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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01F
審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  G01F
審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  G01F
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01F
審判 全部無効 2項進歩性  G01F
管理番号 1347947
審判番号 無効2017-800119  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-08-29 
確定日 2018-11-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4080369号発明「マイクロ波レベルスイッチ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4080369号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 請求の趣旨
特許第4080369号発明の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。


第2 手続の経緯
本件特許第4080369号(以下、「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成15年4月10日にされたものであって、平成20年2月15日に特許権の設定の登録(発明の名称:マイクロ波レベルスイッチ、請求項の数:3)がなされた。
請求人より平成29年8月29日に、本件特許に対して特許無効審判(無効2017-800119、以下、「本件審判」という。)が請求されたところ、同年12月11日付けで被請求人より答弁書が提出されるとともに、同日付けで明細書及び特許請求の範囲についての訂正が請求され、これに対し、請求人より平成30年2月9日付けで弁駁書が提出された。
その後、請求人及び被請求人より、平成30年5月24日付けで口頭審理陳述要領書がそれぞれ提出され、同年6月7日に、第1回口頭審理が行われた。
さらにその後、請求人より平成30年6月8日付けで上申書の提出があり、また被請求人より同年同月12日付けで上申書が提出された。

以下、平成30年12月11日付けで請求した明細書及び特許請求の範囲についての訂正を「本件訂正」と、本件訂正の前後を通して請求項1-3に係る特許を改めて「本件特許1-3」と、本件訂正の前後を通して請求項1-3に係る発明を「本件発明1-3」と、本件訂正前の明細書、特許請求の範囲及び図面を「特許明細書等」といい、本件訂正後のそれを「訂正明細書等」といい、本件訂正の前後を通して「本件明細書等」ということもある。


第3 当事者が提出した証拠方法
1 請求人
甲第1号証:特開2000-245345号公報
甲第2号証:特開平8-129047号公報
甲第3号証:特開昭63-124600号公報
甲第4号証:特開2001-91564号公報
甲第5号証:書面「請求人製品の使用時における、バンドパスフィルタ(BPF)通過前と通過後の信号成分の確認について」、平成30年2月6日、請求人作成
甲第6号証:書面「請求人製品の使用時において、マイクロ波が完全に遮断ではなく減衰により接点出力することについて」、平成30年2月6日、請求人作成
甲第7号証:特開2001-83234号公報
甲第8号証:特開2000-147091号公報
甲第9号証:新村出編「広辞苑第五版」株式会社岩波書店、1998年11月11日第一刷発行、第1347ページ、第2807ページ、奥付
甲第10号証:動画(DVD)「マイクロ波バリアスイッチ」、平成27年1月15日、請求人作成
甲第11号証の1:甲第10号証のキャプチャ画像、平成27年1月15日、請求人作成
甲第11号証の2:甲第10号証のキャプチャ画像、平成27年1月15日、請求人作成
甲第12号証:書面「追加実験報告書」、平成30年2月13日、請求人作成

2 被請求人
乙第1号証:「広辞苑第六版DVD-ROM版」株式会社岩波書店、2008年、項目「差」
乙第2号証:「JIS工業用語大辞典第5版対応CD-ROM版」日本規格協会、2003年、項目「フィルタ」
乙第3号証:「JIS工業用語大辞典第5版対応CD-ROM版」日本規格協会、2003年、項目「レベルスイッチ」
乙第4号証の1:「請求人ホームページに掲載された動画のキャプチャ画面1」
乙第4号証の2:「請求人ホームページに掲載された動画のキャプチャ画面2」
乙第4号証の3:「請求人ホームページに掲載された動画のキャプチャ画面3」
乙第5号証:「広辞苑第六版DVD-ROM版」株式会社岩波書店、2008年、項目「対向」
乙第6号証:「現代国語辞典」株式会社三省堂、1988年、項目「対向」
乙第7号証:「岩波理化学辞典第5版CD-ROM版」株式会社岩波書店、1999年、項目「アンテナ」
乙第8号証:「ウィキペディア」、項目「オペアンプ」
乙第9号証:「広辞苑第六版DVD-ROM版」株式会社岩波書店、2008年、項目「デシベル」
乙第10号証:「広辞苑第六版DVD-ROM版」株式会社岩波書店、2008年、項目「判定」
乙第11号証:「現代国語辞典」株式会社三省堂、1988年、項目「判定」
乙第12号証:「広辞苑第六版DVD-ROM版」株式会社岩波書店、2008年、項目「遮断」

以下、それぞれの書証番号を用いて、例えば甲第1号証を「甲1」、乙第4号証の1を「乙4の1」などということもある。


第4 請求人の主張
請求人は、本件特許を無効とする旨の審決を求め、その理由として、本件特許は、特許法第36条第6項第1号及び同第2号、並びに同条第4項第1号に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものであると主張している。
さらに、上記甲1から甲4の証拠方法を提出するとともに、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものであると主張している。
また、請求人は、本件訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第1項及び第6項に違反する訂正であるから認められるべきでないとも主張している。

そして、本件訂正を認めるべきでないとする理由の内容、及び本件特許を無効とすべき無効理由の内容は、審判請求書、弁駁書、口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書及び上申書の記載内容を総合すれば、概略、以下のとおりである。

1 本件訂正を認めるべきでないとする理由
本件訂正の訂正請求書において、特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落【0009】について、「該発振回路の発信周波数と」という文言を追記する訂正の請求が行われ、被請求人は「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである旨を述べている。しかしながら、本件訂正前の請求項1の記載が明瞭でないと言うことはできないから、訂正の請求を認める意義も必要性も存在しない。
また、本件訂正前の請求項1の構成は「発振回路を有し、アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュール」であって、訂正後の「発振回路の発信周波数とアンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュール」とは「ドプラーモジュール」が出力する信号の性質が全く異なり、このような訂正の請求は、事実上特許請求の範囲を拡張・変更するものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に違反する。

2 無効理由
無効理由1-1
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。請求項1を引用する請求項2及び請求項3の記載についても同様である。

無効理由1-2
本件特許の発明の詳細な説明(段落 【0012】、【0013】)において、「フィルタ回路31、33、34」の構成が不明確であるから、その記載は特許法第36条第4項第1号に違反する。

無効理由2-1
本件の請求項1に係る発明は、甲1発明(主たる証拠)及び甲2発明(従たる証拠)から容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

無効理由2-2
本件の請求項2に係る発明は、甲1発明(主たる証拠)並びに甲2発明(従たる証拠)及び甲3発明(従たる証拠)から容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

無効理由2-3
本件の請求項3に係る発明は、甲1発明(主たる証拠)並びに甲2発明(従たる証拠)及び甲4発明(従たる証拠)から容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)無効理由1-1(特許法第36条第6項第1号及び同第2号違反)
ア 「ドプラーモジュール」及び「ログアンプモジュール」について
(ア)本件発明1の構成要件「発振回路を有し、アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュール」及び「ドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備えるログアンプモジュール」を素直に読めば、本件発明1において、ドプラーモジュールから出力されてログアンプモジュールに供給されるのは、送波器からの周波数と所定の周波数差となる周波数の信号、すなわちドプラーモジュールの発振回路で発振された信号自体であって、送波器から発振された信号の周波数とドプラーモジュールの発振回路が発振した信号の周波数との周波数差にあたる周波数の信号ではないことになる。
すなわち、請求項1記載のドプラーモジュールは、ドプラーモジュールの発振回路で発振された「アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号」自体を出力する。
一方、本件明細書の段落【0012】に記載されたドップラーモジュール22は、「自身に内蔵されている発振回路からの発振出力信号と、送波器10から発射され受波器アンテナ21で受信した受信マイクロ波とを、同じくドプラーモジュール22に内蔵されているミキシング回路によりミキシングし、中間周波信号を出力するように機能する」構成であり、請求項1記載の構成とは相違する。

(イ)請求項1記載のログアンプモジュールは、「ドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備え」ている。この、ログアンプモジュールが増幅する信号であるドプラーモジュールが出力した信号は、「アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号」自体である。
一方、本件発明の明細書の段落【0019】に記載されたログアンプ回路32は、「この中間周波信号を対数増幅している」もの、つまり、ドップラーモジュール22が出力した「中間周波信号」を増幅する構成である。明細書に記載されたこの構成は、請求項1記載の構成とは相違する。

(ウ)本件発明1は「ログアンプモジュールの出力信号電圧と設定電圧との大小を比較し、比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定し、判定結果により出力ドライブ回路の起動を制御するスイッチ手段とを備えることを特徴とするマイクロ波レベルスイッチ」であるが、本件発明1における「ログアンプモジュールの出力信号電圧」とは、「ドプラーモジュールが出力する信号」を増幅したものである。そして、この「ドプラーモジュールが出力する信号」とは、ドプラーモジュールの発振回路で発振された信号自体である。本件発明1は、送波器から送信された信号が、受波器20の、ドップラーモジュール22よりも後段の構成にて用いられていない。それゆえ、本件発明1においては、「スイッチ手段」において、「ログアンプモジュールの出力信号電圧と設定電圧との大小を比較」することはできない。そして、本件発明1においては、「比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定し、判定結果により出力ドライブ回路の起動を制御する」こともできない。
一方、本件特許の明細書の段落【0020】には、「さらに、レベル比較回路40は判定レベル設定回路41で設定された比較電圧と、ログアンプモジュール30からの出力信号電圧との大小比較を行い、その比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定し、その判定結果により出力ドライブ回路50の起動を制御するスイッチ手段として機能する。」とあり、「スイッチ手段」としてのレベル比較回路40は、「ログアンプモジュール30からの出力信号電圧」を、比較電圧との「大小を比較」する対象に用い、「その比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定し、判定結果により出力ドライブ回路50の起動を制御する」ことになり、相違する。

上記(ア)、(イ)、(ウ)の点で、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許法第36条第6項第1号に違反する。本件発明2,3に関しても同様である。

イ 「フィルタ」の必要性について
本件発明1の構成要件は「ドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備えるログアンプモジュール」を含み、本件発明1のログアンプモジュールは、「対数増幅器を備える」ものである。この「対数増幅器」は「信号を対数圧縮し増幅する」ものである。この「対数増幅器」における「信号を対数圧縮し増幅する」構成とは、入力された信号の信号値が小さい部分は大きな増幅率で増幅し、入力された信号の信号値が大きい部分は小さい増幅率で増幅して、入力された信号よりも大小差の小さい信号を出力するものである。
このような増幅態様で増幅された場合、ログアンプモジュールに入力された信号の周波数の高低や、その高低に依存する入力信号の大小に関わらず、近い大きさの出力信号としてログアンプモジュールから出力されることになる。
このようにしてログアンプモジュールから出力された信号は、常に同様の大きさの電圧となってしまう。そのため、このようにしてログアンプモジュールから出力された信号の出力信号電圧と設定電圧との大小を比較したところで、設定電圧に対し、出力信号電圧が大きくなったり小さくなったりという変化がおこりにくい。そのため、このような比較の「比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定」することや、そのような判定の「判定結果により出力ドライブ回路の起動を制御する」することは困難である。
このような問題を解消し、「ログアンプモジュールの出力信号電圧と設定電圧との大小を比較し、比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定」する方法としては、ログアンプモジュールに特定帯域の信号を透過させるフィルタをさらに配設することが考えられる。
しかし、本件発明1には、ログアンプモジュールに特定帯域の信号を透過させるフィルタが設けられているとは記載されておらず、また、ログアンプモジュールに特定帯域の信号を透過させるフィルタが設けられているように読むこともできない。
なぜなら、もし、本件発明1の「ログアンプモジュール」に、特定帯域の信号を透過させるフィルタが設けられているのだとすれば、「ドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備える」ことと同様に、特定帯域の信号を透過させるフィルタを備えることも明記されていなければならない。そして、「ログアンプモジュール」が特定帯域の信号を透過させるフィルタを備えたものであると明記されていない以上、たとえ発明の詳細な説明や図面に特定帯域の信号を透過させるフィルタが記載されていたとしても、本件発明1の「ログアンプモジュール」は、そのような、発明の詳細な説明や図面にのみ記載されたところの構成要素であるフィルタが付加されたものとして捉えることはできないのである。
つまり、本件発明1における、ログアンプ回路を備えているが、特定帯域の信号を透過させるフィルタのような構成要件を備えていない「ログアンプモジュール」は、本件特許の明細書に記載された、フィルタ回路31、33、34と、ログアンプ回路32を備えたログアンプモジュール30とは異なるものであり、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
また、構成要件オに記載された「ログアンプモジュール」は、それに基づいて判定を行うことができず、したがって「マイクロ波送波器からマイクロ波受波器へのマイクロ波の遮断もしくは透過により被検出物体のレベルを検知する」ことを実現できない。すなわち、特許を受けようとする発明が明確ではない。
この点で、本件発明1は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に違反するものである。

なお、本件発明1-3においてフィルタの構成が必須であることは、甲5及び甲12に示す実験結果によっても裏付けられている。

ウ 被検出物体のレベル検知について
本件発明1は、特許請求の範囲に記載された構成に基づいて、どのようにして「マイクロ波送波器からマイクロ波受波器へのマイクロ波の遮断もしくは透過により被検出物体のレベルを検知する」ことを実現するのかが明らかではない。
なお、本件明細書の段落【0012】【0016】【0017】【0019】の各記載に基づき、「アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号」及び「信号」を、送波器から発振された信号の周波数とドプラーモジュールの発振回路が発振した信号の周波数との周波数差にあたる周波数の信号であると認定することは、特許という独占権の範囲を特許請求の範囲の記載に限定した特許法第70条第1項の趣旨に照らし、許されないというべきである。
この点で、本件発明1は、特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号に違反するものである。本件発明2,3に関しても同様である。

エ マイクロ波の透過と遮断の判定について
本件発明1は、「ログアンプモジュールの出力信号電圧と設定電圧との大小を比較し、比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定し、判定結果により出力ドライブ回路の起動を制御するスイッチ手段とを備えることを特徴とするマイクロ波レベルスイッチ。」であるが、これを素直に読めば、本件発明1において、送波器と受波器との間のマイクロ波の透過と遮断の判定は、ドプラーモジュールが出力する信号をログアンプモジュールで対数圧縮し増幅し、ログアンプモジュールの出力信号電圧と設定電圧との大小を比較することで行われる。つまり、送波器と受波器との間でのマイクロ波の透過と遮断の如何は、ログアンプモジュールの出力信号電圧の大きさに基づいて判定されることになる。
本件発明1においては、送波器から送信された信号が、受波器20の、ドップラーモジュール22よりも後段の構成にて用いられていない。そのため、「スイッチ手段」において、「ログアンプモジュールの出力信号電圧と設定電圧との大小を比較」することも、「比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定」することもできない。
しかし、仮に、本件発明1において、送波器から送信された信号が、受波器20の、ドップラーモジュール22よりも後段の構成にて用いられていると認定されるとしても、やはり、「スイッチ手段」において、「ログアンプモジュールの出力信号電圧と設定電圧との大小を比較」することも、「比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定」することもできないことに変わりはない。

