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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01N
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01N
管理番号 1347658
異議申立番号 異議2018-700282  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-04 
確定日 2018-11-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6209169号発明「ポリマーを用いた殺生物剤の抗微生物活性の増強」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6209169号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?10、13?14〕について訂正することを認める。 特許第6209169号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯
特許第6209169号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?14に係る特許についての出願は、2013年2月19日(優先権主張外国庁受理 2012年2月20日 米国(US)、2012年2月20日 欧州特許庁(EP)、2012年3月16日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、平成29年9月15日にその特許権の設定登録がなされ、同年10月4日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許の全請求項について、平成30年4月4日に特許異議申立人 鈴木 愛子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、同年6月19日付けで取消理由が通知され、同年8月31日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人から同年10月15日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否
1 訂正の趣旨
特許権者は、本件特許の特許請求の範囲を、平成30年8月31日付けの訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10及び13?14について訂正(以下、「本件訂正」という。)することを求める。

2 訂正の内容
本件訂正の内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。

請求項1に「a)4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤、並びにb)ポリエチレンイミンを含む組成物」と記載されているのを「a)4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤、並びにb)ポリエチレンイミンを含む組成物(組成物の全質量を基準にして、(A)0.1?10%の抗菌性化合物、(B)0.01?10%の酸化防止剤を含み、さらに(C)シリコーン及び(D)カチオン性を有する水溶性高分子を含む、繊維製品の仕上げ剤組成物を除く)」に訂正する。
また、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2?10及び13?14も同様に訂正する。

3 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項ごとか否か
(1)訂正の目的の適否
請求項1についての訂正は、「a)4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤、並びにb)ポリエチレンイミンを含む組成物」について、「組成物の全質量を基準にして、(A)0.1?10%の抗菌性化合物、(B)0.01?10%の酸化防止剤を含み、さらに(C)シリコーン及び(D)カチオン性を有する水溶性高分子を含む、繊維製品の仕上げ剤組成物」を除くことで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正後の請求項2?10及び13?14は、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項2?10及び13?14についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲を減縮しようとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)新規事項の追加の有無
請求項1についての訂正は、「a)4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤、並びにb)ポリエチレンイミンを含む組成物」について、「組成物の全質量を基準にして、(A)0.1?10%の抗菌性化合物、(B)0.01?10%の酸化防止剤を含み、さらに(C)シリコーン及び(D)カチオン性を有する水溶性高分子を含む、繊維製品の仕上げ剤組成物」を除くものであって、当業者によって、本件特許明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正後の請求項2?10及び13?14は、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項2?10及び13?14についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1)のとおり、請求項1についての訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
また、訂正後の請求項2?10及び13?14は、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項2?10及び13?14についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(4)一群の請求項ごとか否か
本件訂正に係る訂正前の請求項1?10及び13?14は、請求項2?10及び13?14が訂正の請求の対象である請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、本件訂正の請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとにされたものである。

(5)申立人の主張について
申立人は、平成30年10月15日付け意見書の2?25頁において、本件訂正により追加された記載は、新規事項の追加にあたり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものではない旨主張する。
その理由は、本件訂正は、本件特許明細書中に本件発明1に含んでよいと明示されている一方、含まないことについては何ら開示されていない、酸化防止剤及びシリコーンを含む組成物を除くと特定しているというものである。
しかしながら、本件特許明細書中に、本件発明1の組成物が含み得る成分が例示されている一方、本件発明1の組成物がそれら含み得る成分を除くことについて記載されていないことは、「(組成物の全質量を基準にして、(A)0.1?10%の抗菌性化合物、(B)0.01?10%の酸化防止剤を含み、さらに(C)シリコーン及び(D)カチオン性を有する水溶性高分子を含む、繊維製品の仕上げ剤組成物を除く)」とする本件訂正が、新規事項の追加にあたることとは何ら関係がないことである。
そして、本件訂正により、本件特許明細書中に含み得ると例示されている成分のいくつかを除くと単に特定したことで、新たな技術的事項を導入したものということもできない。
よって、申立人の主張は採用できない。

4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項〔1?10、13?14〕についての訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたように、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
a)4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤、並びに
b)ポリエチレンイミン
を含む組成物(組成物の全質量を基準にして、(A)0.1?10%の抗菌性化合物、(B)0.01?10%の酸化防止剤を含み、さらに(C)シリコーン及び(D)カチオン性を有する水溶性高分子を含む、繊維製品の仕上げ剤組成物を除く)。
【請求項2】
ポリエチレンイミンが400g/molより高い分子量である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ポリエチレンイミンが、ポリカチオン性ポリエチレンイミンから選択される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
ポリカチオン性ポリエチレンイミンが、4から5のpHで測定された場合の範囲5meq/gから25meq/gの電荷密度を有する、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
1重量部の抗微生物剤(a)で、0.001重量部から1000重量部の構成成分(b)を含む、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
組成物の総重量に対して0.001重量%から5重量%の抗微生物剤(a)を含有する、請求項1から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリエチレンイミンが、ホモポリマー、又は1重量部のポリエチレンイミンで0.01重量部から100重量部のエチレンオキシドを用いてグラフトされているオリゴマー若しくはポリマーである、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記ポリエチレンイミンが分岐ポリエチレンイミンホモポリマーであり、その非電荷形態は、nが10から100000の範囲である経験式-(CH_(2)-CH_(2)-NH)_(n)-に一致する、又はそのグラフトされた変形体である、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
表面活性剤、屈水剤、抗微生物効果を改善し得るさらなる添加剤、並びに処方物中の抗微生物剤(a)及び/又はポリエチレンイミン(b)を安定化する薬剤からなる群から選択される、少なくとも1種のさらなる構成成分を含む、請求項1から8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
組成物の総重量に対して0.001重量%から80重量%の界面活性剤を含有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤の抗微生物活性を増強する方法であって、前記抗微生物剤と、ポリエチレンイミンと、場合により表面活性剤、屈水剤、抗微生物効果を改善し得るさらなる添加剤、並びに処方物中の抗微生物剤(a)及び/又はポリエチレンイミン(b)を安定化する薬剤からなる群から選択される、少なくとも1種のさらなる構成成分と、を組み合わせることを含む、方法。
【請求項12】
4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤の抗微生物活性を増強するための、ポリエチレンイミンの使用。
【請求項13】
ホームケア処方物の製造のため;又はパーソナルケア処方物の製造のための、請求項1から10のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項14】
ホームケア処方物として;又はパーソナルケア処方物としての、請求項1から10のいずれかに記載の組成物の使用。」

第4 取消理由の概要
1 申立人の取消理由の概要
申立人は、証拠方法として以下の甲第1?11号証を提示し、概略、次の取消理由1?3を主張する。なお、以下、甲第1号証などを単に「甲1」などという。また、甲5及び6は、本件特許の優先日より後に公知となった文献である。

(1)取消理由1
本件特許の請求項1?11、13、14に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された甲1に記載された発明であるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2項に該当し取り消されるべきものである。

(2)取消理由2
ア 本件特許の請求項1?11、13、14に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

