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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1347689
異議申立番号 異議2018-700797  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-03 
確定日 2018-12-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6305331号発明「波長カットフィルタ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6305331号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6305331号の請求項1?5に係る特許についての出願は、2013年(平成25年)3月27日(優先権主張平成24年4月25日)を国際出願日とする出願であって、平成30年3月16日にその特許権の設定登録がされ、平成30年4月4日に特許公報が発行された。その後、その特許に対し、平成30年10月3日に特許異議申立人 石井良夫(以下、「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされた。

2 本件特許発明
特許第6305331号の請求項1?5の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ガラス基板(A)の一方の面に染料を含有するコーティング層(B)を有し、且つガラス基板(A)の他方の面に赤外線反射膜(C)を積層してなることを特徴とする波長カットフィルタであって、
上記染料が下記一般式(I)で表されるシアニン化合物である波長カットフィルタ。
【化1】

(式中、Aは下記の群Iの(a)、(b)、(c)、(e)、(h)、(i)、(j)、(l)及び(m)から選ばれる基を表し、A’は下記の群IIの(a’)、(b’)、(c’)、(e’)、(h’)、(i’)、(j’)、(l’)及び(m’)から選ばれる基を表し、
Qは下記(Q-1)?(Q-11)の何れかで表される連結基を表し、
An^(q-)はq価のアニオンを表し、qは1又は2を表し、pは電荷を中性に保つ係数を表し、
但し、Aが(a)で表される基であり、A’が(a’)で表される基であり、且つQが(Q-1)、(Q-2)、(Q-3)、(Q-5)、(Q-6)、(Q-10)及び(Q-11)からなる群から選ばれる一種の連結基であるシアニン化合物を除く。)
【化2】

【化3】

(式中、環C及び環C’は、ベンゼン環又はナフタレン環を表し、
R^(1)及びR^(1)’は、水酸基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、フェロセニル基、炭素原子数7?30のアリールアルキル基又は炭素原子数1?8のアルキル基を表し、
上記R^(1)及びR^(1)’中の炭素原子数7?30のアリールアルキル基及び炭素原子数1?8のアルキル基は、水酸基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基又はフェロセニル基で置換されていてもよく、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-CONH-又は-NHCO-で中断されていてもよく、
R^(2)?R^(9)及びR^(2)’?R^(9)’は、R^(1)及びR^(1)’と同様の基又は水素原子を表し、
X及びX’は、酸素原子、硫黄原子、-CR^(51)R^(52)-、炭素原子数3?6のシクロアルカン-1,1-ジイル基、-NH-又は-NY^(2)-を表し、
R^(51)及びR^(52)は、R^(1)及びR^(1)’と同様の基又は水素原子を表し、
Y、Y’及びY^(2)は、水素原子、又は水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、カルボキシル基、フェロセニル基若しくはニトロ基で置換されてもよい炭素原子数1?20のアルキル基若しくは炭素原子数7?30のアリールアルキル基を表し、
上記Y、Y’及びY^(2)中の炭素原子数1?8のアルキル基及び炭素原子数7?30のアリールアルキル基中のメチレン基は、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-CONH-又は-NHCO-で中断されていてもよく、
r及びr’は、0又は(a)、(b)、(c)、(e)、(h)、(i)、(j)、(l)、(m)、(a’)、(b’)、(c’)、(e’)、(h’)、(i’)、(j’)、(l’)及び(m’)において置換可能な数を表す。)
【化4】

(式中、R^(14)、R^(15)、R^(16)、R^(17)、R^(18)及びR^(19)は、各々独立に、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、アリール基、アリールアルキル基又はアルキル基を表し、該アリール基、アリールアルキル基及びアルキル基は、水酸基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されていてもよく、-O-、-S-、-CO-、-COO-、-OCO-、-CONH-又は-NHCO-で中断されていてもよく、
Z’は、水素原子、水酸基、シアノ基、アリール基、アリールアルキル基又はアルキル基を表し、該アリール基、アリールアルキル基及びアルキル基は、水酸基、ハロゲン原子又はシアノ基で置換されていてもよく、-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、-CONH-又は-NHCO-で中断されていてもよく、
R及びR’は、アリール基、アリールアルキル基又はアルキル基を表す。)
【請求項2】
透過率が下記(i)?(iii)を満たすことを特徴とする請求項1記載の波長カットフィルタ。(i)波長430?580nmの範囲において、波長カットフィルタの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が75%以上である。(ii)波長800?1000nmにおいて、波長カットフィルタの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が5%以下である。(iii)波長560?800nmの範囲において、波長カットフィルタの垂直方向から測定した場合の透過率が80%となる波長の値(Ya)と、波長カットフィルタの垂直方向に対して35°の角度から測定した場合の透過率が80%となる波長の値(Yb)の差の絶対値が30nm以下である。
【請求項3】
上記染料を含有するコーティング層(B)が、樹脂固形分100質量部に対して染料を0.01?10.0質量部含有されてなることを特徴とする請求項1又は2記載の波長カットフィルタ。
【請求項4】
請求項1?3の何れか1項に記載の波長カットフィルタを具備することを特徴とする固体撮像装置。
【請求項5】
請求項1?3の何れか1項に記載の波長カットフィルタを具備することを特徴とするカメラモジュール。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、以下の、甲第1号証?甲第6号証を提出し、本件特許発明1?5は、その優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証の記載事項、甲第2号証?甲第6号証に記載された公知の化合物に基づいて、その優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

