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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G05B
管理番号 1347974
審判番号 不服2016-15652  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-20 
確定日 2019-01-10 
事件の表示 特願2012-73510「シミュレーション装置、シミュレーション方法、および、シミュレーションプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月7日出願公開、特開2013-206062〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成24年3月28日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年 3月27日 :審査請求
平成28年 1月4日付け :拒絶理由通知書
同 年 3月7日 :意見書、手続補正書の提出
同 年 7月21日付け :拒絶査定
同 年10月20日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成30年 2月 9日付け :拒絶理由通知書
同 年 3月16日?
同月26日 :応対記録(1回目)
同 年 4月 2日 :意見書、手続補正書の提出
同 年 9月20日 :応対記録(2回目)


第2 本願発明

本件の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成30年4月2日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

(本願発明)
「機械の動きを制御する制御プログラムを実行するコントローラと、前記機械と、前記機械のセンサとのシミュレーションを実行する制御部を有するシミュレーション装置であって、
前記制御部は、前記制御プログラムを実行する前記コントローラの動作をシミュレートし、
前記制御部は、
前記制御プログラムにしたがって、仮想空間において前記機械に対応する仮想機械を動かせるための指令値を計算する第1の計算手段と、
前記第1の計算手段によって計算された前記指令値にしたがった前記仮想機械の動きを計算する第2の計算手段と、
前記第2の計算手段によって計算された前記仮想機械の動きによって、前記仮想機械の状態が、前記機械のセンサの検知条件に対応する仮想検知条件を満たす状態となったか否かを示す検知情報を前記第1の計算手段に送信する検知手段とを含み、
前記第1の計算手段は、前記検知手段によって送信された前記検知情報で示される前記仮想検知条件のうち、満たすと判断された前記仮想検知条件に応じて、前記指令値を計算し、
前記仮想機械の部分の状態を示す所定変数を前記部分ごとに記憶する記憶手段をさらに備え、
前記第2の計算手段、前記検知手段および前記第1の計算手段は、前記記憶手段に記憶された前記所定変数を用いて前記仮想機械を動かすための動作をする、シミュレーション装置。」


第3 引用文献・引用発明

本願の出願日前に頒布され、当審が上記平成30年2月9日付けの拒絶理由通知において引用した、再公表特許第00/36477号(発行日:平成14年4月2日、以下、「引用文献1」という。)には、関連する図面とともに、以下の事項が記載されている。(下線は、当審にて付した。)

A(2ページ、【特許請求の範囲】欄)
「【請求項1】 内部に構築された、アクチュエータおよびセンサを含む複数の部品からなる三次元機構モデルを動作させる三次元機構モデルシミュレータと、
前記三次元機構モデルシミュレータ内に構築された三次元機構モデルの動作を制御する制御プログラムを、前記三次元機構モデルシミュレータ内で動作する三次元機構モデルとの同期をとりながら実行する制御プログラムプロセッサとを備えたことを特徴とする機構制御プログラム開発支援システム。
【請求項2】 前記三次元機構モデルシミュレータが、前記制御プログラムプロセッサ内で動作する制御プログラムの実行時間を前記制御プログラムプロセッサに通知し、
前記制御プログラムプロセッサが、前記三次元機構モデルシミュレータからの、制御プログラムの実行時間の通知を受け該実行時間だけ制御プログラムを実行して、該実行時間分の制御プログラムの実行の終了を前記三次元機構モデルシミュレータに通知し、
前記三次元機構モデルシミュレータが、前記制御プログラムプロセッサからの制御プログラムの前記実行時間分の実行の終了の通知を受け、三次元機構モデルを、制御プログラムの該実行時間分の制御に応じた動作量だけ動作させて、制御プログラムの次の実行時間を決定するものであることを特徴とする請求項1記載の機構制御プログラム開発支援システム。 」

