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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01J
管理番号 1348023
審判番号 不服2018-4250  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-29 
確定日 2019-01-29 
事件の表示 特願2016- 30922「イオンビーム照射装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月31日出願公開、特開2017-152089、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年2月22日の出願であって、平成29年5月12日付けで拒絶理由が通知され、平成29年6月9日付けで手続補正がされ、平成29年10月30日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成29年11月29日付けで手続補正がされ、平成30年1月18日付けで、平成29年11月29日付けの手続補正が却下されるともに拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成30年3月29日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年1月18日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1-3
・引用文献等1、2

・請求項4、6、7、8
・引用文献等1-3

引用文献等一覧
1.特開平7-85833号公報
2.特開平9-219173号公報
3.特開2014-229599号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に適合する。

審判請求時の補正によって、請求項1に「前記エネルギーフィルタが、前記イオンビームが通過する開口が形成されるとともに前記イオンビームの進行方向に沿って設けられた3枚以上の電極を有し、これらの電極の少なくとも1つが前記フィルタ電位となり、その他の電極が前記フィルタ電位よりも小さい電位となり、両端に配置された電極の電位が互いに等しく」との事項が追加されたところ、この補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、出願当初の請求項3に記載されているから、当該補正は新規事項を追加するものではないといえる。
また、審判請求時の補正によって、請求項1に「前記エネルギーフィルタが、前記両端に配置された電極の間に設けられて、イオンビームの形状を制御するための形状制御電圧が印加される形状制御電極をさらに有して」いるとの事項が、請求項1に追加されたところ、この補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、出願当初の請求項4に「前記エネルギーフィルタが、イオンビームの形状を制御するための形状制御電圧が印加される形状制御電極をさらに有している」と記載され、さらに、出願当初の請求項3には「前記エネルギーフィルタが、」「両端に配置された電極」を有しているので、エネルギーフィルタが有している形状制御電極は、エネルギーフィルタの両端に配置された電極の間に設けられているから、当該補正は新規事項を追加するものではないといえる。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-6に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1-6に係る発明(以下、「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、平成30年3月29日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
プラズマを生成するプラズマ生成部及び前記プラズマ生成部からイオンビームを引き出す引出電極を備えたイオン源と、
前記イオン源から引き出されたイオンビームから特定の質量及び価数のドーパントイオンを選別して導出する質量分離器と、
前記イオンビームが通過するビーム通過領域を形成するとともに、電圧が印加されて所定のフィルタ電位となり、イオンのエネルギー差を利用して、前記ビーム通過領域を通過する通過イオンと通過しない非通過イオンとを選別するエネルギーフィルタとを具備し、
前記通過イオンに前記ドーパントイオンが含まれ、前記非通過イオンに前記質量分離器において前記ドーパントイオンとは選別されない不要イオンであって、前記プラズマ生成部と前記引出電極との間でイオン化した不要イオンの少なくとも一部が含まれるように、前記フィルタ電位が設定されており、
前記エネルギーフィルタが、前記イオンビームが通過する開口が形成されるとともに前記イオンビームの進行方向に沿って設けられた3枚以上の電極を有し、
これらの電極の少なくとも1つが前記フィルタ電位となり、その他の電極が前記フィルタ電位よりも小さい電位となり、
両端に配置された電極の電位が互いに等しく、
前記エネルギーフィルタが、前記両端に配置された電極の間に設けられて、イオンビームの形状を制御するための形状制御電圧が印加される形状制御電極をさらに有しているイオンビーム照射装置。」

なお、本願発明2-6の概要は以下のとおりである。

本願発明2-6は、本願発明1を減縮した発明である。

第5 引用文献、引用発明
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審において付した。以下同様である。)。

(1)「【0002】
【従来の技術】従来より半導体装置等の製造に用いられているイオン注入装置は、図4及び図5に概略を示すように、イオンを生成するイオンソース部1、所望のイオンを選ぶためのアナライザーマグネット部2、所望のイオンを加速するための加速部(加速管7)、基板にイオンを注入するためのエンドステーション84の4主要部分から成り立つ構成になっている。
【0003】従来のイオン注入装置には、図5に示したような高電流イオン注入装置と、図4に示したような中電流イオン注入装置等がある。前者の高電流イオン注入装置については、低エネルギー(10KeV程度以下)での高電流(ビーム電流がmAオーダー)注入の場合に、図5に示すスリット部の図の部分で中性ビームになり易い。高電流イオン注入装置は、中電流イオン注入装置と異なり、一般にビームフィルター等の電極や7゜偏向機構もないので、基板上に中性ビームが打ち込まれてオーバードーズとなってしまう傾向がある。中電流装置の場合には、中性粒子が直接基板に打ち込まれることは少ないが、ビームフィルター等の電極を超えて中性粒子が加速管内に浮遊して入り込みビームに取り込まれてイオン化し、所望外のエネルギーのイオンが注入される要因となる。
【0004】更に、アナライザーマグネット部2をイオンビームが通過する際に、装置部材をビームスパッタすることにより生じたスパッタ粒子或いはスパッタによる2次イオンが重金属汚染として基板内に打ち込まれることが懸念される。この時のスパッタによる2次イオンは、荷電粒子であるのでビームフィルターやアインツェルレンズ等で電気的に除去可能と考えられるが、スパッタによる中性粒子は、これらの電極では除去できない。従ってビーム内に取り込まれて荷電変換し、基板中に打ち込まれて、重金属汚染の要因となり易い傾向にあると考えられる。」