甲第1号証:特開2011-100084号公報
甲第2号証:特開2003-35817号公報
甲第3号証:特開2010-209191号公報
甲第4号証:特表2009-538459号公報
甲第5号証:特開2004-53799号公報
甲第6号証:特開2007-233323号公報

4 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(1)甲第1号証の記載事項
本件特許の優先権主張の日前の平成23年5月19日に頒布された刊行物である甲第1号証(特開2011-100084号公報)には、図面とともに以下の記載事項がある。なお、合議体が、発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線カットフィルターに関する。詳しくは、本発明は、十分な視野角を持ち、特にCCD、CMOS等の固体撮像素子用視感度補正フィルターとして好適に用いることができる近赤外線カットフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマデイスプレイパネル(PDP)を搭載したテレビが商品化され、一般家庭にも広く普及するようになってきた。このPDPは、プラズマ放電を利用して作動するディスプレイであるが、プラズマ放電の際に近赤外線(波長:800?1000nm)が発生することが知られている。
【0003】
一方、家庭内においては、テレビ、ステレオあるいはエアコン等の家電製品のリモコン、さらには、パーソナルコンピューターの情報のやり取りに近赤外線を利用することが多くなっており、PDPの発する近赤外線がこれら機器の誤作動の原因になる可能性が高いことが常々指摘されている。
【0004】
そこで、市販されているPDPの多くは、その前面板に、自らが発する近赤外線をカットするためのフィルター機能を備えるようになっている。
【0005】
また、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、カメラ機能付き携帯電話などにはカラー画像の固体撮像素子であるCCDやCMOSイメージセンサが使用されているが、これら固体撮像素子はその受光部において近赤外線に感度を有するシリコンフォトダイオードを使用しているために、視感度補正を行うことが必要であり、近赤外線カットフィルターを用いることが多い。
【0006】
このような近赤外線カットフィルターとしては、従来から、各種方法で製造されたものが使用されている。例えば、ガラスなど透明基材の表面に銀等の金属を蒸着して近赤外線を反射するようにしたもの、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂等の透明樹脂に近赤外線吸収色素を添加したものなどが実用に供されている。
【0007】
しかしながら、ガラス基材に金属を蒸着した近赤外線カットフィルターは製造コストがかかるだけでなく、カッティング時に異物として基材のガラス片が混入してしまうという問題があった。さらに、基材として無機質材料を用いる場合は、近年の固体撮像装置の薄型化・小型化に対応していくためには限界があった。

(中略)

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、視野角が広く、さらに、近赤外線カット能に優れ、吸湿性が低く、異物やソリのない、特にCCD、CMOS等の固体撮像装置用に好適に用いることができる近赤外線カットフィルターを得ることを目的とする。さらに、前記近赤外線カットフィルターを具備することにより、薄型で耐衝撃性に優れた固体撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る近赤外線カットフィルターは、透過率が下記(A)?(D)を満たすことを特徴とする。
(A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が75%以上であり、
(B)波長800?1000nmにおいて、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が20%以下であり、
(C)800nm以下の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値が75nm未満であり、
(D)波長560?800nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値が15nm未満である。
【0015】
本発明の近赤外線カットフィルターは、波長600?800nmに吸収極大があり、かつ、波長430?800nmの波長領域において、透過率が70%となる吸収極大以下で最も長い波長(Aa)と、波長580nm以上の波長領域において、透過率が30%となる最も短い波長(Ab)との差の絶対値が75nm未満である吸収剤を含有した透明樹脂製基板と、近赤外線反射膜とを有することが好ましい。

(中略)

【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特定の波長に吸収極大を持つ吸収剤を含有した透明樹脂製基板と近赤外線反射膜とを組みわせて用いることにより、吸収(透過)波長の入射角依存性が小さく、視野角の広い近赤外線カットフィルターを製造することができる。
【0020】
本発明によれば、前記近赤外線カットフィルターを具備することにより固体撮像装置、カメラモジュールを薄型化、小型化することができる。」