B(7ページ3?9行)
「上記目的を達成する本発明の機構制御プログラム開発支援システムは、
内部に構築された、アクチュエータおよびセンサを含む複数の部品からなる三次元機構モデルを動作させる三次元機構モデルシミュレータと、
三次元機構モデルシミュレータ内に構築された三次元機構モデルの動作を制御する制御プログラムを、三次元機構モデルシミュレータ内で動作する三次元機構モデルとの同期をとりながら実行する制御プログラムプロセッサとを備えたことを特徴とする。」

C(10ページ7?末行)
「また、本発明の機構制御プログラム開発支援システムにおいて、三次元機構モデルシミュレータが、その三次元機構モデルシミュレータ内で動作する三次元機構モデルを構成するアクチュエータを一次遅れ系として動作させるものであることが好ましい。
アクチュエータを一次遅れ系として動作させることにより、そのアクチュエータの動作がほぼ一定の動作速度に達するまでの遅れ時間をあらわす整定時間を指定するだけでそのアクチュエータの立ち上がり時の振舞いを規定することができ、アクチュエータの動作の定義が容易となる。
さらに、本発明の機構制御プログラム開発支援システムにおいて、三次元機構モデルシミュレータ内で動作する三次元機構モデルを構成するアクチュエータを定義するアクチュエータ定義手段を備え、そのアクチュエータ定義手段が、アクチュエータの動作により最初に動作する部品を、三次元機構モデルを三次元機構モデルシミュレータ内で動作させる際のアクチュエータとして定義するものであることが好ましい。
アクチュエータをこのように定義することで、三次元機構モデルの動作シミュレーションが容易となる。
さらに、本発明の機構制御プログラム開発支援システムにおいて、三次元機構モデルシミュレータ内で動作する三次元機構モデルを構成するセンサを定義するセンサ定義手段を備え、そのセンサ定義手段が、センサにより検出される部品を、三次元機構モデルを該三次元機構モデルシミュレータ内で動作させる際のセンサとして定義するものであることが好ましい。
センサをこのように定義すると、上記のアクチュエータの定義と同様、シミュレーションが容易となる。」

D(12ページ下から12行?13ページ下から7行)
「図1は、内部に機構制御プログラム開発支援システムが構築されたコンピュータシステムの外観図である。
このコンピュータシステム100は、CPU、RAM、ハードディスク等を内蔵した本体部101、本体部101からの指示により表示画面102aに画面表示を行うCRTディスプレイ102、このコンピュータシステムにユーザの指示や文字情報を入力するためのキーボード103、表示画面102a上の任意の位置を指定することによりその位置に表示されていたアイコン等に応じた指示を入力するマウス104を備えている。
本体部101は、さらに、外観上、フロッピィディスク212(図1には図示せず;図2参照)やCDROM210が取り出し自在に装填されるフロッピィディスク装填口101aおよびCDROM装填口101bを有しており、その内部には、装填されたフロッピィディスクやCDROM210をドライブする、フロッピィディスクドライバ224、CDROMドライバ225(図10参照)も内蔵されている。
ここでは、CDROM210に、本発明にいう機構制御プログラム開発支援プログラムが記憶されている。このCDROM210がCDROM装填口101bから本体部101内に装填され、CDROMドライバ225により、そのCDROM210に記憶された機構制御プログラム開発支援プログラムがこのコンピュータシステム100のハードディスク内にインストールされる。さらに、このコンピュータシステム100のハードディスクには、ユーザによりキーボードやマウス等を用いて定義された三次元機構モデル、および、ユーザにより、やはりキーボードやマウス等を用いて入力された、その三次元機構モデルを実際に製造したときの製品を制御するための制御プログラムも格納されている。尚、三次元機構モデルや制御プログラムは、それらのうちのいずれか一方あるいは双方が、この図1に示すコンピュータ100とは別のシステムで構築ないしプログラミングされて、このコンピュータ100に格納されたものであってもよい。
このコンピュータシステム100内に構築された三次元機構モデルは、CDROM210からこのコンピュータシステム100内にローディングされた機構制御プログラム開発支援プログラムを構成する三次元機構モデルシミュレーションプログラムによりそのコンピュータシステム100内で動作し、一方、このコンピュータシステム100内に組み込まれた動作プログラムは、CDROM210からこのコンピュータシステム100内にローディングされた機構制御プログラム開発支援プログラムを構成する同期化プログラムと結合され、このコンピュータシステム100内では、その動作プログラムが、三次元機構モデルの動作と同期して実行される。」