仮に、本件発明1において、送波器から送信された信号が、受波器20の、ドップラーモジュール22よりも後段の構成にて用いられていると認定される場合、本件発明1の構成は、本件特許の明細書の段落【0012】の記載から、
「発振回路を有し、この発振回路からの発振出力信号と、送波器から発射され前記アンテナで受信したマイクロ波とを、内蔵されているミキシング回路によりミキシングし、発振出力信号の周波数と受信マイクロ波の周波数との差の周波数を有する信号を出力するドプラーモジュール」
となるものと解される。
しかし、そうであっても、ログアンプモジュールに特定帯域の信号を透過させるフィルタが設けられていないので、ログアンプモジュールから出力された信号の出力信号電圧と設定電圧との大小を比較したところで、設定電圧に対し、出力信号電圧が大きくなったり小さくなったりという変化が起こりにくい。
そのため、「比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定」することや、そのような判定の「判定結果により出力ドライブ回路の起動を制御する」することは困難である。
この点で、本件発明1は、特許法第36条第6項第2号に違反するものである。

(2)無効理由1-2(特許法第36条第4項第1号違反)
本件明細書の段落【0012】【0013】には、下記の記載が存在する。
「【0012】
・・・(省略)・・・この中間周波信号はログアンプモジュール30の後述されるフィルタ回路に与えられ、不必要な周波数帯域の成分がカットされる。
【0013】
ログアンプモジュール30は、図2に示すように、外部からのノイズの侵入を防ぐフィルタ回路31、33、34と、ログアンプ回路32とにより構成されている。ログアンプモジュール30の出力信号線や電源供給線は、外来電波のアンテナとなりうる。そのため、フィルタ回路33およびフィルタ回路34により出力信号線や電源供給線からの高周波電圧の流入を阻止する。更に、このログアンプモジュール30は、モジュール全体が金属ケース等のシールドケースに収納され、電磁的および静電的にシールドされている。」
上述の通り、段落【0012】において「フィルタ回路」は「不必要な周波数帯域の成分がカットされる」ための構成とされる一方で、段落【0013】において「フィルタ回路31、33、34」は「外部からのノイズの侵入を防ぐ」ものとされている。段落【0012】と段落【0013】の記載を総合すると、「フィルタ回路31」「フィルタ回路33」「フィルタ回路34」は、「不必要な周波数帯域の成分がカットされる」ためのものなのか、「外部からのノイズの侵入を防ぐ」ためのものなのかがわからず、不明確な構成となっている。
そして、本件発明1の技術分野において、1のフィルタが「不必要な周波数帯域の成分がカットされる」ためのものであると共に「外部からのノイズの侵入を防ぐ」ためのものとして構成することは技術的に困難である。また、明細書の段落【0012】や段落【0013】や【図2】、あるいは明細書や図面の他の記載において、「フィルタ回路31」「フィルタ回路33」「フィルタ回路34」が、「不必要な周波数帯域の成分がカットされる」ためのものであると共に、「外部からのノイズの侵入を防ぐ」ためのものとするための具体的な記載がされていない以上、この「フィルタ回路31」「フィルタ回路33」「フィルタ回路34」が、それぞれ、技術的に困難な事項を解決して「不必要な周波数帯域の成分がカットされる」ためのものであると共に「外部からのノイズの侵入を防ぐ」ためのものとされている、と解釈することもできない。
これらの記載を総合すると、本件特許の明細書の段落【0012】【0013】に記載された「フィルタ回路31」「フィルタ回路33」「フィルタ回路34」は、本件発明1の属する技術の分野における通常の知識を有する者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
この点で、本件発明1は、特許法第36条第4項第1号に違反するものである。

(3)無効理由2-1ないし2-3(甲1?甲4発明に基づく進歩性欠如)
本件発明1においては、送波器から送信された信号が、受波器20の、ドップラーモジュール22よりも後段の構成にて用いられていない。そのため、「スイッチ手段」において、「ログアンプモジュールの出力信号電圧と設定電圧との大小を比較」することも、「比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定」することもできない。
しかし、仮に、本件発明1において、送波器から送信された信号が、受波器20の、ドップラーモジュール22よりも後段の構成にて用いられていると認定されるとしても、本件発明1乃至3は、下記甲1発明乃至甲4発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
・甲1発明:甲第1号証(特開2000-245345号公報)に記載された発明
・甲2発明:甲第2号証(特開平8-129047号公報)に記載された発明
・甲3発明:甲第3号証(特開昭63-124600号公報)に記載された発明
・甲4発明:甲第4号証(特開2001-91564号公報)に記載された発明

仮に、本件発明1において、送波器から送信された信号が、受波器20の、ドップラーモジュール22よりも後段の構成にて用いられていると認定される場合、本件発明1は
「発振回路を有し、この発振回路からの発振出力信号と、送波器から発射され前記アンテナで受信したマイクロ波とを、内蔵されているミキシング回路によりミキシングし、発振出力信号の周波数と受信マイクロ波の周波数との差の周波数を有する信号を出力するドプラーモジュール」
を備えるものとなる。以下、このことを前提に、本件発明1乃至本件発明3と、甲1発明乃至甲4発明とを対比検討する。

ア 甲1発明?甲4発明の認定
(ア)甲1発明
a 本件特許の出願日(平成15年4月10日)前の平成12年(2000年)9月12日に頒布された刊行物である甲第1号証(特開2000-245345号公報)には、
「計測コンベヤ104を挟んで上面部に送信アンテナ110、下面側に受信アンテナ112が設置され、送信アンテナ110から計測コンベヤ104上の茶葉100に送信されたマイクロ波がその茶葉100を通過して受信アンテナ112に受信される」
旨記載されており、送信アンテナ110(マイクロ波送波器)と受信アンテナ112(マイクロ波受波器)とを対向配置した構成が開示されている。
また、この甲第1号証においては、「受信アンテナ112に受信されたマイクロ波の減衰量が測定され」て「その減衰レベルと茶葉の重量(例えば、50Kg/H程度を想定))とから茶葉の水分率が測定される。」

また、甲第1号証の段落【0017】以降の【発明の実施の形態】に記載された構成においては、U字形を成すストリップ導体30が設置されたマイクロストリップ線路4の入力端6側にマイクロ波発生源8(マイクロ波送波器)、出力端10側にレベル検出部12(マイクロ波受波器)が設けられた構成が記載されている(段落【0022】【0023】【図4】等参照)。
この点、マイクロ波の導通路が物理的に直線的に構成されていなくてもマイクロ波を導波させることは可能であるから、物理的にU字形を形成したストリップ導体30の入力端6側にマイクロ波発生源8(マイクロ波送波器)、出力端10側にレベル検出部12(マイクロ波受波器)が設けられた構成は、マイクロ波発生源8(マイクロ波送波器)、とレベル検出部12(マイクロ波受波器)が「対向配置」された構成に該当する。

以上により、甲第1号証には、

構成あ:「マイクロ波送波器とマイクロ波受波器とを対向配置し、マイクロ波送波器からマイクロ波受波器へのマイクロ波の透過量により被検出物体のレベルを検知する装置」

が記載されている。

b 甲第1号証の【図12】には、計測コンベヤ104を挟んで、上面部に送信アンテナ110が、下面部に受信アンテナ111が、それぞれ対向した状態で配置されている構成が示されている。
また、甲第1号証の段落【0017】以降の【発明の実施の形態】に記載された構成においては、例えば段落【0022】や【図4】に記載された「マイクロ波発生源8」にアンテナは明示的には記載されていない。しかし、段落【0017】以降に記載された構成が、マイクロ波を発信する構成である以上、当然にアンテナが設けられているはずである。
従って、甲第1号証の段落【0022】や【図4】等に記載された「マイクロ波発生源8」がアンテナを備えていることは明らかである。
さらに、甲第1号証の段落【0003】、【0026】を総合すると、甲第1号証には

構成い:「マイクロ波送波器が、マイクロ波発振器からの発振信号をアンテナからマイクロ波としてマイクロ波受波器に向けて発射するとともに」

という構成が記載されている。

c 上記甲第1号証における、段落【0003】及び【図12】の記載によると、甲第1号証には、計測コンベヤ104の下面側に、送信アンテナ110から送信されたマイクロ波を受信するための受信アンテナ112が設けられている。

また、甲第1号証の段落【0017】以降の【発明の実施の形態】に記載された構成においては、例えば段落【0022】や【図4】に記載された「レベル検出部12」にアンテナは明示的には記載されていない。しかし、段落【0017】以降に記載された構成が、マイクロ波を発信する構成である以上、当然にアンテナが設けられているはずである。
従って、甲第1号証の段落【0022】や【図4】等に記載された「レベル検出部12」がアンテナを備えていることは明らかである。

これらを総合すると、甲第1号証には

構成う:「マイクロ波受波器が、マイクロ波送波器からのマイクロ波を受信するアンテナ」
を備えた構成が記載されている。

d 甲第1号証の段落【0028】及び【図3】の記載を参酌すると、甲第1号証に記載されたマイクロ波送波器は、「周波数fz」の信号を発振する「発振器27」を備えている。
そして、甲第1号証において、「ミキサ26では、受信された周波数f1 を高周波入力RF、発振器27からの周波数f2 を局部発振周波数LFとして両者が混合されてヘテロダイン検波が行われ、周波数ミキシングの結果、中間周波数IF(f1 -f2 )に変換され」る。
これらの記載を総合すると、甲第1号証には

構成え:「発振器を有し、この発振器からの所定の周波数f2 のマイクロ波と、マイクロ波発振器のアンテナから発射され、アンテナで受信した周波数f1のマイクロ波とをミキシングし、所定の周波数f2 のマイクロ波とアンテナで受信した周波数f1のマイクロ波との差の中間周波数IF(f1 -f2 )を有する信号である中間周波信号を出力するミキサ」

が記載されている。

e 甲第1号証の段落【0029】【0030】及び【図2】【図3】の記載を参酌すると、甲第1号証には、ミキサ26から出力されて検波器31を経た信号を増幅する演算増幅器60を備えた構成が記載されている。

そして、甲第1号証の段落【0036】【0037】の記載においては、ミキサ26を含むレベル検出部12からレベル補正部50の演算増幅器60に入力される信号は、「log」を用いて対数として示されるような、増減の幅の大きいものであるとされている。

これらの記載を総合すると、甲第1号証には

構成お:「ミキサから出力されて検波器を経た、対数によって示される値で増減する信号を増幅する演算増幅器」
という構成が記載されている。

f 甲第1号証の段落【0034】?【0037】、【0041】、【0042】の記載において、甲第1号証のレベル検出部12においては、マイクロストリップ線路4に茶葉が設置されていない場合の、(受波器側で受信した)マイクロ波の出力レベルV1を基準値とすること(段落【0034】)、また、マイクロストリップ線路4に茶葉が設置されたときの(受波器側で受信した)マイクロ波の出力レベルをV2としたときの、出力レベルV1、V2から、減衰分ΔVを求め(段落【0037】【0038】)、これらにより、茶葉の水分率を算出する(段落【0041】【0042】)構成が記載されている。
なお、既に記載した通り、段落【0029】【0030】の記載や【図2】【図3】の記載等において、この検出結果は、さらに、演算増幅器60を含むレベル補正部50の増幅と数値の補正を経たのちに、段落【0024】に記載されている通り、データ処理部14において演算処理が行われる。
さらに、甲第1号証の段落【0020】及び段落【0055】の記載によれば、甲第1号証には、茶葉の水分率の測定結果に基づいて、「蒸機、冷却機、乾燥処理機の他、葉打機、粗揉機、精揉機、乾燥機等を含むバッチ機械を包含する各種の処理手段の加熱制御等」を行う構成が記載されている。

これらを総合すると、甲第1号証には

構成か:「演算増幅器を含むレベル補正部の出力結果によって、ミキサの出力レベルV2と基準値であるマイクロ波の出力レベルV1との大小を比較し、比較結果に基づいて透過するマイクロ波の減衰量を判定するデータ処理部を備え、判定結果により、蒸機、冷却機、乾燥処理機の他、葉打機、粗揉機、精揉機、乾燥機等を含むバッチ機械を包含する各種の処理手段の加熱制御等の制御を行う」

構成が記載されている。

これらを総合すると、甲第1号証には、次の発明が記載されている(以下、「甲1発明」という。)。

「マイクロ波送波器とマイクロ波受波器とを対向配置し、マイクロ波送波器からマイクロ波受波器へのマイクロ波の透過量により被検出物体のレベルを検知する装置であって、
マイクロ波送波器が、マイクロ波発振器からの発振信号をアンテナからマイクロ波としてマイクロ波受波器に向けて発射するとともに
マイクロ波受波器が、マイクロ波送波器からのマイクロ波を受信するアンテナと、
発振器を有し、この発振器からの所定の周波数f2 のマイクロ波と、マイクロ波発振器のアンテナから発射され、アンテナ受信した周波数f1のマイクロ波とをミキシングし、所定の周波数f2 のマイクロ波とアンテナで受信した周波数f1のマイクロ波との差の中間周波数IF(f1 -f2 )を有する信号である中間周波信号を出力するミキサと、
ミキサから出力されて検波器を経た、対数によって示される値で増減する信号を増幅する演算増幅器と、
演算増幅器を含むレベル補正部の出力結果によって、ミキサの出力レベルV2と基準値であるマイクロ波の出力レベルV1との大小を比較し、比較結果に基づいて透過するマイクロ波の減衰量を判定するデータ処理部を備え、判定結果により、蒸機、冷却機、乾燥処理機の他、葉打機、粗揉機、精揉機、乾燥機等を含むバッチ機械を包含する各種の処理手段の加熱制御等の制御を行う装置。」

