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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1347669
異議申立番号 異議2017-700944  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-04 
確定日 2018-11-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6107154号発明「プリプレグ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6107154号の明細書、特許請求の範囲及び図面(特許請求の範囲のみ訂正のときは、明細書、図面は削除する)を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし18〕について、訂正することを認める。 特許第6107154号の請求項1ないし8,11ないし18に係る特許を維持する。 特許第6107154号の請求項9及び10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6107154号(以下,「本件特許」という。)の請求項1ないし18に係る特許についての出願は,平成25年1月16日(優先権主張 平成24年1月20日)を出願日とする出願であって,平成29年3月17日にその特許権の設定登録(設定登録時の請求項数18)がされ,同年4月5日にその特許公報が発行され,その後,同年10月4日に,その請求項1ないし18に係る発明の特許に対し,特許異議申立人 山川 隆久(以下,「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ,当審において平成30年1月18日付けで取消理由(以下,「取消理由1回目」という。)が通知され,同年3月16日に特許権者 東レ株式会社(以下,「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ,同年3月28日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ,同年4月27日に申立人から意見書が提出され,その後,同年6月11日付けで取消理由通知(決定の予告)(以下,「取消理由(決定の予告)」という。)が通知され,同年8月8日に特許権者から意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下,「本件訂正の請求」という。)がされ,同年8月20日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ,同年9月21日に申立人から意見書が提出されたものである。

なお,平成30年3月16日にされた訂正の請求は,特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否について

1 訂正の内容

本件訂正の請求による訂正の内容は,次のとおりである。なお,下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1の
「強化繊維(c)からなる強化繊維基材とポリプロピレン系樹脂組成物を含むシート状のプリプレグであって,該ポリプロピレン系樹脂組成物は少なくともカルボジイミド変性ポリオレフィン(a),ポリプロピレン系樹脂(b)を含有しており,プリプレグ中のマトリックス樹脂成分に含まれるカルボジイミド基の含有量が,マトリックス樹脂成分100gに対し,0.0005?140mmolであり,かつ前記強化繊維(c)および/または強化繊維基材が多官能化合物(s)によりサイジング処理されており,さらにプリプレグ中の強化繊維(c)が不連続繊維であり,そして該プリプレグを成形して得られる成形品の次式で示される強度保持率が,90%以上であることを特徴とするプリプレグ。
・(強度保持率)=(吸水サンプルの曲げ強度)/(乾燥サンプルの曲げ強度)×100 」



「強化繊維(c)からなる強化繊維基材とポリプロピレン系樹脂組成物を含むシート状のプリプレグであって,該ポリプロピレン系樹脂組成物は少なくともカルボジイミド変性ポリオレフィン(a),ポリプロピレン系樹脂(b)を含有しており,プリプレグ中のマトリックス樹脂成分に含まれるカルボジイミド基の含有量が,マトリックス樹脂成分100gに対し,0.0005?140mmolであり,かつ前記強化繊維(c)および/または強化繊維基材が多官能化合物(s)によりサイジング処理されており,さらにプリプレグ中の強化繊維(c)が不連続繊維であり,そして該プリプレグを成形して得られる成形品の次式で示される強度保持率が,90%以上であり,かつ,前記多官能化合物(s)における官能基が,カルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種であることを特徴とするプリプレグ。
・(強度保持率)=(吸水サンプルの曲げ強度)/(乾燥サンプルの曲げ強度)×100」

に訂正する。

併せて,請求項1を直接又は間接的に引用する請求項4ないし8,11ないし18についても請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項2の
「強化繊維(c)からなる強化繊維基材とポリプロピレン系樹脂組成物を含むシート状のプリプレグであって,該ポリプロピレン系樹脂組成物は少なくともカルボジイミド変性ポリオレフィン(a),ポリプロピレン系樹脂(b)を含有しており,(a)を0.01?50質量部,(b)を20?99質量部,(c)を1?80質量部(ただし,(b)と(c)の合計を100質量部とする)含有し,かつ前記強化繊維(c)および/または強化繊維基材が多官能化合物(s)によりサイジング処理されており,さらにプリプレグ中の強化繊維(c)が不連続繊維であり,そして該プリプレグを成形して得られる成形品の次式で示される強度保持率が,90%以上であることを特徴とするプリプレグ。
・(強度保持率)=(吸水サンプルの曲げ強度)/(乾燥サンプルの曲げ強度)×100」



「強化繊維(c)からなる強化繊維基材とポリプロピレン系樹脂組成物を含むシート状のプリプレグであって,該ポリプロピレン系樹脂組成物は少なくともカルボジイミド変性ポリオレフィン(a),ポリプロピレン系樹脂(b)を含有しており,(a)を0.01?50質量部,(b)を20?99質量部,(c)を1?80質量部(ただし,(b)と(c)の合計を100質量部とする)含有し,かつ前記強化繊維(c)および/または強化繊維基材が多官能化合物(s)によりサイジング処理されており,さらにプリプレグ中の強化繊維(c)が不連続繊維であり,そして該プリプレグを成形して得られる成形品の次式で示される強度保持率が,90%以上であり,かつ,前記多官能化合物(s)における官能基が,カルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種であることを特徴とするプリプレグ。
・(強度保持率)=(吸水サンプルの曲げ強度)/(乾燥サンプルの曲げ強度)×100」

に訂正する。

併せて,請求項2を直接又は間接的に引用する請求項3ないし8,11ないし18についても請求項2を訂正したことに伴う訂正をする。

(3)訂正事項3

特許請求の範囲の請求項9を削除する。

(4)訂正事項4

特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(5)訂正事項5

特許請求の範囲の請求項11の
「前記多官能化合物(s)が,ポリエチレンイミンである,請求項1?9のいずれかに記載のプリプレグ。」



「前記多官能化合物(s)が,ポリエチレンイミンである,請求項1?8のいずれかに記載のプリプレグ。」

に訂正する。

(6)訂正事項6

特許請求の範囲の請求項12の
「少なくとも成分(a)および成分(b)からなるポリプロピレン系樹脂組成物が,前記強化繊維基材に含浸していることを特徴とする,請求項1?11のいずれかに記載のプリプレグ。」



「少なくとも成分(a)および成分(b)からなるポリプロピレン系樹脂組成物が,前記強化繊維基材に含浸していることを特徴とする,請求項1?8及び11のいずれかに記載のプリプレグ。」

に訂正する。

(7)訂正事項7

特許請求の範囲の請求項13の

「前記強化繊維(c)が,プリプレグの面内方向においてランダム分散していることを特徴とする,請求項1?12のいずれかに記載のプリプレグ。」



「前記強化繊維(c)が,プリプレグの面内方向においてランダム分散していることを特徴とする,請求項1?8,11及び12のいずれかに記載のプリプレグ。」

に訂正する。

2 訂正の目的の適否,新規事項の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否,一群の請求項及び独立特許要件

(1)訂正事項1について

訂正事項1は,訂正前の特許請求の範囲の請求項1に,90%以上であ「り,かつ,前記多官能化合物(s)における官能基が,カルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種であ」るという限定を付加するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,訂正事項1は,訂正前請求項9,願書に最初に添付された明細書(以下,「当初明細書」という。)の段落【0082】に記載されており,新規事項の追加には該当しない。
さらに,訂正事項1は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について

訂正事項2は,訂正前の特許請求の範囲の請求項2に,90%以上であ「り,かつ,前記多官能化合物(s)における官能基が,カルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種であ」るという限定を付加するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,訂正事項2は,訂正前請求項9,当初明細書の段落【0082】に記載されており,新規事項の追加には該当しない。
さらに,訂正事項2は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3及び4について

訂正事項3及び4は,訂正前の特許請求の範囲の請求項9及び10を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また,訂正事項3及び4は,訂正前の請求項9及び10の削除を目的とするから,新規事項の追加に該当せず,さらに,訂正事項3及び4は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(4)訂正事項5ないし7について

訂正事項5ないし7は,上記訂正事項3及び4に伴い,請求項間の引用関係を整理するものであるから,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また,訂正事項5ないし7は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに,訂正事項5ないし7は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(5)一群の請求項
本件訂正の請求は,特許請求の範囲の請求項1ないし18についての訂正である。
そして,訂正前の請求項3は訂正前の請求項2を引用しており,また,訂正前の請求項4ないし18は,訂正前の請求項1または2を引用しているので,訂正前の請求項1ないし18は,一群の請求項である。
したがって,本件訂正の請求は,一群の請求項ごとに対してされたものである。

3 小括

以上のとおり,本件訂正の請求は,特許法第120条の5第2項ただし書第1又は3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第4項並びに同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。

また,特許異議の申立ては,訂正前の全ての請求項に対してされているので,訂正を認める要件として,特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって,本件訂正の請求は適法なものであるので,本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし18〕について,訂正することを認める。

第3 本件特許に係る請求項に記載された事項

上記第2の3のとおり,訂正後の請求項〔1ないし18〕について,訂正することを認めるので,本件特許の請求項1ないし18に係る発明(以下,順に「本件発明1」のようにいい,総称して「本件発明」という。)は,それぞれ,平成30年8月8日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
強化繊維(c)からなる強化繊維基材とポリプロピレン系樹脂組成物を含むシート状のプリプレグであって,該ポリプロピレン系樹脂組成物は少なくともカルボジイミド変性ポリオレフィン(a),ポリプロピレン系樹脂(b)を含有しており,プリプレグ中のマトリックス樹脂成分に含まれるカルボジイミド基の含有量が,マトリックス樹脂成分100gに対し,0.0005?140mmolであり,かつ前記強化繊維(c)および/または強化繊維基材が多官能化合物(s)によりサイジング処理されており,さらにプリプレグ中の強化繊維(c)が不連続繊維であり,そして該プリプレグを成形して得られる成形品の次式で示される強度保持率が,90%以上であり,かつ,前記多官能化合物(s)における官能基が,カルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種であることを特徴とするプリプレグ。
・(強度保持率)=(吸水サンプルの曲げ強度)/(乾燥サンプルの曲げ強度)×100
【請求項2】
強化繊維(c)からなる強化繊維基材とポリプロピレン系樹脂組成物を含むシート状のプリプレグであって,該ポリプロピレン系樹脂組成物は少なくともカルボジイミド変性ポリオレフィン(a),ポリプロピレン系樹脂(b)を含有しており,(a)を0.01?50質量部,(b)を20?99質量部,(c)を1?80質量部(ただし,(b)と(c)の合計を100質量部とする)含有し,かつ前記強化繊維(c)および/または強化繊維基材が多官能化合物(s)によりサイジング処理されており,さらにプリプレグ中の強化繊維(c)が不連続繊維であり,そして該プリプレグを成形して得られる成形品の次式で示される強度保持率が,90%以上であり,かつ,前記多官能化合物(s)における官能基が,カルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種であることを特徴とするプリプレグ。
・(強度保持率)=(吸水サンプルの曲げ強度)/(乾燥サンプルの曲げ強度)×100
【請求項3】
前記カルボジイミド変性ポリオレフィン(a)が,該変性ポリオレフィン100グラムに対しカルボジイミド基の含有量が1?200mmolである,請求項2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記カルボジイミド変性ポリオレフィン(a)は,カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィン系樹脂(A)と,カルボジイミド基含有化合物(B)を反応させて得られるものである,請求項1?3のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記ポリオレフィン系樹脂(A)は,カルボジイミド基と反応する基を有する化合物をポリオレフィンに導入したものであって,ポリオレフィン系樹脂(A)が下記式(1)を満たす重合体である,請求項4に記載のプリプレグ。
0.1<Mn/{(100-M)×f/M}<6 (1)
(式中,
f :カルボジイミド基と反応する基の分子量(g/mol)
M :カルボジイミド基と反応する基の含有量(wt%)
Mn:カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィン系樹脂(A)の数平均分子量
である。)
【請求項6】
前記ポリオレフィン系樹脂(A)が,マレイン酸基を有するポリオレフィン系樹脂である,請求項4または5に記載のプリプレグ。
【請求項7】
強化繊維(c)が炭素繊維である,請求項1?6のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項8】
前記多官能化合物(s)が,3官能以上の官能基を有する化合物である,請求項1?7のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
前記多官能化合物(s)が,ポリエチレンイミンである,請求項1?8のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項12】
少なくとも成分(a)および成分(b)からなるポリプロピレン系樹脂組成物が,前記強化繊維基材に含浸していることを特徴とする,請求項1?8及び11のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項13】
前記強化繊維(c)が,プリプレグの長手方向に一方向に引き揃えられていることを特徴とする,請求項1?8,11及び12のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項14】
前記強化繊維基材が,繊維長10mmを越える強化繊維が0?50質量%,繊維長2?10mmの強化繊維が50?100質量%,および,繊維長2mm未満の強化繊維が0?50質量%から構成されていることを特徴とする,請求項13に記載のプリプレグ。
【請求項15】
前記強化繊維基材を構成する強化繊維がの二次元配向角の平均値が10?80度であることを特徴とする,請求項14に記載のプリプレグ。
【請求項16】
前記強化繊維基材を構成する強化繊維の繊維長の分布が少なくとも2つのピークを有し,一方のピークが繊維長5?10mmの範囲にあり,もう一方のピークが2?5mmの範囲にある,請求項15に記載のプリプレグ。
【請求項17】
プリプレグの引張強度σが50?1000MPaである,請求項14?16のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項18】
前記引張強度σが,測定方向における最大引張強度σMaxと最小引張強度σMinとの関係において,σMax≦σMin×2である,請求項14?17のいずれかに記載のプリプレグ。」

第4 当審が通知した取消理由の概要

1 取消理由(決定の予告)の概要

理由1「本件訂正発明1ないし8,10,12ないし18は,取消理由で通知した甲第1号証に記載された発明及び甲第1,2,4,7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであって,同法第113号第2項に該当し,それらの特許は取り消すべきものである。」