イ 「【0023】
〔近赤外線カットフィルター〕
本発明の近赤外線カットフィルターは、その透過率が、下記(A)?(D)を満たすことを特徴とする。
【0024】
(A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が75%以上、好ましくは78%以上、さらに好ましくは80%以上の値をとることが望ましい。本発明では、厚さ0.1mmでの全光線透過率が高い透明樹脂および当該波長領域に吸収を持たない吸収剤を用いることで、このような波長430?580nmにおいて、高い透過率を有する近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【0025】
近赤外線カットフィルターを固体撮像装置やカメラモジュール等のレンズユニットにおける視感度補正用フィルター等に用いる場合、波長430?580nmの透過率の平均値が上記範囲であり、一定であることが好ましい。

(中略)

【0028】
(B)波長800?1000nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が20%以下、好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下の値をとることが望ましい。本発明では、透明樹脂基板上に高い近赤外線反射能を有する所定の近赤外線反射膜を有することで、このような波長800?1000nmにおいて、十分に低い透過率を有する近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【0029】
本発明の近赤外線カットフィルターは近赤外線の波長(800nm以上)を選択的に低減させるものであるため、透過率の平均値は低い方が好ましい。透過率の平均値が低いと、近赤外線カットフィルターは、近赤外線を十分にカットすることができる。

(中略)

【0031】
(C)800nm以下の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値(|Xa-Xb|)が75nm未満、好ましくは72nm未満、さらに好ましくは70nm未満の値をとることが望ましい。本発明では、透明樹脂に下記の特定の吸収剤を用いることで、所定の透過率となる波長の差の絶対値が上記所定の範囲となる近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【0032】
近赤外線カットフィルターの(Xa)と(Xb)との差の絶対値が上記範囲にあると、近赤外線の波長領域付近の波長(Xa)と(Xb)の間で透過率が急変することとなるため、近赤外線を効率よくカットすることができ、また、下記(Ya)と(Yb)の差の絶対値が小さくなり、吸収波長の入射角依存性が小さく、視野角の広い近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【0033】
(D)波長560?800nm、好ましくは580?800nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値(|Ya-Yb|)が15nm未満、好ましくは13nm未満、さらに好ましくは10nm未満の値をとることが望ましい。
本発明では、透明樹脂に下記の特定の吸収剤を用いることで、所定の透過率となる波長の差の絶対値が上記所定の範囲となる近赤外線カットフィルターを得ることができる。
【0034】
このように、波長560?800nmの範囲において、(Ya)と(Yb)の差の絶対値が上記範囲にあると、このようなフィルターをPDP等に用いた場合には、ディスプレイを斜め方向から見た場合にも、垂直方向から見た場合と同等の明るさ及び色調を示し、吸収波長の入射角依存性が小さく、視野角の広い近赤外線カットフィルターを得ることができる。

(中略)

【0041】
本発明の近赤外線カットフィルターは、波長600?800nmに吸収極大があり、かつ、波長430?800nmの波長領域において、透過率が70%となる吸収極大以下で最も長い波長(Aa)と、波長580nm以上の波長領域において、透過率が30%となる最も短い波長(Ab)との差の絶対値が75nm未満である吸収剤を含有した透明樹脂製基板と、近赤外線反射膜とを有することが好ましい。」

ウ 「【0042】
≪透明樹脂製基板≫
本発明に用いられる透明樹脂製基板は、透明樹脂と吸収極大が波長600?800nmであり、かつ、波長430?800nmの波長領域において、透過率が70%となる吸収極大以下で最も長い波長(Aa)と、波長580nm以上の波長領域において、透過率が30%となる最も短い波長(Ab)との差の絶対値が75nm未満である少なくとも1種の吸収剤を含むことを特徴とする。」

エ 「【0050】
<透明樹脂>
本発明で用いる透明樹脂としては、本発明の効果を損なわないものである限り特に制限されないが、例えば、熱安定性およびフィルムへの成形性を確保し、かつ、100℃以上の蒸着温度での高温蒸着により誘電体多層膜を形成しうるフィルムとするため、ガラス転移温度(Tg)が、110?380℃、好ましくは110?370℃、さらに好ましくは120?360℃である樹脂を用いることができる。また、透明樹脂のガラス転移温度が、120℃以上、好ましくは130℃以上、さらに好ましくは140℃以上である場合には、誘電体多層膜をより高温で蒸着形成し得るフィルムが得られるため望ましい。
【0051】
また、厚さ0.1mmでの全光線透過率が、75?94%であり、好ましくは78?93%であり、更に好ましくは80?92%である樹脂を用いることができる。全光線透過率がこのような範囲であれば、透明樹脂から得られる基材フィルムが、光学フィルムとして良好な透明性を示す。」

オ 「【0078】
<吸収剤>
本発明に用いられる透明樹脂には、波長600?800nmに吸収極大があり、かつ、波長430?800nmの波長領域において、透過率が70%となる吸収極大以下で最も長い波長(Aa)と、波長580nm以上の波長領域において、透過率が30%となる最も短い波長(Ab)との差の絶対値(|Aa-Ab|)が75nm未満、好ましくは65nm未満である吸収剤を少なくとも1種含有させて使用する。この吸収剤としては、例えば、近赤外線を吸収する染料や顔料、金属錯体系化合物を用いることができる。