(イ)甲2発明
本件特許の出願日(平成15年4月10日)前の平成8年(1996年)5月21日に頒布された刊行物である甲第2号証(特開平08-129047号公報)の明細書の段落【0042】【0043】【0028】【0039】及び【図5】の記載には、アンテナ3で受信したマイクロ波と、発振器8により発振されたマイクロ波との一定の周波数との差に基づく中間周波の信号を出力する混合器7とを有し、混合器7から出力された信号を、対数増幅器14にて対数変換し増幅する構成とバンドパスフィルタにより混合器で発生したスプリアスを除去する構成が記載されている。

従って、甲第2号証に係る甲2発明は、

「マイクロ波の中間周波の信号を生成する際に発生したスプリアスを除去する中間周波数帯用のバンドパスフィルタ、バンドパスフィルタの出力を対数変換・増幅する対数増幅器」
という構成を有している。

(ウ)甲3発明
本件特許の出願日(平成15年4月10日)前の昭和63年(1988年)5月28日に頒布された刊行物である甲第3号証(特開昭63-124600号公報)の、2ページ左上欄第7行目?第12行目、及び2ページ左上欄第20行目?右上欄第5行目、及び図の記載によれば、甲第3号証には、下記甲3発明が記載されている。

「微弱電流増幅回路(増幅器)が、シールドケース内に収納されていることを特徴とする微弱電流増幅回路。」

(エ)甲4発明
本件特許の出願日(平成15年4月10日)前の平成13年(2001年)4月6日に頒布された刊行物である甲第4号証(特開2001-91564号公報)の段落【0010】及び【図1】の記載によれば、甲第4号証に係る甲4発明は、下記の構成を備えている。

「増幅器と出力端子(外部回路)とを接続する信号出力端子(配線)の途中に、ノイズ侵入防止用の第2ノイズフィルタ及び第1ノイズフィルタ(フィルタ回路)が接続されている、部分放電検出法に用いられる装置。」

イ 本件発明に関する対比
(ア)本件発明1
本件発明1を構成要件に分説すると、下記の通りである。

構成要件ア:「マイクロ波送波器とマイクロ波受波器とを対向配置し、マイクロ波送波器からマイクロ波受波器へのマイクロ波の遮断もしくは透過により被検出物体のレベルを検知するマイクロ波レベルスイッチにおいて、」

構成要件イ:「前記マイクロ波送波器が、マイクロ波発振器からの発振信号をアンテナからマイクロ波として前記マイクロ波受波器に向けて発射するとともに、」

構成要件ウ:「前記マイクロ波受波器が、マイクロ波送波器からのマイクロ波を受信するアンテナと、」

構成要件エ:「発振回路を有し、アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュールと、」

構成要件オ:「ドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備えるログアンプモジュールと、」

構成要件カ:「ログアンプモジュールの出力信号電圧と設定電圧との大小を比較し、比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定し、判定結果により出力ドライブ回路の起動を制御するスイッチ手段とを備えることを特徴とするマイクロ波レベルスイッチ。」

(イ)本件発明2
本件発明2を構成要件に分説すると、下記の通りである。
構成要件キ:「前記ログアンプモジュールが、シールドケース内に収納されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波レベルスイッチ。」

(ウ)本件発明3
本件発明3を構成要件に分説すると、下記の通りである。
構成要件ク:「前記ログアンプモジュールと外部回路とを接続する配線の途中に、ノイズ侵入防止用のフィルタ回路が接続されていることを特徴とする請求項1または2記載のマイクロ波レベルスイッチ。」

(エ)甲1発明
甲1発明の構成要件は下記の通りである。
構成あ:「マイクロ波送波器とマイクロ波受波器とを対向配置し、マイクロ波送波器からマイクロ波受波器へのマイクロ波の透過量により被検出物体のレベルを検知する装置」

構成い:「マイクロ波送波器が、マイクロ波発振器からの発振信号をアンテナからマイクロ波としてマイクロ波受波器に向けて発射するとともに」

構成う:「マイクロ波受波器が、マイクロ波送波器からのマイクロ波を受信するアンテナ」

構成え:「発振器を有し、この発振器からの所定の周波数f2 のマイクロ波と、マイクロ波発振器のアンテナから発射され、アンテナで受信した周波数f1のマイクロ波とをミキシングし、所定の周波数f2 のマイクロ波とアンテナで受信した周波数f1のマイクロ波との差の中間周波数IF(f1 -f2 )を有する信号である中間周波信号を出力するミキサ」

構成お:「ミキサから出力されて検波器を経た、対数によって示される値で増減する信号を増幅する演算増幅器」

構成か:「演算増幅器を含むレベル補正部の出力結果によって、ミキサの出力レベルV2と基準値であるマイクロ波の出力レベルV1との大小を比較し、比較結果に基づいて透過するマイクロ波の減衰量を判定するデータ処理部を備え、判定結果により、蒸機、冷却機、乾燥処理機の他、葉打機、粗揉機、精揉機、乾燥機等を含むバッチ機械を包含する各種の処理手段の加熱制御等の制御を行う」

(オ)対比
a 構成要件アに関する対比
本件発明1の「構成要件ア」と甲1発明の「構成あ」との明確な一致点は、下記の通りである。
・一致点1:マイクロ波送波器とマイクロ波受波器とが対向配置されている点。
・一致点2:マイクロ波により、被検出物体のレベルを検知するものである点。

一方、「構成要件ア」と「構成あ」とを対比した場合、下記1点の事項が検討すべき点として上げられる。

・検討すべき点:「構成要件ア」では、マイクロ波の「遮断もしくは透過」により被検出物体のレベルを検知するのに対し、「構成あ」では、マイクロ波の「透過量」により被検出物体のレベルを検知する点。

この点について検討する。
「構成あ」は、具体的には「受信アンテナ112に受信されたマイクロ波の減衰量が測定され、その減衰レベルと茶葉の重量(例えば、50Kg/H程度を想定))とから茶葉の水分率が測定される。」ものとして記載されている(段落【0003】)。これは、茶葉の含有する水分の水分率により、送信アンテナ110(マイクロ波送波器)から受信アンテナ112(マイクロ波受波器)に透過するマイクロ波の透過量が変化することを利用して、受信アンテナ112(マイクロ波受波器)で、マイクロ波の透過量を検知して、茶葉に含まれる水分率を測定するものである。
「構成あ」は、茶葉に含まれる水分の水分率が大きい場合も小さい場合も、送信アンテナ110(マイクロ波送波器)から受信アンテナ112(マイクロ波受波器)にマイクロ波が透過する。この点で「構成あ」は、「構成要件ア」の「マイクロ波の遮断もしくは透過により被検出物体のレベルを検知する」ものとは一見一致しないようにも思われる。
しかし、本件発明1における、「被検出物体のレベル」の変化による「マイクロ波の遮断」とは、「被検出物体のレベル」の増加(あるいは減少)に伴って、マイクロ波の透過量が極限まで小さい値となった結果、「遮断」されたものである。それゆえ、「構成要件ア」におけるマイクロ波の「遮断」の検知とは、概念上、「構成あ」におけるマイクロ波の「透過量の大小」の検知に包含される。
ゆえに、「構成要件ア」は「構成あ」に包含されるものである。

従って、甲1発明の「構成あ」は、本件発明1の「構成要件ア」に相当する。

なお、本件特許の【従来技術】の記載(段落【0002】【図6】の記載等)においては、マイクロ波の送波器10の送波器アンテナ12と受波器20の受波器アンテナ21が対抗配置された構成が明記されている。従って、仮に「構成あ」が「構成要件ア」に相当しないとしても、「構成要件ア」は本件特許に係る特許出願の出願時に公知技術であったものである。
特許庁審査基準において、本願の明細書中に本願出願前の従来技術として記載されている技術について、出願人がその明細書の中でその従来技術の公知性を認めている場合は、出願当時の技術水準を構成するものとして、これを引用発明とすることができる(第III部第2章第2節 進歩性 3.3(4))ことが明記されていることからみても、「構成要件ア」は、公知技術と同等のものとすべき事項であることは明らかである。

b 構成要件イに関する対比
本件発明1の構成要件イと甲1発明の「構成い」とは全く同一内容であることは明らかである。
従って、甲1発明の「構成い」は、本件発明1の「構成要件イ」に相当する。

c 構成要件ウに関する対比
本件発明1の構成要件ウと甲1発明の「構成う」とは全く同一内容であることは明らかである。
従って、甲1発明の「構成う」は、本件発明1の「構成要件ウ」に相当する。

d 構成要件エに関する対比
本件発明1の「構成要件エ」は、前述したように、その内容は下記「構成要件エ′」のとおりである。

構成要件エ′:「発振回路を有し、この発振回路からの発振出力信号と、送波器から発射されアンテナで受信したマイクロ波とを、内蔵されているミキシング回路によりミキシングし、発振出力信号の周波数と受信マイクロ波の周波数との差の周波数を有する信号である「中間周波信号」を出力するドプラーモジュールと、」

なお、甲1発明のミキサは、発振器を有していること、発振器で周波数f2のマイクロ波を発振していること、マイクロ波送波器から発射された周波数f1のマイクロ波とミキシングして中間周波数IF(f1 -f2 )の信号を出力する。
そして、甲1発明の発振器が「発振回路」に相当し、甲1発明の、発振器が発振する周波数f2のマイクロ波が「発振出力信号の周波数」に相当し、甲1発明のマイクロ波送波器から発射された周波数f1のマイクロ波が「送波器から発射されアンテナで受信したマイクロ波」に相当し、甲1発明のこのマイクロ波の周波数f1が「受信マイクロ波の周波数」に相当し、甲1発明のマイクロ波送波器から発射された周波数f1のマイクロ波とミキシングして得られる中間周波数IF(f1 -f2 )の信号が「発振出力信号の周波数と受信マイクロ波の周波数との差の周波数を有する信号である「中間周波信号」」に相当する。これに鑑みると、本件発明1の「ドプラーモジュール」は、甲1発明の「ミキサ」に包含されるものである。
以上により、甲1発明の「構成え」は、本件発明1の「構成要件エ′」に相当する。

ここで、「ドプラーモジュール」という文言がどのようなものであるかについて、請求人は、本件特許に係る請求項1の記載を素直に読んだ場合に認識できるものであると考える。すなわち、「ドプラーモジュール」とは、構成要件エにおける「発振回路を有し、アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力する」ものであると考える
そもそも、「ドプラーモジュール」なる文言は本件特許に係る技術分野における特定の技術を示す普通名称や技術用語ではない。また、本件特許の特許請求の範囲には、ドプラーモジュールを定義する文言として、構成要件エ「発振回路を有し、アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュールと、」という記載と、構成要件オの「ドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備えるログアンプモジュールと、」という記載が存在し、この記載により、ドプラーモジュールの意味するものは明瞭に判断できる。また、構成要件エには、「ドプラーモジュール」が、被請求人の主張しているような「ドップラー効果を利用可能な電子回路の各種の部材をモジュール化したパッケージ」である旨の記載や、どのような「部材」で構成されているかについての記載は存在しない。
これらに鑑みれば、本件特許発明における「ドプラーモジュール」は、本件特許の特許請求の範囲に構成要件エと構成要件オによって特定されるもの、つまり、発振回路を有し、アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するものであって、その出力する信号をログアンプモジュールに供給し、ログアンプモジュールで増幅させる効果を奏するものである。そして、その構成としては、構成要件エによって特定される「発振回路を有し、アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力する」ものということになる。

e 構成要件オに関する対比
本件発明1の「構成要件オ」と甲1発明の「構成お」の一致点、相違点は、下記に示す通りである。
・一致点:ミキサ(ドプラーモジュール)が出力する信号を増幅する点。
・相違点:「構成要件オ」は信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備えるものであるのに対し、「構成お」は増幅の態様が明示されていない点。

一方、甲第2号証に示す甲2発明には、下記の構成が記載されている。

「マイクロ波の中間周波の信号を生成する際に発生したスプリアスを除去する中間周波数帯用のバンドパスフィルタ、バンドパスフィルタの出力
を対数変換・増幅する対数増幅器」

上記(2)無効理由2(特許法第36条第6項第1号及び第2号違反(その2))にて述べた通り、本件発明1の「ログアンプモジュール」は「ドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器」のみを備え、特定帯域の信号を透過させるフィルタが設けられているものではない。
そして、甲2発明の上記構成のうち、対数増幅器の構成は、マイクロ波の中間周波の信号を対数変換・増幅する。この点で、本件発明1の「ログアンプモジュール」は、甲2発明の対数増幅器に包含される。
一方、仮に、本件発明1の「ログアンプモジュール」が「対数増幅器」に加えて特定帯域の信号を透過させるフィルタが設けられたものと認定された場合、この「ログアンプモジュール」の「フィルタ」の構成は、特定帯域の信号を透過させる点で、甲2発明の、スプリアスを除去する中間周波数帯用のバンドパスフィルタに包含される。従って、この場合、本件発明1の「ログアンプモジュール」は、甲2発明の、スプリアスを除去する中間周波数帯用のバンドパスフィルタと、対数増幅器とに包含される。
ゆえに、上記のいずれの場合においても、本件発明の「ログアンプモジュール」は、甲2発明の構成に包含されるものである。

また、上記「(ア)甲1発明」のeにて述べた通り、甲第1号証の段落【0036】【0037】には、ミキサ26(ドプラーモジュール)から出力されて検波器31を経て「構成お」の演算増幅器60を含むレベル検出部12に入力される信号は、「log」を用いて対数として示されるような、増減の幅の大きいものであることが示されている。この記載は、ドプラーモジュールが出力する信号を増幅器で増幅する際に、信号を対数圧縮して増幅する対数増幅器を用いることが効果的であることを示唆するものである。そして、甲1発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、甲1発明の「構成お」に甲2発明の上記構成を適用する契機となるものである。
また、甲1発明に甲2発明を適用することで技術的な不利益を被ることもなく、甲1発明に甲2発明を適用することに、積極的阻害要因も存在しない。

以上により、甲1発明の「構成お」に、甲2発明の上記構成を組み合わせることは甲1発明の技術の分野における通常の知識を有する者にとって容易である。

f 構成要件カに関する対比
本件発明1の「構成要件カ」と甲1発明の「構成か」の明確な一致点は、下記に示す通りである。
・一致点:出力信号電圧と設定電圧との大小を比較し、比較結果に基づいてマイクロ波の状態を判定する点。

