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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04C 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04C |
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管理番号 | 1348350 |
審判番号 | 不服2017-13951 |
総通号数 | 231 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-03-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-09-20 |
確定日 | 2019-01-24 |
事件の表示 | 特願2013- 73093「多気筒ロータリ圧縮機」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月16日出願公開、特開2014-196714〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年3月29日の出願であって、平成29年1月5日付けの拒絶理由の通知に対し、平成29年3月13日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成29年6月13日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成29年9月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされた。その後、当審により平成30年6月14日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成30年8月20日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項に係る発明は、平成30年8月20日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「多気筒ロータリ圧縮機であって、 密閉容器内に配置されるモータと、 前記密閉容器内に配置され該モータに連結されたクランク軸により駆動される圧縮機構と、を備え、 該圧縮機構が、 複数のシリンダと、 該複数のシリンダ間を仕切る仕切板と、 前記複数のシリンダの上面に設けられ前記クランク軸を支持する上部軸受と、 前記複数のシリンダの下面に設けられ前記クランク軸を支持する下部軸受と、 前記各シリンダ内を吸入側と吐出側とに仕切るブレードと、前記各シリンダ内を回動するロータとを備えたロータリ圧縮機構とされており、 前記モータのコア径をΦMo、前記各シリンダの内径をΦDc、前記各シリンダの幅をHc、前記仕切板の幅をHsとしたとき、 ΦDc/ΦMo≧0.49かつ、 Hs/Hc≦0.35 を満たし、 前記ブレードの両側面は、表面にCrN系等のPVD膜もしくはDLC膜等の硬質被膜が施されている多気筒ロータリ圧縮機。」 第3 当審における拒絶の理由 平成30年6月14日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由3は、次のとおりのものである。 本件出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2?10に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 引用文献1:特開2011-174472号公報 引用文献2:特開平10-9168号公報 引用文献3:特開昭61-126395号公報 引用文献4:特開平5-5497号公報 引用文献5:特開2011-226426号公報 引用文献6:特開昭64-56982号公報 引用文献7:国際公開第2012/032765号 引用文献8:特開2009-299649号公報 引用文献9:特開2008-101523号公報 引用文献10:特開2005-257240号公報 第4 引用文献 1.平成30年6月14日付けで当審が通知した拒絶理由で引用された引用文献1(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (1)「【0013】 実施の形態1. 図1はこの発明の実施の形態1による密閉形圧縮機を概略的に示す縦断面図である。図2?図5は図1に示すかしめ部の構造および形成方法を説明するための要部断面図である。図6は図5に示すかしめ部を密閉容器の外側から見た図である。図7は図1に示すかしめ部の構造を説明するための要部断面図である。図1において、1は容器である密閉容器、101は密閉容器1に内蔵される内蔵部品の一種である圧縮機構部で、容器1内に収納され圧縮室周囲を覆い圧縮を行う圧縮手段を形成するものである。103は、圧縮機構部に圧縮するガスを供給するための吸入管、2は圧縮機構部101に駆動力を供給する電動機の固定子、3は回転電機である電動機の回転子である。固定子2は密閉容器1に焼嵌めにより固定されている。」 (2)「【0105】 実施の形態2および3において、ワーク204はツインロータリ圧縮機であって、上シリンダ12の外周にかしめを施したが、上シリンダ12以外のもう一方の下シリンダや、上シリンダ12の上部や下シリンダ下部に配置される上下軸受部品の一方、2つのシリンダ間に存在し、2つの圧縮室を仕切る仕切板にかしめ部を形成する場合でも同様な装置で、精度よい安定した品質のかしめが実現できるし、シリンダが1つのみのシングルロータリ圧縮機のシリンダや上下軸受、スクロール圧縮機の固定スクロールや主軸受部品や副軸受部品であっても、また圧縮機の電動機固定子であっても適用でき、同様な効果を奏する。」 (3)「【0106】 実施の形態4. この発明の第実施の形態4を図について説明する。図25はこの発明の実施の形態4による圧縮機を概略的に示す断面図である。図26は図25の圧縮機の上シリンダ部分で、(a)は下穴部分を破断して示す平面図、(b)は縦断面図である。図27は図25の圧縮機の下シリンダ部分で、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。図28は図25の圧縮機のかしめの応力による上シリンダ部分の歪みの説明図である。図29は図25の圧縮機のかしめの応力による上シリンダ部分の歪み量を説明する無次元化したグラフである。図25?図29において、1は密閉形圧縮機の容器である密閉容器で、2は密閉容器1内に設置された回転電機の固定子、3は固定子2により回転を付与される回転子である。12は密閉容器1内に設置される上シリンダ、8は上シリンダ12内に配置され回転子3により回転するクランクシャフト6のクランクシャフト上偏芯部6aに嵌り偏芯回転する上ローリングピストン、10は上シリンダ12のベーン溝12bに嵌り、上シリンダ12内を上ローリングピストン8とともに上圧縮室21を高圧側と低圧側に区分する上ベーンである。 【0107】 13は上シリンダ12の下面にボルト(図示せず)で固定される仕切り板、5は上シリンダ12の上面にボルト(図示せず)で固定され上シリンダ12と上シリンダ12の下端面に固定される仕切り板13とともに上圧縮室21を構成するフレームである。冷媒ガスを圧縮する過程で上圧縮室21内で上シリンダ12の内径と上ローリングピストン8のを冷凍機油(図示せず)により半径方向でシールするシール部12eにおいて、冷媒ガスが高圧側から低圧側に漏れることで圧縮機の冷凍能力が低下することを防止するため上シリンダ12内の上ローリングピストン8は上シリンダ12の内径12aに対して微少隙間を保って配置されており、また同様の理由から上ローリングピストン8の上下面と仕切り板13及びフレーム5との間に微少隙間を保って配置されている。また冷媒ガスを圧縮する過程において密閉容器1内の高圧ガスが吸入側に漏れることで圧縮機の冷凍能力の低下を防止するために上ベーン10は上シリンダ12のベーン溝12bに微少隙間を保って配置されている。 【0108】 11は仕切り板13の下端面に固定される下シリンダ、7は下シリンダ11内に配置され回転子3により回転するクランクシャフト6のクランクシャフト下偏芯部6bに嵌り偏芯回転する下ローリングピストン、9は下シリンダ11のベーン溝11bに嵌り、下シリンダ11内を下ローリングピストン7とともに高圧側と低圧側に区分する下ベーンである。4は下シリンダ11の下面にボルト(図示せず)で固定され下シリンダ11と下シリンダ11の上端面にボルト(図示せず)で固定される仕切り板13とともに下圧縮室20を構成するシリンダヘッドである。冷媒ガスを圧縮する過程で下圧縮室20内で下シリンダ11の内径と下ローリングピストン7を冷凍機油(図示せず)により半径方向でシールするシール部11eにおいて、冷媒ガスが高圧側から低圧側に漏れることで圧縮機の冷凍能力が低下することを防止するため下シリンダ11内の下ローリングピストン7は下シリンダ11の内径11aに対して微少隙間を持って配置されており、また同様の理由から下ローリングピストン7と仕切り板13及びシリンダヘッド4との間に微少隙間を持って配置されている。また冷媒ガスを圧縮する過程において密閉容器1内の高圧ガスが吸入側に漏れることで圧縮機の冷凍能力の低下を防止するために下ベーン9は下シリンダ11のベーン溝11bに微少隙間を保って配置されている。 【0109】 このようにこの実施の形態では容器1内に収納され圧縮室周囲を覆い圧縮を行う圧縮手段を形成する内蔵部品である圧縮機構部101が、上下シリンダ11,12、フレーム5、仕切り板13、シリンダヘッド4などで構成されている。また、22は密閉容器1の外部に固定され上部に設置された吸入管23から冷凍回路(図示せず)から冷媒ガスを吸入し、下端に設置した下接続管24を経由して下圧縮室20に吸入ガスを供給し、下端に設置した上接続管25を経由して上圧縮室21に吸入ガスを供給する吸入マフラーである。 【0110】 そして、図25?図26に示すように密閉容器1の内径寸法をDsとし、上シリンダ12の外径寸法をDucoとすると、上記実施の形態1?3で説明したと同様に、Ds>Ducoとなるような寸法関係となっており、密閉容器1を上シリンダ12と固定する際に隙間を有する隙間嵌めにしている。また上シリンダ12の外周面には上記実施の形態1?3で説明したようにかしめを行なう下穴102が近接して配置され、この二つ一組の下穴102の固定部が周方向に複数個配置されており、この例では3ヶ所設けられている。そして密閉容器1の上記下穴対向位置を加熱し、押付冶具111によって圧力を加え密閉容器1の容器壁部である内周に凸部107を形成し、それぞれこの容器凸部107を上記上シリンダ12の外周に設けられた下穴102に入り込ませて挿入し、冷却後上記密閉容器1の収縮により容器壁部の近接する凸部107が下穴102をはさみこむことにより上記実施の形態1?3と同様な装置や加工方法によって、上シリンダ12を密閉容器1にかしめ部で固定している。 