(中略)

【0084】
また、後述する近赤外線反射膜を、蒸着などにより透明樹脂基板に設ける場合、近赤外線カットフィルターの視野角が狭くなる等の性能が劣化する場合があったが、本発明では、上記吸収剤を用いているため、近赤外線反射膜を設けることで生じる近赤外線カットフィルターの性能の劣化を防ぐことができる。このような吸収剤を用いことで、近赤外線反射膜に寄らず入射光の入射角に依存することなく安定した吸収波長領域を有する近赤外線カットフィルターが得られる。
【0085】
このような吸収剤としては、近赤外線を吸収する色素として作用する金属錯体系化合物や染料、顔料を用いることができ、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体系化合物などを挙げることができる。具体的には、たとえば、Lumogen IR765、Lumogen IR788(BASF製)、ABS643、ABS654、ABS667、ABS670T、IRA693N、IRA735(Exciton製)、SDA3598、SDA6075、SDA8030、SDA8303、SDA8470、SDA3039、SDA3040、SDA3922、SDA7257(H.W.SANDS製)、TAP-15、IR-706(山田化学工業製)などの市販品を用いることもできる。
また、本願の吸収剤としては金属を含有せずC,H,O,Nのみからなるシアニン系色素を用いると|Aa-Ab|が特に小さくなるため好ましい。この様な吸収剤としては、ABS643、ABS654、ABS667、ABS670Tなどを挙げることができる。これらの吸収剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0086】
本発明において、前記吸収剤は所望の特性に応じて適宜選択されるが、本発明に用いる透明樹脂100重量部に対して、通常0.01?10.0重量部、好ましくは0.01?8.0重量部、さらに好ましくは0.01?5.0重量部含有されていることが好ましい。
【0087】
吸収剤の使用量が上記範囲内にあると、吸収波長の入射角依存性が小さく、視野角が広く、近赤外線カット能、430?580nmの範囲における透過率および強度に優れた近赤外線カットフィルターを得ることができる。」

カ 「【0093】
<吸収剤を含有した透明樹脂製基板の製造方法>
本発明に用いる吸収剤を含有した透明樹脂製基板は、例えば、透明樹脂と吸収剤とを溶融混練りして得られたペレットを溶融成形する方法、透明樹脂、吸収剤、および溶媒を含む液状樹脂組成物から溶剤を除去して得られたペレットを溶融成形する方法、または、上述の液状樹脂組成物をキャスティング(キャスト成形)する方法により製造することができる。
【0094】
(A)溶融成形
本発明に用いる透明樹脂製基板は、透明樹脂と吸収剤とを含有する樹脂組成物を溶融成形することにより製造することができる。溶融成形方法としては、例えば、射出成形、溶融押出成形あるいはブロー成形などを挙げることができる。
【0095】
(B)キャスティング
本発明に用いる透明樹脂製基板は、透明樹脂、吸収剤、および溶媒を含む液状樹脂組成物を適切な基材の上にキャスティングして溶剤を除去することにより製造することもできる。例えば、スチールベルト、スチールドラムあるいはポリエステルフィルム等の基材の上に、上述の液状樹脂組成物を塗布して溶剤を乾燥させ、その後基材から塗膜を剥離することにより、透明樹脂製基板を得ることができる。また、ガラス、石英あるいは透明プラスチック製の光学部品に上述の液状組成物をコーティングして溶剤を乾燥させることにより、元の光学部品上に透明樹脂製基板を形成することができる。」

キ 「【0097】
≪近赤外線反射膜≫
本発明に用いられる近赤外線反射膜は、近赤外線を反射する能力を有する膜である。このような近赤外線反射膜としては、アルミ蒸着膜、貴金属薄膜、酸化インジウムを主成分とし酸化錫を少量含有させた金属酸化物微粒子を分散させた樹脂膜、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した誘電体多層膜などを用いることができる。
【0098】
本発明の近赤外線カットフィルターは、このような近赤外線反射膜を有しているため、特に上記(B)の特徴を有することになる。そのため、近赤外線を十分にカットすることのできるフィルターを得ることができる。
【0099】
本発明において、近赤外線反射膜は透明樹脂製基板の片面に設けてもよいし、両面に設けてもよい。片面に設ける場合には、製造コストや製造容易性に優れ、両面に設ける場合には、高い強度を有し、ソリの生じにくい近赤外線カットフィルターを得ることができる。」