(2)図4の記載から、イオンソース部(イオン生成)1とアナライザーマグネット(質量分析)2との間に、引出電極(イオン引出)11が設けられている点が見て取れ、アインツェルレンズが、イオンが通過する開口が形成されているとともにイオンの進行方向に沿って設けられた3組のフォーカス調整用電極を有している点が見て取れ、Q-レンズ81がアインツェルレンズとは異なる位置に設けられている点が見て取れる。

(3)したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「イオンを生成するイオンソース部1、
イオンソース部(イオン生成)1とアナライザーマグネット(質量分析)2との間に、引出電極(イオン引出)11、
所望のイオンを選ぶためのアナライザーマグネット部2、
イオンビームが通過する際に、装置部材をビームスパッタすることにより生じたスパッタ粒子或いはスパッタによる2次イオンが重金属汚染として基板内に打ち込まれることが懸念され、この時のスパッタによる2次イオンは、荷電粒子であるので電気的に除去可能なアインツェルレンズから成り立つ構成になっており、アインツェルレンズが、イオンが通過する開口が形成されているとともにイオンの進行方向に沿って設けられた3組のフォーカス調整用電極を有し、
Q-レンズがアインツェルレンズとは異なる位置に設けられている半導体装置等の製造に用いられているイオン注入装置。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0011】それでは大口径ビームの場合も質量分離をすれば良いように思える。それはそうなのであるが、断面積の大きいビームの場合、従来のように扇形断面の磁石によって質量分離をしようとすると、よほど大きい磁極をもち強力な磁界を発生する巨大な磁石が必要になる。これは不可能とは言わないまでも経済的に得策でない。それで大口径ビームの場合、質量分離装置を設けないのである。質量分離を行わず大口径のウェファにイオン注入する方法として、PIII法(Plasma Immersion Ion Implantation )が提案されている。
Plasma Source Sci. Technol. 1 (1992) p1-6.
【0012】これは負電圧にバイアスしたウェファをプラズマ中にさらし、シース領域でイオンを加速し、イオンをウェファ中に注入するとしている。イオン源の中にウェファを入れ、プラズマをウェファの負バイアスによって加速するもので巧みな方法である。イオンを引き出す必要がないので引き出し電極が不要である。引出電極がないので、そこから不純物が発生するということはない。・・・省略・・・」

(2)したがって、上記引用文献2には次の技術事項が記載されていると認められる。

「大口径ビームの場合、引出電極がないので、そこから不純物が発生するということはない。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0086】
図5(a)に示すように、ビーム偏向ユニット16は、高エネルギー多段直線加速ユニット14から出たイオンビームを、エネルギー分析電磁石24で90°偏向する。そして、軌道補正兼用偏向電磁石30によりビーム進路をさらに90°偏向し、後述するビーム輸送ラインユニット18のビーム整形器32に入射させる。ビーム整形器32は、入射したビームを整形してビーム走査器34に供給する。また、図5(b)に示す四重極レンズ26のレンズ作用により、ビームのエネルギー分散による発散を防止し、あるいは、エネルギー分散によるビーム拡大効果を利用して、ビームが小さくなりすぎることを防いでいる。」

(2)「【0096】
ビーム偏向ユニット16によって必要なイオン種のみが分離され、必要なエネルギー値のイオンのみとなったビームは、ビーム整形器32により所望の断面形状に整形される。図5、図6に示すように、ビーム整形器32は、Q(四重極)レンズ等(電場式若しくは磁場式)の収束/発散レンズ群により構成される。整形された断面形状を持つビームは、ビーム走査器34により図1(a)の面に平行な方向にスキャンされる。例えば、横収束(縦発散)レンズQF/横発散(縦収束)レンズQD/横収束(縦発散)レンズQFからなるトリプレットQレンズ群として構成される。ビーム整形器32は、必要に応じて、横収束レンズQF、横発散レンズQDをそれぞれ単独で、あるいは複数組み合わせて構成することができる。」