一方、「構成要件カ」と「構成か」とを対比した場合、下記2点の事項が検討すべき点として上げられる。

・検討すべき点1:「構成要件カ」は出力信号電圧と設定電圧との大小比較の結果に基づいて「マイクロ波の透過と遮断」のいずれかを判定するのに対し、「構成か」は出力信号電圧と設定電圧との大小比較の結果に基づいて「マイクロ波の減衰量」を判定する点。
・検討すべき点2:「構成要件カ」は、判定結果により「出力ドライブ回路の起動」を制御するのに対し、「構成か」は、判定結果により「蒸機、冷却機、乾燥処理機の他、葉打機、粗揉機、精揉機、乾燥機等を含むバッチ機械を包含する各種の処理手段の加熱制御等」行う点。

これらの検討すべき点について以下検討する。

上記検討すべき点1については、「マイクロ波の遮断」とは、「被検出物体のレベル」の増加(あるいは減少)に伴って、マイクロ波の減衰量が極限まで小さい値となった結果、「遮断」されたものである。それゆえ、「構成要件カ」における「マイクロ波の遮断」の判定とは、概念上、「構成か」における「マイクロ波の減衰量」の判定に包含される。

上記検討すべき点2については、「構成か」の「蒸機、冷却機、乾燥処理機の他、葉打機、粗揉機、精揉機、乾燥機等を含むバッチ機械を包含する処理手段」には、リレーなどの出力制御回路により、モータ等の動力発生機関を駆動させて各種構成物品の機械的な動作を行わせるものや、LED等の表示手段を点灯させるものが含まれ、それらの動力発生機関の駆動制御やオンオフ制御、あるいはLED等の表示手段の点灯制御等を行うドライブ回路を、マイクロ波の透過量の検知結果に基づいて行わせるものが含まれることは明らかである。つまり、「構成か」の「蒸機、冷却機、乾燥処理機の他、葉打機、粗揉機、精揉機、乾燥機等を含むバッチ機械を包含する処理手段」には、「構成要件カ」の「出力ドライブ回路の起動を制御するスイッチ手段」が含まれることは明らかである。

以上により、甲1発明の「構成か」は、本件発明1の「構成要件カ」に相当する。

なお、本件特許の【従来技術】の記載(段落【0002】【0003】【図6】の記載等)においては、受波器で受波されて増幅されたマイクロ波をレベル判定回路83で所定値と比較し、その結果を出力ドライブ回路50に出力して表示装置等を駆動する構成が明記されている。従って、仮に「構成か」が「構成要件カ」に相当しないとしても、「構成要件カ」は本件特許に係る特許出願の出願時に公知技術であったものである。
特許庁審査基準において、本願の明細書中に本願出願前の従来技術として記載されている技術について、出願人がその明細書の中でその従来技術の公知性を認めている場合は、出願当時の技術水準を構成するものとして、これを引用発明とすることができる(第III部第2章第2節 進歩性 3.3(4))ことが明記されていることからみても、「構成要件カ」は、公知技術と同等のものとすべき事項であることは明らかである。

g 構成要件キに関する対比
本件発明2における「構成要件キ」と、甲第3号証に記載された甲3発明の「構成き」は、同一内容であることは明らかである。

従って、甲3発明の「構成き」は、本件発明2の「構成要件キ」に相当する。

また、甲1発明や甲2発明において処理対象となるマイクロ波も、甲3発明において処理対象となる微弱電流も、電磁ノイズの影響を受けやすく、特に、増幅する場合に電磁ノイズの影響を受けると適正な増幅に支障を来たすことは従来から知られている。そして、マイクロ波や微弱電流を増幅する際に、増幅器を、比透磁率の高いシールドケースに収容すれば、外部から回路に侵入した電磁ノイズの悪影響を抑止できることも従来から知られている。そして、演算増幅器を含む甲1発明に甲2発明を組み合わせたものにおいて、演算増幅器に外部から回路に侵入した電磁ノイズの悪影響を抑止するという課題を解決するために、甲3発明のシールドケースを適用して課題を解決することは、甲1発明や甲2発明の技術の分野における通常の知識を有する者にとっては容易である。
以上により、甲1発明及び甲2発明に甲3発明の「構成き」を組み合わせることは甲1発明の技術の分野における通常の知識を有する者にとって容易である。

h 構成要件クに関する対比
本件発明3における構成要件クと、甲第4号証に記載された甲4発明の「構成く」が同一内容であることは明らかである。

従って、甲4発明の「構成く」は、本件発明3の「構成要件ク」に相当する。

また、甲1発明や甲2発明において処理対象となるマイクロ波も、甲3発明において処理対象となる微弱電流も、電磁ノイズの影響を受けやすく、特に、増幅する場合に電磁ノイズの影響を受けると適正な増幅に支障を来たすことは従来から知られている。そして、マイクロ波や微弱電流を増幅する際に、回路の増幅器の前後にノイズ侵入防止用のフィルタを設ければ、外部から回路に侵入する電磁ノイズの悪影響を抑止できることも従来から知られている。そして、演算増幅器60を含む甲1発明に甲2発明を組み合わせたものにおいて、演算増幅器60に外部から回路に侵入する電磁ノイズの悪影響を抑止するという課題を解決するために、甲4発明の第1ノイズフィルタ15、第2ノイズフィルタ13を適用して課題を解決することは、甲1発明や甲2発明の技術の分野における通常の知識を有する者にとっては容易である。

以上により、甲1発明及び甲2発明に甲4発明の「構成く」を組み合わせることは甲1発明及び甲2発明の技術の分野における通常の知識を有する者にとって容易である。

ウ 小括
甲1発明と本件発明1とは、構成要件ア乃至エ、構成要件オのうちドプラーモジュールが出力する信号を増幅する点、及び構成要件カにおいて一致する一方、「構成要件オ」は信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備えるものであるのに対し、「構成お」は増幅の態様が明示されていない点で相違するが、甲1発明について、甲2発明を組み合わせて本件発明1の構成を取ることは甲1発明の技術の分野における通常の知識を有する者にとって容易であった。
よって、本件発明1は甲1発明及び甲2発明に基づいてその発明の技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明2は甲1発明及び甲2発明及び甲3発明に基づいてその発明の技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明3は甲1発明及び甲2発明及び甲4発明に基づいてその発明の技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本件発明1乃至本件発明3は、特許法第29条第2項により特許を受けることができないため、同法第123条第2項に該当し、無効とすべきものである。


第5 被請求人の反論
被請求人は、本件訂正を請求するとともに、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その請求には理由がないことについて、答弁書、口頭審理陳述要領書、第1回口頭審理調書及び上申書の記載内容を総合すれば、概略、以下のとおり反論している。

1 本件訂正について
請求人は、請求項1の訂正について、
「本件訂正の訂正請求書において、特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落【0009】について、「該発振回路の発信周波数と」という文言を追記する訂正の請求が行われ、被請求人は「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである旨を述べている。しかしながら、本件訂正前の請求項1の記載が明瞭でないと言うことはできないから、訂正の請求を認める意義も必要性も存在しない。」(上記「第4 請求人の主張」「1」)
と主張する。
しかしながら、請求人は審判請求書13頁10行?下6行において、請求項1について「本件発明1は、・・・特許を受けようとする発明が明確ではない。よって、本件発明1は、特許法第36条第6項第2号に違反するものである。」と主張しており、訂正後の本件発明1と同内容の解釈が許されないことを理由に訂正前の本件発明1が明確でないと述べているのであるから、「明瞭ではない記載の釈明には当たらない」との主張はこれと矛盾するものである。
また、請求人は、
「本件訂正前の請求項1の構成は「発振回路を有し、アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュール」であって、訂正後の「発振回路の発信周波数とアンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュール」とは「ドプラーモジュール」が出力する信号の性質が全く異なり、このような訂正の請求は、事実上特許請求の範囲を拡張・変更するものである」(上記「第4 請求人の主張」「1」)
と主張する。
しかし、被請求人による訂正は、構成要件エの「周波数差」の意義を、「該発振回路の発振周波数」と「アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数」との周波数差であることを明確にしたものにすぎず、訂正前の明細書の【0012】【0016】【0017】等にも記載されていたのであるから、特許請求の範囲を「拡張」するものでも「変更」するものでもない。

2 無効理由について
(1)無効理由1-1(特許法第36条第6項第1号及び同第2号違反)について
請求人の本件発明1の解釈は請求項の文言に沿っておらず、特に「周波数差」の要件を無視している。構成要件に「周波数差」となる周波数信号を出力すると明記されているのに、請求人のように、ドプラーモジュールから出力されるのは、送波器から発振された信号の周波数とドプラーモジュールの発振回路が発振した信号の周波数との「周波数差にあたる周波数信号ではない」と読むことは、無理がある。
また、請求人の見解は、本件発明の本来の技術課題とは異なる独自の課題を設定し、あたかも本件発明の課題解決にフィルタが必須であるかのように誤導させているにすぎない。本件発明における必須の構成要件とは、受信マイクロ波との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュールと、このドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備えるログアンプモジュールを備えることだということになる。なお、本件発明の明細書の発明の詳細な説明においては、フィルタ回路が記載されているが、その目的は「不必要な周波数帯域の成分のカット」や「外部からのノイズの侵入の防止」である(【0012】、【0013】)。これらの機能は、本件発明で本来的に解決しようとする課題とは別であって、請求項において規定すべき必須の構成要件ではない。

(2)無効理由1-2(特許法第36条第4項第1号違反)について
本件特許明細書に記載の通り、「フィルタ回路」は「不必要な周波数帯域の成分がカットされるためのもの」であり、「外部からのノイズの侵入を防ぐ」ものでもある。また当業者であれば、フィルタ回路がこのような機能を有することを当然に理解できる。各々のフィルタ回路は、複数のフィルタ回路、すなわち「不必要な周波数帯域の成分がカットされる」ためのフィルタと「外部からのノイズの侵入を防ぐ」フィルタを備える態様も含み得る。加えて、このような帯域遮断やノイズ除去という、フィルタとしていずれも典型的な機能を奏する回路例は、当業者の技術常識であって、具体的な記載が必要とされるものではない。
したがって、本件特許明細書の開示に基づいて、当業者は本件発明を実施することが可能であるから、請求人主張は失当である。

(3)無効理由2-1ないし2-3(甲1?甲4発明に基づく進歩性欠如)について
甲1号証に記載される発明は、「マイクロ波送波器とマイクロ波受波器とを対向配置」しておらず、「被検出物体のレベルを検知する装置」でもない。どのように解釈しても、本件発明1のマイクロ波レベルスイッチが、マイクロ波の「遮断と透過」の離散的な二つの状態で水位の高低を検知することを、甲1水分計でマイクロ波の「減衰量」から水分量を測定することと同視することはできない。

したがって、請求人の主張する無効理由は、いずれも当たらない。


第6 訂正の適否についての当審の判断
まず、本件訂正の適否について検討する。
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、特許明細書等からの訂正部分を示す。)
(1)訂正事項1
訂正事項1は、特許請求の範囲を、次のとおりに訂正するものである。
(本件訂正前)
「【請求項1】
マイクロ波送波器とマイクロ波受波器とを対向配置し、マイクロ波送波器からマイクロ波受波器へのマイクロ波の遮断もしくは透過により被検出物体のレベルを検知するマイクロ波レベルスイッチにおいて、
前記マイクロ波送波器が、マイクロ波発振器からの発振信号をアンテナからマイクロ波として前記マイクロ波受波器に向けて発射するとともに、
前記マイクロ波受波器が、マイクロ波送波器からのマイクロ波を受信するアンテナと、
発振回路を有し、アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュールと、
ドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備えるログアンプモジュールと、
ログアンプモジュールの出力信号電圧と設定電圧との大小を比較し、比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定し、判定結果により出力ドライブ回路の起動を制御するスイッチ手段とを備えることを特徴とするマイクロ波レベルスイッチ。
【請求項2】
前記ログアンプモジュールが、シールドケース内に収納されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波レベルスイッチ。
【請求項3】
前記ログアンプモジュールと外部回路とを接続する配線の途中に、ノイズ侵入防止用のフィルタ回路が接続されていることを特徴とする請求項1または2記載のマイクロ波レベルスイッチ。」

(本件訂正後)
「【請求項1】
マイクロ波送波器とマイクロ波受波器とを対向配置し、マイクロ波送波器からマイクロ波受波器へのマイクロ波の遮断もしくは透過により被検出物体のレベルを検知するマイクロ波レベルスイッチにおいて、
前記マイクロ波送波器が、マイクロ波発振器からの発振信号をアンテナからマイクロ波として前記マイクロ波受波器に向けて発射するとともに、
前記マイクロ波受波器が、マイクロ波送波器からのマイクロ波を受信するアンテナと、
発振回路を有し、該発振回路の発振周波数とアンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュールと、
ドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備えるログアンプモジュールと、
ログアンプモジュールの出力信号電圧と設定電圧との大小を比較し、比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定し、判定結果により出力ドライブ回路の起動を制御するスイッチ手段とを備えることを特徴とするマイクロ波レベルスイッチ。
【請求項2】
前記ログアンプモジュールが、シールドケース内に収納されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波レベルスイッチ。
【請求項3】
前記ログアンプモジュールと外部回路とを接続する配線の途中に、ノイズ侵入防止用のフィルタ回路が接続されていることを特徴とする請求項1または2記載のマイクロ波レベルスイッチ。」

(2)訂正事項2
訂正事項2は、明細書の段落【0009】を、次のとおりに訂正するものである。
(本件訂正前)
「発振回路を有し、アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュールと、」

(本件訂正後)
「発振回路を有し、該発振回路の発振周波数とアンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュールと、」

