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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C10M |
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管理番号 | 1347679 |
異議申立番号 | 異議2018-700783 |
総通号数 | 230 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-02-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-09-28 |
確定日 | 2018-12-20 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6300686号発明「潤滑油組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6300686号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6300686号(以下、「本件特許」という。)は、平成26年9月1日(優先権主張 平成26年1月31日)に特許出願され、平成30年3月9日にその特許権の設定登録がされ、同年同月28日にその特許掲載公報が発行されたものであり、その後、その特許に対し、特許異議申立人初貝誠により、平成30年9月28日に特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明12」といい、まとめて、「本件特許発明」ともいう。)は、それぞれ、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 潤滑油基油と、カルシウム及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、及び窒素を有する無灰分散剤を含む過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物であって、 下記式(1) X=([Ca]+0.5[Mg])×8-[Mo]×8-[P]×30 (1) (上記式(1)において[Ca]、[Mg]、[Mo]、及び[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度(質量%)である) で求められるXが、X≦-1.2を満たし、 下記式(2) Y=[Ca]+1.65[Mg]+[N] (2) (上記式(2)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるYが、Y≧0.18を満たし、及び 下記式(3) Z=[N]/([Ca]+[Mg]) (3) (上記式(3)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるZが、Z=0.3?1.5を満たす、過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項2】 潤滑油組成物中に含まれるリンの濃度[P]が、[P]≦0.12質量%を満たす、請求項1記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項3】 潤滑油組成物中に含まれるモリブデンの濃度[Mo]が、[Mo]≦0.1質量%を満たす、請求項1又は2記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項4】 マグネシウムを有する化合物を必須に含む、請求項1?3のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項5】 潤滑油組成物中に含まれるカルシウム及びマグネシウムの濃度[Ca]及び[Mg]が、[Ca]+1.65[Mg]≧0.08質量%を満たす、請求項1?4のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項6】 潤滑油組成物全体の質量に対するマグネシウムの量が0.01?0.6質量%である、請求項4または5記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項7】 上記式(1)におけるXが、X≦-1.4を満たす、請求項1?6のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項8】 潤滑油基油が100℃での動粘度2?15mm^(2)/sを有する、請求項1?7のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項9】 [A]カルシウム又はマグネシウムを有する金属清浄剤の1種以上を含む、請求項1?8のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項10】 [B]リンを有する摩耗防止剤の1種以上を含む、請求項1?9のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項11】 [C]モリブデンを有する摩擦調整剤の1種以上を含む、請求項1?10のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。 【請求項12】 [E]粘度指数向上剤の1種以上を含む、請求項1?11のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。」 第3 特許異議申立人の主張、及び、提出した証拠方法 特許異議申立人初貝誠(以下、「申立人」という。)は、本件特許発明1?12に係る特許は取り消すべきものである旨主張し、その理由として、以下の理由1を主張し、証拠方法として甲第1?11号証を提出している。 理由1 本件特許発明は、甲第1?11号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 証拠方法 甲第1号証:特表平10-510876号公報 甲第2号証:竹内一雄他2名、「過給直噴ガソリンエンジンでの異常燃焼に対するエンジンオイル着火性の影響調査(第1報)-エンジン油添加剤による低速プレイグニッション抑制/促進効果-」、公益社団法人 自動車技術会 学術講演会前刷集、日本、2012年5月25日発行、No.70-12、表紙、p.1-4 甲第3号証:平野聡伺他2名、「過給直噴ガソリンエンジンでの異常燃焼に対するエンジンオイル着火性の影響調査(第3報)」、公益社団法人 自動車技術会 学術講演会前刷集、日本、2013年5月22日発行、No.12-13、表紙、p.11-14 甲第4号証:特開2009-235258号公報 甲第5号証:特開2008-106199号公報 甲第6号証:特開2009-173868号公報 甲第7号証:特開2009-179718号公報 甲第8号証:表題に、「SAEInternational^(TM) SURFACE VEHICLE STANDARD」、「SAE J300」、「REV. NOV2007」、「Issued 1911-06 Revised 2007-11 Supersedeing J300 MAY2004」、「Engine Oil Viscosity Classification」と記載されている文書 第1-5頁 甲第9号証:甲第8号証の第3頁第3段落の部分和訳 甲第10号証:特開2002-53888号公報 甲第11号証:特開2005-146010号公報 なお、以下、甲第1?11号証を、その番号に対応してそれぞれ、「甲1」?