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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特174条1項  B32B
管理番号 1347661
異議申立番号 異議2018-700238  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-22 
確定日 2018-11-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6202156号発明「シーラントフィルム、それを用いた積層フィルムおよび包装袋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6202156号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3-8〕について訂正することを認める。 特許第6202156号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6202156号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成28年7月20日の出願であって、平成29年9月8日にその特許権の設定登録がされ(特許掲載公報平成29年9月27日発行)、その後、平成30年3月22日に特許異議申立人打揚洋次(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、平成30年5月11日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年7月13日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、平成30年8月14日に申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の請求
1.訂正の内容
平成30年7月13日付け訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)は、「特許第6202156号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3?8について訂正する」ことを請求の趣旨とするものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のとおり訂正するものである。(下線部は、訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3に「トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-3,8-ジエン」及び「テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン」と記載されているのを、それぞれ「トリシクロ[5.2.1.0^(2,6)]デカ-3,8-ジエン」及び「テトラシクロ[4.4.0.1^(2,5).1^(7,10)]-3-ドデセン」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4?8についても同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に「前記ジシクロペンタジエン系化合物、前記テトラシクロドデセン系化合物および前記ノルボルネン系化合物から選択される2種以上の化合物の開環メタセシス重合体」と記載されているのを、「前記ジシクロペンタジエン系化合物、前記テトラシクロドデセン系化合物および前記ノルボルネン系化合物の開環メタセシス重合体」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5?8についても同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7に「厚みが100μm以下である」と記載されているのを、「前記積層フィルムの厚みが100μm以下であり、かつ前記シーラントフィルムの厚みが10μm以上である」に訂正する(請求項7の記載を直接的に引用する請求項8についても同様に訂正する。)。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項3に記載された化合物名を、明細書の段落【0011】等に記載された化合物名と整合させるために訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記ア.から明らかなように、訂正事項1は、化合物名を明細書の記載と整合させるためのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、明細書の段落【0011】等に記載されている化合物名の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項4は、請求項1の「ポリシクロオレフィン」を更に限定しようとするものであるが、訂正前の請求項4の「前記ジシクロペンタジエン系化合物、前記テトラシクロドデセン系化合物および前記ノルボルネン系化合物から選択される2種以上の化合物の開環メタセシス重合体であり、炭素一炭素二重結合が水素化されている」ポリシクロオレフィンは、請求項1の「ジシクロペンタジエン系化合物由来の構造単位(A)、テトラシクロドデセン系化合物由来の構造単位(B)、および、ノルボルネン系化合物由来の構造単位(C)を含」むポリシクロオレフィンに含まれないものを含んでいたのを、訂正事項2は、請求項1と請求項4との間の整合を図るための訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、訂正前の請求項4の「前記ジシクロペンタジエン系化合物、前記テトラシクロドデセン系化合物および前記ノルボルネン系化合物から選択される2種以上の化合物の開環メタセシス重合体」のうち「2種以上の化合物」を「3種の化合物」、すなわち「前記ジシクロペンタジエン系化合物、前記テトラシクロドデセン系化合物および前記ノルボルネン系化合物」に限定する訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
請求項4は請求項1の「ポリシクロオレフィン」を更に限定しようとするものであり、請求項1の「ポリシクロオレフィン」は「ジシクロペンタジエン系化合物由来の構造単位(A)、テトラシクロドデセン系化合物由来の構造単位(B)、および、ノルボルネン系化合物由来の構造単位(C)を含む」、すなわち3種の化合物由来の構造単位を含むものであるから、訂正前の請求項4の「前記ジシクロベンタジエン系化合物、前記テトラシクロドデセン系化合物および前記ノルボルネン系化合物から選択される2種以上の化合物の開環メタセシス重合体であり、炭素一炭素二重結合が水素化されている」ポリシクロオレフィンについても、3種の化合物の組み合わせ、すなわち訂正後の請求項4の内容が開示されていたものである。したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項7では、積層フィルムの「厚みが100μm以下である」ことが規定されていたものの、その下限が規定されていなかったので明瞭でなかったものを、積層フィルムの厚みは少なくともその構成要素であるシーラントフィルムの厚みより厚いものであるから、訂正事項3は、シーラントフィルムの厚みの下限を限定することにより、積層フィルムの厚みの下限を規定することによって明瞭にするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、シーラントフィルムの厚みの下限を限定する訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、明細書の段落【0035】の「また、シーラントフィルム1の厚みは、好ましくは10μm以上である。」との記載等に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(4)一群の請求項についての説明
訂正前の請求項3?8について、請求項4?8は、直接又は間接的に請求項3を引用しているものであって、請求項3の訂正に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項3?8は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