甲第1号証:国際公開第2009/069649号(以下,「甲1」という。)
甲第2号証:国際公開第2005/092972号(以下,「甲2」という。)
甲第4号証:特開2005-125581号公報(以下,「甲4」という。)
甲第7号証:特開2010-235779号公報(以下,「甲7」という。)

(甲1,2,4,7は,平成29年10月4日に申立人が提出した特許異議申立書(以下,「特許異議申立書」という。)に甲第1,2,4,7号証として添付されたものである。)

なお,当該該取消理由(決定の予告)は,平成30年3月16日にされた訂正の請求により訂正された本件特許の請求項1ないし10,12ないし18に係る発明に対して通知したものである。

2 取消理由1回目の概要

理由1「本件特許の請求項1?8,12?18に係る発明は,甲1に記載された発明及び甲1,2,4,7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであって,同法第113号第2項に該当し,それらの特許は取り消すべきものである。」

理由2「本件特許発明1?8,12?18は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから,それらの発明に係る特許は同法第113条第4号に該当し,取り消すべきものである。」

第5 取消理由に対する当審の判断

1 取消理由(決定の予告)について

(1)取消理由1(進歩性)について

ア 甲1に記載された事項
(なお、下線は、当審が付したものである。以下同じ。)

(ア)
「請求の範囲
[1]
カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィン系樹脂(A)と,カルボジイミド基含有化合物(B)とを反応させて得られる変性ポリオレフィンであって,該変性ポリオレフィン100グラムに対しカルボジイミド基の含量が1?200mmolであることを特徴とするフィラー強化樹脂用助剤。
[2]
カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィン系樹脂(A)が下記式(1)を満たす重合体である,請求項1に記載のフィラー強化樹脂用助剤。
[数1]
0.1<Mn/{(100-M)×f/M}<6 (1)
(式中,
f:カルボジイミド基と反応する基を有する化合物(a)の分子量(g/mol)
M:カルボジイミド基と反応する基を有する化合物(a)の含有量(wt%)
Mn:カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィン系樹脂(A)の数平均分子量
である。)
[3]
カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィン系樹脂(A)が,マレイン酸基を有するポリオレフィン系樹脂(A)であることを特徴とする請求項1または2に記載のフィラー強化樹脂用助剤。
[4]
請求項1?3のいずれかに記載のフィラー強化樹脂用助剤を未変性ポリオレフィン(D)の存在下でフィラーと反応させて得られるフィラー強化樹脂用助剤組成物。
[5]
フィラー強化樹脂用助剤(C)またはフィラー強化樹脂用助剤組成物(E)を0.01?50重量部,ポリプロピレン系樹脂(F)を20?99重量部,フィラー(G)を1?80重量部(ただし,(F)と(G)の合計を100重量部とする)含有してなるフィラー強化樹脂組成物。
[6]
フィラー(G)が炭素繊維であることを特徴とする請求項5に記載のフィラー強化樹脂組成物。
[7]
請求項5または請求項6に記載のフィラー強化樹脂組成物を成形してなる成形品。
[8]
カルボジイミド変性ポリオレフィン系樹脂,ポリプロピレン系樹脂及び炭素繊維を含有してなるフィラー強化樹脂組成物であって,フィラー強化樹脂組成物中の樹脂成分に含まれるカルボジイミド基の含量が,該樹脂成分100gに対し,0.0001?140mmolであることを特徴とするフィラー強化樹脂組成物。
[9]
請求項8に記載のフィラー強化樹脂組成物を成形してなる成形品。」

(イ)
「[0001]
本発明は,新規なフィラー強化樹脂用助剤,フィラー強化ポリプロピレン樹脂組成物およびその成形品に関する。さらに詳しくは,本発明は,カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィン系樹脂と,カルボジイミド基含有化合物とを反応させて得られるフィラー強化樹脂用助剤,および該助剤を含むフィラー強化ポリプロピレン樹脂組成物,およびそのフィラー強化ポリプロピレン樹脂組成物を成形してなる優れた機械物性を有する成形品に関する。

背景技術
[0002]
ポリプロピレン,ポリエチレンなどのポリオレフィンは,種々の方法により成形され,多方面の用途に供されている。しかしながら,ポリオレフィン,特にポリプロピレンは,用途によって,耐熱性や,剛性,強度が十分でない場合があり,その場合,例えばタルクやガラスファイバーなどのフィラーで補強される。しかしながら,フィラーの分散が不十分だったり,フィラーとポリプロピレンとの接着性が低いことなどにより,フィラーの補強効果が十分でない場合が多い。そのため,溶融コンパウンドの際に各種シランカップリング剤やチタネート系カップリング剤を添加したり,高級脂肪酸などでフィラーの表面を処理したりする場合もあるが,その効果は十分であるとはいえない。」

(ウ)
「[0004]
また,炭素繊維をより分散させて補強効果を向上させようとする試みがなされている。例えば,特許文献2では,サイジング剤で処理した炭素繊維を無水マレイン酸変性ポリプロピレンで処理した炭素繊維樹脂組成物を開示している。しかしながら,含浸性は向上しているものの,強度は相変わらず不足していた。その改善策として,無水マレイン酸変性ポリプロピレンに代えて,アミノ基又はエポキシ基で変性したポリオレフィン樹脂を含有する組成物を用いることが試みられている(例えば,特許文献3,特許文献4)が,実用強度としては未だ不十分である。」

(エ)
「[0006]
本発明の課題は,フィラー含有ポリプロピレンにおいて,フィラーの補強性や分散性を向上させることのできるフィラー強化樹脂用助剤,組成物を成形した場合に耐衝撃性や曲げ強度などの機械物性に優れた成形品を得ることを可能とするフィラー強化ポリプロピレン樹脂組成物を提供することである。」

(オ)
「[0013]
本発明のカルボジイミド変性ポリオレフィン系樹脂であるフィラー強化樹脂用助剤(C)は,カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィン系樹脂(A)と,カルボジイミド基含有化合物(B)とを反応させて得られる変性ポリオレフィンであって,該変性ポリオレフィン100グラムに対しカルボジイミド基の含量が1?200mmolであることを特徴とするフィラー強化樹脂用助剤(C)である。
[0014]
また,本発明のフィラー強化樹脂用助剤組成物(E)は,カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィン系樹脂(A)と,カルボジイミド基含有化合物(B)とを未変性ポリオレフィン(D)の存在下で反応させて得られる。
[0015]
そして,本発明のフィラー強化樹脂組成物(H)は,フィラー強化樹脂用助剤(C)またはフィラー強化樹脂用助剤組成物(E),ポリプロピレン系樹脂(F),フィラー(G)を含有してなる組成物である。」

(カ)
「[0017]
カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィン系樹脂(A)
本発明に用いられるカルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィン系樹脂(A)は,ポリオレフィンに,カルボジイミド基と反応する基を有する化合物(a)を導入することにより得ることができる。
[0018]
カルボジイミド基と反応する基を有する化合物(a)としては,カルボジイミド基との反応性を有する活性水素を持つ基を有する化合物が挙げられ,具体的には,カルボン酸,アミン,アルコ-ル,チオ-ル等から由来する基を持つ化合物である。これらの中では,カルボン酸から由来する基を持つ化合物が好適に用いられ,中でも特に不飽和カルボン酸および/またはその誘導体が好ましい。また,活性水素を持つ基を有する化合物以外でも,水などにより容易に活性水素を有する基に変換される基を有する化合物も好ましく使用することができ,具体的にはエポキシ基,グリシジル基を有する化合物が挙げられる。本発明において,カルボジイミド基と反応する基を有する化合物(a)は,1種単独で用いても,2種以上を併用してもよい。
[0019]
本発明において,カルボジイミド基と反応する基を有する化合物(a)として不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を用いる場合,カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物,無水カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物およびその誘導体を挙げることができ,不飽和基としては,ビニル基,ビニレン基,不飽和環状炭化水素基などを挙げることができる。前記誘導体の具体例としては,アクリル酸,メタクリル酸,マレイン酸,フマル酸,テトラヒドロフタル酸,イタコン酸,シトラコン酸,クロトン酸,イソクロトン酸,ノルボルネンジカルボン酸,ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸などの不飽和カルボン酸,またはこれらの酸無水物あるいはこれらの誘導体(例えば酸ハライド,アミド,イミド,エステルなど)が挙げられる。具体的な化合物の例としては,塩化マレニル,マレニルイミド,無水マレイン酸,無水イタコン酸,無水シトラコン酸,テトラヒドロ無水フタル酸,ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸無水物,マレイン酸ジメチル,マレイン酸モノメチル,マレイン酸ジエチル,フマル酸ジエチル,イタコン酸ジメチル,シトラコン酸ジエチル,テトラヒドロフタル酸ジメチル,ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸ジメチル,ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ-ト,ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ-ト,グリシジル(メタ)アクリレ-ト,メタクリル酸アミノエチルおよびメタクリル酸アミノプロピルなどを挙げることができる。
[0020]
カルボジイミド基と反応する基を有する化合物(a)として不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を使用する場合には,1種単独で使用することもできるし,2種以上を組み合せて使用することもできる。これらの中では,無水マレイン酸,(メタ)アクリル酸,無水イタコン酸,無水シトラコン酸,テトラヒドロ無水フタル酸,ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸無水物,ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ-ト,グリシジルメタクリレ-ト,メタクリル酸アミノプロピルが好ましい。更には,無水マレイン酸,無水イタコン酸,無水シトラコン酸,テトラヒドロ無水フタル酸,ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸無水物などのジカルボン酸無水物であることが特に好ましい。
[0021]
カルボジイミド基と反応する基を有する化合物(a)をポリオレフィンに導入する方法としては,周知の方法を採用することが可能であるが,例えば,ポリオレフィン主鎖にカルボジイミド基と反応する基を有する化合物(a)をグラフト共重合する方法や,オレフィンとカルボジイミド基と反応する基を有する化合物(a)をラジカル共重合する方法等を例示することができる。」

(キ)
「[0046]
カルボジイミド基含有化合物(B)
本発明に用いられるカルボジイミド基含有化合物(B)は,下記一般式(4)で示される繰り返し単位を有するポリカルボジイミドである。
[0047]
[化1]
-N=C=N-R_(1)-
[0048]
〔式中,R_(1)は2価の有機基を示す〕
ポリカルボジイミドの合成法は特に限定されるものではないが,例えば有機ポリイソシアネ-トを,イソシアネ-ト基のカルボジイミド化反応を促進する触媒の存在下で反応させることにより,ポリカルボジイミドを合成することができる。
[0049]
本発明で用いられるカルボジイミド基含有化合物(B)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めたポリスチレン換算数平均分子量(Mn)は,通常400?500,000,好ましくは1,000?10,000,更に好ましくは2,000?4,000である。数平均分子量(Mn)がこの範囲にあると,フィラーの補強性や分散性の向上効果に優れたフィラー強化樹脂用助剤(C)が得られるため好ましい。
[0050]
本発明に用いられるカルボジイミド基含有化合物(B)は,ポリカルボジイミド中にモノカルボジイミドを含んでもよく,単独又は複数のカルボジイミド基含有化合物を混合して使用することも可能である。
[0051]
なお,市販のカルボジイミド基含有化合物をそのまま使用することも可能である。市販のカルボジイミド基含有化合物としては,日清紡績株式会社製 カルボジライトHMV-8CAやLA1(いずれも商品名)などが挙げられる。
[0052]
カルボジイミド基含有化合物(B)および得られたフィラー強化樹脂用助剤(C)におけるカルボジイミド基含有量は,^(13)C-NMR,IR,滴定法等により測定でき,カルボジイミド当量として把握することが可能である。^(13)C-NMRでは130から142ppm,IRでは2130?2140cm^(-1)にピ-クを観察することが可能である。
[0053]
^(13)C-NMR測定は,たとえば次のようにして行われる。すなわち,試料0.35gをヘキサクロロブタジエン2.0mlに加熱溶解させる。この溶液をグラスフィルター(G2)で濾過した後,重水素化ベンゼン0.5mlを加え,内径10mmのNMRチューブに装入する。そして日本電子製GX-500型NMR測定装置を用い,120℃で^(13)C-NMR測定を行う。積算回数は,10,000回以上とする。
[0054]
IR測定は,例えば,次のようにして行われる.すなわち,試料を250℃,3分で熱プレスシ-トを作製した後に,赤外分光光度計(日本分光製,FT‐IR 410型)を用いて透過法で赤外吸収スペクトルを測定する。測定条件は,分解能を2cm^(-1),積算回数を32回とする。」

(ク)
「[0066]
また,本発明のフィラー強化樹脂用助剤(C)は,上記のようにカルボジイミド基含有化合物(B)のカルボジイミド基(N=C=N)がカルボジイミド基と反応する基を有する化合物(a)と反応することで製造されるが,反応の過程である程度のカルボジイミド基が消費され,ポリオレフィンと同一分子鎖としてつながっているカルボジイミド基の残基がフィラーと相互作用し,補強性や分散性に寄与する。このカルボジイミド残基量は,IR測定で2130から2140cm^(-1)にあるN=C=N基の収縮振動に起因するものでピ-クの大きさとして捉えることが可能である。」

