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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C22C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C22C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C22C
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 C22C
管理番号 1348188
審判番号 不服2017-17148  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-20 
確定日 2019-02-12 
事件の表示 特願2013- 87779「スケール剥離性に優れた鍛接鋼管」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月13日出願公開、特開2014-210953、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願の手続の経緯は以下のとおりである。
平成25年 4月18日 出願
平成28年 5月24日 刊行物等提出書の提出
この刊行物等提出書を「提出書1」
ということがある。
平成28年10月25日 拒絶理由通知書の発送
(平成28年10月20日付け)
平成28年12月14日 意見書及び手続補正書の提出
平成29年 5月 9日 拒絶理由通知書(最初)の発送
(平成29年 4月27日付け)
平成29年 7月 6日 意見書及び手続補正書の提出
平成29年 8月22日 拒絶査定の発送
(平成29年 8月18日付け)
平成29年11月20日 審判請求書の提出
平成30年 4月18日 刊行物等提出書の提出
この刊行物等提出書を「提出書2」
ということがある。
平成30年 6月 5日 拒絶理由通知書の発送
(平成30年 6月 1日付け)
平成30年 8月 2日 意見書及び手続補正書の提出
平成30年12月 4日 審尋の発送(平成30年11月28日付け)
平成30年12月19日 回答書の提出

第2 本願発明について
本願の請求項1?5に係る発明は、平成29年7月6日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載される事項によって特定される以下のとおりのものである。
(各請求項に係る発明を請求項の順に「本願発明1」?「本願発明5」と記載し、それらを総称して「本願発明」と記載することがある。)

「 【請求項1】
鍛接後、地鉄上のFe_(2)SiO_(4)層とFeO層からなり、Fe_(2)SiO_(4)層とFeO層の界面近傍のFeO層側に気孔が存在するスケール構造を有する鍛接衝合部に歪を0.15以上与える鍛接鋼管であって、質量%で、Si量が、1.00%以下で、下記式(1)を満たすことを特徴とするスケール剥離性に優れた鍛接鋼管。
Si(質量%)≧0.33T/1000-0.31・・・(1)
T:鍛接後の鋼管温度(℃)
【請求項2】
前記鍛接鋼管が、質量%で、Siを0.50%以下含有することを特徴とする請求項1に記載のスケール剥離性に優れた鍛接鋼管。
【請求項3】
前記鍛接鋼管が、質量%で、
C :0.005?0.25%、
Mn:0.1?2.0%、
P :0.035%以下、
S :0.035%以下
を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のスケール剥離性に優れた鍛接鋼管。
【請求項4】
前記鍛接鋼管が、さらに、質量%で、
Al:0.005?0.08%、
を含有することを特徴とする請求項3に記載のスケール剥離性に優れた鍛接鋼管。
【請求項5】
前記鍛接鋼管が、さらに、質量%で、
Ti:0.05?0.1%、及び、Nb:0.05?0.1%の1種又は2種
を含有することを特徴とする請求項4に記載のスケール剥離性に優れた鍛接鋼管。」

第3 原査定について
3-1.原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、本願発明1?5に係る発明は、下記の引用文献5,6の記載を参酌すれば、下記の引用文献1?4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第1号に該当して特許を受けることができないか、そうでないとしても、下記の引用文献5,6の記載を参酌すれば、引用文献1?4に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とするものである。
以下に、原査定で引用された文献及び刊行物等提出書で引用された文献を記す。これ以降、当該文献を引用する場合には、通し番号を用いて「引例10」のように記す。

3-2.引例1の記載事項
引例1?6の内で、特別な成分を含有しない鍛接鋼管について記載され、「鍛接温度」が明記される引例1に着目する。
引例1には、次のような記載がある。
(1ア)「【請求項1】 所定の幅の鋼帯を加熱し熱間成形を行った後、鍛接する鍛接管の製造方法において、
C :0.1?0.3%以下、
Si:0.05?0.50%、
Mn:1.0?2.5%、
P :0.02%以下、
S :0.02%以下、
Al:0.01?0.08%
を含有し、残部Fe及び不可避の元素分からなる成分とした鋼帯を、加熱温度を1350℃?1450℃とし、鍛接することを特徴とする高張力高靭性鍛接鋼管の製造方法。」
(1イ)「【0005】本発明はこのような従来の鍛接鋼管の製造方法での問題点を解決し、高強度高靭性の鍛接鋼管の製造方法を提供することを目的とするものである。」
(1ウ)「【0008】図1に示す本発明の方法は、所定の幅の鋼帯を連続的に加熱炉に挿入し、約1350℃?1450℃に加熱後、成形スタンドで成形し、鍛接直前で酸素ブローをし鍛接する。その後ストレッチレデューサーで絞り、所定の外径肉厚にすることは従来の方法と同じである。このように加熱温度を高くすることにより、酸素ブローにより、鋼帯の融点が低くてもエッジを鍛接温度である1400℃?1500℃に加熱することが可能となる。・・・」
(1エ)表1-2(【表2】【0017】)