ク 「【0109】
<近赤外線カットフィルターの用途>
これら本発明で得られる近赤外線カットフィルターは、視野角が広く、優れた近赤外線カット能をする。したがってカメラモジュールのCCDやCMOSなどの固体撮像素子用視感度補正用として有用である。特に、デジタルスチルカメラ、携帯電話用カメラ、デジタルビデオカメラ、PCカメラ、監視カメラ、自動車用カメラ、携帯情報端末、パソコン、ビデオゲーム、医療機器、USBメモリー、携帯ゲーム機、指紋認証システム、デジタルミュージックプレーヤー、玩具ロボット、おもちゃ等に有用である。さらに、自動車や建物などのガラス等に装着される熱線カットフィルターなどとしても有用である。
【0110】
ここで、本発明で得られる近赤外線カットフィルターをカメラモジュールに用いる場合について具体的に説明する。
【0111】
図1に、カメラモジュールの略図を示す。
【0112】
図1(a)は、従来のカメラモジュールの構造の略図であり、図1(b)は、本発明で得られる近赤外線カットフィルター6'を用いた場合の、とり得ることができるカメラモジュールの構造の一つを表す略図である。
【0113】
図1(b)では、本発明で得られる近赤外線カットフィルター6'をレンズ5の上部に用いているが、本発明で得られる近赤外線カットフィルター6'は、図1(a)に示すようにレンズ5とセンサー7の間に用いることもできる。
【0114】
従来のカメラモジュールでは、近赤外線カットフィルター6に対してほぼ垂直に光が入射する必要があった。そのため、フィルター6は、レンズ5とセンサー7の間に配置する必要があった。
【0115】
ここで、センサー7は、高感度であり、5μ程度のちりやほこりが触れるだけで正確に作動しなくなるおそれがあるため、センサー7の上部に用いるフィルター6は、ちりやほこりの出ないものであり、異物を含まないものである必要があった。また、上記センサー7の特性から、フィルター6とセンサー7の間には、所定の間隔を設ける必要があり、このことがカメラモジュールの低背化を妨げる一因となっていた。
【0116】
これに対し、本発明で得られる近赤外線カットフィルター6'では、(Ya)と(Yb)の差の絶対値が15nm以下である。つまり、フィルター6'の垂直方向から入射する光と、フィルター6'の垂直方向に対して30°から入射する光の透過波長に大きな差はないため(吸収(透過)波長の入射角依存性が小さい)、フィルター6'は、レンズ5とセンサー7の間に配置する必要がなく、レンズの上部に配置することもできる。
【0117】
このため、本発明で得られる近赤外線カットフィルター6'をカメラモジュールに用いる場合には、該カメラモジュールの取り扱い性が容易になり、また、フィルター6'とセンサー7の間に所定の間隔を設ける必要がないため、カメラモジュールの低背化が可能となる。」
なお、図1は以下に示すとおりのものである。