「甲11」、ともいう。 第4 判断 1 証拠の記載事項 理由1のうち、本件特許発明1に対するものは、本件特許発明1は、甲1?7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである、というものであり(異議申立書32?38頁、特に、37頁1?3行)、甲1?7には、以下の事項が記載されている。 (1)甲第1号証の記載事項 記載事項1-1 「【特許請求の範囲】 1.燃費特性および燃費保持特性の改良された内燃機関用エンジン油であって、 (a)基油、 (b)該エンジン油を基準に、少なくとも 2 重量%のホウ素含有アルケニルスクシンイミド〔ただし、該エンジン油中のホウ素濃度は、該エンジン油を基準に、約800 ppmwを超える〕、 (c)該エンジン油を基準に、50?2000 ppmwのモリブデン原子〔ただし、ジチオリン酸モリブデンまたはジチオカルバミン酸モリブデンとして存在する〕、 (d)該エンジン油を基準に、50?4000 ppmwのカルシウム原子〔ただし、サリチル酸カルシウムとして存在する〕、 (e)該エンジン油を基準に、50?4000 ppmwのマグネシウム原子〔ただし、サリチル酸マグネシウムとして存在する〕、および (f)該エンジン油を基準に、0?15 重量%の、エチレンと少なくとも一つの他のα-オレフィンモノマーとの共重合体〔ただし、該共重合体は 2 未満の Mw/Mn比がおよび1.8 未満の Mz/Mw比のうちの少なくともいずれか一つで特徴付けられる分子量分布を有し;該共重合体はメチレン単位から成る少なくとも一つの結晶可能なセグメントと少なくとも一つの低結晶化度のエチレン-α-オレフィン共重合体セグメントとを含有する分子内不均一ポリマー鎖を含み;該結晶可能なセグメントは該共重合体鎖の少なくとも 約10 重量%を占め るとともに、平均エチレン含有量が少なくとも 約57 重量%であり;該低結晶化度のセグメントは平均エチレン含有量が約20?約53重量%であり;各々の分子内不均一鎖中の少なくとも二つの部分(これらの部分はそれぞれ該鎖の少なくとも 5 重量%を占める)の組成はエチレン含有量に関して互いに少なくとも 7 重量%で異なる〕 を含有することを特徴とする前記エンジン油。」(第2頁第2行目?第26行目) 記載事項1-2 「内燃機関の可動部分のほとんどは流体潤滑状態にあり、一方、ピストンや弁機構など、摺動部分のいくつかは境界潤滑状態にある。境界潤滑状態における摩擦から生じる摩粍への耐性を与えるためには、エンジン油に添加剤を加えて摩粍を減少させる必要がある。長年にわたり、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(「ZDDP」)が標準的な摩粍防止用添加剤であった。ZDDPは良好な摩耗防止剤であるが、燃費に悪影響を及ぼす。従って、通常は、燃費節減のために摩擦調整剤を加える必要がある。摩耗防止剤および摩擦調整剤はいずれも、摺動金属表面上への吸着を介して機能するため、互いにそれぞれの機能を妨害しあう可能性がある。」(第4頁第11行目?第18行目) 記載事項1-3 「本発明のエンジン油は潤滑油基油を主成分とする必要がある。 潤滑油基油は、天然潤滑油、合成潤滑油、またはそれらの混合物から誘導できる。好適な潤滑油基油としては、合成ワックスおよびスラックワックスの異性化によって得られる基油、ならびに原油中の芳香族成分および極性成分を(溶剤抽出というよりむしろ)水素化分解で製造された水素化分解基油などが挙げられる。・・(中略)・・。こうした再精製油はまた、再生油または再処理油としても知られており、多くの場合、使用済み添加剤および油分解生成物を除去する技術を利用して更に処理が施される。」(第6頁第5行目?第7頁第15行目) 記載事項1-4 「ジチオカルバミン酸モリブデンおよびジチオリン酸モリブデンは、摩擦調整剤として機能するが、ジチオカルバミン酸モリブデンが好ましい。ジチオカルバミン酸モリブデンとしては、例えば、ジブチルジチオカルバミン酸モリブデン、ジアミルジチオカルバミン酸モリブデン、ジ(2-エチルヘキシル)ジチオカルバミン酸モリブデン、ジラウリルジチオカルバミン酸モリブデン、ジオレイルジチオカルバミン酸モリブデン、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸モリブデンなどのC_(6)?C_(18)のジアルキルまたはジアリールジチオカルバメートが挙げられる。エンジン油中のモリブデン量は、モリブデン原子として、50?2000 ppm、好ましくは 100?1000 ppmである。こうしたモリブデン化合物は市販されている。」(第7頁第16行目?第24行目) 記載事項1-5 「ホウ素化分散剤は、米国特許第4,863,624号に記載されている。好ましいホウ素化分散剤は、無水コハク酸基で置換し、更にポリエチレンアミン、ポリオキシエチレンアミン、およびポリオールアミンと反応させることによって得られるポリイソブチレンから誘導されるホウ素誘導体(PIBSA/PAM)であり、その添加量は、油組成物を基準として、2?16 重量%であることが好ましい。これらの反応生成物はアミド、イミド、またはそれらの混合物である。ホウ素化分散剤は「過剰ホウ素化」されている 。すなわち、これらのホウ素含有量は、分散剤を基準として0.5?5.0重量%である。こうした過剰ホウ素化分散剤は、エクソンケミカルカンパニーから入手可能である。ホウ素化分散剤の他に、全ホウ素濃度に寄与しうる他のホウ素供給源としては、ホウ素化分散剤型VI向上剤およびホウ素化清浄剤が挙げられる。」(第7頁第25行目?第8頁第7行目) 記載事項1-6 「本発明のエンジン油では、清浄剤としてサリチル酸カルシウムおよびサリチル酸マグネシウムを併用することにより相乗効果が得られる。清浄剤を併用する方が単独で使用するよりも、相乗効果でより良い性能が得られることが見出された。サリチル酸カルシウムおよびサリチル酸マ グネシウムとして存在するカルシウム原子およびマグネシウム原子の好ましい濃度は、エンジン油を基準にそれぞれ、100?3000 ppmwである。より好ましい実施態様においては、相乗効果を呈するサリチル酸カルシウムおよびサリチル酸マグネシウムの組合せ中に存在するカルシウム原子とマグネシウム原子との重量比は、8/1?1/8の範囲である。清浄剤は、通常、エンジンの清浄性および酸性種の中和を目的としてエンジン油に添加されるが、ジチオリン酸モリブデンおよび/またはジチオカルバミン酸モリブデンならびに過剰ホウ素化アルケニルスクシンイミドを併用したとき本発明のサリシレート清浄剤は、より良好な燃費特性および燃費保持特性のエンジン油をもたらす。