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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1348360
審判番号 不服2018-2741  
総通号数 231 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-27 
確定日 2019-01-24 
事件の表示 特願2014- 17298「液晶硬化膜形成用組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月 6日出願公開、特開2015-143787〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年1月31日の出願であって、平成29年9月1日付けで拒絶理由が通知され、同年11月10日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年11月20日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成30年2月27日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。


第2 本件補正の補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成30年2月27日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、平成29年11月10日付けの手続補正の特許請求の範囲の請求項1
「少なくとも2種の重合性液晶化合物と、溶剤と、重合開始剤と、ジアルキルアミノベンゾフェノンおよびジアルキルアミノ基含有クマリン化合物から選ばれる第3級アミン化合物と、3個以上のチオール基を含む化合物であって該チオール基として-O-CO-R-SH〔Rは炭素数1?5の直鎖または分岐のアルキレン基である。〕を含む化合物とを含む液晶硬化膜形成用組成物。」(以下、「本件発明」という。)を
「少なくとも2種の重合性液晶化合物と、溶剤と、重合開始剤と、ジアルキルアミノベンゾフェノンと、3個以上のチオール基を含む化合物であって該チオール基として-O-CO-R-SH〔Rは炭素数1?5の直鎖または分岐のアルキレン基である。〕を含む化合物とを含み、
重合性液晶化合物が、重合性基としてビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有する化合物である液晶硬化膜形成用組成物。」(以下、「本件補正発明」という。下線部は補正箇所を示す。)
と補正するものである。

2 補正の目的
本件補正は、補正前の「第3級アミン化合物」について、「ジアルキルアミノベンゾフェノンおよびジアルキルアミノ基含有クマリン化合物から選ばれる」とされていたのを、「ジアルキルアミノベンゾフェノン」のみに限定するとともに、補正前の「重合性液晶化合物」について「重合性基としてビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有する化合物である」とする限定を加えるものである。そして、本件補正の前後で産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一のものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
そこで、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 引用文献の記載及び引用文献に記載された発明
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前の平成25年4月22日に頒布された刊行物である特開2013-71956号公報(以下、「引用文献2」という。)には、以下の記載事項がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及び光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネル表示装置(FPD)には、偏光板及び位相差板等の光学フィルムを含む部材が用いられている。このような光学フィルムとして、重合性液晶化合物、光重合開始剤及び溶剤を含む組成物を基材上に塗布することにより製造されたものが知られている。例えば、特許文献1には、式(ix-1)で表される重合性液晶化合物、光重合開始剤及び溶剤を含む組成物から形成された光学フィルムが記載されている。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-31223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1記載の組成物では、基材上に塗布する際に、その塗布条件によっては、塗布膜中で部分的に重合性液晶化合物の結晶化が生じる場合があった。そのため、該組成物は成膜性の点では改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の発明を含む。
〔1〕以下の(A)、(B)及び(C)を含む組成物。
(A)式(A)で表される化合物

[式(A)中、
X^(1)は、酸素原子、硫黄原子又は-NR^(1)-を表す。R^(1)は、水素原子又は炭素数1?4のアルキル基を表す。
Y^(1)は、置換基を有していてもよい炭素数6?12の1価の芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい炭素数3?12の1価の芳香族複素環式基を表す。
Q^(3)及びQ^(4)は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1?20の1価の脂肪族炭化水素基、炭素数3?20の脂環式炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6?20の1価の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、-NR^(2)R^(3)又は-SR^(2)を表すか、Q^(3)及びQ^(4)が互いに結合して、これらがそれぞれ結合する炭素原子とともに芳香環又は芳香族複素環を形成していてもよい。R^(2)及びR^(3)は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1?6のアルキル基を表す。
D^(1)及びD^(2)は、それぞれ独立に、単結合、-C(=O)-O-、-C(=S)-O-、-CR^(4)R^(5)-、-CR^(4)R^(5)-CR^(6)R^(7)-、-O-CR^(4)R^(5)-、-CR^(4)R^(5)-O-CR^(6)R^(7)-、-CO-O-CR^(4)R^(5)-、-O-CO-CR^(4)R^(5)-、-CR^(4)R^(5)-O-CO-CR^(6)R^(7)-、-CR^(4)R^(5)-CO-O-CR^(6)R^(7)-又は-NR^(4)-CR^(5)R^(6)-又は-CO-NR^(4)-を表す。
R^(4)、R^(5)、R^(6)及びR^(7)は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子又は炭素数1?4のアルキル基を表す。
G^(1)及びG^(2)は、それぞれ独立に、炭素数5?8の2価の脂環式炭化水素基を表し、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、硫黄原子又は-NH-に置き換っていてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチン基は、第三級窒素原子に置き換っていてもよい。
L^(1)及びL^(2)は、それぞれ独立に、1価の有機基を表し、L^(1)及びL^(2)のうち少なくとも一方が、重合性基を有する有機基である。]
(B)メルカプト基を有する化合物
(C)光重合開始剤
〔2〕前記(B)が、2個以上のメルカプト基を分子内に有する化合物である前記〔1〕記載の組成物。
〔3〕前記(A)は、
前記式(A)のL^(1)が式(A1)で表される基であり、かつL^(2)が式(A2)で表される基の化合物である前記〔1〕又は〔2〕記載の組成物。