3.まとめ
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する事項を目的とし、同条第4項並びに同条第9項の規定によって準用する第126条第5及び第6項に適合するので、訂正後の請求項〔3?8〕について訂正を認める。

第3 本件発明
上記のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1?8に係る発明(以下「本件発明1?8」という。)は、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリオレフィンを主成分として含むポリオレフィン層と、
最外層としてポリシクロオレフィンを90質量%以上含むポリシクロオレフィン層とを備える、シーラントフィルムであって、
前記ポリシクロオレフィンは、ジシクロペンタジエン系化合物由来の構造単位(A)、テトラシクロドデセン系化合物由来の構造単位(B)、および、ノルボルネン系化合物由来の構造単位(C)を含み、
前記ポリシクロオレフィンのガラス転移温度が80℃以下である、シーラントフィルム。
【請求項2】
前記ポリシクロオレフィンのガラス転移温度が40℃以上である、請求項1に記載のシーラントフィルム。
【請求項3】
前記ジシクロペンタジエン系化合物はトリシクロ[5.2.1.0^(2,6)]デカ-3,8-ジエンもしくはその誘導体であり、前記テトラシクロドデセン系化合物はテトラシクロ[4.4.0.1^(2,5).1^(7,10)]-3-ドデセンもしくはその誘導体であり、前記ノルボルネン系化合物はビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エンもしくはその誘導体である、請求項1または2に記載のシーラントフィルム。
【請求項4】
前記ポリシクロオレフィンは、前記ジシクロペンタジエン系化合物、前記テトラシクロドデセン系化合物および前記ノルボルネン系化合物の開環メタセシス重合体であり、炭素-炭素二重結合が水素化されている、請求項1?3のいずれか1項に記載のシーラントフィルム。
【請求項5】
基材フィルムと、
請求項1?4のいずれか1項に記載のシーラントフィルムと、を積層してなる積層フィルム。
【請求項6】
さらに、ガスバリアフィルムを前記基材フィルムと前記シーラントフィルムとの間に積層してなる、請求項5に記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記積層フィルムの厚みが100μm以下であり、かつ前記シーラントフィルムの厚みが10μm以上である、請求項5または6に記載の積層フィルム。
【請求項8】
請求項5?7のいずれか1項に記載の積層フィルムを、前記シーラントフィルム同士が融着されるようにシールされてなる、包装袋。」

第4 当審の判断
1.取消理由通知書に記載した取消理由の概要
平成30年5月11日付け取消理由通知書に記載した取消理由の概要は、以下のとおりである。なお、申立人の申立てた理由は、全て通知した。

1)平成29年5月19日付け手続補正書でした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
2)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

以下、「甲第1号証」等を「甲1」等といい、「甲第1号証に記載された発明」を「甲1発明」といい、「甲第2号証に記載された事項」を「甲2記載事項」という。

甲1:特開2010-6985号公報
甲2:特開平4-276253号公報
(1)[理由1](特許法第17条の2第3項)
平成29年5月19日付け手続補正書による、請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?8について「最外層としてポリシクロオレフィンを主成分として含むポリシクロオレフィン層とを備える」を「最外層としてポリシクロオレフィンを90質量%以上含むポリシクロオレフィン層とを備える」とする補正(下線部は補正箇所。)は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
(2)[理由2](特許法第29条第2項)
本件発明1?8は、甲1発明及び甲2記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)[理由3](特許法第36条第6項第2号)
ア 請求項4は、請求項1を引用するものであるが、請求項4は、「前記ポリシクロオレフィンは、前記ジシクロペンタジエン系化合物、前記テトラシクロドデセン系化合物および前記ノルボルネン系化合物から選択される2種以上の化合物の開環メタセシス重合体であり、炭素-炭素二重結合が水素化されている」とあり、請求項4の「ポリシクロオレフィン」には、請求項1の「前記ポリシクロオレフィンは、ジシクロペンタジエン系化合物由来の構造単位(A)、テトラシクロドデセン系化合物由来の構造単位(B)、および、ノルボルネン系化合物由来の構造単位(C)を含み」の「ポリシクロオレフィン」に含まれないものを含むので、請求項4の記載は、明確でない。イ 請求項7の「厚みが100μm以下である、請求項5または6に記載の積層フィルム。」という記載は、厚みが100μm以下であることの技術的意味が不明であり、また積層フィルムの厚みの上限のみが規定されており、下限値については記載されていないので、明確ではない。

