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審決分類 |
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16C 審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する F16C 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する F16C |
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管理番号 | 1347951 |
審判番号 | 訂正2018-390150 |
総通号数 | 231 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-03-29 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2018-10-01 |
確定日 | 2018-12-28 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3814825号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第3814825号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
1 手続の経緯 本件訂正審判の請求に係る特許第3814825号は、平成14年7月24日(優先権主張 平成13年7月31日、平成14年4月19日)の出願であって、平成18年6月16日にその特許権の設定登録がなされたものである。 そして、平成30年10月1日に本件訂正審判の請求がなされたものである。 2 請求の趣旨 本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第3814825号の明細書を、本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものである。 3 訂正の内容 本件訂正審判に係る訂正の内容は、次のとおりである。(下線部は訂正箇所を示す。) (1)訂正事項1 明細書の段落【0029】、【0031】、【0033】、【0035】の「実施の形態にかかるアンギュラ玉軸受装置」との記載を「参考形態にかかるアンギュラ玉軸受装置」とし、 明細書の段落【0030】、【0032】、【0034】の「本実施の形態」との記載を「本参考形態」とし、 明細書の段落【0030】、【0034】、【0036】の「かかる実施の形態」との記載を「かかる参考形態」とし、 明細書の段落【0051】【図面の簡単な説明】の【図9】、【図10】、【図11】、【図12】の「実施の形態」との記載を「参考形態」とする。 (2)訂正事項2 明細書の段落【0043】、【0046】、【0049】の「実施例」との記載を「参考例」とし、 明細書の段落【0049】の「本発明」との記載を「本参考例」とする。 4 当審の判断 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的について 特許請求の範囲の請求項1及び2には「円筒ころ」を発明特定事項とした「軸受装置」が記載されているところ、訂正前の明細書の段落【0029】?【0036】及び【図9】?【図12】には、「実施の形態」として「アンギュラ玉軸受装置」が記載されており、特許請求の範囲の記載との間で不整合を生じ、不明瞭な記載となっていた。 訂正事項1は、明細書の段落【0029】?【0036】及び【0051】【図面の簡単な説明】の【図9】、【図10】、【図11】、【図12】において、「アンギュラ玉軸受装置」の形態に用いられている「実施の形態」との記載を「参考形態」に訂正し、特許請求の範囲の記載との間で生じていた不整合を解消するものであり、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か 訂正事項1は、明細書の段落【0029】?【0036】及び【0051】【図面の簡単な説明】の【図9】、【図10】、【図11】、【図12】において、「アンギュラ玉軸受装置」の形態に用いられている「実施の形態」との記載を、特許請求の範囲の記載と整合するように「参考形態」に訂正するものであるので、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項1は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1及び2には「円筒ころ」を発明特定事項とした「軸受装置」が記載されているところ、訂正前の明細書の段落【0043】?