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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1347699
異議申立番号 異議2018-700787  
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-28 
確定日 2019-01-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6299546号発明「硬化性樹脂組成物、硬化膜、波長変換フィルム、発光素子および発光層の形成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6299546号の請求項1?12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6299546号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?13に係る特許についての出願は、平成26年9月25日を出願日とする特許出願(特願2014-195898号)に係るものであって、平成30年3月9日にその特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は、同年3月28日である。)。
その後、同年9月28日付けで特許異議申立人 平居 博美(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1?13のうち一部の請求項1?12)がされたものである。

第2 本件特許発明

本件特許の請求項1?12に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」?「本件特許発明12」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
[A]下記式(1)で表わされる構造部位および下記式(2)で表わされる構造部位を有する重合体、
[B]量子ドット、並びに
[D]重合性不飽和化合物
を含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。

(式(1)中、X^(1)は、水素原子、または、炭素数1?3の1価の直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基を示す。X^(2)は、炭素数3?30の1価の直鎖状、分岐状または環状の飽和若しくは不飽和炭化水素基、あるいは、炭素数3?30の1価の直鎖状、分岐状または環状の飽和若しくは不飽和炭化水素基の1つ以上の水素原子がヒドロキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、カルボキシル基、置換基を有していてもよいアルキル基、アラルキル基、またはアルコキシ基で置換された基を示す。
式(2)中、Y^(1)は、水素原子、または、メチル基を示す。Y^(2)は、炭素数1?12の2価の直鎖状、分岐状または環状の飽和若しくは不飽和炭化水素基あるいは炭素数1?12の2価の直鎖状、分岐状または環状の飽和若しくは不飽和炭化水素基の1つ以上の水素原子がヒドロキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、カルボキシル基、置換基を有していてもよいアルキル基、アラルキル基、またはアルコキシ基で置換された基を示す。Y^(3)は、2価の有機基を示す。Y^(4)は、水素原子を示す。nは、0または1を示す。)
【請求項2】
前記式(2)で表される構造部位を与える単量体が、2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2-メタクリロイルオキシエチルフタル酸、2-メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸であることを特徴とする請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
[B]量子ドットが、2族元素、11族元素、12族元素、13族元素、14族元素、15族元素および16族元素よりなる群から選ばれる少なくとも2種の元素を含む化合物からなることを特徴とする請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
[B]量子ドットが、Inを構成成分として含む化合物からなることを特徴とする請求項1または2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
[B]量子ドットが、InP/ZnS化合物、CuInS_(2)/ZnS化合物、AgInS_(2)化合物、(ZnS/AgInS_(2))固溶体/ZnS化合物、ZnドープAgInS_(2)化合物およびSi化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、[C]重合開始剤を含有することを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
[C]重合開始剤が、分子中に窒素原子を有さない重合開始剤であること特徴とする請求項5に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、[E]酸化防止剤を含有することを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
[E]酸化防止剤が、ホスファイト系酸化防止剤であることを特徴とする請求項8に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1?9のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とする硬化膜。
【請求項11】
請求項1?9のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とする波長変換フィルム。
【請求項12】
請求項1?9のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を用いて形成された発光層を有することを特徴とする発光素子。」

第3 特許異議申立理由の概要

特許異議申立人は、証拠方法として、以下の甲第1ないし11号証を提出し、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において概ね次の取消理由(以下、「取消理由1」という。)を主張している。

取消理由1(進歩性)
本件特許発明1?12は、甲第2号証に記載された発明、あるいは甲第2号証に記載された発明と甲第1号証に記載された発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項1?12に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

証拠方法
甲第1号証:特開2014-174406号公報
甲第2号証:特開2013-49757号公報
甲第3号証:進歩する量子ドット技術、LEDバックライト搭載液晶テレ ビに採用、LEDs Magazine Japan、株式会 社イーエクスプレス、2014年3月、第8?13頁の写し
甲第4号証:国際公開第2012/161065号
甲第5号証:特表2009-536679号公報
甲第6号証:特開2009-37801号公報
甲第7号証:特開2010-85633号公報
甲第8号証:特開2012-211228号公報
甲第9号証:熱可塑性ナノコンポジット光学材料の開発、FUJIFIL M RESEARCH & DEVELOPMENT(No. 58-2013)、2013年、第48?51頁の写し
甲第10号証:特開2002-30105号公報
甲第11号証:特開2013-184997号公報