P^(1)-F^(1)-(B^(1)-A^(1))_(k)-E^(1)- (A1)
P^(2)-F^(2)-(B^(2)-A^(2))_(l)-E^(2)- (A2)

[式(A1)及び式(A2)中、
B^(1)、B^(2)、E^(1)及びE^(2)は、それぞれ独立に、-CR^(4)R^(5)-、-CH_(2)-CH_(2)-、-O-、-S-、-CO-O-、-O-CO-O-、-CS-O-、-O-CS-O-、-CO-NR^(1)-、-O-CH_(2)-、-S-CH_(2)-又は単結合を表す。
A^(1)及びA^(2)は、それぞれ独立に、炭素数5?8の2価の脂環式炭化水素基又は炭素数6?18の2価の芳香族炭化水素基を表し、該脂環式炭化水素基を構成するメチレン基は、酸素原子、硫黄原子又は-NH-に置き換っていてもよく、該脂環式炭化水素基を構成するメチン基は、第三級窒素原子に置き換っていてもよい。
k及びlは、それぞれ独立に、0?3の整数を表す。kが2以上の整数である場合、複数のB^(1)は互いに同一であっても異なっていてもよく、複数のA^(1)は互いに同一であっても異なっていてもよい。lが2以上の整数である場合、複数のB^(2)は互いに同一であっても異なっていてもよく、複数のA^(2)は互いに同一であっても異なっていてもよい。
F^(1)及びF^(2)は、炭素数1?12の2価の脂肪族炭化水素基を表す。
P^(1)は、重合性基を表す。
P^(2)は、水素原子又は重合性基を表す。
R^(4)及びR^(5)は、前記と同じ意味を表す。]
〔4〕前記〔1〕?〔3〕のいずれか記載の組成物に含まれる重合性成分を重合して形成される光学フィルム。
〔5〕位相差性を有する前記〔4〕記載の光学フィルム。
〔6〕前記〔4〕又は〔5〕記載の光学フィルムを含む偏光板。
〔7〕前記〔4〕又は〔5〕記載の光学フィルムを備えたフラットパネル表示装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、成膜性に優れた光学フィルム製造用の組成物及び該組成物から形成される光学フィルムが提供できる。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0008】
1.組成物(以下、本発明の組成物を場合により、「本組成物」という)
本組成物は、式(A)で表される化合物(以下、場合により「化合物(A)」という)、(B)チオール基を有する化合物及び(C)光重合開始剤を含む。本発明は、本組成物、本組成物を用いて形成される光学フィルム等を提供するものであり、以下、必要に応じて図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。なお、図面中の寸法等は見易さのために任意になっている。
【0009】
1-1.化合物
本発明の組成物は、式(A)で表される化合物(A)を含む。繰り返しになるが、式(A)を以下に示す。


(中略)

【0101】
化合物(A)としては、例えば、下記化合物(i)?化合物(xxvii)が挙げられる。

(中略)

【0115】


(中略)

【0118】
さらに、化合物(A)としては、式(A1)?式(A61)でそれぞれ表されるものも挙げられる。

(中略)