E(13ページ末行?14ページ6行)
「ここでは、本発明との対応関係でいうと、このコンピュータシステム100の、三次元機構モデルを動作させる機能が三次元機構モデルシミュレータに相当し、同期化プログラムと結合された動作プログラムを実行する機能が制御プログラムプロセッサおよび機構制御プログラム開発支援装置に相当する。
このように、本発明の機構制御プログラム開発支援システムには、1つの装置(ここではコンピュータシステム100)内に三次元機構モデルシミュレータと動作プログラムプロセッサとの双方が組み込まれた形態も含まれる。」

F(15ページ16行?17ページ9行)
「機構制御プログラム開発支援プログラム310を構成する、三次元機構モデルシミュレーションプログラム311と同期化プログラム312は、図1に示すコンピュータシステム内で実行される際、相互に以下のような通信を行なうことにより、三次元機構モデルの動作と制御プログラム実行との同期がとられる。すなわち、三次元機構モデルシミュレーションプログラム311が、制御プログラムの実行時間を同期化プログラム312に通知する。同期化プログラム312は、その通知を受けて、その通知を受けた実行時間分だけ制御プログラムの実行を許容し、制御プログラムがその実行時間だけ実行されると制御プログラムの実行をその段階で中断させ、制御プログラムのその実行時間分だけの実行が終了したことを三次元機構モデルシミュレーションプログラム311に通知する。三次元機構モデルシミュレーションプログラム311は、その同期化プログラム312からの通知を受けて、三次元機構モデルを、動作プログラムの、その実行時間分の制御に応じた動作量だけ動作させて、制御プログラムの次の実行時間を決定し、その決定した実行時間を同期化プログラム312に通知する。これを繰り返すことにより、相互に同期がとられた形態で、動作プログラムが実行され、その動作プログラムの実行による制御に従って三次元機構モデルが動作する。
図4は、本発明の機構制御プログラム開発支援システムの一例が構築されたコンピュータネットワークの一例を示す図である。
図4には、2台のコンピュータシステム400、500が通信ネットワーク600を介して接続されている様子が示されており、ここでは、コンピュータシステム400が本発明にいう三次元機構モデルシミュレータを構成し、コンピュータシステム500が本発明にいう制御プログラムプロセッサを構成している。
各コンピュータシステム400、500は、CPU、RAM、ハードディスク、通信用モデム等を内蔵した本体部401、501、本体部401、501からの指示により表示画面402a、502aに画面表示を行うCRTディスプレイ402、502、ユーザの指示や文字情報を入力するためのキーボード403、503、表示画面402a、502a上の任意の位置を指定することによりその位置に表示されていたアイコン等に応じた指示を入力するマウス404、504を備えている。・・・(中略)・・・コンピュータシステム400内には三次元機構モデルが構築されており、コンピュータシステム400内にインストールされた三次元機構モデルシミュレーションプログラム311は、そのコンピュータシステム400内に構築された三次元機構モデルを動作させる。一方、コンピュータシステム500には、コンピュータシステム400内に構築された三次元機構モデルを実際に製造したときの製品を制御するための制御プログラムも格納されており、このコンピュータシステム500にインストールされた同期化プログラムは制御プログラムと統合され、コンピュータシステム500内で動作する三次元機構モデルの動作を制御する。三次元機構モデルシミュレーションプログラム311と同期化プログラム312との間の通信は、通信ネットワーク600を経由して行なわれる。
本発明の機構制御プログラム開発支援システムには、この図4に示すように、三次元機構モデルシミュレータと制御プログラムプロセッサがそれぞれ別々の装置(ここではコンピュータシステム400とコンピュータシステム500)に組み込まれ、それらの間で通信を行なうように構成された形態も含まれる。」