第4 取消理由1についての判断

1 甲第2号証に記載された事項及び同号証に記載された発明

(1)甲第2号証に記載された事項

甲第2号証には、次の記載がある。

「【請求項1】
(a1)不飽和カルボン酸および不飽和カルボン酸無水物の少なくとも1種、ならびに、(a2)オキセタニル基を含む不飽和化合物の少なくとも1種を共重合して得られる共重合体(A)と蛍光体(X)を含む、硬化性組成物。」
「【0001】
本発明は、硬化性組成物、特に、LED封止材に有用な硬化性組成物に関する。さらに、かかる硬化性組成物を用いた硬化物、LED(Light Emitting Diode、発光ダイオード)に関する。」
「【0008】
本願発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、密着性、硬度および耐熱・耐光性に優れた硬化性組成物を提供することを目的とする。」
「【0009】
かかる状況のもと、発明者らが検討したところ、オキセタニル基を利用することにより、エポキシ基の利点は維持したまま、エポキシ基の欠点を克服できることを見出した。さらに、蛍光体を添加することにより、LED性能だけでなく、耐熱性や耐光性が顕著に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の課題は、具体的には下記<1>の手段により、好ましくは下記<2>?<10>の手段により達成された。・・・(略)・・・
【0010】
本発明により、密着性、硬度、耐熱性、耐光性に優れた硬化性組成物を提供可能となった。そのため、LED封止材として優れた材料を提供可能になった。」
「【0016】
化合物(a1)
化合物(a1)としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸などのジカルボン酸類;およびこれらのジカルボン酸の無水物;こはく酸モノ〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、フタル酸モノ〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕等の2価以上の多価カルボン酸のモノ〔(メタ)アクリロイルオキシアルキル〕エステル類;ω-カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等の両末端にカルボキシル基と水酸基とを有するポリマーのモノ(メタ)アクリレート類等が挙げられる。これらのうち、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸などが共重合反応性、アルカリ水溶液に対する溶解性および入手が容易である点から好ましく用いられる。これらは、単独であるいは組み合わせて用いられる。」
「【0030】
共重合体(A)は、上記(a1)および(a2)に加えて、他のオレフィン系不飽和化合物(a3)を含んでいてもよく、かかる化合物(a3)を有することが好ましい。
本発明で用いる共重合体(A)は、化合物(a3)から誘導される構成単位を、好ましくは0?80重量%、特に好ましくは20?70重量%含有していることが好ましい。また、モル比の場合、化合物(a3)から誘導される構成単位の割合が、0?50モル%であることがより好ましく、10?30モル%であることがさらに好ましい。
【0031】
化合物(a3)としては、化合物(a1)および化合物(a2)以外のオレフィン系不飽和化合物で、化合物(a1)および化合物(a2)と共重合体を形成できるものであれば特に制限は無い。また、保存安定性の観点からエポキシ基を含まないことが好ましい。
以下、化合物(a3)の具体例を説明する。
【0032】
本発明で用いる共重合体(A)は、密着性向上の観点からは、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート、および、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドを含有する(メタ)アクリレート由来の繰り返し単位を含むことが好ましい。」
「【0038】
本発明の共重合体(A)は、屈折率を低くする観点からは縮合環残基及び/又は橋かけ環残基を有する不飽和化合物由来の繰り返し単位を含むことが好ましい。中でも下記が好ましい。
【化8】

(式中、R^(4)は水素原子又はメチル基を表し、R^(5)は縮合環残基及び/又は橋かけ環残基を表し、Lは単結合、アルキレン基又はアルキレンオキシ基を表す。)
【0039】
前記式(a4)におけるR^(4)は、重合時における各モノマーの重合速度の均一性の観点から、メチル基が好ましい。
前記式(a4)におけるR^(5)は、炭素数5?18の縮合環残基及び/又は橋かけ環残基であることが好ましく、炭素数5?12の縮合環残基及び/又は橋かけ環残基であることがより好ましく、ジシクロペンタジエニル基、トリシクロ[5.2.1.0^(2,6)]デカン-8-イル基又はイソボロニル基等であることが更に好ましく、トリシクロ[5.2.1.0^(2,6)]デカン-8-イル基又はイソボロニル基であることが特に好ましい。
前記式(a4)におけるLは、単結合、炭素数1?10のアルキレン基、炭素数2?6のアルキレンオキシ基であることが好ましく、単結合、炭素数1?6のアルキレン基、エチレンオキシ基又はプロピレンオキシ基であることがより好ましく、単結合、メチレン基又はエチレンオキシ基であることが更に好ましい。
前記式(a4)で表される構成単位は、下記式(a4-2)で表される構成単位であることがより好ましい。
【0040】
【化9】

(式中、R^(4)は水素原子又はメチル基を表し、Xは単結合、炭素数1?4のアルキレン基、又は、炭素数2?4のアルキレンオキシ基を表し、Aは飽和の炭素5員環又は不飽和二重結合を1つ有する炭素5員環を表す。)
【0041】
前記式(a4-2)におけるXは、単結合、メチレン基、プロピレンオキシ基又はエチレンオキシ基であることが好ましく、単結合、メチレン基又はエチレンオキシ基であることがより好ましい。
前記式(a4-2)におけるR^(4)は、前記式(a4)におけるR^(4)と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0042】
本発明において好ましい式(a4)で表される構成単位(i)?(iv)を以下に例示する。
【0043】
【化10】