(ケ)
「[0085]
フィラー(G)
本発明で用いられるフィラーとしては,無機フィラーおよび有機フィラーが挙げられる。無機フィラーとしては,シリカ,珪藻土,アルミナ,酸化チタン,酸化マグネシウム,軽石粉,軽石バルーン,水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウム,塩基性炭酸マグネシウム,ドロマイト,硫酸カルシウム,チタン酸カルシウム,硫酸バリウム,亜硫酸カルシウム,タルク,クレー,マイカ,アスベスト,ガラス繊維,ガラスフレーク,ガラスビーズ,ケイ酸カルシウム,モンモリロナイト,ベントナイト,ボロン繊維,炭素繊維,カーボンブラック,カーボンナノファイバー,アルミニウム粉,硫化モリブデンなどが挙げられる。さらには,上記に例示したような無機フィラーに対し,有機物を化学的に結合させたものも挙げられる。
[0086]
有機フィラーとしては,全芳香族ポリアミド繊維,脂肪族ポリアミド繊維,ポリエステル繊維,セルロース繊維などの繊維や,液晶ポリエステル,ポリアミドなどの微分散体などが挙げられる。さらには植物を繊維状あるいは粉体状に分解処理したものも挙げられる。
[0087]
また,樹脂の強化に効果的なフィラーとして炭素繊維が挙げられる。炭素繊維としては従来公知の種々の炭素繊維を使用することができる。具体的には,ポリアクリルニトリル系,レーヨン系,ピッチ系,ポリビニルアルコール系,再生セルロース,メゾフェーズピッチから製造されたピッチ系等の炭素繊維が挙げられる。
[0088]
炭素繊維の繊維径は,好ましくは3?30μmであり,さらに好ましくは4?10μmである。繊維径が過小であると,繊維が破損しやすいため,強化繊維束の生産性が低下することがある。また,ペレットを連続製造するときに,繊維を多数本束ねなければならなくなり,繊維束をつなぐ煩雑な手間が必要となり,生産性が低下するため好ましくない。また,ペレット長が決まっている場合は繊維径が過大であると,繊維のアスペクト比が低下することとなり,補強効果が充分発揮されなくなることがあることから好ましくない。アスペクト比は5?6000が好ましい。アスペクト比が過小であると強度が低下し,大きすぎると成形性が低下する恐れがある。炭素繊維のアスペクト比は,平均繊維径と平均繊維長から,平均繊維長/平均繊維径によって求めることができる。
[0089]
炭素長繊維の原料としては,連続状繊維束が用いられる。通常,その平均繊維径は3?30μm,フィラメント集束本数は500?24,000本である。好ましくは平均繊維径4?10μm ,集束本数6,000?15,000本である。
[0090]
他に,炭素繊維として,チョップドストランドを用いることもできる。このチョップドストランドの長さは,通常1?20mm,繊維の径は3?30μm程度,好ましくは4?10μmのものである。
[0091]
本発明の組成物を構成する炭素繊維の繊維長は,通常,0.05?200mm ,好ましくは0.2?50mm,より好ましくは4?20mmである。
[0092]
平均アスペクト比(繊維長/繊維径)は,通常,5?6000,好ましくは30?3000,より好ましくは100?2000である。
[0093]
炭素繊維は,互いにほぼ同じ長さ,特に2?200mm,好ましくは4?20mmの長さで平行に配列していることが好ましい。
[0094]
炭素繊維の表面は,酸化エッチングや被覆等で表面処理を行ったものが好ましい。酸化エッチング処理としては,空気酸化処理,酸素処理,酸化性ガスによる処理,オゾンによる処理,コロナ処理,火炎処理,(大気圧)プラズマ処理,酸化性液体(硝酸,次亜塩素酸アルカリ金属塩の水溶液,重クロム酸カリウム-硫酸,過マンガン酸カリウム-硫酸)等が挙げられる。炭素繊維を被覆する物質としては,炭素,炭化珪素,二酸化珪素,珪素,プラズマモノマー,フェロセン,三塩化鉄等が挙げられる。
[0095]
本発明に係るフィラー(G)は,2種以上のフィラーを使用してもよい。
[0096]
フィラー強化樹脂組成物(H)
本発明のフィラー強化樹脂組成物(H)は,フィラー強化樹脂用助剤(C)またはフィラー強化樹脂用助剤組成物(E),ポリプロピレン系樹脂(F),フィラー(G)を含有してなる組成物である。具体的には,溶融混練することにより得ることが可能であるが,この方法に限定されるものではない。
[0097]
以下に,溶融混練する場合の例を示す。フィラー強化樹脂用助剤(C)またはフィラー強化樹脂用助剤組成物(E),ポリプロピレン系樹脂(F),フィラー(G)を同時に,または逐次的に,たとえばヘンシェルミキサー,V型ブレンダー,タンブラーブレンダー,リボンブレンダーなどに装入して混練した後,単軸押出機,多軸押出機,ニーダー,バンバリーミキサーなどで溶融混練することによって得られる。これらのうちでも,多軸押出機,ニ-ダ-,バンバリーミキサーなどの混練性能に優れた装置を使用すると,各成分がより均一に分散・反応された重合体組成物を得ることができるため好ましい。
[0098]
フィラー強化樹脂用助剤(C)またはフィラー強化樹脂用助剤組成物(E),ポリプロピレン系樹脂(F),フィラー(G)は,予め混合した後にホッパ-から供給する方法,一部の成分をホッパ-から供給し,ホッパ-部付近から押出機先端の間の任意の部分に設置した供給口よりその他の成分を供給する方法のいずれの方法を取ることも可能である。
[0099]
上記各成分を溶融混練する際の温度は,混合する各成分の融点のうち,最も高い融点以上で反応させることができるが,具体的には通常は150?300℃,好ましくは200?280℃,の範囲で溶融混練を行う。
[0100]
その他の方法としては,例えば,以下のような方法が挙げられるが,これに限定されるものではない。
1)マレイン化ポリプロピレン(以下,ポリプロピレンをPPともいう)とポリカルボジイミドを,PP2とフィラーに所定量ドライブレンドし,混練しても良い。(出光公開特許:2005-213478のような一括添加法)
2)あらかじめフィラーにポリカルボジイミドを含浸処理,或いは表面にコーティング処理した後に,これとPPとマレイン化PPとを混練しても良い。(含浸処理,或いは表面にコーティング処理の方法としては,溶融したポリカルボジイミドをフィラー表面に被覆する,あるいはポリカルボジイミド溶液にフィラーを浸し,フィラー表面をコーティングするなどが考えられる。)
3)上記同様,カルボジイミド変性PP2(本件にある助剤そのもの)をあらかじめフィラーに含浸処理,或いは表面にコーティング処理した後に,これとPPとを混練しても良い。(含浸処理,或いは表面にコーティング処理の方法としては,溶融したカルボジイミド変性PPをフィラー表面に被覆する,あるいは良溶媒(例:キシレン)に溶かしたカルボジイミド変性PP溶液にフィラーを浸し,フィラー表面をコーティングするなどが考えられる。)
4)あらかじめPPとカルボジイミド変性PP(本件にある助剤そのもの)の組成物を製造し,この溶融樹脂をフィラーに被覆させ,フィラー強化樹脂としても良い。
[0101]
本発明のフィラー強化樹脂組成物(H)は,フィラー強化樹脂用助剤(C)またはフィラー強化樹脂用助剤組成物(E)を通常,0.01?50重量部,好ましくは0.05?30重量部,更に好ましくは0.1?20重量部,ポリプロピレン系樹脂(F)を通常,20?99重量部,好ましくは30?95重量部,更に好ましくは50?90重量部,フィラー(G)を通常,1?80重量部,好ましくは5?70重量部,更に好ましくは10?50重量部,それぞれ含有してなる組成物である(ただし,(F)と(G)の合計を100重量部とする)。
[0102]
本発明のフィラー強化樹脂組成物(H)は,カルボジイミドと反応する基を有する化合物(a)の含量が,通常0.00001?4.0重量%,好ましくは0.00005?3.0重量%,さらに好ましくは0.0001?2.0重量%である。この場合,カルボジイミド基の含量は,フィラー強化樹脂組成物(H)100グラムに対して,通常0.0001?80mmol,好ましくは0.0005?60mmol,さらに好ましくは0.001?40mmolである。
[0103]
また,本発明のフィラー強化樹脂組成物(H)における樹脂組成中のカルボジイミドと反応する基を有する化合物(a)の含量は,通常0.00001?7.0重量%,好ましくは0.00005?5.0重量%,さらに好ましくは0.0001?3.0重量%である。この場合,カルボジイミド基の含量は,フィラー強化樹脂組成物(H)における樹脂組成100グラムに対して,通常0.0001?140mmol,好ましくは0.0005?100mmol,さらに好ましくは0.001?60mmolである。なお,フィラー強化樹脂組成物(H)における樹脂組成は,樹脂組成成分を溶解させて分離することで回収できる。
[0104]
このような方法で得られたフィラー強化樹脂組成物(H)は,フィラーがポリオレフィン系樹脂中に非常に良好に分散しており,かつポリオレフィン系樹脂とフィラーとの界面の接着性に優れ,耐衝撃性,剛性,耐熱性などの機械物性バランスに優れる。
[0105]
例えば,フィラー強化樹脂組成物(H)におけるフィラー(G)が炭素繊維の場合,その割合が1重量部未満では,炭素繊維による樹脂の強化効果が現れず,80重量部を超えると,靱性が失われる場合がある。
[0106]
また,フィラー強化樹脂組成物(H)におけるフィラー(G)が炭素繊維の場合,炭素繊維強化エンジニアリングプラスチック並みの強度でありながら,軽量化が可能な複合材料を得ることができ,且つ成形時の流動性が良く,製品の薄肉化などに適するなどの利点がある。
[0107]
本発明に係るフィラー強化樹脂組成物(H)は,2種以上のフィラー強化樹脂用助剤(C)またはフィラー強化樹脂用助剤組成物(E)を含んでいてもよく,2種以上のポリプロピレン系樹脂(F)を含んでいてもよく,さらに2種以上のフィラー(G)を含んでもよい。
[0108]
また,本発明のフィラー強化樹脂組成物(H)には,本発明の目的を損なわない範囲で,公知の軟化剤,粘着付与剤,老化防止剤,加工助剤,密着性付与剤,耐熱安定剤,耐候安定剤,帯電防止剤,着色剤,滑剤,難燃剤,ブルーミング防止剤等を添加することも可能である。
[0109]
成形品(I)
成形品(I)は,フィラー強化樹脂組成物(H)をそのまま,あるいは希釈材とドライブレンドして成形することで得られる。成形方法は公知のあらゆる方法が可能である。具体的には射出成形,ブロー成形,プレス成形,カレンダー成形,押出成形,スタンピングモールド成形等で製造することができる。押出成形では,シートまたはフィルム(未延伸),パイプ,チューブ,電線などを成形することができる。特に射出成形法,プレス成形法が好ましい。」

(コ)
「[0116]
このような方法により得られる成形体は,家庭用品から工業用品に至る広い用途で用いられる。このような方法により得られる成形体としては,電気部品,電子部品,自動車用部品,機械機構部品,食品容器,フィルム,シート,繊維などが挙げられ,より具体的には,例えば,プリンター,パソコン,ワープロ,キーボード,PDA(小型情報端末機),電話機,ファクシミリ,複写機,ECR(電子式金銭登録機),電卓,電子手帳,電子辞書,カード,ホルダー,文具等の事務・OA機器;洗濯機,冷蔵庫,掃除機,電子レンジ,照明器具,ゲーム機,アイロン,炬燵などの家電機器;TV,VTR,ビデオカメラ,ラジカセ,テープレコーダー,ミニディスク,CDプレイヤー,スピーカー,液晶ディスプレイなどのAV機器;コネクター,リレー,コンデンサー,スイッチ,プリント基板,コイルボビン,半導体封止材料,電線,ケーブル,トランス,偏向ヨーク,分電盤,時計などの電気・電子部品および通信機器などが挙げられる。」