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正の適否について、以下、検討する。

(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、請求項1においてドプラーモジュールの出力に関し、「該発振回路の発振周波数と」なる記載を付加する訂正であって、訂正前の「アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力する」なる記載が、何と「アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数」との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力する構成であるのかが文言上明示されておらず不明瞭であったものを、「該発振回路の発振周波数」と「アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数」との間であることが明らかとなる記載に訂正するものであるから、この訂正は明瞭でない記載の釈明を目的としたものといえる。
そして、この訂正は、特許明細書等の発明の詳細な説明における、
「ドプラーモジュール22は、自身に内蔵されている発振回路からの発振出力信号と、送波器10から発射され受波器アンテナ21で受信した受信マイクロ波とを、同じくドプラーモジュール22に内蔵されているミキシング回路によりミキシングし、発振出力信号の周波数と受信マイクロ波の周波数との差の周波数を有する信号(以下、「中間周波信号」という)を出力するように機能する。」(【0012】)、
「次に動作を説明する。先ず、送波器10の送波器アンテナ12からマイクロ波が出力される。ここで、送波器10のマイクロ波発振器11の発振周波数は、受波器20のドプラーモジュール22内の発振回路の発振周波数と所定の周波数差になるように、予め設定されている。」(【0016】)、
「そして、受波器20は、送波器10からのマイクロ波を受波器アンテナ21を介して受信する。ドプラーモジュール22は、受信マイクロ波をドプラーモジュール22内の発振回路とミキシング回路とによりヘテロダイン検波し、ミキシング回路の出力により中間周波数信号を得る。」(【0017】)
等の記載を根拠とするものである。特許明細書等には上記のように、「発振回路からの発振出力信号」と「受波器アンテナ21で受信した受信マイクロ波」との「周波数との差の周波数を有する信号」を出力する「ドプラーモジュール」の構成が記載されており、また「ドプラーモジュール」として、それ以外の信号を出力する構成は記載も示唆もされていないのであるから、特許明細書等の記載を参酌すれば、訂正前の本件発明1-3における「ドプラーモジュール」が、「該発振回路の発振周波数」と「アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数」との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力する構成であったことは一意に特定することができたものであるといえる。
したがって、本件訂正は特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができ、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
上記「第3 請求人の主張」の「1 本件訂正を認めるべきでないとする理由」に記載したように、本件審判の請求人は、この訂正に関して、
a 本件訂正前の請求項1の記載が明瞭でないと言うことはできないから、訂正の請求を認める意義も必要性も存在しない。
b 本件訂正前の請求項1の構成は「発振回路を有し、アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュール」であって、訂正後のものとは「ドプラーモジュール」が出力する信号の性質が全く異なり、事実上特許請求の範囲を拡張・変更するものである。
と主張しているが、上述のように、訂正前の本件請求項1の記載は、何と何との間で所定の周波数差となるのかが文言上明示されておらず不明瞭であったものであるし、また、訂正前の本件請求項1の「発振回路を有し、アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュール」なる記載が「該発振回路の発振周波数」との間で所定の周波数差となるものを指すことは、当業者が特許明細書等の記載を参酌すれば一意に定まることであって、訂正の前後で「ドプラーモジュール」が出力する信号の性質は何ら変更されていない。したがって、上記請求人の主張は採用することができない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲の訂正に伴い、これに対応する発明の詳細な説明の記載を整合させて訂正するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであるといえ、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも訂正事項1についてした判断と同様である。

3 まとめ
以上のとおり、訂正事項1ないし2は、いずれも特許法第134条の2第1項ただし書の規定に適合し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを認める。


第7 無効理由についての当審の判断
1 本件発明
上記「第6 訂正の適否についての当審の判断」に示したとおり本件訂正は認められるから、本件発明1-3は、訂正明細書等の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定された下記のとおりのものである。
「【請求項1】
マイクロ波送波器とマイクロ波受波器とを対向配置し、マイクロ波送波器からマイクロ波受波器へのマイクロ波の遮断もしくは透過により被検出物体のレベルを検知するマイクロ波レベルスイッチにおいて、
前記マイクロ波送波器が、マイクロ波発振器からの発振信号をアンテナからマイクロ波として前記マイクロ波受波器に向けて発射するとともに、
前記マイクロ波受波器が、マイクロ波送波器からのマイクロ波を受信するアンテナと、
発振回路を有し、該発振回路の発振周波数とアンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュールと、
ドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備えるログアンプモジュールと、
ログアンプモジュールの出力信号電圧と設定電圧との大小を比較し、比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定し、判定結果により出力ドライブ回路の起動を制御するスイッチ手段とを備えることを特徴とするマイクロ波レベルスイッチ。
【請求項2】
前記ログアンプモジュールが、シールドケース内に収納されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波レベルスイッチ。
【請求項3】
前記ログアンプモジュールと外部回路とを接続する配線の途中に、ノイズ侵入防止用のフィルタ回路が接続されていることを特徴とする請求項1または2記載のマイクロ波レベルスイッチ。」

2 無効理由1-1(特許法第36条第6項第1号及び同第2号違反)について
(1)判断
ア 本件明細書等の発明の詳細な説明には、
「ドプラーモジュール22は、自身に内蔵されている発振回路からの発振出力信号と、送波器10から発射され受波器アンテナ21で受信した受信マイクロ波とを、同じくドプラーモジュール22に内蔵されているミキシング回路によりミキシングし、発振出力信号の周波数と受信マイクロ波の周波数との差の周波数を有する信号(以下、「中間周波信号」という)を出力するように機能する。」(【0012】)
と記載されており、これ以外の信号を出力するドプラーモジュールの実施例は記載も示唆もされていない。したがって、上記発明の詳細な説明の記載を参酌すれば、本件訂正後の請求項1における、
「発振回路を有し、該発振回路の発振周波数とアンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュール」
なる記載が指す構成が、「発振回路からの発振出力信号」と「受信マイクロ波」の信号とから、両者の差の周波数を有する中間周波信号を出力する「ドプラーモジュール」を指すものであると一意に特定することができるといえる。
上記請求項1の記載、特に「・・・との間で所定の周波数差となる周波数の信号」の箇所は、それのみを見れば文言上複数の解釈が可能であるともとれるが、そもそも特許法36条6項2号の趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確で無い場合に、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となることにより生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。したがって、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、明細書等の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
してみると、上記のように、本件訂正後の請求項1における、
「発振回路を有し、該発振回路の発振周波数とアンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュール」
なる記載は、明細書等の記載、及び技術的常識を考慮すると上記のように一意に解され、またそのように解した場合、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
したがって、本件発明1-3は、特許法第36条第6項第2号に違反して特許されたものとはいえない。

イ そしてその場合、本件発明1-3は発明の詳細な説明に記載されたとおりのものにほかならず、またその構成により、使用できる距離範囲を大きくすると、判定すべき受信電力範囲が広がり、可変ゲインアンプのゲイン調整を広い範囲で行うことが必要になるという課題を解決できるものである。
したがって、本件発明1-3は、特許法第36条第6項第1号に違反して特許されたものとはいえない。

(2)請求人の主張について
ア 請求人は無効理由1-1の主張において、請求項1の記載を素直に読めば、本件発明1において、ドプラーモジュールから出力されてログアンプモジュールに供給されるのは、送波器からの周波数と所定の周波数差となる周波数の信号、すなわちドプラーモジュールの発振回路で発振された信号自体であって、本件明細書等に記載の構成とは相違し、またそのような構成であるとすれば、「どのようにして「マイクロ波送波器からマイクロ波受波器へのマイクロ波の遮断もしくは透過により被検出物体のレベルを検知する」ことを実現するのかが明らかではない。」と述べている。
しかしながら、当業者が、本件明細書等の記載を参酌して本件請求項1-3の記載を読んだ場合に、それが指す構成としては、送波器からの周波数信号と何かの信号との差の周波数をもつ信号を利用するものと読むのが自然であって、ドプラーモジュールの発振回路で発振された信号自体を利用すると解釈されるという上記主張を採用することはできない。

さらに、請求人が無効理由1-1に関し主張しているように、本件請求項1の「ドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備えるログアンプモジュール」が「信号を対数圧縮し増幅する」「対数増幅器を備える」ものであって、入力された信号の対数に比例する信号を出力するものであり、したがって、入力された信号の信号値が小さい部分は大きな増幅率で増幅し、入力された信号の信号値が大きい部分は小さい増幅率で増幅するものであるとしても、入力信号の対数に比例する信号を出力するものである以上、ログアンプモジュールの入力の大小関係が、出力の大小関係においても保存されていることは、技術的常識からみて明らかといえる。一方、当該ログアンプモジュールが必ず「入力された信号よりも大小差の小さい信号を出力するもの」であったり、「入力された信号の周波数の高低や、その高低に依存する入力信号の大小に関わらず、近い大きさの出力信号として」出力されるものであったり、その出力信号が「常に同様の大きさの電圧となってしまう」ものであるといった解釈は一般的なものであるとはいえないし、本件請求項1のログアンプモジュールが、そのような特殊な構成を有するものであるとする根拠も何ら認められない。
したがって、本件請求項1のログアンプモジュールを有することにより、「比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定」することや、そのような判定の「判定結果により出力ドライブ回路の起動を制御する」することは困難であるとする主張や、該判定のために特定帯域の信号を透過させるフィルタをさらに配設することが必要であるとする主張は、いずれも根拠の無いものであって、これを採用することはできない。
なお、請求人は弁駁書及び上申書において甲5及び甲12として実験結果を示し、フィルタの効果について説明して本件発明1-3においてフィルタの構成が必須である旨の主張を行っている。しかしながら、一般にノイズレベルが低い場合にはノイズ除去フィルタが不要であることは明らかであるし、また上記甲5及び甲12の実験に用いられている請求人製品と、本件発明1-3との関係(請求人製品が本件発明1-3の構成要件を全て備えるものであるか否か)も不明であり、請求人の上記主張を採用することはできない。

イ また、請求人は、「本件発明1においては、送波器から送信された信号が、受波器20の、ドップラーモジュール22よりも後段の構成にて用いられていない。そのため、「スイッチ手段」において、「ログアンプモジュールの出力信号電圧と設定電圧との大小を比較」することも、「比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定」することもできない。」、また仮に送波器から送信された信号が、受波器20の、ドップラーモジュール22よりも後段の構成にて用いられていると認定されるとしても、フィルタが設けられていないので、「ログアンプモジュールから出力された信号の出力信号電圧と設定電圧との大小を比較したところで、設定電圧に対し、出力信号電圧が大きくなったり小さくなったりという変化が起こりにくい」、と主張している。
しかし、既に述べたように、送波器から送信された信号は、ドップラーモジュール22よりも後段の構成にて用いられている。また上記のように、フィルタが必須の構成要件であるともいえない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

3 無効理由1-2(特許法第36条第4項第1号違反)について
(1)判断
本件明細書の下記の記載、
「【0012】
・・・(省略)・・・この中間周波信号はログアンプモジュール30の後述されるフィルタ回路に与えられ、不必要な周波数帯域の成分がカットされる。
【0013】
ログアンプモジュール30は、図2に示すように、外部からのノイズの侵入を防ぐフィルタ回路31、33、34と、ログアンプ回路32とにより構成されている。ログアンプモジュール30の出力信号線や電源供給線は、外来電波のアンテナとなりうる。そのため、フィルタ回路33およびフィルタ回路34により出力信号線や電源供給線からの高周波電圧の流入を阻止する。更に、このログアンプモジュール30は、モジュール全体が金属ケース等のシールドケースに収納され、電磁的および静電的にシールドされている。」
を図2の構成をふまえて解釈すれば、中間周波信号が与えられるフィルタ回路31が「不必要な周波数帯域の成分」をカットする構成であると共に「外部からのノイズの侵入を防ぐ」構成であり、フィルタ回路33、34は「外部からのノイズの侵入を防ぐ」構成であることは明らかといえる。

(2)請求人の主張について
請求人は審判請求書の無効理由3に関する主張において、
「本件発明1の技術分野において、1のフィルタが「不必要な周波数帯域の成分がカットされる」ためのものであると共に「外部からのノイズの侵入を防ぐ」ためのものとして構成することは技術的に困難である。」
と主張する。
しかし、「不必要な周波数帯域の成分がカットされる」フィルタ回路は、当然に該不必要な周波数帯域のノイズもカットすることが明らか(これは本件明細書等において言及されているかに関係無い、技術的常識の範疇の事項である。)であるから、上記主張は認められない。

4 無効理由2-1ないし2-3(甲1?甲4発明に基づく進歩性欠如)について
最後に、本件発明の進歩性について、以下検討する。

(1)甲1発明
甲第1号証には、「製茶処理装置」(発明の名称)に関し、次の事項が図面とともに記載されている。(下線は当審による。)

「【請求項1】 搬送される茶葉の一部を採取する採取手段と、
この採取手段で採取された前記茶葉を収容する収容手段と、
この収容手段内で前記茶葉を臨ませたマイクロストリップ線路に高周波を伝送させ、前記マイクロストリップ線路を伝送する高周波の前記茶葉による減衰量から前記茶葉の水分率を測定する水分率測定手段と、
を備えたことを特徴とする製茶処理装置。」

「【0022】このマイクロストリップ線路4には、その入力端6側に高周波発生手段としてマイクロ波発生源8、その出力端10側に検出手段であるレベル検出部12が設置されている。マイクロ波発生源8には、一定の波長及びレベルを持つマイクロ波として例えば、3GHz程度の周波数の連続波を発生させる。この実施形態では、測定媒体の一例としてマイクロ波を使用するため、マイクロ波発生源8を設置しているが、測定媒体としては短波、超短波等の高周波でもよい。
【0023】マイクロストリップ線路4を通過したマイクロ波は、マイクロストリップ線路4の出力端10側からレベル検出部12に加えられ、レベル検出部12はそのマイクロ波のレベルを検出する。即ち、レベル検出部12には、茶葉2の吸収により減衰したレベルのマイクロ波が検出され、水分に応じた減衰量を表すレベルの出力Dが取り出される。」

「【0026】次に、図3は、マイクロ波発生源8、レベル検出部12等の具体的な実施形態を示している。マイクロ波発生源8には、高周波としてのマイクロ波を発振する発振器19が設けられており、この発振器19は例えば電圧制御発振器で構成される。この発振器19には、チューニング電源21及びVCC電源23が接続されており、このチューニング電源21によって発振周波数が調整される。VCC電源23は、発振器19の駆動用である。
【0027】また、レベル検出部12には、発振器19からの周波数f1 のマイクロ波がマイクロストリップ線路4を通じて伝送され、このマイクロ波を受信するため、周波数混合手段としてのミキサ26が設置されている。このミキサ26には、発振器27が接続されており、この発振器27が発振した周波数f2 のマイクロ波が加えられる。発振器27には、チューニング電源29及びVCC電源23が接続されており、このチューニング電源29によって発振周波数が調整される。VCC電源23は発振器27の駆動用である。
【0028】ミキサ26では、受信された周波数f1 を高周波入力RF、発振器27からの周波数f2 を局部発振周波数LFとして両者が混合されてヘテロダイン検波が行われ、周波数ミキシングの結果、中間周波数IF(f1 -f2 )に変換される。この中間周波数IF(f1 -f2 )は交流波形出力であって検波器31に加えられ、減衰量を表す検波出力が得られる。この検波出力は、検波器31の態様によって異なり、マイクロ波の減衰量を表すレベルを持つ直流又は交流信号で与えられる。
【0029】そして、このレベル検出部12の検出出力は、レベル補正部50に加えられている。このレベル補正部50は、茶葉2が存在していない場合の出力を基準レベル、即ち、零点に設定するとともに、周囲温度によるレベル変化を抑制する手段であって、アナログ・ディジタル変換器(A/D)52、ディジタル・アナログ変換器(D/A)54、電源56、スイッチ58、演算増幅器60及び抵抗62、64等によって構成され、A/D52、D/A54、電源56及びスイッチ58で零点補正を行う。
【0030】レベル検出部12からのアナログ信号である検出出力は、抵抗62を通して演算増幅器60の反転入力端子(-)に加えられ、演算増幅器60の非反転入力端子(+)は抵抗64を通して基準電位点、即ち、接地点に接続されている。したがって、レベル検出部12からのアナログ信号である検出出力は、演算増幅器60を通してアナログ出力である出力Dとして取り出され、温度補正が行われる。」