(式中、R^(4)は水素原子又はメチル基を表す。)」
「【0074】
重合開始剤
共重合体(A)の製造に用いられる重合開始剤としては、一般的にラジカル重合開始剤として知られているものが使用でき、例えば2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシピバレート、1,1’-ビス-(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどの有機過酸化物類;および過酸化水素が挙げられる。」
「【0077】
(X)蛍光体
本発明の硬化性組成物は、蛍光体を含む。これにより、発光素子から放出される光を吸収し、波長変換を行い、発光素子の色調と異なる色調を有するLEDを提供することができる。さらに本発明では、蛍光体を添加することにより、耐熱・耐光性も向上させることが可能になる。
【0078】
LEDに使用される蛍光体は、主に、青色に発光する蛍光体、緑色に発光する蛍光体、黄色に発光する蛍光体、赤色に発光する蛍光体、白色に発光する蛍光体の少なくともいずれか1以上の蛍光体を使用することができる。これらの蛍光体は、本発明の硬化性組成物中に投入し、ほぼ均一になるまで混合する。この混合物を、発光素子の周辺部に載置する。この蛍光体は、発光素子から放出される光を吸収し、波長変換を行い、発光素子の光と異なる波長の光を放出する。これにより、発光素子から放出される光の一部と、蛍光体から放出される光の一部と、が混合して、白色を含む多色系のLEDを作製することができる。
・・・(略)・・・
【0082】
赤色に発光する蛍光体として、例えば、Y_(2)O_(2)S:Eu、La_(2)O_(2)S:Eu、Y_(2)O_(3):Eu、Gd_(2)O_(2)S:Euなどがある。
但し、緑色、青色、黄色、赤色等に発光する蛍光体は、上記の蛍光体に限定されず、種々の蛍光体を使用することができる。
この他に、蛍光体としては、例えば、II族-VI族化合物半導体のナノ結晶、III族-V族化合物半導体のナノ結晶等が挙げられる。これらのナノ結晶の形態は特に限定されず、例えば、InPナノ結晶のコア部分に、ZnS/ZnO等からなるシェル部分が被覆されたコア・シェル(core-shell)構造を有する結晶、またはコア・シェルの境が明確でなくグラジエント(gradient)に組成が変化する構造を有する結晶、あるいは同一の結晶内に2種以上の化合物結晶が部分的に分けられて存在する混合結晶;2種以上のナノ結晶化合物の合金等が挙げられる。
化合物半導体の具体例としては、二元系では、II族-VI族化合物半導体として、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、HgS、HgSe、HgTe等が挙げられる。III族-V族化合物半導体としては、GaN、GaP、GaAs、AlN、AlP、AlAs、InN、InP、InAs等が挙げられる。」
「【0086】
(E)架橋剤
本発明の硬化性組成物には、必要に応じ、(E)架橋剤を添加する。架橋剤としては、分子内に2個以上のエポキシ基またはオキセタニル基を有する化合物、アルコキシメチル基含有架橋剤、少なくとも1個のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物が挙げられる。架橋剤を添加することにより、硬化膜をより強固な膜とすることができる。・・・(略)・・・
【0089】
少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を有する化合物としては、単官能(メタ)アクリレート、2官能(メタ)アクリレート、3官能以上の(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート化合物を好適に用いることができる。単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、カルビトール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレートなどが挙げられる。2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコール(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレート、ビスフェノキシエタノールフルオレンジアクリレートなどが挙げられる。3官能以上の(メタ)アクリレートとしては、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリ((メタ)アクリロイロキシエチル)フォスフェート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。」
「【0094】
(酸化防止剤)
本発明の硬化性組成物には、酸化防止剤を配合して、加熱時の酸化劣化を防止し、着色の少ない硬化物とすることができる。 酸化防止剤としては、フェノール系、硫黄系、リン系酸化防止剤を使用することができる。
本発明の硬化性組成物における酸化防止剤の含有量は、共重合体(A)100重量部に対して、0?10重量部が好ましく、0.5?5重量部がより好ましい。」
「【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を意味する。
【0102】
1.共重合体の合成
<共重合体A-1の合成>
メタクリル酸(34.4部(0.40モル当量))、3-エチル-3-オキセタニルメチルメタクリレート(OXE-30、大阪有機化学)(73.6部(0.40モル当量))、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(13.0部、(0.10モル等量))、スチレン(10.4部、(0.10モル等量))およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)(100部)の混合溶液を窒素気流下、70℃に加熱した。この混合溶液を撹拌しながら、ラジカル重合開始剤V-65(2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、和光純薬工業(株)製、12.4部)およびPGMEA(100.0部)の混合溶液を2.5時間かけて滴下した。滴下が終了してから、70℃で4時間反応させることにより共重合体A1のPGMEA溶液(固形分濃度:40重量%)を得た。得られた共重合体A-1のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は、8,000であった。
【0103】
<共重合体A-2?A-5ならびにA’-1?A’-3の合成>
モノマー種およびその使用量を表1に示すものに変更した以外は、共重合体A1の合成と同様にして、共重合体A-2?A-5ならびにA’-1?A’-3をそれぞれ合成した。ラジカル重合開始剤V-65添加量は表1に記載の分子量となるように調整した。
【0104】
【表1】