【0049】には、「実施例」として「アンギュラ玉軸受装置」が記載されており、特許請求の範囲の記載との間で不整合を生じ、不明瞭な記載となっていた。 訂正事項2は、明細書の段落【0043】、【0046】及び【0049】において、「アンギュラ玉軸受装置」の形態に用いられている「実施例」及び「本発明」との記載を「参考例」及び「本参考例」に訂正し、特許請求の範囲の記載との間で生じていた不整合を解消するものであり、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か 訂正事項2は、明細書の段落【0043】、【0046】及び【0049】において、「アンギュラ玉軸受装置」の形態に用いられている「実施例」及び「本発明」との記載を、特許請求の範囲の記載と整合するように「参考例」及び「本参考例」に訂正するものであるので、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項2は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 5 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 軸受装置 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に、回転自在に配置された複数の円筒ころと、前記円筒ころを保持する保持器とを有する軸受装置において、 前記外輪は、軸線方向に延びた軌道面と、その両端のリードイン部とを有し、前記保持器の案内面が、前記外輪の軌道面により案内されるようになっており、 前記保持器の案内面の端部に、前記外輪のリードイン部との干渉を回避するための面取りを形成しており、 前記保持器は、樹脂素材から形成され、軸線方向に並列した一対の環状部と、前記環状部を連結する柱部とを有し、以下の式で表される保持器動案内すきま係数AIが所定の範囲となるように、案内面を有する前記環状部の断面の半径方向長さ(H)、軸線方向長さ(L)、前記ころのPCD(dm)が決定されている軸受装置。 AI=(LH^(3))/(dm)^(2) 【請求項2】 前記保持器の柱部には、前記円筒ころに干渉しない位置にスナップ部を形成した請求項1に記載の軸受装置。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、高速回転する工作機械の主軸などを支持する軸受装置及びそれを用いた工作機械主軸に関する。 【0002】 【従来の技術】 従来技術を円筒ころ軸受を例にとり説明する。工作機械の主軸を支持する軸受には、加工精度を高く維持するために、高い回転精度と剛性が必要とされている。このような用途に用いられる円筒ころ軸受においては、軸・ハウジングに組込まれた後、軸受内部すきまが5μm程度の小さなすきまに調整されて使用されるのが常である。 【0003】 一方、最近の傾向として加工効率向上のため、主軸の高速化が図られており、軸受にも高速化に対応するよう要求がなされている。かかる用途に対応できる軸受として、外輪つば付・内輪つば無し(NU型)円筒ころ軸受よりも給油した潤滑油が容易に軸受外部に排出できる内輪つば付、外輪つば無し(N型)円筒ころ軸受が広く採用されている。又、現在多く使用されている保持器の案内(位置決め)形式には、保持器を銅合金製として内輪つば部外周面で案内をする内輪案内形式と、合成樹脂製でころによって案内をするころ案内形式とがある。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 ところで、工作機械の運転時に軸受が高速回転すると、内部に充填されたグリースやオイルエア潤滑で供給された潤滑油は、遠心力により外輪側に飛ばされてしまい、内輪案内保持器の場合、案内面の潤滑不良により焼付きに至る恐れがある。また、高速回転時には、遠心力による内輪みぞ部の膨張や外筒冷却、機械にビルトインされたモータの影響による内・外輪温度差増大などのため、運転中、軸受の内部すきまが負となりころ荷重が増加してしまうという問題もある。さらに保持器は高速回転時、遠心力によって振れ回り運動をおこすとともに、合成樹脂製の保持器では、強度が低いと変形量が大きくなってしまうという問題もある。特に、ころ案内保持器の場合は、保持器がころをかかえ、ころによって保持器が案内される構成のため、遠心力の影響により保持器の振れ回りが発生したときや、保持器の変形量が大きくなったときには、ポケッ卜部でころを拘束しその運動を阻害してしまい、また保持器にころから過大な荷重が負荷されて、保持器破損の恐れもあった。 