G(18ページ2行?19ページ5行)
「図6は、機構制御プログラム開発支援システムの概念図である。
三次元機構モデルシミュレータ(「3Dモデルシミュレータ」と略記する)内には三次元機構モデル(「3Dモデル」と略記する)が構築されており、一方、制御プログラムプロセッサ内には、その3Dモデルを制御する制御プログラムがインストールされている。
この制御プログラムプロセッサ内の制御プログラムは、3Dモデルに相当する製品を実際に製作したときの、その製品を制御する制御プログラムに、3Dモデルシミュレータ内で動作する3Dモデルの動作との同期をとるための同期化プログラムとが結合したものである。
また3Dモデルは、複数のリンク(製品を構成する個々の部品)の三次元形状とそれらのリンクの姿勢の関係を定義した三次元機構データによって定義される、製品の三次元モデルであり、リンクの姿勢を変更することによってその3Dモデルが動作することになる。
制御プログラムプロセッサから3Dモデルシミュレータにはモータ等のアクチュエータを動作させるためのアクチュエータ指令信号が送られ、3Dモデルシミュレータから制御プログラムプロセッサには、センサのオン、オフ等をあらわすセンサ信号が送られる。また、こられ制御プログラムプロセッサと3Dモデルシミュレータとの間では同期信号が送受信される。
図7は、センサやモータの定義時の処理を示す3Dモデルシミュレータの模式図、図8は、シミュレーション時の3Dモデルシミュレータの処理を示す模式図である。
3Dモデルは、三次元CAD等を用いて構築され、その構築された3Dモデルに対し、ここでは、図7に示すように、ユーザによりキーボード等の入力装置が操作されてモータやセンサが定義される。そのような定義が行なわれた後の実際のシミュレーションにあたっては、制御プログラムプロセッサから送られてきたアクチュエータ指令信号(ここではモータ回転指令信号)に対応し、モータとして定義されたリンク(以下、モータとして定義されたリンクを「モータリンク」と称する)の姿勢を変化させ、さらに機構データに基づき、モータリンクに連結された他のリンクについて、モータリンクの姿勢変化に応じた量だけ動作させ、その結果として、センサとして定義されたリンク(以下、センサとして定義されたリンクを「センサリンク」と称する)の姿勢にも影響が出る。そこでセンサリンクの姿勢に応じセンサ信号を発生させ、そのセンサ信号は制御プログラムプロセッサに送信される。」

H(21ページ下から11行?下から3行)
「図13、図14は、センサとして定義されるリンクの選び方を示す模式図である。
これら図13、図14において、本来のセンサはリンクAであるが、ここでは、その本来のセンサによって検出されるリンクBをセンサとして定義し、そのリンクBの姿勢に応じて、図13(A)、図14(A)の場合はオフ、図13(B)、図14(B)の場合はオンと定義される。このように、センサの場合も、モータの場合と同様、本来のセンサではなくそのセンサにより検出されるリンクをセンサとして定義し、そのセンサリンクの姿勢に応じてオン、オフを定義することにより、シミュレーションが容易となる。」

図面看取事項
図6では、制御プログラムプロセッサが、3Dモデルシミュレータから出力されるセンサ信号の送信を受け、アクチュエータ指令信号を出力している様が矢印で図示されている。
また、図9でも、シミュレータがΔt分のシミュレーションを実行した後にセンサ信号が破線矢印で制御プログラムへ送られ、次のΔt分の計算を制御プログラムがなす様が見てとれる。