【0105】
上記表1において、略語は以下のとおりである。
MAA:メタクリル酸
St-COOH:p-カルボキシスチレン
OXE-30:3-エチル-3-オキセタニルメチルメタクリレート(大阪有機化学製)
OXE-10:3-エチル-3-オキセタニルメチルアクリレート(大阪有機化学製)
2-OXE:2-オキセタニルメチルメタクリレート
【化21】

GMA:グリシジルメタクリレート
St:スチレン
α-St:α-メチルスチレン
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリエレート
MMA:メチルメタクリレート
DCPM:ジシクロペンタニルメタクリレート
Ph-MI:フェニルマレイミド
【0106】
硬化性組成物の調整
PGMEA100部に、下記表2に示す化合物を表2に示す量を混合攪拌し溶解させ、実施例および比較例の硬化性組成物とした。
【0107】
【表2】

上記表2において、X蛍光体、E架橋剤、F密着改良剤、H界面活性剤およびP粒子は以下のものを用いた。
【0108】
X1:酸化イットリウム Y2O3(信越化学工業社製 純度99.99%)
X2:酸化テルビウム Tb4O7(信越化学工業社製 純度99.99%)
X3:下記式で示されるペリレン系蛍光物質(有本化学工業(株)製Plast Orange 8160)
【化22】

【化23】


【0109】
E1:ヘキサメトキシメラミン(三井サイテック製、サイメル300)
F1:γ-グリシドキシトリメトキシシラン(信越化学製、KBM-403)
H1:フッ素系界面活性剤(F780F、DIC製)
P1:酸化チタン粒子分散液
酸化チタン粒子分散液を調合し、これをジルコニアビ-ズ(直径0.3mm)150重量部と混合し、ペイントシェ-カ-を用いて9h分散を行った。ジルコニアビ-ズをろ別し、分散液P1を得た。
<酸化チタン分散液の組成>
TTO-51C(石原産業製TiO2微粒子) 18.8部
disperbyk111(ビックケミ-製分散剤) 6.90部
PGMEA 49.3部

「【0112】
<評価>
得られた組成物を以下のように評価した。
【0113】
基板との密着性の評価
調製した組成物をアルミニウム板(A-1050P)に塗布し、120℃で2分加熱乾燥後、オーブンで、180度で1時間加熱して膜厚10μmの硬化膜を作製した。室温まで冷却後、JISK5400碁盤目テープ法に基づき付着性試験を行った(2mm角の碁盤目を25マス)。
1:剥離面積5%未満
2:剥離面積5%以上20%未満
3:剥離面積20%以上
【0114】
硬度の評価
密着性試験で得た硬化膜に対して、JIS K5600-5-4に従って鉛筆硬度を測定した。耐傷性の観点から、硬いほうが好ましい。
1:5H以上(硬い)
2:H?4H
3:F以下(軟らかい)
【0115】
耐光・耐熱性の評価
基板との密着性の評価で得た硬化膜に対して、スガ試験機M6T型メタリングウェザーメーター(ブラックパネル温度120℃、照射強度:50MJ/m^(2))を用いて100時間耐熱耐光性試験を行い、試験前後の400nm光線透過率を、分光光度計(U-3300、日立)を用いて測定し、透過率の変化(減少)を調べた。
1:透過率変化3%未満
2:透過率変化3%以上5%未満
3:透過率変化5%以上
・・・(略)・・・
【0117】
【表3】

【0118】
本発明の組成物は、密着性、機械特性(硬度)、耐熱・耐光性に優れ、実技評価も良いことが分かった。また、粒子を添加することで、屈折率の調整ができるのみでなく、硬度も向上することが分かった(実施例9)。
一方、比較例1および比較例5から明らかなとおり、エポキシ系の硬化性組成物は耐熱・耐光性が劣ることが分かった。
また、比較例3から蛍光体がないと、全般的に性能が悪くLEDとして好ましくないであることが分かった。
さらに、比較例4から、ポリシロキサン系の硬化性組成物は耐熱・耐光性に優れるものの、密着性や機械硬度に劣ることが分かった。このため、実技性能が良くないことも確認された。」

(2)甲第2号証に記載された発明

甲第2号証の段落【0102】?【0109】、特に実施例1の記載を整理すると、次の発明が記載されていると認められる(以下、「甲2発明」という。)。

<甲2発明>
「メタクリル酸(34.4部(0.40モル当量))、3-エチル-3-オキセタニルメチルメタクリレート(OXE-30、大阪有機化学)(73.6部(0.40モル当量))、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(13.0部、(0.10モル等量))、スチレン(10.4部、(0.10モル等量))およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)(100部)の混合溶液を窒素気流下、70℃に加熱し、この混合溶液を撹拌しながら、ラジカル重合開始剤V-65(2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、和光純薬工業(株)製、12.4部)およびPGMEA(100.0部)の混合溶液を2.5時間かけて滴下し、滴下が終了してから、70℃で4時間反応させることにより得られた共重合体A-1であって、メタクリル酸(MAA)モル比40の構造単位(a1)、OXE-30モル比40の構造単位(a2)、スチレン(St)モル比10及び2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)モル比10の構造単位(a3)を有し、ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)が8,000である共重合体A-1
100.00重量部