イ 本件特許の請求項1?14に係る発明は、本件特許の優先日前に頒布された甲2又は甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)取消理由3
本件特許の請求項1?14に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、これら請求項に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(4)証拠方法
甲第1号証:特開2007-254902号公報
甲第2号証:米国特許第3033746号明細書(1962年5月8日)
甲第3号証:米国特許出願公開第2011/0171279号明細書
甲第4号証:Technical Information
「LUGALVAN○R(注:丸付きR文字を表す)
G15000」BASF(2000年5月)
甲第5号証:Safety Data Sheet
「LUGALVAN○R(注:丸付きR文字を表す)
G15000」BASF(2017年4月10日)
甲第6号証:Safety Data Sheet
「Polyethyleneimine,
branched,M.W.1800」
ThermoFisher SCIENTIFIC
(2018年1月8日)
甲第7号証:Materials Chemistry and
Physics,2009,Vol.116,
pp.198?206
甲第8号証:特開平11-189975号公報
甲第9号証:Journal of AOAC
International,1999,Vol.82,
No.2,pp.384?389
甲第10号証:特公昭50-22044号公報
甲第11号証:Technical Information
「Lupasol○R(注:丸付きR文字を表す)
types」BASF(2010年4月)

2 当審が通知した取消理由の概要
平成30年6月19日付けで当審が通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

本件特許の請求項1?3、5?7、9?10、13?14に係る発明は、本件特許の出願に係る優先日前日本国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

刊行物1:特開2007-254902号公報(甲1)

第5 当審の判断
当審は、本件発明1?14は、当審が通知した取消理由によっては取り消すことはできないと判断する。
また、申立人の取消理由によっても取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 当審が通知した取消理由について(甲1を主引例とする新規性)
(1)甲1に記載された事項(下線は当審が付与。以下同様)
(1a)「【請求項1】組成物の全質量を基準にして、A)抗菌性化合物を0.1?10%、及びB)酸化防止剤を0.01?10%含むことを特徴とする仕上げ剤組成物。
・・・
【請求項3】さらに(C)成分としてシリコーン、(D)成分としてカチオン性を有する水溶性高分子を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の仕上げ剤組成物。」

(1b)「【技術分野】
【0001】本発明は、洗濯時に用いる繊維製品等に対して防臭効果を付与する仕上げ剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】通常の洗濯では人体に由来する皮脂やタンパク質などの汚れが完全に除去されずに残ってしまう。
その状態の衣類を室内に干して乾燥させる場合、完全に乾燥するまでに時間がかかるため、干している間に菌が繁殖したり、落としきれなかった汚れが空気中の酸素などで変質したりすることで、衣類が不快なニオイを発生する問題がある。
・・・しかしながら、不快なニオイの発生原因はいまだ解明されておらず、菌の繁殖を抑制するだけでは不十分であった。
【0003】
・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】本発明は、衣類を室内で乾燥させた際に生じる生乾きのニオイを抑制することが可能である仕上げ剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】本発明は、抗菌性化合物と酸化防止剤を特定量含有する仕上げ剤で処理することにより上記課題を効率的に解決できるとの知見のもとになされたものである。
即ち、本発明は、(A)抗菌性化合物、(B)酸化防止剤を特定量含有することを特徴とする仕上げ剤組成物を提供する。
【発明の効果】
【0006】本発明によれば、衣類を室内で乾燥させた際に生じる生乾きのニオイを抑制することが可能である。」

(1c)「【発明を実施するための最良の形態】
【0007】本発明の(A)成分の抗菌性化合物は、木綿金巾#2003に該化合物1重量%を均一に付着させた布を用いJIS L 1902「繊維製品の抗菌性試験法」の方法で抗菌性試験を行い阻止帯が見られる化合物である。・・・
・・・
【0008】これらの中でも部屋干し時の生乾き臭を効果的に抑制する観点から、・・・トリクロサン類、・・・が好ましく、・・・。
トリクロサン類の具体例として、チバスペシャリティケミカルズ社製の商品名IRGACARE MP、TINOSAN HP100などで販売されているトリクロロヒドロキシジフェニルエーテル、ジクロロヒドロキシジフェニルエーテル、モノクロロヒドロキシジフェニルエーテルが例示できる。・・・
本発明の組成物中、(A)成分の配合量は、0.1?10質量%、好ましくは0.3?10質量%、特に好ましくは0.5?5質量%である。0.1質量%未満では防臭効果が不充分となる場合があり、10質量%を超えると効果が飽和に達するため不経済である。
【0009】本発明で用いる(B)成分は酸化防止剤である。・・・
・・・
本発明の組成物中、酸化防止剤の配合量は、0.01?10質量%の範囲で使用されることが好ましい。・・・この範囲にあると部屋干し時の生乾き臭を効果的に抑制することができる。」

(1d)「【0010】本発明の組成物は、さらに(C)成分として、シリコーン化合物を含有することができる。このシリコーン化合物は、繊維製品に吸着した時に、柔軟性、滑らかさを付与することが可能であれば特に限定されない。・・・
・・・
【0018】本発明の(D)成分は、(C)成分のシリコーン化合物を繊維へ吸着させる効果を有するものである。・・・
・・・カチオン化度がこのような条件を満たすことにより、共存するシリコーン化合物を繊維へ吸着させる効果を優秀なものとすることができ、かつ、多量の配合が必要となって経済的でないケースを防止することができる。
・・・
【0023】(D)成分の例としては、・・・LUGALVAN-G15000(B・A・S・F社製)等のポリエチレンイミン、・・・等が挙げられるが、水に溶解時にカチオン性を有する高分子化合物であればよく、本例に限定されるものではない。
・・・
【0029】・・・
(D)成分の配合量は特に限定されないが、繊維製品に剛性を付与しない範囲のものとするのが好ましく、・・・。(D)成分の配合量をこのような範囲のものとすることにより、シリコーンの吸着促進効果を高めて、柔軟性、滑らかさなどの効果を十分なものとすることが可能となり、かつ、粘度の上昇を抑えて使用性の面で良好なものとすることができる。
【0030】本発明の仕上げ剤組成物中において、(C)成分:(D)成分の質量比は、99:1?50:50の範囲内である。・・・このような範囲内の比とすることにより、ポリエステル、綿等の衣類に対し柔軟性、滑らかさ等の風合いの優れた機能が得られる。尚、(D)成分の割合がこの範囲内にあることにより、洗濯のすすぎ工程で本発明の仕上げ剤組成物を用いた場合にシリコーンの繊維への吸着性を良好なものとすることができる。・・・」

(1e)「【0039】本発明の仕上げ剤組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、通常の家庭用仕上げ剤に使用されている添加剤などを使用することができる。・・・」

(1f)「【実施例】
【0041】以下の表1に記載の(A)抗菌性化合物、表2に記載の(B)酸化防止剤、表3に記載の(C)シリコーン化合物及び表4に記載の(D)カチオン性を有する水溶性高分子、また、場合により表5に記載の共通成分を用いた。・・・
実施例1?4、比較例1?2に記載の組成物の調製方法
表1、2に記載の(A)成分と(B)成分を表7に記載の所定量を200mLビーカーにとり、表5に記載の共通成分1をいれ、スターラーを用いて攪拌し、均一溶液を100g調製した。
実施例5?10に記載の組成物の調製方法
(A)成分と(B)成分(C)成分、および表5に記載した共通成分を、表8に記載の所定量を500mLビーカーにとり、これを撹拌羽を用いて十分に撹拌した。次に、撹拌しながら、イオン交換水を添加し、さらに撹拌しながら、表4に記載の(D)カチオン性を有する水溶性高分子化合物を添加し撹拌後、均一になるまで十分に撹拌して、400gの仕上げ剤組成物を調製した。
・・・
【0043】実施例5?10、比較例3
家庭で半年間以上、着用と洗濯を繰り返した使用した肌シャツ(綿100%)を半裁し、市販衣料用洗剤・・・で5分洗浄し・・・表8に示す仕上げ剤組成物を水量30リットルに対して10g加えて、仕上げ処理(浴比30倍、25℃の水道水使用、3分)を行った。・・・」