(3)したがって、上記引用文献3には次の技術事項が記載されていると認められる。

「軌道補正兼用偏向電磁石30によりビーム進路をさらに90°偏向し、後述するビーム輸送ラインユニット18のQ(四重極)レンズ等(電場式若しくは磁場式)の収束/発散レンズ群により構成されるビーム整形器32に入射させ、ビーム整形器32は、入射したビームを整形してビーム走査器34に供給する。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明の「イオンを生成するイオンソース部1」は、本願発明1の「生成部」に、引用発明の「『イオンソース部(イオン生成)1とアナライザーマグネット(質量分析)2との間』の『引出電極(イオン引出)11』」は、本願発明1の「生成部からイオンビームを引き出す引出電極」に、引用発明の「『イオンを生成するイオンソース部1』と『イオンソース部(イオン生成)1とアナライザーマグネット(質量分析)2との間』の『引出電極(イオン引出)11』」は、本願発明1の「イオン源」に、引用発明の「所望のイオンを選ぶためのアナライザーマグネット部2」は、本願発明1の「『特定の質量及び価数の』『イオンを選別して導出する質量分離器』」に、引用発明の「2次イオンは、荷電粒子であるので、電気的に除去可能なアインツェルレンズ」は、本願発明1の「前記イオンビームが通過するビーム通過領域を形成するとともに、電圧が印加されて所定のフィルタ電位となり、イオンのエネルギー差を利用して、前記ビーム通過領域を通過する通過イオンと通過しない非通過イオンとを選別するエネルギーフィルタ」に、引用発明の「アインツェルレンズが、イオンが通過する開口が形成されているとともにイオンの進行方向に沿って設けられた3組のフォーカス調整用電極を有し」は、本願発明1の「前記エネルギーフィルタが、前記イオンビームが通過する開口が形成されるとともに前記イオンビームの進行方向に沿って設けられた3枚以上の電極を有し」に、引用発明の「イオン注入装置」は、本願発明1の「イオンビーム照射装置」に、それぞれ相当する。

イ 引用発明の「イオン注入装置」は、「半導体装置等の製造に用いられている」ので、注入する「イオン」はドーパントイオンであり、さらに、引用発明における「『イオンソース部(イオン生成)1とアナライザーマグネット(質量分析)2との間』の『引出電極(イオン引出)11』」の位置関係を考慮すると、引用発明の「所望のイオンを選ぶためのアナライザーマグネット部2」は、本願発明1の「前記イオン源から引き出されたイオンビームから特定の質量及び価数のドーパントイオンを選別して導出する質量分離器」に相当する。

ウ 上記イで認定したように、引用発明の注入する「イオン」はドーパントイオンであり、引用発明の「装置部材をビームスパッタすることにより生じたスパッタ粒子或いはスパッタによる2次イオンが重金属汚染として基板内に打ち込まれることが懸念され、この時のスパッタによる2次イオン」は、ドーパントイオンでないイオンであるので、引用発明の「イオンビームが通過する際に、装置部材をビームスパッタすることにより生じたスパッタ粒子或いはスパッタによる2次イオンが重金属汚染として基板内に打ち込まれることが懸念され、この時のスパッタによる2次イオンは、荷電粒子であるので電気的に除去可能なアインツェルレンズ」と、本願発明1の「『前記通過イオンに前記ドーパントイオンが含まれ、前記非通過イオンに前記質量分離器において前記ドーパントイオンとは選別されない不要イオンであって、前記プラズマ生成部と前記引出電極との間でイオン化した不要イオンの少なくとも一部が含まれるように、前記フィルタ電位が設定されて』いる『エネルギーフィルタ』」とは、「『前記通過イオンに前記ドーパントイオンが含まれ、前記非通過イオンに前記質量分離器において前記ドーパントイオンとは選別されない不要イオンであって、』『不要イオンの少なくとも一部が含まれるように、前記フィルタ電位が設定されて』いる『エネルギーフィルタ』」の点で一致している。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「生成部及び生成部からイオンビームを引き出す引出電極を備えたイオン源と、
前記イオン源から引き出されたイオンビームから特定の質量及び価数のドーパントイオンを選別して導出する質量分離器と、
前記イオンビームが通過するビーム通過領域を形成するとともに、電圧が印加されて所定のフィルタ電位となり、イオンのエネルギー差を利用して、前記ビーム通過領域を通過する通過イオンと通過しない非通過イオンとを選別するエネルギーフィルタとを具備し、
前記通過イオンに前記ドーパントイオンが含まれ、前記非通過イオンに前記質量分離器において前記ドーパントイオンとは選別されない不要イオンであって、イオン化した不要イオンの少なくとも一部が含まれるように、前記フィルタ電位が設定されており、
前記エネルギーフィルタが、前記イオンビームが通過する開口が形成されるとともに前記イオンビームの進行方向に沿って設けられた3枚以上の電極を有しているイオンビーム照射装置。」