【0111】 そして、この例では上シリンダ12の外径寸法をDucoとし、上ローリングピストン8が収納される上シリンダ12の内径寸法をDuciとすると、 Duci/Duco<0.75 の寸法関係となるようにしている。 【0112】 次に動作について説明する。冷凍回路から吸入される冷媒ガスは吸入管23を介して吸入マフラー22内部に吸い込まれ、上接続管25を経由して上シリンダ12に供給される。上シリンダ12の低圧側に吸入された冷媒ガスは、回転子3の回転によるクランクシャフト6の偏芯部6aの偏芯回転により上シリンダ12内を偏芯回転する上ローリングピストン8と上シリンダ12のベーン溝12bに嵌りこむ上ベーン10により圧縮され密閉容器1内に吐出される。圧縮された冷媒ガスは密閉容器1から冷媒回路(図示せず)に吐出され、凝縮、減圧、蒸発を経て圧縮機へ吸入され再び圧縮されるというサイクルを繰り返す。 【0113】 上シリンダ12の外周に設けられた一組の下穴102の固定部と密閉容器1に設けられた一組の凸部107にて上シリンダ12を固定する際、複数箇所のかしめ部の密閉容器1内周の凸部107と上シリンダ外周面に設けられた下穴102の位置が設計どおりの許容範囲位置であれば、かしめ時に冷却により密閉容器1が収縮した際密閉容器内周の一組の隣接する凸部107は互いに対向する方向に近接し、上シリンダ12には外周の隣りあう一組の下穴102の間に局部的な応力を発生させるのみで、上シリンダの内径12aに歪みを発生することがないが、部品の製造ばらつきなどの原因から複数箇所の密閉容器1内周の凸部107と上シリンダ外周の下穴102の固定部の位置が設計位置からずれている場合、冷却速度のばらつきにより最初に固定された箇所のかしめ部を基準として、冷却速度の遅れから次に固定される箇所では密閉容器内周の凸部107と上シリンダの外周の下穴102の位置がずれて、密閉容器1が熱収縮する際に密閉容器1内周の凸部107が上シリンダ12外周の下穴102を例えば最初にかしめ固定された箇所の方向に向かってなど、この下穴102が隣あって対向する方向以外に、例えば図28の矢印線12fに示すようにかしめ部間で応力を発生させてしまい、上シリンダ12全体に応力が発生する場合があり、上シリンダ12の内径12aが歪んでしまう。 【0114】 上述のように上シリンダ内径12aと上ローリングピストン8は冷媒ガスの高圧側から低圧側への漏れよる性能低下防止のため、微少な隙間を保って設けてあるが、図28の矢印12fに示すようにかしめの応力により例えば12g線でわかりやすく示したように上シリンダの内径12aが歪んでしまうとこの微少隙間が拡大し上記シール部12eにおける冷媒ガスの高圧側から低圧側への漏れが発生し、圧縮機が冷媒回路(図示せず)に吐出する冷媒ガスの循環量が減少し、冷凍能力の低下を招き、また高圧側から低圧側への冷媒ガスの漏れにより冷媒の再圧縮が発生し圧縮機入力が増大し、圧縮機の効率の低下を招く。 【0115】 図29は上シリンダ12の外径寸法Ducoと上シリンダ12の内径寸法Duciを変化させた場合の上シリンダ12の内径12aのひずみ量を無次元化して示した図である。 容器1内に収納されて、上圧縮室21周囲を覆い圧縮を行なう圧縮手段を形成する内蔵部品の一つである上シリンダ12において、この結果によればDuci/Ducoの比率が0.75(=75パーセント)を下回る場合、すなわち上シリンダ12の外径に対して上シリンダ12の内径12aが所定値より小さい場合、上シリンダ12の径方向の肉厚が厚くなりこの部分の剛性により上シリンダ12の外径部分での密閉容器1へのかしめ固定による応力の影響が小さくなり、上シリンダ12の内径12aのひずみを小さくできて冷媒ガス漏れを防止でき、良好な性能、効率の圧縮機を提供することができる。」 (4)「【0146】 また、上記の実施の形態4の圧縮機の製造工程は実施の形態1?3と同様に製造することができ、例えば、容器1内に収納され圧縮を行う圧縮手段を形成する内蔵部品又は圧縮手段を支持する内蔵部品であって、所定値以上の幅を有する外周面に互いに近接して配置された複数の下穴102を設けた内蔵部品を、隙間を介して設けられる容器1内に収納するステップと、複数の下穴102に対向する位置に加熱範囲を抑えて容器1の外側から容器材料の軟化する温度以上且つ融点未満の温度範囲で加熱すると共に、下穴102の内径以下の押付治具111で容器壁部を押しつけて容器壁部を下穴102内に入り込ませるステップと、入り込ませた容器壁部(凸部107)を周方向に配置した複数の下穴群にて内蔵部品を挟みこんで容器1に固定するステップと、を備えるようにすればよく、内蔵部品のひずみを小さくできて良好な性能で高効率の圧縮機を製造することができるという効果がある。また、押付治具111で容器壁部を押し付ける際に、容器外周側から複数箇所を略等ピッチにて押し付けるようにすることで、さらに内蔵部品のひずみを小さくできて良好な性能で高効率の圧縮機を製造することができるという効果がある。」 (5)段落【0106】?【0108】及び図25の記載から、引用文献1の圧縮機は、ツインロータリ圧縮機であるといえる。 (6)段落【0107】の「13は上シリンダ12の下面にボルト(図示せず)で固定される仕切り板」との記載、及び、段落【0108】の「4は下シリンダ11の下面にボルト(図示せず)で固定され下シリンダ11と下シリンダ11の上端面にボルト(図示せず)で固定される仕切り板13とともに下圧縮室20を構成するシリンダヘッドである。」との記載から、仕切り板13は、上シリンダ12の下面に固定されると共に下シリンダ11の上端面に固定されているといえる。 (7)上記(5)、引用文献1の段落【0106】?【0109】及び図25?28より、圧縮機構部101は、ロータリ圧縮機構であるといえる。 (8)他の実施の形態に係るものではあるが、引用文献1の段落【0013】の「固定子2は密閉容器1に焼嵌めにより固定されている。」との記載、段落【0146】の「上記の実施の形態4の圧縮機の製造工程は実施の形態1?3と同様に製造することができ」との記載、図25及び出願時の技術常識等を参酌すると、引用文献1には、回転電機の固定子は密閉容器に固定されていることが記載されているといえる。 したがって、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「ツインロータリ圧縮機であって、 密閉容器1内に設置された回転電機と、 前記密閉容器1内に収納され圧縮室周囲を覆い圧縮を行う圧縮手段を形成する圧縮機構部101と、 前記圧縮機構部101が、 上シリンダ12及び下シリンダ11と、 前記上シリンダ12の下面に固定されると共に前記下シリンダ11の上端面に固定される仕切り板13と、 前記上シリンダ12の上面に固定されるフレーム5と、 前記下シリンダ11の下面に固定されるシリンダヘッド4と、 前記上シリンダ12内を高圧側と低圧側に区分する上ベーン10及び下シリンダ11内を高圧側と低圧側に区分する下ベーン9と、 前記上シリンダ12内に配置され前記回転電機の回転子3により回転するクランクシャフト6のクランクシャフト上偏芯部6aに嵌り偏芯回転する上ローリングピストン8及び前記下シリンダ11内に配置され前記回転電機の回転子3により回転するクランクシャフト6のクランクシャフト下偏芯部6bに嵌り偏芯回転する下ローリングピストン7とを備えたロータリ圧縮機構とされており、 前記上シリンダ12の外径寸法をDucoとし、前記上シリンダ12の内径寸法をDuciとすると、 Duci/Duco<0.75 の寸法関係となり、 前記密閉容器1の内径寸法をDsとし、前記上シリンダ12の外径寸法をDucoとすると、 Ds>Duco の寸法関係となり、 前記回転電機の固定子は前記密閉容器1に固定されている ツインロータリ圧縮機。」 2.平成30年6月14日付けで当審が通知した拒絶理由で引用された引用文献2(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (1)「【0003】一般に、シリンダと仕切板を積み重ねる複数シリンダロータリ圧縮機の特徴として、主軸受4と副軸受9の軸受間距離が長いことが挙げられている。よって、運転時にはクランク軸4偏心部の振れ回りが大きくなる。これを防止するため、軸受間距離を出来るだけ小さくするため、仕切板は薄いことが望まれる。」 以上より、引用文献2には、以下の事項が記載されていると認められる。 「シリンダと仕切板を積み重ねる複数シリンダロータリ圧縮機において、運転時にはクランク軸4偏心部の振れ回りが大きくなるので、これを防止するため、軸受間距離を出来るだけ小さくするため、仕切板は薄いことが望まれること。」 3.平成30年6月14日付けで当審が通知した拒絶理由で引用された引用文献3(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (1)「〔産業上の利用分野〕 この発明は主として冷凍あるいは空気調和装置に用いられる2気筒形回転圧縮機に係り,特に冷媒の吸入系路での圧力損失の低減を図つたものである。」(第1頁右下欄第16?20行) (2)「〔発明が解決しようとする問題点〕 上記のように従来例における冷媒ガスの吸入通路は中間仕切板(9)に設けているため,複雑な加工工程を必要とし,また大容量の場合には当該吸入通路での圧力損失が大きくなり,これを避けようとすれば,使用する中間仕切板を厚くして吸入通路の内径の拡大を図る必要があるが,その場合には駆動軸(1)の軸受(7)(8)間の距離が増大し,軸撓みのために軸受に片当りが生じ軸受および駆動軸の信頼性が低下するという欠点があった。この発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。 〔問題点を解決するための手段〕 この発明は各圧縮要素(A)(B)に至る第1および第2の吸入通路をそれぞれのシリンダに,その間の中間仕切板と平行になるように設けると共に,各々の吸入通路に接続された第1および第2の吸入管を,密閉外被の外側で共通吸入管に接続させたものである。 〔作用〕 この発明の場合は冷媒ガスの吸入通路を中間仕切板に設けず,各シリンダに設けているので,各吸入通路の加工が容易になり,また使用する中間仕切板も薄くできるので,軸受間隔が狭く駆動軸に軸撓みを生ずることもない。」(第2頁右上欄第4行?左下欄第7行) 以上より、引用文献3には、以下の事項が記載されていると認められる。 「2気筒形回転圧縮機において、使用する中間仕切板を薄くできると、軸受間隔が狭く駆動軸に軸撓みを生ずることがないこと。」 4.平成30年6月14日付けで当審が通知した拒絶理由で引用された引用文献4(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (1)「【0003】また、上述のような能力可変型のロ-タリコンプレッサのレリ-ス方法として、両シリンダ1、2間に介在して両シリンダ1、2を仕切る中間仕切板3にレリ-ス機構部を内蔵し、中間仕切板3に冷媒ガスを通過させる方法がある。そして、このレリ-ス方法には、経路が短縮化され、且つ、機構がシンプルであるため、レリ-ス効率が高いという利点がある。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】ところで、能力可変型のロ-タリコンプレッサにおいては、両シリンダ1、2を挟んでクランクシャフト4を支持するメインベアリング5とサブベアリング6との距離が、冷媒ガスの圧縮に伴って生じるシャフト曲げ力に影響する。