(1オ)「【0018】【発明の効果】従来の製造方法で高張力高靭性鍛接鋼管を製造しようとすれば、衝合部品質が不安定で、製造できる成分はかなり限定される。すなわち、高張力高靭性鋼管のように添加元素が多いと融点が下がり、融けやすくなり、エッジに付着したスケールは除去しやすくなり前者の目的は達成できるが、融点が下がるために酸化熱ではエッジ部を鍛接可能な温度まで上げることができず、鍛接ができないという問題点があった。本発明の方法を適用することによって、安定した衝合部品質で高張力高靭性鍛接鋼管の製造が可能となった。」

3-3.引例1に記載された発明
i)引例1の記載事項(1ア)から、引例1には、同記載事項の成分組成で構成される「高張力高靱性鍛接鋼管の製造方法」が記載され、同方法により鍛接された「高張力高靱性鍛接鋼管」も記載されているといえる。
なお、引例1の鋼管の成分組成は質量%で記載されていると認める。
ii)前記i)における鍛接された「高張力高靱性鍛接鋼管」の具体例が記載事項(1エ)の表1-2に記載され、その内の矢印を付した「高張力高靱性鍛接鋼管」の組成は、C:0.20%、Si:1.00%、Mn:1.0%、P:0.02%、S:0.015%、Al:0.01%、Mo:0.2%、Cr:0.2%、Ti:0.01%、B:10ppm である。
ここで、表1-2の矢印を付した「高張力高靱性鍛接鋼管」を選択した理由は、後記するように、Si含有量と鍛接温度の関係が本願発明1の式(1)を満足するものが、矢印を付したもののみであるからである。
iii)同鍛接された「高張力高靱性鍛接鋼管」の鍛接温度は、記載事項(1ウ)から、「1400℃?1500℃」である。
iv)そうすると、引例1には、
「C:0.20%、Si:1.00%、Mn:1.0%、P:0.02%、S:0.015%、Al:0.01%、Mo:0.2%、Cr:0.2%、Ti:0.01%、B:10ppmを含有し、残部Fe及び不可避の元素分からなる所定の幅の鋼帯を加熱し熱間成形を行った後、鍛接温度を1400℃?1500℃とし、鍛接した高張力高靭性鍛接鋼管。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3-4.本願発明1と引用発明との対比
i)引用発明のSi含有量が1.00%であることは、本願発明の「質量%で、Si量が、1.00%以下」に相当する。
ii)引用発明の鍛接温度は「1400℃?1500℃」であり、このとき本願発明1の式(1)の右辺から、引用発明のSi含有量は0.152?0.185%より大なるべきことが計算されるが、引用発明のSi含有量は1.00%であって0.152?0.185%より大きいから、引用発明は本願発明1の式(1)を満たしている。
iii)すると、本願発明1と引用発明とは、
「鍛接鋼管であって、質量%で、Si量が、1.00%以下で、下記式(1)を満たす鍛接鋼管。
Si(質量%)≧0.33T/1000-0.31・・・(1)
T:鍛接後の鋼管温度(℃)
ただし、鋼管のSi(質量%)含有量は1.00%であり、Tは1400℃?1500℃であり、式(1)の右辺の値は0.152?0.185%である。」の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)鋼管のSi(質量%)含有量と鍛接後の鋼管温度T(℃)との関係について、本願発明では式(1)の関係にあるのに対して、引用発明では特定の鋼管のSi(質量%)と鍛接後の鋼管温度Tのときに式(1)の関係が満足されているにとどまり、式(1)自体の関係が特定されているものではない点。

(相違点2)「鍛接衝合部」の「スケール構造」について、本願発明1では「地鉄上のFe_(2)SiO_(4)層とFeO層からなり、Fe_(2)SiO_(4)層とFeO層の界面近傍のFeO層側に気孔が存在する」ものであるのに対して、引用発明では、明らかでない点。

(相違点3)スケールを除去するために、「鍛接後、スケール構造を有する鍛接衝合部」へ与える歪みについて、本願発明1では「0.15以上与える」のに対して、引用発明では明らかでない点。