【0005】 本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、潤滑性を向上させると共に、保持器の変形や破損などを抑制できる軸受装置及びそれを用いた工作機械主軸を提供することを目的とする。 【0006】 【課題を解決するための手段】 保持器の性能を左右するパラメータとして、保持器の径方向動き量がある。これは、転動体案内の場合は、保持器ポケット部のもたせと転動体とのすきまによる半径方向動き量により決定され、リング案内(外輪内径もしくは内輪外径)の場合は、保持器との径方向すきま(案内すきま)により決定されるものである。この半径方向動き量は、小さすぎると潤滑不良による焼付等の不具合が生じる恐れがあり、特に転動体案内の場合には、転動体を拘束する傾向が生じ運転時に安定した性能が確保できないという問題がある。逆に半径方向動き量が大きすぎると、保持器の振れ回りが大きくなり、それに起因して異音が発生しやすくなる。よって、これらの不具合を回避するためには、最適なすきまを設ける必要があるといえる。 【0007】 一般的には、軸受のサイズが大きくなるほど、軸受の案内すきまも大きく設定する。その理由を説明する。高速回転になると、保持器自身がもつアンバランス(アンバランスの要因としては、例えば内外径の偏肉やポケットのピッチ不同等があげられる)により、アンバランスが大きい方向へ、案内すきま分偏心して案内される。この時、アンバランスの量と偏心量に応じて遠心力に基づく力が発生し保持器に作用する。軸受サイズが大きくなると、保持器の精度も悪くなるためアンバランスの量も大きくなる。従って、高速回転を達成しようとした場合、保持器の変形を極力抑える必要があり、初期の案内すきまがゼロとならないようにしなくてはならない。保持器を樹脂製とした場合、線膨張係数が軸受鋼に比べ大きい為、温度上昇による案内すきま減少量、保持器の真円度等を考慮し、リング案内の場合は初期設定の案内すきまの70%以下の変形量に抑えることが望ましい。 【0008】 従って、かかる目的を達成すべく、本発明の軸受装置は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に、回転自在に配置された複数の円筒ころと、前記円筒ころを保持する保持器とを有する軸受装置において、前記外輪は、軸線方向に延びた軌道面と、その両端のリードイン部とを有し、前記保持器の案内面が、前記外輪の軌道面により案内されるようになっており、前記保持器の案内面の端部に、前記外輪のリードイン部との干渉を回避するための面取りを形成しており、前記保持器は、樹脂素材から形成され、軸線方向に並列した一対の環状部と、前記環状部を連結する柱部とを有し、以下の式で表される保持器動案内すきま係数AIが所定の範囲となるように、案内面を有する前記環状部の断面の半径方向長さ(H)、軸線方向長さ(L)、前記ころのPCD(dm)が決定されている。 AI=(LH^(3))/(dm)^(2) (1) なお、AIは以下の範囲であると好ましい。 0.065≧AI≧0.025(mm^(2)) (2) 【0009】 【作用】 この発明によれば、前記保持器は、前記外輪の内周に対して位置決めされており、すなわち前記保持器の案内面を、前記外輪の軌道面と対向する保持器外周面としているので、前記内輪の外周面と前記保持器の内周面との間、又は前記外輪の内周面と前記保持器の外周面との間のスキマを比較的大きく設計することが可能となる。この結果、オイルエアやオイルミスト潤滑用のノズルから噴射された潤滑油は、この比較的広いスキマから確実に軸受内部に導入され、遠心力により外輪側に潤滑油が飛ばされ、前記保持器の案内面の潤滑がスムーズに行なえるようになっている。 【0010】 また、前記保持器をこのように外輪案内又は内輪案内とすることにより、高速回転時の保持器振れ回り量を、案内スキマで規制することができ、さらに保持器の素材として、微量潤滑でも焼付きにくい樹脂素材を使用し、前記環状部の断面の半径方向長さをH、軸線方向長さをL、前記転動体のPCDをdmとしたときに、(1)、(2)式が成立する設計とすることで、従来の保持器と比較し高剛性化が可能となり、高速回転時の変形量を抑えることが可能となる。 【0011】 保持器の樹脂素材としては、フェノール樹脂やポリアミド46、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン等を母材として使用することができる。さらに、保持器の強度向上のために、ガラス繊維は、10?40重量%、炭素繊維、アラミド繊維を10?30重量%程度添加することが好ましい。また、高速回転の使用を満たすには、炭素繊維やアラミド繊維がより好ましいが、使用に応じてガラス繊維も選択できる。