2.理由1(特許法第17条の2第3項 )について
(1)平成29年5月19日付け手続補正書により、請求項1及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2?8について「最外層としてポリシクロオレフィンを主成分として含むポリシクロオレフィン層とを備える」が「最外層としてポリシクロオレフィンを90質量%以上含むシクロオレフィン層とを備える」に補正された。
上記補正に関して、当初明細書等には、以下の事項が記載されている。
「【0021】・・・
ポリオレフィン層11は、ポリオレフィンを主成分として含む。なお、「主成分として含む」とは、例えば、ポリオレフィン層11の全量に対してポリオレフィンの含有量が50質量%より多いことであり、ポリオレフィンの含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である(以下、同様)。」
「【0022】・・・
ポリシクロオレフィン層12は、ポリシクロオレフィンを主成分として含む。・・・」
そして、段落【0021】においては、「「主成分として含む」とは、例えば、・・・」と記載された上でポリオレフィンの含有量が記載されている点、「(以下、同様)」と記載されており、これより後の段落に、「主成分として含む」という表現がいくつか存在するものの「ポリオレフィンを主成分として含む」という表現は存在しない点等に鑑みれば、上記「「主成分として含む」とは、例えば、・・・」との記載は、ポリオレフィン層におけるポリオレフィンの含有量について以外の場合にも「主成分として含む」の解釈は同様であると当業者は理解できる。
段落【0022】の「ポリシクロオレフィン層12は、ポリシクロオレフィンを主成分として含む」との記載に関しても、同じ「主成分として含む」という表現を用いているので、ポリシクロオレフィン層におけるポリシクロオレフィンの含有量も、例えば「好ましくは90質量%以上である」と、当初明細書等に記載されているのに等しい事項であると、当業者は理解できるものであって、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
したがって、上記補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第17条の2第3項に規定された要件を満たしている。
(2)小括
よって、本件発明1?8に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるとはいえず、特許法第113条第1号に該当することを理由として、取り消すことはできない。

3.理由3(特許法第36条第6項第2号)について
事案に鑑み、次に特許請求の範囲の記載についての取消理由である、理由3について検討する。
(1)理由3のアについて
本件訂正後の請求項4の「ポリシクロオレフィン」は、「前記ポリシクロオレフィンは、前記ジシクロペンタジエン系化合物、前記テトラシクロドデセン系化合物および前記ノルボルネン系化合物の開環メタセシス重合体であり、炭素一炭素二重結合が水素化されている」である。訂正後の請求項4の「ポリシクロオレフィン」は、請求項1の「ジシクロペンタジエン系化合物由来の構造単位(A)、テトラシクロドデセン系化合物由来の構造単位(B)、および、ノルボルネン系化合物由来の構造単位(C)を含み」に対応するものであり、請求項4には、請求項1に含まれないものは除外されたので、訂正後の請求項4の記載は明確である。
(2)理由3のイについて
訂正後の請求項7は、「前記積層フィルムの厚みが100μm以下であり、かつ前記シーラントフィルムの厚みを10μm以上である、請求項5または6に記載の積層フィルム。」である。請求項7の積層フィルムは、基材フィルムとシーラントフィルムとを積層してなるものであり(請求項5)、シーラントフィルムの厚みを10μm以上とすることを特定したことにより、積層フィルムの厚みが少なくとも10μmより大きくなることが規定される。このため、訂正後の請求項7においては、積層フィルムの厚みの下限値が規定されたので、訂正後の請求項7の記載は明確になった。また、積層フィルムの厚みが100μm以下である点は、本件特許明細書の【0035】に記載されているように、用途に応じた好ましい範囲を特定したもので、当業者はその技術的意味を理解できるから、その記載は明確である。
(3)小括
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできず、本件発明1?8に係る特許は、特許法第113条第4号に該当することを理由として、取り消すことはできない。