認定事項
摘記事項Dの「三次元機構モデルを実際に製造したときの製品を制御するための制御プログラム」との記載から、引用文献1の「製品」は、「制御プログラム」の実行により制御される関係があり、当該プログラムの実行を司るコンピュータ等を用いた製品制御装置が存在することは自明である。
また、摘記事項Bの「内部に構築された、アクチュエータおよびセンサを含む複数の部品からなる三次元機構モデルを動作させる三次元機構モデルシミュレータ」や、摘記事項Cの「さらに、本発明の機構制御プログラム開発支援システムにおいて、三次元機構モデルシミュレータ内で動作する三次元機構モデルを構成するセンサ・・・センサをこのように定義すると、上記のアクチュエータの定義と同様、シミュレーションが容易となる。」、摘記事項Hの「このように、センサの場合も、モータの場合と同様、・・・そのセンサリンクの姿勢に応じてオン、オフを定義することにより、シミュレーションが容易となる。」から見て、引用文献1ではセンサをシミュレーションする趣旨が明らかであるから、引用文献1の「製品」にもセンサが存在することは自明である。
さらに、「製品」に「センサ」が存在し、図面看取事項にも「制御プログラムプロセッサが、3Dモデルシミュレータから出力されるセンサ信号の送信を受け、アクチュエータ指令信号を出力している様」及び「センサ信号が破線矢印で制御プログラムへ送られ、次のΔt分の計算を制御プログラムがなす様」と記載されているから、引用文献1の「制御プログラム」はセンサ信号を計算に用いることや、三次元機構モデルシミュレータの一部分によって、センサの信号が制御プログラムプロセッサに送信されていることが明らかである。

上記摘記事項A?H、図面看取事項、及び認定事項を合わせ、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「モータ等のアクチュエータの回転によって動く複数の部品で構築される三次元機構モデルを実際に製造したときの製品の動きを制御する制御プログラムを実行する製品制御装置と、前記製品と、前記製品のセンサとのシミュレーションを実行するコンピュータ100を有する機構制御プログラム開発支援システムであって、
前記コンピュータ100は、前記制御プログラムを実行する前記製品制御装置の動作をシミュレートし、
前記コンピュータ100は、
前記制御プログラムにしたがって、三次元機構モデルシミュレータ内において前記製品に対応する三次元機構モデルを動かせるためのアクチュエータ指令信号を計算する制御プログラムプロセッサと、
前記制御プログラムプロセッサによって計算された前記アクチュエータ指令信号にしたがった前記三次元機構モデルの動きを計算する三次元機構モデルシミュレータと、
前記三次元機構モデルシミュレータによって計算された前記三次元機構モデルの動きによって、前記三次元機構モデルの状態が、前記製品のセンサのオン、オフ等の状態に対応するセンサリンクの姿勢に対して定義されるオン、オフ等の状態となったかどうかをあらわすセンサ信号を前記制御プログラムプロセッサに送信する三次元機構モデルシミュレータの一部分とを含み、
前記制御プログラムプロセッサは、前記三次元機構モデルシミュレータの一部分によって送信された前記センサ信号のオン、オフ等に応じて、前記アクチュエータ指令信号を計算し、
前記三次元機構モデルシミュレータは、前記三次元機構モデルのモータリンク、モータリンクに連結された他のリンク、センサリンクの姿勢を計算し、
前記三次元機構モデルシミュレータ、前記三次元機構モデルシミュレータの一部分および前記制御プログラムプロセッサは、前記計算したセンサリンクの姿勢を用いて前記三次元機構モデルを動かすための動作をする、機構制御プログラム開発支援システム。」