炭素繊維やアラミド繊維の添加量が、10重量%以下では強度の保持が不十分であり、30重量%以上とすると成形性が悪くなり外観も悪くなる。またさらに好ましくは、炭素繊維やアラミド繊維の添加量を20?30重量%とすると、強度、成形性も共に良好になる、ガラス繊維の場合は10?40重量%が好ましく、この理由は上記と同様である。 【0012】 ただし、円筒ころ軸受装置の場合、外輪案内形式で前記保持器の軸線方向幅を、(1)、(2)式を満たすようにすると、円筒ころの組込みをスムーズに行なうために設けられている外輪軌道面のリードイン部と、前記保持器の案内面とが、組込み誤差や運転中の軸伸びによる内輪の軸方向移動により干渉してしまう恐れがあり、それにより保持器の運転にブレーキをかけてしまったり、保持器案内面が摩耗するといった不具合が発生する。これに対し、前記保持器の案内面の外周部に面取りやテーパー加工を施し、外輪の軌道面とリードイン部の交点まで、軸方向に0.5mm以上のスキマを設けることで、かかる問題を回避することができる。 【0013】 尚、前記転動体を保持する前記保持器のポケットにおける4つの角部の少なくとも一つに切欠き部を設けることで、前記内輪の軌道面やつば部に給油された潤滑油を、軸受装置の回転速度に応じて、かかる切欠き部を通って速やかに外輪軌道面側に移動させることが可能となる。 【0014】 又、ポケットの円周方向ころ又は玉案内部形状が平坦面であり、前記軸受装置が支持する軸と平行な構成とすることで、前記ころ又は玉を保持するためのスナップ部は、前記保持器の動き量や寸法公差を考慮し、最悪でも運転中にころ又は玉と干渉しないようにでき、前記ころ又は玉の運動を阻害することなく高速回転が実現できる。加えて、保持器の高速安定化をはかるために、保持器の傾きに対し有利な両側案内とすると好ましい。 【0015】 円筒ころ軸受での計算例を示す。従来の保持器は、軸受サイズにかかわらず、保持器動案内すきま係数は、ほぼAI=0.02(mm^(2))となっている。一方、本発明の軸受装置においては、保持器動案内すきま係数の下限が、AI=0.025(mm^(2))であるため、両者の値を用いて計算した結果を比較した。軸受内径40mm,70mm,100mmの場合で、計算した回転数(dmn値)と変形の関係をそれぞれ図16?18に示す。尚、保持器は、PEEK樹脂を素材として用いたものとして計算した。 【0016】 図16?18において、高速回転になると、保持器の変形量が大きくなり現行保持器では、dmn230万程度で保持器変形量が案内すきまの70%を超えてしまう。実際には、従来の保持器がころ案内であるため、リング案内の場合に比べ、より変形量を抑えなくてはならないという実情がある。保持器の変形量が大きくなると転動体を拘束してしまい、転動体の円滑な転動を阻害してしまう恐れがあるからである。よって、保持器の安定性を保つためにも、案内を外輪案内もしくは内輪案内とし、保持器の変形による案内すきま減少を防ぐためにも高速回転の場合は、AI=0.025(mm^(2))以上に設定する必要があるといえる。尚、AIの上限に関しては、軸受の空間を考慮し、保持器が軸受の端面からはみ出さないような設計を行うと、おのずと(2)式に示す上限値(AI=0.065(mm^(2)))が得られ、すなわちAIは、0.065(mm^(2))以下とすることが望ましい。 【0017】 【発明の実施の形態】 以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。 図1は、本発明にかかる実施の形態による軸受装置を示す軸線方向断面図である。図2は、本実施の形態の軸受装置のみを拡大して示す図である。軸受装置10は、つばを設けていない外輪11と、つば12aを両端に設けた内輪12と、両輪11,12間に転動自在に配置された複数のころ(転動体)13と、ころ13を保持する保持器14とを有している。図1においては、軸受装置10に隣接して、オイルエアやオイルミスト潤滑用の潤滑油供給装置20が設けられている。潤滑油供給装置20の供給路20aは、軸受装置10の内部に向いており、外部より圧送された潤滑油を噴出可能となっている。 【0018】 保持器14は、外輪11の内周に対して位置決めされており、すなわち保持器14の案内面を、外輪11の軌道面11aと対向する保持器外周面14aとしているので、内輪12のつば12aの外周面12bと、保持器14の内周面14bとの間のスキマを比較的大きく設計することが可能となる。この結果、潤滑油供給装置20の供給路20aから噴射された潤滑油は、図1の矢印で示すように、この比較的広いスキマから確実に軸受装置10の内部に導入され、遠心力により外輪側に潤滑油が飛ばされ、保持器14の案内面の潤滑がスムーズに行なえるようになっている。 