(相違点4)スケール剥離性について、本願発明1では優れるものであるのに対して、引用発明では明らかでない点

3-5.相違点についての検討
相違点1ないし4は、相互に技術的に関連するので、以下では、これらをまとめて検討する。

3-5-1.引用発明との同一性、引用発明からの容易想到性
本願明細書【0024】?【0034】の記載を総合すると、本願発明1は、鍛接後の鋼管温度T(℃)との関係が式(1)を満たすSi(質量%)含有量を有する金属組成の鋼管は、「地鉄上のFe_(2)SiO_(4)層とFeO層からなり、Fe_(2)SiO_(4)層とFeO層の界面近傍のFeO層側に気孔が存在する」スケール構造を有し、当該スケール構造は0.15以上の歪みに対して「気孔」に沿って容易にスケールが剥離するために、スケール剥離性に優れるという効果を奏するものであるといえる。
これに対して、引用発明は、上記記載事項(1イ)(1オ)に記載されるように、「安定した衝合部品質」を有する鍛接された「高張力高靭性鍛接鋼管」を得ることを課題とするもので、必ずしもスケールの剥離性について積極的に考慮されたものではない。
そして、引用発明では、特定の鋼管のSi(質量%)と鍛接後の鋼管温度Tのときに本願発明1の式(1)の関係が偶然に満足されたにすぎないものであって、引例1には、特定の鋼管のSi(質量%)と鍛接後の鋼管温度Tとの間に、スケールの剥離性と関係する相関関係のあることは記載も示唆も無いのだから、本願発明の式(1)の関係が存在することは当業者であっても想起することはできない。
仮に、引用発明において、特定の鋼管のSi(質量%)と鍛接後の鋼管温度Tのときに本願発明1の式(1)の関係が偶然に満足された場合であっても、その場合に鍛接部分が「地鉄上のFe_(2)SiO_(4)層とFeO層からなり、Fe_(2)SiO_(4)層とFeO層の界面近傍のFeO層側に気孔が存在する」スケール構造となっていて、「気孔」に沿って容易にスケールが剥離するという効果が奏されることまでは、引例1の記載によって示唆されるものとは到底いうことができない。
以上から、引用発明は相違点1?4に係る本願発明1の特定事項を備えておらず、本願発明1は引用発明と同一とはいえない。
また、引例1の記載から、鋼管のSi量と鍛接温度とが特定の関係にあるときに最小の歪みでも剥離しやすいスケール構造になることは示唆されず、相違点1?4に係る本願発明1の特定事項に当業者が容易に想到することもできない。

3-5-2.他の引例からの容易想到性
次に、他の引例からの上記相違点に係る本願発明の特定事項への容易想到性について検討する。
以下に、各引例の記載について検討する。

<1>引例2について
引例2には、衝合部の品質の優れた高張力高靭性鍛接鋼管を提供するために、所定の幅の鋼帯を加熱し熱間成形を行った後、鍛接する鍛接管において、鋼帯をC:0.005?0.25%、Si:0.05?0.30%、Mn:0.1?1.5%、P:0.025%以下、S:0.025%以下、Al:0.005?0.08%の他、Ti:0.01?0.1%、Nb:0.005?0.1%及びV:0.005?0.1%の内、一種以上を添加することを基本とし、残部Fe及び不可避の元素分からなる成分である衝合部品質の優れた高張力鋼靭性鍛接鋼管(【要約】)について記載されている。
そして、1200?1350℃に加熱後に加熱スタンドで成形し鍛接直前で酸素ブローすること(【0007】)は記載されており、酸化熱で温度上昇させて鍛接することは示されているが、鍛接温度は具体的には記載されておらず、鋼管のSi量と鍛接温度とが特定の関係にあるときに最小の歪みでも剥離しやすいスケール構造になることについては記載も示唆もない。

<2>引例3について
引例3には、衝合部品質の優れた鍛接鋼管を提供するために、所定の幅の鋼帯を加熱し熱間成形を行った後、鍛接する鍛接管の製造方法において、鋼帯をC:0.005?0.05%、Si:0.03?0.15%、Mn:0.1?0.2%、P:0.025%以下、S:0.025%以下、Al:0.005?0.08%、Ti:0.05?0.1%、N:50?100ppmを添加することを基本とし、残部Fe及び不可避の元素分からなる成分である衝合部品質の優れた高張力高靱性鍛接鋼管(【要約】)について記載されている。
そして、約1200℃?1350℃に加熱後、成形スタンドで成形し、鍛接直前で酸素ブローをし鍛接すること(【0007】)は示されているが、鍛接温度は具体的には記載されておらず、鋼管のSi量と鍛接温度とが特定の関係にあるときに最小の歪みでも剥離しやすいスケール構造になることについては記載も示唆もない。

<3>引例4について
引例4には、鍛接部と母材の材質の差がない高品質の鍛接鋼管を提供するために、C:0.03?0.25%,Si:0.3 %以下,Mn:0.3 ?1.5 %,P:0.06%以下,S:0.04%以下,Ti:0.003 ?0.3 %,Al:0.005 %?0.1 %を含み、残部Fe及び不可避不純物からなる鍛接鋼管(【要約】)について記載されているが、鍛接部に不活性ガスを噴射して鍛接(【0016】)しており、そもそも鍛接部のスケールを除去するという課題が存在しない。

<4>引例5について
引例5には、「【請求項1】C:0.01?0.2 質量%、Si:0.2 ?2.0 質量%、Mn:0.2 ?3.0 質量%、P:0.001 ?0.1 質量%、S:0.001 ?0.1 質量%、B:0.0025?0.05質量%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる高Si含有鋼材を、900 ?1170℃で加熱した後、熱間圧延するに際し、この熱間圧延での仕上げ圧延の開始までに、10MPa 以上の高圧水で1回以上デスケーリングを行うことを特徴とする表面性状に優れた高Si含有鋼板の製造方法。」が記載されており、鍛接鋼板の鍛接部ではなく、平らな鋼板の表面に生じたスケールの剥離性を向上させるために、B,Pを鋼組成として添加すると、1173℃未満で加熱した際に【図3】に示されるような剥離性の良いスケール性状を得ることができること(【0025】【0026】)が記載されている。
しかし、下図に示されるように、スケール構造を示す本願の【図3】(b)と引例5の【図3】とは、特に気孔(気泡)の位置について、本願発明では「地鉄7」の上の「Fe_(2)SiO_(4) 11」の直上でFeO中に存在するのに対して、引例5では地鉄である「Fe」の直上で「FeO+Fe_(2)SiO_(4)」の層のFeO中に存在しており、両者の剥離容易なスケール構造は相違するものであり、これは本願発明が鍛接鋼板の鍛接部のスケール構造であり鋼板がBを含まないのに対して、引例5に記載の技術手段は接続のための高温加熱を要しない平らな鋼板の表面に生じたスケール構造であり鋼板がBを必須成分として含むことに起因する相違であると考えられる。
そのため、引例5には、鋼管のSi量と鍛接温度とが特定の関係にあるときに最小の歪みでも剥離しやすいスケール構造になることについては記載も示唆もない。