第4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「モータ等のアクチュエータの回転によって動く複数の部品で構築される三次元機構モデルを実際に製造したときの製品」は、本願発明の「機械」に相当し、同様に、「制御プログラム」は「制御プログラム」に、「製品制御装置」は「コントローラ」に、「センサ」は「センサ」に、「コンピュータ100」は「制御部」に、「機構制御プログラム開発支援システム」は「シミュレーション装置」に、「三次元機構モデルシミュレータ内」は「仮想空間」に、「三次元機構モデル」は「仮想機械」に、「アクチュエータ指令信号」は「指令値」に、「制御プログラムプロセッサ」は「第1の計算手段」に、「三次元機構モデルシミュレータ」は「第2の計算手段」に、「前記三次元機構モデルの状態が、前記製品のセンサのオン、オフ等の状態に対応するセンサリンクの姿勢に対して定義されるオン、オフ等の状態となったかどうかをあらわすセンサ信号」は「検知条件に対応する仮想検知条件を満たす状態となったか否かを示す検知情報」に、「三次元機構モデルシミュレータの一部分」は「検知手段」に、「前記三次元機構モデルの状態が、前記製品のセンサのオン、オフ等の状態に対応するセンサリンクの姿勢に対して定義されるオン、オフ等の状態となった」は「前記仮想検知条件のうち、満たすと判断された前記仮想検知条件」に、「モータリンク、モータリンクに連結された他のリンク、センサリンクの姿勢」は「部分の状態」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「モータリンク、モータリンクに連結された他のリンク、センサリンクの姿勢を計算し」という事項と、本願発明の「部分の状態を所定変数を前記部分ごとに記憶する記憶手段をさらに備え」とを対比すると、「部分の状態」を用いているということでは一致している。

以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、かつ相違する。

(一致点)
「機械の動きを制御する制御プログラムを実行するコントローラと、前記機械と、前記機械のセンサとのシミュレーションを実行する制御部を有するシミュレーション装置であって、
前記制御部は、前記制御プログラムを実行する前記コントローラの動作をシミュレートし、
前記制御部は、
前記制御プログラムにしたがって、仮想空間において前記機械に対応する仮想機械を動かせるための指令値を計算する第1の計算手段と、
前記第1の計算手段によって計算された前記指令値にしたがった前記仮想機械の動きを計算する第2の計算手段と、
前記第2の計算手段によって計算された前記仮想機械の動きによって、前記仮想機械の状態が、前記機械のセンサの検知条件に対応する仮想検知条件を満たす状態となったか否かを示す検知情報を前記第1の計算手段に送信する検知手段とを含み、
前記第1の計算手段は、前記検知手段によって送信された前記検知情報で示される前記仮想検知条件のうち、満たすと判断された前記仮想検知条件に応じて、前記指令値を計算し、
前記仮想機械の部分の状態を用い、
前記第2の計算手段、前記検知手段および前記第1の計算手段は、前記仮想機械を動かすための動作をする、シミュレーション装置。」

(相違点)
本願発明の「制御部」は、「前記仮想機械の部分の状態を示す所定変数を前記部分ごとに記憶する記憶手段」を備え、仮想機械を動かすために所定変数を用いるのに対して、引用発明では、三次元機構モデルの部分であるモータリンク、モータリンクに連結された他のリンク及びセンサリンクの姿勢を計算するのに際して、所定変数を用いているかどうか示されておらず、その所定変数が記憶手段に記憶されることも示されていない点。


第5 判断
上記相違点について検討する。
引用発明にはセンサリンクの状態として、オンとオフの状態が存在するから、製品のセンサも、当然にオンとオフの状体が存在しているというべきである。そして、そのような情報を利用する制御プログラムを作成するに当たって、状態の変数を設定し、その変数がオンであるかオフであるかというような条件を判断するようなプログラムを作成することは十分に想到しうる事項であるから、それをシミュレートする三次元機構モデルを動かすにあたり、変数を用いることも当業者であれば容易に想到しうる事項である。また、部分の状態として、モータリンク、モータリンクに連結された他のリンクの姿勢を計算する以上、それらの姿勢を変数を用いて示すことも制御プログラムの作成に当たっては当然に考慮される事項にすぎない。
そして、そのようなプログラムを実行すれば、コンピュータを用いている以上、計算で用いられる変数は、一時的であるにせよ記憶手段に記憶されるのであるから、所定変数が部分ごとに記憶手段に記憶されることは、当然に得られる結果にすぎない。