【0019】 また、保持器14をこのように外輪案内とすることにより、高速回転時の保持器14の振れ回り量を、案内スキマで規制することができる。さらに保持器14の素材として、フェノール樹脂やポリアミド46、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン等を母材として使用することができる。さらに、保持器の強度向上のために、ガラス繊維は、10?40重量%、炭素繊維、アラミド繊維を10?30重量%程度添加することが好ましい。また、高速回転の使用を満たすには、炭素繊維やアラミド繊維がより好ましいが、使用に応じてガラス繊維も選択できる。炭素繊維やアラミド繊維の添加量が、10重量%以下では強度の保持が不十分であり、30重量%以上とすると成形性が悪くなり外観も悪くなる。またさらに好ましくは、炭素繊維やアラミド繊維の添加量を20?30重量%とすると、強度、成形性も共に良好になる、ガラス繊維の場合は10?40重量%が好ましく、この理由は上記と同様である。 【0020】 又、図2に示すように、保持器14は、軸線方向に並列した一対の環状部14rと、前記環状部を連結する柱部14pとを有し、環状部14rの断面の半径方向長さをH、軸線方向長さをL、ころ13のPCDをdmとしたときに、保持器動案内すきま係数AIは、以下の式により表される。 AI=(LH^(3))/(dm)^(2) (1) 0.065≧AI≧0.025(mm^(2)) (2) このように保持器14を設計することで、従来の保持器と比較し高剛性化が可能となり、高速回転時の変形量を抑えることが可能となる。 【0021】 ただし、外輪案内形式で保持器14の環状部14r(すなわちポケット形状)を(1)、(2)式を満たすように設計すると、円筒ころ13の組込みをスムーズに行なうために設けられている外輪11の軌道面11aの端部内周に形成されたリードイン部11bと、保持器14の案内面14aとが、組込み誤差や運転中の軸伸びによる内輪12の軸方向移動により干渉してしまう恐れがあり、それにより保持器14の運転にブレーキをかけてしまったり、保持器14の案内面14aが摩耗するといった不具合が発生する。本実施の形態では、保持器14の案内面14aの外周端に面取り(又はテーパー)14cを設け、面取り14cの内方端と、外輪11の軌道面11aとリードイン部11bの交点とを、軸方向に0.5mm以上の距離をもって隔置することで、かかる問題を回避している。 【0022】 図3は、図1の軸受装置から外輪を取り外し、矢印III方向に見た図である。図4は、図1の形態の軸受装置から内輪を取り外した状態で、軸線方向に見た図である。図3に示すように、保持器14がころ13を保持するポケット14dは、4つの角部に切欠き部14gを設けているので、内輪12の軌道面やつばに給油された潤滑油を、軸受装置10の回転速度に応じて、かかる切欠き部14gを通って速やかに外輪11の軌道面11a(図1)側に移動させることが可能となる。 【0023】 又、ポケット14dの円周方向ころ案内面14eの形状が、軸線方向の幅aにわたって平坦となっている。また、ころ13の両端面に対し、保持器14の軸線方向案内面14hは、周方向長さb(図4参照)で当接している。このとき、案内面14eの幅aを、ころ長さL2の40?80%とし、案内面14hの長さbをころ怪の40?80%とし、案内面14hのころ13のPCDからの高さc(図4参照)を、ころ13の外径Dの20?40%とすることで、ころ13と保持器14の接触面積を小さくするとともに、ころ13の面取り部13aと、案内面14hとの干渉を抑制している。尚、スナップ部14fの面取り角度は、25?60°であると好ましい。尚、スナップ部14fは、連転中保持器14が半径方向に案内スキマ分移動し、ころ13がポケットスキマ分円周方向に移動した状態でも、ころ13と干渉しないような設計となっている。加えて、本実施の形態では、保持器14の高速安定化をはかるために、保持器14の傾きに対し有利な両側案内となっているが、片側案内でも良い。 【0024】 尚、保持器14の軸線方向案内面14hは、図14,15に示す変形例のように省略してもよい。潤滑油が通過できる空間が設けられていればよい。又、アンダーレース潤滑用の保持器として、内輪案内保持器でも同様のことがいえるので、案内は外輪となっているが、内輪側であっても良い。上記実施の形態では、もっぱら円筒ころ軸受について説明したが、玉軸受であっても良い。これらの実施の形態について、図面を参照して以下に説明する。 【0025】 図7は、片側案内の実施の形態にかかる円筒ころ軸受装置の図2と同様な断面図である。