サリシレート清浄剤は燃費および燃費保持に関して同等のスルホネート清浄剤よりも優れている。」(第8頁第19行目?第9頁第4行目) 記載事項1-7 「粘度指数(VI)向上剤は米国特許第4,804,794号に記載されているし、エクソンケミカルカンパニーから市販されているので入手できる。これらのVI向上剤は、エチレンと少なくとも一つの他のα-オレフィンモノマーとの共重合体でセグメント化されたものである。・・(中略)・・モノマー比が変化する鎖が含まれる。」(第9頁第5行目?第10頁第1行目) 記載事項1-8 「通常のエンジン油は、当該技術分野で周知の他の添加剤を含むことができる。こうした添加剤としては、他の摩擦調整剤、他の分散剤、酸化防止剤、防錆剤および防食剤、他の清浄剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、耐摩粍剤、泡消剤、抗乳化剤、加水分解安定化剤、ならびに極圧添加剤などが挙げられる。これらの添加剤は、Dieter Klamann著「Lubricants and Related Products」,Verlag Chemie,Weinheim,Germany, 1984に記載されている。本発明のエンジン油は、本質的にはいかなる内燃機関にも使用できる。」(第10頁第16行目?第10頁第22行目)(下線は、特許異議申立人が付したものである。) 記載事項1-9 「シーケンスVIスクリーナー試験の結果を、表1に示す。 」(第13頁4行目?第14頁) 記載事項1-10 「実施例7 この実施例では、完全処方のエンジン油を提示する。燃費は、実施例1に記載のASTMシーケンスVI試験を使用して式2から求めた。結果を表3に示す。 この実施例は、5W-30 エンジン油を用いて 4.26 %という高い EFEI値が得られることを示している。市販の製品 SAE 5W-30 の典型的な EFEI値は、2.7?3.2 %である。」(第17頁第1行目?第19頁第7行目) 記載事項1-11 「実施例 8 実施例 7 に記載したものと同じ成分を使用して、配合物 A、B、C、および D を調製した。これらの配合物には、同量のホウ素化分散剤(6.6 重量%)、オレフィン系共重合体(5.1 重量%)、および他の成分が含まれているが、サリチル酸カリシウム清浄剤およびサリチル酸マグネシウム清浄剤の相対量が異なる。配合物A、B、C、および D は、既述のボールオンシリンダ(BOC)摩擦試験にかけた。以下の表 4 に示された結果は、サリチル酸カリシウムおよびサリチル酸マグネシウムが共存すると、サリチル酸カリシウムまたはサリチル酸マグネシウムのどちらか一方が存在するときよりも、低い摩擦係数が得られることを示している。摩擦係数が低ければ、燃費もそれだけ良くなる。 」(第19頁第8行目?第20頁表4) (2)甲第2号証の記載事項 記載事項2-1 「ガソリンエンジン車両の燃費向上のため欧米を中心に過給直噴エンジンの導入が進んでいる。・・(中略)・・ 一方、低回転域での正味平均有効圧力を高めていくと、異常燃焼すなわち突発的な低速プレイグニッション[Low speed Pre-Ignition、以降LSPI)が現れ、低速トルクを向上する上での制約条件となっており、燃焼の分野では活発な議論が行われている。その一因としてオイルの影響が報告されているが、本報告ではエンジンオイルの組成、特に添加剤影響に注目して調査を行ったので、その結果について報告する。」(第1頁「1.まえがき」) 記載事項2-2 「 3.評価方法 3.1. 供試エンジン 供試エンジンには表1に示すように、試験用の直列4気筒過給直噴ガソリンエンジンを用いた。」(第2頁右欄第1行目?第4行目) 記載事項2-3 「3.1. 評価オイル エンジンオイルに含まれる添加剤のLSPI発生頻度に及ぼす影響を評価するため、表2に示す12種類のサンプルを試作した。・・・。12種類のサンプルは全て同一基油(GrIII,4cSt)を用いており、ベースラインオイルは、Caスルフォネートを0.1mass%(Ca量)、MoDTCを0、ZnDTPを0.06mass%(P量)とした。金属系清浄剤については、Ca量による影響(0.1?0.3mass%)に加えて、その種類(TBNレベルの異なる2種類のCaスルフォネート、および1種類のCaサリチレート)による影響も確認した。MoDTCについては0?0.07mass%(Mo量)の範囲、ZnDTPについては0.06?0.15mass%(P量)の範囲で評価した。その他、・・(中略)・・、粘度指数向上剤のタイプ(PMA、OCP)による影響も確認した。」(第2頁右欄第11行目?第26行目) 記載事項2-4 「4.2. Ca系清浄剤の影響 図7にCa系清浄剤の量を0.1?0.3mass%で変化させたNo.1,2,3の3種類のオイルを用いて評価した結果を示す。明らかにCa量とともにLSPI頻度が増加する結果が得られた。 ・・(中略)・・ 次に同一のCa量(0.1mass%)にてCa系清浄剤の種類による違いを検証した。Caスルフォネート(Baseline)、Caサリチレート、Caスルフォネート(TBN違い)へ置き換えたNo.1,6,7での評価結果を図8に示す。Ca系清浄剤の種類による違いは明確には見られず、Ca量による影響が大きいと考えられる。 ・・(中略)・・ 4.3. MoDTCの影響 MoDTCの添加量を0,0.03,0.07mass%(Mo元素のmass%)と変化させたNo.1,4,5の3種類のオイルを用いて評価した結果を図9に示す。MoDTC量とともにプレイグ頻度が低減することを確認した。 ・・(中略)・・ 4.4. ZnDTPの影響 ZnDTPの添加量を0.06,0.10,0.15mass%(P元素のmass%)と変化させたNo.1,10,11の3種類のオイルを用いて評価した結果を図10に示す。ZnDTP量とともにプレイグ頻度が低減することを確認した。」(第3頁右欄?第4頁左欄) 記載事項2-5 「過給直噴ガソリンエンジンのLSPIへ及ぼすオイルの添加剤の影響を確認し、Ca系清浄剤はプレイグを促進、MoDTCおよびZnDTPはプレイグを抑制する効果があることを確認した。」(第4頁右欄中段「6.まとめ」の項) (3)甲第3号証の記載事項 記載事項3-1 「ガソリンエンジン車両の燃費向上のため、世界的に過給直噴エンジンの導入が進んでいる。・・(中略)・・。 一方で、低回転域での正味平均有効圧を高めていくと、異常燃焼の一種である突発的な低速プレイグニッション(Low speed Pre-Ignition、以下LSPI)が発生し、低速トルクを向上する上での制約条件になっている。・・(中略)・・。本報告では現在のエンジンに要求される性能を維持しながら、LSPIの発生を抑制可能なエンジンオイル組成の実現可能性について調査を行ったので、その結果について報告する。」(第11頁「1.まえがき」) 記載事項3-2 「エンジンオイルは燃焼や高温にさらされる過酷な環境で使用され、その使用過程で酸化劣化等の劣化が進行する。そのため、現在一般的に使用されているエンジンオイルには種々の酸化防止剤が配合されている。