ケ 「【0138】
[実施例1]
合成例1で得た樹脂A100重量部に、BASF社製の吸収剤「Lumogen IR765、(吸収極大;765nm、|Aa-Ab|=62nm)」を0.12重量部加え、さらにトルエンを加えて溶解し、固形分が30%の溶液を得た。次いで、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、60℃で8時間、100℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した樹脂をさらに減圧下100℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
【0139】
この基板の分光透過率曲線を測定し、吸収極大波長と、(Za)、(Zb)を求めた。
この結果を表1に示す。
【0140】
この基板の吸収極大波長は759nmであった。また、波長430?800nmの波長領域において、透過率が70%となる、吸収極大以下で最も長い波長(Za)と、波長580nm以上の波長領域において、透過率が30%となる最も短い波長(Zb)との差の絶対値(|Za-Zb|)は65nmであった。
【0141】
続いて、係る基板の一面に、蒸着温度150℃で近赤外線を反射する多層蒸着膜〔シリカ(SiO_(2):膜厚120?190nm)層とチタニア(TiO_(2):膜厚70?120nm )層とが交互に積層されてなるもの,積層数40〕を形成し厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを得た。この近赤外線カットフィルターの分光透過率曲線を測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。この結果を表1に示す。
【0142】
波長430?580nmにおける透過率の平均値は86%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
【0143】
波長800nm以下の波長領域において、透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値(|Xa-Xb|)は60nmであった。
【0144】
また、波長560?800nmの範囲において、フィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、フィルターの垂直方向に対して 30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値(|Ya-Yb|)は5nmであった。
【0145】
[実施例2]
吸収剤をABS670T(Exciton社製、吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)0.04重量部に変更した以外は実施例1と同様にして、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
【0146】
この基板の分光透過率曲線を測定した。
この基板の吸収極大波長は668nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は38nmであった。この結果を表1に示す。
【0147】
さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定した。
【0148】
波長430?580nmにおける透過率の平均値は90%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
【0149】
(Xa)と(Xb)との差の絶対値は31nmであった。
また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は3nmであった。この結果を表1に示す。
【0150】
[実施例3]
樹脂Aの代わりに合成例2で得た樹脂Bを用い、トルエンの代わりにシクロヘキサンを用いたこと以外は実施例1と同様にして、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
この基板の分光透過率曲線を測定した。
【0151】
この基板の吸収極大波長は759nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は65nmであった。この結果を表1に示す。
【0152】
さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。
【0153】
波長430?580nmにおける透過率の平均値は86%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
(Xa)と(Xb)との差の絶対値は60nmであった。
また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は5nmであった。この結果を表1に示す。
【0154】
[実施例4]
JSR株式会社製のノルボルネン系樹脂「アートン G」100重量部に、ABS670T(Exciton社製、吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)を0.04重量部加え、さらに塩化メチレンを加えて溶解し、固形分が20%の溶液を得た。次いで、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、20℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した樹脂をさらに減圧下100℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
【0155】
この基板の分光透過率曲線を測定した。
この基板の吸収極大波長は668nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は38nmであった。この結果を表1に示す。
【0156】
さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。
【0157】
波長430?580nmにおける透過率の平均値は90%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
(Xa)と(Xb)との差の絶対値は31nmであった。
また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は4nmであった。この結果を表1に示す。
【0158】
[実施例5]
日本ゼオン株式会社製のノルボルネン系樹脂「ゼオノア 1400R」100重量部に、ABS670T(Exciton社製、吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)を0.20重量部加え、さらにシクロヘキサンとキシレンの7:3混合溶液を加えて溶解し、固形分が20%の溶液を得た。次いで、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、60℃で8時間、80℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した樹脂をさらに減圧下100℃で24時間乾燥して、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
【0159】
この基板の分光透過率曲線を測定した。
この基板の吸収極大波長は664nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は31nmであった。この結果を表1に示す。
【0160】
さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。
【0161】
波長430?580nmにおける透過率の平均値は90%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
(Xa)と(Xb)との差の絶対値は25nmであった。
また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は4nmであった。この結果を表1に示す。
【0162】
[実施例6]
三井化学株式会社製のノルボルネン系樹脂「APEL #6015」100重量部に、ABS670T(Exciton社製、吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)を0.12重量部加え、さらにシクロヘキサンと塩化メチレンの99:1混合溶液を加えて溶解し、固形分が20%の溶液を得た。次いで、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、40℃で4時間、60℃で4時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した樹脂をさらに減圧下100℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
【0163】
この基板の分光透過率曲線を測定した。
この基板の吸収極大波長は666nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は32nmであった。この結果を表1に示す。
【0164】
さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。
【0165】
波長430?580nmにおける透過率の平均値は89%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
(Xa)と(Xb)との差の絶対値は24nmであった。
また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は4nmであった。この結果を表1に示す。
【0166】
[実施例7]
帝人株式会社製のポリカーボネート樹脂「ピュアエース」100重量部に、ABS670T(Exciton社製、吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)を0.04重量部加え、さらに塩化メチレンを加えて溶解し、固形分が20%の溶液を得た。次いで、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、20℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した樹脂をさらに減圧下100℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
【0167】
この基板の分光透過率曲線を測定した。
この基板の吸収極大波長は680nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は46nmであった。この結果を表1に示す。
【0168】
さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。
【0169】
波長430?580nmにおける透過率の平均値は85%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
(Xa)と(Xb)との差の絶対値は42nmであった。
また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は4nmであった。この結果を表1に示す。
【0170】
[実施例8]
住友ベークライト株式会社製のポリエーテルサルホン「FS-1300」100重量部に、ABS670T(Exciton社製、吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)を0.02重量部加え、さらにN-メチル-2-ピロリドンを加えて溶解し、固形分が20%の溶液を得た。次いで、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、60℃で4時間、80℃で4時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した樹脂をさらに減圧下120℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
【0171】
この基板の分光透過率曲線を測定した。
この基板の吸収極大波長は684nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は47nmであった。この結果を表1に示す。
【0172】
さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。
【0173】
波長430?580nmにおける透過率の平均値は85%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
(Xa)と(Xb)との差の絶対値は41nmであった。
また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は5nmであった。この結果を表1に示す。
【0174】
[実施例9]
合成例3で得たポリイミド溶液C100重量部に、ABS670T(Exciton社製、吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)を0.2重量部加え、固形分が20%の溶液を得た。次いで、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、60℃で4時間、80℃で4時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した樹脂をさらに減圧下120℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
【0175】
この基板の分光透過率曲線を測定した。
この基板の吸収極大波長は683nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は48nmであった。この結果を表1に示す。
【0176】
さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。
【0177】
波長430?580nmにおける透過率の平均値は85%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
(Xa)と(Xb)との差の絶対値は42nmであった。
また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は5nmであった。この結果を表1に示す。
【0178】
[実施例10]
JSR株式会社製のノルボルネン系樹脂「アートン G」100重量部に、ABS670T(Exciton社製、吸収極大;670nm、|Aa-Ab|=34nm)を0.02重量部加え、さらに塩化メチレンを加えて溶解し、固形分が20%の溶液を得た。次いで、係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし、20℃で8時間乾燥した後、ガラス板から剥離した。剥離した樹脂をさらに減圧下100℃で8時間乾燥して、厚さ0.1mm、一辺が60mmの基板を得た。
【0179】
この基板の分光透過率曲線を測定した。
この基板の吸収極大波長は668nmであった。また、(Za)と(Zb)との差の絶対値は31nmであった。この結果を表1に示す。
【0180】
さらに、実施例1と同様にして厚さ0.105mmの近赤外線カットフィルターを製造した。この近赤外線カットフィルターの分光透過率を実施例1と同様に測定し、(Xa)、(Xb)と(Ya)、(Yb)を求めた。
【0181】
波長430?580nmにおける透過率の平均値は90%、波長800?1000nmにおける透過率の平均値は1%以下であった。
(Xa)と(Xb)との差の絶対値は23nmであった。
また、(Ya)と(Yb)の差の絶対値は4nmであった。この結果を表1に示す。