<5>引例6について
引例6には、「電縫鋼管を製造するに際して鋼帯を連続的に成形して相対する突き合わせ端面をクサビ形状に収束させ、該突き合わせ端面を高周波電流で加熱し、しかも該クサビ形状の開放側からクサビ形状の頂点へレーザービームを投射してクサビ形状の頂点を溶接温度まで加熱するレーザービームを併用した高周波電縫溶接を行う電縫鋼管の製造方法」について記載されており、電縫管で溶接部靭性を母材並みにするために歪みを0.3以上となるように圧延するものである(特許請求の範囲)が、電縫鋼管の合金組成の記載は無く、そもそも電縫管は母材を略溶解して接続するものであるのに対して、鍛接は母材を軟らかくする程度で溶解するまでに至らないから、本願発明の鍛接鋼管の鍛接部と、引例6の電縫管の接続部分とには、金属組織における差違がある、すなわち、スケール構造に差違があるといえる。
そして、引例6には、鋼管のSi量と鍛接温度とが特定の関係にあるときに最小の歪みでも剥離しやすいスケール構造になることについては記載も示唆もない。

<6>引例7について
引例7には、鍛接衝合部品質の優れた高品質鍛接鋼管を提供するために、所定の幅の鋼帯を加熱し熱間成形を行った後、鍛接する鍛接管の製造方法において、鋼帯をC:0.005?0.25%、Si:0.05?0.30%、Mn:0.1?1.5%、P:0.025%以下、S:0.025%以下、Al:0.005?0.08%の他、Cu:0.01?0.2%、Cr:0.01?0.3%、をCu+Cr:0.4%以下になるように添加することを基本とし、残部Fe及び不可避の元素分からなる成分であることを特徴とする鍛接衝合部品質の優れた高品質鍛接鋼管(【要約】)について記載されている。
そして、約1200℃?1350℃に加熱後、成形スタンドで成形し、鍛接直前で酸素ブローをし鍛接すること(【0010】)は記載されており、酸化熱で温度上昇させて鍛接することは示されているが、鍛接温度は具体的には記載されておらず、鋼管のSi量と鍛接温度とが特定の関係にあるときに最小の歪みでも剥離しやすいスケール構造になることについては記載も示唆もない。

<7>引例8について
引例8には、高強度高靭性のためにBを必須とする鋼帯を、鍛接時に鍛接部の上流側からレーザーを照射することにより鍛接部を加熱した後、鍛接する高強度高靭性鍛接鋼管の製造方法(【請求項1】【0013】) が記載されている。
そして、約1100℃?1300℃に加熱後、成形スタンドで成形し、その後、鍛接時に酸素ブローを実施するとともに、鍛接部にレーザーを照射することにより鍛接部を加熱するものであり、レーザーを照射することにより、酸素ブローでの加熱の不足分を補うとともに、エネルギー密度が高いために加熱幅も小さく、ビードが発生しない(【0008】)ものであるので、従来の高周波誘導加熱+酸素ブローによる方法ではビード切削が必要であり、その調整のためたびたびラインを停止し、大幅に生産性が低下していたところ、引例8の技術手段は、鋼管の金属組成をBを含む所定の成分とするとともに鍛接時にレーザーを照射することにより高強度高靭性鍛接鋼管の製造が可能となった(【0014】)ものである。
したがって、引例8の技術手段では鍛接鋼管の鍛接部のスケールの除去そのものが問題とならないものであり、鋼管のSi量と鍛接温度とが特定の関係にあるときに最小の歪みでも剥離しやすいスケール構造になることについては記載も示唆もない。

<8>引例9について
引例9の1102?1103頁には、鍛接後の鍛接鋼管を複数のロールスタンドで管外径を絞っていくことについて記載され、当該絞りにより鋼管に与える歪が、「各スタンドの外径絞り率」の計算式(1103頁左欄)と図12・125(1103頁)のスタンド番号毎の外径絞り率の読み取り値により計算され、最終的に15A(管外径21.7mmの管)、100A(管外径114.3mmの管)にするのに、前者は歪0.588、後者は歪0.170が与えられる場合が記載されていることが理解される(刊行物等提出書2 28?30頁参照。)ところ、引例9には鍛接後に鍛接鋼管に与えられるが歪が0.15以上の場合があることを示すのみで、鋼管のSi量と鍛接温度とが特定の関係にあるときに最小の歪みでも剥離しやすいスケール構造になることについては記載も示唆もない。