このため、両軸受5、6間の距離を短く設定しなければ、シャフト曲げ力が大となり、クランクシャフト4に偏磨耗が生じ、圧縮ロスが増加する。 【0005】したがって、能力可変型のロ-タリコンプレッサにおいては、両軸受5、6間の距離を短くするために、両軸受5、6間に配置される中間仕切板3をでき得るかぎり薄く設定することが必要である。」 以上より、引用文献4には、以下の事項が記載されていると認められる。 「能力可変型のロ-タリコンプレッサにおいては、両シリンダ1、2を挟んでクランクシャフト4を支持するメインベアリング5とサブベアリング6との距離が、冷媒ガスの圧縮に伴って生じるシャフト曲げ力に影響することから、能力可変型のロ-タリコンプレッサにおいては、両軸受5、6間の距離を短くするために、両軸受5、6間に配置される中間仕切板3をでき得るかぎり薄く設定することが必要であること。」 5.平成30年6月14日付けで当審が通知した拒絶理由で引用された引用文献8(以下、「引用文献5」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (1)「【0056】 ロータリ圧縮機200が上記運転動作を行う場合、部品同士が摺動する摺動部が以下に示すように複数ある。 (1)第1の摺動部:ローリングピストン2の外周2aとベーン3の先端3a(内側); (2)第2の摺動部:シリンダ1のベーン溝1aとベーン3の側面部3b(両側面); (3)第3の摺動部:ローリングピストン2の内周2bとクランク軸6の偏心軸部6a; (4)第4の摺動部:主軸受け4の内周とクランク軸6の主軸部6b; (5)第5の摺動部:副軸受け5の内周とクランク軸6の副軸部6c。」 (2)「【0062】 先ず、第1の摺動部であるローリングピストン2の外周とベーン3の先端3aにおいては、ベーン3の表面に炭素系のDLC-Si(ダイヤモンドライクカーボン-シリコン)コーティング(非金属の一例)を施した構成となっている。このため、ローリングピストン2の外周とベーン3の先端3aとの間の摺動は金属同士の直接的な接触を避けることができ、高温条件となりにくく、また金属表面も活性化されにくいので、冷媒の分解や重合を抑制することができる。 【0063】 DLC-Siコーティングは、シリコンを含有したアモルファスカーボンであり、表層硬度は2000?2500Hmv、膜厚さは3μm程度である。 【0064】 第2の摺動部であるシリンダ1のベーン溝1aとベーン3の側面部3bにおいても、上述のベーン3の表面にDLC-Siコーティングを施すことにより、金属同士の直接的な接触を避けることができ、高温条件となりにくく、また金属表面も活性化されにくいので、冷媒の分解や重合を抑制することができる。」 以上より、引用文献5には、以下の事項が記載されていると認められる。 「ロータリ圧縮機200において、ベーン3の側面部3b(両側面)においても、ベーン3の表面にDLC-Siコーティングを施すこと。」 6.本願出願前に頒布された刊行物である特開2005-155461号公報(以下、「引用文献6」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (1)「【0020】 図3に、本発明の圧縮機、即ちロータリコンプレッサ1に用いられるベーン40の概略断面図を示す。ベーン40には、少なくとも、その母材40bの先端部分40aの摺動部分、即ちローラ38との接触部分に硬質被膜40cが形成されていることが好ましい。」 (2)「【0028】 図7は、母材40bを窒化処理を施して窒化層40dを形成し、その後、ベーン先端部分40aに硬質被膜40cを形成するものであり、図8は、ベーン40の先端部分40aに硬質被膜40cを形成した後、窒化処理を施して窒化層40d形成するものである。窒化層40dは、硬質被膜40c上には形成されないため、硬質被膜40cを形成した後、窒化処理すると、図8の如き層となる。 図8の場合、図面上、硬質被膜40cの左右両側に形成される傾斜面上に、この傾斜にあわせて窒化層40dが形成されるため、窒化層40dにより硬質被膜40cの脱落が抑えられ、硬質被膜40cの剥離の更なる防止効果を奏する。 また、図9に示す如く、ベーン40の全面に窒化層40dを形成した後、更にベーン40全面に硬質被膜40cを形成しても良い。この場合、ベーン40先端部分40aの耐摩耗性の向上を図ると共に、ベーン40のベーンスロット41との摺動部分も耐摩耗性の向上を図る事ができ、以って、ベーン40の耐久性向上を図る事ができる。 【0029】 窒化層は、イオン窒化法やガス窒化法等の方法で母材の鉄を窒化させることで形成することができる。 窒化層を例えばガス窒化法で形成する場合、その条件としては、処理温度480℃、保持時間3Hr、アンモニアガス流量6m3/Hr、窒素と硫化水素混合ガス1L/minとする事が好ましい。この窒化層40dの厚さは20?100μmの範囲とし、好ましくは30?40μmとする。 【0030】 硬質被膜もPVD(Physical Vapor Deposition;物理蒸着)法やCVD(Chemical Vapor Deposition;化学蒸着)法等、種々の方法で形成することができるが、成膜時の加熱により窒化層40dの表面硬化層を失うことがなく、摺動特性の向上に有効な強固な付着力を示す被膜の形成が可能なPVD法を用いることが望ましい。 【0031】 具体的には、高速度工具鋼(SKH51)の母材の表面に、PVD法により、Crと、Tiとを含有する窒化物からなる混在硬質被膜(膜厚3μm、CrN:TiN=75:25?97:3(質量比))を形成し、ベーンを作製することができる。 