(1g)「【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

・・・
【0051】
【表4】

【0052】
【表5】



(1h)「【0054】
【表7】

【0055】
【表8】



(2)甲1に記載された発明
ア 甲1は、上記(1a)の請求項1及び3のとおり、「A)抗菌性化合物、B)酸化防止剤、C)シリコーン、及びD)カチオン性を有する水溶性高分子を含む仕上げ剤組成物」に関する技術を開示するものであるところ、その仕上げ剤組成物の具体例を示した実施例6に関して次のとおり記載されている。

イ 上記(1h)の表8によれば、実施例6では、A成分としてA-1を1、B成分としてB-1を2、C成分としてC-2を10、D成分としてD-2を3、共通成分を3、イオン交換水をバランスで配合したことが示されている。

ウ ここで、甲1には、表8中の数字が表す意味について記載されていないが、上記(1f)の実施例5?10に記載の組成物の調製方法の説明に「表8に記載の所定量を・・・とり・・・400gの仕上げ剤組成物を調製した」ことが記載され、イオン交換水がバランスとして配合されていることからみて、A成分からD成分についての数字は配合量(g)を表していると解することができる。
一方で、共通成分については、上記(1f)には、「表5に記載の共通成分を用いた」とされ、実施例1?4、比較例1?2では「共通成分1をいれ」と記載されるとともに、実施例1?4、比較例1?2について示した表7(上記(1h))には、共通成分は「1」と記載されていることからみて、表8の共通成分についての数字は、上記(1g)の表5の共通1?共通4のいずれであるかを表していると解することができる。
そうすると、実施例6では、共通成分としては、表5の共通3として示される8種の成分を配合していると理解できる。そして、その8種の成分について表5に示された数値(配合量%)は、これらを合計しても100にはならないこと、例えば、最初の「ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテルEO.10モル」は「4」と示されているところ、これは非イオン性界面活性剤であることは技術常識であり、甲1には、非イオン性界面活性剤の配合量について、「非イオン性界面活性剤の配合量は、組成物の全質量をベースとして、0.1?20質量%とするのがよく、特に0.5?15質量%、更に1?10質量%が好ましい」(【0034】)と記載されており、上記「4」との数値が、組成物の全質量をベースとして好ましいとされている数値範囲に合致していることからみて、表5の配合量%の数値は、それぞれ、組成物の全質量をベースとした質量%と解される。

エ 以上のことから、甲1には、実施例6からみて、次の「甲1発明」が記載されているといえる。
なお、表2の「2,2-メチレンビス(4-エチル-6-tブチルフェノール」は、「2,2-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)」の誤記と認める。

<甲1発明>
「以下の組成からなる仕上げ剤組成物。
ダイクロサン(商品名:チノサンHP-100) 1g
2,2-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール) 2g
ポリエーテル変性シリコーン 10g
ポリエチレンイミン(商品名:LUGALVAN-G15000) 3g
ポリオキシエチレンイソトリデシルエーテルEO.10モル 4質量%
エタノール 2質量%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 2質量%
トリエチレングリコールモノベンジルエーテル 2質量%
シリコーン系エマルジョン型消泡剤 0.002質量%
C.I.Acid Red 225 0.0005質量%
2-ブロモ-2-ニトロ-1,3-プロパンジオール 0.01質量%
香料組成物B 0.5質量%
イオン交換水 合計で400gとなる量」

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「ダイクロサン(商品名:チノサンHP-100)」は、上記(1c)の「本発明の(A)成分の抗菌性化合物」についての説明中の「チバスペシャリティケミカルズ社製の商品名IRGACARE MP、TINOSAN HP100などで販売されているトリクロロヒドロキシジフェニルエーテル、ジクロロヒドロキシジフェニルエーテル」(【0008】)との記載や、本件特許明細書の「4,4’-ジクロロ2’-ヒドロキシジフェニルエーテル(ジクロサン、Tinosan(登録商標)HP100、活性成分)」(【0240】)との記載からみて、本件発明1の「a)4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤」に相当する。

(イ)甲1発明の「ポリエチレンイミン(商品名:LUGALVAN-G15000)」は、本件発明1の「ポリエチレンイミン」に相当する。

(ウ)甲1発明は、「ダイクロサン(商品名:チノサンHP-100)」及び「ポリエチレンイミン(商品名:LUGALVAN-G15000)」以外の成分を含むが、本件発明1は、a)及びb)を含む組成物であることから他の成分を配合することを許容するものであり、また、本件特許明細書には、他の成分を配合できることやその具体例が広く示されている。
したがって、甲1発明が「ダイクロサン(商品名:チノサンHP-100)」及び「ポリエチレンイミン(商品名:LUGALVAN-G15000)」以外の成分を含むことは、本件発明1との相違点とはならない。

(エ)以上のことから、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点及び相違点1を有する。

<一致点>
「a)4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤、並びに
b)ポリエチレンイミン
を含む組成物。」である点

<相違点1>
本件発明1では、「組成物の全質量を基準にして、(A)0.1?10%の抗菌性化合物、(B)0.01?10%の酸化防止剤を含み、さらに(C)シリコーン及び(D)カチオン性を有する水溶性高分子を含む、繊維製品の仕上げ剤組成物を除く」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定がされていない点

(オ)そこで、上記相違点1について検討する。
a 上記(1a)、(1c)及び(1d)にあるとおり、甲1発明のダイクロサン(商品名:チノサンHP-100)は抗菌性化合物であり、2,2-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)は酸化防止剤であり、ポリエーテル変性シリコーンはシリコーンであり、ポリエチレンイミン(商品名:LUGALVAN-G15000)は、カチオン性を有する水溶性高分子である。
そして、甲1発明は、合計で400gとなる量の仕上げ剤組成物に対し、抗菌性化合物であるダイクロサンを1g、酸化防止剤である2,2-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)を2g含むから、それぞれ0.25質量%(=1g/400g×100)及び0.5質量%(=2g/400g×100)含むといえる。
また、上記(1f)には、実施例6の仕上げ剤組成物は綿100%の肌シャツの仕上げ処理に用いたことが記載されているから、甲1発明は、繊維製品の仕上げ剤組成物に他ならない。
そうすると、甲1発明は、本件発明1で除くとされている繊維製品の仕上げ剤組成物に相当する。

b また、甲1には、上記(1a)の請求項1及び3の記載や上記(1c)の記載からみて、本件発明1で除くとされている(A)及び(B)の範囲以外の量で、(A)及び(B)に相当する抗菌性化合物や酸化防止剤を含む仕上げ剤組成物が記載されているということはできない。

c よって、上記相違点1は実質的な相違点といえ、本件発明1は、甲1に記載された発明ということはできない。

イ 本件発明2?3、5?7、9?10、13?14について
本件発明2?3、5?7、9?10は、本件発明1を直接又は間接的に引用して更に特定事項を有するものであるため、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明ということはできない。
また、本件発明13及び14は、本件発明1を引用してその使用方法を特定する発明であるところ、本件発明1が甲1に記載された発明ということができないのだから、その使用方法が甲1に記載されているということはできない。
したがって、本件発明13及び14は、甲1に記載された発明ということはできない。

(4)小活
以上のとおりであるから、本件発明1?3、5?7、9?10、13?14は、甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明ではなく、これら発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものではない。

2 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立人の取消理由1(甲1を主引例とする新規性)
申立人は、当審が通知した本件発明1?3、5?7、9?10、13?14の他に、本件発明4、8及び11についても甲1に記載された発明であると主張しているので、この点について検討する。

ア 本件発明4及び8について
本件発明4及び8は、本件発明1を直接又は間接的に引用して更に特定事項を有するものであり、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明ということはできない。