(サ)
「実施例
[0119]
以下,実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが,本発明はその要旨を越えない限りこれらの実施例になんら制約されるものではない。
[0120]
(各種測定方法)
本実施例等においては,以下の方法に従って測定を実施した。
[0121]
[メルトフローレート(MFR)]
ASTM D1238に従い,2.16荷重の下,190℃または230℃にて測定を実施した。
[0122]
[数平均分子量(Mn)]
数平均分子量(Mn)はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。Waters社製ゲル浸透クロマトグラフAlliance GPC-2000型を用い,以下のようにして測定した。分離カラムは,TSKgel GMH6- HTを2本およびTSKgel GMH6- HTLを2本使用し,カラムサイズはいずれも直径7.5mm,長さ300mmであり,カラム温度は140℃とし,移動相にはo-ジクロロベンゼン(和光純薬工業)および酸化防止剤としてBHT(武田薬品)0.025重量%を用い,1.0ml/分で移動させ,試料濃度は15mg/10mLとし,試料注入量は500マイクロリットルとし,検出器として示差屈折計を用いた。標準ポリスチレンは,分子量がMw<1000およびMw>4×10^(6)については東ソー社製を用い,1000≦Mw≦4×10^(6)についてはプレッシャーケミカル社製を用いた。無水マレイン酸変性ポリプロピレンにおいては,ポリプロピレン換算により算出した。
[0123]
[カルボジイミド基含有量]
カルボジイミド基含有量は,試料を250℃,3分で熱プレスシ-トを作製した後に,赤外分光光度計(日本分光製,FT‐IR 410型)を用いて透過法で赤外吸収スペクトルを測定して求めた。測定条件は,分解能を2cm^(-1),積算回数を32回とした。
[0124]
[密度(D)]
密度(D)は,得られた成形品の切片を密度勾配管で測定した。
[0125]
[アイゾット衝撃強度(IZOD)]
ASTM D256に従い,厚さ1/8インチの射出成形試験片(加工ノッチ,および切削ノッチ)を用いて,23℃雰囲気下で測定した。
[0126]
[曲げ強さ(FS),曲げ弾性率(FM)]
長さ2.5インチ,幅1/2インチ,厚さ1/8インチの射出成形試験片を用いて,スパン48mm,圧縮速度5mm/分,23℃雰囲気下で3点曲げ試験をおこない測定した。
[0127]
[熱変形温度(HDT)]
ASTM D648に従い,厚さ1/8インチの射出成形試験片を用いて,荷重9.6kg/cm^(2)にて測定した。
[0128]
(使用したポリオレフィン)
実施例及び比較例において使用したポリオレフィンを以下に示す。尚,特に断らない限りはいずれも市販品を使用した。
[0129]
PP1 :ポリプロピレン(ランダムPP)
(商品名F327,プライムポリマー社製,MFR(230℃)7g/10分)
PP2 :ポリプロピレン(ホモPP)
(商品名J106G,プライムポリマー社製,MFR(230℃)15g/10分)
E/GMA:エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体
(商品名ボンドファーストE,住友化学社製,MFR(190℃)3g/10分,グリシジルメタクリレート含量12重量%)
(使用した炭素繊維)
実施例及び比較例において使用した炭素繊維を以下に示す。尚,特に断らない限りはいずれも東邦テナックス社製のPAN系チョップドファイバー(繊維長6mm,繊維径6μm)を使用した。
[0130]
CF1 :商品名HTA-C6-S
CF2 :商品名HTA-C6-NR
CF3 :商品名HTA-C6-UH
(実施例1)
<カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィン系樹脂の製造>
PP1(プライムポリマー社製,F327)100重量部に,無水マレイン酸(和光純薬社製。以下,MAHと略記)1重量部,2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3(日本油脂社製,商品名パーヘキシン25B)0.25重量部を混合し,二軸混練機(日本製鋼所製,TEX-30,L/D=40,真空ベント使用)を用いてシリンダー温度220℃,スクリュ-回転数200rpm,吐出量80g/分にて押し出し,マレイン酸変性ポリプロピレン(以下,MAH-PP1と略記)を得た。得られたMAH-PP1をキシレンに溶解し,次いで得られたキシレン溶液をアセトンに注ぐことで,MAH-PP1を再沈させて精製し,無水マレイン酸のグラフト量をIRにて測定したところ0.7重量%であった。数平均分子量(Mn)はGPCにて測定したところ,Mn28,000であった。
[0131]
また,MAH-PP1について,Mn/{(100-M)×f/M}の値は,2.0である。
(式中,
f :無水マレイン酸の分子量98(g/mol)
M :無水マレイン酸の含有量0.7(wt%)
Mn:MAH-PP1の数平均分子量28,000
である。)
<フィラー強化樹脂用助剤の製造>
上記で製造したMAH-PP1を100重量部,カルボジイミド基含有化合物(日清紡社製,商品名カルボジライトHMV-8CA,カルボジイミド基当量278,数平均分子量2500)を8.8重量部,それぞれ混合し,二軸混練機(日本製鋼所製,TEX-30,L/D=40,真空ベント使用)を用いてシリンダー温度250℃,スクリュ-回転数200rpm,吐出量80g/分にて押し出し,フィラー強化樹脂用助剤(以下,CDI-PP1と略記)を得た。得られたCDI-PP1は,MFR(230℃,2.16kg荷重)は130g/10分であった。尚,IR分析によれば,マレイン酸ピークが消失していたことから反応率は100%であり,カルボジイミド基含有量は27mmol/100gであった。
[0132]
<フィラー強化樹脂組成物の製造>
上記で製造したCDI-PP1を0.5重量部,PP2(プライムポリマー社製,J106G)を80重量部,CF1を20重量部それぞれ混合し,二軸混練機(テクノベル社製,KZW-15,L/D=30)を用いてシリンダー温度230℃,スクリュ-回転数200rpm,吐出量30g/分にて押し出し,フィラー強化樹脂組成物を得た。フィラー強化樹脂組成物を製造するための配合処方を表1に示す。 」

(シ)
「[0161]
[表1]




イ 甲2に記載された事項

(ア)
「[0019]
また,炭素繊維は,表面処理,特に電解処理されたものが好ましい。表面処理剤としては,例えば,エポキシ系サイジング剤,ウレタン系サイジング剤,ナイロン系サイジング剤,オレフィン系サイジング剤等が挙げられる。表面処理することによって,引張り強度,曲げ強度が向上するという利点が得られる。上記表面処理された炭素繊維は,市販品を用いてもよく,その具体例としては,例えば,東邦テナックス社製の,ベスファイト(登録商標)・チョップドファイバーHTA-C6-SRS,HTA-C6-S,HTA-C6-SR,HTA-C6-E(以上,エポキシ系サイジング剤で処理されたもの),HTA-C6-N,HTA-C6-NR,HTA-C6-NRS(以上,ナイロン系サイジング剤で処理されたもの),HTA-C6-US,HTA-C6-UEL1,HTA-C6-UH,MC HTA-C6-US(以上,ウレタン系サイジング剤で処理されたもの);三菱レイヨン社製の,パイロフィル(登録商標)チョップドファイバーTR066,TR066A(以上,エポキシ系サイジング剤で処理されたもの),TR068(エポキシ-ウレタン系サイジング剤で処理されたもの),TR06U(ウレタン系サイジング剤で処理されたもの),TR06NE(ポリアミド系サイジング剤で処理されたもの),TR06G(水溶性サイズされたもの)等が挙げられる。」

ウ 甲4に記載された事項

(ア)
「【0002】
ポリオレフィンの強度を向上させるための手段として,強化用繊維を配合することが知られており,一般には,ポリオレフィンとチョップドストランド等の短繊維を混合し押出機で押し出すことにより繊維強化されたポリオレフィン樹脂組成物の製造が行われている。
かかる方法によれば,かなり高度の機械的強度を有する繊維強化ポリオレフィン樹脂組成物が極めて容易に得られるという利点を有する。しかしながら近年は,樹脂に対してさらに高度の機械的強度が求められる傾向にあり,押出機での混練中に繊維の折損が避けられない上記の如き繊維強化樹脂組成物の製造方法では,この要求に応えることはできない。
これに対し,上記の如き欠点を改善し,繊維の折損を起こすことなく長繊維で強化された熱可塑性樹脂組成物を製造する方法として,引き抜き成形が注目されており,特開平3-121146号公報には,連続したガラス繊維をクロスヘッドダイを通して引きながら溶融樹脂で含浸する方法が記載されている。(特許文献1参照)。
しかしながら,上記技術は実際上ガラス繊維に関するものであり,炭素繊維に関しては具体的な記載はない。一般に,炭素繊維にポリオレフィンを含浸させる場合には,両者の親和性が低く,樹脂の含浸性,炭素繊維との密着性は不十分なものとなり,期待される程の強度等の向上はできない。また,得られたペレットから炭素繊維がほぐれ易いという欠点も有する。」

(イ)
「【0006】
本発明の目的は,炭素繊維強化ポリオレフィン系樹脂の強度等の物性向上,並びにそれに使用する樹脂ペレット及びその製造方法を確立することを目的とする。」

(ウ)
「【0007】
本発明者は,例えば,酸基含有量の多いマレイン酸変性ポリプロピレンを,エポキシ系サイジング剤で表面処理した強化炭素長繊維に,特定の温度で含浸して得られた樹脂ペレットは,炭素繊維と変性ポリプロピレンが強固に結合することにより,また樹脂ペレット中の炭素繊維の長さが十分に長く,該ペレットを使用して射出成形を行った時においても炭素繊維が折損しにくく,成形品の機械的物性が著しく向上することを見出し本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち,本発明の第1は,酸量が,無水マレイン酸換算で,平均で0.05?0.5重量%である酸基含有ポリオレフィン系樹脂(A)を,酸基と反応し得る官能基を有するサイジング剤(s)で表面処理された炭素繊維に,酸基含有ポリオレフィン系樹脂(A)と炭素繊維の合計中の炭素繊維の重量比率が5重量%以上,50重量%未満となるように含浸してなる炭素長繊維強化樹脂ペレットであり,該ペレットの長さ方向に炭素長繊維(B)が同一長さで平行配列しており,該炭素長繊維(B)の長さが4?50mmである炭素長繊維強化樹脂ペレットを提供する。・・・(略)・・・。
【0009】
本発明によれば,特定のサイジング剤処理による炭素繊維に酸基含有ポリオレフィン系樹脂を効果的に含浸させ,且つペレット中の炭素繊維の長さをできる限り長く維持させることにより,成形品中の炭素繊維が折損しにくく,機械的物性の向上した成形品が得られる。」

(エ)
「【0015】
炭素繊維
次に,本発明で用いられるサイジング剤(s)で表面処理された炭素繊維の素材としては,ポリアクリロニトリル(PAN)系,ピッチ系,レーヨン系等の炭素繊維が挙げられ,好ましくはPAN系である。
炭素繊維は,多数の単糸が集束されたロービング状のものが市販されており,太さ,数,及び長さには特に制限はないが,一般に単糸径で7.5μm以下,好ましくは6μm以下,さらに好ましくは5.5μm以下のものが利用できる。
炭素繊維は,一般に,各種マトリックス樹脂との複合強化材料として利用され,マトリックス樹脂との接着性を良好にするために,電解処理や活性ガスによる気相表面処理などの表面活性化処理により表面にヒドロキシル基,カルボキシル基,アミノ基などの官能基が導入されているものが好ましい。・・・(略)・・・。」

(オ)
「【0016】
(s)サイジング剤
本発明に係る炭素繊維は酸基と反応し得る官能基を有する官能基を有するサイジング剤(s)により表面処理され,酸基含有ポリオレフィン系樹脂(A)の酸基と加熱反応させることにより,マトリックス樹脂としての樹脂(A)と強化材としての炭素繊維との間に良好な接着が生じ,複合強化材料として,機械的強度に優れたものになる。
本発明に係るサイジング剤(s)としては,分子内に有する官能基の種類により,エポキシ系などが挙げられる。酸と反応しないもの又は分解するものは好ましくない。
【0017】
本発明に係るサイジング剤として複数のエポキシ基を有する脂肪族化合物を用いることができる。
上記脂肪族化合物とは,非環式直鎖状飽和炭化水素,分岐状飽和炭化水素,非環式直鎖状不飽和炭化水素,分岐状不飽和炭化水素,または上記炭化水素の炭素原子(CH_(3),CH_(2),CH,C)を酸素原子(O),窒素原子(NH,N),硫黄原子(SO_(3)H,SH),カルボニル原子団(CO)に置き換えた鎖状構造の化合物をいう。
また,本発明では,複数エポキシ基を有する脂肪族化合物において,2個のエポキシ基間を結ぶ鎖状構造を構成する炭素原子,複素原子(酸素原子,窒素原子等)の総数のうち最も大きい原子鎖を最長原子鎖といい,最長原子鎖を構成する原子の総数を最長原子鎖の原子数という。なお,最長原子鎖を構成する原子に結合した水素等の原子の数は総数に含めない。
側鎖の構造については特に限定するものではないが,サイジング剤化合物の分子間架橋の密度が大きくなりすぎないように抑えるために,架橋点となりにくい構造が好ましい。
サイジング剤化合物の有するエポキシ基が2つ未満であると,炭素繊維とマトリックス樹脂との橋渡しを有効に行うことができない。従ってエポキシ基の数は,炭素繊維とマトリックス樹脂との橋渡しを有効に行うために2個以上であることが好ましい。一方,エポキシ基の数が多すぎると,サイジング剤化合物の分子間架橋の密度が大きくなり,脆性なサイジング層となって結果としてコンポジットの引張強度が低下してしまうため,好ましくは6個以下,より好ましくは4個以下,さらに好ましくは2個が良い。さらにこの2個のエポキシ基が最長原子鎖の両末端にあるのがより好ましい。すなわち最長原子鎖の両末端にエポキシ基があることにより局所的な架橋密度が高くなることを防ぐので,コンポジット引張強度にとって好ましい。
エポキシ基の構造としては反応性の高いグリシジル基が好ましい。
かかる脂肪族化合物の分子量は,樹脂粘度が低すぎる,あるいは高すぎることにより集束剤としての取り扱い性が悪化するのを防ぐ観点から,80以上3200以下が好ましく,100以上1500以下がより好ましく,200以上1000以下がさらに好ましい。
本発明における複数エポキシ基を有する脂肪族化合物の具体例としては,例えば,ジグリシジルエーテル化合物では,エチレングリコールジグリシジルエーテル及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類,プロピレングリコールジグリシジルエーテル及びポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類,1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル,ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル,ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル,ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル類等が挙げられる。また,ポリグリシジルエーテル化合物では,グリセロールポリグリシジルエーテル,ジグリセロールポリグリシジルエーテル,ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類,ソルビトールポリグリシジルエーテル類,アラビトールポリグリシジルエーテル類,トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル類,ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル類,脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル類等が挙げられる。
好ましくは,反応性の高いグリシジル基を有する脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物である。更に好ましくは,ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル類,ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類,アルカンジオールジグリシジルエーテル類等が好ましい。
複数のエポキシ基を有する脂肪族化合物において,最長原子鎖の原子数が20以上であることが好ましい。すなわち該原子数が20未満ではサイジング層内の架橋密度が高くなるために靭性の低い構造になりやすく,結果としてコンポジット引張強度が発現しにくい場合がある。それに対して最長原子鎖の原子数が大きいとサイジング層が柔軟で靭性の高い構造になりやすいので結果としてコンポジット引張強度が向上しやすく,特に脆い樹脂での引張強度が高いという特長を有するので,より好ましくは最長原子鎖の原子数で25以上,さらに好ましくは30以上がよい。
ただし最長原子鎖の原子数は大きいほど柔軟な構造になるが,長すぎると折れ曲がって官能基を封鎖してしまい,結果として炭素繊維と樹脂との接着力が低下してしまう場合があるので好ましくは,原子数で200以下,より好ましくは100以下がよい。
脂肪族化合物に環状脂肪族骨格を含む場合には,エポキシ基が環状骨格から十分離れていれば,具体的は,原子数で6以上あれば用いることができる。
本発明においては,エポキシ基と芳香環の間の原子数が6以上であるエポキシ基を複数有する芳香族化合物もサイジング剤として用いることができる。エポキシ基と芳香環の間の原子数とは,エポキシ基と芳香環の間を結ぶ鎖状構造を構成する炭素原子,複素原子(酸素原子,窒素原子等),カルボニル原子団の総数をいう。この場合の直鎖状構造としては前記した鎖状構造と同様のものである。
サイジング剤としてエポキシ基と芳香環との間の原子数が6に満たないと,炭素繊維とマトリックス樹脂との界面に剛直で立体的に大きな化合物を介在させることになるため,炭素繊維の最表面に存在する表面官能基との反応性が向上せず,その結果コンポジットの横方向特性の向上が望めない。
アルキリデン基で繋がれた二つのフェノール環,即ちビスフェノールA部またはF部は,マトリックス樹脂との相溶性を向上させる効果と耐毛羽性を向上させる効果がある。
エポキシ基と芳香環の間の原子数が6以上である複数エポキシ基を有する芳香族化合物の骨格が縮合多環芳香族化合物であってもよい。縮合多環芳香族化合物の骨格としては, 例えばナフタレン,アントラセン,フェナントレン,クリセン,ピレン,ナフタセン,トリフェニレン,1,2-ベンズアントラセン,ベンゾピレン等が挙げられる。好ましくは,骨格の小さいナフタレン,アントラセン,フェナントレン,ピレンである。
複数エポキシ基を有する縮合多環芳香族化合物のエポキシ当量は,接着性の向上効果を十分なものとする観点から,150?350,さらには200?300が好ましい。
複数エポキシ基を有する縮合多環芳香族化合物の分子量は,樹脂粘度が高くなって集束剤としての取り扱い性が悪化するのを防ぐ観点から,400?800,さらには400?600が好ましい。」