4.理由1(特許法第29条第2項)について
(1)甲各号証
ア 甲1
甲1には、以下の甲1発明が記載されている(特に、請求項1、【0009】?【0011】、【0027】、【0043】、【0044】、【0049】、【0055】及び【0059】?【0063】の実施例1?5の記載参照)。
「ジシクロペンタジエン化合物由来の構造単位(A)、テトラシクロドデセン化合物由来の構造単位(B)、及びノルボルネン化合物由来の構造単位(C)を含有し、(A)の含有量をM1モル%、(B)の含有量をM2モル%、(C)の含有量をM3モル%としたとき、M1+M2+M3=100を満たす脂環構造含有開環重合体の水素添加物を樹脂成分として含んでなるポリシクロオレフィンの層と、他の樹脂の層からなり、ポリシクロオレフィンの層のガラス転移温度(Tg)が65℃?73℃(実施例1?5)である、ヒートシールできる多層のフィルム。」

イ 甲2
甲2には、以下の記載がある。
「【請求項1】 壁面が材質の異なる少なくとも2層を含む多層からなる容器であって、その内の少なくとも1層が熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーからなることを特徴とする医療用または食品包装用容器。」
「【0017】(ガスバリヤー性樹脂)・・・特に好ましい本発明の多層容器は、他のガスバリヤー性に優れた樹脂層を含ませることにより、耐水蒸気透過性とともに、より好ましいガスバリヤー性を付与することができる。」
「【0018】ガスバリヤー性樹脂としては、包装材料などの分野で汎用の樹脂が使用できる。好ましい使用方法は、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーよりもガスバリヤー性に優れた樹脂を適当な厚みで用いるのが良く、酸素の透過速度で0.5cc/m^(2)・24hr・atm以下の層を選択して用いるべきであり、そうでなければ、複合化しても積層体としてのガスバリヤー性は向上しない。例えば、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、塩化ビニリデン系ポリマー(PVDC)、ポリエチレン-イソフタレート系コポリマーなどのバリヤー性ポリエステル、MXD6ナイロン(m-キシリレンアジバミド)、バリヤー性ナイロン(非晶性ナイロン)、ポリアクリロニトリル、液晶ポリエステル、全芳香族ナイロン(アラミド)、ポリ酢酸ビニルまたはその加水分解物(PVA)などが効果的な例として挙げられる。また、PVDCコート2軸延伸ポリエチレンテレフタレート、PVDCコート2軸延伸ポリプロピレン、PVDCコート2軸延伸ポリビニルアルコールなどの透明な多層フィルムなども挙げられる。」
「【0019】(その他の層)本発明の多層容器は、ガスバリヤー性樹脂層に代えて、あるいはガスバリヤー性樹脂層とともに、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー層単独では不十分な曲げ強度や耐屈曲性引張り強さを補うためにその他の層を含んでいてもよい。その他の層を構成する樹脂材料としては、医療用または食品包装用に用いられている樹脂材料であれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体、アイオノマー樹脂、ポリスチレン(PS)、ABS樹脂、熱可塑性エラストマー、ナイロン(ポリアミド系樹脂)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、等の各種合成樹脂を挙げることができる。これらの合成樹脂層は、各樹脂の単層または2種以上の積層体として用いられる。これらの合成樹脂層は、透明性(光線透過性)が良好なものが好ましい。」
「【0021】(多層容器)本発明の多層容器は、その壁面が材質の異なる少なくとも2層以上の多層からなり、その内の少なくとも1層が熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーからなるものである。材質が異なる2層またはそれ以上の層を含んでおれば、同種の材料が2層以上含まれていてもよい。熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー層は、多層容器の最内層、中間層、あるいは最外層のいずれであってもよい。また、最内層と中間層、中間層と最外層、あるいは最内層と最外層など、2層以上含まれていてもよい。医療用テストチューブ、医療用セル、血液バッグ、輸液バッグ、薬品用ボトル、検査用セルなどの医療用容器あるいは微量不純物の溶出や水分による品質の劣化が問題となる分野の食品包装用容器においては、最内層に熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー層を配置することが好ましい。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ジシクロペンタジエン化合物由来の構造単位(A)、テトラシクロドデセン化合物由来の構造単位(B)、及びノルボルネン化合物由来の構造単位(C)を含有し、(A)の含有量をM1モル%、(B)の含有量をM2モル%、(C)の含有量をM3モル%としたとき、M1+M2+M3=100を満たす脂環構造含有開環重合体の水素添加物を樹脂成分として含んでなるポリシクロオレフィンの層」は、本件発明1の「ポリシクロオレフィンを90質量%以上含むポリシクロオレフィン層」に相当し、かつ本件発明1の「前記ポリシクロオレフィンは、ジシクロペンタジエン系化合物由来の構造単位(A)、テトラシクロドデセン系化合物由来の構造単位(B)、および、ノルボルネン系化合物由来の構造単位(C)を含み、」の要件を満たす。また、甲1発明の「ポリシクロオレフィンの層のガラス転移温度(Tg)が65℃?73℃(実施例1?5)である」は、本件発明1の「前記ポリシクロオレフィンのガラス転移温度が80℃以下である」に相当する。また、甲1発明の「ヒートシールできる多層のフィルム」は、ヒートシールできるので、シーラントフィルムといえる。そうすると、両者は、以下の相違点1で相違し、その余では一致する。
<相違点1>
本件発明1では、ポリオレフィンを主成分として含むポリオレフィン層と最外層としてのポリシクロオレフィン層を備えるのに対して、甲1発明では、ポリシクロオレフィンの層と他の樹脂の層との層構造が不明であり、他の樹脂の層がポリオレフィンの層でない点。