イ 本件発明11について
本件発明11は、4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤とポリエチレンイミンとを組み合わせることを含む、前記抗微生物剤の抗微生物活性を増強する方法に関する。
一方、甲1発明は、本件発明11の抗微生物剤に相当するダイクロサン(商品名:チノサンHP-100)とポリエチレンイミンに相当するポリエチレンイミン(商品名:LUGALVAN-G15000)とを含む仕上げ剤組成物に関する。
そして、甲1は、上記(1b)のとおり、洗濯時に用いて衣類の生乾きのニオイを抑制する仕上げ剤組成物の技術を開示するものであるところ、上記(1d)には、甲1発明の(D)成分であるポリエチレンイミン(商品名:LUGALVAN-G15000)は、繊維製品に柔軟性や滑らかさを付与するために配合される(C)成分であるシリコーン化合物を、繊維に吸着させるために配合されるものであることが記載されているが、(A)成分である抗菌性化合物との関係については、何ら記載されていない。
したがって、甲1には、ダイクロサン(商品名:チノサンHP-100)とポリエチレンイミン(商品名:LUGALVAN-G15000)とを組み合わせることを含む、ダイクロサン(商品名:チノサンHP-100)の抗微生物活性を増強する方法の発明が記載されているとはいえない。
よって、本件発明11は、甲1に記載された発明ではない。

ウ 小活
以上のとおりであるから、本件発明4、8、11は、甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明ではなく、これら発明の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものではない。

(2)申立人の取消理由2(甲1、甲2又は甲3を主引例とする進歩性)
ア 甲1を主引例とする進歩性について
申立人は、本件発明1?11、13?14は、甲1発明に基づき当業者が容易になし得たものである旨主張するので検討する。

(ア)本件発明1?10、13?14について
a 上記1(3)ア(エ)及び(オ)で述べたように、本件発明1と甲1発明とは次の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1では、「組成物の全質量を基準にして、(A)0.1?10%の抗菌性化合物、(B)0.01?10%の酸化防止剤を含み、さらに(C)シリコーン及び(D)カチオン性を有する水溶性高分子を含む、繊維製品の仕上げ剤組成物を除く」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定がされていない点
そこで、上記相違点1について検討する。

b 甲1は、洗濯時に用いて衣類の生乾きのニオイを抑制する仕上げ剤組成物の技術を開示するものであって(上記(1b))、少なくとも抗菌性化合物と酸化防止剤とを配合し、さらにシリコーンとカチオン性を有する水溶性高分子とを配合する仕上げ剤組成物に関する(上記(1a))。
そして、抗菌性化合物は防臭効果のために用いるものであり、酸化防止剤も防臭効果に着目して配合されているものといえる(上記(1c))。また、シリコーン化合物は繊維製品に柔軟性、滑らかさを付与するためのものであり、カチオン性を有する水溶性高分子は、前記シリコーン化合物を繊維へ吸着させるために配合するものである(上記(1d))。
そうすると、甲1発明について、甲1に開示された技術的事項から離れて、(C)成分であるシリコーンの繊維製品への吸着を目的として配合される(D)成分であるカチオン性を有する水溶性高分子を、シリコーンを配合することなく配合するなどの変更を行う理由がない。
また、組成物に対する(A)成分である抗菌性化合物及び(B)成分である酸化防止剤の配合量は、防臭効果を考慮して、それぞれ0.1?10質量%及び0.01?10質量%が好ましい範囲とされているところ(上記(1c))、これらの配合量を、好ましいとされる量とは異なる量に変更する理由もない。
したがって、当業者であったとしても、上記相違点1である「組成物の全質量を基準にして、(A)0.1?10%の抗菌性化合物、(B)0.01?10%の酸化防止剤を含み、さらに(C)シリコーン及び(D)カチオン性を有する水溶性高分子を含む、繊維製品の仕上げ剤組成物」とは異なる組成物とするようにその範囲などを代える動機付けがあるとはいえない。
また他に、甲1発明について、ダイクロサン(商品名:チノサンHP-100)及びポリエチレンイミン(商品名:LUGALVAN-G15000)の配合を維持しつつ、本件発明1で除くとされる繊維製品の仕上げ剤組成物とは異なる成分や量の組合せに変更する動機も見あたらない。同様に、それを使用する方法とする理由もない。

c よって、本件発明1?10、13?14は、甲1発明に基づき当業者が容易になし得たものということはできない。

(イ)本件発明11について
上記(1)イのとおり、甲1には、ダイクロサン(商品名:チノサンHP-100)とポリエチレンイミン(商品名:LUGALVAN-G15000)とを組み合わせることで、ダイクロサン(商品名:チノサンHP-100)の抗微生物活性を増強することについては記載されていない。
そして、他に、これらを組み合わせることで抗微生物活性を増強することを動機付ける技術常識も見あたらない。
よって、本件発明11は、甲1に記載された発明に基づき当業者が容易になし得たものということはできない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は、平成30年10月15日付け意見書の26?27頁において、本件発明1は組成物の用途が特定されていないから、様々な用途の組成物を含むところ、甲1には、仕上げ剤組成物について、「洗濯時に用いる繊維製品等に対して防臭効果を付与する仕上げ剤組成物に関する」とあるから、甲1発明を「繊維製品の仕上げ剤」以外の用途に適用することは、当業者が容易に想到し得る旨主張する。
そこで検討するに、甲1には、上記(1b)のとおり、【技術分野】に「繊維製品等」との記載はあるものの、【背景技術】や【発明が解決しようとする課題】、【発明の効果】などからすると、衣類を洗濯して乾かすときに生じるニオイを抑制することに着目したものであることが理解されるだけであり、他の記載をみても、「通常の家庭用仕上げ剤に使用されている添加剤などを使用することができる」(上記(1e))とあるだけで、申立人が、「繊維製品等」で主張している仕上げ剤組成物を用いることのできる「繊維製品」以外の具体的な用途は何も例示されていない。
そうすると、甲1には、繊維製品以外に用いることは具体的に開示されておらず、また、技術常識を考慮しても他に明らかな用途はないから、繊維製品以外に用いることの動機付けがあるともいえない。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(エ)小活
以上のとおりであるから、本件発明1?11、13?14は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 甲2を主引例とする進歩性について
申立人は、本件発明1?14は、甲2を主引例として、甲1又は甲8に記載の周知の事項に基づき当業者が容易になし得たものである旨主張するので検討する。

(ア)甲2に記載された発明
甲2の請求項3及び実施例1及び2の記載からみて、甲2には、次の「甲2発明」が記載されているといえる。

「(1)クロロフェノール化合物である抗微生物剤と、(2)25℃で、25重量%水溶液で、約3?約720センチポアズの粘度を有するポリエチレンイミンとを含む組成物であって、前記クロロフェノール化合物が、構造:

[式中、Rは、水素、メチル、フェニル、塩素及び臭素からなる群から選択され、nは、1?4の整数である]
を有する(a)クロロフェノール、及び(b)前記ハロフェノールの水溶性塩からなる群から選択され、前記クロロフェノール対ポリエチレンイミンの比が約20:1?約1:4である、組成物。」

(イ)対比・判断
a 本件発明1について
(a)本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「クロロフェノール化合物である抗微生物剤」は、本件発明1の「4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤」と、抗微生物剤である点で共通する。
また、甲2発明には、本件発明1で除くとされる組成物が含まれないことは明らかである。
したがって、両発明は次の一致点及び相違点2を有する。

<一致点>
「a)抗微生物剤、並びに
b)ポリエチレンイミン
を含む組成物(組成物の全質量を基準にして、(A)0.1?10%の抗菌性化合物、(B)0.01?10%の酸化防止剤を含み、さらに(C)シリコーン及び(D)カチオン性を有する水溶性高分子を含む、繊維製品の仕上げ剤組成物を除く)。」である点