(カ)
「【0026】
(実施例)
以下,実施例により本発明を説明するが,本発明はこれに限定されるものではない。
原材料酸基含有ポリオレフィン系樹脂(A)
酸変性ポリプロピレン:OREVAC CA100(アトフィナ社製,マレイン酸1.0重量%変性)
上記酸変性ポリプロピレンに混合するポリプロピレン:三井住友ポリオレフィン(株)製,三井住友ポリプロピレンZ101A
サイジング剤処理炭素繊維
サイジング剤処理炭素繊維:東レ(株)製,トレカT700SC-24K-50C(エポキシ系サイジング剤処理)
比較例用サイジング剤処理炭素繊維:東邦テナックス(株)製,ベスファイトSTS-24K-F301(ウレタン系サイジング剤処理)
【0027】
射出成形
装置:(株)日本製鋼所製,J-150E
成形温度(シリンダー温度):235℃
成形品:ISO多目的試験片
【0028】
成形品の物性測定
上記試験片を用い,下記測定を行った。
引張強度:ISO 527-1に準拠
曲げ強度:ISO 178に準拠
【0029】
(実施例1)
連続繊維の通路を波状に加工したクロスヘッドを通して,表1に示すサイジング剤で処理された炭素繊維ロービングを引きながら,表1に示す比率のポリプロピレンとマレイン酸変性ポリプロピレン(表で,酸変性ポリプロピレンと略す)の混合物である酸基含有ポリオレフィン系樹脂をクロスヘッドに接続された押出機から供給して,溶融状態(260℃)で炭素繊維に含浸させた後,賦形ダイを通してストランドとして引取り,細断し,炭素繊維含有量30重量%,長さ11mmのペレットを得た。
表における樹脂合計中の酸量(%)は,無水マレイン酸換算酸量を示す。
得られたペレットを使用して,平板を射出成形し,試験片を切出し,物性測定を行った結果を表1に示す。
【0030】
(実施例2?9)
炭素繊維濃度,酸変性ポリプロピレンの添加比率,ペレット長を表1のように変えた他は,実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0031】
このように,サイジング剤にエポキシ樹脂を用いて表面処理された炭素繊維に,カルボキシル基含有の多いポリオレフィン系樹脂を含浸して,加熱することにより,機械物性の向上した強化成形品が得られる。」

エ 甲7に記載された事項

(ア)
「【請求項1】
強化繊維基材に熱可塑性樹脂が含浸されてなるプリプレグであって,該強化繊維基材が繊維長10mmを越える強化繊維が0?50重量%,繊維長2?10mmの強化繊維が50?100重量%,繊維長2mm未満の強化繊維が0?50重量%から構成され,強化繊維単糸(a)と該強化繊維単糸(a)と交差する強化繊維単糸(b)とで形成される二次元配向角の平均値が10?80度であり,かつ23℃での厚みh0(mm)が0.03?1mm,引張強度σが50?1000MPaであるプリプレグ。
【請求項2】
前記繊維長の分布が少なくとも2つのピークを有し,一方のピークが繊維長5?10mmの範囲内にあり,もう一方のピークが2?5mmの範囲内にある,請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記強化繊維基材の,ASTM D737に基づくフラジール形法で測定される空気量(cm^(3)/cm^(2)・s)が50?1000である,請求項1または2のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記プリプレグの(n×100)℃での厚みhn(mm)が,h0≦hn≦h0×(2n+1)(nは,1,2,3,4から選ばれる少なくとも一つの自然数。)である,請求項1?3のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記強化繊維の割合が5?60重量%である,請求項1?4のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂の含浸率が30?100%である,請求項1?5のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項7】
嵩密度が0.8?1.5である,請求項1?6のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項8】
目付が10?500g/m^(2)である,請求項1?7のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項9】
前記強化繊維が炭素繊維である,請求項1?8のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂が,ポリオレフィン,ポリアミド,ポリアリーレンスルフィド,ポリエーテルエーテルケトン,フッ素系樹脂から選択される少なくとも1種である,請求項1?9のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項11】
前記樹脂が,リン系,窒素系,無機系から選択される少なくとも1種の難燃剤を含有してなる,請求項10に記載のプリプレグ。
【請求項12】
前記引張強度σが,測定方向による最大引張強度σMaxと最小引張強度σMinとの関係において,σMax≦σMin×2である,請求項1?11のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項13】
長尺方向の長さが500mm以上4000m以下である,請求項1?12のいずれかに記載のプリプレグ。」

(イ)
「【0001】
本発明は,繊維強化基材に樹脂が含浸したプリプレグ,およびそれを積層して得られるプリフォームに関し,さらに詳しくは,強化繊維が特定の二次元配向角を有し,特定の厚みを有するプリプレグ,およびそれを積層して得られるプリフォームに関する。」

(ウ)
「【0003】
ここで,炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などFRPの代表的な形態として,プリプレグを積層して得られるプリフォームをプレス成形(加圧力の下で脱泡し賦形する成形方法)した成形品が挙げられる。このプリプレグは,連続した強化繊維を一方向に配列させるか,織物加工させるかをした強化繊維基材に,樹脂を含浸して製造する方法が一般的である。
【0004】
このプリプレグを用いた成形品は優れた力学特性が得られる反面,強化繊維が連続体のまま使用されるために,複雑な形状を成形するには不向きであり,かつプリプレグの積層角度による特性への影響が大きいため,積層工程の経済的負担から,使用用途が制限されている。」

(エ)
「【0018】
本発明の強化繊維基材とは,強化繊維をシート状,布帛状またはウェブ状などの形態に加工した前駆体を意味するものであり,強化繊維間に樹脂の含浸する空隙を有していれば,その形態や形状には特に制限はなく,例えば,強化繊維が有機繊維,有機化合物や無機化合物と混合されていたり,強化繊維同士が他の成分で目留めされていたり,強化繊維が樹脂成分と接着されていたりしてもよい。本発明の強化繊維の二次元配向を容易に製造する観点から,乾式法や湿式法で得られる不織布形態で,強化繊維が十分に開繊され,かつ強化繊維同士が有機化合物で目留めされた基材が好ましい形状として例示できる。」

(オ)
「【0022】
ここで,本発明における強化繊維の繊維長としては,繊維長10mmを越える強化繊維が0?50重量%,繊維長2?10mmの強化繊維が50?100重量%,繊維長2mm未満の強化繊維が0?50重量%から構成されることが重要であり,10mmより長い強化繊維が50重量%を越えると,積層工程ないし成形工程での厚み膨張が大きくなり取扱い性を損なう場合がある。また,2mm未満の強化繊維が50重量%を越えると,得られる成形品の力学特性が低下する場合があるばかりか,プリプレグまたはそれを積層して得られるプリフォームに十分な強度が確保できずに成形性を損なう場合がある。これらの観点から,好ましくは繊維長3?8mmの強化繊維が80?100重量%から構成され,より好ましくは,繊維長の分布が少なくとも2つのピークを有し,一方のピークが繊維長5?10mmの範囲内にあり,もう一方のピークが2?5mmの範囲内にある強化繊維から構成される。繊維長の分布をより好ましい範囲とすることで,力学特性を確保する強化繊維と,積層工程ないし成形工程でのプリフォームの取扱い性を確保する強化繊維とを併用でき,両方の特性を容易に両立することができる。なお,ここでの強化繊維の重量割合は,強化繊維を100%としたときの,数平均での繊維長の割合を表す。」

(カ)
「【0024】
さらに,本発明における強化繊維の配向としては,二次元配向角で整理することができる。一般的に強化繊維基材は強化繊維が束状になって構成されているケースが多く,このためプリプレグとして等方性を確保するのが難しく,かつ束内への樹脂含浸が十分でなく,成形品の強度低下の原因となる場合がある。強化繊維束が単糸に分散したとしても,強化繊維の単糸同士が平行して接触してしまうと同様の結果となる。さらには,厚み方向への繊維配向は,プリプレグまたはそれを積層して得られるプリフォームの厚み膨張の原因となり,取扱い性や成形性を著しく損なう場合がある。
【0025】
ここで,二次元配向角としては,本発明における,強化繊維単糸(a)と該強化繊維単糸(a)と交差する強化繊維単糸(b)とで形成される二次元配向角について図面を用いて説明する。図1は本発明のプリプレグの一例の強化繊維のみを面方向から観察した場合の,強化繊維の分散状態を表した模式図である。強化繊維単糸1に着目すると,強化繊維単糸1は強化繊維単糸2?7と交差している。ここで交差とは,観察した二次元平面において着目した強化繊維単糸(a)が他の強化繊維単糸(b)と交わって観察される状態のことを意味する。ここで実際のプリプレグにおいて,強化繊維1と強化繊維2?7が必ずしも接触している必要はない。二次元配向角は交差する2つの強化繊維単糸が形成する2つの角度のうち,0度以上90度以下の角度8と定義する。」

(キ)
「【図1】




(ク)
「【0029】
本発明での強化繊維の二次元配向角の平均値は10?80度であり,好ましくは20?70度であり,より好ましくは30?60度であり,理想的な角度である45度に近づくほど好ましい。二次元配向角の平均値が10度未満または80度より大きいと,強化繊維が束状のまま多く存在していることを意味しており,力学特性が低下するだけでなく,二次元の等方性が損なう場合や,厚み方向の強化繊維が無視できず積層工程での経済的負担が大きくなる場合がある。」

オ 甲1に記載された発明

甲1の摘記(ア)?(シ),特に,実施例1の記載からみて,甲1には,以下の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

<甲1発明>
「カルボジイミド基含有PPであるCDI-PP1を0.5重量部,ホモPPであるPP2を80重量部,炭素繊維(東邦テナックス社製のPAN系チョップドファイバー,HTA-C6-S)であるCF1を20重量部含有してなるフィラー強化樹脂組成物であって,フィラー強化樹脂組成物中の樹脂成分に含まれるカルボジイミド基含有量は,該樹脂成分100gに対し,27mmolであり,かつ,成形品中の炭素繊維の繊維長が6mmであるフィラー強化樹脂組成物を成形してなる成形品。」

カ 本件発明1と甲1発明との対比及び判断

(ア)対比

甲1発明の「カルボジイミド基含有PPであるCDI-PP1」,「ホモPPであるPP2」,「炭素繊維(東邦テナックス社製のPAN系チョップドファイバー,HTA-C6-S)であるCF1」は,それぞれ本件発明1の「カルボジイミド変性ポリオレフィン(a)」,「ポリプロピレン系樹脂(b)」,「強化繊維(c)および/または強化繊維基材」に相当する。
また,甲1発明の「カルボジイミド基含有PPであるCDI-PP1」と「ホモPPであるPP2」を合わせたものは,本件発明1の「ポリプロピレン系樹脂組成物」に相当する。
さらに,甲1発明の「フィラー強化樹脂組成物中の樹脂成分」は,本件発明1の「マトリックス樹脂成分」に相当する。
そして,甲1発明の「カルボジイミド基の含量」の「樹脂成分100gに対し,27mmol」は,本件発明1の「カルボジイミド基の含有量の「マトリックス樹脂成分100gに対し0.0005?140mmol」と重複一致する。
甲1発明の「成形品」と,本件発明1の「シート状のプリプレグ」は,「成形品」との限りにおいて,一致する。
そうすると,本件発明1と甲1発明とは,次の点で一致している。

<一致点>
「強化繊維(c)からなる強化繊維基材とポリプロピレン系樹脂組成物を含む成形品であって,該ポリプロピレン系樹脂組成物は少なくともカルボジイミド変性ポリオレフィン(a),ポリプロピレン系樹脂(b)を含有しており,成形品中のマトリックス樹脂成分に含まれるカルボジイミド基の含有量が,マトリックス樹脂成分100gに対し,27mmolであり,かつ強化繊維(c)および/または強化繊維基材である成形品。」

そして,少なくとも以下の相違点1A?4Aで相違する。

<相違点1A>
本件発明1は「前記強化繊維(c)および/または強化繊維基材が」「多官能」「化合物(s)により」「サイジング処理されており」,「前記多官能化合物(s)における官能基が,カルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種である」と特定するのに対し,甲1発明の「炭素繊維」には,そのような特定がない点。