【0129】

(式(A11)中の2つの*は、(A11-1)?(A11-8)のいずれかの*と結合している。)」

ウ 「【0200】
1-2.メルカプト基を有する化合物(B)
本組成物に含まれる(B)メルカプト基(-SH)を有する化合物(以下、場合により、「化合物(B)」という)としては、2個以上のメルカプト基を分子内に有する化合物であることが好ましい。2個以上のメルカプト基を含む化合物を用いることにより、本組成物から光学フィルムを形成する際、例えば基板上に本組成物を塗布とき、結晶化による成膜異常を抑制し、成膜性が向上することを、本発明者は新たに見出した。
【0201】
化合物(B)としては、脂肪族基にメルカプト基を複数有する脂肪族多官能チオール化合物が、液晶の配向を乱しにくいことなどの点から望ましい。
例えば、脂肪族多官能チオール化合物である化合物(B)としては、ヘキサンジチオール、デカンジチオール、1、4-ジメチルメルカプトベンゼン、ブタンジオールビスチオプロピオネート、ブタンジオールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、ペンタエリスリトーグリコネートトリスヒドロキシエチルトリスチオプロピオネート等が挙げられる。また、これらの化合物の他に、多価ヒドロキシ化合物のチオグリコレート、チオプロピオネート等を用いることもできる。

(中略)

【0203】
化合物(B)の好適例の1つとして、-O-CO-R-SH基(ただし、Rは炭素数1?5の直鎖又は分岐のアルカンジイル基である)を含む化合物(以下、場合により「化合物(B1)」という)を挙げることができる。このような化合物は典型的には、以下の式(B1)で表される。

式(B1)中、
Rは前記と同じ意味であり、m1は2?6の整数を表す。B1はm1価の脂肪族炭化水素基、m価の脂環式炭化水素基又はm1価の芳香族炭化水素基であり、ここでいうm1価とは、-O-CO-R-SH基のB^(1)に対する結合数(価数)を意味する。
【0204】
具体的に、化合物(B1)を例示すると、下記式(2-1)?(2-13)でそれぞれ表される化合物が挙げられる。

【0205】



エ 「【0207】
1-3.光重合開始剤(C)
本組成物は光重合開始剤を含む。光重合開始剤は、光の作用により活性ラジカルを発生し、化合物(A)の重合を開始しうる化合物である。光重合開始剤としては、アルキルフェノン化合物、ベンゾイン化合物、ベンゾフェノン化合物及びオキシム化合物等が挙げられる。

(中略)

【0217】
前記光重合開始剤は、前記アセトフェノン化合物、前記ベンゾイン化合物、前記ベンゾフェノン化合物、前記オキシム化合物等を、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも光重合開始剤としてアセトフェノン化合物を用いることが好ましい。前記アセトフェノン化合物の使用量は、光重合開始剤全量に対して、90質量部以上であることが好ましく、光重合開始剤全量がアセトフェノン化合物であることがより好ましい。」

オ 「【0233】
1-5.有機溶剤
本組成物は、光学フィルム製造の操作性を良好にするために溶媒、特に有機溶媒を含むことが好ましい。有機溶剤としては、化合物(A)等、本組成物の構成成分を溶解し得る有機溶剤が好ましく、さらには化合物(A)等の重合反応に不活性な溶剤がより好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びフェノール等のアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート及び乳酸エチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;ペンタン、ヘキサン及びヘプタン等の非塩素系脂肪族炭化水素溶剤;トルエン及びキシレン等の非塩素系芳香族炭化水素溶剤;アセトニトリル等のニトリル系溶剤;テトラヒドロフラン及びジメトキシエタン等のエーテル系溶剤;クロロホルム及びクロロベンゼン等の塩素系溶剤;等が挙げられる。これら有機溶剤は、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これら有機溶剤の中でも、アルコール、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、非塩素系脂肪族炭化水素溶剤及び非塩素系芳香族炭化水素溶剤が好ましい。特に、本組成物を構成する構成成分(化合物(A)、化合物(B)及び光重合開始剤)は相溶性に優れ、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、非塩素系脂肪族炭化水素溶剤及び塩素系芳香族炭化水素溶剤等にも溶解し得ることから、クロロホルム等の塩素系溶剤を用いなくとも、適当な基板上に塗布して光学フィルムを製造できる組成物を得ることができる。」

カ 「【0235】
また、本組成物は、必要に応じて、光増感剤、レベリング剤及びカイラル剤等の添加剤を含んでいてもよい。以下、本組成物が任意に含むことがある、これらの添加剤について説明する。
【0236】
1-6.光増感剤
光増感剤としては、例えば、キサントン及びチオキサントン等のキサントン類;アントラセン及びアルキルエーテル等の置換基を有するアントラセン類;フェノチアジン;ルブレンを挙げることができる。
光増感剤を用いることにより、化合物(A)等の重合を高感度化することができる。また、光増感剤の使用量としては、化合物(A)100質量部に対して、例えば0.1質量部?30質量部であり、好ましくは0.5質量部?10質量部である。」