図7において、軸受装置110は、つばを設けていない外輪111と、つば112aを両端に設けた内輪112と、両輪111,112間に転動自在に配置された複数のころ(転動体)113と、ころ113を保持する保持器114とを有している。図7では図示していないが、軸受装置110に隣接して、オイルエアやオイルミスト潤滑用の潤滑油供給装置が設けられている。 【0026】 図2に示す実施の形態と同様に、保持器114も、外輪111の内周に対して位置決めされているが、本実施の形態では、保持器114の案内面を、外輪111の軌道面111aと対向する、図7で右方側の環状部114rの外周面114aのみとしている。かかる実施の形態においては、保持器114の右方の環状部114rの断面の半径方向長さをH、軸線方向長さをLとしている。それ以外の構成については、上述した実施の形態と同様であり、作用・効果も又同様に得られる。 【0027】 図8は、つばナシ内輪の実施の形態にかかる円筒ころ軸受装置の図2と同様な断面図である。図8において、軸受装置210は、つばを設けている外輪211及び内輪212と、両輪211,212間に転動自在に配置された複数のころ(転動体)213と、ころ213を保持する保持器214とを有している。図8では図示していないが、軸受装置210に隣接して、オイルエアやオイルミスト潤滑用の潤滑油供給装置が設けられている。 【0028】 図2に示す実施の形態と同様に、保持器214も、外輪211の内周に対して位置決めされており、保持器214の案内面を、外輪211の軌道面211aと対向する保持器外周面214aとしている。内輪212につばを設けていない以外の基本的構成については、上述した実施の形態と同様であり、作用・効果も又同様に得られる。 【0029】 図9は、片側案内の参考形態にかかるアンギュラ玉軸受装置の図2と同様な断面図である。図9において、軸受装置310は、外輪311及び内輪312と、両輪311,312間に転動自在に配置された複数の玉(転動体)313と、玉313を保持する保持器314とを有している。図9では図示していないが、軸受装置310に隣接して、オイルエアやオイルミスト潤滑用の潤滑油供給装置が設けられている。 【0030】 図2に示す実施の形態と同様に、保持器314も、外輪311の内周に対して位置決めされているが、本参考形態では、保持器314の案内面を、外輪311の内周面311aと対向する、図9で右方側の環状部314rの外周面314aのみとしている。かかる参考形態においては、保持器314の右方の環状部314rの断面の半径方向長さをH、軸線方向長さをLとしている。以上のべた主要な相違点以外の構成については、上述した実施の形態と同様であり、作用・効果も又同様に得られる。 【0031】 図10は、内輪案内の参考形態にかかるアンギュラ玉軸受装置の図2と同様な断面図である。図10において、軸受装置410は、外輪411及び内輪412と、両輪411,412間に転動自在に配置された複数の玉(転動体)413と、玉413を保持する保持器414とを有している。図10に示すように、内輪412にアンダーレース潤滑用の給油孔412bが設けられており、保持器内周面414aに潤滑油が供給される。 【0032】 本参考形態の保持器414は、内輪412の外周に対して位置決めされており、従って保持器414の案内面を、内輪412の外周面412aと対向する保持器内周面414aとしている。以上のべた主要な相違点以外の基本的構成については、上述した実施の形態と同様であり、作用・効果も又同様に得られる。 【0033】 図11は、片側案内の参考形態にかかるアンギュラ玉軸受装置の図2と同様な断面図である。図11において、軸受装置510は、外輪511及び内輪512と、両輪511,512間に転動自在に配置された複数の玉(転動体)513と、玉513を保持する保持器514とを有している。図11では図示していないが、軸受装置510に隣接して、オイルエアやオイルミスト潤滑用の潤滑油供給装置が設けられている。 【0034】 図2に示す実施の形態と同様に、保持器514も、外輪511の内周に対して位置決めされているが、本参考形態では、保持器514の案内面を、外輪511の内周面511aと対向する、図11で右方側の環状部514rの外周面514aのみとしており、又保持器514の一対の環状部514rの外周面には、内向きに段部514sが形成されている。かかる参考形態においては、保持器514の右方の環状部514rの断面の半径方向長さをH、軸線方向長さをLとしている。以上のべた主要な相違点以外の構成については、上述した実施の形態と同様であり、作用・効果も又同様に得られる。 【0035】 図12は、両側案内の参考形態にかかるアンギュラ玉軸受装置の図2と同様な断面図である。