<相違点2A>
本件発明1は「強化繊維(c)が不連続繊維であ」るのに対し,甲1発明の「炭素繊維」の繊維長は6mmである点。

<相違点3A>
本件発明1は,「シート状のプリプレグ」であるのに対し,甲1発明は,「成形品」である点。

<相違点4A>
本件発明1は,プリプレグについて「該プリプレグを成形して得られる成形品の次式で示される強度保持率が,90%以上であること」,「・(強度保持率)=(吸水サンプルの曲げ強度)/(乾燥サンプルの曲げ強度)×100」と特定するのに対し,甲1発明は,そのような特定がない点。

(イ)判断

上記相違点1Aについて検討する。

確かに,甲2の摘記(ア)によれば,東邦テナックス社製のHTA-C6-Sは,エポキシ系サイジング剤により表面処理された炭素繊維であることが記載されていることから,甲1発明の炭素繊維(東邦テナックス社製のPAN系チョップドファイバー,HTA-C6-S)は,エポキシ系サイジング剤によりサイジング処理された炭素繊維であるということができ,甲1発明の東邦テナックス社製のHTA-C6-Sは,エポキシ系サイジング剤によりサイジング処理された炭素繊維であって,当該エポキシ系サイジング剤の官能基はエポキシ基であるといえる。
しかしながら,甲1には,炭素繊維のサイジング剤として用いられる多官能化合物における官能基がカルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種であることは,記載も示唆もされていない。
甲4,7にも,甲1と同様に,炭素繊維のサイジング剤として用いられる多官能化合物における官能基がカルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種であることは,記載も示唆もされていない。

また,甲2の摘記(ア)には,炭素繊維のサイジング剤として,「エポキシ系サイジング剤,ウレタン系サイジング剤,ナイロン系サイジング剤,オレフィン系サイジング剤」が記載され,その具体例としては,「東邦テナックス社製の,ベスファイト(登録商標)・チョップドファイバーHTA-C6-SRS,HTA-C6-S,HTA-C6-SR,HTA-C6-E(以上,エポキシ系サイジング剤で処理されたもの),HTA-C6-N,HTA-C6-NR,HTA-C6-NRS(以上,ナイロン系サイジング剤で処理されたもの),HTA-C6-US,HTA-C6-UEL1,HTA-C6-UH,MC HTA-C6-US(以上,ウレタン系サイジング剤で処理されたもの);三菱レイヨン社製の,パイロフィル(登録商標)チョップドファイバーTR066,TR066A(以上,エポキシ系サイジング剤で処理されたもの),TR068(エポキシ-ウレタン系サイジング剤で処理されたもの),TR06U(ウレタン系サイジング剤で処理されたもの),TR06NE(ポリアミド系サイジング剤で処理されたもの),TR06G(水溶性サイズされたもの)」が記載されている。
しかしながら,ナイロン系サイジング剤又はウレタン系サイジング剤により炭素繊維が処理されたとしても,それらのサイジング剤における官能基が,ヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれかであるということはできないし,サイジング処理された炭素繊維の表面,特に繊維末端にヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれかが明らかに存するということもできない。

したがって,甲2の記載を参照しても,甲1発明において,東邦テナックス社製のHTA-C6-Sのエポキシ系サイジング剤におけるエポキシ基の代わりに,ヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれか1つを選択することは,当業者が容易になし得たということはできない。

なお,甲4の摘記(エ)には,「炭素繊維は,一般に,各種マトリックス樹脂との複合強化材料として利用され,マトリックス樹脂との接着性を良好にするために,電解処理や活性ガスによる気相表面処理などの表面活性化処理により表面にヒドロキシル基,カルボキシル基,アミノ基などの官能基が導入されているものが好ましい。・・・(略)・・・」と記載されているものの,当該記載は,電解処理,活性ガスによる気相表面処理により導入される官能基であって,サイジング剤自体の記載ではないし,サイジング剤としての多官能化合物における官能基についての記載でもない。
仮に,当該記載に基づいても,甲1発明の東邦テナックス社製のHTA-C6-Sのエポキシ系サイジング剤におけるエポキシ基に代えて,ヒドロキシル基,カルボキシル基,アミノ基の官能基にする動機付けは見当たらない。

以上のことから,本件発明1と甲1発明において,相違点1Aは実質的な相違点であり,本件発明1は,甲1発明及び甲1,2,4,7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって,相違点2Aないし4Aについて検討するまでもなく,請求項1に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく,同法第113条第2号に該当せず,取り消すべきものではない。

キ 本件発明2と甲1発明との対比及び判断

(ア)対比

甲1発明の「カルボジイミド基含有PPであるCDI-PP1」,「ホモPPであるPP2」,「炭素繊維(東邦テナックス社製のPAN系チョップドファイバー,HTA-C6-S)であるCF1」は,それぞれ本件発明2の「カルボジイミド変性ポリオレフィン(a)」,「ポリプロピレン系樹脂(b)」,「強化繊維(c)」に相当する。
また,甲1発明の「カルボジイミド基含有PPであるCDI-PP1」と「ホモPPであるPP2」を合わせたものは,本件発明2の「ポリプロピレン系樹脂組成物」に相当する。
そして,甲1発明の「カルボジイミド基含有PPであるCDI-PP1」の「0.5重量部」は,本件発明2の「0.01?50質量部」と重複一致し,甲1発明の「ホモPPであるPP2」の「80重量部」は,本件発明2の「20?99質量部」と重複一致し,甲1発明の「炭素繊維」の「20重量部」は,本件発明2の「1?80質量部」と重複一致し,「ホモPPであるPP2」の「80重量部」と「炭素繊維」の「20重量部」との合計が100重量部である点は,本件発明2の「(ただし,(b)と(C)の合計を100質量部とする)」点と一致する。
甲1発明の「成形品」と,本件発明2の「シート状のプリプレグ」は,「成形品」との限りにおいて,一致する。
そうすると,本件発明2と甲1発明とは,次の点で一致している。

<一致点>
「強化繊維(c)とポリプロピレン系樹脂組成物を含む成形品であって,該ポリプロピレン系樹脂組成物は少なくともカルボジイミド変性ポリオレフィン(a),ポリプロピレン系樹脂(b)を含有しており,(a)を0.5質量部,(b)を80質量部,(c)を20質量部(ただし,(b)と(c)の合計を100質量部とする)含有する成形品。」

そして,以下の相違点5Aないし8Aで相違する。

<相違点5A>
本件発明2は「前記強化繊維(c)および/または強化繊維基材が」「多官能」「化合物(s)によりサイジング処理されており」,「前記多官能化合物(s)における官能基が,カルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種である」と特定するのに対し,甲1発明の「炭素繊維」には,そのような特定がない点。

<相違点6A>
本件発明2は「強化繊維(c)が不連続繊維であ」るのに対し,甲1発明の炭素繊維の「繊維長」は「6mm」である点。

<相違点7A>
本件発明2は,「シート状のプリプレグ」であるのに対し,甲1発明は,「成形品」である点。

<相違点8A>
本件発明2は,プリプレグについて「該プリプレグを成形して得られる成形品の次式で示される強度保持率が,90%以上であること」,「・(強度保持率)=(吸水サンプルの曲げ強度)/(乾燥サンプルの曲げ強度)×100」と特定するのに対し,甲1発明は,そのような特定がない点。

(イ)判断

上記相違点5Aについて検討する。

確かに,甲2の摘記(ア)によれば,東邦テナックス社製のHTA-C6-Sは,エポキシ系サイジング剤により表面処理された炭素繊維であることが記載されていることから,甲1発明の炭素繊維(東邦テナックス社製のPAN系チョップドファイバー,HTA-C6-S)は,エポキシ系サイジング剤によりサイジング処理された炭素繊維であるということができ,甲1発明の東邦テナックス社製のHTA-C6-Sは,エポキシ系サイジング剤によりサイジング処理された炭素繊維であって,当該エポキシ系サイジング剤の官能基はエポキシ基であるといえる。

しかしながら,甲1には,炭素繊維のサイジング剤として用いられる多官能化合物における官能基がカルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種であることは,記載も示唆もされていない。
甲4,7にも,甲1と同様に,炭素繊維のサイジング剤として用いられる多官能化合物における官能基がカルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種であることは,記載も示唆もされていない。

また,甲2の摘記(ア)には,炭素繊維のサイジング剤として,「エポキシ系サイジング剤,ウレタン系サイジング剤,ナイロン系サイジング剤,オレフィン系サイジング剤」が記載され,その具体例としては,「東邦テナックス社製の,ベスファイト(登録商標)・チョップドファイバーHTA-C6-SRS,HTA-C6-S,HTA-C6-SR,HTA-C6-E(以上,エポキシ系サイジング剤で処理されたもの),HTA-C6-N,HTA-C6-NR,HTA-C6-NRS(以上,ナイロン系サイジング剤で処理されたもの),HTA-C6-US,HTA-C6-UEL1,HTA-C6-UH,MC HTA-C6-US(以上,ウレタン系サイジング剤で処理されたもの);三菱レイヨン社製の,パイロフィル(登録商標)チョップドファイバーTR066,TR066A(以上,エポキシ系サイジング剤で処理されたもの),TR068(エポキシ-ウレタン系サイジング剤で処理されたもの),TR06U(ウレタン系サイジング剤で処理されたもの),TR06NE(ポリアミド系サイジング剤で処理されたもの),TR06G(水溶性サイズされたもの)」が記載されている。
しかしながら,ナイロン系サイジング剤又はウレタン系サイジング剤により炭素繊維が処理されたとしても,それらのサイジング剤における官能基が,ヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれかであるということはできないし,サイジング処理された炭素繊維の表面,特に繊維末端にヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれかが明らかに存するということもできない。

したがって,甲2の記載を参照しても,甲1発明において,東邦テナックス社製のHTA-C6-Sのエポキシ系サイジング剤におけるエポキシ基の代わりに,ヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれか1つを選択することは,当業者が容易になし得たということはできない。

なお,甲4の摘記(エ)には,「炭素繊維は,一般に,各種マトリックス樹脂との複合強化材料として利用され,マトリックス樹脂との接着性を良好にするために,電解処理や活性ガスによる気相表面処理などの表面活性化処理により表面にヒドロキシル基,カルボキシル基,アミノ基などの官能基が導入されているものが好ましい。・・・(略)・・・」と記載されているものの,当該記載は,電解処理,活性ガスによる気相表面処理により導入される官能基であって,サイジング剤自体の記載ではないし,サイジング剤としての多官能化合物における官能基についての記載でもない。
仮に,当該記載に基づいても,甲1発明の東邦テナックス社製のHTA-C6-Sのエポキシ系サイジング剤におけるエポキシ基に代えて,ヒドロキシル基,カルボキシル基,アミノ基の官能基にする動機付けは見当たらない。

以上のことから,本件発明2と甲1発明において,相違点5Aは実質的な相違点であり,本件発明2は,甲1発明及び甲1,2,4,7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって,相違点6Aないし8Aについて検討するまでもなく,請求項2に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく,同法第113条第2号に該当せず,取り消すべきものではない。

ク 本件発明3ないし8,11ないし18について

本件発明3ないし8,11ないし18は,直接又は間接的に請求項1又は2を引用するものであり,上記カ及びキで本件発明1及び2で検討したのと同様の判断となる。

したがって,本件発明3ないし8,11ないし18は,甲1発明及び甲1,2,4,7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,請求項3ないし8,11ないし18に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

ケ 申立人の主張について

(ア)申立人の主張の内容

申立人は,平成30年9月21日提出の意見書の第2頁最終行-第3頁第13行において,
「ここで,取消理由通知書では甲1における実施例1の態様を甲1発明として議論が進められているが,HTA-C6-Sに代えてHTA-C6-UHを用いた実施例7の態様をそれぞれ甲1発明と考える。
甲1において,その課題は耐衝撃性や曲げ強度などの機械物性に優れた成形品を得ることを可能とするフィラー強化ポリプロピレン樹脂組成物を提供することにある([0006])。
一方,甲8には,前記ポリウレタン樹脂で炭素繊維を被覆処理することにより,炭素繊維と熱可塑性樹脂との接着性を高めて成形物の特性,特に耐衝撃強度を向上させることが記載されている(1頁17行?2頁4行,4頁最終行?5頁3行)。
したがって,甲1発明において課題である成形品の機械物性を向上させるべく,ウレタン系サイジング剤で処理された炭素繊維(商品HTA-C6-UH)として,甲8記載のポリウレタン樹脂で被覆処理された炭素繊維を用いることは,当業者であれば容易に想到し得たことである。」と主張する(以下,「主張1」という。)。

また,同意見書の第3頁下から4行-第4頁第24行において,
「一方,甲4には,炭素繊維に対するサイジング剤を用いた表面処理により,マトリックス樹脂と炭素繊維との間に良好な接着が生じ,複合強化材料として,機械的強度に優れたものになることが記載されている([0016])。特に,甲4には,「炭素繊維は,一般に,各種マトリックス樹脂との副業強化材料として利用され,マトリックス樹脂との接着性を良好にするために,・・・表面にヒドロキシル基,カルボキシル基,アミノ基などの官能基が導入されているものが好ましい」([0015])と記載されている。また,参考資料2にも,サイジング処理された炭素繊維が記載されており(請求項1),サイジング処理により炭素繊維とマトリックス樹脂との橋渡しを有効に行えることが記載されている([0040])。
そして,甲4の段落[0016]および[0017]や参考資料2の段落[0040]には,(官能基の種類は異なるものの)「複数の」エポキシ基を有するサイジング剤は,炭素繊維とマトリックス樹脂との橋渡しを有効に行うことができると記載されている。
上記記載から,本件特許の出願当時,複数の官能基を有するサイジング剤によって炭素繊維とマトリックス樹脂との橋渡しを有効に行うことができ,よってこれらの接着性が向上し,機械特性などの物理的強度が向上することは技術常識であったといえる。
ここで,甲8におけるポリウレタン樹脂のNCO/OHを1.0未満に維持しながら,例えばポリウレタンの技術分野においてよく用いられる多官能イソシアナート(Polymeric MDI;本意見書とともに提出する参考資料3および4参照)を少なくとも用いた場合には,末端官能基が全てヒドロキシル基でかつ多官能のサイジング剤を容易に製造することができる。
したがって,甲1発明において課題である成形品の機械特性を向上させるべくウレタン系サイジング剤で処理された炭素繊維(商品HTA-C6-UH)として,甲8ならびに甲4および参考資料2?4を参照してヒドロキシル基を複数有するポリウレタン樹脂で被覆処理された炭素繊維を用いることは当業者がであれば容易に想到し得たことである。」と主張する(以下「主張2」という。)。