<9>引例10について
引例10には、鍛接鋼管の鍛接部において、鍛接ロールの直下では鍛接部の外面は鍛接ロールに接しているためにエッジ面のスケールの一部がとじ込められ、外面側に残り、外面すじを形成しやすく、後工程の絞りロールによっても殆ど改善されず、絞り率が小さい場合は、外観上、外面すじが目立つため、これを絞り加工の前に切削して除去すること(3欄1?32行)が記載されているが、これは、絞り加工の際に与えられる歪みにより鍛接部のスケールが剥離することとは事象が異なり、鋼管のSi量と鍛接温度とが特定の関係にあるときに最小の歪みでも剥離しやすいスケール構造になることについては記載も示唆もない。

<10>引例11について
引例11には、衝合部品質の優れた高強度高靭性鍛接鋼管及びその製造方法の提供するために、C:0.005?0.25%、Si:0.05?0.30%、Mn:0.1?1.5%、P:0.025%以下、S:0.025%以下、Al:0.005?0.08%、Cr:0.1?0.3を基本とし、残部Fe及び不可避の元素分からなる成分である、所定の幅の鋼帯を加熱し熱間成形を行った後、鍛接、ストレッチレデュース後、A_(C1) ?A_(C3) の温度域でサイザー圧延を行うことにより高強度高靭性鍛接鋼管を製造すること(【要約】)について記載されている。
そして、約1200℃?1350℃に加熱後、成形スタンドで成形し、鍛接直前で酸素ブローをして鍛接し、その後ストレッチレデューサーで絞ること(【0013】)は示されているが、鍛接温度は具体的には記載されておらず、鋼管のSi量と鍛接温度とが特定の関係にあるときに最小の歪みでも剥離しやすいスケール構造になることについては記載も示唆もない。

<11>引例12について
引例12の31頁右欄12行?32頁左欄6行には次の記載がある。

また、図10(35頁左欄)及び35頁左欄下から12行?右欄3行には次の記載がある。

上記記載によれば、引例12には、4種類の「Si含有量」(≦0.03、0.5,1.5,3.0mass%)のSi含有鋼に「均熱処理・鍛造・熱間圧延、冷間圧延」を行い各「板状試験片」を製造し、これに「所定温度」で「74%N_(2)-17%H_(2)O-8%CO_(2)-1%O_(2)」の混合ガスを導入して所定時間保持しN_(2)雰囲気中で冷却したときのスケール構造について記載され、当該スケール構造が、「Si含有量」の大小(「Low Si」(≦0.03mass%)、「High Si」(3.0mass%))と、「所定温度」の高低(「1373K」、「1473K」)の4つの組み合わせについて図10に示されている。
そして、図10の「High Si」「1473K」のスケール構造は、本願明細書【図3】(b)と酷似している。
しかしながら、該図10に示されるのは「均熱処理・鍛造・熱間圧延、冷間圧延」を行った「Si 含有量3mass%」の「板状試験片」に、酸素含有量1%のガスの存在下で1473K(1200℃)で保持した際のスケール構造であり、本願発明の「Si 含有量1%以下」の鋼管に、空気もしくは酸素(少なくとも酸素含有量20%)を吹き付けて式(1)を満たす温度で鍛接した際のスケール構造とは異なるものというべきである。
したがって、鋼管のSi量と鍛接温度とが特定の関係にあるときに最小の歪みでも剥離しやすいスケール構造になることについては記載も示唆もない。

<12>引例13について
引例13の1121頁の左欄には、(17・19)式として、引張試験の歪の定義式が記載されているのみで、鍛接鋼管について何ら記載は無く、鋼管のSi量と鍛接温度とが特定の関係にあるときに最小の歪みでも剥離しやすいスケール構造になることについては記載も示唆もない。

以上から、引例2?13をみても、鋼管のSi量と鍛接温度とが特定の関係にあるときに最小の歪みでも剥離しやすいスケール構造になることについては記載も示唆もない。また、このような内容の技術常識もない。
したがって、本願発明1は、引例1に記載された発明及び引例2?13に記載の技術手段に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3-6.本願発明1についての小括
以上から、本願発明1は、引例1に記載されたものではなく、また、引例1に記載された発明及び引例2?13に記載された技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
よって、本願発明1は拒絶理由を有しない。

3-7.本願発明2?5についての小括
本願発明2?5は、いずれも本願発明1を直接又は間接的に引用し、本願発明1の特定事項を有しているので、本願発明1が上記のように拒絶理由を有するものではないから、本願発明2?5も拒絶理由を有するものでない。

第4 刊行物等提出書で指摘された拒絶理由について
刊行物等提出書1は、引例1、2、4、5、7?11に基づき新規性進歩性の欠如を指摘し、また、記載要件不備を指摘し、刊行物等提出書2は、引例1、2、4、7?13に基づき新規性進歩性の欠如を指摘し、また、記載要件不備を指摘する。