<相違点2>
抗微生物剤が、本件発明1では、「4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテル」であるのに対し、甲2発明では、「クロロフェノール化合物」であって「構造:

[式中、Rは、水素、メチル、フェニル、塩素及び臭素からなる群から選択され、nは、1?4の整数である]
を有する(a)クロロフェノール、及び(b)前記ハロフェノールの水溶性塩からなる群から選択される」ものである点

(b)そこで、上記相違点2について検討する。
i 甲2発明の抗微生物剤は、特定の構造を有するクロロフェノール化合物であるところ、その構造の選択肢に、本件発明1のジフェニルエーテル骨格を有する化合物はない。すなわち、式中のRの選択肢は、水素、メチル、フェニル、塩素又は臭素であって、フェニルエーテルはない。
そして、甲2には、本件発明1の抗微生物剤に該当する化合物ついては記載も示唆もない。

ii ところで、本件発明1の抗微生物剤は、クロロフェノール誘導体ということができる。そして、本件発明1の抗微生物剤は、上記1(3)ア(ア)のとおり、甲1の実施例6に記載されており、また、甲8の請求項6や、実施例14、15にも記載されており、抗微生物剤として周知の化合物であるといえる(下記v参照)。
しかしながら、甲2は、本件発明1のクロロフェノール誘導体とは異なる特定の構造を有するクロロフェノール化合物に関するものである。そして、この特定の構造を有するクロロフェノール化合物とポリアルキレンイミンとを組み合わせることで、厳しい湿度及び温度条件下で実質的に完全な保護を与えるという課題を解決して、いずれかの成分のみを使用する場合に必要とされる濃度よりも低い濃度で微生物の増殖を防止するという効果を発揮する発明が記載されているものであり(下記iv参照)、甲2に例示されないクロロフェノール誘導体を用いたとしても、同等の作用効果を奏するという技術常識もない。
したがって、周知の抗微生物剤であっても、敢えて甲2に開示されたクロロフェノール化合物とは異なる構造の抗微生物剤を採用する理由がない。

iii しかも、甲2は、実施例1の記載から、専ら塗料に用いる抗菌組成物である(下記iv参照)。それに対し、甲1及び甲8はいずれも繊維製品に用いる抗菌組成物に関するものであり(上記1(1)(1b)及び下記v参照)、専ら塗料に用いる抗菌組成物に用いる抗微生物剤として、異なる用途に用いる甲1及び甲8の抗微生物剤の中から、本件発明1の抗微生物剤に着目して、これを採用するに足りる動機もない。

iv 甲2の記載事項。なお、記載は申立人の抄訳による。
・「新規の、有効な抗菌組成物は、(1)ハロフェノール化合物と(2)ポリアルキレンイミンとの組み合わせによって構成され得ることが発見された。この組成物は、抗菌用途に使用される場合、いずれかの成分のみを使用する場合に必要とされる濃度よりもかなり低い濃度で微生物の増殖を防止する。この試薬の組み合わせは、多くの組成物に必要なハロフェノールまたはその塩の量を実質的に減少させるという観点から特に価値がある。さらに、ハロフェノールの各重量部に対して1/20重量部の少量のポリアルキレンイミンを配合することにより、ハロフェノール化合物単独の2?3倍を使用することによってのみ得られる保護作用を与える改善された組成物を提供する。さらに、この組成物の抗菌活性は、多量に使用した場合でさえ、いずれかの成分単独の場合よりも、より厳しい条件下においても、より持続的である。したがって、本発明の組成物は、厳しい湿度および温度条件下で実質的に完全な保護を与える。同1条件下では、ハロフェノール化合物は、保護を与えないか、またはコーティング組成物の特性に影響を及ぼすほどの高濃度を必要とする。単独で使用した場合のポリアルキレンイミンは、これらの厳しい条件下で保護を与えなかった。本発明による新規な組成物は、処置される系に望ましくない特性を実質的に与えない。」(2欄33行-61行)
・「実施例1
従来の方法で油、ワニスおよび顔料を緊密に混合し、得られたペーストに、ドライヤー、溶媒および水を添加することによって、以下に示す組成を有する油性塗料を製造した。
・・・
上記組成物およびハロフェノール対ポリエチレンイミンの比が異なる他の類似の組成物を調製した。これらの組成物を、上記の油性ペイント組成物に添加し、密接に混合して、改質ペイント組成物を製造した。組成物はそれぞれ、1重量%の濃度でハロフェノールを提供するのに十分な量の相違する抗菌組成物を含む。本実施例および後続の実施例において、重量は塗料組成物の総重量に基づく。」(4欄73行?5欄41行)

v 甲8の記載事項
・「【請求項1】繊維、繊維織物、反物などの繊維材料に抗菌剤を入れる方法において、・・・該繊維材料を処理することを特徴とする方法。
・・・
【請求項6】抗菌剤(a)が下記式:(4)(式略)の化合物である請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。」
「【0077】実施例14
4、4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテル10gを・・・溶解した。・・・
【0078】実施例15
・・・処理後のナイロン66繊維材料は4、4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテル0.5%を含有していた。」

(c)よって、本件発明1は、甲2に記載された発明及び周知の事項に基づき当業者が容易になし得たものということはできない。

b 本件発明2?10、13?14について
本件発明2?10は、本件発明1を直接又は間接的に引用して更に特定事項を有するものであるため、本件発明1と同様に、甲2に記載された発明及び周知の事項に基づき当業者が容易になし得たものということはできない。
また、本件発明13及び14は、本件発明1を引用してその使用方法を特定する発明であるところ、本件発明1が甲2に記載された発明及び周知の事項に基づき当業者が容易になし得たものということはできないのだから、その使用方法も容易になし得たものということはできない。

c 本件発明11、12について
本件発明11は、4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤とポリエチレンイミンとを組み合わせることを含む、前記抗微生物剤の抗微生物活性を増強する方法に関し、本件発明12は、4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤の抗微生物活性を増強するための、ポリエチレンイミンの使用に関する。
そこで検討するに、甲2には、次の通りの記載がある(記載は申立人の抄訳による)。
「ハロフェノールの各重量部に対して1/20重量部の少量のポリアルキレンイミンを配合することにより、ハロフェノール化合物単独の2?3倍を使用することによってのみ得られる保護作用を与える改善された組成物を提供する。」
すなわち、甲2には、特定の構造を有するクロロフェノール化合物について、ポリエチレンイミンと併用することで、低い濃度で抗微生物活性を有することが示されているといえる。
しかしながら、甲2に示された結果は、本件発明1のクロロフェノール誘導体とは異なる特定の構造を有するクロロフェノール化合物との組合せについてのものであるところ、上記aで検討したとおり、甲2発明において、本件発明1の抗微生物剤を採用するに足りる動機は見あたらない。
また、甲1又は甲8から本件発明1の抗微生物剤が周知の抗微生物剤であるといえるとしても、ポリエチレンイミンと組合せた場合に、甲2に示される特定の構造を有するクロロフェノールと同様の結果をもたらすことが周知の事項とはいえない。
したがって、甲2に、ポリエチレンイミンと組合せた場合に低い濃度で抗微生物活性を奏する抗微生物剤が示されているからといって、それとは異なる構造の甲1や甲8に記載されている抗微生物剤をポリエチレンイミンと組み合わせることで、本件発明11や12に記載の抗微生物活性を増強することに関連する発明とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(ウ)小活
以上のとおりであるから、本件発明1?14は、甲2に記載された発明及び周知の事項に基づき当業者が容易になし得たものということはできない。