PVD法による硬質被膜の形成は、例えば、イオンプレーティング法によって温度400℃、圧力3.99Pa、バイアス30Vでイオンプレーティング被膜を形成することができる。即ち、窒素等の反応ガス中にCr、Tiを蒸発させ、気相状態でイオン化して、マイナスにバイアスされた母材40b表面に反応ガスと蒸発物質イオンとの反応生成物であるCrN型窒化クロムとTiN型窒化チタンとの混合物からなるイオンプレーティング被膜を形成することができる。」 以上より、引用文献6には、以下の事項が記載されていると認められる。 「ロータリコンプレッサ1に用いられるベーン40において、ベーン40の全面に窒化層40dを形成した後、更にベーン40全面に硬質被膜40cを形成しても良く、高速度工具鋼(SKH51)の母材の表面に、PVD法により、Crと、Tiとを含有する窒化物からなる混在硬質被膜(膜厚3μm、CrN:TiN=75:25?97:3(質量比))を形成し、ベーンを作製することができること。」 7.本願出願前に頒布された刊行物である特開2005-48686号公報(以下、「引用文献7」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (1)「【0014】 本発明の請求項1および2に記載の発明は、円筒形状の内周面を有するシリンダと、前記シリンダ内周面に外周面を接しながら偏芯自在かつ出没可能に挿入されたベーンとからなり、前記ベーンが先端部をローラの外周面に摺接するようにスプリングによって付勢されてシリンダ内空間を吸入空間と圧縮空間に仕切るロータリ圧縮機であって、前記シリンダは加工面に5%以上のフェライトを含まないパーライト基地であり、片状黒鉛が晶出したネズミ鋳鉄とし、耐摩耗性を確保するため基地中の片状黒鉛面積率を8%以上で、CE値を3.80から4.10とすることを特徴とするものである。」 (2)「【0018】 請求項4に記載の発明は、クロムモリブデン焼入保証鋼を780?810℃で7?8時間球状化焼鈍を施し、冷間鍛造をしやすくし成形し、その後表面近傍の基地硬度を上昇させるため浸炭処理を施し、研磨し全面にCrNコーティングをしたPVDベーンで、請求項1および2に記載のねずみ鋳鉄に対する攻撃性も少なく、自身の摩耗も少ないことを特徴とするものである。」 以上より、引用文献7には、以下の事項が記載されていると認められる。 「ロータリ圧縮機であって、ベーンは、クロムモリブデン焼入保証鋼を780?810℃で7?8時間球状化焼鈍を施し、冷間鍛造をしやすくし成形し、その後表面近傍の基地硬度を上昇させるため浸炭処理を施し、研磨し全面にCrNコーティングをしたPVDベーンであること。」 第5 対比 (1)本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ツインロータリ圧縮機」は本願発明の「多気筒ロータリ圧縮機」に相当し、以下同様に、「密閉容器1内」は「密閉容器内」に、「設置された」は「配置される」に、「回転電機」は「モータ」に、「収容され」は「配置され」に、「上シリンダ12及び下シリンダ11」は「複数のシリンダ」に、「上シリンダ12の上面」は「複数のシリンダの上面」に、「下シリンダ11の下面」は「複数のシリンダの下面」に、「区分する」は「仕切る」に、それぞれ相当する。 (2)引用発明の「圧縮機構部101」の「上ローリングピストン8」又は「下ローリングピストン7」は、回転電機の回転子3により回転するクランクシャフト6のクランクシャフト上偏芯部6a又はクランクシャフト下偏芯部6bに嵌り偏芯回転するものであるから、「圧縮機構部101」(の上ローリングピストン8又は下ローリングピストン7)は回転電機の回転子3により回転するクランクシャフト6により駆動されているといえる(なお、他の実施の形態に係るものではあるが、引用文献1の段落【0013】には「2は圧縮機構部101に駆動力を供給する電動機の固定子」との記載もある。)。また、クランクシャフト6は回転電機の回転子3により回転することから、クランクシャフト6が回転電機(の回転子3)に連結されていることは明らかである。 そして、引用発明の「クランクシャフト6」は本願発明の「クランク軸」に相当するから、引用発明の「前記上シリンダ12内に配置され前記回転電機の回転子3により回転するクランクシャフト6のクランクシャフト上偏芯部6aに嵌り偏芯回転する上ローリングピストン8及び前記下シリンダ11内に配置され前記回転電機の回転子3により回転するクランクシャフト6のクランクシャフト下偏芯部6bに嵌り偏芯回転する下ローリングピストン7」を備えた「前記密閉容器1内に収納され圧縮室周囲を覆い圧縮を行う圧縮手段を形成する圧縮機構部101」は、本願発明の「密閉容器内に配置されモータに連結されたクランク軸により駆動される圧縮機構」に相当する。 (3)引用発明の「仕切り板13」は、上シリンダ12の下面に固定されると共に下シリンダ11の上端面に固定されるものであることから、上シリンダ12と下シリンダ11との間を仕切るものであるといえる。 してみると、引用発明の「前記上シリンダ12の下面に固定されると共に前記下シリンダ11の上端面に固定される仕切り板13」は、本願発明の「複数のシリンダ間を仕切る仕切板」に相当する。 (4)引用発明の「フレーム5」及び「シリンダヘッド4」に関し、「フレーム5」が上シリンダ12の上面に固定されるものであり、「シリンダヘッド4」が下シリンダ11の下面に固定されるものではあるが、「フレーム5」及び「シリンダヘッド4」がクランクシャフトを支持する軸受であることは明記されていない。