ジアルキルジチオリン酸亜鉛(Zinc Di-Alkyl Di-Thio-Phosphate,以下ZnDTP)やモリブデンジチオカーバメート(Molybdenum Di-Thio-Carbamate,以下MoDTC)は酸化防止性を持つ添加剤であり、LSPIの頻度を低減する効果があることが分かっている。」(第12頁左欄第1行目?第8行目) 記載事項3-3 「3.3. 評価オイル ガソリンエンジンに使用されている一般的な製品のLSPI頻度を確認するため、表2に示す市販品を評価した。・・(中略)・・。No.4のACEA C2規格はDPFのAsh堆積を抑制するため特に低Ashに処方されたものであり、Ca量が0.11mass%と顕著に低いものである。」(第12頁右欄) 記載事項3-4 「4.1. 市販油の評価結果 図4に表2に示した市販油の評価結果を示す。・・(中略)・・既報の第1報、第2報では、CaはLSPI頻度を顕著に増加し、P(ZnDTPとして)およびMo(MoDTC)はLSPI頻度を低減する効果が確認された(Ca=0.1mass%にて)。しかし、No.1?3のオイルの比較ではMoの低減効果が見られなかった。これはCa量が多い場合その影響が強く、Moの効果が見られなくなるためと考えられる。一方、No.4オイルはCa量が少なく、顕著にLSPI頻度が低減したと考えられる。」(第13頁) 記載事項3-5 「4.2. 試作油によるCa濃度の影響の評価結果 図5に、表3で示した試験用オイルのCaに対するLSPI頻度の変化を示す。・・(中略)・・Caの増加に対しては既報と同様、LSPI頻度が増加した。しかし、そのレスポンスは直線的ではなく、Ca量で約0.15%を超えたところから増加し始める傾向が見られた。」(第13頁右欄) (4)甲第4号証の記載事項 記載事項4-1 「【0049】 本発明の潤滑油組成物は、その清浄性及び摩耗防止|生を向上させるために、(C)ホウ素変性コハク酸イミド無灰分散剤を含有する。」 記載事項4-2 「【0052】 上記コハク酸イミドとしては、より具体的には、下記一般式(5)又は(6)で示される化合物等が例示できる。 [式中、R^(7)は炭素数40?400、好ましくは60?350のアルキル基又はアルケニル基、更に好ましくはポリブテニル基を示し、mは1?5、好ましくは2?4の整数を示す。] [式中、R^(8)及びR^(9)は、それぞれ個別に炭素数40?400、好ましくは60?350のアルキル基又はアルケニル基、更に好ましくはポリブテニル基を示し、mは0?4、好ましくは1?3の整数を示す。] 【0053】 なお、コハク酸イミドには、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した式(5)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した式(6)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが包含されるが、本発明の潤滑油組成物においては、それらの一方のみを含んでもよく、あるいはこれらの混合物が含まれていてもよい。 【0054】 上記コハク酸イミドの製法は特に制限はないが、例えば、炭素数40?400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を無水マレイン酸と100?20 0℃で反応させて得たアルキル又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得ることができる。ポリアミンとしては、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等が例示できる。 【0055】 本発明で用いることのできる無灰分散剤は、上記一般式(5)又は(6)で表されるアルキル又はアルケニルコハク酸イミドに、ホウ酸等のホウ素化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和した、いわゆるホウ素変性アルキル又はアルケニルコハク酸イミドであって、ホウ素化されていないアルキル又はアルケニルコハク酸イミドと比較して、熱・酸化安定性に優れるという特徴を有する。」 記載事項4-3 「【0087】 本発明の潤滑油組成物は、湿式クラッチ用、二輪車用4サイクルエンジン用、あるいは湿式クラッチを有する二輪車用4サイクルエンジン用に用いた場合に特に優れた性能を発揮するが、四輪車、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディ一ゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関用潤滑油としても好ましく使用することができる。」 記載事項4-4 「【0089】 [実施例1?3、比較例1?6] 実施例1?3及び比較例1?6においては、それぞれ以下に示す潤滑油基油及び添加剤を用いて表1に示す組成を有する潤滑油組成物を調製した。表1には、各実施例又は比較例で得られた潤滑油組成物のホウ素、カルシウム、モリブデン及びリンの濃度(潤滑油組成物全量を基準とした元素換算値)を併せて示す。 (1)潤滑油基油 基油1:水素化分解鉱油(100℃における動粘度:5.0mm^(2)/s、粘度指数:100、芳香族分:6.0質量%、硫黄分:0.11質量%) (2)リン含有添加剤 リン含有化合物A-1:一般式(2)中のR^(4)及びR^(5)が2-エチルヘキシル基であり、R^(6)が水素原子であり、qが1であるリン化合物の亜鉛塩(リン含有量:7.0質量%、硫黄含有量:0質量%、亜鉛含有量:10.5質量%) リン含有化合物2:アルキル基がsec-ブチル/sec-ヘキシルであるジアルキルジチオリン酸亜鉛(リン含有量:7.2質量%、硫黄含有量:15.2質量%、亜鉛含有量:10.5質量%) (3)金属系清浄剤 金属系清浄剤B-1:プロピレンオリゴマーである炭素数15?27のアルキル基を有する過塩基性カルシウムスルホネート(塩基価:300mgKOH/g、カルシウム含有量:12質量%)金属系清浄剤B-2:プロピレンオリゴマーである炭素数12のアルキル基を有する過塩基性カルシウムフェネート(塩基価:280mgKOH/g、カルシウム含有量:12.7質量%、硫黄含有量:2質量%)金属系清浄剤3:エチレンオリゴマーである炭素数16?20のアルキル基を有する過塩基性カルシウムスルホネート(塩基価:250mgKOH/g、カルシウム含有量:9.25質量%) 金属系清浄剤4:エチレンオリゴマーである炭素数14?18のアルキル基を有する過塩基性カルシウムサリチレート(塩基価:170mgKOH/g、カルシウム含有量:6.0質量%) (4)無灰分散剤 無灰分散剤C-1:ホウ酸変性ポリブテニルコハク酸イミド(ポリブテニル基数平均分子量:1300、窒素含有量:1.7質量%、ホウ素含有量:0.9質量%)。 無灰分散剤2:ポリブテニルコハク酸イミド(ポリブテニル基数平均分子量:1300、窒素含有量:1.6質量‰ホウ素含有量:0質量%)。 (5)摩擦調整剤 モリブデンジチオカーバメートD-1:炭素数8?13のアルキル基を有するMoDTC(モリブデン含有量10質量%) (6)酸化防止剤 ジアルキルジフェニルアミン (7)粘度指数向上剤 オレフィン共重合体(重量平均分子量:90,000、PSSI:25)」 (5)甲第5号証の記載事項 記載事項5-1 「【0043】 本発明においては、(F)ジチオリン酸亜鉛を配合してもよく、この配合により耐摩耗性とともに鉛に対する腐食防止効果がさらに高まる。ジチオリン酸亜鉛としては、一般式(III)で示される化合物が挙げられる。 【0044】 【0045】 一般式(III)において、R^(7)、R^(8)、R^(9)およびR^(10)は炭素数3?22の第1級又は第2級のアルキル基または炭素数3?18のアルキル基で置換されたアルキルアリール基から選ばれた置換基を表し、それらは互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。 【0046】 本発明においては、これらのジチオリン酸亜鉛は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、特に、第2級のアルキル基のジチオリン酸亜鉛を主成分とするものが、耐摩耗性を高めるため好ましい。 ジチオリン酸亜鉛の具体例としては、ジプロピルジチオリン酸亜鉛、ジブチルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルジチオリン酸亜鉛、ジヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジイソペンチルジチオリン酸亜鉛、ジエチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジオクチルジチオリン酸亜鉛、ジノニルジチオリン酸亜鉛、ジデシルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルジチオリン酸亜鉛、ジプロピルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジペンチルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジプロピルメチルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジノニルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルフェニルジチオリン酸亜鉛、ジドデシルフェニルジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。 【0047】 本発明の潤滑油組成物においては、(F)ジチオリン酸亜鉛の含有量は、組成物全量基準でリン換算で好ましくは0.02?0.10質量%、さらに好ましくは0.03?0.08質量%になるように配合される。このリン含有量が0.0 2質量%未満では、耐摩耗性や高温清浄性が十分でなく、0.10質量%を超えると、排気ガス触媒の触媒被毒が著しくなって好ましくない。」(下線は、特許異議申立人が付したものである。) 記載事項5-2 「【0048】 本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて他の添加剤、例えば粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤、酸化防止剤、耐摩耗剤又は極圧剤、摩擦低減剤、分散剤、防錆剤、界面活性剤又は抗乳化剤、消泡剤などを適宜配合することができる。」 記載事項5-3 「【0051】 清浄分散剤としては、無灰分散剤および/または金属系清浄剤を用いることができる。無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤を用いることができるが、例えば、一般式(IV)で表されるモノタイプのコハク酸イミド化合物、または一般式(V)で表されるビスタイプのコハク酸イミド化合物が挙げられる。 【0052】 」 記載事項5-4 「【0056】 また、上記のアルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物の他に、そのホウ素誘導体、及び/又はこれらを有機酸で変性したものを用いてもよい。アルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物のホウ素誘導体は、常法により製造したものを使用することができる。 例えば、上記のポリオレフィンを無水マレイン酸と反応させてアルケニルコハク酸無水物とした後、更に上記のポリアミンと酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステル、ホウ素酸のアンモニウム塩等のホウ素化合物を反応させて得られる中間体と反応させてイミド化させることによって得られる。 このホウ素誘導体中のホウ素含有量には特に制限はないが、ホウ素として、通常0.05?5質量%、好ましくは0.1?3質量%である。」 記載事項5-5 「【0075】 第1表に示す組成および配合量の潤滑油組成物を調製し、金属腐食試験を行った。試験結果および潤滑油組成物の性状を第2表に示す。なお、潤滑油組成物の調製に用いた各成分は、次のとおりである。 (1)基油A:水素化精製基油、40℃動粘度21mm^(2)/s、100℃動粘度4.5mm^(2)/s、粘度指数127、%C_(A)0.1以下、硫黄含有量20質量ppm未満、NOACK蒸発量13.3質量% (2)基油B:ポリα?オレフィン、40℃動粘度17.5mm^(2)/s、100℃動粘度3.9mm^(2)/s、粘度指数120、NOACK蒸発量14.9質量% (3)基油C:ポリα-オレフィン、40℃動粘度28.8mm^(2)/s、100℃動粘度5.6mm^(2)/s、粘度指数136、NOACK蒸発量6.0質量% (4)モリブデンジチオカーバメート:サクラルーブ515(株式会社ADEK A製)、Mo含有量10.0質量%、硫黄含有量11.5質量% (5)アミド系摩擦調整剤:オレイン酸ジエタノールアミド (6)エステル系摩擦調整剤:グリセリンモノオレート (7)アミン系摩擦調整剤:キクルーブFM910(株式会社ADEKA製) (8)ジチオリン酸亜鉛:Zn含有量9.0質量%、リン含有量8.2質量%、硫黄含有量17.1質量%、アルキル基;第2級ブチル基と第2級ヘキシル基の混合物 (9)金属不活性化剤:1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンソトリアソール (10)粘度指数向上剤A:ポリメタクリレート、重量平均分子量420,00 0、樹脂量39質量% (11)粘度指数向上剤B:スチレンーイソブチレン共重合体、重量平均分子量583,500、樹脂量10質量% (12)フェノール系酸化防止剤:オクタデシルー3-(3,5-ジーtert-ブチル4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート (13)アミン系酸化防止剤:ジアルキルジフェニルアミン、窒素含有量4.62質量% (14)モリブデンアミン系酸化防止剤:サクラルーブS-710(株式会社ADEKA製)モリブデン含有量10質量% (15)金属系清浄剤(A):過塩基性カルシウムフェネート、塩基価(過塩素酸法)255mgKOH/g、カルシウム含有量9.3質量%、硫黄含有量3.0質量% (16)金属系清浄剤(B):過塩基製カルシウムサリシレート、塩基価(過塩素酸法)225mgKOH/g、カルシウム含有量7.8質量%、硫黄含有量0.3質量% (17)金属系清浄剤(C):カルシウムスルホネート、塩基価(過塩素酸法)17mgKOH/g、カルシウム含有量2.4質量%、硫黄含有量2.8質量% (18)無灰分散剤A:ポリブテニルコハク酸モノイミド(ポリブテニル基の数平均分子量1000、窒素含有量1.76質量%、ホウ素含有量2.0質量%) (19)無灰分散剤B:ポリブテニルコハク酸モノイミド(ポリブテニル基の数平均分子量1000、窒素含有量1.23質量%、ホウ素含有量1.3質量%) (20)無灰分散剤C:ポリブテニルコハク酸ビスイミド(ポリブテニル基の数平均分子量2000、窒素含有量0.99質量%) (21)その他の添加剤:防錆剤、抗乳化剤および消泡剤」(下線は、特許異議申立人が付したものである。) (6)甲第6号証の記載事項 記載事項6-1 「【0009】 ・・(中略)・・本明細書でさらに詳しく説明されるように、このような潤滑油組成物は、内燃エンジン(例えば圧縮点火エンジンや火花点火エンジンなど)の潤滑に特に有用である。火花点火エンジンは、バイオ燃料、ガソリンの直噴、可変バルブタイミング、ターボチャージ、および後処理などで作動される。圧縮点火エンジンは、バイオ燃料、ターボチャージ、冷却排ガス再循環(EGR)、および後処理(触媒、ディーゼル微粒子除去装置、および選択接触還元を含む)などで作動される。」 (7)甲第7号証の記載事項 記載事項7-1 「【0008】 本発明の低デポジット省燃費型エンジン油組成物は、前記のような構成としたことから、400℃を超える高温における耐デポジット性に優れ、さらに金属間の摩擦係数を著しく低下させることができるといった格別な効果を奏する。したがって、内燃機関、特にターボチャージャが装着されたガソリンエンジン機関に好適に用いることができる。すなわち、ターボチャージャにおけるデポジット生成を低減しかつエンジンしゅう動部の金属間摩擦係数を著しく低下させることにより燃費が向上するという格別の効果を発揮する。」 2 甲第1号証に記載された発明 甲第1号証には、その請求項1に記載された「内燃機関用エンジン油」(記載事項1-1)の実施例として、実施例7、実施例8(配合物C)が記載されている(記載事項1-10、1-11)。 そうすると、甲1には、実施例7、実施例8(配合物C)に対応し、以下の発明が記載されていると認められる。 「SAEグレードが5W-30であるS100 N 基油、オレフィン共重合体型VI向上剤が、ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)、清浄剤として、サリチル酸カルシウム、及びサリチル酸マグネシウム、摩擦調整剤としてジチオカルバミン酸モリブデン、並びに添加剤パッケージ(酸化防止剤、耐摩耗剤、耐食剤、抗乳化剤、および消泡剤が含まれている。)を含有し、ホウ素濃度が0.136重量%、カルシウム濃度が0.137重量%、マグネシウム濃度が0.0445重量%、モリブデン濃度が0.0462重量%である、内燃機関用エンジン油(内燃機関用潤滑油組成物)。」(以下、「甲1発明A」という。)、 「SAEグレードが5W-30であるS100 N 基油、オレフィン共重合体型VI向上剤、ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)、清浄剤として、サリチル酸カルシウム、及びサリチル酸マグネシウム、摩擦調整剤としてジチオカルバミン酸モリブデン、並びに添加剤パッケージ(酸化防止剤、耐摩耗剤、耐食剤、抗乳化剤、および消泡剤が含まれている。)を含有し、ホウ素濃度が0.0845重量%、カルシウム濃度が0.0203重量%、マグネシウム濃度が0.1550重量%、モリブデン濃度が0.0462重量%である、内燃機関用エンジン油(内燃機関用潤滑油組成物)。」(以下、「甲1発明B」という。)、 3 対比・判断 (1)本件特許発明1について ア 甲1発明Aを主引用発明とする場合について (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明Aを対比する。 甲1発明Aの「SAEグレードが5W-30であるS100 N 基油」は、甲1の記載事項1-10によれば、内燃機関用潤滑油組成物中に74.50重量%含有するものであり、また、甲1の記載事項1-3によれば、「本発明のエンジン油は潤滑油基油を主成分とする必要がある。」と記載されているから、本件特許発明1の「潤滑油基油」に相当するといえる。 甲1発明Aの「サリチル酸マグネシウム」は、本件特許発明1の「少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物」に相当する。 甲1発明Aの「ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)」は、甲1の(記載事項1-5)によれば、「無水コハク酸基で置換し、更にポリエチレンアミン、ポリオキシエチレンアミン、およびポリオールアミンと反応させることによって得られるポリイソブチレンから誘導される」ものであり、その製造方法からして、窒素を有することは明らかであるから、本件特許発明1の「窒素を有する無灰分散剤」に相当するといえる。 甲1発明Aの「サリチル酸カルシウム」は、本件特許発明1の「少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物」に相当する。 甲1発明Aの「ジチオカルバミン酸モリブデン」は、本件特許発明1の「モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物」に相当する。 「過給ガソリンエンジン」は、内燃機関であるから、本件特許発明1の「過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物」と、甲1発明Aの「内燃機関用エンジン油」とは、「内燃機関用潤滑油組成物」である点で共通する。 したがって、本件特許発明1と甲1発明Aの一致点、相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 「潤滑油基油と、カルシウム及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、及び窒素を有する無灰分散剤を含む内燃機関用潤滑油組成物。」 <相違点1> 本件特許発明1は、「下記式(1) X=([Ca]+0.5[Mg])×8-[Mo]×8-[P]×30 (1) (上記式(1)において[Ca]、[Mg]、[Mo]、及び[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度(質量%)である) で求められるXが、X≦-1.2を満たし」という特定を有するものであるのに対し、甲1発明Aは、そのような特定を有していないものである点。 <相違点2> 本件特許発明1は、「下記式(2) Y=[Ca]+1.65[Mg]+[N] (2) (上記式(2)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるYが、Y≧0.18を満たし」という特定を有するものであるのに対し、甲1発明Aは、そのような特定を有していないものである点。 <相違点3> 本件特許発明1は、「下記式(3) Z=[N]/([Ca]+[Mg]) (3) (上記式(3)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるZが、Z=0.3?1.5を満たす」という特定を有するものであるのに対し、甲1発明Aは、そのような特定を有していないものである点。 <相違点4> 「内燃機関用潤滑油組成物」について、本件特許発明1は、「過給ガソリンエンジン用」に特定されているのに対し、甲1発明Aは、そのような特定を有していない点。 (イ)相違点についての検討 事案に鑑み、まず、相違点3を検討する。 相違点3に係る「式(3)」は、「[N](無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%))」を含むものであるところ、甲1(記載事項1-1?1-11)には、そもそも、潤滑油組成物中の無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)について記載も示唆もない。 また、甲1発明Aの「ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)」の窒素の濃度(質量%)についても、甲1には何も記載されていない。 また、甲2?7のいずれにも、式(3)によって、内燃機関用潤滑油組成物を特定することや、その値を好ましい範囲に限定することについて、記載も示唆もない。 そうすると、「[N](無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%))」について記載も示唆もない、甲1?7に記載された事項に基づき、甲1発明Aにおいて、「[N](無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%))」に着目し、その上、「[N](無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%))」を含む式である式(3)を新たに創造し、その値を「0.3?1.5」に限定して、相違点3に係る特定を有するものとすることは、当業者といえども容易に着想し得たとは認められない。 また、本件特許発明1は、相違点3に係る特定を備えることにより、相違点1、2、4に係る特定を備えることと相まって、LSPIを防止することができるなどの効果を奏するものであって、この効果は、甲1?7に記載された事項に基づき当業者が予測することができるものであるとはいえない。 そうすると、さらに相違点1、2、4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明A及び甲1?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (ウ)相違点3に関する申立人の主張について 申立人は、甲1発明Aの「ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)」に代えて、甲4に記載されている「無灰分散剤C-1:ホウ酸変性ポリブテニルコハク酸イミド(ポリブテニル基数平均分子量:1300、窒素含有量:1.7質量%、ホウ素含有量:0.9質量%)」(記載事項4-4)を代用することは、当業者が当然に行い得る技術的事項であり(異議申立書34頁13?16行)、当該代用をした場合には、甲1発明A(甲第1号証の実施例7)の窒素濃度は、0.257%と計算でき(異議申立書34頁19?22行)、この値、及び、甲1発明Aの「カルシウム濃度」(0.137重量%)、及び、「マグネシウム濃度」(0.0445重量%)の値を、本件特許発明1の「式(3)」に代入するとZ=1.416となるから、甲1発明Aは、本件特許発明1の式(3)に関する要件である「Z=0.3?1.5」を、満たすものになる(異議申立書36頁(ア-4)の項。)ので、本件特許発明1は甲第1?5号証に記載された発明並びに甲第6及び7号証に支持される技術常識に基づいて当業者が容易に導くことができる発明である(異議申立書37頁(ア-4)の項の最後の3行。)旨主張する。 しかしながら、甲1には、甲1発明Aの「ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)」を使用せず、これに代えて他のホウ酸変性ポリブテニルコハク酸イミドを使用することについては記載も示唆もないのであるから、甲1に接した当業者は、甲1発明Aの「ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)」を使用することをまず第一に着想するのであって、申立人が主張するように、当該代用を「当業者が当然に行」うとはいえない。 また、仮に、当該代用を行うことを着想したとしても、当該代用しうる他のホウ酸変性ポリブテニルコハク酸イミドとして、甲4の「無灰分散剤C-1」や甲5の「無灰分散剤B」以外にも多数のホウ酸変性ポリブテニルコハク酸イミドが周知である(例えば、特開2012-102281号公報の段落【0085】の「無灰分散剤3」や、国際公開第2012/133345号の段落【0042】の「C2」、「C4」)ので、当該代用をする際に使用する他のホウ酸変性ポリブテニルコハク酸イミドの候補として、甲4の「無灰分散剤C-1」や甲5の「無灰分散剤B」以外にも多数の選択肢が存在する。 そうすると、当該代用をする際に使用するホウ酸変性ポリブテニルコハク酸イミドが、必ずしも、甲4の「無灰分散剤C-1」や甲5の「無灰分散剤B」になるとは限らないし、甲4の「無灰分散剤C-1」や甲5の「無灰分散剤B」を選択する動機付けも、全くない。 そして、甲1発明Aについて、特開2012-102281号公報の段落【0085】の「無灰分散剤3」や、国際公開第2012/133345号の段落【0042】の「C2」、「C4」に代用した場合のZの値を申立人と同様の計算式で計算すると、以下に示すとおり、その値は、本件特許発明1(0.3?1.5)を充足しない。 