蛍光体 X1:酸化イットリウム Y2O3(信越化学工業社製 純度99.99%)
7.00重量部

密着改良剤 F1:γ-グリシドキシトリメトキシシラン(信越化学製、KBM-403)
1.10重量部

をPGMEA100部に、混合攪拌し溶解させて得られる硬化性組成物。」

(なお、甲第2号証に記載の「2-ヒドロキシエチルメタクリエレート」は、「2-ヒドロキシエチルメタクリレート」の誤記と解した。)

2 甲第7号証に記載された事項

「【0001】
本発明はフォトマスクブランクス及びフォトマスクに関し、より詳細には、PDP、FED、LCD等のフラットパネルディスプレイ、CRT用シャドーマスク、印刷配線版、半導体等の分野におけるフォトリソグラフィー工程において用いることのできるフォトマスクを作製しうるフォトマスクブランクスに関する。」
「【0011】
本発明は、前記従来技術における問題点に鑑みてなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、高感度で、且つ保存安定性に優れたフォトマスクブランクスを提供することを目的とするものであり、また、該フォトマスクブランクスを用いて作製された解像度、及び画像エッジ部の直線性の高いフォトマスクを提供することを目的とするものである。」
「【0040】
<バインダーポリマー>
本発明の感光性組成物層に用いられるバインダーポリマーは、特に限定されることは無いが、アルカリ水溶液への溶解性と現像性の観点から酸基を有する有機重合体が好ましく、特にカルボン酸基を含有する有機重合体がさらに好ましい。
バインダーポリマーの骨格としては、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、メタクリル樹脂、スチレン系樹脂、及びポリエステル樹脂から選ばれる高分子が好ましい。中でも、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、スチレン系樹脂等のビニル共重合体、又はポリウレタン樹脂がより好ましい。
バインダーポリマーとしては、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ウレタン樹脂が、特に好ましく用いられる。
【0041】
本発明で使用するバインダーポリマーの好適な一例は、(a)カルボン酸基を含有する繰り返し単位及び(b)ラジカル架橋性を付与する繰り返し単位を有する共重合体である。(a)カルボン酸基を含有する繰り返し単位(以下、繰り返し単位(a)とも云う)の具体例としては以下の(a-1)から(a-12)に示す構造が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
【化10】

【0043】
繰り返し単位(a)の含有量は、総繰り返し単位数を100とした場合、そのうちの5?50、好ましくは5?25、より好ましくは5?15である。(b)ラジカル架橋性を付与する繰り返し単位(以下、繰り返し単位(b)とも云う)の具体例としては以下の(b-1)から(b-11)に示す構造が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
【化11】


【0045】
繰り返し単位(b)の含有量は、総繰り返し単位数を100とした場合、そのうちの5?90、好ましくは20?85、より好ましくは40?80である。
【0046】
本発明におけるバインダーポリマーは、更に、下記式(1)で表される繰り返し単位(以下、繰り返し単位(1)とも云う)を有しても良い。
【0047】
【化12】


【0048】
式(1)中、Xは酸素原子、硫黄原子または-NH-基を表し、Yは水素原子、炭素数1から12のアルキル基、炭素数5から12の脂環式アルキル基、炭素数6から20の芳香環を有する基を表す。Zは酸素原子、硫黄原子または-NH-基を表し、R_(1B)は炭素数
1から18のアルキル基、炭素数5から20の脂環構造を有するアルキル基または炭素数6から20の芳香環を有する基を表す。
【0049】
繰り返し単位(1)の具体例としては、以下の(1-1)?(1-9)に示す構造が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
【化13】

【0051】
繰り返し単位(1)の含有量は、総繰り返し単位数を100とした場合、そのうちの1?40、好ましくは3?25、より好ましくは、5?15である。
【0052】
繰り返し単位(a)、(b)、(1)の好適な組み合わせの具体例としては、下記表1に示す(PP-1)?(PP-10)があげられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
【表1】


「【0155】
本発明における遮光材料は、フォトマスクブランクスにより作製されたフォトマスクの使用目的等に応じて適宜選択すればよい。
遮光材料として具体的には、金属粒子(金属化合物粒子、複合粒子、コア・シェル粒子などを含む)、顔料その他の粒子、フラーレンなどが好適に用いられる。
本発明に用いうる遮光材料としては、黒色材料であることが好ましく、該黒色材料としては、黒色顔料及び金属微粒子の少なくとも1種であることが好ましい。」