イ 相違点1を検討する。
甲1発明は、「製造時の溶液安定性に優れる共重合体水素化物を樹脂成分として含み、かつ高透明性、高防湿性、および適度な耐熱性を有する防湿性成形材料、フィルムおよび包装材料を提供することにある」を課題とするものである(甲1【0004】)。そして甲1の【0044】には、「成形方法としては、熱可塑性樹脂の一般的な成形方法、例えば、射出成形、押し出し成形、熱プレス成形、溶剤キャスト成形、インフレーションなどによってシートまたはフィルムに成形することができるが、成形が可能な限り特定の成形方法に限定されない。特開平4-276253号公報に記載されているように、他の樹脂との多層成形や二重壁成形を行うことにより、ガスバリア性や耐候性などをさらに高めることが可能である。」と記載されている。そうすると、甲1の記載に接した当業者は、「ガスバリア性や耐候性などをさらに高める」ために、甲1発明に甲2(特開平4-276253号公報)記載事項を適用することを検討することになる。
その甲2には、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーからなる層を、より好ましいガスバリヤー性を付与するために、「他のガスバリヤー性に優れた樹脂層」と組み合わせる点が記載されているが(甲2【0017】、【0018】)、甲2の【0018】に「ガスバリヤー性樹脂層」として挙げられている樹脂の例には、ポリオレフィンの樹脂は含まれていない。また、甲2の【0019】には、「(その他の層)本発明の多層容器は、ガスバリヤー性樹脂層に代えて、あるいはガスバリヤー性樹脂層とともに、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー層単独では不十分な曲げ強度や耐屈曲性引張り強さを補うためにその他の層を含んでいてもよい。その他の層を構成する樹脂材料としては、・・・例えば、・・・ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、・・・等の各種合成樹脂を挙げることができる。」とあり、ポリエチレンやポリプロプレンのポリオレフィンの樹脂がその他の層を構成するのは、「熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー層単独では不十分な曲げ強度や耐屈曲性引張り強さを補うために」と記載されている。その「熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマー層単独では不十分な曲げ強度や耐屈曲性引張り強さを補うために」とは、多層フィルムの物理的強度を向上させるためであって、「耐候性などをさらに高める」ためには、当てはまらない。
そうすると、甲1の【0044】の記載、甲2の【0017】?【0019】の記載からは、甲1発明において、「ガスバリア性や耐候性などをさらに高める」ために、ポリオレフィンの樹脂をポリシクロオレフィンの樹脂と組み合わせる、動機付けがない。
一方、本願発明1は、「低吸着性に優れ、かつ十分な低温シール性とシール強度を有するシーラントフィルムを提供すること」(本件特許明細書【0007】)を課題とするものである。
本願発明1の課題のうちの「十分な低温シール性とシール強度を有する」点の課題については、甲1、甲2に記載も示唆もない。
本件発明1は、相違点1に係る構成を有することにより、「低吸着性に優れ、かつ十分な低温シール性とシール強度を有するシーラントフィルムを提供することができる」及び「ポリオレフィン層をポリシクロオレフィン層に隣接して用いることで、処理性、製膜適性を向上させる」との格別な作用効果を奏する(本件特許明細書【0012】及び【0037】)。
よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ なお、申立人は、平成30年8月14日の意見書において、周知事項を示す証拠として、特開2005-254508号公報、特開2012-86876号公報、及び特開2012-224071号公報を新たに引用して、「本件出願時において、ポリオレフィン層とシクロオレフィン層(環状オレフィン層)の積層構造を有する積層フィルムからなる包装袋は、・・・例えば、特開2005-254508号公報(平成17年9月22日公開)、特開2012-86876号公報(平成24年5月10日公開)、特開2012-224071号公報(平成24年11月15日公開)等にも記載されており、周知である。・・・このように、本件出願時において、ポリシクロオレフィン層(環状オレフィン層)が有する薬剤低吸着性や低い透湿性を利用するものであって、ポリシクロオレフィン層(環状オレフィン層)単独で使用する場合、あるいはポリオレフィン層単独で使用する場合の技術的問題の改善を図るために、ポリシクロオレフィン層(環状オレフィン層)とポリオレフィン層を積層してなる積層フィルムは、周知技術といえる。」(申立人の平成30年8月14日の意見書の3頁23行?4頁1行)旨主張するが、仮に、本件出願時において、ポリオレフィン層とシクロオレフィン層(環状オレフィン層)の積層構造を有する積層フィルムからなる包装袋、あるいは、ポリシクロオレフィン層(環状オレフィン層)とポリオレフィン層を積層してなる積層フィルムが、周知技術であったとしても、上記(2)イで述べたように、甲1、甲2には、甲2記載事項を甲1発明に適用することの動機付けが生じ得ない記載があり、そのような周知技術が甲2記載事項を甲1発明に適用できる証拠とはならないから、申立人の主張は採用できない。