「【0032】次に、図4は、マイクロストリップ線路等を含む基板を示し、図5は図4のV-V線断面を示している。絶縁基板28の表面には、マイクロ波を伝送させるU字形を成すストリップ導体30が設置され、このストリップ導体30の内側にスロット32を介在させて接地導体34が設けられ、ストリップ導体30の外側にスロット36を介在させて接地導体38が設けられている。ストリップ導体30の切欠き31は、マイクロ波の伝搬に不都合を生じさせないためのものである。絶縁基板28の背面側には、接地導体40が設けられている。ストリップ導体30と接地導体38は、導体42、44を以て電気的に短絡されており、図示しないが、ストリップ導体30と背面側の接地導体40は同様に短絡されている。また、ストリップ導体30、接地導体34、38及びスロット32、36の表面は、絶縁物としての絶縁層46で被覆されている。
【0033】そして、絶縁基板28の表面には、マイクロストリップ線路4の入力端6側にマイクロ波発生源8、出力端10側にレベル検出部12が設置され、これらマイクロ波発生源8及びレベル検出部12は、絶縁基板28を配線基板としてハイブリッドICを構成している。
【0034】次に、茶葉2の水分率の測定方法を説明すると、マイクロストリップ線路4の表面を清浄に保ち、初期設定を行う。茶葉2を設置していないマイクロストリップ線路4の入力端6に対し、マイクロ波発生源8から一定レベル、一定周波数のマイクロ波を入力する。このマイクロ波は、マイクロストリップ線路4を伝送し、その出力端10からレベル検出部12に検出される。この出力レベルをV1 とする。即ち、この出力レベルV1 はマイクロストリップ線路4の入力レベルからマイクロ波の通過による損失分を除いたレベルであり、茶葉2が無い場合の出力であるから、基準値、即ち、零点レベルである。
【0035】次に、マイクロストリップ線路4に茶葉2として、例えば所定量の茶葉を臨ませる。即ち、この茶葉は、マイクロストリップ線路4のストリップ導体30を覆う誘電体として機能する。マイクロストリップ線路4の入力端6に対し、同1条件であるマイクロ波発生源8から同一のマイクロ波(同一レベル及び周波数)を入力し、このとき、レベル検出部12に検出された出力レベルをV2 とする。この出力レベルV2 は、茶葉2の水分による減衰のため、V1 >V2 の関係がある。
【0036】そこで、これら同1条件におけるレベル検出部12側の出力レベルV1 、V2から、減衰分ΔVは、V1 -V2 となり、減衰レベルの比率ηは、
η=(V1 -V2 )/V1 =ΔV/V1 ・・・(1)
となる。式(1)を対数により表示すると、
η´=20log (V1 -V2 )/V1 =20log (ΔV/V1 )
=20(log ΔV-log V1 ) ・・・(2)
となる。
【0037】また、茶葉2におけるマイクロ波吸収による減衰比率を出力レベルV1 、V2から、
η=20log (V1 /V2 )=20(log V1 -log V2 )
・・・(3)
としてもよい。
【0038】そして、茶葉2における吸収によるマイクロ波の減衰は、比誘電率ε、即ち、茶葉2の水分率と相関関係があり、予め、水分量を測定した基準値から算出することができる。」

「【0042】したがって、レベル検出部12の出力レベルが茶葉2の有無により変化することから、式(1)から減衰量を求め、式(2)の変換式を以て水分率を高精度に算出することができる。算出された水分率は、出力ユニット24を通じて外部に出力されるとともに、表示器17に加えられて表示される」

「【0055】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、次の効果が得られる。
a.マイクロストリップ線路に茶葉を臨ませて水分率を測定するので、水分率を測定すべき茶葉の採取量の少量化を図ることができるとともに、水分率の測定精度を高めることができ、製品の品質向上に寄与することができる。
b.マイクロストリップ線路上に所定の厚さだけ茶葉を確保すればその水分率を測定できるので、採取した茶葉の重量測定が不要となり、装置の簡略化を図ることができる。
c.水分率測定手段で測定された測定値を処理手段、即ち、蒸機、冷却機、乾燥処理機の他、葉打機、粗揉機、精揉機、乾燥機等を含むバッチ機械を包含する処理手段の加熱制御等の工程処理制御に用いることで、製茶処理の精度を高め、生産能率及び生産品の品質向上に寄与することができる。
d.収容手段内のマイクロストリップ線路の洗浄が容易化でき、常に測定面を清浄化できるので、雨茶の測定や蒸葉等、茶葉の水分の測定が可能となる。
e.蒸し処理した茶葉、蒸葉等、茶葉の水分量を測定できるので、葉打工程への投入水分を正確に把握することができる。
f.製茶処理装置の簡略化に寄与し、装置コストの低減を図ることができる。」


上記の記載から、甲第1号証には次の発明が記載されていると認める。

「マイクロ波を伝送させるU字形を成すストリップ導体30が設置された(【0032】)マイクロストリップ線路4の入力端6側にマイクロ波発生源8、出力端10側にレベル検出部12を設置し(【0033】)、茶葉を臨ませたマイクロストリップ線路に高周波を伝送させ、前記マイクロストリップ線路を伝送する高周波の前記茶葉による減衰量から前記茶葉の水分率を測定する水分率測定手段を備えたことを特徴とする製茶処理装置であって(【請求項1】)、
マイクロ波発生源8には、高周波としてのマイクロ波を発振する発振器19が設けられており(【0026】)、レベル検出部12には、発振器19からの周波数f1 のマイクロ波がマイクロストリップ線路4を通じて伝送され(【0027】)、
レベル検出部12には、周波数混合手段としてのミキサ26が設置され、ミキサ26には、発振器27が接続され(【0027】)、ミキサ26では、受信された周波数f1 を高周波入力RF、発振器27からの周波数f2 を局部発振周波数LFとして両者が混合されてヘテロダイン検波が行われ、中間周波数IF(f1 -f2 )に変換され、検波器31に加えられ、減衰量を表す検波出力が得られ、この検波出力は、検波器31の態様によって異なり、マイクロ波の減衰量を表すレベルを持つ直流又は交流信号で与えられ(【0028】)、
レベル検出部12の検出出力は、レベル補正部50に加えられ、このレベル補正部50は、茶葉2が存在していない場合の出力を基準レベル、即ち、零点に設定するとともに、周囲温度によるレベル変化を抑制する手段であって、アナログ・ディジタル変換器(A/D)52、ディジタル・アナログ変換器(D/A)54、電源56、スイッチ58、演算増幅器60及び抵抗62、64等によって構成され、A/D52、D/A54、電源56及びスイッチ58で零点補正を行い(【0029】)、
レベル検出部12の出力レベルV1 は、茶葉2が無い場合の出力である零点レベルであり、出力レベルV2 は、茶葉2の水分による減衰のため、V1 >V2 の関係があり、減衰分ΔVは、V1 -V2 となり(【0034】?【0036】)、減衰量から水分率を高精度に算出して(【0042】)、これを蒸機、冷却機、乾燥処理機の他、葉打機、粗揉機、精揉機、乾燥機等を含むバッチ機械を包含する処理手段の加熱制御等の工程処理制御に用いることで、製茶処理の精度を高め、生産能率及び生産品の品質向上に寄与することができる(【0055】)製茶処理装置。」(以下、「甲1発明」という。)

なお、請求人は無効理由4に関する主張の「(ア)甲1発明」)において、甲1の段落【0003】及び図12の記載を含めて甲1発明の構成を特定しているが、当該記載は、甲1のその他の箇所に記載された発明とは全体構成も水分率の測定原理も異なる、従来技術に関するものであって、これらの記載を一つの甲1発明に関するものとして認定できないことは明らかといえる。
また、「対向配置」とは向き合って配置された構成を指す文言であって、信号の伝送が可能であるか否かによらないものであるから、甲1の図4のように、マイクロ波発生源とレベル検出器とが信号の送受面を同一方向に向けてU字形導体で結合されたような構成を「対向配置」と認める余地は無いものといえる。さらに、上記のように導体で結合されて信号を伝送するように構成されたマイクロ波発生源とレベル検出器とが、空間に対して電波を送ったり受けたりするものと定義される「アンテナ」を備えていないことも明らかである。

次に、請求人は上記主張において、「構成あ」として、甲1発明が「マイクロ波の透過量により被検出物体のレベルを検知する」ものである旨を述べているが、甲1に記載されているものは「受信アンテナ112に受信されたマイクロ波の減衰量が測定され」て「その減衰レベルと茶葉の重量とから茶葉の水分率が測定される。」構成であって、この「減衰レベル」が「被検出物体のレベル」でも、装置の検出対象でもないことは明らかであるから、上記主張を採用することはできない。
さらに、請求人は上記主張において、「構成お」として、甲1発明が「ミキサから出力されて検波器を経た、対数によって示される値で増減する信号を増幅する演算増幅器」を備える旨を述べているが、甲1には、「レベル補正部50」を構成する要素として演算増幅器60が含まれた構成が記載されてはいるものの、段落【0030】に、
「レベル検出部12からのアナログ信号である検出出力は、抵抗62を通して演算増幅器60の反転入力端子(-)に加えられ、演算増幅器60の非反転入力端子(+)は抵抗64を通して基準電位点、即ち、接地点に接続されている。したがって、レベル検出部12からのアナログ信号である検出出力は、演算増幅器60を通してアナログ出力である出力Dとして取り出され、温度補正が行われる。」
と記載されているように、演算増幅器60は、温度補正回路を構成する一要素として用いられているものであって、検波器31の出力を増幅する演算増幅器であるとはいえない。また、甲1発明の検波器31の出力は、「この検波出力は、検波器31の態様によって異なり、マイクロ波の減衰量を表すレベルを持つ直流又は交流信号で与えられる。」(【0028】)ものであるから、甲1の段落【0036】、【0037】において、マイクロ波吸収による減衰比率が対数表示を用いて説明されているからといって、検波器31の出力が「対数によって示される値で増減する信号」であると言うこともできない。

また、請求人は上記主張において、「構成か」として、甲1発明が「演算増幅器を含むレベル補正部の出力結果によって、ミキサの出力レベルV2と基準値であるマイクロ波の出力レベルV1との大小を比較し、比較結果に基づいて透過するマイクロ波の減衰量を判定するデータ処理部を備え、判定結果により、蒸機、冷却機、乾燥処理機の他、葉打機、粗揉機、精揉機、乾燥機等を含むバッチ機械を包含する各種の処理手段の加熱制御等の制御を行う」構成を備える旨を述べているが、甲1の段落【0034】、【0035】に
「【0034】次に、・・・。即ち、この出力レベルV1 は・・・、茶葉2が無い場合の出力であるから、基準値、即ち、零点レベルである。
【0035】次に、・・・このとき、レベル検出部12に検出された出力レベルをV2 とする。この出力レベルV2 は、茶葉2の水分による減衰のため、V1 >V2 の関係がある。」
と記載されているように、「ミキサの出力レベルV2と基準値であるマイクロ波の出力レベルV1との大小」は、V1 >V2 の関係があるものとされているのであるから、その大小を比較するような処理が甲1発明において行われるとは認めることができない。
この点に関し、請求人は更に
「たとえいずれか一方の値(ここではV1)が他方の値(ここではV2)よりも必ず大きいという形で大小関係が予め決まっていたとしても、そのような値を比較していれば、それは「大小を比較」していることに変わりはなく、そのような比較を行うことの意味がないことにはならない。」(弁駁書第22頁第7?10行)
との主張を行っているが、通常の日本語として、大小関係が明らかである2つの値を比較して減衰分を求めることと、大小関係が不明である2つの値の大小を比較して大小関係を定めることとは全く意味が異なるのであって、本件特許に関して、両者の意味に変わりが無いとする特殊な文言解釈が必要とされる具体的な理由も述べられてはおらず、請求人の主張を採用する余地は無い。

(2)対比
ア 本件発明1と甲1発明とを比較する。
(ア)甲1発明の「マイクロ波発生源8」、「レベル検出部12」は、本件発明の「マイクロ波送波器」、「マイクロ波受波器」に、それぞれ相当する。
一方、本件発明1の「レベルスイッチ」とは、本件明細書等における、
「 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、・・・マイクロ波レベルスイッチに関する。」
「 【0004】
・・・従って、例えば、送波器10と受波器20とを所蔵容器の所定の高さに対向配置することにより、被検出物体の所蔵量(レベル)を検知することができる。そして、その結果を出力ドライブ回路50に出力して表示装置等を駆動する。」
との記載を参酌すれば、
「被検出物体の所蔵量(レベル)を検知するスイッチ」
を指すものであるといえるから、甲1発明の「水分率測定手段を備えたことを特徴とする製茶処理装置」との間に、単に装置であること以上の共通点は存在しない。また、甲1発明の「茶葉を臨ませたマイクロストリップ線路に高周波を伝送させ、前記マイクロストリップ線路を伝送する高周波の前記茶葉による減衰量から前記茶葉の水分率を測定する」ことと、本件発明1の「マイクロ波の遮断もしくは透過により被検出物体のレベルを検知する」こととの間にも、マイクロ波の変化を利用すること以外の共通点は存在しない。そうすると、甲1発明の「マイクロ波を伝送させるU字形を成すストリップ導体30が設置されたマイクロストリップ線路4の入力端6側にマイクロ波発生源8、出力端10側にレベル検出部12を設置し、茶葉を臨ませたマイクロストリップ線路に高周波を伝送させ、前記マイクロストリップ線路を伝送する高周波の前記茶葉による減衰量から前記茶葉の水分率を測定する水分率測定手段を備えたことを特徴とする製茶処理装置」と、本件発明の「マイクロ波送波器とマイクロ波受波器とを対向配置し、マイクロ波送波器からマイクロ波受波器へのマイクロ波の遮断もしくは透過により被検出物体のレベルを検知するマイクロ波レベルスイッチ」とは、「マイクロ波送波器とマイクロ波受波器とを配置し、マイクロ波の変化を利用する装置」である点で共通する。

