を使用して製造」するものの、さらに、ホエイタンパク質を使用するか不明な点(以下「相違点5」という。)。
本件発明1は、「120℃、10分の加熱での耐熱保形性が50?90%であり、10℃以下で保存した時に、冷蔵保存後も耐熱保形性が50?90%」の耐熱保形性であるのに対して、甲6発明は、そのような耐熱保形性であるか不明な点(以下「相違点6」という。)
前記相違点5及び6について検討する。
本件発明1は、相違点5及び6に係る本件発明1の構成を採用することにより「 本発明により、加熱溶融後の高温保持もしくはエージングを行わずに適度な耐熱保形性を有し、かつ、冷蔵保存中における耐熱保形性の経時変化が少ない、プロセスチーズ類を提供することができる。」(【0014】)という効果を奏するものである。
そして、甲第1号証?甲第8号証のいずれの文献にも、冷蔵保存中における耐熱保形性の経時変化が少ないことについて開示がないから、相違点5及び6の構成を採用することにより、上記効果を得ることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲6発明及び甲第1号証?甲第8号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

2 本件発明5?7について
本件発明5?7は、本件発明1を特定するための事項を全て含むものであるところ、既に述べたとおり、本件発明1は、甲6発明及び甲第1号証?甲第8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明5?7は、同様の理由により、甲6発明及び甲第1号証?甲第8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、本件の請求項1、5?7に係る特許は、特許法36条6項1号及び29条2項の規定に違反してされたものとは認められないから、前記取消理由及び特許異議申立ての理由により取り消すことはできない。
また,他に本件の請求項1、5?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項2?4についての特許異議の申立ては,特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製菓用または製パン用プロセスチーズ類であって、ピロリン酸塩を含む2種以上の溶融塩およびホエイタンパク質を使用して製造され、120℃、10分の加熱での耐熱保形性が50?90%であり、10℃以下で保存した時に、冷蔵保存後も耐熱保形性が50?90%である、加熱後に該チーズを目視できる切れ目を有する生地で内包されるための、前記製菓用または製パン用プロセスチーズ類。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
10℃以下で保存した時に、冷蔵保存後も耐熱保形性が50?90%であり、保存開始時の耐熱保形性と保存後の耐熱保形性の差が35%以内である、請求項1に記載のプロセスチーズ類。
【請求項6】
請求項1または5に記載のプロセスチーズ類を、該チーズを目視できる切れ目を有する生地で内包するパン。
【請求項7】
請求項1または5に記載のプロセスチーズ類を、該チーズを目視できる切れ目を有する生地で内包する菓子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-14 
出願番号 特願2015-133252(P2015-133252)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23C)
P 1 651・ 537- YAA (A23C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野村 英雄  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 佐々木 正章
莊司 英史
登録日 2017-02-17 
登録番号 特許第6092953号(P6092953)
権利者 株式会社明治
発明の名称 プロセスチーズ類  
代理人 葛和 清司  
代理人 矢後 知美  
代理人 矢後 知美  
代理人 葛和 清司  

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