ウ 甲3を主引例とする進歩性について
申立人は、本件発明1?14は、甲3を主引例として、甲1又は甲8に記載の周知の事項に基づき当業者が容易になし得たものである旨主張するので検討する。

(ア)甲3に記載された発明
甲3の請求項1及び2の記載からみて、甲3には、次の「甲3発明」が記載されているといえる。

「式I:

[式中、各R_(1)は、独立して、水素、式(II):

(式中、X_(1)、X_(2)、X_(3)は独立して水素又はハロゲン又は塩素であり、R_(2)はOH、NHOH、NH_(2)又はC_(1)-C_(4)アルキルアルコールである)であり、
n=5-50,000であり、少なくとも1つのR_(1)は、式(II)である]
の高分子殺生物剤。」

(イ)対比・判断
a 本件発明1について
(a)本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「式(I):・・・の高分子殺生物剤」は、ポリエチレンイミンに式(II)が結合したものであるから、ポリエチレンイミンの誘導体ということができ、本件発明1の「ポリエチレンイミン」と、ポリエチレンイミン誘導体である点で共通する。
また、甲3発明には、本件発明1で除くとされる組成物が含まれないことは明らかである。
そうすると、両発明は次の一致点及び相違点を有するといえる。

<一致点>
「b)ポリエチレンイミン誘導体
を含む組成物(組成物の全質量を基準にして、(A)0.1?10%の抗菌性化合物、(B)0.01?10%の酸化防止剤を含み、さらに(C)シリコーン及び(D)カチオン性を有する水溶性高分子を含む、繊維製品の仕上げ剤組成物を除く)。」である点

<相違点3>
本件発明1では、さらに「a)4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤」を含むのに対し、甲3発明は含まない点

(b)そこで、上記相違点3について検討する。
i 甲3には、甲3発明の高分子殺生物剤は、追加の殺生物剤を含む組成物に組み込むことができることが記載されているが([0013]参照)、追加の殺生物剤として例示されているものの中に、本件発明1の抗微生物剤は例示されていない。
そして、上記イ(イ)a(b)iiに示したとおり、本件発明1の抗微生物剤は、抗微生物剤として周知の化合物であるといえるが、甲3発明の高分子殺生物剤を組み込むことができる追加の殺生物剤を含む組成物として、甲3に例示もされていない本件発明1の抗微生物剤を敢えて採用する理由はない。

ii また、甲3は、高分子殺生物剤であって、化粧品などの消費者製品に組み込むのに適していることや([0012]参照)、コーティング組成物を調製することが可能であることが示されているのに対し([0014]参照)、上記イ(イ)a(b)iiiと同様、異なる用途に用いる甲1及び甲8の抗微生物剤の中から、本件発明1の抗微生物剤に着目して、これを採用するに足りる動機もない。

(c)よって、本件発明1は、甲3に記載された発明及び周知の事項に基づき当業者が容易になし得たものということはできない。

b 本件発明2?10、13?14について
本件発明2?10は、本件発明1を直接又は間接的に引用して更に特定事項を有するものであるため、本件発明1と同様に、甲3に記載された発明及び周知の事項に基づき当業者が容易になし得たものということはできない。
また、本件発明13及び14は、本件発明1を引用してその使用方法を特定する発明であるところ、本件発明1が甲3に記載された発明及び周知の事項に基づき当業者が容易になし得たものということはできないのだから、その使用方法も容易になし得たものということはできない。

c 本件発明11、12について
本件発明11は、4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤とポリエチレンイミンとを組み合わせることを含む、前記抗微生物剤の抗微生物活性を増強する方法に関し、本件発明12は、4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤の抗微生物活性を増強するための、ポリエチレンイミンの使用に関する。
それに対し、甲3には、式(II)で示されるジフェニルエーテル構造を有する部分とポリエチレンイミン構造を有する部分とが結合した構造の式Iで示される高分子殺生物剤とすることについて、両者を(結合することも含めて)組み合わせることにより、抗微生物活性を増強することについて明記したところはない。
しかも、式(II)におけるX_(1)?X_(3)のうち、X_(1)とX_(3)が塩素でX_(2)が水素である構造(本件発明1の抗微生物剤の構造に相当)の場合に、ポリエチレンイミンと組み合わせることによって、抗微生物活性を増強することが予測し得る記載もない。
よって、本件発明11、12は、甲3に記載された発明に基づき当業者が容易になし得たものということはできない。

(ウ)申立人の主張について
a 申立人は、異議申立書50?52頁において、次のように主張する。
(a)「甲第3号証(以下『甲3』ともいう。)の請求項1および2、ならびに実施例1から3(例えば、過剰量のポリエチレンイミン(PEI)と、エポシキ化トリクロサンとを反応させて得られる配合物1には、ポリエチレンイミンにトリクロサンを付加させた生成物、およびポリエチレンイミンが含まれる)などの記載から、甲3には以下の発明(以下『甲3A発明』ともいう。)が記載されていると認める。
『ポリエチレンイミンに抗微生物剤であるクロロフェノールを付加させた生成物、およびポリエチレンイミン
を含む組成物。』
また、甲3の請求項1および2、ならびに実施例1から3などの記載によれば、クロロフェノールである抗微生物剤の抗微生物活性を増強させるために、ポリエチレンイミンに、抗微生物剤であるクロロフェノールを付加させているから、甲3には以下の発明(以下『甲3B発明』ともいう。)が記載されていると認める。
『クロロフェノールである抗微生物剤の抗微生物活性を増強する方法であって、ポリエチレンイミンに、抗微生物剤であるクロロフェノールを付加させることを含む、方法。』

(b)甲3の表2(記載の転記は省略する)に、式Iで示される高分子殺生物剤の他に、その原料であるポリエチレンイミン(PEI423、PEI600、又はPEI10,000)及びトリクロサン(TCS:審決注:式(II)のX_(1)?X_(3)の全てが塩素であり、R_(2)と結合する部分とのエーテル結合が水酸基である化合物)が、いずれもそれ単独でも抗微生物活性を有することが示されており、同種の効果を有する化合物を、その効果が高まることを予測して組み合わせて、その効果を確認することは通常行われていることであるから、原料であるクロロフェノール誘導体(トリクロサンや本件発明1の抗微生物剤)とを単に配合してその効果を確認することは、当業者が容易に想到し得ることである。

b そこで、申立人の上記主張について検討する。
(a)については、甲3には、配合物1などについて、式Iの高分子殺生物剤に加えてポリエチレンイミンも含有しているとは記載されておらず、また、抗微生物活性を増強させるために結合させているとも記載されていない。
したがって、申立人の主張する甲3に記載された発明の認定は、証拠の記載に裏付けのない独自の解釈に基づくものであって採用できない。

(b)については、甲3の表2に原料単独でも抗微生物活性を有することが示されているからといって、これらを結合した高分子殺生物剤を開示する甲3から、甲3発明について、式(II)で示されるジフェニルエーテル構造を有する部分とポリエチレンイミン構造を有する部分とを結合することなく、両者を別々に配合する組成物とすることが強く動機付けられるということはできない。
しかも、甲3発明の式(II)のX_(1)?X_(3)は、独立して水素又はハロゲン又は塩素であると特定されるに留まり、甲3全体の記載からみて、具体的に例示されているのは、X_(1)?X_(3)の全てが塩素であるもの(すなわち、トリクロサン)だけである。このように、甲3には、本件発明1のa)成分である抗微生物剤は具体的に明記されていないところ、本件発明1の抗微生物剤は甲3発明の式(II)におけるX_(1)?X_(3)のうち、X_(1)とX_(3)が塩素でX_(2)が水素である構造に該当し、周知の抗微生物剤ということができるが、そのことは、甲3発明において、式Iの高分子殺生物剤について、式(II)をX_(1)とX_(3)が塩素でX_(2)が水素であるものに特定し、かつ、ポリエチレンイミン構造を有する部分と結合することなく両者を含む組成物とする理由にはならない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(エ)小活
以上のとおりであるから、本件発明1?14は、甲3に記載された発明及び周知の事項に基づき当業者が容易になし得たものということはできない。