(イ)甲1発明は「マイクロ波発生源8には、高周波としてのマイクロ波を発振する発振器19が設けられており、レベル検出部12には、発振器19からの周波数f1 のマイクロ波がマイクロストリップ線路4を通じて伝送され、」る構成を備えており、この構成と本件発明の「前記マイクロ波送波器が、マイクロ波発振器からの発振信号をアンテナからマイクロ波として前記マイクロ波受波器に向けて発射するとともに、前記マイクロ波受波器が、マイクロ波送波器からのマイクロ波を受信するアンテナ」を備える構成とは、「前記マイクロ波送波器が、マイクロ波発振器からの発振信号をマイクロ波として前記マイクロ波受波器に向けて発射するとともに、前記マイクロ波受波器が、マイクロ波送波器からのマイクロ波を受信する構成」である点で共通するといえる。

(ウ)甲1発明の「レベル検出部12には、周波数混合手段としてのミキサ26が設置され、ミキサ26には、発振器27が接続され、ミキサ26では、受信された周波数f1 を高周波入力RF、発振器27からの周波数f2 を局部発振周波数LFとして両者が混合されてヘテロダイン検波が行われ、中間周波数IF(f1 -f2 )に変換され、検波器31に加えられ、減衰量を表す検波出力が得られ、この検波出力は、検波器31の態様によって異なり、マイクロ波の減衰量を表すレベルを持つ直流又は交流信号で与えられ、」る構成と、本件発明1の「発振回路を有し、該発振回路の発振周波数とアンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュール」とを対比すると、本件発明1の上記構成は、「1 無効理由1について」において述べたように、「発振回路を有し、該発振回路からの発振出力信号とアンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の信号とから、両者の差の周波数を有する中間周波信号を出力するドプラーモジュール」という構成であるといえる一方、甲1発明の上記構成は「中間周波数IF(f1 -f2 )」を出力するものではあるが、ドプラー効果を利用可能な回路をモジュール化した構成であることを示す記載は甲1には無い。そうすると、上記両構成は「発振回路を有し、該発振回路の発振周波数と受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力する構成」である点で、共通する。

(エ)甲1発明の「茶葉2が存在していない場合の出力を基準レベル、即ち、零点に設定するとともに、周囲温度によるレベル変化を抑制する手段であって、アナログ・ディジタル変換器(A/D)52、ディジタル・アナログ変換器(D/A)54、電源56、スイッチ58、演算増幅器60及び抵抗62、64等によって構成され、A/D52、D/A54、電源56及びスイッチ58で零点補正を行」う「レベル補正部50」と、本件発明の「ドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備えるログアンプモジュール」とは、「前記構成が出力する信号を処理する回路構成」である点で共通するといえる。

(オ)甲1発明の「レベル検出部12の出力レベルV1 は、茶葉2が無い場合の出力である零点レベルであり、出力レベルV2 は、茶葉2の水分による減衰のため、V1 >V2 の関係があり、減衰分ΔVは、V1 -V2 となり、減衰量から水分率を高精度に算出して、これを蒸機、冷却機、乾燥処理機の他、葉打機、粗揉機、精揉機、乾燥機等を含むバッチ機械を包含する処理手段の加熱制御等の工程処理制御に用いることで、製茶処理の精度を高め」る構成と、本件発明の「ログアンプモジュールの出力信号電圧と設定電圧との大小を比較し、比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定し、判定結果により出力ドライブ回路の起動を制御するスイッチ手段」とは、「前記回路構成の出力に基づいて制御を行う手段」である点で共通するといえる。
なお、請求人は無効理由4に関する主張の「 (カ)構成要件カに関する対比」において、「「蒸機、冷却機、乾燥処理機の他、葉打機、粗揉機、精揉機、乾燥機等を含むバッチ機械を包含する処理手段」には、リレーなどの出力制御回路により、モータ等の動力発生機関を駆動させて各種構成物品の機械的な動作を行わせるものや、LED等の表示手段を点灯させるものが含まれ、それらの動力発生機関の駆動制御やオンオフ制御、あるいはLED等の表示手段の点灯制御等を行うドライブ回路を、マイクロ波の透過量の検知結果に基づいて行わせるものが含まれることは明らかである。」と述べているが、甲1に記載されているのは「蒸機、冷却機、乾燥処理機の他、葉打機、粗揉機、精揉機、乾燥機等を含むバッチ機械を包含する各種の処理手段の加熱制御等の工程処理制御に用いる」ことであって、「出力ドライブ回路の起動を制御する」ことまでが示唆されているとはいえない。

イ してみると、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「マイクロ波送波器とマイクロ波受波器とを配置し、マイクロ波の変化を利用する装置において、
前記マイクロ波送波器が、マイクロ波発振器からの発振信号をマイクロ波として前記マイクロ波受波器に向けて発射するとともに、
前記マイクロ波受波器が、マイクロ波送波器からのマイクロ波を受信する構成と、
発振回路を有し、該発振回路の発振周波数と受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力する構成と、
前記構成が出力する信号を処理する回路構成と、
前記回路構成の出力に基づいて制御を行う手段とを備えることを特徴とする装置。」

(相違点)
・相違点1
本件発明1は、「被検出物体のレベルを検知するマイクロ波レベルスイッチ」であるのに対し、甲1発明は、「茶葉の水分率を測定する水分率測定手段を備えたことを特徴とする製茶処理装置」である点。

・相違点2
本件発明1においては、マイクロ波送波器とマイクロ波受波器とを「対向配置」し、また「マイクロ波の遮断もしくは透過により」検知を行っているのに対し、甲1発明においては、マイクロ波発生源8とレベル検出部12とは「マイクロストリップ線路4」により結合されており、また「マイクロストリップ線路を伝送する高周波の前記茶葉による減衰量から前記茶葉の水分率を測定する」ものである点。

・相違点3
本件発明1においては、マイクロ波の送受波について「アンテナ」を用いているのに対し、甲1発明においては、マイクロ波が「マイクロストリップ線路4」を通じて伝送されている点。

・相違点4
本件発明1においては、「ドプラーモジュール」が発振回路を有し、該発振回路の発振周波数とアンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するのに対し、甲1発明は、ドプラーモジュールを備えていない点。

・相違点5
本件発明1が、「ドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備えるログアンプモジュール」を備えるのに対し、甲1発明は、そのようなログアンプモジュールを備えていない点。

・相違点6
本件発明1は、「ログアンプモジュールの出力信号電圧と設定電圧との大小を比較し、比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定し、判定結果により出力ドライブ回路の起動を制御するスイッチ手段とを備える」のに対し、甲1発明は、マイクロ波の減衰量から水分率を算出し、これを工程処理制御に用いるものである点。

(3)判断
上記の各相違点について検討する。

ア 相違点1,2,6について
甲1発明は、「茶葉の水分率を測定する水分率測定手段を備えたことを特徴とする製茶処理装置」であり、甲1には、相違点1に係る本件発明1の構成である「被検出物体のレベルを検知するマイクロ波レベルスイッチ」に関する記載も示唆も何ら存在しない。また、甲2ないし4にも、該レベルスイッチは記載も示唆もされていない。
そして、甲1発明は、「被検出物体のレベルを検知する」ということを発明の前提としないものであるから、甲1発明において、相違点2,6に係る本件発明1の構成のような、マイクロ波の遮断と透過により検知、判定を行うことは、当業者であっても容易に想到し得たとはいえない。

なお、請求人は審判請求書において、
「なお、本件特許の【従来技術】の記載(段落【0002】【図6】の記載等)においては、マイクロ波の送波器10の送波器アンテナ12と受波器20の受波器アンテナ21が対抗配置された構成が明記されている。従って、仮に「構成あ」が「構成要件ア」に相当しないとしても、「構成要件ア」は本件特許に係る特許出願の出願時に公知技術であったものである。」
と主張するが、仮にそのような技術自体が公知もしくは周知であったとしても、それは「茶葉の水分率を測定する水分率測定手段を備えたことを特徴とする製茶処理装置」である甲1発明とは技術分野や課題、目的において何ら共通するものではないから、当業者が容易に甲1発明の構成と組み合わせることができたものとはいえない。

イ 相違点3について
マイクロ波の送受波について「アンテナ」を用いる構成は、甲2ないし4に記載も示唆もされていない。また、「茶葉を臨ませたマイクロストリップ線路に高周波を伝送させ、前記マイクロストリップ線路を伝送する高周波の前記茶葉による減衰量から前記茶葉の水分率を測定する」ことを前提とする甲1発明において、マイクロストリップ線路を廃してアンテナを採用することは、当業者であっても想到し得たとはいえない。

ウ 相違点4について
本件発明1の「ドプラーモジュール」については、本件明細書等において定義されてはいないが、その文言自体から、少なくとも何らかの意味においてドプラー効果を利用することができるモジュールを指すものであると解される。
これに対して、甲1発明の備える、「中間周波数IF(f1 -f2 )」を出力する回路構成は、ドプラー効果を利用可能なモジュールではなく、また甲2ないし4にも、そのような「ドプラーモジュール」は記載も示唆もされていない。

ここで、請求人は「ドプラーモジュール」という文言に関し、弁駁書及び口頭審理陳述要領書において、
「請求人は、本件特許に係る請求項1の記載を素直に読んだ場合に認識できるものであると考える。すなわち、「ドプラーモジュール」とは、構成要件エにおける「発振回路を有し、アンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力する」ものであると考える。」
「そもそも、「ドプラーモジュール」なる文言は本件特許に係る技術分野における特定の技術を示す普通名称や技術用語ではない。」
「構成要件エには、ドップラー効果を利用可能な電子回路の各種の部材をモジュール化が、被請求人の主張しているような「ドップラー効果を利用可能な電子回路の各種の部材をモジュール化したパッケージ」である旨の記載や、どのような「部材」で構成されているかについての記載は存在しない。」
と述べているが、これは「ドプラーモジュール」という文言が、ドップラー効果を利用可能な構成を有しておらず、またモジュール化もされていないものを含むという主張であって、「ドプラーモジュール」という文言を無視した主張であると言わざるを得ない。

エ 相違点5について
相違点5に係る本件発明1の構成である「ドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備えるログアンプモジュール」は、甲2ないし4に記載も示唆もされていない。また、そもそも甲1発明は「ドプラーモジュール」を備えていないのであるから、甲1発明において、「ドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備えるログアンプモジュール」を実現することは、当業者であっても想到し得たとはいえない。