上記で検討したごとく、当該相違点は格別のものではなく、そして、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び技術常識として把握される事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、引用発明及び技術常識として把握される事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

なお、請求人は平成30年4月2日に提出した意見書の「(4-3) 理由3(進歩性)について」にて、引用文献に基づいて当業者が容易に発明できたとする拒絶理由の通知事項に対して以下の意見を述べている。
「上述の・・・で示しましたように、本願発明は、「仮想機械の部分の状態を示す所定変数を部分ごとに記憶する記憶手段をさらに備え、第2の計算手段、検知手段および第1の計算手段は、記憶手段に記憶された所定変数を用いて仮想機械を動かすための動作をする」ように構成されています。
本願発明の「仮想機械の部分の状態を示す所定変数」、具体的には、本願明細書の段落[0046]の「機械の状態を表現するための変数」、たとえば、段落[0058]、[0071]に記載のような「エア供給口にエア圧が加圧されているか否かを示すブール型の変数」のような「所定変数」は、引用文献1および引用文献2のいずれにも開示されていないと思料致します。
引用文献1には、モータの回転量の変化Δθは記載されていますが、この変化Δθが、本願発明の「仮想機械の部分の状態を示す所定変数」のような変数であるかや、「部分ごとに記憶される」かは、記載されていないと思われます。
また、引用文献2には、[図9]、[図10]等で示されるようにモーション変数などの変数が記載されていますが、このモーション変数などの変数が、本願発明の「仮想機械の部分の状態を示す所定変数」のような変数であるかや、「部分ごとに記憶される」かは、記載されていないと思われます。
このため、引用文献1および引用文献2には、本願第1発明から第3発明までの構成D、E、D’、E’、D’’、E’’のような構成は開示されていないと思料致します。・・・このため、本願第1発明から第3発明は、引用文献1および引用文献2に対して想到困難性を有すると思料致します。」
当該意見は、引用文献1にも2にも、本件明細書の【0058】や【0071】に記載の、単動型エアシリンダあるいは複動型エアシリンダを仮想機械とした場合でありかつ、「部分」を「エア供給口」に、「状態を示す所定変数」を「エア」による「加圧」の「制御」の有無を「ブール型変数」と定めた、とする形態の記載が無いことを理由に、本願第1発明(=請求項1に係る発明)の構成D「前記仮想機械の部分の状態を示す所定変数を前記部分ごとに記憶する記憶手段をさらに備え」、E「前記第2の計算手段、前記検知手段および前記第1の計算手段は、前記記憶手段に記憶された前記所定変数を用いて前記仮想機械を動かすための動作をする」や、本願第2発明(=請求項5に係る発明)、本願第3発明(=請求項6に係る発明)は、当業者が容易想到でないというものであるが、特許請求の範囲の記載で明らかであるように、仮想機械はエアシリンダとされておらず、所定変数も「エア」による「加圧」の「制御」の有無を「ブール型変数」と定めたとはされていない。
また、「所定変数」が、どのような対象を含むのかを請求人に問い合わせたところ(平成30年9月20日の応対記録参照)、「ブール型変数」は含まれるとの回答を得たものの、請求項に記載された文言からは「ブール型変数」に限定して解釈することはできない。
さらに、仮に「ブール型変数」に限定したとしても、上記第3のHに摘記したとおり、引用文献1には「センサリンクの姿勢に応じてオン、オフを定義する」と記載されており、「オン」、「オフ」という出力情報は、ブール型変数にほかならない。
よって、請求人の主張は、これを採り上げる余地がない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用発明及び技術常識として把握される事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-11-08 
結審通知日 2018-11-13 
審決日 2018-11-27 
出願番号 特願2012-73510(P2012-73510)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青山 純  
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 平岩 正一
西村 泰英
発明の名称 シミュレーション装置、シミュレーション方法、および、シミュレーションプログラム  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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