1 甲8に記載された事項

「【0001】
本発明は、特にカラーフィルター用の顔料着色剤とした場合に有用な顔料着色剤組成物、及び該組成物を含有してなるカラーフィルター用顔料着色剤組成物に関する。さらに詳しくは、顔料着色剤組成物を構成する高分子分散剤が、メタクリル酸を少なくとも構成成分とするAのポリマーブロックと、特有の芳香族カルボン酸含有メタクリレートとを構成成分とするBのポリマーブロックとからなるA-Bブロックコポリマーであるため、該高分子分散剤は、顔料の分散に作用し、かつ、カラーフィルター製造時のアルカリ現像時に対するアルカリ可溶性バインダーとして作用し得る顔料着色剤組成物となる。」
「【0007】
本発明の目的は、顔料の微分散が可能で、保存安定性がよい、高分散性を与える新規な高分子分散剤を使用してなる顔料着色剤組成物を提供することにある。そして、特に、液晶カラーテレビジョンなどの情報表示機器に装備されるカラーフィルター用とした場合に、カラーフィルターに要求される画素の色の高濃度化、高精細性、高コントラスト性などの光学的特性の要求に対応させつつ、カラーフィルターの塗布特性、保存性安定性などの特性を向上させ、かつ、その高分子分散剤が、カラーフィルター製造時のアルカリ現像において、アルカリ溶解するアルカリ可溶性バインダーとして作用する現像特性を有するカラーフィルター用に好適な顔料着色剤組成物を提供することにある。この高分子分散剤がアルカリ現像できることによって、フィルター膜のアルカリ可溶性の樹脂分を減らすことができるという効果も得られる。」
「【0063】
本発明の顔料着色剤組成物を得る場合における顔料の分散方法を例示すると、本発明を特徴づける高分子分散剤と顔料と液媒体を使用して、必要に応じて各種添加剤を混合し、分散機で分散処理し、所定の顔料粒子径になるまで分散される。顔料と高分子分散剤と液媒体を混合し、必要であれば予備混合し、さらに分散機で分散し顔料分散液となる。本発明において使用できる分散機としては特に制限はなく、従来公知のものが使用できる。例えば、ニーダー、アトライター、ボールミル、ガラスやジルコンなどを使用したサンドミルや横型メディア分散機、コロイドミルなどが使用できる。
【0064】
その分散方法を使用して、所定の顔料の粒子径まで分散する。本発明の顔料着色物組成物では、該顔料の平均粒子径が10?100nmの粒子径であり、さらに好ましくは20?80nmである。このように顔料が微細に分散され、しかも安定に分散されていることによって、カラーフィルター用の着色剤とした場合に、カラーフィルターにおいて、高透明性、高コントラスト性を達成することができる。
【0065】
本発明を特徴づける高分子分散剤を使用して本発明の顔料着色剤組成物を得る方法としては、該分散剤を、乾燥した未処理の顔料と溶剤、その他の必要な助剤を加えてプレミキシングした後に、分散機にて分散してもよいし、粗顔料をニーダーにて微細化する際に添加して使用してもよい。この場合、混練後、塩、溶剤等を水で洗浄した後、乾燥させることによって該高分子分散剤で処理された顔料が得られる。このようにして得られる高分子分散剤で処理された顔料に、顔料処理剤、溶剤等を加えプレミキシングした後、分散処理することで新たに高分子分散剤を加えなくとも十分に分散することができるものとなる。
【0066】
上記のようにして得られた顔料分散液はそのままでもよいが、遠心分離機、超遠心分離機、又は、濾過機で僅かに存在する粗大粒子を除去することは、顔料分散液の信頼性を高める上で好ましい。得られる顔料分散液の粘度はその用途に併せて任意である。
【0067】
上記のようにして得られる本発明の顔料着色剤組成物(顔料分散液)は、微粒子分散でき、保存安定性、塗膜としての透明性、高色再現性に優れ、高分子分散剤を構成するAブロックのカルボキシル基でアルカリ現像できるので、カラーフィルター用着色剤として使用することができる。その印刷方法は、スピンコート法、スリットコート法、インクジェット印刷法に適用することができる。
【実施例】
【0068】
つぎに、合成例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、文中に「部」又は「%」とあるのは質量基準である。
【0069】
[合成例1]酸性高分子分散剤の合成-1
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計およびガス導入管を取り付けた反応容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下PGMAcと略記)を150部、ヨウ素を3.0部、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名:V-70、和光純薬社製、重合開始剤、以下、V-70と略記)11.0部、ベンジルメタクリレート(以下BzMAと略記)80部、メタクリル酸(以下MAAと略記、pKa値:4.66)10部およびコハク酸イミド(以下SIと略記)0.04部を仕込んで、窒素バブリングしながら40℃で5時間重合させてAブロックのポリマー溶液を作成した。サンプリングしてこの溶液の固形分を測定し、不揮発分から換算したところ重合転化率は、99%であった。また、GPCでの示差屈折率検出器(以下RIと略記)におけるMnは4,700であり、分子量分布は1.24であった。また、0.1N水酸化カリウム溶液の滴定により求めたAブロックの酸価は、71.1mgKOH/gであった。
【0070】
次いで、上記で得たAブロックのポリマー溶液に、2-メタクリロイロキシエチルフタル酸(以下MEPAと略記、pKa値:4.2)10部を加え、さらに同温度(40℃)で3時間重合させてBブロックを形成し、ポリマー溶液を得た。サンプリングしてこの溶液の固形分を測定し、不揮発分から換算したところ重合転化率は99%であった。また、GPCのRIにおけるMnは5,800であり、分子量分布は1.28であった。その酸価は、84.2mgKOH/gであった。さらに、熱分析により求めたTgは、66.6℃であった。分子量がAブロックのポリマー溶液から大きくなっていることから、得られたポリマーは、A-Bブロックコポリマーとなっていると考えられる。これをAP-1とする。なお、A-BブロックコポリマーのMnの値から、AブロックのMnの値を引くことにより算出したBブロックのMnは、1,100であった。結果を表1に示した。なお、表1中のBブロックの理論酸価は、MEPAの分子量を278.26、KOHの分子量を56.1として、下記のようにして算出した。他の例についても同様である。
(100/278.26)×56.1×1000/100=201.6mgKOH/g」
「【0120】
本発明によれば、特有の構造のA-Bブロックコポリマーからなる高分子分散剤を使用することで、顔料が良好な状態に微分散され、低粘度で長期安定性が保持される顔料着色剤組成物が提供される。例えば、該顔料着色剤組成物をカラーフィルター用着色剤として使用した場合は、高濃度、高精細化、高コントラスト、高透明性の優れた画素特性を発現し、かつ、アルカリ現像における現像性に優れたカラーフィルター用レジストを得ることができる。本発明の活用例としては、上記顔料着色剤組成物を使用することで、カラーフィルター用着色剤に限らず、塗料、インク、コーティング剤などの各種物品への優れた物性を与え、高性能な物品を与える。」