(中略)

【0197】
【表1】



(2)甲第1号証に記載された発明
上記記載事項アの段落【0014】、【0015】、【0019】の記載に基づけば、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「波長600?800nmに吸収極大があり、かつ、波長430?800nmの波長領域において、透過率が70%となる吸収極大以下で最も長い波長(Aa)と、波長580nm以上の波長領域において、透過率が30%となる最も短い波長(Ab)との差の絶対値が75nm未満である吸収剤を含有した透明樹脂製基板と、近赤外線反射膜とを組みわせた近赤外線カットフィルターであって、透過率が下記(A)?(D)を満たす近赤外線カットフィルター。
(A)波長430?580nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が75%以上であり、
(B)波長800?1000nmにおいて、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率の平均値が20%以下であり、
(C)800nm以下の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が70%となる最も長い波長(Xa)と、波長580nm以上の波長領域において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が30%となる最も短い波長(Xb)との差の絶対値が75nm未満であり、
(D)波長560?800nmの範囲において、近赤外線カットフィルターの垂直方向から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Ya)と、近赤外線カットフィルターの垂直方向に対して30°の角度から測定した場合の透過率が50%となる波長の値(Yb)の差の絶対値が15nm未満である。」(以下、「引用発明」という。)

5 当審の判断
(1)本件特許発明1
ア 対比
本件特許発明1と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「吸収剤」は、「波長600?800nmに吸収極大があり、かつ、波長430?800nmの波長領域において、透過率が70%となる吸収極大以下で最も長い波長(Aa)と、波長580nm以上の波長領域において、透過率が30%となる最も短い波長(Ab)との差の絶対値が75nm未満である」から、色材であるといえる。したがって、引用発明の「吸収剤」と本件特許発明1の「染料」とは、「色材」である点で共通する。
そして、引用発明の「吸収剤を含有した透明樹脂製基板」は、近赤外線反射膜と組み合わせられて近赤外線カットフィルターを構成するものであるから、層状のものといえる。したがって、引用発明の「吸収剤を含有した透明樹脂製基板」と本件特許発明1の「染料を含有するコーティング層(B)」とは、「色材を含有する層(B)」である点で共通する。

(イ)引用発明の「近赤外線反射膜」と本件特許発明1の「赤外線反射膜(C)」とは、「反射膜(C)」である点で共通する。

(ウ)引用発明の「近赤外線カットフィルター」は、その文言からみて、近赤外線領域の波長をカットするフィルターであるといえる。したがって、引用発明の「近赤外線カットフィルター」は、本件特許発明1の「波長カットフィルタ」に相当する。
また、引用発明の「近赤外線カットフィルター」は、「吸収剤を含有した透明樹脂製基板と、近赤外線反射膜とを組みわせた」ものであるから、「吸収剤を含有した透明樹脂製基板」と「近赤外線反射膜」とを有しているといえる。

(エ)以上より、本件特許発明1と引用発明とは、
「色材を含有する層(B)を有し、反射膜(C)を有してなる波長カットフィルタ。」である点で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。
[相違点1]波長カットフィルタが、本件特許発明1は、「ガラス基板(A)の一方の面」に色材を含有する「コーティング」層(B)を有し、且つ「ガラス基板(A)の他方の面に」反射膜(C)を「積層」してなるのに対し、引用発明は、吸収剤を含有した透明樹脂製基板が基板としての機能するものであって、上記積層構造を有するとしていない点。
[相違点2]反射膜(C)が、本件特許発明1では「赤外線」反射膜であるのに対し、引用発明では「近赤外線」反射膜である点。
[相違点3]色材が、本件特許発明1では、前記2に記載した請求項1において特定される一般式(I)で表されるシアニン化合物であるのに対し、引用発明では吸収剤の化学構造を特定していない点。