4-1.新規性進歩性について
新規性進歩性については、上記「第3」で検討したように、いずれの引例にも、鍛接鋼管において鋼管のSi量と鍛接温度とが特定の関係にあるときに最小の歪みでも剥離しやすいスケール構造になることについては記載も示唆もないから、本願発明1?5は、何れの引例に記載されたものでもなく、また、引例1?13あるいは技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

4-2.記載不備について
以下、刊行物等提出書に記載された記載不備に関する指摘について検討する。

4-2-1.刊行物等提出書1について
(1)サポート要件(特許法第36条第6項第1号)
<指摘の概要>
Si含有量について0.02%以下、0.15%(0.10%)以上の実施例がなく、本願発明はその範囲で明細書の記載により裏付けられていない。
(提出書1 34?37頁「1.Si量について」)
<当審の判断>
鋼種D(Si 0.10wt%、実施例3でT=1200℃、比較例4でT=1300℃)、鋼種G(Si 0.03wt%、実施例1でT=1030℃、比較例3でT=1250℃)については、鍛接温度Tの差違から実施例と比較例との双方が示されており(【表1】(【0052】)、【表2】(【0053】))、【図5】で示される直線の上側に課題を解決できる実施例があり、下側に比較例があることが理解される。
すると、Si量が0.02%以下又は0.15%(0.10%)以上については、同直線を外挿すれば、Si量が0.02%以下又は0.15%(0.10%)以上でも、鍛接温度とSi含有量との関係のプロット位置が同直線の上側であれば課題が解決され、下側であれば比較例であることは理解されるから、Si量について0.02%以下、0.15%(0.10%)以上の実施例が示されていなくても、本願発明の課題が解決できる範囲は理解されるので、Si量について0.02%以下、0.15%(0.10%)以上の実施例が示されていないことをもって本願発明がサポートされていないとまではいうことはできない。
なお、平成30年8月2日付け意見書の「3.3)」(5頁)の説明から、「鍛接後の鋼管温度T」は「放射温度計」で測定されることが必要な程度に高温であり、当該測定方法によって測定されることを踏まえて本件明細書【0032】?【0035】の記載を参酌すれば、「鍛接後の鋼管温度T」は実質的に「鍛接直後の鋼管温度」を意味することは明らかである。

(2)サポート要件(特許法第36条第6項第1号)
<指摘の概要>
【図5】と、Si含有量と鍛接温度の関係式(1)について、歪み15%以外の時には別の式になるはずだから、クレームの「歪0.15」超の場合は、本願発明は明細書の記載により裏付けられていない。
(提出書1 37頁「2.式(1)について」)
<当審の判断>
歪0.15は最も歪みの剥離しにくい条件下でも剥離できるための最小の歪量であり(本願明細書【0030】)、それより大きい歪み量に対しては剥離できることが理解できるのだから、本願発明がサポートされていないということはできない。

(3)サポート要件(特許法第36条第6項第1号)
<指摘の概要>
出願当初の「【請求項5】前記鍛接鋼管用鋼材が、さらに、質量%で、Al:0.005?0.08%、を含有することを特徴とする請求項4に記載のスケール剥離性に優れた鍛接鋼管用鋼材。」について、【表1】(【0052】)の各鋼種A?HでAlの含有量は最小でも「0.20」で、それより小さい含有量は記載がなく、「Al:0.005?0.08%」は明細書の記載により裏付けられていない。
(提出書1 37?38頁「3.Al量について」)
<当審の判断>
出願当初の【請求項5】に対応する平成29年7月6日の手続補正書の【請求項4】(本願発明4)は「前記鍛接鋼管が、さらに、質量%で、Al:0.005?0.08%、を含有することを特徴とする請求項3に記載のスケール剥離性に優れた鍛接鋼管。」であり、その根拠記載である本願明細書の【0043】【0052】は平成28年12月14日の手続補正書により誤記が補正されて、【0052】ではAlの含有量が全ての鋼種で1桁小さくなり、【0043】では「Al:0.005?0.08%」となされ、Alの上限を「0.08%」とする理由も記載されていることから、上記指摘は解消され、本願発明4は明細書の記載によりサポートされている。

(4)サポート要件(特許法第36条第6項第1号)
<指摘の概要>
出願当初の「【請求項6】前記鍛接鋼管用鋼材が、さらに、質量%で、
Ti:0.005?0.1%、及び、Nb:0.05?0.1%の1種又は2種を含有することを特徴とする請求項5に記載のスケール剥離性に優れた鍛接鋼管用鋼材。」の根拠記載は、Ti及びNbを含有する鋼種B(【表1】(【0052】))であるが、鋼種BはAlが0.30%で、出願当初の【請求項5】の「Al:0.005?0.08%」の範囲にないから、結果として鋼種Bは本願発明に含まれず、すると、出願当初の【請求項6】は、根拠記載が無く、明細書の記載により裏付けられていない。
(提出書1 38頁下から11?5行)
<当審の判断>
上記(3)の<当審の判断>と同じ。
出願当初の【請求項6】に対応する平成29年7月6日の手続補正書の【請求項5】(本願発明5)は、すでに平成28年12月14日の手続補正書により、Ti及びNbを含有する鋼種Bは本願発明に含まれることとされているから、上記指摘は解消され、本願発明5は明細書の記載によりサポートされている。