(3)本件発明2?8について
本件発明2?8は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明及び甲2記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 小括
以上のとおり、本件発明1?8は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、本件発明1?8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消されるべきものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンを主成分として含むポリオレフィン層と、
最外層としてポリシクロオレフィンを90質量%以上含むポリシクロオレフィン層とを備える、シーラントフィルムであって、
前記ポリシクロオレフィンは、ジシクロペンタジエン系化合物由来の構造単位(A)、テトラシクロドデセン系化合物由来の構造単位(B)、および、ノルボルネン系化合物由来の構造単位(C)を含み、
前記ポリシクロオレフィンのガラス転移温度が80℃以下である、シーラントフィルム。
【請求項2】
前記ポリシクロオレフィンのガラス転移温度が40℃以上である、請求項1に記載のシーラントフィルム。
【請求項3】
前記ジシクロペンタジエン系化合物はトリシクロ[5.2.1.0^(2,6)]デカ-3,8-ジエンもしくはその誘導体であり、前記テトラシクロドデセン系化合物はテトラシクロ[4.4.0.1^(2,5).1^(7,10)]-3-ドデセンもしくはその誘導体であり、前記ノルボルネン系化合物はビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エンもしくはその誘導体である、請求項1または2に記載のシーラントフィルム。
【請求項4】
前記ポリシクロオレフィンは、前記ジシクロペンタジエン系化合物、前記テトラシクロドデセン系化合物および前記ノルボルネン系化合物の開環メタセシス重合体であり、炭素-炭素二重結合が水素化されている、請求項1?3のいずれか1項に記載のシーラントフィルム。
【請求項5】
基材フィルムと、
請求項1?4のいずれか1項に記載のシーラントフィルムと、を積層してなる積層フィルム。
【請求項6】
さらに、ガスバリアフィルムを前記基材フィルムと前記シーラントフィルムとの間に積層してなる、請求項5に記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記積層フィルムの厚みが100μm以下であり、かつ前記シーラントフィルムの厚みが10μm以上である、請求項5または6に記載の積層フィルム。
【請求項8】
請求項5?7のいずれか1項に記載の積層フィルムを、前記シーラントフィルム同士が融着されるようにシールされてなる、包装袋。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-16 
出願番号 特願2016-142373(P2016-142373)
審決分類 P 1 651・ 55- YAA (B32B)
P 1 651・ 537- YAA (B32B)
P 1 651・ 121- YAA (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 相田 元  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 渡邊 豊英
蓮井 雅之
登録日 2017-09-08 
登録番号 特許第6202156号(P6202156)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 シーラントフィルム、それを用いた積層フィルムおよび包装袋  
代理人 鈴木 洋平  
代理人 鈴木 洋平  
代理人 黒木 義樹  
代理人 酒巻 順一郎  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 黒木 義樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 酒巻 順一郎  
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