4 本件特許発明1について

(1)対比

本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の「硬化性組成物」は、「共重合体A-1」を含むから「樹脂組成物」であり、そうであれば本件特許発明1の「硬化性樹脂組成物」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲2発明は次の点で一致する。

<一致点>
「硬化性樹脂組成物。」

そして、少なくとも次の相違点1?3で相違する。

<相違点1>
本件特許発明1は、「[A]下記式(1)で表わされる構造部位および下記式(2)で表わされる構造部位を有する重合体 」


(式(1)中、X^(1)は、水素原子、または、炭素数1?3の1価の直鎖状または分岐状の飽和炭化水素基を示す。X^(2)は、炭素数3?30の1価の直鎖状、分岐状または環状の飽和若しくは不飽和炭化水素基、あるいは、炭素数3?30の1価の直鎖状、分岐状または環状の飽和若しくは不飽和炭化水素基の1つ以上の水素原子がヒドロキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、カルボキシル基、置換基を有していてもよいアルキル基、アラルキル基、またはアルコキシ基で置換された基を示す。
式(2)中、Y^(1)は、水素原子、または、メチル基を示す。Y^(2)は、炭素数1?12の2価の直鎖状、分岐状または環状の飽和若しくは不飽和炭化水素基あるいは炭素数1?12の2価の直鎖状、分岐状または環状の飽和若しくは不飽和炭化水素基の1つ以上の水素原子がヒドロキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、カルボキシル基、置換基を有していてもよいアルキル基、アラルキル基、またはアルコキシ基で置換された基を示す。Y^(3)は、2価の有機基を示す。Y^(4)は、水素原子を示す。nは、0または1を示す。)」と特定するのに対し、甲2発明は、「メタクリル酸(MAA)モル比40の構造単位(a1)、OXE-30モル比40の構造単位(a2)、スチレン(St)モル比10及び2-ヒドロキシエチルメタクリエート(HEMA)モル比10の構造単位(a3)を有」する「共重合体A-1」と特定する点。

<相違点2>
本件特許発明1は、「量子ドット」を含有するのに対し、甲2発明は、「蛍光体 X1:酸化イットリウム Y2O3(信越化学工業社製 純度99.99%)」を含有する点。

<相違点3>
本件特許発明1は、「重合性不飽和化合物」を含有するのに対し、甲2発明は、そのような特定がない点。

(2)判断

まず、上記相違点1について検討する。

ア 甲第2号証に記載された事項に基づく検討

確かに、甲第2号証の段落【0016】には、「化合物(a1)としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸類;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸などのジカルボン酸類;およびこれらのジカルボン酸の無水物;こはく酸モノ〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、フタル酸モノ〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕等の2価以上の多価カルボン酸のモノ〔(メタ)アクリロイルオキシアルキル〕エステル類;ω-カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等の両末端にカルボキシル基と水酸基とを有するポリマーのモノ(メタ)アクリレート類等が挙げられる。これらのうち、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸などが共重合反応性、アルカリ水溶液に対する溶解性および入手が容易である点から好ましく用いられる。これらは、単独であるいは組み合わせて用いられる。」と記載されている
ここで、列記されたこはく酸モノ〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、フタル酸モノ〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕は、本件特許発明1の「下記式(2)で表わされる構造部位」(式(2)は、略。以下同じ。)に相当するといえる。
また、甲第2号証の段落【0038】に記載の式(a4-2)で表される構成単位または段落【0043】に例示された式(a4)で表される構成単位(i)?(iv)は、本件特許発明1の「下記式(1)で表わされる構造部位」(式(1)は、略。以下同じ。)に相当するといえる。
しかしながら、甲第2号証の記載全体を参照しても、こはく酸モノ〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、フタル酸モノ〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕を選び出すと同時に当該式(a4-2)で表される構成単位または当該例示された式(a4)で表される構成単位(i)?(iv)を選び出す動機付けを見いだすことができない。
したがって、上記相違点1は、甲2発明及び甲第2号証の記載の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得るということはできない。