(5)サポート要件(特許法第36条第6項第1号)
<指摘の概要>
出願当初の「【請求項4】前記鍛接鋼管用鋼材が、質量%で、C :0.005?0.25%、Si:1.00%以下、Mn:0.1?2.0%、P :0.035%以下、S :0.035%以下を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載のスケール剥離性に優れた鍛接鋼管用鋼材。」は「Al」を含まないが、本願明細書【0052】の鋼種A?Hには全て「Al」が含有されており、「Al」は必須成分と考えられるから、出願当初の【請求項4】に係る発明は明細書の記載により裏付けられていない。
(提出書1 38?39頁「4.本願発明4について」)
<当審の判断>
出願当初の【請求項6】に対応する平成29年7月6日の手続補正書の【請求項3】(本願発明3)は「【請求項3】前記鍛接鋼管が、質量%で、C :0.005?0.25%、Mn:0.1?2.0%、P :0.035%以下、S :0.035%以下を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のスケール剥離性に優れた鍛接鋼管。」である。
ここで、本願発明は、本願明細書【0024】?【0035】に記載されるように、鋼管のSi量と鍛接温度とが特定の関係にあるときに最小の歪みでも剥離しやすいスケール構造になるものである。
つまり、Alは当該スケール構造に直接的に関係する必須成分ではないが、同【0043】には「Al:0.005?0.08% Alは、脱酸剤として添加する元素である。キルド鋼の場合、製鋼技術上、0.005%未満に抑制することは難しいので、下限を0.005%とする。0.08%を超えると、鋳片の割れや、酸化物系の巨大な介在物に起因する内質欠陥等が発生し易いので、上限を0.08%とする。」と記載され、製鋼技術上Alは0.005%未満にできず、不可避的不純物として含まれるものといえる。
すると、本願発明は、Alを必須成分と含まなくても、課題を解決して所期の効果を奏し得ることは明らかだから、本願発明3は、Alを必須成分としてでなく、不可避的不純物として含むものとして明細書の記載によりサポートされているといえる。

(6)明確性要件(特許法第36条第6項第2号)
<指摘の概要>
本件発明1は、「鋼管」の成分である「Si」について、「Si量が、1.00%以下で、下記式(1)を満たすことを特徴とするスケール剥離性に優れた鍛接鋼管。
Si(質量%)≧0.33T/1000-0.31・・・(1)
T:鍛接後の鋼管温度(℃)」として、「T:鍛接後の鋼管温度(℃)」により「Si量」を決定するように特定されているが、「鍛接後の鋼管温度T(℃)」は、製造条件そのものであるので、結果として請求項1に記載された発明は、「鍛接鋼管」という「物」の発明を、製造方法で特定しているものとなっており、いわゆるPBPクレームであるから、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2?5は明確でない。
(提出書1 39頁「5.本願発明1?6について」)
<当審の判断>
当審の審尋に対する回答書には、スケール構造は多様であり、当該構造に何らかの規則性を見出して包括的に特定することは困難で、また、仮に規則性があったとしても、当該規則性を見出すためには、現実的でない膨大な回数の鍛接試験と組織観察を繰り返す必要があり、時間的費用的に非実際的であり、本件発明がPBPクレームで特定されるとしても、それには不可能・非実際的事情の存することは明らかである旨記載されており、当審もこれを肯定できるので、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2?5は明確であると認める。

4-2-2.刊行物等提出書2について
(1)明確性要件(特許法第36条第6項第2号)
<指摘の概要>
上記「4-2-1.(6)<指摘の概要>」と略同じ。
(提出書2 2?5頁 「1.本願発明1について (1)明確性要件違反(その1)」?「(3)明確性要件違反(その3)」)
<当審の判断>
上記「4-2-1.(6)<当審の判断>」と略同じ。

(2)明確性要件(特許法第36条第6項第2号)
<指摘の概要>
一般的な「歪」は、引例13の1121頁の左欄に(17・19)式として記載されるように通常の丸棒の引張試験の歪の定義式で定義されるが、本願発明1において「0.15以上」与えられる「歪」は「管」に生ずる歪であり、その定義が明らかでないから、本願発明1は明確でない。
(提出書2 5頁「1.本願発明1について (4)明確性要件違反(その4)」)
<当審の判断>
平成30年8月2日付け意見書の「3.4)」(5頁)の説明から、「管」に生ずる歪は、以下の文献の記載(要すれば本審決11頁の上記「第3 3-5-2.<8>」の記載を参照。)から容易に計算されるものである。
すなわち、鍛接鋼管の縮径工程での歪は、当業者であれば、当該文献に記載されるような歪測定に係る技術常識に基づいて計測できることは明らかで、本件明細書に直接記載がなくても、記載されているに等しい事項であるから、本願発明1は明確であるといえる。