特開2012-102281号公報の段落【0085】の「無灰分散剤3」は、「B含量:0.5質量%」、「N含量:1.3質量%」なので、窒素濃度は、0.495(=1.3*0.136/0.5)、Z=1.95(=0.354/(0.137+0.0445)) 国際公開第2012/133345号の段落【0042】の「C2」は、「B含量:0.44質量%」、「N含量:1.6質量%」なので、窒素濃度は、0.495(=1.6*0.136/0.44)、Z=2.73(=0.495/(0.137+0.0445)) 結局の所、申立人が容易想到と主張する甲1発明Aの「ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)」を他のホウ酸変性ポリブテニルコハク酸イミドに代用することや、当該代用をする際に使用するホウ酸変性ポリブテニルコハク酸イミドとして、甲4の「無灰分散剤C-1」や甲5の「無灰分散剤B」を選択することは、本件特許発明1の「下記式(3) Z=[N]/([Ca]+[Mg]) (3)(上記式(3)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である)で求められるZが、Z=0.3?1.5」を前提とするいわゆる後知恵によるものというほかないから、当該主張を採用することはできない。 イ 甲1発明Bを主引用発明とする場合について (ア)対比 本件特許発明1と甲1発明Bを対比する。 甲1発明Bの「SAEグレードが5W-30であるS100 N 基油」は、甲1の記載事項1-10によれば、内燃機関用潤滑油組成物中に74.50重量%含有するものであり、また、甲1の記載事項1-3によれば、「本発明のエンジン油は潤滑油基油を主成分とする必要がある。」と記載されているから、本件特許発明1の「潤滑油基油」に相当するといえる。 甲1発明Bの「サリチル酸マグネシウム」は、本件特許発明1の「少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物」に相当する。 甲1発明Bの「ホウ素化分散剤として過剰ホウ素化PIBSA/PAM(ホウ素含有量1?1.3%)」は、甲1の(記載事項1-5)によれば、「無水コハク酸基で置換し、更にポリエチレンアミン、ポリオキシエチレンアミン、およびポリオールアミンと反応させることによって得られるポリイソブチレンから誘導される」ものであり、その製造方法からして、窒素を有することは明らかであるから、本件特許発明1の「窒素を有する無灰分散剤」に相当するといえる。 甲1発明Bの「サリチル酸カルシウム」は、本件特許発明1の「少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物」に相当する。 甲1発明Bの「ジチオカルバミン酸モリブデン」は、本件特許発明1の「モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物」に相当する。 「過給ガソリンエンジン」は、内燃機関であるから、本件特許発明1の「過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物」と、甲1発明Bの「内燃機関用エンジン油」とは、「内燃機関用潤滑油組成物」である点で共通する。 したがって、本件特許発明1と甲1発明Bの一致点、相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 「潤滑油基油と、カルシウム及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、及び窒素を有する無灰分散剤を含む内燃機関用潤滑油組成物。」 <相違点5> 本件特許発明1は、「下記式(1) X=([Ca]+0.5[Mg])×8-[Mo]×8-[P]×30 (1) (上記式(1)において[Ca]、[Mg]、[Mo]、及び[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度(質量%)である) で求められるXが、X≦-1.2を満たし」という特定を有するものであるのに対し、甲1発明Bは、そのような特定を有していないものである点。 <相違点6> 本件特許発明1は、「下記式(2) Y=[Ca]+1.65[Mg]+[N] (2) (上記式(2)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるYが、Y≧0.18を満たし」という特定を有するものであるのに対し、甲1発明Bは、そのような特定を有していないものである点。 <相違点7> 本件特許発明1は、「下記式(3) Z=[N]/([Ca]+[Mg]) (3) (上記式(3)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である) で求められるZが、Z=0.3?1.5を満たす」という特定を有するものであるのに対し、甲1発明Bは、そのような特定を有していないものである点。 <相違点8> 「内燃機関用潤滑油組成物」について、本件特許発明1は、「過給ガソリンエンジン用」に特定されているのに対し、甲1発明Bは、そのような特定を有していない点。 (イ)相違点についての検討 相違点5?8は、それぞれ、上記ア(ア)に記載した相違点1?4と同じである。 そうすると、上記ア(イ)に説示した理由と同じ理由で、本件特許発明1は、甲1発明B及び甲1?7に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1?7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本件特許発明2?12について 本件特許発明2?12は、本件特許発明1を直接または間接的に引用し、さらに限定する事項を備えるものであるところ、上述のとおり、本件特許発明1は、甲1?7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないものである。 また、甲8?11号証は、上記「限定する事項」に係る証拠である。 そして、甲8?11号証を勘案しても、本件特許発明1に係る上記判断は影響されない。 そうすると、本件特許発明2?12も、本件特許発明1と同様の理由により、甲1?11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 4 むすび 以上の検討のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?12に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-12-12 |
出願番号 | 特願2014-177254(P2014-177254) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C10M)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 三須 大樹、大島 彰公 |
特許庁審判長 |
日比野 隆治 |
特許庁審判官 |
木村 敏康 蔵野 雅昭 |
登録日 | 2018-03-09 |
登録番号 | 特許第6300686号(P6300686) |
権利者 | トヨタ自動車株式会社 EMGルブリカンツ合同会社 |
発明の名称 | 潤滑油組成物 |
代理人 | 加藤 由加里 |
代理人 | 村上 博司 |
代理人 | 村上 博司 |
代理人 | 加藤 由加里 |
代理人 | 松井 光夫 |
代理人 | 松井 光夫 |