しかしながら、他の実施の形態に係るものではあるが、引用文献1の段落【0105】の「実施の形態2および3において、ワーク204はツインロータリ圧縮機であって、・・(中略)・・、上シリンダ12の上部や下シリンダ下部に配置される上下軸受部品の一方」との記載、段落【0146】の「上記の実施の形態4の圧縮機の製造工程は実施の形態1?3と同様に製造することができ」との記載、段落【0107】?【0108】、図25及び出願時の技術常識等を参酌すると、引用発明の「フレーム5」及び「シリンダヘッド4」がクランクシャフトを支持する軸受として機能していることは明らかである。 してみると、引用発明の「前記上シリンダ12の上面に固定されるフレーム5」は本願発明の「複数のシリンダの上面に設けられクランク軸を支持する上部軸受」に相当し、引用発明の「前記下シリンダ11の下面に固定されるシリンダヘッド4」は本願発明の「複数のシリンダの下面に設けられクランク軸を支持する下部軸受」に相当する。 (5)引用発明の「上ベーン10」及び「下ベーン9」は、引用文献1の段落【0106】?【0108】、段落【0112】、図26?28より、上ベーン10は上シリンダ内を吸入側と吐出側とに仕切る部材であり、下ベーン9は下シリンダ内を吸入側と吐出側とに仕切る部材であるといえる。 また、ロータリ圧縮機において、吸入側が低圧であって、吐出側が高圧であることは技術常識である。 してみると、引用発明の「前記上シリンダ12内を高圧側と低圧側に区分する上ベーン10及び下シリンダ11内を高圧側と低圧側に区分する下ベーン9」は本願発明の「各シリンダ内を吸入側と吐出側とに仕切るブレード」に相当する。 (6)引用発明の「上ローリングピストン8」は、上シリンダ12内に配置され回転電機の回転子3により回転するクランクシャフト6のクランクシャフト上偏芯部6aに嵌り偏芯回転しており、「下ローリングピストン7」は、下シリンダ11内に配置され回転電機の回転子3により回転するクランクシャフト6のクランクシャフト下偏芯部6bに嵌り偏芯回転していることから、「上ローリングピストン8」は上シリンダ12内を回動し、「下ローリングピストン7」は下シリンダ内を回動しているといえる。 してみると、引用発明の「前記上シリンダ12内に配置され前記回転電機の回転子3により回転するクランクシャフト6のクランクシャフト上偏芯部6aに嵌り偏芯回転する上ローリングピストン8及び前記下シリンダ11内に配置され前記回転電機の回転子3により回転するクランクシャフト6のクランクシャフト下偏芯部6bに嵌り偏芯回転する下ローリングピストン7」は、本願発明の「各シリンダ内を回動するロータ」に相当する。 (7)引用発明において、「Duci/Duco<0.75」(上シリンダの外径寸法Duco、上シリンダの内径寸法Duci)には、Duci/Duco≧0.49が含まれることは明らかである(なお、引用文献1の段落【0052】には「本発明を利用して、シリンダ外周面にかしめ部を形成しロータリ圧縮機を製作する場合、・・(中略)・・同一の密閉容器1径で、シリンダ内径を拡大することによる圧縮機容量(行程容積)の拡大を図ることが可能なる」との記載があり、シリンダ内径を拡大することによる効果(圧縮機容量の拡大)も記載されている。)。 また、引用発明において、「Ds>Duco」(上シリンダの外径寸法Duco、密閉容器の内径寸法Ds)であり、上シリンダと密閉容器は隙間を有するものではあるが、引用文献1の段落【0110】より、上シリンダの外周の一部である固定部に密閉容器がかしめられることからみて、Ds>Ducoであるものの、「上シリンダの外径寸法Duco」と「密閉容器の内径寸法Ds」はほぼ同寸法であると解される。 さらに、引用発明は、回転電機の固定子を密閉容器に固定するものであることから、引用文献1の図25等の記載を参酌すると、引用発明の「密閉容器の内径寸法Ds」は回転電機の固定子の外形寸法(モータのコア径)とほぼ同寸法であると解される。 以上より、「上シリンダの外径寸法Duco」と「回転電機の固定子の外形寸法(モータのコア径)」とはほぼ同寸法であると解されることから、「Duci/Duco<0.75」には、「(上シリンダの内径寸法Duci)/(回転電機の固定子の外径寸法(モータのコア径))≧0.49」を満たすものが含まれると解される。 したがって、引用発明の「前記上シリンダ12の外径寸法をDucoとし、前記上シリンダ12の内径寸法をDuciとすると、Duci/Duco<0.75の寸法関係となり、前記密閉容器1の内径寸法をDsとし、前記上シリンダ12の外径寸法をDucoとすると、Ds>Ducoの寸法関係となり、前記回転電機の固定子は前記密閉容器1に固定されている」態様と、本願発明の「前記モータのコア径をΦMo、前記各シリンダの内径をΦDc、前記各シリンダの幅をHc、前記仕切板の幅をHsとしたとき、ΦDc/ΦMo≧0.49かつ、Hs/Hc≦0.35を満た」す態様とは、「モータのコア径をΦMo、上シリンダの内径寸法をDuciとしたとき、Duci/ΦMo≧0.49」である点で共通する。 したがって、本願発明と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 <一致点> 「多気筒ロータリ圧縮機であって、 密閉容器内に配置されるモータと、 前記密閉容器内に配置され該モータに連結されたクランク軸により駆動される圧縮機構と、を備え、 該圧縮機構が、 複数のシリンダと、 該複数のシリンダ間を仕切る仕切板と、 前記複数のシリンダの上面に設けられ前記クランク軸を支持する上部軸受と、 前記複数のシリンダの下面に設けられ前記クランク軸を支持する下部軸受と、 前記各シリンダ内を吸入側と吐出側とに仕切るブレードと、前記各シリンダ内を回動するロータとを備えたロータリ圧縮機構とされており、 前記モータのコア径をΦMo、前記上シリンダの内径寸法をDuciとしたとき、Duci/ΦMo≧0.49を満たしている多気筒ロータリ圧縮機。」 <相違点1> 本願発明は、モータのコア径をΦMo、各シリンダの内径をΦDc、各シリンダの幅をHc、仕切板の幅をHsとしたとき、ΦDc/ΦMo≧0.49かつ、Hs/Hc≦0.35を満たしているのに対し、引用発明では、(上シリンダの内径寸法Duci)/(回転電機の固定子の外径寸法(モータのコア径))≧0.49とするものではあるが、回転電機の固定子の外径(モータのコア径)と下シリンダの内径の寸法関係が不明であり、また、各シリンダの幅と仕切り板の幅の寸法関係も不明である点。 <相違点2> 本願発明は、「ブレードの両側面は、表面にCrN系等のPVD膜もしくはDLC膜等の硬質被膜が施されている」のに対し、引用発明は、ブレードの両側面の表面にCrN系等のPVD膜もしくはDLC膜等の硬質被膜が施されているか不明な点。 第6 判断 1.相違点1について 並列型のツインロータリ圧縮機において、上ロータリー圧縮機と下ロータリー圧縮機の容量を同じくし、内径を同じとすることは文献を提示するまでもなく慣用技術であることから、引用発明において、下シリンダの内径と回転電機の固定子の外径(モータのコア径)との寸法関係に関しても、(下シリンダの内径寸法)/(回転電機の固定子の外径寸法(モータのコア径))≧0.49、とすることは当業者が適宜成し得るものである。 また、複数のシリンダ間を仕切る仕切板を備えた多気筒ロータリ圧縮機において、軸受間距離の増大によるクランク軸への影響を抑制するために、仕切板を薄くすることは従来周知の技術である(例えば、引用文献2?4等参照。)。軸受間距離の増大によるクランク軸への影響を抑制するために、引用発明に引用文献2?4に例示される上記周知の技術を適用し、仕切り板を薄くすることは当業者が適宜成し得るものであり、その際に、上シリンダ又は下シリンダの幅に対して仕切り板をどの程度薄くするかは、軸受間距離や仕切り板の強度等を考慮し、当業者が適宜選択し得る事項にすぎない。また、本願発明に記載された数値範囲内の内と外のぞれぞれの効果について量的に顕著な差異を有するとも認められない。 したがって、引用発明において、相違点1に係る本願発明を特定する事項を備えるようにすることは、上記慣用技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に成し得る事項である。 2.相違点2について ロータリ圧縮機において、ブレードの両側面の表面にCrN系等のPVD膜もしくはDLC膜等の硬質被膜を施すことは従来周知の技術である(例えば、引用文献5?7等参照。)。 引用発明と引用文献5?7に例示される周知技術は、ベーンがベーン溝内を摺動する点で共通の技術分野に属する発明であることから、引用発明のベーンに引用文献5?7に例示される上記周知の技術を適用し、ブレードの両側面の表面にCrN系等のPVD膜もしくはDLC膜等の硬質被膜を施すことは当業者が容易に想到し得るものである。 3.効果について 本願発明の効果(シリンダ内径を大きくして大容量化しても、メカ負荷を抑えて1ランク上の押し退け量を持つ圧縮機を製造できる、及び、面圧上昇による異常摩耗等に対応できる)について検討しても、引用発明、引用文献2?4に例示される周知技術及び引用文献5?7に例示される周知技術から予測できる程度のものであって格別なものとはいえない。 4.請求人の主張について 請求人は、平成30年8月20日付けの意見書において「引用文献7及び引用文献8に記載の構成は、いずれも、ベーンと、ベーンの先端と接触するピストンとの関係について考慮したことに基づくものであって、ブレードのロングストローク化によるブレードの側面に係る圧力の増加を考慮したものではありません。また、他の引用文献(引用文献1?引用文献6、引用文献9及び引用文献10)にも、「前記ブレードの両側面は、表面にCrN系等のPVD膜もしくはDLC膜等の硬質被膜が施されている」という構成は、開示も示唆もされておりません。」と主張する。 しかしながら、上記2.で述べたように、ロータリ圧縮機において、ブレードの両側面の表面にCrN系等のPVD膜もしくはDLC膜等の硬質被膜を施すことは従来周知の技術であることから(引用文献5?7等参照。)、請求人の上記主張を認めることはできない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献2?4に例示される周知技術及び引用文献5?7に例示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2018-11-20 |
結審通知日 | 2018-11-27 |
審決日 | 2018-12-11 |
出願番号 | 特願2013-73093(P2013-73093) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(F04C)
P 1 8・ 121- WZ (F04C) P 1 8・ 537- WZ (F04C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 秀之 |
特許庁審判長 |
藤井 昇 |
特許庁審判官 |
久保 竜一 山村 和人 |
発明の名称 | 多気筒ロータリ圧縮機 |
代理人 | 川上 美紀 |
代理人 | 藤田 考晴 |
代理人 | 三苫 貴織 |
代理人 | 長田 大輔 |