(イ)判断

まず,主張1について検討する。

甲1に記載の「HTA-C6-UH」は,ウレタン系サイジング剤であるから,上記キ(イ)で検討したとおり,ウレタン系サイジング剤の官能基が,ヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれかであるということはできないし,それによってサイジング処理された炭素繊維の表面にヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれかが明らかに存するということもできない。

申立人が平成30年9月21日提出の意見書とともに提出した甲第8号証(特開昭58-126375号公報)には,
「2.特許請求の範囲
(1)0.3?10重量%のポリウレタン樹脂で被覆された炭素繊維。」と記載されている。

確かに,甲8には,ポリウレタン樹脂で被覆された炭素繊維が記載されている。
しかしながら,甲8に記載の炭素繊維を処理するポリウレタン樹脂について,ポリウレタン樹脂の両末端官能基がヒドロキシル基であることは明らかではなく,その樹脂の官能基がヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれかであるということはできないし,その樹脂によってサイジング処理された炭素繊維の表面にヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれかが明らかに存するということもできない。

そうすると,甲1,8には,サイジング剤としての多官能化合物の官能基がヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれかであるということは記載も示唆もない。
したがって,上記主張1は採用できない。

次に,主張2について検討する。

確かに,甲4には,「炭素繊維は,一般に,各種マトリックス樹脂との副業強化材料として利用され,マトリックス樹脂との接着性を良好にするために,・・・表面にヒドロキシル基,カルボキシル基,アミノ基などの官能基が導入されているものが好ましい」([0015])と記載されている。
しかしながら,上記カ(イ)及びキ(イ)で検討したとおり,甲4の摘記(エ)には,「炭素繊維は,一般に,各種マトリックス樹脂との複合強化材料として利用され,マトリックス樹脂との接着性を良好にするために,電解処理や活性ガスによる気相表面処理などの表面活性化処理により表面にヒドロキシル基,カルボキシル基,アミノ基などの官能基が導入されているものが好ましい。・・・(略)・・・」と記載されており,当該記載は,電解処理,活性ガスによる気相表面処理により導入される官能基であって,サイジング剤自体の記載ではないし,サイジング剤としての多官能化合物における官能基についての記載でもない。
また,上記主張1で検討したとおり,甲1,8には,サイジング剤としての多官能化合物の官能基がヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれかであるということは記載も示唆もない。
したがって,上記主張2は採用できない。

コ まとめ

よって,取消理由1は,理由がない。

(2)小括

以上のとおり,取消理由(決定の予告)での取消理由1では,本件特許1ないし8,11ないし18を取り消すことはできない。

2 取消理由1回目についての当審の判断

(1)取消理由1(進歩性)について

ア 甲1,2,4,7の記載事項

上記1(2)のアの(ア)?(シ),イの(ア),ウの(ア)?(カ),エの(ア)?(ク)に記載した事項が記載されている。

イ 甲1発明

甲1には,上記1(2)のオで認定した発明,すなわち甲1発明が記載されている。

ウ 本件発明1と甲1発明との対比及び判断

(ア)対比

上記1(2)カ(ア)と同様に,本件発明1と甲1発明を対比すると,両者は,次の一致点で一致する。

<一致点>
「強化繊維(c)からなる強化繊維基材とポリプロピレン系樹脂組成物を含む成形品であって,該ポリプロピレン系樹脂組成物は少なくともカルボジイミド変性ポリオレフィン(a),ポリプロピレン系樹脂(b)を含有しており,成形品中のマトリックス樹脂成分に含まれるカルボジイミド基の含有量が,マトリックス樹脂成分100gに対し,27mmolであり,かつ強化繊維(c)および/または強化繊維基材である成形品。」

そして,少なくとも以下の相違点1B?4Bで相違する。

<相違点1B>
本件発明1は「強化繊維(c)および/または強化繊維基材」を「多官能」「化合物(s)により」「サイジング処理されており」,「前記多官能化合物(s)における官能基が,カルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種である」と特定するのに対し,甲1発明の「炭素繊維」には,そのような特定がない点。

<相違点2B>
本件発明1は「強化繊維(c)が不連続繊維であ」るのに対し,甲1発明の「炭素繊維」の繊維長は6mmである点。

<相違点3B>
本件発明1は,「シート状のプリプレグ」であるのに対し,甲1発明は,「成形品」である点。

<相違点4B>
本件発明1は,プリプレグについて「該プリプレグを成形して得られる成形品の次式で示される強度保持率が,90%以上であること」,「・(強度保持率)=(吸水サンプルの曲げ強度)/(乾燥サンプルの曲げ強度)×100」と特定するのに対し,甲1発明は,そのような特定がない点。

(イ)判断

上記相違点1Bについて検討する。

確かに,甲2の摘記(ア)によれば,東邦テナックス社製のHTA-C6-Sは,エポキシ系サイジング剤により表面処理された炭素繊維であることが記載されていることから,甲1発明の炭素繊維(東邦テナックス社製のPAN系チョップドファイバー,HTA-C6-S)は,エポキシ系サイジング剤によりサイジング処理された炭素繊維であるということができ,甲1発明の東邦テナックス社製のHTA-C6-Sは,エポキシ系サイジング剤によりサイジング処理された炭素繊維であって,当該エポキシ系サイジング剤の官能基はエポキシ基であるといえる。

しかしながら,甲1には,炭素繊維のサイジング剤として用いられる多官能化合物における官能基がカルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種であることは,記載も示唆もされていない。
甲4,7にも,甲1と同様に,炭素繊維のサイジング剤として用いられる多官能化合物における官能基がカルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種であることは,記載も示唆もされていない。

また,甲2の摘記(ア)には,炭素繊維のサイジング剤として,「エポキシ系サイジング剤,ウレタン系サイジング剤,ナイロン系サイジング剤,オレフィン系サイジング剤」が記載され,その具体例としては,「東邦テナックス社製の,ベスファイト(登録商標)・チョップドファイバーHTA-C6-SRS,HTA-C6-S,HTA-C6-SR,HTA-C6-E(以上,エポキシ系サイジング剤で処理されたもの),HTA-C6-N,HTA-C6-NR,HTA-C6-NRS(以上,ナイロン系サイジング剤で処理されたもの),HTA-C6-US,HTA-C6-UEL1,HTA-C6-UH,MC HTA-C6-US(以上,ウレタン系サイジング剤で処理されたもの);三菱レイヨン社製の,パイロフィル(登録商標)チョップドファイバーTR066,TR066A(以上,エポキシ系サイジング剤で処理されたもの),TR068(エポキシ-ウレタン系サイジング剤で処理されたもの),TR06U(ウレタン系サイジング剤で処理されたもの),TR06NE(ポリアミド系サイジング剤で処理されたもの),TR06G(水溶性サイズされたもの)」が記載されている。
しかしながら,ナイロン系サイジング剤又はウレタン系サイジング剤により炭素繊維が処理されたとしても,それらのサイジング剤における官能基が,ヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれかであるということはできないし,サイジング処理された炭素繊維の表面,特に繊維末端にヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれかが明らかに存するということもできない。
したがって,甲2の記載を参照しても,甲1発明において,東邦テナックス社製のHTA-C6-Sのエポキシ系サイジング剤におけるエポキシ基の代わりに,ヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれか1つを選択することは,当業者が容易になし得たということはできない。
なお,甲4の摘記(エ)には,「炭素繊維は,一般に,各種マトリックス樹脂との複合強化材料として利用され,マトリックス樹脂との接着性を良好にするために,電解処理や活性ガスによる気相表面処理などの表面活性化処理により表面にヒドロキシル基,カルボキシル基,アミノ基などの官能基が導入されているものが好ましい。・・・(略)・・・」と記載されているものの,当該記載は,電解処理,活性ガスによる気相表面処理により導入される官能基であって,サイジング剤自体の記載ではなく,ましてや,サイジング剤としての多官能化合物における官能基についての記載でもない。
仮に,当該記載に基づいても,甲1発明の東邦テナックス社製のHTA-C6-Sのエポキシ系サイジング剤におけるエポキシ基に代えて,ヒドロキシル基,カルボキシル基,アミノ基などの官能基にする動機付けは見当たらない。

以上のことから,本件発明1と甲1発明において,相違点1Bは実質的な相違点であり,本件発明1は,甲1発明及び甲1,2,4,7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって,相違点2Bないし4Bについて検討するまでもなく,請求項1に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもなく,同法第113条第2号に該当せず,取り消すべきものではない。

エ 本件発明2と甲1発明との対比及び判断

上記1(2)キ(ア)と同様に,本件発明2と甲1発明を対比すると,両者は,次の一致点で一致する。

<一致点>
「強化繊維(c)とポリプロピレン系樹脂組成物を含む成形品であって,該ポリプロピレン系樹脂組成物は少なくともカルボジイミド変性ポリオレフィン(a),ポリプロピレン系樹脂(b)を含有しており,(a)を0.5質量部,(b)を80質量部,(c)を20質量部(ただし,(b)と(c)の合計を100質量部とする)含有する成形品。」

そして,少なくとも以下の相違点5Bないし8Bで相違する。

<相違点5B>
本件発明2は「前記強化繊維(c)が」「多官能」「化合物(s)によりサイジング処理されており」,「前記多官能化合物(s)における官能基が,カルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種である」と特定するのに対し,甲1発明の「炭素繊維」には,そのような特定がない点。

<相違点6B>
本件発明2は「強化繊維(c)が不連続繊維であ」るのに対し,甲1発明の炭素繊維の「繊維長」は「6mm」である点。

<相違点7B>
本件発明2は,「シート状のプリプレグ」であるのに対し,甲1発明は,「成形品」である点。

<相違点8B>
本件発明2は,プリプレグについて「該プリプレグを成形して得られる成形品の次式で示される強度保持率が,90%以上であること」,「・(強度保持率)=(吸水サンプルの曲げ強度)/(乾燥サンプルの曲げ強度)×100」と特定するのに対し,甲1発明は,そのような特定がない点。

(イ)判断

上記相違点5Bについて検討する。

確かに,甲2の摘記(ア)によれば,東邦テナックス社製のHTA-C6-Sは,エポキシ系サイジング剤により表面処理された炭素繊維であることが記載されていることから,甲1発明の炭素繊維(東邦テナックス社製のPAN系チョップドファイバー,HTA-C6-S)は,エポキシ系サイジング剤によりサイジング処理された炭素繊維であるということができ,甲1発明の東邦テナックス社製のHTA-C6-Sは,エポキシ系サイジング剤によりサイジング処理された炭素繊維であって,当該エポキシ系サイジング剤の官能基はエポキシ基であるといえる。

しかしながら,甲1には,炭素繊維のサイジング剤として用いられる多官能化合物における官能基がカルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種であることは,記載も示唆もされていない。
甲4,7にも,甲1と同様に,炭素繊維のサイジング剤として用いられる多官能化合物における官能基がカルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種であることは,記載も示唆もされていない。
また,甲2の摘記(ア)には,炭素繊維のサイジング剤として,「エポキシ系サイジング剤,ウレタン系サイジング剤,ナイロン系サイジング剤,オレフィン系サイジング剤」が記載され,その具体例としては,「東邦テナックス社製の,ベスファイト(登録商標)・チョップドファイバーHTA-C6-SRS,HTA-C6-S,HTA-C6-SR,HTA-C6-E(以上,エポキシ系サイジング剤で処理されたもの),HTA-C6-N,HTA-C6-NR,HTA-C6-NRS(以上,ナイロン系サイジング剤で処理されたもの),HTA-C6-US,HTA-C6-UEL1,HTA-C6-UH,MC HTA-C6-US(以上,ウレタン系サイジング剤で処理されたもの);三菱レイヨン社製の,パイロフィル(登録商標)チョップドファイバーTR066,TR066A(以上,エポキシ系サイジング剤で処理されたもの),TR068(エポキシ-ウレタン系サイジング剤で処理されたもの),TR06U(ウレタン系サイジング剤で処理されたもの),TR06NE(ポリアミド系サイジング剤で処理されたもの),TR06G(水溶性サイズされたもの)」が記載されている。
しかしながら,ナイロン系サイジング剤又はウレタン系サイジング剤により炭素繊維が処理されたとしても,それらのサイジング剤における官能基が,ヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれかであるということはできないし,サイジング処理された炭素繊維の表面,特に繊維末端にヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれかが明らかに存するということもできない。

したがって,甲2の記載を参照しても,甲1発明において,東邦テナックス社製のHTA-C6-Sのエポキシ系サイジング剤におけるエポキシ基の代わりに,ヒドロキシル基,アミノ基,カルボキシル基のいずれか1つを選択することは,当業者が容易になし得たということはできない。