したがって、本件発明1は甲1ないし甲4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、相違点1ないし相違点6に係る本件発明1の構成は、甲1ないし甲4に基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできないから、本件発明1は、甲1ないし甲4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明2及び3は、本件発明1の構成を全て備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲1ないし甲4に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第8 むすび
以上のとおりであるから、請求人が主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許は特許法第36条第6項第1号及び同第2号、若しくは同条第4項第1号、又は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとすることはできず、したがって、本件特許は、同法第123条第1項第2号、または同条同項第4号の規定により無効とすべきものとすることはできない。
また、本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
マイクロ波レベルスイッチ
【技術分野】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マイクロ波送波器とマイクロ波受波器とを対向配置し、マイクロ波送波器からマイクロ波受波器へのマイクロ波の遮断もしくは透過により被検出物体のレベルを検知するマイクロ波レベルスイッチに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のマイクロ波レベルスイッチとして、例えば図6に示すものがある。図6は、このマイクロ波レベルスイッチを示すブロック図である。同図において、送波器10はマイクロ波発振器11および送波器アンテナ12から構成され、マイクロ波発振器11からの発振出力が送波器アンテナ12より出力される。受波器20は、受波器アンテナ21、検波回路80、可変ゲインアンプ81、ゲイン設定回路82、レベル判定回路83および出力ドライブ回路50から構成される。
【0003】
このような構成のマイクロ波レベルスイッチでは、まず、送波器10から出力されたマイクロ波は受波器20の受波器アンテナ21により受信され、検波回路80内の検波ダイオードにより検波される。検波された検波信号は可変ゲインアンプ81により増幅された後にレベル判定回路83に入力され、所定値と比較される。
【0004】
ここで、送波器10と受波器20との間に被検出物体が無い時は、送波器10からのマイクロ波は遮断されずに受波器20に受信されることから検波信号の受信電力は所定値よりも大きくなり、一方、送波器10と受波器20との間に被検出物体が存在する時は、送波器10からのマイクロ波が遮断され検波信号の受信電力が所定値より小さくなる。従って、例えば、送波器10と受波器20とを所蔵容器の所定の高さに対向配置することにより、被検出物体の所蔵量(レベル)を検知することができる。そして、その結果を出力ドライブ回路50に出力して表示装置等を駆動する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のマイクロ波レベルスイッチにあっては、受波器20での受信電力の大きさが、送波器10からの距離の二乗に反比例して小さくなるので使用できる距離範囲を大きくすると、判定すべき受信電力範囲が広がり、可変ゲインアンプ81のゲイン調整を広い範囲で行うことが必要になる。更に、マイクロ波の受信電力が小さくなると、検波回路80内の検波ダイオードの二乗検波特性により検波出力信号が急激に低下する。このため、可変ゲインアンプ81のゲイン調整範囲を更に広げなければならない。
【0006】
例えば、動作距離を0.3mから30mとすると、送波器10の出力を一定とすると、0.3mのときと比較して30mのときの受信電力は約0.0001倍(-40dB)となる。それに伴い、受信電力が約0.0001倍(-40dB)になると、二乗検波特性により検波出力信号は約0.0000001倍(-80dB)と非常に小さな電圧となる。その結果、可変ゲインアンプ81のゲイン調整範囲は最低でも80dB必要になるが、このような広い範囲を実現するためには、複数段のアンプを用い、それぞれの増幅段でゲイン調整できるようにしなければならず、回路的にも複雑になる。
【0007】
また、受信電力がある程度まで小さくなると、検波出力信号がノイズレベルに埋もれるようになるので、そのような低受信電力の環境では使用できない。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、送波器と受波器との距離が離れても、ゲイン調整回路を複雑にすることなく、マイクロ波の透過と遮断のいずれかの判定を正確に行うことが可能なマイクロ波レベルスイッチを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明は、マイクロ波送波器とマイクロ波受波器とを対向配置し、マイクロ波送波器からマイクロ波受波器へのマイクロ波の遮断もしくは透過により被検出物体のレベルを検知するマイクロ波レベルスイッチにおいて、
前記マイクロ波送波器が、マイクロ波発振器からの発振信号をアンテナからマイクロ波として前記マイクロ波受波器に向けて発射するとともに、
前記マイクロ波受波器が、
マイクロ波送波器からのマイクロ波を受信するアンテナと、
発振回路を有し、該発振回路の発振周波数とアンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュールと、
ドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備えるログアンプモジュールと、
ログアンプモジュールの出力信号電圧と設定電圧との大小を比較し、比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定し、判定結果により出力ドライブ回路の起動を制御するスイッチ手段と
を備えることを特徴とするマイクロ波レベルスイッチを提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るマイクロ波レベルスイッチの実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態の構成を示すブロック図である。図示のように、マイクロ波レベルスイッチは送波器10と受波器20とを対向配置して構成されている。送波器10はマイクロ波発振器11と、送波器アンテナ12とにより構成され、マイクロ波発振器11からの発振出力が送波器アンテナ12より発射される。受波器20は受波器アンテナ21、ドプラーモジュール22、ログアンプモジュール30、レベル比較回路40、判定レベル設定回路41および出力ドライブ回路50から構成されている。ここで、ドプラーモジュール22、ログアンプモジュール30、スイッチ手段としてのレベル比較回路40および判定レベル設定回路41が、マイクロ波レベルスイッチの主要部を構成している。
【0012】
ドプラーモジュール22は、自身に内蔵されている発振回路からの発振出力信号と、送波器10から発射され受波器アンテナ21で受信した受信マイクロ波とを、同じくドプラーモジュール22に内蔵されているミキシング回路によりミキシングし、発振出力信号の周波数と受信マイクロ波の周波数との差の周波数を有する信号(以下、「中間周波信号」という)を出力するように機能する。この中間周波信号はログアンプモジュール30の後述されるフィルタ回路に与えられ、不必要な周波数帯域の成分がカットされる。
【0013】
ログアンプモジュール30は、図2に示すように、外部からのノイズの侵入を防ぐフィルタ回路31、33、34と、ログアンプ回路32とにより構成されている。ログアンプモジュール30の出力信号線や電源供給線は、外来電波のアンテナとなりうる。そのため、フィルタ回路33およびフィルタ回路34により出力信号線や電源供給線からの高周波電圧の流入を阻止する。更に、このログアンプモジュール30は、モジュール全体が金属ケース等のシールドケースに収納され、電磁的および静電的にシールドされている。
【0014】
このログアンプモジュール30では、ドプラーモジュール30が出力する中間周波信号を、フィルタ回路31に取り込んで不要な周波数帯域の成分をカットする。また、ログアンプモジュール30は不要成分をカットして得られた信号をログアンプ回路32で対数増幅し、対数増幅したログアンプ出力信号を低減通過型のフィルタ回路33を通じて出力するように機能する。
【0015】
レベル比較回路40は判定レベル設定回路41で設定されている比較電圧と、ログアンプモジュール30からのログアンプ出力信号電圧との大小比較を行うように機能する。この比較結果に基づいて、リレーなどの出力ドライブ回路50がドライブされる。この判定レベル設定回路41で設定可能な比較電圧の値は、この判定レベル設定回路41内に内蔵されている可変抵抗器などにより、容易に変更できるようになっている。
【0016】
次に動作を説明する。先ず、送波器10の送波器アンテナ12からマイクロ波が出力される。ここで、送波器10のマイクロ波発振器11の発振周波数は、受波器20のドプラーモジュール22内の発振回路の発振周波数と所定の周波数差になるように、予め設定されている。
【0017】
そして、受波器20は、送波器10からのマイクロ波を受波器アンテナ21を介して受信する。ドプラーモジュール22は、受信マイクロ波をドプラーモジュール22内の発振回路とミキシング回路とによりヘテロダイン検波し、ミキシング回路の出力により中間周波数信号を得る。
【0018】
中間周波信号の大きさは、受信アンテナ21の受信マイクロ波の電力に比例するので、受信マイクロ波を直接検波回路により検波する方法に比べて、受信電力が小さい領域において極端に小さくなることがない。この結果、より小さい受信電力までノイズに埋もれないで扱えるようになるので、マイクロ波の受信判定をより高感度にすることができる。
【0019】
また、ログアンプ回路32は、この中間周波信号を対数増幅しているので、このログアンプ回路32の出力信号電圧の大きさは、中間周波信号の大きさを対数圧縮しながら増幅したものとなる。このため、中間周波信号の非常に小さいレベルから大きいレベルまでの範囲を、このログアンプ回路32の出力電圧で扱うことができるようになる。従って、送波器10と受波器20との間におけるマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定するのに必要となる最小の受信電力を小さくでき、レベルスイッチとしての動作感度が向上する。
【0020】
さらに、レベル比較回路40は判定レベル設定回路41で設定された比較電圧と、ログアンプモジュール30からの出力信号電圧との大小比較を行い、その比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定し、その判定結果により出力ドライブ回路50の起動を制御するスイッチ手段として機能する。このため、出力ドライブ回路50が動作することが可能な領域として、中間周波信号の非常に小さいレベルから大きいレベルまでの広い範囲となり、判定レベル設定回路41を少ない回路規模で実現できる。また、実際の使用に際し、従来技術では複数段のアンプを用い、それぞれの段でゲインを調整するためゲイン設定が複雑になるのに対し、本発明ではこのゲイン設定が簡素で容易になる。
【0021】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態を示すブロック図である。この第2の実施形態は、第1の実施形態のレベル比較回路40と判定レベル設定回路41の代わりに、A/Dコンバータ60、スイッチ手段としての機能を合わせ持つマイコン61、設定回路62および表示回路68を設けたものである。ここで、A/Dコンバータ60、マイコン61、設定回路62はドプラーモジュール22およびログアンプモジュールとともに、マイコン波レベルスイッチを構成している。以下、第2の実施形態について、変更された部分のみを説明する。
【0022】
A/Dコンバータ60にはログアンプモジュール30からの出力信号が与えられており、A/Dコンバータ60のデジタル変換出力はマイコン61の一つの入力ポートに接続されている。設定回路62はマイコン61の他の一つの入力ポートに接続されている。また、マイコン61の出力ポートには出力ドライブ回路50と表示回路63が接続されている。
【0023】
A/Dコンバータ60は、ログアンプモジュール30からのアナログの出力信号をデジタル変換して、マイコン61の一つの入力ポートに入力するように機能する。設定回路62は、上昇スイッチおよび下降スイッチを持ち、これらが押下されることにより、後述されるログアンプ比較判定データの値の変更をマイコン61の他の一つの入力ポートに入力するように機能する。
【0024】
このマイコン61は、ログアンプ比較判定データを格納するためのEEPROM(不揮発メモリ)を備える。また、マイコン61は、上昇スイッチや下降スイッチが押下されると、それぞれEEPROM内に格納されたログアンプ比較判定データの値をそれぞれインクリメントまたはデクリメントし、それぞれ表示回路63に表示させる機能を持つ。さらに、マイコン61はそのログアンプ比較判定データの値とログアンプモジュール30の出力値との大小を比較するように機能する。出力ドライブ回路50はその比較演算結果に応じて起動され、このときマイコン61はマイクロ波の透過と遮断のいずれかに切り換えるスイッチ手段として機能する。
【0025】
次に、図4に示すフローチャートを参照しながら動作を説明する。先ず、マイクロ波レベルスイッチの電源が投入されると、マイコン61はEEPROM内に格納されているログアンプ比較判定データの値を読み込み、その値を表示回路63に表示する。次に、設定回路62の上昇スイッチあるいは下降スイッチを押下してマイコン61に、押下られた設定スイッチに定義されている内容に応じてEEPROMに格納されているログアンプ比較判定データの値を変更する処理(ステップS11)を実行させる。これらのスイッチのうち上昇スイッチが押下された場合には、EEPROM内に格納されているログアンプ比較判定データの値をインクリメントする。これに対し、下降スイッチが押下された場合には、EEPROM内に格納されているログアンプ比較判定データの値をデクリメントする。
【0026】
次に、このようにインクリメントあるいはデクリメントされたログアンプ比較判定データの値を、マイコン61は表示回路63に表示させるとともに、その値をEEPROM内に格納して(ステップS12)、スイッチ押下処理を終了する。
【0027】
次に、出力ドライブ回路50の出力ドライブ処理について、図5のフローチャートを参照しながら説明する。この出力ドライブ処理は、通常非常に短い時間間隔で起動され、処理される。マイコン61は出力ドライブ処理要求を検知すると出力ドライブ処理を起動し、A/Dコンバータ60を介してログアンプモジュール30の出力信号を入力する。このとき、そのログアンプ出力信号電圧はA/Dコンバータ60でA/D変換され、マイコン61に取り込まれる(ステップS21)。次に、マイコン61はこうして取り込まれたログアンプ出力値と、EEPROM内に格納されているログアンプ比較判定データの値との大小を比較する(ステップS22)。そして、この大小比較結果に応じて、前記マイクロ波の透過または遮断のいずれかを判定し、リレーなどの出力ドライブ回路50を駆動制御する(ステップS23)。
【0028】
なお、上記には、この出力ドライブ処理において、大小比較結果に基づいて即ドライブ回路50を動作させる例を示したが、ログアンプ出力値がログアンプ比較判定データの値を一定時間または一定回数連続して超えたとき、あるいは連続的に下回ったときに初めて出力ドライブ回路50の駆動状態を変えることにより、ドライブ回路50を遅延させて動作させる構成としてもよい。これにより、出力ドライブ回路50の瞬間的な変化を抑えられるので、ドライブ回路50の駆動制御を正確に安定して行うことができる。
【0029】
このように、本発明は各実施形態に示すように、ドプラーモジュール22を構成するミキシング回路を、本来のドプラーモジュールとして使用するのではなく、送波器10からのマイクロ波の周波数と受波器20のドプラーモジュール22の発振周波数との周波数差を得て、すなわちドプラーモジュール22のミキシング回路によりヘテロダイン検波を行い、中間周波信号を得るようにしたため、マイクロ波の受信電力が小さくなっても、それに比例して中間周波数信号が小さくなるだけであり、増幅器のゲイン調整範囲を従来のものと比較して狭くすることができるようになる。
【0030】
また、中間周波信号を増幅する回路あるいは中間周波信号を検波して得られる信号を増幅する回路に対数増幅器を使用し、対数増幅器の出力の大きさを電圧比較器により判定するように構成したことで、増幅器のゲイン調整機構を持たなくとも、マイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定することに関し、受信電力範囲を十分に大きくしても問題なく扱えるようになるという効果もある。
【0031】
さらに、ヘテロダイン検波を行うことにより、マイクロ波の受信電力が小さくなると、それに比例して中間周波信号が小さくなるだけであるため、透過と遮断のいずれかを判定するのに必要な最小の受信電力が小さくなり、レベルスイッチとしての動作感度を向上させることができるという効果が得られる。
【0032】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、送波器と受波器との距離が離れても、ゲイン調整回路を複雑にすることなく、マイクロ波の透過と遮断のいずれかの判定を正確に行うことが可能なマイクロ波レベルスイッチが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態によるマイクロ波レベルスイッチを示すブロック図である。
【図2】図1におけるログアンプモジュールの詳細を示すブロック図である。
【図3】本発明の第2の実施形態によるマイクロ波レベルスイッチを示すブロック図である。
【図4】図3における設定回路によるログアンプ比較データの設定手順を示すフローチャートである。
【図5】図3における出力ドライブ回路の動作の流れを示すフローチャートである。
【図6】従来のマイクロ波レベルスイッチを示すブロック図である。
【符号の説明】
10 送波器
11 マイクロ波発振器
12 送波器アンテナ
20 受波器
21 受波器アンテナ
22 ドプラーモジュール
30 ログアンプモジュール
31、33、34 フィルタ回路
32 ログアンプ回路
40 レベル比較回路(スイッチ手段)
41 判定レベル設定回路
50 出力ドライブ回路
61 マイコン(スイッチ手段)
62 設定回路
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波送波器とマイクロ波受波器とを対向配置し、マイクロ波送波器からマイクロ波受波器へのマイクロ波の遮断もしくは透過により被検出物体のレベルを検知するマイクロ波レベルスイッチにおいて、
前記マイクロ波送波器が、マイクロ波発振器からの発振信号をアンテナからマイクロ波として前記マイクロ波受波器に向けて発射するとともに、
前記マイクロ波受波器が、マイクロ波送波器からのマイクロ波を受信するアンテナと、
発振回路を有し、該発振回路の発振周波数とアンテナで受信した前記マイクロ波送波器からのマイクロ波の周波数との間で所定の周波数差となる周波数の信号を出力するドプラーモジュールと、
ドプラーモジュールが出力する信号を対数圧縮し増幅する対数増幅器を備えるログアンプモジュールと、
ログアンプモジュールの出力信号電圧と設定電圧との大小を比較し、比較結果に基づいてマイクロ波の透過と遮断のいずれかを判定し、判定結果により出力ドライブ回路の起動を制御するスイッチ手段とを備えることを特徴とするマイクロ波レベルスイッチ。
【請求項2】
前記ログアンプモジュールが、シールドケース内に収納されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波レベルスイッチ。
【請求項3】
前記ログアンプモジュールと外部回路とを接続する配線の途中に、ノイズ侵入防止用のフィルタ回路が接続されていることを特徴とする請求項1または2記載のマイクロ波レベルスイッチ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-09-14 
結審通知日 2018-09-19 
審決日 2018-10-02 
出願番号 特願2003-106531(P2003-106531)
審決分類 P 1 113・ 853- YA (G01F)
P 1 113・ 121- YA (G01F)
P 1 113・ 537- YA (G01F)
P 1 113・ 854- YA (G01F)
P 1 113・ 536- YA (G01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松川 直樹  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 中塚 直樹
須原 宏光
登録日 2008-02-15 
登録番号 特許第4080369号(P4080369)
発明の名称 マイクロ波レベルスイッチ  
代理人 豊栖 康弘  
代理人 村西 大作  
代理人 豊栖 康司  
代理人 豊栖 康弘  
代理人 若本 修一  
代理人 豊栖 康司  
代理人 若本 修一  
代理人 佐野 弘  
代理人 石井 明夫  

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