イ 甲第7号証及び甲第8号証に記載された事項に基づく検討

(ア)確かに、甲第7号証の段落【0041】には、バインダーポリマーの一例として、(a)カルボン酸基を含有する繰り返し単位と(b)ラジカル架橋性を付与する繰り返し単位を有する共重合体とが記載されており、上記(a)の具体例として(a-1)から(a-12)に示す構造が列記されており、段落【0042】には、(a-3)、(a-5)に示された構造が記載されている。
ここで、上記(a-3)、(a-5)に示された構造は、本件特許発明1の「下記式(2)で表わされる構造部位」に相当するといえる。
また、段落【0043】には、上記(b)の具体例として(b-1)から(b-11)に示す構造が列記されており、段落【0044】には、(b-1)に示された構造が記載されている。
ここで、上記(b-1)に示された構造は、本件特許発明1の「下記式(1)で表わされる構造部位」に相当するといえる。
しかしながら、甲第7号証の記載を参照しても、(a-3)、(a-5)及び(b-1)に示された構造を選び出す動機付けを見いだすことができない。
仮に、選び出すことができたとしても、甲第7号証に記載の樹脂組成物は、フォトマスクブランクスの作製に使用される感光性樹脂組成物であって、一方の甲第2号証の発明は、LED封止剤に有用な硬化性樹脂組成物であって両者の技術分野は異なっており、甲第7号証、甲第2号証の両記載全体を総合的に勘案しても、上記(a-3)、(a-5)及び(b-1)に示された構造部位を甲2発明の共重合体A-1において含ませる、又は、これらに置換する動機付けは見当たらない。

(イ)確かに、甲第8号証には、酸性高分子分散剤を合成するために、甲第8号証の段落【0069】にベンジルメタクリレート、段落【0070】に、2-メタクリロイロキシエチルフタル酸が記載されている。
ここで、上記ベンジルメタクリレートの構造部位、2-メタクリロイロキシエチルフタル酸は、それぞれ、本件特許発明1の「下記式(1)で表わされる構造部位」、「下記式(2)で表わされる構造部位」を与えるものといえる。
しかしながら、甲第8号証に記載の組成物は、顔料着色剤組成物であって、その用途はカラーフィルター用、塗料、インク、コーティング剤であって、一方の甲第2号証の発明は、LED封止剤に有用な硬化性樹脂組成物であって両者の技術分野は異なっており、甲第8号証、甲第2号証の両記載全体を総合的に勘案しても、ベンジルメタクリレート、2-メタクリロイロキシエチルフタル酸を甲2発明の共重合体A-1において含ませる、又は、これらに置換する動機付けは見当たらない。

(ウ)したがって、上記相違点1は、甲2発明及び甲第7、8号証の記載の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得るということはできない。

ウ 特許異議申立人の主張について

特許異議申立人は、申立書において、(ア)甲2発明の実施例の設計変更、(イ)甲2発明の共重合体(A)を甲7発明、甲8発明の重合体に置換容易 と主張する。
しかしながら、上記ア並びにイ(ア)及び(イ)で検討したとおり、甲2、7、8号証を参照しても、甲2、7、8号証に記載の技術的事項を甲2発明に組み合わせる動機付けを見いだすことができないから、甲2発明の実施例の設計変更であるとはいえず、甲2発明の共重合体(A)を甲7発明、甲8発明の重合体に置換容易であるともいえない。
そのため、特許異議申立人の上記(ア)及び(イ)の主張は採用できない。

(3)小括

したがって、相違点2、3について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明及び甲2、7、8に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
さらに、甲第1号証などの他の甲号証に記載された事項を参照しても、本件特許発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

5 本件特許発明2?12について

本件特許発明2?12は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記4(2)で述べた理由と同様に、甲2発明及び甲2、7、8に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

6 まとめ

よって、取消理由1は理由がない。

第5 むすび

以上のとおりであるから、申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1?12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-12-26 
出願番号 特願2014-195898(P2014-195898)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤井 勲  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 海老原 えい子
長谷部 智寿
登録日 2018-03-09 
登録番号 特許第6299546号(P6299546)
権利者 JSR株式会社
発明の名称 硬化性樹脂組成物、硬化膜、波長変換フィルム、発光素子および発光層の形成方法  
代理人 大阿久 敦子  
代理人 関口 正夫  
代理人 仲野 孝雅  
代理人 祐成 篤哉  

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