ウ まとめ
よって、本件発明1?14は、本件特許の優先日前に頒布された甲1、甲2又は甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。
したがって、本件発明1?14に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものとはいえない。

(3)申立人の取消理由3(サポート要件)
申立人は、本件発明1?14は、いわゆるサポート要件を満たしていないと主張するので検討する。

ア 本件特許明細書の記載
(本a)「【技術分野】
【0001】本発明は、ポリアミンとの組合せで殺生物剤(biocide)を含む抗微生物組成物、殺生物剤の抗微生物活性を増強するための方法、及び抗微生物剤のためのブースターとしてのこうしたアミノポリマーの対応する使用に関する。
【背景技術】
【0002】第四級アンモニウム基を含有する特定のポリマーの抗微生物効果は、とりわけWO06/117382、WO97/32477に記載されている。US-2011-171,279は、ポリエチレンイミン主鎖に化学的に結合されたトリクロサンの抗微生物活性を記載している。
【0003】ここで、一般的な殺生物剤の抗微生物作用は、ポリアミンの添加によって大きく増強され得ることが見出された。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】したがって、本発明は、一般に、
a)抗微生物剤、及び
b)ポリアミン、特にはポリエチレンイミン(PEI)
を含む組成物に関する。」

(本b)「【0016】本発明の重要な実施形態は、
b)少なくとも1種のエチレンイミンホモポリマー(ポリエチレンイミンbとしても記載される)
を含む組成物に関する。
【0017】一実施形態において、ポリエチレンイミンb)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって検出可能な場合の範囲500g/molから1000000g/mol、特には600g/molから75000g/mol、より特には800g/molから25000g/molの平均分子量M_(w)を有する。
【0018】高分岐ポリエチレンイミンb)は、それらの分岐度(DB)を特徴とする。DBは、例えば^(13)C-NMR分光分析法によって、好ましくはD_(2)O中において決定することができる。DBは以下の通りに定義され:
DB=D+T/D+T+L
式中、Dは第三級アミノ基の画分を表し、L(直鎖状)は第二級アミノ基の画分を表し、T(末端)は第一級アミノ基の画分を表す。
【0019】本構成成分(b)として好ましいような高分岐ポリエチレンイミンは、DBが0.1から0.95、好ましくは0.25から0.90、より好ましくは0.30から0.80の範囲であり、最も好ましくは0.5以上、例えば0.5?0.8であるようなポリエチレンイミンである。
【0020】最も好ましいのは、nがおよそ10から100000、最も特には10からおよそ15000の範囲である(経験)式-(CH_(2)-CH_(2)-NH)_(n)-と非電荷形態において一致するPEI、及びそのグラフトされた変形体であり、したがって末端基は、優勢にアミノ及び/又はグラフト化剤の部分である。グラフト化は、特にはエトキシ化によって達成される。PEI主鎖は通常分岐されており、即ち、上記式における特定のN-水素原子は、CH_(2)-CH_(2)-NH_(2)によって又はさらなるポリエチレンイミン鎖によって置き換えられ、これは再び分岐することができ、したがって上記の経験式を非電荷の状態にする。PEIは、通常の適用条件下で、例えばpH4?9又はpH5?8など中性に近いpHの水との接触で、ポリカチオン性ポリマー又はオリゴマーとして電荷形態で通常存在する。例は以下の種である。
【0021】(I)pH4.5で決定される約分子量800(GPC)及び乾燥物質の電荷密度16meq/g、並びに第一級/二2級/第三級アミノ比(^(13)C-NMRによって決定される場合)=1/0.9/0.5の分岐ポリエチレンイミン(Lupasol(登録商標)FGとして市販されている生成物)。
【0022】(II)約分子量2000の分岐ポリエチレンイミン(GPC;後文でPEI(II)と称される)。
【0023】(III)pH4.5で決定される約分子量25000(GPC)、乾燥物質の電荷密度17meq/g、及び第一級/第二級/第三級アミノ比(^(13)C-NMRによって決定される場合)=1/1.1/0.7の分岐ポリエチレンイミン(Lupasol(登録商標)WFとして市販されている生成物)。
【0024】(IV)分子量600?800(GPC)の分岐ポリエチレンイミンコア5重量部及び式-CH_(2)-CH_(2)-O-の部分95重量部を含むエトキシ化ポリエチレンイミン;後文でPEI(IV)と称される。」

(本c)「【0025】抗微生物剤(本構成成分a)は所与の定義内であり、例えば、以下を含めた公知の殺生物剤から選択される
・・・4,4’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテル(ジクロサン);・・・。」

(本d)「【0040】本組成物は、1重量部の殺生物剤(構成成分a)で、好ましくは、0.001重量部から1000重量部、特には0.001重量部から10重量部の構成成分(b)を含む。
【0041】本発明はさらに、組成物の総重量に対して0.001重量%から5重量%の殺生物剤(構成成分a)を含有する殺生物組成物に関する。」

(本e)「【0042】本発明において見出される効果を要約し、以下を注記する。
・・・
【0045】3.・・・低い濃度のPEI及びそれ自体では抗微生物効果又は保存活性効果又は微生物体付着阻害効果を示さないPEIの組合せは、殺生物剤の抗微生物効力を増加させることができる。
【0046】4.驚くべきことに、特には、上に記載されている通りのPEI(・・・)、及びこれらのPEIの組合せは、抗微生物活性若しくは保存活性を通常示さないか又は非常に弱い抗微生物活性しか示さないPEIの濃度で、殺生物剤の抗微生物効力を増加させる。
【0047】5.上に記載されている通りのPEI(・・・)は、特には、以下の殺生物剤:・・・Tinosan HP100・・・の活性を増加させることができる。
・・・
【0063】21.本発明によると、1から5の下に記載されている通りの組合せは、相乗的混合物を含む抗微生物組成物であり、この第1構成成分は上に記載されている通りのPEIであり(・・・)、この第2構成成分は上に記載されている通りの市販の殺生物剤、特には、・・・Tinosan HP100・・・のようなフェノール部分を含有するクラスから選択され、ここで、第1構成成分対第2構成成分の比は1/0.001から1/1000であり、組成物は、存在する殺生物剤を0.001%から最大5%まで有する。」

(本f)「【0240】上記処方物(I)から(XXIV)の各々中に使用される殺生物剤は、・・・4,4’-ジクロロ2’-ヒドロキシジフェニルエーテル(ジクロサン、Tinosan(登録商標)HP100、活性成分)」

(本g)「【実施例】
【0241】以下の例は本発明を例示する。注記されている場合は常に、室温(r.t.)は22?25℃範囲の温度を示し、終夜は12時間から15時間の期間を意味し、百分率は、別段に指し示されていなければ、重量によって与えられる。
【0242】略語:
HPLC 高圧液体クロマトグラフィー
Mw 分子量(通常、GPCによって検出された通り)
GPC ゲル浸透クロマトグラフィー
DSC 示差走査熱量測定
NMR 核磁気共鳴
a.i. 活性成分
[実施例1]
ポリエチレンイミンとの組合せにおける殺生物剤の相乗的効力(常用対数(log redn.)として表した生細胞の数の低減)を実証する微生物学的データは、以下の表に要約されている。灰色影付における系統は、対照試料を指し示す(PEI又は殺生物剤は添加されていない):
・・・
【表31】