イ 判断
上記[相違点1]について検討する。
甲第1号証の記載事項カには、吸収剤を含有した透明樹脂製基板の製造方法として、「キャスティング」が挙げられており、特に段落【0095】には、「また、ガラス、石英あるいは透明プラスチック製の光学部品に上述の液状組成物をコーティングして溶剤を乾燥させることにより、元の光学部品上に透明樹脂製基板を形成することができる。」と記載されている。当該記載に基づけば、甲第1号証には、引用発明の近赤外線カットフィルターを、ガラス製の光学部品の上にコーティングにより形成した透明樹脂製基板を有するものとすることが示唆されているといえる。
しかし、甲第1号証の記載事項イには、段落【0028】に「本発明では、透明樹脂基板上に高い近赤外線反射能を有する所定の近赤外線反射膜を有することで、このような波長800?1000nmにおいて、十分に低い透過率を有する近赤外線カットフィルターを得ることができる。」との記載があり、記載事項エの段落【0050】に、吸収剤を含有した透明樹脂製基板に用いる透明樹脂に関して「本発明で用いる透明樹脂としては、・・・100℃以上の蒸着温度での高温蒸着により誘電体多層膜を形成しうるフィルムとするため、ガラス転移温度(Tg)が、110?380℃・・・である樹脂を用いることができる。」との記載があり、記載事項キの段落【0099】には、「近赤外線反射膜は透明樹脂製基板の片面に設けてもよいし、両面に設けてもよい。」との記載がある。また、記載事項ケにおいて開示された実施例1?10は、いずれも、ガラス板から剥離して得た樹脂からなる基板の一面に、近赤外線を反射する多層蒸着膜を形成して得た近赤外線カットフィルターである。以上のとおり、甲第1号証は、透明樹脂製基板の上に近赤外線反射膜を直接設けることを示唆しており、甲第1号証は、ガラス製の光学部品の他方の面に反射膜を積層することや、「ガラス基板(A)」に反射膜(C)を「積層」することについて、記載も示唆もしていない。
さらに、甲第1号証の記載事項アの段落【0007】には、背景技術に関して「ガラス基材に金属を蒸着した近赤外線カットフィルターは製造コストがかかるだけでなく、カッティング時に異物として基材のガラス片が混入してしまうという問題があった。さらに、基材として無機質材料を用いる場合は、近年の固体撮像装置の薄型化・小型化に対応していくためには限界があった。」と記載されており、段落【0013】に発明が解決しようとする課題として、「本発明は、視野角が広く、さらに、近赤外線カット能に優れ、吸湿性が低く、異物やソリのない、特にCCD、CMOS等の固体撮像装置用に好適に用いることができる近赤外線カットフィルターを得ることを目的とする。さらに、前記近赤外線カットフィルターを具備することにより、薄型で耐衝撃性に優れた固体撮像装置を提供することを目的とする。」と記載されている。当該記載に基づけば、引用発明は、赤外線カットフィルターにガラス基材を用いないことにより、異物がない赤外線カットフィルターを得て、薄型の固体撮像装置を提供するものであるといえる。そのような引用発明において、「ガラス基板(A)」を設けることには、阻害要因があるといわざるを得ない。
そうすると、当業者であっても、引用発明に「ガラス基板(A)」を設けて上記[相違点1]に係る本件特許発明1の構成とすることが容易になし得たということはできない。

また、効果について検討すると、本件特許発明1の効果は、本件特許の明細書の段落【0008】の「本発明の目的は、入射角依存性が低く、耐熱性が高く薄型化が可能な波長カットフィルタを提供することにある。」との記載や、段落【0021】の「本発明では、基板がガラス板のため、基板上に直接塗工、乾燥した後切断加工することが可能であり、構造やプロセスが簡易となる。また、基板がガラス板のため、プラスチックである場合より耐熱性(260℃リフロー耐性)が高い。」との記載に基づけば、ガラス板を基板としたことにより耐熱性を高くしたというものである。
一方、引用発明は、耐熱性を向上させようとするものではなく、効果においても差異があるといえる。
なお、甲第2号証?甲第6号証は、いずれも、画像表示装置の光学フィルタに用いられるシアニン化合物を開示するにとどまるものである。したがって、甲第2号証?甲第6号証の記載を参酌したとしても、本件特許発明1の効果が当業者にとって自明のものであるということはできない。

ウ むすび
以上のとおり、当業者であっても、引用発明において、上記[相違点1]に係る本件特許発明1の構成とすることが容易になし得たということはできないのであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、引用発明に基づいて、容易に発明をすることができたということはできない。

(2)本件特許発明2?5
本件特許発明2?5は、本件特許発明1の「ガラス基板(A)の一方の面に染料を含有するコーティング層(B)を有し、且つガラス基板(A)の他方の面に赤外線反射膜(C)を積層」してなる波長カットフィルタの構成を有している。そうすると、本件特許発明2?5も、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて、容易に発明をすることができたということはできない。

6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-12-14 
出願番号 特願2014-512430(P2014-512430)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 越河 勉  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 宮澤 浩
川村 大輔
登録日 2018-03-16 
登録番号 特許第6305331号(P6305331)
権利者 株式会社ADEKA
発明の名称 波長カットフィルタ  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  

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