キ 「【実施例】
【0281】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、例中の「%」及び「部」は、特記ない限り、質量%及び質量部である。
【0282】
1.合成例
化合物(A11-1)は下記のスキームに従って合成した。
【0283】


(中略)

【0291】
1-8.「化合物(ix-1)の合成」
化合物(ix-1)は、特開2010-31223号公報記載の方法で合成した。
【0292】
2.組成物の調製
表2に示す各成分を混合し、得られた溶液を80℃で1時間攪拌した後、室温まで冷却して組成物を調製した。
【0293】
【表2】

表2中、光重合開始剤は、Irg369(イルガキュア369(BASFジャパン社製))、レベリング剤には、BYK361N(ビックケミージャパン製)、溶剤はシクロペンタノンを用いた。

(中略)

【0296】
4-1.光学フィルムの製造例
(実施例3?4、比較例3?4)
ガラス基板にポリビニルアルコール(ポリビニルアルコール1000完全ケン化型、和光純薬工業株式会社製)の2重量%水溶液を塗布し、加熱乾燥後、厚さ89nm膜を得た。続いて、表面にラビング処理を施し、ラビング処理を施した面に、表2の組成物1?4の塗布液(混合溶液)をスピンコート法により塗布し、表4記載の温度(Tc)で1分間乾燥した。表4に記載の温度(Td)で1分間放置後、積算光量2400mJ/cm^(2)の紫外線を照射してフィルムを作成した。

(中略)

【0301】
本組成物(組成物1及び組成物2)を用いた実施例の光学フィルムは、結晶化が十分抑制されていることから良好な成膜性を有するものであり、且つ、成膜が可能であるモノドメインを形成する温度が低い傾向もみられた。」

(2)引用文献2に記載された発明
上記記載事項キに基づけば、引用文献2には、組成物2として、以下の発明が記載されていると認められる。
「化合物(A)としてA11-1及びix-1、チオール化合物(B)として2-8、光重合開始剤(C)としてIrg369(イルガキュア369)、レベリング剤としてBYK-361N、溶剤としてシクロペンタノンの各成分を混合し、得られた溶液を80℃で1時間攪拌した後、室温まで冷却して調製した組成物であって、A11-1、ix-1、2-8は以下に表される化合物であり、ガラス基板のラビング処理を施した面に、組成物の塗布液をスピンコート法により塗布し、乾燥し、紫外線を照射することによる光学フィルムの製造に用いられる組成物。
A11-1

ix-1

2-8

」(以下、「引用発明」という。)

4 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

(1)重合性液晶化合物
引用発明の「A11-1」及び「ix-1」は、その化学構造からみて、本件補正発明の「重合性液晶化合物」に相当する。
そして、引用発明は、重合性液晶化合物として、「A11-1」及び「ix-1」の2種の重合性液晶化合物を含むものであるから、本件補正発明の「少なくとも2種」の重合性液晶化合物を含むとする要件を満たしている。
また、「A11-1」及び「ix-1」は、何れもビニル基を有しており、その化学構造からみて、ビニル基によって架橋重合がなされるといえるから、本件補正発明の「重合性液晶化合物が、重合性基としてビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有する化合物である」とする要件を満たしている。

(2)溶剤
引用発明の「シクロペンタノン」は、溶剤として混合されるものであるから、本件補正発明の「溶剤」に相当する。

(3)重合開始剤
引用発明の「Irg369(イルガキュア369)」は、「光重合開始剤(C)」として混合されるものであるから、本件補正発明の「重合開始剤」に相当する。

(4)3個以上のチオール基を含む化合物
引用発明の「2-8」は、その化学構造からみて、4つの「-O-CO-C_(2)H_(4)-SH基」を有することから、本件補正発明の「3個以上のチオール基を含む化合物」に相当する。そして、本件補正発明の「該チオール基として-O-CO-R-SH〔Rは炭素数1?5の直鎖または分岐のアルキレン基である。〕を含む化合物」であるとする要件を満たしている。

(5)液晶硬化膜形成用組成物
引用発明の「組成物」は、「ガラス基板のラビング処理を施した面に、組成物の塗布液をスピンコート法により塗布し、乾燥し、紫外線を照射することによる光学フィルムの製造に用いられる」ものである。技術的にみて、組成物を塗布、乾燥し、紫外線を照射することにより液晶硬化膜が形成されているといえる。したがって、引用発明の「組成物」は、「液晶硬化膜形成用組成物」であるといえる。