【0243】
非依存性研究(対照)は、1000ppm(活性成分)Lupasol(登録商標)FGは単独で、S.aureus ATCC6538に対して、5分の接触時間で殺細菌活性を有しない(<1対数低減)ことを示す。」

イ 本件発明の課題について
本件発明の課題は、上記(本a)及び本件特許明細書全体の記載からみて、ポリエチレンイミンとの組合せで4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤の抗微生物作用が増強された組成物、ポリエチレンイミンとの組合せで4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤の抗微生物活性を増強する方法、4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤の抗微生物活性を増強するためのポリエチレンイミンの使用方法、及び前記組成物のホームケア処方物の製造のための又はホームケア処方物としての使用方法を提供することと認める。

ウ 判断
上記本件発明の課題の抗微生物作用が増強されることについて検討すると、発明の詳細な説明の上記(本e)には、単独では抗微生物効果を示さない低い濃度のポリエチレンイミンとの組合せで、抗微生物剤の効果を増加できることが記載されている。
そして、上記(本g)の実施例1の【表31】(表3)及び【0243】には、活性成分1000ppmの濃度では、単独で抗微生物活性を示さないポリエチレンイミン(Lupasol(登録商標)FG、上記(本b)参照)について、1000ppmあるいはそれより少ない100ppmの濃度であっても、4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテル(Tinosan(登録商標)HP、上記(本c)及び(本f)参照)と組み合わせることで、抗微生物活性が増強されることが具体的なデータを伴い示されている。
そうすると、発明の詳細な説明の記載から、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるといえる。
そして、これらの記載に反するような技術常識の存在は認められない。
よって、本件発明1?14が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないとはいえず、発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。

エ 申立人の主張について
(ア)申立人は、本件特許明細書の上記(本e)の「相乗的混合物を含む抗微生物組成物であり」との記載を捉えて、本件発明の課題は「相乗的な抗微生物作用を発揮する殺生物剤及びポリエチレンイミンを含む組成物を提供すること」と認定している(異議申立書61?62頁)。
そのうえで、上記(本g)の実施例は、(i)対数低減で示された効果が統計学的に意味のある差とはいえないこと、(ii)使用されたポリエチレンイミンは1種類のみであること、(iii)抗微生物剤とポリエチレンイミンの含有量及び含有比率は二通りしかないことから、当業者が本件発明の課題を解決できるといえない旨主張している(異議申立書62?64頁)。

(イ)そこで上記申立人の主張について検討する。
a 本件発明1?14の課題は、本件特許明細書全体の記載をみれば、上記イで述べたとおりであり、明細書の一部に申立人が指摘した記載があったことのみを理由に、「相乗的な抗微生物作用を発揮する殺生物剤及びポリエチレンイミンを含む組成物を提供すること」ということはできない。
よって、申立人の主張は前提において誤っており、採用できない。

b さらに進んで検討するに、申立人は、(i)について具体的には、上記(本g)の実施例1の【表31】(表3)に記載のEN1276試験法がEN1040試験法と類似することを前提に、EN1040試験法について繰り返し性及び再現性を検討して報告したとする論文(甲9)に基づいて、実施例1の【表31】(表3)の対数低減値の増加量(0.2及び0.5)は、繰り返し性の標準偏差の範囲(0.3?0.7)に含まれることから、実験誤差程度のものであり、本件特許明細書の実施例の数値が統計学的に有意な差とはいえないなどと主張する。
しかしながら、両者の試験法がどのように類似しているのかは示しておらず、また、甲9に記載されている標準偏差の絶対値(0.3?0.7)と本件特許明細書記載の対数低減の差の絶対値(0.2又は0.5)との関係も不明である。
よって、申立人の主張は採用できない。

c そして、上記(ii)及び(iii)については、上記(本b)にポリエチレンイミンについて具体的な説明があり、上記(本d)に抗微生物剤とポリエチレンイミンの含有量及び含有比率について説明されており、これらの記載及び実施例の記載に基づき、当業者であれば本件発明の課題を解決できると認識し得るといえる。

オ 小活
よって、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえないから、本件発明1?14に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立の取消理由1?3並びに証拠によっては、請求項1?14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤、並びに
b)ポリエチレンイミン
を含む組成物(組成物の全質量を基準にして、(A)0.1?10%の抗菌性化合物、(B)0.01?10%の酸化防止剤を含み、さらに(C)シリコーン及び(D)カチオン性を有する水溶性高分子を含む、繊維製品の仕上げ剤組成物を除く)。
【請求項2】
ポリエチレンイミンが400g/molより高い分子量である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ポリエチレンイミンが、ポリカチオン性ポリエチレンイミンから選択される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
ポリカチオン性ポリエチレンイミンが、4から5のpHで測定された場合の範囲5meq/gから25meq/gの電荷密度を有する、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
1重量部の抗微生物剤(a)で、0.001重量部から1000重量部の構成成分(b)を含む、請求項1から4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
組成物の総重量に対して0.001重量%から5重量%の抗微生物剤(a)を含有する、請求項1から5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリエチレンイミンが、ホモポリマー、又は1重量部のポリエチレンイミンで0.01重量部から100重量部のエチレンオキシドを用いてグラフトされているオリゴマー若しくはポリマーである、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記ポリエチレンイミンが分岐ポリエチレンイミンホモポリマーであり、その非電荷形態は、nが10から100000の範囲である経験式-(CH_(2)-CH_(2)-NH)_(n)-に一致する、又はそのグラフトされた変形体である、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
表面活性剤、屈水剤、抗微生物効果を改善し得るさらなる添加剤、並びに処方物中の抗微生物剤(a)及び/又はポリエチレンイミン(b)を安定化する薬剤からなる群から選択される、少なくとも1種のさらなる構成成分を含む、請求項1から8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
組成物の総重量に対して0.001重量%から80重量%の界面活性剤を含有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤の抗微生物活性を増強する方法であって、前記抗微生物剤と、ポリエチレンイミンと、場合により表面活性剤、屈水剤、抗微生物効果を改善し得るさらなる添加剤、並びに処方物中の抗微生物剤(a)及び/又はポリエチレンイミン(b)を安定化する薬剤からなる群から選択される、少なくとも1種のさらなる構成成分と、を組み合わせることを含む、方法。
【請求項12】
4,4’-ジクロロ-2’-ヒドロキシ-ジフェニルエーテルである抗微生物剤の抗微生物活性を増強するための、ポリエチレンイミンの使用。
【請求項13】
ホームケア処方物の製造のため;又はパーソナルケア処方物の製造のための、請求項1から10のいずれかに記載の組成物の使用。
【請求項14】
ホームケア処方物として;又はパーソナルケア処方物としての、請求項1から10のいずれかに記載の組成物の使用。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-20 
出願番号 特願2014-557163(P2014-557163)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (A01N)
P 1 651・ 113- YAA (A01N)
P 1 651・ 851- YAA (A01N)
P 1 651・ 121- YAA (A01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 水島 英一郎  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 齊藤 真由美
関 美祝
登録日 2017-09-15 
登録番号 特許第6209169号(P6209169)
権利者 ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
発明の名称 ポリマーを用いた殺生物剤の抗微生物活性の増強  
代理人 田中 夏夫  
代理人 池田 直俊  
代理人 田中 夏夫  
代理人 平木 祐輔  
代理人 藤田 節  
代理人 菊田 尚子  
代理人 新井 栄一  
代理人 平木 祐輔  
代理人 菊田 尚子  
代理人 池田 直俊  
代理人 藤田 節  
代理人 新井 栄一  

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