図12において、軸受装置610は、外輪611及び内輪612と、両輪611,612間に転動自在に配置された複数の玉(転動体)613と、玉613を保持する保持器614とを有している。図12では図示していないが、軸受装置610に隣接して、オイルエアやオイルミスト潤滑用の潤滑油供給装置が設けられている。 【0036】 図2に示す実施の形態と同様に、保持器614も、外輪611の内周に対して位置決めされており、保持器614の案内面を、外輪611の内周面611aと対向する保持器外周面614aとしている。かかる参考形態においては、保持器614の環状部614rの断面の半径方向長さをH、軸線方向長さをLとしている。以上のべた主要な相違点以外の構成については、上述した実施の形態と同様であり、作用・効果も又同様に得られる。 【0037】 以下、円筒ころ軸受装置に適用される実施例について説明する。実施例の各種断面形状での計算結果を示す。 (計算条件) 保持器外径寸法:99.51mm ころ径:9mm ころ長さ:9mm ころ数:20個 ころPCD(dm):91mm 保持器材質:PEEK樹脂 回転数:25000回転毎分 案内すきま:0.4mm 保持器アンバランス:0.5g・cm 【0038】 以上の条件による保持器の変形量の計算結果を表1に示す。 【表1】 かかる計算結果を考察するに、表1に示す条件1の場合が、最も小さい変形量となる。高速運転時、保持器の変形量を考慮すると、AI≧0.025(mm^(2))が必要となる。 【0039】 図2に示すように、保持器案内面と有効外輪軌道面幅との軸方向距離に関して、リードイン部11bと外輪内周面11aとの交点から0.5mm以上軸方向に距離が空くように、保持器の案内面位置Pを設定した状態で、図5に示すように、保持器外周面14aの逃がし形状を変えて考察する。 (a)テーパー形状に逃がしたもの (b)C面取形状で逃がしたもの (c)R面取形状で逃がしたもの いずれの形状でも問題がないことが判った。 【0040】 以下、本発明者らが行った比較試験の供試仕様・試験条件を説明する。 軸受仕様:N型円筒ころ軸受 内径:70mm 外径:110mm ころ径:9mm ころ長さ:9mm ころPCD(dm):91mm 実施例:外輪案内保持器 材質:PEEK樹脂 保持器案内すきま:0.4mm 保持器幅:18.5mm 保持器厚さ:5.2mm 比較例:ころ案内保持器 材質:ポリアミド66樹脂 保持器幅:11.8mm 保持器厚さ:4.3mm 試験条件 組込時ラジアル内部すきま:0μm 潤滑:オイルエア潤滑 回転数:軸受が回転不能となるまで上昇 【0041】 比較試験結果を図6に示す。かかる試験によれば、比較例のころ案内保持器では、回転数を18000回転毎分にあげたところ、保持器が破断してしまった。保持器自身の強度(断面形状、材質)が弱く、遠心力による振れ回りと径方向変形量でポケット部でころの運動を阻害してしまい、保持器に過大な荷重が負荷し保持器が破断したものである。 【0042】 一方、本実施例の外輪案内保持器は、温度上昇も比較例のころ案内保持器よリ低く、限界回転数も飛躍的に延び、回転数を31000回転毎分にしても問題なく、実施例の形状が有効であることが確認できた。 【0043】 次に、アンギュラ玉軸受装置に適用される参考例について説明する。参考例の各種断面形状での計算結果を示す。 (計算条件) 軸受内径:65mm 保持器外径:86mm 玉径:7.144mm 玉数:28個 玉PCD(dm):82mm 保持器材質:PEEK樹脂 回転数:30000回転毎分 案内すきま:0.4mm 保持器アンバランス:0.5g・cm 【0044】 以上の条件による保持器変形量の計算結果を表2に示す。 【表2】 【0045】 かかる計算結果を考察にするに、表2に示す条件1の場合が、最も小さい変形量となる。高速運転時、保持器の変形量を考慮すると、AI≧0.025(mm^(2))が必要となる。 【0046】 以下、本発明者らが行った比較試験の供試仕様・試験条件を説明する。 軸受仕様:アンギュラ玉軸受 内径:65mm 外径:105mm 玉径:7.144mm 玉PCD(dm):82mm 玉数:28個 組合せ:2列背面組合せ(DB組合せ、定位置予圧) 試験条件 組込時アキシアルばね定数:100N/μm 潤滑:オイルエア 給油量:0.03cc/16min 回転数:軸受が回転不能となるまで上昇 参考例:外輪案内保持器(AI=0.040(mm^(2))) 材質:PEEK樹脂 保持器案内すきま:0.4mm 保持器幅:16mm 保持器厚さ:4mm 比較例1:玉案内保持器(従来保持器) 材質:ポリアミド66 保持器幅:15mm 保持器厚さ:2.5mm 比較例2:外輪案内保持器(AI=0.013(mm^(2))) 材質:PEEK樹脂 保持器案内すきま:0.4mm 保持器幅:14mm 保持器厚さ:3mm 【0047】 比較試験結果を図13に示す。