なお,甲4の摘記(エ)には,「炭素繊維は,一般に,各種マトリックス樹脂との複合強化材料として利用され,マトリックス樹脂との接着性を良好にするために,電解処理や活性ガスによる気相表面処理などの表面活性化処理により表面にヒドロキシル基,カルボキシル基,アミノ基などの官能基が導入されているものが好ましい。・・・(略)・・・」と記載されているものの,当該記載は,電解処理,活性ガスによる気相表面処理により導入される官能基であって,サイジング剤自体の記載ではないし,サイジング剤としての多官能化合物における官能基についての記載でもない。
仮に,当該記載に基づいても,甲1発明の東邦テナックス社製のHTA-C6-Sのエポキシ系サイジング剤におけるエポキシ基に代えて,ヒドロキシル基,カルボキシル基,アミノ基の官能基にする動機付けは見当たらない。

以上のことから,本件発明2と甲1発明において,相違点5Bは実質的な相違点であり,本件発明2は,甲1発明及び甲1,2,4,7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって,相違点6Bないし8Bについて検討するまでもなく,請求項2に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもなく,同法第113条第2号に該当せず,取り消すべきものではない。

オ 本件発明3ないし8,11ないし18について

本件発明3ないし8,11ないし18は,直接又は間接的に請求項1または2を引用するものであり,上記ウ及びエで本件発明1及び2で検討したのと同様の判断となる。

したがって,本件発明3ないし8,11ないし18は,甲1発明及び甲1,2,4,7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,請求項3ないし8,11ないし18に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

カ まとめ

よって,取消理由1は,理由がない。

(2)取消理由2(サポート要件)について

ア 取消理由2の具体的な内容は以下のとおり。

「本件特許発明1ないし8および12ないし18においては,多官能化合物(s)の官能基は何ら特定されていないから,カルボジイミド基と相互作用ないし反応しない官能基を含んでおり,そのような場合に,上記課題が解決できるとはいえない。
したがって,本件特許発明1ないし8および12ないし18は,本件特許明細書の記載から拡張ないし一般化できる範囲を超えているものといえる。」

イ 当審の判断

本件訂正によって,請求項1ないし8,11ないし18の記載は,90%以上であ「り,かつ,前記多官能化合物(s)における官能基が,カルボキシル基,アミノ基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1種であ」るという限定が付加されたことにより,特許法第36条6項1号に適合するものといえる。

よって,取消理由2は,理由がない。

(3)小括

以上のとおり,取消理由1回目での取消理由1、2では,本件特許1ないし8,11ないし18を取り消すことはできない。

第6 取消理由で採用しなかった特許異議の申立理由

1 特許異議の申立理由の概要

本件発明11は,甲第1?7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,これらの特許は同法第113条第2号の規定に該当するので取り消されるべきである。

<証拠方法>
甲第1号証:国際公開第2009/069649号
甲第2号証:国際公開第2005/092972号
甲第3号証:特開2011-252113号公報
甲第4号証:特開2005-125581号公報
甲第5号証:日清紡ケミカル(株),「カルボジライト」,JETI,
2009年,Vol.57,No.5,148-151頁
甲第6号証:特開2006-77343号公報
甲第7号証:特開2010-235779号公報

(「甲第1号証」?「甲第7号証」はいずれも,申立人の提示した証拠方法である。以下,「甲第1号証」?「甲第7号証」を,それぞれ,「甲1」?「甲7」という。 )

2 本件発明11について

本件発明11は,本件発明1ないし8について,さらに,「前記多官能化合物(s)が,ポリエチレンイミンである」との事項を有するものである。

本件発明11と甲1発明を対比すると,少なくとも以下の点で相違する。

<相違点>
本件発明11は,「前記多官能化合物(s)が,ポリエチレンイミンである」と特定するのに対し,甲1発明には,そのような特定がない点。

そこで,当該相違点について検討する。

(1)まず,多官能化合物(s)によるサイジング処理における「前記多官能化合物(s)が,ポリエチレンイミンである」との事項は,甲1ないし5,7には記載されておらず,当該相違点は,当業者が容易に想到できるものではない。

(2)次に,甲6には,以下の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は,繊維強化樹脂を成形,製造する際に,樹脂の含浸性と,賦形性に優れた炭素繊維マットとその製造方法に関するものである。」

「【0005】
本発明の目的は,繊維強化樹脂を成形する際のマトリックス樹脂の含浸性に優れると共に,プリフォーム形成の賦形性にも優れた炭素繊維マットを提供することにある。また,かかる炭素繊維マットを容易に,生産性よく製造する方法を提供することを目的とする。」

「【0029】
・・・(略)・・・炭素繊維には,成形品の力学特性の向上や,炭素繊維束の取扱い性の観点からサイジング剤が付着されていることが好ましい。かかるサイジング剤としては,炭素繊維の取扱い性と後述する炭素繊維マットの製造における工程通過性の両立の観点から,水溶性もしくは部分水溶性,水分散性のサイジング剤で有ることが好ましい。サイジング剤としては,水溶性ポリアミド,ノニオン系界面活性剤,カチオン系界面活性剤,アニオン系界面活性剤,ポリエチレングリコール,ポリビニルアルコール,ポリアクリルアミド,ポリエチレンイミン等が例示できる。中でもサイジング剤はノニオン系界面活性剤であることが,サイジング剤の取扱い性,炭素繊維の取扱い性と後述する炭素繊維マットの製造における工程通過性の観点から好ましい。」

「【0049】
(レジントランスファーモールディング成形用マトリックス樹脂)
レジントランスファーモールディング成形用マトリックス樹脂としては,エポキシ樹脂(Ep828,ジャパンエポキシレジン(株)製)100重量%に,硬化剤(“キャアゾール”(登録商標)2E4MZ,四国化成工業(株)製)3重量%を配合した,液状のエポキシ樹脂組成物を用いた
【0050】
(レジントランスファーモールディング成形方法)
各辺が平行な1辺10cmの正方形となるようカットした炭素繊維炭素繊維マットを金型に積層し,その上にピールプライと樹脂配分媒体を積層した。次に,ナイロン製フィルムを用いてバギングし,真空ポンプを用いて,大気圧-0.1(MPa)に減圧した後,型を90℃に保持し,レジントランスファーモールディング成形用マトリックス樹脂を注入した。レジントランスファーモールディング成形用マトリックス樹脂が型内に流入してから1分後に注入を終了し,レジントランスファーモールディング成形用マトリックス樹脂が型内に流入してから40分後に脱型を行い,繊維強化部材を得た。」

「【0053】
実施例および比較例に使用するサイジング剤の調整は以下のとおりである。
【0054】
(サイジング剤A)
ポリオキシエチレンアルキルエーテル(“レオックス”(登録商標)CC-50,Lion(株)製)を濃度10重量%となるよう調整し,サイジング剤A水溶液を得た。
【0055】
(サイジング剤B)
エポキシ樹脂(Ep828,ジャパンエポキシレジン(株)製,商品番号,とEp1001,ジャパンエポキシレジン(株)製,商品番号)を等量混合し,続いて得られた混合液を濃度10重量%に調整しサイジング剤B水溶液を得た。」

「【0064】
(実施例1)
サイジング剤A水溶液を濃度2.0重量%の水溶液に調整した水溶液中に炭素繊維連続束を浸積し,サイジング剤を付着せしめ,熱風乾燥機を使用し,200℃で2分間乾燥した後,カートリッジカッターを用いて炭素繊維を6.4mm長にカットし,炭素繊維チョップドストランドを得た。このとき得られた炭素繊維チョップドストランドに付着しているサイジング剤の付着量は1.0重量%であった。次いで,上記より得られた炭素繊維チョップドストランドを目付390g/m^(2)となるよう調整し,湿式抄造法にて,炭素繊維マットを得た後,バインダー成分を上記付与方法により付与し,評価サンプルを得,各種評価に供した。」

(3)確かに,甲6には,サイジング剤として,ポリエチレンイミン等が例示されており,マトリックス樹脂として,熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を用い,熱硬化性樹脂からなるマトリックス樹脂に,炭素繊維を含有し繊維強化樹脂を成形する技術が記載され,熱硬化性樹脂からなるマトリックス樹脂との関係で炭素繊維をサイジング処理し成形品の力学特性を向上させる技術事項が記載されているといえる。
しかしながら,甲6には,マトリックス樹脂としてポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂を用いることは記載されておらず,ましてや,熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂との関係で炭素繊維をサイジング処理することは記載されていない。
してみれば,熱可塑性樹脂であるカルボジイミド基含有PPに炭素繊維を含有するものである甲1発明において,熱硬化性樹脂からなるマトリックス樹脂との関係で炭素繊維をサイジング処理する甲6に記載の技術事項を採用する動機付けが存在しないといえる。
そのため,上記相違点については,甲1発明と甲6に記載の事項から当業者が容易に想到できるものではない。
したがって,本件発明11は,甲1発明と甲6に記載の事項から当業者が容易に発明することができるものではない。

よって,上記特許異議の申立理由では,本件発明11に係る特許を取り消すことはできない。

第7 結語

以上のとおりであるから,取消理由1回目,取消理由(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立の理由によっては,請求項1ないし8,11ないし18に係る特許を取り消すことはできない。

また,他に請求項1ないし8,11ないし18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

さらに,請求項9及び10に係る特許は,本件訂正の請求による訂正により削除されたため,請求項9及び10に対する特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しない。

よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維(c)からなる強化繊維基材とポリプロピレン系樹脂組成物を含むシート状のプリプレグであって、該ポリプロピレン系樹脂組成物は少なくともカルボジイミド変性ポリオレフィン(a)、ポリプロピレン系樹脂(b)を含有しており、プリプレグ中のマトリックス樹脂成分に含まれるカルボジイミド基の含有量が、マトリックス樹脂成分100gに対し、0.0005?140mmolであり、かつ前記強化繊維(c)および/または強化繊維基材が多官能化合物(s)によりサイジング処理されており、さらにプリプレグ中の強化繊維(c)が不連続繊維であり、そして該プリプレグを成形して得られる成形品の次式で示される強度保持率が、90%以上であり、かつ、前記多官能化合物(s)における官能基が、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基から選択される少なくとも1種であることを特徴とするプリプレグ。
・(強度保持率)=(吸水サンプルの曲げ強度)/(乾燥サンプルの曲げ強度)×100
【請求項2】
強化繊維(c)からなる強化繊維基材とポリプロピレン系樹脂組成物を含むシート状のプリプレグであって、該ポリプロピレン系樹脂組成物は少なくともカルボジイミド変性ポリオレフィン(a)、ポリプロピレン系樹脂(b)を含有しており、(a)を0.01?50質量部、(b)を20?99質量部、(c)を1?80質量部(ただし、(b)と(c)の合計を100質量部とする)含有し、かつ前記強化繊維(c)および/または強化繊維基材が多官能化合物(s)によりサイジング処理されており、さらにプリプレグ中の強化繊維(c)が不連続繊維であり、そして該プリプレグを成形して得られる成形品の次式で示される強度保持率が、90%以上であり、かつ、前記多官能化合物(s)における官能基が、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基から選択される少なくとも1種であることを特徴とするプリプレグ。
・(強度保持率)=(吸水サンプルの曲げ強度)/(乾燥サンプルの曲げ強度)×100
【請求項3】
前記カルボジイミド変性ポリオレフィン(a)が、該変性ポリオレフィン100グラムに対しカルボジイミド基の含有量が1?200mmolである、請求項2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記カルボジイミド変性ポリオレフィン(a)は、カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィン系樹脂(A)と、カルボジイミド基含有化合物(B)を反応させて得られるものである、請求項1?3のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記ポリオレフィン系樹脂(A)は、カルボジイミド基と反応する基を有する化合物をポリオレフィンに導入したものであって、ポリオレフィン系樹脂(A)が下記式(1)を満たす重合体である、請求項4に記載のプリプレグ。
0.1<Mn/{(100-M)×f/M}<6 (1)
(式中、
f :カルボジイミド基と反応する基の分子量(g/mol)
M :カルボジイミド基と反応する基の含有量(wt%)
Mn:カルボジイミド基と反応する基を有するポリオレフィン系樹脂(A)の数平均分子量
である。)
【請求項6】
前記ポリオレフィン系樹脂(A)が、マレイン酸基を有するポリオレフィン系樹脂である、請求項4または5に記載のプリプレグ。
【請求項7】
強化繊維(c)が炭素繊維である、請求項1?6のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項8】
前記多官能化合物(s)が、3官能以上の官能基を有する化合物である、請求項1?7のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項9】 (削除)
【請求項10】 (削除)
【請求項11】
前記多官能化合物(s)が、ポリエチレンイミンである、請求項1?8のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項12】
少なくとも成分(a)および成分(b)からなるポリプロピレン系樹脂組成物が、前記強化繊維基材に含浸していることを特徴とする、請求項1?8及び11のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項13】
前記強化繊維(c)が、プリプレグの面内方向においてランダム分散していることを特徴とする、請求項1?8、11及び12のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項14】
前記強化繊維基材が、繊維長10mmを越える強化繊維が0?50質量%、繊維長2?10mmの強化繊維が50?100質量%、および、繊維長2mm未満の強化繊維が0?50質量%から構成されていることを特徴とする、請求項13に記載のプリプレグ。
【請求項15】
前記強化繊維基材を構成する強化繊維がの二次元配向角の平均値が10?80度であることを特徴とする、請求項14に記載のプリプレグ。
【請求項16】
前記強化繊維基材を構成する強化繊維の繊維長の分布が少なくとも2つのピークを有し、一方のピークが繊維長5?10mmの範囲にあり、もう一方のピークが2?5mmの範囲にある、請求項15に記載のプリプレグ。
【請求項17】
プリプレグの引張強度σが50?1000MPaである、請求項14?16のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項18】
前記引張強度σが、測定方向における最大引張強度σMaxと最小引張強度σMinとの関係において、σMax≦σMin×2である、請求項14?17のいずれかに記載のプリプレグ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-11-20 
出願番号 特願2013-5426(P2013-5426)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 岡崎 美穂
特許庁審判官 長谷部 智寿
小柳 健悟
登録日 2017-03-17 
登録番号 特許第6107154号(P6107154)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 プリプレグ  

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