(6)以上より、本件補正発明と引用発明とは、
「少なくとも2種の重合性液晶化合物と、溶剤と、重合開始剤と、3個以上のチオール基を含む化合物であって該チオール基として-O-CO-R-SH〔Rは炭素数1?5の直鎖または分岐のアルキレン基である。〕を含む化合物とを含み、重合性液晶化合物が、重合性基としてビニル基、ビニルオキシ基、1-クロロビニル基、イソプロペニル基、4-ビニルフェニル基、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基を有する化合物である液晶硬化膜形成用組成物。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点]本件補正発明は、ジアルキルアミノベンゾフェノンを含むのに対し、引用発明は、ジアルキルアミノベンゾフェノンを含まない点。

5 判断
(1)[相違点]について
引用文献2の記載事項エには、「前記光重合開始剤は、前記アセトフェノン化合物、前記ベンゾイン化合物、前記ベンゾフェノン化合物、前記オキシム化合物等を、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。」との記載がある。また、記載事項カには、「本組成物は、必要に応じて、光増感剤、レベリング剤及びカイラル剤等の添加剤を含んでいてもよい。」との記載もある。
そして、例えば、原査定の拒絶の理由に、周知技術を示す引用文献3として引用された特開2004-182702号公報の段落【0049】には、ラジカル重合用光開始剤として、「4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノンなどのアミノベンゾフェノン系光重合開始剤」が挙げられている。また、他に、特開平5-232699号公報の段落【0015】にも、感光性樹脂組成物に用いられる増感剤として、「4,4’-ジメチルアミノベンゾフェノン」、「4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン」等のベンゾフェノン類が挙げられている。さらに、特開2011-213826号公報の段落【0073】には、「硬化性樹脂組成物に好適に用いることができる光重合開始剤、光開始助剤及び増感剤として、・・・ベンゾフェノン化合物、3級アミン化合物・・・などを挙げることができる。」と記載されており、段落【0080】には、「3級アミン化合物としては、具体的には、・・・ジアルキルアミノベンゼン構造を有する化合物、例えば、市販品では、4,4’-ジメチルアミノベンゾフェノン(日本曹達社製ニッソキュアーMABP)、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン(保土ヶ谷化学社製EAB)などのジアルキルアミノベンゾフェノン、・・・などが挙げられる。」と記載されている。以上の記載に基づけば、光重合性組成物において、光重合開始剤の一つあるいは増感剤として、ジアルキルアミノベンゾフェノンを用いることは周知技術であるといえる。
そうすると、引用発明において、追加の光重合開始剤、あるいは、光増感剤として、周知のジアルキルアミノベンゾフェノンを採用することは、当業者であれば適宜なし得ることに過ぎない。

(2)効果について
引用文献2の記載事項アの段落【0006】には「本発明によれば、成膜性に優れた光学フィルム製造用の組成物及び該組成物から形成される光学フィルムが提供できる。」と記載されている。また、記載事項キの段落【0301】にも、組成物2を用いた光学フィルムについて「結晶化が十分抑制されていることから良好な成膜性を有する」と記載されている。そうすると、引用発明も、良好な成膜がなされるものであるから、欠陥発生が少ないという、本件補正発明と同様の効果を奏するものといえる。また、光重合開始剤を併用または増感剤を追加することによって重合反応が十分になされることとなり、膜強度が向上し、転写の際の欠陥発生が抑制されることは、当業者にとって自明であるといえる。さらに、4,4’-ジアルキルアミノベンゾフェノン以外は、引用発明も、本件補正発明と同じ成分を有する組成物であるから、本件補正発明と同程度の透明性に優れた液晶硬化膜を得ることができるといえる。
以上のとおりであるから、本件補正発明の効果は、当業者にとって自明のものであり、格別なものということができない。

(3)むすび
よって、本件補正発明は、引用発明及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

6 補正却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本件発明について
1 本件発明
本件補正は、上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1に係る発明は、平成29年11月10日付けの手続補正の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、前記第2の1に「本件発明」として記載したとおりのものである。

2 引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2の記載及び、引用文献2に記載された発明は、前記第2の3に記載したとおりである。

3 対比・判断
本件発明は、本件補正発明における限定を省いたものに相当する。そうすると、本件発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の5に記載したとおり、引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-11-26 
結審通知日 2018-11-27 
審決日 2018-12-10 
出願番号 特願2014-17298(P2014-17298)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 宮澤 浩
川村 大輔
発明の名称 液晶硬化膜形成用組成物  
代理人 中山 亨  
代理人 坂元 徹  

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