(相違点1)本願発明1は、「プラズマ生成部」が「プラズマを生成する」機能を有するのに対し、引用発明は、「イオンを生成するイオンソース部1」がプラズマを生成する機能を有するのか明らかでない点。

(相違点2)ドーパントイオンとは選別されない不要イオンが、本願発明1は、前記プラズマ生成部と前記引出電極との間でイオン化したものであるのに対し、引用発明は、イオンビームが通過する際に、装置部材をビームスパッタすることにより生じたスパッタ粒子或いはスパッタによる2次イオンが重金属汚染として基板内に打ち込まれることが懸念され、この時のスパッタによる2次イオンである点。

(相違点3)本願発明1は、「3枚以上の電極」「の少なくとも1つが前記フィルタ電位となり、その他の電極が前記フィルタ電位よりも小さい電位となり、両端に配置された電極の電位が互いに等しく」なるのに対し、引用発明は、「3組のフォーカス調整用電極」の電位がそのようなものであるのか明らかでない点。

(相違点4)本願発明1は、「エネルギーフィルタ」が、「前記両端に配置された電極の間に設けられて、イオンビームの形状を制御するための形状制御電圧が印加される形状制御電極をさらに有している」のに対し、引用発明は、「アインツェルレンズ」が、そのような形状制御電極をさらに有しているのか明らかでない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点2及び上記相違点4について合わせて検討する。
ア 引用発明のQ-レンズや引用文献3に記載の「ビーム整形器32」は、いずれも本願発明1でいう「イオンビームの形状を制御するための形状制御電圧が印加される形状制御電極」と同様な機能を有するものと認められる。
しかしながら、引用発明のQ-レンズはアインツェルレンズ(本願発明の「エネルギーフィルタ」に相当)とは異なる位置に設けられている。また、引用文献3に記載の「ビーム整形器32」は、「軌道補正兼用偏向電磁石30」と「ビーム走査器34」の間に設けられており、引用発明のQレンズに換えて引用文献3の上記ビーム整形器を適用してもアインツェルレンズとは異なる位置に設けられることになる。そうすると、本願発明1の「形状制御電極」は、「エネルギーフィルタ」の「前記両端に配置された電極の間に設けられて」いることから、引用発明のQレンズに換えて引用文献3の上記ビーム整形器を適用しても、本願発明1の位置関係にならない。
また、当該位置関係は、引用文献2の上記技術的事項でもなく、周知技術であるともいえない。

イ さらに、補足すると、本願明細書【0043】に「不要イオンを可及的に多く分離させるべくフィルタ電位Vfilをチャンバ電位Vchに近づけた場合、イオンビームIBが過集束してしまう可能性がある。そこで、イオンビームの形状を制御できるようにするためには、」「イオンビームの形状を制御するための形状制御電圧V_(C)が印加される形状制御電極112をさらに具備することが好ましい。」と記載されているように、エネルギーフィルタと形状制御電極の位置関係は、フィルタ電位Vfilをチャンバ電位Vchに近づけた場合に生じたものである。そして、フィルタ電位Vfilをチャンバ電位Vchに近づける理由は、相違点2に記載した、ドーパントイオンとは選別されない不要イオンが、本願発明1は、プラズマ生成部と引出電極との間でイオン化したものであることから、生じている。
そうすると、本願発明1の位置関係にすることも適宜なし得ることでもない。

ウ したがって、上記相違点1、3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本願発明2-6について
本願発明2-6も、本願発明1を減縮する発明であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定について
審判請求時の補正により、本願発明1-6は「前記エネルギーフィルタが、前記イオンビームが通過する開口が形成されるとともに前記イオンビームの進行方向に沿って設けられた3枚以上の電極を有し、これらの電極の少なくとも1つが前記フィルタ電位となり、その他の電極が前記フィルタ電位よりも小さい電位となり、両端に配置された電極の電位が互いに等しく、前記エネルギーフィルタが、前記両端に配置された電極の間に設けられて、イオンビームの形状を制御するための形状制御電圧が印加される形状制御電極をさらに有して」いるという事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1-3に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-01-15 
出願番号 特願2016-30922(P2016-30922)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 右▲高▼ 孝幸小林 直暉  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 山村 浩
野村 伸雄
発明の名称 イオンビーム照射装置  
代理人 齊藤 真大  
代理人 西村 竜平  

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