(文献):日本鉄鋼協会「第3版鉄鋼便覧第III巻(2)条鋼・鋼管・圧延共通設備」(昭和57年1月20日、第2刷、丸善株式会社発行)、第1103頁左欄8?18行

なお、同文献は、引例9であり、上記「第3 3-5-2.<8>」で検討したように、「管」に生ずる歪は容易に計算できるものであり、これは提出書2の28?30頁でも認識されているものである。

(3)実施可能性要件(特許法第36条第4項第1号)
<指摘の概要>
上記「(2)<指摘の概要>」と同じ。
さらに、本願明細書【0051】で「表1に成分組成を示す板厚2.0?8.6mmの鋼板を管状に成形し、通常の鍛接条件で鋼板端部を鍛接して、内径13?108mmの鍛接鋼管を製造した。」と記載されるが、各実施例毎の縮径前の寸法と縮径後の寸法が不明だから、本願発明1は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されたものとはいえない。
(提出書2 6頁「1.本願発明1について (5)実施可能要件違反」)
<当審の判断>
本願明細書【表2】(【0053】)には、実施例と比較例が記載され、「歪」も記載されているから、縮径後の寸法を「内径13?108mm」のいずれかに決めれば、縮径前の寸法は計算できるから、本願発明1は、実施可能であり、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されたものといえる。

(4)サポート要件(特許法第36条第6項第1号)
<指摘の概要>
本願明細書【表2】(【0053】)には、Fe_(2)SiO_(4)とFeOの界面での気孔の生成と、スケール剥離性の向上についての記載は見いだせず、気孔の存在によりスケール剥離性が向上するという本願発明は裏付けられていない。
(提出書2 6頁「1.本願発明1について (6)サポート要件(その1)」)
<当審の判断>
本願明細書【表2】(【0053】)では、各実施例、各比較例について、スケール構造を観察した結果としての「気孔の有無」と「スケール剥離性」の評価が記載されており、実施例では「気孔」が存在して「スケール剥離性」に優れ、比較例では「気孔」が存在せず「スケール剥離性」が良くないことが明示されているから、気孔の存在によりスケール剥離性が向上するという本願発明は裏付けられているといえる。

(5)サポート要件(特許法第36条第6項第1号)
<指摘の概要>
上記「4-2-1.(1)<指摘の概要>」に同じ。
(提出書2 6?7頁「1.本願発明1について (7)サポート要件違反(その2)」)
<当審の判断>
上記「4-2-1.(1)<当審の判断>」に同じ。

(6)サポート要件、明確性要件、実施可能要件(特許法第36条第6項第1、2号、同条第4項第1号)
<指摘の概要>
本願発明2は本願発明1を引用するから、本願発明2は本願発明1と同様に記載が不備である。
(提出書2 7頁「2.本願発明2について」)
<当審の判断>
上記(1)?(5)で検討したように、本願発明1はサポート要件、明確性要件、実施可能要件を満たすから、本願発明1を引用する本願発明2も同様に記載不備はない。

(7)サポート要件、明確性要件、実施可能要件(特許法第36条第6項第1、2号、同条第4項第1号)
<指摘の概要>
i)上記「4-2-1.(5)<指摘の概要>」に同じ。
ii)本願発明3は本願発明1、2を引用するから、本願発明3は本願発明1、2と同様に記載が不備である。
(提出書2 8頁「3.本願発明3について」)
<当審の判断>
i)上記「4-2-1.(5)<当審の判断>」に同じ。
ii)上記(1)?(6)で検討したように、本願発明1、2はサポート要件、明確性要件、実施可能要件を満たすから、本願発明1、2を引用する本願発明3も同様に記載不備はない。

(8)サポート要件、明確性要件、実施可能要件(特許法第36条第6項第1、2号、同条第4項第1号)
<指摘の概要>
本願発明4は本願発明3を引用し、本願発明3は本願発明1,2をさらに引用するから、本願発明4は本願発明1?3と同様に記載が不備である。
(提出書2 8頁「4.本願発明4について」)
<当審の判断>
上記(1)?(7)で検討したように、本願発明1?3はサポート要件、明確性要件、実施可能要件を満たすから、本願発明1?3を引用する本願発明4も同様に記載不備はない。

(8)サポート要件(特許法第36条第6項第1号)
<指摘の概要>
上記「4-2-1.(4)<指摘の概要>」と同じ。
(提出書2 8頁「5.本願発明5について」)
<当審の判断>
上記「4-2-1.(4)<当審の判断>」と同じ。

4-2-3.刊行物等提出書1、2で指摘された記載不備についての結言
以上から、本件発明1?5について、刊行物等提出書1、2で指摘された記載不備の存在は認められない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願については、原査定の拒絶理由、当審拒絶理由、刊行物等提出書を検討しても、それらの理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-01-28 
出願番号 特願2013-87779(P2013-87779)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C22C)
P 1 8・ 113- WY (C22C)
P 1 8・ 537- WY (C22C)
P 1 8・ 536- WY (C22C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 本多 仁蛭田 敦  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 長谷山 健
中澤 登
発明の名称 スケール剥離性に優れた鍛接鋼管  
代理人 福地 律生  
代理人 亀松 宏  
代理人 齋藤 学  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  

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