かかる試験によれば、比較例1の玉案内保持器では22000回転毎分にあげたところ、保持器が溶融してしまった。保持器自身の強度(断面形状、材質)が弱く、遠心力による振れ回りと径方向変計量でポケット部で玉の運転を阻害してしまい、摩擦熱により保持器が溶融破損したものである。 【0048】 一方、比較例2の外輪案内保持器は、比較例1の保持器よりは昇温、高速性に優れていたが、29000回転毎分にあげたところ保持器案内面が摩耗し、ポケット部柱が破損してしまった。比較例1に比べ、保持器の運動は外輪案内とすることにより高速域では安定したものとなったが、保持器断面強度が不足し、運転時の変形量が大きくなり、案内面での油膜形成が困難となり案内面が摩耗してしまった。これは、摩耗することにより、保持器にアンバランスが加わり、さらに変形量が大きくなるため、保持器に過大な応力が発生してしまい柱が破損してしまったためと考えられる。 【0049】 これに対し、本参考例の外輪案内保持器は、温度上昇も比較例1と比較し低く、比較例2と比較しても限界回転数が増大している。本参考例では、33000回転毎分にあげたところで試験機はストップしたが、分解してみると、保持器に異常はなく、内輪の軌道面が焼きついている状態だった。保持器としては、さらに高速回転が可能であることが判断でき、本参考例の形状が有効であることが確認できた。 【0050】 以上、本発明を実施の形態を参照して説明してきたが、グリース潤滑でも同様なことがいえる本発明は、上記実施の形態に限定して解釈されるべきではなく、適宜変更・改良が可能であることはもちろんである。 【0051】 【発明の効果】 本発明によれば、潤滑性を向上させると共に、保持器の変形や破損などを抑制できる軸受装置及びそれを用いた工作機械主軸が提供される。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明にかかる実施の形態による軸受装置を示す軸線方向断面図である。 【図2】本実施の形態の軸受装置のみを拡大して示す図である。 【図3】図1の軸受装置から外輪を取り外し、矢印III方向に見た図である。 【図4】図1の形態の軸受装置から内輪を取り外した状態で、軸線方向に見た図である。 【図5】保持器の形状の変形例を示す図である。 【図6】円筒ころ軸受装置における比較例との試験結果を示す図である。 【図7】片側案内の実施の形態にかかる円筒ころ軸受装置の図2と同様な断面図である。 【図8】つばナシ内輪の実施の形態にかかる円筒ころ軸受装置の図2と同様な断面図である。 【図9】片側案内の参考形態にかかるアンギュラ玉軸受装置の図2と同様な断面図である。 【図10】内輪案内の参考形態にかかるアンギュラ玉軸受装置の図2と同様な断面図である。 【図11】片側案内の参考形態にかかるアンギュラ玉軸受装置の図2と同様な断面図である。 【図12】両側案内の参考形態にかかるアンギュラ玉軸受装置の図2と同様な断面図である。 【図13】アンギュラ玉軸受装置における比較例との試験結果を示す図である。 【図14】図1の軸受装置の変形例を示す図3と同様な図である。 【図15】図1の軸受装置の変形例を示す図4と同様な図である。 【図16】dmnと保持器変形量との関係を示す図である。 【図17】dmnと保持器変形量との関係を示す図である。 【図18】dmnと保持器変形量との関係を示す図である。 【符号の説明】 10、110,210,310,410,510、610 軸受装置 11、111,211,311,411,511、611 外輪 12、112,212,312,412,512、612 内輪 13、113,213 ころ 313,413,513、613 玉 14、114,214,314,414,514、614 保持器 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2018-11-30 |
結審通知日 | 2018-12-04 |
審決日 | 2018-12-17 |
出願番号 | 特願2002-214785(P2002-214785) |
審決分類 |
P
1
41・
854-
Y
(F16C)
P 1 41・ 855- Y (F16C) P 1 41・ 853- Y (F16C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 冨岡 和人 |
特許庁審判長 |
大町 真義 |
特許庁審判官 |
尾崎 和寛 平田 信勝 |
登録日 | 2006-06-16 |
登録番号 | 特許第3814825号(P3814825) |
発明の名称 | 軸受装置 |
代理人 | 松山 美奈子 |
代理人 | 松山 美奈子 |